IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 林テレンプ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両用サイレンサー 図1
  • 特開-車両用サイレンサー 図2
  • 特開-車両用サイレンサー 図3
  • 特開-車両用サイレンサー 図4
  • 特開-車両用サイレンサー 図5
  • 特開-車両用サイレンサー 図6
  • 特開-車両用サイレンサー 図7
  • 特開-車両用サイレンサー 図8
  • 特開-車両用サイレンサー 図9
  • 特開-車両用サイレンサー 図10
  • 特開-車両用サイレンサー 図11
  • 特開-車両用サイレンサー 図12
  • 特開-車両用サイレンサー 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141283
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両用サイレンサー
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/08 20060101AFI20241003BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20241003BHJP
   G10K 11/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60R13/08
G10K11/172
G10K11/16 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052837
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(72)【発明者】
【氏名】入江 雄太
(72)【発明者】
【氏名】西川 永梨
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕史
【テーマコード(参考)】
3D023
5D061
【Fターム(参考)】
3D023BA02
3D023BA03
3D023BB16
3D023BB21
3D023BB30
3D023BD04
3D023BD25
3D023BE06
3D023BE13
5D061AA22
5D061CC04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電気自動車といった車両の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音を低減させる。
【解決手段】サイレンサーは、パネルの表面に接する繊維構造層、繊維構造層に接着した非通気性の遮音層を有する表層を含む。表層の目付は250~2000g/m2であり、繊維構造層の目付は400~1200g/m2であり、繊維構造層の厚さは8~25mmである。1/3オクターブバンド中心周波数f(Hz)を対数目盛の横軸とし挿入損失IL(dB)を縦軸としたグラフにおいて、折れ線で結ばれる複数の点(f,IL)に上に凸である特定点(fs,ILs)が含まれ、fa<fs<fbとして折れ線において下に凸である第一周囲点(fa,ILa)及び第二周囲点(fb,ILb)で直線L1が接し、直線L1上の基準点(fs,ILc)と特定点(fs,ILs)との距離ILs-ILcが4.5dB以上であり、fsが500~2000Hzの間にある。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルの表面に接して配置される車両用サイレンサーであって、
前記パネルとは反対側の第一の面、及び、前記パネルの表面に接する第二の面を有する繊維構造層と、
前記第一の面に接着した非通気性の遮音層を少なくとも有する表層と、を含み、
前記繊維構造層は、通気性を有し、厚さ方向へ繊維が配向している繊維構造を有し、
前記表層の目付は、250~2000g/m2であり、
前記繊維構造層の目付は、400~1200g/m2であり、
前記繊維構造層の厚さは、8~25mmであり、
本車両用サイレンサーは、1/3オクターブバンド中心周波数f(Hz)を対数目盛の横軸とし挿入損失IL(dB)を縦軸としたグラフにおいて、折れ線で結ばれる複数の点(f,IL)に上に凸である特定点(fs,ILs)が含まれ、fa<fs<fbとして前記折れ線において下に凸である第一周囲点(fa,ILa)及び第二周囲点(fb,ILb)で直線が接し、該直線上の基準点(fs,ILc)と前記特定点(fs,ILs)との距離ILs-ILcが4.5dB以上であり、fsが500~2000Hzの間にある、車両用サイレンサー。
【請求項2】
前記繊維構造は、前記第一の面に沿った積層方向へウェブが繰り返し重ねられた構造を有し、
前記積層方向に直交する幅方向において前記繊維構造層に対する前記遮音層の接着強度が試験片幅50mmの180度はく離において8.5N/50mm以上である、請求項1に記載の車両用サイレンサー。
【請求項3】
前記表層は、通気性を有し繊維とバインダーを含む繊維層であって前記遮音層における前記繊維構造層とは反対側の第三の面に接着した繊維層をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の車両用サイレンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネルの表面に接して配置される車両用サイレンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に設置されるサイレンサーとして、フロアサイレンサー、ホイールハウスサイレンサー、等が知られている。近年、原動機として電動機を備えている電気自動車が販売されている。電気自動車は、外部の電力により充電可能な複数の二次電池セル(例えばリチウムイオンセル)を含むバッテリーユニットを後部座席の下等に備え、例えば車両のリヤ側に設置されたモーターの駆動により走行する。電気自動車は、ガソリン車等から音源の位置や騒音周波数が変化し、サイレンサーの設置箇所も変化している。
特許文献1には、ガソリン車等に設置されるフロアカーペットが開示されている。該フロアカーペットは、プレス成形により車室側の凹凸形状が形成された意匠層と、厚み方向へ繊維が配向された繊維構造体とされた緩衝材がプレス成形されることによりパネル側の凹凸形状が形成された緩衝材層と、を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-173446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、電気自動車においてバッテリーユニットが設置される後部座席の下は、スペースが限られている。特に、電気自動車の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音を効果的に低減させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の車両用サイレンサーは、パネルの表面に接して配置される車両用サイレンサーであって、
