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特開2024-141244移動体無線通信性能推定システム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141244
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】移動体無線通信性能推定システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04W 36/30 20090101AFI20241003BHJP
   H04W 24/08 20090101ALI20241003BHJP
【FI】
H04W36/30
H04W24/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052775
(22)【出願日】2023-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発「リアルタイムアプリケーションを支える動的制御型周波数共用技術に関する研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】大堀 文子
(72)【発明者】
【氏名】板谷 聡子
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 徹
(72)【発明者】
【氏名】松村 武
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA23
5K067EE02
5K067EE10
5K067HH22
(57)【要約】
【課題】アクセスポイントへの切り替えを、通信品質を極力維持しつつ、余分な情報のやり取りを発生させることなく実現する。
【解決手段】何れかのアクセスポイント2と移動体3との間で、互いに無線通信するパケットの電波強度を計測し、計測した電波強度が第1閾値以上か否かを、一の計測スロットに含まれる複数の各パケットについてそれぞれ判定し、判定した各パケットの判定結果に基づいて、通信可能状態又は通信途絶状態の何れかを計測スロット単位で判別する際に、時系列的に直前の前計測スロットが通信途絶状態であるか否かに加え、判別対象の現計測スロットにおいてパケットが第1閾値以上か否かに基づいて判別を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各アクセスポイントに対する移動体の無線通信性能を推定する移動体無線通信性能推定システムにおいて、
何れかの上記アクセスポイントと上記移動体との間で、互いに無線通信するパケットの電波強度を計測する電波強度計測手段と、
上記電波強度計測手段により計測された電波強度が第1閾値以上か否かを、一の計測スロットに含まれる複数の各パケットについてそれぞれ判定する第1閾値判定手段と、
上記第1閾値判定手段により判定された各パケットの判定結果に基づいて、通信可能状態又は通信途絶状態の何れかを上記計測スロット単位で判別する通信状態判別手段とを備え、
上記通信状態判別手段は、
時系列的に直前の前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ判別対象の現計 測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値未満である場合は、当該現計測スロット を通信途絶状態と判別し、
上記前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて 1以上のパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と 判別し、
上記前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて 全てのパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と判 別し、
上記前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて 現計測スロットにおいて第1閾値以上のパケットを1つも受信しなかった場合は、当該 現計測スロットを通信途絶状態と判別すること
を特徴とする移動体無線通信性能推定システム。
【請求項2】
連続する複数の計測スロットで構成される閾値算出期間内において、通信可能状態と通信途絶状態との間の移行回数を計測する移行回数計測手段と、
上記移行回数計測手段により計測された移行回数が第2閾値以上である場合には、無線通信性能が異常であるものと推定し、上記移行回数が第2閾値未満である場合には、無線通信性能が正常であるものと推定する無線通信性能推定手段とを備えること
を特徴とする請求項1記載の移動体無線通信性能推定システム。
【請求項3】
上記移行回数計測手段は、事前に上記移動体を走行させつつ、上記閾値算出期間内において移行回数を計測することを複数回行い、計測した移行回数の最大値を上記第2閾値として設定すること
を特徴とする請求項2記載の移動体無線通信性能推定システム。
