(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141163
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】自動溶接システムおよび溶接制御方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20241003BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20241003BHJP
B23K 9/127 20060101ALI20241003BHJP
B23K 37/02 20060101ALI20241003BHJP
B23K 37/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K9/095 510D
B23K9/095 515A
B23K31/00 Z
B23K9/127 505C
B23K37/02 301A
B23K37/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052654
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】矢野 良明
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 俊之
(72)【発明者】
【氏名】島田 優也
(57)【要約】
【課題】溶接装置においてオペレータによる調整作業を要することなく溶接における適応制御を実行可能な自動溶接システムおよび溶接制御方法を提供すること。
【解決手段】2つの固定管の互いの端部を所定の間隔を隔てて突き合わせ、内周側から裏当て材が突き当てられた状態で開先を複数層に亘って溶接する溶接電極を搭載した自動溶接機に対して、所定の溶接条件に基づいて適応制御する制御部と、溶接領域を撮像する撮像部と、溶接領域における撮像データと、撮像データを入力パラメータとして溶接領域の特徴点を出力パラメータとする特徴点検出モデルを記憶する記憶部と、を備え、特徴点検出モデルは、初層溶接において特徴点を検出する初層特徴点検出モデルと、積層溶接において特徴点を検出する積層特徴点検出モデルと、を含み、制御部は、初層溶接時には初層特徴点検出モデルを用い、積層溶接時には積層特徴点検出モデルを用いて、適応制御を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの固定管の互いの端部を所定の間隔を隔てて突き合わせ、かつ前記2つの固定管の互いの端部の内周側から裏当て材が突き当てられた状態で、前記端部の外周面に沿って複数周周回可能に構成され、前記2つの固定管の突き合わせた端部同士によって形成される開先を複数の層に亘って溶接可能に構成された溶接電極を搭載した自動溶接機に対して、所定の溶接条件に基づいて適応制御する制御部と、
前記溶接電極によって溶接が行われている溶接領域を撮像可能な撮像部と、
前記撮像部によって撮像された前記溶接領域における撮像データ、および前記撮像データを入力パラメータとし前記溶接領域における特徴点の位置を出力パラメータとする特徴点検出モデルを記憶する記憶部と、を備え、
前記特徴点検出モデルは、
前記複数の層のうちの最下層の溶接における初層溶接の溶接条件に対応する特徴点を検出する初層特徴点検出モデルと、
前記複数の層のうちの最下層より上層の溶接における積層溶接の溶接条件に対応する特徴点を検出する積層特徴点検出モデルと、を含み、
前記制御部は、
前記自動溶接機による溶接が前記初層溶接である場合に、前記初層溶接における撮像データを前記初層特徴点検出モデルに入力して、前記初層溶接における溶接条件に対応する特徴点を検出して、前記初層溶接における適応制御を実行し、
前記自動溶接機による溶接が前記積層溶接である場合に、前記積層溶接における撮像データを前記積層特徴点検出モデルに入力して、前記積層溶接における溶接条件に対応する特徴点を検出して、前記積層溶接における適応制御を実行する
自動溶接システム。
【請求項2】
前記初層溶接における撮像データは、前記溶接領域における前記溶接電極と溶融池と前記溶接電極の先端におけるアークと前記開先と前記裏当て材との画像データを含み、
前記積層溶接における撮像データは、前記溶接領域における前記溶接電極と前記溶融池と前記溶接電極の先端におけるアークと前記開先と前層ビードとを含む
請求項1に記載の自動溶接システム。
【請求項3】
前記初層溶接における前記特徴点は、前記溶接電極の先端と、前記溶融池における前記開先との界面の上端部と、前記溶融池の流出側の先端を含む
請求項2に記載の自動溶接システム。
【請求項4】
前記初層溶接における前記特徴点は、前記溶融池の先端側における前記溶融池と前記開先との界面の下端部を含む
請求項3に記載の自動溶接システム。
【請求項5】
前記積層溶接における前記特徴点は、前記溶接電極の先端と、前記アークと前記開先との境界面における上端部と、を含む
請求項2に記載の自動溶接システム。
【請求項6】
前記積層溶接における前記特徴点は、前記溶接電極の先端と、前記アークと1つ下層の溶接ビードとの境界部分の左右端と、を含む
請求項2に記載の自動溶接システム。
【請求項7】
前記溶接条件は、前記溶接電極の先端の揺動における揺動中心および揺動幅を含む
請求項1に記載の自動溶接システム。
【請求項8】
前記初層溶接における前記溶接条件は、前記溶接電極の先端の揺動における揺動中心および揺動幅を含む
請求項1に記載の自動溶接システム。
【請求項9】
前記制御部は、前記初層特徴点検出モデルと前記積層特徴点検出モデルとを、前記自動溶接機を停止させることなく切り替える
請求項1に記載の自動溶接システム。
【請求項10】
前記自動溶接機は前記固定管の周回に伴って複数の溶接姿勢に変化し、
前記特徴点検出モデルは、前記自動溶接機における複数の溶接姿勢のそれぞれに対応して生成された複数の学習モデルを含む
請求項1に記載の自動溶接システム。
【請求項11】
前記複数の溶接姿勢は、前記溶接電極の向きと、前記自動溶接機の移動方向とに基づいて複数通りに分類される
請求項10に記載の自動溶接システム。
【請求項12】
前記自動溶接機の溶接姿勢の変化時において、前記溶接姿勢に対応する学習モデルを、前記自動溶接機を停止させることなく切り替える
請求項10に記載の自動溶接システム。
【請求項13】
前記初層特徴点検出モデルは、複数の前記裏当て材における裏当て材同士の隙間、および前記裏当て材と前記固定管の内周面との隙間を検出する裏当材隙間検出モデルを含む
請求項1に記載の自動溶接システム。
【請求項14】
複数の前記裏当て材における裏当て材同士の隙間を検出可能なセンサ部をさらに有する
請求項1に記載の自動溶接システム。
【請求項15】
前記撮像データは、前記溶接電極の先端が揺動する際の揺動端部に位置した状態での画像データを含み、
前記画像データを入力パラメータとして前記特徴点検出モデルに入力する
請求項1に記載の自動溶接システム。
【請求項16】
2つの固定管の互いの端部を所定の間隔を隔てて突き合わせ、かつ前記2つの固定管の互いの端部の内周側から裏当て材が突き当てられた状態で、前記端部の外周面に沿って複数周周回可能に構成され、前記2つの固定管の突き合わせた端部同士によって形成される開先を複数の層に亘って溶接可能に構成された溶接電極を搭載した自動溶接機に対して、所定の溶接条件に基づいて適応制御を行う制御部が実行する制御ステップと、
前記溶接電極によって溶接が行われている溶接領域を撮像部によって撮像する撮像ステップと、を含み、
前記撮像データを入力パラメータとし前記溶接領域における特徴点の位置を出力パラメータとする特徴点検出モデルを記憶する記憶部に、前記撮像部によって撮像された前記溶接領域における撮像データを記憶させ、
前記特徴点検出モデルは、
前記複数の層のうちの最下層の溶接における初層溶接の溶接条件に対応する特徴点を検出する初層特徴点検出モデルと、
前記複数の層のうちの最下層より上層の溶接における積層溶接の溶接条件に対応する特徴点を検出する積層特徴点検出モデルと、を含み、
前記制御ステップにおいて前記制御部は、
前記自動溶接機による溶接が前記初層溶接である場合に、前記初層溶接における撮像データを前記初層特徴点検出モデルに入力して、前記初層溶接における溶接条件に対応する特徴点を検出して、前記初層溶接における適応制御を実行し、
前記自動溶接機による溶接が前記積層溶接である場合に、前記積層溶接における撮像データを前記積層特徴点検出モデルに入力して、前記積層溶接における溶接条件に対応する特徴点を検出して、前記積層溶接における適応制御を実行する
溶接制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動溶接システムおよび溶接制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガスパイプラインなどの固定管を現地で溶接する場合、溶接前に固定管内に設置されたインナークランプによって、管の内面に裏当て銅板を張り出させて押し当てることによって管同士を固定している。この構造において裏当て銅板は複数に分割されているため、裏当て銅板のつなぎの部分に隙間が生じる。また、固定管は真円ではないことから、固定管と裏当て銅板との間に隙間が生じる上に、多くの場合、固定管の周の全長に亘って隙間が均一にならない。
【0003】
2つの固定管を溶接する場合、一定の板厚を超えると固定管の外周に亘る一度の溶接では接合が完了しないため、固定管の外周を複数回周回することによって溶接が実行される。ここで、最初の周回での溶接(以下、初層溶接)を実行する際に、裏当て銅板のつなぎ部分に生じた隙間に溶融池が流れ込み、裏当て銅板上の溶融池が不足する場合がある。また、固定管と裏当て銅板との間に生じる隙間によって、溶け落ちが生じたり固定管の内周側に凹みが生じたりする。また、初層溶接におけるルートギャップと2回目以降の周回での溶接(以下、積層溶接)における開先底部幅とが異なるため、溶接トーチを揺動させる際の適切な揺動幅が変化する。
【0004】
そこで、固定管の現地配管工事において行われる溶接、すなわち固定管を周回する全ての姿勢における連続周溶接においては、溶接欠陥が生じないようにするために、自動溶接機のオペレータによる手動調整が行われる。具体的には、自動溶接機にプリセットされた溶接条件を基準として、上述した隙間や周回ごとの開先底部幅(前層ビードの幅)の変化に対応するために、溶接速度、揺動幅、および溶接線の中心を倣うための揺動倣い中心をはじめとするパラメータをオペレータが手動で調整している。このような自動溶接機におけるオペレータによる調整作業は、オペレータごとの技量に依存することから自動化が求められている。
【0005】
そこで、例えば特許文献1においては、カメラで撮影した溶接部画像を入力パラメータとして機械学習モデルに入力して、出力パラメータとして溶接条件の調整量を出力させて、調整量を自動溶接装置にフィードバックするように構成された自動溶接システムが提案されている。また、特許文献2,3においては、画像処理機能を有する揺動倣い制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-192524号公報
【特許文献2】特開2000-210771号公報