前記パネルとは反対側の第一の面、及び、前記パネルの表面に接する第二の面を有する繊維構造層と、
前記第一の面に接着した非通気性の遮音層を少なくとも有する表層と、を含み、
前記繊維構造層は、通気性を有し、厚さ方向へ繊維が配向している繊維構造を有し、
前記表層の目付は、250~2000g/m2であり、
前記繊維構造層の目付は、400~1200g/m2であり、
前記繊維構造層の厚さは、8~25mmであり、
本車両用サイレンサーは、1/3オクターブバンド中心周波数f(Hz)を対数目盛の横軸とし挿入損失IL(dB)を縦軸としたグラフにおいて、折れ線で結ばれる複数の点(f,IL)に上に凸である特定点(fs,ILs)が含まれ、fa<fs<fbとして前記折れ線において下に凸である第一周囲点(fa,ILa)及び第二周囲点(fb,ILb)で直線が接し、該直線上の基準点(fs,ILc)と前記特定点(fs,ILs)との距離ILs-ILcが4.5dB以上であり、fsが500~2000Hzの間にある、態様を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電気自動車といった車両の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音を効果的に低減させることが可能な車両用サイレンサーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】サイレンサーを備える自動車の要部を模式的に例示する断面図。
図2】繊維構造体の要部を例示する側面図。
図3図3Aは繊維構造体の要部を例示する斜視図、図3Bは折り返し部分が切除された繊維構造体の要部を例示する斜視図。
図4図4A及び図4Bは「反共振点」の例を模式的に示す図。
図5】サイレンサー製造方法の例を模式的に示す図。
図6】繊維構造層の有無による挿入損失特性の測定結果の違いを示す片対数グラフ。
図7】繊維構造層の有無による挿入損失特性の測定結果の違いを示す片対数グラフ。
図8】表層の目付に応じた挿入損失特性の測定結果を示す片対数グラフ。
図9】表層の目付に応じた挿入損失特性の測定結果を示す片対数グラフ。
図10】繊維構造層の目付に応じた挿入損失特性の測定結果を示す片対数グラフ。
図11】繊維構造層の厚さに応じた挿入損失特性の測定結果を示す片対数グラフ。
図12】繊維構造層に対する遮音層の接着強度に応じた挿入損失特性の測定結果を示す片対数グラフ。
図13】繊維構造層の圧縮弾性率(ヤング率)に応じた挿入損失特性のシミュレーション結果を示す片対数グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0009】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、図1~13に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。
また、本願において、数値範囲「Min~Max」は、最小値Min以上、且つ、最大値Max以下を意味する。
【0010】
[態様1]
図1に例示するように、本技術の一態様に係る車両用サイレンサー1は、パネル110の表面111に接して配置される車両用サイレンサー1であって、繊維構造層10と表層20を含んでいる。前記繊維構造層10は、前記パネル110とは反対側の第一の面11、及び、前記パネル110の表面111に接する第二の面12を有している。前記表層20は、前記第一の面11に接着した非通気性の遮音層30を少なくとも有している。前記繊維構造層10は、通気性を有し、図2に例示するように、厚さ方向D3へ繊維64が配向している繊維構造13を有している。前記表層20の目付は、250~2000g/m2である。前記繊維構造層10の目付は、400~1200g/m2である。前記繊維構造層10の厚さT10は、8~25mmである。本車両用サイレンサー1は、図4A,4Bに例示するように、1/3オクターブバンド中心周波数f(Hz)を対数目盛の横軸とし挿入損失IL(dB)を縦軸としたグラフにおいて、折れ線で結ばれる複数の点(f,IL)に上に凸である特定点Ps(fs,ILs)が含まれ、fa<fs<fbとして前記折れ線において下に凸である第一周囲点Pa(fa,ILa)及び第二周囲点Pb(fb,ILb)で直線L1が接し、該直線L1上の基準点Pc(fs,ILc)と前記特定点Ps(fs,ILs)との距離ILs-ILcが4.5dB以上であり、fsが500~2000Hzの間にある。
尚、1/3オクターブバンド中心周波数200~5000Hzの間に直線L1が接する下に凸の周囲点Pa,Pbの少なくとも一方が存在しない場合、距離ILs-ILcを算出することができないので、距離ILs-ILcは4.5dB以上ではない。
【0011】
試験を行ったところ、厚さ方向D3へ繊維64が配向している繊維構造13を有する繊維構造層10を使用し、表層20の目付を250~2000g/m2に設定し、繊維構造層10の目付を400~1200g/m2に設定し、繊維構造層10の厚さT10を8~25mmに設定すると、図4A,4Bに例示するように、上述したグラフの折れ線の500~2000Hzの間に反共振を示す「上に凸の点」(以下、「反共振点」とも呼ぶ。)が生じることが判った。ここで、「反共振点」は、上に凸である特定点Ps(fs,ILs)であって、下に凸である第一周囲点Pa(fa,ILa)及び第二周囲点Pb(fb,ILb)で接する直線L1上の基準点Pc(fs,ILc)と特定点Ps(fs,ILs)との距離ILs-ILcが4.5dB以上である特定点Ps(fs,ILs)を意味する。「反共振点」には、折れ線のピークが含まれる。繊維構造がランダム配向など厚さ方向D3へ繊維64が配向していない場合、図6,7に例示するように、500~2000Hzの間に「反共振点」がグラフに現れない。
上記態様1の車両用サイレンサー1は、500~2000Hzの間に反共振が生じることにより、500~2000Hzの間の騒音が質量則を超えて減る。従って、上記態様1は、電気自動車といった車両の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音を効果的に低減させることが可能な車両用サイレンサーを提供することができる。
【0012】
ここで、繊維構造層は、複数の層を含んでいてもよい。表層も、複数の層を含んでいてもよい。
繊維構造の繊維が繊維構造層の厚さ方向へ配向していることは、繊維の配列方向が厚さ方向へ比較的揃っていることを意味し、繊維を厚さ方向へ配向させるための折り返し部分を有することを含む。繊維構造を構成する繊維は屈曲していることがあるので、繊維構造層の繊維の配列方向は、繊維構造層の表面及び裏面に直交する方向からずれていることがある。繊維構造の繊維が厚さ方向へ配向していることは、真っ直ぐな繊維が厚さ方向へ平行に並んでいることを意味する訳ではない。
