(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141181
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】モノフィラメントの製造方法、モノフィラメント及びその利用。
(51)【国際特許分類】
D01F 6/62 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
D01F6/62 305Z
D01F6/62 302E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052683
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】大倉 徹雄
(72)【発明者】
【氏名】御林 毅
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB89
4L035BB91
4L035DD14
4L035EE09
4L035EE20
4L035FF01
(57)【要約】
【課題】ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含む、高い強度と伸度を有するモノフィラメントの製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含むモノフィラメントの製造方法であって、下記工程(i)及び(ii)を順次含む、モノフィラメントの製造方法。
(i)前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を溶融状態で紡糸ノズルから吐出後、冷却し、原糸に成形する工程
(ii)前記原糸を少なくとも1方向に、原糸の温度が60℃以下の温度で延伸する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含むモノフィラメントの製造方法であって、下記工程(i)及び(ii)を順次含む、モノフィラメントの製造方法。
(i)前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を溶融状態で紡糸ノズルから吐出後、冷却し、原糸に成形する工程
(ii)前記原糸を少なくとも1方向に、原糸の温度が60℃以下の温度で延伸する工程
【請求項2】
前記工程(ii)において、延伸倍率が3倍以上である、請求項1に記載のモノフィラメントの製造方法。
【請求項3】
繊度が15~5000dtex、引張強度が0.4~6cN/dtex、引張伸度が50%以上である、請求項1又は2のモノフィラメントの製造方法で製造されたモノフィラメント。
【請求項4】
前記繊度の範囲が1000~5000dtexの範囲である、請求項3に記載のモノフィラメント。
【請求項5】
基布に芝糸が植設された人工芝であって、前記芝糸は請求項1又は2に記載のモノフィラメントの製造方法で製造されたモノフィラメントを含む、人工芝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含むモノフィラメント樹脂組成物、モノフィラメント、人工芝およびモノフィラメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油由来プラスチックは毎年大量に廃棄されており、これらの大量廃棄物による埋立て処分場の不足や環境汚染が深刻な問題として取り上げられている。また近年、マイクロプラスチックが、海洋環境において大きな問題になっている。
【0003】
特に最近の調査において、人工芝の破断物がマイクロプラスチックとして近海で多く確認されており、対策が急務となっている。人工芝は、人の歩行時などで破断し、雨水と共に流されて海に到達すると推察されている。
【0004】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は優れた海水分解性を有しており、廃棄されたプラスチックが引き起こす環境問題を解決しうる材料であり、特許文献1には脂肪族ポリエステルを延伸することで伸縮性を付与したフィルムや繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/230807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、脂肪族ポリエステル共重合体を含むは、特定の結晶構造や配向度を有する伸縮性を有するフィルムや繊維が開示されているが、一度成形体を取得した後に延伸処理を行って製造しているため、工業的な生産性の点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含む、高い強度と伸度を有するモノフィラメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含む原糸を、特定の延伸条件を延伸することで、高い強度と伸びを両立するモノフィラメントを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含むモノフィラメントの製造方法であって、下記工程(i)及び(ii)を順次含む、モノフィラメントの製造方法に関する。
(i)前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を溶融状態で紡糸ノズルから吐出後、冷却し、原糸に成形する工程
(ii)前記原糸を少なくとも1方向に、原糸の温度が60℃以下の温度で延伸する工程
また本発明は、繊度が15~5000dtex、引張強度が0.5~6cN/dtex、引張伸度が50%以上である、前記製造方法により製造されたモノフィラメントにも関し、基布に芝糸が植設された人工芝において、芝糸が前記モノフィラメントを含む人工芝にも関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含む、高い強度と伸度を有するモノフィラメントを提供することができる。また、発明のモノフィラメントは、人工芝等の用途に好適に用いることが可能である。本発明の製造方法により、良好な生産性でモノフィラメントを製造することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】モノフィラメントの製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
