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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141333
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】超音波プローブ
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20241003BHJP
   A61B 8/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H04R17/00 330G
H04R17/00 332A
A61B8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052916
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小島 力
(72)【発明者】
【氏名】久保 景太
(72)【発明者】
【氏名】岩井 光
(72)【発明者】
【氏名】大澤 栄治
【テーマコード(参考)】
4C601
5D019
【Fターム(参考)】
4C601EE17
4C601EE21
4C601GA09
4C601GB02
4C601GB06
4C601GB32
4C601GB41
4C601GB46
4C601GC03
4C601GC07
5D019AA14
5D019BB19
5D019EE01
5D019FF04
(57)【要約】
【課題】減圧環境下での破損を抑制可能な超音波プローブを提供する。
【解決手段】超音波プローブは、超音波の送信及び受信の少なくともいずれかを行う超音波デバイスと、前記超音波デバイスを収納するケースと、を備える超音波プローブであって、前記超音波デバイスは、振動板と、前記振動板に配置される圧電素子と、を備え、前記ケースには、前記振動板に対向する開口と、前記開口とは異なる位置に設けられて、前記ケースの内部空間と、前記ケースの外部とを連通させる第一連通孔と、が設けられ、前記ケースは、前記開口から前記内部空間への水滴の進入を抑止するシール機構を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波の送信及び受信の少なくともいずれかを行う超音波デバイスと、
前記超音波デバイスを収納するケースと、を備える超音波プローブであって、
前記超音波デバイスは、
振動板と、
前記振動板に配置される圧電素子と、を備え、
前記ケースには、前記振動板に対向する開口と、前記開口とは異なる位置に設けられて、前記ケースの内部空間と、前記ケースの外部とを連通させる第一連通孔と、が設けられ、
前記ケースは、前記開口から前記内部空間への水滴の進入を抑止するシール機構を備える、超音波プローブ。
【請求項2】
前記超音波デバイスは、前記振動板の前記圧電素子が配置される側に対向して配置される保護板と、前記保護板と前記振動板とを接合する接合部とをさらに備え、
前記振動板、前記保護板、及び前記接合部に囲われる素子空間が構成され、
前記保護板及び前記接合部の少なくともいずれかには、前記素子空間と、前記ケースの内部空間とを連通する第二連通孔が設けられる、
請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記ケースは、前記第一連通孔を閉塞する位置に配置された多孔質部材を備える、
請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記ケースは、前記第一連通孔を開放して、前記内部空間と前記ケースの外部とを連通させる開状態と、前記第一連通孔を閉塞する閉状態とに切り替え可能な蓋部材を備える、
請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項5】
前記ケースは、熱可塑性ポリマーにより形成される、
請求項1に記載の超音波プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体に対して超音波を送信する超音波プローブが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の超音波プローブは、超音波デバイスと、配線基板とがケース内部に配置される。ケースは、音響レンズが配置される窓孔を備え、この音響レンズに対向してケース内部に超音波デバイスが配置される。窓孔と音響レンズとの間には、第1防水層(レンズ側防水部)が設けられている。また、ケースは、窓孔が設けられる第1ケースと、第1ケースとともに超音波デバイス及び配線基板を挟み込む第2ケースとを備えている。第1ケースと第2ケースとの間には、第2防水層(ケース間防水部)が設けられている。