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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141165
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】炭素繊維強化成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052656
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】建部 宏輔
(72)【発明者】
【氏名】谷川 侑平
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB14
4F072AD04
4F072AD37
4F072AD41
4F072AD44
4F072AD46
4F072AG05
4F072AH23
4F072AK15
4F072AL11
(57)【要約】
【課題】リサイクル炭素繊維を用いて環境に配慮し、さらに広い周波数範囲における優れた電磁波シールド性能と高い機械的強度(特に曲げ強度)を有する成形体を提供する。
【解決手段】炭素繊維強化成形体は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、数式(1):配向係数(η)=(E-Em(1-Vf))/(Ef×Vf)・・・(1)(E:複合材の弾性率、Em:樹脂の弾性率、Vf:繊維体積含有率、Ef:炭素繊維の弾性率)で表される配向係数が0.35以上であり、JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が125MPa以上であり、KEC法に準拠して測定された電磁波シールド効果が0.5MHz~10MHzの全域で60dB以上、10MHz~100MHzの全域で40dB以上、又は100MHz~1000MHzの全域で30dB以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化成形体であって、
数式(1):配向係数(η)=(E-Em(1-Vf))/(Ef×Vf)・・・(1)(式(1)中、E:複合材の弾性率(GPa)、Em:樹脂の弾性率(GPa)、Vf:繊維体積含有率、Ef:炭素繊維の弾性率(GPa)を示す。)で表される配向係数が0.35以上であり、
JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が125MPa以上であり、
KEC法に準拠して測定された電磁波シールド効果が0.5MHz~10MHzの全域で60dB以上であることを特徴とする炭素繊維強化成形体。
【請求項2】
リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化成形体であって、
数式(1):配向係数(η)=(E-Em(1-Vf))/(Ef×Vf)・・・(1)(式(1)中、E:複合材の弾性率(GPa)、Em:樹脂の弾性率(GPa)、Vf:繊維体積含有率、Ef:炭素繊維の弾性率(GPa)を示す。)で表される配向係数が0.35以上であり、
JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が125MPa以上であり、
KEC法に準拠して測定された電磁波シールド効果が10MHz~100MHzの全域で40dB以上であることを特徴とする炭素繊維強化成形体。
【請求項3】
リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化成形体であって、
数式(1):配向係数(η)=(E-Em(1-Vf))/(Ef×Vf)・・・(1)(式(1)中、E:複合材の弾性率(GPa)、Em:樹脂の弾性率(GPa)、Vf:繊維体積含有率、Ef:炭素繊維の弾性率(GPa)を示す。)で表される配向係数が0.35以上であり、
JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が125MPa以上であり、
KEC法に準拠して測定された電磁波シールド効果が100MHz~1000MHzの全域で30dB以上であることを特徴とする炭素繊維強化成形体。
【請求項4】
KEC法に準拠して測定された電磁波シールド効果が0.1MHz~0.5MHzの全域で30dB以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化成形体。
【請求項5】
前記リサイクル炭素繊維の含有量が5重量%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化成形体。
【請求項6】
JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ弾性率が5.8GPa以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化成形体。
【請求項7】
