(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141196
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】フィルム積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20241003BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20241003BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B15/08 A
B32B9/00 A
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052708
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】歳森 悠人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】中矢 清隆
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AA21B
4F100AA22B
4F100AA25B
4F100AA27B
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4F100AB09C
4F100AB10C
4F100AB17A
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4F100AB40B
4F100AK17C
4F100AT00C
4F100BA02
4F100BA03
4F100EH66C
4F100GB41
4F100JA12B
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】高周波領域における伝送損失が低いフッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性に特に優れ、安定して高周波信号伝送用の配線基板等に使用可能なフィルム積層体を製造するフィルム積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂フィルムの片面または両面に金属銅層が積層されたフィルム積層体の製造方法であって、前記フッ素樹脂フィルムの表面に、PVD法によって、希土類元素の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜するフッ素樹脂フィルム表面処理工程S01と、フッ素樹脂フィルム表面処理工程S01後、前記フッ素樹脂フィルムの表面に前記金属銅層を形成する金属銅層形成工程S02と、を備えていることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂フィルムの片面または両面に金属銅層が積層されたフィルム積層体の製造方法であって、
前記フッ素樹脂フィルムの表面に、PVD法によって、希土類元素の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜するフッ素樹脂フィルム表面処理工程と、
前記フッ素樹脂フィルム表面処理工程後、前記フッ素樹脂フィルムの表面に前記金属銅層を形成する金属銅層形成工程と、
を備えていることを特徴とするフィルム積層体の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂フィルム表面処理工程後に、前記フッ素樹脂フィルムの表面に中間層を形成する中間層形成工程を有し、前記金属銅層形成工程では、前記中間層の上に前記金属銅層を形成することを特徴とする請求項1に記載のフィルム積層体の製造方法。
【請求項3】
前記中間層の厚みを10nm以上100nm以下の範囲内とすることを特徴とする請求項2記載のフィルム積層体の製造方法。
【請求項4】
前記中間層が、MgおよびGeの少なくとも一種又は二種を合計で0.5原子%以上50.0原子%以下の範囲で含み、残部がTaおよび不可避不純物である組成のTa合金からなるTa合金層であることを特徴とする請求項2に記載のフィルム積層体の製造方法。
【請求項5】
前記中間層が、非晶質酸化物層であることを特徴とする請求項2に記載のフィルム積層体の製造方法。
【請求項6】
前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含むことを特徴とする請求項5に記載のフィルム積層体の製造方法。
【請求項7】
前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、InおよびZnを含むことを特徴とする請求項5に記載のフィルム積層体の製造方法。
【請求項8】
前記金属銅層形成工程が、PVD法によって銅のシード層を形成するシード層形成工程と、前記シード層の上に銅めっきを形成する銅めっき層形成工程と、を有することを特徴とする請求項1に記載のフィルム積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂フィルムの片面または両面に金属銅層が積層されたフィルム積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子・電気機器に用いられる配線用基板として、絶縁樹脂層の表面に導電層または伝熱層として金属銅層が積層されたフィルム積層体が用いられている。
ここで、GHz帯域以上のアンテナやレーダ等の高周波信号伝送デバイス用の配線基板においては、高周波領域で用いた際の伝送損失が低いことが求められる。
そこで、例えば、特許文献1,2に示すように、フッ素樹脂フィルムを用いたフィルム積層体が提供されている。フッ素樹脂は、誘電率が低く、かつ、誘電損失が低いことから、高周波信号伝送用の配線基板を構成する樹脂フィルムとして特に適している。
