(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141219
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】モデル予測制御を用いたモータの制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/00 20160101AFI20241003BHJP
H02P 4/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H02P21/00
H02P4/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052738
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】伊崎 秀範
【テーマコード(参考)】
5H501
5H505
【Fターム(参考)】
5H501AA07
5H501BB02
5H501DD04
5H501GG05
5H501HB07
5H501HB08
5H501JJ03
5H501JJ22
5H505AA03
5H505BB02
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ22
(57)【要約】
【課題】モデル予測制御を用いて、三相モータのd-q軸上における電流を目標電流に良好に追従させることができるモータの制御装置を提供する。
【解決手段】モデル予測制御を用い、三相モータ2のd-q軸上における電流を制御するモータの制御装置であって、三相モータ2の制御モデルを設定する制御モデル設定手段3と、d-q軸上への目標電流と実電流との偏差の二乗和、及びd-q軸上への制御電圧の二乗和を含む所定の評価関数を設定する評価関数設定手段3と、設定された制御モデルに基づき、設定された評価関数が最小となるように、制御電圧を算出する制御電圧算出手段3と、偏差に基づいて積分し、算出された制御電圧に加算する積分制御手段3と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデル予測制御を用い、三相モータのd-q軸上における電流を制御するモータの制御装置であって、
前記三相モータの制御モデルを設定する制御モデル設定手段と、
前記d-q軸上への目標電流と実電流との偏差の二乗和、及び前記d-q軸上への制御電圧の二乗和を含む所定の評価関数を設定する評価関数設定手段と、
前記設定された制御モデルに基づき、前記設定された評価関数が最小となるように、前記制御電圧を算出する制御電圧算出手段と、
前記偏差に基づいて積分し、前記算出された制御電圧に加算する積分制御手段と、
を備えていることを特徴とするモデル予測制御を用いたモータの制御装置。
【請求項2】
前記制御モデルは、下式(1)で設定され、
前記評価関数は、下式(2)で設定されていることを特徴とする請求項1に記載のモデル予測制御を用いたモータの制御装置。
【数1】
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モデル予測制御を用い、三相モータのd-q軸上における電流を制御するモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の気候変動への対策として、低炭素社会又は脱炭素社会の実現に向けた取り組みが活発化している。車両などにおいても、CO2排出量の削減が強く要求され、動力源の電動化が急速に進行している。また、動力源などのモータを制御する際に、モデル予測制御を用いた最適化によって制御する制御装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
この制御装置は、エレベータのドアを開閉するドアモータを制御するものであり、このドアモータとして、永久磁石同期モータが用いられている。この制御装置では、ドアの開閉時における速度及び加速度を含む状態方程式を予測モデルとして定義し、所定の評価関数を、所定時間ごとに、最小化する制御入力を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の制御装置では、評価関数を最小化するための演算手法として、ニュートン法や最急降下法などの反復法による数値解析手法を用いる。この演算手法では、1制御周期ごとに繰り返し計算を行う必要があるため、計算負荷が大きくなり、しかも最適な制御入力を得るまでに時間がかかってしまう。
【0006】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、モデル予測制御を用いて、三相モータのd-q軸上における電流を目標電流に良好に追従させることができるモータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、モデル予測制御を用い、三相モータのd-q軸上における電流を制御するモータの制御装置であって、三相モータの制御モデルを設定する制御モデル設定手段と、d-q軸上への目標電流と実電流との偏差の二乗和、及びd-q軸上への制御電圧の二乗和を含む所定の評価関数を設定する評価関数設定手段と、設定された制御モデルに基づき、設定された評価関数が最小となるように、制御電圧を算出する制御電圧算出手段と、偏差に基づいて積分し、算出された制御電圧に加算する積分制御手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、制御モデル設定手段により、三相モータの制御モデルが設定される。また、評価関数設定手段により、三相モータのd-q軸上への目標電流と実電流との偏差の二乗和、及び上記d-q軸上への制御電圧の二乗和を含む所定の評価関数が設定される。そして、設定された制御モデルに基づき、設定された評価関数が最小となるように、制御電圧を算出する。加えて、積分制御手段により、上記偏差に基づいて積分し、算出された制御電圧に加算する。この制御電圧が制御対象に印加されることにより、定常偏差を減少させながら、三相モータのd-q軸上における電流を目標電流に良好に追従させることができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のモデル予測制御を用いたモータの制御装置において、制御モデルは、下式(1)で設定され、評価関数は、下式(2)で設定されていることを特徴とする。
