(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141136
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ゴム補強用コード
(51)【国際特許分類】
B60C 1/00 20060101AFI20241003BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20241003BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20241003BHJP
D02G 3/48 20060101ALI20241003BHJP
D07B 1/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60C1/00 Z
B60C9/00 C
B60C9/00 D
B60C9/00 G
D02G3/04
D02G3/48
D07B1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052622
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】草西 義洋
(72)【発明者】
【氏名】高谷 勇輝
【テーマコード(参考)】
3B153
3D131
4L036
【Fターム(参考)】
3B153AA01
3B153AA05
3B153AA06
3B153AA45
3B153AA47
3B153BB01
3B153CC22
3B153CC23
3B153CC29
3B153DD30
3B153FF16
3B153GG01
3B153GG05
3B153GG13
3D131AA34
3D131AA35
3D131AA37
3D131AA44
3D131AA48
3D131AA60
3D131BA02
3D131BA07
3D131BA12
3D131BC08
3D131BC09
3D131BC31
3D131BC36
3D131BC51
4L036MA06
4L036MA33
4L036MA39
4L036PA21
4L036UA07
4L036UA08
(57)【要約】
【課題】再生可能資源に由来する原材料を含み、タイヤ等に成形加工し易く、初期伸びを維持しつつ、一方で以降の伸度領域では高弾性率繊維特有の高弾性率を発揮する、ゴム補強用繊維コードを提供する。
【解決手段】有機繊維コードの表面を、少なくとも1層のラテックスを含むゴム用接着剤で被覆してなるゴム補強用コードであって、前記有機繊維コードが、再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維と、アラミド繊維を撚り合わせた撚糸コードであることを特徴とするゴム補強用コード。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維コードの表面を、少なくとも1層のラテックスを含むゴム用接着剤で被覆してなるゴム補強用コードであって、
前記有機繊維コードが、再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維と、アラミド繊維を撚り合わせた撚糸コードであることを特徴とするゴム補強用コード。
【請求項2】
前記有機繊維コードは、再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維からなる1本以上の下撚りコード(A)と、アラミド繊維からなる1本以上の下撚りコード(B)が、それぞれ同一方向に撚糸された後、下撚り方向と逆方向に合撚されてなる複合コード(C)であることを特徴とする、請求項1に記載のゴム補強用コード。
【請求項3】
前記ナイロン繊維は、脂肪族ジアミンと、再生可能資源に由来する原材料を含むジカルボン酸との縮重合によって得られるナイロン繊維であることを特徴とする、請求項1に記載のゴム補強用コード。
【請求項4】
前記有機繊維コードは、5%伸長時のヤング率が、1%伸長時のヤング率に対して2.0倍以上高いことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のゴム補強用コード。
【請求項5】
前記有機繊維コードは、再生資源に由来する原材料を含むナイロン繊維からなる下撚りコードの撚り係数TM(A)、アラミド繊維からなる下撚りコードの撚り係数TM(B)、及び合撚した複合コードの撚り係数TM(C)が、以下の関係式を満たすことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載のゴム補強用コード。
0.5≦TM(A)/TM(B)≦1.0 (I)
