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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141185
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】山林苗の生産方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/00 20180101AFI20241003BHJP
   A01G 9/00 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
A01G22/00
A01G9/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052691
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦田 信明
(72)【発明者】
【氏名】根岸 直希
(72)【発明者】
【氏名】中浜 克彦
(72)【発明者】
【氏名】宮内 謙史郎
【テーマコード(参考)】
2B022
2B327
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AA03
2B022AB20
2B022BA02
2B022BA04
2B022BA16
2B022BB01
2B327NA10
2B327NB01
2B327NC02
2B327NC24
2B327ND03
2B327NE01
2B327SB04
(57)【要約】
【課題】本発明は、育苗容器を用いた山林苗の生産において、白根の健全な根鉢を有し、植栽後の初期成長の良好な山林苗を効率よく生産できる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、培土を嵩密度が0.15g/cm~0.27g/cmとなるように充填した育苗容器を用いて山林苗を育成し、根鉢付き山林苗を得ることを含む、山林苗の生産方法、並びに、前記生産方法により山林苗を生産し、得られた実生苗を植林地へ植え付けする、植林地の生産方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培土を嵩密度が0.15g/cm~0.27g/cmとなるように培土収容部に充填した育苗容器を用いて山林苗を育成し、白根の根鉢付き山林苗を得ることを含む、山林苗の生産方法。
【請求項2】
培土容量の、培土収容部の容量に対する比が、0.8~1.2である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
山林苗は、育成開始時に1年生の山林苗である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
育成期間は、4カ月以上である、請求項1又は2に記載の生産方法。
【請求項5】
育成期間は、20カ月以下である、請求項1又は2に記載の生産方法。
【請求項6】
育苗容器は、容器底部に培土収容部と連通する開口部を有する容器であり、培土収容部への培土の充填量が、培土を充填した状態で、培土収容部に対し20容量%の水を添加したときの水抜け時間が2分以下となる量である、請求項1又は2に記載の生産方法。
【請求項7】
育苗容器は、収容部の容量が100~400ccである、請求項1又は2に記載の生産方法。
【請求項8】
山林苗は、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物又はモミ属植物の苗である、請求項1又は2に記載の生産方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の苗の生産方法により山林苗を生産し、得られた実生苗を植林地へ植え付けする、植林地の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山林苗の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スギ、ヒノキ等の山林苗は、露地で栽培する裸苗とコンテナ(育苗容器)を利用したコンテナ苗の2種類がある。