IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人電気通信大学の特許一覧

特開2024-141209通信システム、基地局および通信方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141209
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】通信システム、基地局および通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20241003BHJP
   H04J 99/00 20090101ALI20241003BHJP
   H04B 7/0413 20170101ALI20241003BHJP
   H04W 72/0453 20230101ALI20241003BHJP
   H04W 72/0446 20230101ALI20241003BHJP
   H04W 72/115 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
H04L27/26 110
H04J99/00 100
H04B7/0413
H04W72/0453
H04W72/0446
H04W72/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052725
(22)【出願日】2023-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 総務省「第5世代移動通信システムの更なる高度化に向けた研究開発」委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【弁理士】
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】上田 康平
(72)【発明者】
【氏名】石橋 功至
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067CC02
5K067CC04
5K067EE02
5K067EE10
(57)【要約】
【課題】GF-NOMA通信のデータレートを向上する。
【解決手段】複数の端末は、所定のデータ構造を有する送信信号(4)を、グラントフリー通信で、互いに独立に送信する。基地局は、複数の端末から受信した複数の送信信号のそれぞれに含まれるデータ信号(42)を、データ構造に基づいて推定する。基地局の指定部(221)は、それぞれの端末に固有のデータ構造を指定する。基地局の受信部(222)は、複数の送信信号を1つの受信信号(5)としておのおのが受信する複数のアンテナ(20)を備える。基地局の推定部(223)は、グラントフリー通信に係る複数の確率分布の関係性をモデル化したファクターグラフ(90、92)と、データ構造とに基づいてデータ信号を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のデータ構造を有する送信信号を、通信許可の取得を省略したグラントフリー通信で、互いに独立に送信する複数の端末と、
前記複数の端末から受信した複数の前記送信信号のそれぞれに含まれるデータ信号を、前記データ構造に基づいて推定する基地局と
を備え、
前記基地局は、
前記複数の端末のそれぞれに固有の前記データ構造と、前記複数の端末が前記送信信号を所定の精度で同期して送信するためのタイミングとを指定する指定部と、
前記複数の送信信号を1つの受信信号としておのおのが受信する複数のアンテナを備える受信部と、
前記グラントフリー通信に係る複数の確率分布の関係性をモデル化したファクターグラフと、前記データ構造とに基づいて前記データ信号を推定する推定部と、
推定した前記データ信号を表す情報を外部に出力する出力部と
を備え、
前記複数の確率分布は、
所定の前記タイミングで前記複数の端末のうち前記送信信号を送信したアクティブ端末の集合を表すアクティビティの確率分布と、
前記複数のアクティブ端末から前記基地局の前記複数のアンテナへ届いた前記複数の送信信号がおのおの通過した通信路の確率分布と、
前記受信信号の確率分布と、
前記データ信号の確率分布と
を含む
通信システム。
【請求項2】
請求項1に記載の通信システムにおいて、
前記送信信号は、
互いに異なる複数の時間スロットでそれぞれ送信される複数のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)シンボル
を含み、
前記複数のOFDMシンボルのそれぞれは、
互いに異なる複数の周波数帯域にそれぞれ割り当てられた複数のサブキャリア成分
を含み、
前記データ構造を有する前記送信信号は、
パイロット信号を含む第1OFDMシンボルと、
前記データ信号を含み、前記第1OFDMシンボルより後の時間スロットで送信される第2OFDMシンボルと、
前記パイロット信号を含み、前記第2OFDMシンボルより後の時間スロットで送信される第3OFDMシンボルと
を含み、
前記基地局の前記指定部は、前記第2OFDMシンボルに含まれる前記複数のサブキャリア成分のうち、前記データ信号を含む使用サブキャリア成分と、前記データ信号を含まない不使用サブキャリア成分との配置を、それぞれの前記端末に固有のパターンとして指定する
通信システム。
【請求項3】
請求項2に記載の通信システムにおいて、
前記データ構造を有する前記送信信号は、
前記第1OFDMシンボルより後、かつ、前記第3OFDMシンボルより前の時間スロットで送信される複数の前記第2OFDMシンボル
を含み、
同一の前記端末が送信する前記送信信号に含まれる前記複数の第2OFDMシンボルのそれぞれは、前記使用サブキャリア成分および前記不使用サブキャリア成分の配置において同一の前記パターンを有する
通信システム。
【請求項4】
請求項3に記載の通信システムにおいて、
前記指定部は、前記データ構造を指定するとき、
前記複数のアクティブ端末のうち、2つ以上のアクティブ端末が、同一の前記時間スロットにおいて、同一のサブキャリアで前記データ信号を送信することと、
同一の前記OFDMシンボルにおける複数のサブキャリア成分で互いに異なる前記データ信号を送信することと
を許容する
通信システム。
【請求項5】
請求項4に記載の通信システムにおいて、
前記第1OFDMシンボルおよび前記第3OFDMシンボルのそれぞれは、前記複数のサブキャリア成分の全てに前記パイロット信号が配置されている
通信システム。
【請求項6】
請求項5に記載の通信システムにおいて、
前記送信信号が含む前記複数のOFDMシンボルのうち、
前記第1OFDMシンボルは前記複数の時間スロットのうちの最初の時間スロットで送信され、
前記第3OFDMシンボルは前記複数の時間スロットのうちの最後の時間スロットで送信される
通信システム。
【請求項7】
請求項2~6のいずれか一項に記載の通信システムにおいて、
前記推定部は、
第1繰り返し処理として、前記アクティビティの推定処理と、前記通信路の推定処理と、搬送波周波数オフセットの推定処理とを、所定の第1条件が満たされるまで繰り返し、
前記第1繰り返し処理に含まれる第2繰り返し処理として、前記通信路の確率分布と、前記アクティビティの確率分布との関係性をモデル化した第1ファクターグラフに基づいてノード間のメッセージを更新する処理を、所定の第2条件が満たされるまで繰り返し、
前記第2繰り返し処理に含まれる第3繰り返し処理として、前記データ信号の確率分布と、受信信号の確率分布との関係性をモデル化した第2ファクターグラフに基づいてノード間のメッセージを更新する処理を、所定の第3条件が満たされるまで繰り返し、
前記第1繰り返し処理、前記第2繰り返し処理および前記第3繰り返し処理で得られた結果に基づいて、前記データ信号を推定する
通信システム。
【請求項8】
請求項7に記載の通信システムにおいて、
前記推定部は、さらに、
前記複数のアクティブ端末の番号を前記複数の端末の番号に変換する変換行列を確率分布の分散のビリーフを算出し、
前記第1条件は、
前記アクティビティの推定値と前記ビリーフとの間に誤りが無いこと、または、前記第1繰り返し処理を繰り返した回数が所定の第1閾値に達すること
を含む
通信システム。
【請求項9】
請求項7に記載の通信システムにおいて、
前記第1ファクターグラフは、
前記複数のアクティブ端末と、前記複数のサブキャリア成分と、前記複数のアンテナとの組み合わせごとの、前記通信路の確率分布を表す第1変数ノードと、
前記複数のアクティブ端末と、前記複数のサブキャリア成分と、前記複数のアンテナとの組み合わせごとの、前記通信路および前記アクティビティの積の確率分布を表す第2変数ノードと、
前記複数のサブキャリア成分と、前記複数のアンテナとの組み合わせごとの、前記アクティビティの尤度比の正規化表現を表す確率分布を表す第3変数ノードと、
前記第1変数ノード、前記第2変数ノードおよび前記第3変数ノードのそれぞれの前記確率分布の関係を拘束する関数を表す第1ファクターノードと、
前記第2変数ノードの前記確率分布を拘束する関数を表す第2ファクターノードと、
前記第3変数ノードの前記確率分布を拘束する関数を表す第3ファクターノードと
を含む
通信システム。
【請求項10】
請求項9に記載の通信システムにおいて、
前記第2繰り返し処理は、
前記第1ファクターノード、前記第2ファクターノードおよび前記第3ファクターノードのそれぞれの前記関数に基づいて、前記第1変数ノード、前記第2変数ノードおよび前記第3変数ノードのそれぞれの前記確率分布を更新する処理
を含み、
前記第2条件は、
前記第2繰り返し処理を繰り返した回数が所定の第2閾値に達すること
を含む
通信システム。
【請求項11】
請求項7に記載の通信システムにおいて、
前記第2ファクターグラフは、
前記複数のアクティブ端末と、前記複数のサブキャリア成分と、前記複数のアンテナとの組み合わせごとの、前記データ信号の確率分布を表す第4変数ノードと、