本実施形態に係るモノフィラメントとは、1本の繊維からなる糸状の成形体のことを指し、本願においては、樹脂によって形成され得るモノフィラメントであれば特に限定されない。
【0014】
尚、本願においては、成形工程を経てモノフィラメントを製造するために用いられるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含む樹脂組成物をモノフィラメント用樹脂組成物と称することがある。
[モノフィラメントの製造方法]
本実施形態に係るモノフィラメントの製造方法では、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート系樹脂(以下、「P3HA」と称することがある。)を含む樹脂組成物を用いて溶融紡糸法によりモノフィラメントを製造する。
【0015】
前記製造方法は、樹脂組成物の溶融物を紡糸ノズルから吐出後、冷却し、原糸に成形する工程(i)と、前記原糸を少なくとも1方向に延伸倍率が3倍以上で延伸する工程(ii)とを順次含む。
【0016】
本実施形態に係るモノフィラメントの製造方法は、前記工程(i)及び工程(ii)を含んでいればよく、連続的であっても、非連続であってもよいが、延伸しやすい点で連続的に行うことが好ましい。
【0017】
以下では、
図1に示すモノフィラメントの製造装置1を用いてモノフィラメントを製造する方法を例に挙げて、前記製造方法について説明する。
(工程(i))
前記工程(i)は、樹脂組成物の溶融物を紡糸ノズルから吐出後、冷却し、原糸に成形する工程である。
【0018】
前記冷却する方法 は、樹脂組成物の溶融物を樹脂組成物が結晶化しうる温度まで冷却し固化できれば特に限定されないが、例えば、水浴、冷風などで冷却することができる。
【0019】
図1に示すように、前記工程(i)では、まず、P3HAを材料投入部2aに投入する。
【0020】
次に、該材料投入部2aから投入された材料を混練押出機2bで加熱しながら混練することにより、前記溶融物を得る。尚、投入する材料としては、ペレット状の樹脂組成物をであってもよいし、樹脂組成物を構成する各成分を別々に投入してもよい。
【0021】
前記混練押出機2bは、スクリュー押出機である。該混練押出機2bは、単軸押出機であっても、二軸押出機であってもよい。
【0022】
そして、吐出孔を有する紡糸ノズル2dを用いて、前記混練押出機2dで得られた溶融物を前記吐出孔から吐出することで溶融状態の糸状の樹脂組成物(原糸(A))を得る。
【0023】
なお、紡糸ノズル2dの吐出孔から吐出する溶融物の流量は、必要に応じギアポンプ2cで調整する。
【0024】
前記紡糸ノズル2dの温度は、例えば150~190℃が好ましく、160~180℃がより好ましい。
【0025】
前記紡糸ノズル2dは、吐出孔を1つ以上有し、吐出孔を複数有してもよい。
【0026】
前記紡糸ノズル2dが吐出孔を複数有することにより、複数本のモノフィラメントを同時に作製することができる。
【0027】
前記吐出孔の形状としては、例えば、円形状(楕円形状も含む概念)、四角形状(長方形や菱形も含む概念)、Y字状、X字状、H字状、多葉形状などが挙げられる。
【0028】
吐出孔の大きさとしては、例えば、吐出孔の形状が円形の場合、吐出孔の直径が、好ましくは0.5mm~20mm、より好ましくは1.0mm~10mmである。
【0029】
また、吐出孔の形状が円形の場合、吐出孔の長さ(L)/吐出孔の直径(D)、言い換えればL/Dは、好ましくは1~10、より好ましくは2~5である。
【0030】
1つの吐出孔から溶融物が吐出される吐出量は、好ましくは0.20~2.0kg/hr、より好ましくは0.40~1.2kg/hrである。
【0031】
前記工程(i)では、前記原糸を水浴3aに通過させることにより、樹脂組成物を冷却する。この工程において、前記原糸の少なくとも表面部において結晶化を進行させることで、水浴3a中で、ロールやバーなどの原糸の向きを変える治具3cへの粘着を抑制することができる。
【0032】
前記水浴3aの温度は、25~60℃が好ましく、30~40℃がより好ましい。
【0033】
前記工程(i)では、前記原糸を25~60℃の水浴3aに通過させる時間を調整することにより、原糸が軟化状態のまま原糸の向きを変える治具3cに粘着してしまうのを抑制しつつ、引き続き行う延伸工程(ii)での温度調整を容易とすることができる。
【0034】
前記工程(i)で、前記原糸を25~60℃の水浴3aに通過させる時間は、原糸の結晶化が過度に進行することを抑制し延伸工程(ii)での温度調整が容易となることから、2分以下が好ましく、1分以下が更に好ましい。これにより、原糸が硬くなるのを抑制できる。よって、前記工程(ii)での原糸の延伸が実施しやすくなる。その結果、モノフィラメントの強度を高めやすくなる。
【0035】
前記工程(i)で原糸を25~60℃の水浴3aに通過させる時間の調整は、水浴3a中の原糸の通過距離と、引取ロール部4での引取速度で調整することができる。
(工程(ii))
工程(ii)では、前記原糸を少なくとも1方向に原糸の温度が60℃以下の温度で延伸する。
【0036】
延伸の具体的な手法としては特に限定されないが、原糸を延伸方向に引き延ばすことで延伸する手法が好ましい。原糸を延伸方向に引き延ばすとは、原糸を延伸方向に引っ張ることを意味する。
【0037】
原糸を延伸方向に引き延ばす手法としては特に限定されない。バッチ式で延伸する場合には、原糸の両端部を把持して延伸方向に引っ張れば良い。
【0038】
原糸を連続的に搬送しながら搬送方向に延伸する場合には、例えば、引取ロール部4と延伸ロール部6の間で、ロールの回転速度に差を付けることによって搬送方向に延伸することができる。搬送方向の延伸倍率は、延伸前のロールの回転速度と延伸後のロールの回転速度の比で決定することができる。