非特許文献1には、コンテナ苗は、コンテナ内にリブを設けることにより、根系を下方に伸長させることができ、また、底面開放により、空中根切り、根巻きの抑制が可能であり、植栽後の活着、成長が向上することが記載されている。また、非特許文献2には、コンテナ苗は通年植栽が可能であり、皆伐後の再造林コスト削減に貢献できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】埼玉県寄居林業事務所森林研究室「コンテナ苗生産マニュアル」令和2年3月 https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/40332/containernaeseisanmanual.pdf
【非特許文献2】袴田哲司ほか(2016)「林地に植栽したスギコンテナ苗の2年間の生存率と成長」中森研 No.64 p.5~8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献2には、コンテナ苗と裸苗とで初期成長を比較すると、コンテナの種類や植栽場所によっては裸苗のほうがコンテナ苗を上回ることもあり、実際、植栽後の裸苗及びコンテナ苗の根本径と樹高を調査したところ、根本径の生長量には差がなかったのに対し、樹高は裸苗の方が植栽6か月後から優位に上回り、以降その差が広がったことが記載されている。
【0005】
本発明は、上記従来の問題にかんがみ、育苗容器を用いた山林苗の生産において、白根の健全な根鉢を有し、植栽後の初期成長の良好な山林苗を効率よく生産できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の〔1〕~〔9〕を提供する。
〔1〕培土を嵩密度が0.15g/cm~0.27g/cmとなるように培土収容部に充填した育苗容器を用いて山林苗を育成し、白根の根鉢付き山林苗を得ることを含む、山林苗の生産方法。
〔2〕培土容量の、培土収容部の容量に対する比が、0.8~1.2である、〔1〕に記載の方法。
〔3〕山林苗は、育成開始時に1年生の山林苗である、〔1〕に記載の方法。
〔4〕育成期間は、4カ月以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の生産方法。
〔5〕育成期間は、20カ月以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の生産方法。
〔6〕育苗容器は、容器底部に培土収容部と連通する開口部を有する容器であり、培土収容部への培土の充填量が、培土を充填した状態で、培土収容部に対し20容量%の水を添加したときの水抜け時間が2分以下となる量である、〔1〕又は〔2〕に記載の生産方法。
〔7〕育苗容器は、収容部の容量が100~400ccである、〔1〕又は〔2〕に記載の生産方法。
〔8〕山林苗は、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物又はモミ属植物の苗である、〔1〕又は〔2〕に記載の生産方法。
〔9〕〔1〕又は〔2〕に記載の苗の生産方法により山林苗を生産し、得られた実生苗を植林地へ植え付けする、植林地の生産方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、白根の健全な根鉢を有し、植栽後の初期成長の良好な山林苗を効率よく生産できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔1.山林苗の生産方法〕
山林苗の生産方法は、培土を充填した育苗容器を用いて山林苗を生育し、根鉢付き山林苗を得ることを含む。
【0009】
〔1.1 山林苗〕
山林苗は、木本植物の苗であればよい。木本植物としては例えば、スギ属(Cryptomeria)植物(スギ(Cryptomeria japonica)など)、ヒノキ属(Chamaecyparis)植物(ヒノキ(Chamaecyparis obtusa)など)、マツ科(Pinaceae)植物(マツ属(Pinus)植物(クロマツ(Pinus thunbergii)など)、カラマツ属(Larix)植物(カラマツ(Larix kaempferi)、グイマツ(Larix gmelinii)など)、モミ属(Abies)植物(トドマツ(Abies sachalinensis)など)など)、ユーカリ属(Eucalyptus)植物、サクラ属(Prunus)植物(サクラ(Prunus spp.)