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特開2024-141222ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141222
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/20 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08G8/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052741
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】501186173
【氏名又は名称】国立研究開発法人森林研究・整備機構
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】312005186
【氏名又は名称】リグナイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 康典
(72)【発明者】
【氏名】山田 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】ティティ ネー
(72)【発明者】
【氏名】木村 肇
(72)【発明者】
【氏名】米川 盛生
(72)【発明者】
【氏名】井出 勇
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌信
【テーマコード(参考)】
4J033
【Fターム(参考)】
4J033CA02
4J033CA03
4J033CA04
4J033CA05
4J033CA11
4J033CA12
4J033CA16
4J033CA19
4J033CB13
4J033CB23
4J033CC03
4J033CC09
(57)【要約】
【課題】優れた耐熱性と優れた耐水性とを有する成形品を得ることができるノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】ノボラック型フェノール樹脂が、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含有する。25℃における、リグニン類の、N,N-ジメチルホルムアミドに対する溶解率が、50質量%以下である。樹脂組成物は、上記ノボラック型フェノール樹脂を含有する。ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含有する。そして、リグニン類の、N,N-ジメチルホルムアミドに対する溶解率が、所定値以下である。そのため、ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物は、優れた耐熱性と優れた耐水性とを有する成形品を、得ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン類と、
フェノール類と、
アルデヒド類と
を、酸触媒下で反応させた反応生成物を含有し、
25℃における、前記リグニン類の、N,N-ジメチルホルムアミドに対する溶解率が、50質量%以下である、ノボラック型フェノール樹脂。
【請求項2】
前記リグニン類が、リグニンおよび/または変性リグニンを含有する、請求項1に記載のノボラック型フェノール樹脂。
【請求項3】
前記リグニン類が、熱処理されたリグニンおよび/または熱処理された変性リグニンを含有する、請求項2に記載のノボラック型フェノール樹脂。
【請求項4】
前記変性リグニンが、カルボン酸変性リグニン、および/または、ポリオキシエチレングリコール変性リグニンを含有する、請求項3に記載のノボラック型フェノール樹脂。
【請求項5】
前記リグニン類が、140℃以上220℃以下および2時間以上10時間以下の条件で熱処理されたポリオキシエチレングリコール変性リグニンを含有する、請求項1に記載のノボラック型フェノール樹脂。
【請求項6】
請求項1に記載のノボラック型フェノール樹脂を含有する、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂は、樹脂製品(成形品)の製造において、広範に使用される。樹脂製品としては、例えば、電気部品、自動車部品、建築材料および日用品が挙げられる。熱硬化性樹脂は、用途に応じて、各種物性が要求される。樹脂製品に要求される物性としては、例えば、機械強度、耐熱性および電気絶縁性が挙げられる。
【0003】
熱硬化性樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂は、樹脂原料としてのフェノール類およびアルデヒド類を、酸触媒下において反応させることにより得られる。
【0004】
近年、環境保全の観点から、樹脂原料の一部または全部として、植物由来の樹脂原料を使用することが、要求されている。植物由来の樹脂原料として、例えば、リグニン類が提案されている。より具体的には、例えば、以下のノボラック型フェノール樹脂が提案されている。ノボラック型フェノール樹脂は、ポリオキシエチレングリコールにより変性されたリグニンと、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含む(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-123716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、ノボラック型フェノール樹脂の成形品は、その用途に応じて、とりわけ優れた耐熱性および耐水性を要求される場合がある。しかし、耐熱性および耐水性は、互いに背反する場合があり、耐熱性と耐水性との両方を向上させることは困難である。
【0007】
本発明は、優れた耐熱性と優れた耐水性とを有する成形品を得ることができるノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明[1]は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含有し、25℃における、前記リグニン類の、N,N-ジメチルホルムアミドに対する溶解率が、50質量%以下である、ノボラック型フェノール樹脂を、含んでいる。
【0009】
本発明[2]は、前記リグニン類が、リグニンおよび/または変性リグニンを含有する、上記[1]に記載のノボラック型フェノール樹脂を、含んでいる。
【0010】
