(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141315
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】シリカガラスの製造方法、及び光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20241003BHJP
C03B 37/014 20060101ALI20241003BHJP
C03B 37/018 20060101ALI20241003BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C03B8/04 C
C03B37/014 Z
C03B37/018 C
C03B20/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052898
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】石川 真二
(72)【発明者】
【氏名】早川 正敏
(72)【発明者】
【氏名】荒川 盛司
(72)【発明者】
【氏名】森田 圭省
【テーマコード(参考)】
4G014
4G021
【Fターム(参考)】
4G014AH11
4G014AH12
4G014AH14
4G014AH15
4G021CA12
4G021CA14
4G021EA03
(57)【要約】
【課題】ガラス体内の欠陥の形成を簡易な方法で抑制してシリカガラスを製造することができるシリカガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】シリカガラスの製造方法は、多孔質シリカガラス体Mを準備する工程と、多孔質シリカガラス体をフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱する工程と、加熱する工程の後に1300℃以上の温度で多孔質シリカガラス体Mを透明ガラス化する工程と、を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質シリカガラス体を準備する工程と、
前記多孔質シリカガラス体をフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱する工程と、
前記加熱する工程の後に1300℃以上の温度で前記多孔質シリカガラス体を透明ガラス化する工程と、
を備える、シリカガラスの製造方法。
【請求項2】
前記フッ素を含有するガスがフッ素以外のハロゲンを含まない、
請求項1に記載のシリカガラスの製造方法。
【請求項3】
前記フッ素を含有するガスは、パーフロロカーボン及びハイドロフロロカーボンの少なくとも一方のフッ素化合物ガスを含む、
請求項1に記載のシリカガラスの製造方法。
【請求項4】
前記加熱する工程では、前記フッ素を含有するガスが前記多孔質シリカガラスを構成する二酸化ケイ素と反応して、酸素を含有するガスを形成し、
前記酸素を含有するガスは、二酸化炭素及び水蒸気の少なくとも一方を含む、
請求項1に記載のシリカガラスの製造方法。
【請求項5】
前記加熱する工程での加熱温度は、前記フッ素を含有するガス中のフッ素が前記二酸化ケイ素に添加される温度以下である、
請求項4に記載のシリカガラスの製造方法。
【請求項6】
前記加熱する工程での加熱温度が800℃以上1100℃以下である、
請求項1に記載のシリカガラスの製造方法。
【請求項7】
前記加熱する工程での加熱温度が950℃以上1050℃以下である、
請求項6に記載のシリカガラスの製造方法。
【請求項8】
前記加熱する工程では、前記多孔質シリカガラスを配置した炉心管内の全圧が1kPa以下になるまで減圧を行った後に、圧力変化量ΔPが1kPaより大きくなるまで前記フッ素を含有するガスを前記炉心管内に導入して前記多孔質シリカガラス体を加熱する、
請求項1に記載のシリカガラスの製造方法。
【請求項9】
前記加熱する工程の前に、前記多孔質シリカガラス体を配置した炉心管を加熱しつつ前記炉心管内に不活性ガスを導入する工程を更に備え、
前記加熱する工程での加熱温度が前記導入する工程での加熱温度よりも低い、
請求項1に記載のシリカガラスの製造方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のシリカガラスの製造方法を用いて光ファイバ用母材を作製する工程と、
前記光ファイバ用母材を線引きして光ファイバを作製する工程と、
を備える、光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリカガラスの製造方法、及び光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、火炎加水分解反応で形成したガラス微粒子を堆積して多孔質体を形成し、その後、多孔質体を加熱処理によって透明ガラス化することにより、光ファイバ母材を作製する方法が開示されている。非特許文献2には、あらかじめ合成したシリカガラス粉末を加圧成形して多孔質体を形成する方法が開示されている。特許文献1には、シリカガラス粒子を沈積させて非多孔質体を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】金森弘雄著、「光ファイバ:半世紀の進化と最新動向」、応用物理 第91巻 第4号p205-215、2022年
【非特許文献2】吉田和昭他著、「加圧成形法による光ファイバー母材の作製」、Journal of the Ceramic Society of Japan Vol.104,No.6, p524-528、1996年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1等に記載された方法では、原料又は雰囲気中の不純物成分が多孔質体に混入することにより、多孔質体を加熱処理して緻密かつ透明なガラス体を形成する際、ガラス体内に気泡又は微結晶などの欠陥が形成されることがある。火炎加水分解法における不純物成分は、雰囲気中のダストに起因する炭素粒子、又はアルカリ、鉄などの金属粒子である。例えば、火炎加水分解法において原料ガスに有機系ケイ素材料(例えばシロキサン類)を用いた場合、不完全燃焼に起因する炭素粒子が多孔質体に混入することがある。粉体成型法における不純物成分は、粉体成型時に混入するダスト成分、又は、成形体の強度を向上するために意図的に混入させるバインダー成分である。バインダー成分は、例えば、液体セルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)溶液)又はポリ酢酸ビニール(PVA)溶液である。
【0006】
炭素成分である不純物成分は、例えば、酸素を含む雰囲気(酸素及び窒素の混合ガス又は大気)内に多孔質体を設置して500℃から1000℃に加熱して炭素成分を酸化することにより、除去することができる。しかしながら、多孔質体が大型化すると、酸素分子の拡散が不十分となり、炭素成分が残留する場合がある。一方、金属成分である不純物成分は、金属酸化物の蒸気圧がシリカの多孔質体の透明化温度よりも高い必要があるため、上述したように加熱処理をしても金属粒子が除去されない可能性がある。更に、酸素の雰囲気下では使用できない露出素材(カーボン製など高温で形状安定な大型部材)を装置に使用する場合、酸素の使用条件を大幅に緩くする必要がある。この場合、グラファイトの酸化消耗開始温度である450℃を上限として加熱を行う必要があり、十分な酸化が行えない可能性がある。