1.0≦TM(C)/TM(B)≦1.5 (II)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ等に用いられるゴム補強用コードに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤコードは、ゴムとともにタイヤを形成する最も重要な材料である。タイヤの基本性能は、荷重負荷、制駆動、衝撃緩和、操縦安定性にある。タイヤコードに使用されている有機繊維としては、ナイロン、ポリエステル、レーヨン、アラミド等があり、タイヤ種、適用部材、タイヤの要求性能に応じて使い分けされている。一般にタイヤコードに求められる性能は、強度、剛性(弾性率)、ゴムとの接着性、耐疲労性、寸法安定性、耐熱性等である。
【0003】
ナイロンは、耐疲労性、接着性の良さ、強度、伸びの高さが特徴で、ナイロン6、ナイロン66が、タイヤのカーカス材、ブレーカー材等に用いられている。ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)は、ナイロンより弾性率が高く、寸法安定性が良いが、接着性や強度が劣る。レーヨンは、タイヤの操縦安定性、乗心地を両立し易く、接着性が非常に良好で、加硫の際の熱収縮率が低い(耐熱性)点で優れているが、強度や耐疲労性が劣る。一方、アラミドは、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が、非常に高い強度と弾性率を有しており、乗用車用ラジアルタイヤや二輪車用タイヤのベルト材等として用いられている。
【0004】
しかしながら、ゴム補強用コードでは、成形加工のし易さから、初期伸びを維持することが求められ、その一方、以降の伸度領域では高弾性率が求められる。そのため、初期伸びが良好なナイロン繊維と、高弾性率を有するアラミド繊維との複合コードが多数提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0005】
特許文献1は、下撚りしたアラミド繊維ストランド2本を中間撚りしたもの1本と、下撚りしたナイロン繊維ストランド1本を、上撚りして得たコード(実施例1)は、下撚りしたアラミド繊維ストランド3本を撚り合わせたコード(比較例1)に比べて、コードの引抜き抗力(すなわち、ゴムとの接着力)が高く、タイヤの高速耐久性に優れることを開示している。
【0006】
特許文献2は、複数本のアラミド繊維の下撚り糸(A)と、1本のポリエステル繊維やポリアミド繊維の下撚り糸(B)を合糸して上撚りするときに、下撚り糸(A)の下撚り係数に対する、下撚り糸(B)の下撚り係数の比(B/A)を0.5~1.2とすることで、伸びの小ささと耐屈曲疲労性を両立でき、上撚り係数は、耐ホツレ性等の点から2以上が好ましく、引張強さや引張弾性率の点から4以下が好ましいことを開示している。
【0007】
特許文献3は、ホルマリンやレゾルシンは、近年、環境面から使用量の削減が求められているため、レゾルシン及びホルマリンを用いない環境への配慮がされた接着剤組成物に関する提案として、有機繊維コードが、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、レーヨン、リヨセル等、バイオ由来の材料から原材料を製造できる繊維を含むこと、また、接着剤組成物が、レゾルシン等のポリフェノール類、1,4-ベンゼンジカルボアルデヒド、ゴム成分を少なくとも含有することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-059464号公報(特許請求の範囲、表1等)
【特許文献2】特開2021-175844号公報(特許請求の範囲、段落0042~0044等)
【特許文献3】特開2021-143436号公報(特許請求の範囲、段落0010等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、タイヤ補強用コードで一般的に用いられる6,6ナイロンを、4,10ナイロン、6,10ナイロン等の再生可能資源由来の原材料に変える場合、繊維自体のガラス転移点の低下に起因する、熱によるゴム補強効果の低下が問題となる。例えば、ディップによる熱処理やタイヤ走行時における高温環境がもたらす、弾性率低下による走行安定性不良である。また、これらに対処するため、ゴム補強効果を増強させようとして撚り数を減少させると、タイヤ中での屈曲特性や圧縮疲労性が低下する。
【0010】
