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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141282
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】植生マットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 20/00 20180101AFI20241003BHJP
   A01G 24/12 20180101ALI20241003BHJP
   A01G 24/44 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
A01G20/00
A01G24/12
A01G24/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052834
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000231431
【氏名又は名称】日本植生株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592180627
【氏名又は名称】プリード湯谷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅敏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 壮一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 遥香
(72)【発明者】
【氏名】湯谷 豊
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AB02
2B022AB06
2B022AB07
2B022BA02
2B022BA12
2B022BA23
2B022BB02
(57)【要約】
【課題】土壌の吸い出し防止効果が高く、越流水による裏法の浸食や洗掘の軽減・防止と、裏法の緑化とを図るのに適した植生マットが得られる植生マットの製造方法を提供すること。
【解決手段】芝1の種苗が存在する圃場面2に不織布3、目土層4及びネット材5をこの順に配し、成長した芝1による持ち上がりを阻止する下向きの押圧力が不織布3に付与されるようにする。そして、保水効果のある土壌改良材を前記目土層4に混合する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芝の種苗が存在する圃場面に不織布、目土層及びネット材をこの順に配し、成長した芝による持ち上がりを阻止する下向きの押圧力が不織布に付与されるようにしたことを特徴とする植生マットの製造方法。
【請求項2】
保水効果のある土壌改良材を前記目土層に混合してある請求項1に記載の植生マットの製造方法。
【請求項3】
前記不織布、前記目土層及び前記ネット材を貫通する状態となるように前記圃場面に対して固定部材を打ち込む請求項2に記載の植生マットの製造方法。
【請求項4】
前記圃場面として、生育した芝を絡ませた植生マットを剥がし取り、前記芝の根茎が一部残った圃場面を用いる請求項3に記載の植生マットの製造方法。
【請求項5】
前記不織布を配する前の前記圃場面にほぐし芝を撒く前処理工程を実施する請求項3又は4に記載の植生マットの製造方法。
【請求項6】
前記前処理工程において、前記圃場面の表面に間隔を空けて複数の溝を形成し、各溝の中にほぐし芝を埋める請求項5に記載の植生マットの製造方法。
【請求項7】
前記前処理工程において、前記圃場面の表面にほぐし芝を撒き、前記圃場面の表面を耕転しながらほぐし芝をすき込む請求項5に記載の植生マットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、河川堤防の裏法の浸食防止に用いて好適な植生マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川の増水時に河川水が堤防の天端91を越流した場合、その越流水92により堤防の裏法尻部93が洗掘され(図3(A))、その後、越流水により裏法94の浸食が進むと(図3(B))、破堤する(図3(C))ことが知られている。
【0003】
このようにして生じる破堤の対策としては、越流水92による裏法94(裏法尻部93を含む)の浸食や洗掘の軽減・防止が有効である。例えば、特許文献1の堤防補強装置は、堤内地側法面を合成樹脂製の遮水シートで覆うことにより、上記の浸食や洗掘の軽減・防止を図ろうとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-168571号公報