以上より、厚さ方向へ繊維が配向した繊維構造は、厚さ方向へウェブが繰り返し折り返された波形状の繊維構造、該波形状の繊維構造の折り返し部分を切除した繊維構造、波形状の繊維構造を厚さ方向の途中で二分割して得られる繊維構造、等が含まれる。
繊維構造を構成する繊維は、一種類の繊維でもよいし、主繊維と接着性繊維の組合せ等、二種類以上の繊維の組合せでもよい。
繊維構造層が通気性を有することは、繊維構造層において第一の面から第二の面へ空気が流通可能であることを意味する。
本願における「第一」、「第二」、…は、類似点を有する複数の構成要素に含まれる各構成要素を識別するための用語であり、順番を意味しない。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0013】
[態様2]
図2,3に例示するように、前記繊維構造13は、前記第一の面11に沿った積層方向D1へウェブM1が繰り返し重ねられた構造を有していてもよい。前記積層方向D1に直交する幅方向D2において前記繊維構造層10に対する前記遮音層30の接着強度は、試験片幅50mmの180度はく離において8.5N/50mm以上でもよい。
上記態様2は、500~2000Hz程度の騒音をさらに効果的に低減させることができる。
【0014】
[態様3]
図1に例示するように、前記表層20は、通気性を有し繊維41とバインダー42を含む繊維層40であって前記遮音層30における前記繊維構造層10とは反対側の第三の面31に接着した繊維層40をさらに含んでいてもよい。
以上の場合、パネル110に向かう音が繊維層40に吸収され、遮音層30でパネル110から離れる向きに反射する音が減る。従って、上記態様3は、吸音性能を向上させる車両用サイレンサーを提供することができる。
尚、上記態様3には含まれないが、表層20に繊維層40が無い場合も本技術に含まれる。
【0015】
(2)車両用サイレンサーの具体例:
図1は、車両用サイレンサー1を備える自動車100(車両の例)の要部を模式的に例示している。図1の下部には、サイレンサー1が抜き出されて示されている。図1中、UPは上を示し、DOWNは下を示し、符号D3は繊維構造層10を含むサイレンサー1の厚さ方向を示している。
図1に示すように、自動車100は、バッテリーユニット120を備える電気自動車でもよい。電気自動車は、走行用モーターとエンジンとを備えるハイブリッド車でもよく、原動機として電動機を備えている車両である。バッテリーユニット120は、例えば、複数の二次電池セル(例えばリチウムイオンセル)、空冷用のブロワー及びダクト、等を備えている。
【0016】
自動車100の車体は、例えば、車室といった室内SP1を囲むパネル110で形成されている。パネル110は、鋼板製といった金属製の車体パネルが含まれるが、樹脂製のパネル等でもよい。サイレンサー1は、非通気性のパネル110の表面111に接して配置される。表面111は、図1に示すように室内SP1を向いていてもよいし、車外を向いていてもよい。図1に示すサイレンサー1は、後部座席といった座席130の下であってバッテリーユニット120を覆うパネル110の上に設置されている。
むろん、サイレンサー1は、ホイールハウスの表面に設置されてもよいし、デッキフロアの表面等に設置されてもよい。
【0017】
電気自動車においてバッテリーユニット120が設置される座席130の下のスペース等といったバッテリーユニット120近傍のスペースは、限られている。特に、電気自動車の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音を効果的に低減させることが求められている。本具体例のサイレンサー1は、パネル110に接する層として厚さ方向D3へ繊維が配向している繊維構造13を有する繊維構造層10を含み、該繊維構造層10に接着した非通気性の遮音層30を少なくとも有する表層20を含んでいる。本具体例のサイレンサー1は、パネル110と協働して500~2000Hzの間に「反共振点」を生じさせることにより、質量則を超えて500~2000Hzの間の騒音を低減させることができる。
【0018】
繊維構造層10と表層20を含むサイレンサー1は、プレス成形され、不図示の凹凸形状を有している。繊維構造層10は、互いに反対側にある第一の面11及び第二の面12を有している。繊維構造層10は、第一の面11において遮音層30に接着し、第二の面12においてパネル110の表面111に接している。繊維構造層10は、通気性を有し、吸音性能を発揮する。図1に示す表層20は、繊維構造層10に接着した非通気性の遮音層30、及び、通気性を有し繊維41とバインダー42を含む繊維層40を含んでいる。遮音層30は、繊維構造層10とは反対側の第三の面31を有している。繊維層40は、遮音層30とは反対側の表面21を有し、遮音層30における第三の面31に接着している。
尚、通気性があるとは、通気度が0.05cc/cm2/sec以上(より好ましくは1cc/cm2/sec以上、さらに好ましくは3cc/cm2/sec以上)であることを意味する。通気度は、ASTMインターナショナルが発行しているASTM C522-03(2016)(吸音材の通気抵抗の標準試験方法)に規定された通気抵抗測定結果から計算されるcc/cm2/sec単位の数値とする。
【0019】
繊維構造層10は、図2等に例示するように厚さ方向D3へ繊維64が配向した繊維構造62を有する繊維構造体60から形成され、一面側から他面側へ空気を流通させる通気性を有し、軽量であり、高い吸音性を有する。図2,3Aに例示する繊維構造体60は、厚さ方向D3へ繰り返しウェブM1が折り返されて積層された波形状の繊維構造62を有している。図2,3Aに示す繊維構造体60から形成される繊維構造層10(図1参照)は、厚さ方向D3へウェブM1が繰り返し折り返された波形状の繊維構造13を有する。尚、繊維構造体60における厚さ方向D3は、繊維構造体60における表面60a及び裏面60bと直交する方向とする。繊維構造層10における厚さ方向D3へウェブM1が折り返されるとは、折り返されたウェブM1が比較的厚さ方向D3へ向いていることを意味し、折り返されたウェブM1が厚さ方向D3からずれていることがある。
また、波形状の繊維構造13を有する繊維構造層10は、厚さ方向D3へ繊維64が配向した繊維構造13を有するともいえる。繊維構造13において繊維64が厚さ方向D3へ配向しているので、繊維構造層10の密度が低くなっても厚さ方向D3における剛性が維持される。
【0020】
繊維構造層10を形成するための繊維構造体60において、ウェブM1の折返し前の厚さは、例えば、5~10mm程度等、繊維構造体60の厚さの3~30%程度とすることができる。また、ウェブM1の折返し数(折り返した山の数)は例えば1~10回/20mm程度とすることができ、単位長さ当たりの折返し数が少ないほど低密度で成形しやすい一方、単位長さ当たりの折返し数を多くすると剛性が高まる。尚、ウェブM1の折返し数を山の数で定義しているので、ウェブM1の単位長さ当たりの枚数は折返し数の2倍になる。
【0021】
連続したウェブを繰り返し波形に折り返して積層した繊維構造体を製造する装置としては、ストルート(STRUTO)法など公知の製法を適用した各種の繊維構造体製造装置から適宜選択することができる。