【数1】
【数2】
【0010】
この構成によれば、式(1)の制御モデルに基づき、式(2)の評価関数Jが最小となる制御電圧vを、代数的な計算によって算出することができるので、反復法を用いる従来と異なり、計算負荷を大きくすることなく、算出時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態によるモータ制御装置を適用したモータ制御システムを示すブロック図である。
【
図2】モータ制御システムの制御器における制御の概要を示すブロック線図である。
【
図3】d軸上における電流値の推移をシミュレーションした結果を示しており、(a)は積分器を用いた場合、(b)は積分器を用いない場合を示す。
【
図4】q軸上における電流値の推移をシミュレーションした結果を示しており、(a)は積分器を用いた場合、(b)は積分器を用いない場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるモータ制御装置を適用したモータ制御システム1を示すブロック図である。このモータ制御システム1におけるモータ2は、U相、V相及びW相の3つのコイルを有する三相モータであり、永久磁石を有するロータを備えている。また、この制御システム1は、制御器3、インバータスイッチングパターン生成部4及びインバータ5を備えている。なお、モータ2のU相、V相及びW相にそれぞれ対応するU軸、V軸及びW軸は、互いに120度ずつずれている座標系であるのに対し、d軸及びq軸は、互いに90度ずれ、d軸がモータ2のロータの磁束方向に一致する回転座標系である。
【0013】
制御器3(制御モデル設定手段、評価関数設定手段、制御電圧算出手段、及び積分制御手段)は、後述する最適制御及び積分制御をそれぞれ実行する最適化器及び積分器を有している。この制御器3は、モータ2を制御するためのd-q軸電流指令(目標電流)に基づき、モデル予測制御を用いて、d-q軸制御電圧を算出し、その算出結果を、UVW軸制御電圧に変換して出力するものである。また、インバータスイッチングパターン生成部4は、制御器3からのUVW軸制御電圧に基づき、その制御電圧を満たすインバータスイッチングパターンを生成する。この生成されたインバータスイッチングパターンに基づき、インバータ5により、UVW軸への制御電圧であるUVW相電圧が生成される。そして、生成されたUVW相電圧、すなわち制御器3で算出したd-q軸制御電圧に対応する制御電圧がモータ2に印加され、d-q軸電流指令に応じた所定のトルクを出力するように、モータ2が制御される。
【0014】
図2は、制御器3における制御処理をブロック線図で示している。同図に示すように、制御器3では、目標値と、制御対象からのフィードバック値との偏差に基づき、最適制御による演算が行われ、所定の最適値が出力される。また、上記の偏差に基づき、積分制御による演算が行われ、所定の積分値が出力される。そして、上記の最適制御によって出力され、外乱やモデル誤差が含まれる制御値に、上記の積分制御によって出力された積分値が加算され、制御対象に入力される。上記のように、最適制御によって得られる制御値に、上記偏差に基づく積分値を加算して、制御対象に入力することにより、外乱やモデル誤差による定常偏差を減少させることができる。
【0015】
次に、モデル予測制御を用い、モータ2のd-q軸上における電流制御について説明する。下式(1)は、制御器3において設定されたモータ2の制御モデルを示している。
【数1】
【0016】
また、下式(2)は、制御器3において設定された評価関数Jを示している。
【数2】
【0017】
上式(2)において、上付き*が付されたi*は、目標電流であり、d軸及びq軸の目標電流をまとめてベクトルで定義される。したがって、d軸及びq軸のそれぞれの目標電流をi*
d及びi*
qとすると、i*=(i*
d i*
q)Tとして定義される。また、iは、実電流であり、上記の目標電流ベクトルi*と同様、d軸及びq軸の実電流をまとめてベクトルで定義される。さらに、上式(2)の[]括弧内の値(k、k+Nなど)は、離散化した制御のステップ時間である。したがって、i*[k+N]は、i*[k]よりもN-1ステップ制御周期先の目標電流ベクトルを表す。さらにまた、上式(2)のvは、制御電圧であり、上記の目標電流i*及び実電流iと同様、d軸及びq軸の制御電圧をまとめてベクトルで定義される。したがって、d軸及びq軸のそれぞれの制御電圧をvd及びvqとすると、v=(vd vq)Tとして定義される。
【0018】
また、上式(2)のRは目標電流i*と実電流iとの偏差である電流偏差の二乗に対する重み行列であり、上式(2)のQは制御電圧vの二乗に対する重み行列である。なお、tR及びtQはそれぞれ、R及びQの転置行列である。
【0019】
本実施形態のモータ制御システム1では、モデル予測制御による最適化によって制御電圧vを算出する。具体的には、上式(1)の制御モデルに基づき、上式(2)の評価関数Jが最小となるように、以下のように、制御電圧vを算出する。
【0020】
まず、上式(1)を制御周期Δtで離散化すると、下式(3)のような漸化式になる。
【数3】
