(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141194
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】歯科用埋没材
(51)【国際特許分類】
B22C 1/08 20060101AFI20241003BHJP
B22C 7/02 20060101ALI20241003BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B22C1/08 E
B22C7/02 103
A61C13/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052703
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(72)【発明者】
【氏名】安藤 快
(72)【発明者】
【氏名】弓山 直輝
(72)【発明者】
【氏名】鳥田 泰弘
【テーマコード(参考)】
4C159
4E092
4E093
【Fターム(参考)】
4C159EE10
4E092AA04
4E092AA08
4E092AA15
4E092AA18
4E092AA21
4E092AA41
4E092BA11
4E093GB05
(57)【要約】
【課題】
金属の鋳造に使用できる歯科用埋没材において、加熱時に不可逆的に膨張するような成分を添加して、鋳型温度が低い場合においても金属の鋳造収縮を補うことが期待できる不可逆型膨張剤含有の歯科用埋没材を提供すること。
【解決手段】
シリコーンパウダーを含むことを特徴とする歯科用埋没材粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンパウダーを含むことを特徴とする歯科用埋没材粉末。
【請求項2】
前記シリコーンパウダーを0.1~10.0wt%を含むことを特徴とする請求項1に記載の歯科用埋没材粉末。
【請求項3】
前記シリコーンパウダーがシリコーンレジン粉末であることを特徴とする請求項1~2に記載の歯科用埋没材粉末。
【請求項4】
酸化マグネシウムを 1~30wt%、第一りん酸アンモニウムを1~30wt%含むことを特徴とする請求項1~3に記載の歯科用埋没材。
【請求項5】
結合材として半水石膏を10~80wt%含むことを特徴とする請求項1~3に記載の歯科用埋没材。
【請求項6】
結合材としてアルミナセメントを2~50wt%含むことを特徴とする請求項1~3に記載の歯科用埋没材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科分野に用いられる不可逆型膨張剤含有の歯科用埋没材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科の欠損補綴修復で間接的に金属の補綴装置を作製する場合、ロストワックス法と呼ばれる方法が一般的である。この方法を説明すると次の通りとなる。
【0003】
歯科の欠損形態を印象材と呼ばれる型材にて欠損型を取り、そこに石膏などの模型材を注入することにより、口腔外にて患者の欠損形態を再現した模型を作製する。次に、この模型にワックスを用いて修復されるべき形の形態を再現させ、原型を得る。この原型をワックスパターンという。得られたワックスパターンを金属に置き換えるために、鋳型を作製する。鋳型は、埋没材と呼ばれる粉材と水又は/及びコロイダルシリカ水溶液などの液材で練和されたスラリーを型材に流し込んでワックスパターンを埋め込む。埋没材が硬化後、加熱し鋳型内のワックスパターンを焼却させ、形成した鋳型の空間に融解した金属を注ぎ込む。さらに冷却後、鋳型を壊して鋳造体を取り出すことで目的とする金属製の補綴装置を得ることができる。これらの補綴装置を作製するには、このロストワックス法が一般的である。
【0004】
この埋没材には、金合金、銀合金、金銀パラジウム合金など比較的融点の低い合金(低溶合金)に使用される石膏系埋没材と、陶材焼付用金合金、陶材焼付用セミプレシャス系合金及びNi-Cr合金、Co-Cr合金など比較的融点の高い合金(高溶合金)に使用されるりん酸塩系埋没材と、チタン及びチタン合金などさらに融点が高く活性が高い金属に使用されるアルミナセメントやマグネシアセメントを含む非りん酸塩系埋没材などが一般的に知られている。これらの埋没材は、粉材と液材から構成されている。粉材は鋳型の形態を維持する結合材と鋳型に耐熱性などを付与する耐火材を含む。液材は水又は/及びコロイダルシリカを含む水溶液が用いられる。粉材と液材を適量混合し、これらが反応して硬化することで鋳型を作製する。