【0007】
金属成分である不純物成分の除去に用いられる方法として、塩素ガス等のハロゲンガスの雰囲気下で加熱処理を行い金属成分をハロゲン化することにより蒸気圧を低下させてガス化除去する方法がある。このハロゲン化除去方法は、金属成分の除去には有効であるものの、雰囲気ガス処理のために気密性かつハロゲン耐久製のある気密管中で熱処理する必要があり、設備コストの増大が生じる。
【0008】
本開示は、ガラス体内の欠陥の形成を簡易な方法で抑制することができるシリカガラスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施形態に係るシリカガラスの製造方法は、多孔質シリカガラス体を準備する工程と、多孔質シリカガラス体をフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱する工程と、加熱する工程の後に1300℃以上の温度で多孔質シリカガラス体を透明ガラス化する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ガラス体内の欠陥の形成を簡易な方法で抑制してシリカガラスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、多孔質シリカガラス体を加熱して透明ガラス化する装置の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、シリカガラスの製造方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、実験例1における製造時間と加熱温度との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実験例1で製造されたシリカガラスの径方向の比屈折率差の分布を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実験例3、実験例4及び実験例5で製造されたシリカガラスの径方向の比屈折率差の分布を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実験例6、実験例7及び実験例8で製造されたシリカガラスの径方向の比屈折率差の分布を示すグラフである。
【
図7】
図7は、多孔質シリカガラス体を加熱して透明ガラス化する装置の別の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
[1]本開示の一実施形態に係るシリカガラスの製造方法は、多孔質シリカガラス体を準備する工程と、多孔質シリカガラス体をフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱する工程と、加熱する工程の後に1300℃以上の温度で多孔質シリカガラス体を透明ガラス化する工程と、を備える。
【0013】
このシリカガラスの製造方法では、多孔質シリカガラス体を透明ガラス化する前に、多孔質シリカガラス体をフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱している。この場合、透明ガラス化する前に、多孔質シリカガラス体を構成するシリカ(SiO2)とフッ素を含有するガス(例えばCF4又はCHF3)とが反応し、酸素化合物(例えばCO2)が形成される。そして、この酸素化合物を用いて多孔質ガラス体内の炭素不純物(例えばC)を反応させることで、多孔質シリカガラス体内の炭素不純物が除去される。多孔質シリカガラス体内に水分が残存している場合には、水分(H2O)とフッ素を含有するガスとが反応して酸素化合物が形成され、上記同様、酸素化合物を用いて多孔質ガラス体内の炭素不純物を反応させることで、炭素不純物が除去される。また、上記のシリカガラスの製造方法では、透明ガラス化する前に、多孔質シリカガラス体内の金属不純物(例えばアルカリ類のNa2O又はAl2O3などの金属酸化物)とフッ素を含有するガスとが反応し、溶融させやすいフッ化物(例えばNaF又はAlF3)とすることで金属酸化物が除去される。以上より、このシリカガラスの製造方法によれば、透明ガラス化する前に多孔質シリカガラス体をフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱するといった簡易な方法により各種の不純物を除去することができる。その結果、この製造方法によれば、ガラス体内の欠陥の形成を簡易な方法で抑制することができる。
【0014】
また、上述したシリカガラスの製造方法では、多孔質シリカガラス体を透明ガラス化する前に、多孔質シリカガラス体をフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱している。この場合、多孔質シリカガラス体の表面の酸素又は水酸基をフッ素(F)で置換する効果及び表面エッチングによる表面活性化により、透明ガラス化する際の焼結駆動力(表面自由エネルギー)を増大させることができる。これにより、このシリカガラスの製造方法によれば、透明ガラス化する際の加熱温度を低下させ、エネルギー消費を削減することができる。
【0015】
[2]上記[1]のシリカガラスの製造方法において、フッ素を含有するガスがフッ素以外のハロゲンを含まなくてもよい。この場合、フッ素以外のハロゲンを含まないので、多孔質シリカガラス体を構成するシリカ、炭素不純物、金属不純物とフッ素を含有するガスとがより確実に反応し、炭素不純物及び金属不純物がより確実に除去される。フッ素以外のハロゲン元素(塩素(Cl)、臭素(Br)、沃素(I))を含有する場合、フッ素と炭素の結合エネルギーより、これらハロゲン元素と炭素との結合エネルギーが弱いため、容易にハロゲンガス(例えばCl2)を生成し、炭素成分が残留する可能性が高くなる。このように各種の不純物がより確実に除去されることで、ガラス体内の欠陥の形成をより確実に抑制することができる。また、フッ素以外のハロゲンを含む場合、炉の構成材料にも耐ハロゲン腐食特性が必要となるため、設備コスト増大の要因となる可能性がある。
【0016】
[3]上記[1]又は[2]のシリカガラスの製造方法において、フッ素を含有するガスは、パーフロロカーボン及びハイドロフロロカーボンの少なくとも一方のフッ素化合物ガスを含んでもよい。
【0017】
[4]上記[1]から[3]のいずれかのシリカガラスの製造方法において、加熱する工程では、フッ素を含有するガスが多孔質シリカガラスを構成する二酸化ケイ素と反応して、酸素を含有するガスを形成してもよい。酸素を含有するガスは、二酸化炭素及び水蒸気の少なくとも一方を含んでもよい。この場合、二酸化炭素または水蒸気と多孔質シリカガラス体における炭素不純物とが反応し、多孔質シリカガラス体における炭素不純物がより確実に除去される。これにより、透明ガラス化された後のガラス体内の欠陥の形成を確実に抑制することが可能となる。
【0018】