一方、特許文献1に開示の複合コードは、複合コードの露出面のコード外周に対するナイロンストランドのコード外周に沿った長さが一定範囲内になるように、撚り構造及び撚り数を調整するものであるが、アラミド繊維コードの下撚り数に対する、複合コードの上撚り数が小さいため、アラミド繊維特有の高弾性率を十分に発揮し得ない。特許文献2に開示の複合コードは、アラミド繊維の繊度が500~1500dtexの場合にのみ、伝動ベルトの引張強さが向上し、伸びの小ささと耐屈曲疲労性を両立できるとするが、アラミド下撚り係数4.0~4.5に対し、複合コードの撚り係数は2~4と小さいため、コード疲労後の強力保持率が低くなる。特許文献3は、再生可能資源に由来する原材料と、脱ホルマリン接着剤を含む有機繊維コードを開示しているが、複合コードに関する記載はない。
【0011】
従って、本発明の目的は、再生可能資源に由来する原材料を含むゴム補強用複合コードを提供することにある。
また、本発明の目的は、タイヤ等に成形加工し易く、初期伸びを維持しつつ、一方で以降の伸度領域では高弾性率繊維特有の高弾性率を発揮する、ゴム補強用複合コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、ゴム補強用複合コードを開発するに当たり、非常に高い強度と弾性率を有するアラミド繊維をベースとしつつ、それに組み合わせる繊維について、コード特性及び地球環境保護の観点から鋭意検討した結果、再生可能資源に由来する原材料を含む複合コードとすることに到達した。
【0013】
また、再生可能資源に由来する原材料の場合、繊維のガラス転移点が低い場合があるため、従来と同じ製法で作製した複合コードでは、接着剤被覆時及びタイヤ走行時に発生する熱によって性能が低下してしまう課題が発生する。前記性能低下に対処するため、これまでの知見で補強効果を増強するために撚り数を減少させたのでは、タイヤ中でかかる屈曲疲労性や圧縮疲労性が低下する。ところが、タイヤ使用時に使われる伸度領域では、前記ナイロンの性質の影響を受けず、また、初期伸びにおいては、前記ナイロンの特性を活かせる撚り係数の関係性があることを見出した。そして、複合コードを構成する各コードの撚り係数を最適化することにより、再生可能資源に由来する原材料であっても、従来使用されてきた6,6-ナイロンと同様の補強効果を実現できるとの知見を得た。
【0014】
すなわち、本発明は、有機繊維コードの表面を、少なくとも1層のラテックスを含むゴム用接着剤で被覆してなるゴム補強用コードであって、前記有機繊維コードが、再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維と、アラミド繊維を撚り合わせた撚糸コードであることを特徴とする、ゴム補強用コードを提供する。
また、本発明は、前記有機繊維コードは、再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維からなる1本以上の下撚りコード(A)と、アラミド繊維からなる1本以上の下撚りコード(B)が、それぞれ同一方向に撚糸された後、下撚り方向と逆方向に合撚されてなる複合コード(C)であることを特徴とする、ゴム補強用コードを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、環境への負荷が少ない、アラミド・ナイロン複合コードが得られる。さらに、複合コードを構成する各コードの撚り係数を最適化することで、従来のアラミド・ナイロン複合コードと同等の性能を有する複合コードが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のゴム補強用コードをその実施形態に基づき詳細を説明する。
【0017】
本発明のゴム補強用コードは、有機繊維コードの表面を少なくとも1層のラテックスを含むゴム用接着剤で被覆してなるゴム補強用コードであって、前記有機繊維コードが、再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維と、アラミド繊維を撚り合わせた撚糸コードである。
【0018】
[ナイロン繊維]
本発明のゴム補強用コード(複合コード)を構成するナイロン繊維は、再生可能資源に由来する原料を含む。これまで、ナイロン6やナイロン66に代表されるナイロン(ポリアミド)繊維は、良好な機械的特性、優れた耐摩耗性、優れた柔軟性などの特性をいかして、ゴム補強用コードに広く用いられている。本発明のゴム補強用コードを構成するナイロン繊維は、再生可能資源に由来する原材料、望ましくは植物由来の原料から製造され得るジカルボン酸単位を有し、該ジカルボン酸とジアミンとの縮重合によって得られるナイロン(ポリアミド)繊維であることが好ましい。
【0019】
前記再生可能資源に由来するジカルボン酸としては、コハク酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸等が挙げられる。スベリン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸は、ヒマシ油の種子から精製されるため、また、アゼライン酸は亜麻仁油から精製されるため、地球環境に優れた素材である。
