(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014120
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】心拍数検出システム、心拍数検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20240125BHJP
A61B 5/0507 20210101ALI20240125BHJP
【FI】
A61B5/0245 200
A61B5/0507
A61B5/0245 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116727
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 文徳
(72)【発明者】
【氏名】仲本 晶絵
(72)【発明者】
【氏名】福島 暁洋
【テーマコード(参考)】
4C017
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AB04
4C017AC40
4C017BC08
4C017BC11
4C017BC16
4C017BD04
4C017FF05
4C127AA10
(57)【要約】
【課題】被測定者の心拍数を精度よく測定すること。
【解決手段】心拍数検出システム1は、ドップラー信号に基づいて複数の時間窓の夫々における被測定者の心拍を示す心拍データを取得する心拍データ取得部300と、前記各心拍データを周波数スペクトルに変換するFFT部32と、前記各周波数スペクトルに含まれるピークを特定するピーク特定部33と、3以上である所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在しているか否かを判断するピーク追跡部34と、判断結果に基づいて前記被測定者の心拍数を生成する心拍数生成部301と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドップラー信号に基づいて複数の時間窓の夫々における被測定者の心拍を示す心拍データを取得する取得手段と、
前記各心拍データを周波数スペクトルに変換する変換手段と、
前記各周波数スペクトルに含まれるピークを特定するピーク特定手段と、
3以上である所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在しているか否かを判断するピーク追跡手段と、
判断結果に基づいて前記被測定者の心拍数を生成する心拍数生成手段と、
を含む心拍数検出システム。
【請求項2】
請求項1に記載の心拍数検出システムにおいて、
前記心拍数生成手段は、前記所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在する場合に、それら対応するピークのうち少なくとも一部に基づいて前記被測定者の心拍数を生成する、心拍数検出システム。
【請求項3】
請求項1に記載の心拍数検出システムにおいて、
前記ピーク追跡手段は、前後する前記時間窓に係るピークの周波数の値が所定範囲内である場合に、前記対応するピークが存在していると判断する、心拍数検出システム。
【請求項4】
請求項1に記載の心拍数検出システムにおいて、
前記ピーク追跡手段は、前記所定数の連続する前記時間窓に係る全てのピークの周波数の値が所定範囲内である場合に、前記対応するピークが存在していると判断する、心拍数検出システム。
【請求項5】
請求項1に記載の心拍数検出システムにおいて、
前記周波数スペクトルに含まれるピークの、他のピークに対する振幅比を算出する振幅比算出手段をさらに含み、
前記心拍数生成手段は、前記振幅比にさらに基づいて前記被測定者の心拍数を生成する、心拍数検出システム。
【請求項6】
請求項5に記載の心拍数検出システムにおいて、
前記心拍数生成手段は、前記振幅比が所定値以上であるピークのみに基づいて、前記被測定者の心拍数を生成する、心拍数検出システム。
【請求項7】
請求項1に記載の心拍数検出システムにおいて、
前記心拍数生成手段は、前記各時間窓に対応する仮心拍数を算出する手段を含み、所定期間において算出される仮心拍数のうち、所定基準を満足するものが所定数未満である場合、前記被測定者の心拍数を生成しない、心拍数検出システム。
【請求項8】
ドップラー信号に基づいて複数の時間窓の夫々における被測定者の心拍を示す心拍データを取得するステップと、
