(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141138
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ゴム補強用繊維コード
(51)【国際特許分類】
D06M 13/11 20060101AFI20241003BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20241003BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20241003BHJP
D06M 101/36 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
D06M13/11
D06M15/693
D06M15/55
D06M101:36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052624
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】太田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高谷 勇輝
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA08
4L033AB01
4L033AC11
4L033BA08
4L033CA49
4L033CA68
(57)【要約】
【課題】環境負荷の高い化合物に依拠しないゴム補強用コードであって、高温下でも十分に接着力が高く、コード強力と耐疲労性に優れるゴム補強用コードを提供する。
【解決手段】少なくとも2本以上の下撚りコードを引き揃え、上撚りをかけた有機繊維コードの表面を、エポキシ化合物とラテックスを含むゴム用接着剤で処理した接着剤層を有するゴム補強用コードであって、前記2本以上の下撚りコードのうち、少なくとも1本が、硬化剤を含まないエポキシ化合物で処理された有機繊維で構成されており、コード内層部のエポキシ価(X)と、コード外層部のエポキシ価(Y)が、Y/X=0~0.2であることを特徴とするゴム補強用コード。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2本以上の下撚りコードを引き揃え、上撚りをかけた有機繊維コードの表面を、エポキシ化合物とラテックスを含むゴム用接着剤で処理した接着剤層を有するゴム補強用コードであって、
前記2本以上の下撚りコードのうち、少なくとも1本が、硬化剤を含まないエポキシ化合物で処理された有機繊維で構成されていることを特徴とするゴム補強用コード。
【請求項2】
前記ゴム補強用コードにおいて、コード内層部のエポキシ価(X)と、コード外層部のエポキシ価(Y)が、Y/X=0~0.2であることを特徴とする請求項1に記載のゴム補強用コード。
【請求項3】
前記ゴム補強用コードが、下記の(a)及び(b)のうち、いずれか1つ以上を満たすことを特徴とする請求項2に記載のゴム補強用コード。
(a)疲労後強力保持率が70%以上
(b)高温(120℃)接着力が70N/cm以上
【請求項4】
前記有機繊維コードが、少なくともアラミド繊維を含み、該アラミド繊維の比率が50重量%以上であることを特徴とする請求項1~3いずれかに記載のゴム補強用コード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用繊維コードに関する。
【背景技術】
【0002】
アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維等の合成繊維は、強度や弾性率があり、しなやかさと軽量性を併せ持つ合成繊維であることから、各種タイヤ、ベルト、コンベヤ等のゴム補強用繊維として用いられている。しかし、合成繊維をゴムと接着させる場合には接着剤で処理する必要がある。レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(以下、RFL)は接着力が高く、又、クロロフェノールやトリアジン化合物等は高温下での接着パフォーマンス高める効果があるが、これらの化合物は環境負荷が高い(例えば、特許文献1)。
【0003】
一方、高温下での接着パフォーマンスが低下すると、本来コードが持つ特性を効果的に発揮できなくなり、タイヤ等のゴム資材として用いられた際に、ゴム-コード間の接着面が剥離して破壊するため、これらの課題を解決すべく、高温でも十分に接着力が高い接着剤の開発が求められている。しかも、環境負荷が低い接着剤が望ましい。
【0004】
繊維とゴムとの接着性を高めるためにエポキシ化合物を施与することは、従来から知られている。しかし、タイヤ用途においては、コード強力と耐疲労性が求められるため、コード全体をエポキシ化合物で処理した後、硬化させると、コードが硬くなりすぎることによる、耐疲労性の悪化やコードの強力低下を招く。また、繊維構造内にエポキシ化合物を固定したエポキシ前処理糸を用い、接着剤と繊維間の接着力を保持する方法もあるが、エポキシ処理を高水分下で行うため生産面で課題がある。
