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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141183
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F25B1/00 321J
F25B1/00 396G
F25B1/00 304P
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052689
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高岡 亮
(57)【要約】
【課題】目標吐出過熱度が圧縮機仕様の下限値を下回らず、圧縮機の信頼性低下を抑制することができる冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】圧縮機4、凝縮器として機能する利用側熱交換器6、膨張弁7及び蒸発器として機能する熱源側熱交換器8が配管で接続された冷媒回路9と、冷媒の吐出過熱度を算出する吐出過熱度算出手段26と、圧縮機を加熱する加熱手段11と、膨張弁の開度と圧縮機と加熱手段を制御する制御手段25と、を備え、制御手段は、吐出過熱度が予め定めた吐出過熱度下限値を下回り、且つ、膨張弁の開度が所定の開度以下となったときに、加熱手段により前記圧縮機を加熱する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器として機能する利用側熱交換器、膨張弁及び蒸発器として機能する熱源側熱交換器が配管で接続された冷媒回路と、
冷媒の吐出過熱度を算出する吐出過熱度算出手段と、
前記圧縮機を加熱する加熱手段と、
前記膨張弁の開度と前記圧縮機と前記加熱手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記吐出過熱度が予め定めた吐出過熱度下限値を下回り、且つ、前記膨張弁の開度が所定の開度以下となったときに、前記加熱手段により前記圧縮機を加熱することを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記吐出過熱度が前記吐出過熱度下限値以上となるまで、前記加熱手段による前記圧縮機の加熱を継続することを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記利用側熱交換器は、水と前記冷媒を熱交換する水冷媒熱交換器であることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記吐出過熱度が予め定めた目標吐出過熱度となるように前記膨張弁の開度を制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記冷媒の過冷却度を算出する過冷却度算出手段を備え、
前記制御手段は、
前記過冷却度が予め定めた目標過冷却度となるように前記膨張弁の開度を制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記所定の開度とは、前記膨張弁の最小開度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記加熱手段は、前記圧縮機の筐体を温めるベルトヒーターであることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項8】
前記冷媒は、比熱比が1.3以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル装置として、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を配管で接続した冷媒回路と、制御手段とを有し、圧縮機から吐出する冷媒の過熱度である吐出過熱度が目標吐出過熱度となるように、且つ、凝縮器から流出する冷媒の過冷却度が目標過冷却度となるように、制御手段が膨張弁の開度を制御する給湯装置が知られている(例えば、特許文献1)。この特許文献1の装置は、凝縮器におけるエンタルピー差が目標範囲内に設定されるように制御手段が膨張弁の開度を制御することで、給湯装置は要求される能力を発揮することができる。
【0003】
このとき、液圧縮による圧縮機の信頼性低下を抑制するため、蒸発器から流出する冷媒が過熱度=0、且つ、乾き度=1となるときの吐出過熱度を目標値(目標吐出過熱度)として膨張弁の開度を制御することが考えられる。