【特許文献2】特開2002-101751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の堤防補強装置では、裏法94の緑化を図ることが困難であり、景観美観性や環境保護等の面で改善の余地がある。
【0006】
一方、本出願人らは、芝生を剥がし取った後の芝生の根茎が残存している圃場面にネット材を敷設し、圃場面またはネット材の上面のいずれか一方の面部に、不織布を展開し、ネット材の上に目土を散布する植生マットの製造方法を先に提案している(特許文献2)。この方法により得られる植生マットでは、不織布がフィルター機能を発揮することで、河川法面などの土壌の吸い出しによる浸食・崩壊が防止される。しかし、この製造方法で形成された植生マットでは、芝のランナー(匍匐茎)がネット材に絡む量が少なく、これに伴い、特にネット材の上側に散布される目土が流亡し易いという問題があり、土壌の吸い出し防止効果の面で向上の余地がある。
【0007】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、土壌の吸い出し防止効果が高く、越流水による裏法の浸食や洗掘の軽減・防止と、裏法の緑化とを図るのに適した植生マットが得られる植生マットの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る植生マットの製造方法は、芝の種苗が存在する圃場面に不織布、目土層及びネット材をこの順に配し、成長した芝による持ち上がりを阻止する下向きの押圧力が不織布に付与されるようにした(請求項1)。
【0009】
上記植生マットの製造方法において、保水効果のある土壌改良材を前記目土層に混合してあってもよい(請求項2)。
【0010】
上記植生マットの製造方法において、前記不織布、前記目土層及び前記ネット材を貫通する状態となるように前記圃場面に対して固定部材を打ち込んでもよい(請求項3)。
【0011】
上記植生マットの製造方法において、前記圃場面として、生育した芝を絡ませた植生マットを剥がし取り、前記芝の根茎が一部残った圃場面を用いてもよい(請求項4)。
【0012】
上記植生マットの製造方法において、前記不織布を配する前の前記圃場面にほぐし芝を撒く前処理工程を実施してもよく(請求項5)、この際、前記前処理工程において、前記圃場面の表面に間隔を空けて複数の溝を形成し、各溝の中にほぐし芝を埋めてもよく(請求項6)、あるいは、前記前処理工程において、前記圃場面の表面にほぐし芝を撒き、前記圃場面の表面を耕転しながらほぐし芝をすき込んでもよい(請求項7)。
【発明の効果】
【0013】
本願発明の植生マットの製造方法では、土壌の吸い出し防止効果が高く、越流水による裏法の浸食や洗掘の軽減・防止と、裏法の緑化とを図るのに適した植生マットが得られる。
【0014】
すなわち、本発明者らは、上記従来の植生マットの製造方法では、不織布が軽量であるため、その下方で成長した芝が不織布を貫かずに持ち上げてしまい易く、その結果、芝のランナーが不織布の上方にあるネット材に絡み難くなるという問題があることを見出した。本願発明(本願の各請求項に係る発明)の植生マットの製造方法では、成長した芝による持ち上がりを阻止する下向きの押圧力を不織布に付与するので、芝が不織布を貫き易く、ランナーが不織布やその上方のネット材に絡んだ一体性の高い植生マットの製造が容易となり、この植生マットでは、不織布によるだけでなくランナーとネット材が一体化された構造により土壌の吸い出し防止効果の向上を図ることができる。そのため、本願発明の植生マットの製造方法により得られる植生マットは、越流水による裏法の浸食や洗掘の軽減・防止と、裏法の緑化とを図るのに適したものとなる。また、不織布とネット材の間に目土を挟むことにより、完成した植生マットを川裏側に施工し、その表面を越流水が通過する際、目土が流亡しづらくなるという効果も期待できる。
【0015】
請求項2に係る発明の植生マットの製造方法では、保水効果のある土壌改良材によって、得られる植生マットを好ましい透水度にコントロールし易くなる。また、保水効果のある土壌改良材を含むので、例えば目土層に対して水を撒いて目土層の重量化を図った状態を長期間維持するのが容易となり、ひいては目土層が芝による不織布の持ち上げを阻止し、芝が不織布を貫いてネット材にまで絡むことによる三者の一体化の促進を図ることができる。
【0016】
請求項3に係る発明の植生マットの製造方法では、成長した芝による不織布の持ち上げを固定部材によって確実に阻止することができ、ひいては芝が不織布等に良好に絡み、一体性の高い植生マットを得るのが容易となる。
【0017】
