IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEエンジニアリング株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

特開2024-141316放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置
<>
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図1
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図2
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図3
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図4
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図5
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図6
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図7
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図8
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図9
  • 特開-放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141316
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/08 20060101AFI20241003BHJP
   G21G 1/12 20060101ALI20241003BHJP
   G21G 4/08 20060101ALI20241003BHJP
   G21K 5/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G21K5/08 R
G21G1/12
G21G4/08 T
G21K5/08 C
G21K5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052899
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100116713
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 正己
(74)【代理人】
【識別番号】100179844
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 芳國
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀作
(72)【発明者】
【氏名】柏木 茂
(72)【発明者】
【氏名】菊永 英寿
(57)【要約】
【課題】電子線加速器を用いて大電流でターゲット材に電子線を照射して、効率的に放射性核種を生成することができる放射性核種の製造方法を提供すること。
【解決手段】電子線加速器で加速した電子線31を原料となる核種が存在するターゲット材11に照射し、これによってターゲット材11から生成する制動放射線と原料との反応を利用して、放射性核種を製造する放射性核種の製造方法であって、次の工程を有することを特徴とする放射性核種の製造方法。
工程A:ターゲット材11を管状容器12に収容する工程
工程B:前記管状容器12の軸方向が電子線31の照射方向と一致するように前記管状容器12を支持する工程
工程C:前記管状容器12の底面に前記電子線31を照射して放射性核種を生成する工程
工程D:前記管状容器12を冷却媒体24によって冷却する工程
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線加速器で加速した電子線を、原料となる核種が存在するターゲット材に照射し、これによってターゲット材から生成する制動放射線と原料との反応を利用して、放射性核種を製造する放射性核種の製造方法であって、次の工程を有することを特徴とする放射性核種の製造方法。
工程A:ターゲット材を、電子線透過性材料からなり、両端が封止され内部が密閉された管状容器の内部に収容する工程
工程B:前記管状容器の軸方向が電子線の照射方向と一致するように前記管状容器を支持する工程
工程C:前記管状容器の底面に前記電子線を照射して放射性核種を生成する工程
工程D:前記管状容器を冷却媒体によって冷却する工程
【請求項2】
前記工程Bにおいて、前記管状容器が垂直方向に対して角度を持つように前記管状容器を支持する、請求項1に記載の放射性核種の製造方法。
【請求項3】
更に、次の工程Eを含む請求項1に記載の放射性核種の製造方法。
