(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141170
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】生分解性樹脂組成物、および成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/04 20060101AFI20241003BHJP
C08K 3/30 20060101ALI20241003BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L67/04
C08K3/30
C08L101/16
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052663
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 徹
(72)【発明者】
【氏名】高山 哲生
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002BC072
4J002CD192
4J002CF181
4J002DG046
4J002FA046
4J002GG00
4J002GN00
4J002GQ00
4J200AA04
4J200BA14
4J200EA07
(57)【要約】
【課題】ハンドリング性に優れ、剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体が得られる生分解性樹脂組成物、および剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体を提供する。
【解決手段】本発明に係る生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂と、塩基性硫酸マグネシウムと、アクリル系化合物とを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂と、塩基性硫酸マグネシウムと、アクリル系化合物とを含有する生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
前記塩基性硫酸マグネシウムとの質量を100とした場合、前記アクリル系化合物の含有量は、30~60質量部である請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
前記生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂および芳香族-脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂からなる群から選択される請求項1又は2記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂が、ヒドロキシカルボン酸の重合体を含有する請求項3記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシカルボン酸が、L-乳酸、D-乳酸、またはDL-乳酸からなる請求項4記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1又は2の生分解性樹脂組成物の成形物である成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂組成物、および成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性の特性を維持しつつ、機械的特性に優れた生分解性樹脂組成物が求められている。オレフィン系樹脂を配合することで相溶性を改善し、環境負荷の低減されたポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の樹脂組成物を用いることによって、外観及び、衝撃強度などの機械的特性に優れる成形品が得られることが記載されている。
【0003】
また、ポリ乳酸樹脂にトランス型ポリイソプレンを配合した樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2)。特許文献2の樹脂組成物は、マトリックス・ドメイン構造が形成されて発泡性に優れ、強度(特に靭性)に優れた樹脂発泡体が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-167403号公報
【特許文献2】特開2021-155654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成形体を製造するために用いられる樹脂組成物には、優れたハンドリング性も求められている。しかしながら、ハンドリング性に優れ、剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体が得られる生分解性樹脂組成物は、未だ得られていないのが現状である。
そこで本発明は、ハンドリング性に優れ、剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体が得られる生分解性樹脂組成物、および剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る生分解性樹脂組成物は、生分解性樹脂と、塩基性硫酸マグネシウムと、アクリル系化合物とを含有する。
【0007】
本発明に係る成形体は、前述の生分解性樹脂組成物の成形物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ハンドリング性に優れ、剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体が得られる生分解性樹脂組成物、および剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は鋭意研究の結果、生分解性樹脂に、塩基性硫酸マグネシウムとともに加水分解抑制剤としてアクリル系化合物を配合して得られた樹脂組成物がハンドリング性に優れ、かかる樹脂組成物を用いることによって、剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体が得られることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
