(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141186
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】フィルム積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/04 20060101AFI20241003BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20241003BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20241003BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B15/04 Z
B32B15/20
B32B15/082 B
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052692
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】歳森 悠人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17D
4F100AA17E
4F100AA19D
4F100AA19E
4F100AA20D
4F100AA20E
4F100AA21D
4F100AA21E
4F100AA22D
4F100AA22E
4F100AA25D
4F100AA25E
4F100AA27D
4F100AA27E
4F100AB17B
4F100AB17C
4F100AK17A
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100EH66D
4F100EH66E
4F100EH71B
4F100EH71C
4F100GB41
4F100JA12D
4F100JA12E
4F100JG01D
4F100JG01E
4F100JJ03
4F100JK11
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】高周波領域における伝送損失が低いフッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性に特に優れ、かつ、高温環境下で使用した場合であっても密着性が大きく低下せず、高周波信号伝送用の配線基板に特に適したフィルム積層体を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂フィルム11の片面または両面に金属銅層12が積層されたフィルム積層体10であって、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間に、非晶質酸化物層13が形成されていることを特徴とする。非晶質酸化物層13の厚みが10nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。非晶質酸化物層13を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含むことが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂フィルムの片面または両面に金属銅層が積層されたフィルム積層体であって、
前記フッ素樹脂フィルムと前記金属銅層との間に、非晶質酸化物層が形成されていることを特徴とするフィルム積層体。
【請求項2】
前記非晶質酸化物層の厚みが10nm以上100nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のフィルム積層体。
【請求項3】
前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルム積層体。
【請求項4】
前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、InおよびZnを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルム積層体。
【請求項5】
前記金属銅層の厚みが2μm以上20μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルム積層体。
【請求項6】
前記金属銅層の導電率が80%IACS以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂フィルムの片面または両面に金属銅層が積層されたフィルム積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子・電気機器に用いられる配線用基板として、絶縁樹脂層の表面に導電層または伝熱層として金属銅層が積層されたフィルム積層体が用いられている。
ここで、GHz帯域以上のアンテナやレーダ等の高周波信号伝送デバイス用の配線基板においては、高周波領域で用いた際の伝送損失が低いことが求められる。
そこで、例えば、特許文献1,2に示すように、フッ素樹脂フィルムを用いたフィルム積層体が提供されている。フッ素樹脂は、誘電率が低く、かつ、誘電損失が低いことから、高周波信号伝送用の配線基板を構成する樹脂フィルムとして特に適している。
【0003】
ところで、フッ素樹脂フィルムにおいては、その表面が化学的に非常に安定であることから、他の材料との接着力が低くなる傾向にある。
そこで、特許文献1においては、フッ素樹脂の表面に突起を形成するとともに、金属箔を粗化処理し、圧着積層の条件を最適化することにより、アンカー効果による銅膜とフッ素樹脂との密着性の向上を図っている。
