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特開2024-141199化粧シートの製造方法及び化粧シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141199
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】化粧シートの製造方法及び化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B32B27/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052711
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】明石 彩
(72)【発明者】
【氏名】戸賀崎 浩昌
(72)【発明者】
【氏名】野口 祥太
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA37
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK03A
4F100AK03C
4F100AK04A
4F100AK07C
4F100AK25D
4F100AK51B
4F100AK51E
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10D
4F100CA05
4F100CA05C
4F100CA06
4F100CA06C
4F100CA07
4F100CA07C
4F100CA13
4F100CA13A
4F100CB00E
4F100DD01D
4F100DE01C
4F100DE04C
4F100EH17
4F100EJ17
4F100EJ17D
4F100EJ52
4F100EJ52A
4F100EJ55
4F100EJ65E
4F100GB07
4F100GB08
4F100HB00
4F100HB00A
4F100HB00B
4F100HB01
4F100HB11
4F100HB31B
4F100JA06
4F100JA07
4F100JB04
4F100JB12D
4F100JB13D
4F100JB14D
4F100JK04
4F100JK09
4F100JK12
4F100JK16
4F100JL10A
4F100JL10B
4F100JL11E
4F100JN01C
4F100JN06
4F100JN06A
4F100JN28
(57)【要約】
【課題】建材に使用される木材や石材等の表面の質感に近い質感を持ち、優れた意匠性を有し、さらに後加工性に優れた化粧シートを提供する。
【解決手段】着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に、絵柄層5と透明熱可塑性樹脂層6と表面保護層7とをこの順に積層し、着色熱可塑性樹脂層2の他方の面に、着色熱可塑性樹脂層2よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料を利用して絵柄層5の絵柄と同調するグロスマット発現用柄部3を形成する。そして、所定波長の光のパワーが他の波長の光のパワーよりも強い照射光を照射し、照射した後、表面保護層7にエンボス形状形成用のエンボス版を版押しすることで、表面保護層7にエンボス部7aを形成する。このとき、透明熱可塑性樹脂層6にナノ化処理された造核剤を添加することで、高い透明性と、表面の耐擦傷性及び耐後加工性を向上させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絵柄と同調するエンボス形状を有する化粧シートの製造方法であって、
着色樹脂層の一方の面に、絵柄層と透明樹脂層と表面保護層とをこの順に積層する工程と、
前記着色樹脂層の他方の面に、前記着色樹脂層よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料を利用して前記絵柄と同調するグロスマット発現用柄部を形成する工程と、
前記所定波長の光のパワーが他の波長の光のパワーよりも強い照射光を照射する工程と、
前記照射光を照射する工程の後に、前記表面保護層に前記エンボス形状形成用のエンボス版を版押しする工程と、
を備え、
前記透明樹脂層は、ナノ化処理された造核剤を含むことを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項2】
前記所定の材料は、カーボンブラックを有する墨インキを含んで形成され、前記照射光は赤外線であることを特徴とする請求項1に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項3】
絵柄層を有する化粧シートであって、
着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層と透明樹脂層と表面保護層と、
前記着色樹脂層の他方の面に積層され、前記着色樹脂層よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料からなり、前記絵柄層の絵柄と同調する位置に配置されたグロスマット発現用柄部と、
を備え、
前記透明樹脂層はナノ化処理された造核剤を含み、
前記表面保護層の、平面視で前記所定の材料で形成される部分と重なる位置に、エンボス部が形成されていることを特徴とする化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートの製造方法及び化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合板や、MDF(中質繊維板)、パーティクルボード等の木質基材、樹脂基材、無機不燃基材、金属基材等に化粧シートを貼り合わせた化粧材が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、化粧シートの意匠としては、木材や石材等の表面を模されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5045180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、化粧シートは、本物の木材や石材等と比較すると、表面の質感が平坦になりやすい。実際の木材や石材は、表面の材質や構造等の違いによって場所ごとに凹凸に差があり質感の差が存在する。質感が違う部分では、色味も異なることが多いが、化粧シートではその表現がされておらず、意匠面では高価な本物の方が優れている。また、化粧シートとしては、耐擦傷性を初め、V溝曲げ加工等の後加工性においても優れた化粧シートが望まれている。
【0005】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、建材に使用される木材や石材等の表面の質感に近い質感を持ち、優れた意匠性を有し、さらに耐擦傷性及び耐後加工性に優れた化粧シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、絵柄と同調するエンボス形状を有する化粧シートの製造方法であって、着色樹脂層の一方の面に、絵柄層と透明樹脂層と表面保護層とをこの順に積層する工程と、着色樹脂層の他方の面に、着色樹脂層よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料を利用して絵柄と同調するグロスマット発現用柄部を形成する工程と、所定波長の光のパワーが他の波長の光のパワーよりも強い照射光を照射する工程と、照射光を照射する工程の後に、表面保護層にエンボス形状形成用のエンボス版を版押しする工程と、を備え、透明樹脂層は、ナノ化処理された造核剤を含む、化粧シートの製造方法が提供される。