【請求項4】
上記移行回数計測手段は、計測移行回数の最大値に更にオフセット値を加算したものを上記第2閾値として設定すること
を特徴とする請求項3記載の移動体無線通信性能推定システム。
【請求項5】
上記無線通信性能推定手段による推定結果に基づいて、上記移動体と無線通信するアクセスポイントを切り替え制御する切替制御手段をさらに備えること
を特徴とする請求項2記載の移動体無線通信性能推定システム。
【請求項6】
各アクセスポイントに対する移動体の無線通信性能を推定する移動体無線通信性能推定方法において、
何れかの上記アクセスポイントと上記移動体との間で、互いに無線通信するパケットの電波強度を計測する電波強度計測ステップと、
上記電波強度計測ステップにおいて計測した電波強度が第1閾値以上か否かを、一の計測スロットに含まれる複数の各パケットについてそれぞれ判定する第1閾値判定ステップと、
上記第1閾値判定ステップにおいて判定した各パケットの判定結果に基づいて、通信可能状態又は通信途絶状態の何れかを上記計測スロット単位で判別する通信状態判別ステップとを有し、
上記通信状態判別ステップでは、
時系列的に直前の前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ判別対象の現計 測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値未満である場合は、当該現計測スロット を通信途絶状態と判別し、
上記前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて 1以上のパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と 判別し、
上記前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて 全てのパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と判 別し、
上記前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて 現計測スロットにおいて第1閾値以上のパケットを1つも受信しなかった場合は、当該 現計測スロットを通信途絶状態と判別すること
を特徴とする移動体無線通信性能推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各アクセスポイントに対する移動体の無線通信性能を推定する移動体無線通信性能推定システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製造現場では、Automated Guided Vehicle(AGV)やスタッカークレーンを始めとする無線により制御を行う自動搬送システム(移動体)の導入が進みつつある。この自動搬送システムでは、製造現場において複数のアクセスポイントを設置し、移動体がこれらの環境下において移動しつつ各アクセスポイントと無線通信を行う。このとき、移動体が無線接続しているアクセスポイントの通信可能エリアから出て、別のアクセスポイントの通信可能エリアに移る際には、無線接続するアクセスポイントの切り替えが必要となる。
【0003】
この移動体が無線接続するアクセスポイントを切り替える際においても通信品質を極力維持するために、切り替えのために無線通信が切断している時間を最小限に抑える必要がある。例えば、移動体が自らの位置情報をアクセスポイントに対して定期的に送信することにより、特定のエリアに移動体が入った場合にアクセスポイント側から切り替え指示を出してもらう方法も考えられる。しかしながら、かかる方法では移動体からアクセスポイントへの位置情報を定期的に送信しなければならない分において、余分なデータのやり取りが発生してしまう。
【0004】
また、特許文献1には、制御チャネルを利用し、アクセスポイントと移動体間のチャネルのリンク品質を通知することで、切断時間を短くする技術が開示されている。また特許文献2には、アクセスポイントと移動体間の距離と電波強度から、一定時間後に移動体がアクセスポイントの通信可能エリア外に移動するかを予め予測し、通信可能エリア外に位置する場合には移動体からアクセスポイントとの通信を切断する技術が開示されている。更に、特許文献3の開示技術は、移動体側において取得した無線通信品質に基づいて、接続するアクセスポイントを変更し、低品質な通信状態で遠方のアクセスポイントと通信し続けてしまう問題の解消を図るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-176336号公報
【特許文献2】特開2021-069018号公報
