(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141140
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】茶の実搾油残渣を添加したパルプ及び該パルプにより製造されたパルプ製品並びに茶の実搾油残渣を添加したパルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 17/02 20060101AFI20241003BHJP
D21H 17/01 20060101ALI20241003BHJP
A47G 19/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D21H17/02
D21H17/01
A47G19/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052627
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(71)【出願人】
【識別番号】000105154
【氏名又は名称】株式会社GSIクレオス
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】多賀 淳
(72)【発明者】
【氏名】森田 雅彦
【テーマコード(参考)】
3B001
4L055
【Fターム(参考)】
3B001AA11
3B001AA40
3B001CC36
4L055AG43
4L055FA30
4L055GA05
(57)【要約】
【課題】茶の実搾油残渣を原料パルプに添加することで、抗酸化機能を持ったパルプ及びパルプ製品並びに茶の実搾油残渣を添加したパルプの製造方法を提供する。
【解決手段】茶の実の種子胚を搾油する際に排出される残渣を、粉末状に加工して粉末状残渣を形成し、該粉末状残渣を原料パルプに添加した後、水分を含ませてパルプスラリーを形成し、該パルプスラリーを調製して抄紙した後、脱水して形成されることを特徴とするパルプ。さらに、前記パルプに、金型による熱成型を行い、皿やトレー等の食器や、弁当容器等の各種パルプ製品を製造する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶の実の種子胚を搾油する際に排出される茶の実搾油残渣を、粉末状に加工して茶の実搾油残渣の粉末を形成し、該粉末を原料パルプに添加した後、水分を含ませてパルプスラリーを形成し、該パルプスラリーを調製して抄紙した後、脱水して形成されることを特徴とする茶の実搾油残渣を添加したパルプ。
【請求項2】
請求項1記載の茶の実搾油残渣を添加したパルプによって製造したことを特徴とするパルプ製品。
【請求項3】
前記パルプ製品が食器であることを特徴とする請求項2記載のパルプ製品。
【請求項4】
茶の実の種子胚を搾油する際に排出される茶の実搾油残渣を、粉末状に加工して茶の実搾油残渣の粉末を形成する工程と、
前記粉末を原料パルプに添加した後、水分を含ませてパルプスラリーを形成する工程と、
前記パルプスラリーを調製して抄紙する工程と、
抄紙したパルプを脱水する工程と
を順に行うことを特徴とする茶の実搾油残渣を添加したパルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶の実搾油残渣を添加したパルプ及び該パルプにより製造されたパルプ製品並びに茶の実搾油残渣を添加したパルプの製造方法に関し、詳しくは、茶の実搾油残渣が持つ抗酸化成分を利用して抗酸化機能を持たせたパルプ及び該パルプにより製造されたパルプ製品並びに茶の実搾油残渣を添加したパルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、茶の実油は、オリーブオイルと同様にオレイン酸が豊富で、飽和脂肪酸の含有量が少ないことが知られ、健康油として注目されている。この茶の実油は、茶の実から種子胚を取出し、種子胚に含まれた油成分を搾油することで製造されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
さらに、近年、消費者の健康飲料指向の高まりによって茶系飲料の需要が伸び、これに伴って、含水茶殻の排出量が増加している。このため、茶殻を湿式粉砕して原料パルプに添加することで、茶殻の再利用を図るとともに、抗菌、消臭機能を備えた原料パルプを製造することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、原料パルプにより製造されたディスポーザブルの食器や弁当容器は、石油原料の食器や弁当容器に比べて廃棄の際に環境負荷が小さく好ましい。一方で、弁当容器等においては抗酸化化合物やわさびの辛み成分であるシニグリンを含浸させたシートなどを同梱することなどによって食品の劣化を防ぐ工夫がなされている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-152749号公報