また、特許文献2においては、フッ素樹脂の表面に、物理蒸着法を用いて金属薄膜(ニッケル膜またはチタン膜)を形成し、この金属薄膜の上に銅めっきを行うことで銅膜を形成することで、銅膜とフッ素樹脂との密着性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-019932号公報
【特許文献2】国際公開第2018/179904号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1においては、フッ素樹脂と金属箔との界面が粗化することになり、伝送損失が悪化するといった問題があった。
また、特許文献2においては、高温環境下で使用した場合に、フッ素樹脂の表面に形成された金属薄膜が酸化し、密着性が低下してしまうおそれがあり、耐熱性が不十分であった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高周波領域における伝送損失が低いフッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性に特に優れ、かつ、高温環境下で使用した場合であっても密着性が大きく低下せず、高周波信号伝送用の配線基板に特に適したフィルム積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のフィルム積層体は、フッ素樹脂フィルムの片面または両面に金属銅層が積層されたフィルム積層体であって、前記フッ素樹脂フィルムと前記金属銅層との間に、非晶質酸化物層が形成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の態様1のフィルム積層体によれば、前記フッ素樹脂フィルムの表面に非晶質酸化物層が形成されているので、フッ素樹脂の最表面でO(酸素)を介した化学結合を形成し、フッ素樹脂フィルムと非晶質酸化物層との強固な結合を実現することができる。そして、非晶質酸化物層と金属銅層とは、接合性が良好であることから、前記フッ素樹脂フィルムと前記金属銅層との密着性に特に優れている。
また、非晶質酸化物層が化学的に安定であることから、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応が抑制され、高温環境下で使用した場合であっても密着性の低下を抑えることができる。さらに、非晶質酸化物層とされていることから、粒界が存在せずにバリア性に優れており、高温環境下で使用した場合であっても、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を抑制することができる。
【0009】
本発明の態様2のフィルム積層体は、態様1のフィルム積層体において、前記非晶質酸化物層の厚みが10nm以上100nm以下の範囲内であることを特徴としている。
本発明の態様2のフィルム積層体によれば、前記非晶質酸化物層の厚みが10nm以上とされているので、バリア性を確保でき、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を的確に抑制することが可能となる。一方、前記非晶質酸化物層の厚みが100nm以下とされているので、膜応力によるフィルムの反りを抑制することができる。
【0010】
本発明の態様3のフィルム積層体は、態様1または態様2のフィルム積層体において、前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含むことを特徴としている。
本発明の態様3のフィルム積層体によれば、前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含んでいるので、非晶質酸化物層がさらに化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応をより抑制することが可能となる。また、バリア性を十分に確保することができ、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を的確に抑制することができる。
【0011】
本発明の態様4のフィルム積層体は、態様1または態様2のフィルム積層体において、前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、InおよびZnを含むことを特徴としている。
本発明の態様4のフィルム積層体によれば、前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、InおよびZnを含んでいるので、非晶質酸化物層がさらに化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応をより抑制することが可能となる。また、バリア性を十分に確保することができ、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を的確に抑制することができる。
【0012】
本発明の態様5のフィルム積層体は、態様1から態様4のいずれかひとつのフィルム積層体において、前記金属銅層の厚みが2μm以上20μm以下の範囲内であることを特徴としている。
本発明の態様5のフィルム積層体によれば、前記金属銅層の厚みが2μm以上とされているので、放射損失の影響を抑制することができ、伝送損失を確実に低く抑えることができる。一方、前記金属銅層の厚みが20μm以下とされているので、エッチングによるパターン形成を効率的にかつ精度良く行うことができる。
【0013】
本発明の態様6のフィルム積層体は、態様1から態様5のいずれかひとつのフィルム積層体において、前記金属銅層の導電率が80%IACS以上であることを特徴としている。
