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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141264
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】インクジェット記録用紙
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20241003BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20241003BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20241003BHJP
   D21H 19/10 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41M5/52 100
B41M5/50 120
D21H27/00 Z
D21H19/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052808
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】登坂 昌也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 義雄
(72)【発明者】
【氏名】稲村 侑樹
【テーマコード(参考)】
2H186
4L055
【Fターム(参考)】
2H186AA17
2H186BA05
2H186BA11
2H186BB27X
2H186BB32X
2H186BC66X
2H186DA12
2H186DA19
2H186DA20
4L055AA03
4L055AA11
4L055AC06
4L055AG08
4L055AG12
4L055AG48
4L055AG50
4L055AH01
4L055AH03
4L055AH09
4L055AH11
4L055AH12
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA10
4L055EA14
4L055EA32
4L055FA15
4L055GA09
(57)【要約】
【課題】良好なインクジェット適性を有するとともに、適度な吸水度を有してインク吸収性及び印字品質に優れ、塗工層の粉落ちを抑制したインクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】基紙と、該基紙上に設けられた塗工層と、を有する産業用インクジェット記録用紙であって、基紙が、パルプ、填料および内添サイズ剤を含有し、パルプが、リグニンを含む古紙パルプ(DIP)を含有せず、基紙に含まれる内添サイズ剤の含有量がパルプの固形分100質量部に対し、0.1~0.6質量部であり、塗工層が、インク定着剤及び結着剤を含有し、顔料及び表面サイズ剤を含まず、JIS-P8140に準拠して求められる30秒のコッブ吸水度が25~80g/mである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、該基紙上に設けられた塗工層と、を有する産業用インクジェット記録用紙であって、
前記基紙が、パルプ、填料および内添サイズ剤を含有し、
前記パルプが、リグニンを含む古紙パルプ(DIP)を含有せず、
前記基紙に含まれる前記内添サイズ剤の含有量が前記パルプの固形分100質量部に対し、0.1~0.6質量部であり、
前記塗工層が、インク定着剤及び結着剤を含有し、顔料及び表面サイズ剤を含まず、
JIS-P8140に準拠して求められる30秒のコッブ吸水度が25~80g/mである、産業用インクジェット記録用紙。
【請求項2】
ぬれ張力試験用混合液No.50.0を用い、JIS-K6768(1999)に準拠して求められるぬれ張力試験方法による、5秒後の接触角が40~75°である、請求項1に記載の産業用インクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記基紙中の全パルプ100質量部に対し、損紙由来のパルプを10質量部以上40質量部以下含む、請求項1に記載の産業用インクジェット記録用紙。
【請求項4】
前記塗工層が、さらにアニオン性蛍光染料を含有する、請求項1に記載の産業用インクジェット記録用紙。
【請求項5】
前記内添サイズ剤が中性ロジンサイズ剤である、請求項1又は2に記載の産業用インクジェット記録用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録用紙に関する。より詳しくは、高速印刷に好適な産業用インクジェット記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、フルカラー化が容易なことや印字騒音が少ないことなどから近年急速に普及してきた。この方式はノズルから記録媒体に向けてインクの微小液滴を高速で飛翔、付着させて画像や文字などの記録を行うものである。このため、多色、高精細化が容易であり、特に近年の高解像度フルカラープリンターでは、カラー印刷や銀塩写真と比べてもほとんど遜色のない画像も印字可能になった。そこで、現在一般家庭にも数多くのインクジェットプリンターが導入されている。