【0039】
工程(ii)では、前記原糸を延伸させることにより、原糸に含まれるポリマー成分の結晶の配向性を高めることができ、これにより、モノフィラメントの強度を高めることができる。
【0040】
工程(ii)では、前記工程(i)にて、ロールへの粘着を低減し、かつ結晶化を過度に進行させていない原糸を延伸ロール部6との速度差で延伸することが好ましい。
【0041】
工程(ii)における延伸倍率は、3倍以上が好ましく、より高い強度や伸度を有するフィラメントを得られやすい点で、延伸倍率は4倍以上がより好ましく、5倍以上が更に好ましく、6倍以上が特に好ましい。
【0042】
工程(ii)において延伸する際、安定して延伸するために、加温部5にて適切な温度で加温することが好ましく、原糸の温度が60℃以下の温度であるが、55℃以下がより好ましく、50℃以下の温度が特に好ましい。 また周囲の気温の影響を受けにくいことから、25℃以上の温度であることが好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上の温度が特に好ましい。
【0043】
ここで、ポリマー成分の結晶の配向性を高めるには、ポリマー成分の結晶が形成され、かつ結晶化が過度に進行していない原糸を一連の工程で延伸させることが望ましい。ポリ―(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の場合、ポリマー成分の結晶化が進行しないと粘着しやすく原糸に成形することが容易ではないだけでなく、配向した結晶を形成するのが難しいため、モノフィラメントの強度を十分に高めることが難しくなるからである。また、ポリマー成分の結晶化が過度に進行すると固まり過ぎて原糸が延伸し難くなり、また、原糸を延伸させようとして原糸を無理に引っ張ると原糸が切れてモノフィラメントを製造できなくなるからである。また結晶化が過度に進行した原糸を延伸するべく、加熱して結晶を部分的に融解させるのは、原糸表面の結晶融解により粘着しやすくなるため、延伸可能な状態に加熱するのが容易ではないからである。
【0044】
本実施形態では、前記原糸を加温して前記延伸ロール部との速度差で延伸することにより、加温部において原糸の弾性率が他の部位より低下し、延伸が加温部で主になされるため、延伸状態の制御が容易となり、その結果、繊度の安定したモノフィラメントが得られやすくなる。
【0045】
加熱部5における原糸の加熱方法としては、原糸を所望の温度に調整する方法であれば特に限定されないが、例えば、前記温度範囲内に温度制御された、水浴に原糸を通過させる方法、温度制御された風を原糸にあてる方式、赤外線ヒーターなどの補助加熱手段を用いる方式、所定の温度に温調したロールに接触させる、所定の温度に温調した加熱炉を用いる方式等が挙げられ、これらを単独で使用してもよいし、複数組み合わせてもよい。
[モノフィラメント]
本実施の形態に係るモノフィラメントは、前記モノフィラメント用樹脂組成物を含む。
【0046】
本実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含むモノフィラメントは、引張強度が0.4~6cN/dtexであることが好ましく、0.5~5cN/dtexであることがより好ましく、0.6~4cN/dtexであることが更に好ましい。
【0047】
本実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含むモノフィラメントは、引張伸度が50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、100%以上であることが更に好ましい。
【0048】
本実施形態に係るモノフィラメントの引張強度及び引張伸度が上記の範囲にあると、実用的な強度を維持しつつ、引張などの応力がかかった際に伸びることで破断を抑制できることから、幅広い用途に適用が可能となる。特に、本願のモノフィラメントは、引張において伸びを有するだけでなく、応力を除荷すると、あたかもゴム紐の様に概ね元の長さに戻るという特徴を有する。人工芝の芝糸に使用する場合、人工芝上での人の歩行やスポーツ時のこすれに対し、破断が抑制できることから特に好ましい。
【0049】
本実施形態に係るモノフィラメントの引張強度及び引張伸度は、JIS L 1015:2021「化学繊維ステープル試験方法」に基づき、初期長20mm、速度20mm/minで測定した引張強さ及び引張伸度を意味する。
引張強度及び引張伸度の測定には、例えば、引張測定装置(島津製作所社製、オートグラフAG-1)を用いることができる。
【0050】
本実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含むモノフィラメントは、繊度が15~5000dtexであることが好ましく、1000~5000dtexであることがより好ましく、1000~3000dtexであることが更に好ましい。
【0051】
なお、モノフィラメントの繊度とは、単位長さあたりの質量であり、10,000mあたりの質量(g)を単位(dtex)で表す。モノフィラメントの繊度は、オートバイブロスコープ法により測定することができる。
【0052】
本実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含むモノフィラメントは、繊度が15~5000dtex、引張強度が0.4~6cN/dtexであり、かつ、引張伸度が50%以上であることが好ましい。
【0053】
本実施形態に係るモノフィラメントの断面(長手方向に垂直な断面)の形状としては、例えば、円形状(楕円形状も含む概念)、四角形状(長方形や菱形も含む概念)、Y字状、X字状、H字状、多葉形状などが挙げられる。
【0054】
