(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141200
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】セラミック成形用粉末状組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/636 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C04B35/636 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052713
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
(72)【発明者】
【氏名】佐飛 峯雄
(72)【発明者】
【氏名】西村 元延
(72)【発明者】
【氏名】高山 卓之
(57)【要約】
【課題】簡便かつ低エネルギーで調製することができ、かつ成形物を製造するに際して低い圧力でも高密度に充填可能であるセラミック成形用粉末状組成物を提供する。
【解決手段】実施形態に係るセラミック成形用粉末状組成物は、セルロースナノファイバー及び平均粒子径が0.005μm以上2μm以下の無機粒子を含み、水分量が20質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバー及び平均粒子径が0.005μm以上2μm以下の無機粒子を含み、水分量が20質量%以下である、セラミック成形用粉末状組成物。
【請求項2】
前記セルロースナノファイバーの含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下である、請求項1に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を有する、請求項1に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーの数平均繊維幅が1nm以上100nm以下である、請求項1に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバーのアニオン性官能基量が1.0mmol/g以上である、請求項3に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
【請求項6】
前記無機粒子が、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分とする、請求項1に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミック成形用粉末状組成物を製造するための方法であって、セルロースナノファイバー水分散液を平均粒子径が0.005μm以上2μm以下の無機粒子にスプレー噴霧又はふりかける、セラミック成形用粉末状組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミック成形用粉末状組成物をプレス成形してなる成形物。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセラミック成形用粉末状組成物をプレス成形すること、及び、得られた成形物を焼成すること、を含む、セラミック焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック成形用粉末状組成物、及びその製造方法に関し、また、該セラミック成形用粉末状組成物を用いてなる成形物、及び、該セラミック成形用粉末状組成物を用いたセラミック焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックの成形方法としてプレス成形がある。プレス成形において、セラミック原料としての無機粒子は、一般に、流動性、比重、均一性などを制御するために数十μmの顆粒体に調製されて使用されている。その際、顆粒体は、無機粒子を結合剤(バインダー)及び分散剤とともに水などの溶媒によりスラリーにした後、該スラリーをスプレードライすることにより調製されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0003】
スプレードライによる噴霧乾燥には多大なエネルギーが必要である。簡便かつ低エネルギーでの製造のためには、スプレードライによる顆粒化を行うことなくセラミック成形用の組成物を製造することが求められる。しかしながら、顆粒化しない場合、組成物の流動性が低いことから、プレス成形において低い圧力で高密度に充填することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】奥本良博、他3名「アルミナ・スラリーの分散特性が顆粒とプレス成形体の組織に及ぼす影響」、Journal of the Ceramic Society of Japan,105,[9],p771-774,1997年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、成形物を製造するに際して低い圧力でも高密度に充填可能であるセラミック成形用粉末状組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] セルロースナノファイバー及び平均粒子径が0.005μm以上2μm以下の無機粒子を含み、水分量が20質量%以下である、セラミック成形用粉末状組成物。