【0003】
一方、近年の多品種小ロットの流れに対応したデジタル印刷機の普及に伴い、インクジェット印刷を商業的(産業)用途に適用する例が増えてきている。このような産業用のインクジェット印刷では、連続して印刷が行われ、高速印刷が要求される。
インクジェットの産業印刷では、印刷用紙の搬送速度が例えば200m/min以上、さらに高速では300m/min以上で行われることもある。
【0004】
インクジェット印刷を高速で行う場合、滴下したインクを素早く吸収する必要があり、インクジェット記録用紙には高いインク吸収性が求められる。インク吸収性が不十分であると、インクの吸収ムラやにじみが生じ易くなる。
このような、インクジェットの高速印刷に適した技術としては、顔料を含まない層を原紙上に設けると共に、原紙に中性サイズ剤を含有させた技術(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6344249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インクジェット記録用紙の基紙としては、資源リサイクルの観点から古紙パルプ(DIP、脱墨パルプとも呼ばれる)を含有させることがある。
しかしながら、インクジェット記録用紙の基紙に古紙パルプを含有させると、インク吸収性が低下することが判明した。
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、良好なインクジェット適性を有するとともに、適度な吸水度を有してインク吸収性及び印字品質に優れ、塗工層の粉落ちを抑制したインクジェット記録用紙の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った結果、インクジェット記録用紙の基紙に古紙パルプを含有させないと共に、基紙に内添サイズ剤を所定の割合で含有させることで、吸水度を適切な範囲に保ってインク吸収性を向上できることを見出した。
また、顔料及び表面サイズ剤を含まない層を基紙上に設けることで、塗工層の粉落ちなどが無く、また、十分な強度があるので加工適性に優れる。なお、さらに基紙中の填料(無機粒子)を少なくすれば腰のある嵩高な紙にすることもできる。
【0009】
なお、「産業用インクジェット印刷」は、印刷速度が速く、乾燥工程があり、インクが乾きやすい、といった特徴がある。したがって、産業用インクジェット印刷は家庭用インクジェット印刷ほど高いインク吸収性が求められないが、解像度が比較的低いため、ベタ印字部で白抜けが発生し易いことから、インクのドット径を広げる必要がある。
産業用インクジェット印刷での印刷用紙の搬送速度は、例えば200m/min以上、さらに高速では300m/min以上である。
【0010】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の内容を包含する。
本発明のインクジェット記録用紙は、基紙と、該基紙上に設けられた塗工層と、を有する産業用インクジェット記録用紙であって、前記基紙が、パルプ、填料および内添サイズ剤を含有し、前記パルプが、リグニンを含む古紙パルプ(DIP)を含有せず、前記基紙に含まれる前記内添サイズ剤の含有量が前記パルプの固形分100質量部に対し、0.1~0.6質量部であり、前記塗工層が、インク定着剤及び結着剤を含有し、顔料及び表面サイズ剤を含まず、JIS-P8140に準拠して求められる30秒のコッブ吸水度が25~80g/mである。
【0011】
本発明のインクジェット記録用紙において、ぬれ張力試験用混合液No.50.0を用い、JIS-K6768(1999)に準拠して求められるぬれ張力試験方法による、5秒後の接触角が40~75°であることが好ましい。
本発明のインクジェット記録用紙において、前記基紙中の全パルプ100質量部に対し、損紙由来のパルプを10質量部以上40質量部以下含むことが好ましい。
【0012】
本発明のインクジェット記録用紙において、前記塗工層が、さらにアニオン性蛍光染料を含有することが好ましい。
本発明のインクジェット記録用紙において、前記内添サイズ剤が中性ロジンサイズ剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好なインクジェット適性を有するとともに、適度な吸水度を有してインク吸収性及び印字品質に優れ、塗工層の粉落ちを抑制したインクジェット記録用紙が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(インクジェット記録用紙)
<基紙>
基紙は、パルプ(木材パルプ)、填料および内添サイズ剤を含有する。基紙は、これらの成分及び助剤等を含有する紙料を抄紙してなる。
