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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141145
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】オイルリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/06 20060101AFI20241003BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16J9/06 B
F02F5/00 B
F02F5/00 301A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052633
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 優士
(72)【発明者】
【氏名】彦根 顕
(72)【発明者】
【氏名】大平 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】梅田 直喜
【テーマコード(参考)】
3J044
【Fターム(参考)】
3J044AA12
3J044BA02
3J044BA03
3J044BA06
3J044CB16
3J044CB24
3J044CB30
3J044CB37
3J044DA09
3J044DA17
(57)【要約】
【課題】内燃機関の停止状態においてオイルリングのランド部間にオイルが滞留することを抑制可能な技術を提供する。
【解決手段】オイルリングの本体リングの外周部には、一対のランド部とウェブ部とによって囲まれた溝状の空間であるランド空間が形成されており、本体リングの外周面は、軸方向においてランド空間の底面の両側に設けられ、底面に接続されると共に軸方向において底面から離れるに従って拡径するように形成された一対の第1溝壁面を含み、窓孔を含み周長方向に直交する断面において、一対の第1溝壁面のうち内燃機関の燃焼室側に設けられた上側第1溝壁面が本体リングの径方向に対してなす角度をθ1としたとき、θ1≦60°である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンに装着されるオイルリングであって、
軸方向に並んで設けられた一対のランド部と、前記一対のランド部を連結するウェブ部と、を有して環状に形成された本体リングと、
前記本体リングの内周側に配置され、前記本体リングを径方向外側に付勢するコイルエキスパンダと、を備え、
前記本体リングの外周部には、前記一対のランド部と前記ウェブ部とによって囲まれた溝状の空間であるランド空間が、前記本体リングの周長方向に沿って延在して形成されており、
前記ランド空間の底面には、前記本体リングを径方向に貫通する窓孔が形成されており、
前記本体リングの外周面は、軸方向において前記ランド空間の前記底面の両側に設けられ、前記底面に接続されると共に前記軸方向において前記底面から離れるに従って拡径するように形成された一対の第1溝壁面を含み、
前記窓孔を含み前記周長方向に直交する断面において、前記一対の第1溝壁面のうち前記内燃機関の燃焼室側に設けられた上側第1溝壁面が前記本体リングの径方向に対してなす角度をθ1としたとき、
θ1≦60°である、
オイルリング。
【請求項2】
前記一対の第1溝壁面のうち前記内燃機関のクランク室側に設けられた下側第1溝壁面が前記本体リングの径方向に対してなす角度をθ2としたとき、
θ2≦60°である、
請求項1に記載のオイルリング。
【請求項3】
40°≦θ1≦60°であって、且つ、40°≦θ2≦60°である、
請求項2に記載のオイルリング。
【請求項4】
前記本体リングの前記外周面は、前記軸方向において前記上側第1溝壁面よりも前記燃焼室側に設けられ、前記上側第1溝壁面に接続されると共に前記燃焼室側に向かうに従って拡径するように形成された上側第2溝壁面と、前記軸方向において前記下側第1溝壁面よりも前記クランク室側に設けられ、前記下側第1溝壁面に接続されると共に前記クランク室側に向かうに従って拡径するように形成された下側第2溝壁面と、を有し、
前記窓孔を含み前記周長方向に直交する断面において、前記上側第2溝壁面が前記径方向に対してなす角度をθ3とし、前記下側第2溝壁面が前記径方向に対してなす角度をθ4としたとき、
θ3<θ1であって、且つ、θ4<θ2である、
請求項2又は3に記載のオイルリング。
【請求項5】
前記窓孔を含み前記周長方向に直交する断面において、前記底面と前記一対の第1溝壁面のそれぞれは、1以上の曲線、複数の連続する直線、又は1以上の曲線と1以上の直線との組合せを介して接続されている、
