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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141180
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】鉱山管理システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/36 20060101AFI20241003BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
G01C21/36
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052680
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】飯星 洋一
(72)【発明者】
【氏名】水谷 健二
(72)【発明者】
【氏名】松田 卓弥
【テーマコード(参考)】
2F129
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129DD19
2F129DD20
2F129DD31
2F129DD47
2F129EE07
2F129EE52
2F129EE81
2F129FF02
2F129FF15
2F129FF20
2F129FF32
2F129FF65
2F129HH12
2F129HH35
5L010AA04
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】鉱山車両の走行経路を精度良く容易に分類する。
【解決手段】未分類の走行経路である未分類走行経路のメッシュ集合Aと分類済みの走行経路である分類済み走行経路のメッシュ集合Bについて、前記メッシュ集合Aと前記メッシュ集合Bの和集合、前記和集合と前記メッシュ集合Aとの第1差集合、及び前記和集合と前記メッシュ集合Bとの第2差集合を演算し、前記第1差集合と前記第2差集合の大きさのいずれもが閾値以下である場合、前記未分類走行経路を前記分類済み走行経路の経路IDに分類し、前記第1差集合と前記第2差集合の大きさの少なくとも一方が前記閾値より大きい場合、前記未分類走行経路を新規経路IDに分類する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱山車両の位置データ及び稼働データに基づき、前記鉱山車両が放土した場所を始点とし次に放土する場所を終点とする走行経路について、地表面を等間隔に分割したメッシュのIDで表したメッシュ集合を生成し、前記メッシュ集合を基に経路IDを分類する機能を有する処理装置と、
前記処理装置で生成された走行経路について前記メッシュ集合及び前記稼働データを紐づけて記憶し蓄積する記憶装置と、
前記処理装置との間でデータを授受して前記処理装置からの受信データを表示する表示端末装置と
を備えた鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、
未分類の走行経路である未分類走行経路のメッシュ集合Aと分類済みの走行経路である分類済み走行経路のメッシュ集合Bについて、前記メッシュ集合Aと前記メッシュ集合Bの論理和である和集合、前記和集合と前記メッシュ集合Aとの論理差である第1差集合、及び前記和集合と前記メッシュ集合Bとの論理差である第2差集合を演算し、
前記第1差集合と前記第2差集合の大きさのいずれもが、それぞれに予め設定された閾値以下である場合、前記未分類走行経路を前記分類済み走行経路の経路IDに分類し、前記経路IDに、前記未分類走行経路に係る前記メッシュ集合A及び前記稼働データを紐づけて前記記憶装置に記録し、
前記第1差集合と前記第2差集合の大きさの少なくとも一方が前記閾値より大きい場合、新たに新規経路IDを生成し、前記新規経路IDに、前記未分類走行経路に係る前記メッシュ集合A及び前記稼働データを紐づけて前記記憶装置に記録する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記第2差集合の大きさが前記閾値より大きく、かつ前記第1差集合の大きさが前記閾値以下となる場合、前記分類済み経路と区別して判定することを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項3】
請求項1に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記第1差集合の大きさがゼロで、かつ前記第2差集合の大きさが前記閾値より大きくなる場合、前記分類済み経路と区別して判定することを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項4】
請求項1に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記記憶装置には、前記走行経路毎に、前記鉱山車両の走行制御に適用された制御パラメータが記録されており、
前記処理装置は、前記経路IDが同一の複数の走行経路に係るデータを前記記憶装置から参照し、前記制御パラメータ毎に、前記稼働データを基に演算される生産性指標のデータを集計して分析データを生成し、前記表示端末装置に前記制御パラメータ毎の前記分析データを出力する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項5】
請求項4に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記経路IDのデータ数に応じて前記生産性指標の集計値を加重平均して前記分析データを演算することを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項6】
請求項1に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、前記経路IDが同一の走行経路に係る複数のデータを前記記憶装置から参照し、前記稼働データを基に演算される生産性指標のデータを前記鉱山車両毎に比較した分析データを生成し、前記表示端末装置に前記分析データを出力する
ことを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項7】
請求項6に記載の鉱山管理システムにおいて、前記経路IDは、前記分析データに含まれる生産性指標のうち任意に指定した生産性指標に基づく表示順序で出力されることを特徴とする鉱山管理システム。
【請求項8】
請求項1に記載の鉱山管理システムにおいて、
前記処理装置は、予め設定された評価期間に記録されたデータ数が予め設定された設定数未満の経路IDのデータを前記記憶装置から削除することを特徴とする鉱山管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱山管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉱山車両が走行した走行経路の複数の途中地点の位置情報を予め設定された指定経路の位置情報と比較し、走行経路を特定する方法が開示されている。特許文献2には、走行経路の分類後、経路分類の基礎情報である放土場等の位置データを補正する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5596661号公報
【特許文献2】特許5647362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GNSSで測定される鉱山車両の走行経路は、GNSSのデータに誤差がある場合、鉱山車両が他車両や悪路を避けて走行する場合等、本来分類されるべき指定経路から見かけ上ずれる場合がある。そのため、特許文献1の技術では、走行経路の途中地点と比較する指定経路の比較地点の位置設定によっては、走行経路が本来分類されるべき経路と異なる経路に分類され、結果として生産性が適正に評価されない恐れがある。それに対し、特許文献2のように比較地点が多ければ経路の分類精度は向上し得る。しかし、比較地点が多いほど、比較地点毎の距離しきい値の設定が煩雑になり、また他の指定経路との干渉を避けて比較地点を設定すること自体が難しくなる。