上記繊維構造体製造装置としては、例えば、特表2008-538130号公報に記載のテキスタイルラップ装置や、歯車によって連続したウェブを繰り返し波形に折り返す装置が知られている。
【0022】
繊維構造体60は、各ひだM2の折り返し面が繊維構造体60の幅方向D2及び厚さ方向D3を通る面に合わせられ、繊維64が折り返し部分67を除いて厚さ方向D3へ配向している。繊維構造体60における表面60a及び裏面60bには、ひだM2同士の間の境界線68が現れる。図2に示す繊維構造体60の繊維64は、主繊維65、及び、接着性繊維66(熱可塑性バインダーの例)を含む。接着性繊維66の少なくとも一部は、溶融され、波形に配向した主繊維65同士を接着している。折り返し部分67が集合した表面60a及び裏面60bは、ひだM2(ウェブM1)の積層方向D1に沿って形成されている。ここで、繊維構造体60の幅方向はウェブM1の幅方向でもあり、ウェブの積層方向D1と、ウェブの幅方向D2と、繊維構造体の厚さ方向D3とは、互いに直交する。ここで、繊維64が厚さ方向D3へ配向していることは、繊維64の配列方向が表面60a及び裏面60bに対して直交する方向へ比較的揃っていることを意味し、繊維の折り返し部分67を有することを含む。
【0023】
繊維構造体60を形成するための繊維64には、合成樹脂(エラストマーを含む)の繊維、合成樹脂に添加剤を添加した繊維、植物繊維、無機繊維、反毛繊維、これらの繊維のうち少なくとも一部の組合せ、等を用いることができ、芯鞘構造やサイドバイサイド構造といったコンジュゲート構造の繊維も用いることができる。
【0024】
主繊維65には、熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む)の繊維、熱可塑性樹脂に添加剤を添加した繊維、植物繊維、無機繊維、リサイクルされた反毛繊維、これらの繊維のうち少なくとも一部の組合せ、等を用いることができ、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維といったポリエステル系繊維、ポリプロピレン(PP)繊維といったポリオレフィン系繊維、ポリアミド系繊維、レーヨン繊維、ガラス繊維、衣料反毛繊維、再生綿繊維、さらに添加剤を添加した材質の繊維、これらの繊維のうち少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。主繊維の繊維径は例えば5~60μm程度とすることができ、主繊維の太さは例えば0.5~15デシテックス程度とすることができ、主繊維の繊維長は例えば10~100mm程度とすることができる。主繊維が熱可塑性繊維である場合、この熱可塑性繊維の融点は、例えば160~260℃程度の高融点とすることができる。
【0025】
接着性繊維66には、熱可塑性樹脂の繊維、熱可塑性樹脂に添加剤を添加した繊維、これらの繊維の組合せ、等を用いることができ、PET繊維といったポリエステル系繊維、PP繊維やポリエチレン(PE)繊維といったポリオレフィン系繊維、ポリアミド系繊維、さらに添加剤を添加した材質の繊維、これらの繊維のうち少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。主繊維が熱可塑性繊維である場合、接着性繊維には主繊維よりも低い融点を持つ熱可塑性の繊維を用いるのが好ましい。例えば、接着性繊維に主繊維と相溶性のある繊維を用いると、主繊維と接着性繊維との接着性が良好になり、繊維構造層10に十分な形状保持性を付与することができる。接着性繊維の融点は、例えば100~220℃程度(好ましくは120℃程度以下)とすることができる。
また、繊維64は、主繊維65に使用可能な成分の芯部と接着性繊維66に使用可能な成分の鞘部とを含む芯鞘構造といったコンジュゲート構造を有していてもよい。コンジュゲート構造を有する繊維64において接着性繊維66に使用可能な成分の部分が表面に現れていると、当該部分が熱可塑性バインダーとして機能する。
【0026】
接着性繊維66の繊維径は例えば10~45μm程度とすることができ、接着性繊維66の太さは例えば2~4デシテックスとすることができ、接着性繊維66の繊維長は例えば10~100mm程度とすることができる。主繊維65と接着性繊維66の配合比は、主繊維を30~95重量%程度、接着性繊維を5~70重量%程度とすることができる。
尚、接着性繊維の代わりに繊維状でない熱可塑性バインダーを用いて繊維構造体60を形成することも可能である。
【0027】
繊維構造体60の目付は、500~2000Hzの間に反共振点を生じさせる点から、400~1200g/m2とされている。繊維構造層10を形成するための繊維構造体60の密度は、例えば、0.006~0.15g/cm3とすることができる。繊維構造層10を形成するための繊維構造体60の厚さは、例えば、8~30mmとすることができる。繊維構造体60から形成される繊維構造層10の厚さT10は、500~2000Hzの間に反共振点を生じさせる点から、8~25mmとされている。
【0028】
繊維構造層10を形成するための繊維構造体60は、厚さ方向D3へ繊維64が配向していればよい。そこで、図3Bに例示するように、図3Aに示す繊維構造体60の表面60a及び裏面60bの折り返し部分67を切除したような繊維構造体61を用いることも可能である。繊維構造体61の概念は、厚さ方向D3へ繊維64が配向した繊維構造62を有する繊維構造体60の概念に含まれる。また、波形状の繊維構造体を厚さ方向の途中で二分割して得られる繊維構造体を繊維構造体60として用いることも可能である。
以上より、図3A,3Bに示される繊維構造体60,61から形成される繊維構造層10は、厚さ方向D3へウェブM1が繰り返し折り返された波形状を含めて、第一の面11及び第二の面12に沿った積層方向D1へウェブM1が繰り返し重ねられた繊維構造13を有する。
【0029】
図1に示す遮音層30には、熱可塑性樹脂といった合成樹脂(エラストマーを含む。)を少なくとも含む材料を用いることができる。フィルム状遮音層30のための熱可塑性樹脂(熱可塑性エラストマーを含む。)には、ポリエチレン(PE)樹脂やポリプロピレン(PP)樹脂といったポリオレフィン樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、エチレン酢酸ビニル(EVA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、これらの樹脂のいずれかにエラストマーを添加した改質樹脂、これらの樹脂のいずれかに着色剤や充填剤といった添加剤を添加した材料、これらのうち少なくとも一部の組合せ、等を用いることができる。遮音層30は、前述の材料の単層でもよいし、前述の材料の層を複数組み合わせた層でもよい。
【0030】
図1に示す繊維層40は、一面側から他面側へ空気を流通させる通気性を有し、吸音性を有する。繊維層40に含まれる繊維41には、上述した主繊維65に使用可能な繊維を用いることができる。繊維層40に含まれるバインダー42には、上述した接着性繊維66、繊維状でない熱可塑性バインダー、等を用いることができる。繊維層40には、不織布等が用いられてもよい。