本実施形態に係るモノフィラメントは、海洋資材、農業用資材、土木用資材、スポーツ器具用資材、自動車資材、医療用資材などに好適に使用することができる。具体的には、本実施形態に係るモノフィラメントは、例えば、釣糸、漁網、養殖用網、海藻類種苗糸、人工芝用芝糸、歯ブラシ用毛材、飲料抽出用フィルター(ティーバッグ用織物)、防虫ネット、防獣ネット、縫合糸、外科手術用ネット、ステント、補綴材、3Dプリント用フィラメント、テニス用ガット、面ファスナー、タイヤコード、印刷用スクリーン、鬘、ホース補強材、衣料用緯編地、草刈り用コード(線材)、網戸用ネット、織布、ターボリン、フィラメントコア紡績糸のコアフィラメント、リボンなどとして用いることができる。
[人工芝]
本実施形態に係る人工芝は、シート状に形成された基布と、本実施形態に係るモノフィラメントを含む芝材を含んでいる。一般的に、人工芝は、基布上に芝葉を模した多数の芝材を植設することにより製造される。
【0055】
本実施形態に係る人工芝において、基布は、ポリプロピレンやポリエチレンなどの熱可塑性樹脂からなる平織布などが好ましく用いられるが、これ以外の織布であってもよいし、他の材質で構成されていてもよい。
【0056】
また、本実施形態に係る人工芝において、芝材は、円柱上の形状であってもよく、扁平な形状であってもよい。
[モノフィラメント用樹脂組成物]
本願のモノフィラメント樹脂組成物は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を含有し、示差走査型熱量分析において融点ピーク温度が140℃以上、かつ、結晶融解エンタルピーが65J/g以下のモノフィラメント用樹脂組成物を含むフィラメントであることが好ましい。
(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物)
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物は、単独のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂であってもよいし、2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物であっても良い。
【0057】
本実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂成分としては、後述する融点と結晶融解エンタルピーの制御が容易であることから、ヒドロキシアルカノエート単位の種類及び/又は含有割合が互いに異なる少なくとも2種類の3-ヒドロキシブチレート単位と他の3-ヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を含むことが好ましい。
【0058】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート単位を有する重合体、具体的には、下記一般式(1)で示される単位を含む重合体であることが好ましい。
[-CHR-CH2-CO-O-] (1)
一般式(1)中、RはCpH2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。pとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましい。
【0059】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、特に微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が好ましい。微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂においては、3-ヒドロキシアルカノエート単位が、全て(R)-3-ヒドロキシアルカノエート単位として含有される。
【0060】
本実施形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物は、融点が140℃以上、かつ、結晶融解エンタルピーが65J/g以下であり、例えば示差操作熱量分析により以下の様に定義される。
【0061】
樹脂試料4~10mgをアルミパンに充填し、示差走査熱量分析器を用いて、窒素気流下、30℃から180℃まで10℃/分の速度で昇温して前記樹脂試料を融解した時に得られる吸熱曲線において、吸熱量が最大となった温度を融点とし、融点ピークの領域から算出される吸熱量を結晶融解エンタルピーとする。結晶融解エンタルピーは結晶化度の指標であり、結晶融解エンタルピーが低いことは、結晶化度が低いことを意味する。
【0062】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート単位(特に、一般式(1)で表される単位)を、全構成単位の50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことが更に好ましい。ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、重合体の構成単位として、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位のみを含むものであってもよいし、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位に加えて、その他の単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位等)を含むものであってもよい。
【0063】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)単位を含む単独重合体又は共重合体であることが好ましい。特に、3-ヒドロキシブチレート単位は、全て(R)-3-ヒドロキシブチレート単位であることが好ましい。また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体であることが好ましい。