【0005】
一般的に歯科鋳造においては、融解した合金が鋳型空洞内に鋳込まれた際に鋳造収縮が発生するため、適合性を確保するには、この鋳造収縮を補償するための膨張させた鋳型が必要となる。ここで、金属の鋳造収縮とは、融解合金から凝固するときの凝固収縮と、凝固が終了した温度から室温までの固体時の熱収縮のことを示す。鋳造収縮を補償する鋳型を得るためには、埋没材が硬化するときに生じる硬化膨張と、硬化した鋳型を加熱したときに生じる加熱膨張の両者により達成される。
【0006】
例えば、りん酸塩系埋没材の組成を例にあげると、粉材に結合材として酸化マグネシウム及び第一りん酸アンモニウムを含み、耐火材として、シリカ、アルミナ及びケイ酸ジルコニウム等を含み、液材に水又は/及びコロイダルシリカを含む水溶液からなる。それらを練和・硬化させることで鋳型が作製できる。液材のコロイダルシリカを含む水溶液の濃度を調節することにより、様々な金属の鋳造収縮に見合った総合膨張(硬化膨張と加熱膨張の合計値)を得ることができる。
【0007】
硬化膨張は、コロイダルシリカの粒子径及び濃度などにより変化することができる。さらに硬化させた鋳型はワックスパターンを焼却する際に、700~1000℃まで昇温させるため、加熱膨張も発生する。この硬化膨張と加熱膨張の合計値が金属の鋳造収縮を補填し、補綴装置の適合を調整する。
【0008】
ワックスパターンを焼却する際の鋳型温度が必要以上に高温になった場合には、融解した金属と鋳型材が反応し焼き付き、反応層が形成されたり、鋳造体表面が全体的又は部分的に粗造となり、鋳肌あれが生じる場合があり、鋳造体の表面削除により適合性が悪くなることがある。例えば、チタンの鋳造においては、鋳型温度が高い場合、チタンと鋳型との間に厚い反応層が形成されるため、鋳型温度が700℃~1000℃の高温の鋳型に鋳造を行うと顕著に反応するため、避ける必要があり、好ましくは、400℃以下、より好ましくは室温の鋳型に鋳造を行うことで、チタンと鋳型との反応を抑制することができる。
【0009】
しかしながら、鋳型温度が400℃以下で鋳造すると、例えば、耐火材に使用している加熱膨張していたシリカが収縮する傾向にあり、金属の鋳造収縮を補填できない場合がある。そのため、不可逆的に加熱膨張するような成分を埋没材に添加することで、鋳型温度が低い場合においても金属の鋳造収縮を補うことが期待できる。
【0010】
特許文献1には、金属ジルコニウム粉末を添加することで、金属の鋳造収縮を補う技術が開示されている。具体的には、金属ジルコニウム粉末を高温で加熱することで酸化させて、その際の体積膨張を利用して鋳造収縮を補う技術である。しかし、この技術では、金属ジルコニウム粉末は、大気中の酸素、水素、窒素などと容易に酸化等の反応をしてしまい、埋没材を長期にわたって安定して保存することが困難である。
【0011】
特許文献2には、アルミナ及びマグネシアを添加することで、金属の鋳造収縮を補う技術が開示されている。具体的には、アルミナ及びマグネシアに対して高温で加熱することで、これらが反応してスピネルが生成し、不可逆的に体積膨張することで鋳造収縮を補う技術である。しかし、この技術では、スピネル反応が、1200℃以下の焼成温度において急激に起こる反応であるため、鋳型を焼成する炉の設定温度の違いにより発現する膨張量が異なってくる。したがって、温度分布が悪い炉においては、同一炉内でも鋳型の一部において膨張量が相違し、鋳型の適合性に違いが生じるおそれがある。
【0012】
特許文献3には、アルミニウム微粉を添加することで、金属の鋳造収縮を補う技術が開示されている。具体的には、埋没材中にアルミニウム微粉を混入させ、発生する水素ガスの圧力により鋳型を膨張させる技術である。しかし、この技術では、金属と水との反応による気泡の発生、加熱時におけるクラックの発生、鋳造後の鋳肌あれ等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭61-9940号公報
【特許文献2】特開平1-31549号公報
【特許文献3】特開昭59-218237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、金属の鋳造に使用できる歯科用埋没材において、加熱時に不可逆的に膨張するような成分を添加して、鋳型温度が低い場合においても金属の鋳造収縮を補うことが期待できる不可逆型膨張剤含有の歯科用埋没材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの課題について本発明者らは鋭意研究の結果、本発明に到ることができた。
