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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141248
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/32 20060101AFI20241003BHJP
   B01J 20/04 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01J20/32
B01J20/04 A
B01J20/28 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052781
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍵谷 真吾
(72)【発明者】
【氏名】黒木 孝行
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA20C
4G066AA43B
4G066BA20
4G066BA26
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA02
4G066FA12
4G066FA21
4G066FA34
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】塩基性化合物が担持された吸着剤において、二酸化炭素の吸着量が少ないという課題があった。
【解決手段】以下(1)ないし(4)の工程を備える二酸化炭素吸着剤の製造方法。
(1)炭酸カリウムを水に溶解して炭酸カリウム含浸液を調製する含浸液調製工程
(2)αアルミナを含む担体を調製する担体調製工程
(3)前記炭酸カリウム含浸液を用いて前記αアルミナを含む担体に炭酸カリウムを含浸担持して二酸化炭素吸着剤前駆体を調製する含浸担持工程
(4)前記吸着剤前駆体を50℃以上90℃未満の温度で乾燥して二酸化炭素吸着剤を調製する乾燥工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(1)ないし(4)の工程を備える二酸化炭素吸着剤の製造方法。
(1)炭酸カリウムを水に溶解して炭酸カリウム含浸液を調製する含浸液調製工程
(2)αアルミナを含む担体を調製する担体調製工程
(3)前記炭酸カリウム含浸液を用いて前記αアルミナを含む担体に炭酸カリウムを含浸担持して二酸化炭素吸着剤前駆体を調製する含浸担持工程
(4)前記吸着剤前駆体を50℃以上90℃未満の温度で乾燥して二酸化炭素吸着剤を調製する乾燥工程
【請求項2】
前記αアルミナを含む担体の比表面積が、1m2/g以上、10m2/g以下の範囲にある、請求項1に記載の二酸化炭素吸着剤の製造方法。
【請求項3】
前記αアルミナを含む担体のナトリウム含有率が、担体の全質量を基準として、Na2O換算で、0.3質量%以上5質量%以下の範囲にある、請求項1または2に記載の二酸化炭素吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の原因の一つとして、温室効果ガスの排出が挙げられる。温室効果ガスとしては、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、フロン類(CFCs等)などが挙げられる。特に、温室効果ガスの代表格である二酸化炭素は、発電所や製鉄所、石油精製工場から多く排出されるので、二酸化炭素の排出量を低減する技術について関心が集まっている。一方、二酸化炭素の排出量を低減する技術とは別に、二酸化炭素を回収し貯留する技術(Carbon dioxide Capture and Storage:「CCS」)にも関心が集まっている。
【0003】
二酸化炭素を貯蔵するためには、まず二酸化炭素を媒体(例えば、排気ガスや大気等)から分離する必要がある。二酸化炭素の分離方法は、化学吸収法としてアルカリ溶液やアミン類の溶液に吸収させる方法(例えば、特許文献1)や、物理吸着法として吸着剤に吸着させて分離する方法(例えば、特許文献2)などが知られている。また、塩基性化合物が担持された吸着剤に吸着させて分離する方法(例えば、特許文献3、4)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2023/013397号公報
【特許文献2】特開2001-347123号公報
【特許文献3】特表2017-524519号公報