、ウメ(Prunus mume)、ユスラウメ(Prunus tomentosa)など)、マンゴー属(Mangifera)植物(マンゴー(Mangifera indica)など)、アカシア属(Acacia)植物、ヤマモモ属(Myrica)植物、クヌギ属(Quercus)植物(クヌギなど(Quercus acutissima))、ブドウ(Vitis)属植物、リンゴ(Malus)属植物、バラ属(Rosa)植物、ツバキ属(Camellia)植物(チャ(Camellia sinensis)など)、ジャカランダ属(Jacaranda)植物(ジャカランダ(Jacaranda mimosifolia)など)、ワニナシ属(Persea)植物(アボカド(Persea americana)など)、ナシ属(Pyrus)植物(ナシ(Pyrus serotina Rehder、Pyrus pyrifolia)など)、ビャクダン属(Santalum)植物(ビャクダン(サンダルウッド;Santalum album)など)が例示される。このうち、スギ、ヒノキ、マツ(クロマツ、カラマツ、グイマツ、トドマツなど)、ユーカリ、サクラ、マンゴー、アボカド、アカシア、ヤマモモ、クヌギ、ブドウ、リンゴ、バラ、ツバキ、チャ、ウメ、ユスラウメ、ジャカランタが挙げられ、中でもスギ属植物、ヒノキ属植物、マツ科植物(マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物など)、ユーカリ属植物、ツバキ属植物、マンゴー属植物、ワニナシ属植物が好ましく、山林苗、すなわち、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物、ユーカリ属植物がより好ましく、スギ属植物、ヒノキ属植物、マツ属植物、カラマツ属植物、モミ属植物がさらに好ましく、スギ属植物、ヒノキ属植物がさらにより好ましい。
【0010】
山林苗の樹齢は特に限定されないが、育苗開始時に1年生(発芽、挿し木から1年以内)であることが好ましい。これにより、根鉢が白根の苗を短期間で得ることができる。
【0011】
山林苗は、実生苗、挿し木苗のいずれでもよい。実生苗は、そのサイズが、通常は地上部が1cm以上、好ましくは2cm以上である。上限は、通常は15cm以下、好ましくは12cm以下、より好ましくは10cm以下又は8cm以下である。予め別の培土で発芽又は育成し上記のサイズに達してから育苗工程に用いる容器に移植してもよいし、育苗工程に用いる容器に直接播種してもよい。挿し木苗はそのサイズが通常は20cm以上、好ましくは30cm以上である。上限は、通常は50cm以下、好ましくは45cm以下、より好ましくは40cm以下である。予め別の培土で発根させたものを育苗工程に用いる容器に移植してもよいし、育苗工程に用いる容器に直接挿しつけしてもよい。
【0012】
〔1.2 育苗容器のサイズ、形状〕
育苗容器は、山林苗を植え付けるための容器であり、培土と、植え付けた山林苗を収容可能な開口を備える培土収容部を有する容器であればよい。育苗容器の収容部の容量は、山林苗1つを収容できるサイズであればよく、通常、50cc以上又は100cc以上、好ましくは120cc以上、より好ましくは150cc以上である。上限は、通常、400cc以下又は350cc以下、好ましくは330cc以下、より好ましくは300cc以下である。
【0013】
育苗容器の形状は特に限定されず、例えば筒状、円筒状、角柱状、テーパー状の容器が挙げられる。培土の出し入れの手間を考慮するとテーパー状がより好ましい。開口部の形状としては、例えば、多角形(例えば、略正方形等の略方形)、略円形(例えば、略円形、略楕円形)が挙げられる。底面の形状としては、多角形(例えば、正方形等の方形)、略円形(例えば、円形、楕円形)が挙げられ、上面の開口部が多角形で底面が略円形でもよく、特に限定されない。
【0014】
育苗容器は、底面開口部、容器内面に設けてもよいリブ、スリット等、山林苗育苗コンテナが任意で備える部位を有してもよく、これらのうち少なくとも1つを有することが好ましく、少なくとも底面開口部を備えることがより好ましい。これにより、空気根切りを効率よく行うことができる。これらの部位のサイズ、形状、数は、コンテナごとに異なっていてもよい。底面開口部は、培土収容部と連通する開口部であることが好ましく、開口部の空間を横断及び/又は縦断する枠である培土保持枠を備えることが好ましい。これにより培土の落下を抑制できる。