一方、冷媒の吐出過熱度が低い場合には冷凍機油への冷媒溶解度が増加して圧縮機の信頼性が低下してしまうので、圧縮機の仕様として、圧縮機の信頼性が低下しない吐出過熱度の下限値が設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-4128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、所定の運転条件下では目標吐出過熱度が下限値を下回る場合があり、その場合には、制御手段が膨張弁の開度を小さく制御して目標吐出過熱度が下限値以上となるようにしている。特に、冷媒回路を循環する冷媒の循環量が少ない運転条件下では、圧縮機に吸入される冷媒の吸入過熱度の増加が緩やかであり、制御手段が膨張弁の開度を最小に制御にしても、目標吐出過熱度が下限値に達しないおそれがある。
また、R290など比熱比の小さい冷媒を使用する場合は比熱比が大きい冷媒と比較して圧縮過程におけるエンタルピーの増加量が小さくなる。そのため、吐出過熱度が下限値を上回るために必要な吸入過熱度が比較的に高くなり、目標吐出過熱度が下限値を下回るおそれがある。圧縮機の吸入圧力と吐出圧力との差が小さい低差圧運転時には更に圧縮過程におけるエンタルピーの増加量が小さくなるため、目標吐出過熱度が下限値を下回るおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、目標吐出過熱度が圧縮機仕様の下限値を下回らず、圧縮機の信頼性低下を抑制することができる冷凍サイクル装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の一態様は、圧縮機、凝縮器として機能する利用側熱交換器、膨張弁及び蒸発器として機能する熱源側熱交換器が配管で接続された冷媒回路と、冷媒の吐出過熱度を算出する吐出過熱度算出手段と、圧縮機を加熱する加熱手段と、膨張弁の開度と圧縮機と加熱手段を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、吐出過熱度が予め定めた目標吐出過熱度となるように膨張弁の開度を制御するとともに、吐出過熱度が予め定めた吐出過熱度下限値を下回り、且つ、膨張弁の開度が所定の開度以下になったときに、加熱手段により圧縮機を加熱することを特徴とする冷凍サイクル装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の冷凍サイクル装置によれば、目標吐出過熱度が圧縮機仕様の下限値を下回らず、圧縮機の信頼性低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のヒートポンプサイクル装置としての第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置を示す回路図である。
図2】ヒートポンプ式暖房装置の室外機を示す冷媒回路である。
図3図2の冷媒回路に係るモリエル線図である。
図4】第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置の制御方法を示す制御フローである。
図5】圧縮機が低差圧運転を行うときの冷媒回路のモリエル線図である。
図6】低比熱比の冷媒を使用するときの冷媒回路のモリエル線図である。
図7】第2実施形態のヒートポンプ式暖房装置を示す回路図である。
図8】第2実施形態のヒートポンプ式暖房装置の制御方法を示す制御フローである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明の冷凍サイクル装置としての第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1の回路図である。
第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1は、室外機2と、室内機3とを有する。
室外機2は、圧縮機4と、四方弁5と、水と冷媒とを熱交換する利用側熱交換器6と、膨張弁7と、室外熱交換器8とが順次接続されて冷媒回路9が形成されている。なお、室外熱交換器8が、本発明の熱源側熱交換器に対応している。そして、四方弁5により冷媒が循環する方向を切り替える。室外熱交換器8へ外気を送風する室外ファン10も設けられている。
圧縮機4には、圧縮機4の筐体を温めるベルトヒーター11が設けられている。なお、ベルトヒーター11が本発明における加熱手段に相当する。
【0012】