【特許文献3】特開2016-55344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1に記載された従来技術においては、初層溶接と積層溶接との区別がされていないため、裏当て銅板の設置状態に対応した適応制御が困難であるという問題がある。また、特許文献2,3に記載された従来技術における揺動倣い制御においては、初層溶接のみならず積層溶接においても溶接欠陥が生じる可能性が増加するという問題がある。そのため、上述した従来技術においては、経験を積んだオペレータの手動による調整作業は未だ必要であった。そのため、管の先端同士を突き合わせた状態で外周に沿った溶接を行う場合などに、オペレータによる調整を要することなく溶接における適応制御を実行可能な技術が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、溶接装置においてオペレータによる調整作業を要することなく溶接における適応制御を実行可能な自動溶接システムおよび溶接制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る自動溶接システムは、2つの固定管の互いの端部を所定の間隔を隔てて突き合わせ、かつ前記2つの固定管の互いの端部の内周側から裏当て材が突き当てられた状態で、前記端部の外周面に沿って複数周周回可能に構成され、前記2つの固定管の突き合わせた端部同士によって形成される開先を複数の層に亘って溶接可能に構成された溶接電極を搭載した自動溶接機に対して、所定の溶接条件に基づいて適応制御する制御部と、前記溶接電極によって溶接が行われている溶接領域を撮像可能な撮像部と、前記撮像部によって撮像された前記溶接領域における撮像データ、および前記撮像データを入力パラメータとし前記溶接領域における特徴点の位置を出力パラメータとする特徴点検出モデルを記憶する記憶部と、を備え、前記特徴点検出モデルは、前記複数の層のうちの最下層の溶接における初層溶接の溶接条件に対応する特徴点を検出する初層特徴点検出モデルと、前記複数の層のうちの最下層より上層の溶接における積層溶接の溶接条件に対応する特徴点を検出する積層特徴点検出モデルと、を含み、前記制御部は、前記自動溶接機による溶接が前記初層溶接である場合に、前記初層溶接における撮像データを前記初層特徴点検出モデルに入力して、前記初層溶接における溶接条件に対応する特徴点を検出して、前記初層溶接における適応制御を実行し、前記自動溶接機による溶接が前記積層溶接である場合に、前記積層溶接における撮像データを前記積層特徴点検出モデルに入力して、前記積層溶接における溶接条件に対応する特徴点を検出して、前記積層溶接における適応制御を実行する。
【0010】
(2)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(1)の発明において、前記初層溶接における撮像データは、前記溶接領域における前記溶接電極と溶融池と前記溶接電極の先端におけるアークと前記開先と前記裏当て材との画像データを含み、前記積層溶接における撮像データは、前記溶接領域における前記溶接電極と前記溶融池と前記溶接電極の先端におけるアークと前記開先と前層ビートとを含む。
【0011】
(3)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(2)の発明において、前記初層溶接における前記特徴点は、前記溶接電極の先端と、前記溶融池における前記開先との界面の上端部と、前記溶融池の流出側の先端を含む。
【0012】
(4)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(3)の発明において、前記初層溶接における前記特徴点は、前記溶融池の先端側における前記溶融池と左右の前記開先との界面の下端部を含む。
【0013】
(5)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(2)~(4)のいずれか1つの発明において、前記積層溶接における前記特徴点は、前記溶接電極の先端と、前記アークと前記開先との境界面における上端部と、を含む。
【0014】
(6)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(2)~(5)のいずれか1つの発明において、前記積層溶接における前記特徴点は、前記溶接電極の先端と、前記アークと1つ下層の溶接ビードとの境界部分の左右端と、を含む。
【0015】
(7)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(1)~(6)のいずれか1つの発明において、前記溶接条件は、前記溶接電極の先端の揺動における揺動中心および揺動幅を含む。
【0016】
(8)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(1)~(7)のいずれか1つの発明において、前記初層溶接における前記溶接条件は、前記溶接電極の先端の揺動における揺動中心および揺動幅を含む。
【0017】
(9)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(1)~(8)のいずれか1つの発明において、前記制御部は、前記初層特徴点検出モデルと前記積層特徴点検出モデルとを、前記自動溶接機を停止させることなく切り替える。
【0018】
(10)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(1)~(9)のいずれか1つの発明において、前記自動溶接機は前記固定管の周回に伴って複数の溶接姿勢に変化し、前記特徴点検出モデルは、前記自動溶接機における複数の溶接姿勢のそれぞれに対応して生成された複数の学習モデルを含む。
【0019】
(11)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(10)の発明において、前記複数の溶接姿勢は、前記溶接電極の向きと、前記自動溶接機の移動方向とに基づいて複数通りに分類される。
【0020】
(12)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(10)または(11)の発明において、前記自動溶接機の溶接姿勢の変化時において、前記溶接姿勢に対応する学習モデルを、前記自動溶接機を停止させることなく切り替える。
【0021】
(13)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(1)~(12)のいずれか1つの発明において、前記初層特徴点検出モデルは、複数の前記裏当て材における裏当て材同士の隙間、および前記裏当て材と前記固定管の内周面との隙間を検出する裏当材隙間検出モデルを含む。
【0022】
(14)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(1)~(13)のいずれか1つの発明において、複数の前記裏当て材における裏当て材同士の隙間を検出可能なセンサ部をさらに有する。
【0023】
(15)本発明の一態様に係る自動溶接システムは、(1)~(14)のいずれか1つの発明において、前記撮像データは、前記溶接電極の先端が揺動する際の揺動端部に位置した状態での画像データを含み、前記画像データを入力パラメータとして前記特徴点検出モデルに入力する。
【0024】
(16)本発明の一態様に係る自動溶接方法は、2つの固定管の互いの端部を所定の間隔を隔てて突き合わせ、かつ前記2つの固定管の互いの端部の内周側から裏当て材が突き当てられた状態で、前記端部の外周面に沿って複数周周回可能に構成され、前記2つの固定管の突き合わせた端部同士によって形成される開先を複数の層に亘って溶接可能に構成された溶接電極を搭載した自動溶接機に対して、所定の溶接条件に基づいて適応制御を行う制御部が実行する制御ステップと、前記溶接電極によって溶接が行われている溶接領域を撮像部によって撮像する撮像ステップと、を含み、前記撮像データを入力パラメータとし前記溶接領域における特徴点の位置を出力パラメータとする特徴点検出モデルを記憶する記憶部に、前記撮像部によって撮像された前記溶接領域における撮像データを記憶させ、前記特徴点検出モデルは、前記複数の層のうちの最下層の溶接における初層溶接の溶接条件に対応する特徴点を検出する初層特徴点検出モデルと、前記複数の層のうちの最下層より上層の溶接における積層溶接の溶接条件に対応する特徴点を検出する積層特徴点検出モデルと、を含み、前記制御ステップにおいて前記制御部は、前記自動溶接機による溶接が前記初層溶接である場合に、前記初層溶接における撮像データを前記初層特徴点検出モデルに入力して、前記初層溶接における溶接条件に対応する特徴点を検出して、前記初層溶接における適応制御を実行し、前記自動溶接機による溶接が前記積層溶接である場合に、前記積層溶接における撮像データを前記積層特徴点検出モデルに入力して、前記積層溶接における溶接条件に対応する特徴点を検出して、前記積層溶接における適応制御を実行する。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る自動溶接システムおよび溶接制御方法によれば、溶接装置においてオペレータによる調整を要することなく溶接の適応制御を実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による情報処理装置を適用した自動溶接システムを模式的に示す全体構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による自動溶接システムにおける溶接制御装置および駆動部の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による自動溶接システムによる2つの管の溶接方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態による自動溶接システムによる2つの管の溶接方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態による自動溶接システムによる2つの管の溶接方法を説明するための図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態による自動溶接システムによる2つの管の溶接方法における溶接トーチの移動を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態による自動溶接システムによる2つの管の溶接方法における初層および積層を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態による自動溶接システムによる2つの管の溶接方法における初層溶接を説明するための図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態による自動溶接システムにおける溶接画像を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態による自動溶接システムにおける2つの管の溶接方法における積層溶接を説明するための図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施形態による自動溶接システムにおける自動溶接機の4通りの姿勢状態を説明するための図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施形態による自動溶接システムによる溶接方法における初層溶接の上向き下進における問題点を説明するための図である。
【
図13A】
図13Aは、本発明の一実施形態による自動溶接システムにおける初層溶接における溶接画像を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施形態による自動溶接システムによる初層溶接時における裏当て材の隙間の検知方法を説明するための図である。
【
図15A】
図15Aは、本発明の一実施形態による自動溶接システムにおける積層溶接における溶接画像を示す図である。
【
図16】