【特許文献4】特開2005-40753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塩基性化合物が担体に担持された二酸化炭素吸着剤において、二酸化炭素の吸着量が少ないという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、塩基性化合物が担体に担持された二酸化炭素吸着剤であって、二酸化炭素の吸着量が多い二酸化炭素吸着剤が得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下(1)ないし(4)の工程を備える二酸化炭素吸着剤の製造方法を用いることで、前記課題を解決できることを見出した。
(1)炭酸カリウムを水に溶解して炭酸カリウム含浸液を調製する含浸液調製工程
(2)αアルミナを含む担体を調製する担体調製工程
(3)前記炭酸カリウム含浸液を用いて前記αアルミナを含む担体に炭酸カリウムを含浸担持して二酸化炭素吸着剤前駆体を調製する含浸担持工程
(4)前記吸着剤前駆体を50℃以上90℃未満の温度で乾燥して二酸化炭素吸着剤を調製する乾燥工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塩基性化合物が担体に担持された二酸化炭素吸着剤であって、二酸化炭素の吸着量が多い二酸化炭素吸着剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、二酸化炭素吸着剤の製造方法に関する発明(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)を含む。以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0010】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、以下(1)ないし(4)の工程を備える。
(1)炭酸カリウムを水に溶解して炭酸カリウム含浸液を調製する含浸液調製工程
(2)αアルミナを含む担体を調製する担体調製工程
(3)前記炭酸カリウム含浸液を用いて前記αアルミナを含む担体に炭酸カリウムを含浸担持して二酸化炭素吸着剤前駆体を調製する含浸担持工程
(4)前記吸着剤前駆体を50℃以上90℃未満の温度で乾燥して二酸化炭素吸着剤を調製する乾燥工程
【0011】
従来の二酸化炭素吸着剤では、二酸化炭素の吸着が吸着剤の表面で起こるため、比表面積が高い担体を用いる。例えば、特許文献3には、γ、χ、δ構造を有するアルミナ担体が好ましく、その比表面積は200~350m2/gであることが一層より好ましいことが開示されている。また、特許文献4には、多孔質物質として、活性炭、ゼオライト、珪藻土、アルミナを用いることが開示されている。これに対し、本発明の製造方法では、αアルミナを含む担体を用いる。αアルミナは、化学的に最も安定なアルミナである。一方、高温で焼成されているので、その比表面積は、γアルミナ等と比べて極めて小さい。このように、二酸化炭素の吸着には不向きな特徴を有するαアルミナを含む担体に、炭酸カリウムを含浸担持し、特定の温度域で乾燥することで、二酸化炭素の吸着量が多い二酸化炭素吸着剤が得られる。以下、本発明の製造方法の各工程について詳述する。
【0012】
[含浸液調製工程]
本発明の製造方法は、炭酸カリウムを水に溶解して炭酸カリウム含浸液を調製する含浸液調製工程を備える。この工程で水に溶解する炭酸カリウムの量は、水100gに対する質量で、50g以上、200g以下であることが好ましく、50g以上、100g以下であることがより好ましい。この工程では、炭酸カリウムの全量が水に溶解していることが好ましいが、水に炭酸カリウムが溶解しきらずその一部が固体として残留している場合であっても、発明の効果が得られる。水に炭酸カリウムが溶解しきらない場合は、水の温度を高くして炭酸カリウムの溶解度を高めるとよい。
【0013】
[担体調製工程]
本発明の製造方法は、αアルミナを含む担体を調製する担体調製工程を備える。この工程では、市販されているαアルミナの成形体を用いてもよく、αアルミナの粉末を成形して成形体としたものを担体としてもよく、γ、χ、δ等の構造を有する遷移アルミナの成形体を1000℃以上の高温で焼成してαアルミナにしたものを担体としてもよい。
【0014】
この工程では、αアルミナを含む担体の比表面積が、1m2/g以上、10m2/g以下の範囲にあることが好ましく、4m2/g以上、8m2/g以下の範囲にあることがより好ましい。このように、比表面積が小さい担体を用たことで、担体の細孔内ではなく、担体の表面により炭酸カリウムが偏析し、これにより液体等の拡散性が低い流体に含まれる二酸化炭素と炭酸カリウムとが接触しやすくなる。
