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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141262
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】粗面化処理方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/352 20140101AFI20241003BHJP
   B29C 65/44 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K26/352
B29C65/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052804
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 峻
(72)【発明者】
【氏名】小倉 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】植並 研人
【テーマコード(参考)】
4E168
4F211
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168CB03
4E168DA02
4E168DA32
4E168DA40
4E168DA43
4E168DA45
4E168JA02
4E168JA03
4F211AD03
4F211AD24
4F211TA01
4F211TA13
4F211TC02
4F211TD02
4F211TH17
(57)【要約】
【課題】金属部材と樹脂部材の接合強度を向上させる。
【解決手段】金属部材1と樹脂部材11とを接合する際に金属部材1の接合する接合表面2を粗くする粗面化処理方法であって、金属部材1の接合表面2にパルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する照射工程を備え、照射工程では、金属部材1の溶融部2aに再度パルスレーザーLを照射するように照射領域Pをオーバーラップさせることにより、溝部3と、溝部3の両側に設けられ金属部材1の接合表面2から突出する突部4と、が形成される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と樹脂部材とを接合する際に前記金属部材の接合表面を粗くする粗面化処理方法であって、
前記金属部材の前記接合表面にパルスレーザーを移動させながら照射する照射工程を備え、
前記照射工程では、前記金属部材の溶融部に再度パルスレーザーを照射するように照射領域位置をオーバーラップさせることにより、溝部と、前記溝部の両側に設けられ前記金属部材の接合表面から突出する突部と、が形成されることを特徴とする粗面化処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の粗面化処理方法であって、
前記照射工程では、パルスレーザーを複数列にわたって移動させながら照射することで、前記複数列のそれぞれに形成された前記突部同士が合成されることを特徴とする粗面化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗面化処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属部材と樹脂が接合されて形成される金属樹脂複合体が開示されている。金属部材の表面には例えばレーザー照射等により凹凸化処理が施され、凹凸が形成される。これにより、金属部材の凹部に樹脂が侵入し、樹脂がそのまま固化して凹部から抜けなくなり固定されることで、金属部材と樹脂が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-58231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、レーザー照射による凹凸化処理の具体的な方法は記載されていない。特許文献1に記載のような凹凸化処理では、レーザー照射の方法や条件を調整することで、金属部材と樹脂の接合強度が向上する余地がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、金属部材と樹脂部材の接合強度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属部材と樹脂部材とを接合する際に前記金属部材の接合表面を粗くする粗面化処理方法であって、前記金属部材の前記接合表面にパルスレーザーを移動させながら照射する照射工程を備え、前記照射工程では、前記金属部材の溶融部に再度パルスレーザーを照射するように照射領域をオーバーラップさせることにより、溝部と、前記溝部の両側に設けられ前記金属部材の接合表面から突出する突部と、が形成されることを特徴とする。
【0007】
この発明では、一度パルスレーザーが照射され溶融した金属部材の溶融部に再度パルスレーザーが照射されるように、照射領域をオーバーラップさせることで、溶融部が変形する。これにより、パルスレーザーの照射領域をオーバーラップさせずに単にパルスレーザーを移動させて照射する場合とは異なり、溝部が深く形成されるとともに、接合表面から突出する突部が形成される。よって、溝部に侵入して固化した樹脂部材が溝部から抜けにくくなり、金属部材と樹脂部材の接合強度が向上する。