前記リサイクル炭素繊維の数平均繊維長が0.15mm以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維強化成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、軽量で優れた強度および高い耐久性などの特性から、自動車、航空機、土木仮設資材など幅広い分野で利用されている。炭素繊維強化樹脂としては、含浸させる樹脂の性質の違いにより、熱硬化性炭素繊維強化樹脂と、熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP:Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)とがある。このうち、熱可塑性炭素繊維強化樹脂は、成形時間が短く、また加熱によってリサイクル利用が可能であるといった利点から、特に自動車用の材料として用いられている。
【0003】
ここで、炭素繊維(CF)として、新規に製造されたバージン炭素繊維(VCF)ではなく、リサイクル炭素繊維(RCF)を活用することで、環境負荷と材料コストを低減できる。しかし、リサイクル炭素繊維を用いる場合、短繊維ペレットを製造することは比較的容易であるが、ペレット化工程と成形工程の2工程を経るため、繊維にせん断力がかかり繊維の折損が著しいため、得られる成形体は優れた機械特性が発現し難いという問題がある。
【0004】
また、近年、電子機器や通信手段のワイヤレス化が進み、例えば、IH調理器や鉄道などからは300Hz~10MHz、ラジオ放送からは10MHz~300MHz、電子レンジ、携帯電話、テレビ放送などからは300MHz~3GHz、電気自動車用バッテリーなどの電気自動車用車載製品からは2GHz以上(特に、近年5G通信等で注目されている26GHz~29GHzを含めたミリ波とも称される18GHz~110GHz)の周波数の電磁波が発生する。そのため、これらの発生源から発生する電磁波を遮蔽する電磁波シールド性能に優れた樹脂成形体やその材料が求められている。
【0005】
機械特性及び電磁波シールド性能の向上を図るものとして、例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂と、金属で被覆された炭素繊維及び金属で被覆されたグラファイトとからなる電磁波シールド用樹脂組成物が記載されている。また特許文献2には、ポリプロピレン系樹脂、炭素繊維および変性ポリオレフィン樹脂を含有する繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-298653号公報
【特許文献2】特開2022-110895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、そもそも、リサイクル炭素繊維の利用について検討されていない。一方、特許文献2では、リサイクル炭素繊維が利用されている。しかしながら、特許文献1及び2のいずれも、成形体の原料として、樹脂組成物を一度ペレット化しているため、上述したように、得られる成形体は高い機械特性が発現し難いという問題がある。また製造方法の観点では、ペレット化工程の分だけ工程数が増え、その工程費も必要になる。
【0008】
また、特許文献1では周波数500MHzにおける電界波と磁界波のシールド性が測定され、特許文献2ではラジオ波帯に相当する5MHzの減衰量を読み取り電磁波シールド性が評価されているものの、上記発生源から発生する数MHz~数GHz、さらにミリ波帯域の広い周波数範囲において高い電磁波シールド性が発揮されるかどうかは不明である。
【0009】
このように、リサイクル炭素繊維を用いた炭素繊維強化樹脂成形体において、広い周波数範囲における優れた電磁波シールド性能と、高い機械特性との両立を図ることは難しい。
【0010】
なお、電磁波シールド性能の向上を図るために、例えば特許文献1のように、金属被覆炭素繊維や金属被覆グラファイトなどの金属成分を含めると、樹脂成形体の重量が重くなり、軽量化が容易ではないだけでなく、リサイクル利用し難いなど環境配慮の面で課題がある。
【0011】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、リサイクル炭素繊維を用いて環境に配慮し、さらに広い周波数範囲における優れた電磁波シールド性能と高い機械的強度(特に曲げ強度)を有する成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、押出成形により繊維配向を樹脂の流れ方向に制御することで、リサイクル炭素繊維を用いた炭素繊維強化成形体、特に炭素繊維強化押出成形体は、バージン炭素繊維を用いたものと比較して同等に優れた機械特性を発現することを見出した。この製造方法では、ペレット化工程を省略できる。また、本発明者らは、成形体の配向係数を0.35以上とすることで、機械特性(特に曲げ強度)が向上すると共に、電気特性として広い周波数範囲(例えば0.1MHz~1000MHz(1GHz)、18GHz~110GHz程度)において優れた電磁波シールド性能が達成されることを見出した。
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の炭素繊維強化成形体は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、
・数式(1):配向係数(η)=(E-Em(1-Vf))/(Ef×Vf)・・・(1)(式(1)中、E:複合材の弾性率(GPa)、Em:樹脂の弾性率(GPa)、Vf:繊維体積含有率、Ef:炭素繊維の弾性率(GPa)を示す。)で表される配向係数が0.35以上であり、
・JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が125MPa以上であり、