前記複数のアクティブ端末と、前記複数のサブキャリア成分と、前記複数のアンテナとの組み合わせごとの、前記アクティビティおよび前記通信路の組み合わせの確率分布を表す第5変数ノードと、
前記複数のアクティブ端末と、前記複数のサブキャリア成分と、前記複数のアンテナとの組み合わせごとの、前記データ信号と、前記アクティビティおよび前記通信路の組み合わせとの積の確率分布を表す第6変数ノードと、
前記複数のサブキャリア成分と、前記複数のアンテナとの組み合わせごとの、前記第6変数ノードの前記確率分布を前記複数のアクティブ端末ごとに加算した総和の確率分布を表す第7変数ノードと、
前記第4変数ノードの前記確率分布を拘束する関数を表す第4ファクターノードと、
前記第4変数ノード、前記第5変数ノードおよび前記第6変数ノードのそれぞれの前記確率分布の関係を拘束する関数を表す第5ファクターノードと、
前記前記第6変数ノードおよび前記第7変数ノードのそれぞれの前記確率分布の関係を拘束する関数を表す第6ファクターノードと、
前記第7変数ノードの前記確率分布を拘束する関数を表す第7ファクターノードと
を含む
通信システム。
【請求項12】
請求項11に記載の通信システムにおいて、
前記第3繰り返し処理は、
前記第4ファクターノード、前記第5ファクターノード、前記第6ファクターノードおよび前記第7ファクターノードのそれぞれの前記関数に基づいて、前記第4変数ノード、前記第5変数ノード、前記第6変数ノードおよび前記第7変数ノードのそれぞれの前記確率分布を更新する処理
を含み、
前記第3条件は、
前記第3繰り返し処理を繰り返した回数が所定の第3閾値に達すること
を含む
通信システム。
【請求項13】
所定のデータ構造を有する送信信号を、通信許可の取得を省略したグラントフリー通信で、互いに独立に送信する複数の端末のそれぞれに、固有の前記データ構造と、前記複数の端末が前記送信信号を所定の精度で同期して送信するためのタイミングとを指定する指定部と、
前記複数の送信信号を1つの受信信号としておのおのが受信する複数のアンテナを備える受信部と、
前記複数の端末から受信した複数の前記送信信号のそれぞれに含まれるデータ信号を、前記グラントフリー通信に係る複数の確率分布の関係性をモデル化したファクターグラフと、前記データ構造とに基づいて推定する推定部と、
推定した前記データ信号を表す情報を外部に出力する出力部と
を備え、
前記複数の確率分布は、
所定の前記タイミングで前記複数の端末のうち前記送信信号を送信したアクティブ端末の集合を表すアクティビティの確率分布と、
前記複数のアクティブ端末から前記複数のアンテナへ届いた前記複数の送信信号がおのおの通過した通信路の確率分布と、
前記受信信号の確率分布と、
前記データ信号の確率分布と
を含む
基地局。
【請求項14】
所定のデータ構造を有する送信信号を、通信許可の取得を省略したグラントフリー通信で、互いに独立に送信する複数の端末のそれぞれに、固有の前記データ構造と、前記複数の端末が前記送信信号を所定の精度で同期して送信するためのタイミングとを指定することと、
前記複数の送信信号を1つの受信信号として、複数のアンテナのおのおので受信することと、
前記複数の端末から受信した複数の前記送信信号のそれぞれに含まれるデータ信号を、前記グラントフリー通信に係る複数の確率分布の関係性をモデル化したファクターグラフと、前記データ構造とに基づいて推定することと、
推定した前記データ信号を表す情報を外部に出力することと
を含み、
前記複数の確率分布は、
所定の前記タイミングで前記複数の端末のうち前記送信信号を送信したアクティブ端末の集合を表すアクティビティの確率分布と、
前記複数のアクティブ端末から前記複数のアンテナへ届いた前記複数の送信信号がおのおの通過した通信路の確率分布と、
前記受信信号の確率分布と、
前記データ信号の確率分布と
を含む
通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信システム、基地局および通信方法に関し、例えば、グラントフリーな通信システムに好適に利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
第5世代移動通信システム(5G)では、eMBB(enhanced Mobile Broadband)技術による高速大容量通信、URLLC(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)技術による高信頼通信および低遅延通信、mMTC(massive machine-type communication)技術による多数端末との同時接続などが実現されている。第5世代移動通信システムの高度化(5G+)や第6世代移動通信システム(6G)では、さらなる要求を複数同時に満たすことが求められている。
【0003】
一例として、多数同時接続と低遅延の要求を同時に満たすシステムが検討されている。このような通信システムとして、GF-NOMA(Grant-Free Non-Orthogonal Multiple Access:グラントフリー非直交多元接続)がある。GF-NOMAはグラントフリー通信の特徴を有しており、ユーザ端末が基地局から通信許可(グラント)を取得する工程を省略することによって、低遅延性を確保することができる。また、GF-NOMAは非直交多元接続通信の特徴を有しており、時間領域および周波数領域を組み合わせた複数のリソースのうち、同一のリソースを複数のユーザ端末が共有することで、1つの基地局で多数のユーザ端末を収容できる。
【0004】
GF-NOMA通信では、基地局が、アクティブユーザ検出と、通信路推定と、データ信号検出とを行う。アクティブユーザ検出とは、基地局と通信可能な複数のユーザ端末のうち、注目している時刻に信号を送信したアクティブ端末の集合を検出するための処理である。通信路推定とは、アクティブ端末が基地局へ送信した信号が通った通信路を推定するための処理である。データ信号検出とは、複数のアクティブ端末から同時に送信された複数の信号に含まれるデータ信号を個別に検出するための処理である。
【0005】
上記に関連して、非特許文献1(T. Hara, and K. Ishibashi、“Grant-Free Non-Orthogonal Multiple Access With Multiple-Antenna Base Station and Its Efficient Receiver Design”、IEEE Access、vol. 7、pp. 175717~175726、2019年)には、アクティブユーザ検出と通信路推定とを行った後、データ信号検出を行う手法が開示されている。この手法は、MMV-AMP(Multiple Measurement Vector Approximate Message Passing)技術を用いる。
【0006】
ただし、非特許文献1は、データを拡散する先の信号を送信するために比較的長い時間を必要とするため、データレートが低下する、という観点から現実的とは言い難い。
【0007】
非特許文献2(H. Iimori, T. Takahashi, K. Ishibashi, G. T. F. de Abreu, and W. Yu、“Grant-Free Access via Bilinear Inference for Cell-Free MIMO With Low-Coherence Pilots”、IEEE Trans. Wireless Commun.、vol. 20、no. 11、pp. 7694-7710、2021年11月)には、アクティブユーザ検出と、通信路推定と、データ信号検出とを同時に行う手法が開示されている。この手法は、双線形推論を用い、データの拡散を行わないため、比較的高いデータレートを維持することができる。
【0008】
ただし、非特許文献2は、同時推定を行うために、ユーザ端末と同じ数のアンテナを基地局に設ける必要がある、という観点から現実的とは言い難い。
【0009】
非特許文献3(Y. Zhang, Z. Yuan, Q. Guo, Z. Wang, J. Xi, and Y. Li、“Bayesian receiver design for grant-free NOMA with message passing based structured signal estimation”、IEEE Trans. Veh. Technol.、vol. 69、no. 8、pp. 8643~8656、2020年8月)では、OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)を改良したLDS-OFDM(Low Density Signature OFDM)に基づく手法が開示されている。この手法は、各ユーザ端末が送信する信号で使用する複数のサブキャリアの組み合わせパターンを利用して、アクティブユーザ検出と、通信路推定と、データ信号検出とを同時に行う。
【0010】
ただし、非特許文献3の手法は、1つのOFDMシンボルに含まれる複数のサブキャリアのそれぞれで同一のデータシンボルだけが伝送可能であるため、データレートが低下する、という観点から現実的とは言い難い。
【0011】
非特許文献4(L. Yang, P. Fan, D. McLernon and L. Zhang、“Data-Aided Active User Detection With False Alarm Correction in Grant-Free Transmission”、in IEEE Wireless Communications Letters、vol. 12、no. 1、pp. 143~147、2023年1月)では、LDS-OFDMに基づいてデータ信号を用いて性能を向上したGF-NOMAの手法が開示されている。この手法では、データ信号の構造を利用して、データ信号検出の工程でアクティブユーザ検出の誤りを修正することができる。
【0012】
ただし、非特許文献4の手法は、1つのOFDMシンボルに含まれる複数のサブキャリアのそれぞれで同一のデータシンボルだけが伝送可能であるため、データレートが低下するのみならず、基地局において通信路が既知であることが前提となっており、かつ、実装上の課題である搬送波周波数オフセットへの対処が困難である、という観点から現実的とは言い難い。