【0021】
上式(3)を簡単化のために、行列並びに電流及び電圧ベクトルを下記のように置き換えると、式(3)は下式(4)のように表される。
【数4】
【0022】
ここで、時刻kにおいて、Nステップ先までの目標電流i*が得られていると仮定する。本制御では、Nステップ先までの目標値と電流の偏差を小さくし、かつ、それを少ない制御電圧で達成するように、式(2)の評価関数Jを設定している。
【0023】
そして、この評価関数Jを最小化するNステップ先までの制御電圧vの列{v[j]}j=k,k+1,・・・,k+N-1を求める。
【0024】
評価関数Jの最小化の計算方法については、基本的には下に凸の二次関数の極小値を探索するのと同様である。すなわち、式(2)の評価関数Jは、目標電流偏差(i*-i)の二乗と、制御電圧vの二乗で表されているので、制御電圧vの大きさに計算上制限を設定しなければ、最小値と極小値は一致する。
【0025】
また、評価関数Jを最小化する場合、式(1)の制御モデルが式(4)で表現されていることから、Nステップ先から徐々に後退しながら最小化する。式(4)の制御モデルでは、1制御周期先の実電流ベクトル、すなわち実電流ベクトルi[n]に対する実電流ベクトルi[n+1]は、その時刻nの制御電圧ベクトルv[n]と、実電流ベクトルi[n]にしか依存していない。そのため、それ以前の時刻(例えば時刻n-1)を無視して、最小化の計算を行うことができる。
【0026】
まず、Nステップ先における評価関数Jの最小化は、以下のようになる。すなわち、時刻k+Nのときには、制御電圧ベクトルvを考慮する必要がないので、評価関数Jは、下式(5)のようになる。
【数5】
【0027】
また、N-1ステップ先における評価関数Jの最小化は、以下のようになる。すなわち、時刻k+N-1での評価関数Jは、下式(6)のようになる。
【数6】
【0028】
この場合、時刻k+Nの実電流ベクトルiを、前述した式(4)を用いて時刻k+N-1で表すと、式(6)は下式(7)のようになる。
【数7】
なお、式(7)において、「(~)」は、重み行列R又はQの左側のベクトルと同じであることを意味しており、省略して示している。
【0029】
そして、式(7)を、時刻k+N-1の時の制御電圧v[k+N-1]で最小化する。具体的には、式(7)を、制御電圧v[k+N-1]で偏微分し、式(7)が値0なる制御電圧v[k+N-1]を算出する。この場合、式(7)を最小化する制御電圧v[k+N-1]は、下式(8)で表される。
【数8】
【0030】
上記のように、時刻k+N-1の時の制御電圧v[k+N-1]は、時刻k+N-1での実電流i[k+N-1]と、時刻k+Nでの目標電流i
*[k+N]の関数になる。上式(8)を簡単化のために、下式(9)のように表す。
【数9】
【0031】
上式(9)を、時刻k+N-1での評価関数Jに代入すると、下式(10)のように表される。
【数10】
【0032】
以上のように、時刻kにおける評価関数Jを、1つ前の時刻k-1における実電流ベクトルiと、制御電圧vで表し、時刻k-1における制御電圧vで最小化する。また、最小化する制御電圧vを、時刻k-1の実電流ベクトルiで表現することを現在の時刻まで遡って計算する。なお、この段階で導出される最適電圧は、「数値」ではなく、「関数」の状態である。
【0033】
そして、最終的には、最適制御電圧は、センサ(図示せず)で計測した現在の実電流ベクトルと、Nステップ先までの指令電流(目標電流)を式(9)に代入して、数値として算出する。
【0034】
以上のようにして算出される制御電圧ベクトルvは、行列と実電流ベクトルiの積と、定数ベクトルとの和であるので、代数的な計算によって算出することができる。そして、算出された制御電圧ベクトルv、すなわちd-q軸制御電圧に対応するUVW軸制御電圧が制御器3から出力され、前述したように、モータ2が制御される。
【0035】
図3及び
図4はそれぞれ、本制御によるモータ2のd軸及びq軸上における電流値の推移をシミュレーションした結果を示しており、各図(a)は、制御器3において積分器を用いた場合、各図(b)は、比較例として、積分器を用いない場合を示している。なお、各図では、目標電流i
*を破線で示し、実電流iを実線で示している。
【0036】
図3に示すように、d軸上における目標電流i
*
d及び実電流i
dは、積分器を用いない同図(b)の場合、定常偏差が生じるものの、積分器を用いた同図(a)の場合、同図(b)に比べて定常偏差が減少し、実電流i
dが目標電流i
*
dに追従することがわかる。
【0037】
同様に、
図4に示すように、q軸上における目標電流i
*
q及び実電流i
qは、積分器を用いない同図(b)の場合、定常偏差が生じるものの、積分器を用いた同図(a)の場合、同図(b)に比べて定常偏差が減少し、実電流i
qが目標電流i
*
qに追従することがわかる。
【0038】
以上のように、本実施形態によれば、モータ2のd-q軸上における実電流iを目標電流i*に良好に追従させることができる。また、式(1)の制御モデルに基づき、式(2)の評価関数Jが最小となる制御電圧vを、代数的な計算によって算出することができるので、反復法を用いる従来と異なり、計算負荷を大きくすることなく、算出時間を短縮することができる。
【0039】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。また、実施形態で示したモータ制御システム1や制御器3の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 モータ制御システム
2 モータ(三相モータ)
3 制御器(制御モデル設定手段、評価関数設定手段、制御電圧算出手段、及び積分制御手段)
4 インバータスイッチングパターン生成部
5 インバータ