【0003】
ところで、フッ素樹脂フィルムにおいては、その表面が化学的に非常に安定であることから、他の材料との接着力が低くなる傾向にある。
そこで、特許文献1においては、フッ素樹脂の表面に突起を形成するとともに、金属箔を粗化処理し、圧着積層の条件を最適化することにより、アンカー効果による銅膜とフッ素樹脂との密着性の向上を図っている。
また、特許文献2においては、フッ素樹脂の表面に、物理蒸着法を用いて金属薄膜(ニッケル膜またはチタン膜)を形成し、この金属薄膜の上に銅めっきを行うことで銅膜を形成することで、銅膜とフッ素樹脂との密着性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-019932号公報
【特許文献2】国際公開第2018/179904号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1においては、フッ素樹脂と金属箔との界面が粗化することになり、伝送損失が悪化するといった問題があった。
また、特許文献2においては、金属薄膜(ニッケル膜またはチタン膜)を形成しているが、フッ素樹脂と金属薄膜とを強固に結合することができず、フッ素樹脂と銅膜との密着性を十分に向上させることはできなかった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高周波領域における伝送損失が低いフッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性に特に優れ、安定して高周波信号伝送用の配線基板等に使用可能なフィルム積層体を製造するフィルム積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の態様1のフィルム積層体の製造方法は、フッ素樹脂フィルムの片面または両面に金属銅層が積層されたフィルム積層体の製造方法であって、前記フッ素樹脂フィルムの表面に、PVD法によって、希土類元素の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜するフッ素樹脂フィルム表面処理工程と、前記フッ素樹脂フィルム表面処理工程後、前記フッ素樹脂フィルムの表面に前記金属銅層を形成する金属銅層形成工程と、を備えていることを特徴としている。
なお、狙い膜厚とは、ある成膜レート(ダミー基板に一定時間成膜後の膜厚を段差測定計により測定し、膜厚を成膜時間で割ることで算出したもの)の材料をある時間成膜した際に得られると想定される膜厚(実測した膜厚ではない)である。例えば、成膜レート1nm/秒の材料を狙い膜厚1nmで成膜した場合、成膜時間を1秒に設定したことになる。
【0008】
本発明の態様1のフィルム積層体の製造方法によれば、前記フッ素樹脂フィルムの表面に、PVD法によって、希土類元素の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜するフッ素樹脂フィルム表面処理工程を備えているので、希土類元素、または、MgおよびGeが、フッ素樹脂の最表面のC-F結合を切断し、かつ、遊離したFを捕捉してフッ化物となることで、フッ素樹脂フィルムの表面にダングリングボンドが形成される。このダングリングボンドが酸素に修飾され、表面に酸素を含む官能基が形成されることにより、他の材料との密着性が向上することになる。なお、官能基を露呈させるために、成膜した希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種が連続膜を形成せずに凝集成長するように、上述のような膜厚に設定している。
これにより、フッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性を大幅に向上させることが可能となる。
【0009】
本発明の態様2のフィルム積層体の製造方法は、態様1のフィルム積層体の製造方法において、前記フッ素樹脂フィルム表面処理工程後に、前記フッ素樹脂フィルムの表面に中間層を形成する中間層形成工程を有し、前記金属銅層形成工程では、前記中間層の上に前記金属銅層を形成することを特徴としている。
本発明の態様2のフィルム積層体の製造方法によれば、前記フッ素樹脂フィルムの表面に中間層を形成する中間層形成工程を有しているので、この中間層によって、フッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性をさらに向上させることが可能となる。
【0010】
本発明の態様3のフィルム積層体の製造方法は、態様1または態様2のフィルム積層体の製造方法において、前記中間層の厚みを10nm以上100nm以下の範囲内とすることを特徴としている。
本発明の態様3のフィルム積層体の製造方法によれば、前記中間層の厚みが10nm以上とされているので、フッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性を確実に向上させることが可能となる。一方、前記中間層の厚みが100nm以下とされているので、膜応力によるフィルムの反りを抑制することができる。
【0011】
本発明の態様4のフィルム積層体の製造方法は、態様2または態様3のフィルム積層体の製造方法において、前記中間層が、MgおよびGeの少なくとも一種又は二種を合計で0.5原子%以上50.0原子%以下の範囲で含み、残部がTaおよび不可避不純物である組成のTa合金からなるTa合金層であることを特徴としている。
本発明の態様4のフィルム積層体の製造方法によれば、中間層として、MgおよびGeの少なくとも一種又は二種を合計で0.5原子%以上50.0原子%以下の範囲で含み、残部がTaおよび不可避不純物である組成のTa合金からなるTa合金層が形成されているので、MgおよびGeがフッ素樹脂の最表面のC-F結合のFを引き抜くことがでダングリングボンドを形成し、活性な表面となり、母相のTa合金と強固な結合を実現することができる。また、Taは化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)との反応が抑制され、高温環境下で使用した場合であっても密着性の低下を抑えることができる。