[2] 前記セルロースナノファイバーの含有量が0.01質量%以上1.0質量%以下である、[1]に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
[3] 前記セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を有する、[1]又は[2]に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
[4] 前記セルロースナノファイバーの数平均繊維幅が1nm以上100nm以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
[5] 前記セルロースナノファイバーのアニオン性官能基量が1.0mmol/g以上である、[3]又は[4]に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
[6] 前記無機粒子が、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種を主成分とする、[1]~[5]のいずれか1項に記載のセラミック成形用粉末状組成物。
【0008】
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載のセラミック成形用粉末状組成物を製造するための方法であって、セルロースナノファイバー水分散液を平均粒子径が0.005μm以上2μm以下の無機粒子にスプレー噴霧又はふりかける、セラミック成形用粉末状組成物の製造方法。
[8] [1]~[6]のいずれか1項に記載のセラミック成形用粉末状組成物をプレス成形してなる成形物。
[9] [1]~[6]のいずれか1項に記載のセラミック成形用粉末状組成物をプレス成形すること、及び、得られた成形物を焼成すること、を含む、セラミック焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
実施形態に係るセラミック成形用粉末状組成物であると、流動性に優れており、成形物の製造時に低い圧力でも高密度に充填することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態に係るセラミック成形用粉末状組成物は、セルロースナノファイバーと、平均粒子径が0.005~2μmの無機粒子を含む。
【0011】
セルロースナノファイバーは、セルロース繊維をナノレベル(すなわち1μm未満)まで微細化した微細繊維状のセルロースである。セルロースナノファイバーの数平均繊維幅は、500nm以下であることが好ましく、より好ましくは1~200nmであり、更に好ましくは1~100nmであり、更に好ましくは2~30nmであり、更に好ましくは2~10nmである。
【0012】
セルロースナノファイバーの数平均繊維長は、特に限定されず、例えば300nm~10μmでもよく、500~5000nmでもよく、600~3000nmでもよく、700~2000nmでもよい。
【0013】
セルロースナノファイバーの平均アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維幅)は、特に限定されず、例えば10~1000でもよく、20~500でもよく、100~300でもよい。
【0014】
セルロースナノファイバーは、セルロースI型結晶構造を有する。セルロースI型結晶構造は天然セルロースの結晶形であり、I型結晶構造を有することにより、セルロースナノファイバーは水不溶性を持ち、水中において繊維形態を保持することができる。セルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0015】
セルロースナノファイバーとしては、アニオン性官能基を持たない未変性のものでもよいが、好ましくはアニオン性官能基を有するものである。アニオン性官能基を持つことにより、セルロースナノファイバーをより高度に微細化して、成形物の更なる高密度化及び高強度化を図ることができる。
【0016】
アニオン性官能基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらのアニオン性官能基は、セルロース分子の構成単位であるグルコースユニットに直接結合してもよく、間接的に結合してもよい。間接的に結合する場合、グルコースユニットとアニオン性官能基との間には、例えば、炭素数1~4のアルキレン基が存在してもよい。アニオン性官能基は、セルロース分子を構成する全てのグルコースユニットに一つ又は複数結合してもよく、あるいは、セルロース分子を構成する一部のグルコースユニットに一つ又は複数結合してもよい。
【0017】
上記アニオン性官能基としてのカルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。
【0018】
アニオン性官能基の塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。塩は、好ましくはアルカリ金属塩である。
【0019】