【0015】
育苗容器としては、例えば、コンテナ(例、特開2017-079706号公報、特開2021-52688号公報に記載されたコンテナ、育苗ポット等の個別の育苗容器;マルチキャビティコンテナ(JFA-150、JFA-300)等)、セルトレー、育苗ポット等の複数連結型の育苗容器が挙げられる。育苗容器は、複数個が連結(分離可能に連結、又は分離不可能に一体化)していてもよい。培養容器の材質に特に限定はなく、例えば、樹脂、ガラス、木材が挙げられる。
【0016】
〔1.3 培土〕
培土は、通常、山林苗の育成に用いられるものであればよく、特に限定されない。例えば、砂、土(例、赤玉土、鹿沼土)等の自然土壌;籾殻燻炭、ココナッツ繊維、バーミキュライト、パーライト、ピートモス、ガラスビーズ、籾殻等の人工土壌(好ましくは、ピートモス);発泡フェノール樹脂、ロックウール等の多孔性成形品;固化剤(例、寒天又はゲランガム)、これらのうち2以上の組み合わせが挙げられ、2以上の組み合わせが好ましく、2種以上の人工土壌を少なくとも含む組み合わせ、又は、1種以上の人工土壌と1種以上の自然土壌とを少なくとも含む組み合わせが好ましい。培土が人工土壌と自然土壌の組み合わせを含む場合、それぞれの総量の比が、人工土壌:自然土壌=0.5~4:1、好ましくは1~3:1、より好ましくは1.5~2.5:1であることが好ましい。
【0017】
培土の使用量は、嵩密度で特定することができ、通常、0.15g/cm以上、好ましくは0.16g/cm以上、より好ましくは0.17g/cm以上、更に好ましくは0.18g/cm以上、更により好ましくは0.19g/cm以上である。上限は、通常、0.27g/cm以下、好ましくは0.26g/cm以下である。従って、通常、0.15g/cm~0.27g/cm、好ましくは0.16g/cm~0.27g/cm、より好ましくは0.17g/cm~0.27g/cm、更に好ましくは0.18g/cm~0.27g/cm、更により好ましくは0.19~0.26g/cmである。これにより、培土が通気性を確保でき、容器内で伸長する根が茶色く木化することを抑制し、白根の健全な根鉢を形成でき、植栽後の初期成長を促進できる。嵩密度は、培土収容部に充填した培土の重量を培土収容部の容積で除して算出することができる。
【0018】
培土容量の、培土収容部の容量(コンテナ容量)に対する比(容量比)は、通常、0.8以上、好ましくは0.9以上である。上限は、1.2以下が好ましい。従って、上記容量比は、通常、0.8~1.2、好ましくは0.9~1.2である。本明細書において容量比とは、培土容量(培土収容部に収容された培土の容積:培土内部の空隙や培土粒子の表面の凹凸、割れ目、空洞、空隙も含む)の、培土収容部の容量に対する比率である。
【0019】
培土の使用量及び育苗容器の目安は、培土収容部の20容量%の水を、育苗容器に収容された培土の上部から添加した時の、容器底部の開口部からの水抜け時間(添加開始時~容器底部からの水の流出の終了時)が、2分以下であることが好ましい。なお、開口部から水が落ちなくなった時点で、水の流出が終了したと判断する。
【0020】
〔1.4 植え付け〕
1つの育苗容器に植え付ける山林苗は、通常は1つである。山林苗の植え付けは、常法に従って行えばよく、例えば、山林苗の根部を培土に隠れるように配置して行うことができる。
【0021】
〔1.5 育苗容器底面の高さの調整〕
育苗期間中、育苗容器は、容器底面が接地しない高さに保持されることが好ましい。そのため、例えば、育苗容器を底面が接地しない高さに保持できるホルダー、育苗棚に保持することが好ましい。ホルダーは、例えば、育苗容器を保持できるものであればよく、育苗容器と一体であってもよいし、育苗容器を着脱可能でもよい。例えば、育苗容器が上端開口部又は外面の外周に水平方向に連続的に張り出した鍔部を有し、これに嵌合する嵌合部を有するホルダー(例えば、特開2021-52668号公報)が挙げられる。
【0022】
〔1.6 灌水〕