【0007】
また、本発明の他の態様によれば、絵柄層を有する化粧シートであって、着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層と透明樹脂層と表面保護層と、着色樹脂層の他方の面に積層され、着色樹脂層よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料からなり、絵柄層の絵柄と同調する位置に配置されたグロスマット発現用柄部と、を備え、透明樹脂層はナノ化処理された造核剤を含み、表面保護層の、平面視で所定の材料で形成される部分と重なる位置に、エンボス部が形成されている、化粧シートが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、建材に使用される木材や石材などの表面の質感に近い質感を持ち、優れた意匠性を有し、且つ耐擦傷性及び耐後加工性に優れた化粧シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る化粧シートの一例を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る化粧シートの製造方法の一例を模式的に示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、床用又は建具用の化粧シート及び化粧材を例に挙げて説明するが、他の部位に使用する化粧シートであってもよい。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚さの比率などは現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状及び構造などが下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本発明の一実施形態に係る化粧シートの製造方法は、絵柄と同調するエンボス形状を有する化粧シートの製造方法であって、着色樹脂層の一方の面に、絵柄層と透明樹脂層と表面保護層とをこの順に積層する工程と、前記着色樹脂層の他方の面に、前記着色樹脂層よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料を利用して前記絵柄と同調するグロスマット発現用柄部を形成する工程と、前記所定波長の光のパワーが他の波長の光のパワーよりも強い照射光を照射する工程と、前記照射光を照射する工程の後に、前記表面保護層に前記エンボス形状形成用のエンボス版を版押しする工程と、を備え、前記透明樹脂層は、ナノ化処理された造核剤を含む化粧シートの製造方法である。
【0012】
また、本発明の他の実施形態に係る化粧シートは、絵柄層を有する化粧シートであって、着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層と透明樹脂層と表面保護層と、前記着色樹脂層の他方の面に積層され、前記着色樹脂層よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料からなり、前記絵柄層の絵柄と同調する位置に配置されたグロスマット発現用柄部と、を備え、前記透明樹脂層はナノ化処理された造核剤を含み、前記表面保護層の、平面視で前記所定の材料で形成される部分と重なる位置に、エンボス部が形成されている化粧シートである。
【0013】
〔化粧シートの構成〕
本発明の一実施形態に係る化粧シート1は、例えば図1に示すように、着色熱可塑性樹脂層(着色樹脂層)2と、絵柄層5と、透明熱可塑性樹脂層(透明樹脂層)6と、表面保護層7とがこの順に積層して形成され、表面保護層7には、エンボス部(エンボス形状)7aが形成されている。また、着色熱可塑性樹脂層2の、絵柄層5とは逆側の面には、グロスマット発現用柄部3を含むプライマー層8が形成されている。
【0014】
〔着色熱可塑性樹脂層〕
基材としての着色熱可塑性樹脂層2は、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン- アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも環境適合性や加工性、価格の点でポリオレフィン系樹脂を好ましく用いることができる。樹脂のグレードや組成は、その他にシーティングの容易さや印刷適性、曲げ加工に対する適性を考慮して選択することができる。
【0015】
着色熱可塑性樹脂層2としては、絵柄層5の下地色として色相を適宜、選択することができる。着色熱可塑性樹脂層2は、例えば熱可塑性樹脂のシーティングに際して、顔料等の着色剤を混合、練りこむ等しておくことで着色ができる。或いはグロスマット発現用柄部3を設ける前にベタインキ層として、コーティングあるいは印刷の手法を用いて着色層を設けることもできる。
【0016】
〔絵柄層〕
絵柄層5は、化粧シート1に意匠性を付与するために、絵柄模様が印刷された印刷層である。絵柄層5の形成方法としては、既知の印刷手法を採用できる。印刷手法は、特に限定されるものではないが、生産性、絵柄の品質を考慮すれば、グラビア印刷法が好ましい。また例えば、着色熱可塑性樹脂層2が巻取りの状態で用意できる場合には、ロールツーロールの印刷装置を用いることで、絵柄層5の形成のための印刷を行うことができる。これらの他にも、印刷手法としては、例えば、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法、転写シートからの転写印刷法等が挙げられる。このような印刷手法を用いる場合、絵柄層5の絵柄模様は、通常の黄色、赤色、青色及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成することができる他、絵柄模様を構成する個々の色の板を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成することができる。
【0017】
また、絵柄層5の絵柄模様は、床材又は建具としての意匠性を考慮して任意の絵柄模様を採用すればよい。例えば、大理石等の石材の床をイメージして、大理石の石目等を絵柄模様とすることもできる。また、例えば、木質系の絵柄であれば、各種木目、コルクを絵柄模様とすることもできる。また、例えば、天然材料の絵柄模様以外にも、これらをモチーフとした人工的絵柄模様や幾何学模様等の人工的絵柄模様も用いることができる。これらの他にも、絵柄模様としては、例えば、年輪断面の春材領域及び秋材領域、導管部等から構成される木目模様、レザー(皮シボ)模様、大理石、花崗岩、砂岩等の石材表面の石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様、草花模様、風景、キャラクター等が挙げられる。
【0018】
印刷インキは、溶剤と、着色剤、バインダー樹脂等の固形分との混合物である。
溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤;水等の無機溶剤等が挙げられる。溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
また、バインダー樹脂としては、塩素系樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース樹脂(硝化綿)、酢酸セルロース樹脂等が挙げられる。塩素系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化プロピレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルの意味である。バインダー樹脂は、1種の単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0020】