【0013】
非特許文献5(上田康平,原郁紀,石橋功至、“OFDMを用いたグラントフリー非直交多元接続のための期待値最大化による搬送波周波数オフセット補償”、第45回情報理論とその応用シンポジウム、vol. 69、pp. 82~87、2022年11月)では、搬送波周波数オフセットを推定する精度を向上するために、送信フレームに含まれる最初および最後のOFDMシンボルにパイロット信号を配置する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】T. Hara, and K. Ishibashi、“Grant-Free Non-Orthogonal Multiple Access With Multiple-Antenna Base Station and Its Efficient Receiver Design”、IEEE Access、vol. 7、pp. 175717~175726、2019年
【非特許文献2】H. Iimori, T. Takahashi, K. Ishibashi, G. T. F. de Abreu, and W. Yu、“Grant-Free Access via Bilinear Inference for Cell-Free MIMO With Low-Coherence Pilots”、IEEE Trans. Wireless Commun.、vol. 20、no. 11、pp. 7694~7710、2021年11月
【非特許文献3】Y. Zhang, Z. Yuan, Q. Guo, Z. Wang, J. Xi, and Y. Li、“Bayesian receiver design for grant-free NOMA with message passing based structured signal estimation”、IEEE Trans. Veh. Technol.、vol. 69、no. 8、pp. 8643~8656、2020年8月
【非特許文献4】L. Yang, P. Fan, D. McLernon and L. Zhang、“Data-Aided Active User Detection With False Alarm Correction in Grant-Free Transmission”、in IEEE Wireless Communications Letters、vol. 12、no. 1、pp. 143~147、2023年1月
【非特許文献5】上田康平,原郁紀,石橋功至、“OFDMを用いたグラントフリー非直交多元接続のための期待値最大化による搬送波周波数オフセット補償”、第45回情報理論とその応用シンポジウム、vol. 69、pp. 82~87、2022年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記状況に鑑み、本開示は、GF-NOMA通信のデータレートを向上する通信システム、基地局および通信方法を提供することを目的の1つとする。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
以下に、発明を実施するための形態で使用される番号・符号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号・符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための形態との対応関係の一例を示すために、参考として、括弧付きで付加されたものである。よって、括弧付きの記載により、特許請求の範囲は、限定的に解釈されるべきではない。
【0017】
一実施の形態によれば、通信システム(1)は、複数の端末(3)と、基地局(2)とを備える。複数の端末(3)は、所定のデータ構造を有する送信信号(4)を、通信許可の取得を省略したグラントフリー通信で、互いに独立に送信する。基地局(2)は、複数の端末(3)から受信した複数の送信信号(4)のそれぞれに含まれるデータ信号(42)を、データ構造に基づいて推定する。基地局(2)は、指定部(221)と、受信部(222)と、推定部(223)と、出力部(224)とを備える。指定部(221)は、それぞれの端末(3)に固有のデータ構造と、複数の端末(3)が送信信号(4)を所定の精度で同期して送信するためのタイミングとを指定する。受信部(222)は、複数の送信信号(4)を1つの受信信号(5)としておのおのが受信する複数のアンテナ(20)を備える。推定部(223)は、グラントフリー通信に係る複数の確率分布の関係性をモデル化したファクターグラフ(90、92)と、データ構造とに基づいてデータ信号(42)を推定する。出力部(224)は、推定したデータ信号(42)を表す情報を外部に出力する。複数の確率分布は、所定のタイミングで複数の端末(3)のうち送信信号(4)を送信したアクティブ端末(301)の集合を表すアクティビティの確率分布と、複数のアクティブ端末(301)から基地局(2)の複数のアンテナ(20)へ届いた複数の送信信号(4)がおのおの通過した通信路の確率分布と、受信信号(5)の確率分布と、データ信号(42)の確率分布とを含む。
【0018】
一実施の形態によれば、基地局(2)は、指定部(221)と、受信部(222)と、推定部(223)と、出力部(224)とを備える。指定部(221)は、所定のデータ構造を有する送信信号(4)を、通信許可の取得を省略したグラントフリー通信で、互いに独立に送信する複数の端末(3)のそれぞれに、固有のデータ構造と、複数の端末(3)が送信信号(4)を所定の精度で同期して送信するためのタイミングとを指定する。受信部(222)は、複数の送信信号(4)を1つの受信信号(5)としておのおのが受信する複数のアンテナ(20)を備える。推定部(223)は、複数の端末(3)から受信した複数の送信信号(4)のそれぞれに含まれるデータ信号(42)を、グラントフリー通信に係る複数の確率分布の関係性をモデル化したファクターグラフ(90、92)と、データ構造とに基づいて推定する。出力部(224)は、推定したデータ信号(42)を表す情報を外部に出力する。複数の確率分布は、所定のタイミングで複数の端末(3)のうち送信信号(4)を送信したアクティブ端末(301)の集合を表すアクティビティの確率分布と、複数のアクティブ端末(301)から基地局(2)の複数のアンテナ(20)へ届いた複数の送信信号(4)がおのおの通過した通信路の確率分布と、受信信号(5)の確率分布と、データ信号(42)の確率分布とを含む。
【0019】
一実施の形態によれば、通信方法は、所定のデータ構造を有する送信信号(4)を、通信許可の取得を省略したグラントフリー通信で、互いに独立に送信する複数の端末(3)のそれぞれに、固有のデータ構造と、複数の端末(3)が送信信号(4)を所定の精度で同期して送信するためのタイミングとを指定すること(S22)を含む。通信方法は、さらに、複数の送信信号(4)を1つの受信信号(5)として、複数のアンテナ(20)のおのおので受信すること(S231)を含む。通信方法は、さらに、複数の端末(3)から受信した複数の送信信号(5)のそれぞれに含まれるデータ信号(42)を、グラントフリー通信に係る複数の確率分布の関係性をモデル化したファクターグラフ(90、92)と、データ構造とに基づいて推定すること(S233~S238)を含む。通信方法は、さらに、推定したデータ信号(42)を表す情報を外部に出力すること(S239)を含む。複数の確率分布は、所定のタイミングで複数の端末(3)のうち送信信号(4)を送信したアクティブ端末(301)の集合を表すアクティビティの確率分布と、複数のアクティブ端末(301)から基地局(2)の複数のアンテナ(20)へ届いた複数の送信信号(4)がおのおの通過した通信路の確率分布と、受信信号(5)の確率分布と、データ信号(42)の確率分布とを含む。
【発明の効果】
【0020】
一実施の形態によれば、GF-NOMA通信のデータレートを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態による通信システムの一構成例を示す図である。
図2図2は、一実施形態による基地局の一構成例を示すブロック回路図である。
図3図3は、一実施形態によるユーザ端末の一構成例を示すブロック回路図である。
図4図4は、一実施形態による通信方法のうち、基地局およびユーザ端末が行う処理の一例を示すシーケンス図である。
図5A図5Aは、一実施形態による通信方法のうち、基地局が行う処理の一例を示すフローチャートの一部である。
図5B図5Bは、一実施形態による通信方法のうち、基地局が行う処理の一例を示すフローチャートの一部である。
図6A図6Aは、ユーザ端末が送信する送信信号が有するデータ構造の一例を示す図である。
図6B図6Bは、基地局が受信する受信信号の構造の一例を示す図である。
図7図7は、受信信号に含まれるパイロット部の、周波数領域における行列表現を表す図である。
図8図8は、それぞれのユーザ端末に固有のデータ構造について説明するための図である。
図9図9は、受信信号に含まれるデータ部の、周波数領域における行列表現を表す図である。
図10A図10Aは、受信信号が与えられた場合の事後分布を表すファクターグラフの一部である。
図10B図10Bは、受信信号が与えられた場合の事後分布を表すファクターグラフの一部である。
図11図11は、図10Aのファクターノードについて説明するための図である。
図12図12は、図10Bのファクターノードについて説明するための図である。
図13図13は、コンピュータシミュレーションで用いた諸元を表す表である。
図14図14は、アクティビティの尤度に係るコンピュータシミュレーションの結果の一例を示すグラフである。