請求項4に係る発明の植生マットの製造方法では、一つの圃場面で繰り返し植生マットを製造することが容易となる。
【0018】
請求項5に係る発明の植生マットの製造方法では、不織布の下側から育つ芝が増え、それだけ芝が不織布等に密に絡み、得られた植生マットを施工すると、その施工面で地中に延びる芝の根が増えることになるので、根による緊縛力が飛躍的に向上し、ひいては耐浸食性の向上に資する。
【0019】
請求項6に係る発明の植生マットの製造方法では、ほぐし芝を埋めた溝の部分でのみ芝が育つのではなく、隣り合う溝の間の領域では、ほぐし芝の匍匐茎や、ほぐし芝を配する前から圃場面に存在する残存根茎から生まれる茎葉が成長するのであり、やがてその一面が芝となるので、芝が全体に一体化されている植生マットを得ることができ、また、前処理工程では溝の形成とその溝へのほぐし芝の埋入とを行えばよく、手作業で行うのも容易である。
【0020】
請求項7に係る発明の植生マットの製造方法では、ほぐし芝は分散した状態で育つので、全体にわたって略均一に芝が一体化した状態の植生マットが容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施の形態に係る植生マットの製造方法及びこれにより得られる植生マットを概略的に示す斜視図である。
図2】(A)~(D)は前記植生マットの製造方法の説明図である。
図3】(A)~(C)は、破堤が生じるプロセスを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0023】
本実施の形態に係る植生マットの製造方法は、例えば河川堤防(堤防の一例)の裏法に上下左右に複数並べて敷設すると、裏法の浸食や洗掘の軽減・防止と緑化とを図ることができる植生マットD(図1参照)を製造するためのものである。
【0024】
この植生マットDの製造方法では、芝1の種苗が存在する圃場面2(図2(A)参照)に、不織布3、目土層4及び可撓性を有するネット材5をこの順に配し(図2(B)及び(C)参照)、これら3,4,5を貫通する状態となるように圃場面2に対して植物性の竹目串6(固定部材の一例)を打ち込み、固定する(図1参照)。そして、芝1が育って不織布3およびネット材5に十分に絡まった段階で(図2(D)参照)、不織布3の下側に伸びた芝1の根を切断しつつ、相互に一体化した不織布3、目土層4及びネット材5を圃場面2から剥がし取ることで、植生マットDの製造が完了する(図1参照)。
【0025】
ここで、芝1の種苗が存在する圃場面2は、例えば更地の圃場面2に芝の種苗を撒き出すことで準備されたものでもよいし(圃場面2で最初に植生マットDを製造する場合等)、更地の圃場面2に植生マットを構成するための芝(芝マット)、ネット材、不織布等を配し、圃場面2に根付いた芝がネット材等に十分絡んだ段階でこれらを圃場面から剥がして植生マットを製造し、この剥がし取り後に芝の根茎が一部残った圃場面2(つまりは予め植生マットの製造に用いられ、この植生マットの剥がし取り後に植生マットを構成する芝の一部が残存した圃場面2)を利用してもよい(圃場面2で繰り返し植生マットDを製造する場合等)。そして、後者のように、圃場面2として、生育した芝1を絡ませた植生マットDを剥がし取り、芝1の根茎が一部残った圃場面2を用いる場合には、一つの圃場面2で繰り返し植生マットDを製造することが容易となる。
【0026】
不織布3及びネット材5は平面視の大きさが相互に略同一の矩形状(例えば平面視が1000mm×3000mmの長方形状や、2000mm×2000mmの正方形状)を呈し、いずれも展開状態で圃場面2に配される。
【0027】
このうち、不織布3は、化学繊維目付量が30~80g/m2 となるように形成された部材であり、耐久性、耐腐食性に富む素材であるポリエステル繊維、やしマットなどを用いてスパンレース製法により形成されている。
【0028】
対して、ネット材5は、幅1m当たりの引っ張り強度が30~80kN程度で、目合いが5~10×5~10mm程度となるように形成されている。ネット材5は、耐久性に富む繊維、たとえばナイロンやポリエステル、アラミド、カーボン、ポリアセタールなどの繊維を用いて、格子状に成形したものであるが、上記の繊維による線条を用いて、上記と同様の目合いの網状体に編組したものにしてもよい。本例のネット材5は、基布をポリエステル系、被覆材をアクリル系熱硬化樹脂とするジオテキスタイルネットである。
【0029】