[5]上記[1]から[4]のいずれかのシリカガラスの製造方法において、加熱する工程では、フッ素を含有するガスが多孔質シリカガラスを構成する二酸化ケイ素と反応してもよい。加熱する工程での加熱温度は、フッ素を含有するガス中のフッ素が二酸化ケイ素に添加される温度以下であってもよい。この場合、焼結前の多孔質シリカガラス体に対してフッ素が添加されてしまうことを抑制し、多孔質シリカガラスが透明ガラス化されたガラス体における屈折率等をより確実に所望の値とすることができる。
【0019】
[6]上記[1]から[5]のいずれかのシリカガラスの製造方法において、加熱する工程での加熱温度が800℃以上1100℃以下であってもよい。この場合、焼結前の多孔質シリカガラス体に対して、フッ素を含有するガスが解離してシリカガラス微粒子と反応することに起因する酸素化合物ガスの生成と、解離して生成したフッ素がシリカガラスに添加されることのバランスが優れ、酸素化合物ガスによる炭素成分の除去と、フッ素添加抑制が、より容易となる。これにより、多孔質シリカガラス体が透明ガラス化されたガラス体における屈折率等をより確実に所望の値とすることができる。
【0020】
[7]上記[6]のシリカガラスの製造方法において、加熱する工程での加熱温度が950℃以上1050℃以下であってもよい。この場合、酸素化合物ガスによる炭素成分の除去と、フッ素添加抑制が更に容易となる。これにより、多孔質シリカガラスが透明ガラス化されたガラス体における屈折率等をより一層、所望の値とすることができる。
【0021】
[8]上記[1]から[7]のいずれかのシリカガラスの製造方法において、加熱する工程では、多孔質シリカガラスを配置した炉心管内の全圧が1kPa以下になるまで減圧を行った後に、圧力変化量ΔPが1kPaより大きくなるまでフッ素を含有するガスを炉心管内に導入して多孔質シリカガラス体を加熱してもよい。この場合、多孔質シリカガラス体を構成するシリカ及び金属不純物とフッ素を含有するガスとがより確実に反応し、炭素不純物及び金属不純物がより確実に除去される。このように各種の不純物がより確実に除去されることで、ガラス体内の欠陥の形成をより確実に抑制することができる。
【0022】
[9]上記[1]から[8]のいずれかのシリカガラスの製造方法は、加熱する工程の前に、多孔質シリカガラス体を配置した炉心管を加熱しつつ炉心管内に不活性ガスを導入する工程を更に備えてもよい。加熱する工程での加熱温度が導入する工程での加熱温度よりも低くてもよい。この場合、加熱しながらの不活性ガスの導入により、多孔質シリカガラス体の水分をより確実に除去することができる。
【0023】
[10]本開示の一実施形態に係る光ファイバの製造方法は、上記[1]から[9]のいずれかのシリカガラスの製造方法を用いて光ファイバ用母材を作製する工程と、光ファイバ用母材を線引きして光ファイバを作製する工程と、を備える。この場合、光ファイバ母材となるシリカガラス内の各種不純物が除去されて欠陥が抑制されているため、光ファイバに加工するプロセスでの不純物などに起因するガラスの外径変動や、切断を低減することができ、品質の安定した光ファイバを製造することが可能になる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態に係るシリカガラスの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0025】
図1を参照して、シリカガラスの製造に用いられる製造装置について説明する。
図1は、多孔質シリカガラス体を加熱して透明ガラス化する装置の一例を示す模式図である。
図1に示す製造装置1は、容器10、炉心管20、ガス供給部30、及び、排気系40を備えている。
【0026】
容器10は、気密性のある容器である。容器10は、前室11、ロッド12、ゲート弁13、炉体14、ヒータ15、及び、断熱材16を有する。炉体14の内部には、炉心管20が配置されている。前室11の上側の端部には、ロッド12を挿通する挿通孔11aが設けられている。挿通孔11aから前室11内へとロッド12が挿通される。ロッド12の下側の端部には上蓋22が係合しており、さらに下側に多孔質シリカガラス体Mが保持される。ロッド12は、昇降装置(図示せず)と連結しており、例えば、炉心管20の中心軸線上を昇降可能になっている。
【0027】
前室11及び炉体14は、例えばSUS(Steel Use Stainless)等の金属により構成される。製造装置1の不使用時には、前室11と炉体14の間の開口は、ゲート弁13によって閉じられる。製造装置1の使用時には、ゲート弁13が開いて、前室11と炉体14の間に開口が生じる。そして、前室11内でロッド12に保持されていた多孔質シリカガラス体Mが下降していき、炉体14内の炉心管20内へと挿入される。
【0028】
ヒータ15は、炉心管20内に配置された多孔質シリカガラス体Mを加熱するための加熱部材である。ヒータ15は、例えば、複数の加熱体15aから構成され、多孔質シリカガラス体Mの全長よりも長い領域を加熱できるように、炉心管20の周囲に配置されている。ヒータ15は、例えば、抵抗加熱型のヒータである。ヒータ15によって炉心管20を加熱することにより、炉心管20内に導入される各種のガス(例えば、N2、CF4)も加熱される。ヒータ15と炉体14の間には、断熱材16が配置されてもよい。これにより、ヒータ15による炉心管20(多孔質シリカガラス体M及び導入ガスを含む)の加熱効率を向上させることができると共に、ヒータ15による熱が炉体14の外側に伝わりにくくなる。
【0029】
炉心管20は、多孔質シリカガラス体Mを加熱して透明ガラス化するための部材であり、上側に多孔質シリカガラス体Mを挿入するための開口21を有する。開口21は、多孔質シリカガラス体Mが炉心管20内に挿入される際に、ロッド12に係合している上蓋22によって閉じられる。炉心管20は、炉心管20の開口21が上蓋22によって閉じられることで気密な状態になる。炉心管20は、高温加熱時の変形を抑制するという観点から、例えば、カーボン製であってもよい。炉心管20の気密性を向上させるために、炉心管20の材料表面に気密性のコーティング(例えば、熱分解カーボン、ガラス状カーボン、炭化ケイ素、窒化ケイ素)を施してもよい。
【0030】
ガス供給部30は、第1ガス供給部31及び第2ガス供給部32を有している。第1ガス供給部31は、炉心管20内へフッ素化合物ガス(例えばCF4又はCHF3)又は不活性ガス(例えばN2又はHe)を供給する。第2ガス供給部32は、炉体14内へ不活性ガスを供給する。第1ガス供給部31及び第2ガス供給部32からのガス供給量を制御することにより、炉心管20内の圧力、不要になった成分等の第1排気管41及び第2排気管43への排気を制御することができる。
【0031】
排気系40は、第1排気管41、第1排気バルブ42、第2排気管43、第2排気バルブ44、第3排気管45、第3排気バルブ46、真空ポンプ47、及び、第4排気バルブ48を備えている。
【0032】
第1排気管41は、炉心管20内の排気を行うための管であり、炉心管20に気密に接続されている。第2排気管43は、炉体14内の排気を行うための管であり、炉体14に気密に接続されている。第1排気管41には、第1排気バルブ42が設けられている。第2排気管43には、第2排気バルブ44が設けられている。第1排気バルブ42及び第2排気バルブ44によっても、炉体14内および炉心管20内の圧力及び排気が制御される。第3排気管45は、前室11内の排気を行うための管であり、前室11に気密に接続されている。第3排気管45には、第3排気バルブ46が設けられている。第3排気バルブ46によって、前室11内の圧力及び排気が制御される。