【0005】
加えて、鉱山現場においては、指定経路とは異なるものの指定経路の一部に全部が一致する経路(内包)や、指定経路から外れて休憩場所に立ち寄る経路(寄り道)も、現実には生じ得る。これら内包や寄り道については、特許文献1,2の技術の場合、比較地点間をつなぐリンクの方位や走行距離を経路分類の条件に加える必要があり、経路分類の処理が一層煩雑になる。また、評価対象経路がいずれの指定経路にも一致しない場合、新規に指定経路を設定するために放土場や積込場、比較地点を新たに設定し、更には各地点について通過判定用の距離閾値をそれぞれ設定しなければならない。
【0006】
鉱山現場において放土場や積込場は頻繁に移動するため、特許文献1,2の技術では、放土場や積込場、更には比較地点の設定更新を頻繁に強いられ、システムの運用に労力を要し得る。
【0007】
本発明の目的は、鉱山車両の走行経路を精度良く容易に分類することができる鉱山管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、鉱山車両の位置データ及び稼働データに基づき、前記鉱山車両が放土した場所を始点とし次に放土する場所を終点とする走行経路について、地表面を等間隔に分割したメッシュのIDで表したメッシュ集合を生成し、前記メッシュ集合を基に経路IDを分類する機能を有する処理装置と、前記処理装置で生成された走行経路について前記メッシュ集合及び前記稼働データを紐づけて記憶し蓄積する記憶装置と、前記処理装置との間でデータを授受して前記処理装置からの受信データを表示する表示端末装置とを備えた鉱山管理システムにおいて、前記処理装置は、未分類の走行経路である未分類走行経路のメッシュ集合Aと分類済みの走行経路である分類済み走行経路のメッシュ集合Bについて、前記メッシュ集合Aと前記メッシュ集合Bの論理和である和集合、前記和集合と前記メッシュ集合Aとの論理差である第1差集合、及び前記和集合と前記メッシュ集合Bとの論理差である第2差集合を演算し、前記第1差集合と前記第2差集合の大きさのいずれもが、それぞれに予め設定された閾値以下である場合、前記未分類走行経路を前記分類済み走行経路の経路IDに分類し、前記経路IDに、前記未分類走行経路に係る前記メッシュ集合A及び前記稼働データを紐づけて前記記憶装置に記録し、前記第1差集合と前記第2差集合の大きさの少なくとも一方が前記閾値より大きい場合、新たに新規経路IDを生成し、前記新規経路IDに、前記未分類走行経路に係る前記メッシュ集合A及び前記稼働データを紐づけて前記記憶装置に記録する鉱山管理システムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鉱山車両の走行経路を精度良く容易に分類することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の鉱山管理システムの全体像を示す模式図
図2】本発明の第1実施形態に係る鉱山管理システムを構成する処理装置の生産性指標のデータを経路IDと紐づけて記録する機能に係るブロック図の一例
図3】本発明において走行経路を表すメッシュ集合の説明図
図4】本発明による走行経路の判定アルゴリズムの基本概念を表すベン図
図5】本発明の第1実施形態に係る鉱山管理システムを構成する処理装置によりメッシュ集合A,Bに係る2つの走行経路について同一経路であると判定される場合と別経路であると判定される場合の類型の例を表すベン図
図6】本発明の第1実施形態に係る鉱山管理システムの経路分類の手順の一例を表すフローチャート
図7】本発明の第1実施形態に係る鉱山管理システムといわゆるノード・リンク方式の鉱山管理システムとの比較表
図8】本発明の第1実施形態に係る鉱山管理システムを構成する処理装置の経路毎に生産性指標の集計値を演算する機能に係るブロック図の一例
図9】本発明の第1実施形態に係る鉱山管理システムを構成する処理装置の生産性指標の集計結果から推奨される制御パラメータを提示する手順の一例を表すフローチャート
図10A】評価経路IDの候補を提示する画面の一例を表す図
図10B】評価経路IDに紐付けられたメッシュ集合を可視化した画面の一例を表す図
図11A】選択した評価経路IDにおける制御パラメータ毎の走行頻度を棒グラフで示す画面の例
図11B】選択した評価経路IDにおける制御パラメータによる生産性の比較を示す画面の例
図11C】選択した評価経路IDにおいて同一の生産性指標について標準パラメータと代替パラメータの走行頻度のヒストグラムを示す画面の例
図11D】複数の経路について制御パラメータによる生産性の差を示す画面の例
図12】本発明の第2実施形態に係る鉱山管理システムを構成する処理装置の劣化車両を判定する手順の一例を表すフローチャート
図13A】選択された経路IDを走行した車両ID毎の生産性を表示する画面の一例を表す図
図13B】評価経路において各サイクルの所定の稼働データのヒストグラムを表す図
図14】本発明の第3実施形態に係る鉱山管理システムで用いられる全方位メッシュを説明するための概念図
図15】全方位メッシュを用いた経路分類の例を説明するための模式図
図16】本発明の第4実施形態に係る鉱山管理システムを構成する処理装置の走行頻度が低い経路IDを削除する手順の一例を表すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
(概要)
図1は本発明の鉱山管理システムの全体像を示す模式図である。図1に示した鉱山管理システム1は、鉱山現場Sで稼働する各鉱山車両Vの稼働データや位置データを受信し、鉱山現場の生産性を評価する機能を持つ。鉱山現場Sで稼働する鉱山車両Vには、鉱山ダンプV1、油圧ショベルV2、ブルドーザV3等の複数種が含まれる。また、鉱山現場Sでは、同一種の鉱山車両Vであっても(例えば鉱山ダンプV1同士でも)製造元や型式、製造時期等が異なるものが混在する場合もある。鉱山車両Vが走行する地表面は経路により起伏や性状が異なり、型式や製造時期等の違いにより燃料消費や登坂速度等に差が生じる。この差が鉱山現場Sの生産性に影響するため、鉱山管理システムで鉱山現場Sの生産性を管理することは重要である。
【0013】
図1に示した鉱山管理システムは、処理装置10と、記憶装置20と、表示端末装置30とを含んで構成されている。
【0014】
処理装置10は、例えば鉱山現場S又は鉱山現場Sから離れた場所にあるコンピュータ(例えばサーバ)である。この処理装置10は、各鉱山車両V、記憶装置20、表示端末装置30との間でそれぞれデータを授受できるように構成されている。例えば、処理装置10には、ネットワークを介して受信する各鉱山車両Vの位置データや稼働データ等のログデータ、表示端末装置30からの各種要求データ等が入力される。各鉱山車両Vの位置データは、各鉱山車両Vにそれぞれ搭載された測位装置(例えばGNSS移動局)の出力である。稼働データは、鉱山車両Vに搭載された各種センサ(不図示)の出力、例えば鉱山ダンプV1であれば積載重量を計測する重量計(例えばロードセル)や燃料残量を計測する燃料センサ(例えば液面計)の出力であり、この他に車両制御に適用されている制御パラメータ(後述)等を含めることもできる。要求データは、表示端末装置30の操作に応じた各種データ表示を要求する旨の信号である。また、処理装置10は、記憶装置20にデータを記録したり、記憶装置20からデータを読み出したりする。
【0015】
特に、本実施形態の処理装置10には、各鉱山車両Vの位置データ及び稼働データに基づき、鉱山現場Sにおける各々の鉱山車両Vの走行経路を経路ID毎に分類する機能が備わっている。
【0016】
本願明細書において、「走行経路」とは一の放土場から次の放土場に移動するまでに走行した経路をいう。つまり、1台の鉱山車両Vが積荷を放土した一の放土場を始点とし、次に放土する放土場(一の放土場で放土した後に所定の積込場で積載した積荷を放土する場所)を終点とする経路が、走行経路である。鉱山車両Vの放土は、鉱山車両Vに車載された重量計の出力の変化に基づいて判定することができる。例えば、設定値m1以上の積荷重量が設定値m2(m2<m1)以下に減少した場合に、積荷が放土されたと判定される。鉱山車両Vの走行経路は、鉱山車両Vに車載された測位装置から逐次出力される位置データから特定される。
【0017】