【0020】
前記ジカルボン酸のなかでも、ナイロン繊維の融点が高く、耐熱性に優れ、優れた引張強度及び引張伸度を有する点で、セバシン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位を有するナイロン繊維が好ましい。前記ナイロン繊維は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の化合物が共重合されたものであってもよい。例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
【0021】
本発明で用いるセバシン酸単位を主成分とするジカルボン酸単位を有するナイロン繊維は、ジメチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミンを主成分として含有する脂肪族ジアミンと、セバシン酸を主成分として含有するカルボン酸との縮重合物から得られた繊維であることが好ましい。
好ましい例としては、2,10ナイロン繊維、3,10ナイロン繊維、4,10ナイロン繊維、5,10ナイロン繊維、6,10ナイロン繊維、9,10ナイロン繊維、10,10ナイロン等が挙げられる。
これらの中でも、ガラス転移点が比較的高いという観点から、4,10ナイロン繊維、5,10ナイロン繊維、6,10ナイロン繊維が好ましい。
【0022】
また、ナイロン繊維は、再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維の他に、再生可能資源に由来する原材料を含まないナイロン繊維、例えば、6ナイロン繊維、6,6ナイロン繊維等を含むものであってよい。本発明において、下撚りコード(A)に占める、前記再生可能資源に由来する原料を含まないナイロン繊維の割合は、ゴム補強用コードの要求特性に応じて調整することができる。
【0023】
本発明の再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維の単糸繊度は、ゴム補強用繊維コードにおける必要特性に応じて任意に設定することができるが、0.1~20.0dtexであることが好ましい。単繊維の繊度は、細ければ細いほど、単繊維の曲げ剛性が下がるため、糸条の曲げ剛性が下がり、コード形成性が良好になる。一方、単繊維の繊度が0.1dtex以上であることにより、製糸工程において毛羽の発生を抑えて高倍率延伸を施すことが可能となるため、高強度の繊維となる。単繊維の繊度は、0.5~15.0dtexであることがより好ましく、1.0~10.0dtexであることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維の総繊度は、ゴム補強用繊維コードにおける必要特性に応じて任意に設定することができるが、200~3000dtexであることが好ましい。総繊度が3000dtex以下であることにより、コード化工程での作業性の良い糸条となる。一方で、総繊度が200dtex以上であることで、実用上の使用に十分に耐えうる。総繊度は500~2000dtexであることがより好ましく、800~1500dtexであることがさらに好ましい。
【0025】
[アラミド繊維]
本発明のゴム補強用コード(複合コード)を構成するアラミド繊維は、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていても良い二価の芳香族基を少なくとも1個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定されない。全芳香族ポリアミド繊維、または、アラミド繊維と称されるものであって良い。「置換されていても良い二価の芳香族基」とは、同一又は異なる1以上の置換基を有していても良い二価の芳香族基を意味する。
アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等が挙げられるが、機械的特性に優れているパラ系アラミド繊維が好ましい。このようなアラミド繊維は市販品として入手でき、具体例としては、パラ系アラミド繊維として、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン(株)製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人(株)製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等を挙げることができる。これらのパラ系アラミド繊維の中でも、機械的特性に優れる点より、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。
【0026】