【0005】
特許文献2には、繊維(エポキシ前処理糸ではない)コードを、2個以上のエポキシ基を有するエポキシ水溶液で処理した後、ただちに紫外線を照射して硬化させ、RFL接着剤で処理することで、ブレード、スパイラル形状に編組する際の繊維間の摩擦力を低減させ、作業性を向上させる方法が開示されている。しかし、繊維表面はエポキシ処理されていない。
【0006】
特許文献3、4には、繊維表面に硬化性エポキシ化合物の硬化膜と未硬化の硬化性エポキシ化合物が付着している繊維複合体を用いることで、ゴムとの接着性を向上させたゴム補強用コードを得る方法が開示されている。しかし、得られたコードをエポキシ化合物で処理することは記載されていない。
【0007】
また、特許文献5、6では、下撚り及び上撚りしたコードを、エポキシ化合物を含む処理液に浸漬後、RFL系接着剤で処理しているが、環境負荷が高い接着剤を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】再公表2020/031408(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平4-352879号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開2021-1558705号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開2021-161569号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特許第4336620号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献6】特許第4565542号公報(特許請求の範囲、段落0051等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、環境負荷の高い化合物に依拠しないゴム補強用コードであって、高温下でも十分に接着力が高く、コード強力と耐疲労性に優れるゴム補強用コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者は鋭意検討を行った。そして、撚糸コード内部では有機繊維表面のエポキシ化合物を未硬化のままで存在させ、徐々にコード表面に至るにつれてエポキシ化合物を硬化させるように構成することにより、コード最表面と接着剤との接着性を高め、かつ、高温下での高接着力を得ることに成功した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0012】
(1)少なくとも2本以上の下撚りコードを引き揃え、上撚りをかけた有機繊維コードの表面を、エポキシ化合物とラテックスを含むゴム用接着剤で処理した接着剤層を有するゴム補強用コードであって、
前記2本以上の下撚りコードのうち、少なくとも1本が、硬化剤を含まないエポキシ化合物で処理された有機繊維で構成されていることを特徴とするゴム補強用コード。
(2)前記ゴム補強用コードにおいて、コード内層部のエポキシ価(X)と、コード外層部のエポキシ価(Y)が、Y/X=0~0.2であることを特徴とする前記(1)に記載のゴム補強用コード。
(3)前記ゴム補強用コードが、下記の(a)及び(b)のうち、いずれか1つ以上を満たすことを特徴とする前記(2)に記載のゴム補強用コード。
(a)疲労後強力保持率が70%以上
(b)高温(120℃)接着力が70N/cm以上
(4)前記有機繊維コードが、少なくともアラミド繊維を含み、該アラミド繊維の比率が50重量%以上であることを特徴とする前記(1)~(3)いずれかに記載のゴム補強用コード。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境負荷が高い化合物を含まない組成でも、十分に高温(120℃)下での接着力が高く、耐疲労性に優れるゴム補強用コードを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[有機繊維]
本発明のゴム補強用コードを構成する有機繊維としては、アラミド繊維、ナイロン(6ナイロン、66ナイロン等)繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維等が挙げられる。これらの有機繊維のなかでも、非常に高い強度と弾性率を有しているアラミド繊維を少なくとも含む有機繊維コードが好ましい。例えば、アラミド繊維コード、アラミド繊維とナイロン繊維の複合コード、アラミド繊維とポリエステル繊維の複合コード等が挙げられる。
【0015】
アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等を挙げることができるが、引張強さに優れているパラ系アラミド繊維が好ましい。パラ系アラミド繊維の市販品としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン株式会社製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等を挙げることができる。これらのパラ系アラミド繊維の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が特に好ましい。
【0016】
上記のアラミド繊維は、公知の方法で製造したものを用いることができる。なお、アラミド繊維は、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていても良い二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全芳香族ポリアミド繊維、又はアラミド繊維と称されるものであって良く、「置換されていても良い二価の芳香族基」とは、同一又は異なる1以上の置換基を有していても良い二価の芳香族基を意味する。
【0017】
本発明で用いるアラミド繊維は、あらかじめ製糸工程において、硬化性エポキシ化合物を、繊維用油剤との混合物として付与したもの、あるいは、硬化性エポキシ化合物と油剤を別工程で付与したものが好ましい。硬化性エポキシ化合物は、紡糸、中和後、又は、紡糸、中和、洗浄後の乾燥により水分率を調整したアラミド繊維に対して付与されるのが良く、前記水分率は15重量%以下が好ましい。水分率が15重量%を超えると、繊維構造内に硬化性エポキシ化合物が取り込まれてしまうことで、エポキシ化合物の硬化状態を制御することが困難になる。
【0018】
また、繊維用油剤および工程薬剤には、硬化剤が含まれていないことが望ましい。硬化剤のなかでも、アミン系硬化剤は、エポキシ化合物の硬化速度を速める効果があり、ゴム補強用コードの内層部に存在する繊維のエポキシ価を低下させてしまう。
【0019】
通常、有機繊維コード(撚糸コード)に付与したエポキシ化合物は、コード表面で硬化して被膜を形成し、物理的にコード表面を覆うこととなる。
しかし、硬化剤を含まないエポキシ化合物で処理された有機繊維(エポキシ前処理糸)を含む有機繊維コードの場合、コード内部のエポキシ化合物は、硬化することなく、次のエポキシ化合物を含む処理剤付与工程において、該エポキシ化合物をコード内部に導く役割を果たす。またそれによって、コード内層部(コード半径の1/2以下より中心側)の材料のエポキシ価が高くなる。
一方、エポキシ前処理糸を用いない有機繊維コード(撚糸コード)の場合は、施与したエポキシ化合物は、外層部(ほぼ表層のみ)に存在する。また、エポキシ前処理糸を用いた場合でも、有機繊維コードをエポキシ化合物で処理しない場合、エポキシ処理剤はコード内部まで侵入しない。
【0020】
本発明において、硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物及び芳香環を有するエポキシ化合物から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。2種以上を混合して用いても良く、別々に用いても良い。さらに、工程通過性を向上させるため、硬化性エポキシ化合物を繊維用油剤と混合して付与しても良く、これら2つの剤を2段階で付与しても良い。
【0021】
脂肪族エポキシ化合物としては、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロール等の多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種又は2種以上の混合物が好ましい。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。芳香環を有するエポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種又は2種以上の混合物が挙げられ、常温で液状である点より、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のグリシジルエーテル化合物がより好ましい。
上記のエポキシ化合物の中でも、粘度が低く紡糸工程で付与することができ、また工程通過性を阻害しない点で、脂肪族エポキシ化合物が好ましく、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル等のグリセロール系ポリエポキシドが特に好ましい。
【0022】
繊維用油剤としては、硬化性エポキシ化合物との相溶性の面から、水溶性油剤が好ましい。水溶性油剤としては、硬化性エポキシ化合物と相溶性が高く、繊維油剤として必要な平滑性が高く、アラミド繊維を撚糸する際のトラベラとの摩耗減少効果があるものが好ましい。例えば、脂肪酸ポリグリコールエステル等が挙げられ、モノエステル型及びジエステル型から選ばれる1種又は混合物を用いることができる。ゴムに対する接着性及び硬化性エポキシ化合物との溶解性の点より、前記エステルを構成する脂肪酸は、炭素原子数7~28の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、ポリグリコールは、硬化性エポキシ化合物の溶解性に優れるエステル化合物が得られる点で、重量平均分子量(Mw)が400~1,300のポリエチレングリコールが好ましい。