・KEC法に準拠して測定された電磁波シールド効果が0.5MHz~10MHz(0.5MHz以上10MHz以下)の全域で60dB以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の炭素繊維強化成形体は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、
・上記数式(1)で表される配向係数が0.35以上であり、
・JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が125MPa以上であり、
・KEC法に準拠して測定された電磁波シールド効果が10MHz~100MHz(10MHz以上100MHz以下)の全域で40dB以上であることを特徴とする。
【0015】
本発明の炭素繊維強化成形体は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有し、
・上記数式(1)で表される配向係数が0.35以上であり、
・JIS K 7074に準拠して測定されたMD方向の4点曲げ強度が125MPa以上であり、
・KEC法に準拠して測定された電磁波シールド効果が100MHz~1000MHz(100MHz以上1000MHz以下)の全域で30dB以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、リサイクル炭素繊維を用いて環境に配慮し、さらに広い周波数範囲における優れた電磁波シールド性能と高い機械的強度(特に曲げ強度)を有する成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0018】
<炭素繊維強化成形体>
炭素繊維強化成形体は、その原料にリサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する。すなわち、炭素繊維強化成形体は、熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP)といえる。炭素繊維強化成形体では、リサイクル炭素繊維が活用されているため、バージン炭素繊維を用いた従来の成形体と比較して、環境負荷と材料コストが低減される。なお、炭素繊維強化成形体としては、押出成形体、射出成形体、プレス成形体、これらを組み合わせた成形体等が挙げられる。
【0019】
(リサイクル炭素繊維)
リサイクル炭素繊維(RCF)は、例えば、使用済みの炭素繊維強化樹脂(CFRP)から回収された炭素繊維(CF)、炭素繊維強化樹脂の製造工程から発生する炭素繊維強化樹脂の中間製品(プリプレグ)等の切れはし等から回収された炭素繊維をいう。リサイクル炭素繊維は一般的に不連続な繊維である。リサイクル炭素繊維は炭素繊維強化樹脂の加熱物(CFRP加熱品)でもよい。また、リサイクル炭素繊維はサイジング剤を含んでいてもよく(用いてもよく)、含まなくてもよい(用いなくてもよい)。リサイクル炭素繊維の具体例としては、例えば後述の実施例に記載のものが挙げられる。
【0020】
炭素繊維強化成形体の全体(総量100重量%)に対するリサイクル炭素繊維の含有量(以下「CF含有量」とも称する)は、成形体の機械的強度の向上を図る観点から、好ましくは10重量%以上、より好ましくは10重量%超過、さらに好ましくは15重量%以上である。当該含有量の上限は特に限定されず、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下、より一層好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは35重量%以下、さらに一層好ましくは30重量%以下である。
【0021】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリカーボネート(PC)樹脂、フェノキシ樹脂、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ナイロン樹脂;ポリエチレン・ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;酸変性オレフィン系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリイミド樹脂;ポリスチレン樹脂;ABS樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂の中では、熱硬化性樹脂に比べて耐衝撃性、耐熱特性、及びリサイクル性に優れ、低コストであるポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、オレフィン系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリブチレンテレフタレート及びポリフェニレンサルファイド樹脂が好ましい。なお、熱可塑性樹脂はリサイクル樹脂であってもよい。リサイクル樹脂とは、例えば、ボトル等の各種容器、ディスク、シート等由来のものが挙げられる。
【0022】
(その他の材料)
炭素繊維強化成形体は、その特性を損なわない範囲において、その原料に、リサイクル炭素繊維及び熱可塑性樹脂以外のその他の材料を含有していてもよい。その他の材料としては、例えば、サイジング剤、帯電防止剤、難燃剤、相溶化剤、バージン炭素繊維などが挙げられる。バージン炭素繊維とは、例えば、炭素繊維として一般に販売されている新規に製造された新品の炭素繊維をいう。
【0023】