【0008】
また、本発明は、照射工程では、パルスレーザーを複数列にわたって移動させながら照射するとともに、複数列のそれぞれに形成された突部同士が合成されることを特徴とする。
【0009】
この発明では、複数列の突部同士が合成されることにより、合成突部がより高く形成される。また、溝部を越えて突部同士が合成されると、当該溝部に侵入して固化した樹脂部材が合成突部により溝部から抜けにくくなる。よって、金属部材と樹脂部材の接合強度が向上する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属部材と樹脂部材の接合強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】複合体の断面模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る粗面化処理方法の照射工程を示す概略図である。
図3】金属部材の接合表面の上面図であり、粗面化処理方法の照射工程におけるパルスレーザーの照射領域を示す。
図4】一列目のパルスレーザーを照射する様子を示す断面模式図である。
図5】二列目のパルスレーザーを照射する様子を示す断面模式図である。
図6】溝部が合成突部に覆われてトンネル形状が形成された状態を示す断面模式図である。
図7】照射回数を変えて粗面化処理方法を行った金属部材の表面のそれぞれの光学顕微鏡写真である。
図8】照射回数を変えて粗面化処理方法を行った金属部材の表面のそれぞれの電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る粗面化処理方法について説明する。
【0013】
本実施形態の粗面化処理方法は、図1に示すように、金属部材1と樹脂部材11とが接合された複合体100を形成する際に行われるものである。
【0014】
本実施形態では、複合体100は、軽量化や高強度化等を目的として金属部材1と樹脂部材11とを組み合わせて形成されたいわゆるマルチマテリアルである。金属部材1は、例えば鉄やアルミニウム等であり、樹脂部材11は、例えば射出成型が可能な任意の熱可塑性樹脂である。本実施形態の粗面化処理方法は、金属部材1と樹脂部材11とを組み合わせてマルチマテリアルを形成するために行われる。なお、金属部材1及び樹脂部材11の材質は上記に限らない。また、複合体100はマルチマテリアルには限らず、粗面化処理方法は、マルチマテリアルではない複合体100を形成する際に行われてもよい。
【0015】
粗面化処理方法は、金属部材1と樹脂部材11とをネジや接着剤等を使わずに直接接合する際に行われ、金属部材1の接合表面2を粗くするものである。金属部材1の接合表面2に粗面化処理方法を行った後、溶融させた樹脂部材11を金属部材1の接合表面2に流し込むことにより、金属部材1と樹脂部材11が接合され複合体100が形成される。金属部材1と樹脂部材11の接合の詳細については後述する。
【0016】
図2に示すように、粗面化処理方法は、一定の繰り返し周波数でレーザーが出力されるパルスレーザーLを用いて行われる。粗面化処理方法は、金属部材1の長方形である接合表面2にパルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する照射工程を備える。
【0017】
図2では、パルスレーザーLの照射領域Pを模式図で示している。照射工程では、まず、図2(a)に示すように、金属部材1の接合表面2の端部(図2における奥側)において、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する。次に、パルスレーザーLを平行に移動させ、図2(b)に示すように、図2(a)でパルスレーザーLを照射した列と重ならないように(言い換えれば、照射領域Pが重ならないように)間隔を空けて隣接して、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する。そして、パルスレーザーLを平行に移動させ、図2(c)に示すように、図2(b)でパルスレーザーLを照射した列と重ならないように隣接して、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する。このように、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する動作を繰り返して、金属部材1の接合表面2の全体にわたってパルスレーザーLを照射する。これにより、金属部材1の接合表面2には、パルスレーザーLが複数列平行に照射される。以上のように、照射工程では、パルスレーザーLを複数列にわたって順に(金属部材1の接合表面2の端部から順に)直線状に移動させながら照射する。
【0018】
本明細書では、「パルスレーザーLの照射回数」とは、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射して、金属部材1の接合表面2の全体にわたってパルスレーザーLを照射する一連の動作を行うセット回数のことを指す。つまり、図2(a)~(c)の一連の動作が1セットである。パルスレーザーLの照射回数が2セットの場合には、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射して、金属部材1の接合表面2の全体にわたってパルスレーザーLを照射したのち、再度パルスレーザーLを同じように直線状に移動させながら照射して、金属部材1の接合表面2の全体にわたってパルスレーザーLを照射する。照射工程では、パルスレーザーLの照射回数は、1セットまたは複数セットである。