利用側熱交換器6が凝縮器として機能する場合において利用側熱交換器6の冷媒出口には、利用側熱交換器6を通過した冷媒の温度を検出する凝縮器出口冷媒温度センサ15が設けられている。室外熱交換器8が蒸発器として機能する場合において室外熱交換器8の冷媒出口には、室外熱交換器8を通過した冷媒の温度を検出する蒸発器出口冷媒温度センサ16が設けられている。室外熱交換器8が蒸発器として機能する場合において室外熱交換器8の冷媒入口には、室外熱交換器8に流入する冷媒の温度を検出する蒸発器入口冷媒温度センサ17が設けられている。また、圧縮機4の吐出側には、冷媒の吐出圧力を検出する吐出圧力センサ18と冷媒の吐出温度を検出する吐出温度センサ19が設けられている。
【0013】
室外機2の冷媒回路9を循環する冷媒として、例えば、比熱比が1.3以下のR290(プロパン)が使用されている。なお、比熱比が1.3を超える冷媒(例えばR32)であっても良い。
室内機3は、室外機2の利用側熱交換器6で冷媒と熱交換された水が供給されるように構成されており、利用側熱交換器6、温水循環用ポンプ20、水と室内の空気との間で熱交換を行う室内熱交換器21が順次接続されて水循環路22が形成されている。利用側熱交換器6の水の出口には水の出口温度を検出する図示しない温度センサが設けられている。また、室内機3には、室内熱交換器21で熱交換された空気を室内へ送風する室内ファン23が設けられている。
【0014】
第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1は、四方弁5及び温水循環用ポンプ20の駆動制御と、膨張弁7の開度制御と、圧縮機4の駆動制御と、ベルトヒーター11の通電制御を行う制御手段25を備えている。また、制御手段25には、凝縮器出口冷媒温度センサ15から冷媒の凝縮器出口温度が入力され、蒸発器出口冷媒温度センサ16から蒸発器出口温度が入力される。
第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1は運転を開始すると、制御手段25が温水循環用ポンプ20を駆動し、利用側熱交換器6と室内熱交換器21との間で水を循環させる。制御手段25は、本実施形態特有の制御を行うプログラムが記憶されたマイコンが内蔵されており、除霜運転時に冷媒の循環方向を逆転させる際に四方弁5を切り替える。
【0015】
次に、室外機2における冷媒回路9の冷媒の状態について、図2及び図3を参照して説明する。図2における冷媒回路9の基準点として、点Aは圧縮機4と凝縮器(利用側熱交換器6に対応。以下、凝縮器6と表記)の間、点Bは凝縮器6と膨張弁(膨張弁7に対応。以下、膨張弁7と表記)の間、点Cは膨張弁7と蒸発器(室外熱交換器8に対応。以下、蒸発器8と表記)の間、点Dは蒸発器8と圧縮機4の間を示している。
【0016】
点Aから点D、又は各点間における冷媒の状態は、図3のモリエル線図で示すように、以下の(1)~(8)の過程に従って変化する。(1)圧縮過程の冷媒(点D~A間)は圧縮機4で圧縮され、圧力(縦軸)・温度共に上昇して高温高圧の過熱蒸気となる。(2)圧縮機4から吐出された冷媒(点A)は、過熱状態の高圧気相冷媒である。(3)冷却過程の冷媒(点A~B間)は凝縮器6で水循環路22を流れている水と熱交換(水に放熱)することで、圧力が一定のまま、過熱蒸気、飽和蒸気、湿り蒸気、飽和液の各状態を経て高圧の過冷却液となる。(4)凝縮器6から流出した冷媒(点B)は、過冷却状態の高圧液相冷媒である。(5)膨張過程の冷媒(点B~C間)は、膨張弁7により膨張し、圧力(縦軸)・温度共に下降して湿り蒸気となる。(6)膨張弁7から流出した冷媒(点C)は、液リッチ(=液相比率が高い)状態の低圧二相冷媒である。(7)蒸発過程の冷媒(点C~D間)は、蒸発器8で周囲空気と熱交換(吸熱)することで、圧力が一定のまま、湿り蒸気、飽和蒸気、の各状態を経て低圧の過熱蒸気となる。(8)蒸発器8から流出した冷媒(点D)は、過熱状態の低圧気相冷媒である。
【0017】
図3における点Aの冷媒温度と、点Aと同一圧力の飽和蒸気線上の点Eの飽和ガス温度との差が、圧縮機4から吐出された冷媒の過熱度で、冷媒の吐出過熱度とも呼ぶ。また、図3の点Bの冷媒温度と、点Bと同一圧力の飽和液線上の点Fの飽和液温度との差が冷媒の過冷却度である。
図3のモリエル線図の冷媒の吐出過熱度は、蒸発器8から流出した冷媒(点D)が飽和蒸気線上にある(吸入過熱度=0、且つ、乾き度=1)ときの目標値(目標吐出過熱度)としている。このときの目標吐出過熱度は、凝縮温度(圧力)と蒸発温度(圧力)の値によって変動する。