ここで、仮に、圃場面2に存在する芝1が成長し、比較的軽量な不織布3を持ち上げてしまうと、芝1が不織布3にもネット材5にも絡まず、植生マットD全体の一体性が不十分となる。そこで、成長した芝1による持ち上がりを阻止する下向きの押圧力が不織布3に付与されるようにするのであり、本例では、不織布3の上側に形成する目土層4に所定の厚み(例えば10~20mm程度、好ましくは12~20mm程度)を持たせ、不織布3の持ち上がりを防ぐ重石となるようにする。これにより、圃場面2に存在する芝1の根茎から成長した茎葉が不織布3を貫いて通過し易くすることができ、さらにはその茎葉が不織布3やネット材5にしっかりと絡んで植生マットD全体の一体性が高まり易くなる。
【0030】
また、こうして不織布3とネット材5との間に目土層4(土)を挟むように構成しておけば、不織布3やネット材5に絡んだ芝によって目土層4の土が良好に保持され、完成した植生マットDを川裏側に施工し、その上を越流水が通過する際、土が流亡しづらくなるというメリットもある。
【0031】
目土層4の土(目土)には、シラス(土)、ベントナイト、黒ぼく土等の保水効果のあるものを土壌改良材として混合しておくことが芝1の生育という観点からは望ましい。なお、この土の成分、配合、厚みを変えていくことで、植生マットDとしての透水度(透水係数)をコントロールできるため、各河川護岸に求められる透水係数に応じた製品を製造することも可能となり、保水効果のある土壌改良材によって、得られる植生マットDを好ましい透水度にコントロールし易くなる。また、目土層4の土に保水効果のある土壌改良材を含む場合、例えば目土層4に対して水を撒いて目土層4の重量化を図った状態を長期間維持するのが容易となり、ひいては目土層4が芝1による不織布3の持ち上げを阻止し、芝1が不織布3を貫いてネット材5にまで絡むことによる三者3,4,5の一体化の促進を図ることができる。
【0032】
そして、出願人が社内で試作試験をしたところ、例えば目土層4の土を、ベントナイトとシラスで構成する場合(保水効果のある土壌改良材が目土層4の土を100%占める場合)、重量比率でベントナイト:シラス=1:1~1:2となるようにすると特に好適な結果が得られた。この理由としては、ベントナイトは水分を含むと膨潤化して密になり、芝の通芽を阻害する可能性があるためと考えられる。
【0033】
また、本例の植生マットの製造方法では、不織布3、目土層4及びネット材5を貫通する状態となるように圃場面2に対して竹目串6を打ち込むので、成長した芝1による不織布3の持ち上げを竹目串6によって確実に阻止することができ、ひいては芝1が不織布3等に良好に絡み、一体性の高い植生マットDを得るのが容易となる。
【0034】
ここで、本例の植生マットDのサイズは縦3.0m×横1.05mであり、これに対して、植生マットDの不織布3やネット材5をできるだけ圃場面2(地面)から浮かせないようにするため、竹目串6は、縦横約1.0mピッチで正方形の格子(行列)状に計8本打ち込む(図1参照)。
【0035】
なお、本例では、植生マットDを圃場面2から剥がし取る際、不織布3の下側に伸びた芝1の根を収穫機等で切断する際、芝1の根と一緒に竹目串6も切断され、切断された竹目串6の上部(頭部分)は植生マットD内に埋もれた状態で搬送され、その状態のままの植生マットDは現場で別の例えば樹脂製の固定部材で敷設施工される。このようにして埋もれた竹目串6の上部はやがて朽ちて分解されるので支障を来さない。また、竹目串6の下部(首下部分)はそのまま圃場面2に埋まった状態で残存し、やがて朽ちて分解されるため次の生産に支障を来さない。但し、植生マットDを圃場面2から剥がし取る際、手間が増えるが竹目串6を引き抜いても良く、この場合、竹目串6の再利用を図ることもできる。
【0036】
上記のように製造される植生マットDを裏法に施工すると、植生マットDは、施工直後から裏法の保護機能を発揮するのであり、景観上で優れることはもちろん、越流水による裏法の浸食や洗掘も効果的に軽減・防止される。
【0037】
また、植生マットDの下面には、不織布3が形成されており、この不織布3は、増水時などの流水による植生マットDの裏側からの土の吸い出しを防止する吸出し防止効果を有している。このため、たとえば施工当初において芝1の生育が不十分であることが原因で芝1の欠損箇所が生じたり、施工後における雑草の侵入(芝が株状の植物に置換されることを含む)や芝1の衰退により芝1の欠損域が拡大したりしても、不織布3が、その部分から土が吸い出されることを防止し、欠落した芝1の機能を補完することができる。
【0038】
なお、上記の吸出し防止効果を得るために、不織布3は、裏法を形成する土や砂などを通しにくく、かつ芝1の根茎をある程度通す複数の穴もしくは隙間を有するものが望ましい。
【0039】
さらに、不織布3が土や砂を通さないことから、施工後の植生マットDに対して周囲から飛散侵入してきた雑草の成長を抑制、妨害し、ひいては雑草の侵入を防止することができる。
【0040】