請求項1又は2に記載のオイルリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体リングとコイルエキスパンダとが組み合わされたオイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車に搭載される内燃機関は、コンプレッションリング(圧力リング)とオイルリングとを含むピストンリングの組み合わせをピストンに装着した構成を採用している。ピストンの軸方向において、コンプレッションリングが燃焼室側に設けられ、オイルリングがクランク室側に設けられ、これらがシリンダ内壁面を摺動することで機能を発揮する。オイルリングは、シリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイル(潤滑油)をクランク側に掻き落とすことでオイルの燃焼室側への流出(オイル上がり)を抑制するオイルシール機能や、潤滑油膜がシリンダ内壁面に適切に保持されるようにオイル量を調整することで内燃機関の運転に伴うピストンの焼き付きを防止する機能を有する。コンプレッションリングは、気密を保持することで燃焼室側からクランク室側への燃焼ガスの流出(ブローバイ)を抑制するガスシール機能や、オイルリングが掻き落とし切れなかった余分なオイルを掻き落とすことでオイル上がりを抑制するオイルシール機能を有する。
【0003】
ここで、オイルリングとしては、シリンダ内壁面を摺動する一対のランド部がウェブ部で連結された本体リングと、螺旋状に巻回された線材により形成されて本体リングをシリンダ内壁面へ付勢するコイルエキスパンダと、を組み合わせた、2ピースの組合せオイルリングが広く用いられている。このような組合せオイルリングには、ランド部により掻き落とされてランド部同士の間に滞留したオイルを本体リングの内周面側に排出するための窓孔がウェブ部に形成されているものがある。この窓孔からオイルが排出されることで、シリンダ内壁の摺動時に発生するランド部間の油圧が低下し、ランド部が油膜に乗ることが抑制される。その結果、ランド部のオイル掻き能力が維持される。
【0004】
2ピースの組合せオイルリングに関連して、オイルを流通させる貫通油孔の相対する側壁の少なくとも一方をオイルの流通方向に対して傾斜させることでオイルの流通性の改善を図る技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-194272号公報
【特許文献2】特開2011-220519号公報
【特許文献3】特許第7148667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
オイルリングによってオイル消費を低減するためには、シリンダ内壁面のオイルをより掻き落とせるように、ランド部の摺動面がシリンダ内壁面に接触する面圧を大きくすることが一般的である。一方で、面圧を大きくするためのリング張力の増大は、フリクションの増加の一因となり、面圧を大きくするためのランド部の摺動面積の縮小は、耐摩耗性の低下の一因となる。そのため、窓孔の形状、窓孔の位置、一対のランド部の内側面(互いに対向する面)の形状の最適化によって一対のランド部間に滞留したオイルを窓孔からオイルリングの内周面側に排出し易くすることが求められている。しかしながら、それらの対策を講じても、長時間の運転ではオイルの劣化によりカーボンスラッジ等の不溶解物質が一対のランド部間にデポジットとして堆積することがあり、その原因は十分に解明され
ていない。
【0007】
また、例えば植物系エンジンオイルは、石油系エンジンオイルに比べてカーボンスラッジ等の発生量が多く、さらにそのカーボンスラッジ等は強固に付着するため、ランド部間にデポジットとして堆積し窓孔を塞ぐことが懸念される。
【0008】
さらに、例えば植物油をディーゼル代替燃料として使用した場合には、軽油を使用した場合と比べ、長時間運転した際のカーボンデポジットが増大するため、オイルリングを含むピストンリングがステックする可能性も高くなる。
【0009】
そこで、本発明者は、デポジットが堆積する要因として、内燃機関の運転中におけるオイルの滞留以外に、内燃機関の運転停止状態におけるオイルの滞留にも着目した。本発明は、内燃機関の停止状態においてオイルリングのランド部間にオイルが滞留することを抑制可能なオイルリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の構成を採用した。即ち、本発明は、内燃機関のピストンに装着されるオイルリングであって、軸方向に並んで設けられた一対のランド部と、前記一対のランド部を連結するウェブ部と、を有して環状に形成された本体リングと、前記本体リングの内周側に配置され、前記本体リングを径方向外側に付勢するコイルエキスパンダと、を備え、前記本体リングの外周部には、前記一対のランド部と前記ウェブ部とによって囲まれた溝状の空間であるランド空間が、前記本体リングの周長方向に沿って延在して形成されており、前記ランド空間の底面には、前記本体リングを径方向に貫通する窓孔が形成されており、前記本体リングの外周面は、軸方向において前記ランド空間の前記底面の両側に設けられ、前記底面に接続されると共に前記軸方向において前記底面から離れるに従って拡径するように形成された一対の第1溝壁面を含み、前記窓孔を含み前記周長方向に直交する断面において、前記一対の第1溝壁面のうち前記内燃機関の燃焼室側に設けられた上側第1溝壁面が前記本体リングの径方向に対してなす角度をθ1としたとき、θ1≦60°である。