図16は、本発明の一実施形態による自動溶接システムにおける情報処理装置の記憶部に格納される特徴点検出モデルの他の例を示すブロック図である。
【
図17A】
図17Aは、本発明の一実施形態の第1変形例による振分け溶接において撮像部を2つ備えた例を示す図である。
【
図17B】
図17Bは、本発明の一実施形態の第2変形例による振分け溶接において撮像部を切り替える例を示す図である。
【
図18】
図18は、従来技術による裏当て材の設置方法を説明するための図である。
【
図19】
図19は、従来技術による溶接の問題点を説明するための図である。
【
図20】
図20は、従来技術による溶接の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の一実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する一実施形態によって限定されるものではない。
【0028】
本発明の実施形態について説明するにあたり、本発明者が行った鋭意検討について説明する。まず、本発明者は、従来技術に関する問題点について検討を行った。
図18は、従来技術による裏当て材の設置方法を説明するための図である。
図19および
図20は、従来技術による初層溶接の問題点を説明するための図である。
【0029】
ガスパイプラインなどの鋼管などからなる固定管の現地溶接において、2つの固定管100を突き合わせて円周溶接を行う場合、
図18に示すように、溶接前に固定管100内に設置されたインナークランプ200によって固定管100の内面に裏当て材110A,110Bを張り出し、押し当てることによって固定管100同士を固定する。その構造上、裏当て材110は複数に分割されており、ここでは、裏当て材110として、3枚の弧状の裏当て材110Aと接続部分の3枚の裏当て材110Bとの6枚の裏当て材110を用いる。その後、自動溶接機3によって、裏当て材110A,110Bによって裏当てされた部分の溶接を実行する。なお、自動溶接機3は、溶接部分を撮像する撮像部40および駆動部26を備え、溶接電極を備えた溶接トーチ25を周回移動可能に構成される。すなわち、溶接トーチ25の溶接電極の先端部25aにおいて、アークが生じて溶接が実行される。
【0030】
ここで、本発明者の知見によれば、固定管100が真円ではないなどの原因によって、
図19に示すように、固定管100の内周面の部分において、密着不良E1やキズ部E2が生じる場合がある。ここで、密着不良E1は、固定管100の内周面と裏当て材110Bとの間に密着していない隙間部分である。キズ部E2は、裏当て材110Aのキズによる固定管100の内周面との隙間部分である。密着不良E1やキズ部E2による隙間は、固定管100の内周の全長に亘って一定になることはまれである。このような密着不良E1やキズ部E2などの隙間の存在によって、溶け落ちや裏側に凹みが生じるという問題が生じる。
【0031】
また、
図20に示すように、複数の裏当て材110A,110Bの接続部分に2mm以上の大きな間隙部E3が生じる場合がある。このような間隙部E3が生じると、初層溶接の際に隙間に溶融池28が流れ込み、裏当て材110上の溶融池28が不足してしまうという問題が生じる。
【0032】
また、固定管100の円周に沿って自動溶接機3を複数回周回させて、溶接を複数層に亘って行う場合、固定管100を固定させた状態であっても初層のルートギャップおよび積層の前層ビード幅である開先底部幅が周回ごとに変化して、適切な揺動幅が変化する。
【0033】
また、固定管100の外周を自動溶接機3が周回する場合、固定管100の溶接において、自動溶接機3の姿勢、
図18に示す例では上進および下進と上向きおよび下向きとで(2×2=)4通りの姿勢を連続して取ることになる。ここで、連続して円周溶接を行う場合には、溶接の欠陥が生じないようにするために、自動溶接機である自動溶接機3に対してあらかじめ設定された溶接条件を基準として、初層では密着不良E1、キズ部E2、および間隙部E3などの隙間の発生に対応するために溶接速度が制御される。また、自動溶接機3において、溶接の初層溶接における開先底部幅、および積層溶接における前層ビード幅の変化に対応するために、揺動幅が制御される。さらに、溶接線の中心を倣うために揺動倣い中心が制御される。これらの制御は、自動溶接機のオペレータが手動により調整している。自動溶接機の各種制御の、オペレータの手動による調整は、オペレータの技量や経験に依存するため、これらの調整作業の自動化が進められている。
【0034】
そこで、特許文献1などにおいては、カメラによって撮影した溶接部画像を機械学習モデルに入力して溶接条件の調整量を導出し、導出した調整量を溶接条件にフィードバックする技術が提案されている。しかしながら、本発明者の検討によれば、この技術においては、初層溶接と積層溶接とが区別されていないのみならず、初層溶接の溶接速度制御に必要な特徴点の検出が行われていない。そのため、特許文献1に記載の技術では、裏当て材の状態に応じた適応制御が困難である。すなわち、本発明者による詳細な検討によれば、特許文献1に記載の技術を円周溶接に適用しようとすると、固定管の内周側の裏当て材の設置状況が不良であると、溶融池の先端側の中央がワイヤ先端の方向にアーチを描くように近付くため、裏波が適切に形成されなくなるという問題が生じる。ところが、特許文献1に記載の技術では、溶融池28の先端側の中央の高さ方向の座標を左右端の高さの平均として取り扱っていることにより、円周溶接における適応制御が困難であった。
【0035】
また、特許文献2,3に記載の技術では、画像処理機能を有する揺動倣い制御装置が提案されているが、揺動倣いの制御だけでは、初層溶接のみならず積層溶接においても溶接欠陥が生じる可能性が高くなる。
【0036】
さらに、本発明者の知見によれば、溶接中の特徴点の検出を目的とした機械学習モデルの構築においては、撮像した動画または画像に対する教師あり学習が採用できる。ところが、溶接トーチが揺動しながら溶接を行う場合において、教師データとしての画像を収集する際に、揺動のタイミング、すなわち右から左および左から右のいずれか、ならびにその時のトーチ位置ごとに機械学習を実行する必要がある。ここで、揺動のタイミングを限定することなく機械学習を実行しようとすると、教師データである画像データの収集や画像データに対するアノテーション処理に時間を要するという問題が生じる。
【0037】
そこで、本発明者は種々鋭意検討を行い、機械学習モデルを初層溶接用の学習モデルと、積層溶接用の学習モデルとで区別する方法を想到した。これにより、初層溶接においては、学習モデルによって裏当て材110の設置状況を把握することにより初層裏波溶接を自動化することができ、完全溶込み継手の自動溶接が可能となることを想到した。さらに、発明者は、溶接電極部分の撮像画像データにおいて、揺動端部において特徴点の検出を行うことによって教師画像の収集および教師データの作成を効率良く行うことができることを想到した。なお、動画データは複数の画像データから構成されることから、以下の説明においては、画像データとは動画データの概念を含むものである。以下に説明する一実施形態は、以上の本発明者の鋭意検討に基づいて、案出されたものである。
【0038】
図1は、本実施形態による情報処理装置10を適用した自動溶接システム1を模式的に示す全体構成図である。
図1に示すように、自動溶接システム1は、ネットワーク2を介して相互に通信可能な、情報処理装置10および溶接制御装置20を備える。情報処理装置10は、ネットワーク2を通じて溶接制御装置20と通信可能な外部に設けられていても、溶接制御装置20と一体であっても、溶接制御装置20の内部に設けられていても良く、設置場所は限定されない。
【0039】
ネットワーク2は、有線通信や無線通信が適宜組み合わされて構成され、インターネット回線網や携帯電話回線網などの通信網から構成される。ネットワーク2は、例えば、専用線、インターネットなどの公衆通信網、例えばLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、携帯電話などの電話通信網や公衆回線、VPN(Virtual Private Network)などの一または複数の組み合わせからなる。情報処理装置10と溶接制御装置20とは、ネットワーク2を介して接続されている。
【0040】
(情報処理装置)
情報処理装置10は、制御部11、記憶部12、入出力部13、および通信部14を備える。制御部11は、具体的に、GPU(Graphics Processing Unit)を含み、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサ、およびRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの主記憶部(いずれも図示せず)を備える。
【0041】
記憶部12は、RAMなどの揮発性メモリ、ROMなどの不揮発性メモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)、およびリムーバブルメディアなどから選ばれた記憶媒体から構成される。なお、リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、または、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、もしくはBD(Blu-ray(登録商標) Disc)のようなディスク記録媒体である。また、外部から装着可能なメモリカードなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体を用いて記憶部12を構成しても良い。記憶部12には、情報処理装置10の動作を実行するための、オペレーティングシステム(Operating System :OS)、各種プログラム、各種テーブル、各種データベースなどが記憶可能である。ここで、各種プログラムには、本実施形態による学習モデルに基づいた処理を実現する自動溶接制御プログラムも含まれる。これらの各種プログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、フレキシブルディスクなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。
【0042】
制御部11は、記憶部12に格納されたプログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて、学習部111、撮像制御部112、および溶接制御部113の機能を実現できる。ここで、プログラムは、初層特徴点検出モデル121および積層特徴点検出モデル122などの、学習部111によって例えば畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)などの機械学習などによって生成された学習モデルを含む。なお、学習モデルは、学習済みモデルやモデルなどとも称される。学習モデルは、所定の入力パラメータと出力パラメータとの入出力データセットを教師データとして、例えばニューラルネットワークを用いた深層学習(ディープラーニング)などの機械学習により生成できる。
【0043】