【特許文献3】特開2020-028004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の開示技術では、データ送信チャネルと制御チャネルの2つのチャネルがあることが前提となる。このため、アクセスポイントと移動体との間で1つの無線インターフェースしか確保できない場合には適用できないという問題点があった。また特許文献2の開示技術によれば、移動体の位置を取得して一定時間移動した後のアクセスポイントとの距離を予測できることが前提となる。このため屋内と屋外を往来する場合には、測位システムが混在し、しかもその測位精度は異なるため、1種類の閾値を介した無線通信性能の識別には適用できない。更に特許文献3の開示技術では、移動体側において取得した情報をアクセスポイントに送信する必要があるため、余分な情報のやり取りが発生し、これが本来の無線通信に対する干渉波となる場合も考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、移動体とアクセスポイント間の無線通信性能を識別して移動体自体がアクセスポイントの通信可能エリアの境界付近に位置するか否かを判定することにより、次のアクセスポイントへの切り替えを、通信品質を極力維持しつつ、無線通信が切断している時間をより短く抑え、しかも余分な情報のやり取りを発生させることなく実現可能な移動体無線通信性能推定システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る移動体無線通信性能推定システムは、各アクセスポイントに対する移動体の無線通信性能を推定する移動体無線通信性能推定システムにおいて、何れかの上記アクセスポイントと上記移動体との間で、互いに無線通信するパケットの電波強度を計測する電波強度計測手段と、上記電波強度計測手段により計測された電波強度が第1閾値以上か否かを、一の計測スロットに含まれる複数の各パケットについてそれぞれ判定する第1閾値判定手段と、上記第1閾値判定手段により判定された各パケットの判定結果に基づいて、通信可能状態又は通信途絶状態の何れかを上記計測スロット単位で判別する通信状態判別手段とを備え、上記通信状態判別手段は、時系列的に直前の前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ判別対象の現計測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値未満である場合は、当該現計測スロットを通信途絶状態と判別し、上記前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて1以上のパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と判別し、上記前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と判別し、上記前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおい現計測スロットにおいて第1閾値以上のパケットを1つも受信しなかった場合は、当該現計測スロットを通信途絶状態と判別することを特徴とする。
【0009】
第2発明に係る移動体無線通信性能推定システムは、第1発明において、連続する複数の計測スロットで構成される閾値算出期間内において、通信可能状態と通信途絶状態との間の移行回数を計測する移行回数計測手段と、上記移行回数計測手段により計測された移行回数が第2閾値以上である場合には、無線通信性能が異常であるものと推定し、上記移行回数が第2閾値未満である場合には、無線通信性能が正常であるものと推定する無線通信性能推定手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
第3発明に係る移動体無線通信性能推定システムは、第2発明において、上記移行回数計測手段は、事前に上記移動体を走行させつつ、上記閾値算出期間内において移行回数を計測することを複数回行い、計測した移行回数の最大値を上記第2閾値として設定することを特徴とする。
【0011】
第4発明に係る移動体無線通信性能推定システムは、第3発明において、上記移行回数計測手段は、計測移行回数の最大値に更にオフセット値を加算したものを上記第2閾値として設定することを特徴とする。
【0012】
第5発明に係る移動体無線通信性能推定システムは、第2発明において、上記無線通信性能推定手段による推定結果に基づいて、上記移動体と無線通信するアクセスポイントを切り替え制御する切替制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
第6発明に係る移動体無線通信性能推定方法は、各アクセスポイントに対する移動体の無線通信性能を推定する移動体無線通信性能推定方法において、何れかの上記アクセスポイントと上記移動体との間で、互いに無線通信するパケットの電波強度を計測する電波強度計測ステップと、上記電波強度計測ステップにおいて計測した電波強度が第1閾値以上か否かを、一の計測スロットに含まれる複数の各パケットについてそれぞれ判定する第1閾値判定ステップと、上記第1閾値判定ステップにおいて判定した各パケットの判定結果に基づいて、通信可能状態又は通信途絶状態の何れかを上記計測スロット単位で判別する通信状態判別ステップとを有し、上記通信状態判別ステップでは、時系列的に直前の前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ判別対象の現計測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