また、アラミド繊維は、繊維表面及び/又は繊維コード表面に、エポキシ化合物による接着層を有するものを用いることもできる。このようなアラミド繊維は、アラミド繊維の製造工程で、繊維表面に未硬化の硬化性エポキシ化合物を、油剤付与工程あるいは、その後の仕上げ工程で付与する方法等で得ることができる。また、既存のアラミド繊維に硬化性エポキシ化合物を付与する方法でも得ることができる。
【0027】
硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物及び芳香環を有するエポキシ化合物から選ばれる1種または2種以上が、好ましく用いられる。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。なかでも、グリシジル基を2個又は3個有する多官能性エポキシ化合物が好ましい。
【0028】
本発明におけるアラミド繊維の単糸繊度及び総繊度については、コードの必要特性に応じて任意に設定することができる。単糸繊維は、0.5~10dtexであることが好ましく、前記範囲内であれば、技術上の困難性を伴うことがなくゴム補強用コードを製造することができる。総繊度は、500~3000dtexであることが好ましく、800~2000dtexであることがより好ましい。
【0029】
[有機繊維コード]
本発明の有機繊維コードにおいて、撚糸コードの撚り形態は特に限定されない。再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維(以下、「S-ナイロン繊維」と称することがある。)からなる1本以上の下撚りコード(A)と、アラミド繊維からなる1本以上の下撚りコード(B)が、合撚されてなる複合コード(C)であることが好ましい。下撚りコード(A)、(B)の本数は、1本、2本、あるいは、3本以上であってもよい。また、下撚りコード(A)と下撚りコード(B)の本数は、同一でも、異なっていてもよい。
【0030】
複合コードにおける、S-ナイロン繊維とアラミド繊維の比率(質量比)は、特に限定されない。目的や用途によって異なるが、両繊維の比率としては、ナイロン繊維20~80質量%、アラミド繊維20~80質量%の範囲とすることが好ましい。
【0031】
下撚りコード(A)と下撚りコード(B)の撚り方向は、S方向、Z方向いずれでも良いが、コードの中間伸度を適切にコントロールするために同一方向に撚糸される必要がある。撚り数は、目的・用途によって異なり、特に限定されないが、20(t/10cm)~50(t/10cm)とするのがよい。
【0032】
下撚りコード(A)と下撚りコード(B)が合撚されることで、有機繊維コード(複合コード(C))が形成される。この場合において、下撚り方向と逆方向に合撚されることが、コードの取り扱い性の観点より好ましい。
【0033】
前記複合コードにおいては、5%伸長時のヤング率(伸び弾性率)が、1%伸長時のヤング率(伸び弾性率)に対して、2.0倍以上高いことが望ましい。前記比が2.0倍未満であると、タイヤ成形時の加工性は良好となる一方で、タイヤ高速走行時のタイヤのせり上がりを抑えるためのコード弾性率が不十分となり、転がり抵抗やタイヤ耐久性に重大な影響を与えることとなるが、前記比が2.0倍以上あると、タイヤ成形時の加工性とタイヤの補強能力の両立が可能となる。すなわち、1%伸長時のヤング率に対する、5%伸長時のヤング率が高くなることにより、従来のアラミド繊維コードをタイヤコードに適用する際に課題であったタイヤ成形性を改善しつつ、アラミド繊維に求められる高いタイヤ補強硬化を実現可能となる。
【0034】
本発明においては、有機繊維コード(複合コード)が、下記式(I)及び(II)の関係式を満たすことが好ましい。
すなわち、(I)式において、TM(A)/TM(B)が0.5以上であることは、S-ナイロン繊維の下撚り数が、アラミド繊維の下撚り数の半分ないし同等であることを意味する。こうすることで、6,6-ナイロンに比べてガラス転移点が低いS-ナイロン繊維が、コード疲労によって伸びすぎることを防止できる。また、アラミド繊維の下撚り数を超える撚り数を施した場合は、ゴム補強用コードとゴムとの接着性が低下するおそれがある。
【0035】
また、(II)式において、TM(C)/TM(B)が、1.0未満になると複合コード疲労後強力保持率が著しく低下するおそれがあり、1.5を超えると複合コードの強力が著しく低下し、ゴム補強用コードとして体をなさなくなるおそれがある。
【0036】
0.5≦TM(A)/TM(B)≦1.0 (I)
1.0≦TM(C)/TM(B)≦1.5 (II)
(ここで、TM(A);再生資源由来原材料を含むナイロン繊維からなる下撚りコードの 撚り係数
TM(B);アラミド繊維からなる下撚りコードの撚り係数
TM(C);合撚した複合コードの撚り係数)
【0037】
[ゴム補強用コード]