前記各心拍データを周波数スペクトルに変換するステップと、
前記各周波数スペクトルに含まれるピークを特定するステップと、
3以上である所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在しているか否かを判断するステップと、
判断結果に基づいて前記被測定者の心拍数を生成するステップと、
を含む心拍数検出方法。
【請求項9】
ドップラー信号に基づいて複数の時間窓の夫々における被測定者の心拍を示す心拍データを取得するステップと、
前記各心拍データを周波数スペクトルに変換するステップと、
前記各周波数スペクトルに含まれるピークを特定するステップと、
3以上である所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在しているか否かを判断するステップと、
判断結果に基づいて前記被測定者の心拍数を生成するステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心拍数検出システム、心拍数測定方法及びプログラムに関し、特にドップラー信号に基づいて被測定者の心拍数を検出するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
被測定者の心拍数を測定する各種のシステムが検討されている。被測定者に電極を接触させて心電位を計測する従来のシステムでは被測定者の負担が大きいことから、下記特許文献1のように、マイクロ波ドップラーセンサによって非接触で心拍数を測定する方式が有力視されている。マイクロ波ドップラーセンサによれば、被測定者の体表面や体内の動きを測定することにより、心拍数を取得できる。
【0003】
ここで下記特許文献2に記載された心拍検出システムでは、心拍スペクトルの最大ピークから心拍数の推定値を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-134795号公報
【特許文献2】特開2019-129996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、実際に被測定者から得られる心拍スペクトルは、多くのノイズ成分を含んでおり、その最大ピークが必ずしも被測定者の心拍数を示すものとはならない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、被測定者の心拍数を精度よく測定することができる心拍数検出システム、心拍数検出方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る心拍数検出システムは、ドップラー信号に基づいて複数の時間窓の夫々における被測定者の心拍を示す心拍データを取得する取得手段と、前記各心拍データを周波数スペクトルに変換する変換手段と、前記各周波数スペクトルに含まれるピークを特定するピーク特定手段と、3以上である所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在しているか否かを判断するピーク追跡手段と、判断結果に基づいて前記被測定者の心拍数を生成する心拍数生成手段と、を含む。
【0008】
(2)(1)に記載の心拍数検出システムにおいて、前記心拍数生成手段は、前記所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在する場合に、それら対応するピークのうち少なくとも一部に基づいて前記被測定者の心拍数を生成してよい。
【0009】
(3)(1)又は(2)に記載の心拍数検出システムにおいて、前記ピーク追跡手段は、前後する前記時間窓に係るピークの周波数の値が所定範囲内である場合に、前記対応するピークが存在していると判断してよい。
【0010】
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載の心拍数検出システムにおいて、前記ピーク追跡手段は、前記所定数の連続する前記時間窓に係る全てのピークの周波数の値が所定範囲内である場合に、前記対応するピークが存在していると判断してよい。
【0011】
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載の心拍数検出システムにおいて、前記周波数スペクトルに含まれるピークの、他のピークに対する振幅比を算出する振幅比算出手段をさらに含んでよい。前記心拍数生成手段は、前記振幅比にさらに基づいて前記被測定者の心拍数を生成してよい。