また、芝1で全面的に覆われる植生マットDの表面は合成樹脂製の遮水シート等に比べて表面の粗度が大きいため、越流水の初期の流下速度を低減することができ、ひいては裏法土壌の吸い出しや裏法尻部の洗掘を軽減・防止することができる。
【0041】
そして、本例の植生マットDでは、不織布3及び芝1が流亡しないようにこれらをネット材5によって保持することができ、このネット材5に適宜の目合いを持たせておくことにより、芝1の成長を阻害しないようにすることも容易である。
【0042】
上記の構成からなる植生マットDの施工方法における植生マットDの裏法への張設は、植生マットDの重量に応じて、クレーンなどを利用してもよいし、人力で行ってもよい。クレーンを利用できる現場の場合、植生マットDを長尺化して重量が増しても対応可能であるので、その長手方向の長さが施工領域(裏法)の縦方向の長さ(法長)に応じた長さ(3m以上、例えば15m)となるように植生マットDを製造し、ロール状に丸めて現場へ搬送し、クレーンで吊りながら施工領域の縦方向にその長手方向が沿うように植生マットDを施工すれば、植生マットDの短手方向(横方向)にのみ植生マットDを複数並べればよく、長手方向(縦方向)に植生マットDを継ぐ必要がなくなる。このとき、横方向(植生マットDの短手方向)に隣り合う植生マットDどうしの連結は依然として必要であるが、縦方向に植生マットDを継ぐ必要がなくなるので、植生マットDの剥がれや流亡防止には効果が大きい。
【0043】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0044】
上述のように植生マットDを剥がし取った後に圃場面2に残存する芝1の根茎を利用して新たな植生マットDを製造する場合、残存した芝1の生育が芳しくなく、時間が掛かり、製造される植生マットDの品質も良くならないというような場合も考えられる。そこで、図2(A)に示す状態の圃場面2に、図2(B)に示すように不織布3、目土層4を配する前に、別途用意したほぐし芝(匍匐茎を細断したもの)を撒く前処理工程を実施するようにしてもよい。こうすることで、匍匐茎の分けつによる旺盛な繁殖が期待でき、植生マットD剥ぎ取り後に圃場面2に残った芝1の根茎のみに頼る上記実施形態に比べ、芝1の生えムラ等の不具合の発生の低減の点で有利となり得る。具体的には、以下の(A)や(B)のような前処理工程を実施することが考えられる。
【0045】
(A)図2(A)に示す状態の圃場面2(芝1の根茎が残存する圃場面2)の表面に小型管理機等を用いて直線状に延びる開口幅5cm程度、深さ数センチ(2~3cm)程度のV溝(溝の一例)を例えば20~30cm間隔で縞状に複数形成し、各V溝の中にほぐし芝をその長手方向に連続的に埋め覆土していく。この前処理工程を実施した場合、ほぐし芝を埋めたV溝の部分でのみ芝が育つのではなく、隣り合うV溝の間の領域では、ほぐし芝の匍匐茎や、ほぐし芝を配する前から圃場面2に存在する残存根茎から生まれる茎葉が成長するのであり、やがてその一面が芝となるので、芝1が全体に一体化されている植生マットDを得ることができ、また、この前処理工程ではV溝の形成とそのV溝へのほぐし芝の埋入とを行えばよく、手作業で行うのも容易である。
【0046】
(B)図2(A)に示す状態の圃場面2(芝1の根茎が残存する圃場面2)の表面全体にほぐし芝を撒き、次いで耕うん機で5cm程度薄く圃場面2の表面を耕耘しながら、ほぐし芝をすき込むことで残存根茎と新たに撒いたほぐし芝とが略均一に分布する新たな表土層を圃場面2に形成したのち転圧する。この前処理工程を実施した場合、ほぐし芝は分散した状態で育つので、全体にわたって略均一に芝が一体化した状態の植生マットDが容易に得られる。
【0047】
上記(A)又は(B)の前処理工程を実施した場合、(1)芝1の根よりも強固な匍匐茎が不織布3とネット材5とに絡み易いうえ、(2)圃場面2から剥がし取って得られる植生マットDに含まれる芝1の根の量をより多くすることが可能となる。このため、(1)植生マットDの一体性が飛躍的に向上し耐久性と吸い出し防止性に優れる、(2)施工後の植生マットDが河川裏法面の地に圧倒的に多くの根を張ることが可能となり、その緊縛力により河川裏法面の表層部をより強固なものにすることができる、といった効果が得られる。
【0048】
上記前処理工程(A)及び(B)は、芝1の根茎が一部残った圃場面2を利用するものに限らず、例えば、芝1の根茎が存在しない圃場面2にほぐし芝を撒き、その圃場面2を利用するものであってもよい。
【0049】
本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0050】
1 芝
2 圃場面
3 不織布
4 目土層
5 ネット材
6 竹目串
91 天端
92 越流水
93 裏法尻部
94 裏法
D 植生マット
図1
図2
図3