<生分解性樹脂>
生分解性樹脂としては、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂および芳香族-脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂からなる群から選択される。生分解性樹脂は、重量平均分子量が10,000~3,000,000の範囲内であることが好ましく、50,000~1,000,000の範囲内であることがより好ましい。生分解性樹脂の重量平均分子量は、例えばGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって求めることができる。
【0011】
脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、ヒドロキシカルボン酸の重合体が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸は、L-乳酸、D-乳酸、およびDL-乳酸から選択することができる。乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体も、本発明における生分解性樹脂として用いることができる。
【0012】
さらに、脂肪族ジカルボン酸とグリコールとの重縮合物もまた、脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂として知られている。脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸やアジピン酸が挙げられ、これらとグリコールとの重縮合法によって合成される脂肪族ポリエステル系生分解性樹脂が好適に用いることができる。
【0013】
コハク酸系生分解性樹脂としては、例えばポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネート・アジペート(PBSA)、およびポリブチレンサクシネート・ラクテート(PBSL)が挙げられる。さらに、ポリブチレンサクシネート・ヒドロカプロエート(PBSLC)、ポリブチレンサクシネート・カルボネート(PBSC)、ポリブチレンサクシネート・テレフタレート(PBST)、ポリブチレンサクシネート・ジエチレングリコールサクシネート(PBS-co-DEGS)、ポリブチレンサクシネート・ブチレン(PBS-co-BDGA)、およびポリブチレンサクシネート・フルオネート(PBSF)等が挙げられる。
【0014】
アジピン酸系生分解性樹脂としては、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリブチレンアジペート・テレフタレート(PBAT)、ポリエチレンアジペート・テレフタレート(PEAT)が挙げられる。
【0015】
上述したような生分解性樹脂は、1種類を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。上述した生分解性樹脂のなかでも、耐アルカリ性等が優れている点で、ポリ乳酸(PLA)が本発明における生分解性樹脂として好ましい。
【0016】
<塩基性硫酸マグネシウム>
塩基性硫酸マグネシウムは、MgSO4・5Mg(OH)2・3H2Oで表され、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ性物質と硫酸マグネシウムとを原料として、水熱合成により得ることができる。
【0017】
塩基性硫酸マグネシウムの形状は特に限定されず、繊維状、扇状等、任意の形状の塩基性硫酸マグネシウムを用いることができる。例えば繊維状塩基性硫酸マグネシウムの場合は、平均繊維長が一般に2~100μm、好ましくは5~50μmの範囲であり、平均繊維径が一般に0.1~2.0μm、好ましくは0.1~1.0μmの範囲である。塩基性硫酸マグネシウムは、平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が一般に2以上、好ましくは3~1000、より好ましくは3~100、特に好ましくは5~50の範囲である。なお、塩基性硫酸マグネシウムの平均繊維長および平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大画像から画像解析により測定した繊維長および繊維径のそれぞれの個数平均値から算出することができる。
【0018】
塩基性硫酸マグネシウムの含有量は、生分解性樹脂と塩基性硫酸マグネシウムとの合計質量を100とした場合、1~50質量部であることが好ましく、3~30質量部であることがより好ましい。塩基性硫酸マグネシウムの含有量を変える事によって、軟質から硬質の生分解性樹脂組成物を得ることができる。
【0019】
なお、物理特性を向上させるために生分解性樹脂に配合される無機充填剤として、ワラストナイトなどが知られている。ワラストナイトは海水には溶解しないので、生分解性樹脂の分解残留物として海洋中に放出される。この場合には、放出されたワラストナイトが蓄積する事によって予期せぬ問題が発生する可能性がある。
【0020】
これに対して塩基性硫酸マグネシウムは、海水中で分解して残留物が生じないので、そのような問題を回避することができる。塩基性硫酸マグネシウムは、海水中で硫酸マグネシウム(MgSO4)と水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)とに分解する。硫酸マグネシウムは海水中に溶解し、水酸化マグネシウムは、雰囲気に存在する酸性成分と反応してMg塩として溶解するものと推測される。