これにより、超音波プローブのケース内部へのジェル等の水滴の進入を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-92509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の超音波プローブは、ケース内部への水滴の進入を防止でき、水滴による超音波デバイスの故障を抑制できる。しかしながら、医療現場等において、超音波プローブを複数の患者に使用する場合があり、この場合、使用後の超音波プローブを滅菌処理する必要がある。通常、この滅菌処理には、滅菌装置が用いられ、当該滅菌装置では、滅菌チャンバー内に超音波プローブを投入した後、チャンバー内を減圧して真空にし、滅菌ガスを充満させて滅菌を行う。したがって、上記特許文献1のように、ケースの内外が第1防水層や第2防水層でシールされている超音波プローブでは、滅菌チャンバー内で減圧した場合に、ケース内外の気圧差によって超音波プローブが破損するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様の超音波プローブは、超音波の送信及び受信の少なくともいずれかを行う超音波デバイスと、前記超音波デバイスを収納するケースと、を備える超音波プローブであって、前記超音波デバイスは、振動板と、前記振動板に配置される圧電素子と、を備え、前記ケースには、前記振動板に対向する開口と、前記開口とは異なる位置に設けられて、前記ケースの内部空間と、前記ケースの外部とを連通させる第一連通孔と、が設けられ、前記ケースは、前記開口から前記内部空間への水滴の進入を抑止するシール機構を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態の超音波プローブの概略構成を示す斜視図。
図2図1の超音波プローブを平面Aで切断した場合の概略断面図。
図3】本実施形態における超音波デバイスの一例を示す平面図。
図4図3のB-B線で切断した際の超音波デバイスの概略断面図。
図5図3のC-C線で切断した際の超音波デバイスの概略断面図
図6】本実施形態の超音波プローブの他の構成例を示す概略断面図。
図7】変形例3に係る超音波プローブの概略構成を示す断面図。
図8】変形例4に係る超音波デバイスの概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、一実施形態の超音波プローブについて説明する。
図1は、本実施形態の超音波プローブ10の概略構成を示す斜視図である。
本実施形態の超音波プローブ10は、対象物に対して、固定シートなどの固定部材を用いて装着するプローブである。本実施形態では、対象物として生体(人体)を例示する。
超音波プローブ10は、生体に対して超音波の送信及び受信のいずれかを実施する。例えば、超音波プローブ10は、生体に対して超音波を送信し、生体内で反射された超音波を受信することで、生体の内部断層画像を形成する。また、超音波プローブ10としては、超音波の送信のみ、または、受信のみを行ってもよい。超音波プローブ10を超音波送信用のプローブとして用いる場合、所定の深度の器官に対して超音波を収束させる超音波治療等が例示できる。また、超音波プローブ10を超音波受信用のプローブとして用いる場合、別途設けられた超音波送信用プローブによって対象物内に送信された超音波を受信する等が例示できる。
【0008】
図2は、図1の超音波プローブ10を平面Aで切断した場合の概略断面図である。
図1及び図2に示すように、本実施形態の超音波プローブ10は、ケース20と、ケース20に収納される超音波デバイス30及び制御基板40(図2参照)等と、を備えて構成されている。
また、本実施形態では、超音波プローブ10により生体に対する超音波診断を実施する場合、図2に示すように、超音波プローブ10のケース20の前面部21に音響レンズ51を備えたプローブシート50を貼着して使用する。このプローブシート50は、生体の表面に接触するシートであり、例えば、使用毎に廃棄及び交換される。
【0009】
[超音波デバイス30の構成]
まず、超音波プローブ10を構成する超音波デバイス30について説明する。
図3は、本実施形態における超音波デバイス30の一例を示す平面図である、図4は、超音波デバイス30を図3のB-B線で切断した際の概略断面図であり、図5は、超音波デバイス30を図3のC-C線で切断した際の概略断面図である。なお、図3は、超音波デバイス30を-Z側から見た超音波デバイス30の概略平面図であり、保護板32の図示は省略している。
超音波デバイス30には、互いに直交するX方向及びY方向に沿って、複数の超音波トランスデューサーTrが2次元アレイ状に配置されている。ここで、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向とし、+Z側に超音波デバイス30から超音波が送信されるものとする。
【0010】
超音波デバイス30は、図3から図5に示すように、振動板31と、振動板31に対向する保護板32と、保護板32と振動板31とを接合する接合部33と、振動板31に設けられた圧電素子34と、を備える。