入出力部13は、例えば、タッチパネルディスプレイ、スピーカマイクロホン、ボタン、スイッチ、ジョグダイヤルなどから構成しても良い。出力部としての入出力部13は、制御部11による制御に従って、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはプラズマディスプレイなどのディスプレイの画面上に、文字や図形などを表示したり、スピーカから音声を出力したりして、所定の情報を外部に通知するように構成される。入出力部13は、印刷用紙などに所定の情報を印刷することによって出力するプリンタを含む。記憶部12に格納された各種情報は、例えば所定の事務所などに設置された入出力部13のディスプレイなどで確認することができる。入力部としての入出力部13は、例えば、キーボードや入出力部13の内部に組み込まれて表示パネルのタッチ操作を検出するタッチパネル式キーボード、外部との間の通話を可能とする音声入力デバイス、スイッチ、またはジョグダイヤルなどから選択されて構成される。情報処理装置10の入出力部13から所定の情報を入力することにより、溶接制御装置20に対して遠隔による制御も可能であり、溶接制御装置20を介して自動溶接機3の駆動部26の移動を制御可能である。
【0044】
通信部14は、例えば、LAN(Local Area Network)インターフェースボード、無線通信のための無線通信回路、または専用線やケーブルなどによる通信が可能な有線通信回路である。LANインターフェースボードや無線通信回路は、公衆通信網であるインターネットなどのネットワーク2に接続される。通信部14は、ネットワーク2に接続して、溶接制御装置20との間で通信を行う。通信部14は、溶接制御装置20との間で、種々の制御信号などの信号や画像情報などの情報を送受信する。
【0045】
(溶接制御装置)
溶接制御装置20は、溶接制御部21、記憶部22、入出力部23、および通信部24を備える。溶接制御部21、記憶部22,入出力部23,および通信部24はそれぞれ、物理的には上述した制御部11、記憶部12、入出力部13、および通信部14と同様である。本実施形態による溶接制御装置20は、自動溶接機3を制御可能に構成される。溶接制御装置20の溶接制御部21は、記憶部22にあらかじめ格納された溶接条件を読み出し、この溶接条件に基づいて自動溶接機3を制御する。記憶部22には溶接条件の補正量などが格納される。この場合、記憶部12には、類似の補正量データをログデータとして保存するようにしても良い。なお、情報処理装置10と溶接制御装置20とを一体に構成することも可能である。この場合、溶接制御部21,113を一体の溶接制御部となり、溶接制御部21による処理は溶接制御部113によって実行することも可能である。また、記憶部12,22を一体の記憶部、入出力部13,23を一体の入出力部とすることも可能である。
【0046】
溶接制御部21に供給される溶接情報に含まれる溶接条件は例えば、自動溶接機3の溶接速度や、溶接線に倣った溶接中心の位置(揺動中心位置)や、溶接トーチ25の揺動幅などの溶接の制御に必要な種々の条件である。すなわち、溶接制御装置20は、自動溶接機3に対して、駆動部26の移動方向や移動速度、溶接トーチ25の揺動条件(ウィービング条件)や溶接用金属ワイヤの溶接トーチ25への送給速度などを制御する。自動溶接機3と溶接制御装置20とは通常、制御ケーブルを介して接続されている。また、溶接制御装置20および自動溶接機3においては、アーク放電を発生させるための電源ユニット30が電源ケーブルを介して接続されている。なお、図示省略したが、自動溶接機3には、ガスボンベが備えられ、ガスホースを介してシールドガスが自動溶接機3に供給される。
【0047】
自動溶接機としての自動溶接機3は、溶接トーチ25および溶接トーチ25を固定した台車などからなる駆動部26を備え、走行レール27を移動可能に構成される。自動溶接機3には、例えばCMOSカメラやCCDカメラなどからなる撮像部40が設けられる。撮像部40は、溶接トーチ25の先端部25aにおける固定管100の溶接箇所を撮像可能に構成される。撮像部40は溶接制御装置20と有線または無線で通信可能に構成される。自動溶接機3における撮像部40により撮像された撮像データは、情報処理装置10に送信されて記憶部12に格納される。なお、溶接制御装置20に送信されて溶接モニタリングデータとして記憶部22に格納するようにしても良い。なお、溶接モニタリングデータの取得においては、動画データおよび静止画像データを同時に取得可能である。また、撮像データは、溶接制御装置20の入出力部23に動画または静止画として表示可能に構成しても良い。この場合、オペレータが入出力部23に表示された溶接部分の撮像データを監視しつつ、入出力部23を用いて制御情報を入力することによって、自動溶接機3や溶接トーチ25を制御可能である。溶接制御装置20、および撮像部40に給電可能な自動溶接機3は、電源ユニット30に接続されて電力が供給される。
【0048】
図2、
図3はそれぞれ、本実施形態の自動溶接システム1による2つの管の溶接方法を説明するための図である。
図2および
図3に示すように、本実施形態による2つの固定管100A,100Bの円周溶接方法においては、まず、2本の固定管100A,100Bは、互いの端部同士が突き合された状態に配置される。突き合わせた端部の外周に沿って、固定管100の円周には環状の走行レール27が装着される。自動溶接機3においては、走行レール27に沿って溶接ヘッドなどの駆動部26が周回移動する。駆動部26には走行レール27に沿って移動する台車に溶接トーチ25が搭載されている。リールに巻回された溶接用金属ワイヤ(いずれも図示せず)が供給され、溶接用金属ワイヤがアーク放電時に発生する熱により溶解して2つの固定管100A,100Bの端部同士溶接が行われる。
【0049】
図4および
図5はそれぞれ、
図2および
図3における溶接部分の詳細を示す斜視図および側面図である。
図4に示すように、溶接トーチ25は、前後左右に移動可能に構成される。すなわち溶接トーチ25は、固定管100に対しては円周方向および長手方向に移動可能に構成される。固定管100に対する円周方向は、自動溶接機3においては溶接トーチ25の溶接方向になる。自動溶接機3による円周溶接を行う場合、固定管100A,100Bの突き合わせ端部においては、周方向の内周面に複数の銅板からなる裏当て材110をそれぞれインナークランプによって内周面の全周に亘って押さえつける。裏当て材110による裏当てによって、特に初層の溶接時に溶けた金属の漏出を抑制する。撮像部40は、溶接トーチ25の溶接方向に沿って前方から、固定管100A,100Bにおける開先101および裏当て材110(
図18参照)と、溶接トーチ25のワイヤの先端、すなわち溶接電極の先端で生じるアーク29および溶融池(図示せず)とを撮像可能に構成される。溶接が実行された部分には溶接ビード120が形成される。
【0050】
図5に示すように、固定管100に対する長手方向は、自動溶接機3においては溶接トーチ25の揺動方向、すなわち固定管100の円周方向に対して揺動するウィービング方向(
図5中、矢印方向)になる。また、溶接トーチ25は、内部を挿通した溶接用金属ワイヤを先端部25aから供給可能に構成される。溶接トーチ25を溶接方向(円周方向)に直交するパイプ厚方向、すなわち固定管100の外周面に対して近づく向きおよび遠ざかる向き(
図5中、上下方向)に溶接用金属ワイヤの送給とは独立させて進退移動可能である。なお、
図5に示す固定管100A,100Bの開先101のルートギャップは例えば5mm程度である。
【0051】
図6は、走行レール27に沿って駆動部26を移動させつつ、溶接トーチ25によって溶接を実行する場合の溶接トーチ25の先端部25aの軌跡Wを示す図である。
図6に示すように、溶接トーチ25は、2つの固定管100A,100Bの端部同士を突き合わせた溶接部分において、溶接線中心Oを揺動中心として溶接方向に対して左右方向を揺動方向として揺動する。溶接トーチ25は、駆動部26に従って走行レール27に沿って円周方向に移動しつつ揺動方向に揺動し、揺動両端部である左右端部において揺動動作を一時停止させて溶接方向に所定距離だけ移動した後、揺動を再開する動作を繰り返す。これにより、自動溶接機3の溶接トーチ25は、
図6に示す軌跡Wに沿って溶接を実行する。
【0052】
以上のように構成された溶接制御装置20および自動溶接機3によって、固定管100A,100Bの突き合わせ端部同士が円周溶接される。ところが、自動溶接機3が1周回して実行された溶接では溶接ビード120の厚み(溶接厚み)は薄い状態である。そのため、肉厚の大きい固定管100同士を溶接する場合、自動溶接機3を同一の開先101に対して円周方向に沿って複数回移動させる、多層盛全姿勢溶接を行う必要がある。
【0053】
図7は、本実施形態による多層盛り溶接における積層イメージを示す図である。
図7に示すように、例えば自動溶接機3を固定管100A,100Bの突き合わせ端部の円周方向に沿って7回周回させた場合、溶接ビード120の層として、最下層の第1層である初層L1、第2層L2、第3層L3、第4層L4、第5層L5、第6層L6、および第7層L7の7層の溶接ビード120が形成される。なお、本明細書においては、初層L1の溶接を初層溶接、第2層L2~第7層L7の溶接を積層溶接と称する。
【0054】
図8および
図9はそれぞれ、本実施形態による自動溶接システム1による2つの固定管100の溶接方法における初層溶接および溶接画像を示す図である。
図8に示すように、撮像部40によって溶接トーチ25の進行方向、すなわち溶接方向における前方から溶接部分を撮像する。この場合、
図9に示すように、撮像部40によって、溶接トーチ25の先端部25a、溶融池28、アーク29、および裏当て材110を撮像することが可能である。すなわち初層溶接における撮像ステップとして、撮像部40によって裏当て材110および上面の溶融池28の先行量dが撮像可能である。溶接トーチ25の先端部25aは、揺動中心(溶接線中心)Oに対して所定の揺動幅で揺動し、この揺動に伴ったアーク29および溶融池28も揺動するように撮像される。
【0055】
図10は、本実施形態による自動溶接システム1による2つの固定管100の溶接方法における積層溶接を説明するための図である。
図10に示すように、第2層L2以降最終層である第7層L7までの積層溶接においてはそれぞれ、初層L1から最終層に対する1つ前の層である第6層L6の上層に溶接ビード120が形成される。撮像部40によって、溶接トーチ25の先端部25a、溶融池28、およびアーク29を撮像することが可能である。溶接トーチ25の先端部25aは、前の層の上方に移動して、揺動中心(溶接線中心)Oに対して所定の揺動幅で揺動する。この場合、開先101の円周方向に沿った前層のビード幅は、
図5に示す上方にいくに従って増加するため、溶接トーチ25の揺動幅も、開先101の上方になるに従って増加する。撮像部40は、これらの開先101における溶接トーチ25の先端部25aの揺動に伴ったアーク29および溶融池28も揺動するように撮像される。
【0056】
以上のように自動溶接機3が固定管100の外周を周回する場合には、自動溶接機3の姿勢として、少なくとも4通りの姿勢を取ることになる。
図11は、本実施形態による自動溶接システム1における自動溶接機の4通りの姿勢状態を説明するための図である。
図11に示すように、自動溶接機3が固定管100の円周に沿って周回する場合、以下の4通りの姿勢状態を取る。なお、固定管100の円周に沿って溶接方向(ベクトル)が重力方向に対して直交する水平方向より下側である場合を「下進」、溶接方向が水平より上側である場合を「上進」と称する。また、溶接トーチ25の先端部25aが指示する向き、換言すると固定管100の断面円の中心に向かう向きが、重力方向に対して直交する水平方向より下方である場合を「下向き」、水平方向より上方である場合を「上向き」と称する。この場合、自動溶接機3の姿勢は、「上進」および「下進」と「上向き」および「下向き」とによって、以下の4通りの姿勢状態に分類できる。自動溶接機3の姿勢状態は、自動溶接機3において検出可能であるが、溶接制御装置20から出力される信号に基づいて姿勢状態を検出することも可能である。
(1)下向き下進:自動溶接機3は領域S1
(2)上向き下進:自動溶接機3は領域S2
(3)上向き上進:自動溶接機3は領域S3