【0023】
硬化性エポキシ化合物及び繊維用油剤を混合物としてアラミド繊維に付与する場合、(a)硬化性エポキシ化合物と(b)水溶性油剤は、(a)/(b)=50/50~90/10(重量比)の比率で用いることが好ましい。(a)/(b)は、より好ましくは50/50~70/30であり、さらに好ましくは55/45~65/35である。
【0024】
硬化性エポキシ化合物のアラミド繊維への付着量は、アラミド繊維重量(乾燥基準)に対して、10mmol/kg以上、50mmol/kg以下であることが好ましい。付着量が少なすぎると、ゴム補強用コードの疲労後強力保持率、高温下接着力が低下し、付着力が多すぎると経済性、生産性が悪くなる。より好ましくは10~30mmol/kg、さらに好ましくは15~25mmol/kgである。
【0025】
硬化性エポキシ化合物を付着させたアラミド繊維は、その後、巻き取り工程でボビンに巻き取られる。巻き上げ後のアラミド繊維は、熱処理及び緊張処理することなく常温で保持され、水分率が3~15重量%に保持される。
【0026】
[有機繊維コード]
本発明のゴム補強用コードは、2本以上の下撚りコードのうち、少なくとも1本が、硬化剤を含まないエポキシ化合物で処理された有機繊維で構成されていることが重要である。硬化剤を含まないエポキシ化合物で処理された有機繊維としては、前述したアラミド繊維を、好ましい例として挙げることができる。
【0027】
硬化剤を含まないエポキシ化合物で処理された有機繊維の一例として、前述の方法で得たアラミド繊維を1本あるいは複数本を引き揃え、S方向或いはZ方向に片撚りを施して下撚りコードを得、さらに、該下撚りコードを2本以上引き揃え、片撚りと同じ方向の上撚り(ラング撚り)又は反対方向の上撚り(諸撚り)を施して、上撚りコードを得る方法がある。
【0028】
また、上記の下撚りコードと撚り合わせる下撚りコードとして、硬化剤を含むエポキシ化合物で処理された有機繊維からなる下撚りコード、エポキシ化合物で処理されていない有機繊維からなる下撚りコード等を用いることができる。前記有機繊維は、ゴム補強用コードの目的に応じて1種又は2種以上を選択することができ、例えば、アラミド繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等が挙げられる。有機繊維のエポキシ処理方法は、特に限定されない。
【0029】
本発明では、ゴム補強用コードの強力を高める観点より、有機繊維コードがアラミド繊維を含むことが好ましく、有機繊維コードに占めるアラミド繊維の比率が50重量%以上であることが好ましい。
【0030】
本発明において、下撚りコード及び上撚りコードの撚り数は、20~50t/10cmが好ましい。撚り数が20t/10cm未満の場合は、コードの疲労性が低下する傾向があり、撚り数が50t/10cmを超えると、コードの強力が低下する傾向がある。撚り数は、目的に応じて調整すれば良い。
【0031】
[ゴム補強用コード]
本発明のゴム補強用コードは、少なくとも2本以上の下撚りコードを引き揃え、上撚りをかけた有機繊維コードの表面を、エポキシ化合物とラテックスを含むゴム用接着剤で処理した接着剤層を有する。
また、ゴム補強用コードにおいては、コード内層部のエポキシ価(X)と、コード外層部のエポキシ価(Y)が、Y/X=0~0.2であることが好ましい。なお、「コード外層部」とは、「ゴム用接着剤で処理したコードの表層部分」を言い、「コード内層部」とは、「ゴム用接着剤で処理したコードから表層部分を取除いた内層部分」を言う。
【0032】
本発明のゴム補強用コードは、コード外層部のエポキシ価が低い(0を含む)のに対して、下撚りコードのうち少なくとも1本に硬化剤を含まないエポキシ化合物で処理された有機繊維を含むため、コードの表面を処理したゴム用接着剤に含まれるエポキシ化合物がコード内部に導かれることにより、コード内層部のエポキシ価が高い。
つまり、未硬化のエポキシ化合物がコード内層部に多く存在する。具体的には、2本以上の下撚りコードの全てをエポキシ化合物(硬化剤なし)で処理した有機繊維で構成したゴム補強用コードは、コード内層部のエポキシ価(X)が高くなり、1本のみをエポキシ化合物(硬化剤なし)で処理した有機繊維で構成したゴム補強用コードは、コード内層部のエポキシ価(X)が前者よりは低くなる。一方、上撚りコードを、エポキシ化合物(硬化剤を含む)で処理した有機繊維は、コード表面でエポキシ化合物が硬化するので、コード外層部のエポキシ価(Y)が低い。
【0033】
本発明において、コード内層部に存在する未硬化のエポキシ化合物は、コード/エポキシ間の結合力に対してアンカー効果を付与するものと推察される。そのため、コード-接着剤間の接着力が高まることにより、高温下での接着力が高く、耐疲労性に優れるゴム補強用コードが得られるのではないかと推察する。また、未硬化のエポキシ化合物が、コード外層部で多量に存在した場合は、硬化によって、コードが疲労する(耐疲労性が低下する)ことが想定される。そのため、コード内層部に未硬化エポキシ化合物が多く存在することが重要であり、そのようにすることで、耐疲労性に優れ(疲労後強力保持率が高い)、また、高温(120℃)引き抜き接着力に優れるゴム補強用コードを提供することができる。