【0012】
本発明の態様5のフィルム積層体の製造方法は、態様2または態様3のフィルム積層体の製造方法において、前記中間層が、非晶質酸化物層であることを特徴としている。
本発明の態様5のフィルム積層体の製造方法によれば、中間層として、非晶質酸化物層が形成されているので、フッ素樹脂の最表面でO(酸素)を介した化学結合を形成し、強固な結合を実現することができる。また、非晶質酸化物層が化学的に安定であることから、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応が抑制され、高温環境下で使用した場合であっても密着性の低下を抑えることができる。さらに、非晶質酸化物層とされていることから、粒界が存在せずにバリア性に優れており、高温環境下で使用した場合であっても、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を抑制することができる。
【0013】
本発明の態様6のフィルム積層体の製造方法は、態様5のフィルム積層体の製造方法において、前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含むことを特徴としている。
本発明の態様6のフィルム積層体の製造方法によれば、前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含んでいるので、非晶質酸化物層がさらに化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応を抑制することが可能となる。また、バリア性を十分に確保することができ、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を的確に抑制することができる。
【0014】
本発明の態様7のフィルム積層体の製造方法は、態様5のフィルム積層体の製造方法において、前記非晶質酸化物層を構成する酸化物が、InおよびZnを含むことを特徴としている。
本発明の態様7のフィルム積層体の製造方法によれば、非晶質酸化物層がさらに化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応を抑制することが可能となる。また、バリア性を十分に確保することができ、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を的確に抑制することができる。
【0015】
本発明の態様8のフィルム積層体の製造方法は、態様1から態様7のいずれかひとつのフィルム積層体の製造方法において、前記金属銅層形成工程が、PVD法によって銅のシード層を形成するシード層形成工程と、前記シード層の上に銅めっきを形成する銅めっき層形成工程と、を有することを特徴としている。
本発明の態様8のフィルム積層体の製造方法によれば、前記金属銅層形成工程が、PVD法によって銅のシード層を形成するシード層形成工程と、前記シード層の上に銅めっきを形成する銅めっき層形成工程と、を有しているので、フッ素樹脂フィルムとの密着性に特に優れ、所定の厚みの金属銅層を安定して成膜することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高周波領域における伝送損失が低いフッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性に特に優れ、安定して高周波信号伝送用の配線基板等に使用可能なフィルム積層体を製造するフィルム積層体の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第一実施形態のフィルム積層体の製造方法によって製造されたフィルム積層体の概略説明図である。
【
図2】本発明の第一実施形態のフィルム積層体の製造方法のフロー図である。
【
図3】本発明の第二実施形態のフィルム積層体の製造方法によって製造されたフィルム積層体の概略説明図である。
【
図4】本発明の第二実施形態のフィルム積層体の製造方法のフロー図である。
【
図5】本発明の第三実施形態のフィルム積層体の製造方法によって製造されたフィルム積層体の概略説明図である。
【
図6】本発明の第三実施形態のフィルム積層体の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態であるフィルム積層体の製造方法について説明する。
本発明の実施形態であるフィルム積層体の製造方法は、高周波信号伝送用の配線基板として使用されるフィルム積層体を製造するものである。
【0019】
(第一実施形態)
まず、本発明の第一実施形態について説明する。
本発明の第一実施形態であるフィルム積層体の製造方法によって製造されるフィルム積層体10は、
図1に示すように、フッ素樹脂フィルム11と、このフッ素樹脂フィルム11に積層された金属銅層12と、を備えている。
【0020】
フッ素樹脂フィルム11は、例えば、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン・四フッ化エチレン共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)などのフッ素樹脂で構成されたものとされている。フッ素樹脂は、誘電率が低く、かつ、誘電損失が低いことから、高周波信号伝送用の配線基板を構成する樹脂フィルムとして特に適している。
ここで、フッ素樹脂フィルム11の厚みに、特に制限はないが、5μm以上200μm以下の範囲内とすることが好ましい。
【0021】
金属銅層12は、電気伝導性及び熱伝導性に優れた銅または銅合金で構成されており、導電層または伝熱層として作用するものである。
ここで、金属銅層12においては、導電率が80%IACS以上であることが好ましく、85%IACS以上であることがより好ましい。