【0011】
また、本発明において、前記一対の第1溝壁面のうち前記内燃機関のクランク室側に設けられた下側第1溝壁面が前記本体リングの径方向に対してなす角度をθ2としたとき、θ2≦60°であってもよい。
【0012】
また、本発明において、40°≦θ1≦60°であって、且つ、40°≦θ2≦60°であってもよい。
【0013】
また、本発明において、前記本体リングの前記外周面は、前記軸方向において前記上側第1溝壁面よりも前記燃焼室側に設けられ、前記上側第1溝壁面に接続されると共に前記燃焼室側に向かうに従って拡径するように形成された上側第2溝壁面と、前記軸方向において前記下側第1溝壁面よりも前記クランク室側に設けられ、前記下側第1溝壁面に接続されると共に前記クランク室側に向かうに従って拡径するように形成された下側第2溝壁面と、を有し、前記窓孔を含み前記周長方向に直交する断面において、上側第2溝壁面が前記径方向に対してなす角度をθ3とし、前記下側第2溝壁面が前記径方向に対してなす角度をθ4としたとき、θ3≦θ1であって、且つ、θ4≦θ2であってもよい。
【0014】
また、本発明において、前記窓孔を含み前記周長方向に直交する断面において、前記底面と前記一対の第1溝壁面のそれぞれは、1以上の曲線、複数の連続する直線、又は1以上の曲線と1以上の直線との組合せを介して接続されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内燃機関の停止状態においてオイルリングのランド部間にオイルが滞留することを抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る組合せオイルリングを備える内燃機関の部分断面図である。
図2】実施形態に係る組合せオイルリングを径方向外側から視認した状態を示す部分拡大図である。
図3】本体リングの上面図である。
図4】本体リングの一部を示す斜視図である。
図5図2のA-A断面図である。
図6】本体リングの外周面の変形例を示す図である。
図7】ピストン下死点で内燃機関が停止した状態におけるランド空間のオイルの流動分布の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る組合せオイルリングの好ましい実施の形態について説明する。なお、以下の実施形態に記載されている構成は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
図1は、実施形態に係る組合せオイルリング40(以下、オイルリング40と称する)を備える内燃機関の部分断面図である。図2は、実施形態に係るオイルリング40を径方向外側から視認した状態を示す部分拡大図である。図1では、符号1で示す本体リングの周長方向に直交する断面が図示されている。また、図1では、内燃機関においてピストンに装着され、シリンダに挿入された状態(以下、使用状態と呼ぶ)のオイルリングが示されている。
【0019】
図1に示すように、内燃機関100では、シリンダ10の内壁面10aとシリンダ10に装着されたピストン20の外周面20aとの間に所定の離間距離が確保されることにより、ピストン隙間PC1が形成されている。また、ピストン20の外周面20aには、略矩形状の断面を有するリング溝30が形成されている。リング溝30は、燃焼室側に形成された上壁301と、クランク室側に形成されて上壁301に対向する下壁302と、上壁301と下壁302の内周縁同士を接続する接続壁303とを有する。接続壁303には、リング溝30内に流れたオイルを図示しないオイルパンへ排出するためのドレーンホール304が形成されている。なお、接続壁303にドレーンホール304が形成されていなくともよい。このリング溝30には、本実施形態に係る組合せオイルリング40(以下、オイルリング40)が装着されている。
【0020】
オイルリング40は、ピストン20の往復運動に伴ってシリンダ10の内壁面10aを摺動する摺動部材である。図1及び図2に示すように、オイルリング40は、いわゆる2ピースのオイルリングである。具体的には、オイルリング40は、環状に形成された一本の本体リング1と、螺旋状に巻回された線材によって環状に形成され、本体リング1の内周側に配置(装着)されて本体リング1を径方向外側に付勢する一本のコイルエキスパンダ2と、を備える。
【0021】
以下、図1に示すように、本体リング1の中心軸に沿う方向(軸方向)を「上下方向」と定義する。また、本体リング1の軸方向のうち、内燃機関100における燃焼室側(図1における上側)を「上側」と定義し、その反対側、即ち、クランク室側(図1における下側)を「下側」と定義する。また、以下のオイルリング40の説明において特に指定しない限りは、「周長方向」とは本体リング1の周長方向のことを指し、「径方向」とは本
体リング1の径方向のことを指し、「軸方向」とは本体リング1の中心軸に沿う方向のことを指す。内燃機関100において、オイルリング40は、本体リング1及びコイルエキスパンダ2の軸方向がピストン20の軸方向と一致した状態でリング溝30に装着される。