【特許文献2】特開2008-255515号公報
【特許文献3】特開平3-222574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のものでは、茶を抽出する際に発生する茶殻を利用し、原料パルプに添加して抗菌、消臭機能を備えたパルプを製造することが提案されているが、発明者達は、特許文献1のように茶の実油を製造する過程で発生する、茶の実搾油残渣(絞り滓)に抗酸化性物質が多く含まれていることを発見した。
【0007】
また、特許文献3のように、食品の劣化を防ぐために、抗酸化化合物やシニグリンを含浸させたシートなどを同梱することは提案されているが、食器や弁当容器等のパルプ製品自体に抗酸化機能を持たせたものはなかった。
【0008】
そこで、本発明は、茶の実搾油残渣を原料パルプに添加することで、抗酸化機能を持ったパルプ及びパルプ製品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の茶の実搾油残渣を添加したパルプは、茶の実の種子胚を搾油する際に排出される茶の実搾油残渣を、粉末状に加工して茶の実搾油残渣の粉末を形成し、該粉末を原料パルプに添加した後、水分を含ませてパルプスラリーを形成し、該パルプスラリーを調製して抄紙した後、脱水して形成されることを特徴としている。
【0010】
また、本発明のパルプ製品は、前記茶の実搾油残渣を添加したパルプによって製造したことを特徴とし、前記パルプ製品が食器であると好ましい。
【0011】
さらに、本発明の茶の実搾油残渣を添加したパルプの製造方法は、茶の実の種子胚を搾油する際に排出される茶の実搾油残渣を、粉末状に加工して茶の実搾油残渣の粉末を形成する工程と、前記粉末を原料パルプに添加した後、水分を含ませてパルプスラリーを形成する工程と、前記パルプスラリーを調製して抄紙する工程と、抄紙したパルプを脱水する工程とを順に行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の茶の実搾油残渣を用いたパルプによれば、抗酸化機能を持ったパルプが製造できる。また、元々、手作業で収穫されていた茶の実の有効利用として茶の実油の活用がなされてきたが、さらに、搾油後の残渣も有効に利用できることから、陸の環境保全や農業従事者の無賃(低賃金)労働の解消に繋がるものと考えられる。
【0013】
また、このパルプを用いて皿、トレー、弁当容器等のパルプ製の容器(本発明のパルプ製品)を製造することにより、これら容器に収容する例えば、野菜や果物、魚、肉、卵などの食品の酸化や腐食の時間を遅らせることができる。さらに、このパルプを用いてストロー、スプーン、フォーク、ナイフ、箸、マドラー等のパルプ製の食器(本発明のパルプ製品)を製造することにより、抗酸化機能を持った食器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の茶の実搾油残渣を添加したパルプを製造する第1工程を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の茶の実搾油残渣を添加したパルプを製造する第2工程を示すフローチャートである。
【
図3】茶の実搾油残渣を添加したパルプを用いて製造した皿の抗酸化作用の大きさを比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1及び
図2は、本発明の茶の実搾油残渣を添加したパルプを製造する工程を示す図で、まず、
図1に基づいて、原料パルプに添加する茶の実搾油残渣を、粉末状に加工する第1工程について説明する。
【0016】
第1工程では、収穫した茶の実から、鬼皮を取り除き、茶の実油を含む種子胚を取り出す種子胚取出工程S1と、取り出した種子胚を乾燥させた後、種子胚を粉砕、圧縮して茶の実油を圧搾する圧搾工程S2と、圧搾した茶の実油を抽出する茶の実油抽出工程S3と、茶の実油を抽出した後、ブロック状に固まった残渣を取り出す残渣取出工程S4と、ブロック状の残渣を粉砕する残渣粉砕工程S5と、粉砕した残渣を篩に掛ける残渣篩工程S6とが順次行われ、これにより茶の実搾油残渣の粉末(以下、粉末状残渣)を得ることができる。
【0017】
残渣粉砕工程S5では、ブロック状の残渣(約1Kg~4Kg/個)を約40mmに粉砕し、さらに続けて、2mmまで粉砕する。残渣篩工程S6では、1mm~10mmの粉末状残渣を回収する(種子胚取出工程S1~残渣篩工程S6は、本発明の粉末状残渣を形成する工程)。
【0018】
次に、
図2に基づいて、前記第1工程で得られた粉末状残渣を原料パルプに添加し、本発明のパルプを製造する第2工程について説明する。
【0019】