【0011】
振動板31は、例えばSiO及びZrOの積層体等より構成され、圧電素子34の伸縮駆動によって撓むことで+Z側に超音波を送信する。振動板31の+Z側の面は、超音波の送受信を行う送受信面30Aとなる。詳細は後述するが、本実施形態では、振動板31の+Z側は、ケース20に設けられた開口21Aに対向し、当該開口21Aから露出する。
【0012】
保護板32は、振動板31に比べてZ方向の厚みが十分に大きく形成され変形しにくい素材により構成される。この保護板32は、接合部33を介して、振動板31の-Z側面に接合されている。
接合部33は、振動板31と保護板32との間に設けられ、これらの振動板31及び保護板32を接合する。また、この接合部33は、Z方向から見た際に、圧電素子34の外周を囲う枠状に形成されている。振動板31のうち接合部33に接合される部分は、保護板32に接続されることで振動が抑制される部分となる。したがって、振動板31は、接合部33により複数の振動領域に区画されることで複数の振動部311を構成し、各振動部311の-Z側面にそれぞれ圧電素子34が配置される。すなわち、本実施形態では、振動板31のうち、接合部33によって囲われる部分が振動することで、超音波が出力される。
ここで、振動板31、保護板32、及び接合部33に囲われる空間を素子空間Pとする。
【0013】
また、図2及び図3に示すように、接合部33には、素子空間Pの内外を連通させる素子連通孔35(本開示の第二連通孔)が設けられている。
例えば本実施形態では、図3に示すように、X方向に隣り合う素子空間Pの間の接合部33に、これらの素子空間Pを連通させる素子連通孔35が設けられる。また、-X側端部に配置される素子空間Pの-X側の接合部33には、素子空間Pと、ケース20の内部空間Qとを連通させる素子連通孔35が設けられている。同様に、+X側端部に配置される素子空間Pの+X側の接合部33には、素子空間Pと、ケース20の内部空間Qとを連通させる素子連通孔35が設けられている。これにより、各素子空間Pは、ケース20の内部空間Qと連通する。
【0014】
また、素子連通孔35は、接合部33の保護板32への接合位置の一部を切り欠いて形成されることが好ましい。接合部33の振動板31との接合位置は、振動部311の領域を区画する部分であり、この部分の接合部33を切り欠くと、振動部311の固有周波数が変化し、振動部311の振動によって出力される超音波の周波数が変動するためである。これに対して、図2,及び図4のように、接合部33の保護板32への接合位置の一部を切り欠いて素子連通孔35を形成する場合、上記のような周波数の変動を抑制可能である。また、接合部33は、振動板31に対してレジスト樹脂を成膜し、当該レジスト樹脂をパターニングすることで形成することができる。この際、形成したレジスト樹脂の一部を除去することで容易に素子連通孔35を形成することができる。
なお、本実施形態では、素子連通孔35を、接合部33と保護板32との接合位置に設ける例を示すが、振動板31と保護板32との間に素子連通孔35を設けてもよい。
【0015】
圧電素子34は、振動板31の各振動部311の-Z側にそれぞれ設けられている。この圧電素子34は、例えば、振動板31から-Z側に向かって下部電極34A、圧電膜34B、及び上部電極34Cを積層した積層体により構成されている。
ここで、振動部311と、圧電素子34とにより、1つの超音波トランスデューサーTrが構成される。
このような超音波トランスデューサーTrでは、下部電極34A及び上部電極34Cの間に所定周波数の矩形波電圧(駆動信号)が印加されることで、圧電膜34Bが伸縮し、当該圧電膜34Bの伸縮によって振動部311が振動して+Z側に超音波が送出される。また、生体から反射された超音波(反射波)により振動部311が振動されると、圧電膜34Bが撓むことで、当該圧電膜34Bの下部電極34A側と上部電極34C側とで電位差が生じる。これにより、下部電極34A及び上部電極34Cの間に発生する電位差を検出することで、超音波の受信を検出することが可能となる。
【0016】
本実施形態では、図3に示すように、Y方向に並ぶ超音波トランスデューサーTrの下部電極34Aが互いに結線される。これらの下部電極34Aは、駆動端子34Dに接続され、当該駆動端子34Dから、例えばフレキシブルプリント基板等を介して制御基板40に電気接続されている。
また、X方向に並ぶ超音波トランスデューサーTrの上部電極34Cが互いに結線される。これらの上部電極34Cは、共通端子34Eに接続され、当該共通端子34Eから、例えば、フレキシブルプリント基板等を介して制御基板40に電気接続されている。