即ち、本発明は、シリコーンパウダーを含むことを特徴とする歯科用埋没材粉末である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果は、鋳型温度が低い場合にも安定して金属の鋳造収縮を補填可能な鋳型の膨張が維持されることである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る歯科用埋没材について具体的に説明する。なお、本発明は、以下に例示されるものに関して特に限定されるものではない。本発明の歯科用埋没材は、粉材及び液材により構成される。
【0018】
本発明におけるシリコーンパウダーは、シリコーンゴム粉末、シリコーンレジン粉末、およびシリコーンゴム部分とシリコーンレジン部分を有するシリコーン複合粉末等があげられる。
【0019】
本発明におけるシリコーンゴム粉末は、直鎖状のシリコーン主鎖が架橋した構造を持つ、架橋したポリシロキサンの粉末であり、官能基にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロぺニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基のうち少なくとも一つを含む。シリコーンレジン粉末を具体的に例示するとポリジメチルポリシロキサン及びポリジエチルポリシロキサンが架橋した粉末などが挙げられる。
本発明におけるシリコーンレジン粉末は、シリコーン主鎖が三次元網目状に架橋した構造を持つ、ポリオルガノシルセスキオキサンの粉末であり、官能基にメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロぺニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基のうち少なくとも一つを含む。シリコーンレジン粉末を具体的に例示するとポリメチルシルセスキオキサン、ポリフェニルシルセスキオキサンの粉末などが挙げられる。
本発明におけるシリコーン複合粉末は、前記シリコーンゴム粉末粒子に前記シリコーンレジン粉末の樹脂を被覆した構造を持つ粉末である。シリコーンゴム粉末及びシリコーンレジン粉末に適用する官能基は前記同様である。
上記シリコーンパウダーの中でも、構造内に含有する炭素量が比較的少なく、鋳型の膨張量が最も大きくなるため、シリコーンレジン粉末を用いることが最も好ましい。
【0020】
ワックスパターンを焼却する際に、700~1000℃の温度域で鋳型を加熱するため、本発明の効果を発現させるためにシリコーンパウダーの酸化開始温度は、700℃以下であることが好ましい。本発明におけるシリコーンパウダーは、約400℃付近で酸化することで体積膨張を生じ、他の耐火材の粒子を押し広げることによって、鋳型が膨張し、室温まで冷却されても、酸化・分解されたシリコーンパウダーは収縮することなく、鋳型の不可逆的な膨張が維持される。石膏系埋没材においては、結合材である石膏は750℃以上で分解し、著しい収縮を示すことから、石膏系埋没材は750℃以下で焼成することが望ましい。よって、添加するシリコーンパウダーの酸化開始温度が700℃よりも高い場合、十分な効果を得ることができない場合がある。
【0021】
本発明の粉材に添加するシリコーンパウダーの配合量は、0.1~10.0wt%が好ましく、より好ましくは0.5~3.0wt%である。本発明におけるシリコーンパウダーは、適量添加することで、埋没材硬化時の結合材の結晶成長による膨張を効率よく伝播するため、硬化膨張を増大させる。本発明におけるシリコーンパウダーを添加した埋没材は、硬化時の鋳型の膨張量が増大し、加熱時に鋳型が不可逆的に膨張することで、鋳型を冷却した場合でも鋳型の膨張が維持され、金属の鋳造収縮を補償することができる。シリコーンパウダーの配合量が0.1wt%未満の場合、鋳造収縮を補償するような膨張が得られない可能性があり、10.0wt%を越える場合、焼却時に埋没材に割れや亀裂が発生する可能性がある。
【0022】
本発明におけるシリコーンパウダーの平均粒子径は、0.1~30μmであることが好ましく、特に好ましくは0.5~5μmである。30μm以上であれば焼却時に埋没材に割れや亀裂が発生する可能性があり、0.1μm以下であれば鋳造収縮を補償するような膨張が得られないという不具合がある。
ここで本発明において「平均粒子径」は、コールター原理を用いた精密粒度測定装置によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0023】