本発明において、木材パルプとしては、化学パルプを用いることができる。特に、基紙のパルプがすべて化学パルプからなることが好ましい。
また、基紙のパルプは、リグニンを含む古紙パルプ(DIP)や、リグニンを含む機械パルプを含まない。
化学パルプは、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP) 、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等が挙げられる。
【0015】
また、本発明の効果を阻害しない範囲で他のパルプを用いることができる。
但し、本発明において、コッブ吸水度を適切な範囲に保ってインク吸収性を向上させるため、パルプには上述のようにリグニンを含む古紙パルプ(DIP)を含有しない。
【0016】
基紙中の全パルプ100部に対し、損紙由来のパルプを10部以上40部以下含んでもよい。
基紙中の全パルプ100部に対し、損紙由来のパルプが10部未満であると、吸水度が低下したり、填料の歩留りが悪くなる場合がある。また、パルプの濾水度も高くなるので、パルプの叩解も必要となりコストアップになる場合がある。損紙由来のパルプが40部を超えると吸水度のコントロールが難しくなる場合がある。
なお、損紙由来パルプもすべて化学パルプであることが好ましい。また、損紙由来パルプとは、工場内のマシンで発生する損紙を集めて、パルプに戻したものになるので、填料やサイズ剤などの添加剤も含まれる。従って、損紙由来パルプは、吸水性や填料の歩留りなどに影響する。また、パルプの濾水度も低下する傾向にある。
【0017】
本発明に用いる基紙は、填料を内填させることができる。内填させる填料は特に限定されるものではなく、公知の填料の中から適宜選択して使用できる。
このような填料としては、例えば、タルク、カオリン、クレー、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカなどの無機填料、プラスチックピグメントなどの有機填料などを例示することが可能である。
基紙に軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウムを内填させると、不透明性が向上して裏抜けが抑制されるため好ましく、軽質炭酸カルシウムがより好ましい。
軽質炭酸カルシウムは生産コストや操業性、および低添加量で高い白色度、不透明度、吸水量が得られる点で優れる。
【0018】
基紙は内添サイズ剤を含有する。内添サイズ剤は特に限定されるものではなく、公知の内添サイズ剤の中から適宜選択して使用できる。
このような内添サイズ剤としては、例えば、強化ロジンサイズ剤、エマルジョンサイズ剤、合成系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などを例示することが可能である。
【0019】
本発明で用いる中性ロジンサイズ剤は、pH6~9の弱酸性~弱アリカリ性領域(中性領域)で使用する、ロジン系物質を各種の乳化分散剤で分散させたエマルジョン型のロジンサイズ剤が好ましい。ここで、ロジン系物質としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン類をフマール酸、マレイン酸、アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸あるいはその無水物で変性した強化ロジンや、前記ロジン類をグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセリン等の多価アルコールを反応させて得られるロジンエステルを例示できる。
また、上記した化合物を、単独またはその混合物をエマルジョン化したものや、単独でエマルジョン化した後に混合したものを使用可能である。
さらに、上記ロジンエマルジョン中に、サイズ発現性をより向上させるために各種ポリマーを添加したものも使用できる。
【0020】
内添サイズ剤としては中性ロジンサイズ剤が好ましい。填料として主に軽質炭酸カルシウムなどを用いた中性領域で使用するサイズ剤としては、中性ロジンサイズ剤の他、アルケニル無水コハク酸(ASA)やアルキルケテンダイマー(AKD)が挙げられる。
アルキルケテンダイマーの場合には、用紙の摩擦係数が下がるため印刷、印字工程や後加工の工程で滑りの問題を生じる場合がある。
一方、アルケニル無水コハク酸の場合、サイズの発現性が抄紙の際の他の添加薬品の影響を大きく受けるため、安定した品質を確保するには取扱いが難しい。このため、サイズの安定した発現性や滑りの問題の無い中性ロジンサイズ剤が好ましい。
【0021】
基紙中の内添サイズ剤の含有量は、基紙が含有する全パルプの固形分100質量部に対し、0.1~0.6質量部であり、0.15~0.5重量部が好ましく、0.2~0.4重量部がより好ましい。