セルロースナノファイバーがアニオン性官能基を有する場合、アニオン性官能基(好ましくはカルボキシ基)の量は、特に限定されず、例えば、セルロースナノファイバーの乾燥質量あたり、1.0mmol/g以上であることが好ましい。アニオン性官能基の量は、より好ましくは1.0~3.0mmol/gであり、更に好ましくは1.2~2.8mmol/gであり、更に好ましくは1.5~2.5mmol/gである。
【0020】
アニオン性官能基の量は次のようにして測定される。例えば、カルボキシ基の場合、0.1~1質量%の濃度に調製したセルロースナノファイバー水分散液60mLを、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン性官能基についても公知の方法で測定すればよい。なお、本明細書において「乾燥質量」とは、一分間当たりの質量変化率が0.05%以下になるまで140℃で乾燥させた後の質量のことである。
アニオン性官能基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロースナノファイバー質量(g)〕
【0021】
一実施形態において、セルロースナノファイバーとしては、アニオン性官能基としてカルボキシ基を有することが好ましい。カルボキシ基を含有するセルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0022】
酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。
【0023】
N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)又は4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化され微細化されたセルロースナノファイバーは、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)と称されている。なお、酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
【0024】
セルロースナノファイバーを解繊処理して得る場合、解繊処理は、アニオン性官能基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の水分散液を処理することにより行うことができ、セルロースナノファイバーの水分散液を得ることができる。
【0025】
セラミック成形用粉末状組成物に配合される無機粒子としては、平均粒子径が0.005~2μmであるものが用いられる。このような平均粒子径の小さい無機粒子を用いることにより、成形物の製造時に高密度に充填することができ、焼結時の空隙発生を抑えることができる。無機粒子の平均粒子径は、より好ましくは0.05~1.8μmであり、更に好ましくは0.1~1.5μmであり、更に好ましくは0.3~1.2μmである。
【0026】
ここで、無機粒子の該平均粒子径は、セルロースナノファイバーが付着していない状態での無機粒子の平均粒子径である。ここで、無機粒子の平均粒子径は、粒度分布計(MT3000II、マイクロトラック・ベル社)を用いてレーザ回折・散乱法により乾式測定し、粒度分布より算出された質量基準平均径(D50)である。
【0027】
無機粒子としては、例えば、金属酸化物、ケイ素化合物、窒化物、及びカルシウム化合物等が挙げられ、これらの少なくとも1種を主成分とすることが好ましい。ここで、主成分とは、無機粒子の全量100質量%に対して、50質量%よりも多いことをいい、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0028】
上記金属酸化物としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化銅(CuO)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコニア(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化マンガン(Mn2O3)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化ランタン(La2O3)、酸化プラセオジム(Pr2O3)、酸化ネオジム(Nd2O3)、酸化サマリウム(Sm2O3)、酸化ユウロピウム(Eu2O3)、酸化ガドリニウム(Gd2O3)、酸化テルビウム(Tb2O3)、酸化ジスプロシウム(Dy2O3)等が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記ケイ素化合物としては、例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)等が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)等が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0031】
上記カルシウム化合物としては、例えば、石灰、リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、アルミネート、フェライト、硫酸カルシウム等が挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