【0022】
また、金属銅層12の厚みは、2μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましい。
金属銅層12の厚みが2μm以上であれば、表皮効果と同等程度とならずに放射損失の影響を無視することができる。一方、金属銅層12の厚みt2が20μm以下であれば、金属銅層12に対してエッチングによって回路パターンを形成する際に、エッチングを効率良く、かつ精度良く、行うことが可能となる。
なお、金属銅層12の厚みの下限は5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、金属銅層12の厚みの上限は18μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
次に、本実施形態であるフィルム積層体10の製造方法について、
図2のフロー図を参照して説明する。
【0024】
(フッ素樹脂フィルム表面処理工程S01)
まず、フッ素樹脂フィルム11の表面に、希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜する。
なお、希土類元素、または、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜する方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子線エピタキシー法等のPVD法(物理気相蒸着法)を用いる。量産性や粒子エネルギーの観点からスパッタリング法が最も好ましい。
【0025】
フッ素樹脂フィルム11の表面に、PVD法によって、希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜することにより、フッ素樹脂フィルム11の最表面のC-F結合を切断し、かつ、遊離したFを捕捉してフッ化物となることで、フッ素樹脂フィルム11の表面にダングリングボンドが形成されることになる。
このダングリングボンドが、フッ素樹脂フィルム11の表面に存在する吸着酸素等によって酸素修飾され、フッ素樹脂フィルム11の表面に酸素を含む官能基が形成される。これにより、フッ素樹脂フィルム11と他の材料(金属銅層12)との密着性が向上することになる。
【0026】
ここで、フッ素樹脂フィルム11の表面に形成された酸素を含む官能基を露呈させるために、希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種が連続膜を形成せずに凝集成長するように、成膜する膜厚を設定する。
具体的には、希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)の1種または2種以上を成膜する場合には、狙い膜厚を0.5nm以上2.0nm以下の範囲内とする。
また、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜する場合には、狙い膜厚を0.5nm以上10.0nm以下の範囲内とする。
【0027】
なお、希土類元素を成膜する場合には、狙い膜厚を0.6nm以上とすることが好ましく、0.8nm以上とすることがより好ましい。一方、希土類元素を成膜する場合には、狙い膜厚を1.8nm以下とすることが好ましく、1.5nm以下とすることがより好ましい。
また、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜する場合には、狙い膜厚を1.0nm以上とすることが好ましく、1.5nm以上とすることがより好ましい。一方、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜する場合には、狙い膜厚を8.0nm以下とすることが好ましく、7.0nm以下とすることがより好ましい。
【0028】
上述の狙い膜厚で、希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜した場合には、フッ素樹脂フィルム11の表面全体を覆うような続膜は形成されず、凝集体を形成して島状に分布することになる。よって、フッ素樹脂フィルム11の表面に形成された酸素を含む官能基が露呈することになる。このように、連続膜を形成しないことから、実際の膜の膜厚を確認することは困難である。
【0029】
(金属銅層形成工程S02)
次に、希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜したフッ素樹脂フィルム11に、金属銅層12を形成する。本実施形態においては、金属銅層形成工程S02は、シード層形成工程S21と銅めっき層形成工程S22を有している。
【0030】
シード層形成工程S21においては、スパッタリング等のPVD法により、銅からなるシード層を形成する。シード層の厚みは、10nm以上1000nm以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、シード層は、上述の希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜した後、大気開放することなく、連続して成膜することが好ましい。
【0031】
銅めっき工程S22においては、形成したシード層の上に、電解めっきによって、所定厚みの銅めっき層を形成する。
そして、シード層および銅めっき層によって、金属銅層12が構成されることになる。
【0032】