本発明[3]は、前記リグニン類が、熱処理されたリグニンおよび/または熱処理された変性リグニンを含有する、上記[2]に記載のノボラック型フェノール樹脂を、含んでいる。
【0011】
本発明[4]は、前記変性リグニンが、カルボン酸変性リグニン、および/または、ポリオキシエチレングリコール変性リグニンを含有する、上記[3]に記載のノボラック型フェノール樹脂を、含んでいる。
【0012】
本発明[5]は、前記リグニン類が、140℃以上220℃以下および2時間以上10時間以下の条件で熱処理されたポリオキシエチレングリコール変性リグニンを含有する、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のノボラック型フェノール樹脂を、含んでいる。
【0013】
本発明[6]は、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のノボラック型フェノール樹脂を含有する、樹脂組成物を、含んでいる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含有する。そして、リグニン類の、N,N-ジメチルホルムアミドに対する溶解率が、所定値以下である。そのため、ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物は、優れた耐熱性と優れた耐水性とを有する成形品を、得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物
本発明のノボラック型フェノール樹脂は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含む。ノボラック型フェノール樹脂は、好ましくは、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物からなる。リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とは、ノボラック型フェノール樹脂の原料成分である。
【0016】
(1)リグニン類
リグニン類としては、例えば、リグニン、および、変性リグニンが挙げられる。すなわち、リグニン類は、リグニンおよび/または変性リグニンを含有する。以下、リグニンは、未変性リグニンを示す。また、変性リグニンは、リグニンの変性体を示す。
【0017】
リグニン(未変性リグニン)は、天然物であり、高分子フェノール性化合物である。リグニンは、例えば、基本骨格として、グアイアシルリグニン(G型)、シリンギルリグニン(S型)、および/または、p-ヒドロキシフェニルリグニン(H型)を含む。リグニンは、例えば、天然リグニンとして、植物全般に含まれている。変性リグニンは、上記のリグニン(未変性リグニン)の変性体である。リグニン類(未変性リグニンおよび変性リグニン)として、より具体的には、例えば、ソーダリグニン、サルファイトリグニン、クラフトリグニン、カルボン酸変性リグニンおよびポリオキシエチレングリコール変性リグニンが挙げられる。
【0018】
ソーダリグニンは、例えば、ソーダ法で植物材料を蒸解することにより得られる。サルファイトリグニンは、例えば、亜硫酸法で植物材料を蒸解することにより得られる。クラフトリグニンは、例えば、クラフト法で植物材料を蒸解することにより得られる。カルボン酸変性リグニンは、カルボン酸を使用して植物材料を蒸解することにより得られる。ポリオキシエチレングリコール変性リグニンは、ポリオキシエチレングリコールを使用して植物材料を蒸解することにより得られる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。植物材料としては、特に制限されないが、例えば、針葉樹植物、広葉樹植物、および、イネ科植物が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。
【0019】
リグニン類として、耐熱性および耐水性の両立を図る観点から、好ましくは、カルボン酸変性リグニンおよびポリオキシエチレングリコール変性リグニンが挙げられる。つまり、リグニン類は、好ましくは、カルボン酸変性リグニンおよび/またはPEG変性リグニンを含有し、より好ましくは、カルボン酸変性リグニンおよび/またはPEG変性リグニンからなる。
【0020】
カルボン酸変性リグニンは、変性リグニンである。カルボン酸変性リグニンは、例えば、カルボン酸を使用して植物材料を蒸解(カルボン酸蒸解)する場合に、黒液中に含有される。
【0021】
カルボン酸蒸解において、カルボン酸の種類および量は、要求される物性などに応じて、適宜選択される。より具体的には、カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、アクリル酸、メタクリル酸、リノール酸、安息香酸、2-フェノキシ安息香酸および4-メチル安息香酸が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。カルボン酸として、好ましくは、酢酸が挙げられる。
【0022】
カルボン酸蒸解の方法は、特に制限されない。例えば、植物材料とカルボン酸とを混合し、混合物を得る。また、必要により、混合物に、無機酸を添加する。無機酸としては、例えば、塩酸および硫酸が挙げられる。そして、混合物を加熱し、植物材料を蒸解させる。これにより、パルプおよび黒液が得られる。このような場合、黒液中に、カルボン酸変性リグニンが含有される。カルボン酸変性リグニンは、公知の方法で黒液から回収される。また、カルボン酸変性リグニンを得る方法は、上記に限定されない。例えば、カルボン酸変性リグニン以外のリグニン類と、カルボン酸とを反応させ、カルボン酸変性リグニンを得ることもできる。
【0023】
ポリオキシエチレングリコール変性リグニン(PEG変性リグニン)は、変性リグニンである。PEG変性リグニンは、例えば、ポリオキシエチレングリコール(PEG)を使用して植物材料を蒸解(PEG蒸解)する場合に、黒液中に含有される。
【0024】
PEG蒸解において、ポリオキシエチレングリコール(PEG)の種類および量は、要求される物性などに応じて、適宜選択される。より具体的には、ポリオキシエチレングリコールの数平均分子量は、耐熱性および耐水性の両立を図る観点から、例えば、100以上、好ましくは、200以上、より好ましくは、300以上、さらに好ましくは、400以上であり、例えば、1000以下、好ましくは、900以下、より好ましくは、800以下、さらに好ましくは、600以下、とりわけ好ましくは、500以下である。なお、数平均分子量は、公知のゲルパーミエーションクロマトグラム法により、ポリオキシエチレングリコール換算分子量として求めることができる。