【0034】
コード内層部に存在するエポキシ化合物量(A)は、特に限定されないが、5.0(mmol/kg)以上あることが好ましい。5.0(mmol/kg)未満になると、エポキシ化合物が硬化し過ぎることでコード内部が硬くなり、コード耐久性の低下が生じる虞がある。より好ましくは7.5(mmol/kg)以上、さらに好ましくは10.0(mmol/kg)以上である。
【0035】
また、コード外層部に存在するエポキシ化合物量(B)は、5.0(mmol/kg)未満であることが好ましい。5.0(mmol/kg)以上では、コード表面上でエポキシの硬化反応の進行が不十分なことによりコードとエポキシ化合物間の接着が不十分になる恐れがある。より好ましくは2.5(mmol/kg)未満である。
【0036】
本発明のゴム補強用コードの好ましい一実施形態では、ゴム補強用コード内層部ではエポキシ化合物の多くが未硬化物として存在し、該コード外層部ではエポキシ化合物が硬化物として存在する。この場合、硬化剤を含まないエポキシ化合物で前処理した原糸を少なくとも1本用いて有機繊維コードを作製し、作製した有機繊維コードの表面を、エポキシ化合物とラテックスを含むゴム用接着剤で処理し、その後、コードを熱処理する製造方法がある。
【0037】
本発明のゴム補強用コードの他の好ましい一実施形態では、硬化剤を含まないエポキシ化合物で前処理した原糸を少なくとも1本用いて有機繊維コードを作製し、作製した有機繊維コードの表面を、エポキシ化合物を含む処理剤で処理し、その後熱処理を施した後、さらにラテックスを含むゴム用接着剤で処理し、再度熱処理する製造方法がある。
【0038】
本発明において、エポキシ化合物とラテックスを含むゴム用接着剤の処理回数は特に限定されない。経済性の観点より1回(1浴処理)が好ましいが、2回以上行っても良い。接着剤処理は、撚りをかけた繊維コードに対して行うことが好ましい。接着剤付着量は、ゴム接着性及びコードの耐疲労性の観点より、3~20重量%(対コード重量)が好ましく、より好ましくは5~15重量%、さらに好ましくは6~10重量%である。
【0039】
接着剤層を形成する接着剤(第1の接着剤)には、エポキシ化合物とラテックスを含むゴム用接着剤が用いられる。ラテックスを含むことによりゴムとの接着性を高めることができる。その他の成分として、ブロックドポリイソシアネート化合物等を含んでいても良い。なお、エポキシ化合物は上記のエポキシ化合物と同様の化合物を用いることができる。
【0040】
ラテックスとしては、例えば、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン系、イソプレン系、スチレン-ブタジエン系、エチレン-プロピレン-ジエン系、アクリロニトリル-ブタジエン系、クロロプレン系、クロロスルホン化ポリエチレン系、アクリレート系、天然ゴム系等のラテックスを用いることができる。これらのラテックスは、1種単独であっても良く、2種以上の組合せであっても良い。ラテックスを用いることで、有機繊維コードとゴム部材との接着性を向上させることができる。
【0041】
本発明のゴム補強用コードは、さらに、第2の接着剤で処理されていても良い。第2の接着剤としては、公知のRFL(レゾルシンと、ホルムアルデヒドの初期縮合物、ゴムラテックスの混合物)を用いることができる。RFLは、有機繊維コードに対する浸透性・付着性及びゴムとの接着性に優れている。例えば、ゴムラテックス100重量部(固形分換算)に対し、レゾルシン-ホルマリン初期縮合物(固形分換算)を約2~20重量部含む混合物を、固形分濃度で約5~25重量%含むRFL処理液等が挙げられる。
【0042】
未処理コードへのRFLを含む接着剤の付与は、第2の接着剤を液体に溶解又は分散させた処理液を用いて行うことが好ましい。処理液における接着剤の総固形分濃度は、5~25重量%が好ましく、より好ましくは15~25重量%である。かかる範囲にすると、接着剤を含む処理液の安定性が優れ、有機繊維に対して、接着剤を均一に塗布することができる。第2の接着剤には公知の粘度調整剤を添加することもできる。
【0043】
接着剤を含む処理液をアラミド繊維に付着させる方法は、公知の方法を採用することができる。接着剤付着量及び接着剤含浸率の制御は、例えば、接着剤処理液の濃度、接着剤処理液浸漬後の液除去条件、またディップ処理速度や張力等の条件を設定することによって可能である。
【0044】
通常は、アラミド繊維にRFLを含む接着剤を付与した後、乾燥、熱処理を行う。熱処理条件は、乾燥温度100~160℃、滞留時間0.5~5分、熱処理温度200~260℃、滞留時間0.5~5分が好ましい。
【0045】