また、着色剤としては、例えば、カーボンブラック、鉄黒、チタン白(酸化チタン)、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料等が挙げられる。着色剤は、1種の単独でもよいし、2種以上を組み合わせでもよい。
ここで、印刷インキに含まれる溶剤は、最終的に揮発する。そのため、絵柄層5は、主として、着色剤、バインダー樹脂等の固形分により形成される。
【0021】
また、印刷インキは、その他の成分として、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を含んでもよい。印刷インキとしては、印刷方式に応じたインキを採用すればよい。特に、着色熱可塑性樹脂層2に対する密着性や印刷適性、床材又は建具としての耐候性を考慮して選択することが好ましい。絵柄層5の厚さは、絵柄層5に求められる装飾性、化粧シート1の三次元成形性等を考慮して適宜調整できる。絵柄層5の厚さは、通常1μm以上1mm以下、好ましくは2μm以上0.1mm以下、さらに好ましくは2μm以上50μm以下である。
【0022】
絵柄層5と透明熱可塑性樹脂層6との接着性向上を目的として、絵柄層5の透明熱可塑性樹脂層6と接する側の面に接着層(不図示)を設けてもよい。これらの接着を強固にすることによって、化粧シート1に対し、曲面や直角面に追随する曲げ加工性を付与することができる。接着層(不図示)に用いる樹脂は、特に限定されるものではない。例えば、2液硬化型ウレタン系樹脂を採用できる。また、接着性樹脂をウレタン系接着剤により絵柄層5に接着してもよい。接着層(不図示)に用いる樹脂の塗布には、例えば、コーティング装置、グラビア印刷装置を採用できる。
【0023】
また、化粧シート1の奥行感や、輝度感といった意匠効果を好適に付与することを目的として、絵柄層5と透明熱可塑性樹脂層6との間に光輝性層(不図示)を設けてもよい。光輝性層(不図示)は、光輝性顔料及びバインダー樹脂を含むことが好ましい。光輝性顔料としては、パール顔料及び金属顔料等が挙げられる。特に、パール顔料は、光輝性層の光透過率が低下することを抑制できるため、絵柄層5の視認性を損なわないため好ましい。
【0024】
パール顔料は、真珠光沢を付与し得る顔料である。例えば、母体粒子の表面を金属酸化物で被覆したものが挙げられる。母体粒子としては、雲母等の鱗片状粒子が好ましい。金属酸化物としては、チタン、鉄、ジルコニウム、ケイ素、アルミニウム及びセリウム等金属の酸化物が挙げられる。金属酸化物は、1種単独でもよいし、2種類以上であってもよい。具体例としては、雲母チタン、酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、紺青被覆雲母チタン、紺青-酸化鉄被覆雲母チタン、酸化クロム被覆雲母チタン、カルミン被覆雲母チタン、有機顔料被覆雲母チタン、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆合成マイカ等の酸化物被覆雲母;酸化チタン被覆ガラス粉末、酸化鉄被覆ガラス粉末等の酸化物被覆ガラス粉末;酸化チタン被覆アルミニウム粉末等の酸化物被覆金属粒子;塩基性炭酸鉛、砒酸水素鉛、酸化塩化ビスマス等の鱗片状箔片;魚鱗粉、貝殻片、真珠片等が挙げられる。
【0025】
また、金属顔料としては、アルミニウム、真鍮、ステンレス鋼、錫、亜鉛、銅、ニッケル、金粉及び銀等の金属、これらの金属の合金等からなる顔料が挙げられる。金属顔料は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
光輝性顔料の平均粒子径は、優れた意匠効果を付与する観点から、例えば、グラビア印刷を用いて光輝性層を形成する場合には、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。同様の観点から、[光輝性顔料の平均粒子径/光輝性層の厚み]の比は、0.01以上15以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50として求めることができる値である。
【0027】
また、バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂、硬化型樹脂組成物の硬化物等が挙げられ、耐久性の観点から硬化型樹脂組成物の硬化物が好ましい。硬化型樹脂組成物の硬化物としては、熱硬化型樹脂組成物の硬化物及び電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化物が挙げられる。層間密着性の観点からは、熱硬化型樹脂組成物の硬化物が好ましい。
【0028】
光輝性層に用いられる熱硬化型樹脂組成物としては、ポリエステル樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、ポリウレタン樹脂組成物、アミノアルキッド樹脂組成物、メラミン樹脂組成物、グアナミン樹脂組成物、尿素樹脂組成物及び熱硬化型アクリル樹脂組成物等が挙げられる。これら熱硬化型樹脂組成物は、各樹脂を構成するモノマー及び/又はプレポリマーと、必要に応じて添加する硬化剤等が挙げられる。光輝性層に用いられる電離放射線硬化型樹脂組成物としては、後述する表面保護層7の電離放射線硬化型樹脂組成物と同様のものを用いることができる。
【0029】
光輝性層中における光輝性顔料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上90質量部以下であることが好ましく、50質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。光輝性顔料の含有量を10質量部以上とすることにより、艶感を充分に付与することができ、90質量部以下とすることにより、後述する絵柄層の視認性が損なわれることを抑制できる。同様の観点から、光輝性層の厚みは、1μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0030】
光輝性層は、付与したい意匠によって任意のパターンを形成することができる。例えば、木目模様、レザー模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様、草花模様、風景、キャラクター等が挙げられる。また、任意のパターンは、意匠効果をより高めるために、濃淡を有することが好ましい。濃淡は、網点の大小や網点の厚みから形成してもよいが、網点の粗密から形成すること(つまり、網点の大きさは均一として網点の密度で濃淡を形成すること)が好ましい。
光輝性層は、例えば、光輝性顔料及びバインダー樹脂を含む塗布液を、グラビア印刷等の汎用の印刷手段で形成できる。なお、光輝性層の濃淡を網点の粗密から形成する場合、印刷版の網点をFM(frequency modulation)スクリーンによって形成すればよい。
【0031】
〔透明熱可塑性樹脂層〕
透明熱可塑性樹脂層6は、意匠的に厚みや深みを出すとともに、化粧シート1の耐候性、耐磨耗性能が向上するように、絵柄層5を保護して良好な表面物性を付与するための樹脂層である。透明熱可塑性樹脂層6の材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂を用いることができる。特に、環境適合性、加工性、価格の点で、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。また、樹脂のグレードや組成は、環境適合性、加工性、価格の他にも、シーティングの容易さ、印刷適性、曲げ加工に対する適性を考慮して選択することができる。曲げ加工に対する適性としては、曲げ部の白化や割れが発生しないことを考慮して選択することが重要である。
【0032】
この透明熱可塑性樹脂層6には、ナノサイズの添加剤が含まれている。