上述の各工程により、本実施形態であるフィルム積層体10が製造される。なお、フッ素樹脂フィルム11の両面に金属銅層12を形成する場合には、フッ素樹脂フィルム11の片面でフッ素樹脂フィルム表面処理工程S01およびシード層形成工程S21を実施し、次に、反対側の面でフッ素樹脂フィルム表面処理工程S01およびシード層形成工程S21を実施した後、銅めっき層形成工程S22を実施すればよい。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態であるフィルム積層体の製造方法によれば、フッ素樹脂フィルム11の表面に、PVD法によって、希土類元素の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜するフッ素樹脂フィルム表面処理工程S01を備えているので、希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種が、フッ素樹脂の最表面のC-F結合を切断し、かつ、遊離したFを捕捉してフッ化物となることで、フッ素樹脂フィルムの表面にダングリングボンドが形成される。このダングリングボンドが酸素に修飾され、表面に酸素を含む官能基が形成されることにより、他の材料との密着性が向上することになる。
これにより、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との密着性を大幅に向上させることが可能となる。
【0034】
本実施形態であるフィルム積層体の製造方法において、金属銅層形成工程S02が、PVD法によって銅のシード層を形成するシード層形成工程S21と、シード層の上に銅めっきを形成する銅めっき層形成工程S22と、を有しているので、フッ素樹脂フィルム11との密着性に特に優れ、所定の厚みの金属銅層12を安定して成膜することができる。
【0035】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態について説明する。なお、第一実施形態と同じ部材には同様の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0036】
本発明の第二実施形態であるフィルム積層体の製造方法によって製造されるフィルム積層体110は、
図3に示すように、フッ素樹脂フィルム11と、このフッ素樹脂フィルム11に積層された金属銅層12と、を備えている。そして、これらフッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間に、中間層13が形成された構造とされている。
図3に示すフィルム積層体110においては、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間に中間層13を形成することにより、フッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性のさらなる向上を図っている。
【0037】
本実施形態においては、中間層13の厚みは、10nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。
中間層13の厚みが10nm以上であれば、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との密着性を十分に向上させることができる。一方、中間層13の厚みが100nm以下であれば、膜応力によってフィルムに反りが生じることを抑制できる。
なお、中間層13の厚みの下限は15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。また、中間層13の厚みの上限は80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0038】
ここで、本実施形態においては、中間層13は、MgおよびGeの少なくとも一種又は二種を合計で0.5原子%以上50.0原子%以下の範囲で含み、残部がTaおよび不可避不純物である組成のTa合金からなるTa合金層とされている。
この中間層13(Ta合金層)に含まれるMgおよびGeにより、フッ素樹脂フィルム11の最表面のC-F結合のFが引き抜かれてダングリングボンドが形成され、表面が活性化し、Ta母相との強固な結合が実現され、フッ素樹脂フィルム11と中間層13(Ta合金層)との密着性が大幅に向上する。また、中間層13と金属銅層12とが金属同士の結合となるため、強固な結合となる。よって、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12とが中間層13を介して強固に結合することになり、フッ素樹脂フィルム11」と金属銅層12との密着性をさらに向上させることができる。
また、Taは化学的に安定であることから、高温環境下で使用した場合でも、フッ素樹脂フィルム11の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と中間層13(Ta合金層)との反応が抑制され、耐熱性が向上することになる。
【0039】
ここで、中間層13(Ta合金層)におけるMgおよびGeの少なくとも一種又は二種の合計含有量が0.5原子%未満の場合には、フッ素樹脂フィルムの表面を十分に活性化させることができないおそれがある。一方、中間層13(Ta合金層)におけるMgおよびGeの少なくとも一種又は二種の合計含有量が50.0原子%を超える場合には、Taの含有量が不足し、耐熱性を十分に向上させることができないおそれがある。
なお、中間層13(Ta合金層)におけるMgおよびGeの少なくとも一種又は二種の合計含有量の下限は、1.0原子%以上であることが好ましく、2.0原子%以上であることがより好ましい。一方、中間層13(Ta合金層)におけるMgおよびGeの少なくとも一種又は二種の合計含有量の上限は、40.0原子%以下であることが好ましく、20.0原子%以下であることがより好ましい。
【0040】
次に、本実施形態であるフィルム積層体110の製造方法について、
図4のフロー図を参照して説明する。
【0041】
(フッ素樹脂フィルム表面処理工程S101)
このフッ素樹脂フィルム表面処理工程S101においては、第一実施形態のフッ素樹脂フィルム表面処理工程S01と同様に、フッ素樹脂フィルム11の表面に、希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜する。