【0019】
さらに、図3に示すように、照射工程では、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する際には、一定の繰り返し周波数で照射される1パルス毎のレーザーの照射領域Pをオーバーラップさせる。言い換えれば、照射工程では、金属部材1の接合表面2において、隣り合う1パルス毎のレーザーの照射領域Pの一部が重なるように、パルスレーザーLを直線状に移動させる。
【0020】
なお、パルスレーザーLの照射回数が複数セットの場合には、2セット目以降のパルスレーザーLの照射領域Pは、1セット目のパルスレーザーLの照射領域Pと同じ位置であってもよく、1セット目のパルスレーザーLの照射領域Pに対してパルスレーザーLの移動方向にズレてもよい。
【0021】
図4図5は、パルスレーザーLの移動方向に対して垂直な断面においてパルスレーザーLを照射した様子を示す断面模式図である。図4は一列目(図3における一番上の列)のパルスレーザーLを照射する様子を示す断面図であり、図5は一列目の隣に二列目(図3における真ん中の列)のパルスレーザーLを照射する様子を示す断面図である。図4(a)~(d)、図5(a)~(d)は、パルスレーザーLの移動方向に沿った断面を順に示しており、図4図5における紙面垂直方向がパルスレーザーLの移動方向である。
【0022】
まず、一列目のパルスレーザーLを照射する様子について説明する。金属部材1の接合表面2は、図4(a)に示すように最初にパルスレーザーLが照射されると、照射された照射領域Pが図4(b)に示すようにパルスレーザーLのエネルギーにより溶融し、溶融部2aが形成される。照射工程では、パルスレーザーLの1パルス毎の照射領域Pをオーバーラップさせることで、図4(c)に示すように、溶融部2aが固化する前に溶融部2aに再度パルスレーザーLが照射される。溶融部2aに再度パルスレーザーLが照射されると、照射された衝撃により溶融部2aが変形する。そして、溶融部2aが固化し、図4(d)に示すように、溝部3と、溝部3の両側に設けられ金属部材1の接合表面2から突出する突部4と、が形成される。照射工程では、パルスレーザーLの照射領域Pがオーバーラップする領域が複数形成されるため、図4の(d)に示す形状が複数形成される。また、パルスレーザーLの移動方向において、照射領域Pがオーバーラップする領域の間隔が小さいため、溝部3及び突部4がパルスレーザーLの移動方向に延びるように形成される。
【0023】
次に、二列目のパルスレーザーLを照射する様子について説明する。図5(a)に示すように二列目に最初にパルスレーザーLが照射されると、照射された照射領域Pが図5(b)に示すようにパルスレーザーLのエネルギーにより溶融し、溶融部2aが形成される。図5(c)に示すように、溶融部2aが固化する前に溶融部2aに再度パルスレーザーLが照射されると、照射された衝撃により溶融部2aが変形する。溶融部2aは、隣の列(一列目)の突部4に乗り上げるように変形する。そして、溶融部2aが固化し、図5(d)に示すように、隣接する突部4同士が合成された合成突部4aが形成される。合成突部4aは、合成されない突部4よりも接合表面2から高く形成される。照射工程では、パルスレーザーLの照射領域Pがオーバーラップする領域が複数形成されるため、図5の(d)に示す形状が複数形成される。また、パルスレーザーLの移動方向において、照射領域Pがオーバーラップする領域の間隔が小さいため、溝部3、突部4、及び合成突部4aがパルスレーザーLの移動方向に延びるように形成される。
【0024】
また、パルスレーザーLの照射回数を増やすと、溝部3がより深く形成されるとともに、突部4及び合成突部4aがより高く形成される。さらに、合成突部4aは、図5の(d)に示すような状態から傾くと、図6に示すように、溝部3を乗り越えて別の突部4や合成突部4aと合成される。これにより、溝部3が合成突部4aに覆われて、トンネル形状が形成される。なお、パルスレーザーLの照射回数が複数セットの場合には、2セット目以降のパルスレーザーLの照射は、1セット目の照射で形成された溶融部2aが固化する前に行うことが好ましい。これにより、溶融部2aが固化した場合よりも溝部3が深く形成されやすくなるとともに、突部4及び合成突部4aが高く形成されやすくなる。しかしながら、2セット目以降のパルスレーザーLの照射は、1セット目の照射で形成された溶融部2aが固化してから行ってもよい。
【0025】
また、本実施形態では、パルスレーザーLが照射される列の間隔(照射間隔)は、上記のように突部4同士が合成された合成突部4aが形成可能なように設定される。図3に示すように、パルスレーザーLが照射される列の間隔Dは、隣り合うパルスレーザーLの照射領域P同士の中心間の間隔である。例えば、間隔Dは、1μm-100μmであり、50μmが好ましい。
【0026】