ナノサイズの添加剤とは、添加剤をナノサイズ化する手法(ナノ化処理)によってナノサイズの粒子とされた添加剤のことであり、当該ナノ化処理としては、例えば、添加剤に対して主に機械的な粉砕を行ってナノサイズの粒子を得る固相法、添加剤や当該添加剤を溶解させた溶液中でナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う液相法、添加剤や当該添加剤からなるガスや蒸気からナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う気相法などの方法を用いることができる。それぞれの方法を実施するための具体的な手段を簡単に挙げると、固相法としてはボールミル、ビーズミル、ロッドミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、ハンマーミル、ジェットミルなどが挙げられる。液相法としては、晶析法、共沈法、ゾルゲル法、液相還元法、水熱合成法などが挙げられる。そして、気相法としては、電気炉法、化学炎法、レーザー法、熱プラズマ法などが挙げられる。
【0033】
ナノ化処理のより具体的な方法を説明すると、固相法の具体例としては、例えば、イソプロピルアルコール100gと2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウム50gの混合物をビーズミルで60分間、30μmの安定化ジルコニアビーズを用いて、平均粒子径100nm~150nm程度のナノサイズの造核剤粒子を得ることができる。また、晶析法の具体例としては、例えば、キシレン96g、イソプロピルアルコール72gおよび水24gからなる混合溶媒に2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウム50gを溶解させ、この溶液をマイクロリアクター内でエタノールなどの貧溶媒と接触させて平均粒子径1nm~150nmのナノサイズの造核剤粒子を析出させることができる。
【0034】
また、ベシクルとは、球殻状に閉じた膜構造を有する小胞状のカプセルのことであり、特に、内部に液相を含むものがベシクルと呼ばれている。本発明においては、この液相中に添加剤が含まれている。このベシクルは、互いの外膜同士が反発し合う作用によって粒子が凝集することがなく、極めて高い分散性を有している。この作用によって、各樹脂層を構成する樹脂組成物中に対して添加剤を均一に分散させることを可能とするものである。ナノ化処理の中でナノサイズの添加剤をベシクルとして得る手法(ベシクル化処理)としては、例えば、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法などが挙げられる。このようなベシクル化処理について簡単に説明すると、Bangham法は、フラスコなどの容器にクロロホルムまたはクロロホルム/メタノール混合溶媒を入れ、さらにリン脂質を入れて溶解する。その後、エバポレータを用いて溶媒を除去して脂質からなる薄膜を形成し、添加剤の分散液を加えた後、ボルテックスミキサーで水和・分散させることよりベシクルを得る方法である。エクストルージョン法は、薄膜のリン脂質溶液を調液し、Bangham法において外部摂動として用いたミキサーに代わってフィルターを通過させることによりベシクルを得る方法である。水和法は、Bangham法とほぼ同じ調製方法であるが、ミキサーを用いずに、穏やかに攪拌して分散させてベシクルを得る方法である。逆相蒸発法は、リン脂質をジエチルエーテルやクロロホルムに溶解し、添加剤を含んだ溶液を加えてW/Oエマルジョンを作り、当該エマルジョンから減圧下において有機溶媒を除去した後、水を添加することによりベシクルを得る方法である。凍結融解法は、外部摂動として冷却・加熱を用いる方法であり、この冷却・加熱を繰り返すことによってベシクルを得る方法である。
【0035】
特に、単層膜からなる外膜を具備するベシクルを得るための方法として、超臨界逆相蒸発法が挙げられる。超臨界逆相蒸発法とは、超臨界状態または臨界点以上の温度条件下もしくは圧力条件下の二酸化炭素を用いて対象物質を内包したカプセルを作製する方法である。超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98℃)および臨界圧力(7.3773±0.0030MPa)以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味し、臨界点以上の温度条件下もしくは圧力条件下の二酸化炭素とは、臨界温度だけ、あるいは臨界圧力だけが臨界条件を超えた条件下の二酸化炭素を意味する。
【0036】
超臨界逆相蒸発法による具体的なベシクル化処理は、超臨界二酸化炭素と分散剤としてのリン脂質と内包物質としての添加剤の混合流体中に水相を注入し、攪拌することによって超臨界二酸化炭素と水相のエマルションが生成される。その後、減圧すると二酸化炭素が膨張・蒸発して転相が生じ、リン脂質が添加剤粒子の表面を単層膜で覆ったナノカプセルが生成される。この超臨界逆相蒸発法を用いることにより、添加剤粒子表面で分散剤が多重膜となる従来のカプセル化方法とは異なり、容易に単層膜のカプセルを生成することができるので、より小径なカプセルを調製することができる。なお、多重膜のカプセルとしたい場合には、リン脂質、添加剤、水相の混合流体中に超臨界二酸化炭素を注入することにより容易に作製することができる。ベシクルを調製する際に用いるリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセルロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質などが挙げられる。当該ベシクルは、リン脂質からなる外膜を具備することにより樹脂材料との優れた相溶性を実現することができる。
【0037】
また、当該ベシクルは分散剤からなる外膜を具備していてもよい。分散剤としては、高分子系の界面活性剤、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、シリコーン、ワックス、変性樹脂などが挙げられる。高分子系の界面活性剤としては、脂肪族多価ポリカルボン酸、ポリカルボン酸アルキルアミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸、ラウリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、リシノール酸、ミリスチン酸などとリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウムなどが結合したものが挙げられる。シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。チタネートカップリング剤としては、テトラキス[2,2-ビス(アリルオキシメチル)ブトキシ]チタン(IV)、ジ-i-プロポキシチタンジオソステアレート、(2-nーブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン、トリイソステアリン酸イソプロピルチタン、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタンなどが挙げられる。シリコーンとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイルなどのオレフィンを重合または、ポリオレフィンを熱分解したもので、それをさらに酸化またはマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸などによって変性したものが挙げられる。樹脂としては、ポリオレフィンをマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸などによって変性したものが挙げられる。