図15図15は、搬送波周波数オフセットの推定と、信号対雑音比と、ビットエラーレートとの関係に係るコンピュータシミュレーションの結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付図面を参照して、本開示による通信システム、基地局および通信方法を実施するための形態を以下に説明する。
【0023】
(実施の形態)
図1に示すように、一実施形態による通信システム1は、基地局2と、複数のユーザ端末3とを含む。基地局2は複数のアンテナ20を備え、ユーザ端末3のそれぞれは1つのアンテナを備える。基地局2との通信が可能な領域を通信領域10と呼ぶ。通信領域10の内側に存在するユーザ端末3のうち、注目している時刻に信号を送信しているユーザ端末3をアクティブ端末301と呼び、その他のユーザ端末3を非アクティブ端末302と呼ぶ。
【0024】
図2に示すように、一実施形態による基地局2は、例えば、いわゆるコンピュータとして構成されてもよい。図2の例において、基地局2は、バス21と、演算装置22と、記憶装置23と、第1通信装置24と、第2通信装置25と、入出力装置26とを備える。バス21は、演算装置22、記憶装置23、第1通信装置24、第2通信装置25および入出力装置26を、相互に通信可能に接続するように構成されてもよい。
【0025】
演算装置22は、指定部221と、受信部222と、推定部223と、出力部224とを備える。記憶装置23は、プログラム記憶部231と、データベース232とを備える。演算装置22は、プログラム記憶部231に格納されているプログラムを実行することによって、指定部221、受信部222、推定部223および出力部224の処理を実現する。指定部221、受信部222、推定部223および出力部224は、それぞれ、演算装置22および記憶装置23が協働して処理を実現する仮想的な機能ブロックである。指定部221、受信部222、推定部223および出力部224が実現する処理の詳細については、後述する。
【0026】
演算装置22が実行するプログラムは、記録媒体230から読み出されてプログラム記憶部231に格納されてもよい。記録媒体230は、非一時的で有形の媒体(non-transitory and tangible media)であってもよい。
【0027】
第1通信装置24は、複数のアンテナ20を備える。複数のアンテナ20のおのおのは、複数のユーザ端末3から送信される複数の送信信号を、1つの受信信号として受信する。第1通信装置24は、複数のアンテナ20がそれぞれ受信した複数の受信信号を処理する。また、第1通信装置24は、アンテナ20を介してユーザ端末3へ向けて信号を送信してもよい。
【0028】
第2通信装置25は、図示しないネットワークを介して、別の通信装置との間で有線通信および/または無線通信を行ってもよい。演算装置22が実行するプログラムは、第2通信装置25を介して外部から受信されてプログラム記憶部231に格納されてもよい。
【0029】
入出力装置26は、使用者に情報を出力し、使用者が入力する操作を受け付ける。一例として、入出力装置26は、画像を出力する表示装置、音声を出力するスピーカー、音声入力を受け付けるマイクロフォン、押下操作を受け付けるボタン、キー入力操作を受け付けるキーボードなどを含む。
【0030】
図3に示すように、一実施形態によるユーザ端末3は、例えばスマートフォン端末やタブレット端末であり、いわゆるコンピュータとして構成されてもよい。図3の例において、ユーザ端末3は、バス31と、演算装置32と、記憶装置33と、第1通信装置34と、第2通信装置35と、入出力装置36とを備えている。バス31は、演算装置32、記憶装置33、第1通信装置34、第2通信装置35および入出力装置36を、相互に通信可能に接続するように構成されてもよい。
【0031】
演算装置32は、設定部321、生成部322および送信部323を備える。記憶装置33は、プログラム記憶部331と、指定情報記憶部332とを備える。演算装置32は、プログラム記憶部331に格納されているプログラムを実行することによって、設定部321、生成部322および送信部323の処理を実現する。設定部321、生成部322および送信部323は、それぞれ、演算装置32および記憶装置33が協働して処理を実現する仮想的な機能ブロックである。設定部321、生成部322および送信部323が実現する処理の詳細については、後述する。
【0032】
演算装置32が実行するプログラムは、記録媒体330から読み出されてプログラム記憶部331に格納されてもよい。記録媒体330は、非一時的で有形の媒体であってもよい。
【0033】
第1通信装置34は、アンテナ30を備える。第1通信装置34は、アンテナ30を介して送信信号を送信する。また、第1通信装置34は、アンテナ30を介して基地局2が送信する信号を受信してもよい。
【0034】
第2通信装置35は、図示しないネットワークを介して、別の通信装置との間で有線通信および/または無線通信を行ってもよい。演算装置32が実行するプログラムは、第2通信装置35を介して外部から受信されてプログラム記憶部331に格納されてもよい。
【0035】
入出力装置36は、使用者に情報を出力し、使用者が入力する操作を受け付ける。一例として、入出力装置36は、画像を出力する表示装置、音声を出力するスピーカー、音声入力を受け付けるマイクロフォン、押下操作を受け付けるボタン、キー入力操作を受け付けるキーボード、タッチ操作を受け付けるとともに画像の出力を行うタッチパネルなどを含む。
【0036】
図4のシーケンス図を参照して、一実施形態による通信システム1のうち、基地局2およびユーザ端末3が行う処理の一例について説明する。図4のシーケンス図のうち、基地局2が実行する処理は、基地局2が起動したときに開始してもよい。同様に、図4のシーケンス図のうち、ユーザ端末3が実行する処理は、ユーザ端末3が起動したときに開始してもよい。図4のシーケンス図では、1つのユーザ端末3の処理を示しているが、実際には、複数のユーザ端末3が互いに独立に同様の処理を実行してもよい。
【0037】
図4のステップS21において、基地局2が周囲のユーザ端末3に向けて基地局情報信号を送信する。より詳細には、図2に示した基地局2の指定部221が第1通信装置24を制御して複数のアンテナ20を介した無線通信で基地局情報信号を送信する。基地局情報信号は、図1に示した通信領域10の内側に存在するユーザ端末3に対して、基地局2と通信を行うための準備として、基地局2への登録要求を促すための信号である。一例として、基地局2は、基地局情報信号を送信する処理を、所定の周期ごとに定期的に実行してもよい。
【0038】
基地局情報信号を受信したユーザ端末3は、図4のステップS31において、基地局2に向けて登録要求信号を送信する。より詳細には、図3に示したユーザ端末3の設定部321が登録要求信号を生成し、生成した登録要求信号を、第1通信装置34を制御して、基地局2に向けて送信する。登録要求信号は、ユーザ端末3が基地局2と通信を行うための準備として、基地局2への登録要求を行うための信号である。一例として、登録要求信号には、ユーザ端末3に固有の識別情報が含まれてもよい。
【0039】
登録要求信号を受信した基地局2は、図4のステップS22において、登録要求信号を送信したユーザ端末3に向けて指定信号を送信する。より詳細には、図2に示した基地局2の指定部221が、登録要求信号を送信したユーザ端末3に固有のデータ構造を生成し、生成したデータ構造を表す情報を含む指定信号を生成し、生成した指定信号を当該ユーザ端末3に向けて送信する。データ構造は、ユーザ端末3が基地局2とGF-NOMA(Grant-Free Non-Orthogonal Multiple Access:グラントフリー非直交多元接続)通信を行うために用いられる。GF-NOMAはグラントフリー通信の特徴を有しており、ユーザ端末3が基地局2から通信許可(グラント)を取得する工程を省略することによって、低遅延性を確保することができる。また、GF-NOMAは非直交多元接続通信の特徴を有しており、時間領域および周波数領域を組み合わせた複数のリソースのうち、同一のリソースを複数のユーザ端末3が共有することで、1つの基地局で多数のユーザ端末3を収容できる。
【0040】
基地局2は、ユーザ端末3ごとに固有のデータ構造を指定する。一例として、使用可能な複数のデータ構造の集合が事前にデータベース232に格納されていて、指定部221は格納されている複数のデータ構造のいずれかをユーザ端末3に固有のデータ構造として選択してもよい。指定部221は、ユーザ端末3の識別情報を、選択したデータ構造に対応付けて、データベース232に格納してもよい。データ構造の具体例については後述する。
【0041】
指定信号は、さらに、ユーザ端末3がGF-NOMA通信によって送信信号を送信するタイミングを指定してもよい。
【0042】
指定信号を受信したユーザ端末3は、図4のステップS32において、指定信号に含まれる情報が表すデータ構造を設定する。より詳細には、図3に示したユーザ端末3の設定部321が、基地局2から指定信号を用いて指定されたデータ構造を、指定情報記憶部332に格納して、送信信号を生成するために使用するデータ構造として設定する。
【0043】
データ構造を設定したことによって基地局2とGF-NOMA通信を行う準備が完了したユーザ端末3は、その後、図4のステップS33において、他のユーザ端末3とは互いに独立な任意のタイミングで送信信号を生成して基地局2に向けて送信する。より詳細には、図3に示したユーザ端末3の生成部322が、指定されたデータ構造を有する送信信号を生成する。生成した送信信号は、送信時刻まで記憶装置33に格納されていてもよい。そして、図3の送信部323が、基地局2から指定されたタイミングに同期して、送信信号を送信する。
【0044】