また、以下において、「サイクル」と記載した場合には、鉱山車両Vが走行経路の始点から終点までの間に行うプロセス、つまり一の放土場から積込場への移動、積荷の積載、次に放土する放土場への移動、そして放土の一連のプロセスをいう。
【0018】
各実施形態において、鉱山車両Vの走行経路は、地表面を等間隔に分割したメッシュ、つまり走行に伴って進入した地点の複数のメッシュのIDで表されるメッシュ集合で定義される。走行経路を定義するメッシュ集合は、鉱山車両V毎に各測位装置からの受信データに基づき、処理装置10により生成され、鉱山現場Sに規定されたいずれかの経路ID、或いは新規経路に分類される。
【0019】
また、処理装置10には、各鉱山車両Vの位置データ及び稼働データに基づき鉱山の生産性指標のデータを演算する機能、各鉱山車両Vの部品の劣化状態や制御パラメータの良否を判定するする機能も備わっている。
【0020】
「制御パラメータ」とは、例えば、エンジンのアイドル回転数、最高回転数、エンジンレスポンス等といった各鉱山車両Vの走行制御に関するパラメータである。例えば、一般的に最高回転数はエンジン出力に関係する。最高回転数の設定が高いほど鉱山車両Vの登坂速度が上昇し、最高回転数の設定が低いほど登坂速度が低下する。アイドル回転数は車速が上昇し始めるタイミングに関係する。アイドル回転数の設定が高いほど鉱山車両Vが加速し始めるまでの時間が短く、低いほど所定のエンジン回転数に上昇するまでに時間がかかる。その他、エンジンレスポンスの設定に応じて操作フィーリングが変化する。エンジンレスポンスは、例えばECU(Engine Control Unit)のプログラムにより調整される。
【0021】
鉱山車両Vの制御パラメータには、それぞれ、標準パラメータに加え、他のパラメータが予め幾つか規定値として記憶装置20に記録されている。鉱山車両Vは、各制御パラメータについていずれかの規定値が適用されて鉱山現場Sを走行する。鉱山車両Vに対する制御パラメータの設定は、例えば鉱山車両Vの走行制御装置(コントローラ)に所定の端末装置を接続し、接続した端末装置を操作することで鉱山車両Vの走行制御装置に所定の制御パラメータが書き込まれて設定される。鉱山車両Vの走行制御装置が、受信した制御パラメータを自らに適用する機能を有する場合、例えば表示端末装置30で設定された制御パラメータが、処理装置10によって記憶装置20に記録されると共に鉱山車両Vに送信され、鉱山車両Vに自動的に適用されるようにすることもできる。また、鉱山現場Sで稼働する各々の鉱山車両Vについて、制御パラメータを個別に設定することも考えられるが、鉱山現場Sで稼働する全鉱山車両Vに共通の制御パラメータが設定されるようにすることもできるし、例えば経路ID毎に異なる制御パラメータが各々の鉱山車両Vに設定されるようにすることもできる。
【0022】
「生産性指標」とは、鉱山現場Sの生産性を判断したり評価したりするための項目である。生産性指標の具体例としては、各鉱山車両Vの燃料1リットル当たりの積荷の運搬量(T/L)や単位時間当たりの運搬量(T/h)、単位時間当たりの燃料消費量(L/h)等である。その他、走行距離、走行時間、燃費値等も生産性指標として例示できる。これらの生産性指標のデータは、例えば、所定期間中に鉱山現場Sで稼働する鉱山車両V毎の値、全鉱山車両Vの総計値、経路ID毎の値、全経路IDの総計値として演算することができる。こうした生産性指標の値は、同一の鉱山車両Vが同一の走行経路を走行する場合でも、鉱山車両Vに適用される制御パラメータにより変動し得る。
【0023】
例えば、エンジンの最高回転数を下げると鉱山車両Vの登坂速度が低下する。また、エンジンのアイドル回転数を下げると鉱山車両Vの加速が遅くなる。この場合、単位時間当たりの積荷の運搬量(T/h)が低下し、生産性を下げる一因となり得る。但し、鉱山現場Sにおいて、積込場における順番待ちや渋滞等により多少の速度差は吸収され、走行経路によっては最高回転数の設定が単位時間当たりの積荷の運搬量にほとんど影響しない場合もある。それに対し、エンジンの最高回転数やアイドル回転数を下げると燃料消費量が抑えられ、燃料1L当たりの積荷の運搬量(T/L)や単位時間当たりの燃料消費量(L/h)の値が改善され得る。稼動する鉱山車両Vの数が多い大規模な鉱山現場Sであれば、各々の鉱山車両Vに適用する制御パラメータ次第で年間の総燃料費に巨額の差が生じ得る。制御パラメータは、その設定により各生産性指標の値にどのような変化が予想されるのかを把握しつつ、各生産性指標の値の変化を総合的に考慮して設定することが望まれる。
【0024】
鉱山管理システム1は有益なシステムであり、制御パラメータにより各生産性指標の値がどのように変化するのかを推定することができ、制御パラメータによる各生産性指標の変動や推奨される制御パラメータをユーザに提示することができる。場合によっては、鉱山管理システム1を、演算した推奨制御パラメータを鉱山車両Vに送信して各鉱山車両Vに適用するように構成することも可能である。
【0025】
なお、鉱山車両Vの稼働データや位置データは、鉱山管理システム1にリアルタイムに送信されることが望ましいが、鉱山現場Sの通信状況や通信コストによって必ずしも逐次送信できるとは限らない。処理装置10については、稼働データ等が逐次受信できる場合には入力される稼働データ等を逐次処理する構成とすることもできる。しかし、稼働データ等が逐次受信できない場合、ある程度まとまった量の稼働データをバッファリングし、バッファリングした稼働データを処理する構成とすることもできる。ある程度まとまった量としては、例えば、過去の走行経路の放土から放土までの時間の最長時間分のデータ量を挙げることができる。
【0026】
記憶装置20(例えばデータベース)には、処理装置10で生成された走行経路について、メッシュ集合、稼働データ、及び鉱山車両Vの車両IDが紐づけて記録され蓄積される。この記憶装置20に、まとめて管理される同一の鉱山現場Sを走行する各鉱山車両Vの位置データ及び稼働データが集約される。記憶装置20は、単一の記憶装置である必要はなく、ネットワークを介して接続される複数の記憶装置で記憶装置20を構成しても良い。
【0027】
表示端末装置30は、表示装置を備えるコンピュータ、典型的には、例えばノートパソコンやタブレット端末、スマートフォン等のモバイルコンピュータであり、処理装置10との間でデータを授受し、処理装置10からの受信データを表示する。表示端末装置30は、操作に応じて処理装置10に所望の表示の要求信号を送信し、鉱山現場Sに関する生産性指標、各鉱山車両Vの劣化状態、各鉱山車両Vの制御パラメータの良否等の処理装置10の応答を受信し、表示装置に表示する。鉱山管理システム1のユーザは、表示端末装置30に表示されるデータを確認して鉱山現場Sの生産性の低下や低下の兆候を早期に把握し、生産性の低下要因に応じて対策を実施することで、鉱山現場Sの生産性を維持管理することができる。
【0028】
表示端末装置30の情報の表示形式は、レポート形式やメール形式等といった種々の形式が採用可能であるが、本実施形態ではダッシュボード形式が採用される。例えば、鉱山現場Sの運行管理者P1の場合、各サイクルに費やされた時間を表示端末装置30に表示されるダッシュボード情報で閲覧し、各鉱山車両Vの運行計画を見直すことができる。オペレータ指導者P2の場合、例えば急発進や急制動の頻度が高いような運転技術が未熟なオペレータをダッシュボード情報から見つけ出し、運転指導を行うことができる。路面保守員P3の場合、生産性低下につながる路面の荒れが疑われる場所等をダッシュボード情報から早期に見つけ出して補修を実施することができる。機器保守員P4の場合、鉱山車両Vの車載機器の劣化や故障の早期判断、速やかな修理の実施、走行経路に応じて鉱山車両Vの燃費を向上させるための制御パラメータの較正等に、ダッシュボード情報を利用することができる。また、採掘責任者P5の場合、インターネットINを介して取得した天候情報(履歴及び/又は予測)や鉱物価格(履歴及び/又は予測)と合わせてダッシュボード情報を確認し、採掘計画、保守計画を修正することができる。また、採掘責任者P5は、ダッシュボード情報等の確認結果に基づき、運行管理者P1、オペレータ指導者P2、路面保守員P3、機器保守員P4に生産低下の防止策を指示することができる。
【0029】
(第1実施形態)
-経路分類・生産性指標演算の機能-