実施形態に係るセラミック成形用粉末状組成物は、上記のセルロースナノファイバー及び無機粒子とともに水を含み、水分量が20質量%以下に調整されている。すなわち、当該組成物の全質量に対して水分量が20質量%以下である。このように水分量が少ないことにより、組成物をスラリー状ではなく、粉末状の形態にすることができ、無機粒子の凝集を抑えることができる。また、水分量が少ないことで焼結時における空隙の発生を抑えることができ、焼結体の強度を向上することができる。セラミック成形用粉末状組成物の水分量は、好ましくは3~20質量%であり、より好ましくは5~15質量%であり、更に好ましくは7~12質量%である。
【0033】
該セラミック成形用粉末状組成物において、セルロースナノファイバーの含有量は、当該組成物の全質量に対して、0.01~1.0質量%であることが好ましい。このようにセルロースナノファイバーの添加量が少量であるため、焼結時における空隙の発生を抑えることができ、焼結体の強度を向上することができる。セルロースナノファイバーの含有量は、より好ましくは0.01~0.5質量%であり、更に好ましくは0.02~0.2質量%であり、更に好ましくは0.03~0.1質量%である。
【0034】
該セラミック成形用粉末状組成物において、無機粒子の含有量は、特に限定されないが、当該組成物の全質量に対して、70~98質量%であることが好ましく、より好ましくは75~95質量%であり、更に好ましくは80~93質量%であり、更に好ましくは82~90質量%である。
【0035】
該セラミック成形用粉末状組成物は、上記のセルロースナノファイバー、無機粒子及び水のみで構成されてもよいが、その効果が損なわれない限り、他の成分が含まれてもよい。該他の成分としては、例えば、バインダー、分散剤、滑剤などが挙げられる。
【0036】
実施形態に係るセラミック成形用粉末状組成物は、セルロースナノファイバー水分散液を平均粒子径0.005~2μmの無機粒子にスプレー噴霧又はふりかけることにより製造することができる。すなわち、セルロースナノファイバー水分散液を無機粒子に噴霧又はふりかけることにより、セルロースナノファイバーと無機粒子を混合する。その場合、無機粒子を攪拌しながら、セルロースナノファイバー水分散液をスプレー噴霧又はふりかけてもよい。このような簡便な処理でセラミック成形用粉末状組成物を製造することができ、スプレードライによる噴霧乾燥は不要である。そのため、簡便かつ低エネルギーでセラミック成形用粉末状組成物を製造することができる。
【0037】
また、セルロースナノファイバー水分散液を無機粒子に噴霧又はふりかけることにより製造されるため、実施形態に係るセラミック成形用粉末状組成物は、顆粒化されていない。すなわち、上記実施形態のセラミック成形用粉末状組成物は、顆粒化されていない粉末状の組成物であり、顆粒化されたものとは区別される。ここで、顆粒化とは、無機粒子を固めて当該無機粒子よりも大きい粒に成形(造粒)することをいい、セラミックのプレス成形用途では一般にスプレードライにより球状の粒に成形される。
【0038】
上記のスプレー噴霧又はふりかけに用いるセルロースナノファイバー水分散液の量は、スプレー噴霧又はふりかけ後に乾燥工程を実施することなく、セラミック成形用粉末状組成物の水分量が上記範囲になるように設定されることが好ましい。すなわち、得られるセラミック成形用粉末状組成物の水分量が20質量%以下となる量のセルロースナノファイバー水分散液を無機粒子にスプレー噴霧又はふりかけることが好ましい。このような少量のセルロースナノファイバー水分散液で軽く湿らせる程度に処理して粉末状の形態を持たせるものであるため、水分散液処理後の乾燥工程を省略して、更なる簡便化、低エネルギー化を図ることができる。
【0039】
具体的には、セルロースナノファイバー水分散液の処理量は、無機粒子100質量部に対して3~25質量部であることが好ましく、より好ましくは5~20質量部である。
【0040】
セルロースナノファイバー水分散液の濃度(固形分であるセルロースナノファイバーの濃度)は、特に限定されず、上記処理量との関係で、セラミック成形用粉末状組成物におけるセルロースナノファイバーの含有量が所定の範囲になるように設定することができる。セルロースナノファイバー水分散液の濃度は、例えば0.1~5質量%でもよく、0.2~2質量%でもよい。
【0041】
このようして得られるセラミック成形用粉末状組成物において、セルロースナノファイバーは無機粒子の粒子表面に吸着している。該セラミック成形用粉末状組成物は、無機粒子の表面に吸着したセルロースナノファイバーの効果により流動性に優れており、そのため、低い圧力でも高密度に充填することが可能である。その結果、低圧力のプレス成形でも高比重の成形物を成形することができる。また、添加するセルロースナノファイバーが少量であるため、焼結時の空隙発生などの悪影響を及ぼさない。これらの効果により、特に複雑な形状のセラミック焼結体の製造に好適である。
【0042】
上記のような簡便な処理のみで得られるセラミック成形用粉末状組成物において、無機粒子は個々の粒子レベルでは配合前の粒子径がそのまま維持されるが、粒子表面に吸着したセルロースナノファイバー及び水によって緩く凝集したものも存在する。このような緩く凝集したものは、篩にかけることにより解すことができる。そのため、噴霧又はふりかけた後に篩にかけてもよい。但し、個々の無機粒子まで完全に解す必要はなく、一部凝集したものが含まれてもよい。