育苗中の灌水方法は、頭上灌水及び底面灌水のいずれでもよい。頭上灌水の場合、苗の上部から、必要に応じて如雨露、ホース、スプリンクラー等の用具を用い、適量を灌水する。底面灌水の方法としては、例えば、育苗容器(開口を有する育苗容器)を水に浸漬する方法、吸水性部材を介して苗に灌水する方法が挙げられる。底面灌水を吸水性部材を介して行う場合、通常、吸水性部材(例えば、マット状の部材)に給水し、水分を、培土と吸水性部材とが接する部分を介して苗に供給する。吸水性部材への給水は、培地が湿潤するように行うこと、及び/又は、吸水性部材が均一に吸水する状態となるように行うことが、好ましい。これにより、培地の水分環境を適度、一定且つ均一に保持することができる。灌水作業は、手灌水および自動灌水装置のいずれで行ってもよい。また、灌水量、灌水間隔は、育苗場所(露地又は室内)、気温等の条件に応じて適宜定めることができる。
【0023】
〔1.7 場所〕
育苗を行う場所は、閉鎖空間(例えば、ビニールハウス内、炭酸ガス培養室内、温室内、屋内)又は解放空間(例えば、屋外)でもよい。本発明においては、解放空間(例えば、屋外)でも山林苗の育苗を効率よく行うことができる。
【0024】
〔1.8 温度条件〕
育苗の環境における温度は、育苗が可能な条件である限り特に限定されないが、例えば、10~40℃であるのが好ましい。
【0025】
〔1.9 育苗期間〕
育苗期間は、苗が目的の大きさまで生長した段階まで等の基準で定めてもよく、特に限定されない。通常は4ヶ月以上、6ヶ月以上が好ましく、7ヶ月以上がより好ましい。上限は特にないが、林野庁が示すコンテナ苗出荷規格(5号苗)を満たす根鉢付き苗が得られるまで、すなわち、苗高が30cm程度以上、地際直径3.5mm程度以上の根鉢付き苗が得られるまで、続けることが好ましいところ、効率も勘案して定めることができ、通常は20か月以下、18カ月以下、又は16カ月以下、好ましくは15カ月以下又は13か月以下である。これにより、散水による培土の高密度化進行前に育苗を終了することができ、根の酸欠による木化を抑制でき、白根の根鉢付き苗を得ることができる。育苗工程終了後は、根鉢付き苗を植林地等に植栽できる。
【0026】
〔1.10 育苗開始時期〕
育苗開始時期は、特に限定されないが、一例を挙げると、平均最高気温5℃以上、7℃以上、又は10℃以上の月(初春~春:国内では、例えば2~4月)が好ましい。
【0027】
〔1.11 他の育苗条件〕
育苗条件は、対象植物、地域、使用設備等に応じて選択すればよく、特に限定されない。育苗条件のうち、肥料、生長促進剤、土壌添加剤の一例を示すと、以下のとおりである。
【0028】
育苗の際、肥料、生長促進剤、土壌添加剤等の各種添加剤を任意に添加してもよい。これらの添加剤は、特に限定されず、速効性肥料、緩効性肥料、遅効性肥料でもよく、無機肥料、有機肥料、化成肥料のいずれでもよい。使用量は特に限定されず、各成分、山林苗に適した量が選択できる。また、添加剤の有効成分としては、例えば、無機成分、銀イオン、抗酸化剤、炭素源、ビタミン類、アミノ酸類、植物ホルモン類等の植物の栄養素の供給源となり得る成分が挙げられる。添加剤の形態は特に限定されず、固形物(例、粉剤、粒剤)、又は液体(例、液肥)のいずれでもよい。
【0029】
無機成分としては、必須要素の窒素、リン、カリウム、および微量要素の硫黄、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、モリブデン、塩素、ヨウ素、コバルト等の元素や、これらを含む無機塩が例示される。該無機塩としては例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ホウ酸、三酸化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等やこれらの水和物が挙げられる。必須要素においては、リンまたはカリウムの含有量が窒素の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、採穂母樹の樹齢に拘らず、樹齢が進んでいても発根率の良い挿し穂を効率よく得ることができる。リン含有量の窒素含有量に対する重量比、及びカリウム含有量の窒素含有量に対する重量比の少なくともいずれか(好ましくは両方)は、1を超えることが好ましく、1.5以上がより好ましく2.0以上がさらに好ましい。上限は通常は4.0以下であり、特に限定されない。
【0030】
抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、亜硫酸塩が挙げられ、アスコルビン酸が好ましい。アスコルビン酸は、培地への残留性が低いため、環境汚染を抑制できる。