本発明の態様6のフィルム積層体によれば、金属銅層の導電率が80%IACS以上とされているので、伝送特性に特に優れている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高周波領域における伝送損失が低いフッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性に特に優れ、かつ、高温環境下で使用した場合であっても密着性が大きく低下せず、高周波信号伝送用の配線基板に特に適したフィルム積層体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態であるフィルム積層体の概略説明図である。
【
図2】本実施形態であるフィルム積層体の製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図3】実施例におけるXRD測定結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施形態であるフィルム積層体について説明する。
本発明の一実施形態であるフィルム積層体は、高周波信号伝送用の配線基板として使用されるものである。
【0017】
本実施形態であるフィルム積層体10は、
図1に示すように、フッ素樹脂フィルム11と、このフッ素樹脂フィルム11に積層された金属銅層12と、を備えており、これらフッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間に、非晶質酸化物層13が形成された構造とされている。
【0018】
フッ素樹脂フィルム11は、例えば、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン・四フッ化エチレン共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などのフッ素樹脂で構成されたものとされている。フッ素樹脂は、誘電率が低く、かつ、誘電損失が低いことから、高周波信号伝送用の配線基板を構成する樹脂フィルムとして特に適している。
ここで、フッ素樹脂フィルム11の厚みt1は、特に制限はないが、5μm以上200μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0019】
金属銅層12は、電気伝導性及び熱伝導性に優れた銅または銅合金で構成されており、導電層または伝熱層として作用するものである。
ここで、金属銅層12においては、導電率が80%IACS以上であることが好ましく、85%IACS以上であることがより好ましい。
【0020】
また、金属銅層12の厚みt2は、2μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましい。
金属銅層12の厚みt2が2μm以上であれば、表皮効果と同等程度とならずに放射損失の影響を無視することができる。一方、金属銅層12の厚みt2が20μm以下であれば、金属銅層12に対してエッチングによって回路パターンを形成する際に、エッチングを効率良く、かつ精度良く、行うことが可能となる。
なお、金属銅層12の厚みt2の下限は5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、金属銅層12の厚みt2の上限は18μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
そして、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間には、非晶質の酸化物からなる非晶質酸化物層13が形成されている。
この非晶質酸化物層13により、フッ素樹脂フィルム11と非晶質酸化物層13とが、O(酸素)を介した化学結合C-O-M(Mは、非晶質酸化物層13に含まれる成分元素)により、強固に結合されることになる。
また、非晶質酸化物層13が化学的に安定であり、フッ素樹脂フィルム11の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層13との反応が抑制される。
さらに、非晶質酸化物層13は、粒界が存在せずにバリア性に優れていることから、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を抑制することができる。
【0022】
ここで、非晶質酸化物層13を構成する酸化物は、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含むことが好ましい。
これらの金属の酸化物は、スパッタ等によって成膜した際に、非晶質の酸化物膜が形成されることになり、バリア性を十分に確保することが可能となる。
【0023】
あるいは、非晶質酸化物層13を構成する酸化物は、InおよびZnを含むことが好ましい。
これらの金属の酸化物は、スパッタ等によって成膜した際に、非晶質の酸化物膜が形成されることになり、バリア性を十分に確保することが可能となる。
【0024】
また、非晶質酸化物層13の厚みt3は、10nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。
非晶質酸化物層13の厚みt3が10nm以上であれば、バリア性を十分に確保することができる。一方、非晶質酸化物層13の厚みt3が100nm以下であれば、膜応力によってフィルムに反りが生じることを抑制できる。
なお、非晶質酸化物層13の厚みt3の下限は15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。また、非晶質酸化物層13の厚みt3の上限は80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