基紙中の内添サイズ剤の含有量が、基紙が含有する全パルプに対し0.1重量部未満であると、吸水性が良すぎるため、特に染料インクの紙の内部への浸透が多くなり、印字濃度が低下する。また、ドット径が小さくなりベタ印字部に白抜けができて印字濃度が劣る。また、内添サイズ剤の含有量が0.6重量部を超えると、インクの吸収性が低下する。
【0022】
基紙には、本発明の効果を阻害しない範囲で、その他の内添薬品を含有させてもよい。その他の内添薬品としては、ポリアクリルアミド、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、各種変性澱粉等の澱粉類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、セルロースナノファイバー等のセルロース誘導体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリル共重合体、酢酸ビニル、尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの内添紙力増強剤、硫酸バンド、歩留向上剤、紫外線防止剤、退色防止剤、濾水性向上剤、凝結剤、pH調整剤、スライムコントロール剤、着色染料、着色顔料、蛍光染料などが挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いられる。
【0023】
<抄造>
本発明において、基紙の抄造方法は特に限定されるものではなく、長網抄造機、円網抄造機、短網抄造機、ギャップフォーマー型、オントップフォーマー型等のツインワイヤー抄造機など、各種公知の抄造機により抄造することができる。また、抄造方法としては、酸性抄造、中性抄造、アルカリ性抄造方式から適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、中性抄造であることが好ましい。本発明においては、具体的には、抄造時の紙料のpHが5.0~9.0であることが好ましく、6.0~8.0であることがより好ましい。
【0024】
<塗工層>
基紙の両面に塗工層が設けられている。
塗工層が、インク定着剤及び結着剤を含有する一方、顔料及び表面サイズ剤を含まない。塗工層が顔料及び表面サイズ剤を含まないと塗工層の粉落ちが無くなり、十分な塗工層強度が確保でき、加工適性に優れる。また、書籍用紙などで求められる腰のある嵩高な紙にすることもできる。
塗工層に表面サイズ剤を含有させると、インクのドット径が小さくなり、ベタ印字部に白抜けが発生し、印字濃度も低くなる。
【0025】
<インク定着剤>
塗工層は、インク定着剤を含有する。
本発明においては、カチオン性樹脂のインク定着剤を塗工液中に含むことで、アニオン性のインクジェット用インクに耐水性を付与すると共に、インクを表面に留めることができ、印字濃度が高くなる。また、滲みやフェザーリング性を向上させる。
インク定着剤としてはポリエチレンイミン4 級アンモニウム塩誘導体; アンモニア・ジアルキルアミン・エピハロヒドリン樹脂; ポリアミンエピハロヒドリン; ポリアミドエピハロヒドリン; ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン、ジシアンアミド・ホルムアルデヒド樹脂; ジエチレントリアミン・ジシアンジアミド・アンモニウムクロライド樹脂; ジメチルジアリルアンモニウムクロライド樹脂等が挙げられる。特にアンモニアとアミン類とエピハロヒドリン類とを縮重合させてなるポリアミンエピハロヒドリン系樹脂を用いると、高速で印字した際に白抜けなどが無く良好な印字品質が得られるので特に好ましい。
塗工層中のインク定着剤の付着量は、0.03~1.0g/mが好ましく、0.05~0.5g/mがより好ましい。
【0026】
塗工層は、結着剤を含有する。
結着剤は特に限定されないが、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉、熱化学変性澱粉、酵素変性澱粉等の澱粉類を使用することが好ましい。塗工時の操業性の観点から、特に酸化澱粉、エステル化澱粉が好ましい。
【0027】
澱粉類以外の結着剤としては、ポリアクリルアミド、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコールのポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、セルロースナノファイバー等のセルロース誘導体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリル共重合体、酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステルなどが挙げられる。これらは、単独又は2種類以上混合して用いられる。
なお、澱粉以外の結着剤、特にスチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリル共重合体、酢酸ビニルのいずれかを塗工すると、インクジェット印刷時におけるベタ印刷部で部分的に濃くなるムラが発生する場合があるため、塗工層は澱粉以外の結着剤を含まないことが好ましい。