第1実施形態では、機器保守員P4に鉱山現場Sの生産性を改善する制御パラメータを通知するシステムについて説明する。
【0030】
図2は生産性指標を経路IDと紐づけて記録する機能に係る処理装置10のブロック図の一例である。図2では、処理装置10の経路分類及び生産性指標演算の機能に関し、ブロック11-13で表されている。
【0031】
ブロック11において、処理装置10は、鉱山車両Vに搭載された測位装置や重量計等による位置や積載量等のデータを基に、鉱山現場Sで走行中の各鉱山車両Vの走行経路について、メッシュ集合を生成する。メッシュ集合は、前述した通り本実施形態では一定量のデータがバッファリングされる都度生成される。ブロック11でメッシュ集合が生成される走行経路は、経路IDがまだ分類されていない経路であり、これ以降「未分類走行経路」と記載する。
【0032】
ブロック12において、処理装置10は、経路テーブルとしてのデータベース21に登録された各経路IDに紐付けられたメッシュ集合と比較することにより、未分類走行経路を分類する。未分類走行経路の分類のアルゴリズムについては後述する。
【0033】
データベース21は、記憶装置20又はその記憶領域の一部である。データベース21には、例えばテーブル形式のデータ構造で経路ID毎にメッシュ集合のデータが記憶されている。このデータベース21に記録された経路IDに係る走行経路は、分類済みの既知の経路であり、これ以降「分類済み走行経路」と記載する。
【0034】
ブロック12において、未分類走行経路がデータベース21に既に記録されている経路IDのいずれかに該当すると判定される場合、該当する分類済経路の経路IDが出力される。反対に、ブロック12において、未分類走行経路が既存の経路IDのいずれにも該当しないと判定される場合、新規経路IDが出力され、また新規経路IDに未分類走行経路のメッシュ集合が紐づけられてデータベース21に記録される。
【0035】
ブロック13において、処理装置10は、分類した走行経路に係る鉱山車両Vの稼働データ(燃料消費量、積荷運搬量、走行距離、サイクル開始時刻、サイクル終了時刻等)を基に、鉱山の生産性指標(例えば、運搬量(T/L)、運搬量(T/h))の値とサイクルIDを生成する。「サイクルID」とは、鉱山車両Vがサイクルを実行する毎に付与されるIDであり、例えば走行頻度の高い経路IDほど多数のサイクルIDが紐づけられ、データ数が豊富になる。ここで生成される生産性指標のデータ及びサイクルIDは、車両IDや、鉱山車両Vに適用された制御パラメータと共に経路IDと紐づけられて生産性テーブルとしてのデータベース22に記録される。
【0036】
データベース22は、記憶装置20又はその記憶領域の一部である。データベース22には、例えばテーブル形式のデータ構造で経路ID毎に、生産性指標のデータ、サイクルID、車両ID、及び制御パラメータが記録される。このデータベース22に基づき、例えば、所定期間における各鉱山車両Vの生産性指標のデータを経路ID毎に評価することができ、同一経路IDの生産性指標の優劣からエネルギー効率が低下した車両(劣化車両)や、制御パラメータの調整の要否を判断することができる。
【0037】
-走行経路-
図3は本発明において走行経路を表すメッシュ集合の説明図である。図3の例では、サイクルの開始位置(始点)である放土場Oから、サイクルの終了位置(終点)である次の放土場Dまでの移動経路を模式的に示している。個々のメッシュの形状はここでは正方形(例えばquadkey)としているが、同一形状で鉱山全体をカバーできるものであれば、メッシュの形状としては、例えば六角形(ハニカム)や長方形(GeoHash)を採用することもできる。また、メッシュの縦横(緯度方向及び経度方向)の大きさは、1台の鉱山車両Vの全部が納まり、かつ鉱山車両Vの最大速度における測位装置のサンプリングの1周期の移動距離より長く設定される。正方形のメッシュの場合、メッシュの大きさは、例えば30×30mの地表面に対応する。
【0038】
図3においては、放土場Oから放土場Dに移動するまでに鉱山車両Vが通過したメッシュを太線で囲って表している。この太線で囲った複数のメッシュのメッシュIDの集合(m1,m2,…,mx)が、鉱山車両Vの走行経路を表すメッシュ集合である。鉱山車両Vの走行経路は、例えば鉱山車両Vに設置された測位装置により測定され、通過したメッシュのメッシュIDを収集してメッシュ集合が生成される。こうしたメッシュ集合を用いることで、煩雑な途中地点の設定や距離閾値を用いた判断が不要となり、さらには後述の集合演算による経路分類が簡単に実現できる。
【0039】
-経路判定の基本概念-
図4は本発明による走行経路の判定アルゴリズムの基本概念を表すベン図である。第1の走行経路のメッシュ集合AがメッシュIDの集合(m1,m2,m3,m4,m5,m6,…,mx)で表され、第2の走行経路のメッシュ集合BがメッシュIDの集合(m1,m2,m4,m6,…,my)で表される場合を考える。この場合、メッシュ集合A,Bの論理和である和集合Σ(=A∪B)、和集合Σとメッシュ集合Aとの論理差である第1差集合Δ1(=Σ-A)、和集合Σとメッシュ集合Bとの論理差である第2差集合Δ2(=Σ-B)が求まる。第1差集合Δ1の大きさは、第1の走行経路に対する第2の走行経路の不一致度、第2差集合Δ2の大きさは、第2の走行経路に対する第1の走行経路の不一致度に当たる。
【0040】
本実施形態では、第1差集合Δ1及び第2差集合Δ2の大きさをそれぞれに設定した閾値S1,S2と比較することで、第1の走行経路と第2の走行経路が同一経路であるのか別経路であるのかが判定される。つまり、第1の走行経路が第2の走行経路に一致しているかを判定する場合、2つの走行経路の一致領域の大きさではなく、2つの走行経路の不一致領域の大きさを評価して両走行経路が同一視できるかが判定される。不一致度は、第1差集合Δ1及び第2差集合Δ2そのものの大きさに限らず、例えば和集合Σに対する第1差集合Δ1及び第2差集合Δ2の比率R1,R2(R1=Δ1/Σ,R2=Δ2/Σ)に変換して評価しても良い。
【0041】
なお、集合の大きさとは、例えば集合を構成するメッシュの数であり、第1差集合Δ1及び第2差集合Δ2の大きさは、これら差集合を構成するメッシュの数に相当する。
【0042】
-経路判定の類型-
図5は、図4で説明したメッシュ集合A,Bに係る2つの走行経路について、処理装置10により同一経路であると判定される場合と別経路であると判定される場合の類型の例を表すベン図である。処理装置10は、第1差集合Δ1と第2差集合Δ2の大きさ(本例では比率R1,R2)のいずれもが、それぞれに予め設定された閾値S1,S2以下である場合、メッシュ集合A,Bに係る2つの走行経路は同一経路であると判定する。反対に、処理装置10は、第1差集合Δ1と第2差集合Δ2の大きさ(比率R1,R2)の少なくとも一方が閾値S1,S2より大きい場合、メッシュ集合A,Bに係る2つの走行経路は別経路であると判定する。比率R1に対する閾値S1と比率R2に対する閾値S2は、異なる設定値であっても良いが、本実施形態では共通の値(例えば0.2)を設定している。
【0043】
このような判定アルゴリズムにより、処理装置10は、図5の類型aのように、比率R1が閾値S1以下で、かつ比率R2が閾値S2以下である場合、メッシュ集合A,Bに係る2つの走行経路は同一経路であると判定する。それ以外の場合、つまり比率R1,R2の少なくとも一方が閾値より大きい場合、処理装置10は、メッシュ集合A,Bに係る2つの走行経路は別経路であると判定する。比率R1,R2の少なくとも一方が閾値より大きくなる典型として、図5に類型b,c,dを例示している。
【0044】
図5の類型bは、比率R1が閾値S1より大きく、かつ比率R2が閾値S2より大きい場合であり、2つの走行経路が部分的にも一致しない全くの別経路や、2つの走行経路が一部一致するものの放土場及び積込場の少なくとも1つが異なる場合、類型bに該当し得る。全くの別経路の場合、Δ1=B,Δ2=Aのベン図となる。
【0045】
類型cは、比率R1,R2のいずれか一方が対応する閾値S1又はS2より大きく、かつ比率R1,R2の他方が対応する閾値S1又はS2以下になる場合である。類型cには、一方の走行経路が他方の走行経路にある程度一致するが、他方の走行経路が一方の走行経路から大きく逸脱する場合が該当する。例えば、2つの走行経路は予定では同じ経路で始点及び終点が同じであるものの、一方の走行経路は休憩等の理由で鉱山車両Vが予定の経路から逸脱した場合(寄り道があった場合)、メッシュ集合A,Bが類型cに示したようなベン図となる場合がある。類型cに表したメッシュ集合Aの走行経路は、メッシュ集合Bに係る走行経路の生産性を評価するデータとしては例外として区別されることが望ましい場合がある。