【0064】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(略称:P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)等が挙げられる。特に、モノフィラメントの強度と伸びの両立や生産性等の観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)とポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0065】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を含む場合、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位および他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有比率は、モノフィラメントの引張強度と引張伸度、生産性を両立する観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/他のヒドロキシアルカノエート=93/7~80/20(モル%/モル%)が好ましく、92/8~82/18(モル%/モル%)がより好ましく、90/10~84/16(モル%/モル%)がさらに好ましい。
【0066】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位の平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有比率とは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位のモル比を意味し、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物である場合、混合物全体に含まれる各モノマー単位のモル比を意味する。
【0067】
本実施の形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が、他のヒドロキシアルカノエート単位の種類及び/又は含有割合が互いに異なる2種以上の、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を含む場合、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が6mol%以下である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重体(以下「共重合体(A)」と称することがある。)、及び、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有比率が24mol%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重体(以下、「共重合体(B)」と称することがある。)を含んでいることが好ましい。
【0068】
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が6mol%以下である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重体は、融点が140℃以上である場合が多いため、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系共重合体を2種以上の混合物を含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物の融点を140℃以上に調整することが容易となり、モノフィラメントへの加工時の結晶化が速くできる傾向があることから好ましく用いることができる。
【0069】
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が6mol%以下である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重体における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、前記割合の上限は5mol%以下が好ましく、4mol%以下がより好ましく、3mol%以下が特に好ましい。下限は、0.1mol%以上が好ましく、0.5mol%以上がより好ましく、1mol%以上が特に好ましい。
【0070】
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24mol%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重体は、結晶化度が低いもしくは実質非晶となるため、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系共重合体を2種以上の含むポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物の結晶融解エンタルピーを65J/g以下に調整しやすくなる、即ち、結晶化度を下げやすくなる。そのため、モノフィラメントを容易に延伸加工でき、モノフィラメントの伸度を50%以上に高めることができる点で好ましく用いることができる。
【0071】
他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が24mol%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重体における他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合は、前記割合の下限は25mol%以上が好ましく、26mol%以上がより好ましく、27mol%以上が特に好ましい。上限は、99mol%以下が好ましく、50mol%以下がより好ましく、40mol%以下が更に好ましく、30mol%以下が特に好ましい。
【0072】
本実施の形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物の成分中、他のヒドロキシアルカノエート単位の含有比率が24mol%以上である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体を含む場合、当該共重合体(B)のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物中における含有割合は、モノフィラメントへの加工時の結晶化が速く、かつ、モノフィラメントの伸度を50%以上と高めることができる点で、20重量%以上50重量%以下であることが好ましい。