このようにして、本実施形態の粗面化処理方法が行われる。図7図8は、以下に示す仕様のパルスレーザーLで、以下に示す処理条件で粗面化処理方法を行った金属部材1の接合表面2の光学顕微鏡写真及び電子顕微鏡(SEM)写真である。照射回数は、1セット、5セット、及び15セットの3つの条件で行った。図7ではパルスレーザーLの移動方向は紙面上下方向であり、図8ではパルスレーザーLの移動方向は紙面垂直方向である。
【0027】
<パルスレーザー仕様>
・販売社名及び製品名:OMRON社製「MX-Z2000G」
・種類:MOPA式ファイバレーザー
・平均出力:20W
・波長:1.062nm
・繰り返し周波数:10~1000kHz
・パルス幅:7.5nsec
・スポット径:約50μm
・移動速度:1~12000mm/sec
・最大エネルギー密度:約50MW/cm2
【0028】
<処理条件>
・繰り返し周波数:100kHz
・パルス幅:5
・移動速度:100mm/sec
・照射間隔:50μm
・エネルギー密度:0.11MW/cm2
・照射回数:1セット、5セット、15セット
【0029】
図7図8に示すように、金属部材1の接合表面2にパルスレーザーLを照射することで、溝部3と突部4が形成されることが確認された。パルスレーザーLの照射回数が1セットでは、溝部3及び突部4がパルスレーザーLの移動方向に延びるように形成されることが確認された。また、パルスレーザーLの照射回数を5セットや15セットに増やすと、金属部材1の接合表面2がより粗くなるとともに、突部4(合成突部4a)が溝部3を乗り越えて別の突部4と合成されパルスレーザーLの移動方向に対して垂直に延びることも確認された。これにより、溝部3が合成突部4aに覆われて、図8にAで示すようなトンネル形状が形成されることも確認された。
【0030】
このようにして粗面化処理方法が行われた後、溶融させた樹脂部材11を金属部材1の接合表面2に流し込むことにより、金属部材1と樹脂部材11が接合され複合体100が形成される。具体的には、溶融させた樹脂部材11を粗面化した金属部材1の接合表面2に流し込むと、樹脂部材11が金属部材1の溝部3に侵入し、そのまま固化する。これにより、樹脂部材11が金属部材1の溝部3から抜けなくなり固定され、金属部材1と樹脂部材11が接合される。
【0031】
ここで、粗面化処理方法において、パルスレーザーLの照射領域Pをオーバーラップさせずに単にパルスレーザーLを移動させて照射する場合では、図4(b)に示すように、金属部材1が溶融するのみであり、溶融した金属部材1を除去することで溝部3が形成される。そのため、金属部材1の接合表面2には比較的浅い溝部3が形成され、突部4は形成されない。この場合では、金属部材1の溝部3に侵入して固化した樹脂部材11が溝部3から抜けやすく、金属部材1と樹脂部材11の接合強度(具体的には、せん断接合強度)が十分でないおそれがある。
【0032】
これに対して、本実施形態の粗面化処理方法では、一度パルスレーザーLが照射され溶融した金属部材1の溶融部2aに再度パルスレーザーLが照射されるように、照射領域Pをオーバーラップさせることで、溶融部2aが変形する。これにより、パルスレーザーLの照射領域Pをオーバーラップさせずに単にパルスレーザーLを移動させて照射する場合とは異なり、溝部3が深く形成されるとともに、接合表面2から突出する突部4が形成される。よって、溝部3に侵入して固化した樹脂部材11が溝部3から抜けにくくなり、金属部材1と樹脂部材11の接合強度(せん断接合強度)が向上する。さらに、本実施形態の粗面化処理方法では、溶融部2aを除去する工程が不要となるため、複合体100の製造コストが削減される。
【0033】
また、本実施形態の粗面化処理方法では、複数列のそれぞれに形成された突部4同士が合成されることにより、合成突部4aがより高く形成される。よって、溝部3に侵入して固化した樹脂部材11が溝部3からより抜けにくくなり、金属部材1と樹脂部材11の接合強度が向上する。さらに、溝部3を越えて突部4(合成突部4a)同士が合成されると、合成突部4aに溝部3が覆われるため、当該溝部3に侵入して固化した樹脂部材11が合成突部4aにより溝部3からより抜けにくくなる。よって、金属部材1と樹脂部材11の接合強度が向上する。言い換えれば、本実施形態の粗面化処理方法では、複数列のそれぞれに形成された突部4同士が合成されるように、パルスレーザーLを複数列にわたって移動させながら(具体的には、平行に移動させながら)照射する。
【0034】
また、本実施形態の粗面化処理方法により、金属部材1と樹脂部材11とをネジや接着剤等を使わずに直接接合し複合体100を形成することができるため、複合体100の強度や気密性及び設計自由度が向上するとともに、複合体100の製造コストが削減される。
【0035】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0036】
本実施形態の粗面化処理方法では、一度パルスレーザーLが照射され溶融した金属部材1の溶融部2aに再度パルスレーザーLが照射されるように、照射領域Pをオーバーラップさせることで、溶融部2aが変形する。これにより、溝部3が深く形成されるとともに、接合表面2から突出する突部4が形成されるため、溝部3に侵入して固化した樹脂部材11が溝部3から抜けにくくなり、金属部材1と樹脂部材11の接合強度(せん断接合強度)が向上する。
【0037】