【0021】
<加水分解抑制剤>
加水分解抑制剤は、生分解性樹脂の加水分解を抑制する化合物であり、例えば、生分解性樹脂中の活性水素と反応性を有する化合物が挙げられる。このような化合物を加えることで、生分解性樹脂中の活性水素量が低減し、活性水素が触媒的に生分解性樹脂を構成する高分子鎖を加水分解することを防ぐことができる。
【0022】
本発明において加水分解抑制剤としては、アクリル系化合物を用いる。アクリル系化合物は、融点が140℃と高いため、溶融混練時のハンドリング性に優れた樹脂組成物が得られる。アクリル系化合物を含有する本発明の樹脂組成物を用いた場合には、溶融混練時の温度が200℃以上でも、原料ホッパー下で加水分解抑制剤が融解することなく混練ペレットを得ることができる。また、射出成形時の温度が180℃以上でも、安定して樹脂成形体を得ることができる。
【0023】
アクリル系化合物としては、反応性エポキシ基を有するスチレンアクリレートポリマーが好ましい。市販されているポリマーとして、JONCRYL ADR4368、JONCRYL ADR4300、JONCRYL ADR4468、JONCRYL ADR4400(以上、BASF社製)、ARUFON UG4035、ARUFON UG4040、ARUFON UG4070(以上、東亜合成社製)、LOTADER AX8840(アルケマ社製)が例示できる。
【0024】
アクリル系化合物の含有量は、塩基性硫酸マグネシウムの質量を100とした場合、0.1~100質量部であることが好ましく、30~60質量部であることがより好ましい。生分解性樹脂と塩基性硫酸マグネシウムとの合計質量を100とした場合、アクリル系化合物の含有量は、0.1~100質量部であることが好ましく、0.3~10質量部であることがより好ましい。
【0025】
本発明の生分解性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分を配合してもよい。
【0026】
本発明の生分解性樹脂組成物は、各成分を混合し、次いで溶融混練することにより製造することができる。例えば、まず、生分解性樹脂と繊維状塩基性硫酸マグネシウムと加水分解抑制剤とを混合する。混合には、タンブラー、ブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いることができる。
【0027】
混合の際には、生分解性樹脂に残りの成分を任意の順番で添加することができる。繊維状塩基性硫酸マグネシウムと加水分解抑制剤とを同時に添加した場合には、工程簡略化によるコスト削減の点で有利となる。生分解性樹脂に加水分解抑制剤を添加し、次いで繊維状塩基性硫酸マグネシウムを添加した場合には、混練後の繊維状塩基性硫酸マグネシウムの残存繊維長が長くなり、より高い補強効果が得られる。得られた混合物を、二軸押出混練機等を用いて180~220℃で溶融混練することによって、本発明の生分解性樹脂組成物が得られる。
【0028】
すなわち、本発明の生分解性樹脂組成物の製造方法は、下記(1)、(2)のいずれかの工程を有する方法である。
(1)生分解性樹脂に、塩基性硫酸マグネシウムとともに加水分解抑制剤を同時に添加する同時添加工程
(2)生分解性樹脂に加水分解抑制剤を添加し、次いで、塩基性硫酸マグネシウムを添加する逐次添加工程。
【0029】
本発明の生分解性樹脂組成物を成形することによって、種々の成形体を製造することができる。樹脂組成物の成形には、例えば圧延成形機(カレンダー成形機など)、真空成形機、押出成形機、射出成形機、ブロー成形機、プレス成形機などを用いることができる。
【0030】
上述したとおり本発明の生分解性樹脂組成物には、塩基性硫酸マグネシウムおよび加水分解抑制剤としてアクリル系化合物が配合されているので、剛性に優れ、高い機械物性を備えた成形体を得ることができる。本発明の生分解性樹脂組成物は、塩基性硫酸マグネシウムの含有量により曲げ弾性率を調整できるため、様々な用途の成形体を得ることができる。
【0031】
例えば、本発明の成形体は、各種食品、薬品、雑貨等の液状物や粉粒物、固形物を包装するための包装用資材、農業用資材、建築資材等幅広い用途において好適に用いられる。具体的用途としては、例えば、射出成形品(例えば、生鮮食品のトレー、コーヒーカプセル、ファーストフードの容器、野外レジャー製品等)、押出成形品(フィルム、例えば、釣り糸、漁網、植生ネット、保水シート等)、中空成形品(ボトル等)等が挙げられる。
【0032】
さらに、その他農業用のフィルム、コーティング資材、肥料用コーティング材、ラミネートフィルム、板、延伸シート、モノフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、ショッピングバッグ、ゴミ袋、コンポスト袋、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、ロープ、結束材、衛生用カバーストック材、保冷箱、クッション材フィルム、マルチフィラメント、合成紙、医療用として手術糸、縫合糸、人工骨、人工皮膚、マイクロカプセル等のドラッグデリバリーシステム(DDS)、創傷被覆材等が挙げられる。
【0033】
またさらに、トナーバインダー、熱転写用インキバインダー等の情報電子材料、電気製品筐体、インストルメントパネル、シート、ピラー等の自動車内装部品、バンパー、フロントグリル、ホイールカバー等の自動車外装構造材料等の自動車部品等に使用することもできる。中でもより好ましいのは、包装用資材、例えば、包装用フィルム、袋、トレー、カプセル、ボトル、緩衝用発泡体、魚箱等、および、農業用資材等である。農業用資材としては、例えば、マルチングフィルム、トンネルフィルム、ハウスフィルム、日覆い、防草シート、畦シート、発芽シート、植生マット、育苗床、植木鉢等が挙げられる。
【実施例0034】
以下に本発明の具体例を示すが、これらは本発明を限定するものではない。
【0035】
用いる原料を以下にまとめる。
<塩基性硫酸マグネシウム>