第2工程では、原料パルプに粉末状残渣を添加する添加工程S7と、前記粉末状残渣を添加したパルプに水分を含ませた(膨潤)後、繊維をしなやかにさせるために繊維を長短にカットするパルパー工程S8と(添加工程S7及びパルパー工程S8は、本発明の、パルプスラリーを形成する工程)、パルパー工程終了後のパルプスラリーを叩解し(切る・すり潰す)、繊維を毛羽立たせ(フィブリル化)結合を促す叩解工程S9と、前記パルプスラリーをワイヤー(プラスチックの網)の上にまんべんなく流送させて抄紙する抄紙工程S10と(叩解工程S9及び抄紙工程S10は、本発明のパルプスラリーを調製して抄紙する工程)、プレスパートやドライヤーパートを経てパルプスラリーを乾燥させる脱水工程S11と(脱水工程S11は、本発明の抄紙したパルプを脱水する工程)が順次行われ、これにより粉末状残渣を添加したパルプが製造される。
【0020】
なお、原料パルプに使用される原料の種類は、針葉樹や広葉樹を用いた木材原料や、カポックの実、竹、マニラ麻、ケナフ等を用いた非木材原料が用いられ、添加工程S7で茶の実搾油残渣粉末を添加する割合は、原料90~50%、茶の実搾油残渣粉末10~50%としている。また、パルプに色づけをする際には、叩解工程S9の後に、染色工程S12を行い、染色工程S12終了後に抄紙工程S10が行われる。
【0021】
第1工程及び第2工程を経て製造されたパルプは、周知の工程を経て、皿、トレー、弁当容器、ストロー、スプーン、フォーク、ナイフ、箸、マドラー等の各種パルプ製品に加工される。
【0022】
上述のように製造されたパルプは、茶の実搾油残渣由来の抗酸化物質を含んでいることから、このパルプを用いて皿、トレー、弁当容器等のパルプ製の容器を製造することにより、これら容器に収容する例えば、野菜や果物、魚、肉、卵などの食品の酸化や腐食の時間を遅らせることができる。さらに、このパルプを用いてストロー、スプーン、フォーク、ナイフ、箸、マドラー等のパルプ製の容器以外の食器を製造しても、抗酸化作用を有する製品を提供することができる。
【0023】
次に、
図3及び表1に示すように、上述のように製造されたパルプを用いて、金型による熱成型により皿B、皿Cを形成し、皿B、皿Cが有する抗酸化作用の大きさをTrolox Equivalent Antioxidant Capacity(TEAC)法(トロロックス当量抗酸化能法、以下「TEAC法」という)の常法により測定し、比較した。
【0024】
皿Bは、原料パルプに10w/w%の割合で粉末状残渣を添加、皿Cは、原料パルプに30w/w%の割合で粉末状残渣を添加してそれぞれ製造し、粉末状残渣(元末)に比べて抗酸化作用がどの程度維持されているかをTEAC法により調べた。また、粉末状残渣を添加しない原料パルプのみで製造した通常の皿A(blank)についても、抗酸化作用をどの程度有しているかをTEAC法により同様に調べ、比較対象とした。(以下で述べる検体は、皿A~Cの粉末原体をいう)
【0025】
皿A~C及び粉末状残渣の検体は、裁断した400mgの皿A~C及び粉末状残渣の乾燥試料に、0.2v/v%酢酸水溶液とメタノールの混合液(75:25)を4mL加え、超音波で10分間抽出した後、0.45μmメンブレンフィルターを通して調整した。TEAC法により測定した各検体のトロロックス当量(μmol/L)を比較することにより各検体の抗酸化作用の大きさを比較した。
【0026】
図3及び表1に示すように、皿Bの検体のトロロックス当量は176.5μmol/L、皿Cの検体のトロロックス当量は255.8μmol/Lを示した。これらは、粉末状残渣(元末)の検体に対して、皿Bの検体では8.7%、皿Cの検体では12.9%に相当する。これらの抗酸化作用は、原料パルプに添加した粉末状残渣の量に対しては低下しているものの、金型による熱成型といった加熱処理を経た後であっても、40%以上の抗酸化作用が残存していることを示している。一方、blankの皿Aでは、トロロックス当量は0.55μmol/Lであり、ほとんど抗酸化作用を示さなかったことから、粉末状残渣を添加することにより紙皿に抗酸化機能を付与できることが確認できた。
【0027】
【0028】
また、皿B、皿Cの強度を確認したところ、十分な強度を有することが確認された。したがって、皿だけでなく、トレー、弁当容器、ストロー、スプーン、フォーク、ナイフ、箸、マドラー等の食器のような各種パルプ製品を製造しても、十分な強度を有し、実用可能なものである。さらに、従来のパルプ製品では、使用とともにフィブリル化によって表面が毛羽立ったり、表面が粉状に剥がれたりするが、上述の皿B,皿Cは、使用を繰り返しても表面が滑かで、フィブリル化しにくいことも確認された。
【符号の説明】
【0029】
S1…種子胚取出工程、S2…圧搾工程、S3…茶の実油抽出工程、S4…残渣取出工程、S5…残渣粉砕工程、S6…残渣篩工程、S7…添加工程、S8…パルパー工程、S9…叩解工程、S10…抄紙工程、S11…脱水工程、S12…染色工程