(4)下向き上進:自動溶接機3は領域S4
例えば、自動溶接機3が領域S1にいる場合の姿勢状態は(1)下向き下進である。なお、
図11において溶接の開始地点が領域S4であるが、必ずしも限定されない。
【0057】
図12は、自動溶接機3が領域S2にいる場合であって、姿勢状態が上向き下進の場合における溶接トーチ25の状態を示す図である。この場合、重力の影響によって溶融池28は重力方向に垂れた状態になることがある。特に固定管100の外周面と裏当て材110と部分に密着不良E1やキズ部E2などの隙間が生じている場合、重力および溶融池28の溶融金属の表面張力によって、固定管100の内面側に溶融池28が入っていかない状態が生じる場合がある。この現象は特に初層溶接において生じる可能性が高い。
【0058】
図13Aおよび
図13Bはそれぞれ、本実施形態による自動溶接システム1の撮像部40によって撮像された初層溶接における溶接領域の撮像データおよび対応する位置を示す。なお、
図13A,
図13Bにおいて、左側が揺動左端部の画像および図であり、右側が揺動右端部の画像および図である。
【0059】
図13Aおよび
図13Bに示すように、初層溶接において、溶接トーチ25の先端部25aが揺動する場合に先端部25aの位置(ワイヤ先端)の特徴点Wの座標をW(X
W,Y
W)とする。また、溶融池28における開先101との界面の上端部の特徴点Pの座標をP(X
P,Y
P)、下端部(先端部)の特徴点Ecの座標をEc(X
Ec,Y
Ec)とする。さらに、溶融池28の下端部(先端部)における揺動端部側の特徴点Ewの座標をEw(X
Ew,Y
Ew)とし、溶融池28の下端部(先端部)における揺動端部反対側の特徴点Eoの座標をEo(X
Eo,Y
Eo)とする。なお、これらの座標の原点は、W(X
W,Y
W)、P(X
P,Y
P)、Ec(X
Ec,Y
Ec)、Ew(X
Ew,Y
Ew)、およびEo(X
Eo,Y
Eo)において共通であれば任意に設定可能であり、X軸方向およびY軸方向はそれぞれ、揺動方向および上下方向に設定される。
【0060】
この場合、溶接トーチ25の先端部25aと溶融池28の先端との距離L、および溶接トーチ25の先端部25aと溶融池28における開先101との界面の上端部との距離δはそれぞれ、以下の(1)式および(2)式により定義される。
L=|YW-YEo| …(1)
δ=|XW-XP| …(2)
【0061】
また、溶接条件として、上述した(1)~(4)の自動溶接機3の姿勢状態ごとに、正常な溶接継手によってあらかじめ計測された計測値に基づいて、基準値L0をあらかじめ設定しておく。溶接制御装置20の溶接制御部21は制御ステップとして、距離Lが基準値L0に近づくように溶接トーチ25の溶接速度、すなわち自動溶接機3の移動速度の適応制御(以下、溶接速度制御)を実行する。具体的に溶接制御部21は、距離Lが基準値L0未満の場合(L<L0)には移動速度を低下させるように自動溶接機3を制御する。反対に、距離Lが基準値L0より大きい場合(L>L0)には移動速度を増加させるように自動溶接機3を制御する。これにより、自動溶接機3による初層溶接において、正常な裏波形状を形成することが可能になる。なお、溶接制御部21による自動溶接機3の移動速度の制御は、ルールベースによって実行しても、あらかじめ生成された学習モデルによって実行しても良い。
【0062】
同様に、距離δ(δL,δR)は、溶融池28における開先101との界面の上端部と溶接トーチ25の先端部25aとの距離である。ここで、溶接条件として、上述した(1)~(4)の自動溶接機3の姿勢状態ごとに、正常な溶接継手によってあらかじめ計測された計測値に基づいて、基準値δ0をあらかじめ設定しておく。溶接制御装置20の溶接制御部21は、距離δが基準値δ0に近づくように揺動幅を制御する。さらに、溶接制御部21は、揺動左端部における距離δLと揺動右端部における距離δRとが略等しく(δL≒δR)なるように、溶接トーチ25の揺動中心O′を制御する。これにより、溶接トーチ25の揺動中心O′を溶接線中心Oに近づけることができる。自動溶接機3に対して、上述した距離δに関する2通りの制御、すなわち溶接トーチ25の揺動に関する適応制御を行うことにより、特に初層溶接において溶接ビード120を正常なビード形状に形成することが可能となる。なお、自動溶接機3および溶接トーチ25に対する距離δに関する2通りの制御は、正常なビード形状を得るために、初層溶接のみならず積層溶接の場合においても、必要な適応制御である。また、溶接制御部21による溶接トーチ25の揺動幅や揺動中心の制御は、ルールベースによって実行しても、あらかじめ生成された学習モデルによって実行しても良い。
【0063】
また、上述したように初層溶接の場合、裏当て材110A,110Bとの間に間隙部E3が生じる場合がある。この場合、
図13Aに示す撮像データに基づいて、裏当て材110との状態を監視することによって、間隙部E3を検出しても良い。この場合、初層特徴点検出モデル121において、間隙部検出モデルを生成して記憶部12に格納しておくことが可能である。
【0064】
また、間隙部E3を検出するための他の例としては、間隙部E3を検出するためのレーザセンサを採用することも可能である。
図14は、本実施形態による自動溶接システム1による初層溶接時における裏当て材110の間隙部E3の検知方法の他の例を説明するための図である。
図14に示すように、自動溶接機3における移動方向の前方、すなわち溶接方向の前方に所定距離Fだけ隔てた位置に、センサ部45を設ける。センサ部45は、自動溶接機3、情報処理装置10、および溶接制御装置20の少なくとも1つと通信可能に構成される。センサ部45は例えばレーザセンサから構成される。
【0065】
この場合、センサ部45は、自動溶接機3によって初層溶接を実行しながら、進行方向の前方において裏当て材110の計測を実行する。溶接制御装置20は、センサ部45による裏当て材110の計測に基づいて、フィードフォア―ド制御を実行する。具体的には、溶接制御装置20の溶接制御部21は、センサ部45によって間隙部E3を検出した場合にオンのフラグを立てるとともに時間の計測を開始する。その後、センサ部45の出射するレーザ光が間隙部E3を通過して裏当て材110Cに到達した場合、オンのフラグを下ろす。溶接制御部21は、自動溶接機3による溶接速度から、フラグがオンである間の自動溶接機3の移動距離を計測する。計測された自動溶接機3の移動距離は、裏当て材110の間隙部E3の移動方向に沿った隙間幅に相当する。
【0066】
次に、溶接制御部21は、フラグがオンである間の移動距離とあらかじめ設定された閾値との比較を行う。ここで、溶接制御部21は、隙間幅が閾値未満(隙間<閾値)であると判定した場合、自動溶接機3に対する溶接速度の調整を実行することなく、溶接を継続する。一方、溶接制御部21は、隙間幅が閾値以上(隙間≧閾値)であると判定した場合、自動溶接機3に対して溶接速度を調整して、例えば溶接速度を低下させる制御を実行する。この場合、溶接制御部21による自動溶接機3の移動速度の制御は、ルールベースによって実行しても、あらかじめ生成された学習モデルによって実行しても良い。なお、溶接速度の調整量は隙間幅の大きさに依存せずに一定値として、あらかじめ設定しておくことも可能である。
【0067】
また、上述した閾値は複数の値に基づいて設定しても良い。すなわち、閾値として例えば、2mmおよび5mmなどのように複数段階の閾値を設定し、溶接制御部21は、隙間幅が2mm未満であると判定した場合に溶接速度の調整を実行せず、隙間幅が2mm以上5mm未満の場合に溶接速度を低下させ、隙間幅が5mm以上である場合には溶接を停止させたりすることも可能である。さらに、自動溶接機3に対する制御を溶接制御部21による自動適応制御から、オペレータによる手動制御に切り替えるようにしても良い。
【0068】
以上のように、2つの固定管の突合せ溶接における多層盛り溶接を行う場合、初層溶接においては、溶接制御部21による、自動溶接機3の溶接速度の制御ならびに溶接トーチ25の揺動中心および揺動幅の制御が少なくとも必要になる。また、第2層L2以上の積層溶接においては、溶接トーチ25の揺動中心および揺動幅の制御が少なくとも必要になる。さらに、自動溶接機3が固定管100の外周を周回しながら上述した溶接速度と、揺動中心および揺動幅の制御を実行する場合、多層盛り全姿勢溶接における自動溶接機3の姿勢に応じた制御も必要になる。
【0069】
(適応制御方法)
以上の適応制御を溶接制御部21によって自動で実行するためには、適応制御において必要とする特徴点を検出する必要がある。
図13Aおよび
図13Bに示す初層溶接の場合には、溶接を撮像した撮像データにおける特徴点として、点P、点W、点Ew、点Ec、点Eoを判別して検出する必要がある。
【0070】
また、積層溶接の場合の特徴点を
図15Aに示す。
図15Aは、本実施形態による自動溶接システム1による積層溶接における溶接領域の撮像データを示す図である。なお、
図15Aに示す左側の撮像データは揺動左端部の画像であり、右側の撮像データは揺動右端部の画像である。
図15Aに示す例において、特徴点Wは溶接トーチ25の先端部25aを示す特徴点、特徴点Aはアーク29と開先101との境界面における上端部を示す特徴点、特徴点Bはアーク29と1つ下層の溶接ビード120との境界部分の左右端を示す特徴点である。積層溶接における特徴点Aは、初層溶接における特徴点Pに相当する。初層溶接の場合には、開先101の左右の横幅が狭いため、特徴点Aの代わりに特徴点Pを採用することが好ましい。そのため、以下に説明する特徴点Aに関する記述は特徴点Pに置換でき、特徴点Bに関する記述は特徴点Ewに置換できる。また、積層溶接に関する「1つ前の層」や「下層の溶接ビード120」は、初層溶接における「裏当て材110」に置換できる。
【0071】
(第1の適応制御)
図15Bは、
図15Aに示す揺動左端部および揺動右端部の画像データに対応した特徴点の位置を示す図である。
図15Bに示すように、溶接トーチ25の先端部25aの揺動における左端部を特徴点W
L、座標をW
L(X
WL,Y
WL)とし、右端部を特徴点W
R、座標をW
R(X
WR,Y
WR)とする。また、上述した特徴点Aにおける左端部を特徴点A
L、座標をA
L(X
AL,Y
AL)、特徴点Aにおける右端部を特徴点A
R、座標をA
R(X
AR,Y
AR)とする。さらに、X軸方向に沿った溶接トーチ25と開先101との水平変位ΔXは、以下の(2-1)式で定義される。(2-1)式は上述した特徴点Pに関する(2)式に対応する式であり、(2-2)式および(2-3)式はそれぞれ、揺動左端部および揺動右端部における水平変位ΔX
L,ΔX
Rである。
ΔX=X
A-X
W…(2-1)
ΔX
L=X
AL-X
WL…(2-2)
ΔX
R=X
AR-X
WR…(2-3)
【0072】
撮像部40によって撮像される撮像データは、以上の揺動両端部の間を溶接トーチ25の先端部25aおよびアーク29が揺動する動画からなる撮像データとなる。溶接制御部21は制御ステップとして、撮像部40から取得した撮像データに基づいた適応制御として、揺動中心O′を制御する揺動中心制御と、揺動幅を制御する揺動幅制御とを行う。
【0073】
揺動中心制御において溶接制御部21は、撮像部40から取得した撮像データに基づいて、以下の(3-1)式から揺動中心O′を導出するとともに、揺動中心の適正値、すなわち溶接線中心Oとして、以下の(3-2)式に基づいて溶接線中心Oを導出する。その上で溶接制御部21は、揺動中心制御における調整量Δcを以下の(3-3)式から導出する。溶接制御部21は調整量Δcに基づいて、自動溶接機3における溶接トーチ25の揺動中心O′を調整する。
【0074】
【0075】