【0043】
噴霧又はふりかけ後にかける篩としては、例えば、JIS Z8801-1:2019に準拠した公称目開きが1.4mm以下のものでもよく、1mm以下のものでもよく、500μm以下のものでもよい。
【0044】
無機粒子の粒子表面にはセルロースナノファイバーが吸着し、また無機粒子が一部凝集したものも存在するため、セラミック成形用粉末状組成物の平均粒子径は、上述した無機粒子の平均粒子径とは必ずしも一致しなくてもよい。セラミック成形用粉末状組成物の平均粒子径は、特に限定しないが、0.1~50μmであることが好ましく、より好ましくは0.2~30μmであり、更に好ましくは0.5~20μmであり、3~15μmでもよい。
【0045】
上記セラミック成形用粉末状組成物は、プレス成形に用いることができる。プレス成形は常法に従い行うことができ、例えば、セラミック成形用粉末状組成物を金型やゴム型などの成形型に充填して圧力を加える。これにより、セラミック成形用粉末状組成物からなる成形物が得られる。
【0046】
プレス成形時の圧力は、特に限定されず、例えば、5~200MPaでもよく、10~100MPaでもよい。なお、プレス成形後に切削加工を行うことにより、所定形状の成形物を得てもよい。
【0047】
得られた成形物は、その後、常法に従い焼成することにより、セラミック焼結体が得られる。すなわち、一実施形態に係るセラミック焼結体の製造方法は、上記セラミック成形用粉末状組成物をプレス成形し、得られた成形物を焼成するものである。また、一実施形態に係るセラミック焼結体は、上記成形物を焼成して得られるものである。焼成により、無機粒子同士が融合して焼結し、またセルロースナノファイバー及び水分は取り除かれる。
【0048】
成形物の焼成する際の温度は、特に限定されず、例えば、600~2000℃でもよく、800~1800℃でもよい。なお、焼成後に研削加工及び/又は研磨加工を行うことにより、最終的な製品形状に仕上げてもよい。
【実施例0049】
以下に実施例について比較例とともに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
針葉樹パルプ2gに、水150mL、臭化ナトリウム0.25g、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)0.025gを加え、充分撹拌して分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が6mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応中は温度を20℃に保持した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加してpHを2以下に調整した後、ろ過と水洗を繰り返して精製した。これに純水を加えて固形分濃度4%に調整した。
【0051】
その後、24質量%水酸化ナトリウム水溶液にてスラリーのpHを10に調整した。スラリーの温度を30℃として水素化ホウ素ナトリウムをセルロース繊維に対して0.2mmol/g加え、2時間反応させることで還元処理した。反応後、0.1N塩酸を添加してpHを2以下に調整した後、ろ過と水洗を繰り返して精製した。
【0052】
精製後のセルロース繊維に純水を加え、終濃度がセルロース繊維0.2質量%となるように調製した。ここに24質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加し、pHを7に調整した。これを高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング製、H11)を用いて圧力100MPaで2回処理することにより、セルロースナノファイバー水分散液を調製した。
【0053】
アルミナ(N-92、平均粒子径0.5μm、西村陶業株式会社製)に対して、アルミナを適宜撹拌しながら上記のセルロースナノファイバー水分散液をアルミナの質量に対して6質量%スプレー噴霧した後、目開き1.4mmの篩をかけて、セラミック成形用粉末状組成物を調製した。得られたセラミック成形用粉末状組成物について水分量及び平均粒子径を測定した。
【0054】
セラミック成形用粉末状組成物を金型に入れて圧力29.4MPaでプレス成形することにより、成形物を作製した。また、得られた成形物を1600℃×16時間にて焼成することにより、セラミック焼結体を作製した。得られたセラミック焼結体について、密度及び圧縮強度を測定した。
【0055】
[実施例2]
セルロースナノファイバー水分散液の濃度を0.4質量%とし、アルミナに噴霧したセルロースナノファイバー水分散液の量をアルミナの質量に対して12質量%とし、それ以外は実施例1と同様にして、セラミック成形用粉末状組成物を調製し、水分量及び平均粒子径の測定、成形物及びセラミック焼結体の作製、密度及び圧縮強度の測定を行った。
【0056】
[実施例3]
セルロースナノファイバー水分散液の濃度を1.0質量%とし、アルミナに噴霧したセルロースナノファイバー水分散液の量をアルミナの質量に対して25質量%とし、それ以外は実施例1と同様にして、セラミック成形用粉末状組成物を調製し、水分量及び平均粒子径の測定、成形物及びセラミック焼結体の作製、密度及び圧縮強度の測定を行った。
【0057】
[実施例4,5]