本発明の歯科用埋没材は、本発明の効果を発現させることにおいて、結合材の種類に特に制限はなく、りん酸アンモニウム及び酸化マグネシウムを結合材としたりん酸塩系埋没材、二水石膏及び半水石膏を結合材とした石膏系埋没材及びアルミナセメント又はマグネシアセメントを結合材とした非りん酸塩系埋没材においても同様の効果が得られる。
【0024】
以下、りん酸塩系埋没材を例として記載する。
りん酸塩系埋没材は、粉材に酸化マグネシウム及び第一りん酸アンモニウムを含み、液材と反応によって硬化反応を起こし、鋳型を形成する。
【0025】
本発明の歯科用埋没材を構成する粉材に含まれる酸化マグネシウムの種類は特に制限はないが、純度が高い方が好ましく、また微細化してある方が好ましい。以下、本発明における「平均粒子径」は、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
酸化マグネシウムの平均粒子径は、特に制限はないが、平均粒子径は15~40μmであることが好ましく、20~30μmであることが更に好ましい。また、酸化マグネシウムの粒度分布において100μm以上の粒子が1.0wt%以内であることが好ましく、更に好ましくは100μm以上の粒子を含まないことである。さらに複数の平均粒子径を持つものを組み合わせても良い。複数の平均粒子径を持つものを組み合わせた場合、組み合わせた後の平均粒子径が15~40μmであることが好ましい。
本発明の歯科用埋没材において本発明の効果を発現させるためには、酸化マグネシウムの配合量は、埋没材の粉材に対して1~30wt%の範囲であるのが好ましい。1wt%未満の場合、十分な鋳型の強度が得られず、鋳型材としては不十分なものとなる可能性があり、30wt%を越える場合、鋳型の通気性が低下し、焼却時に割れや、亀裂が生じうる。
【0026】
本発明の歯科用埋没材を構成する粉材に含まれる第一りん酸アンモニウムは、可溶性であれば特に制限なく、いずれの平均粒子径や形状であっても何等問題なく用いることができる。しかし、第一りん酸アンモニウムは、埋没材中で結合材として働くために最大粒径は小さいことが好ましい。鋳造した金属の表面の滑沢性を維持するためには60μm以上の粒径の粒子が無いことが好ましく、そしてさらに60μm以下の粒径の内、25μm以下の粒径の粒子が10~45wt%であることがより好ましく、20~35wt%であることが更に好ましい。本発明の歯科用埋没材において本発明の効果を発現させるために、第一りん酸アンモニウムの配合量は、埋没材の粉材に対して、1~30wt%の範囲でなければならない。配合量が1wt%未満の場合、十分な鋳型の強度が得られず、鋳型材としては不十分なものとなり、30wt%を越える場合、鋳型の通気性が低下し、焼却時に割れや、亀裂が生じうる。
【0027】
次に、本発明の歯科用埋没材を構成する粉材に含まれる酸化マグネシウムと第一りん酸アンモニウムとの配合比であるが、重量比で酸化マグネシウム/第一りん酸アンモニウム=0.3~1.0であることが好ましく、さらに好ましくは、酸化マグネシウム/第一りん酸アンモニウム=0.4~0.6である。
【0028】
石膏系埋没材を例に挙げると、本発明の歯科用埋没材を構成する粉材に含まれる半水石膏は、その種類及び製造方法は特に限定されず、例えば従来公知のα型半水石膏やβ型半水石膏を単独、あるいは両方を混合して用いることができる。本発明の歯科用埋没材において本発明の効果を発現させるために、半水石膏の配合量は、埋没材の粉材に対して、10~80wt%の範囲であることが好ましく、20~50wt%であることがより好ましい。配合量が10wt%未満の場合、十分な鋳型の強度が得られず、鋳型材としては不十分なものとなり、80wt%を越える場合、鋳造体の表面性状が粗造になったり、十分な加熱膨張が得られないという問題が生じうる。
【0029】
非りん酸塩系埋没材を例に挙げると、本発明の歯科用埋没材を構成する粉材に含まれるアルミナセメントは、その種類及び製造方法は特に限定されず、例えば市販のグレード品を用いることができる。本発明の歯科用埋没材において本発明の効果を発現させるために、アルミナセメントの配合量は、埋没材の粉材に対して、2~50wt%の範囲であることが好ましく、10~35wt%であることがより好ましい。配合量が2wt%未満の場合、十分な鋳型の強度が得られず、鋳型材としては不十分なものとなり、50wt%を越える場合、十分な加熱膨張が得られないという問題が生じうる。
【0030】