揺動幅制御において溶接制御部21は、撮像部40から取得した撮像データに基づいて、以下の(4-1)式から揺動幅を導出する。また、溶接制御部21は、取得した撮像データに基づいて、揺動幅の適正値、すなわち溶接トーチ25の先端部25aと開先101との水平距離の適正値を、以下の(4-2)式から導出する。揺動幅の適正値は、換言すると溶接トーチ25の先端部25aと開先101との水平距離を適正に維持可能な揺動幅である。そのため、必要に応じて補正係数αを設定して揺動幅の適正値を補正することが可能である。補正係数αは、自動溶接機3が固定管100の円周を1周回する間において、複数の補正係数値、例えば10~30通りの補正係数α1…α10…α30を設定可能であるが、補正係数αの設定個数については限定されない。その上で溶接制御部21は、揺動幅制御における調整量Δwを以下の(4-3)式から導出する。溶接制御部21は調整量Δwに基づいて、自動溶接機3における溶接トーチ25の揺動幅を調整する。以上により、溶接制御部21によって本実施形態による第1の適応制御が行われる。なお、初層溶接および積層溶接の場合においては、主に第1の適応制御が実行される。
【0076】
【0077】
(第2の適応制御)
図15Cは、
図15Aに示す揺動左端部および揺動右端部の画像データに対応した特徴点の位置を示す図である。
図15Cに示すように、溶接トーチ25の先端部25aの揺動における特徴点W
L,W
Rは
図15Bと同様である。また、上述した特徴点Bにおける左端部を特徴点B
L、座標をB
L(X
BL,Y
BL)とし、右端部を特徴点B
R,座標をB
R(X
BR,Y
BR)とする。さらに、X軸方向に沿った溶接トーチ25と1つ前の層である下層の溶接ビード120の端部との水平変位ΔXは、以下の(2-4)式で定義される。(2-4)式は上述した特徴点Aに関する(2-1)式に対応する式である。また、以下の(2-5)式および(2-6)式はそれぞれ、揺動左端部および揺動右端部における水平変位ΔX
L,ΔX
Rである。
ΔX=X
B-X
W…(2-4)
ΔX
L=X
BL-X
WL…(2-5)
ΔX
R=X
BR-X
WR…(2-6)
【0078】
揺動中心制御において溶接制御部21は、撮像部40から取得した撮像データに基づいて、以下の(5-1)式から揺動中心O′を導出するとともに、以下の(5-2)式に基づいて、揺動中心の適正値としての溶接線中心Oを導出する。その上で溶接制御部21は、揺動中心制御における調整量Δcを以下の(5-3)式から導出する。溶接制御部21は調整量Δcに基づいて、自動溶接機3における溶接トーチ25の揺動中心O′を調整する。
【0079】
【0080】
揺動幅制御において溶接制御部21は、撮像部40から取得した撮像データに基づいて、以下の(6-1)式から揺動幅を導出する。また、溶接制御部21は、取得した撮像データに基づいて、揺動幅の適正値、すなわち溶接トーチ25の先端部25aと1つ前の層の端部との水平距離の適正値を、以下の(6-2)式から導出する。揺動幅の適正値は、換言すると溶接トーチ25の先端部25aと開先101との水平距離を適正に維持可能な揺動幅である。そのため、必要に応じて補正係数βを設定して揺動幅の適正値を補正することが可能である。補正係数βは、自動溶接機3が固定管100の円周を1周回する間において、複数の補正係数値、例えば10~30通りの補正係数β1…β10…β30を設定可能であるが、補正係数βの設定個数については限定されない。その上で溶接制御部21は、揺動幅制御における調整量Δwを以下の(6-3)式から導出する。溶接制御部21は調整量Δwに基づいて、自動溶接機3における溶接トーチ25の揺動幅を調整する。
【0081】
【0082】
(特徴点検出モデル)
次に、以上の初層溶接における自動溶接機3および溶接トーチ25の溶接速度制御と、初層溶接および積層溶接における溶接トーチ25の揺動中心制御および揺動幅制御とを、溶接制御装置20の溶接制御部21によって自動で制御する場合について説明する。
【0083】
まず、溶接制御部21による自動化された適応制御(以下、自動適応制御)を実行する場合、撮像部40によって撮像された撮像データから、上述した特徴点W(XW,YW),P(XP,YP),Ec(XEc,YEc),Ew(XEw,YEw),Eo(XEo,YEo),A(XA,YA),B(XB,YB)を検出する必要がある。
【0084】
そこで、本実施形態による自動溶接システム1においては、撮像部40から取得した撮像データから特徴点を抽出ための学習モデルを生成する。上述したように、初層溶接においては、溶接トーチ25に対する溶接速度制御、揺動中心制御、および揺動幅制御が必要である。一方、積層溶接においては、溶接トーチ25に対する揺動中心制御および揺動幅制御が必要である。そこで、本実施形態においては、
図1に示すように、撮像データから特徴点を検出する機械学習モデルとして、初層特徴点検出モデル121および積層特徴点検出モデル122との2種類生成する。
【0085】
初層特徴点検出モデル121は、初層溶接時に撮像部40により撮像された撮像データから、特徴点W(XW,YW),P(XP,YP),Ec(XEc,YEc),Ew(XEw,YEw),Eo(XEo,YEo)を検出する学習モデルである。ここで、記憶部12に格納されているプログラムである初層特徴点検出モデル121の生成方法について説明する。
【0086】
すなわち、初層特徴点検出モデル121を生成する際の学習用入力パラメータとしては、初層溶接の実行時に撮像部40により撮像された動画からなる撮像データに含まれる、例えば
図13Aに示す溶接トーチ25が左右端部に位置している間の複数のフレームから選択された少なくとも1つの静止画像データを採用できる。すなわち、情報処理装置10の撮像制御部112は、撮像部40によって撮像された撮像データを取得して、取得した動画の撮像データにおけるフレームごとの連続画像データから、揺動左右端部の静止画像データを抽出することが可能である。この場合、撮像制御部112は、揺動端部における静止画像データとして、溶接トーチ25が左右端部に到達した後に端部に位置している状態の例えば10フレーム程度の複数のフレームから所望とするフレーム番号を選択可能である。ここで、溶接トーチ25が左右端部に位置している間とは、
図6において溶接トーチ25の進行方向が溶接方向と略平行に走行している間である。これらの撮像データは、初層特徴点検出モデル121を生成する際の学習用入力パラメータとなる。なお、学習用入力パラメータとしては、溶接トーチ25が左右端部に位置している場合の静止画像データに限定されず、溶接トーチ25が左右端部の間を移動している状態の複数のフレームから選択された静止画像データを採用しても良い。
【0087】
初層特徴点検出モデル121を生成する際の学習用出力パラメータとしては、上述したように複数のフレームから選択されて抽出された静止画像データに対して、作業者がアノテーション処理を行うことによって、特徴点W,P,Ec,Ew,Eoを抽出した静止画像データとすることができる。
【0088】
情報処理装置10の制御部11における学習部111は、上述した学習用入力パラメータおよび学習用出力パラメータの入出力データセットを教師データとして、例えば畳み込みニューラルネットワークを用いたディープラーニングなどの機械学習によって、初層特徴点検出モデル121を生成する。なお、初層特徴点検出モデル121は、学習部111によって、必要に応じて更新、追記、書き換え可能に構成される。
【0089】
また、自動溶接機3の溶接姿勢の姿勢状態によって重力などの影響により溶融池28の形状が異なる。そこで、姿勢状態に対応して特徴点を検出可能にするために、自動溶接機3の溶接姿勢の姿勢状態に対応させて特徴点検出モデルを構築する。具体的に、初層特徴点検出モデル121は例えば、初層溶接において、自動溶接機3が領域S3,S4を移動している上進状態の間に特徴点W,P,Ec,Ew,Eoを検出可能な、初層上進特徴点モデル121aを有する。また、初層溶接において、自動溶接機3が領域S1,S2を移動している下進状態の間に特徴点W,P,Ec,Ew,Eoを検出可能な、初層下進特徴点モデル121bを有する。
【0090】
初層上進特徴点モデル121aは、学習用入力パラメータとして自動溶接機3が上向き上進および下向き上進の姿勢状態でいる間に、撮像部40によって撮像された撮像データから抽出された静止画像データ、例えば揺動端部の静止画像データが用いられる。初層下進特徴点モデル121bは、学習用入力パラメータとして自動溶接機3が下向き下進および上向き下進の姿勢状態でいる間に、撮像部40によって撮像された撮像データから抽出された静止画像データ、例えば揺動端部の静止画像データが用いられる。学習用出力パラメータは、初層上進特徴点モデル121aおよび初層下進特徴点モデル121bに対応させて、以上のように抽出された静止画像データに対して、作業者がアノテーション処理を行うことによって特徴点W,P,Ec,Ew,Eoを抽出した静止画像データを採用する。すなわち、初層溶接において、
図11に示す領域S1,S2と領域S3,S4に対応させて、学習部111によって初層特徴点検出モデル121(初層上進特徴点モデル121a、初層下進特徴点モデル121b)を生成する。生成された初層特徴点検出モデル121(121a,121b)は記憶部12に格納される。
【0091】
また、初層溶接においては、学習部111によって裏当材隙間検出モデル121cを生成できる。裏当材隙間検出モデル121cの生成における学習用入力パラメータとしては、初層特徴点検出モデル121の場合と同様に、撮像部40から取得した撮像データに含まれる複数のフレームから選択された少なくとも1つの静止画像データを採用できる。また、裏当材隙間検出モデル121cの生成における学習用出力パラメータとしては、アノテーション処理によって、裏当て材110に関する状態、例えば裏当て材110上の溶融池28の盛り上がり状態や溶融池先行量dなどが抽出された状態を採用できる。学習部111は、これらの入出力データセットを用いて、裏当材隙間検出モデル121cを生成できる。生成された裏当材隙間検出モデル121cは、記憶部12に格納される。
【0092】
また、積層特徴点検出モデル122は、積層溶接時に撮像部40により撮像された撮像データから、特徴点W(XW,YW),A(XA,YA),B(XB,YB)を検出する学習モデルである。ここで、記憶部12に格納されているプログラムである積層特徴点検出モデル122の生成方法は、上述した初層特徴点検出モデル121の生成方法と同様である。
【0093】
すなわち、積層特徴点検出モデル122を生成する際の学習用入力パラメータとしては、積層溶接の実行時に撮像部40により撮像された動画からなる撮像データに含まれる、例えば
図15Aに示す溶接トーチ25が左右端部に位置している間の複数のフレームから選択された少なくとも1つの静止画像データを採用できる。情報処理装置10の撮像制御部112は、撮像部40から取得した撮像データにおけるフレームごとの連続画像データから、揺動左右端部の静止画像データを抽出することが可能である。この場合、撮像制御部112は、揺動端部における静止画像データとして、溶接トーチ25が左右端部に到達した後に端部に位置している状態の複数のフレームから所望とするフレーム番号を指定可能である。これらの撮像データは、積層特徴点検出モデル122を生成する際の学習用入力パラメータとなる。なお、学習用入力パラメータとしては、溶接トーチ25が左右端部に位置している場合の静止画像データに限定されず、溶接トーチ25が左右端部の間を移動している状態の複数のフレームから選択された静止画像データを採用しても良い。
【0094】
初層特徴点検出モデル121を生成する際の学習用出力パラメータとしては、上述したように複数のフレームから選択されて抽出された静止画像データに対して、作業者がアノテーション処理を行うことによって、特徴点W,A,Bを抽出した静止画像データとすることができる。