【0015】
この工程では、αアルミナを含む担体のナトリウム含有率が、担体の全質量を基準として、Na2O換算で、0.3質量%以上、5質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以上、3質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上、1質量%以下であることが特に好ましい。また、担体の比表面積に対するナトリウムの含有量は、Na2O換算で、0.01g/m2以上、50g/m2以下であることが好ましく、0.1g/m2以上、30g/m2以下であることがより好ましく、0.5g/m2以上、10g/m2以下であることが特に好ましい。単位比表面積当たりのナトリウムの含有量を前述の範囲に調整することで、二酸化炭素の吸着量がより増加する。
【0016】
この工程では、αアルミナを含む担体は、球状、柱状(円柱状や四つ葉状を含む)またはこれらに類する形状の成形体であることが好ましく、球状であることがより好ましい。また、そのサイズ(吸着剤の外形で最小の長さ)は、0.5mm以上、6mm以下の範囲にあることが好ましく、1mm以上5mm以下の範囲にあることがより好ましく、3mm以上、5mm以下の範囲にあることが特に好ましい。このようなサイズに成形された担体を用いて得られた二酸化炭素吸着剤は、二酸化炭素を含む流体を流通する際の圧力損失が低くなり、プロセス設計の観点から好ましい。
【0017】
[含浸担持工程]
本発明の製造方法は、前述の工程で調製した炭酸カリウム含浸液を用いて、前述の工程で調製したαアルミナを含む担体に炭酸カリウムを含浸担持して二酸化炭素吸着剤前駆体を調製する含浸担持工程を含む。この工程では、平衡吸着法、ポアフィリング法、噴霧担持法等の従来公知の方法で含浸担持することができる。
【0018】
[乾燥工程]
本発明の製造方法は、前述の工程で得られた二酸化炭素吸着剤前駆体を50℃以上90℃未満の温度で乾燥して二酸化炭素吸着剤を調製する乾燥工程を備える。この工程では、乾燥の温度が特に重要となる。この工程では、60℃以上、80℃以下の温度で乾燥することが好ましい。乾燥温度を前述の範囲に調整することで、二酸化炭素の吸着量が増加する。
【0019】
この工程では、従来公知の方法で二酸化炭素吸着剤前駆体を乾燥することができる。例えば、減圧乾燥、常圧乾燥等の乾燥方法により乾燥することができる。この工程では、常圧乾燥を用いて乾燥することが好ましい。また、常圧乾燥を行う際は空気を流通した状態で乾燥することが好ましい。この工程では、二酸化炭素吸着剤前駆体の表面に溶媒が目視できなくなる程度まで乾燥すればよい。乾燥する時間は、1時間以上、24時間以下の範囲に調整することが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法は、焼成工程を含まないことが好ましい。具体的には、酸素含有雰囲気下において、90℃超の温度で加熱しないことが好ましい。このように、本発明の製造方法は、焼成工程を含まないことで、二酸化炭素吸着剤の二酸化炭素吸着量がより高くなる。
【0021】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
[実施例1]
<含浸液調製工程>
イオン交換水140gに炭酸カリウム70gを溶解させて、炭酸カリウム含浸液を調製した。
【0023】
<担体調製工程>
市販のγ-アルミナ(YINGHE CHEMICAL CO.,LTD社製、品名 3A-SC、4mmφ球状)を1200℃で4時間焼成して、αアルミナを含む担体を調製した。得られた担体について、以下の方法でその比表面積とナトリウム含有率を測定した。
【0024】
[比表面積測定]
担体の比表面積を窒素吸着法(BET法)により算出した。具体的には、比表面積測定装置(mountech製、Macsorb1220)を用いて、担体を約0.1g測定セルに入れ、窒素ガス気流中、250℃で40分間脱ガス処理を行った後、担体を窒素30容積%とヘリウム70容積%の混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を担体に平衡吸着させる。そして、この混合ガスを流通しながら担体の温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素量を測定し、測定後の担体質量で割ることで担体の比表面積を算出した。
【0025】
[ナトリウム含有率および単位表面積あたりのナトリウム含有量]