値未満である場合は、当該現計測スロットを通信途絶状態と判別し、上記前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて1以上のパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と判別し、上記前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と判別し、上記前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ上記現計測スロットにおいて現計測スロットにおいて第1閾値以上のパケットを1つも受信しなかった場合は、当該現計測スロットを通信途絶状態と判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上述した構成からなる本発明によれば、移動体とアクセスポイント間の無線通信性能を識別して移動体自体がアクセスポイントの通信可能エリアの境界付近に位置するか否かを判定することにより、次のアクセスポイントへの切り替えを、通信品質を極力維持しつつ、無線通信が切断している時間をより短く抑え、しかも余分な情報のやり取りを発生させることなく実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明を適用した移動体無線通信性能推定システム1の想定環境を示す図である。
図2図2(a)は、無線通信の通信状態の判別をアクセスポイント側で行う場合におけるブロック構成を示す図であり、図2(b)は、無線通信の通信状態の判別を移動体側で行う場合におけるブロック構成を示す図である。
図3図3は、センサシステムのブロック構成図である。
図4図4は、第1閾値判定部及び状態判別部における処理動作について説明するための図である。
図5図5は、各計測スロット単位で通信可能状態、通信途絶状態を判別した例を示す図である。
図6図6は、判別対象の現計測スロットの状態判別方法の詳細について説明するための図である。
図7図7(a)は、アクセスポイントの無線通信エリア内に移動体が位置している例を示す図であり、図7(b)は、移動体がアクセスポイント間の無線通信エリアの境界近傍に位置している例を示す図である。
図8図8は、無線通信性能の正常性を判定する具体的な方法について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した移動体無線通信性能推定システム1について、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0017】
図1は、本発明を適用した移動体無線通信性能推定システム1の想定環境を示す図である。移動体無線通信性能推定システム1は、複数箇所に点在しているアクセスポイント2と、このアクセスポイント2が点在しているエリアを自在に移動する移動体3とを備えている。
【0018】
アクセスポイント2は、例えば工場等における製造機器や、これら製造機器を検査するための検査機器等に接続され、移動体3と無線通信する、いわゆる基地局としての役割を担うものである。また、このアクセスポイント2は、インターネット等を始めとした公衆通信網との間においてインターフェースとしての役割を果たす。即ち、アクセスポイント2は、これを介して移動体3がインターネット等を始めとした公衆通信網との間で無線信号の送受信を行うことを可能とするための中継手段を担うこともできる。
【0019】
移動体3は、工場内を走行するAutomated Guided Vehicle(AGV)やスタッカークレーンを始めとする無線により制御が行われる無線通信デバイスである。この移動体3は、図示しない移動手段と無線通信手段とを備えている。この無線通信手段としては、アクセスポイント2との間で無線通信が可能であれば、周知の無線通信技術が実装されていればいかなる構成が具現化されるものであってもよい。この無線通信手段としては、例えば携帯電話機、スマートフォン、モバイル型パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット型端末、ウェアラブル端末が適用されるものであってもよい。
【0020】
これらアクセスポイント2、移動体3は、工場を始めとする製造ラインに設けられる場合に限定されるものではなく、他のいかなる箇所に配設されるものであってもよい。
【0021】
この移動体無線通信性能推定システム1では、このアクセスポイント2と移動体3との間で行われる無線通信の通信状態を判別する。この通信状態の判別は、アクセスポイント2側にて行うようにしてもよいし、移動体3側にて行うようにしてもよい。
【0022】
図2(a)は、無線通信の通信状態の判別をアクセスポイント2側で行う場合におけるブロック構成を示す図である。アクセスポイント2は、切替制御部21を備える。また、このアクセスポイント2には、更にセンサシステム5が接続されている。アクセスポイント2は、近距離無線ネットワーク7を介して移動体3と無線接続される。移動体3側にも同様に切替制御部22を備える。
【0023】