【0031】
炭素源としては、例えば、ショ糖等の炭水化物とその誘導体;脂肪酸等の有機酸;エタノール等の1級アルコール、などの化合物が挙げられる。
【0032】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、チアミン(ビタミンB1)、ピリドキシン(ビタミンB4)、ピリドキサール、ピリドキサミン、パントテン酸カルシウム、イノシトール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド及びリボフラビン(ビタミンB2)が挙げられる。
【0033】
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、アラニン、グルタミン酸、システイン、フェニルアラニン及びリジン等が挙げられる。
【0034】
添加剤の使用時期は特に限定されず、育苗開始時、育苗期間中のいずれでもよい。使用方法も、各添加剤に適した使用方法(例えば、土壌に添加、苗に噴霧)を選択すればよい。
【0035】
〔2.植林地の生産方法〕
上述の生産方法により得られた山林苗は、植林地又は植林予定地に植え付けることができる。これにより、植林地の生産、維持が期待できる。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0037】
実施例1
2019年1月に赤玉土細粒(簗島商事(株)製)を敷き詰めた育苗箱(縦30cm×横50cm×深さ10cm)にスギ種子を播種し、発芽させた。一方、ピートモス((株)サン&ホープ製)、鹿沼土小粒(あかぎ園芸(株)製)、赤玉土小粒(簗島商事(株)製)を4:1:1(容量比、以下同じ)を混合した培土を300cc充填した容量300ccの育苗コンテナ容器(上面開口部5.1cm×5.1cm(正方形)、深さ15cm:特開2017-79706号公報に記載の育苗容器)を準備した。培土の嵩密度を、充填した(コンテナに擦り切りいっぱいに入れた)培土の重量をコンテナの内容積で除して算出したところ(以下の実施例の嵩密度も同様に算出した)、65.0g/cmであった。このコンテナへ、発芽した苗(大きさ:3~5cm、地上部の大きさ:1~3cm)200~300個体を、3月に移植した。
【0038】
培土を充填した容器に水を60ml加え、コンテナ下部から水が抜ける時間(水抜け時間)を測定して、以下の基準により通気性の評価を行った。
[育苗培土の通気性の評価基準]
〇:水抜け時間が2分以下
△:水抜け時間が2分~3分
×:水抜け時間が3分以上
【0039】
上述の条件で準備した育苗コンテナに3月に幼苗を移植し、育苗棚に設置して育苗を行った。育苗期間中、適宜頭上潅水を行うとともに、ハイポネックス原液(ハイポネックスジャパン製)を500~2000倍希釈で毎週1回散布した。2019年11月に苗高及び根元径の測定を行い、林野庁が示すコンテナ苗出荷規格(5号苗)である苗高30cm、根元径が3.5mm以上の苗について出荷規格を満たした苗とした。
【0040】
出荷規格を満たした苗について2020年1月に育苗容器から苗を引き抜き、以下の基準にて根鉢の白根の割合について目視評価を行った。
[白根の割合の評価基準]
〇:根鉢を形成している根の内、白根の割合が7割以上
△:根鉢を形成している根の内、白根の割合が4割以上7割未満
×:根鉢を形成している根の内、白根の割合が4割未満
【0041】
2020年2月に静岡県内の山林に植栽を行い、2022年1月に苗高と根元径の計測を行った。
【0042】
実施例2
培土の充填量を360ccとしたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0043】
実施例3
培土の充填量を270ccとしたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0044】
比較例1
培土の充填量を390ccとしたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0045】
比較例2
培土の充填量を450ccとしたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0046】
比較例3