【0028】
塗工層中の結着剤の付着量は、0.1~3.0g/mが好ましく、0.2~2.0g/mがより好ましい。
【0029】
さらに、塗工層には、必要に応じて分散剤、増粘剤、保水材、消泡剤、耐水化剤、着色剤、導電剤等の各種助剤を、単独又は2種類以上混合して、適宜含有させることができる。
特に、塗工層がさらにアニオン性蛍光染料を含有すると高い白色度が得られる。
【0030】
本発明においては、高い白色度を得るために、塗工液中に蛍光染料を配合することが好ましい。蛍光染料としては、ジアミノスチルベン型、イミダゾール型、オキサゾール型、トリアゾール型、クマリン型、ナフタルイミド型、およびピラゾリン型蛍光染料が挙げられる。
一般的にアニオン性の蛍光染料はカチオン性樹脂との相溶性が悪く、混合時に凝集物が発生する。本発明においては、前述したインク定着剤との相溶性が高く、高い白色度が得られる蛍光染料として、特にジアミノスチルベン型が好ましい
アニオン性蛍光染料としてはジアミノスチルベン型、イミダゾール型、オキサゾール型、トリアゾール型、クマリン型、ナフタルイミド型、およびピラゾリン型蛍光染料などが挙げられる。特にジアミノスチルベン型が好ましい。
塗工層中のアニオン性蛍光染料の付着量は、0.001~0.05g/mが好ましく、0.003~0.03g/mがより好ましい。
【0031】
塗工層の乾燥塗工量は、要求される表面強度などにより適宜調整可能であり特に限定されるものではないが、通常は両面で0.3g/m以上10.0g/m以下の範囲である。両面で0.6g/m以上8.0g/m以下であることが好ましく、両面で1.0g/m以上6.0g/m以下であることがより好ましい。
塗工層の乾燥塗工量が多くなると、塗工層由来の重量や紙厚が増加する傾向が見られるが、特に本発明のインクジェット記録用紙を書籍用紙に使用した場合、重量の増加は書籍の重量の増加につながり、読書の際に保持する手が疲れやすくなる、また、紙厚の増加は輸送時に積載できる書籍の数量の減少につながり、輸送効率が低下するなどの問題が発生する可能性がある。
【0032】
塗工層を塗工する装置は特に限定はなく、2ロールサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ロットメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーター、スプレーコーター、カーテンコーター等の公知の塗工機によって塗工することができる。本発明では、両面同時塗工が可能であり、かつ低塗工量での塗工に適した塗工装置であるため、ゲートロールコーターを使用することが好ましい。
【0033】
本発明のインクジェット記録用紙は、所望する品質に応じて、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトニップカレンダー、高温ソフトニップカレンダー等の公知の表面処理装置を使用して表面処理を行ってもよく、また、紙厚を高く維持するために、表面処理を行なわなくともよい。本発明のインクジェット記録用紙に表面処理を行う場合は、インクジェット記録用紙の表面粗さ、即ち塗工層の表面粗さを小さくし、かつ紙厚を高く維持することが容易であるため、ソフトニップカレンダーまたは高温ソフトニップカレンダーを使用することが好ましい。
【0034】
(坪量)
本発明のインクジェット記録用紙は、JIS P8124:2011に準じて測定した坪量が40g/m以上150g/m以下であることが好ましく、50g/m以上130g/m以下であることがより好ましい。
【0035】
(密度)
本発明のインクジェット記録用紙は、JIS P 8118:2014に準じて測定した密度が、0.65g/cm以上0.90g/m以下であると好ましく、0.70g/cm以上0.85g/cm以下であることがより好ましい。
【0036】
(コッブ吸水度)
本発明のインクジェット記録用紙は、JIS-P8140(1998年))に準拠して求められる30秒のコッブ吸水度が25~80g/mであり、28~75g/mであることが好ましい。
コッブ吸水度が25g/m未満であると、インクが溢れて滲みが発生する。
コッブ吸水度が80g/mを超えると、インクの浸透量が多く、印字濃度が劣り、ベタ印字部に白抜けも発生する。
コッブ吸水度の測定では、塗工層のある面を測定面とする。
コッブ吸水度を上記範囲に制御する方法としては、基紙中の内添サイズ剤の含有量を調整することができる。
【0037】
ぬれ張力試験用混合液No.50.0を用い、JIS-K6768(1999)に準拠して求められるぬれ張力試験方法による、5秒後の接触角が40~75°であり、45~70°であることが好ましい。
接触角が40°未満であると、滲みが発生する場合がある。
接触角が75°を超えると、インクのドット径が小さくなりベタ印字部に白抜けが発生する場合がある。そして、白抜けが多くなると印字濃度も低下する。
接触角の測定では、塗工層のある面を測定面とする。