【0038】
透明熱可塑性樹脂層6がナノサイズの添加剤を含む樹脂層からなる場合、結晶性ポリプロピレン樹脂90~100重量%を主成分とし、ナノサイズの添加剤としての造核剤を含むことが重要である。より好ましくは、当該ナノサイズの添加剤をベシクルの状態(造核剤ベシクル)で含有させることであり、この場合には、造核剤ベシクルは、平均粒径が可視光の波長の1/2以下とされていることが好ましく、具体的には、可視光の波長領域は、400~750nmであるので、平均粒径が375nm以下とされていることが好ましい。このような透明熱可塑性樹脂層6においては、製膜時の冷却条件を調整することによって、ヘイズ値が15%以下、より好ましくは10%以下、引張弾性率が800MPa以上,2000MPa以下、引張破断伸度が200%以上とされていることが重要である。
【0039】
また、結晶性ポリプロピレン樹脂は、ペンタッド分率の異なるアイソタクチックポリプロピレンとシンジオタクチックポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンおよびこれらの混合物から適宜選択して設計することができる。より好ましく
は、当該結晶性ポリプロピレン樹脂が、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)95%以上、より好ましくは96%以上のプロピレンの単独重合体、すなわちホモポリマーである高結晶性ホモポリプロピレン樹脂とされることが重要である。なお、透明熱可塑性樹脂層6を構成する結晶性ポリプロピレン以外の樹脂は、結晶性ポリプロピレンの物性に著しく悪影響を与えないならば、その配合の目的によって適宜選定が可能である。但し、V溝曲げ加工適性を維持するためには透明熱可塑性樹脂層6を構成する結晶性ポリプロピレン樹脂との相溶性が良いものが好ましい。
このような、透明熱可塑性樹脂層6は厚さが、20μm以上,250μm以下とされていることが好ましい。
【0040】
ナノサイズの造核剤は、その粒子径がナノサイズと極めて小さいことにより、単位体積当たりに存在する造核剤の数と表面積とが粒子直径の3乗に反比例して増加する。その結果、各造核剤粒子間の距離が近くなるため、ポリプロピレン樹脂に添加して1つの造核剤粒子の表面から結晶成長が生じた際に、結晶が成長している端部が直ちに、当該造核剤粒子に隣接する他の造核剤粒子の表面から成長していた結晶の端部と接触し、互いの結晶の端部が成長を阻害して各結晶の成長がとまるので、結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶部における、球晶の平均粒径を極めて小さくすることができる。
【0041】
このため、透明熱可塑性樹脂層6に対してナノサイズの造核剤を含有させることにより、従来の造核剤と比較して、樹脂中により微細かつ大量の結晶核を発生させて、その結果、結晶部における結晶核同士の距離を短くして、個々の結晶の成長を抑制し、球晶の平均粒径を極めて小さくさせることに成功した。そして、このような、結晶性ポリプロピレン樹脂においては、ヘイズ値が15% 以下という優れた高い透明性を実現している。
【0042】
さらに、当該ナノサイズの造核剤をベシクルの状態、すなわち造核剤ベシクルとして含有させることにより、造核剤同士が凝集することを防いで樹脂材料に対する高い分散性を実現している。樹脂組成物中においては、当該造核剤ベシクルの外膜が部分的に崩壊して造核剤が露出した状態となり、樹脂材料の結晶化過程において、ナノサイズの造核剤粒子を結晶核とする球晶が形成される。
この時、特に、超臨界逆相蒸発法によって得られた造核剤ベシクルは極めて小さいサイズとされているため、結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶部における、球晶の平均粒径を極めて小さくすることができるとともに、結晶部の結晶化度を飛躍的に向上させることができる。
【0043】
本発明の化粧シートにおいては、透明熱可塑性樹脂層6に対してナノサイズの造核剤、より好ましくは、造核剤ベシクルを含有させていることにより、結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶部における球晶の平均粒径を極めて小径として、優れた耐擦傷性を実現している。特に、造核剤ベシクルを含有させることにより、結晶性ポリプロピレン樹脂中に造核剤を均一に分散させて、結晶性ポリプロピレンの結晶化度をコントロールして当該透明樹脂層の硬度および靭性が最適となるように調整し、引張弾性率が800MPa以上、2000MPa以下、かつ、引張破断伸度が200%以上の優れた耐擦傷性および耐後加工性を実現することができる。
透明熱可塑性樹脂層6の形成方法としては、ラミネート手法を採用することができる。また、例えば、透明熱可塑性樹脂層6と接着層(不図示)とを同時に形成する場合、共押し出しで両者を同時に押し出して形成する方法を採用できる。
【0044】
以下、簡単に上記説明において用いた用語の説明をする。
造核剤とは、樹脂の結晶化時において、結晶核の生成を促進させる、もしくは、造核剤自体を結晶核とするために添加されるものであり、添加時に基材の樹脂に溶融し再度析出して結晶核を生成する溶融型もしくは基材に添加した核剤が溶融することなくそのままの粒径で結晶核となる非溶融型の造核剤がある。ポリプロピレン樹脂の造核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルーおよびタルク等が挙げられる。特に、本発明においては、ナノ化処理との効果を最大限に得るべく、非溶融型で良好な透明性が期待できるリン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩を用いることが好ましいが、ナノ化処理によって透明化が可能な場合には、有色のキナクリドン、シアニンブルー、タルクなども用いることができる。また、非溶融型の造核剤に対して、溶融型のベンジリデンソルビトールを適宜混合して用いるようにしてもよい。
【0045】
ヘイズ値とは、物体の一方の面から入射した光が他方の面に出射する場合に、他方の面から出射した光線のすべての積分値(全光線透過率)から他方の面から出射した光線のうち直線成分のみの積分値(直線透過率)を指し引いた値(拡散透過率)を、全光線透過率で除した値を百分率で表した値であり、値が小さいほど透明性が高いことを表す。このヘイズ値は、結晶部における結晶化度や球晶サイズなどの物体の内部の状態によって決まる内部ヘイズと、入射面および出射面の凹凸の有無などの物体の表面の状態によって決まる外部ヘイズとによって決定付けされる。なお、本発明においては、単にヘイズ値と称する場合には、内部ヘイズおよび外部ヘイズとによって決定される値を意味する。
【0046】
引張破断伸度とは、試料を所定の速度で引っ張り、破断した際の伸びを表す値であり、破断時の試料の長さ(L)から試験前の試料の長さ(L0)を引いた値を試験前の試料の長さ(L0)で除した値を百分率で表した値であり、値が小さいほど伸びが悪くV溝曲げ加工などの後加工時に亀裂や白化が生じるため耐後加工性に劣り、値が大きいほどよく伸びて容易に後加工が可能であり耐後加工性に優れていることを示す。
【0047】
アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、質量数13の炭素C(核種)を用いた13C-NMR測定法(核磁気共鳴測定法)により、上記透明熱可塑性樹脂層6を構成する樹脂材料を所定の共鳴周波数にて共鳴させて得られる数値(電磁波吸収率) から算出されるものであり、樹脂材料中の原子配置、電子構造、分子の微細構造を規定するものであり、ポリプロピレン樹脂のアイソタクチックペンタッド分率とは、13C-NMRにより求めたプロピレン単位が5個並んだ割合のことであって、結晶化度あるいは立体規則性の尺度として用いられる。そして、このようなアイソタクチックペンタッド分率は、主に表面の耐擦傷性を決定付ける重要な要因の一つであり、基本的にはアイソタクチックペンタッド分率が高いほどシートの結晶化度が高くなるため、耐擦傷性が向上する。