【0033】
第1排気管41、第2排気管43、及び第3排気管45は、下流において合流する。第1排気管41、第2排気管43及び第3排気管45の合流地点の下流の配管には、真空ポンプ47及び第4排気バルブ48が接続されている。真空ポンプ47は、炉体14内、炉心管20内、及び前室11内を排気して減圧するためのポンプである。第4排気バルブ48は、排気をする際に開かれる。第4排気バルブ48の下流において、排気処理がなされる。
【0034】
排気ガス中にフッ素化合物ガスが含まれる場合、例えば、当該排気ガスは洗浄塔へ送られる。排気ガス中にフッ素化合物ガスが含まれない場合、例えば、当該排気ガスは大気中へ放出される。前室11からの排気ガスは、例えば、大気中へ放出される。排気ガスの送り先は、例えば、真空ポンプ47の下流に設けられた開閉弁(図示せず)によって制御される。なお、製造装置1では、炉心管20は気密性を有するが、炉心管20を完全に気密にすることは困難であるため、炉心管20内に供給されるガスの一部は、炉体14内へ流れ出る場合がある。
【0035】
次に、上述した製造装置1を用いてシリカガラスを製造する方法について説明する。本実施形態に係るシリカガラスの製造方法は、
図2に示すように、以下の工程(a)から(d)を有している。
(a)多孔質シリカガラス体Mを準備する工程
(b)多孔質シリカガラス体Mの水分を除去する工程
(c)多孔質シリカガラス体Mの不純物を除去する工程
(多孔質シリカガラス体Mをフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱する工程)
(d)1300℃以上の温度で多孔質シリカガラス体を透明ガラス化する工程
【0036】
[工程(a)]
多孔質シリカガラス体Mを準備する工程(a)では、例えば、VAD(Vapor-phase Axial Deposition)法又はOVD(Outside VaporDeposition)法などの公知の方法により、多孔質シリカガラス体Mを作製することで、多孔質シリカガラス体Mを準備する。多孔質シリカガラス体Mは、例えば、ケイ素化合物ガス(SiCl4、シロキサンなど)の火炎加水分解反応によって生じる粒径0.1μmから1μmのガラス微粒子を、所定のターゲット上に堆積させた構造であり、一般にスス体(soot)とも呼ばれる。多孔質シリカガラス体M中には、吸着水又はシラノール基として水分が含まれている。多孔質シリカガラス体Mは、非特許文献2等に記載の粉末成形法で作製してもよい。このように準備される多孔質シリカガラス体Mには、炭素系の不純物成分又は金属不純物成分が含まれていることがある。また、多孔質シリカガラス体Mには、水分が吸着していることがある。
【0037】
[工程(b)]
多孔質シリカガラス体Mの水分を除去する工程(b)では、まず、工程(a)で準備された多孔質シリカガラス体Mを、
図1に示す製造装置1のロッド12に取り付けて炉心管20内に配置する。次に、炉心管20及び炉心管20内に配置された多孔質シリカガラス体Mをヒータ15で加熱し、例えば1100℃以上に昇温してその温度を保持する(例えば、
図3におけるステップS1を参照。
図3については後述する)。この加熱温度は、一例として1100℃である。そして、炉心管20等が1100℃を維持するように加熱された状態で、第1ガス供給部31から炉心管20内に不活性ガスを導入すると共に第1排気管41で排気させることで、多孔質シリカガラス体M(スス体)に吸着した水分を除去する。この際、第2ガス供給部32から炉体14内に窒素又はヘリウムを導入してもよい。炉心管20に導入する不活性ガスは、例えば窒素(N
2)である。導入する不活性ガスの流量は、例えば2slmである。ここで用いる「slm」は、標準状態(0℃、1atm)における1分間当たりの流量「standard liter per minute」である。窒素等の不活性ガスの導入は、炉心管20が1100℃に昇温された後に行ってもよいし、炉心管20を1100℃に向かって昇温するのと共に行ってもよい。工程(b)の水分除去が終了した後は、不活性ガスの導入は停止する。なお、この工程(b)が、不活性ガスを導入する工程に相当する。また、工程(b)の加熱温度とは、ステップS1において、一定時間維持される温度であり、多少の変動は許容される。
【0038】
[工程(c)]
多孔質シリカガラス体Mの不純物成分を除去する工程(c)では、炉心管20内に多孔質シリカガラス体Mを配置した状態のままで、工程(b)での加熱温度(例えば1100℃)よりも低い温度となるように、ヒータ15での加熱を調整する(例えば、
図3におけるステップS2を参照)。工程(c)において、炉心管20及び炉心管20内に配置された多孔質シリカガラス体Mを加熱する温度は、例えば、800℃以上1100℃以下であり、950℃以上1050℃以下であってもよい。工程(c)での加熱温度は、一例として1000℃である。工程(c)での加熱温度は、フッ化化合物ガス中のフッ素がシリカ(二酸化ケイ素)に添加される温度以下であってもよい。そして、炉心管20等が1000℃を維持するように加熱された状態で、第1ガス供給部31から炉心管20内にフッ素化合物ガス(フッ素を含むガス)を導入する。この際、第1排気バルブ42は閉じた状態とされる。即ち、炉心管20内には、第1ガス供給部31から導入されるフッ素化合物ガスが封入された状態となる。工程(c)では、例えば、多孔質シリカガラスを配置した炉心管20内の全圧が1kPa以下になるまで減圧を行った後に、フッ素化合物ガスを全圧が1kPa以上となるように導入してもよく、一例として、全圧が2.5kPaとなるように導入する。なお、工程(c)の加熱温度とは、ステップS2において、一定時間維持される温度であり、多少の変動は許容される。
【0039】
そして、工程(c)では、このようにフッ素化合物ガスを所定圧で炉心管20内に封入した状態で、所定時間、封入を保持する。この際、炉心管20内では、多孔質シリカガラス体Mを構成するシリカ(SiO2)とフッ素化合物ガスとが反応して、酸素化合物(例えば二酸化炭素又は水蒸気)が形成される。そして、この酸素化合物を用いて、多孔質シリカガラス体M内の炭素不純物(例えばC)が除去される。多孔質シリカガラス体M内に水分が残存している場合には、水分とフッ素化合物ガスとが反応して酸素化合物が形成され、上記同様、酸素化合物を用いて炭素不純物が除去される。更に、工程(c)では、多孔質シリカガラス体M内の金属不純物(例えばアルカリ類のNa2O又はAl2O3)とフッ素化合物ガスとが反応して、溶融させやすいフッ化物(例えばNaF又はAlF3)が生成され、金属不純物が除去される。工程(c)で封入を保持する時間は、上述した各種の反応が行われるのに十分な時間であり、例えば1時間以上とすることができる。
【0040】