<炭素繊維強化成形体の特性>
(配向係数(η))
炭素繊維強化成形体において、成形体の平面に対するその測定軸への繊維の寄与率を表す指標として配向係数(η)がある。配向係数(η)は0以上1以下の数値を取る。配向係数(η)が小さすぎると、繊維量を多くしようとも、または残存繊維長が長くしようとも、優れた曲げ強度が発現しない。一方、配向係数(η)が大きすぎると、複合材料の弾性率が高くなりすぎて加熱賦形が困難になる問題がある。
【0024】
配向係数(η)は、例えば、数式(1)により算出される(以下「配向係数(1)」とも称する)。
[数1]
配向係数(η)=(E-Em(1-Vf))/(Ef×Vf)・・・(1)。
【0025】
数式(1)において、「E」は複合材の弾性率(GPa)、「Em」は樹脂の弾性率(GPa)、「Vf」は繊維体積含有率、「Ef」は炭素繊維の弾性率(GPa)を示す。なお、これら弾性率は、後述する「MD方向の4点曲げ弾性率」を意味する。
【0026】
炭素繊維強化成形体の配向係数(1)は、0.35以上である。炭素繊維強化成形体の配向係数(1)を0.35以上に特定することで、0.1MHz~1000MHz程度の広い周波数範囲における優れた電磁波シールド性能と高い機械的強度(特に曲げ強度)との両立が可能になる。
【0027】
配向係数(1)は、好ましくは0.38以上、より好ましくは0.40以上であり、その上限は好ましくは0.55以下である。
【0028】
(MD方向の4点曲げ強度、MD方向の4点曲げ弾性率)
リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する原料を用いて成形される炭素繊維強化成形体は、JIS K 7074(炭素繊維強化プラスチックの曲げ試験方法)に準拠して測定された、押出成形(Tダイキャスト)による樹脂の流れ方向(MD方向)の4点曲げ強度が125MPa以上である。炭素繊維強化成形体は、リサイクル炭素繊維が用いられているものの、バージン炭素繊維が用いられた従来の成形体と同等の物性を有する。MD方向における4点曲げ強度と4点曲げ弾性率は、例えば後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0029】
炭素繊維強化成形体のMD方向の4点曲げ強度は、125MPa以上であり、好ましくは160MPa以上、より好ましくは180MPa以上である。
【0030】
炭素繊維強化成形体のMD方向の4点曲げ弾性率は、好ましくは5.8GPa以上であり、より好ましくは8.0GPa以上、さらに好ましくは10.0GPa以上である。
【0031】
(繊維体積含有率(Vf))
炭素繊維強化成形体において、JIS K 7075(炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率および空洞率試験方法)の燃焼法に準拠して測定された繊維体積含有率(Vf)は、成形体の機械的強度の向上を図る観点から、好ましくは6%以上(CF含有量では10重量%以上)である。また、その上限値は、炭素繊維の分散不良を抑制し、コストを低減する観点から、好ましくは40%以下(CF含有量では50重量%以下)、より好ましくは23%以下(CF含有量では30重量%以下)である。繊維体積含有率(Vf)は、例えば後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0032】
(数平均繊維長(Ln))
炭素繊維強化成形体において、残存するリサイクル炭素繊維の数平均繊維長(Ln)は、残存繊維長を長く残存させることで成形体の機械的強度の向上を図る観点から、好ましくは0.15mm以上、より好ましくは0.20mm以上である。なお、炭素繊維強化成形体の製造方法では、ペレット化工程を経ないため、ペレット化工程におけるさらなる繊維の折損がなく、より長い残存繊維長を有する炭素繊維強化成形体が得られる。リサイクル炭素繊維の数平均繊維長(Ln)は、例えば後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0033】
(分散度(Lw/Ln))
炭素繊維強化成形体において、残存するリサイクル炭素繊維の分散度(Lw/Ln)は、成形体の機械的強度の向上を図る観点から、好ましくは1.00以上2.25以下、より好ましくは1.25以上2.25以下である。分散度が1に近いものは、炭素繊維の繊維長が均一であること意味する。一方、分散度が1よりも大きいものは、炭素繊維の繊維長が長いものと短いものとが混ざり、繊維長のばらつきが大きいことを意味する。繊維長が短い炭素繊維の割合が多くなり繊維長の分布が広くなると、成形体の機械的強度が弱まるため、分散度は適切な範囲に設定する必要がある。分散度(Lw/Ln)は、例えば後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0034】
(0.1MHz~1000MHz(1GHz)の周波数帯域の電磁波シールド性能)
0.1MHz~1000MHz(1GHz)の周波数帯域(以下「第1の周波数帯域」とも称する)における電磁波シールド性能は、本明細書において、KEC法(一般社団法人KEC関西電子工業振興センターで開発された電磁波シールド効果の測定方法)に準じて測定される電磁波シールド特性(電磁波シールド効果(SE))をいう。
【0035】