【0048】
〔表面保護層〕
表面保護層7は、化粧シート1に耐磨耗性等の表面物性を付与するための層である。また、表面保護層7は、化粧シート1の表面の光沢を調節するための層でもある。表面保護層7は、単層でもよく、多層でもよい。例えば、表面保護層7として、透明熱可塑性樹脂層6の上に、第1表面保護層(不図示)及び第2表面保護層(不図示)の2層をこの順に設けることもできる。第1表面保護層(不図示)および第2表面保護層(不図示)からなる表面保護層7を設ける場合には、それぞれの層を、硬化型樹脂の種類に応じて、既知のコーティング装置、熱乾燥装置、電離放射線照射装置を用いて塗布、塗膜の硬化を行えばよい。
【0049】
表面保護層7は、硬化型樹脂を主成分とする。すなわち、表面保護層7の樹脂成分が実質的に硬化型樹脂から構成されることが好ましい。実質的とは、例えば、樹脂全体を100質量部とした場合に80質量部以上を指す。表面保護層7には、必要に応じて、耐侯剤、可塑剤、安定剤、充填剤、分散剤、染料、顔料等の着色剤、溶剤等を含んでもよい。
【0050】
表面保護層7の材料としては、例えば、電離放射線硬化型樹脂、2液硬化型ウレタン系樹脂を採用できる。電離放射線硬化型樹脂としては、特に限定されるものではない。例えば、赤外線、紫外線、電子線等の電離放射線の照射により重合架橋反応可能なラジカル重合性二重結合を分子中に含むプレポリマー(オリゴマーを含む)および/又はモノマーを主成分とする透明性樹脂を採用できる。これらのプレポリマー又はモノマーは、単体又は複数を混合して使用できる。具体的には、プレポリマー又はモノマーとしては、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、エポキシ基等のカチオン重合性官能基等を有する化合物が挙げられる。また、ポリエンとポリチオールとの組み合わせによるポリエン/チオール系のプレポリマーも好ましい。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基の意味である。
【0051】
ラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーとしては、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの分子量としては、250~10万程度が好ましい。
【0052】
また、ラジカル重合性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、単官能モノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、多官能モノマーとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
また、カチオン重合性官能基を有するプレポリマーとしては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ化合物等のエポキシ系樹脂、脂肪酸系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル等のビニルエーテル系樹脂のプレポリマーが挙げられる。
また、ポリエン系のプレポリマーとしては、例えば、ジオールおよびジイソシアネートによるポリウレタンの両端にアリルアルコールを付加したものが挙げられる。また、チオール系のプレポリマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオールが挙げられる。
【0054】
電離放射線としては、例えば、電離放射線硬化型樹脂(組成物)中の分子を硬化反応させ得るエネルギーを有する電磁波又は荷電粒子を採用できる。硬化反応としては、例えば、架橋硬化反応が挙げられる。また、紫外線源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト、メタルハライドランプ等の光源を採用できる。紫外線の波長としては、例えば、190nm以上380nm以下が好ましい。また、電子線源としては、例えば、コッククロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の電子線加速器を採用できる。特に、100keV以上1000keV以下のエネルギーをもつ電子(より好ましくは100keV以上300keV以下のエネルギーをもつ電子)を照射できるものが好ましい。
【0055】
また、2液硬化型ウレタン系樹脂は、特に限定されるものではない。例えば、主剤としてOH基を有するポリオール成分と、硬化剤成分としてイソシアネート成分とを含むものを採用できる。OH基を有するポリオール成分としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオールが挙げられる。また、イソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0056】
〔エンボス部〕
表面保護層7の表面には、所与の意匠性を付与するために、凹凸模様からなるエンボス部7aが形成されている。凹凸模様としては、例えば、木目板導管溝、石板表面凹凸(花崗岩劈開面等)、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝が挙げられる。このエンボス部7aは、その凹凸模様が絵柄層5の絵柄と同調するように設けられる。
凹凸模様の形成方法としては、例えば、エンボス加工を採用できる。エンボス加工の方法は、特に限定されない。例えば、公知の枚葉式のエンボス機、輪転式のエンボス機を採用できる。
【0057】
〔グロスマット発現用柄部〕
グロスマット発現用柄部3は、所定波長の光に対して光吸収性を有する材料で形成され、例えば赤外線吸収作用を有する材料で形成される。グロスマット発現用柄部3は、カーボンブラックを有する墨インキを含む材料で形成され、例えば、ウレタン系印刷インキで形成される。グロスマット発現用柄部3は、着色熱可塑性樹脂層2の絵柄層5とは逆側の、絵柄層5の絵柄と同調する位置に配置される。例えば、木目模様の絵柄層5である場合には、平面視で絵柄層5の木目板導管溝と重なる位置にグロスマット発現用柄部3が形成される。なお、ここでいう同調とは平面視でグロスマット発現用柄部3と絵柄層5の絵柄とが重なる位置に形成されていることを言う。
【0058】
グロスマット発現用柄部3の厚みは、後述のエンボス加工時に、表面保護層7に凹凸形状を十分に形成することができる程度に透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7を軟化させることができる厚みであればよい。また、十分なグロスマット効果を得るためには、グロスマット発現用柄部3が形成された部分と、形成されていない部分との光沢度差が5以上あることが好ましく、すなわち画像濃度水準が60%以上であることが好ましい。
【0059】
〔所定波長の光〕
前述のように、グロスマット発現用柄部3は、所定波長の光に対して光吸収性を有する材料で形成される。所定波長の光とは、例えば、赤外線、紫外線、可視光線、電子線、X線、イオン線などがあげられる。
【0060】
〔プライマー層〕
プライマー層8は、下地となる層であって、化粧シート1を貼り付ける図示しない基材との密着性及び耐食性を向上させるための層である。プライマー層8は、着色熱可塑性樹脂層2の絵柄層5とは逆側の面に、グロスマット発現用柄部3を含んで形成される。