工程E:前記電子線の照射方向と前記管状容器の軸の方向とが交差するように前記管状容器の軸の方向を変える工程
【請求項4】
前記工程Cにおいて、前記管状容器の底面における前記電子線の照射位置を変化させる、請求項1に記載の放射性核種の製造方法。
【請求項5】
前記工程Cにおける、前記管状容器の底面における前記電子線の照射位置を変化させる方法が、下記a~dの少なくとも一つの方法である、請求項4に記載の放射性核種の製造方法。
a.管状容器を電子線の方向に対して垂直な方向に移動させる方法
b.管状容器を電子線の方向に対して垂直な方向に振動させる方法
c.電子線の方向を管状容器の軸の方向に対して垂直な方向に移動させる方法
d.管状容器を管状容器の中心軸を回転軸として回転させる方法
【請求項6】
更に、他の電子線加速器で加速した電子線を前記管状容器の上面から、電子線の照射方向が管状容器の軸方向と一致するように照射するようにした、請求項1に記載の放射性核種の製造方法。
【請求項7】
前記ターゲット材が、モリブデン100(Mo-100)、ラジウム226(Ra-226)、ハフニウム178(Hf-178)、ゲルマニウム70(Ge-70)、亜鉛66、68(Zn-66、68)、チタン48(Ti-48)、及び、カルシウム48(Ca-48)またはそれらの化合物から選ばれる1種である、請求項1に記載の放射性核種の製造方法。
【請求項8】
前記ターゲット材がモリブデン100であり、前記電子線を前記モリブデン100に照射することによってモリブデン100からモリブデン99を製造する、請求項7に記載の放射性核種の製造方法。
【請求項9】
前記ターゲット材が粉末状、タブレット状又は円盤状の形状を有する、請求項1に記載の放射性核種の製造方法。
【請求項10】
電子線加速器で加速した電子線を、原料となる核種が存在するターゲット材に照射し、これによってターゲット材から生成する制動放射線と原料との反応を利用して、放射性核種を製造する放射性核種の製造装置であって、
電子線加速器と、
前記電子線加速器からの電子線が照射されるターゲット材を収容した、電子線透過性材料からなり、両端が封止され内部が密閉された管状容器と、
前記管状容器を支持する支持機構と、
前記管状容器及び前記支持機構を収容するタンクと、
前記タンク内に収容された冷却媒体と、
前記冷却媒体を冷却する熱交換器と、
前記タンク内の冷却媒体を前記熱交換器に送り、前記熱交換器で冷却された冷却媒体を前記タンク内に戻す配管と、を備え、
前記電子線は前記管状容器の底面を前記管状容器の軸方向に照射することができるようになっている、
ことを特徴とする放射性核種の製造装置。
【請求項11】
前記支持機構が、前記管状容器に下記a~dの少なくとも一つの動きをさせる機能を備えた支持機構である、請求項10に記載の放射性核種の製造装置。
a.管状容器を電子線の方向に対して垂直な方向に往復動させる。
b.管状容器を電子線の方向に対して垂直な方向に振動させる。
c.電子線の照射方向と管状容器の軸の方向とが交差するように管状容器の軸の方向を変化させる。
d.管状容器を管状容器の中心軸を回転軸として回転させる。
【請求項12】
前記電子線加速器は、電子線の方向が管状容器の軸の方向に対して垂直な方向に往復動するように配置されている、請求項10に記載の放射性核種の製造装置。
【請求項13】
更に、他の電子線加速器を備え、前記他の電子線加速器は、電子線を前記管状容器の上面から、電子線の照射方向が管状容器の軸方向と一致するように照射するように配置されている、請求項10に記載の放射性核種の製造装置。
【請求項14】
前記タンクは、少なくとも電子線が通過する壁部分が金属薄膜又は石英からなる、請求項10に記載の放射性核種の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核医学の分野では、診断や治療等に放射性核種が利用されている。
一般に、放射性核種は、原料となる核種に放射線を照射して原子核反応により放射性核種(RI;Radioisotope)を生成させた後、目的の放射性核種を化学分離する方法で生産されている。原子核反応を惹起するための放射線としては、荷電粒子線、中性子線、制動放射線等が用いられている。
【0003】
診断に用いられる放射性核種としては、γ線を放出するテクネチウム99m(Tc-99m)、ガリウム67(Ga-67)等や、β線を放出するフッ素18(F-18)、酸素15(O-15)、窒素14(N-14)、炭素11(C-11)等が知られている。
【0004】
テクネチウム99mは、励起状態で準安定状態(meta stable)であり、基底状態に核異性体転移するときにγ線を放出する性質を持つため、診断用の放射性核種として多用されている。テクネチウム99mの一般的な原料は、モリブデン99である。親核種であるモリブデン99のβ崩壊によって、娘核種であるテクネチウム99mが生成されている。
【0005】
モリブデン99の半減期は、約66時間と短く、長期間にわたる貯蔵は困難である。そのため、使用直前の空輸が必須なケースが大半である。このような供給上の問題を解消するために、天然同位体の酸化モリブデン等を放射化する放射化法をはじめ、新たな生産法が検討されている。