【0073】
本実施の形態に係るポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂組成物は、前記の共重合体(A)及び共重合体(B)に加えて、更に他のヒドロキシアルカノエート単位の含有割合が6mol%超、24mol%未満である、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体(以下、「共重合体(C)」と称することがある。)を含んでいてもよい。
【0074】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましい強度や伸度を得られやすい点から、20万~200万が好ましく、25万~150万がより好ましく、30万~100万が更に好ましい。
【0075】
また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物である場合、各ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましい強度や伸度を得られやすい点から、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分全体の平均重量分子量が。20万~200万が好ましく、25万~150万がより好ましく、30万~100万が更に好ましい。
【0076】
なお、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂又はポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製HPLC GPC system)を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0077】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3-ヒドロキシブチレートと、その他のヒドロキシアルカノエートとのコポリマー生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonascaviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligeneseutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファスAC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、生産したいポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂に合わせて、各種ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0078】
2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂のブレンド物を得る方法は特に限定されず、微生物産生によりブレンド物を得る方法であってよいし、化学合成によりブレンド物を得る方法であってもよい。また、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等を用いて3種以上の樹脂を溶融混練してブレンド物を得てもよいし、2種以上の樹脂を溶媒に溶解して混合・乾燥してブレンド物を得ても良い。
(他の樹脂)
本実施形態に係るモノフィラメント用樹脂組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂以外の他の樹脂を含んでもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバケートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0079】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、20重量部以下がより好ましく、10重量部以下がさらに好ましい。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0080】
(添加剤)
本実施の形態に係るモノフィラメント用樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、結晶化核剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、導電剤、断熱剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、無機充填剤、有機充填剤、防腐剤、加水分解抑制剤等を目的に応じて使用できる。特に生分解性を有する添加剤が好ましい。
【0081】
結晶化核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。結晶化核剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、0.5~3重量部がより好ましく、0.7~1.5重量部がさらに好ましい。また、結晶化核剤は、1種を使用してよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0082】
滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミドとエルカ酸アミドが好ましい。滑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.05~3重量部がより好ましく、0.1~1.5重量部がさらに好ましい。また、滑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0083】