次に、本実施形態であるフィルム積層体10の製造方法について、
図2のフロー図を参照して説明する。
【0026】
(フッ素樹脂フィルム準備工程S01)
まず、フッ素樹脂フィルム11を準備する。なお、フッ素樹脂フィルム11の表面に官能基を導入する目的で、プラズマ処理等の表面処理を行ってもよい。
【0027】
(非晶質酸化物層形成工程S02)
次に、フッ素樹脂フィルム11の表面に、スパッタリングによって非晶質酸化物層13を所定の厚みで成膜する。
なお、スパッタリングターゲットとして、所定の組成の酸化物ターゲットを用いてもよいし、金属ターゲットを用いて酸素を導入して成膜してもよい。
【0028】
(シード層形成工程S03)
次に、非晶質酸化物層13の上に、めっき用のシード層としてスパッタリングにより銅層を形成する。シード層(スパッタ銅層)の厚みは、10nm以上1000nm以下の範囲内とすることが好ましい。
シード層は、上述の非晶質酸化物層13を形成した後、大気開放することなく、連続して成膜することが好ましい。
【0029】
(銅めっき層形成工程S04)
次に、シード層を形成した後に、電解めっきにより、所定厚みの銅めっき層を形成する。シード層および銅めっき層によって、金属銅層12が構成されることになる。
【0030】
上述の各工程により、本実施形態であるフィルム積層体10が製造される。なお、フッ素樹脂フィルム11の両面に金属銅層12を形成する場合には、フッ素樹脂フィルム11の片面で非晶質酸化物層形成工程S02およびシード層形成工程S03を実施し、次に、反対側の面で非晶質酸化物層形成工程S02およびシード層形成工程S03を実施した後、銅めっき層形成工程S04を実施すればよい。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態であるフィルム積層体10によれば、フッ素樹脂フィルム11の表面に非晶質酸化物層13が形成されているので、フッ素樹脂フィルム11の最表面でO(酸素)を介した化学結合を形成することになり、フッ素樹脂フィルム11と非晶質酸化物層13とを強固に結合させることができる。そして、非晶質酸化物層13と金属銅層12とは、接合性が良好であることから、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との密着性に特に優れている。
また、非晶質酸化物層13が化学的に安定であり、フッ素樹脂フィルム11の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層13との反応が抑制され、高温環境下で使用した場合であっても密着性の低下を抑えることができる。
さらに、粒界が存在しない非晶質酸化物層13がバリア層として作用することになり、高温環境下で使用した場合であっても、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層13との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を抑制することができる。
【0032】
本実施形態であるフィルム積層体10において、非晶質酸化物層13の厚みt3が10nm以上100nm以下の範囲内である場合には、バリア性を確保でき、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を的確に抑制することが可能となるとともに、膜応力によるフィルムの反りを抑制することができる。
【0033】
本実施形態であるフィルム積層体10において、非晶質酸化物層13を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含む場合には、非晶質酸化物層13がさらに化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層13との反応をより抑制することが可能となる。
また、スパッタリングによって非晶質の酸化物膜を成膜することができ、非晶質酸化物層13におけるバリア性を十分に確保することができる。
【0034】
本実施形態であるフィルム積層体10において、InおよびZnを含む場合には、非晶質酸化物層13がさらに化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層13との反応をより抑制することが可能となる。
また、スパッタリングによって非晶質の酸化物膜を成膜することができ、非晶質酸化物層13におけるバリア性を十分に確保することができる。
【0035】
本実施形態であるフィルム積層体10において、金属銅層12の厚みt2が2μm以上20μm以下の範囲内である場合には、放射損失の影響を抑制することができ、伝送損失を確実に低く抑えることができるとともに、エッチングによるパターン形成を効率的にかつ精度良く行うことができる。
さらに、本実施形態であるフィルム積層体10において、金属銅層13の導電率が80%IACS以上である場合には、伝送特性に特に優れている。
【0036】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0037】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0038】
フッ素樹脂フィルムとして、AGC社製のPFAフィルム(厚み50μm)を準備した。このフッ素樹脂フィルムの表面に、表1に示す酸化物層をスパッタリングによって成膜した。なお、酸化物層は、以下の条件で成膜した。なお、比較例3においては、Tiターゲットを用いて、中間層として金属Ti膜を成膜した。
【0039】