【0025】
PEG蒸解の方法は、特に制限されない。例えば、植物材料とPEGとを混合し、混合物を得る。また、必要により、混合物に、上記の無機酸を添加する。そして、混合物を加熱し、植物材料を蒸解させる。これにより、パルプおよび黒液が得られる。このような場合、黒液中に、PEG変性リグニンが含有される。PEG変性リグニンは、公知の方法で黒液から回収される。また、PEG変性リグニンは、特に制限されないが、例えば、特開2017-197517号公報に記載される方法に準拠して、製造することができる。
【0026】
リグニン類は、耐熱性および耐水性の両立を図る観点から、好ましくは、変性リグニンを含有し、変性リグニンは、好ましくは、カルボン酸変性リグニン、および/または、ポリオキシエチレングリコール変性リグニンを含有する。すなわち、リグニン類は、好ましくは、カルボン酸変性リグニン、および/または、ポリオキシエチレングリコール変性リグニンを含有する。
【0027】
リグニン類として、耐熱性および耐水性の両立を図る観点から、より好ましくは、PEG変性リグニンが挙げられる。つまり、リグニン類は、好ましくは、PEG変性リグニンを含有し、より好ましくは、PEG変性リグニンからなる。
【0028】
リグニン類は、所定のN,N-ジメチルホルムアミド溶解率(DMF溶解率)を、有している。つまり、リグニン類のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対する溶解率(溶解度)は、所定値以下である。
【0029】
より具体的には、耐熱性および耐水性の両立を図る観点から、25℃における、リグニン類のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対する溶解率(DMF溶解率)は、50質量%以下、好ましくは、45質量%以下、より好ましくは、30質量%以下、さらに好ましくは、25質量%以下、とりわけ好ましくは、20質量%以下である。また、25℃における、リグニン類のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対する溶解率(DMF溶解率)は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上、より好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、10質量%以上、とりわけ好ましくは、15質量%以上である。
【0030】
リグニン類のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対する溶解率(DMF溶解率)が上記範囲であれば、優れた耐熱性と優れた耐水性とを有する成形品(後述)が、得られる。
【0031】
なお、リグニン類のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対する溶解率(溶解度)とは、25℃において、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)10gに対してリグニン類1gを混合した場合に、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対して溶解するリグニン類の割合と、定義される。より具体的には、リグニン類のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対する溶解率(DMF溶解率)は、後述する実施例に準拠して、測定される。
【0032】
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に対する溶解率(DMF溶解率)は、例えば、リグニン類を熱処理することによって、調整できる。
【0033】
例えば、リグニンおよび/または変性リグニンが、蒸解(回収)後、熱処理(加熱)されていない場合、未熱処理(未加熱)のリグニンおよび/または未熱処理(未加熱)の変性リグニンは、上記のDMF溶解率を有していない。
【0034】
より具体的には、リグニンおよび/または変性リグニンが、蒸解(回収)後、熱処理(加熱)されていない場合、未熱処理(未加熱)のリグニンおよび/または未熱処理(未加熱)の変性リグニンの、DMF溶解率は、例えば、50質量%を超過し、好ましくは、70質量%以上、より好ましくは、90質量%以上、さらに好ましくは、95質量%以上、とりわけ好ましくは、99質量%以上である。なお、DMF溶解率は、通常、100質量%以下である。
【0035】
これに対して、リグニンおよび/または変性リグニンが、蒸解(回収)後、熱処理(加熱)されている場合、熱処理(加熱)されたリグニン、および/または、熱処理(加熱)された変性リグニンのDMF溶解率は、上記の範囲に調整される。
【0036】
そのため、耐熱性および耐水性の両立を図る観点から、リグニン類は、好ましくは、熱処理されていないリグニン類を含有せず、熱処理されたリグニン類を含有する。つまり、リグニン類は、好ましくは、熱処理されていないリグニン、および、熱処理されていない変性リグニンを含有せず、熱処理されたリグニン、および/または、熱処理された変性リグニンを含有する。リグニン類は、より好ましくは、熱処理されたリグニン、および/または、熱処理された変性リグニンからなる。
【0037】
また、リグニン類は、耐熱性および耐水性の両立を図る観点から、さらに好ましくは、熱処理されたPEG変性リグニンを含有し、とりわけ好ましくは、熱処理されたPEG変性リグニンからなる。
【0038】
なお、以下において、熱処理されていないリグニン類(リグニンおよび/または変性リグニン)を、未加熱リグニン類(未加熱リグニンおよび/または未加熱変性リグニン)と称する場合がある。
【0039】
また、熱処理されたリグニン類(リグニンおよび/または変性リグニン)を、加熱リグニン類(加熱リグニンおよび/または加熱変性リグニン)と称する場合がある。
【0040】
熱処理方法は、特に制限されない。熱処理では、公知の熱処理装置が使用される。熱処理装置としては、例えば、送風乾燥機および加熱炉が挙げられ、好ましくは、送風乾燥機が挙げられる。
【0041】