【0042】
(中間層形成工程S102)
次に、希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜したフッ素樹脂フィルム11に、中間層13を形成する。本実施形態では、中間層13としてTa合金層を所定の厚みで成膜する。
ここで、中間層形成工程S102においては、MgおよびGeの少なくとも一種又は二種を合計で0.5原子%以上50.0原子%以下の範囲で含み、残部がTaおよび不可避不純物である組成のTa合金で構成されたスパッタリングターゲットを用いて成膜する。
【0043】
(金属銅層形成工程S103)
次に、中間層13を形成したフッ素樹脂フィルム11に、金属銅層12を形成する。本実施形態においては、金属銅層形成工程S103は、第一実施形態と同様に、シード層形成工程S131と銅めっき層形成工程S132とを有している。
そして、シード層および銅めっき層によって、金属銅層12が構成されることになる。
【0044】
上述の各工程により、本実施形態であるフィルム積層体110が製造される。なお、フッ素樹脂フィルム11の両面に金属銅層12を形成する場合には、フッ素樹脂フィルム11の片面で、フッ素樹脂フィルム表面処理工程S101、中間層形成工程S102およびシード層形成工程S131を実施し、次に、反対側の面で、フッ素樹脂フィルム表面処理工程S101、中間層形成工程S102およびシード層形成工程S131を実施した後、銅めっき層形成工程S132を実施すればよい。
【0045】
以上のような構成とされた本実施形態であるフィルム積層体の製造方法によれば、フッ素樹脂フィルム11の表面に、PVD法によって、希土類元素の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜するフッ素樹脂フィルム表面処理工程S101と、フッ素樹脂フィルム11の表面に中間層13を形成する中間層形成工程S102とを有しているので、フッ素S樹脂フィルム11の表面が活性化し、フッ素樹脂フィルム11と中間層13とを強固に結合することが可能となり、この中間層13を介して、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との密着性を大幅に向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態において、中間層13の厚みを10nm以上100nm以下の範囲内とした場合には、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との密着性を確実に向上させることが可能となるとともに、膜応力によるフィルムの反りを抑制することができる。
【0047】
そして、本実施形態において、中間層13が、MgおよびGeの少なくとも一種又は二種を合計で0.5原子%以上50.0原子%以下の範囲で含み、残部がTaおよび不可避不純物である組成のTa合金からなるTa合金層である場合には、Ta合金層に含まれるMgおよびGeがフッ素樹脂の最表面のC-F結合のFを引き抜くことがでダングリングボンドを形成し、活性な表面となり、母相のTa合金と強固な結合を実現することができる。また、Taは化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)との反応が抑制され、高温環境下で使用した場合であっても密着性の低下を抑えることができる。
よって、密着性および耐熱性に優れたフィルム積層体110を製造することができる。
【0048】
(第三実施形態)
次に、本発明の第三実施形態について説明する。なお、第一実施形態、第二実施形態と同じ部材には同様の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0049】
本発明の第三実施形態であるフィルム積層体の製造方法によって製造されるフィルム積層体210は、
図5に示すように、フッ素樹脂フィルム11と、このフッ素樹脂フィルム11に積層された金属銅層12と、を備えている。そして、これらフッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間に、中間層23が形成された構造とされている。
図5に示すフィルム積層体210においては、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間に中間層23を形成することにより、フッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性のさらなる向上を図っている。
【0050】
ここで、本実施形態においては、中間層23は、非晶質の酸化物からなる非晶質酸化物層とされている。
この中間層23(非晶質酸化物層)により、フッ素樹脂フィルム11と中間層23(非晶質酸化物層)とが、O(酸素)を介した化学結合C-O-M(Mは、非晶質酸化物層に含まれる金属)により、強固に結合されることになる。
また、中間層23(非晶質酸化物層)が化学的に安定であり、フッ素樹脂フィルム11の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と中間層23(非晶質酸化物層)との反応が抑制される。
さらに、中間層23(非晶質酸化物層)は、粒界が存在せずにバリア性に優れていることから、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を抑制することができる。
【0051】
ここで、非晶質酸化物層を構成する酸化物は、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含むことが好ましい。
これらの金属の酸化物は、スパッタ等によって成膜した際に、非晶質の酸化物膜が形成されることになり、バリア性を十分に確保することが可能となる。
【0052】
あるいは、非晶質酸化物層を構成する酸化物は、InおよびZnを含むことが好ましい。