【0006】
ターゲット材に放射線を照射して放射性核種を製造する際に、照射による発熱によって照射ターゲットが局所的に高温となり、溶融することがある。ターゲット材が溶融するとRIが漏洩する恐れがあるため、ターゲットの冷却が必要である。従来技術ではRIが作られるターゲットを細かく分割することによって高発熱部を分散し、冷却水・空気と接する面を広くするという冷却性能を向上させるアイデアが提案されている。
【0007】
特許文献1は従来の放射性核種の製造装置を示す図である。
図10Aは、ターゲット装置10を備える放射性核種の製造装置100の構成図である。放射性核種の製造装置100は、ターゲット装置10と、粒子ビームを生成する加速器60を有する。
【0008】
図10Bはターゲット装置10の断面模式図である。
ターゲット装置10は、複数枚のターゲット材板20とターゲット材板20を間隔を置いて配列状態で保持する保持フレーム30とで構成されている。ターゲット材板20は円盤状のモリブデン金属からなる。
【0009】
加速器60は、電子線を一直線上で加速する線形加速器(ライナック)である。加速器60には直線的に形成された円筒形の加速空洞62が接続されて、加速空洞62では電場を利用して電子線を加速して、所望のエネルギーの粒子ビーム(電子線EB)を生成する。
加速器60で生成された電子線EBはターゲット材板20に直接に照射され、電子線EBがターゲット材板20に衝突すると、制動放射が生じて制動放射線(制動放射光子)が発生し、ターゲット内に放射性核種を生成させる。
【0010】
ターゲット装置10は冷却装置50の内部に配置されている。冷却装置50には冷却水CWが供給される。本実施形態では熱交換器52および給水路54が冷却装置50に接続され、冷却水CWが循環的にターゲット装置10に供給される。
保持フレーム30は、隣り合うターゲット材板20同士の間に空隙部Vを設けてターゲット材板20を保持する。かかる空隙部Vを冷却水CWが通過することで、電子線EBや制動放射光子と衝突して発熱するターゲット材板20を冷却する。
照射後、ターゲット材板20は化学処理され、ターゲット材板20から放射性核種が分離される。
上記のように特許文献1ではターゲット材を複数個に分割することによって高発熱部を分散し、冷却水・空気と接する面を広くすることにより冷却性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2017-156143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
モリブデン100に電子線を照射してモリブデン99を製造する際に、モリブデン99の製造量を増やすには、大電流で原料となる核種を含むターゲット材に照射することが必要である。しかしながら、ターゲット材に大電流照射を行うと発熱が大きくなり、ターゲット材の冷却が難しいという課題ある。
【0013】
従来技術では、ターゲット材として固体金属の使用が検討されてきたが、大電流で放射線を照射した場合には、照射部が一瞬で数千度に上昇して、金属が溶融・気化して周辺に漏洩する危険性がある。また、冷却水・空気と接する面を大きくしようとするとターゲット材内に発生するRI密度が希薄となり、照射される放射線が有効に使われないという問題がある。
【0014】
本発明は、電子線加速器を用いて大電流でターゲット材に電子線を照射して、効率的に放射性核種を生成することができる放射性核種の製造方法及び放射性核種の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下に記載する通りの放射性核種の製造方法である。
電子線加速器で加速した電子線を、原料となる核種が存在するターゲット材に照射し、これによってターゲット材から生成する制動放射線と原料との反応を利用して、放射性核種を製造する放射性核種の製造方法であって、次の工程を有することを特徴とする放射性核種の製造方法。
工程A:ターゲット材を、電子線透過性材料からなり、両端が封止され内部が密閉された管状容器の内部に収容する工程
工程B:前記管状容器の軸方向が電子線の照射方向と一致するように前記管状容器を支持する工程
工程C:前記管状容器の底面に前記電子線を照射して放射性核種を生成する工程
工程D:前記管状容器を冷却媒体によって冷却する工程
【発明の効果】
【0016】
本発明の、電子線加速器を用いて大電流で電子線を照射して、効率的に放射性核種を生成することができる放射性核種の製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の放射性核種の製造方法を説明する図である。
図2図2A~2Cは、本発明における管状容器及び管状容器内に収容されたターゲット材を説明する図である。
図3図3A~3Eは、管状容器内に収容されたターゲット材の状態の変化を説明する図である
図4図4A~4Cは、管状容器の支持の仕方を説明する図である。
図5図5A~5Cは、ターゲット材に電子線を照射する方法の例を示す図である。