接触角を上記範囲に制御する方法としては、基紙中の内添サイズ剤の含有量を調整することができる。
ぬれ張力試験用混合液No.50.0は、エチレングリコ-ルモノエチルエーテル9.3v/v%、ホルムアミド90.7v/v%の組成であり、例えば富士フィルム和光純薬社から入手可能である。
【実施例0038】
以下に実施例を示しながら本発明について説明するが、この実施例は本発明の範囲を限定する者ではない。なお、本明細書の説明において、断らない限り、濃度や%は(固形分)重量%であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0039】
(実施例1)
広葉樹クラフトパルプ(ろ水度350ml)100%からなるパルプスラリーに、パルプ100部に対して、填料としてロゼッタ型軽質炭酸カルシウム(アルバカー5970:SMI社製)を対絶乾パルプ質量当たり15部、硫酸バンドを1.5部、内添サイズ剤として中性ロジンサイズ剤(CC1401:星光PMC社製)を0.3部、カチオン化デンプン(CATO304:日本エヌエスシー社製)を0.5部添加して原料スラリーを得た。
これを、ツインワイヤー型抄紙機を使用して800m/min.の速度で坪量74g/mになるよう抄造して基紙を得た。
【0040】
得られた基紙の両面に、結着剤(MS#3600:日本食品化工社製)10.0%、インク定着剤(DK6802:星光PMC社製のカチオン性樹脂)5.0%、蛍光染料(カヤホールPASQ リキッド:日本化薬社製)0.7%からなる15.7%の塗工液を、オンマシン上に設置されたロッドメタリングサイズプレスを用いて両面で6g/mとなるよう塗工して塗工層を形成することにより、産業用インクジェット記録用紙1を得た。
【0041】
実施例2,3は内添サイズ剤である中性ロジンサイズ剤の配合割合を表1のように変えた点が実施例1と異なる。
実施例4はインクジェット記録用紙の坪量を表1のように低くした点が実施例1と異なる。
実施例5は基紙のパルプに表1の割合で損紙を配合した点が実施例1と異なる。
実施例6は内添填料の配合割合を表1のように変えた点が実施例1と異なる。
実施例7は内添サイズ剤を中性ロジンサイズ剤からAKDに変更した点が実施例1と異なる。
【0042】
比較例1,2は内添サイズ剤である中性ロジンサイズ剤の配合割合を表1のように変えた点が実施例1と異なる。
比較例3は基紙のパルプに表1の割合で古紙パルプ(DIP)を配合した点が実施例1と異なる。
比較例4は塗工層に表1の割合で表面サイズ剤(中性ロジン)を配合した点が実施例1と異なる。
【0043】
<評価方法>
坪量:JIS P8124:2011に準じて測定した。
コッブ吸水度JIS P 8140に準拠して、試験片と水(純水)の接触時間を30秒として上記の通り測定した。
接触角:水(純水)と、ぬれ張力試験用混合液No.50.0(富士フィルム和光純薬製)をそれぞれ試薬として紙の上に3.5μm滴下し、5秒後の接触角(θ)をそれぞれ測定した。なお、液滴の接線と紙表面とのなす角度を接触角(θ)とする。
【0044】
ペン書きサイズ度:塗工層を測定面とし、JAPAN TAPPI No.12に準拠して測定した。
なお、ペン書きサイズ度は、水系の筆記インキによるにじみ度合いの測定であり、インクジェット印字での滲み(文字太り)の評価の1つにもなる。
【0045】
<インクジェット印字適性(顔料インク)>
セイコーエプソン社製ビジネスプリンタ PX-105(モード:普通紙/標準)を用いて、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色について、各インクジェット記録用紙の塗工層にベタ印字を行い、1日後のベタ印字部の印字濃度を分光濃度・測色計(X-Rite eXact ; エックスライト社製)を用いて、測定を行った。シアンのベタ印字部の白抜けを下記の基準で評価した。
〇 : 肉眼で白く抜けている箇所が無い
△ : 部分的に白く抜けている箇所がある
× : はっきりと線状に白く抜けている
なお、評価×は、その評価が劣る(不良である)。
【0046】
<インクジェット印字適性(染料インク)>
キヤノン社製プリンタ PIXUS MG7730(モード:普通紙/標準)を用いて、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色について、各インクジェット記録用紙の塗工層にベタ印字を行い、1日後の印字濃度を分光濃度・測色計(X-Rite eXact ; エックスライト社製)を用いて、測定を行った。
【0047】
また、文字「の」の印字を行い、滲みを以下の基準で評価した。
〇 : 印字直後にインクが乾いていて、文字潰れやフェザーリングなども無い
△ : 印字直後にインクが乾いているが、文字潰れやフェザーリングなどが若干ある
× : 印字直後にインクが乾いていない。又は文字の潰れやフェザーリングがある
【0048】
<印刷搬送性(重送の有無)>
セイコーエプソン社製ビジネスプリンタ PX-105を用いて、100枚連続印字を行い、以下の基準で評価を行った、