ユーザ端末3が送信した送信信号を受信した基地局2は、図4のステップS23において、送信信号に含まれるデータ信号を推定する。より詳細には、図2に示した基地局2の受信部222が、複数のアンテナ20のそれぞれおよび第1通信装置24を介して、ユーザ端末3が送信した送信信号を、受信信号として受信する。この観点において、機能ブロックとしての受信部222は、第1通信装置24と、複数のアンテナ20とを含んでもよい。ここで、受信信号には、複数のユーザ端末3がそれぞれ送信した複数の送信信号が時間軸上および周波数軸上に重なり合った状態で含まれていてもよい。また、複数のアンテナ20は互いに十分な距離だけ離れており、第1通信装置24はそれぞれのアンテナ20で受信信号を受信する。そして、図2に示した基地局2の推定部223は、複数のアンテナ20がそれぞれ受信した複数の受信信号から、それぞれのユーザ端末3が送信した送信信号に含まれるデータ信号を推定する。
【0045】
図5Aおよび図5Bのフローチャートを参照して、図4のステップS23において基地局2がデータ信号を推定する手法について説明する。図5Aおよび図5Bのフローチャートに示した処理は、基地局2が受信信号を受信したときに開始してもよい。図5Aおよび図5Bのフローチャートの処理が開始すると、図5AのステップS231が実行される。
【0046】
図5AのステップS231において、図2の受信部222が、図1のアクティブ端末301から送信信号を受信する。前述のとおり、アクティブ端末301とは、注目している時刻に送信信号を送信したユーザ端末3である。受信部222は、受信信号として受信した送信信号を、記憶装置23に格納してもよい。
【0047】
図5AのステップS231の後、ステップS232が実行される。図5AのステップS232において、図2の推定部223が、送信信号に含まれるデータ信号を推定する推定処理の初期化を行う。推定部223が推定処理の初期化を行うことによって、推定処理で用いられるパラメータの値が初期値に設定される。
【0048】
図5AのステップS232の後、ステップS233が実行される。図5AのステップS233において、図2の推定部223が、アクティビティ、通信路および搬送波周波数オフセットを推定する。アクティビティは、ユーザ端末3のうち、注目している時刻に送信信号を送信したアクティブ端末301の集合を表す。通信路は、複数のアクティブ端末301から基地局2の複数のアンテナ20へ届いた複数の送信信号が各々通過したチャネルである。搬送波周波数オフセットは、それぞれのアクティブ端末301と基地局2との間における搬送波周波数のずれを表す。搬送波周波数のずれは、主に、ユーザ端末3が備えるクロック回路の精度が比較的低いことが原因で起こる。その結果として、基地局2が受信する受信信号において位相回転が発生し、通信品質が劣化する。ステップS233の処理の詳細については、後述する。
【0049】
図5AのステップS233の後、ステップS234が実行される。図5AのステップS234において、図2の推定部223が、通信路およびアクティビティのファクターグラフのメッセージを更新する。ファクターグラフとは、任意の数式を、この数式に登場する変数の確率分布を表す変数ノードと、これらの変数の間で行う演算を表すファクターノードとの接続関係を表すグラフである。ファクターグラフに基づいてノード間のメッセージを更新する処理は、あるファクターノードに接続された変数ノードが表す確率分布を、そのファクターノードに接続された他の変数ノードが表す確率分布と、そのファクターノードが表す演算とに基づいて、より確からしい確率分布に更新する処理を含む。ステップS234の処理の詳細については、後述する。
【0050】
図5AのステップS234の後、ステップS235が実行される。図5AのステップS235において、図2の推定部223が、受信信号およびデータ信号のファクターグラフのメッセージを更新する。ステップS235の処理の詳細については、後述する。
【0051】
図5AのステップS235の後、図5BのステップS236が実行される。ステップS236において、図2の推定部223が、図5AのステップS235の処理の結果が所定の条件を満たしたか否かを判定する。条件を満たしていない場合(No)、処理は図5AのステップS235へ戻る。言い換えれば、条件を満たすまで、図5AのステップS235から図5BのステップS236までの処理が繰り返される。一例として、この条件は、図5AのステップS235から図5BのステップS236までの処理を繰り返した回数が所定の閾値に到達したときに満たされる。条件を満たしている場合(Yes)、処理は図5BのステップS237へ進む。
【0052】
図5BのステップS237において、図2の推定部223が、図5AのステップS234の処理の結果が所定の条件を満たしたか否かを判定する。条件を満たしていない場合(No)、処理は図5AのステップS234へ戻る。言い換えれば、条件を満たすまで、図5AのステップS234から図5BのステップS237までの処理が繰り返される。一例として、この条件は、図5AのステップS234から図5BのステップS237までの処理を繰り返した回数が所定の閾値に到達したときに満たされる。条件を満たしている場合(Yes)、処理は図5BのステップS238へ進む。
【0053】
図5BのステップS238において、図2の推定部223が、図5AのステップS233の処理の結果が所定の条件を満たしたか否かを判定する。条件を満たしていない場合(No)、処理は図5AのステップS233へ戻る。言い換えれば、条件を満たすまで、図5AのステップS233から図5BのステップS238までの処理が繰り返される。一例として、この条件は、図5AのステップS233でアクティビティを推定した結果が、図5BのステップS238で算出するアクティビティの確率分布vのビリーフと一致するときに満たされ、さらに、図5AのステップS234から図5BのステップS237までの処理を繰り返した回数が所定の閾値に到達したときにも満たされる。条件を満たしている場合(Yes)、処理は図5BのステップS239へ進む。
【0054】
図5BのステップS239において、図2の出力部224が、推定部223が推定したデータ信号を出力する。より詳細には、図5AのステップS233から図5BのステップS238までの三重ループ処理で得られたデータ信号の推定値を、図2の出力部224が外部に出力する。一例として、出力部224は、第2通信装置25を制御して、データ信号の推定値を外部の装置へ出力してもよい。
【0055】
図5BのステップS239の後、図5Aおよび図5Bに示したフローチャートの処理は終了する。
【0056】
ユーザ端末3が送信する送信信号が有するデータ構造の一例について説明する。前述のとおり、複数のユーザ端末3は、互いに独立に、送信信号を送信する。言い換えれば、それぞれのユーザ端末3は、他のユーザ端末3が送信信号をいつ送信するかに関係無く、任意のタイミングで送信信号を送信する。ただし、それぞれのユーザ端末3が送信信号の送信を開始するタイミングは、基地局2が事前に指定したタイミングと同期している。したがって、複数のユーザ端末3が同時に複数の送信信号をそれぞれ送信する場合がある。図6Aの例では、ユーザ番号に対応する奥行き方向の軸に沿って送信信号4A、4B、4Cが、手前から奥へ向かって並べられている。ユーザ番号は、例えば、基地局2が複数のユーザ端末3を管理するために用いる、ユーザ端末3に固有の識別番号であってもよい。以降、複数の送信信号4A、4B、4Cを区別しないとき、これらを送信信号4と呼ぶ場合がある。
【0057】
1つの送信信号4は、複数のOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重)シンボルを含む。複数のOFDMシンボルは、互いに異なる複数の時間スロットでそれぞれ送信される。図6Aの例では、時間に対応する横軸に沿って複数のOFDMシンボルが並べられている。
【0058】
それぞれのOFDMシンボルは、互いに異なる複数の周波数帯域にそれぞれ割り当てられた複数のサブキャリア成分を含む。図6Aの例では、周波数に対応する縦軸に沿って複数のサブキャリアが並べられている。
【0059】
それぞれの送信信号4に含まれる複数のOFDMシンボルのうち、2つのOFDMシンボルはパイロット信号41を含み、その他のOFDMシンボルはデータ信号42を含む。時間に対応する横軸において、パイロット信号41を含む2つのOFDMシンボルの間に、データ信号42を含むOFDMシンボルが配置されている。より好ましくは、それぞれの送信信号4に含まれる複数のOFDMシンボルのうち、時間軸上で最初および最後にそれぞれ送信される2つのOFDMシンボルにパイロット信号41を含む。これは、非特許文献5(上田康平,原郁紀,石橋功至、“OFDMを用いたグラントフリー非直交多元接続のための期待値最大化による搬送波周波数オフセット補償”、第45回情報理論とその応用シンポジウム、vol. 69、pp. 82~87、2022年11月)でも開示されているように、最初のOFDMシンボルに含まれるパイロット信号41と、最後のOFDMシンボルに含まれるパイロット信号41とに基づいて搬送波周波数オフセットを算出することで、搬送波周波数オフセットをより高く精度で推定することが可能となるからである。
【0060】
それぞれの送信信号4に含まれるOFDMシンボルのうち、データ信号42を含むOFDMシンボルに含まれる、データ信号42の周波数に対応する縦軸における配置について説明する。それぞれのOFDMシンボルに含まれる複数のサブキャリア成分のうち、一部のスロットにはデータ信号42が配置され、その他のスロットにはデータ信号42が配置されない。図6Aの例では、データ信号42が配置されたスロットをハッチングで表し、空きスロット43を空白で表している。1つのOFDMシンボルのうち、データ信号42が配置されるサブキャリアのスロットと、データ信号42が配置されないサブキャリアの空きスロット43とが配置されるパターンは、それぞれのユーザ端末3に固有であり、図4のステップS22で基地局2がそれぞれのユーザ端末3に指定するデータ構造に含まれる。このようなパターンは、非特許文献3(Y. Zhang, Z. Yuan, Q. Guo, Z. Wang, J. Xi, and Y. Li、“Bayesian receiver design for grant-free NOMA with message passing based structured signal estimation”、IEEE Trans. Veh. Technol.、vol. 69、no. 8、pp. 8643~8656、2020年8月)および非特許文献4(L. Yang, P. Fan, D. McLernon and L. Zhang、“Data-Aided Active User Detection With False Alarm Correction in Grant-Free Transmission”、in IEEE Wireless Communications Letters、vol. 12、no. 1、pp. 143~147、2023年1月)でも開示されているLDS-OFDM(Low Density Signature OFDM)を応用したものである。