ここで、本実施形態では、各超音波トランスデューサーTrが同時に駆動される構成となっているが、これに限定されない。例えば、Y方向に並ぶ下部電極34Aにより結線された超音波トランスデューサーTrで1つのチャンネルを構成し、X方向に並ぶ各チャンネルをそれぞれ独立して駆動させるように、各チャンネルに対応した駆動電極を設けてもよい。この場合、各チャンネルを遅延駆動させることで、超音波の送信方向を制御することができる。また、個々の超音波トランスデューサーTrをそれぞれ独立して駆動させる構成としてもよい。
【0017】
また、本実施形態において、超音波デバイス30の振動板31、及び振動板31上に設けられる圧電素子34の-Z側の面を覆って、保護膜36が形成されることが好ましい。本実施形態では、超音波プローブ10の使用時に、後述する防水機構によりケース20内への水滴の進入は抑制される。一方、詳細は後述するが、超音波プローブ10の滅菌処理において、滅菌ガスがケース20内に侵入する。保護膜36は、滅菌ガスに対して耐食性を有する膜により構成され、圧電素子34、すなわち、下部電極34A、圧電膜34B、及び上部電極34Cを覆う。これにより、滅菌ガスによる圧電素子34の劣化を抑制できる。
【0018】
[制御基板40の構成]
制御基板40は、超音波デバイス30とともに、ケース20に収納される。制御基板40の配置位置としては特に限定されないが、ケース20内において、超音波デバイス30の-Z側に配置されることが好ましい。
図示は省略するが、この制御基板40には、超音波デバイス30の駆動を制御する各種制御回路、バッテリー、通信回路等が設けられている。なお、これらの制御基板40の各回路に対しても、振動板31に用いた保護膜36を形成することが好ましい。保護膜36の形成により、過酸化水素による回路の破損を抑制できる。
【0019】
[ケース20の構成]
ケース20は、上述したように、超音波デバイス30や制御基板40を収納する。本実施形態の超音波プローブ10は、超音波診断処理が終了した後に滅菌処理により滅菌される。この滅菌処理では滅菌ガスが用いられ、ケース20として、滅菌ガスに耐性を有する素材を用いる。例えば、本実施形態では、滅菌ガスとして過酸化水素(H)を用いる。この場合、ケース20は、ETFE(フッ化エチレンエチレン共重合)、FEP(フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合)、HDPE(高密度ポリエチレン)、LDPE(高密度ポリエチレン)、PC(ポリカーボネート)、PETG(グリコール酸ポリエステル)、PFA(ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂)、PMP(ポリメチルペンテン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PSF(ポリスルホン)、PUR(ポリウレタン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、TPE(サーモプラスチック・エラストマー)、TFE(テトラフルオロエチレン)、PPO(変性ポリフェニレンオキサイド)等の熱可塑性ポリマーを用いることが好ましい。
【0020】
より具体的に、ケース20は、図1及び図2に示すように、生体に対して超音波プローブ10を固定した際に生体に対向する前面部21、前面部21に連続して前面部21に対して交差する側面部22、及び側面部22に連続して前面部21に対向する背面部23を備える。
前面部21、側面部22、及び背面部23により囲われるケース20の内部空間Qに、上述した超音波デバイス30や制御基板40が配置される。
【0021】
前面部21には、開口211が設けられている。ケース20内に超音波デバイス30を収納した際に、超音波デバイス30の送受信面30Aが開口211に対向する。本実施形態では、開口211から送受信面30Aがケース20の外側に露出する。また、ケース20の開口211には、超音波デバイス30との間の隙間をシールするシール機構が設けられている。本実施形態では、超音波デバイス30の送受信面30Aをケース20の外側に露出させるため超音波デバイス30の振動板31の外周縁と開口211の縁との間を埋めるように、防水性のシール材212が充填されている。これにより、開口211はシール材212及び超音波デバイス30によって閉塞され、開口211からの水滴の進入は抑制される。
また、シール材212は、滅菌処理時における滅菌ガスに対する耐性を有することがより好ましい。
【0022】
本実施形態では、滅菌ガスとして用いる過酸化水素に耐性があるゴムを用いる。より好ましくは、クロロスルホン化ポリエチレン、シリコーンゴム、フッ化ゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム等をシール材212として用いる。このような素材により形成されたシール材212は、過酸化水素の濃度や、温度に対して耐性があり、滅菌処理による劣化を抑制できる。これにより、開口211によるシール効果を維持することができる。
【0023】