図6図6は、ターゲット材に電子線を照射する方法の例を示す図である。
図7図7は、ターゲット材に電子線を照射する方法の例を示す図である。
図8図8は、ターゲット材に電子線を照射する方法の例を示す図である。
図9図9A、9Bは、ターゲット材に電子線を照射する方法の例を示す図である。
図10図10A、10Bは、従来の放射性核種の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は下記(1)の放射性核種の製造方法に関するものであるが、他の実施形態として下記(2)~(14)の実施形態を含むのでこれらについても以下説明する。
(1)電子線加速器で加速した電子線を、原料となる核種が存在するターゲット材に照射し、これによってターゲット材から生成する制動放射線と原料との反応を利用して、放射性核種を製造する放射性核種の製造方法であって、次の工程を有することを特徴とする放射性核種の製造方法。
工程A:ターゲット材を、電子線透過性材料からなり、両端が封止され内部が密閉された管状容器の内部に収容する工程
工程B:前記管状容器の軸方向が電子線の照射方向と一致するように前記管状容器を支持する工程
工程C:前記管状容器の底面に前記電子線を照射して放射性核種を生成する工程
工程D:前記管状容器を冷却媒体によって冷却する工程
(2)前記工程Bにおいて、前記管状容器が垂直方向に対して角度を持つように前記管状容器を支持する、上記(1)に記載の放射性核種の製造方法。
(3)更に、次の工程Eを含む上記(1)又は(2)に記載の放射性核種の製造方法。
工程E:前記電子線の照射方向と前記管状容器の軸の方向とが交差するように前記管状容器の軸の方向を変える工程
(4)前記工程Cにおいて、前記管状容器の底面における前記電子線の照射位置を変化させる、上記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載の放射性核種の製造方法。
(5)前記工程Cにおける、前記管状容器の底面における前記電子線の照射位置を変化させる方法が、下記a~dの少なくとも一つの方法である、上記(4)に記載の放射性核種の製造方法。
a.管状容器を電子線の方向に対して垂直な方向に移動させる方法
b.管状容器を電子線の方向に対して垂直な方向に振動させる方法
c.電子線の方向を管状容器の軸の方向に対して垂直な方向に移動させる方法
d.管状容器を管状容器の中心軸を回転軸として回転させる方法
(6)更に、他の電子線加速器で加速した電子線を前記管状容器の上面から、電子線の照射方向が管状容器の軸方向と一致するように照射するようにした、上記(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の放射性核種の製造方法。
(7)前記ターゲット材が、モリブデン100(Mo-100)、ラジウム226(Ra-226)、ハフニウム178(Hf-178)、ゲルマニウム70(Ge-70)、亜鉛66、68(Zn-66、68)、チタン48(Ti-48)、及び、カルシウム48(Ca-48)またはそれらの化合物から選ばれる1種である、上記(1)乃至(6)のいずれか1項に記載の放射性核種の製造方法。
(8)前記ターゲット材がモリブデン100であり、前記電子線を前記モリブデン100に照射することによってモリブデン100からモリブデン99を製造する、上記(7)に記載の放射性核種の製造方法。
(9)前記ターゲット材が粉末状、タブレット状又は円盤状の形状を有する、上記(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の放射性核種の製造方法。
(10)電子線加速器で加速した電子線を原料となる核種が存在するターゲット材に照射し、これによってターゲット材から生成する制動放射線と原料との反応を利用して、放射性核種を製造する放射性核種の製造装置であって、
電子線加速器と、
前記電子線加速器からの電子線が照射されるターゲット材を収容した、電子線透過性材料からなり、両端が封止され内部が密閉された管状容器と、
前記管状容器を支持する支持機構と、
前記管状容器及び前記支持機構を収容するタンクと、
前記タンク内に収容された冷却媒体と、
前記冷却媒体を冷却する熱交換器と、
前記タンク内の冷却媒体を前記熱交換器に送り、前記熱交換器で冷却された冷却媒体を前記タンク内に戻す配管と、を備え、
前記電子線は前記管状容器の底面を前記管状容器の軸方向に照射することができるようになっている、
ことを特徴とする放射性核種の製造装置。
(11)前記支持機構が、前記管状容器に下記a~dの少なくとも一つの動きをさせる機能を備えた支持機構である、上記(10)に記載の放射性核種の製造装置。
a.管状容器を電子線の方向に対して垂直な方向に往復動させる。
b.管状容器を電子線の方向に対して垂直な方向に振動させる。
c.電子線の照射方向と管状容器の軸の方向とが交差するように管状容器の軸の方向を変化させる。
d.管状容器を管状容器の中心軸を回転軸として回転させる。
(12)前記電子線加速器は、電子線の方向が管状容器の軸の方向に対して垂直な方向に往復動するように配置されている、上記(10)又は(11)に記載の放射性核種の製造装置。