【0012】
(6)(5)に記載の心拍数検出システムにおいて、前記心拍数生成手段は、前記振幅比が所定値以上であるピークのみに基づいて、前記被測定者の心拍数を生成してよい。
【0013】
(7)(1)乃至(6)のいずれかに記載の心拍数検出システムにおいて、前記心拍数生成手段は、前記各時間窓に対応する仮心拍数を算出する手段を含んでよい。所定期間において算出される仮心拍数のうち、所定基準を満足するものが所定数未満である場合、前記被測定者の心拍数を生成しないようにしてよい。
【0014】
(8)本発明に係る心拍数検出方法は、ドップラー信号に基づいて複数の時間窓の夫々における被測定者の心拍を示す心拍データを取得するステップと、前記各心拍データを周波数スペクトルに変換するステップと、前記各周波数スペクトルに含まれるピークを特定するステップと、3以上である所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在しているか否かを判断するステップと、判断結果に基づいて前記被測定者の心拍数を生成するステップと、を含む。
【0015】
(9)本発明に係るプログラムは、ドップラー信号に基づいて複数の時間窓の夫々における被測定者の心拍を示す心拍データを取得するステップと、前記各心拍データを周波数スペクトルに変換するステップと、前記各周波数スペクトルに含まれるピークを特定するステップと、3以上である所定数の連続する前記時間窓に係る前記周波数スペクトルにおいて対応するピークが存在しているか否かを判断するステップと、判断結果に基づいて前記被測定者の心拍数を生成するステップと、をコンピュータに実行させるためのプログラムである。このプログラムはコンピュータ可読情報記憶媒体に格納されてよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被測定者の心拍数を精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る心拍数検出システムの構成図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る信号処理装置の機能ブロック図である。
【
図3】心拍データ切出部の処理を説明する図である。
【
図5】FFT部の出力を示す図であり、(a)は時刻tにおける周波数スペクトルを示し、(b)は時刻t+1における周波数スペクトルを示す。
【
図6】ピーク記憶部の記憶内容を模式的に示す図である。
【
図8】仮心拍数記憶部の記憶内容を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る心拍数検出システムの構成図である。同図に示すように心拍数検出システム1はドップラーセンサ2と信号処理装置3を含む。心拍数検出システム1は例えば住宅内に設定され、例えば就寝中の被測定者の心拍数を検出する。ドップラーセンサ2は例えばベッドの近傍において被測定者の心臓に向けて設けられる。ドップラーセンサ2からはマイクロ波が出射され、被測定者の心臓付近での反射波がドップラーセンサ2で受信される。ドップラー効果により反射波は周波数シフトしており、これを観測することにより被測定者の心拍数を得ることができる。反射波は、送信波と同相成分であるI信号と直交成分であるQ信号とを含むドップラー信号として検出され、デジタル形式で信号処理装置3に出力される。信号処理装置3に入力されるドップラー信号は時系列データであり、各時刻の振幅(I成分及びQ成分)を示している。
【0020】
信号処理装置3は、例えばCPU、メモリ、入力デバイス及びディスプレイを含む、公知のコンピュータにより構成されてよく、ドップラーセンサ2から出力されるドップラー信号に基づいて被測定者の心拍数を生成する。
【0021】
図2は、本発明の実施形態に係る信号処理装置3の機能ブロック図である。同図に示すように、信号処理装置3は、心拍データ取得部300と、FFT部32、ピーク特定部33、ピーク追跡部34、ピーク記憶部35及び心拍数生成部301を含んでいる。これらの機能ブロックは、コンピュータである信号処理装置3において信号処理プログラムが実行されることにより実現される。この信号処理プログラムは、半導体メモリなどの各種のコンピュータ可読情報記憶媒体に格納され、該媒体から信号処理装置3にロードされてもよい。あるいは、インターネットなどのデータ通信回線を介して信号処理装置3にダウンロードされてもよい。
【0022】