【0022】
図1に示すように、本体リング1は、環状に形成され上下方向に並んで設けられた一対のランド部3,3と、一対のランド部3,3の間に配置され、一対のランド部3,3を互いに連結するウェブ部4と、を有し、略I字形断面の環状に形成されている。以下、一対のランド部3,3を区別して説明するときは、上側のランド部3を上側ランド部3Uと称し、下側のランド部3を下側ランド部3Lと称する。本体リング1には、鋼鉄製や鋳鉄製、樹脂製等のリングが用いられる。本体リング1の表面は、外周面S1と内周面S2と上面S3と下面S4とを含む。上面S3及び下面S4は、本体リング1の軸方向端面であり、互いに平行である。なお、上面S3と下面S4は必ずしも平行でなくともよい。上面S3及び下面S4によって本体リング1の幅(軸方向寸法)が規定される。外周面S1は、上面S3及び下面S4の外周縁同士を接続する面である。内周面S2は、上面S3及び下面S4の内周縁同士を接続する面である。使用状態において、外周面S1がシリンダ10の内壁面10aに摺接し、内周面S2がリング溝30の接続壁303に対向し、上面S3が上壁301に対向し、下面S4が下壁302に対向する。
【0023】
図1に示すように、本体リング1の外周部には、一対のランド部3,3の一部によって、ウェブ部4から径方向外側へ突出した一対のレール部11,11が、軸方向に並んで設けられている。一対のレール部11,11は、外周面S1が径方向外側へ隆起することで形成されている。以下、一対のレール部11,11を区別して説明するときは、上側のレール部11を上側レール部11Uと称し、下側のレール部11を下側レール部11Lと称する。上側レール部11Uは、上側ランド部3Uの外周部により形成されており、下側レール部11Lは、下側ランド部3Lの外周部により形成されている。これにより、一対のレール部11,11は、本体リング1の軸回りに環状に形成されている。上側レール部11Uの外周端面S11U及び下側レール部11Lの外周端面S11Lは、外周面S1における径方向最外の部分を構成し、シリンダ10の内壁面10aに摺接する。本例では、外周端面S11U,S11Lは、上下方向に延在する平坦な面として形成されている。但し、本発明はこれに限定されず、外周端面S11U,S11Lは、曲面として形成されてもよい。
【0024】
また、一対のレール部11,11の間には、径方向内側に凹んだ溝であるランド空間12(外周溝)が形成されている。ランド空間12は、一対のランド部3U,3Lとウェブ部4とによって囲まれた溝状の空間として形成されており、本体リング1の周長方向に沿って延びている。図1の符号S12で示す底面は、外周面S1のうち、ランド空間12の底面を構成する部分である。本例の底面S12は、ウェブ部4の外周面によって形成されている。本例では、底面S12は、上下方向に延びる平坦面として形成されている。但し、本発明はこれに限定されず、底面S12は、曲面であってもよい。ここで、一対のレール部11U,11Lにおいて互いに対向する面を、一対の溝壁面S13U,S13Lとする。一対の溝壁面S13U,S13Lのうち、上側溝壁面S13Uは、上側ランド部3U(上側レール部11U)の外周側に位置し、ウェブ部4の外周面である底面S12と上側レール部11Uの外周端面S11Uとを繋げる面である。また、一対の溝壁面S13U,S13Lのうち、下側溝壁面S13Lは、下側ランド部3L(下側レール部11L)の外周側に位置し、底面S12と下側レール部11Lの外周端面S11Lとを繋げる面である。これら一対の溝壁面S13U,S13Lは、ランド空間12の側面を構成する。ランド空間12は、一対の溝壁面S13U,S13Lと底面S12とによって画定されている。
【0025】
図1に示すように、本体リング1には、外周面S1から内周面S2へ径方向に貫通する
窓孔V1が形成されている。より詳細には、窓孔V1は、ウェブ部4の上下中央位置を径方向に貫通しており、ランド空間12の底面S12に形成されている。ここで、図3は、本体リング1の上面図である。図3に示すように、本体リング1は、合口G1を有する。また、図4は、本体リング1の一部を示す斜視図である。図4の符号S5は、合口G1の端面を示す。図4に示すように、本体リング1には、複数の窓孔V1が周長方向に等間隔に並んで形成されている。図2に示すように、窓孔V1は、略矩形状の貫通孔として形成されている。窓孔V1を形成する内壁面は、軸方向に直交すると共に互いに対向する上壁W1及び下壁W2を含む。本例では、上壁W1と下壁W2は互いに平行であり、上壁W1が下壁W2よりも上側に設けられている。なお、上壁W1と下壁W2は必ずしも平行でなくともよい。図1に示すように、窓孔V1の外周面S1側の開口を外周開口V11とし、内周面S2側の開口を内周開口V12とする。図1に示すように、外周開口V11は、底面S12に形成されている。これにより、窓孔V1は、一対のレール部11,11の間に形成された空間であるランド空間12に繋がっている。
【0026】