ここで、炭素繊維強化成形体に要求される優れた第1の周波数帯域における電磁波シールド性能とは、ある特定の周波数(一点)の電磁波に対するシールド効果だけではなく、上述のIH調理器や鉄道などから発生する300Hz~10MHzの電磁波;ラジオ放送などから発生する10MHz~300MHzの電磁波;電子レンジ、携帯電話、テレビ放送などから発生する300MHz~3000MHz(3GHz)の電磁波;電気自動車用バッテリーなどの電気自動車用車載製品から発生する2GHz以上の電磁波などを含む広い周波数範囲にわたる電磁波シールド効果が少なくとも30dB以上とする。すなわち、炭素繊維強化成形体は、0.1MHz~1000MHz(1GHz)の広い周波数範囲の全域(全体)にわたって、少なくとも30dB以上の電磁波シールド効果を有する。
【0036】
炭素繊維強化成形体は、0.1MHz~0.5MHz(0.1MHz以上0.5MHz以下、100kHz~500kHz)の全域で、少なくとも30dB以上の電磁波シールド効果を有することが好ましく、少なくとも40dB以上(99%シールド)の電磁波シールド効果を有することがより好ましい。なお、本明細書において、例えば、「0.1MHz~0.5MHzの全域で、少なくとも30dB以上」とは、0.1MHz~0.5MHzの周波数範囲内で測定された電磁波シールド効果の最小値が30dB以上を意味する。0.1MHz~0.5MHzの周波数範囲内で測定された電磁波シールド効果の平均値は60dB以上(99.9%シールド)であることが好ましい。
【0037】
また、炭素繊維強化成形体は、0.5MHz~10MHzの全域で、少なくとも60dB以上(99.9%シールド)の電磁波シールド効果を有し、少なくとも70dB以上の電磁波シールド効果を有することが好ましい。炭素繊維強化成形体は、1MHzの電磁波に対するシールド効果が60dB以上(99.9%シールド)であることが好ましい。
【0038】
また、炭素繊維強化成形体は、10MHz~100MHzの全域で、少なくとも40dB以上(99%シールド)の電磁波シールド効果を有する。炭素繊維強化成形体は、10MHzの電磁波に対するシールド効果が60dB以上(99.9%シールド)であることが好ましい。
【0039】
また、炭素繊維強化成形体は、100MHz~1000MHz(1GHz)の全域で、少なくとも30dB以上の電磁波シールド効果を有し、少なくとも40dB以上(99%シールド)の電磁波シールド効果を有することが好ましい。炭素繊維強化成形体は、100MHzの電磁波に対するシールド効果が40dB以上(99%シールド)であることが好ましい。炭素繊維強化成形体は、300MHz、600MHz又は1000MHz(1GHz)の電磁波に対するシールド効果が30dB以上の電磁波シールド効果であることが好ましく、40dB以上(99%シールド)であることがより好ましい。
【0040】
(18GHz~110GHzの周波数帯域の電磁波シールド性能)
18GHz~110GHzの周波数帯域(以下「第2の周波数帯域」とも称する)における電磁波シールド性能は、本明細書において、フリースペース法に準じて測定される電磁波シールド特性(電磁波シールド効果(SE))をいう。
【0041】
ここで、炭素繊維強化成形体に要求される優れた第2の周波数帯域における電磁波シールド性能とは、第1の周波数帯域における電磁波シールド性能と同様に、ある特定の周波数(一点)の電磁波に対するシールド効果だけではなく、上述の5G通信に相当する26GHz~29GHzの電磁波を含む、電気自動車用バッテリーなどの電気自動車用車載製品から発生する18GHz~110GHzの周波数帯域のミリ波とも称される電磁波などを含む広い周波数範囲にわたる電磁波シールド効果が少なくとも40dB以上(99%シールド)であることが好ましい。すなわち、炭素繊維強化成形体は、18GHz~110GHzの広い周波数範囲の全域(全体)にわたって、少なくとも40dB以上の電磁波シールド効果を有することが好ましい。
【0042】
炭素繊維強化成形体は、18GHz~26.5GHz(18GHz以上26.5GHz以下)の全域で、少なくとも50dB以上の電磁波シールド効果を有することが好ましい。炭素繊維強化成形体は、18GHzの電磁波に対するシールド効果が50dB以上であることが好ましい。
【0043】
炭素繊維強化成形体は、5G通信に相当する26GHz~29GHz(26GHz以上29GHz以下)の全域で、少なくとも60dB以上(99.9%シールド)の電磁波シールド効果を有することが好ましい。26GHz~29GHzの周波数範囲内で測定された電磁波シールド効果の平均値は70dB以上であることが好ましい。
【0044】
炭素繊維強化成形体は、26.5GHz~40GHz(26.5GHz以上40GHz以下)の全域で、少なくとも60dB以上(99.9%シールド)の電磁波シールド効果を有することが好ましい。炭素繊維強化成形体は、30GHzの電磁波に対するシールド効果が60dB以上(99.9%シールド)であることが好ましい。
【0045】
炭素繊維強化成形体は、40GHz~60GHz(40GHz以上60GHz以下)の全域で、少なくとも60dB以上(99.9%シールド)の電磁波シールド効果を有することが好ましい。
【0046】
炭素繊維強化成形体は、60GHz~90GHz(60GHz以上90GHz以下)の全域で、少なくとも80dB以上の電磁波シールド効果を有することが好ましい。炭素繊維強化成形体は、60GHzの電磁波に対するシールド効果が80dB以上であることが好ましい。
【0047】