工程(c)で不純物の除去に用いられるフッ素化合物ガスは、例えば、パーフロロカーボン(PFC)であるCF4、C2F6またはC3F8であってもよいし、ハイドロフロロカーボン(HFC)であるCHF3、CH2F2またはCHF2CF3であってもよいし、クロロフロロカーボン(CFC)であるCF3Cl、CF2Cl2またはCClF2CF3であってもよいし、ハイドロクロロフロロカーボン(HCFC)であるCHClF2であってもよい。工程(c)で不純物成分の除去に用いられる別のフッ素化合物ガスは、例えば、SF6、NF3、SiF4またはHFであってもよい。ガス供給装置の簡略化の点では、常温でガス状のフッ素化合物を用いてもよい。工程(c)で不純物の除去に用いられるフッ素化合物ガスとしては、上記の中では、PFCまたはHFCであってもよく、更に、CF4又はCHF3であってもよい。以下では、フッ素化合物ガスとしてCF4を用いた場合の反応例を示すが、他のフッ素化合物ガスを用いた場合の反応式は当業者には明らかであるため、記載を省略する。なお、工程(c)で用いられるフッ素化合物ガスは、フッ素以外のハロゲンを含まないものとすることができる。
【0041】
[シリカ(SiO2)とフッ素化合物ガス(CF4)の反応]
SiO2+CF4 → CO2+SiF4・・・(1)
【0042】
[シリカ(SiO2)中のH2Oとフッ素化合物ガス(CF4)の反応
2H2O+CF4 → CO2+4HF・・・(2)
【0043】
[炭素不純物の除去]
CO2+C → 2CO・・・(3)
上記の反応(1)又は(2)により、多孔質シリカガラス体Mのシリカ又は水分から酸素化合物である二酸化炭素(CO2)が得られる。そして、この酸素化合物を用いた反応(3)により、多孔質シリカガラス体M内の炭素不純物である炭素(C)が一酸化炭素(CO)となって除去(排気)される。なお、この反応(3)は、多孔質シリカガラス体Mの内部で生じるので、製造装置1を構成する炭素製部材への影響は低減されている。
【0044】
[金属不純物(アルカリ類)の結晶化回避]
CF4+Na2O → 2NaF+COF2・・・(4)
3CF4+2Al2O3 → 4AlF3+3CO2・・・(5)
上記の反応(4)又は(5)により、結晶核になりやすいNa2OやAl2O3を、溶融しやすいNaFやAlF3に変換することができる。他のアルカリ金属又はアルカリ土類金属でも同様の反応が考えられる。また、この様な反応は、SiO2とCF4との反応(上記の反応式(1))の際の生成物であるSiF4と金属不純物とが反応した場合も可能である。
【0045】
フッ素化合物ガスの雰囲気で加熱処理を行うと、多孔質シリカガラス体Mのガラス微粒子表面の酸素または水酸基をフッ素(F)置換する効果及び当該表面のエッチングによる表面活性化により、焼結駆動力(表面自由エネルギー増大)が増大する。これにより、後述する工程(d)である透明ガラス化する工程での加熱温度を低下させることができる。以下の式(6)に、この際の反応を示す。
【0046】
[シリカ粒子表面活性化]
2SiOH+CF4 → 2SiF+2HF+CO2・・・(6)
【0047】
[工程(d)]
多孔質シリカガラス体を透明ガラス化する工程(d)では、工程(c)で不純物成分が除去されて炉心管20内に配置されたままの多孔質シリカガラス体Mを、工程(c)での加熱温度(例えば1000℃)よりも高い温度である1300℃以上となるように、ヒータ15での加熱を調整する(例えば、
図3におけるステップS3を参照)。工程(d)では、第1ガス供給部31から炉心管20内に不活性ガス(例えば窒素(N
2))を供給しながら、炉心管20内の多孔質シリカガラス体Mを1300℃になるまで加熱する。その後、第1ガス供給部31からの不活性ガスの供給を停止し、炉心管20内の圧力が10Pa以下の条件で1450℃以上になるまでヒータ15で多孔質シリカガラス体Mを加熱する。この加熱により、多孔質シリカガラス体Mが焼結して、透明ガラス化される。以上により、シリカガラスが作製される。なお、工程(d)の加熱温度とは、ステップS3における最高温度を示している。
【0048】
このように作製されるシリカガラスは、一例では、光ファイバ用母材である。上述したシリカガラスの製造方法によって光ファイバ母材を製造した場合、この光ファイバ母材を線引きして、更に光ファイバを製造してもよい。光ファイバの線引き方法については、公知の方法を用いることができるため、詳細な説明は省略する。また、上述したシリカガラスの製造方法は、光ファイバ母材の製造方法に適用できるだけでなく、他の光部材、例えば、半導体製造装置における各種の光学部材(例えば紫外線用レンズ又はフォトマスク用ガラス)の製造に適用してもよく、特に使用用途が限定されるものではない。
【0049】
以上、本実施形態に係るシリカガラスの製造方法によれば、多孔質シリカガラス体Mを透明ガラス化する前に、多孔質シリカガラス体Mをフッ素化合物ガスの雰囲気下で加熱している。これにより、透明ガラス化する前に、多孔質シリカガラス体Mを構成するシリカ(SiO2)とフッ素化合物ガス(例えばCF4又はCHF3)とが反応し、酸素化合物(例えばCO2)が形成される。そして、この酸素化合物を用いて多孔質ガラス体内の炭素不純物(例えばC)を反応させることで、多孔質シリカガラス体M内の炭素不純物が除去される。多孔質シリカガラス体M内に水分が残存している場合には、水分(H2O)とフッ素化合物ガスとが反応して酸素化合物が形成され、上記同様、酸素化合物を用いて多孔質ガラス体内の炭素不純物を反応させることで、炭素不純物が除去される。また、本実施形態に係るシリカガラスの製造方法では、透明ガラス化する前に、多孔質シリカガラス体M内の金属不純物(例えばアルカリ類のNa2O又はAl2O3などの金属酸化物)とフッ素化合物ガスとが反応し、溶融させやすいフッ化物(例えばNaF又はAlF3)とすることで金属酸化物が除去される。以上より、本実施形態に係るシリカガラスの製造方法によれば、透明ガラス化する前に多孔質シリカガラス体Mをフッ素化合物ガスの雰囲気下で加熱するといった簡易な方法により各種の不純物を除去することができ、ガラス体内の欠陥の形成を簡易な方法で抑制することが可能となる。
【0050】
本実施形態に係るシリカガラスの製造方法では、多孔質シリカガラス体Mを透明ガラス化する前に、多孔質シリカガラス体Mをフッ素を含有するガスの雰囲気下で加熱している。これにより、上記に加えて、多孔質シリカガラス体Mの表面の酸素又は水酸基をフッ素(F)で置換する効果及び表面エッチングによる表面活性化により、透明ガラス化する際の焼結駆動力(表面自由エネルギー)を増大させることができる。これにより、このシリカガラスの製造方法によれば、透明ガラス化する際の加熱温度を低下させ、エネルギー消費を削減することができる。
【0051】
本実施形態に係るシリカガラスの製造方法では、フッ素化合物ガスがフッ素以外のハロゲンを含まない。フッ素以外のハロゲンを含まないので、多孔質シリカガラス体Mを構成するシリカ、炭素不純物、金属不純物とフッ素化合物ガスとがより確実に反応し、炭素不純物及び金属不純物がより確実に除去される。フッ素以外のハロゲン元素(塩素(Cl)、臭素(Br)、沃素(I))を含有する場合、フッ素と炭素の結合エネルギーより、これらハロゲン元素と炭素との結合エネルギーが弱いため、容易にハロゲンガス(例えばCl2)を生成し、炭素成分が残留する可能性が高くなる。これにより、この製造方法によれば、各種の不純物がより確実に除去されることで、ガラス体内の欠陥の形成をより確実に抑制することができる。また、フッ素以外のハロゲンを含む場合、炉の構成材料にも耐ハロゲン腐食特性が必要となるため、設備コスト増大の要因となる可能性がある。