熱処理条件は、リグニン類のDMF溶解率が上記の範囲に調整されるように、リグニン類の種類に応じて、適宜設定される。例えば、リグニン類がPEG変性リグニンを含有する場合、熱処理温度が、例えば、100℃以上、好ましくは、120℃以上、より好ましくは、140℃以上である。また、リグニン類がPEG変性リグニンを含有する場合、熱処理温度が、例えば、250℃以下、好ましくは、240℃以下、より好ましくは、220℃以下、さらに好ましくは、200℃以下、とりわけ好ましくは、180℃以下である。また、リグニン類がPEG変性リグニンを含有する場合、熱処理時間が、例えば、0.1時間以上、好ましくは、0.5時間以上、より好ましくは、1時間以上、さらに好ましくは、1.5時間以上、とりわけ好ましくは、2時間以上である。また、リグニン類がPEG変性リグニンを含有する場合、熱処理時間が、例えば、24時間以下、好ましくは、18時間以下、より好ましくは、12時間以下、さらに好ましくは、10時間以下、とりわけ好ましくは、8時間以下である。
【0042】
リグニン類がPEG変性リグニンを含有しており、かつ、熱処理温度および熱処理時間が上記の範囲であれば、リグニン類のDMF溶解率を、上記の範囲に調整できる。そのため、優れた耐熱性および優れた耐水性を有する成形品(後述)が、得られる。換言すると、耐熱性および耐水性の両立を図る観点から、リグニン類は、さらに好ましくは、上記の熱処理条件で熱処理されたPEG変性リグニンを、含有する。リグニン類は、とりわけ好ましくは、上記の熱処理条件で熱処理されたPEG変性リグニンからなる。
【0043】
(2)フェノール類
フェノール類は、フェノールおよびフェノール誘導体(フェノール変性体)である。フェノール類としては、例えば、フェノール、2官能性フェノール誘導体、3官能性フェノール誘導体および4官能性フェノール誘導体が挙げられる。2官能性フェノール誘導体としては、例えば、o-クレゾール、p-クレゾール、p-ter-ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-クミルフェノールおよびp-ノニルフェノールが挙げられる。3官能性フェノール誘導体としては、例えば、m-クレゾール、レゾルシノール、および、3,5-キシレノールが挙げられる。4官能性フェノール誘導体としては、例えば、ビスフェノールAおよびジヒドロキシジフェニルメタンが挙げられる。また、フェノール誘導体としては、ハロゲン化フェノール類も挙げられる。ハロゲン化フェノール類は、フェノールまたはフェノール誘導体のハロゲン化物である。ハロゲンとしては、例えば、塩素および臭素が挙げられる。これらフェノール類は、単独使用または2種類以上併用することができる。なお、フェノールの誘導体において、フェノールが誘導体化(変性)されるタイミングは特に制限されない。例えば、フェノールの誘導体化は、フェノール類とアルデヒド類との反応前であってもよく、反応後であってもよく、反応と同時であってもよい。フェノール類として、好ましくは、フェノールが挙げられる。
【0044】
(3)アルデヒド類
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、フルフラール、グリオキサール、ベンズアルデヒド、トリオキサン、および、テトラオキサンが挙げられる。また、アルデヒドの一部が、フルフリルアルコールなどに置換されていてもよい。これらアルデヒド類は、単独使用または2種類以上併用することができる。アルデヒド類として、好ましくは、ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒドが挙げられる。
【0045】
また、アルデヒド類は、例えば、水溶液として用いることができる。そのような場合において、アルデヒド類の濃度は、例えば、10質量%以上、好ましくは、20質量%以上であり、例えば、99質量%以下、好ましくは、95質量%以下である。
【0046】
また、アルデヒド類とともに、ケトン類を使用することもできる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノン、および、ジフェニルケトンが挙げられる。これらケトン類は、単独使用または2種類以上併用することができる。ケトン類が使用される場合、ケトン類の量は、固形分基準で、アルデヒド類100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、1質量部以上である。また、ケトン類の量は、固形分基準で、アルデヒド類100質量部に対して、例えば、200質量部以下、好ましくは、100質量部以下である。
【0047】
(4)酸触媒
酸触媒としては、例えば、ルイス酸が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、有機酸、無機酸および金属塩が挙げられる。有機酸としては、例えば、カルボン酸化合物、スルホン酸化合物およびリン酸化合物が挙げられる。カルボン酸化合物としては、例えば、ギ酸、酢酸およびシュウ酸が挙げられる。スルホン酸化合物としては、例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、キュメンスルホン酸、ジノニルナフタレンモノスルホン酸、および、ジノニルナフタレンジスルホン酸が挙げられる。リン酸化合物としては、例えば、リン酸エステル類が挙げられる。リン酸エステル類として、より具体的には、例えば、炭素数1~18のアルキル基を有するリン酸エステル類が挙げられる。リン酸化合物としては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸モノブチル、リン酸ジブチル、リン酸トリブチル、および、リン酸トリオクチルが挙げられる。無機酸としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸および硝酸が挙げられる。金属塩としては、例えば、酢酸亜鉛、酢酸マンガン、酢酸カルシウム、酢酸鉛、ホウ酸亜鉛、ホウ酸マンガン、ホウ酸ニッケル、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛、酸化亜鉛、および、酸化鉛が挙げられる。酸触媒(ルイス酸)として金属塩が使用される場合、フェノールノボラック構造として、ハイオルソノボラック構造が形成されるため、硬化速度が向上する。これら酸触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。酸触媒として、好ましくは、有機酸、より好ましくは、カルボン酸化合物、さらに好ましくは、シュウ酸が挙げられる。
【0048】
(5)反応方法
リグニン類とフェノール類とアルデヒド類(および必要により配合されるケトン類(以下同様))とを反応させる方法は、特に制限されない。例えば、上記の各成分(リグニン類、フェノール類およびアルデヒド類)を配合し、加熱する。
【0049】