【0046】
類型dは、比率R1,R2のいずれか一方がゼロで、かつ比率R1,R2の他方が対応する閾値より大きい場合である。類型dには、一方の走行経路の全部が他方の走行経路の一部に一致する場合(一方の走行経路が他方の走行経路に内包される場合)が該当する。この内包の例としては、一方の走行経路の2つの放土場及び積込場が全て他方の走行経路上にあり、かつ一方の走行経路の2つの放土場の少なくとも一方が他方の走行経路の途中にある場合が挙げられる。類型cに表したメッシュ集合A,Bの走行経路は、異なる経路であるため区別されることが望ましい。
【0047】
-経路分類手順-
図6は本実施形態に係る鉱山管理システム1の経路分類の手順の一例を表すフローチャートである。
【0048】
処理装置10は、鉱山現場Sを各鉱山車両Vが走行する度に各鉱山車両Vで新たに取得される位置データや稼働データを基に、それら新たなデータに係る未分類走行経路の経路を分類し、記憶装置20に記録する。処理装置10は、図4で説明したメッシュ集合Aを未分類走行経路のメッシュ集合、メッシュ集合Bを記憶装置20に記録された分類済走行経路のメッシュ集合として、未分類走行経路が分類済み経路と同一経路であるのか、又はいずれの分類済み経路にも該当しない新規経路であるのかを判定する。
【0049】
処理装置10は、各鉱山車両Vの位置データや稼働データを随時受信し、それらデータを一定量バッファリングする毎に、図6のフローチャートの処理を自動的に実行する。
【0050】
ステップS601
新たに未分類走行経路について通過メッシュのメッシュIDが一定量バッファリングされると、処理装置10は、図6の処理を開始して、未分類走行経路のメッシュ集合Aを生成する。
【0051】
ステップS602
メッシュ集合Aを生成したら、処理装置10は、未分類走行経路のメッシュ集合Aと、分類済み走行経路(サイクルID)のメッシュ集合Bについて、前述した和集合Σ、第1差集合Δ1、及び第2差集合Δ2を演算する。本実施形態では、メッシュ集合Aに係る未分類走行経路と各メッシュ集合Bに係る分類済み走行経路との不一致度を評価する値として、各メッシュ集合Bについて前述した比率R1,R2を更に演算することとする。
【0052】
分類済み走行経路(サイクルID)が複数ある場合、分類済みの各サイクルIDのメッシュ集合Bをそれぞれメッシュ集合Aと比較し、和集合Σ、第1差集合Δ1、及び第2差集合Δ2をそれぞれ演算する。但し、分類済み走行経路が多数(例えば予め設定した設定数以上)ある場合、処理装置10の処理負荷軽減が過大になる可能性もある。この場合、予め定めた数(例えば上記設定数)又は分類済み走行経路の全数に予め定めた係数(例えば0.2)を乗じた数だけの分類済み走行経路を抽出し、抽出した分類済み走行経路の各メッシュ集合Bについて、和集合Σ、第1差集合Δ1、及び第2差集合Δ2をそれぞれ演算するようにしても良い。
【0053】
そして、メッシュ集合A,Bの不一致度の最小値を特定する。この場合、例えば比率R1,R2(又はΔ1,Δ2)の平均値(若しくは加重平均値)又は合計値が最も小さいメッシュ集合Bを特定し、特定したメッシュ集合Bに係る不一致度を最小不一致度として特定することができる。分類済み走行経路が1つのみである場合、この分類済み走行経路に係る不一致度が、必然的に最小不一致度となる。
【0054】
ステップS603
最小不一致度を演算したら、処理装置10は、最小不一致度が予め設定された閾値より大きいか閾値以下であるかで、未分類走行経路が最小不一致度に係る分類済み走行経路(サイクルID)と別経路であるのか同一経路であるのかを判定する。具体的には、図4及び図5で説明した通り、第1差集合Δ1と第2差集合Δ2(この例では比率R1,R2)のいずれもが、それぞれに予め設定された閾値S1,S2(例えば0.2)以下である場合、不一致度は閾値以下であると判定され(N)、未分類走行経路と最小不一致度に係る分類済み走行経路とは同一経路であると判定される。この場合、ステップS603からステップS606に手順が移行する。他方、第1差集合Δ1と第2差集合Δ2(この例では比率R1,R2)の少なくとも一方が閾値S1,S2より大きい場合、不一致度は閾値より大きいと判定され(Y)、未分類走行経路と最小不一致度に係る分類済み走行経路とは別経路であると判定される。この場合、ステップS603からステップS604に手順が移行する。
【0055】
ステップS604
最小不一致度が閾値よりも大きい場合、処理装置10は、ステップS601で生成したメッシュ集合Aに係る未分類経路を新規経路として追加し、記憶装置20のデータベース21に記録する。
【0056】
ステップS605
未分類走行経路を新規経路として追加したら、処理装置10は、追加した新規経路を分類するための新規経路IDを生成し、当該新規経路IDに、当該未分類走行経路に係るメッシュ集合A、当該未分類走行経路で得られた稼働データ、稼働データから演算される生産性指標のデータ、及び当該未分類走行経路を走行した鉱山車両Vの車両IDを紐づけて記憶装置20に記録し、図6の処理を一旦終了して次の処理開始まで待機する。
【0057】
ステップS606
最小不一致度が閾値以下である場合、処理装置10は、当該未分類走行経路を最小不一致度に係る分類済み走行経路(サイクルID)と同一の経路IDに分類し、分類した経路IDに、メッシュ集合A、稼働データ、生産性指標、及び車両IDを紐づけて記憶装置20に記録し、図6の処理を一旦終了して次の処理開始まで待機する。
【0058】
-従来方式との比較-
図7はいわゆるノード・リンク方式の鉱山管理システムと本実施形態の鉱山管理システム1との比較表である。いわゆるノード・リンク方式において、鉱山車両の走行経路はノードとリンクで表される。鉱山車両の走行位置情報と既存経路のノードとの距離が距離閾値より小さければ、鉱山車両がそのノードを通過したと判定される。このように通過したと判定されたノード数が一致判定閾値よりも多ければ、鉱山車両の走行経路は既存経路と同一経路であると判定される。しかし、この判定に要する処理は煩雑であり、少なくとも比較するノードの数だけ位置情報の距離演算が必要である。また、既存経路を設定するのに必要なパラメータが、各ノードの位置、ノード数、距離閾値、一致判定閾値と多く、これらパラメータを適切に設定しなければ経路判定を誤る恐れがある。また、鉱山車両の測位誤差や走行路のずれについては距離閾値の調整で対応できるが、前述した内包や寄り道については判別できず、判別するには更なる判別条件を加える必要がある。
【0059】
これに対し、本実施形態では走行経路の位置データをメッシュ集合(メッシュIDの集合)に変換し、未分類走行経路と分類済走行経路のメッシュ集合の不一致度を評価することで、ノード・リンク方式の上記課題が解決される。具体的には、経路分類に必要な演算が、和集合Σに対する分類済み走行経路のメッシュ集合Bの不一致度(第1差集合Δ1又は比率R1)の演算、及び和集合Σに対する未分類走行経路のメッシュ集合Aの不一致度(第2差集合Δ2又は比率R2)の演算の2つで済む。また、経路分類に適合するパラメータも、メッシュの格子サイズと、上記不一致度を評価するための閾値S1,S2のみである。路面状態や運転技能のばらつき、悪路や他車両の回避運転等、GNSSの測位誤差による走行路のずれにも、メッシュサイズを調整することにより容易に対応することができる。更には、本実施形態の経路分類のアルゴリズムでは、経路同士の不一致度を評価することにより、前述したように内包や寄り道も、分類済み経路とは別経路として判別することができる。
【0060】
例えば、未分類走行経路が「寄り道」を伴う経路である場合、未分類走行経路は、分類済み走行経路と始点及び終点が同じであっても経路の途中で分類済み経路から逸脱する。寄り道の場合、未分類走行経路と分類済走行経路のメッシュ集合A,Bは、図5の類型cに示したベン図のような関係となるため、第2差集合Δ2(又は比率R2)が閾値S2より大きく、かつ第1差集合Δ1(又は比率R1)が閾値S1以下となる。この場合、第1差集合Δ1(又は比率R1)は閾値S1以下であるが、第2差集合Δ2(又は比率R2)が閾値S2より大きいため、処理装置10においては、メッシュ集合A,Bに係る2つの走行経路は別経路として区別される。必要であれば、単に別経路として区別するだけではなく、「寄り道」のあった走行経路であることがサイクルIDの付加情報として記録されるようにしても良い。