これらの金属の酸化物は、スパッタ等によって成膜した際に、非晶質の酸化物膜が形成されることになり、バリア性を十分に確保することが可能となる。
【0053】
また、中間層23(非晶質酸化物層)の厚みは、10nm以上100nm以下の範囲内であることが好ましい。
中間層23(非晶質酸化物層)の厚みが10nm以上であれば、バリア性を十分に確保することができる。一方、中間層23(非晶質酸化物層)の厚みが100nm以下であれば、膜応力によってフィルムに反りが生じることを抑制できる。
なお、中間層23(非晶質酸化物層)の厚みの下限は15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。また、中間層23(非晶質酸化物層)の厚みの上限は80nm以下であることがより好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0054】
次に、本実施形態であるフィルム積層体210の製造方法について、
図6のフロー図を参照して説明する。
【0055】
(フッ素樹脂フィルム表面処理工程S201)
このフッ素樹脂フィルム表面処理工程S201においては、第一実施形態のフッ素樹脂フィルム表面処理工程S01と同様に、フッ素樹脂フィルム11の表面に、希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜する。
【0056】
(中間層形成工程S202)
次に、希土類元素、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を成膜したフッ素樹脂フィルム11に、中間層13を形成する。本実施形態では、中間層13として非晶質酸化物層を所定の厚みで成膜する。
ここで、中間層形成工程S202においては、スパッタリングによって中間層23(非晶質酸化物層)を所定の厚みで成膜する。なお、スパッタリングターゲットとして、所定の組成の酸化物ターゲットを用いてもよいし、金属ターゲットを用いて酸素を導入して成膜してもよい。
【0057】
(金属銅層形成工程S203)
次に、中間層23を形成したフッ素樹脂フィルム11に、金属銅層12を形成する。本実施形態においては、金属銅層形成工程S203は、第一実施形態と同様に、シード層形成工程S231と銅めっき層形成工程S232とを有している。
そして、シード層および銅めっき層によって、金属銅層12が構成されることになる。
【0058】
上述の各工程により、本実施形態であるフィルム積層体210が製造される。なお、フッ素樹脂フィルム11の両面に金属銅層12を形成する場合には、フッ素樹脂フィルム11の片面で、フッ素樹脂フィルム表面処理工程S201、中間層形成工程S202およびシード層形成工程S231を実施し、次に、反対側の面で、フッ素樹脂フィルム表面処理工程S201、中間層形成工程S202およびシード層形成工程S231を実施した後、銅めっき層形成工程S232を実施すればよい。
【0059】
以上のような構成とされた本実施形態であるフィルム積層体の製造方法によれば、フッ素樹脂フィルム11の表面に、PVD法によって、希土類元素の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜するフッ素樹脂フィルム表面処理工程S201と、フッ素樹脂フィルム11の表面に中間層23を形成する中間層形成工程S202とを有しているので、フッ素樹脂フィルム11の表面が活性化し、フッ素樹脂フィルム11と中間層13とを強固に結合することが可能となり、この中間層13を介して、フッ素樹脂フィルム11と金属銅層12との密着性を大幅に向上させることができる。
【0060】
そして、本実施形態においては、中間層23として、非晶質酸化物層が形成されているので、フッ素樹脂の最表面でO(酸素)を介した化学結合を形成し、強固な結合を実現することができる。また、非晶質酸化物層が化学的に安定であることから、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応が抑制され、高温環境下で使用した場合であっても密着性の低下を抑えることができる。さらに、中間層23が非晶質酸化物層とされていることから、粒界が存在せずにバリア性に優れており、高温環境下で使用した場合であっても、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を抑制することができる。
【0061】
本実施形態において、中間層23(非晶質酸化物層)を構成する酸化物が、Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Crから選択される一種又は二種以上を含む場合には、中間層23(非晶質酸化物層)がさらに化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応を抑制することが可能となる。また、バリア性を十分に確保することができ、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を的確に抑制することができる。
【0062】
本実施形態において、中間層23(非晶質酸化物層)を構成する酸化物が、InおよびZnを含む場合には、中間層23(非晶質酸化物層)がさらに化学的に安定であり、フッ素樹脂の表面に存在する遊離したF(フッ素)や吸着しているO(酸素)と非晶質酸化物層との反応を抑制することが可能となる。また、バリア性を十分に確保することができ、フッ素樹脂と金属銅層との間の相互拡散を抑制でき、銅のフッ化・酸化による密着性の低下を的確に抑制することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0064】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0065】
フッ素樹脂フィルムとして、AGC社製のPFAフィルム(厚み50μm)を準備した。