【0052】
本実施形態に係るシリカガラスの製造方法では、フッ素化合物ガスは、パーフロロカーボン及びハイドロフロロカーボンの少なくとも一方のフッ素化合物ガスを含んでもよい。
【0053】
本実施形態に係るシリカガラスの製造方法では、不純物を除去する工程(c)において、フッ素化合物ガスが多孔質シリカガラス体Mを構成する二酸化ケイ素と反応して、酸素を含有するガスを形成する。この酸素を含有するガスは、二酸化炭素及び水蒸気の少なくとも一方を含んでもよい。これにより、二酸化炭素または水蒸気と多孔質シリカガラス体における炭素不純物とが反応し、多孔質シリカガラス体Mにおける炭素不純物をより確実に除去できる。その結果、透明ガラス化された後のガラス体内の欠陥の形成を確実に抑制することが可能となる。
【0054】
本実施形態に係るシリカガラスの製造方法では、不純物を除去する工程(c)において、フッ素化合物ガスが多孔質シリカガラス体Mを構成する二酸化ケイ素と反応してもよい。不純物を除去する工程(c)での加熱温度は、フッ素化合物ガス中のフッ素が二酸化ケイ素に添加される温度以下である。これにより、多孔質シリカガラス体Mに対してフッ素が添加されてしまうことを抑制し、多孔質シリカガラス体Mが透明ガラス化されたガラス体における屈折率等をより確実に所望の値とすることができる。
【0055】
本実施形態に係るシリカガラスの製造方法では、不純物を除去する工程(c)での加熱温度が800℃以上1100℃以下であってもよい。これにより、多孔質シリカガラス体Mに対して、フッ素を含有するガスが解離してシリカガラス微粒子と反応することに起因する酸素化合物ガスの生成と、解離して生成したフッ素がシリカガラスに添加されてしますことのバランスが優れ、酸素化合物ガスによる炭素成分の除去と、フッ素添加抑制が、より容易となる。これにより、フッ素が添加されてしまうことを抑制し、多孔質シリカガラス体Mが透明ガラス化されたガラス体における屈折率等をより確実に所望の値とすることができる。不純物を除去する工程(c)での加熱温度は、950℃以上1050℃以下であってもよい。
【0056】
本実施形態に係るシリカガラスの製造方法では、不純物を除去する工程(c)では、多孔質シリカガラス体Mを配置した炉心管20内の全圧が1kPa以下になるまで減圧を行った後に、圧力変化量ΔPが1kPaより大きくなるまでフッ素化合物ガスを炉心管20内に導入して多孔質シリカガラス体Mを加熱してもよい。これにより、多孔質シリカガラス体を構成するシリカ及び金属不純物とフッ素を含有するガスとがより確実に反応し、炭素不純物及び金属不純物がより確実に除去される。このように各種の不純物がより確実に除去されることで、ガラス体内の欠陥の形成をより確実に抑制することができる。
【0057】
本実施形態に係るシリカガラスの製造方法は、不純物を除去する工程(c)の前に、多孔質シリカガラス体Mを配置した炉心管20を加熱しつつ炉心管20内に不活性ガス(例えばN2)を導入する工程を更に備えてもよい。加熱する工程での加熱温度が導入する工程での加熱温度よりも低くてもよい。この場合、加熱しながらの不活性ガスの導入により、多孔質シリカガラス体の水分をより確実に除去することができる。
【0058】
本実施形態に係る光ファイバの製造方法は、上述したシリカガラスの製造方法を用いて光ファイバ用母材を作製する工程と、光ファイバ用母材を線引きして光ファイバを作製する工程と、を備える。この場合、光ファイバ母材となるシリカガラス内の各種不純物が除去されて欠陥が抑制されているため、光ファイバに加工するプロセスでの不純物などに起因するガラスの外径変動や、切断を低減することができ、品質の安定した光ファイバを製造することが可能になる。
【0059】
以上、本開示に係るシリカガラスの製造方法について詳細に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な実施形態や変形例に適用することが可能である。例えば、上記実施形態では、
図1に示す減圧真空雰囲気炉を用いた場合のシリカガラスの製造方法を説明したが、これに限定されない。即ち、
図7に示す常圧焼結炉を用いて上述した実施形態に開示されたシリカガラスの製造方法を行ってもよいし、ゾーン焼結炉を用いて実施形態に開示されたシリカガラスの製造方法を行ってもよい。
【実施例0060】
以下、実施例により本開示を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実験例1]
実験例1として、まず、シリカ(SiO2)に酸化ゲルマニウム(GeO2)が添加されたコアと、コアの外周を覆いシリカから成るクラッドとを有するガラスロッドを準備した。このガラスロッドは、直径が20mmであり、長さ(長手方向の長さ)が400mmであった。また、ガラス原料としてオクタメチル-シクロテトラ-シロキサン(C8H24O4Si4)を準備した。そして、このガラス原料をH2及びO2の火炎中にノズル噴霧によって供給してシリカ微粒子を形成し、ターゲットであるガラスロッドの外周表面にシリカ微粒子を堆積した。このシリカ微粒子は、クラッドの外周を覆うジャケットに対応する。以上により、多孔質シリカガラス体Mを作製(準備)した。作製された多孔質シリカガラス体Mは、直径が150mmであり、重量が2500gであった。
【0062】
続いて、作製された多孔質シリカガラス体Mを、
図1に示す製造装置1のロッド12の下端に取り付け、炉心管20内に配置した。その後、
図3に示す温度処理条件にて多孔質シリカガラス体Mに対して加熱処理を行い、水分の除去(S1)、不純物成分の除去(S2)、透明ガラス化(S3)の各処理を行った。具体的には、
図3に示すステップS1において、第1ガス供給部31から炉心管20内に窒素(N
2)を2slmの流量で流しつつ、第1排気管41によって排気した。この際、炉心管20と炉心管20内のガス及び多孔質シリカガラス体Mとが1100℃になるまで昇温するようにヒータ15によって加熱した。これにより、多孔質シリカガラス体Mに付着した水分が除去された。ステップS1では、水分の除去を終了した後、第1ガス供給部31からの窒素の供給を停止した。
【0063】
続いて、
図3に示すステップS2において、ヒータ15による加熱温度が1000℃になるまで下げた状態で、第1ガス供給部31から炉心管20内にCF
4を導入した。CF
4の導入は、炉心管20内の全圧が2.5kPaになるまで行い、加熱温度1000℃にて1時間以上保持した。この際、排気は行わず圧力を維持した。これにより、多孔質シリカガラス体M内の不純物を取り除く反応が実施され、炭素系の不純物や金属酸化物が除去、またはハロゲン化された。各種の不純物が除去された後、第1ガス供給部31からのCF
4の供給を停止した。
【0064】
続いて、
図3に示すステップS3において、ヒータ15による加熱温度を再び上昇させて1300℃になるまで昇温すると共に、第1ガス供給部31から炉心管20内に窒素を2slmの流量で供給しつつ第1排気管41によって排気した。その後、炉心管20内への窒素の供給を停止し、炉心管20内の圧力が10Pa以下の条件で、ヒータ15による加熱温度が1450℃以上となるように更に昇温して、多孔質シリカガラス体Mを透明ガラス化した。これにより、透明ガラス化されたシリカガラスを得た。この得られたシリカガラス中の輝点はゼロであった。得られたシリカガラスからなる光ファイバ用ガラス母材の屈折率分布は、