プライマー層8は、例えば、ポリエステル系樹脂、有機添加剤、顔料等を用いて形成される。プライマー層8には、耐食性を向上させる目的で防錆顔料を配合してもよい。プライマー層8の厚さは、例えば、1μm以上10μm以下の範囲内である。
【0061】
〔化粧シートの製造方法〕
次に、本実施形態に係る化粧シートの製造方法の一例を、図2を伴って説明する。
まず、着色熱可塑性樹脂層2を形成する。例えばPE(ポリエチレン樹脂)を用いて、例えば厚さ55μmで形成する(図2(a))。
次に、着色熱可塑性樹脂層2の上に、例えばウレタン系印刷インキを用いて絵柄層5を印刷し、さらに絵柄層5の上に透明熱可塑性樹脂層6として例えば厚さ70μmのPP(ポリプロピレン)を積層する。透明熱可塑性樹脂層6には、ナノ化処理された造核剤が添加されている。そして、透明熱可塑性樹脂層6の上に、例えば、アクリル系樹脂組成物を主成分とする表面保護層7を積層する。
なお、絵柄層5と透明熱可塑性樹脂層6との間に、ウレタン系接着剤と接着性樹脂とを接着層として設けてもよい。
【0062】
次に、着色熱可塑性樹脂層2の、絵柄層5とは逆側の面に、グロスマット発現用柄部3を形成する。例えばカーボンブラックを含むウレタン系の墨インキを用いて、絵柄層5の絵柄と同調する所定の位置にグロスマット発現用柄部3を形成する(図2(b))。
次に、グロスマット発現用柄部3を含む着色熱可塑性樹脂層2の上に、グロスマット発現用柄部3同士の隙間を埋めると共に、その上面を覆うようにして、例えばポリエステルウレタン樹脂を積層し、グロスマット発現用柄部3を含むプライマー層8を形成する。
続いて、これら各層が積層された積層体全体に赤外線(照射光)照射を行い(図2(d))、赤外線照射の直後に表面保護層7の表面にエンボスロール等のエンボス版を版押しする(図2(e))。これによってエンボス部7aが形成され、化粧シート1が形成される。
【0063】
ここで、グロスマット発現用柄部3は、赤外線吸収特性を有する墨インキで形成されている。そのため、積層体に赤外線照射を行うと、平面視で表面保護層7の、グロスマット発現用柄部3と重なる部分は、グロスマット発現用柄部3と重ならない部分と比較して、透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7が軟化しやすい。つまり、赤外線照射を行った後の透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7には、軟化しやすい部分と軟化しにくい部分とが存在する。そのため、この状態で透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7にエンボス版を版押しすると、軟化した部分は凹凸が形成されやすく、軟化しにくい部分は凹凸が形成されにくい。そのため、透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7の軟化した部分、すなわち、平面視でグロスマット発現用柄部3と重なる部分には凹凸が形成されやすい。そのため、平面視で透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7のグロスマット発現用柄部3と重なる位置のみにグロスマット発現用柄部3と同調した凹凸形状からなるエンボス部7aが形成され易くなる。
【0064】
これによって、絵柄層5と同調した位置にエンボス部7aを形成することができ、すなわち、高精度な位置決め操作を行うことなく、絵柄層5と同調したエンボス部7aを容易に作成することができる。
なお、赤外線照射を行った後に透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7にエンボス版を版押しするタイミングは、赤外線照射を行った直後に限るものではなく、透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7の表面に版押しすることで、赤外線照射により軟化した部分に選択的に凹凸形状を形成することができるタイミングであればよい。
また、表面保護層7を作成する工程と、赤外線照射を行う工程との間に、他の工程が含まれていてもよく、要は、赤外線照射は、透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7が形成されている状態で行われればよい。
【0065】
〔本実施形態の効果〕
(1)本実施形態に係る化粧シート1の製造方法によれば、各層が積層された積層体に赤外線照射を行った後にエンボス版を版押しすることで、平面視で、グロスマット発現用柄部3と重なる部分に強くエンボス加工を行うことができる。つまり、エンボス版を版押しする領域の位置決め等を高精度に行わなくとも、所望の位置に容易にエンボス部を形成することができる。その結果、優れた意匠性を有する化粧シートを容易に得ることができる。
【0066】
(2)グロスマット発現用柄部3を、着色熱可塑性樹脂層2の下層に設けているため、化粧シート1を、表面保護層7側から見たときに、グロスマット発現用柄部3の視認性が低くなる。その結果、グロスマット発現用柄部3として赤外線吸収特性を有する濃度の高い墨インキを用いているが、化粧シート1を表面保護層7側から見たときに、グロスマット発現用柄部3が視認されることを抑制することができる。このため、絵柄層5として濃色柄を用いなくとも、墨インキを含むグロスマット発現用柄部3が視認されることを抑制することができ、その結果、絵柄層5として淡色柄を採用することも可能となり、グロスマット発現用柄部3を設けることにより生じる、絵柄層5による柄表現の制約を抑制することができる。
【0067】
また、赤外線吸収特性を有する濃度の高い墨インキを用いたグロスマット発現用柄部3の上層に、着色熱可塑性樹脂層2及び絵柄層5、さらに、透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7を積層し、表面保護層7の平面視でグロスマット発現用柄部3と重なる位置に、エンボス部7aを形成している。そのため、墨インキを用いたグロスマット発現用柄部3の視認性を下げることができ、化粧シート1の製造過程で有用なグロスマット発現用柄部3が、化粧シート1の外観に与える影響を抑制することができ、絵柄層5の絵柄とエンボス部7aとが同調した意匠性の高い化粧シート1を得ることができる。
【0068】
(3)さらに、グロスマット発現用柄部3を、絵柄層5の絵柄と同調させて設けているため、絵柄層5の絵柄と同調した凹凸部を形成することができ、すなわち、絵柄と同調したグロスマット効果を容易に発現させることができる。
(4)また、凹凸を設けることで、グロスマット表現を行っているため、グロスマットの柄取れ等が生じることを抑制することができる。そのため、例えば、床材等においても同調グロスマット表現を行うことができる。
【0069】
(5)また、透明熱可塑性樹脂層6には、ナノ化処理された造核剤を添加している。そのため、透明熱可塑性樹脂層6の透明性を向上させることができると共に、耐擦傷性及びV溝曲げ加工等の後加工性を向上させることができ、後工程で表面に割れが生じたり、クラックが生じたりすることを回避することができる。
上述のように、グロスマットの柄取れ等が生じることを抑制することができ、さらに後加工性を向上させることができるため、床材において同調グロスマット表現を可能とすることができる。
【0070】
〔変形例〕
(1)上記実施形態においては、グロスマット発現用柄部3として墨インキを含む材料を用い、赤外線照射を行うことで、透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7を部分的に軟化させる場合について説明したがこれに限るものではない。グロスマット発現用柄部3の材料として所定波長の光に対して光吸収性を有する成分からなる任意のインキを含む材料を用い、前記所定波長の光を照射する光源を用いることで、透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層7を部分的に軟化させるようにしてもよい。