炭素繊維強化成形体は、90GHz~110GHz(90GHz以上110GHz以下)の全域で、少なくとも70dB以上の電磁波シールド効果を有することが好ましい。炭素繊維強化成形体は、90GHzの電磁波に対するシールド効果が80dB以上であることが好ましい。炭素繊維強化成形体は、110GHzの電磁波に対するシールド効果が70dB以上であることが好ましい。
【0048】
<炭素繊維強化成形体の製造>
以下では、炭素繊維強化成形体の製造として、押出成形体を例に挙げて説明する。炭素繊維強化成形体は、例えば、Tダイ押出し法によって製造される。この製造方法では、熱可塑性樹脂中にリサイクル炭素繊維を含有するペレットを原料に用いず、且つ溶融した熱可塑性樹脂にリサイクル炭素繊維を投入し混練してペレットを予め調製するペレット化工程を経ない。具体的には、溶融した熱可塑性樹脂にリサイクル炭素繊維を投入して混練し、そのまま押出成形することにより、炭素繊維強化成形体を製造する。すなわち、炭素繊維強化成形体の製造方法は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを混練する混練工程と、混練した溶融物を押出して所望の形状に成形する押出成形工程とを備え、且つ混練工程と押出成形工程とをインラインで行う。
【0049】
ここで、インラインで押出成形するとは、熱可塑性樹脂およびリサイクル炭素繊維を投入し、押出成形するまでの一連の過程を1つの生産ライン上で行うことを意味する。すなわち、本製造方法では、押出成形前に、別のラインで熱可塑性樹脂およびリサイクル炭素繊維をペレット化するなどの過程を必要としない。ペレット化工程を経ることなく、インラインで製造することにより、得られる炭素繊維強化成形体は、バージン炭素繊維を用いた従来の成形体と同等に機械的強度に優れる。
【0050】
より具体的には、混練工程において粘度が低下した溶融状態の熱可塑性樹脂にサイドフィーダーを用いてリサイクル炭素繊維を投入し、1軸(単軸)の押出機で溶融混練し、押出成形工程において押出成形と同時にインライン加工(押出し成形ライン上で同時に行う加工)を実施する。このとき、押出成形(Tダイキャスト)により、押出成形樹脂の流れ方向(MD方向)にリサイクル炭素繊維の配向を制御することで、炭素繊維強化成形体は優れた機械特性を発現する。この製造方法では、一連の工程において、後述する押出機の温度を所定範囲内に調整し、熱可塑性樹脂の粘度を十分に低下させるため、リサイクル炭素繊維にかかるせん断力が抑制される。また、ペレット化工程を省略したことにより、リサイクル炭素繊維にかかるせん断力が抑制され、その折損が抑制されるため、リサイクル炭素繊維はその繊維長が長いまま残り易い。リサイクル炭素繊維の繊維長が長い状態で成形体中に残存することは、炭素繊維強化成形体が優れた機械特性を発現する要因の一つとなる。
【0051】
(混練工程)
炭素繊維強化成形体をTダイ押出し法によって製造する方法をより詳細に説明する。まず、単軸押出機のシリンダー温度とダイス温度を、熱可塑性樹脂のガラス転移点よりも50℃から150℃高い温度に設定する。単軸押出機の上記温度としては、例えば220℃以上300℃以下程度である。上記範囲内に温度管理された押出機に熱可塑性樹脂を投入して溶融させ、樹脂粘度を下げる。
【0052】
続いて、リサイクル炭素繊維を押出機に投入して混練する。リサイクル炭素繊維の投入には、サイドフィーダーを利用する。具体的には、熱可塑性樹脂が十分に溶融した部位に、リサイクル炭素繊維をサイドフィーダーから投入する。
【0053】
サイドフィードしたリサイクル炭素繊維と混熱可塑性樹脂とを溶融混練する。このときのスクリュー回転数は、例えば30rpm以上78rpm以下程度である。
【0054】
(押出成形工程)
最後に、Tダイからインラインで押出成形することにより、例えば、厚さ1mm以上10mm以下程度の平板状の炭素繊維強化成形体(CFRTP板)を得ることができる。厚さの下限は特に限定されず、2mm以上であってもよい。なお、炭素繊維強化成形体の形状は平板状に限定されず、種々の形状に成形できる。
【0055】
押出機は、樹脂の流れ方向(MD方向)にリサイクル炭素繊維の配向を制御する観点から、1軸(単軸)の押出機が好ましいが、2軸押出機を用いてもよい。
【実施例0056】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0057】
<炭素繊維強化成形体(混練押出板)の製造>
シリンダー温度とダイス温度を220~300℃に設定した単軸押出機に、熱可塑性樹脂として各表に記載のポリカーボネート(PC)樹脂を投入して溶融させた。続いて、ポリカーボネート樹脂が溶融した部位に、各表に記載のリサイクル炭素繊維(RCF、繊維長:3mm~6mm)を各表に記載の含有量(表中の「CF含有量」参照)で、サイドフィーダーから供給した。その後、各表に記載のスクリュー回転数30~78rpmで溶融混練し、Tダイから押出すことにより、厚さが2mm程度の平板状の炭素繊維強化成形体(CFRTP板)を得た。なお、必要に応じて、得られたCFRTP板中の空隙を減らすために、200℃の温度、5MPaの圧力で10分間、CFRTP板の熱プレス処理(表中の「プレス」参照)を行った。以上の工程により、厚さが1.6mm~2.4mm(JIS K 7074準拠)の評価用CFRTP板を得た。なお、比較例4はバージン炭素繊維(VCF)含有ポリカーボネート樹脂ペレットを用いた押出成形体である。比較例5はリサイクル炭素繊維(RCF)含有ポリカーボネート樹脂ペレットを用いた押出成形体である。比較例6はバージン炭素繊維(VCF)含有ポリカーボネート樹脂ペレットを用いた射出成形体である。比較例7はポリカーボネート樹脂(炭素繊維なし)の押出成形体である。