なお、上述したように、超音波プローブ10を生体に固定する場合には、前面部21にプローブシート50を貼着する。プローブシート50は、音響レンズ51を備えたシートであり、ケース20の前面部21に貼着され、生体に対して接触する接触面となる。感染防止のため、プローブシート50は超音波プローブ10の使用の度に交換され、使用後のプローブシート50は破棄される。
【0024】
また、ケース20には、内部空間Qとケース20の外部とを連通させる少なくとも1つのケース連通孔24(第一連通孔)が設けられている。
例えば、本実施形態では、ケース20の側面部22に、ケース連通孔24が設けられている。このケース連通孔24は、滅菌処理時に、ケース20の内外の圧力を同一に保つために設けられた孔部である。したがって、滅菌処理時以外では防水されていることが好ましい。
例えば、ケース連通孔24に対して多孔質部材25を配置する。多孔質部材25は、ケース連通孔24内に充填されるように配置されてもよく、図1に示すように、ケース20の内側(内部空間Q)にケース連通孔24全体を覆うように配置されてもよい。
多孔質部材25により、気体がケース連通孔24を通過可能となり、水滴がケース連通孔24を通過不可能となる。
【0025】
図1及び図2に示す例では、側面部22に設けられるケース連通孔24に対して多孔質部材25で覆う例であるが、これに限定されない。図6は、本実施形態の超音波プローブ10の他の構成例を示す概略断面図であり、この例では、ケース連通孔24を開閉する蓋部材26が設けられる。具体的には、ケース連通孔24に対して、粘着層26Aを介して蓋部材26を貼着する。これにより、ケース連通孔24が閉状態となり、ケース連通孔24から内部空間Qへの水滴の進入が抑制される。一方、超音波プローブ10を滅菌処理する場合では、蓋部材26及びお粘着層26Aを取り外すことでケース20の内外が連通する開状態となり、ケース20の内外の圧力を一定に保つことができる。
【0026】
また、図6に示す例では、蓋部材26を着脱する例であるが、例えば、ケース20に対してスライド移動可能な蓋部材を設けてもよく、ケースに対してヒンジ機構を介して蓋部材が取り付けられていてもよい。
また、図6の例では、蓋部材26が板状を有し、ケース連通孔24を覆うことでケース連通孔24を閉塞するが、蓋部材が、ゴム等の可撓性を有する部材であり、ケース連通孔24に圧入されることで、ケース連通孔24が閉塞されてもよい。
【0027】
[超音波プローブ10の滅菌処理]
次に、上記のような超音波プローブ10の滅菌処理について説明する。
本実施形態の超音波プローブ10を用いた超音波診断では、以下の手順が実施される。
(1)使用者は感染防止のための保護手袋(洗浄・消毒・滅菌用)を着用する。
(2)超音波プローブ10にプローブシート50を装着する。
(3)超音波プローブ10を滅菌処理する。
(4)保護手袋を破棄する。
(5)感染防止のための保護手袋(検査用)を着用する。
(6)超音波プローブ10の前準備処理を実施する(例えば、超音波プローブ10の異常の有無の確認、超音波画像診断装置への接続、音響レンズ51の温度や画像ノイズ等の確認)。
(7)超音波プローブ10(プローブシート50)に滅菌済みの音響ジェルを塗布する。
(8)超音波プローブ10を無損傷の体表(生体)上の部位に固定する。
(9)超音波画像診断を実施する。
(10)超音波画像診断の終了後、超音波プローブ10からプローブシート50を取り外し、感染性廃棄物として廃却処分し、超音波プローブ10に残っている音響ジェルを拭き取る。
(11)超音波プローブを洗浄し、乾燥させる。
(12)プローブシート50を超音波プローブ10に装着する。
(13)超音波プローブ10を滅菌する。
(14)終業点検を実施する。
【0028】
そして、(3)及び(13)の超音波プローブ10の滅菌処理では、滅菌用のチャンバーを備えた滅菌装置のチャンバー内に超音波プローブ10を投入することで実施される。
この滅菌処理では、例えばチャンバー内の圧力を真空または略真空となるように減圧し、過酸化水素をチャンバー内に注入する。チャンバー内に注入された過酸化水素は気化拡散されて滅菌ガスとなり、超音波プローブ10に付着した滅菌対象の微生物等を取り除き、滅菌する。この後、チャンバー内を再度減圧して、気化した過酸化水素を排出する。そして、チャンバー内にフィルターを通過した清浄な空気を導入し、チャンバー内の圧力を戻す。
なお、上記の滅菌処理では、2回の減圧処理を実施しているが、用いる滅菌装置によって減圧の回数はさらに多くなる場合がある。
【0029】
ここで、比較例として、ケース連通孔24が設けられていないケースを有する超音波プローブを例示する。一般に、生体に対して装着する超音波プローブは、音響ジェルや、生体液(血液など)、洗浄時の洗浄液のケース内への進入を抑制するために、防水処理されており、気密性が極めて高い。したがって、比較例の超音波プローブを滅菌チャンバーに投入して減圧すると、ケースの内外の圧力差により、振動板が破損する恐れがある。