図1に示すように、本体リング1の内周面S2の一部は、径方向外側に凸となる円弧状に湾曲することで、コイルエキスパンダ2を保持する保持部H1を形成している。保持部H1によって径方向外側に凹んだ溝が形成され、当該溝にコイルエキスパンダ2が収容されている。
【0027】
コイルエキスパンダ2は、螺旋状に巻回された鋼製等の線材からなるコイルスプリングを更に環状に形成したものである。コイルエキスパンダ2を形成する線材には、円形や矩形の断面形状を有するものが使用されるが、特に限定はない。コイルエキスパンダ2は、使用状態において、その径方向外側への拡張力を生じるようにリング溝30に装着される。コイルエキスパンダ2の拡張力によって、本体リング1が径方向外側へ付勢(押圧)される。これにより、本体リング1の一対のレール部11U,11Lの外周端面S11U,S11Lがシリンダ10の内壁面10aに押接され、オイル掻き機能が発揮される。
【0028】
図5は、図2のA-A断面図である。図5では、本体リング1の周長方向に直交し窓孔V1を含む断面が示されている。より詳しくは、図5は、上下方向(軸方向)において窓孔V1の開口幅が最大となる部分(以下、最大開口部ともいう)で切断した、図2のA-A断面である。本例では、窓孔V1の周方向の中央部分が、窓孔V1の最大開口部となっている。ここで、周長方向に直交する断面における本体リング1の上下幅の中央線を本体中央線CL1とする。図5に示すように、本体リング1は、上下対称の形状を有しており、一対のレール部11,11の夫々は、本体リング1の軸方向において、本体中央線CL1を挟んで互いに反対側に位置するように設けられている。なお、本例では、一対の溝壁面S13U,S13Lが互いに上下対称の形状となっているが、本発明は、これに限定されない。一対の溝壁面S13U,S13Lの形状は、互いに上下非対称であってもよい。また、本例では、窓孔V1がウェブ部4の上下中央位置に設けられているが、本発明はこれに限定されず、窓孔V1は、上下中央よりも上側又は下側に設けられてもよい。
【0029】
図5に示すように、本体リング1の外周面S1は、一対の溝壁面S13U,S13Lの一部として、一対の第1溝壁面S14U,S14Lと、一対の第2溝壁面S15U,S15Lと、を含んで構成されている。詳細には、上側第1溝壁面S14Uと上側第2溝壁面S15Uとが上側溝壁面S13Uに含まれており、下側第1溝壁面S14Lと下側第2溝壁面S15Lとが下側溝壁面S13Lに含まれている。
【0030】
一対の第1溝壁面S14U,S14Lは、上下方向においてランド空間12の底面S12の両側に設けられている。より詳細には、上側第1溝壁面S14Uは、底面S12の上側に設けられており、底面S12の上端部に接続されている。一方、下側第1溝壁面S14Lは、底面S12の下側に設けられており、底面S12の下端部に接続されている。こ
れら一対の第1溝壁面S14U,S14Lは、上下方向において底面S12から離れるに従って拡径するように傾斜して形成されている。即ち、上側第1溝壁面S14Uは、上側に向かうに従って拡径し(径方向の外側へ変位し)、下側第1溝壁面S14Lは、下側に向かうに従って拡径している。つまり、一対の第1溝壁面S14U,S14Lは、底面S12に対して傾斜している。本例では、一対の第1溝壁面S14U,S14Lは、直線状に傾斜している。
【0031】
上側第2溝壁面S15Uは、上側第1溝壁面S14Uよりも上側に設けられており、上側第1溝壁面S14Uの上端部に接続されている。この上側第2溝壁面S15Uは、上側に向かうに従って拡径するように傾斜して形成されている。上側第2溝壁面S15Uは、上側第1溝壁面S14Uの上端部と外周端面S11Uの下端部とを接続している。また、下側第2溝壁面S15Lは、下側第1溝壁面S14Lよりも下側に設けられており、下側第1溝壁面S14Lの下端部に接続されている。この下側第2溝壁面S15Lは、下側に向かうに従って拡径するように傾斜して形成されている。下側第2溝壁面S15Lは、下側第1溝壁面S14Lの下端部と外周端面S11Lの上端部とを接続している。上側第2溝壁面S15Uと下側第2溝壁面S15Lとによって、ランド空間12の開口部が形成されている。本例では、一対の第2溝壁面S15U,S15Lは、直線状に傾斜している。なお、上側第2溝壁面S15Uや下側第2溝壁面S15Lは、本発明において必須の構成ではない。例えば、上側第1溝壁面S14Uによって底面S12の上端部と外周端面S11Uの下端部とが接続されてもよいし、下側第1溝壁面S14Lによって底面S12の下端部と外周端面S11Lの上端部とが接続されてもよい。
【0032】
ここで、図5に示すように、窓孔V1を含み周長方向に直交する断面において、上側第1溝壁面S14Uが本体リング1の径方向に対してなす角度をθ1とする。θ1は、つまり、径方向に沿って延在する仮想直線に対する上側第1溝壁面S14Uの傾斜角度である。また、上記断面において、下側第1溝壁面S14Lが本体リング1の径方向に対してなす角度をθ2とする。θ2は、つまり、径方向に沿って延在する仮想直線に対する下側第1溝壁面S14Lの傾斜角度である。このとき、本実施形態に係るオイルリング40は、θ1≦60°であって、且つ、θ2≦60°となるように、一対の第1溝壁面S14U,S14Lが形成されている。これによると、後述するように、内燃機関100の停止状態におけるオイルの滞留を好適に抑制することができる。