ここで、圧縮機4の仕様には、圧縮機4の信頼性を低下させない吐出過熱度の下限値(吐出過熱度下限値)が設定されている。圧縮機4の吐出過熱度下限値は、例えば10℃に設定されている。
【0018】
ヒートポンプ式暖房装置1の制御手段25は、図1に示すように、吐出過熱度算出手段26と目標吐出過熱度算出手段27と、を有している。
吐出過熱度算出手段26は、現在の冷媒の吐出過熱度を算出する。具体的な算出方法は、吐出温度センサ19で検出した冷媒の吐出温度と、図3で示した冷媒のモリエル線図における飽和蒸気線の飽和蒸気温度、つまり、凝縮温度(吐出圧力センサ18で検出した冷媒の吐出圧力から換算)との差分により算出される。
【0019】
また、目標吐出過熱度算出手段27は、吐出圧力センサ18の検出値から換算された冷媒の凝縮温度と、蒸発器入口冷媒温度センサ17で検出した冷媒の蒸発温度とを、制御手段25に予め記憶している演算式に代入することで目標吐出過熱度を算出する。目標吐出過熱度は、蒸発器8から流出した冷媒(点D)が飽和蒸気線上にある(吸入過熱度=0、且つ、乾き度=1)ときの目標値(目標吐出過熱度)である。これら吐出過熱度算出手段26及び目標吐出過熱度算出手段27は、制御手段25が機能させるソフトウェアで実現される。
【0020】
次に、図4は、ヒートポンプ式暖房装置1の運転時における膨張弁7の制御及びベルトヒーター11の通電制御を示す制御フローである。なお、この制御方法を開始する前に、判定スイッチScは「0」に設定されているものとする。
先ず、図4のステップST1では、制御手段25に入力した凝縮器出口冷媒温度センサ15で検出した冷媒の凝縮器出口温度、蒸発器出口冷媒温度センサ16で検出した冷媒の蒸発器出口温度を読み込む。次いでステップST2において、吐出過熱度算出手段26が現在の吐出過熱度を算出する。次いでステップST3において、目標吐出過熱度算出手段27が目標吐出過熱度を算出する。
【0021】
次いでステップST4において、制御手段25は、現在の吐出過熱度から目標吐出過熱度を減算し、その減算結果に応じて膨張弁7の開度を制御する。すなわち、減算結果がプラスの時には、膨張弁7の開度を大きくするように制御し、減算結果がマイナスの時には、膨張弁7の開度を小さくするように制御する。
次いでステップST5において、制御手段25は、目標吐出過熱度が、吐出過熱度下限値(例えば10℃)を下回っているか否かを判定する。
このステップST5の判定で、目標吐出過熱度が吐出過熱度下限値を下回っている場合(ステップST5:YES)には、ステップST6に移行し、目標吐出過熱度が吐出過熱度下限値以上である場合(ステップST5:NO)には、ステップST9に移行する。
【0022】
ステップST5の判定でYESの場合に移行するステップST6では、制御手段25が、膨張弁7の開度が最小開度であるか否かを判定する。なお、膨張弁7の開度が最小開度であることが、本発明において膨張弁の開度が所定の開度であることに対応している。このステップST6の判定で、膨張弁7の開度が最小開度である場合(ステップST6:YES)にはステップST7に移行し、膨張弁7の開度が最小開度でない場合(ステップST6:NO)にはステップST1に戻る。
【0023】
膨張弁7の開度が最小開度である場合に移行するステップST7では、ベルトヒーター11の通電制御を行う。このとき、吐出過熱度の目標値をステップST3で算出した目標吐出過熱度から加熱時目標吐出過熱度(>吐出過熱度下限値)に変更し、吐出過熱度が加熱時目標吐出過熱度となるようにベルトヒーターの出力を調整する。次いでステップST8では、判定スイッチScを「1」に設定してからステップST1に戻る。
一方、ステップST5の判定でNOの場合に移行するステップST9では、現在の吐出過熱度が目標吐出過熱度以上であるか否かを判定する。このステップST9の判定で、現在の吐出過熱度が目標吐出過熱度以上である場合(ステップST9:YES)にはステップST10に移行し、現在の吐出過熱度が目標吐出過熱度を下回る場合(ステップST9:NO)にはステップST1に戻る。
【0024】
ステップST10では、判定スイッチScが「1」であるか否かを判定する。このステップST10の判定で、判定スイッチScが「1」である場合(ステップST10:YES)にはステップST11に移行し、判定スイッチScが「1」でない場合(ステップST10:NO)にはステップST1に戻る。
ステップST11では判定スイッチScを「0」に設定する。次いでステップST12において、制御手段25がベルトヒーター11の通電制御を停止する。その後に、図4の制御を終了する。