フェノール類の量は、リグニン類100質量部に対して、例えば、30質量部以上、好ましくは、50質量部以上、より好ましくは、100質量部以上である。また、フェノール類の量は、リグニン類100質量部に対して、例えば、1000質量部以下、好ましくは、500質量部以下、より好ましくは、350質量部以下である。換言すると、リグニン類の量は、フェノール類100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、30質量部以上である。また、リグニン類の量は、フェノール類100質量部に対して、例えば、300質量部以下、好ましくは、200質量部以下、より好ましくは、100質量部以下である。
【0050】
また、アルデヒド類の量が、フェノール類100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、10質量部以上である。また、アルデヒド類の量が、フェノール類100質量部に対して、例えば、35質量部以下、好ましくは、30質量部以下である。
【0051】
また、アルデヒド類の量は、リグニン類100質量部に対して、例えば、1.5質量部以上、好ましくは、3質量部以上である。また、アルデヒド類の量は、リグニン類100質量部に対して、例えば、350質量部以下、好ましくは、300質量部以下である。
【0052】
また、この反応では、上記の酸触媒が添加される。すなわち、上記の各成分は、酸触媒下において反応する。酸触媒の量は、フェノール類100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上である。また、酸触媒の量は、フェノール類100質量部に対して、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0053】
なお、酸触媒の添加のタイミングは、特に制限されない。例えば、酸触媒は、リグニン類、フェノール類およびアルデヒド類の少なくともいずれかに予め添加されていてもよい。また、酸触媒は、リグニン類、フェノール類およびアルデヒド類の配合時に同時に添加されてもよい。さらに、酸触媒は、リグニン類、フェノール類およびアルデヒド類の配合後に添加されてもよい。
【0054】
反応条件としては、大気圧下が挙げられる。また、反応温度が、例えば、50℃以上、好ましくは、80℃以上である。また、反応温度が、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。また、反応時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上である。また、反応時間が、例えば、20時間以下、好ましくは、15時間以下である。
【0055】
上記の反応により、リグニン類、フェノール類およびアルデヒド類の反応生成物として、ノボラック型フェノール樹脂が得られる。また、上記の反応により、ノボラック型フェノール樹脂を含む樹脂組成物が得られる。
【0056】
つまり、リグニン類、フェノール類およびアルデヒド類の反応生成物は、リグニン類により変性されたノボラック型フェノール樹脂である。より具体的には、酸触媒下におけるフェノール類とアルデヒド類との反応によって、ノボラック型フェノール樹脂が得られ、また、そのノボラック型フェノール樹脂が、リグニン類により変性される。すなわち、上記の反応では、リグニン類により変性されたノボラック型フェノール樹脂が得られる。また、上記の反応では、反応生成物(ノボラック型フェノール樹脂)を含む反応液として、樹脂組成物が、得られる。
【0057】
なお、この方法では、リグニン類とフェノール類とアルデヒド類とを、一括反応させてもよい。また、この方法では、リグニン類とフェノール類とアルデヒド類とを、順次反応させてもよい。
【0058】
順次反応では、例えば、まず、リグニン類とフェノール類とを反応させ、一次反応生成物を得る。次いで、一次反応生成物と、アルデヒド類とを反応させて、二次反応生成物を得る。
【0059】
より具体的には、順次反応では、まず、リグニン類とフェノール類とを反応させる。リグニン類とフェノール類との反応では、リグニン類に対してフェノール類は過剰当量配合される。具体的には、フェノール類の量は、リグニン類100質量部に対して、例えば、30質量部以上、好ましくは、50質量部以上、より好ましくは、100質量部以上である。また、フェノール類の量は、リグニン類100質量部に対して、例えば、1000質量部以下、好ましくは、500質量部以下、より好ましくは、350質量部以下である。換言すると、リグニン類の量は、フェノール類100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、30質量部以上である。また、リグニン類の量は、フェノール類100質量部に対して、例えば、300質量部以下、好ましくは、200質量部以下、より好ましくは、100質量部以下である。
【0060】
また、この反応では、上記の酸触媒が添加される。酸触媒の量は、フェノール類100質量部に対して、例えば、0.1質量部以上、好ましくは、0.3質量部以上である。また、酸触媒の量は、フェノール類100質量部に対して、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下である。
【0061】
なお、酸触媒の添加のタイミングは、特に制限されない。例えば、酸触媒は、リグニン類およびフェノール類の少なくともいずれかに予め添加されていてもよい。また、酸触媒は、リグニン類およびフェノール類の配合時に同時に添加されてもよい。また、酸触媒は、リグニン類およびフェノール類の配合後に添加されてもよい。
【0062】
反応条件としては、大気圧下が挙げられる。また、反応温度が、例えば、60℃以上、好ましくは、80℃以上である。また、反応温度が、例えば、250℃以下、好ましくは、200℃以下である。また、反応時間が、例えば、0.5時間以上、好ましくは、1時間以上である。また、反応時間が、例えば、10時間以下、好ましくは、5時間以下である。
【0063】
この反応により、リグニン類がフェノール類により変性される。具体的には、リグニン類の分子中の脂肪族水酸基が、フェノール類に置換される。これにより、リグニン類およびフェノール類の反応生成物(一次反応生成物)を含む組成物(リグニン-フェノール組成物)が得られる。
【0064】
なお、上記の反応では、過剰のフェノール類が、未反応成分として残存する。そのため、上記の反応で得られるリグニン-フェノール組成物には、リグニン類およびフェノール類の反応生成物(フェノール類により変性されたリグニン類)と、遊離のフェノール類とが含有される。
【0065】