図4に示す通りであり、実験例1で堆積したジャケットの屈折率は、シリカガラスと同等レベルの屈折率であった(ジャケットの比屈折率差Δn3を参照)。なお、
図4において、Δn1は、コアの比屈折率差であり、Δn2は、クラッドの比屈折率差であり、Δn1、Δn2およびΔn3は、シリカガラスの屈折率に対する各部分の屈折率差を意味する。また、実験例1に係る光ファイバ用母材を線引し、ガラス外径125μmの光ファイバを作製した。この光ファイバの局所的な外径変動は1点/100kmであり、光ファイバにおける光損失は、波長1.55μmにおいて、0.183dB/kmであった。
【0065】
[実験例2]
実験例2として、ステップS2の不純物を除去する工程においてCF
4を供給せずに、それ以外の条件は実験例1と同一として、透明ガラスしたシリカガラス体を得た。この得られたシリカガラス中の輝点は、5個から10個/cmであった。つまり、実験例2のシリカガラスには、多数の輝点が残留した。実験例2で得られたシリカガラスの屈折率分布は、実験例1と同様に、
図4に示す通りであり、実験例2で堆積したジャケットの屈折率は、シリカガラスと同等レベルの屈折率であった。但し、実験例2に係る光ファイバ用母材を線引きしようとしたところ、外径変動が大きく、光ファイバを作製できなかった。
【0066】
[実験例と実験例2との対比]
実験例1と実験例2との対比により、CF4を用いた処理を行うことにより、シリカガラス中の輝点の要因となる不純物成分が除去されことがわかった。実験例1及び実験例2では、ガラスの輝点の要因は、原料中の有機成分が炭素として残留していたり、金属酸化物が残存したりしたことであると考えられ、CF4を用いた処理により、炭素系の不純物成分、金属酸化物が反応して除去されたことがわかった。
【0067】
[実験例3、実験例4、実験例5、実験例6、実験例7、実験例8]
実験例3から実験例8として、まず、実験例1と同じ方法にて、各実験例に対応する多孔質シリカガラス体Mをそれぞれ作製した。そして、作製された多孔質シリカガラス体Mのそれぞれを、実験例1と同様に、
図1に示す製造装置1のロッド12に取り付け、炉心管20内に配置した。その後、概ね
図3に示す温度処理条件にて多孔質シリカガラス体Mに対して加熱処理を行い、水分の除去(S1)、不純物成分の除去(S2)、透明ガラス化(S3)の各処理を行った。実験例3から実験例8では、
図3に示すステップS1及びステップS3の加熱条件は実験例1と同じであった。一方、実験例3から実験例8では、
図3に示すステップS2での加熱温度を900℃から1150℃まで50℃刻みの6段階に対応する加熱条件とした。具体的には、実施例3では、ステップS2での加熱温度を900℃とした。実施例4では、ステップS2での加熱温度を950℃とした。実施例5では、ステップS2での加熱温度を1000℃とした。実施例6では、ステップS2での加熱温度を1050℃とした。実施例7では、ステップS2での加熱温度を1100℃とした。実施例8では、ステップS2での加熱温度を1150℃とした。
【0068】
実験例3から実験例6では、ステップS2での加熱温度が900℃から1050℃の範囲であり、フッ素がジャケットに添加されることによる屈折率の低下は観察されなかった(
図5及び
図6を参照)。一方、実験例7および実験例8では、ステップS2での加熱温度が1100℃から1150℃の範囲であり、フッ素がジャケットに添加されることによる屈折率の低下が観察された(
図6を参照)。従って、フッ素添加による屈折率低下を避けたい場合、ステップS2での加熱温度が1050℃以下であってもよいことが確認された。
【0069】
[実験例9、実験例10、実験例11、実験例12、実験例13、実験例14]
実験例9から実験例14として、まず、実験例1と同じ方法にて、各実験例に対応する多孔質シリカガラス体Mをそれぞれ作製した。そして、作製された多孔質シリカガラス体Mのそれぞれを、実験例1と同様に、
図1に示す製造装置1のロッド12に取り付け、炉心管20内に配置した。その後、概ね
図3に示す温度処理条件にて多孔質シリカガラス体Mに対して加熱処理を行い、水分の除去(S1)、不純物成分の除去(S2)、透明ガラス化(S3)の各処理を行った。実験例9から実験例14では、
図3に示すステップS1及びステップS2の条件は実験例1と同じであった。一方、実験例9から実験例14では、
図3に示すステップS3での加熱温度を1360℃から1460℃まで20℃刻みの6段階に対応する加熱条件とした。なお、加熱温度とは、ステップS3における最高温度である。具体的には、実施例9では、ステップS3での加熱温度を1360℃とした。実施例10では、ステップS3での加熱温度を1380℃とした。実施例11では、ステップS3での加熱温度を1400℃とした。実施例12では、ステップS3での加熱温度を1420℃とした。実施例13では、ステップS3での加熱温度を1440℃とした。実施例14では、ステップS3での加熱温度を1460℃とした。
【0070】
実験例10から実験例14では、ステップS3での加熱温度が1380℃以上であり、全ての多孔質シリカガラス体Mが透明ガラス化した。一方、実験例9では、ステップS3での加熱温度が1360℃であり、焼結されたシリカガラス内に未焼結の部分が一部に確認された。なお、仮に未焼結の部分があった場合、再度、加熱することで焼結させることはできる。
【0071】
[実験例15、実験例16、実験例17、実験例18]
実験例15から実験例18として、まず、実験例2と同じ方法にて、各実験例に対応する多孔質シリカガラス体Mをそれぞれ作製した。そして、作製された多孔質シリカガラス体Mのそれぞれを、実験例2と同様に、
図1に示す製造装置1のロッド12に取り付け、炉心管20内に配置した。その後、透明ガラス化する際の温度条件を除いて実施例2と同様の温度条件にて加熱処理を行い、多孔質シリカガラス体Mのそれぞれを透明ガラス化した。即ち、実験例15から実験例18では、実験例9から実験例14と異なり、CF
4を導入しながらの不純物成分の除去は行わなかった。
【0072】
実験例15から実験例18では、
図3に示すステップS3での加熱温度を1400℃から1460℃まで20℃刻みの4段階に対応する加熱条件とした。具体的には、実施例15では、ステップS3での加熱温度を1400℃とした。実施例16では、ステップS3での加熱温度を1420℃とした。実施例17では、ステップS3での加熱温度を1440℃とした。実施例18では、ステップS3での加熱温度を1460℃とした。
【0073】
実験例17及び実験例18では、ステップS3での加熱温度が1440℃以上であり、何れの多孔質シリカガラス体Mも透明ガラス化した。一方、実験例16では、ステップS3での加熱温度が1420℃であり、焼結されたシリカガラス内に未焼結の部分が確認された。また、実験例17では、ステップS3での加熱温度が1400℃であり、ガラス全体が白濁したままであり、焼結できていなかった。
【0074】
[実験例9から実験例14と実験例15から実験例18との対比]