また、接着剤を付与して乾燥、熱処理を行う際に、0.15g/dtex~0.80g/dtexの張力を掛けて、緊張熱処理を行うことが好ましい。上撚りコードのフィラメントの引き揃え状態を最適化することができ、強力を高めることができる。また、上撚りコードに過剰な張力負荷が掛からなくなるため、工程通過時の擦過等による糸へのダメージを最小限に抑え、コード強力をより高値に維持することができる。
【0046】
上記のようにして得られたアラミド繊維コードを、6ナイロン、66ナイロン等のナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ビニロン繊維、ポリケトン繊維等からなる繊維コードと撚り合せることで複合コードが得られる。
【0047】
本発明のゴム補強用コードは、ゴムとの接着性が高く、接着剤含浸率が高いためディップコードとゴムの間で接着剤移行が生じ難く、コード製造過程では接着剤カスが発生しないため、有機繊維コードの特性を最大限に引き出すことができる。かかる特性を生かして、自動車、航空機等の各種タイヤのコードやスダレ;伝動ベルト、Vベルト、タイミングベルト等の各種ベルト;ラジエータホース、ヒーターホース、パワステホース等の各種ホース;等のゴム製品の補強用として、好適に用いることができる。
【0048】
ゴムとしては、例えば、アクリルゴム(ACM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化アクリロニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、イソプレンゴム(IR)、ウレタンゴム(AU、EU)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。ゴムには、主成分のゴムの他に、通常ゴム業界で用いられるカーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム等の無機充填剤、クマロン樹脂、フェノール樹脂等の有機充填剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等の各種配合剤が含まれていても良い。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。以下の実施例等において「%」は「重量%」である。なお、実施例中の各測定値は次の方法にしたがった。
【0050】
(1)初期強力
引張試験機(エイ・アンド・デイ社製 商品名:テンシロン、型式:RTM1T)を使用してJIS L1017:2002の方法の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
[測定条件]
測定環境温度:20±3℃
湿度:65±5%
試験速度:100mm/分
チャック間距離:250mm
【0051】
(2)T-接着力(コードとゴムとの接着力)評価
JIS L1017:2002の接着力-A法に準じて、処理コードを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で、初期接着力は150℃×30分間プレス加硫を行い、放冷後、コードをゴムブロックから300mm/minの速度で引き抜き、その引き抜きに要した荷重をN/cmで表示した。
【0052】
(3)高温接着力
JIS L1017:2002の接着力-A法に準じて、処理コードを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で、初期接着力は150℃×30分間プレス加硫を行い、120℃で、コードをゴムブロックから300mm/minの速度で引き抜き、その引き抜きに要した荷重をN/cmで表示した。
【0053】
(4)疲労後強力、疲労後強力保持率
ベルト式屈曲疲労試験機(上島製作所製)を用い、JIS L1017:2002に準じて測定した。厚さ4mmのゴムシートに本発明の方法で処理したコードを16本/inchで打ち込み、0.4mmのゴムシートで挟み込み2層に平行に並べて150℃で30分間、50kg/cm2のプレス圧力で加硫した。加硫後のゴムシートを1inch幅×410mm長のベルト形状に切断し、これを直径1inchφのローラーに取り付けて荷重50kgをかけ、180rpmの速度で往復運動を24時間繰り返した。疲労負荷後のベルトサンプルをトルエンに浸漬して膨潤させた後、2層のゴムシートのうちローラー設置側の層よりコードを取り出し、JIS L1017:2002の方法により強力を測定して疲労後強力とした。また、初期強力対比の疲労後強力の割合を疲労後強力保持率(%)とした。
【0054】
(5)エポキシ価測定法
別に、試料10g(実重量Ag)をビーカーに入れ、アセトンで試料表面に付着した遊離エポキシ化合物を抽出した後、アセトンを除去して、抽出物重量を測定する。前記抽出物に、塩酸/1,4-ジオキサン混合溶液(15/1000(容量比))20mlとエタノール30mlを添加した後、0.5mol/LのNaOH溶液で中和滴定(滴定量:Cml)を行う。抽出物を含まない前記の塩酸1,4-ジオキサン混合溶液についてブランク滴定(滴定量:Dml)を行い、下記式により、遊離エポキシ化合物量として、試料1kg当りに存在する遊離エポキシ基のミリモル数を算出する。