本発明のゴム補強用コードは、上記の有機繊維コード(複合コード)の表面を、少なくとも1層の、ラテックスを含むゴム用接着剤で被覆してなるものである。前記ラテックスとしては、例えば、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン系、イソプレン系、スチレン-ブタジエン系、エチレン-プロピレン-ジエン系、アクリロニトリル-ブタジエン系、クロロプレン系、クロロスルホン化ポリエチレン系、アクリレート系、天然ゴム系等のラテックスを用いることができる。これらのラテックスは、1種単独であってもよく、2種以上の組合せであってもよい。ラテックスを用いることで、有機繊維コードとゴム部材との接着性を向上させることができる。
【0038】
前記ゴム用接着剤は、溶媒をさらに含有してもよい。また、本発明による目的を逸脱しない範囲で、接着性を高めるための成分を適宜含むことができ、それによりゴムと複合コードとを強固に接着させることができる。例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物等である。
【実施例0039】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0040】
ゴム補強用コードの評価方法は以下の通りである。
(1)ディスク疲労試験後の強力保持率
JIS L 1017:2002 付属書1の2.2.2 ディスク疲労強さ(グッドリッチ法)により評価した。処理コード2本をタイヤ用ゴム中に埋め込み、150℃で30分間加硫して、ゴムコンパウンドを作成する。この試験片を、圧縮8%、伸長16%、30万サイクル疲労を与えた後、ゴムからコードを取り出して疲労後の破断強力を測定し、該疲労試験前後の保持率で表した。
【0041】
(実施例1;参照例)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(水分率0%換算時の繊度1110dtex、フィラメント数1000)1本を用いて、Z方向に、40(t/10cm)の撚数で下撚りしてアラミド繊維片撚りコードを得た。
別に、6,6ナイロン繊維のマルチフィラメント(東レ株式会社製、単糸繊度:6.91dtex、総繊度:940dtex)1本を用いて、Z方向に、20(t/10cm)の撚数で下撚りしてナイロン繊維片撚りコードを得た。
【0042】
上記の片撚りコード3本を用いて、S方向に、40(t/10cm)の撚数で上撚りして、上撚り撚糸コード(アラミド・ナイロン複合コード)を得た。
得られた上撚り撚糸コードを、エポキシ化合物を主成分とする第1の接着剤処理液に浸漬し、140℃で2分間熱処理を実施して水分を除去し、その後230℃で1分間熱処理した。さらに、ゴムラテックスを主成分とする第2の接着剤処理液に浸漬し、140℃で2分間熱処理を実施して水分を除去し、その後230℃で1分間熱処理することによりアラミド繊維コードを完成した。結果を表1に示す。
【0043】
諸撚りコードの上撚り係数(K2)は下記式により求めた。
【0044】
(実施例2)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(水分率0%換算時の繊度1110dtex、フィラメント数1000)1本を用いて、Z方向に、40(t/10cm)の撚数で下撚りしてアラミド繊維片撚りコードを得た。
別に、4,10ナイロン繊維のマルチフィラメント(東レ株式会社製、単糸繊度:6.91dtex、総繊度:940dtex)1本を用いて、Z方向に、20(t/10cm)の撚数で下撚りしてナイロン繊維片撚りコードを得た。
上記の片撚りコード3本を用いて、S方向に、40(t/10cm)の撚数で上撚りした以外は、実施例1と同様に上撚りして上撚り撚糸コード(アラミド・ナイロン複合コード)を得た。
【0045】
(実施例3)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(水分率0%換算時の繊度1110dtex、フィラメント数1000)1本を用いて、Z方向に、40(t/10cm)の撚数で下撚りしてアラミド繊維片撚りコードを得た。
別に、4,10ナイロン繊維のマルチフィラメント(東レ株式会社製、単糸繊度:6.91dtex、総繊度:940dtex)1本を用いて、Z方向に、30(t/10cm)の撚数で下撚りしてナイロン繊維片撚りコードを得た。
上記の片撚りコード3本を用いて、S方向に、25(t/10cm)の撚り数で上撚りして上撚り撚糸コードを得た以外は、実施例1と同様に上撚りして上撚り撚糸コード(アラミド・ナイロン複合コード)を得た。
【0046】
(実施例4)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(水分率0%換算時の繊度1110dtex、フィラメント数1000)1本を用いて、Z方向に、40(t/10cm)の撚数で下撚りしてアラミド繊維片撚りコードを得た。