培土の充填量を200ccとしたこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0047】
各実施例及び比較例の実施条件及び評価結果を、表1に示した。
【0048】
【表1】
【0049】
実施例のスギの苗は、比較例の苗と比較して、根鉢の白根の割合が高く、苗高、根本径がともに大きかった(表1)。
【0050】
実施例4
スギ種子に代えてヒノキ種子を用いたほかは、実施例1と同様に実施した。
【0051】
実施例5
培土の充填量を360ccとしたこと以外は実施例4と同様に実施した。
【0052】
実施例6
培土の充填量を270ccとしたこと以外は実施例4と同様に実施した。
【0053】
比較例4
培土の充填量を390ccとしたこと以外は実施例4と同様に実施した。
【0054】
比較例5
培土の充填量を450ccとしたこと以外は実施例4と同様に実施した。
【0055】
比較例6
培土の充填量を200ccとしたこと以外は実施例4と同様に実施した。
【0056】
各実施例及び比較例の実施条件及び評価結果を、表2に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例のヒノキの苗は、比較例の苗と比較して、根鉢の白根の割合が高く、苗高、根本径がともに大きかった(表2)。
【0059】
これらの結果は、本発明により、白根を豊富に含む生育の良好な山林樹木の根鉢付き苗が得られること、得られる根鉢付き苗は、植栽後の初期成長が良好であり、植林地の育成、維持に貢献することが期待されることを示している。
【0060】
実施例7
2019年1月に赤玉土細粒(簗島商事(株)製)を敷き詰めた育苗箱(縦30cm×横50cm×深さ10cm)にスギ種子を播種し、発芽させた。一方、ピートモス((株)サン&ホープ製)、鹿沼土小粒(あかぎ園芸(株)製)、赤玉土小粒(簗島商事(株)製)を4:1:1(容量比、以下同じ)を混合した培土を150cc充填した容量150ccの育苗コンテナ容器(上面開口部4.3cm×4.3cm(正方形)、深さ12.7cm:特開2017-79706号公報に記載の育苗容器)を準備した。培土の嵩密度を、充填した(コンテナに擦り切りいっぱいに入れた)培土の重量をコンテナの内容積で除して算出したところ(以下の実施例の嵩密度も同様に算出した)、33.0g/cm3であった。このコンテナへ、発芽した苗(大きさ:3~5cm、地上部の大きさ:1~3cm)200~300個体を、3月に移植した。移植後、実施例1と同様の条件で育苗、植栽を行った。実施例1と同様に、育苗培土の通気性、出荷規格を満たした苗の白根の割合、植栽後の苗高と根元径の計測を行った。
【0061】
実施例8
培土の充填量を165ccとしたこと以外は実施例7と同様に実施した。
【0062】
実施例9
培土の充填量を135ccとしたこと以外は実施例7と同様に実施した。
【0063】
比較例7
培土の充填量を175ccとしたこと以外は実施例7と同様に実施した。
【0064】
比較例8
培土の充填量を225ccとしたこと以外は実施例7と同様に実施した。
【0065】
比較例9
培土の充填量を100ccとしたこと以外は実施例7と同様に実施した。
【0066】
各実施例及び比較例の実施条件及び評価結果を、表3に示した。
【0067】
【表3】
【0068】
実施例のスギの苗は、比較例の苗と比較して、根鉢の白根の割合が高く、苗高、根本径がともに大きかった(表3)。
【0069】
実施例10
スギ種子に代えてヒノキ種子を用いたほかは、実施例7と同様に実施した。
【0070】
実施例11
培土の充填量を165ccとしたこと以外は実施例10と同様に実施した。
【0071】
実施例12
培土の充填量を135ccとしたこと以外は実施例10と同様に実施した。
【0072】
比較例10
培土の充填量を175ccとしたこと以外は実施例10と同様に実施した。
【0073】
比較例11
培土の充填量を225ccとしたこと以外は実施例10と同様に実施した。
【0074】
比較例12
培土の充填量を100ccとしたこと以外は実施例4と同様に実施した。
【0075】
各実施例及び比較例の実施条件及び評価結果を、表4に示した。
【0076】
【表4】
【0077】
実施例のヒノキの苗は、比較例の苗と比較して、根鉢の白根の割合が高く、苗高、根本径がともに大きかった(表4)。