次に本発明の歯科用埋没材を構成する粉材は、耐火材を含んでいるが、歯科用埋没材に使用されている耐火材を何等制限なく用いることができる。それらを具体的に例示すると石英、クリストバライト、ケイ酸ジルコニウム、ジルコニア、スピネル、アルミナ、非晶質シリカ、カルシア、ムライト、イットリアなどが挙げられる。埋没材の流動性を調整するために耐火材は、5~300μmの平均粒子径のものを組み合わせて使用できる。
【0031】
本発明の歯科用埋没材において本発明の効果を発現させるためのこれらの耐火材の配合量は特に制限はないが、熱膨張係数の低い耐火材であるケイ酸ジルコニウム、ジルコニア、スピネル、アルミナ、非晶質シリカの配合量は、合計で10~90wt%が好ましい。配合量が5wt%未満又は90wt%越える場合、埋没材に割れが生じる場合がある。
【0032】
本発明の歯科用埋没材粉末と合わせて使用する液材は限定されるものではないが、コロイダルシリカ水溶液、アルミナゾル水溶液、ジルコニアゾル水溶液、水等を用いることができ、特に好ましくはコロイダルシリカ水溶液が使用できる。
【実施例0033】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。なお、シリコーンレジン粉末の粒度測定は、コールター原理を用いた精密粒度測定装置を用いた。酸化マグネシウムの粒度測定は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置を用いた。
【0034】
(使用したシリコーンレジン粉末)
不可逆型膨張剤として、平均粒子径が2μmのシリコーンレジン粉末を用いた。
(酸化マグネシウムの調製)
酸化マグネシウム原料を粉砕、分級して、平均粒子径が25μmであり、100μm以上の粒子の割合を1wt%以内のものを調製した。
(第一りん酸アンモニウムの調製)
第一りん酸アンモニウムを粉砕後、250メッシュ(60μm)を全通し、500メッシュ(25μm)篩い下の粒子が30wt%になるように調製した。
(半水石膏の調製)
半水石膏を粉砕、分級して、平均粒子径が25μmであり、100μm以上の粒子の割合を1wt%以内のものを調製した。
(アルミナセメントの調製)
アルミナセメント原料を粉砕、分級して、平均粒子径が3μmであり、50μm以上の粒子の割合を1wt%以内のものを調製した。
(耐火材の調製)
耐火材として、アルミナ(77μm)全通)、ケイ酸ジルコニウム(200メッシュ(77μm)全通)、クリストバライト(200メッシュ(77μm)全通)、石英(200メッシュ(77μm)全通)、ジルコニア(200メッシュ(77μm)全通)を用いた。
【0035】
(粉材の調合)
表1~5の実施例組成表に記載の粉材を調合し、ビニール袋にやや空気を入れ、1分間粉末を撹拌した。さらに1000μmの篩いを行い、粉材とした。
【0036】
(液材(コロイダルシリカ水溶液)の調整)
コロイダルシリカを含む水溶液として、SN-ZL(日産化学製)を用いた。
(液材(水)の調整)
練和時に使用する水は、水道水を用いた。
【0037】
(線熱膨張率の測定)
下記の実施例1~14、16~19は、組成表に記載の粉材及び液材を用いて、練和したのち硬化後、JIS T 6612:2020(歯科高温鋳造用埋没材、プレスセラミックス用埋没材及びセラミックス用耐火模型材)の規格に従い、900℃に加熱後、25℃まで冷却し、室温時の線熱膨張率を測定した。実施例15は、最高加熱温度を700℃として、前記手法にて室温時の線熱膨張率を測定した。
(硬化膨張率の測定)
下記の実施例1~19は、組成表に記載の粉材及び液材を用い、直径×高さが40mm×40mmのステンレス製リングにリングライナーを内張りして、その内部に練和したスラリーを充填し、鋳型上面にダイアルゲージを設置することで硬化膨張率を測定した。
(総合膨張率の評価)
下記の実施例の総合膨張率は、組成表に記載の粉材及び液材を用いて得られた、室温時の線熱膨張率及び硬化膨張率の和として算出した。
【0038】
総合膨張率(比較試料)
比較対象として、実施例の組成に対してシリコーンパウダーのみを含有しない基準試料を作製し総合膨張率を評価した。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
実施例1~19は、総合膨張率が総合膨張率(比較試料)と比べて全て0.1%以上であったことから、鋳型温度が低い場合においても金属の鋳造収縮を補うことが可能であることが分かった。実施例13、14より、結合材の種類に関係なく使用できることを確認した。
(効果)
上記結果より、本発明により、シリコーンパウダーを使用することで、鋳型温度が低い場合においても金属の鋳造収縮を補うことが可能である歯科用埋没材を得ることができた。