【0058】
<炭素繊維強化成形体(混練押出板)の評価>
≪繊維体積含有率(Vf)の算出≫
JIS K 7075の燃焼法に準拠して、各評価用CFRTP板の繊維体積含有率(Vf)を算出した。具体的には、電気炉および電子天秤を用いて、測定試料である各評価用CFRTP板の質量を測定した後、るつぼ中、窒素雰囲気下で、20℃/分の昇温速度で、室温から加熱し、550℃に達したところで、10分間、焼却して、試料中の樹脂分を灰化した。なお、炭素繊維は、窒素雰囲気下での加熱では分解しないため、550℃の時の重量を炭素繊維重量とし、比重で乗じたものを炭素繊維体積とした。また、灰化重量を樹脂重量として、樹脂比重を乗じたものを樹脂体積とした。そして、JIS K 7075における式(3)を用いて繊維体積含有率(Vf)[%]を算出した。その結果を各表に示す。
【0059】
≪重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)の算出≫
重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)は、以下の方法により求めた。まず、各評価用CFRTP板を、ポリカーボネート(PC)樹脂を溶解する溶剤にて溶かした後、濾過を行い、リサイクル炭素繊維(RCF)の残渣を得た。その残渣を光学顕微鏡にて50~100倍に拡大した画像を観察し、無作為に選んだ1000本の長さを測定し、その測定値(mm)(小数点2桁が有効数字)を用いて以下の数式に基づき算出した。
[数2]
重量平均繊維長(Lw)=Σ(Wi×Li)/ΣWi
=Σ(πri×Li×ρ×ni×Li)/Σ(πri×Li×ρ×ni)〔ri、およびρが一定である場合、上式は簡略化され、以下の数式となる。〕
≒Σ(Li×ni)/Σ(Li×ni)・・・(2)。
[数3]
数平均繊維長(Ln)=Σ(Li×ni)/Σni・・・(3)。
〔数式中の各記号について〕
・Li:繊維状充填材の繊維長。
・ni:繊維長Liの繊維状充填材の本数。
・Wi:繊維状充填材の重量。
・ri:繊維状充填材の繊維径。
・ρ :繊維状充填材の密度。
【0060】
≪分散度(Lw/Ln)の算出≫
分散度(Lw/Ln)は、前記で算出した重量平均繊維長(Lw)と数平均繊維長(Ln)を用いて以下の数式に基づき算出した。
[数4]
分散度(Lw/Ln)=重量平均繊維長(Lw)/数平均繊維長(Ln)・・・(4)。
【0061】
≪配向係数(η)の算出≫
配向係数(η)は、各評価用CFRTP板の曲げ弾性率を求め、上述の数式(1)に基づき算出した。なお、数式(1)において、「E」(複合材の弾性率)は表中の各実施例の「曲げ弾性率(MD)」、「Em」(樹脂の弾性率)は表中の比較例7の「曲げ弾性率(MD)」(2.3[GPa])、「Vf」は表中の各実施例の「繊維体積含有率(Vf)」、「Ef」(炭素繊維の弾性率)は代表的な炭素繊維の引張弾性率として230[GPa]の各数値を用いた。なお、実施例6の配向係数(η)は、「Em」(樹脂の弾性率)を「2.6GPa」とした場合の計算値をいう。
【0062】
≪MD方向の曲げ強度、MD方向の曲げ弾性率の測定≫
JIS K 7074に従い、4点曲げ試験を行い、各評価用CFRTP板のMD方向における曲げ強度、および曲げ弾性率を測定した。具体的には、各評価用CFRTP板から、幅が15mm、長さが100mmとなるように切り出したサンプルを作製した。続いて、4点曲げ治具を設置した引張試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフ5000)を用いて、クロスヘッド速度が5mm/分、支点スパンが81mm、圧子スパンが27mm、支点径が4mm、および圧子径が10mmの条件で、上記サンプルの4点曲げ測定を行ない、MD方向において、4点曲げ強度[MPa]と4点曲げ弾性率[GPa]を測定した。なお、炭素繊維を含まない熱可塑性樹脂の押出成形体である比較例7は、JIS K 7171に準拠して、3点曲げ試験を行った。具体的には、比較例7の評価用PC(ポリカーボネート)板から、長さが80mm、幅が10mm、厚さが4mmとなるように切り出した試験片を作製した。続いて、3点曲げ治具を設置した上記引張試験機を用いて、クロスヘッド速度が2mm/分、支点スパンが64mm、支点径が5mm、および圧子径が5mmの条件で、上記試験片の3点曲げ測定を行ない、MD方向において、3点曲げ強度[MPa]と3点曲げ弾性率[GPa]を測定した。その結果を各表に示す。
【0063】
測定されたMD方向の曲げ強度[MPa]とMD方向の曲げ弾性率[GPa]を、以下の評価基準に基づいてそれぞれ評価した。なお、「△」以上で使用可能(合格)な強度または弾性率を有する。「○」は充分な強度または弾性率を有する。「◎」はバージン炭素繊維(VCF)含有ポリカーボネート樹脂ペレットの射出成形体と同等に優れた強度または弾性率を有する。その結果を各表に示す。
(MD方向の曲げ強度[MPa]の評価基準)
◎:180MPa以上。
○:160MPa以上180MPa未満。
△:125MPa以上160MPa未満。
×:125MPa未満。
(MD方向の曲げ弾性率[GPa]の評価基準)
◎:10.0GPa以上。
○:8.0GPa以上10.0GPa未満。
△:5.8GPa以上8.0GPa未満。
×:5.8GPa未満。
【0064】
<第1の周波数帯域における電磁波シールド性能の評価>