(13)更に、他の電子線加速器を備え、前記他の電子線加速器は、電子線を前記管状容器の上面から、電子線の照射方向が管状容器の軸方向と一致するように照射するように配置されている、上記(10)乃至(12)のいずれか1項に記載の放射性核種の製造装置。
(14)前記タンクは、少なくとも電子線が通過する壁部分が金属薄膜又は石英からなる、上記(10)乃至(13)のいずれか1項に記載の放射性核種の製造装置。
【0019】
本発明の放射性核種の製造方法の概要を図1に基づいて説明する。
以下では、原料をモリブデン100とし、生成される放射性核種をモリブデン99とする場合について説明する。
【0020】
(ターゲット材)
本実施形態においては、ターゲット材として酸化モリブデン(100MoO:融点795℃)を用い、生成される放射性核種をモリブデン99とした場合について説明する。
【0021】
なお、従来は、ターゲット材としてコンバーターと呼ばれる原子番号および密度の大きな金属元素の板材料を用い、これに電子線を衝突させて制動放射線を発生させ、この制動放射線を原料と衝突させることによって放射性核種を製造していた。
これに対し本実施形態では、モリブデン100という原子番号および密度の大きな金属元素をターゲット材として用いることによって、ターゲット材と電子線との衝突によっても制動放射線を発生させることができる。このため本実施形態の放射性核種の製造方法では、コンバーターを不要とすることができ、装置を簡素化できる。
【0022】
(管状容器)
本発明において用いる管状容器は、両端が封止され内部が密閉された、電子線透過性材料からなる。
ここで電子線透過性材料は、融点が高いこと、耐食性が高いこと、加工性が良いこと、高温でも化学的に安定であること、更には、管状容器としたときに必要強度が得られること、などの条件を満たすものから選定する。具体的には、石英ガラス、ステンレス、チタン、ニッケル,チタン合金、ニッケル合金(インコネル,ハステロイ,モネル,DSALOYなど)などの金属材料、更には各種セラミックスなどが挙げられる。
【0023】
本発明においては、ターゲット材は溶融状態となる。ターゲット材として酸化モリブデンを用いた場合、酸化モリブデンの融点は795℃であるため、管状容器の材料は耐熱性を有することが必要である。
石英ガラスは1000℃の高温に耐えるので、管状容器の材料として好ましい。
電子線透過性材料として石英ガラス管(石英管)を用い、石英ガラス管の内部にターゲット材を収容した後、石英ガラス管の開放端を封止することによってターゲット材を収容した管状容器を得ることができる。
【0024】
(実施形態についての説明)
本発明の一実施形態について以下、図面を参照して説明する。
図1に示すようにターゲット材11は管状容器12の中に収容されている。
ターゲット材11の形状を図2A、2B、及び、2Cに示す。
図2Aに示したものは、粉末状のターゲット材11を管状容器12内に収容したものである。
図2Bに示したものは、粉末状のターゲット材11を押し固めて円盤状にしたものを管状容器12内に収容したものである。
図2Cに示したものは、粉末状のターゲット材11を押し固めてタブレット状にしたものを管状容器12内に収容したものである。
以下では、ターゲット材11として図2Bに示した円盤状のものを用いた場合を例にとって本発明を説明する。
【0025】
図1に示すように、ターゲット材11を収容した管状容器12は支持機構13によってタンク21内に支持されている。タンク21の壁は、少なくとも電子線31が通過する壁部分が金属薄膜や石英からなっており、電子線31が透過しやすくなっている。管状容器12と電子線31が入射するタンク21の壁部との距離は、冷却媒体24による電子線31の吸収を避けるためにできるだけ小さいことが好ましい。
タンク21内には冷却媒体24(以下では「冷却水」を用いた場合を例にとって説明する。)が収容されており、この冷却水24は吸込管25によってタンク21から抜き出され、熱交換器22で冷却されて送出管26によりタンク21に戻される。
ターゲット材11に電子線31を照射すると、ターゲット材中の安定同位体であるモリブデン100がモリブデン99となる。
この電子線31の照射によりターゲット材11が発熱する。タンク21内には撹拌機23が設けられており、タンク21内の冷却水24を撹拌してターゲット材11を冷却する。タンク21内の圧力が高まってタンク21が破損しないようにするためにも冷却が必要である。
【0026】
図3A~Eは、電子線31をターゲット材11に照射しているときのターゲット材11の状態の変化を模式的に示した図である。
図3A:ターゲット材11を電子線31で照射した初期の状態を示す。
図3B:ターゲット材11の一部が溶融し、溶融物11aが生じた状態を示す。
図3C:溶融物11aが管状容器12の底部に流れ落ちた状態を示す。
図3D:管状容器12が冷却水24によって冷却されて溶融物11aが凝固物11bとなるとともに、新たに別のターゲット材11が溶融して溶融物11aが生じた状態を示す。