【0033】
ここで、図5に示すように、窓孔V1を含み周長方向に直交する断面において、上側第2溝壁面S15Uが本体リング1の径方向に対してなす角度をθ3とする。θ3は、つまり、径方向に沿って延在する仮想直線に対する上側第2溝壁面S15Uの傾斜角度である。また、上記断面において、下側第2溝壁面S15Lが本体リング1の径方向に対してなす角度をθ4とする。θ4は、つまり、径方向に沿って延在する仮想直線に対する下側第2溝壁面S15Lの傾斜角度である。このとき、本実施形態に係るオイルリング40は、θ3<θ1であって、且つ、θ4<θ2となるように、一対の第2溝壁面S15U,S15Lが形成されている。これによると、後述するように、本体リング1の軸方向における長さ(軸方向幅)が過大となることを抑制できる。
【0034】
角度θ1,θ2,θ3,θ4の測定は、例えば、次のように行うことができる。本体リング1を呼称径に閉じ込んだ状態でオイルリング40の中心軸A1を通り径方向に延びる法線(例えば、図3の符号F1で示す線)を含む面が切断面となるように本体リングを切断する。これを樹脂埋めし、研磨後に光学顕微鏡にて切断面を観察することで、角度θ1,θ2,θ3,θ4を得ることができる。
【0035】
内燃機関100において、図1に示すようにオイルリング40がリング溝30に装着された状態で、ピストン20がシリンダ10内を往復運動する際には、一対のレール部11
U,11Lが外周端面S11U,S11Lにおいてシリンダ10の内壁面10aを摺動することで、内壁面10aに付着した余分なオイルがクランク室側のオイルパン(図示なし)に掻き落とされる。これにより、オイルの燃焼室側への流出(オイル上がり)が抑制され、潤滑油膜がシリンダ内壁面に適切に保持されるようにオイル量が調整され、内燃機関100の運転に伴うピストン20の焼き付きが防止される。このとき、上側レール部11Uや下側レール部11Lによって掻き落されたオイルは、ピストン隙間PC1を通ってオイルパンに落とされる。一方、上側レール部11Uや下側レール部11Lによって掻き落しきれなかったオイルは、ランド空間12に流入し、窓孔V1を通って本体リング1の内周側へ排出され、ドレーンホール304を通ってオイルパンに落とされる。
【0036】
ここで、エンジンオイルが長期にわたってランド空間に滞留すると、オイルが劣化し、カーボンスラッジ等の不溶解物質が、オイルリングのランド空間にデポジットとして堆積することがある。デポジットが多量に堆積すると、窓孔が閉塞されることでオイル排出が阻害され、オイルリングのオイル排出性能(窓孔によるレール部間の油圧の低減)が低下する要因となる。そのため、オイルリングの性能低下を抑制するためには、オイルが長期にわたってランド空間(外周溝)に滞留しないようにすることが必要である。そのためには、内燃機関の運転中におけるランド空間内のオイルの流動性を高めることも重要であるが、内燃機関の停止時におけるランド空間内のオイルの流動性も重要な要素となる。ランド空間の内壁にオイルが滞留し易い部分(滞留部)があると、内燃機関の停止時に滞留部に残ったエンジンオイルは、その粘性によって滞留部に付着することで、ランド空間に滞留し続ける傾向がある。このようにランド空間の内壁に付着したオイルは、内燃機関が再度運転を開始しても滞留部に付着し続けるため、ランド空間のオイルは入れ替わることなく、オイルの粘度は高まりデポジットとして堆積する。この堆積したデポジットは内燃機関の運転と停止の繰り返しで増大し、オイルリングのオイル排出性能を低下させる。そのため、内燃機関の停止状態におけるランド空間内のオイルの流動性を向上させ、オイルの滞留を抑制する必要がある。
【0037】
これに対して、本実施形態に係るオイルリング40は、ランド空間12の底面S12の両側に設けられた一対の第1溝壁面S14U,S14Lを径方向に対して傾斜させ、径方向内側に向かうに従って(つまり、窓孔V1に向かうに従って)狭まるように構成することで、内燃機関100の運転中には、窓孔V1へオイルを好適に導くことができ、更に、窓孔V1へ流れるオイルの流速を大きくすることができる。これにより、内燃機関100の運転中におけるランド空間12内のオイルの流動性が高められ、オイルの滞留が抑制され、オイル消費を低減することができる。更に、本実施形態に係るオイルリング40は、上側第1溝壁面S14Uの傾斜角度θ1がθ1≦60°となるように構成されている。これによると、θ1≦60°とすることでランド空間12に滞留部が生じることを抑制できる。θ1が60°よりも大きいと、内燃機関100の停止後に上側溝壁面S13Uにオイルがその粘性によって滞留し易くなり、そこが滞留部となる。本実施形態は、θ1≦60°とすることで、上側溝壁面S13Uにおけるオイルの流動性を高め、窓孔V1の上側に滞留部が形成されることを抑制し、内燃機関100の停止状態においても、粘性によるオイルの滞留を抑制することができる。