A :繊維状塩基性硫酸マグネシウム モスハイジA-1、宇部マテリアルズ(株)製、平均長径15μm、平均短径0.5μm
<ポリ乳酸>
B :ポリ乳酸 テラマック TE-2000、ユニチカ(株)製
<加水分解抑制剤>
C1 :Joncryl ADR-4468 BASF製
C2 :4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル 試薬
【0036】
<実施例1>
まず、塩基性硫酸マグネシウム(A)1質量部、ポリ乳酸(B)99質量部、加水分解抑制剤(C1)0.3質量部を混合した。得られた混合物を、二軸溶融混練押出機(L/D=25、(株)井元製作所製)を用いて200℃で溶融混練して実施例1の樹脂組成物を得た。
【0037】
<実施例2>
塩基性硫酸マグネシウム(A)5質量部、ポリ乳酸(B)95質量部、加水分解抑制剤(C1)1.5質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2の樹脂組成物を得た。
【0038】
<実施例3>
塩基性硫酸マグネシウム(A)10質量部、ポリ乳酸(B)90質量部、加水分解抑制剤(C1)3質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3の樹脂組成物を得た。
【0039】
<実施例4>
塩基性硫酸マグネシウム(A)5質量部、ポリ乳酸(B)95質量部、加水分解抑制剤(C1)3質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の樹脂組成物を得た。
【0040】
<実施例5>
塩基性硫酸マグネシウム(A)10質量部、ポリ乳酸(B)90質量部、加水分解抑制剤(C1)6質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5の樹脂組成物を得た。
【0041】
<実施例6>
塩基性硫酸マグネシウム(A)15質量部、ポリ乳酸(B)85質量部、加水分解抑制剤(C1)9質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例6の樹脂組成物を得た。
【0042】
<比較例1>
塩基性硫酸マグネシウム(A)10質量部、ポリ乳酸(B)90質量部、加水分解抑制剤(C2)3質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1の樹脂組成物を得た。
【0043】
<比較例2>
塩基性硫酸マグネシウム(A)15質量部、ポリ乳酸(B)85質量部、加水分解抑制剤(C2)3質量部を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2の樹脂組成物を得た。
【0044】
<比較例3>
ポリ乳酸(B)単味を比較例3とした。
【0045】
<比較例4>
加水分解抑制剤(C1)を配合しない以外は実施例3と同様にして、比較例4の樹脂組成物を得た。
【0046】
<比較例5>
加水分解抑制剤(C1)を配合しない以外は実施例6と同様にして、比較例5の樹脂組成物を得た。
【0047】
下記表1には、実施例および比較例の樹脂組成物の配合組成をまとめる。
【0048】
【0049】
<試験片の作製>
電動射出成形機小型射出成形機(C.Mobile0813、(株)新興セルビック製)を用いて各樹脂組成物を成形して、力学物性評価用の短冊試験片(長さ50mm、幅5mm、厚さ2mm)を得た。
【0050】
<曲げ弾性率>
万能力学試験機((株)イマダ製)を用いて、JISK7171に準拠した方法で3点曲げ試験を行った。支点間距離は40mm、負荷速度は10mm/minとした。得られた荷重たわみ曲線から、曲げ弾性率を評価した。
【0051】
<重量平均分子量>
溶融混練後の樹脂組成物の重量平均分子量は、ポリ乳酸の重量平均分子量に相当する。ポリ乳酸、および樹脂組成物の重量平均分子量は、HLC-8320GPC(東ソー(株)製)を用いてゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)により、ポリスチレン換算分子量を算出した。なお、カラムとしてはK-G、K-805L、K-800d(Shodex製)を用い、溶離液としてはクロロホルムを用いた。
【0052】
<シャルピー衝撃強度>
シャルピー衝撃試験機((株)マイズ試験機製)を用いてJISK7111に準拠して試験を行い、シャルピー衝撃強度を評価した。ハンマーは2.75Jとした。
【0053】
<ハンドリング性>
ハンドリング性を示す指標として安定して混練ペレット、樹脂成形体が得られるものを「〇」とし、得られないものを「×」とした。
【0054】
下記表2に、各樹脂組成物を用いて作製された成形体の曲げ弾性率、重量平均分子量、シャルピー衝撃強度及びハンドリング性を示す。
【0055】
【0056】
上記表中、比較例3の重量平均分子量は、原料として用いたポリ乳酸そのものの分子量を表わしている。比較例3はポリ乳酸単体であって、塩基性硫酸マグネシウムおよび加水分解抑制剤は配合されていないので、得られる成形体の曲げ弾性率を高めることできない。
実施例1~6の樹脂組成物は、塩基性硫酸マグネシウムとともに加水分解抑制剤としてアクリル系化合物が含有されているので、塩基性硫酸マグネシウムによるポリ乳酸の加水分解は抑制されるとともに、ハンドリング性に優れている。このため、実施例1~6では、原料(比較例1)と同等のレベルの重量平均分子量を維持することができる。しかも、これら実施例の樹脂組成物を用いることによって、ハンドリング性に優れ、剛性と衝撃強度のバランスのよい成形体を得ることができる。
【0057】
これに対して、加水分解抑制剤が含有されていてもアクリル系化合物ではない比較例1、2は、ハンドリング性が悪く、加水分解抑制剤が含有されない比較例4,5においては、ポリ乳酸は、塩基性硫酸マグネシウムとの溶融混練により加水分解が生じて、重量平均分子量が大幅に低下している。このため、成形体を作製するための樹脂組成物を得ることができなかった。