次いで、この方法では、上記により得られるリグニン-フェノール組成物(すなわち、フェノール類により変性されたリグニン類、および、遊離のフェノール類を含む。)と、アルデヒド類とを反応させる。
【0066】
この反応において、アルデヒド類の量は、フェノール類(上記反応において原料として用いられたフェノール類)100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、10質量部以上である。また、アルデヒド類の量は、フェノール類(上記反応において原料として用いられたフェノール類)100質量部に対して、例えば、35質量部以下、好ましくは、30質量部以下である。
【0067】
また、この反応では、必要に応じて、上記の酸触媒を適宜の割合で添加することもできる。
【0068】
反応条件としては、大気圧下が挙げられる。また、反応温度が、例えば、50℃以上、好ましくは、80℃以上である。また、反応温度が、例えば、200℃以下、好ましくは、180℃以下である。また、反応時間が、例えば、1時間以上、好ましくは、2時間以上である。また、反応時間が、例えば、20時間以下、好ましくは、15時間以下である。
【0069】
また、必要により、蒸留などの公知の方法によって、未反応原料(未反応のフェノール類など)や酸触媒が除去される。
【0070】
これにより、上記のリグニン-フェノール組成物と、アルデヒド類とが反応し、反応生成物(二次反応生成物)として、リグニン類により変性されたノボラック型フェノール樹脂が得られる。また、二次反応生成物(ノボラック型フェノール樹脂)を含む反応液として、樹脂組成物が、得られる。
【0071】
(5)添加剤
樹脂組成物は、添加剤を含有できる。添加剤としては、特に制限されず、公知の添加剤が使用される。添加剤としては、例えば、硬化剤、充填材、離型剤、着色剤、可塑剤および安定剤が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。添加剤として、好ましくは、硬化剤、充填材および離型剤が挙げられる。
【0072】
硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂硬化剤が挙げられる。フェノール樹脂硬化剤としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、メチロールメラミンおよびメチロール尿素が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。フェノール樹脂硬化剤として、好ましくは、ヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。
【0073】
充填材としては、例えば、木粉、パルプおよびガラス繊維が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。充填材として、好ましくは、木粉およびガラス繊維が挙げられる。耐熱性の観点から、より好ましくは、木粉が挙げられる。耐水性の観点から、より好ましくは、ガラス繊維が挙げられる。
【0074】
離型剤としては、例えば、金属石鹸が挙げられる。金属石鹸としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムおよびステアリン酸亜鉛が挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用できる。金属石鹸として、好ましくは、ステアリン酸亜鉛が挙げられる。
【0075】
添加剤の配合割合は、本発明の優れた効果を阻害しない範囲において、目的および用途に応じて、適宜設定される。
【0076】
例えば、添加剤として、硬化剤が使用される場合、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、硬化剤の量が、例えば、1質量部以上、好ましくは、2質量部以上である。また、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、硬化剤の量が、例えば、100質量部以下、好ましくは、50質量部以下である。
【0077】
また、例えば、添加剤として、充填材が使用される場合、例えば、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、充填材の量が、例えば、10質量部以上、好ましくは、20質量部以上である。また、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、充填材の量が、例えば、300質量部以下、好ましくは、200質量部以下である。
【0078】
また、例えば、添加剤として、離型剤が使用される場合、例えば、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、離型剤の量が、例えば、0.01質量部以上、好ましくは、0.1質量部以上である。また、ノボラック型フェノール樹脂100質量部に対して、離型剤の量が、例えば、50質量部以下、好ましくは、20質量部以下である。
【0079】
添加剤を添加するタイミングは、特に制限されない。添加剤は、例えば、リグニン類、フェノール類および/またはアルデヒド類に、予め添加されていてもよい。また、添加剤は、例えば、ノボラック型フェノール樹脂を製造するときに、リグニン類、フェノール類および/またはアルデヒド類と同時に混合されていてもよい。また、添加剤は、ノボラック型フェノール樹脂の製造後、ノボラック型フェノール樹脂に対して添加されていてもよい。
【0080】
添加剤は、好ましくは、ノボラック型フェノール樹脂の製造後、ノボラック型フェノール樹脂に対して添加される。そして、添加剤およびノボラック型フェノール樹脂は、必要に応じて、混練される。
【0081】
混練方法は、特に制限されない。例えば、公知の混練機が使用される。混練機としては、例えば、単軸押出機、多軸押出機、ロール混練機、ニーダー、ヘンシエルミキサーおよびバンバリーミキサーが挙げられる。
【0082】
混練条件としては、特に制限されない。例えば、混練温度が、例えば、80℃以上、好ましくは、90℃以上、より好ましくは、100℃以上である。また、混練温度が、例えば、180℃以下、好ましくは、170℃以下、より好ましくは、160℃以下である。また、混練時間が、例えば、3分以上、好ましくは、5分以上である。また、混練時間が、例えば、30分以下、好ましくは、20分以下である。
【0083】
これにより、ノボラック型フェノール樹脂と添加剤とを含む樹脂組成物が、得られる。
【0084】
(6)作用効果