【0061】
また、未分類走行経路が他の走行経路に「内包」される経路である場合、未分類走行経路は、分類済み経路の一部に全部が一致する。内包の場合、未分類走行経路と分類済走行経路のメッシュ集合A,Bは、図5の類型dに示したベン図のような関係となるため、第1差集合Δ1(又は比率R1)がゼロで、かつ第2差集合Δ2(又は比率R2)が閾値S2より大きくなる。この場合、第1差集合Δ1(又は比率R1)は閾値S1以下であるが、第2差集合Δ2(又は比率R2)が閾値S2より大きいため、処理装置10においては、メッシュ集合A,Bに係る2つの走行経路は別経路として区別される。必要であれば、単に別経路として区別されるだけではなく、「内包」の走行経路であることがサイクルIDの付加情報として記録されるようにしても良い。
【0062】
-生産性指標の集計機能-
前述した通り、記憶装置20(データベース22)には、走行経路(サイクルID)毎に、鉱山車両Vの走行制御に適用された制御パラメータ(エンジンのアイドル回転数、最高回転数、エンジンレスポンス)が記録されている。処理装置10は、経路IDが同一の複数の分類済み走行経路(サイクルID)に係るデータを記憶装置20から参照し、制御パラメータ毎に、各サイクルIDの稼働データを基に演算される生産性指標の分析データを生成し、表示端末装置30に制御パラメータ毎の分析データを出力する。その際、走行頻度が高い経路IDほど、その生産性が鉱山現場Sの全体の生産性に与える影響が大きい。従って、処理装置10は、経路IDのデータ数(走行頻度)に応じて稼働データに重み付けをして集計データを加重平均して分析データを演算することが好ましい。図8を用いてこの処理の一例を説明する。
【0063】
図8は経路毎に生産性指標を集計する機能に係る処理装置10のブロック図の一例である。図8では、処理装置10の生産性指標の集計機能に関し、ブロック14,15で表されている。
【0064】
ブロック14において、処理装置10は、例えば表示端末装置30でユーザが設定した評価期間にデータベース22に蓄積された全ての(又は設定数以上の)分類済み走行経路(サイクルID)のデータを参照し、当該評価期間において、予め設定された頻度閾値よりも走行頻度が高い(つまり評価期間中のデータ数が所定数以上の)経路IDを評価経路IDとして抽出する。
【0065】
ブロック15において、処理装置10は、抽出された評価経路IDの各サイクルIDの各生産性指標のデータをデータベース22から読み込み、評価経路ID毎に生産性指標のデータを集計する。
【0066】
なお、ブロック14の処理で用いられる頻度閾値は、例えば表示端末装置30でユーザが設定した値であり、例えば鉱山車両Vの運転者の運転技能やその他の条件(例えば他車両やショベル等の連携による待ち時間)による生産性指標の演算結果のばらつきを低減するために設ける条件である。従って、頻度閾値は、抽出される経路IDに特異サイクル(積込場での順番待ちや渋滞による影響を大きく受けたサイクル)が数サイクル程度含まれていても、集計結果に与える影響が一定以下となるだけのデータ数を持つ経路IDが抽出されるように、値が設定されることが望ましい。特に走行頻度が高い経路IDを評価することで、鉱山現場Sの全体の生産性評価の傾向を容易に知ることができる。
【0067】
-制御パラメータの評価手順-
図9は生産性指標の集計結果から推奨される制御パラメータを提示する手順の一例を表すフローチャートである。
【0068】
処理装置10は、制御パラメータによる生産性の比較について表示端末装置30からユーザの操作に応じた要求信号を受信すると、図9のフローチャートの処理を実行する。
【0069】
ステップS901
表示端末装置30から要求信号を受信すると、処理装置10は、ユーザが設定した評価期間中の評価経路を選定し、表示端末装置30に送信する。例えば、処理装置10は、評価期間中における各経路IDの走行頻度を演算し、走行頻度が高い順に経路IDを並べ、それら経路IDを評価経路IDの候補として、棒グラフ形式で頻度閾値とともに表示端末装置30に表示させる。選定した経路IDをパレード図で表示するようにしても良い。
【0070】
ステップS902
表示端末装置30において表示された候補から評価経路ID(一又は複数)が選択されたら、処理装置10は、表示端末装置30から送信されてきた評価経路IDについて、制御パラメータ毎に生産性指標のデータを集計し、更に経路IDの走行頻度に応じて加重平均して分析データを生成する。例えば、エンジンの最高回転数、アイドル回転数、エンジンレスポンスについて、標準パラメータとその他の代替パラメータ(パラメータα、パラメータβ、…)の分析データをそれぞれ演算する。評価経路IDが複数指定されている場合、評価経路ID毎に同じ要領で分析データを演算する。
【0071】
ステップS903
評価経路IDについて制御パラメータ毎に生産性指標の分析データを演算したら、処理装置10は、制御パラメータ毎に生産性指標を比較し、最も生産性指標の優れた制御パラメータを特定する。特定方法は、表示端末装置30で指定された生産性指標の比較により特定する方法の他、生産性指標に優先順位を定めておき優先順位の高い生産性指標の比較により特定する方法等を採用することができる。その結果、処理装置10は、標準パラメータよりも生産性が向上する代替パラメータがある場合(Y)にはステップS903からステップS904に、ない場合(N)にはステップS903からステップS905に手順を移す。
【0072】
ステップS904
標準パラメータよりも生産性が向上する代替パラメータがある場合、処理装置10は、最も生産性が高くなる代替パラメータ(例えばパラメータα)が推奨パラメータであることを示し、パラメータ毎の生産性指標の比較データを表示端末装置30に送信しダッシュボード情報として表示させ、図9のフローチャートの処理を終える。
【0073】
ステップS905
標準パラメータよりも生産性が向上する代替パラメータがない場合、処理装置10は、標準パラメータが推奨パラメータであることを示し、パラメータ毎の生産性指標の比較データを表示端末装置30に送信しダッシュボード情報として表示させ、図9のフローチャートの処理を終える。
【0074】
なお、図9では推奨パラメータをユーザ(例えば機器保守員P4)に提示し、制御パラメータを変更する場合にはユーザが各鉱山車両Vに乗り込んで推奨パラメータを設定することが想定されるが、鉱山車両Vの制御パラメータを遠隔で変更可能な場合、各鉱山車両Vに対して処理装置10から推奨パラメータのデータが送信され、ユーザの手作業を介さずに鉱山車両Vの制御パラメータが変更されるようにしても良い。また鉱山現場Sで稼働する全車両の制御パラメータを一律に設定するのではなく、例えば経路ID毎に推奨パラメータを図9の処理により決定し、経路ID毎に異なる制御パラメータを鉱山車両Vに設定するようにしても良い。
【0075】
-表示の例-
図10A及び図10Bに処理装置10が表示端末装置30に表示させる評価経路の選択画面の一例を示す。
【0076】
図10Aは評価経路IDの候補を提示する画面の一例を表す図である。図10Aの画面は、例えば図9のステップS901の手順で表示端末装置30に表示される。図10Aでは、評価期間中の走行頻度が多い順に経路IDを左から並べた棒グラフを、頻度閾値を共に表示した例を表している。なお、図10Aでは棒グラフを例示しているが、パレード図で表示しても良い。
【0077】
このような表示により、ユーザは、評価経路IDの候補として適当な経路IDが幾つあるかを一見して把握することができる。図10Aの例では、4つの経路IDが頻度閾値を超えており十分なデータ数を持つことが分かる。また、頻度閾値に対する余裕の程度等を考慮することにより、異常値が多少紛れ込んでも生産性の評価への影響が小さいかどうか推定できる。図10Aの例では、頻度閾値を超える4つの経路IDのうち最も左の経路IDが他の3つの経路IDに対して頻度閾値に対する余裕が大きく、同程度の数の異常値であれば最も影響が少ないことが推定される。