別に、4,10ナイロン繊維のマルチフィラメント(東レ株式会社製、単糸繊度:6.91dtex、総繊度:940dtex)1本を用いて、Z方向に、30(t/10cm)の撚数で下撚りしてナイロン繊維片撚りコードを得た。
上記の片撚りコード3本を用いて、S方向に、50(t/10cm)の撚り数で上撚りして上撚り撚糸コードを得た以外は、実施例1と同様に上撚りして上撚り撚糸コード(アラミド・ナイロン複合コード)を得た。
【0047】
(実施例5)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(水分率0%換算時の繊度1110dtex、フィラメント数1000)1本を用いて、Z方向に、40(t/10cm)の撚数で下撚りしてアラミド繊維片撚りコードを得た。
別に、4,10ナイロン繊維のマルチフィラメント(東レ株式会社製、単糸繊度:6.91dtex、総繊度:940dtex)1本を用いて、Z方向に、30(t/10cm)の撚数で下撚りしてナイロン繊維片撚りコードを得た。
上記の片撚りコード3本を用いて、S方向に、40(t/10cm)の撚数で上撚りした以外は、実施例1と同様に上撚りして上撚り撚糸コード(アラミド・ナイロン複合コード)を得た。
【0048】
(実施例6)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(水分率0%換算時の繊度1110dtex、フィラメント数1000)2本を用いて、Z方向に、28(t/10cm)の撚数で下撚りしてアラミド繊維片撚りコードを得た。
別に、4,10ナイロン繊維のマルチフィラメント(東レ株式会社製、単糸繊度:6.91dtex、総繊度:940dtex)1本を用いて、Z方向に、30(t/10cm)の撚数で下撚りしてナイロン繊維片撚りコードを得た。
上記の片撚りコード3本を用いて、S方向に、28(t/10cm)の撚数で上撚りした以外は、実施例1と同様に上撚りして上撚り撚糸コード(アラミド・ナイロン複合コード)を得た。
【0049】
(実施例7)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(水分率0%換算時の繊度1110dtex、フィラメント数1000)1本を用いて、Z方向に、40(t/10cm)の撚数で下撚りしてアラミド繊維片撚りコードを得た。
別に、4,10ナイロン繊維のマルチフィラメント(東レ株式会社製、単糸繊度:6.91dtex、総繊度:940dtex)1本を用いて、Z方向に、40(t/10cm)の撚数で下撚りしてナイロン繊維片撚りコードを得た。
上記の片撚りコード3本を用いて、S方向に、40(t/10cm)の撚数で上撚りした以外は、実施例1と同様に上撚りして上撚り撚糸コード(アラミド・ナイロン複合コード)を得た。
【0050】
実施例で得た上撚りコードの特性を表1にまとめて示す。
【0051】
【0052】
これまでの知見に従い、アラミド繊維と6,6ナイロン繊維の上撚りコード(No.1)と同様の撚りを、4,10ナイロン繊維の下撚りコードに施したところ(No.2)、5%伸長時のヤング率が小さくなりコード強力が低下した。
【0053】
そこで、4,10ナイロン繊維の下撚りコードの撚り数を多くし、上撚りコードの撚り数を変化させた(No.3~4)。しかしながら、上撚り数が少ないとコード疲労後の強力保持率が低下し、上撚数が多いと、5%伸長時のヤング率が小さくなりコード強力が低下した。
【0054】
また、4,10ナイロン繊維の下撚りコードの撚り数を維持した状態で、上撚りコードの撚り数を変化させた(No.5~6)。その結果、コード強力、コード疲労後の強力保持率が、6,6-ナイロン使用コード(No.1)と同程度のものが得られ(No.5)、アラミド繊維下撚りコード本数を多くすることで、コード強力、コード疲労後の強力保持率が高い複合コード(No.6)が得られた。また、4,10ナイロン繊維の下撚りコードの撚り数をさらに多くしたところ(No.7)、コード強力、コード疲労後の強力保持率が、6,6-ナイロン使用コード(No.1)と同程度のものが得られた。
【0055】
表1に示されるように、アラミド繊維と再生可能資源に由来する原材料を含むナイロン繊維とを撚り合わせた撚糸コードは、コード強力及びコード疲労後強力保持率において、アラミド繊維と6,6ナイロン繊維を撚り合わせた撚糸コードと同等もしくはそれ以上の特性を有することが分かる。
【0056】
以上、本発明について実施例を用いて具体的に説明したが、上記の実施の形態は、本発明の好適な実施の形態の一例を示すものであり、本発明は上述した各実施の形態に限定されることなく、請求項に記載した範囲で種々の変更が可能である。