心拍データ取得部300は、ドップラー信号に基づいて複数の時間窓の夫々における被測定者の心拍を示す心拍データを取得する。心拍データ取得部300は心拍データ切出部30及びフィルタ部31を含んでいる。心拍データ切出部30は、ドップラー信号のデータに時間窓を適用し、該時間窓のデータ部分(心拍データ)を切り出す。
【0023】
図3は、心拍データ切出部30の処理を説明する図である。同図に示すように、所定時間(ここでは例えば1分)あたりのI信号及びQ信号のデータに所定数の時間窓(ここでは時間窓W(1)~W(30))が適用され、所定数(ここでは例えば30)の心拍データが切出される。時間窓の幅は一定(ここでは例えば256ms)である。各時間窓の開始タイミングは所定時間(ここでは例えば2秒)ずれている。
【0024】
後述するように時間窓W(i)からは仮心拍数HR(i)が生成される(i=1~30)。また、仮心拍数HR(1)~HR(30)に基づいて、心拍数確定値HRが生成される。すなわち、心拍数確定値HRはここでは1分おきに生成される。
【0025】
各時間窓W(i)の心拍データ(I信号及びQ信号のデータ)はフィルタ部31に入力され、ノイズが除去される。ここでは、フィルタ部31は第1フィルタ部31a及び第2フィルタ部31bを含んでいる。第1フィルタ部31aは、例えば各種のバンドパスフィルタにより構成されてよく、心拍データに含まれる心拍に対応する周波数成分を抽出する。
【0026】
第2フィルタ部31bは、第1フィルタ部31aの出力に対して、さらに呼吸等のノイズに由来する大トレンドを除去する。例えば、
図4に示すように、第2フィルタ部31bは、第1移動平均算出部312、第2移動平均算出部313及び差分算出部314を含む。第1移動平均算出部312は、心拍由来の信号成分をより分かりやすくするため、比較的短時間(ここでは例えば0.1秒)の移動平均を算出する。また、第2移動平均算出部313は、呼吸等由来の信号成分をとらえるため、比較的長時間(ここでは例えば1秒)の移動平均を算出する。そして、差分算出部314は第1移動平均算出部312の出力から第2移動平均算出部313の出力を減算する。これにより、呼吸等由来の大トレンドを除去できる。
【0027】
以上のようにしてノイズ除去された心拍データ(実数)はFFT部32に入力される。FFT部32では各心拍データを周波数スペクトルに変換する。
図5は、FFT部32の出力を示す図である。同図(a)は時刻tにおける周波数スペクトルを示し、同図(b)は時刻t+1における周波数スペクトルを示す。これらの図に示すように、FFT部32から出力される周波数スペクトルには、一般に大小様々なピークが含まれる。
【0028】
ピーク特定部33は、各時間窓の周波数スペクトルに含まれるピークを特定する。ピーク特定部33により特定されるピークのうち、所定条件を満たすピークの情報はピーク追跡部34によってピーク記憶部35に格納される。ここで格納されるデータには、各ピークの周波数及び振幅が含まれる。なお、ピーク特定部33は、後述するようにピークの信頼度を評価するため、各時間窓において、2番目に振幅の大きいピークを選択し、そのピークの振幅値をピーク記憶部35に格納している。
【0029】
ピーク追跡部34は、各時間窓の周波数スペクトルに含まれるピークに、ピーク記憶部35に直前に記憶されたピーク、すなわち直前の時間窓に係る周波数スペクトルから抽出されたピークに対応するピーク(対応ピーク)が含まれているか否かを判断する。例えば、直前に記憶されたピークの周波数の前後所定幅(例えば±0.083Hz)のピークが含まれていれば、当該ピークを「対応ピーク」と判断する。そして、そのような対応ピークのデータをピーク記憶部35に格納する。
図5の例では、時刻tにおいて振幅の大きな順に、ピークA_t、B_t及びC_tが存在している(a)。そして、時刻t+1においても、ピークA_tに対応するピークA_t+1、ピークB_tに対応するピークB_t+1、ピークC_tに対応するピークC_t+1が存在している(b)。すなわち、ピークA_tとピークA_t+1の周波数差、ピークB_tとピークB_t+1の周波数差、ピークC_tとピークC_t+1の周波数差は、いずれも所定値以下である。
【0030】
図6は、ピーク記憶部35の記憶内容の例を示している。同図に示すように、時間窓No.1ではピークID=001~003のデータがピーク記憶部35に格納される。すなわち、ピーク特定部33の動作開始時、時間窓No.1に係る周波数スペクトルから、振幅の大きなものから順に所定数(ここでは3つ)のピークのデータがピーク記憶部35に格納される。同図中、この3つのピークの存在は「〇」で示される。