【0061】
基地局2が受信する受信信号の構造の一例について説明する。受信信号において、OFDMシンボルが送信された時間スロットと、OFDMシンボルに含まれるサブキャリア成分の周波数スロットとを組み合わせたデータスロットの受信電力は、当該データスロットに重ね合わされたデータ信号42の総数に応じて異なる。すなわち、そのデータスロットで送信されたデータ信号42が多ければ多いほど、そのデータスロットの受信電力は高い。図6Bの例では、データスロットの受信電力を4段階の濃さで表している。すなわち、図6Bに示した受信信号5の下から2行目の周波数スロットのように、図6Aに示したデータ信号42の、ユーザ番号軸方向の総数がゼロである場合には、図6Bのデータスロットを空白で表している。図6Bに示した受信信号5の下から3行目および4行目のように、図6Aに示したデータ信号42の、ユーザ番号軸方向の総数が1である場合には、図6Bのデータスロットを薄いハッチングで示している。図6Bに示した受信信号5の上から2行目のように、図6Aに示したデータ信号42の、ユーザ番号軸方向の総数が3である場合には、図6Bのデータスロットを濃いハッチングで示している。図6Bに示した受信信号5の下から1行目のように、図6Aに示したデータ信号42の、ユーザ番号軸方向の総数が2である場合には、図6Bのデータスロットを中間的な濃さのハッチングで示している。
【0062】
また、図6Aに示すように、全てのアクティブ端末301が基地局2と同期したタイミングで送信信号4を送信し、かつ、全ての送信信号4において最初および最後のOFDMシンボルにパイロット信号41が配置されているため、図6Bに示すように、受信信号5における最初および最後のOFDMシンボルにもパイロット信号51が配置されている。
【0063】
受信信号5のパイロット部について説明する。受信信号5のうち、パイロット信号が配置されているパイロット部は、周波数領域において、以下の「数1」式のように表される。「数1」式の2行目から作業目への変換は、以下の「数2」式から得られる。
【0064】
【数1】
【数2】
ここで、「Y 」は周波数領域における受信信号5のうち、t番目のOFDMシンボルに対応するパイロット部を表す。「W」は離散フーリエ変換行列であり、N行N列の複素数行列である。「N」はOFDMシンボルに含まれるサブキャリアの総数である。「Y~」(正確には、チルダ記号「~」は「Y」の上にある)は、時間領域における受信信号5を表す。「u」はユーザ端末3の番号を表す。「U」はユーザ端末3の総数を表す。「ξ」はu番目のユーザ端末3がアクティブ端末301または非アクティブ端末302のどちらであるかを表す二値変数であり、u番目のユーザ端末3がアクティブ端末301である場合に「ξ=1」であり、u番目のユーザ端末3が非アクティブ端末302である場合に「ξ=0」である。「Λ 」はu番目のユーザ端末3の搬送波周波数オフセットによる位相回転を表す位相回転行列であり、N行N列の複素数行列である。「A~ 」(正確には、チルダ記号「~」は「A」の上にある)は、時間領域におけるパイロット行列である。「H」は、u番目のユーザ端末3の通信路行列であり、P行M列の複素数行列である。「P」は遅延タップ数である。「M」は基地局2が備えるアンテナ20の総数である。「Z~」(正確には、チルダ記号「~」は「Z」の上にある)は時間領域における雑音成分を表す。「P 」はu番目のユーザ端末3における搬送波周波数オフセットの影響を表し、上記の「数2」式のように定義される。「A 」は周波数領域における既知のパイロット行列であり、N行P列の複素数行列である。「Z」は周波数領域における雑音成分を表す。
【0065】
上記の「数1」式の3行目の部分は、図7のように表される。図7に示した行列「P 」のうち、ハッチングの部分は、搬送波周波数オフセットの影響が存在することを表す。また、図7に示した行列「H 」のうち、ハッチングの部分は、P個ある遅延タップのうちの一部の遅延タップで、送信信号がまばらに到来している状態を表す。
【0066】
送信信号4のデータ信号42をサブキャリアの一部に配置するデータ構造の、それぞれのユーザ端末3に固有のパターンについて説明する。
【0067】
【数3】
ここで、「S」はLDS行列であり、それぞれの要素がゼロまたは1であるN行U列の二値行列である。「s」~「s」は、1番からU番までのユーザ端末3にそれぞれ対応するデータ構造のパターン行列であり、「s」~「s」のそれぞれは、それぞれの要素がゼロまたは1であるN行1列の二値行列である。注目している番号のユーザ端末3に固有のデータ構造のパターンにおいて、データ信号42が配置されているサブキャリアに対応する要素は1であり、データ信号42が配置されていないサブキャリアに対応する要素はゼロである。
【0068】
上記の「数3」式の行列Sは、図8のように表される。図8の例において、横軸はユーザ端末3の番号に対応し、縦軸はサブキャリアの番号に対応する。図8の例において、ユーザ端末3の番号と、サブキャリアの番号との組み合わせのそれぞれにおいて、データ信号42が配置されているマスに対応する要素はハッチングで表し、データ信号42が配置されていないマスに対応する要素は空白で表している。図8の例では、パターン行列s図6Aに示した送信信号4Aのデータ構造に対応し、パターン行列s図6Aに示した送信信号4Bのデータ構造に対応し、パターン行列s図6Aに示した送信信号4Cのデータ構造に対応している。
【0069】
受信信号5のデータ部について説明する。受信信号5のうち、データ信号42が配置されているデータ部は、周波数領域において、以下の「数4」式のように表される。「数4」式の1行目から2行目への変換は、以下の「数5」式および「数6」式から得られる。「数4」式の2行目から3行目への変換は、以下の「数7」式から得られる。
【0070】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
ここで、「Y」は周波数領域における受信信号5の、t番目のOFDMシンボルに対応するデータ部を表す。「k」はアクティブ端末301の番号を表す1からKまでの整数である。「K」はアクティブ端末301の総数である。「A」(正確には、「A」は筆記体である)は、アクティブ端末301の集合を表す。「W」は離散フーリエ変換行列であり、N行N列の複素数行列である。「N」はOFDMシンボルに含まれるサブキャリアの総数である。「Λ 」はk番目のアクティブ端末301の搬送波周波数オフセットによる位相回転を表す位相回転行列であり、N行N列の複素数行列である。「x 」はk番目のアクティブ端末301がt番目のOFDMシンボルで送信するデータを表す行列であり、N行1列の複素数行列である。「Q」はk番目のアクティブ端末301の通信路行列を周波数領域に変換した行列である。「Z」は周波数領域における雑音成分を表す。「P 」はk番目のアクティブ端末301の搬送波周波数オフセットの影響を表し、上記の「数5」式のように定義される。「G」は上記の「数6」のように定義されるN行M列の複素数行列である。「v」は、集合A(正確には、「A」は筆記体である)におけるk番目のアクティブ端末301がu番目のユーザ端末3である関係性において、番号kから番号uへ変換する関数である。
【0071】
上記の「数4」式の3行目の部分は、図9のように表される。図9に示した行列「P 」のうち、ハッチングの部分は、搬送波周波数オフセットの影響が存在することを表す。また、図9に示した行列「s_v」(正確には、「v」は「s」の添え字である)のうち、ハッチングの部分は、図8に示したデータ構造(例:パターン行列S)でデータ信号42が存在することを表す。
【0072】
上記の「数4」式の3行目の部分を行列形式で表現すると、以下の「数8」式が得られる。
【0073】
【数8】
【0074】
上記の「数8」を、データ部に含まれる全てのOFDMシンボルをスタックした表現に変換すると、以下の「数9」式および「数10」式が得られる。
【0075】
【数9】
【数10】
ここで、「Y」は受信信号5を表す。「X」はデータ信号42を表す。「G」はアクティビティおよび通信路を表す。「Z」は雑音を表す。
【0076】
一実施形態では、データ信号を最大事後確率に基づいた検出手法によって推定する。より詳細には、データ信号および通信路に関する事前分布を利用して得られるファクターグラフにおける各パラメータの値を、メッセージパッシング手法に基づいて事後確率が最大となるように推定する。このとき、ファクターグラフのノード間で交換されるメッセージを更新することによって、推定値の更新を繰り返し行う。さらに、アクティビティおよび通信路の推定結果を利用することで、各パラメータについて良好な初期値を得ることができる。
【0077】
受信信号5の行列Yが与えられた場合の事後分布は、ベイズの定理を用いて、以下の「数11」式のように表される。
【0078】
【数11】
ここで、「p」は、続く括弧の中身の確率分布を表す。「X」はデータ信号42を表す。「G」はアクティビティおよび通信路の組み合わせを表す。「Q」は通信路を表す。「v」はアクティビティを表す。「Y」は受信信号5を表す。上記の「数11」式の1行目において、左辺は受信信号5の行列Yが与えられた場合の、データ信号行列X、アクティビティおよび通信路の組み合わせの行列G、通信路行列Qおよびアクティビティ行列vの事前分布を表す。上記の「数11」式の1行目において、右辺は左辺にベイズの定理を適用することで得られる。