【0078】
図10Bは評価経路IDに紐付けられたメッシュ集合を可視化した画面の一例を表す図である。図10Bの画面には、例えば図10Aで選択した経路IDの軌道がメッシュで表示されている。特に図示していないが、鉱山現場Sの地図や衛星写真と重ねて表示することで、ユーザは、鉱山現場Sのどこを走行した経路であるのかを一見して把握でき、位置関係が近い他の経路ID(例えば積込場が異なるが放土場が共通する経路ID)について制御パラメータを検討する場合の参考にする場合にも便利である。
【0079】
図11A図11Dに処理装置10が表示端末装置30に表示させる分析データの表示画面の一例を示す。
【0080】
図11Aは選択した評価経路IDにおける制御パラメータ毎の走行頻度を棒グラフで示す画面の例である。図11Aでは、選択した評価経路IDの各サイクルIDのデータを基に、制御パラメータ毎に走行頻度つまり評価期間中のサイクルID数が多い順に左から並べた棒グラフを頻度閾値(図10Aの頻度閾値とは別の値でも良い)と共に表示した例を表している。このように表示することで、ユーザは、十分なデータ数があって比較することが有意義な制御パラメータを一見して把握することができる。
【0081】
図11Bは選択した評価経路IDにおける制御パラメータによる生産性の比較を示す画面の例である。図11Bに示す各制御パラメータの値は、集計されるサイクルIDのデータの代表値(例えば平均値や中央値)である。例えば、図11Bが表す生産性指標が燃料1リットル当たりの積荷の運搬量(T/L)であるとすると、評価経路IDにおいては、制御パラメータとして標準パラメータを設定するよりも代替パラメータ(特にパラメータα)を設定する方が、同じ燃料消費量で多くの積荷が運搬できることが分かる。このような表示は、燃料1リットル当たりの積荷の運搬量(T/L)に限らず、単位時間当たりの運搬量(T/h)についても可能である。また、同一の評価経路IDについて、複数の生産性指標の制御パラメータによる比較を一画面に並べて表示し、一覧できるようにすることもできる。
【0082】
図11Bの例の場合、燃料1リットル当たりの積荷の運搬量(T/L)ではパラメータαが推奨されることが分かるが、他の生産性指標についても確認することで、評価経路IDにおいてどの生産性指標でもパラメータαが推奨されるのか、或いは生産性指標によって推奨される制御パラメータが異なるのか、といったことを把握することができる。
【0083】
図11Cは選択した評価経路IDにおいて、同一の生産性指標について標準パラメータとパラメータαの走行頻度(サイクルIDの数)のヒストグラムを示す画面の例である。点線で示すヒストグラムが標準パラメータのデータであり、実線で示すヒストグラムがパラメータαのデータであるとする。図11Cの横軸は、指定した生産性指標、例えば燃料1リットル当たりの積荷の運搬量(T/L)である。図11Cの例では、標準パラメータのデータも代替パラメータのデータも正規分布に近く、ばらつきが小さく異常値の影響が少ないことが推定される。仮に図11Cにおいて標準パラメータに極端に運搬量(T/L)の悪いデータが一定数確認される場合、図11Bでは標準パラメータが好ましくないように見えても、その要因がイレギュラーなデータによるものである可能性があることが把握され、この点も考慮することでより妥当に制御パラメータを判断することができる。
【0084】
図11Dは複数の経路について制御パラメータによる生産性の差を示す画面の例である。複数の評価経路IDが選択された場合、それぞれの評価経路IDにおいて、どの制御パラメータを適用すれば(図11Dの例では標準パラメータ及びパラメータαのどちらを適用すれば)、生産性、例えば燃料1リットル当たりの積荷の運搬量(T/L)が高くなるのかを一覧することができる。図11Dの例では、点線で示す棒グラフが標準パラメータのデータを表し、実線で示す棒グラフがパラメータαのデータを表している。図11Dの例では、4つの経路IDについて、制御パラメータによる生産性の違いを表しているが、これら経路のうち走行頻度が高い経路IDで生産性が高くなる制御パラメータを選択することで、鉱山現場S全体の生産性の改善につながる。また、そのような選択をした場合に、他の経路IDで生産性がどのように変化し得るかを把握することもできる。
【0085】
-効果-
以上の通り、本実施形態では走行経路の位置データをメッシュ集合に変換し、未分類走行経路と分類済走行経路のメッシュ集合の不一致度を評価する。これにより、経路分類に必要な演算が不一致度の演算の2つで済み、経路分類に適合するパラメータもメッシュの格子サイズと不一致度を評価する閾値S1,S2のみで足りる。GNSSの測位誤差や鉱山車両Vの走行路のずれにも、経路判定用の地点を設定したり地点ごとの距離閾値を設定したりする必要がなく、メッシュサイズの調整で対応できる。更には、前述したように「内包」や「寄り道」に係る走行経路を、分類済み経路とは別経路として判別することもできる。分類経路毎に経路判定用の地点を設定する必要がないので、放土場や積込場が移動しても、これに応じて経路判定用の地点や距離閾値を設定し直す作業も発生しない。従って、本実施形態によれば、鉱山車両Vの走行経路を精度良く容易に分類することができる。
【0086】
また、精度良く走行経路を分類できるので、経路ID毎のデータ数(サイクルID数)も精度良く集計することができ、更には生産性指標の値を適正に評価することができる。また、経路ID毎に制御パラメータによる生産性の差を演算し表示することができるので、経路ID毎の制御パラメータの設定又はユーザの判断の適正化に貢献することができる。その際、経路ID毎のデータ数を精度良く集計できるので、走行頻度が真に高い経路IDを特定し、走行頻度が高い走行経路で生産性が高くなるように制御パラメータを選択することで、鉱山現場Sの全体の生産性を容易に改善することができる。
【0087】
(第2実施形態)
図12及び図13を用いて本発明の第2実施形態を説明する。
【0088】
本実施形態が第1実施形態と相違する点は、経路分類後の分析内容であり、同一経路を走行する鉱山車両V同士で生産性を比較する。具体的には、処理装置10は、経路IDが同一の走行経路に係る複数のデータを記憶装置20(データベース22)から参照し、稼働データを基に演算される生産性指標のデータを車両ID毎に比較した分析データを生成し、表示端末装置30に分析データを出力する。これにより、劣化車両の抽出等をすることができる。経路分類の処理については第1実施形態と同様であり、説明を省略する。
【0089】
図12は劣化車両を判定する手順の一例を表すフローチャートである。
【0090】
処理装置10は、制御パラメータによる生産性の比較について表示端末装置30からユーザの操作に応じた要求信号を受信すると、図12のフローチャートの処理を実行する。
【0091】
ステップS1201
ステップS1201は、図9のステップS901の処理と同様の処理である。つまり、表示端末装置30から要求信号を受信すると、処理装置10は、ユーザが設定した評価期間中の評価経路を選定し、表示端末装置30に送信する。例えば、処理装置10は、評価期間中における各経路IDの走行頻度を演算し、走行頻度が高い順に経路IDを並べ、それら経路IDを評価経路IDの候補として、棒グラフ形式で頻度閾値とともに表示端末装置30に表示させる。表示は棒グラフ形式に限られるものではなく、他の表示形式であってもよい。また、選定した評価経路をパレート図で表示するようにしても良い。評価経路IDの表示は、たとえば鉱山車輛が稼働する地域を示す地図上でルートが特定できる態様(一例として直線)で表示される。また、評価経路IDを複数表示する場合、走行頻度の高いルートと低いルートが識別可能なように赤もしくは青などの色や、線の太さで示すこととしてもよい。
【0092】
ステップS1202
表示端末装置30において表示された候補から評価経路ID(一又は複数)及び評価する生産性指標が選択されたら、処理装置10は、表示端末装置30から送信されてきた評価経路IDについて、この評価経路IDを走行した車両ID毎に、選択された生産性指標のデータを演算する。ここで演算する生産性指標の値は、第1実施形態と同じ要領で経路IDの走行頻度に応じた加重平均値とすることができる。例えば、生産性指標として燃料1リットル当たりの積荷の運搬量(T/L)や燃費(L/km)を選択することで、鉱山車両Vのパワートレイン(エンジン、発電機、インバータ、及びモータ等)の劣化状態を推定することができる。評価経路IDを複数(少なくとも2以上)選択した場合、それぞれの生産性指標の比較結果を表示することとしてもよい。