【0095】
情報処理装置10の制御部11における学習部111は、上述した学習用入力パラメータおよび学習用出力パラメータの入出力データセットを教師データとして、例えば畳み込みニューラルネットワークを用いたディープラーニングなどの機械学習によって、積層特徴点検出モデル122を生成する。なお、積層特徴点検出モデル122は、学習部111によって、必要に応じて更新、追記、書き換え可能に構成される。また、積層特徴点検出モデル122は、積層上進特徴点モデル122aおよび積層下進特徴点モデル122bを有する。積層上進特徴点モデル122aは、積層溶接において、自動溶接機3が領域S3,S4を移動している上進状態の間に特徴点W,A,Bを検出可能に構成される。また、積層下進特徴点モデル122bは、自動溶接機3が領域S1,S2を移動している下進状態の間に特徴点W,A,Bを検出可能に構成される。これらの学習モデルは、初層溶接における撮像データを積層溶接における撮像データに置き換えた以外は、上述した初層上進特徴点モデル121aや初層下進特徴点モデル121bと同様に生成することが可能である。
【0096】
以上により、
図1に示すように、本実施形態による自動溶接システム1においては、情報処理装置10の記憶部12に、特徴点検出モデルとして、初層特徴点検出モデル121および積層特徴点検出モデル122が格納されている。さらに、初層特徴点検出モデル121は、初層上進特徴点モデル121a、初層下進特徴点モデル121b、および裏当材隙間検出モデル121cを有して構成される。また、積層特徴点検出モデル122は、積層上進特徴点モデル122aおよび積層下進特徴点モデル122bを有して構成される。なお、裏当材隙間検出モデル121cを含めない構成も可能である。この場合、自動溶接機3において
図14に示すセンサ部45を設けることが望ましい。
【0097】
(自動溶接方法)
以上のように構成された特徴点検出モデルを用いた自動溶接においては、自動溶接は以下のように実行される。すなわち、まず、2つの固定管100A,100Bの端部が突き合わされた後、内周側から裏当て材110が貼り出されて固定される(
図18参照)。続けて、自動溶接機3が固定管100の外周に設置された走行レール27に固定された後、溶接制御装置20による制御によって、突合せ端部に対する初層溶接が開始される。溶接制御装置20は、固定管100の外周における自動溶接機3の姿勢情報が出力されて、情報処理装置10に入力される。自動溶接機3の姿勢情報が入力された情報処理装置10の制御部11の撮像制御部112は、姿勢情報における自動溶接機3の姿勢情報(領域S1~S4)に対応した特徴点検出モデル121,122を選択して記憶部12から読み出す。また、溶接制御装置20は、撮像部40から取得した撮像データを情報処理装置10に出力する。情報処理装置10の撮像制御部112は、取得した撮像データを入力パラメータとして、選択した特徴点検出モデル121(121a,121b),122(122a,122b)に入力する。特徴点検出モデル121,122からは、特徴点が抽出された出力パラメータが出力される。情報処理装置10の溶接制御部113は、取得した特徴点に基づいて、上述した(1)式および(2)式に基づいて、初層溶接における適応制御として、溶接速度制御、揺動中心制御、および揺動幅制御におけるそれぞれの調整量を導出して、溶接制御装置20の溶接制御部21に出力する。溶接制御部21は、入力された溶接速度制御、揺動中心制御、および揺動幅制御におけるそれぞれの調整量に基づいて、自動溶接機3および溶接トーチ25を制御する。なお、溶接制御部113による制御は溶接制御部21に同期されて自動溶接機3を制御することになる。
【0098】
自動溶接機3による初層溶接の進行に伴って、自動溶接機3の溶接姿勢も変化する。自動溶接機3の移動位置が
図11に示す領域S1,S2と領域S3,S4とで相互に変化して、下進と上進とが変化した場合、初層特徴点検出モデル121において、初層上進特徴点モデル121aと初層下進特徴点モデル121bとが切り替えられる。この場合、自動溶接機3による溶接を停止することなく、初層上進特徴点モデル121aと初層下進特徴点モデル121bとを切り替えることが好ましい。また、初層上進特徴点モデル121aと初層下進特徴点モデル121bとの切り替え時においては、変化前の溶接姿勢と変化後の溶接姿勢とにおいて、同一の撮像データを用いてそれぞれ特徴点の検出を行うことが可能である。この場合、溶接制御部113は、初層上進特徴点モデル121aおよび初層下進特徴点モデル121bによって検出した2通りの検出結果の平均値を用いて、溶接速度制御、揺動中心制御、および揺動幅制御におけるそれぞれの調整量を補完しつつ導出することができる。なお、初層溶接においては、上述した第1の適応制御を選択して制御することが好ましいが、第2の適応制御を選択して制御しても良い。
【0099】
また、初層溶接においては、初層特徴点検出モデル121の裏当材隙間検出モデル121cによって、撮像データから溶接ビード120が形成される裏当て材110の状態を検出する。これにより、密着不良E1やキズ部E2や間隙部E3を検出することが可能となる。密着不良E1やキズ部E2や間隙部E3を検出した後は、溶接制御部113は、自動溶接機3の溶接速度を低下させたり停止させたりする溶接速度制御を実行する。なお、裏当て材110の状態の検出が困難である場合には、上述したセンサ部45を用いて、裏当て材110の設置状況を検出しても良い。
【0100】
また、自動溶接機3が固定管100の外周を周回して初層溶接が終了した後は、第2層以降の積層溶接に移行する。この場合、特徴点検出モデルは、撮像制御部112によって、初層特徴点検出モデル121から積層特徴点検出モデル122に切り替えられる。情報処理装置10の溶接制御部113は、積層特徴点検出モデル122により出力された特徴点を取得して、積層溶接における、上述した第1の適応制御または第2の適応制御として、揺動中心制御および揺動幅制御におけるそれぞれの調整量を導出する。溶接制御部113は、導出した調整量を溶接制御装置20の溶接制御部21に出力する。溶接制御部21は、入力された揺動中心制御および揺動幅制御におけるそれぞれの調整量に基づいて、自動溶接機3および溶接トーチ25を制御する。なお、積層溶接における自動溶接機3の溶接姿勢ごとに、上述した第1の適応制御と第2の適応制御とから適応制御を選択して制御することが可能である。
【0101】
ここで、初層溶接から積層溶接への切り替え時においても、自動溶接機3による溶接を停止することなく、特徴点検出モデル121,122を切り替えることが好ましい。この場合、同一の撮像データを用いて特徴点検出モデル121,122により特徴点の検出を行うことが可能である。溶接制御部113は、初層上進特徴点モデル121aおよび初層下進特徴点モデル121bによって検出した2通りの検出結果の平均値を用いて、積層溶接における、揺動中心制御および揺動幅制御におけるそれぞれの調整量を補完しつつ導出することができる。なお、初層溶接と積層溶接とにおいて、上述した第1の適応制御と第2の適応制御とから適応制御を選択して制御することが可能である。
【0102】
積層特徴点検出モデル122は、第2層L2以降で積層される層ごとにそれぞれ、第n層特徴点検出モデル(n:2以上の自然数)を生成するようにしても良い。この場合、撮像制御部112は、第2層L2以降において、自動溶接機3が固定管100の外周を周回するごとに順次、特徴点検出モデルが切り替えられる。この場合、前の第(n-1)層特徴点検出モデルから次の第n層特徴点検出モデルの切り替え時に、自動溶接機3による溶接は中断しないことが好ましい。以上のように、情報処理装置10における特徴点検出モデルによる溶接画像に対する特徴点の検出、および調整量の導出による自動溶接機3の制御が実行され、固定管100の突合せ端部の多層溶接が実行される。
【0103】
また、自動溶接機3における多層溶接においては、学習モデルに関して予期せぬエラーが生じる可能性もある。溶接制御装置20は、エラーを検知した時点で即時に、自動制御からオペレータによる手動操作に切換え可能に構成される。これにより、自動溶接機3による溶接を停止することなく固定管100の溶接が可能となる。なお、任意のタイミングで自動溶接と手動溶接とを溶接を停止せずに切換え可能に構成しても良い。
【0104】
(変形例)
上述した特徴点検出モデルは、自動溶接機3の溶接姿勢の姿勢状態に応じてさらに細かく生成することも可能である。
図16は、本実施形態による自動溶接システム1における情報処理装置10の記憶部12に格納される特徴点検出モデルの他の例を示すブロック図である。
【0105】
図16に示すように、変形例においては、記憶部12に、特徴点検出モデルとして初層特徴点検出モデル15および積層特徴点検出モデル16が格納されている。初層特徴点検出モデル15は、初層上進特徴点モデル151および初層下進特徴点モデル152を有する。同様に、積層特徴点検出モデル16は、積層上進特徴点モデル161および積層下進特徴点モデル162を有する。なお、これらの特徴点検出モデルは実施形態と同様である。
【0106】
変形例においてはさらに、初層上進特徴点モデル151が、初層上向き上進特徴点モデル151aおよび初層下向き上進特徴点モデル151bを備える。初層上向き上進特徴点モデル151aは、初層溶接において自動溶接機3が
図11に示す領域S3に位置する場合の撮像データを用いる特徴点検出モデルである。同様に、初層下向き上進特徴点モデル151bは、初層溶接において領域S4に対応する。また、初層下進特徴点モデル152が、初層上向き下進特徴点モデル152aおよび初層下向き下進特徴点モデル152bを備える。初層上向き下進特徴点モデル152aは、初層溶接において領域S2に対応し、初層下向き下進特徴点モデル152bは、初層溶接において領域S1に対応する。
【0107】
また、積層上進特徴点モデル161が、積層上向き上進特徴点モデル161aおよび積層下向き上進特徴点モデル161bを備える。積層上向き上進特徴点モデル161aは、積層溶接において自動溶接機3が
図11に示す領域S3に位置する場合の撮像データを用いる特徴点検出モデルである。同様に、積層下向き上進特徴点モデル161bは、積層溶接において領域S4に対応する。また、積層下進特徴点モデル162が、積層上向き下進特徴点モデル162aおよび積層下向き下進特徴点モデル162bを備える。積層上向き下進特徴点モデル162aは、積層溶接において領域S2に対応し、積層下向き下進特徴点モデル162bは、積層溶接において領域S1に対応する。
【0108】
以上説明したように一実施形態によれば、特徴点を検出する学習モデルを自動溶接機3の溶接姿勢によって異なる学習モデルとしていることにより、溶融池28の異なる形状に対して特徴点を適切に取得できるので、溶接装置においてオペレータによる調整作業を要することなく溶接における適応制御を実行することが可能となる。
【0109】
(第1変形例)
次に、上述した一実施形態の第1変形例について説明する。
図17Aは、本実施形態の第1変形例による振分け溶接において撮像部を2つ備えた例を示す図である。
図17Aに示すように、第1変形例においては、駆動部26がパイプの始端側(図中、下部)から終端側(図中、上部)に向けて半周ずつ溶接する振分け上進が実行される。この場合において、溶接部分を溶接方向に沿った前方から撮影するために、駆動部26の前後、すなわち溶接トーチ25に対して溶接方向の前方および後方のそれぞれに撮像部40a,40bを個別に複数設ける。これにより、
図17Aに示す固定管100の断面に対して一方の側、例えば左側を駆動部26が上進する場合には、撮像部40aによって溶接部分が撮像される。
【0110】