尚、繊維層40が表層20に無くても、500~2000Hzの間に反共振点が生じ得る。
【0031】
非通気性の遮音層30と非通気性のパネル110との間に通気性を有する繊維構造層10があることにより、パネル110とサイレンサー1は振動系を構成する。反共振の周波数は、理論上、表層20の目付に依存し、表層20が遮音層30と繊維層40を含んでいる場合にはこれらの目付を足し合わせた目付に応じた周波数となる。遮音層30と必要に応じて繊維層40を有する表層20の目付は、500~2000Hzの間に反共振点を生じさせる点から、250~2000g/m2(好ましくは480~2000g/m2)とされている。
【0032】
次に、図4A,4Bを参照して、「反共振点」の例を説明する。
図4A,4Bは、パネル110上に設置されたサイレンサー1の挿入損失ILの周波数特性の例を示している。図4A,4Bに示すグラフにおいて、横軸は対数目盛の1/3オクターブバンド中心周波数f(Hz)であり、縦軸は挿入損失IL(dB)である。挿入損失IL(dB)は、SAE J1400_201707標準に従い、鉄板にサイレンサーサンプルを重ねたときの透過損失(dB)から鉄板のみの透過損失(dB)を差し引くことにより算出される。図4A,4Bに示すグラフは、座標(f,IL)の点同士を線分で結んだ折れ線として示されている。
【0033】
図4Aには、折れ線で結ばれる複数の点(f,IL)にピークである特定点Ps(fs,ILs)が含まれている。ここで、ピークは、中心周波数fを変数とする挿入損失IL(f)の極大値に相当する。特定点Ps(fs,ILs)における挿入損失ILsは、横軸方向において特定点Ps(fs,ILs)の直前及び直後の2点の挿入損失ILよりも大きい。また、fa<fs<fbとして、折れ線において下に凸である第一周囲点Pa(fa,ILa)及び第二周囲点Pb(fb,ILb)で直線L1が接するものとする。ここで、下に凸の点は、中心周波数fを変数とする挿入損失IL(f)の2次微分IL’’(f)が正である点に相当する。直線L1は、中心周波数fがfaよりも大きくfbよりも小さい部分の折れ線と交差せず、必ず特定点Ps(fs,ILs)よりも下側となる。特定点Ps(fs,ILs)がピークである場合、特定点Ps(fs,ILs)は反共振点であり、直線L1上の基準点Pc(fs,ILc)と特定点Ps(fs,ILs)との距離ILs-ILcが4.5dB以上となる。本具体例のサイレンサー1は、特定点Ps(fs,ILs)の周波数fsが500~2000Hzの間にある。
【0034】
図4Bには、折れ線で結ばれる複数の点(f,IL)にピークではないが上に凸の特定点Ps(fs,ILs)が含まれている。ここで、上に凸の点は、中心周波数fを変数とする挿入損失IL(f)の2次微分IL’’(f)が負である点に相当する。また、fa<fs<fbとして、折れ線において下に凸である第一周囲点Pa(fa,ILa)及び第二周囲点Pb(fb,ILb)で直線L1が接するものとする。直線L1は、中心周波数fがfaよりも大きくfbよりも小さい部分の折れ線と交差せず、必ず特定点Ps(fs,ILs)よりも下側となる。本具体例の反共振点は、直線L1上の基準点Pc(fs,ILc)と特定点Ps(fs,ILs)との距離ILs-ILcが4.5dB以上となる特定点Ps(fs,ILs)を意味する。測定誤差等によりILs-ILc>0である距離ILs-ILcが算出されることがあるため、誤差レベルである距離ILs-ILcとなる点(f,IL)は、反共振点ではない。距離ILs-ILcが4.5dB未満である点(f,IL)は、特定点Ps(fs,ILs)ではないため、本具体例の反共振点ではない。本具体例のサイレンサー1は、反共振点である特定点Ps(fs,ILs)の周波数fsが500~2000Hzの間にある。
【0035】
図6,7は、繊維構造層10の有無による挿入損失特性の測定結果の違いを示す片対数グラフである。試験を行ったところ、図6,7に示すように、繊維がランダムに配向したフェルトで形成されたフェルト層を繊維構造層10の代わりに用いたサイレンサーでは反共振点が現れず、繊維構造層10を用いたサイレンサー1では500~2000Hzの間に反共振点が現れた。これは、繊維構造層10が厚さ方向D3へ繊維が配向している繊維構造13を有しているため厚さ方向D3において高弾性且つ高粘性であり、繊維構造層10に振動が伝わり易く、サイレンサー1に反共振が発生し易いためと考えられる。
本具体例は、繊維構造層10をサイレンサー1に用い、表層20の目付を250~2000g/m2にし、繊維構造層10の目付を400~1200g/m2にし、繊維構造層10の厚さT10を8~25mmにすることにより、500~2000Hzの間に反共振点を生じさせている。これにより、電気自動車といった車両の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音が質量則を超えて効果的に減ることになる。
【0036】
尚、図12に示す試験結果のように、繊維構造層10に対する遮音層30の接着強度を高くすると反共振点の中心周波数fsが高くなり、繊維構造層10に対する遮音層30の接着強度を低くすると反共振点の中心周波数fsが低くなる。ここで、接着強度は、JIS(日本産業規格)K6854-2:1999(接着剤-はく離接着強さ試験方法-第2部:180度はく離)に準拠し、試験片幅50mm、試験片長さ200mm、試験片総厚10mm、引張速度20mm/min、上下つかみ具の間隔100mm、及び、試験温度23℃±2℃の試験条件で表層20を引っ張ったときの測定値(N/50mm)とする。繊維構造層10と遮音層30との界面で表層20がはく離する場合、接着強度は、引っ張り距離に対する表層20のはく離強度のピークのうち最大ピークと最小ピークを除くピークのはく離強度の相加平均値とする。試験片が破壊される場合、接着強度は、引っ張り距離に対する表層20のはく離強度の最大ピーク以上とする。
【0037】
図2,3A,3Bに示す繊維構造体60,61から繊維構造層10が形成される場合、ウェブM1の積層方向D1に直交する幅方向D2における接着強度は、積層方向D1における接着強度よりも高くなる。本具体例では、反共振点の中心周波数fsを調整するための接着強度を、幅方向D2における接着強度とする。図12には、繊維構造層10に対する遮音層30の幅方向D2における接着強度が試験片幅50mmの180度はく離において8.5N/50mm以上であることが示されている。
【0038】
また、図13に示すシミュレーション結果のように、繊維構造層10の圧縮弾性率(ヤング率)を高くすると反共振点の中心周波数fsが高くなり、繊維構造層10の圧縮弾性率を低くすると反共振点の中心周波数fsが低くなる。ここで、圧縮弾性率は、JIS L1913:2010(一般不織布試験方法)に従って得られる圧縮弾性率とする。図13には、繊維構造層10の圧縮弾性率が30~300kPaであることが示されている。
【0039】