(酸化物層の成膜条件)
ターゲット材料:Si,Al,Ti,Ta,Zr,Cr,Ge,Zn,In,Sn,IZO(85at%In-15at%Zn複合酸化物)(純度99.9mass%以上)
成膜開始真空度:1.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴンと高純度酸素の混合ガス
チャンバー内スパッタガス圧力:0.2Pa
直流電力密度:7.5W/cm2(Si,Al,Ti,Ta,Zr,Cr,Zn,In、Sn,IZO)
交流電力密度:10.0W/cm2(Ge)
【0040】
次に、めっき用のシード層として、スパッタリングにより銅層を100nm形成した。スパッタ条件は以下のとおりである。なお、シード層は、中間層を形成した後、大気開放することなく、連続して形成した。
(シード層の成膜条件)
ターゲット材料:Cu(純度99.99mass%以上)
成膜開始真空度:1.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴン
チャンバー内スパッタガス圧力:0.2Pa
直流電力密度:7.5W/cm2
【0041】
次に、シード層の上に、以下の条件で電解めっきを行うことにより、銅めっき層を形成した。なお、表1に示す金属銅層の厚みは、シード層および銅めっき層の合計厚みとなる。
(電解めっき条件)
前処理:硫酸洗浄
液温:25℃
アノード:含燐銅
攪拌条件:Air 12.5L/min
めっき条件:4A、45min(時間は膜厚15μmの場合)
めっき液:CuSO4・5H2O 200g/L
H2SO4 54g/L
1molHCl 1.37mL/L
【0042】
以上のようにして製造したフィルム積層体について、中間層(酸化物層)の結晶性、中間層の厚み、金属銅層の厚み、金属銅層の導電率、密着強度、耐熱性について、以下のようにして評価した。評価結果を表1に示す。
【0043】
(中間層の結晶性)
フッ素樹脂フィルム上に酸化物膜を単層で50nm成膜し、GI-XRD法(リガク社 SmartLab)により測定することで中間層(酸化物層)の結晶性の有無を判断した。入射X線はCu Kα線を用い、X線入射角ω=0.5°、検出範囲2θ=10~110°で測定を行った。XRD測定結果の一例を
図3に示す。
図3に示すように、実施例6においては、フッ素樹脂フィルム(参照データ)と同様のパターンとなっており、結晶性を示すピークは確認されない。一方、比較例1においては、結晶性を示すピーク(
図3の矢印参照)が確認される。
【0044】
(中間層の厚み)
中間層の厚みは、成膜レートからの狙い値となる。成膜レートは、ダミー基板に一定時間成膜後の膜厚を段差測定計(Bruker社Dektak-XT)により測定し、膜厚を成膜時間で割ることで算出した。
なお、フィルム積層体の断面をTEM(透過電子顕微鏡:日本電子社製JEM-2010F)で観察することで、中間層の厚みを確認した結果、成膜レートからの狙い値と同等の値を示していた。
【0045】
(金属銅層の厚み)
金属銅層(シード層および銅めっき層)の厚みは、渦電流法によって確認した。
【0046】
(金属銅層の導電率)
金属銅層の導電率σA(S/m)を、低抵抗率測定計(三菱化学製 ロレスタGP)を用いた四探針法により測定した。そして、以下の式により、%IACSに換算した。
σ(%IACS)=σA/(5.8×107)
【0047】
(密着強度)
図4に示すように、フッ素樹脂フィルム上に形成された中間層および金属銅層を5mm幅で切り出し、エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機(RTF-1310)を用いて、剥離角度90度、剥離速度50mm/minの条件で評価した。
【0048】
(耐熱性試験)
耐熱性試験として、フィルム積層体を150℃×240hの条件でクリーンオーブン内に保管した。保管後のフィルム積層体について、上述のようにして密着強度を測定した。そして、耐熱試験前後の密着強度の変化率を算出した。
(変化率)=(試験後密着強度 - 試験前密着強度))/ 試験前密着強度 ×100(%)
【0049】
【0050】
比較例1においては、フッ素樹脂フィルムと金属銅層の間に中間層として結晶性のZn酸化物層を形成したが、耐熱試験後に密着強度が大きく低下した。フッ素樹脂シートと金属銅層との間で相互拡散し、銅がフッ化および酸化したためと推測される。
比較例2においては、フッ素樹脂フィルムと金属銅層の間に中間層として結晶性のIn-Sn酸化物層(ITO層)を形成したが、耐熱試験後に密着強度が大きく低下した。フッ素樹脂シートと金属銅層との間で相互拡散し、銅がフッ化および酸化したためと推測される。
【0051】
比較例3においては、フッ素樹脂フィルムと金属銅層の間に中間層として金属Ti層を形成したが、耐熱試験後に密着強度が大きく低下した。中間層である金属Ti層がフッ化および酸化したためと推測される。
比較例4においては、中間層を形成せずにフッ素樹脂フィルム上に、直接、金属銅層を形成したが、初期の密着強度が低く、かつ、耐熱試験後に密着強度が大きく低下した。
【0052】
これに対して、実施例1~22においては、フッ素樹脂フィルムと金属銅層の間に中間層として非晶質酸化物層を形成しており、初期の密着性に優れるとともに、耐熱試験後にも密着強度が大きく低下せず、耐熱性に優れていた。
【0053】
以上のことから、実施例によれば、高周波領域における伝送損失が低いフッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性に特に優れ、かつ、高温環境下で使用した場合であっても密着性が大きく低下せず、高周波信号伝送用の配線基板に特に適したフィルム積層体を提供可能であることが確認された。