上記のノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含有する。そして、リグニン類の、N,N-ジメチルホルムアミドに対する溶解率が、所定値以下である。そのため、ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物は、優れた耐熱性と優れた耐水性とを有する成形品を、得ることができる。
【0085】
そのため、上記の樹脂組成物は、成形品の製造において、好適に使用される。
【0086】
2.成形品
(1)成形品の製造
成形品の製造では、例えば、熱硬化性樹脂を成形するための公知の成形方法によって、上記の樹脂組成物を成形する。成形方法として、より具体的には、トランスファ成形および圧縮成形が挙げられる。
【0087】
成形条件は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。より具体的には、成形温度が、例えば、120℃以上、好ましくは、150℃以上である。また、成形温度が、例えば、250℃以下、好ましくは、200℃以下である。成形時間が、例えば、1分以上、好ましくは、5分以上である。また、成形時間が、例えば、30分以下、好ましくは、15分以下である。
【0088】
これにより、成形品が製造される。成形品は、必要に応じて、養生される。
【0089】
養生条件は、特に制限されず、目的および用途に応じて、適宜設定される。より具体的には、養生温度が、例えば、120℃以上、好ましくは、150℃以上である。また、養生温度が、例えば、250℃以下、好ましくは、200℃以下である。養生時間が、例えば、30分以上、好ましくは、60分以上である。また、養生時間が、例えば、300分以下、好ましくは、150分以下である。
【0090】
(2)作用効果
上記の成形品は、上記の樹脂組成物を成形することにより得られる。上記の樹脂組成物は、リグニン類と、フェノール類と、アルデヒド類とを、酸触媒下で反応させた反応生成物を含有する。そして、リグニン類の、N,N-ジメチルホルムアミドに対する溶解率が、所定値以下である。そのため、ノボラック型フェノール樹脂および樹脂組成物は、優れた耐熱性と優れた耐水性とを有する成形品を、得ることができる。
【0091】
そのため、上記の成形品は、耐熱性および耐水性の両立が要求される各種産業分野において、広範に使用される。そのような産業分野としては、例えば、電気部品分野、自動車部品分野、建築材料分野および日用品分野が挙げられる。
【実施例0092】
次に、本発明を、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0093】
1.PEG変性リグニン
製造例1(未加熱のPEG200変性リグニン)
<PEG変性リグニンの製造>
以下の方法で、数平均分子量200のポリエチレングリコールにより変性されたリグニン(以下、PEG200変性リグニン)を製造した。
【0094】
すなわち、市販の数平均分子量200のポリエチレングリコール(以下、PEG200)230質量部と、酸触媒としての硫酸0.69質量部(100質量部のPEG200に対して、0.3質量部)を、反応容器に入れて撹拌した。次いで、絶乾スギ木粉46質量部を、反応容器に投入し、常圧下140℃に昇温して、撹拌しながら90分反応させた。次いで、反応容器を冷却し、温度が40℃以下になったことを確認した後、水酸化ナトリウム(0.2mol/L)を280質量部投入して、30分間撹拌した。次いで、得られた固形成分(パルプ)を、フィルタープレスにより除去し、溶液成分を回収した。次いで、得られた溶液成分に、硫酸を添加し、pHを2.0に調整した。これにより、PEG200変性リグニンの懸濁液を得た。その後、PEG200変性リグニンを、遠心分離により回収した。これにより、未加熱のPEG200変性リグニンを得た。
【0095】
<DMF溶解率の測定>
PEG200変性リグニンの25℃におけるDMF溶解率を、以下の方法で測定した。
【0096】
まず、1gのPEG変性リグニンを採取し、サンプルを得た。つまり、サンプルの質量を1gとした。サンプルの105℃における含水率を、水分計(HS153、メトラー・トレド社製)により測定した。
【0097】
次いで、25℃において、サンプル1gを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)10gに混合し、これらを10分間撹拌した。次いで、PEG変性リグニンとDMFとの混合物を、減圧濾過した。減圧濾過では、Advantec製GA-100ガラス繊維濾紙を使用した。次いで、濾紙上に2gのジメチルホルムアミドを加えて、濾過残渣を洗浄した。次いで、濾紙および濾過残渣を、乾燥させた。
【0098】
その後、25℃において、濾過残渣の質量を測定した。そして、下記式を使用し、サンプル(PEG200変性リグニン)のDMF溶解率を算出した。その結果を、表1に示す。
【0099】
【数1】
【0100】
製造例2(未加熱のPEG400変性リグニン)
数平均分子量200のポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量400のポリエチレングリコール(以下、PEG400)を用いた以外は、製造例1と同じ方法で、未加熱のPEG400変性リグニンを得た。
【0101】
製造例1と同じ方法で、PEG400変性リグニンの25℃におけるDMF溶解率を算出した。その結果を、表1に示す。
【0102】
製造例3(未加熱のPEG600変性リグニン)
数平均分子量200のポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量600のポリエチレングリコール(以下、PEG600-を用いた以外は、製造例1と同じ方法で、未加熱のPEG600変性リグニンを得た。
【0103】
製造例1と同じ方法で、PEG600変性リグニンの25℃におけるDMF溶解率を算出した。その結果を、表1に示す。
【0104】
2.加熱変性リグニン
製造例4(加熱PEG200変性リグニン)
製造例1で得られた未加熱のPEG200変性リグニンを、送風乾燥機により、180℃で4時間熱処理した。これにより、熱処理(180℃×4時間)されたPEG200変性リグニン(加熱PEG200変性リグニン)を得た。
【0105】
製造例1と同じ方法で、熱処理されたPEG200変性リグニン(加熱PEG200変性リグニン)の25℃におけるDMF溶解率を算出した。その結果を、表2に示す。
【0106】
製造例5(加熱PEG400変性リグニン)