(3)車両用サイレンサーの製造方法の具体例:
図5は、車両用サイレンサー1を製造する方法を模式的に例示している。図5に示す製造方法は、セット工程ST1、及び、該セット工程ST1の後に行われるプレス成形工程ST2を含んでいる。
図5には、サイレンサー1となる積層材料LM1のプレス成形に好適なプレス成形機200が示されている。プレス成形機200には、プレス成形型210を構成する上型212及び下型214が近接及び離隔可能に設けられている。図5において、上型212は表面21に合わせられた型面を有する金型であり、下型214は第二の面12に合わせられた型面を有する金型である。むろん、上型212が第二の面12に合わせられた型面を有して下型214が表面21に合わせられた型面を有していてもよい。
【0040】
まず、積層材料LM1をプレス成形型210にセットするセット工程ST1が行われる。図5に示す積層材料LM1では、第二の面12から表面21に向かう順に、繊維構造層10となる繊維構造体60又は61、遮音層30となる熱可塑性の樹脂シート70、及び、繊維層40となる繊維材80が重ねられている。繊維材80は、不織布等といった繊維質の材料であり、通気性を有する。繊維構造体60,61と繊維材80は熱可塑性バインダーを含むものとする。尚、積層材料LM1には、繊維材80が無くてもよい。
積層材料LM1の加熱は、インフラヒーター(赤外線ヒーター)による輻射加熱、サクションヒーター(熱風循環ヒーター)による熱風加熱、これらの組合せ、等により行うことができる。積層材料LM1の加熱は、積層材料LM1をプレス成形型210にセットする前でもよいし、プレス成形型210にヒーターが設けられている場合には積層材料LM1をプレス成形型210にセットした後でもよい。積層材料LM1の加熱温度は、積層材料LM1に含まれる熱可塑性バインダーの融点よりも高い温度であり、例えば、110~200℃程度とすることができる。
【0041】
セット工程ST1の後、下型214と上型212とを近接させることにより積層材料LM1を厚さ方向D3においてプレス成形するプレス成形工程ST2が行われる。樹脂シート70は、溶融して一部が繊維構造層10や繊維層40に含浸してもよい。繊維構造体60又は61から繊維構造層10が形成され、樹脂シート70から非通気性の遮音層30が形成され、繊維材80から繊維層40が形成される。遮音層30は、繊維構造層10と繊維層40の両方と一体化される。積層材料LM1における熱可塑性の成分が固化すると、サイレンサー1の凹凸形状が保持される。成形されたサイレンサー1は、必要に応じて製品形状に裁断される。サイレンサー1の裁断は、不図示の裁断機で行われてもよい。裁断機には、裁断刃を備える裁断機、ウォータージェットによる裁断を行う裁断機、等を用いることができる。また、サイレンサー1の裁断は、カッターを用いた手裁断等によっても行うことができる。
【0042】
(4)実施例及びシミュレーション例:
以下、実施例及びシミュレーション例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
繊維構造体60には、PET繊維(主繊維65)と反毛繊維(主繊維65)と低融点PET繊維(接着性繊維66)を含む波形状の繊維構造62を有する繊維構造体60(目付800g/m2、厚さ約30mm)を使用した。PET繊維と反毛繊維の重量比は、1:1である。樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付800g/m2)を使用した。繊維材80には、低融点PET繊維を含むPET繊維製のニードルパンチ不織布(目付200g/m2)を使用した。
繊維構造体60、樹脂シート70、及び、繊維材80を順に重ねた積層材料LM1を加熱してプレス成形することにより、厚さ13mmのサイレンサーサンプルを作製した。繊維構造層10の厚さT10は11mmであり、繊維構造層10の目付は800g/m2であり、遮音層30の目付は800g/m2であり、繊維層40の目付は200g/m2である。
【0044】
[比較例1]
繊維構造体60の代わりに、低融点PET繊維を含むPET繊維が厚さ方向D3に対して垂直に配向したフェルト(目付800g/m2)を使用した以外は、実施例1と同じ方法で、厚さ13mmのサイレンサーサンプルを作製した。フェルト層の厚さは11mmであり、フェルト層の目付は800g/m2であり、遮音層30の目付は800g/m2であり、繊維層40の目付は200g/m2である。
【0045】
[実施例2]
繊維構造体60には、PET繊維(主繊維65)と反毛繊維(主繊維65)と低融点PET繊維(接着性繊維66)を含む波形状の繊維構造62を有する繊維構造体60(目付1200g/m2、厚さ約30mm)を使用した。PET繊維と反毛繊維の重量比は、1:1である。樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付500g/m2)を使用した。繊維材80には、低融点PET繊維を含むPET繊維製のニードルパンチ不織布(目付230g/m2)を使用した。
繊維構造体60、樹脂シート70、及び、繊維材80を順に重ねた積層材料LM1を加熱してプレス成形することにより、厚さ23mmのサイレンサーサンプルを作製した。繊維構造層10の厚さT10は20mmであり、繊維構造層10の目付は1200g/m2であり、遮音層30の目付は500g/m2であり、繊維層40の目付は230g/m2である。
【0046】
[比較例2]
繊維構造体60の代わりに、低融点PET繊維を含むPET繊維が厚さ方向D3に対して垂直に配向したフェルト(目付1100g/m2)を使用した以外は、実施例2と同じ方法で、厚さ23mmのサイレンサーサンプルを作製した。フェルト層の厚さは20mmであり、フェルト層の目付は1100g/m2であり、遮音層30の目付は500g/m2であり、繊維層40の目付は230g/m2である。
【0047】
図6は、実施例1と比較例1の挿入損失特性を示す片対数グラフである。図7は、実施例2と比較例2の挿入損失特性を示す片対数グラフである。
図6に示すように、実施例1のグラフには1600Hzにピークが存在し、特定点Ps(fs,ILs)は(1600,19.82)であり、第一周囲点Pa(fa,ILa)は(500,-6.32)であり、第二周囲点Pb(fb,ILb)は(2500,19.45)である。従って、Pa,Pbを通る直線L1の基準点Pc(fs,ILc)の挿入損失ILcは-6.32+(19.45+6.32)×(5/7)=12.09dBであり、距離ILs-ILcは7.4dBである。
図7に示すように、実施例2のグラフには630Hzにピークが存在し、特定点Ps(fs,ILs)は(630,14.74)であり、第一周囲点Pa(fa,ILa)は(315,-3.76)であり、第二周囲点Pb(fb,ILb)は(1000,12.66)である。従って、基準点Pc(fs,ILc)の挿入損失ILcは-3.76+(12.66+3.76)×(3/5)=6.09dBであり、距離ILs-ILcは6.6dBである。