【0031】
時間窓No.2に係る周波数スペクトルからは、ピークID=001~003に対応するピークが特定されており、それらピークのデータ(周波数及び振幅)がピーク記憶部35に格納される。また、時間窓No.2に係る周波数スペクトルから、ピークIDがまだ付与されていないピークのうち最大振幅を有するピーク(追加ピーク)が選択され、該追加ピークについても、周波数及び振幅がピーク記憶部35に格納される。この追加ピークにはユニークなピークID=004が付与される。
図5の例では、ピークD_t+1が追加ピークに相当する。
【0032】
時間窓No.3に係る周波数スペクトルからは、ピークID=001、003及び004については対応ピークが抽出されたものの、ピークID=002については対応ピークが存在していない。ピークID=002の対応ピークが不存在の旨は、同図中「×」で示される。時間窓No.3に係る周波数スペクトルからも追加ピークが選択され、該追加ピークについて、周波数及び振幅がピーク記憶部35に格納される。この追加ピークにはピークID=005が付与される。
【0033】
時間窓No.4に係る周波数スペクトルからは、ピークID=001、003~005について対応ピークが抽出され、ピークID=006のピークが追加されている。
【0034】
時間窓No.5に係る周波数スペクトルからは、ピークID=001、003、004及び006について対応ピークが抽出され、ピークID=007のピークが追加されている。このとき、ピークID=001及び003については、連続する5回の時間窓において対応ピークが抽出されていることから、それらピークは「有効ピーク」とされている。このことは、図中「●」で示されている。すなわち、ピーク記憶部35では、各ピークIDに関連づけて、「有効ピーク」に昇格する前の「仮ピーク」であるか(図中「〇」)、対応ピークが存在せずに既に消滅した「消失ピーク」であるか(図中×)、「有効ピーク」であるか、を記憶している。なお、ここでは連続する5回の時間窓において対応ピークが存在すれば、当該ピークを「有効ピーク」としたが、3以上の任意の回数の連続する時間窓において対応ピークが存在する場合に、「有効ピーク」とするようにしてよい。
【0035】
図7は、ピーク追跡部34の処理を示すフロー図である。同図に示す処理は各時間窓の周波数スペクトルに対して実行される。ピーク追跡部34は、まずピーク記憶部35に記憶されている仮ピーク及び有効ピークの中から1つを選択する(S101)。次に、最新の時間窓の周波数スペクトルに含まれるピークの中に、S101で選択されたピークの対応ピークがあるか否かを判断する(S102)。そして、対応ピークがあれば、ピーク記憶部35に当該対応ピークのデータを格納する(S103)。また、連続する所定数(例えば5)の時間窓において対応ピークが存在している場合には(S104)、当該ピークのピークIDに関連づけて「有効ピーク」の旨を記憶する。また、S102において対応ピークが存在しないと判断すると、S101で選択されたピークのピークIDに関連づけて「消失ピーク」の旨を記憶する。
【0036】
そして、ピーク記憶部35に記憶されている全ての仮ピーク及び有効ピークについてS102~S106の処理を繰り返す(S101及びS107)。全ての仮ピーク及び有効ピークについてS102~S106の処理を実行すると(S107)、次に最新の周波数スペクトルから追加ピークを選択し、該追加ピークのデータをピーク記憶部35に格納する。このとき、当該追加ピークには新たなピークIDが付与され、そのピークIDには「仮ピーク」の旨が関連づけられる。
【0037】
本実施形態においては、所定数(ここでは5)の連続する時間窓において、時間的に前後する時間窓に係るピークの周波数の値がすべて互いに所定範囲内(例えば±0.083Hz)である場合に、対応ピークが存在していると判断し、そのピークを「有効ピーク」として扱う。後述するように、本実施形態では「有効ピーク」の周波数だけに基づいて被測定者の心拍数を算出するようにしているので、より信頼性高い心拍数を得ることができる。
【0038】
なお、ピーク追跡部34は、所定数の連続する時間窓に係る全てのピークの周波数の値が所定範囲内である場合に、対応ピークが存在していると判断するようにしてもよい。すなわち、所定数の連続する時間窓に係るピークの周波数のうち最大値と最小値との差が所定値以下であれば、それらピークは相互に対応していると判断し、「有効ピーク」として扱ってよい。