【0079】
上記の「数11」式の2行目において、左側の総乗は、受信信号5の行列Yと、データ信号52の行列Xとの事後分布を表し、図10Aのファクターグラフのように表される。図10Aのファクターグラフは、サブキャリアの番号nが1である場合のファクターグラフ901から、サブキャリアの番号nがNである場合のファクターグラフ90Nまでの、合計N個のファクターグラフ90を含む。以降、サブキャリアの番号nに対応するファクターグラフ90を、ファクターグラフ90nと呼ぶ。それぞれのファクターグラフ90nは、アンテナ20の番号mが1である場合のファクターグラフ91n1から、アンテナ20の番号mがMである場合のファクターグラフ91nMまでの、合計M個のファクターグラフ91を含む。図10Aの例では、サブキャリアの番号が1である場合に対応するファクターグラフ901は、ファクターグラフ9111からファクターグラフ911Mまでの、合計M個のファクターグラフ91を含む。同様に、サブキャリアの番号がNである場合に対応するファクターグラフ90Nは、ファクターグラフ91N1からファクターグラフ91NMまでの、合計M個のファクターグラフ91を含む。
【0080】
それぞれのファクターグラフ90は、さらに、アクティブ端末301の番号kが1である場合のデータ信号x1,n の確率分布を表す変数ノード61から、アクティブ端末301の番号kがKである場合のデータ信号xK,n の確率分布を表す変数ノード66までの、合計K個の変数ノードを含む。それぞれのファクターグラフ90は、さらに、アクティブ端末301の番号kが1である場合のデータ信号x1,n の確率分布を拘束する関数のファクターノード60から、アクティブ端末301の番号kがKである場合のデータ信号xK,n の確率分布を拘束するファクターノード65までの、合計K個のファクターノードを含む。それぞれのファクターグラフ91が含むファクターノード62、70、72および変数ノード63、64、68、69、71については、後述する。
【0081】
上記の「数11」式の2行目において、右側の総乗は、通信路行列Qと、アクティビティ行列vとの事後分布を表し、図10Bのファクターグラフのように表される。図10Bのファクターグラフは、アクティブ端末301の番号kが1である場合のファクターグラフ921から、アクティブ端末301の番号kがKである場合のファクターグラフ92Kまでの、合計K個のファクターグラフ92を含む。以降、アクティブ端末301の番号kに対応するファクターグラフ92を、ファクターグラフ92kと呼ぶ。それぞれのファクターグラフ92kは、アンテナ20の番号mが1である場合のファクターグラフ93k1から、アンテナ20の番号mがMである場合のファクターグラフ93kMまでの、合計M個のファクターグラフ93を含む。図10Bの例では、アクティブ端末301の番号kが1であるファクターグラフ921は、ファクターグラフ9311からファクターグラフ931Mまでの、合計M個のファクターグラフ93を含む。同様に、アクティブ端末301の番号kがKであるファクターグラフ92Kは、ファクターグラフ93K1からファクターグラフ93KMまでの、合計M個のファクターグラフ93を含む。
【0082】
それぞれのファクターグラフ92kは、さらに、アクティビティvの確率分布を表す変数ノード88と、アクティビティvの確率分布を拘束する関数を表すファクターノード89とを含む。それぞれのファクターグラフ93が含むファクターノード81、82、85、86および変数ノード80、83、84、87については、後述する。
【0083】
図11を参照して、図10Aに示したファクターグラフ91のそれぞれが含むファクターノード62、70、72および変数ノード63、64、68、69、71について説明する。図11は、図10Aに示したファクターグラフから、1つのファクターグラフ90を抽出したものである。サブキャリアの番号がnであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ91は、アクティブ端末301の番号kが1である場合のアクティビティおよび通信路の組み合わせの確率分布g1,n,mを表す変数ノード63から、アクティブ端末301の番号kがKである場合のアクティビティおよび通信路の組み合わせの確率分布gK,n,mを表す変数ノード68までの、合計K個の変数ノード63、68を含む。
【0084】
サブキャリアの番号がnであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ91は、さらに、サブキャリアの番号がnであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ91は、アクティブ端末301の番号kが1である場合の確率分布Ψ1,n,m を表す変数ノード64から、アクティブ端末301の番号kがKである場合の確率分布ΨK,n,m を表す変数ノード69までの、合計K個の変数ノード64、69を含む。アクティブ端末301の番号が1からKまでの任意の整数kであるとき、変数ノード64、69が表す確率分布Ψk,n,m は、データ信号xk,n と、アクティビティおよび通信路の組み合わせの確率分布gk,n,mとの積の確率分布として、以下の「数12」式のように定義される。
【0085】
【数12】
【0086】
サブキャリアの番号がnであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ91は、さらに、確率分布φn,m を表す変数ノード71を含む。確率分布φn,m は、アクティブ端末301の番号kを1からKまで走査した場合の、確率分布Ψk,n,m の総和として、以下の「数13」式のように定義される。
【0087】
【数13】
【0088】
サブキャリアの番号がnであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ91は、さらに、アクティブ端末301の番号kが1である場合のファクターノード62から、アクティブ端末301の番号kがKである場合のファクターノード67までの、合計K個のファクターノード62、67を含む。ファクターノード62、67は、アクティブ端末301の番号が1からKまでの任意の整数kであるときの、変数ノード61、66が表す確率分布xk,n と、変数ノード63、68が表す確率分布gk,n,mと、変数ノード64、69が表す確率分布Ψk,n,m との関係を拘束する関数を表す。
【0089】
サブキャリアの番号がnであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ91は、さらに、ファクターノード70を含む。ファクターノード70は、アクティブ端末301の番号が1からKまでの任意の整数kであるときの、変数ノード64、69が表す確率分布Ψk,n,m と、変数ノード71が表す確率分布φn,m との関係を拘束する関数を表す。
【0090】
サブキャリアの番号がnであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ91は、さらに、ファクターノード72を含む。ファクターノード72は、変数ノード71が表す確率分布φn,m を拘束する関数を表す。
【0091】
図12を参照して、図10Bに示したファクターグラフ93のそれぞれが含むファクターノード81、82、85、86および変数ノード80、83、84、87について説明する。図12は、図10Bに示したファクターグラフから、1つのファクターグラフ92を抽出したものである。アクティブ端末301の番号がkであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ93は、サブキャリアの番号が1である場合のアクティビティおよび通信路の組み合わせの確率分布gk,1,mを表す変数ノード80から、サブキャリアの番号がNである場合のアクティビティおよび通信路の組み合わせの確率分布gk,N,mを表す変数ノード84までの、合計N個の変数ノード80、84を含む。
【0092】
アクティブ端末301の番号がkであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ93は、さらに、サブキャリアの番号が1である場合の通信路の確率分布qk,1,mを表す変数ノード83から、サブキャリアの番号がNである場合の通信路の確率分布qk,N,mを表す変数ノード87までの、合計N個の変数ノード83、87を含む。
【0093】
アクティブ端末301の番号がkであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ93は、さらに、サブキャリアの番号が1である場合のファクターノード81から、サブキャリアの番号がNである場合のファクターノード85までの、合計N個のファクターノード81、85を含む。ファクターノード81、85は、サブキャリアの番号が1からNまでの任意の整数nであるときの変数ノード80、84が表す確率分布gk,n,mと、サブキャリアの番号が1からNまでの任意の整数nであるときの変数ノード83、87が表す確率分布qk,n,mと、アクティビティの確率分布vとの関係を拘束する関数を表す。
【0094】
アクティブ端末301の番号がkであり、かつ、アンテナ20の番号がmであるファクターグラフ93は、さらに、サブキャリアの番号が1である場合のファクターノード82から、サブキャリアの番号がNである場合のファクターノード86までの、合計N個のファクターノード82、86を含む。ファクターノード82、86は、サブキャリアの番号が1からNまでの任意の整数nであるときの変数ノード83、87が表す確率分布qk,n,mを拘束する関数を表す。
【0095】
図5Aおよび図5Bのフローチャートに含まれる各ステップの処理について、図10Aおよび図10Bのファクターグラフを参照してより詳細に説明する。
【0096】
図5AのステップS233の処理は、非特許文献5と同様に行ってもよい。