以上より、厚さ方向D3へ繊維が配向している繊維構造13を有する繊維構造層10を含むサイレンサー1は、500~2000Hzの間に反共振が生じることにより、500~2000Hzの間の騒音に対して質量則を超えて低減させることが示されている。
【0048】
一方、比較例1,2のグラフには、距離ILs-ILcが4.5dB以上となる特定点Ps(fs,ILs)が存在しない。このことは、サイレンサーに厚さ方向D3へ繊維が配向している繊維構造13を有する繊維構造層10が無ければ、500~2000Hzの間に反共振が生じず、質量則を超える吸音性能は得られないことを示している。
以上説明したように、厚さ方向D3へ繊維64が配向している繊維構造13を有する繊維構造層10を含むサイレンサー1は、500~2000Hzの間の騒音に対して質量則を超える吸音性能を発揮することが確認された。
【0049】
[実施例3]
表層20の目付を480g/m2(試験区1)、730g/m2(試験区2)、1000g/m2(試験区3)、1200g/m2(試験区4)、1600g/m2(試験区5)、2600g/m2(比較試験区6)、3200g/m2(比較試験区7)に変えて挿入損失特性を測定した。
繊維構造体60には、PET繊維(主繊維65)と反毛繊維(主繊維65)と低融点PET繊維(接着性繊維66)を含む波形状の繊維構造62を有する繊維構造体60(目付800g/m2、厚さ約30mm)を使用した。PET繊維と反毛繊維の重量比は、1:1である。
試験区1の樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付250g/m2)を使用した。試験区2の樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付500g/m2)を使用した。試験区1,2の繊維材80には、低融点PET繊維を含むPET繊維製のニードルパンチ不織布(目付230g/m2)を使用した。試験区3の樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付800g/m2)を使用した。試験区4の樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付1000g/m2)を使用した。試験区3,4の繊維材80には、低融点PET繊維を含むPET繊維製のニードルパンチ不織布(目付200g/m2)を使用した。試験区5の樹脂シート70には、PVC樹脂シート(目付1600g/m2)を使用した。試験区6の樹脂シート70には、PVC樹脂シート(目付2600g/m2)を使用した。試験区7の樹脂シート70には、PVC樹脂シート(目付3200g/m2)を使用した。試験区5~7では、繊維材80を使用しなかった。
【0050】
繊維構造体60、樹脂シート70、及び、繊維材80を順に重ねた積層材料LM1を加熱してプレス成形することにより、サイレンサーサンプルを作製した。試験区1,2,4のサイレンサーサンプルの厚さは15mmであり、試験区1,2,4の繊維構造層10の厚さT10は12mmであり、試験区3,5,6,7のサイレンサーサンプルの厚さは10mmであり、試験区3,5,6,7の繊維構造層10の厚さT10は8mmである。繊維構造層10の目付は800g/m2であり、表層20の目付は上述の通りである。
【0051】
図8は、実施例3の試験区1,2,4の挿入損失特性を示す片対数グラフである。図9は、実施例3の試験区3,5,6,7の挿入損失特性を示す片対数グラフである。
図8に示す試験区1,2,4のグラフには800Hzにピークが存在し、図9に示す試験区3のグラフには1000Hzにピークが存在する。表層20の目付が480~1200g/m2である試験区1~4の距離ILs-ILcは、4.5dB以上である。
表層20の目付が1600g/m2である試験区5(図9参照)のグラフには、800Hzに特定点Ps(fs,ILs)=(800,11.18)が存在する。第一周囲点Pa(fa,ILa)は(500,-4.70)であり、第二周囲点Pb(fb,ILb)は(1250,12.11)である。従って、Pa,Pbを通る直線L1の基準点Pc(fs,ILc)の挿入損失ILcは-4.70+(12.11+4.70)×(2/4)=3.71dBであり、距離ILs-ILcは7.5dBである。
表層20の目付が2600g/m2以上である比較試験区6,7(図9参照)のグラフには、距離ILs-ILcが4.5dB以上となる特定点Ps(fs,ILs)が存在しない。
図8,9には示していないが、表層20の目付が2000g/m2である場合、距離ILs-ILcは4.5dB以上になる。
【0052】
[シミュレーション例]
繊維構造層10の圧縮弾性率(ヤング率)を30kPa(試験区1)、65kPa(試験区2)、130kPa(試験区3)、300kPa(試験区4)に変えて挿入損失特性のシミュレーションを行った。繊維構造層10の目付は600g/m2であり、表層20の目付は250g/m2である。
【0053】
図13は、繊維構造層10の圧縮弾性率に応じた挿入損失特性のシミュレーション結果を示す片対数グラフである。圧縮弾性率が30kPaである試験区1のグラフには500Hzにピークが存在し、圧縮弾性率が65kPaである試験区2のグラフには800Hzにピークが存在し、圧縮弾性率が130kPaである試験区3のグラフには1000Hzにピークが存在し、圧縮弾性率が300kPaである試験区4のグラフには1600Hzにピークが存在する。
試験区1~4により、表層20の目付が250g/m2であっても、500~2000Hzの間に反共振点としての明確なピークが生じることにより、500~2000Hzの間の騒音が質量則を超えて減る。また、圧縮弾性率が高くなるほど特定点Ps(fs,ILs)の中心周波数fsが高くなり、圧縮弾性率が低くなるほど特定点Ps(fs,ILs)の中心周波数fsが低くなることが判る。従って、圧縮弾性率を調整することにより反共振点の中心周波数fsを調整することができると推測される。
【0054】
[実施例4]
繊維構造層10の目付を400g/m2(試験区1)、600g/m2(試験区2)、800g/m2(試験区3)、1000g/m2(試験区4)、1200g/m2(試験区5)に変えて挿入損失特性を測定した。
繊維構造体60には、PET繊維(主繊維65)と反毛繊維(主繊維65)と低融点PET繊維(接着性繊維66)を含む波形状の繊維構造62を有する繊維構造体60を使用した。PET繊維と反毛繊維の重量比は、1:1である。繊維構造体60の目付は、上述の通りである。樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付500g/m2)を使用した。繊維材80には、低融点PET繊維を含むPET繊維製のニードルパンチ不織布(目付230g/m2)を使用した。
【0055】
繊維構造体60、樹脂シート70、及び、繊維材80を順に重ねた積層材料LM1を加熱してプレス成形することにより、厚さ15mmのサイレンサーサンプルを作製した。繊維構造層10の厚さT10は12mmであり、繊維構造層10の目付は上述の通りであり、遮音層30の目付は500g/m2であり、繊維層40の目付は230g/m2である。