ここで、ヒートポンプ式暖房装置1の運転時には、目標吐出過熱度が、圧縮機4仕様の吐出過熱度下限値(例えば10℃)に達しないおそれがある。
【0025】
すなわち、図5は、圧縮機4が低差圧運転を行っているときのヒートポンプ式暖房装置1のモリエル線図を示している。ヒートポンプ式暖房装置1の低負荷運転や、高外気温下における暖房運転時は、冷媒回路9を循環する冷媒の循環量が少なくなり、圧縮機4の吸入圧力と吐出圧力との差が小さい低差圧運転となる。このような低差圧運転時には、圧縮機4に吸入される冷媒が飽和蒸気線上(吸入過熱度=0、且つ、乾き度=1)の状態であっても吐出過熱度が比較的小さい値となる。このため、制御手段25が膨張弁7の開度を最小に制御にしても、目標吐出過熱度が小さな値(例えば8℃)となり、吐出過熱度下限値に達しないおそれがある。
【0026】
また、図5では冷媒として比熱比が比較的高いR32冷媒を使用するときのヒートポンプ式暖房装置1のモリエル線図を示していたが、図6は、本実施形態の冷媒のように比熱比が低いR290(プロパン)を使用するときのヒートポンプ式暖房装置1のモリエル線図を示している。R290を使用する場合は比熱比が大きい冷媒と比較して圧縮過程におけるエンタルピーの増加量が小さくなる。そのため、吐出過熱度が下限値を上回るために必要な吸入過熱度が比較的に高くなり、目標吐出過熱度が下限値を下回る。このため、制御手段25が膨張弁7の開度を最小に制御にしても、目標吐出過熱度が小さな値(例えば8℃)となり、吐出過熱度下限値に達しないおそれがある。
【0027】
これに対して、図4で示した制御では、目標吐出過熱度が吐出過熱度下限値に達しない場合(ステップST5:YES)であり、且つ、膨張弁7の開度が最小開度の場合(ステップST6:YES)には、ベルトヒーター11の通電制御を行う(ステップST7)ことで圧縮機4の筐体を温める。ベルトヒーター11で圧縮機4の筐体を温めることで、目標吐出過熱度を吐出過熱度下限値以上に上昇させて、圧縮機4の信頼性低下を抑制することができる。
【0028】
ここで、吐出過熱度下限値を目標値として制御を行うと、負荷変動により吐出過熱度が吐出過熱度下限値を下回った場合には膨張弁7の開度を調整するだけで現在の吐出過熱度を制御することができない。そこで、本実施形態は、負荷変動による吐出過熱度の変化を見越した高い目標吐出過熱度である加熱時目標吐出過熱度を設定し、目標吐出過熱度と吐出過熱度下限値とを比較して制御を行うことで、膨張弁7によってきめ細かい吐出過熱度の制御を行うことができる。
また、ベルトヒーター11が圧縮機4の筐体を温めることで、冷凍機油の温度が上昇して冷凍機油への冷媒溶解度が低下するので、圧縮機4の信頼性低下をさらに抑制することができる。
【0029】
また、ヒートポンプ式暖房装置1の利用側熱交換器6は、水と冷媒を熱交換する水冷媒熱交換器であり、高外気温下の給湯運転では圧縮機4の低差圧運転になりやすいが、図4で示した制御を行って目標吐出過熱度を吐出過熱度下限値以上に上昇させることで、圧縮機4の信頼性低下を抑制することができる。
また、比熱比が低いR290(プロパン)を使用しても、図4で示した制御を行って目標吐出過熱度を吐出過熱度下限値以上に上昇させることで、圧縮機4の信頼性低下を抑制することができる。
【0030】
(第2実施形態)
次に、図7は、本発明の冷凍サイクル装置としての第2実施形態のヒートポンプ式暖房装置1の回路図である。図7が、図1で示した第1実施形態のヒートポンプ式暖房装置1の回路図と異なる構成は、制御手段25が、吐出過熱度算出手段26及び目標吐出過熱度算出手段27の他に、過冷却度算出手段32と、目標過冷却度抽出手段33とを備えていることである。
また、図8は、第2実施形態のヒートポンプ式暖房装置1の運転時における膨張弁7の制御及びベルトヒーター11の通電制御を示す制御フローである。図8の制御フローが、図4で示したサブクール制御処理に対して異なる箇所は、図4で示したステップST4に替えてステップST20の過冷却度による膨張弁開度処理を備えていることである。
ステップST20の過冷却度による膨張弁開度処理について以下に説明する。
【0031】
先ず、過冷却度算出手段32が現在の過冷却度を算出する。具体的な算出方法は、吐出圧力センサ30で検出した冷媒の吐出圧力に基づいて、図3で示した冷媒のモリエル線図における飽和液線の飽和液温度(凝縮温度)を算出する。そして、過冷却度算出手段32は、この飽和液温度から凝縮器出口冷媒温度センサ15で検出した利用側熱交換器6を通過した冷媒の温度を減算することで現在の過冷却度を算出する。