可塑剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物、二塩基酸エステル系化合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分への可塑化効果が特に優れている点で、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、二塩基酸エステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。クエン酸エステル系化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。セバシン酸エステル系化合物としては、例えば、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。二塩基酸エステル系化合物としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート等が挙げられる。可塑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分の合計100重量部に対して、1~20重量部が好ましく、2~15重量部がより好ましく、3~10重量部がさらに好ましい。また、可塑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0084】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態に係る樹脂組成物は、各成分を溶融混錬することで製造できる。溶融混錬溶融後にペレット化してもよい。以下、具体的に説明する。
【0085】
まず、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分、任意の添加剤を添加し、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを用いて溶融混練して樹脂組成物を作製する。該樹脂組成物をストランド状に押し出してからカットして、円柱状、楕円柱状、球状、立方体状、直方体状などの粒子形状のペレットを得てもよい。作製されたペレットは、40~80℃で十分に乾燥させて水分を除去した後、次の成形に付することが望ましい。
【0086】
前記溶融混練を実施する際の温度は、使用する樹脂の融点、溶融粘度等によるため一概には規定できないが、溶融混練物の紡糸ノズル出口での樹脂温度が135~200℃であることが好ましく、140~195℃がより好ましく、145~190℃がさらに好ましく、150~185℃が特に好ましい。溶融混練物の樹脂温度が135℃未満であると、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が未溶融となる場合があり、200℃を超えると、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂成分が熱分解する場合がある。
【0087】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を含むモノフィラメントの製造方法であって、下記工程(i)及び(ii)を順次含む、モノフィラメントの製造方法。
(i)前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂を溶融状態で紡糸ノズルから吐出後、冷却し、原糸に成形する工程
(ii)前記原糸を少なくとも1方向に、原糸の温度が60℃以下の温度で延伸する工程
[項目2]
前記工程(ii)において、延伸倍率が3倍以上である、項目1に記載のモノフィラメントの製造方法。
[項目3]
繊度が15~5000dtex、引張強度が0.4~6cN/dtex、引張伸度が50%以上である、項目1又は2のモノフィラメントの製造方法で製造されたモノフィラメント。
[項目4]
前記繊度の範囲が1000~5000dtexの範囲である、項目3に記載のモノフィラメント。
[項目5]
基布に芝糸が植設された人工芝であって、前記芝糸は項目1又は2に記載のモノフィラメントの製造方法で製造されたモノフィラメントを含む、人工芝。
【実施例0088】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0089】
実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
【0090】
[ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂(P3HA)]
P3HB3HH-1(共重合体(A)):P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=97.2/2.8(モル%/モル%)、重量平均分子量は66万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例2に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-2(共重合体(B)):P3HB3HH(平均含有比率3HB/3HH=71.8/28.2(モル%/モル%)、重量平均分子量は66万g/mol)
国際公開公報WO2019/142845号の実施例9に記載の方法に準じて製造した。
P3HB3HH-3:X131A(カネカ生分解性ポリマーPHBH(登録商標))(平均含有比率3HB/3HH=94/6(モル%/モル%)、重量平均分子量は60万g/mol)
[添加剤]
添加剤-1:ペンタエリスリトール(三菱化学社製:ノイライザーP)
添加剤-2:ベヘン酸アミド(日本精化社製:BNT-22H)
実施例および比較例において実施した評価方法に関して、以下に説明する。
[示差走査熱量分析における融点ピーク温度および結晶融解エンタルピーの測定]