[遊離エポキシ化合物量(mmol/kg)]=0.5×1000×(D-C)/A
【0055】
(6)コード内層部と外層部のエポキシ価測定法
外層部;RFL処理したコードの表層を10g採取し、採取した試料のエポキシ価を測定した。内層部;RFL処理したコードの表層を取除き、コードの最内層部10gを採取し、採取した試料のエポキシ価を測定した。
コード中心(コード径の50%の距離)は、JIS L1017:2002 8.1 コードゲージに記載の方法で測定したコード径を直径として求めた。実験で使用した繊維コードの直径は0.5~1.0mmである。
【0056】
(実施例1)
通常の方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAと略す)(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、加熱乾燥して、水分率10重量%のPPTA繊維(総繊度1,670dtex)を得た。
【0057】
得られたPPTA繊維の束に、油剤(エポキシ化合物/ポリグリコールエステル=30/70(重量比))を、水分率0%に換算したときの繊維重量に対し1%となるよう付与した後、巻き上げてパッケージにした。
【0058】
得られたPPTA繊維1,670dtex(エポキシ前処理糸、初期弾性率520cN/dtex)をZ方向に40t/10cmで加撚して下撚りコードを作成し、この下撚りコードを2本使用しS方向に40t/10cmで加撚して上撚り撚糸コードを作成した。
得られた上撚り撚糸コードをビニルピリジン・スチレン・共役ジエンゴムラテックス及びエポキシ化合物を主成分とする第1の接着剤処理液に浸漬し、140℃で2分間熱処理を実施して水分を除去し、その後230℃で1分間熱処理した。さらにレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を主成分とする第2の接着剤処理液に浸漬し、140℃で2分間熱処理を実施して水分を除去し、その後230℃で1分間熱処理することによりアラミド繊維コードを完成した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で、上撚り撚糸コードを作成した。
得られた上撚り撚糸コードをビニルピリジン・スチレン・共役ジエンゴムラテックス及びエポキシ化合物を主成分とする第1の接着剤処理液に浸漬し、215℃で2分間熱処理を実施して水分を除去し、その後230℃で1分間熱処理した。さらにレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を主成分とする第2の接着剤処理液に浸漬し、140℃で2分間熱処理を実施して水分を除去し、その後230℃で1分間熱処理することによりアラミド繊維コードを完成した。
【0060】
(比較例1)
市販のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(総繊度1,670dtex、ケブラー(R)29、東レ・デュポン株式会社製)を使用した。
【0061】
(比較例2)
実施例1と同様の方法にて、水分率10重量%のPPTA繊維(総繊度1,670dtex)を得た。
得られたPPTA繊維の束に、硬化剤(有機アミン)を含む油剤(エポキシ化合物/ポリグリコールエステル混合物=30/70(重量比))を、水分率0%に換算したときの繊維重量に対し1.0%となるよう付与した後、巻き上げてパッケージにした。得られたPPTA繊維を用い、実施例1と同様にしてアラミド繊維コードを得た。
【0062】
(比較例3)
実施例1と同様の方法にて、水分率50重量%のPPTA繊維(総繊度1,670dtex)を得た。
得られたPPTA繊維の束に、油剤(エポキシ化合物/ポリグリコールエステル混合物=30/70(重量比))を、水分率0%に換算したときの繊維重量に対し1.0%となるよう付与した後、巻き上げてパッケージにした。得られたPPTA繊維を用い、実施例1と同様にしてアラミド繊維コードを得た。
【0063】
評価結果を表1にまとめて示す。
【0064】
【0065】
表1の結果から、コード内層部の未硬化エポキシ化合物量が多い、本発明例のアラミド撚糸コードは、コード内層部の未硬化エポキシ化合物が少ない比較例2、3のアラミド撚糸コードと比べて、コード疲労後の強力保持率及び高温下接着力に優れていることが分かる。また、原糸をエポキシ化合物で前処理していない比較例1のアラミド撚糸コードは、コード疲労後の強力保持率、T-接着力、高温下接着力のいずれも劣っていることが分かる。よって、コード内層部の未硬化エポキシ化合物を多くすることが、アラミド撚糸コードのコード疲労後の強力保持率及び高温下接着力の向上に有効であることが分かる。
【0066】
以上、本発明について実施例を用いて具体的に説明したが、上記の実施の形態は、本発明の好適な実施の形態の一例を示すものであり、本発明は上述した各実施の形態に限定されることなく、請求項に記載した範囲で種々の変更が可能である。