【0056】
図10は、実施例4の試験区1~5の挿入損失特性を示す片対数グラフである。試験区1のグラフには630Hzにピークが存在し、試験区2~5のグラフには800Hzにピークが存在する。繊維構造層10の目付が400~1200g/m2である試験区1~5の距離ILs-ILcは、4.5dB以上である。
【0057】
[実施例5]
繊維構造層10の厚さT10を8mm(試験区1)、12mm(試験区2)、16mm(試験区3)、20mm(試験区4)、25mm(試験区5)に変えて挿入損失特性を測定した。
繊維構造体60には、PET繊維(主繊維65)と反毛繊維(主繊維65)と低融点PET繊維(接着性繊維66)を含む波形状の繊維構造62を有する繊維構造体60(目付800g/m2、厚さ約30mm)を使用した。PET繊維と反毛繊維の重量比は、1:1である。樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付800g/m2)を使用した。繊維材80には、低融点PET繊維を含むPET繊維製のニードルパンチ不織布(目付200g/m2)を使用した。
【0058】
繊維構造体60、樹脂シート70、及び、繊維材80を順に重ねた積層材料LM1を加熱してプレス成形することにより、サイレンサーサンプルを作製した。試験区1,2,3,4,5のサイレンサーサンプルの厚さは、それぞれ、11mm、15mm、19mm、23mm、及び、28mmである。試験区1~5の繊維構造層10の厚さT10は、上述の通りである。遮音層30の目付は800g/m2であり、繊維層40の目付は200g/m2である。
【0059】
図11は、実施例5の試験区1~5の挿入損失特性を示す片対数グラフである。試験区1のグラフには1000Hzにピークが存在し、試験区2,3のグラフには800Hzにピークが存在し、試験区4,5のグラフには630Hzにピークが存在する。繊維構造層10の厚さT10が8~25mmである試験区1~5の距離ILs-ILcは、4.5dB以上である。
【0060】
上述したように、限られたスペースの中で、電気自動車の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音を効果的に低減させることが求められている。繊維構造層10が厚さ方向D3へ繊維が配向している繊維構造13を有する場合、表層20の目付を250~2000g/m2にし、繊維構造層10の目付を400~1200g/m2にし、繊維構造層10の厚さT10を8~25mmにすることにより、距離ILs-ILcが4.5dB以上である反共振点を示す中心周波数fsが500~2000Hzの間にあるサイレンサー1を容易に得ることができる。
従って、実施例1~5及びシミュレーション例により、上述したサイレンサー1は車両の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音を効果的に低減させることが可能であることが確認された。
【0061】
[実施例6]
ウェブM1の積層方向D1に直交する幅方向D2において繊維構造層10に対する遮音層30の接着強度(試験片幅50mmの180度はく離)を8.5N/50mm(試験区1)、24.0N/50mm(試験区2)、87.6N/50mm以上(試験区3)、100.0N/50mm以上(試験区4)に変えて挿入損失特性を測定した。比較試験区5として、遮音層30が繊維構造層10に接着していないサイレンサーサンプルの挿入損失特性も測定した。
繊維構造体60には、PET繊維(主繊維65)と反毛繊維(主繊維65)と低融点PET繊維(接着性繊維66)を含む波形状の繊維構造62を有する繊維構造体60(目付800g/m2、厚さ約30mm)を使用した。PET繊維と反毛繊維の重量比は、1:1である。樹脂シート70には、PE樹脂シート(目付800g/m2)を使用した。繊維材80には、低融点PET繊維を含むPET繊維製のニードルパンチ不織布(目付200g/m2)を使用した。
【0062】
試験区1では、遮音層30に繊維層40が接着した表層20を用意し、液状接着剤をスプレーすることにより表層20の遮音層30を繊維構造層10に接着した。試験区2~4では、繊維構造体60、樹脂シート70、及び、繊維材80を順に重ねた積層材料LM1を加熱してプレス成形することにより、サイレンサーサンプルを作製した。試験区3は、試験区2よりも接着強度を高くするためにプレス成形前の加熱温度を試験区2よりも高くした。試験区4は、試験区3よりも接着強度を高くするためにプレス成形前の加熱温度を試験区3よりも高くした。サイレンサーサンプルの厚さは11mmであり、繊維構造層10の厚さT10は8mmであり、繊維構造層10の目付は800g/m2であり、遮音層30の目付は800g/m2であり、繊維層40の目付は200g/m2である。
【0063】
図12は、実施例6の試験区1~5の挿入損失特性を示す片対数グラフである。接着強度が8.5N/50mmである試験区1のグラフには800Hzにピークが存在し、接着強度が24.0N/50mmである試験区2のグラフには1600Hzにピークが存在し、接着強度が87.6N/50mm以上である試験区3のグラフには距離ILs-ILcが4.5dB以上である特定点Ps(1600,19.44)が存在し、接着強度が100.0N/50mm以上である試験区4のグラフには距離ILs-ILcが4.5dB以上である特定点Ps(2000,22.81)が存在する。接着強度が8.5N/50mm以上である試験区1~4の距離ILs-ILcは、4.5dB以上である。比較試験区5のグラフには、距離ILs-ILcが4.5dB以上となる特定点Ps(fs,ILs)が存在しない。
試験区1~4より、接着強度が高くなるほど特定点Ps(fs,ILs)の中心周波数fsが高くなり、接着強度が低くなるほど特定点Ps(fs,ILs)の中心周波数fsが低くなることが判る。従って、接着強度を調整することにより反共振点の中心周波数fsを調整することができることが判った。
【0064】
(5)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、車両の走行により発生する500~2000Hz程度の騒音を効果的に低減させることが可能な車両用サイレンサー等の技術を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0065】
1…サイレンサー、
10…繊維構造層、11…第一の面、12…第二の面、13…繊維構造、
20…表層、21…表面、
30…遮音層、31…第三の面、
40…繊維層、41…繊維、42…バインダー、
60,61…繊維構造体、60a…表面、60b…裏面、62…繊維構造、
64…繊維、65…主繊維、66…接着性繊維(熱可塑性バインダーの例)、
70…樹脂シート、80…繊維材、
100…自動車、110…パネル、111…表面、120…バッテリーユニット、
D1…積層方向、D2…幅方向、D3…厚さ方向、
L1…直線、
M1…ウェブ、M2…ひだ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13