そして、このフッ素樹脂フィルムの表面処理として、表1~3に示すように、希土類元素、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種をスパッタリングによって成膜した。なお、成膜開始真空度は、1.0×10-4Pa以下、スパッタガスを高純度アルゴンとした。本実施形態では、成膜レート及び成膜時間を制御することで、表に示す狙い膜厚の表面処理を行った。
なお、比較例1,2においては、フッ素樹脂フィルムの表面処理を実施しなかった。
【0066】
次に、本発明例2~40、および、比較例2~10においては、フッ素樹脂フィルムの表面に、表1~3に示す中間層をスパッタリングによって成膜した。なお、本発明例1および比較例1においては、中間層を形成しなかった。
ここで、中間層は、表面処理としてスパッタリングで成膜を行った後、大気開放することなく、連続して形成した。
【0067】
中間層として非晶質酸化物層を形成する場合は、以下の条件で成膜した。
(非晶質酸化物層の成膜条件)
ターゲット材料:Ge,Si,Al,Ti,Ta,Zr,Cr,IZO(85at%In-15at%Zn複合酸化物)(純度99.9mass%以上)
成膜開始真空度:1.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴンと高純度酸素の混合ガス
チャンバー内スパッタガス圧力:0.2Pa
直流電力密度:7.5W/cm2(Si,Al,Ti,Ta,Zr,Cr,IZO)
交流電力密度:10.0W/cm2(Ge)
【0068】
中間層としてTa合金層を形成する場合は、以下の条件で成膜した。
(Ta合金層の成膜条件)
ターゲット材料:Ta-Ge合金、Ta-Mg合金
成膜開始真空度:1.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴン
チャンバー内スパッタガス圧力:0.2Pa
直流電力密度:7.5W/cm2
【0069】
次に、めっき用のシード層として、スパッタリングにより銅層を100nm形成した。スパッタ条件は以下のとおりである。なお、本発明例1においては、表面処理としてスパッタリングで成膜した後、大気開放することなく、シード層を連続して形成した。本発明例2~42、および、比較例2~10においては。中間層を形成した後、大気開放することなく、シード層を連続して形成した。
(シード層の成膜条件)
ターゲット材料:Cu(純度99.99mass%以上)
成膜開始真空度:1.0×10-4Pa以下
スパッタガス:高純度アルゴン
チャンバー内スパッタガス圧力:0.2Pa
直流電力密度:7.5W/cm2
【0070】
次に、シード層の上に、以下の条件で電解めっきを行うことにより、銅めっき層を形成した。なお、表1に示す金属銅層の厚みは、シード層および銅めっき層の合計厚みとなる。
(電解めっき条件)
前処理:硫酸洗浄
液温:25℃
アノード:含燐銅
攪拌条件:Air 12.5L/min
めっき条件:4A、45min
めっき液:CuSO4・5H2O 200g/L
H2SO4 54g/L
1molHCl 1.37mL/L
【0071】
以上のようにして製造したフィルム積層体について、中間層の厚み、金属銅層の厚み、密着強度、耐熱性について、以下のようにして評価した。
【0072】
(中間層の厚み)
中間層の厚みは、成膜レートからの狙い値となる。成膜レートは、ダミー基板に一定時間成膜後の膜厚を段差測定計(Bruker社Dektak-XT)により測定し、膜厚を成膜時間で割ることで算出した。評価結果を表1~3に示す。
なお、フィルム積層体の断面をTEM(透過電子顕微鏡)で観察することで、中間層の厚みを確認した結果、成膜レートからの狙い値と同等の値を示していた。
【0073】
(金属銅層の厚み)
金属銅層(シード層および銅めっき層)の厚みは、渦電流法によって確認した。評価結果を表1~3に示す。
【0074】
(密着強度)
図7に示すように、フッ素樹脂フィルム上に形成された金属銅層(および中間層)を5mm幅で切り出し、エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機(RTF-1310)を用いて、剥離角度90度、剥離速度50mm/minの条件で評価した。評価結果を表4~6に示す。
【0075】
(耐熱性試験)
耐熱試験として、フィルム積層体を150℃×240hの条件でクリーンオーブン内に保管した。保管後のフィルム積層体について、上述のようにして密着強度を測定した。そして、耐熱試験前後の密着強度の変化率を算出した。評価結果を表4~6に示す。
(変化率)=(試験後密着強度 - 試験前密着強度))/ 試験前密着強度 ×100(%)
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
比較例1,2においては、表面処理を実施しなかったため、密着性が低下した。
比較例3~10は、表面処理として形成した金属膜の狙い膜厚が本発明の範囲を外れているため、密着性が低下した。
【0083】
これに対して、フッ素樹脂フィルムの表面処理として、フッ素樹脂フィルムの表面に、PVD法によって、希土類元素の1種または2種以上を狙い膜厚0.5nm以上2.0nm以下の範囲内で成膜、あるいは、MgおよびAlの少なくとも一種又は二種を狙い膜厚0.5nm以上10.0nm以下の範囲内で成膜した本発明例1~42においては、密着強度が大幅に向上した。
また、中間層を形成した本発明例2~42においては、耐熱試験後も密着強度が大きく低下しておらず、耐熱性に特に優れていた。よって、高温環境下で使用される用途においては、中間層を形成することが好ましい。
【0084】
以上のことから、本発明例によれば、高周波領域における伝送損失が低いフッ素樹脂フィルムと金属銅層との密着性に特に優れ、安定して高周波信号伝送用の配線基板等に使用可能なフィルム積層体を製造するフィルム積層体の製造方法を提供可能であることが確認された。