【0093】
ステップS1203
車両IDについて生産性指標を演算したら、処理装置10は、選択された生産性指標のデータを車両ID毎に生産性閾値と比較し、生産性が生産性閾値以上であるかどうかを判定する。なお、生産性閾値には、過去の複数期間について複数の車両IDの生産性指標を演算し、その分散値σから定めることができる(例えば2-3σ)。
【0094】
ステップS1204
生産性閾値との比較の結果、処理装置10は、生産性が生産性閾値未満の車両IDについては劣化車両であると判定し、評価経路IDにおける生産性指標を他の車両IDと比較できる形式で表した分析データを表示端末装置30に表示させ、ユーザ(例えば機器保守員P4)に提示して図12のフローチャートの処理を終える。劣化車両の分析データの比較の際、生産性指標の値は生産性指標に含まれる複数の指標のうち指定した指標に基づいて、表示の順序を任意に変更することができる。
【0095】
ステップS1205
生産性閾値との比較の結果、処理装置10は、生産性が生産性閾値以上の車両IDについては正常車両であると判定し、評価経路IDにおける生産性指標を他の車両IDと比較できる形式で表した分析データを表示端末装置30に表示させ、ユーザ(例えば機器保守員P4)に提示して図12のフローチャートの処理を終える。正常車両の分析データの比較の際、生産性指標の値は生産性指標に含まれる複数の指標のうち指定した指標に基づいて、表示の順序を任意に変更することができる。
【0096】
図13A及び図13Bに処理装置10が表示端末装置30に表示させる車両の劣化状態の分析データの画面の一例を示す。
【0097】
図13Aは選択された経路IDを走行した車両ID毎の生産性を表示する画面の一例を表す図である。図13Aの例では、1つの評価経路IDにおける各車両IDの生産性指標の代表値(例えば平均値)が生産性閾値と共に表されており、車両IDは生産性の高い順に左から並べて表示されている。この表示により、車両ID(v1-v3)の鉱山車両Vは生産性が生産性閾値以上の正常車両であり、車両ID(v4)の鉱山車両Vは生産性が生産性閾値未満の劣化車両であることが分かる。
【0098】
図13Bは評価経路において各サイクルの所定の稼働データのヒストグラムを表す図である。所定の稼働データは、生産性低下要因を判断するために、例えば表示端末装置30でユーザが選択した稼働データであり、例えば、評価経路IDの1サイクル当たりの燃料消費量、積荷の運搬量、所要時間等といった稼働データのうちの1つ又は複数の項目である。稼働データが複数選択された場合、図13Bの表示が複数並べて表示されるようにすると良い。図13Bにおいて、点線で示すヒストグラムが正常車両(v1,v2,v3)のデータであり、実線で示すヒストグラムが劣化車両(v4)のデータであるとする。図13Bが1サイクル当たりの燃料消費量であるとすると、正常車両(v1,v2,v3)に対して劣化車両(v4)の方が全体として消費燃料が多いことが分かる。この場合、例えば劣化車両(v4)のパワートレインの異常が疑われる。
【0099】
本実施形態によれば、生産性が低下した劣化車両をユーザ(例えば機器保守員P4)が容易に把握することができる。また、正常車両と劣化車両に分け、正常車両に対する劣化車両の稼働データの傾向を比較することにより、劣化車両の生産性低下要因を推定し易くし、例えば機器保守員P4による劣化車両の保守作業の効率化を図ることができる。
【0100】
(第3実施形態)
図14図16を用いて本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態においては、経路分類の精度の更なる向上や演算負荷の抑制を図る方法について述べる。
【0101】
図14は全方位メッシュを説明するための概念図である。図14では、分類済走行経路のメッシュ集合Bを簡単のために1メッシュで表している。本実施形態においては、鉱山車両Vが通過した分類済走行経路のメッシュ集合Bに対し、メッシュ集合Bに隣接しメッシュ集合Bを縦、横、斜めに取り囲むメッシュの集合(図14のメッシュB1~B8)である全方位メッシュB’を、分類済み走行経路のメッシュ集合Bに加えることで、よりロバストに経路分類する。
【0102】
図15は全方位メッシュを用いた経路分類の例を説明するための模式図である。第1及び第2実施形態と同様、Bは分類済走行経路のメッシュ集合、Aはサイクル集合である。本実施形態では、新たにメッシュ集合Bの全方位メッシュ集合B’が記憶装置20のデータベース22に記録される。そして、経路分類処理の際、メッシュ集合A,B及び全方位メッシュ集合B’の和集合Σ’(=B∪B’∪A)からB∪B’を引いた差集合Δ2’(Δ2’=Σ’-(B∪B’))の比率R2’(R2’=(Σ’-(B∪B’)/Σ’)を演算する。差集合Δ2’又は比率R2’は、分類済み走行経路のメッシュ集合Bにその全方位メッシュ集合B’を加えた和集合に対する未分類走行経路のメッシュ集合Aの不一致度を表す。本実施形態では、第1及び第2実施形態のΔ2又はR2に代えてΔ2’又はR2’を用い、Δ2’又はR2’が閾値値S2よりも小さいかどうかを判定する。
【0103】
これにより、同一の経路IDに分類されるべき走行経路が別経路と判定されることがより効果的に抑制され、評価期間中の経路ID数が必要以上に増加することが抑制されると同時に、同一の経路IDのデータ数が増加する。そのため、より多くのデータに基づく制御パラメータや劣化車両の判断が可能となる。
【0104】
(第4実施形態)
図16は本発明の第4実施形態に係る鉱山管理システムを構成する処理装置の走行頻度が低い経路IDを削除する手順の一例を表すフローチャートである。本実施形態において、処理装置10は、予め設定された評価期間に記録されたデータ数が予め設定された設定数未満の経路IDのデータを記憶装置20(データベース22)から削除する。この点を除き、本実施形態で実行されるその他の処理は、第1~第3実施形態のいずれかと同様である。
【0105】
処理装置10は、例えば、図16の処理の前回の実行から予め設定した設定期間が経過すると、図16の処理を実行する。但し、図16の処理は、逐次実行されるようにしても良いし、分類済み走行経路の経路IDが予め設定された設定数に達した場合に実行されるようにしても良い。
【0106】
ステップS1601
図16の処理を開始すると、処理装置10は、まず各経路IDの走行頻度を演算するために予め定めた評価期間(例えば過去3ヶ月)を記憶装置20から読み込む。
【0107】
ステップS1602
評価期間を読み込んだら、処理装置10は、経路ID毎に評価期間中に蓄積されたサイクルIDの数を基に走行頻度を演算する。
【0108】
ステップS1603
各経路IDの走行頻度を演算したら、処理装置10は、走行頻度が予め設定された設定値(閾値)未満であるかどうかを判定する。走行頻度が設定値以上の経路IDについては、ここで図16の処理を終了する。走行頻度が設定値未満の経路IDについては、ステップS1604に手順を移す。
【0109】
ステップS1604
走行頻度が設定値未満の経路IDについて、処理装置10は、記憶装置20(データベース22)から経路IDを削除し、図16の処理を終了する。経路IDの削除処理については、データの消去に限らず、例えば経路分類に利用できない旨を規定する利用不可フラグの経路IDのデータへの追加でも良い。利用不可フラグが付された経路IDは、経路分類処理(図6)の実行時に利用データから除外される。
【0110】
本実施形態によれば、経路分類処理について分類候補から走行頻度の低い走行経路が除外され、不一致性の判定を要する走行経路が減少する分、処理装置10の演算負荷を抑えることができる。
【符号の説明】
【0111】
1…鉱山管理システム、10…処理装置、20…記憶装置、30…表示端末装置、A,B…メッシュ集合、D…放土場(終点)、O…放土場(始点)、S1,S2…閾値、V…鉱山車両、Δ1…第1差集合、Δ2…第2差集合、Σ…和集合
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16