これにより、内燃機関100の運転と停止とが繰り返されても、ランド空間12内におけるデポジットの堆積は抑制され、窓孔へのオイルの流れは阻害されない。そのため、本実施形態によると、オイルリング40のオイル排出性能の低下を抑制することができる。つまり、窓孔V1によるレール部間の油圧の低減効果を維持することができ、オイルリングのオイル掻き機能の耐久劣化を抑制できる。その結果、オイル消費の増加を抑制できる。更に、本実施形態に係るオイルリング40は、上側第1溝壁面S14Uの傾斜角度θ1がθ1≦60°、且つ、下側第1溝壁面S14Lの傾斜角度θ2がθ2≦60°となるように、構成されている。これにより、一対の溝壁面S13U,S13Lにおけるオイルの流動性を高め、窓孔V1の上下両側に滞留部が形成されることを抑制できる。その結果、内燃機関100の停止状態におけるオイルの滞留をよ
り好適に抑制することができる。なお、本例ではθ1=θ2となっているが、本発明は、これに限定されず、θ1とθ2とが異なっていてもよい。また、θ2≦60°であることは本発明において必須ではない。なお、θ1とθ2とを同等とする場合、使用状態におけるオイルリング40の上下方向を識別可能とするために、例えば刻印やペイントマーク等の識別マークを本体リング1に付してもよい。
【0038】
更に、一対の第1溝壁面S14U,S14Lを円弧状ではなく直線状に傾斜した形状とすることで、一対の第1溝壁面S14U,S14L付近においてオイルが回流することを抑制し、オイルを好適に窓孔V1から排出することができる。
【0039】
また、θ1とθ2は、40°≦θ1≦60°であって、且つ、40°≦θ2≦60°を満たすことが好ましい。θ1やθ2が40°未満であると、一対の第1溝壁面S14U,S14L間の距離が狭まり、ランド空間12の容積が比較的小さくなることから、ランド空間12に流入するオイル量が多い場合には、油圧が上昇することでオイルリング40のシリンダ10の内壁面10aへの追従性に影響を及ぼす可能性がある。θ1及びθ2を40°以上とすることで、ランド空間12の容積を確保し、オイルリング40のシリンダ内壁面10aへの追従性の低下を抑制できる。このことは、軸方向幅が大きいオイルリングにおいて特に好適である。例えば、軸方向幅h1が3mm以上となり幅広となるオイルリングを使用するディーゼルエンジンにおいては、そのオイルリングのランド空間12の容積を大きく確保する必要があるため、θ1及びθ2を40°以上とすることが好適である。
【0040】
更に、本実施形態に係るオイルリング40は、一対の第1溝壁面S14U,S14Lの上下両側に一対の第2溝壁面S15U,S15Lを設け、上側第2溝壁面S15Uの傾斜角度θ3がθ3<θ1、且つ、下側第2溝壁面S15Lの傾斜角度θ4がθ4<θ2となるように、構成されている。一対の第2溝壁面S15U,S15Lの径方向に対する傾斜角度θ2,θ4を一対の第1溝壁面S14U,S14Lの径方向に対する傾斜角度θ1,θ2よりも小さくすることで、ランド空間12の開口部における一対のランド部3U,3L間の距離(つまり、上下のレール部11U,11L間の距離)が大きくなることを抑制できる。その結果、本体リング1の軸方向幅が過大となることを抑制できる。なお、本例ではθ3=θ4となっているが、本発明は、これに限定されず、θ3とθ4とが異なっていてもよい。また、θ3とθ4とを同等とする場合、使用状態におけるオイルリング40の上下方向を識別可能とするために、本体リング1に上述の識別マークを付してもよい。
【0041】
ここで、図5のh1は本体リング1の軸方向幅を示し、h2はランド空間12の開口幅を示し、h3は窓孔V1の軸方向幅を示し、a4はランド空間12の深さを示す。このとき、例えば、2.5mm≦h1≦6.0mmの場合における、θ1,θ2,θ3,θ4,
h3の好ましい範囲は、以下の通りである。θ1が70°以上となると、ランド空間12に残留するオイルが増加するため、θ1≦60°とすることが好ましく、θ1及びθ2が20°より小さいと、ウェブ面長さ(底面S12の軸方向長さ)が同じ場合はランド空間12の容積が小さくなりオイルの流れが悪化し、h2が同じ場合はオイル滞留量が増加するため、20°<θ1,θ2とすることが好ましく、θ3が20°を超えると、オイルリン
グ40のオイル掻き落とし性能が低下するため、θ3≦20°とすることが好ましく、θ3及びθ4が10°未満となると、レール部11の外周面の陵部の表面処理部分が欠損する虞があるため10°≦θ3,θ4とすることが好ましく、h3が0.3mm以下となると、劣化したオイルにより窓孔V1が閉塞されるまでの時間が短くなり耐久性が悪化し、h3が2.0mm以上となると、本体リング1の側面剛性(軸方向における剛性)が低下し側面(上下面)のシール性能が低下するため、0.3mm<h3<2.0mmとすることが好ましい。また、2.5mm≦h1≦6.0mmの場合、ランド空間12の容積を確
保する観点から、例えば、0.8mm≦h2≦5.0mm、0.5mm≦a4≦1.6m
mとすることが好ましい。