固定管100の例えば左側の部分の溶接が完了した後、駆動部26は始端側に戻される。駆動部26は改めて、他方の側を始端側から終端側まで上進して溶接を行う。溶接方向を変える際には、駆動部26の段取り替えは行われず、走行レール27(
図17A中、図示せず)から取り外さないが、取り外すようにしても良い。固定管100の断面に対して他方の側、例えば右側を駆動部26が上進する場合には、撮像部40bによって溶接部分が撮像される。この場合、溶接条件は、上進させる場合の条件のみで溶接することが可能になるので、溶接条件の設定を容易にできる。また、学習モデルのうちの初層上進特徴点モデル121a,151や積層上進特徴点モデル122a,161などを選択的に使用することが可能である。
【0111】
なお、
図17Aに示す終端側を始端側とし、始端側を終端側として駆動部26を下進させて固定管100に対して半周ずつ溶接を行う振分け下進を行うことも可能である。この場合においても、駆動部26の進行方向である溶接方向に沿った前方に設けられた撮像部40a,40bによって、溶接部分の撮像が行われる。これにより、溶接条件は、下進させる場合の条件のみで溶接することが可能になるので、溶接条件の設定を容易にできる。また、学習モデルのうちの初層下進特徴点モデル121b,152や積層下進特徴点モデル122b,162などを選択的に使用することが可能である。
【0112】
(第2変形例)
次に、上述した一実施形態の第2変形例について説明する。
図17Bは、本実施形態の第2変形例による振分け溶接において1つの撮像部40を切り替える例を示す図である。
図17Bに示すように、第2変形例においては、駆動部26がパイプの始端側(図中、下部)から終端側(図中、上部)に向けて半周ずつ溶接する振分け上進が実行される。第2変形例においては、溶接部分を溶接方向に沿った溶接トーチ25の前方から撮影するために、撮像部40は駆動部26の進行方向、すなわち溶接方向の前方に位置するように切り替え可能に構成される。撮像部40の位置の切り替えは始端側で実行される。すなわち、固定管100の一方の側、例えば左側の部分の溶接が完了した後、第1実施例と同様にして駆動部26が始端側に戻されると、撮像部40の位置が切り替えられる。駆動部26は改めて、固定管100の他方の側、例えば右側を始端側から終端側まで上進して、溶接部分が撮像されつつ溶接を行われる。
図17Bに示す固定管100の断面に対して一方の側および他方の側のいずれを上進する場合においても、撮像部40は駆動部26の進行方向の前方に位置するように設定でき、撮像部40によって常に溶接トーチ25の前方から溶接部分を撮像可能となる。
【0113】
なお、
図17Bに示す終端側を始端側とし、始端側を終端側として駆動部26を下進させて固定管100に対して半周ずつ溶接を行う振分け下進を行うことも可能である。この場合においても、駆動部26の進行方向である溶接方向に沿った前方に設けられた撮像部40によって、溶接部分の撮像が行われる。これにより、溶接条件は、下進させる場合の条件のみで溶接することが可能になるので、溶接条件の設定を容易にできる。その他の構成は、第1変形例と同様である。
【0114】
(記録媒体)
上述の一実施形態において、情報処理装置10や溶接制御装置20が実行する処理方法を実行させるプログラムを、コンピュータその他の機械やウェアラブルデバイスなどの装置(以下、コンピュータなど、という)が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。コンピュータなどに、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、当該コンピュータなどが情報処理装置10や溶接制御装置20として機能する。ここで、コンピュータなどが読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラムなどの情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータなどから読み取ることができる非一時的な記録媒体をいう。このような記録媒体のうちのコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、BD、DAT、磁気テープ、フラッシュメモリなどのメモリカードなどがある。また、コンピュータなどに固定された記録媒体としてハードディスク、ROMなどがある。さらに、SSDは、コンピュータなどから取り外し可能な記録媒体としても、コンピュータなどに固定された記録媒体としても利用可能である。
【0115】
情報処理装置10の制御部11が実行する機能はそれぞれ、複数の情報処理装置によって実行するようにしても良い。すなわち、制御部11の機能としての学習部111および撮像制御部112をそれぞれ、異なる情報処理装置によって実行するようにしても良い。この場合、学習部111として機能する情報処理装置と撮像制御部112として機能する情報処理装置とはネットワーク2を介して通信可能に構成されていても良い。また、記憶部12,22を、ネットワーク2を介して通信可能な他のサーバに格納することも可能である。すなわち、記憶部12,22として、ネットワーク2を通じてアクセス可能なクラウドを採用しても良い。
【0116】
また、一実施形態による情報処理装置10、および溶接制御装置20に実行させるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成しても良い。
【0117】
情報処理装置10における各種学習モデルは、他の情報処理装置における学習部において機械学習により生成されたプログラムを、ネットワーク2を介してダウンロードしたり記録媒体によってインストールしたりすることによって、記憶部12に格納して、制御部11によって機能させることも可能である。すなわち、初層特徴点検出モデル15,121、積層特徴点検出モデル16,122、初層上進特徴点モデル121a,151、初層下進特徴点モデル121b,152、裏当材隙間検出モデル121c、積層上進特徴点モデル122a,161、積層下進特徴点モデル122b,162、初層上向き上進特徴点モデル151a、初層下向き上進特徴点モデル151b、初層上向き下進特徴点モデル152a、初層下向き下進特徴点モデル152b、積層上向き上進特徴点モデル161a、積層下向き上進特徴点モデル161b、積層上向き下進特徴点モデル162a、および積層下向き下進特徴点モデル162bはそれぞれ、他の情報処理装置における学習部において機械学習により生成されたプログラムを、記憶部12やネットワーク2を介して通信可能なサーバに格納しておき、制御部11によって読み出して機能させることが可能である。
【0118】
(その他の実施形態)
一実施形態においては、上述した「部」を、「回路」などに読み替えることができる。例えば、制御部は、制御回路に読み替えることができる。
【0119】
上述の一実施形態においては、自動溶接システム1において、情報処理装置10および溶接制御装置20をそれぞれ別体として説明しているが、必ずしも別体で構成することに限定されない。具体的に、情報処理装置10と溶接制御装置20とを一体に構成しても良い。また、記憶部12に記憶させる情報および記憶部22に記憶させる情報は、上述した情報に限定されず、必要に応じて記憶部12,22の相互で、置換可能、追記可能、または同期可能な状態で記憶させても良く、さらにその他の記憶部との間で、置換可能、追記可能、または同期可能な状態で記憶させても良い。また、情報処理装置10と溶接制御装置20とを一体に構成しても良い。この場合、情報処理装置10の制御部11と溶接制御装置20の溶接制御部21とを物理的および機能的に同一の制御部によって実現できる。
【0120】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いても良い。上述した各実施形態および各変形例の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付のクレームおよびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【0121】
上述した実施形態においては、例えばマグ溶接やミグ溶接などの消耗電極式のアーク溶接を採用しているが、必ずしも消耗電極式のアーク溶接に限定されず、ティグ溶接やプラズマ溶接などの非消耗電極式のアーク溶接に適用することも可能である。
【0122】
例えば、上述した一実施形態においては、自動溶接機3の姿勢状態として、4通りの姿勢を例にしたが、姿勢状態の分類を4通りより多く分類することも可能である。具体的に姿勢状態としては例えば、下向き下進、立向き下進、上向き下進、上向き上進、立向き上進、下向き上進など円周に沿った分割数を多くすることも可能である。
【0123】
また、上述した一実施形態においては、開先101の形状としてV開先を採用しているが、必ずしもV開先に限定されず、U開先、レ開先、またはJ開先を採用することも可能である。ここで、レ開先やJ開先を採用する場合には、開先が左右非対称になることから、揺動中心の適正値としての溶接線中心Oは必ずしも開先幅中央にならない場合がある。そのため、上述した補正係数α,βは揺動の左右で異なる値(補正係数αL,αR,βL,βR)を採用することが可能である。
【0124】
また、上述した一実施形態においては、溶接トーチ25の揺動の左右端部のそれぞれにおいて、特徴点検出モデルによる特徴点の検出を行っているが、前に行われた特徴点の検出に時間を要した場合に、次に行う特徴点の検出のタイミングで検出が困難になった場合は、前に行われた特徴点の検出によって得られた調整量に基づいて補完することで、自動溶接機3の溶接トーチ25に対する適応制御を継続しても良い。
【0125】
また、上述した一実施形態においては、固定管100A,100Bはそれぞれの長手方向が重力に対して直交する水平方向に沿って互いの端部が突き合わせられているが、必ずしもこれに限定されない。例えば、固定管100A,100Bのそれぞれの長手方向が重力と略平行になったり、所定の角度で傾斜していたりする状態であっても良い。これらの場合においても、自動溶接機3の溶接姿勢の状態としては例えば4通りなどの複数通りに分類することが可能である。また、学習部111は、自動溶接機3の溶接姿勢ごとに特徴点検出モデルを生成することが可能である。また、上述した複数の特徴点検出モデルなどの学習モデルは、必ずしも互いに異なる学習モデルではなくても良く、互いに異なる学習モデルであっても互いに同じ学習モデルであっても良い。
【符号の説明】
【0126】
1 自動溶接システム
2 ネットワーク
3 自動溶接機
10 情報処理装置
11 制御部
12,22 記憶部
13,23 入出力部
14,24 通信部
15,121 初層特徴点検出モデル
16,122 積層特徴点検出モデル
20 溶接制御装置
21,113 溶接制御部
25 溶接トーチ
25a 先端部
26 駆動部
27 走行レール
28 溶融池
29 アーク
30 電源ユニット
40 撮像部
45 センサ部
100,100A,100B 固定管
101 開先
110,110A,110B,110C 裏当て材
111 学習部
112 撮像制御部
120 溶接ビード
121a,151 初層上進特徴点モデル
121b,152 初層下進特徴点モデル
121c 裏当材隙間検出モデル
122a,161 積層上進特徴点モデル
122b,162 積層下進特徴点モデル
151a 初層上向き上進特徴点モデル
151b 初層下向き上進特徴点モデル
152a 初層上向き下進特徴点モデル
152b 初層下向き下進特徴点モデル
161a 積層上向き上進特徴点モデル
161b 積層下向き上進特徴点モデル
162a 積層上向き下進特徴点モデル
162b 積層下向き下進特徴点モデル