図2(b)は、無線通信の通信状態の判別を移動体3側で行う場合におけるブロック構成を示す図である。かかる場合には、移動体3に対してセンサシステム5が接続されている。アクセスポイント2は、近距離無線ネットワーク7を介して移動体3と無線接続される。
【0024】
切替制御部21、22は、移動体3が無線接続しているアクセスポイント2の通信可能エリアから出て、別のアクセスポイント2の通信可能エリアに移る際の、無線接続するアクセスポイントの切り替えを制御する。
【0025】
センサシステム5は、互いに無線通信するパケットの電波強度を計測し、通信状態を判別した上で、無線通信性能を推定する。
【0026】
図3は、センサシステム5のブロック構成を示している。センサシステム5は、大きく分類して、状態判定モジュール30と、異常判定モジュール40とを有している。
【0027】
状態判定モジュール30は、電波強度計測部31と、電波強度計測部31に接続された第1閾値判定部32と、第1閾値判定部32に接続された状態判別部33と、状態判別部33に接続された状態カウンタ34とを備えている。
【0028】
異常判定モジュール40は、状態判定モジュール30中の状態カウンタ34にそれぞれ接続されている第2閾値設定部41及び異常推定部42とを備えている。第2閾値設定部41と異常推定部42とは、互いに接続されている。
【0029】
電波強度計測部31は、受信するパケットの電波を受信する図示しないアンテナを有し、この図示しないアンテナを介して受信したパケットの電波強度を計測する機能を有している。電波強度計測部31は、パケットを受信する都度、その電波強度を計測し、その計測結果を第1閾値判定部32へと送信する。
【0030】
第1閾値判定部32は、電波強度計測部31により計測された各パケットの電波強度が都度送信されてくる。第1閾値判定部32は、この送信されてくる電波強度について、図4に示すように、予め取得している第1閾値と比較する。そしてこの第1閾値判定部32は、各パケットの電波強度が第1閾値以上であるか否かを判定する。第1閾値判定部32は、このパケット毎の電波強度の判定結果を、状態判別部33へと通知する。
【0031】
状態判別部33は、パケット毎の電波強度の判定結果が第1閾値判定部32から通知される。状態判別部33は、パケット毎の電波強度の判定結果を、複数の各パケットからなる計測スロット単位で集計する。そして、この計測スロット単位で通信可能状態又は通信途絶状態の何れかを判別する。通信可能状態とは、現在無線通信しているアクセスポイント2と移動体3とが互いに安定して無線通信ができている状態であり、通信途絶状態とは、現在通信している、或いは現在通信を試みようとしているアクセスポイント2と移動体3とが互いに安定して無線通信ができず、又は通信が途絶状態になっていることを意味する。
【0032】
状態判別部33は、この通信可能状態又は通信途絶状態の何れかの状態判別を、1つのパケットの電波強度と第1閾値との関係のみならず、計測スロットに含まれる全てのパケットの電波強度と第1閾値との関係に基づいて行う。この状態判別部33による判別方法は、後段において詳述する。状態判別部33は、状態判別の結果を計測スロット単位で状態カウンタ34へ送信する。
【0033】
状態カウンタ34は、状態判別部33から送信されてきた計測スロット毎の状態判別の結果を蓄積しこれを集計する。状態カウンタ34は、閾値算出期間に相当する複数の計測スロットの数だけこの状態判別の結果を蓄積し、第2閾値設定部41にこれを送信することを繰り返し実行する。また状態カウンタ34は、実際に無線通信の通信状態の判別を行うアクセスポイント2と移動体3との状態判別の結果が送信されてきた場合には、閾値算出期間に相当する複数の計測スロットの数だけこの状態判別の結果を蓄積し、これを異常推定部42へと送信する。
【0034】
第2閾値設定部41は、閾値算出期間に相当する複数の計測スロットの数だけこの状態判別の結果が状態カウンタ34から送信されてくる。第2閾値設定部41は、送信されてきた閾値算出期間に亘る各計測スロットの状態判別結果に基づいて第2閾値を設定する。第2閾値の詳細な設定方法は、後段において詳述する。
【0035】
異常推定部42は、状態カウンタ34から実際に無線通信の通信状態の判別を行う閾値算出期間に相当する各計測スロットについて状態判別の結果が送信されてくる。また異常推定部42は、第2閾値設定部41において設定された第2閾値が送信されてくる。異常推定部42は、この閾値算出期間分の各計測スロットの状態判別の結果と、第2閾値とに基づいて、無線通信性能が正常であるか、又は異常であるかを推定する。この推定方法の詳細は、後段において詳述する。
【0036】
上述した構成からなるセンサシステム5が図2(a)に示すようにアクセスポイント2側において接続されることで、移動体3から受信するパケットの電波強度に基づいてアクセスポイント2側において無線通信性能を推定することができる。一方、上述した構成からなるセンサシステム5が図2(b)に示すように移動体3側において接続されることで、アクセスポイント2から受信するパケットの電波強度に基づいて移動体3側において無線通信性能を推定することができる。
【0037】
次に、本発明を適用した移動体無線通信性能推定システム1の動作について説明をする。