【0042】
図6は、外周面S1の変形例を示す部分拡大図である。図6では、窓孔V1を含み周長方向に直交する断面における外周面S1の一部が図示されている。図6に示すように、変形例では、底面S12と上側第1溝壁面S14Uとが接続面S16を介して接続されており、上側第1溝壁面S14Uと上側第2溝壁面S15Uとが接続面S17を介して接続されている。接続面S16,S17は、湾曲面として形成されている。本発明は、変形例のように、周長方向に直交する断面において、底面と一対の第1溝壁面のそれぞれが、曲線を介して接続されてもよい。底面と一対の第1溝壁面との接続は、1以上の曲線、複数の連続する直線、又は1以上の曲線と1以上の直線との組合せによってなされてもよい。これにより、底面と一対の第1溝壁面との間におけるオイルの流動性が向上し、オイルの滞留が抑制される。
【0043】
<オイル排出性能評価>
解析ソフトを用いた解析により、内燃機関の停止状態におけるオイルリングのオイル排出性能の評価を行った。排出性能の評価では、内燃機関においてピストンが下降行程を経てピストンストロークの下死点で停止した場合を想定した。より具体的には、オイルの存在下でピストンストロークの上死点であるクランク角度0°から下死点であるクランク角度180°までピストンを下降させ、クランク角度180°の時点におけるランド空間の流動分布に基づいてランド空間に残存するオイルの体積(残留オイル量)を算出し、ランド空間の容積(ランド空間容積)に対する残留オイル量の比率(残留オイル量比率)を算出した。残留オイル量は、ランド空間においてオイルの体積分率が50%以上を示す領域の体積から求めた。残留オイル量をX1とし、ランド空間容積をX2とし、残留オイル量比率をX3とすると、残留オイル量比率X3は、X1/X2で求められる。
【0044】
[比較評価]
以下の実施例1~4、従来例及び比較例1,2を比較した。ただし、本発明は以下の実施例の態様に制限されない。
【0045】
実施例1~4として、図1で示した実施形態に係るオイルリング40の残留オイル量を算出した。実施例1は、θ1=θ2=55°とし、実施例2は、θ1=θ2=55°とし、実施例3は、θ1=θ2=60°とし、実施例4は、θ1=θ2=40°とした。従来例及び比較例1,2は、θ1及びθ2が60°よりも大きい点で、実施例1~4と相違する。従来例は、θ1=θ2=90°とし、比較例1は、θ1=θ2=70°とし、比較例2は、θ1=θ2=80°とした。また、実施例1~4、従来例及び比較例1,2において、θ3=θ4=15°とした。
【0046】
比較評価では、従来水準を示す従来例に対する残留オイル量比率の減少率を比較することで、実施例1~4、比較例1,2を評価した。実施例1~4、比較例1,2について、従来例に対する残留オイル量比率の減少率を算出した。従来例の残留オイル量比率をpとし、実施例1~4、比較例1,2の残留オイル量比率をqとし、減少率をrとすると、減少率rは、(p-q)/p×100[%]で求められる。
【0047】
従来例に対する減少率が15%以上の場合に「A」判定とし、従来例に対する減少率が10%以上15%未満の場合に「B」判定とし、従来例に対する減少率が5%以上10%未満の場合に「C」判定とし、従来例に対する減少率が5%未満の場合に「D」判定とした。判定結果を表1に示す。
【表1】
【0048】
表1に示されるように、θ1及びθ2が60°以下の実施例1~4においては、判定が「A」または「B」となり、残留オイル量比率の減少率が10%以上となった。一方、θ1及びθ2が60°よりも大きい比較例1,2においては、判定が「C」となり、残留オイル量比率の減少率が10%未満となった。表1の判定結果より、実施例1~4の方が比較例1,2よりも内燃機関の停止状態におけるランド空間のオイル排出性能が高いことが分った。
【0049】
<オイル分布>
上述のオイル排出性能評価に用いたランド空間の流動分布解析の一例を図7に示す。図7は、ピストン下死点で内燃機関が停止した状態におけるランド空間のオイルの流動分布の解析結果を示す図である。図7(A)は、実施例1(θ1=θ2=55°)を示し、図7(B)は、従来例(θ1=θ2=90°)を示す。図7において、「Volume Fraction of Oil」のグラデーションスケールは、オイルの体積分率を表している。図7(A)及び図7(B)に示されるように、オイルはランド空間の内壁面付近に滞留しており、実施例1の方が従来例よりも滞留するオイルが少ないことが分る。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した種々の形態は、可能な限り組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 :本体リング
2 :コイルエキスパンダ
3 :ランド部
4 :ウェブ部
10 :シリンダ
20 :ピストン
30 :リング溝
40 :組合せオイルリング
100 :内燃機関
V1 :窓孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7