〇 : 搬送不良(2枚以上重なって搬送、紙送りできず停止)の発生がなかった
△ : 1~5回の搬送不良が発生した
× : 6回以上の搬送不良が発生した
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1、表2から、基紙が古紙パルプ(DIP)を含有せず、基紙の内添サイズ剤の含有量が0.1~0.6質量部であり、コッブ吸水度が25~80g/mである各実施例の場合、インク吸収性に優れると共に、印字濃度も高くなった。
なお、基紙の内添サイズ剤の含有量が多くなるとインク吸収性が若干低くなり、接触角が増える傾向にあった。また、基紙の内添サイズ剤の含有量が少なくなるとインク吸収性が高くなり、接触角が減る傾向にあった。
内添填料の配合割合を他の実施例より減らした実施例6の場合、基紙の目止め性が低下し吸水量が向上する傾向にあった。
基紙の内添サイズ剤を中性ロジンサイズ剤からAKDに変更した実施例7の場合、他の実施例と同様、インク吸収性と印字濃度は向上した。但し、別の指標である重送が生じて印刷搬送性が低下した。これは用紙の摩擦係数が低下したためと考えられる。なお、基紙中のAKDは、経時で塗工層を突き抜けて表出する傾向にあり、これが用紙の摩擦係数の低下をもたらす。
【0052】
一方、基紙の内添サイズ剤の含有量が0.6質量部を超えた比較例1の場合、コッブ吸水度が25g/m未満に低下し、染料インクで印字した際に滲みが生じた。
一方、基紙の内添サイズ剤の含有量が0.1質量部未満の比較例2の場合、コッブ吸水度が80g/mを超え、染料インクで印字した際に印字濃度が低下した。
【0053】
基紙が古紙パルプ(DIP)を含有した比較例3の場合も、コッブ吸水度が25g/m未満に低下し、染料インクで印字した際に滲みが生じた。
塗工層に表面サイズ剤を配合した比較例4の場合、顔料インクで印字した際に白抜けが生じた。これは表面サイズが効いていると、インクが横方向に広がらず、ドット径が小さくなるため、白抜けが発生するためである。特に高速印刷時は、紙の表面で、ある程度インクが広がることが必要である。
【0054】
なお、本実施例及び比較例では、基紙の両面に塗工層を形成したので、表面粗さは、片面(A面)と反対面(B面)の値のうち大きい方の値を採用する。
また、比較例は、基紙が含有する全パルプのうち化学パルプが85重量%未満であると共に、インクジェット記録用紙のカレンダー処理の線圧を実施例より高くした。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、該基紙上に設けられた塗工層と、を有する産業用インクジェット記録用紙であって、
前記基紙が、パルプ、填料および内添サイズ剤を含有し、
前記パルプが、リグニンを含む古紙パルプ(DIP)を含有せず、
前記基紙に含まれる前記内添サイズ剤の含有量が前記パルプの固形分100質量部に対し、0.1~0.6質量部であり、
前記塗工層が、アニオン性蛍光染料、インク定着剤及び結着剤を含有し、顔料及び表面サイズ剤を含まず、
JIS-P8140に準拠して求められる30秒のコッブ吸水度が25~80g/m
前記塗工層の乾燥塗工量が、両面で0.6g/m 以上6.0g/m 以下である、産業用インクジェット記録用紙。
【請求項2】
ぬれ張力試験用混合液No.50.0を用い、JIS-K6768(1999)に準拠して求められるぬれ張力試験方法による、5秒後の接触角が40~75°である、請求項1に記載の産業用インクジェット記録用紙。
【請求項3】
前記基紙中の全パルプ100質量部に対し、損紙由来のパルプを10質量部以上40質量部以下含む、請求項1に記載の産業用インクジェット記録用紙。
【請求項4】
前記内添サイズ剤が中性ロジンサイズ剤である、請求項1又は2に記載の産業用インクジェット記録用紙。
【請求項5】
書籍用紙である、請求項1又は2に記載の産業用インクジェット記録用紙。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の内容を包含する。
本発明のインクジェット記録用紙は、基紙と、該基紙上に設けられた塗工層と、を有する産業用インクジェット記録用紙であって、前記基紙が、パルプ、填料および内添サイズ剤を含有し、前記パルプが、リグニンを含む古紙パルプ(DIP)を含有せず、前記基紙に含まれる前記内添サイズ剤の含有量が前記パルプの固形分100質量部に対し、0.1~0.6質量部であり、前記塗工層が、アニオン性蛍光染料、インク定着剤及び結着剤を含有し、顔料及び表面サイズ剤を含まず、JIS-P8140に準拠して求められる30秒のコッブ吸水度が25~80g/m、前記塗工層の乾燥塗工量が、両面で0.6g/m 以上6.0g/m 以下である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
発明のインクジェット記録用紙において、前記内添サイズ剤が中性ロジンサイズ剤であることが好ましい。
本発明のインクジェット記録用紙は、書籍用紙であることが好ましい。