担体を酸に溶解し、水で適切な濃度に希釈した後、ICP発光分光分析装置(アジレントテクノロジー株式会社製、730ICP-OES、誘導結合プラズマ発光分光分析法)を用いてナトリウムの含有量を測定した。このナトリウムの含有量を用い、担体の全量を基準とし、Na2O換算で、ナトリウム含有率を算出した。またこのナトリウム含有率を前述の比表面積で割って、単位表面積あたりのナトリウム含有量を算出した。
【0026】
<含浸担持工程>
前述の工程で得られたαアルミナを含む担体100gを、前述の工程で調製した炭酸カリウム含浸液210gに浸漬し、30分保持した。
【0027】
<乾燥工程>
80℃に設定されたロータリーエバポレーターを用い、炭酸カリウム含浸液に含まれる水分を蒸発させ、αアルミナを含む担体に炭酸カリウムが担持された二酸化炭素吸着剤を得た。得られた二酸化炭素吸着剤について、以下の評価方法で二酸化炭素吸着量を測定した。その結果を調製条件と併せて表1に示す。
【0028】
[二酸化炭素吸着量評価]
<ブランク測定>
二酸化炭素吸着剤10ccが充填された反応管を流通式吸着試験装置に取り付けた。その後、反応管に窒素を流通し、170℃で2時間前処理を行った。前処理が終了した後で、反応管から二酸化炭素吸着剤を取り出し、固体中炭素・硫黄分析装置(HORIBA社製、型式EMIA-Pro)にて二酸化炭素吸着剤に含まれるカーボン量(Cblank)を分析した。
【0029】
<二酸化炭素吸着試験>
二酸化炭素吸着剤10ccが充填された反応管を流通式吸着試験装置に取り付けた。その後、反応管に窒素を流通し、170℃で2時間前処理を行い、反応管を50℃まで冷却した。その後、反応管に二酸化炭素を含む混合ガス(二酸化炭素濃度7.6vol%/窒素balance)を20cc/minの供給速度で2時間流通させた。混合ガスを流通させた後で、二酸化炭素吸着剤を取り出し、固体中炭素・硫黄分析装置(HORIBA社製、型式EMIA-Pro)にて二酸化炭素吸着剤に含まれるカーボン量(Cads)を分析した。
【0030】
<二酸化炭素吸着量の算出>
前述のブランク測定および二酸化炭素吸着試験の結果を用い、以下の式から二酸化炭素吸着量をカーボン換算で算出した。
二酸化炭素吸着量[g-C/g-吸着剤] = Cads - Cblank
【0031】
[実施例2]
含浸液調製工程において炭酸カリウムの添加量を70gから140gに変更したこと、乾燥工程においてロータリーエバポレーターの代わりに電気乾燥機を用い、乾燥温度を80℃から60℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸着剤を得た。得られた二酸化炭素吸着剤について、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸着量を測定した。その結果を調製条件と併せて表1に示す。
【0032】
[実施例3]
乾燥工程において乾燥温度を60℃から80℃に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法で二酸化炭素吸着剤を得た。得られた二酸化炭素吸着剤について、実施例2と同様の方法で二酸化炭素吸着量を測定した。その結果を調製条件と併せて表1に示す。
【0033】
[比較例1]
乾燥工程において乾燥温度を80℃から120℃に変更したこと以外は、実施例2と同様の方法で二酸化炭素吸着剤を得た。得られた二酸化炭素吸着剤について、実施例2と同様の方法で二酸化炭素吸着量を測定した。その結果を調製条件と併せて表1に示す。実施例2と同様の方法でα-アルミナ担体に炭酸カリウム水溶液を含侵した。
【0034】
[比較例2]
乾燥工程においてロータリーエバポレーターの代わりに電気乾燥機を用い、乾燥温度を80℃から120℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸着剤を得た。得られた二酸化炭素吸着剤について、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸着量を測定した。その結果を調製条件と併せて表1に示す。
【0035】
[比較例3]
含浸液調製工程において炭酸カリウムの添加量を70gから140gに変更したこと、乾燥工程において乾燥温度を80℃から95℃に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸着剤を得た。得られた二酸化炭素吸着剤について、実施例1と同様の方法で二酸化炭素吸着量を測定した。その結果を調製条件と併せて表1に示す。
【0036】
【表1】