製造例2で得られた未加熱のPEG400変性リグニンを、180℃で4時間熱処理した。これにより、熱処理(180℃×4時間)されたPEG400変性リグニン(加熱PEG400変性リグニン)を得た。
【0107】
製造例1と同じ方法で、熱処理されたPEG400変性リグニン(加熱PEG400変性リグニン)の25℃におけるDMF溶解率を算出した。その結果を、表2に示す。
【0108】
製造例6(加熱PEG600変性リグニン)
製造例6で得られた未加熱のPEG600変性リグニンを、180℃で4時間熱処理した。これにより、熱処理(180℃×4時間)されたPEG600変性リグニン(加熱PEG600変性リグニン)を得た。
【0109】
製造例1と同じ方法で、熱処理されたPEG600変性リグニン(加熱PEG600変性リグニン)の25℃におけるDMF溶解率を算出した。その結果を、表2に示す。
【0110】
2.PEG変性リグニン-ノボラック樹脂
比較例1(PEG200変性リグニン-ノボラック樹脂)
フェノール493.5gをフラスコに入れ、50℃程度まで加熱してフェノールを液化させ、その後、製造例1のPEG200変性リグニン150gを添加した。
【0111】
次いで、フラスコに、シュウ酸(酸触媒)7.62gと、パラホルムアルデヒド117.3gを添加し、フラスコの内容物を95℃で2.5時間反応させた。次いで、フラスコの内容物を、0.5℃/minで110℃まで昇温し、110℃で1.5時間反応させた。次いで、フラスコの内容物を、0.5℃/minで120℃まで昇温し、120℃で2時間反応させた。
【0112】
反応後、フラスコに、2300gの水を添加し、フラスコの内容物を強く撹拌した。次いで、フラスコの内容物を静置し、デカンテーションによって水、シュウ酸およびフェノールを除去した。さらに、フラスコ内に水を加えながら、120℃および0.08MPaの条件で減圧蒸留し、残留フェノールを除去した。なお、減圧蒸留はフェノール残存率が1%以下になるまで繰り返した。
【0113】
これにより、PEG200変性リグニンにより変性されたノボラック型フェノール樹脂(PEG200リグニン-ノボラック樹脂)を得た。
【0114】
また、仕込んだフェノールの量から、残留フェノールの量を除くことにより、リグニン類と反応したフェノール量を算出した。その結果、フェノール(Ph)100質量部に対するリグニン類(L)の量は、25質量部であった(Ph:L=100:25)。
【0115】
比較例2(PEG400変性リグニン-ノボラック樹脂)
製造例1のPEG200変性リグニンに代えて、製造例2のPEG400変性リグニンを使用した。これ以外は、比較例1と同じ方法で、PEG400変性リグニンにより変性されたノボラック型フェノール樹脂(PEG400リグニン-ノボラック樹脂)を得た。フェノール(Ph)100質量部に対するリグニン類(L)の量は、25質量部であった(Ph:L=100:25)。
【0116】
比較例3(PEG600変性リグニン-ノボラック樹脂)
製造例1のPEG200変性リグニンに代えて、製造例3のPEG600変性リグニンを使用した。これ以外は、比較例1と同じ方法で、PEG600変性リグニンにより変性されたノボラック型フェノール樹脂(PEG600リグニン-ノボラック樹脂)を得た。フェノール(Ph)100質量部に対するリグニン類(L)の量は、25質量部であった(Ph:L=100:25)。
【0117】
実施例1(加熱PEG200変性リグニン-ノボラック樹脂)
製造例1のPEG200変性リグニンに代えて、製造例4の加熱PEG200変性リグニンを使用した。これ以外は、比較例1と同じ方法で、加熱PEG200変性リグニンにより変性されたノボラック型フェノール樹脂(加熱PEG200リグニン-ノボラック樹脂)を得た。フェノール(Ph)100質量部に対するリグニン類(L)の量は、25質量部であった(Ph:L=100:25)。
【0118】
実施例2(加熱PEG400変性リグニン-ノボラック樹脂)
製造例1のPEG200変性リグニンに代えて、製造例5の加熱PEG400変性リグニンを使用した。これ以外は、比較例1と同じ方法で、加熱PEG400変性リグニンにより変性されたノボラック型フェノール樹脂(加熱PEG400リグニン-ノボラック樹脂)を得た。フェノール(Ph)100質量部に対するリグニン類(L)の量は、25質量部であった(Ph:L=100:25)。
【0119】
実施例3(加熱PEG600変性リグニン-ノボラック樹脂)
製造例1のPEG200変性リグニンに代えて、製造例6の加熱PEG600変性リグニンを使用した。これ以外は、比較例1と同じ方法で、加熱PEG600変性リグニンにより変性されたノボラック型フェノール樹脂(加熱PEG400リグニン-ノボラック樹脂)を得た。フェノール(Ph)100質量部に対するリグニン類(L)の量は、25質量部であった(Ph:L=100:25)。
【0120】
3.樹脂組成物
比較例4~6および実施例4~6
表1~表2に記載の処方で、比較例1~3および実施例1~3のノボラック型フェノール樹脂と、充填材としての木粉(旭有機材工業社製)と、硬化剤としてのヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミン、リグナイト社製)と、離型剤としてのステアリン酸亜鉛(和光純薬工業社製)とを順次配合し、2本の熱ロールにて100℃で5分間混練して、樹脂組成物を得た。
【0121】
4.評価
各実施例および各比較例で得られた樹脂組成物を、170℃で15分間トランスファ成形し、成形品を得た。また、成形品を、180℃で2時間、加熱養生した。その後、成形品を、以下の方法で評価した。
【0122】
(1)ガラス転移温度(耐熱性)
Rheogel-E4000(ユ-ビーエム社製)を用い、固体動的粘弾性を測定した(周波数1Hz、昇温速度2℃/分)。そして、得られるtanδ曲線のピーク温度を、ガラス転移温度(Tg)として求めた。
【0123】
(2)荷重たわみ温度(耐熱性)
ASTMD648(2004年版)に準拠して、ヒートディストーションテスター(マイズ試験機製)を用い、シリコーンオイル中において、昇温速度2℃/分、荷重18.5kg/cmの条件で、標準たわみ量(0.25mm)に到達したときの温度を測定した。
【0124】
(3)吸水率(耐水性)
成形品の初期質量(乾燥質量)を測定した。次いで、成形品を沸騰水に2時間浸漬した。その後、成形品の質量(吸水質量)および増加量を測定した。そして、下記式により、成形品の吸水率を求めた。
【0125】
吸水率(質量%)=100×(沸騰水の浸漬後における質量増加量/乾燥質量)
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】