【0038】
先ずセンサシステム5における電波強度計測部31により、受信した各パケットについて電波強度を測定する。そして第1閾値判定部32により、各パケットの電波強度が第1閾値以上であるか、第1閾値未満であるか否か判定する。次に状態判別部33において、複数のパケットで構成される計測スロット単位で通信可能状態、又は通信途絶状態の何れかを判別する。図5は、この各計測スロット単位で通信可能状態、通信途絶状態を判別した例を示している。状態判別部33は、パケットの電波強度が第1閾値を超えているか否かの状況を、1つのパケット単位ではなく、計測スロットを構成する全てのパケットを考慮した上で、通信可能状態、通信途絶状態を特定する。
【0039】
このとき、図6に示すように、判別対象の現計測スロットの状態判別を行う上で、時系列的に直前の前計測スロットが通信途絶状態であるか、通信可能状態であるか否かに基づくようにしてもよい。
【0040】
時系列的に直前の前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ判別対象の現計測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値未満である場合、換言すれば、現計測スロットにおいて、第1閾値以上のパケットを一つも受信しなかった場合は、当該現計測スロットを通信途絶状態と判別する。
【0041】
また、前計測スロットが通信途絶状態である場合で、かつ現計測スロットにおいて1以上のパケットが第1閾値以上である場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と判別する。
【0042】
また、前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ現計測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値以上である場合、換言すれば現計測スロット内で第1閾値以上のパケットを一つでも受信した場合であって、かつ計測スロット内での第1閾値未満のパケットを一つも受信しなかった場合は、当該現計測スロットを通信可能状態と判別する。
【0043】
更に、前計測スロットが通信可能状態である場合で、かつ現計測スロットにおいて現計測スロットにおいて第1閾値以上のパケットを1つも受信しなかった場合は、当該現計測スロットを通信途絶状態と判別する。
【0044】
図5に示す例では、現計測スロットが、計測スロットS1である場合は、全てのパケットが何れも第1閾値未満となっている。計測スロットS1の直前の前計測スロットS0が通信途絶状態であると仮定したとき、計測スロットS1は、通信途絶状態と判別される。
【0045】
次に、計測スロットS2が現計測スロットとなるが、前計測スロット(計測スロットS1)が通信途絶状態である場合で、かつ現計測スロットにおいて1以上のパケットが第1閾値以上である場合に相当する。このため、計測スロットS1から計測スロットS2にかけて、通信途絶状態から通信可能状態へ移行する。
【0046】
次に、計測スロットS3が現計測スロットとなるが、前計測スロット(計測スロットS2)が通信可能状態である場合で、かつ現計測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値以上に相当するため、計測スロットS3は引き続き通信可能状態となる。
【0047】
次に、計測スロットS4が現計測スロットとなるが、前計測スロット(計測スロットS3)が通信可能状態である場合で、かつ現計測スロットにおいて全てのパケットが第1閾値以上に相当するため、計測スロットS4は引き続き通信可能状態となる。
【0048】
次に、計測スロットS5が現計測スロットとなるが、前計測スロット(計測スロットS4)が通信可能状態である場合で、かつ現計測スロットにおいて現計測スロットにおいて第1閾値以上のパケットを1つも受信しなかった場合に相当するため、通信途絶状態となる。このため、計測スロットS4から計測スロットS5にかけて、通信可能状態から通信途絶状態へ移行する。
【0049】
更に現計測スロットが、計測スロットS6である場合は、全てのパケットが何れも第1閾値未満となっている。計測スロットS6の直前の前計測スロットS5が通信途絶状態であることから、計測スロットS6は、引き続き通信途絶状態となる。
【0050】
このようにして、状態判別部33における計測スロット毎の通信可能状態又は通信途絶状態の状態判別を実行していく。そして、この状態判別に基づいて、更に、現在通信しているアクセスポイント2と移動体3間における無線通信性能を異常推定部42において推定するようにしてもよい。
【0051】
この無線通信性能の推定は、例えば図7(a)に示すようにアクセスポイント2aの無線通信エリア内に移動体3が位置している場合には、安定した状態で当該アクセスポイント2aと無線接続して無線通信を継続することができる。かかる場合は、移動体3はアクセスポイント2aとの間で無線通信性能が正常となる。一方、図7(b)に示すように移動体3がアクセスポイント2aとアクセスポイント2bとの無線通信エリアの境界近傍に位置しているときには、アクセスポイント2aに対して移動体3が常時接続できない可能性もあり、場合によってはアクセスポイント2b側に接続されてしまう場合もある。かかる場合には、移動体3は、アクセスポイント2aとの間で無線通信性能が異常となる。この異常の状態を早めに検知することができれば、次のアクセスポイント2への切り替えを早期に実行することが可能となる。