【実施例0071】
(実施例1)
厚さ55μmのPE層からなる着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に、ウレタン系印刷インキからなる絵柄層5と、厚さ70μmのPP層(石化PP)からなりナノ化処理された造核剤を含む透明熱可塑性樹脂層6と、アクリル系樹脂組成物を主成分とするUV樹脂からなる表面保護層7とをこの順に積層した。なお、絵柄層5と透明熱可塑性樹脂層6との間に、ウレタン系接着剤及び接着性樹脂を含む接着層を設けた。また、着色熱可塑性樹脂層2の他方の面に、ウレタン系印刷インキからなる墨インキをパターン印刷してグロスマット発現用柄部3を形成し、このグロスマット発現用柄部3を含む着色熱可塑性樹脂層2の上にポリエステルウレタン樹脂を積層し、グロスマット発現用柄部3を含むパターン層8a及びプライマー層8を形成し、化粧シートとなる積層体を得た。
【0072】
このとき、透明熱可塑性樹脂層6は、以下の手順で形成した。
すなわち、アイソタクチックペンタッド分率が97.8%、MFR(メルトフローレート)が15g/10min(230℃)、分子量分布MWD(Mw/Mn)が2.3の石油由来の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:BASFジャパン株式会社製)を500PPMと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チヌビン328:BASFジャパン株式会社製)を2000PPMと、ヒンダードアミン系光安定剤(キマソーブ944:BASFジャパン株式会社製)を2000PPMと、固相法によりナノ化処理した2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウム1000PPMとを添加した樹脂を溶融押出機を用いて押出し、透明熱可塑性樹脂層6として使用する厚さ100μmの高結晶性ポリプロピレン製の透明樹脂シートを製膜し、続いて、製膜された透明樹脂シートの両面にコロナ処理を施して表面の濡れ張力を40dyn/cm以上とした。なお、押出製膜時の冷却条件のコントロールにより、製膜された透明樹脂シートの結晶性ポリプロピレン樹脂のヘイズ値は8.5%となった。
【0073】
(比較例1)
比較例1として、透明熱可塑性樹脂層6にナノ化処理された造核剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様の手順で化粧シートを作成した。
(比較例2)
表面保護層に絵柄層の絵柄と同調したグロスマット印刷を施し、赤外線照射工程を設けないこと以外は、比較例1と同様の手順で化粧シートを作成した。
(参考例1)
表面保護層が熱効果型樹脂からなり、表面保護層に絵柄層の絵柄と同調したグロスマット印刷を実施しない(赤外線照射工程を設けない)こと以外は、比較例2と同様の手順で化粧シートを作成した。
【0074】
〔評価〕
実施例1、比較例1及び2、参考例1の各化粧シートについて、以下の評価を行った。(1)鉛筆硬度(表面硬度)
化粧シートに対し、硬度の異なる鉛筆を用いて鉛筆硬度試験を実施した後に、表面(表面保護層)に発生した損傷(抉れ)を確認して、鉛筆硬度による表面硬度を評価した。そして、硬度が4B以上の鉛筆を用いて鉛筆硬度試験を実施した後に、表面に損傷が発生した場 合を「◎」と評価し、硬度が5B以上の鉛筆を用いて鉛筆硬度試験を実施した後に、表面に損傷が発生した場合を「○」と評価した。これに加え、硬度が6B以下の鉛筆を用いて鉛筆硬度試験を実施した後に、表面に損傷が発生した場合を「×」と評価した。
【0075】
(2)ホフマンスクラッチ(表面硬度)
ホフマンスクラッチ試験による表面硬度を評価した。ホフマンスクラッチ試験は、化粧シート表面に対して45度の角度で接するようにスクラッチ刃(直径が7[mm]の円柱形の刃)をセットし、試験機を化粧シートの上で移動させて行った。そして、荷重が200[g]以上2000[g]以下の範囲内で、徐々に(200[g]刻みで)荷重(錘)を高めて引っかき、サンプルの表面に傷がついた荷重([g])で評価した。なお、荷重800[g]で傷が付いた場合には、「600[g]」を耐荷重として表に記載した。なお、耐荷重が「200[g]」の場合を不合格とした。
【0076】
(3)摺動性
クロックメータによるフェルト摺動性を確認した。荷重は500g/cmとし、化粧シートの表面保護層側が摺動するように化粧シートを往復動させた。500回から2000回の間で、500回刻みで回数を増加させつつ、往復動させて摺動性を確認し、2000回目の往復動が終了した時点でグロスマット意匠に差がなければ「○(合格)」とした。100回から1500回の間で、グロスマット意匠に差がなければ「△」、500回でグロスマット意匠に差があれば「×(不合格)」とした。
【0077】
(4)曲げ加工適正
MDFに貼り合わせた化粧シート(すなわち化粧材)を用いてVカット加工適正(折り曲げ白化の有無)を確認した。
その結果、白化が生じなかったものを「○(合格)」とし、少し白化が生じてしまったものを「△(合格)」とし、白化が生じてしまったものを「×(不合格)」とした。
[評価結果]
下記の表1に評価結果を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
表1から、透明熱可塑性樹脂層にナノ化処理した造核剤を添加することによって、表面硬度を向上させることができると共に、V溝曲げ加工適正も上昇することが確認できた。すなわち化粧シート表面の耐擦傷性及び耐後加工性共に優れた化粧シートを実現できることが確認された。
【0080】
なお、本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
(1)
絵柄と同調するエンボス形状を有する化粧シートの製造方法であって、
着色樹脂層の一方の面に、絵柄層と透明樹脂層と表面保護層とをこの順に積層する工程と、
前記着色樹脂層の他方の面に、前記着色樹脂層よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料を利用して前記絵柄と同調するグロスマット発現用柄部を形成する工程と、
前記所定波長の光のパワーが他の波長の光のパワーよりも強い照射光を照射する工程と、
前記照射光を照射する工程の後に、前記表面保護層に前記エンボス形状形成用のエンボス版を版押しする工程と、
を備え、
前記透明樹脂層は、ナノ化処理された造核剤を含むことを特徴とする化粧シートの製造方法。
【0081】
(2)
前記所定の材料は、カーボンブラックを有する墨インキを含んで形成され、前記照射光は赤外線であることを特徴とする上記(1)に記載の化粧シートの製造方法。
(3)
絵柄層を有する化粧シートであって、
着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層と透明樹脂層と表面保護層と、
前記着色樹脂層の他方の面に積層され、前記着色樹脂層よりも所定波長の光に対して光吸収性を有する所定の材料からなり、前記絵柄層の絵柄と同調する位置に配置されたグロスマット発現用柄部と、
を備え、
前記透明樹脂層はナノ化処理された造核剤を含み、
前記表面保護層の、平面視で前記所定の材料で形成される部分と重なる位置に、エンボス部が形成されていることを特徴とする化粧シート。
【符号の説明】
【0082】
1 化粧シート
2 着色熱可塑性樹脂層
3 グロスマット発現用柄部
5 絵柄層
6 透明熱可塑性樹脂層
7 表面保護層
7a エンボス部
8 プライマー層
図1
図2