目標過冷却度抽出手段33は目標過冷却度テーブルを記憶している。目標過冷却度テーブルは、凝縮圧力状態と圧縮機4の回転数(単位:rps)に応じた目標過冷却度を設定している。目標過冷却度抽出手段33は、吐出圧力センサ30で検出した圧力値(凝縮圧力)の凝縮圧力状態を判定し、現在の圧縮機4の回転数に基づいて、目標過冷却度テーブルの中から目標過冷却度を抽出する。
【0032】
そして、制御手段25は、過冷却度算出手段32で算出した現在の過冷却度から目標過冷却度抽出手段33で抽出した目標過冷却度を減算する。そして、制御手段25は、現在の過冷却度から目標過冷却度の減算結果がプラスの時には、膨張弁7の開度を大きくするように制御し、現在の過冷却度から目標過冷却度の減算結果がマイナスの時には、膨張弁7の開度を小さくするように制御する。
【0033】
第2実施形態も、第1実施形態と同様に、目標吐出過熱度を吐出過熱度下限値以上に上昇させることで、圧縮機4の信頼性低下を抑制することができる。
そして、図8のステップST20の過冷却度による膨張弁開度処理では、凝縮圧力、圧縮機4の回転数を考慮した目標過冷却度テーブルの中から目標過冷却度を抽出し、現在の過冷却度から目標過冷却度を減算し、その減算結果に応じて膨張弁7の開度制御を行うことから、膨張弁7によってきめ細かい吐出過熱度の制御を行うことができる。
また、利用側熱交換器6(凝縮器)においてエンタルピー差が確保されるので、COP(Coefficient Of Performance~成績係数)が向上した高効率のヒートポンプサイクルの運転を行うことができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ヒートポンプ式暖房装置
2 室外機
3 室内機
4 圧縮機
5 四方弁
6 利用側熱交換器
7 膨張弁
8 室外熱交換器
9 冷媒回路
10 室外ファン
11 ベルトヒーター
15 凝縮器出口冷媒温度センサ
16 蒸発器出口冷媒温度センサ
17 蒸発器入口冷媒温度センサ
18 吐出圧力センサ
19 吐出温度センサ
20 温水循環用ポンプ
21 室内熱交換器
22 水循環路
23 室内ファン
25 制御手段
26 吐出過熱度算出手段
27 目標吐出過熱度算出手段
30 吐出圧力センサ
31 吐出温度センサ
32 過冷却度算出手段
33 目標過冷却度抽出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-08-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器として機能する利用側熱交換器、膨張弁及び蒸発器として機能する熱源側熱交換器が配管で接続された冷媒回路と、
冷媒の吐出過熱度を算出する吐出過熱度算出手段と、
前記圧縮機を加熱する加熱手段と、
前記膨張弁の開度と前記圧縮機と前記加熱手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記吐出過熱度が予め定めた吐出過熱度下限値を下回り、且つ、前記膨張弁の開度が最小開度となったときに、前記加熱手段により前記圧縮機を加熱することを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記吐出過熱度が前記吐出過熱度下限値以上となるまで、前記加熱手段による前記圧縮機の加熱を継続することを特徴とする請求項1記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記利用側熱交換器は、水と前記冷媒を熱交換する水冷媒熱交換器であることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記吐出過熱度が予め定めた目標吐出過熱度となるように前記膨張弁の開度を制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記冷媒の過冷却度を算出する過冷却度算出手段を備え、
前記制御手段は、
前記過冷却度が予め定めた目標過冷却度となるように前記膨張弁の開度を制御する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記加熱手段は、前記圧縮機の筐体を温めるベルトヒーターであることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記冷媒は、比熱比が1.3以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷凍サイクル装置。