実施例4ではアルミナに代えて酸化チタン(3YI-R、東レ株式会社製、平均粒子径0.5μm)を用いた。実施例5ではアルミナに代えて窒化ケイ素(SN2400、京セラ株式会社製、平均粒子径1.0μm)を用いた。それ以外は実施例2と同様にして、セラミック成形用粉末状組成物を調製し、水分量及び平均粒子径の測定、成形物及びセラミック焼結体の作製、密度及び圧縮強度の測定を行った。
【0058】
[実施例6]
セルロースナノファイバー水分散液の調製時における高圧ホモジナイザー処理条件を圧力50MPaで1回処理に変更し、それ以外は実施例2と同様にして、セラミック成形用粉末状組成物を調製し、水分量及び平均粒子径の測定、成形物及びセラミック焼結体の作製、密度及び圧縮強度の測定を行った。
【0059】
[実施例7]
セルロースナノファイバー水分散液の調製時における次亜塩素酸ナトリウム添加量を3mmol/gとし、それ以外は実施例2と同様にして、セラミック成形用粉末状組成物を調製し、水分量及び平均粒子径の測定、成形物及びセラミック焼結体の作製、密度及び圧縮強度の測定を行った。
【0060】
[実施例8]
セルロースナノファイバー水分散液としてWFo-1002(機械解繊型セルロースナノファイバー、スギノマシン株式会社製)を用いて、その濃度を0.2質量%とした以外は、実施例2と同様にして、セラミック成形用粉末状組成物を調製し、水分量及び平均粒子径の測定、成形物及びセラミック焼結体の作製、密度及び圧縮強度の測定を行った。
【0061】
[比較例1]
アルミナに噴霧したセルロースナノファイバー水分散液の量をアルミナの質量に対して30質量%とし、それ以外は実施例2と同様にして、セラミック成形用粉末状組成物を調製し、水分量及び平均粒子径の測定、成形物及びセラミック焼結体の作製、密度及び圧縮強度の測定を行った。
【0062】
[比較例2]
セルロースナノファイバー水分散液の代わりに0.2質量%ポリカルボン酸ナトリウム水溶液を用い、それ以外は実施例2と同様にして、セラミック成形用粉末状組成物を調製し、水分量及び平均粒子径の測定、成形物及びセラミック焼結体の作製、密度及び圧縮強度の測定を行った。
【0063】
各測定方法は以下のとおりであり、結果を下記表1に示す。なお、表1において「CNF」はセルロースナノファイバーを意味する。
【0064】
[数平均繊維幅、数平均繊維長及び平均アスペクト比の測定]
セルロースナノファイバーの数平均繊維幅及び数平均繊維長は、原子間力顕微鏡(AFM、株式会社日立ハイテク製)を用いて観察した。詳細には、各セルロースナノファイバー水分散液をマイカ基板上にキャストした後、AFM画像を10枚撮影し、その中から25本のセルロースナノファイバーを選択し、繊維幅と繊維長を計測した。得られた繊維幅と繊維長のデータから、それぞれの相加平均を算出して、数平均繊維幅[nm]及び数平均繊維長[nm]を求めた。また、下記式に従い、平均アスペクト比を算出した。
平均アスペクト比=数平均繊維長[nm]/数平均繊維幅[nm]
【0065】
[カルボキシ基量の測定]
0.1質量%の濃度に調製したセルロースナノファイバー水分散液60mLを、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行った。測定はpHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量V[mL]から、下記式に従いカルボキシ基量を算出した。
カルボキシ基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロースナノファイバー質量(g)〕
【0066】
[水分量の測定]
セラミック成形用粉末状組成物の水分量は、赤外線式加熱水分計(A&D製MX-50、120℃、60分)を用いた測定した。
【0067】
[粉末状組成物の平均粒子径の測定]
セラミック成形用粉末状組成物の平均粒子径は、粒度分布計(MT3000II、マイクロトラック・ベル社)を用いてレーザ回折・散乱法により乾式測定した。粒度分布より算出された質量基準平均径(D50)を平均粒子径とした。
【0068】
[密度の測定]
セラミック焼結体のかさ密度は、JIS R 1634:1998に従い測定した。
【0069】
[圧縮強度の測定]
セラミック焼結体の圧縮強度は、JIS R 1608:2003に従い測定した。
【0070】
【0071】
表1に示されるように、実施例1~8に係るセラミック成形用粉末状組成物であると、プレス成形を低い圧力で実施したにもかかわらず、高密度に充填されたため、当該組成物を用いて作製したセラミック焼結体が高い密度及び高い強度を有していた。
【0072】
これに対し、セラミック成形用粉末状組成物の水分量が多い比較例1では、その水分が影響してセラミック焼結体に空隙が生じるため、セラミック焼結体の密度が低く、圧縮強度も低かった。
【0073】
また、セルロースナノファイバーでなくポリカルボン酸ナトリウムを用いた比較例2では、セラミック成形用粉末状組成物の流動性が低いことから、低圧力でのプレス成形では高密度に充填されず、プレス成形による圧縮時に割れが生じたため、焼成及びその後の評価を実施できなかった。
【0074】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0075】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。