図3E:ターゲット材11が溶融物11aと凝固物11bとになった状態を示す。
なお、ターゲット材11の全てが溶融物となってもよい。
【0027】
電子線31の照射によって管状容器12内には大量に熱が発生するので、この熱を除去するために冷却水24によって熱を除去する。
管状容器12の材料として石英ガラスを用いると、石英ガラスは最高1000度の耐熱性を有するので、局所的にターゲット材11が溶融・気化したとしても、管状容器12の密閉状態を維持することができれば問題はない。但し、ターゲット材11は粉体であるため溶融すると、管状容器12内に空洞が発生する。空洞部への電子線31の照射はモリブデン99の生産性を減ずる。従って、空洞部に電子線31を照射することなく、ターゲット材11に万遍なく電子線を照射することができる方法を採用する必要がある。
このようなターゲット材11に万遍なく電子線を照射する方法を図4図7に基づいて説明する。
【0028】
まず、図4に基づいて本発明のターゲット装置の電子線の照射方法について説明する。 図4A図4Cは、本発明のターゲット装置における支持機構13の動作を示す図である。
図4Aは電子線31をターゲット材11に照射する通常時の管状容器12の状態を示す図である。管状容器12は垂直方向に対して角度をもって配置されているため、溶融したターゲット材11が溶融した溶融物11aが管状容器12の底部に集まる。
このような状態で電子線31の照射を行うと凝固物11bの一部が溶融して新たに溶融物11aとなり、このとき、空洞が生じる可能性がある。
このような空洞が生じるのを避けるために、時々、垂直方向に対する管状容器12の角度を図4Bに示すように小さくしたり、図4Cに示すように大きくしたりして、通常の照射位置とは異なる位置を電子線31により照射することによって新たな部分が溶融するようにし、空洞部が発生するのを防ぐ。
【0029】
次に、ターゲット材11に電子線31を万遍なく照射する方法を図5図6に基づいて説明する。
管状容器12が電子線31の照射方向に対して図5Aの位置にある時は、電子線31は管状容器12の底面の中央部を照射する。
図5Bに示すように管状容器12を矢印Xの方向に平行移動させると、電子線31は管状容器12の底面の下方部を照射するようになる。
また、図5Cに示すように、管状容器12を矢印Yの方向に平行移動させると、電子線31は管状容器12の底面の上方部を照射するようになる。
このようにして、ターゲット材は電子線31によって万遍なく照射され、放射性核種の生産効率を高めることができる
【0030】
ターゲット材11に電子線31を万遍なく照射する方法の他の例を図6図9に基づいて説明する。
【0031】
図6に示した方法は、支持機構13により、管状容器12を電子線31の照射方向に対して垂直な方向に振動させ、この振動によりターゲット材11を振動するようにしたものである。
図7に示した方法は、支持機構13を固定し、電子線31の方向を矢印の方向に平行移動させるようにしたものである。
図8に示した方法は、管状容器12を管状容器12の中心軸を回転軸として回転させるようにしたものである。
【0032】
図9Aに示した方法は、電子線31を管状容器12に一方向から照射したものであるが、この方法では図中の領域Sの部分には電子線31が届きにくく、電子線31の照射が不十分となる。
図9Bに示した方法は、追加の電子線加速器を設けて、電子線31をa方向と、aの方向とは逆方向のb方向から管状容器12に照射したものである。このようにすると領域Sについても十分に電子線31により照射することができる。
【0033】
モリブデン99を生成したターゲット材11を適宜の化学処理工程により処理して放射性核種(テクネチウム99m)を取り出す。
化学処理工程によってテクネチウム99mを分離された酸化モリブデンは再びターゲット材11として再利用する。
【0034】
以上、本発明の放射性核種の製造方法をモリブデン100からモリブデン99を生成する方法[核反応式:Mo-100(γ,n)Mo-99]を例にとって説明した。
本発明の製造方法は、モリブデンに限らず、電子線31をターゲット材11に照射することによって発生する制動放射線によって原料に核反応を生じさせる核種にも適用できる。具体的には、原料として、ラジウム226、ハフニウム178、ゲルマニウム70、亜鉛66、68、チタン48、及び、カルシウム48またはそれらの化合物を用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
図1~9)
11 ターゲット材
11a 溶融物
11b 凝固物
12 管状容器
13 支持機構
21 タンク
22 熱交換器
23 撹拌機
24 冷却媒体、冷却水
25 吸込管
26 送出管
31 電子線
S 領域
【0036】
図10
10 ターゲット装置
20 ターゲット材板
30 保持フレーム
50 冷却装置
52 熱交換器
54 給水路
60 加速器
62 加速空洞
100 放射性核種の製造装置
EB 電子線
CW 冷却水

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10