【0097】
図5AのステップS234においてメッセージが更新されるファクターグラフは、図10Bに示した、通信路行列Qと、アクティビティ行列vとの事後分布を表すファクターグラフ92である。より詳細には、図5AのステップS234において、変数ノード80、84が表す確率分布gk,n,mの更新処理と、変数ノード83、87が表す確率分布qk,n,mの更新処理と、変数ノード88が表す確率分布vの更新処理とが行われる。それぞれの確率分布を更新する処理として、それぞれの確率分布を近似した正規分布の平均値および分散の更新を、それぞれの確率分布を表す変数ノードに接続されているファクターノードの関数に基づいて行う。
【0098】
一例として、変数ノード88が表す確率分布vの更新処理は、任意のユーザ端末3がアクティブであるか否かを表す尤度比について正規化した値λk,n actと、任意のユーザ端末3が非アクティブであるか否かを表す尤度比について正規化した値λk,n falseとを算出することによって行ってもよい。これらの値λk,n act、λk,n falseは、以下の「数14」式および「数15」式を用いてそれぞれ算出してもよい。
【0099】
【数14】
【数15】
ここで、「βk,n act」は、任意のユーザ端末3がアクティブであるか否かを表す尤度比を表す。「βk,n false」は、任意のユーザ端末3が非アクティブであるか否かを表す尤度比を表す。
【0100】
図5AのステップS235においてメッセージが更新されるファクターグラフは、図10Aに示した、データ信号42と、受信信号5との事後分布を表すファクターグラフ90である。より詳細には、図5AのステップS235において、変数ノード61、66が表す確率分布xk,n の更新処理と、変数ノード63、68が表す確率分布gk,n,mの更新処理と、変数ノード64、69が表す確率分布Ψk,n,m の更新処理と、変数ノード71が表す確率分布φn,m の更新処理とが行われる。
【0101】
一例として、変数ノード61、66が表す確率分布xk,n の更新処理は、OFDMシンボルに含まれるデータ信号52に対する尤度比について正規化した値ζk,n,m r,tを算出することによって行ってもよい。この値ζk,n,m r,tは、以下の「数16」式を用いて算出してもよい。
【0102】
【数16】
ここで、「m←_Ψk,n,m’」(正確には、「←」は「m」の上にあり、「Ψk,n,m’」は「m」の添え字である)は、変数ノード64、69が表す確率分布Ψk,n,m’の平均値を、変数ノード64、69の左側に接続されているファクターノード62、67が表す関数に基づいて算出した結果を表す。「m←←_gk,n,m’」(正確には、2つの「←」はともに「m」の上にあり、「gk,n,m’」は「m」の添え字である)は、変数ノード63、68が表す確率分布gk,n,m’の平均値を、変数ノード63、68の左側のファクターノード62、67のさらに左側の変数ノード61が表す確率分布xk,n に基づいて算出した結果を表す。「v←_Ψk,n,m’」(正確には、「←」は「v」の上にあり、「Ψk,n,m’」は「v」の添え字である)は、変数ノード64、69が表す確率分布Ψk,n,m’の分散を、変数ノード64、69の左側に接続されているファクターノード62、67が表す関数に基づいて算出した結果を表す。「v←←_gk,n,m’」(正確には、2つの「←」はともに「v」の上にあり、「gk,n,m’」は「v」の添え字である)は、変数ノード63、68が表す確率分布gk,n,m’の分散を、変数ノード63、68の左側のファクターノード62、67のさらに左側の変数ノード61が表す確率分布xk,n に基づいて算出した結果を表す。
【0103】
図5BのステップS238において、図5AのステップS233でアクティビティを推定した結果が、図5BのステップS238で算出するアクティビティの確率分布vのビリーフと一致せず、かつ、図5AのステップS233から図5BのステップS238までの処理を繰り返した回数が所定の閾値に到達していない場合、処理は図5AのステップS233へ戻る。このとき、ステップS233において、アクティビティの推定を改めて行う。なお、図5AのステップS233でアクティビティを推定した結果の確認は、アクティビティの確率分布vのビリーフの代わりに、確率分布xk,n のビリーフを用いて行ってもよいし、確率分布vおよび確率分布xk,n を併用して行ってもよい。
【0104】
以上に説明したように、一実施形態による通信システム1、基地局2および通信方法は、図6Aに示したデータ構造を送信信号4に利用し、数11式に示した事後確率の分布を図10Aおよび図10Bに示したファクターグラフで表現し、これらのファクターグラフに含まれる変数ノードが表す各種パラメータの確率分布を更新する処理を図5Aおよび図5Bに示したフローチャートに含まれる三重の繰り返し処理で実行する。その結果、データ構造に含まれるパイロット信号41を用いて搬送波周波数オフセットを精度よく補償し、複数のユーザ端末3に固有のデータ構造に基づいて、アクティブであるか否かについて誤検出したユーザ端末3のアクティビティを訂正することができる。さらに、1つのOFDMシンボルに含まれる複数のサブキャリアにそれぞれ異なるデータ信号42を配置することができるので、データレートの向上も得られる。
【0105】
発明者らは、以上の優れた作用効果を、コンピュータシミュレーションによって確認した。このコンピュータシミュレーションについて説明する。
【0106】
図13は、コンピュータシミュレーションで用いた諸元を表す表である。図13に示す例では、ユーザ数、すなわちユーザ端末3の総数(U)は、100である。アクティブユーザ数(K)、すなわちアクティブ端末301の総数は、5である。基地局のアンテナ数(M)、すなわち基地局2のアンテナ20の総数は、8である。サブキャリア数(N)は、24である。OFDMシンボル数は、14である。使用サブキャリア数、すなわちそれぞれのOFDMシンボルに含まれるサブキャリアのうち、データ信号42を配置するサブキャリアの総数は、6である。
【0107】
図14は、基地局2が受信した受信信号5に基づいて、ユーザ端末3のうち、アクティブ端末301として推定部223が推定した合計6台のユーザ端末3が実際にアクティブであるか否かを表す尤度の、図5Aおよび図5Bのフローチャートに示した処理の繰り返し回数の増加に応じた変化をシミュレーションによって得られた結果を表すグラフである。図14は、合計6本のグラフG11~G16を含む。6本のグラフG11~G16は、合計6台のユーザ端末3にそれぞれ対応する。6本のグラフG11~G16に共通して、横軸は処理の繰り返し回数を表し、縦軸は合計6台のユーザ端末3のアクティビティの尤度を表す。図14の例では、処理の繰り返し回数が増大するにつれて、当初は6台と推定されたユーザ端末3のうち、グラフG14に対応する1台のユーザ端末3については尤度が下がり、すなわち非アクティブと推定され、残るグラフG11、G12、G13、G15、G16にそれぞれ対応する5台のユーザ端末3については尤度が上がり、すなわちアクティブと推定され、正しい推定が行われたことが確認された。
【0108】
図15は、搬送波周波数オフセットの推定と、信号対雑音比と、ビットエラーレートとの関係について、コンピュータシミュレーションによって得られた結果を表すグラフである。図15は、合計3本のグラフG21、G22、G23を含む。グラフG21は、搬送波周波数オフセットを無視した場合に対応する。グラフG22は、一実施形態による手法で搬送波周波数オフセットを推定した場合に対応する。グラフG23は、理想的な比較対象として、搬送波周波数オフセットが既知である場合に対応する。3本のグラフG21、G22、G23に共通して、横軸は信号対雑音比を表し、縦軸はビットエラーレートを表す。コンピュータシミュレーションの結果、一実施形態による手法で搬送波周波数オフセットを推定した場合、搬送波周波数オフセットを無視した場合と比較して非常に優れた結果が得られ、搬送波周波数オフセットが既知である場合にほぼ等しい結果が得られた。このことは、一実施形態による手法が優れた作用効果を有していることを意味する。
【0109】
以上、発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、実施の形態に説明したそれぞれの特徴は、技術的に矛盾しない範囲で自由に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0110】
1 通信システム
10 通信領域
2 基地局
20 アンテナ
21 バス
22 演算装置
221 指定部
222 受信部
223 推定部
224 出力部
23 記憶装置
230 記録媒体
231 プログラム記憶部
232 データベース
24 第1通信装置
25 第2通信装置
26 入出力装置
3 ユーザ端末
30 アンテナ
301 アクティブ端末
302 非アクティブ端末
31 バス
32 演算装置
321 設定部
322 生成部
323 送信部
33 記憶装置
330 記録媒体
331 プログラム記憶部
332 指定情報記憶部
34 第1通信装置
35 第2通信装置
36 入出力装置
4、4A、4B、4C 送信信号
41 パイロット信号
42 データ信号
43 空きスロット
5 受信信号
51 パイロット信号
52 データ信号
53 空きスロット
60、62、65、67、70、72 ファクターノード
61、63、64、66、68、69、71 変数ノード
80、83、84、87、88 変数ノード
81、82、85、86、89 ファクターノード
90(901、90N) ファクターグラフ
91(9111、911M、91N1、91NM) ファクターグラフ
92、921、92K ファクターグラフ
93、9311、931M、93K1、93KM ファクターグラフ
G11、G12、G13、G14、G15、G16 グラフ
G21、G22、G23 グラフ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15