示差走査熱量計(TAインスツルメント社製DSC25型)を用いて、各実施例または比較例で得られたポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を約4~10mg計量し、窒素気流下、10℃/分の昇温速度にて30℃から180℃まで昇温した時に得られるDSC曲線において、吸熱量が最大となる融点ピーク温度を求めた。また、DSC曲線において、融解開始前と融解終了後のベースラインを直線で結び、該直線とDSC曲線によって囲まれた融解領域の面積として算出される総熱量を、結晶融解エンタルピーとして求めた。
[モノフィラメントの繊度]
モノフィラメントの繊度は、オートバイブロスコープ法により測定を行った。
[モノフィラメントの引張強度及び引張伸度]
モノフィラメントの引張強度及び引張伸度は、引張測定装置(島津製作所製、オートグラフAG-1)を用い、JIS L 1015:2021「化学繊維ステープル試験方法」に基づき、初期長20mm、速度20mm/minで引っ張り、破断した際の破断強度を引張強度、破断に至るまでの伸びを引張伸度とした。
(実施例1)
[ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物のペレット作製]
P3HB3HH-1を30重量%(P3HA全成分中における含有割合)、P3HB3HH-2を30重量%、P3HB3HH-3を40重量%ブレンドしたものに、添加剤-1を1重量部(P3HA全成分100重量部に対する含有量)、添加剤-2を1重量部(P3HA全成分100重量部に対する含有量)配合してさらにブレンドし樹脂混合物を得た。得られた樹脂混合物を、シリンダー及び紡糸ノズル温度を150℃に設定したφ26mmの同方向二軸押出機に投入して押出した。押出した樹脂材料を、40℃の湯を満たした水槽に通してストランドを固化し、ペレタイザーで裁断することにより、樹脂組成物のペレットを得た。
【0091】
得られたポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物の融点ピーク温度および結晶融解エンタルピーを測定した結果、融点ピーク温度は152℃、結晶融解エンタルピーは57J/gであった。
[モノフィラメントの作製]
上記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物のペレットを、シリンダー及び紡糸ノズルを165℃に設定した単軸押出機(スクリュー径:30mm)に投入して溶融し、直径が1.5mmの円形の吐出孔を5つ有する紡糸ノズルから吐出し、35℃に設定した温水浴に通して引取ロールで速度6m/minで引き取り5本の原糸を得、引き続き40℃の温水を満たした長さ3mの温水槽に通しつつ延伸ロールで速度40m/minで引き取ることにより、延伸倍率6.7倍のモノフィラメント5本を得た。尚、モノフィラメント作製時の延伸倍率は、下記式によって定義した。
【0092】
延伸倍率=延伸ロールの速度(m/min)/引取ロールの速度(m/min)
得られたのモノフィラメントの繊度、引張強度及び引張伸度を測定した結果、繊度は2500dtex、引張強度は1.0cN/dtex、引張伸度は140%であった。
(実施例2)
実施例1のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物の原料を表1に示す配合比に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物のペレット及びモノフィラメントを作製した。得られた樹脂組成物について融点ピーク温度と結晶融解エンタルピーを、モノフィラメントについて繊度、引張強度及び引張伸度を測定し、評価結果を表1に示した。
(実施例3)
実施例1のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物の原料を表1に示す配合比に変更した以外は、実施例1と同様にして組成物ペレットを得、工程(2)の延伸倍率を2倍に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを作製した。得られた樹脂組成物について融点ピーク温度と結晶融解エンタルピーを、モノフィラメントについて繊度、引張強度及び引張伸度を測定し、評価結果を表1に示す。
【0093】
実施例のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物からなるモノフィラメントは、十分な引張強度と伸度を有しており、用途に応じて繊度を選定することで、多様な用途に使用することが可能である。
(実施例4)
実施例1と同様にしてポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を得、モノフィラメント作製において延伸ロールの速度を6.6m/minとして延伸倍率を1.1倍に調整し、これに併せて単軸押出機のスクリュー回転数を下げて繊度を4000dtexに調整した以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを作製した。得られたモノフィラメントについて繊度、引張強度及び引張伸度を測定し、評価結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1と同様にしてポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を得、モノフィラメント作製において引取ロールと延伸ロールの間の温水槽を80℃に設定した以外は、実施例1と同様にしてモノフィラメントを作製したが、部分的に細く繊度ムラが大きいため、モノフィラメントとしての評価が困難であった。
【0094】
【表1】
実施例のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂組成物を含むモノフィラメントは、好ましい条件で延伸加工したことによって、十分な引張強度と伸度を有しており、用途に応じて繊度を選定することで、多様な用途に使用することが可能である。
1:モノフィラメントの製造装置、2a:材料投入部、2b:混練押出機、2c:ギアポンプ、2d:紡糸ノズル、3a:水浴、3b:水槽、3c:治具、4:引取ロール部、5:加熱部、6:延伸ロール部、7:巻取ロール部