本実施形態の粗面化処理方法では、複数列のそれぞれに形成された突部4同士が合成されることにより、合成突部4aがより高く形成される。また、溝部3を越えて突部4同士が合成されると、当該溝部3に侵入して固化した樹脂部材11が合成突部4aにより溝部3からより抜けにくくなる。よって、金属部材1と樹脂部材11の接合強度が向上する。
【0038】
次に、本実施形態の変形例について、説明する。以下のような変形例も本発明の範囲内であり、以下の変形例と上記実施形態の各構成とを組み合わせたり、以下の変形例同士を組み合わせたりすることも可能である。
【0039】
<変形例1>
上記実施形態では、照射工程では、パルスレーザーLを複数列照射する。これに限らず、照射工程では、パルスレーザーLを一列だけ直線状に移動させながら照射してもよい。この構成であっても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0040】
<変形例2>
上記実施形態では、照射工程では、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する際には、一定の繰り返し周波数で照射される1パルス毎のレーザーの照射領域Pをオーバーラップさせる。また、パルスレーザーLの移動方向において、照射領域Pがオーバーラップする領域は間隔を空けて複数形成される。これに限らず、パルスレーザーLの移動方向において、照射領域Pがオーバーラップする領域が間隔を空けずに連続して形成されてもよい。さらに、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する際には、照射領域Pをオーバーラップさせずに、照射領域Pが隣接または離れるようにしてパルスレーザーLを照射してもよい。この構成であっても、金属部材1の表面を粗面化することができ、金属部材1と樹脂部材11の接合強度が向上する。
【0041】
<変形例3>
上記実施形態では、照射工程では、直前でパルスレーザーLを照射した列と重ならないように間隔を空けて隣接して、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する。これに限らず、照射工程では、直前でパルスレーザーLを照射した列と一部が重なるようにして、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射してもよい。また、直前でパルスレーザーLを照射した列と間隔を空けずに接するようにして、パルスレーザーLを直線状に移動させながら照射してもよい。
【0042】
<変形例4>
上記実施形態では、照射工程では、金属部材1の長方形である接合表面2にパルスレーザーLを直線状に移動させながら照射する。しかしながら、照射工程では、パルスレーザーLを必ずしも直線状に移動させながら照射する必要はない。例えば、金属部材1の円形である接合表面2にパルスレーザーLを円弧状に移動させながら照射してもよい。言い換えれば、照射工程では、金属部材1の接合表面2の形状に応じて、パルスレーザーLの移動方向を変更してもよい。
【0043】
<変形例5>
上記実施形態では、樹脂部材11は、例えば射出成型が可能な任意の熱可塑性樹脂である。ここで、金属部材1と樹脂部材11の接合強度を向上させるために、樹脂部材11がフィラーを有してもよい。フィラーは、金属部材1の突部4の間に設けられる。
【0044】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0045】
金属部材1と樹脂部材11とを接合する際に金属部材1の接合する接合表面2を粗くする粗面化処理方法であって、金属部材1の接合表面2にパルスレーザーLを移動させながら照射する照射工程を備え、照射工程では、金属部材1の溶融部2aに再度パルスレーザーLを照射するように照射領域Pをオーバーラップさせることにより、溝部3と、溝部3の両側に設けられ金属部材1の接合表面2から突出する突部4と、が形成される。
【0046】
この構成では、一度パルスレーザーLが照射され溶融した金属部材1の溶融部2aに再度パルスレーザーLが照射されるように、照射領域Pをオーバーラップさせることで、溶融部2aが変形する。これにより、パルスレーザーLの照射領域Pをオーバーラップさせずに単にパルスレーザーLを移動させて照射する場合とは異なり、溝部3が深く形成されるとともに、接合表面2から突出する突部4が形成される。よって、溝部3に侵入して固化した樹脂部材11が溝部3から抜けにくくなり、金属部材1と樹脂部材11の接合強度が向上する。
【0047】
また、粗面化処理方法は、照射工程では、パルスレーザーLを複数列にわたって移動させながら照射することで、複数列のそれぞれに形成された突部4同士が合成される。
【0048】
この構成では、複数列の突部4同士が合成されることにより、合成突部4aがより高く形成される。また、溝部3を越えて突部4同士が合成されると、当該溝部3に侵入して固化した樹脂部材11が合成突部4aにより溝部3から抜けにくくなる。よって、金属部材1と樹脂部材11の接合強度が向上する。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0050】
1…金属部材、2…接合表面、2a…溶融部、3…溝部、4…突部、4a…合成突部、11…樹脂部材、P…照射領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8