【0052】
この移動体3とアクセスポイント2への無線通信性能が正常であるか異常であるかの推定は、閾値算出期間内において通信可能状態と通信途絶状態との間の移行回数を計測することで実現する。
【0053】
閾値算出期間が6個の計測スロットにより構成される場合、例えば図8(a)に示すような通信可能状態と通信途絶状態が移行する形態では、移行回数が2となり、図8(b)に示す移行形態では移行回数が3となり、図8(c)に示す移行形態では移行回数が2となり、図8(d)に示す移行形態では移行回数が5となる。
【0054】
この閾値算出期間内において移行回数が多いほど、通信可能状態と通信途絶状態が入れ替わる頻度が高く、移動体3がアクセスポイント2の無線通信エリアの境界近傍に位置しているものと考え、無線通信性能が異常であるとみなすことができる。一方で、閾値算出期間内において移行回数が少ないほど通信可能状態又は通信途絶状態が安定して継続することから。移動体3がアクセスポイント2の無線通信エリアの境界近傍に位置しているのではなく、無線通信性能が正常であるとみなすことができる。
【0055】
図8の例では、図8(c)に示す形態が最も移行回数が少なく、無線通信性能がより正常とみなすことができ、図8(d)に示す形態が最も移行回数が多く、無線通信性能がより異常とみなすことができ、
【0056】
異常推定部42では、この無線通信性能の推定を第2閾値を介して行う。閾値算出期間内における移行回数が第2閾値以上の場合は、無線通信性能が異常であるものと推定し、閾値算出期間内における移行回数が第2閾値未満の場合は、無線通信性能が正常であるものと推定する。
【0057】
仮に第2閾値が“3”である場合、図8(b)、図8(d)の例は、移行回数が第2閾値以上となることから、無線通信性能が異常であるものと推定する。一方で図8(a)、図8(c)の例は、移行回数が第2閾値未満となることから、無線通信性能が正常であるものと推定する。
【0058】
このようにして予め設定された第2閾値を介して無線通信性能を推定することにより、閾値算出期間内において通信可能状態と通信途絶状態が混在する場合であっても一義的に、かつ効率的な推定を実現できる。
【0059】
なお、上述した第2閾値設定部41において第2閾値を設定する場合には、事前に移動体3を走行させつつ、閾値算出期間内において移行回数を計測する。1回目の閾値算出期間についての移行回数の計測を終了した後、2回目以降も同様に閾値算出期間内における移行回数を計測する。複数回にわたる閾値算出期間内の移行回数を計測後、計測した移行回数の最大値を第2閾値として設定する。仮に移行回数の最大値が3であれば第2閾値として3を設定するようにしてもよい。このとき、計測した移行回数の最大値に更にオフセット値を加算したものを第2閾値として設定するようにしてもよい。オフセット値を加算することで、第2閾値を頻繁に超えることによる異常の推定頻度を減らすことができる。
【0060】
また、本発明によれば、異常推定部42による推定結果に基づいて、移動体3に実装された切替制御部22により、無線通信するアクセスポイント2を切り替え制御するようにしてもよい。かかる場合には、異常推定部42により異常と推定された場合には、切替制御部22は、現在無線通信接続を試みようとしているアクセスポイント2とは異なる他のアクセスポイント2への無線通信接続に切り替える。一方、異常推定部42により正常と推定された場合には、切替制御部22は、現在無線通信接続を試みようとしているアクセスポイント2と引き続き無線通信接続を行う。なお、アクセスポイント2側において異常推定部42による異常推定を行った場合、無線通信接続の切り替えを切替制御部21、及び近距離無線ネットワーク7を介して移動体3における切替制御部22と互いに連動しながら実行する。
【0061】
このように、本発明によれば、余分な情報のやり取りを発生させることなく、推定した無線通信性能を通じて、移動体3がアクセスポイント2の無線通信エリアの境界近傍に位置しているか否かを判別することができる。このため、推定した無線通信性能が異常である場合、他のアクセスポイント2への切り替えを、通信品質を極力維持しつつ、無線通信が切断している時間をより短く抑えて実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 移動体無線通信性能推定システム
2 アクセスポイント
3 移動体
5 センサシステム
7 近距離無線ネットワーク
21、22 切替制御部
30 状態判定モジュール
31 電波強度計測部
32 第1閾値判定部
33 状態判別部
34 状態カウンタ
40 異常判定モジュール
41 第2閾値設定部
42 異常推定部
図1
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図8