【0039】
以上のようにしてピーク記憶部35に有効ピークのデータが記憶されると、そのデータに基づいて、心拍数生成部301は被測定者の心拍数を生成する。心拍数生成部301は、仮心拍数算出部36と、仮心拍数記憶部37と、第2信頼度判定部38と、心拍数確定値算出部39と、を含んでいる。
【0040】
仮心拍数算出部36は、第1信頼度判定部36aを含んでいる。第1信頼度判定部36aは、ピーク記憶部35に記憶された各時間窓の各有効ピークに対して第1信頼度を算出する。第1信頼度は、ここでは直近の所定数(例えば5)の時間窓における相対振幅の平均値である。相対振幅とは、当該有効ピークの振幅を、各時間窓において最大振幅を有するピークの振幅で除した値である。仮心拍数算出部36は、第1信頼度が最も大きな有効ピークを選択し、そのピークの周波数の逆数から心拍数(BPM)を得る。そして、この心拍数を仮心拍数として仮心拍数記憶部37に格納する。また、選択された有効ピークの振幅も仮心拍数記憶部37に格納する。さらに、各時間窓における2番目に大きな振幅を第2振幅として仮心拍数記憶部37に格納する。
【0041】
図8は、仮心拍数記憶部37の記憶内容を模式的に示す図である。同図に示すように、仮心拍数記憶部37は、各時間窓について、仮心拍数HR(i)、仮心拍数に対応する有効ピークの振幅A(i)、第2振幅A2(i)及び確定フラグを記憶している。確定フラグの初期値は0(未確定)である。仮心拍数記憶部37には、心拍数の判定周期(ここでは1分)分の仮心拍数が記憶される。例えば、時間窓が2秒ずつずれて設定され、心拍数の判定周期が1分の場合には、30の仮心拍数が記憶される。
【0042】
第2信頼度判定部38は、仮心拍数記憶部37に記憶された各時間窓の仮心拍数について、再度信頼度を判定する。具体的には、第2信頼度判定部38は振幅比算出部38aを含んでおり、振幅比算出部38aは各時間窓について仮心拍数に対応するピークの振幅A(i)を第2振幅A2(i)で除して振幅比を算出する。第2信頼度判定部38は、この振幅比が1より大きな所定閾値(例えば1.5)以上であれば、確定フラグの値を1に変更する。これにより仮心拍数は確定値として扱われる。振幅比が1より大きな所定閾値以上である場合にだけ、仮心拍数を確定値として扱うので、1)最大振幅ではない有効ピークを用いて心拍数が計算されることを回避でき、且つ2)2番目に大きなピークとの振幅比が小さい有効ピークを用いて心拍数が計算されることも回避できる。これにより、最終的に計算される心拍数の信頼性を向上させることができる。なお、第2信頼度判定部38は、確定フラグを1に変更するために、さらに他の条件を課してもよい。例えば、有効ピークの振幅が所定閾値を超えるとの追加条件を課してもよい。
【0043】
心拍数確定値算出部39は、仮心拍数記憶部37に記憶されている仮心拍数HR(i)のうち確定フラグが1のものだけを選択し、それらの平均値を算出する。そして、この平均値を心拍数確定値として出力する。このとき、判定周期内に算出される仮心拍数のうち所定数(例えば15)以上について確定フラグが1になっていなければ、心拍数確定値を出力しないようにしてよい。こうすれば、信頼度の低い心拍数を出力せずに済む。
【0044】
以上説明した心拍数検出システム1によれば、各時間窓の周波数スペクトルからピークを特定し、該ピークが所定数の連続する時間窓で維持される場合にだけ、それを有効ピークとして扱い、有効ピークに基づいて心拍数を計算するので、心拍数の信頼度を向上させることができる。
【0045】
また、各時間窓における有効ピークの振幅と、第2振幅(2番目に振幅が大きなピークの振幅)との比を計算し、この振幅比に基づいて該有効ピークから計算された仮心拍数の信頼度を評価しているので、さらに心拍数の信頼度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 心拍数検出システム、2 ドップラーセンサ、3 信号処理装置、30 心拍データ切出し部、31 フィルタ部、31a 第1フィルタ部、31b 第2フィルタ部、32 FFT部、33 ピーク特定部、34 ピーク追跡部、35 ピーク記憶部、36 仮心拍数算出部、36a 第1信頼度判定部、37 仮心拍数記憶部、38 第2信頼度判定部、38a 振幅比算出部、39 心拍数確定値算出部、300 心拍データ取得部、301 心拍数生成部、312 第1移動平均算出部、313 第2移動平均算出部、314 差分算出部。