各評価用CFRTP板の電磁波に対する遮蔽性能(dB)として、第1の周波数帯域における電磁波シールド効果を、一般社団法人KEC関西電子工業振興センターで開発された電磁波シールド特性測定システム(https://www.kptc.jp/kiki/194/)を用いたKEC法により、定量的に評価した。その結果を表1、2に示す。
・電磁波の測定周波数範囲:0.1MHz(100kHz)~1000MHz(1GHz)。
・電磁波の測定周波数ピッチ:0.01MHz。
・測定サンプル W×D×H=140mm×140mm×2mm。
・温度:25℃、相対湿度:30~50%の雰囲気。
【0065】
<第2の周波数帯域における電磁波シールド性能の評価>
各評価用CFRTP板の電磁波に対する遮蔽性能(dB)として、第2の周波数帯域における電磁波シールド効果を、フリースペース法により、定量的に評価した。その結果を表3、4に示す。
・電磁波の測定周波数範囲:18GHz~110GHz。
・電磁波の測定周波数ピッチ:0.01GHz。
・測定装置:アンリツ(株)製広帯域ベクトルネットワークアナライザ:ME7838A。
・フリースペース法用の治具:キーコム(株)製、DPS24-01。
・測定サンプル W×D×H=140mm×140mm×2mm。
【0066】
測定された電磁波シールド性能を、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、「△」以上で最小限のシールド性能を有する(合格)。「○」は良好なシールド性能を有する。「◎」は高いシールド性能(遮蔽率:99.9%)を有する。その結果を各表に示す。
◎:60dB以上。
○:40dB以上60dB未満。
△:30dB以上40dB未満。
×:30dB未満。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
炭素繊維強化成形体の製造に使用した各表に記載の各種材料を以下に示す。
≪ポリカーボネート樹脂(PC樹脂、熱可塑性樹脂)≫
・PC301-30:住化ポリカーボネート(株)製。
・PC1600:タキロンシーアイ(株)製ポリカーボネート板、密度:1.2g/cm、引張降伏応力:63MPa、引張破壊呼びひずみ:90%、引張弾性率:2250MPa、曲げ強度:91MPa、曲げ弾性率:2300MPa、体積抵抗率:≧1.0×1013Ω・m。
≪ポリアミド樹脂(PA樹脂、熱可塑性樹脂)≫
・PA6_CM1007:東レ(株)製、アミラン、グレード:CM1007、密度:1.13g/cm、吸水率:1.8%(24時間、23℃)、引張強度:80MPa(23℃)、引張破壊呼びひずみ:30%、引張降伏ひずみ:2.0%、曲げ強度:110MPa、体積抵抗率:1.0×1012~1013Ω・m。
≪リサイクル炭素繊維(RCF)≫
・CF-N C6:日本ポリマー産業(株)製、繊維長:6mm、サイジング材:無し。
・CFRP加熱品:カーボンファイバーリサイクル工業(株)製、繊維長:3mm、サイジング材:無し。
≪バージン炭素繊維(VCF)含有ポリカーボネート樹脂≫
・PC-C-20:三菱ケミカル(株)製、パイロフィル(登録商標)ペレット(CFRTPペレット)。
・DSP-201:帝人(株)製、CFRTPペレット。
≪リサイクル炭素繊維(RCF)含有ポリカーボネート樹脂≫
・DJK-XB-C6:PCX-10325B(住化ポリカーボネート(株)製ポリカーボネート樹脂)と上記CF-N C6から作製されたCFRTPペレット。
≪リサイクル炭素繊維(RCF)不織布≫
・(株)ユウホウ製、疾風-HAYATE-(登録商標)、炭素繊維(リサイクル炭素繊維)と熱可塑性繊維(PA6_CM1007相当)を混綿し、カーディング工程での炭素繊維の損傷を出来る限り抑え残存繊維長を長く残した、熱可塑性炭素繊維強化プラスチック用の中間材料、樹脂比率:50重量%、目付:250g/m、残存繊維長:70mm。
【0072】
(実施例の考察)
・各実施例の炭素繊維強化成形体は、不連続繊維であるリサイクル炭素繊維(RCF)が用いられているものの、バージン炭素繊維(VCF)を用いた比較例4(CFRTPペレットの押出成形体)及び比較例6(CFRTPペレットの射出成形体)と同等の物性(MD方向の4点曲げ強度が125MPa以上(及びMD方向の4点曲げ弾性率が5.8GPa以上)を達成した。
・この要因としては、各実施例の炭素繊維強化成形体の製造方法ではペレット化工程がないため、リサイクル炭素繊維にかかるせん断力が抑制され、その結果、繊維の折損が抑制されたためと考えられる。また、ペレット化せずにリサイクル炭素繊維の繊維長が長いまま成形体中に残存していることも一つの要因と考えられる。
・また、各実施例の炭素繊維強化成形体は、比較例1~3と比較して、機械的強度が高いだけでなく、0.1MHz~1000MHz(1GHz)という広い周波数範囲の全域において30dB以上の電磁波シールド性能を達成した。
・さらに、各実施例の炭素繊維強化成形体は、比較例1~3と比較して、機械的強度が高いだけでなく、18GHz~110GHzという広い周波数範囲の全域において40dB以上(99%シールド)、特に5G通信に相当する26GHz~29GHzの全域において少なくとも60dB以上(99.9%シールド)の電磁波シールド性能を達成した。
・優れた機械特性と電気特性の両立は、配向係数(1)が0.35以上である点が寄与していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明は、リサイクル炭素繊維と熱可塑性樹脂とを含有する炭素繊維強化成形体に適している。