実験例9から実験例14と実験例15から実験例18との対比により、CF4を用いた処理を行うことにより、ガラス微粒子の表面改質により、多孔質シリカガラス体Mが焼結しやすい状態になったことがわかった。つまり、CF4を用いていない方法(実験例15から実験例18)よりも、CF4を用いた方法(実験例9から実験例14)のほうが、焼結温度を低くできることがわかった。よって、本開示に係るシリカガラスの製造方法によれば、ガラス化温度の低温化により、エネルギー消費を削減できることがわかった。
【0075】
[実験例19]
実験例19として、まず、実験例1と同じ方法にて、各実験例に対応する多孔質シリカガラス体Mを作製した。そして、作製された多孔質シリカガラス体Mを、製造装置1Aのロッド12に取り付け、炉心管20内に配置した。実験例19では、透明ガラス化する際に用いる製造装置が
図7に示す製造装置1Aであった。製造装置1Aは、常圧焼結炉であり、排気系として、第1排気管41A及び第1排気バルブ42Aのみを備えていた。そして、作製した多孔質シリカガラス体Mを、
図7に示す常圧焼結炉(製造装置1A)にて800℃から1000℃までヒータ15で加熱しながら、第1ガス供給部31から炉心管20内に窒素を10slmで供給する(水分の除去)と共に、CF
4を100cc/分で供給し、1000℃で1時間以上保持して加熱処理を行った(不純物成分の除去)。その後、炉心管20内に供給していた窒素及びCF
4の供給を停止し、ヘリウム(He)の供給に切り替えた。ヘリウムの供給を続けながら、ヒータ15による加熱温度を1420℃まで昇温して30分間保持し、透明ガラス化を行った。このようにして得られたシリカガラスには、輝点は確認されなかった。即ち、減圧のような状態でなくても、フッ素化合物ガスを供給することで各種の不純物成分を多孔質シリカガラス体Mから除去できることが確認できた。
【0076】
[実験例20]
実験例20として、実験例1等と異なり、粉末成型法で作製した多孔質シリカガラス体Mを作製した。具体的には、平均粒子径100nmのシリカガラス微粒子とPVA水溶液を混錬して、噴霧乾燥器にて平均粒子径15μmに造粒した粒子を作製した。得られた粒子を円柱状のゴム型に充填し、等方加圧成形器を用いて、直径100mmで長さ300mmの円柱形状となるように成形した。この成形体を100℃にて大気中で乾燥し、多孔質シリカガラス体Mを作製した。乾燥重量は1500gであった。
【0077】
その後、多孔質シリカガラス体Mを、
図1に示す製造装置1である減圧真空雰囲気炉に設置し、実験例1と同じように、
図3に示す温度処理条件にて加熱処理を行い、水分の除去(S1)、不純物成分の除去(S2)、透明ガラス化(S3)の各処理を行った。このようにして得られたシリカガラスには、輝点は確認されなかった。即ち、各種の製造方法で作製された多孔質シリカガラス体Mのいずれであっても、本開示のシリカガラスの製造方法を適用できることが確認できた。
【0078】
[実験例21]
実験例21として、実験例20におけるステップS2の不純物を除去する工程においてCF4を供給せず、それ以外の条件は実験例20と同一として、透明ガラス化したシリカガラスを得た。この得られたシリカガラスは黒色に着色し、一部結晶化による白濁が観察された。
【0079】
[実験例22、実験例23、]
実験例22及び実験例23では、実験例1と同じ方法にて、各実験例に対応する多孔質シリカガラス体Mをそれぞれ作製した。そして、作製された多孔質シリカガラス体Mのそれぞれを、実験例1と同様に、
図1に示す製造装置1のロッド12に取り付け、炉心管20内に配置した。その後、
図3に示す温度処理条件にて多孔質シリカガラス体Mに対して加熱処理を行い、水分の除去(S1)、不純物成分の除去(S2)、透明ガラス化(S3)の各処理を行った。具体的には、
図3に示すステップS1において、第1ガス供給部31から炉心管20内に窒素(N
2)を2slmの流量で流しつつ、第1排気管41によって排気した。この際、炉心管20と炉心管20内のガス及び多孔質シリカガラス体Mとが1100℃になるまで昇温するようにヒータ15によって加熱した。これにより、多孔質シリカガラス体Mに付着した水分が除去された。ステップS1では、水分の除去を終了した後、第1ガス供給部31からの窒素の供給を停止した。
【0080】
続いて、
図3に示すステップS2において、ヒータ15による加熱温度が900℃(実験例22の場合)、1000℃(実験例23の場合)になるまで下げた状態で、第1ガス供給部31から炉心管20内にCHF
3を導入した。CHF
3の導入は、炉心管20内の全圧が3.2kPaになるまで行い、同一加熱温度にて1時間以上保持した。この際、排気は行わず圧力を維持した。これにより、多孔質シリカガラス体M内の不純物を取り除く反応が実施され、炭素系の不純物や金属酸化物が除去、又はハロゲン化された。
【0081】
その後、
図3に示すステップS3で、ガス供給を停止するとともに、排気バルブ42,44を開放し、100Pa以下の圧力下で、炉の最高温度を1400℃の加熱条件として透明ガラス化を行った。実験例22,23ともに多孔質シリカガラス体Mが透明ガラス化した。この得られたシリカガラス中の輝点はゼロであった。
【0082】
[実験例24、実験例25]
実験例24及び実験例25では、実験例1と同じ方法にて、各実験例に対応する多孔質シリカガラス体Mをそれぞれ作製した。そして、作製された多孔質シリカガラス体Mのそれぞれを、実験例1と同様に、
図1に示す製造装置1のロッド12に取り付け、炉心管20内に配置した。その後、
図3に示す温度処理条件にて多孔質シリカガラス体Mに対して加熱処理を行い、水分の除去(S1)、不純物成分の除去(S2)、透明ガラス化(S3)の各処理を行った。具体的には、
図3に示すステップS1において、第1ガス供給部31から炉心管20内に窒素(N
2)を2slmの流量で流しつつ、第1排気管41によって排気した。この際、炉心管20と炉心管20内のガス及び多孔質シリカガラス体Mとが1100℃になるまで昇温するようにヒータ15によって加熱した。これにより、多孔質シリカガラス体Mに付着した水分が除去された。ステップS1では、水分の除去を終了した後、第1ガス供給部31からの窒素の供給を停止した。
【0083】
続いて、
図3に示すステップS2において、ヒータ15による加熱温度が950℃(実験例24の場合)、1050℃(実験例24の場合)になるまで下げた状態で、第1ガス供給部31から炉心管20内にC
2F
6を導入した。C
2F
6の導入は、炉心管20内の全圧が1.6kPaになるまで行い、同一加熱温度にて1時間以上保持した。この際、排気は行わず圧力を維持した。これにより、多孔質シリカガラス体M内の不純物を取り除く反応が実施され、炭素系の不純物や金属酸化物が除去、又はハロゲン化された。
【0084】
その後、
図3に示すステップS3で、ガス供給を停止するとともに、排気バルブ42,44を開放し、100Pa以下の圧力下で、炉の最高温度を1400℃の加熱条件として透明ガラス化を行った。実験例24,25ともに多孔質シリカガラス体Mが透明ガラス化した。この得られたシリカガラス中の輝点はゼロであった。
【0085】
以上、説明したように、適切な処理条件にてフッ素化合物であるCF4雰囲気下での加熱処理を行うといった簡易な方法により、シリカガラスの欠陥を低減できることが確認できた。更に、この製造方法によれば、ガラス透明化する温度を低減できることも確認できた。