【0030】
これに対して、本実施形態では、ケース連通孔24が設けられていることで、滅菌チャンバーに投入されて減圧された場合でも、ケース20の外側の圧力と、内部空間Qとの圧力とが同一となる。また、素子連通孔35を介して、各素子空間Pと内部空間Qとが連通しているので、各素子空間Pとケース20の外部圧力とが同一となる。
このため、本実施形態では、ケース20の外側と、素子空間Pとの間の圧力差による振動板31への応力が作用せず、振動板31の破損を抑制できる。
【0031】
また、本実施形態では、過酸化水素の滅菌ガスが内部空間Qや素子空間Pに進入するが、振動板31の-Z側が過酸化水素に耐性のある保護膜36により覆われることで、圧電素子34の劣化を抑制できる。
【0032】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の超音波プローブ10は、超音波の送受信を行う超音波デバイス30と、超音波デバイス30を収納するケース20と、を備える。超音波デバイス30は、振動板31と、振動板31に配置される圧電素子34と、を備える。ケース20には、振動板31に対向する開口211と、開口211とは異なる位置に設けられて、ケース20の内部空間Qと、ケースの外部とを連通させるケース連通孔24とが設けられる。また、ケース20は、開口211から内部空間への水滴の進入を抑止するシール機構、すなわち、開口211の縁と超音波デバイス30との間の隙間を埋めるシール材212を備える。
【0033】
このような本実施形態では、滅菌処理のために超音波プローブ10を滅菌用のチャンバー内に投入し、チャンバーを減圧した場合でも、ケース20の内外で圧力差が生じる不都合を抑制できる。このため、当該圧力差による超音波デバイス30の破損を抑制できる。
また、超音波デバイス30に対向するケース20の開口211は、シール材212によりシールされているので、超音波プローブ10の使用時に、開口211からケース20の内部に水滴が侵入する不都合も抑制できる。
【0034】
本実施形態では、超音波デバイス30は、振動板31の-Z側に配置される保護板32と、保護板32と振動板31とを接合する接合部33とを備え、振動板31、保護板32、及び接合部33に囲われる素子空間Pが構成される。そして、接合部33には、素子空間Pと、内部空間Qとを連通する素子連通孔35が設けられている。
これにより、超音波プローブ10を減圧環境下に置いた場合でも、ケースの外側の圧力と、内部空間Qの圧力と、各素子空間Pの圧力とを同じ圧力にすることができ、振動板31の破損を抑制できる。
【0035】
本実施形態では、ケース20には、ケース連通孔24を閉塞する位置に多孔質部材25が配置される。
ケース連通孔24に多孔質部材25を設けることで、超音波プローブ10の滅菌処理時(減圧時)において、気体を通過させることができ、上記のように、圧力差による超音波デバイス30の破損を抑制できる。また、多孔質部材25は、液体や固体の進入を抑制することができるため、ケース20の内部への水滴の進入を抑制することができる。
【0036】
本実施形態では、ケース20は、ケース連通孔24を開放して、内部空間Qとケース20の外部とを連通させる開状態と、ケース連通孔24を閉塞する閉状態とに切り替え可能な蓋部材26を備える構成としてもよい。
この場合でも、蓋部材26によってケース連通孔24を開状態とすることで、超音波プローブ10の滅菌処理時(減圧時)において、ケース連通孔24から気体を通過させることができ、上記のように、圧力差による超音波デバイス30の破損を抑制できる。また、閉状態とすることで、ケース20の内部への水滴の進入を抑制することができる。
【0037】
本実施形態では、ケース20は、熱可塑性ポリマーにより形成されることが好ましい。
ケース20が熱可塑性ポリマーで形成されることで、超音波プローブ10を過酸化水素等の滅菌ガスに晒した場合でも、滅菌ガスによりケース20が侵食されることがなく、適切に超音波プローブ10を滅菌処理することができる。
【0038】
[変形例]
なお、本発明は上述の各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良、及び各実施形態を適宜組み合わせる等によって得られる構成は本発明に含まれるものである。
【0039】
[変形例1]
上記実施形態において、―X側端部の素子空間Pの-X側の接合部33、及び、+X側端部の素子空間Pの+X側の接合部33のそれぞれに素子連通孔35を設ける構成を例示した。これに対して、各素子空間Pがケース20の内部空間Qに連通する構成であれば、いかなる形状に素子連通孔が形成されていてもよい。
例えば、―X側端部の素子空間Pの-X側の接合部33に内部空間Qと連通する素子連通孔35が設けられ、+X側端部の素子空間Pの+X側の接合部33には素子連通孔35が設けられない構成としてもよい。
また、X方向に並ぶ素子空間Pを素子連通孔35により連通させたが、Y方向に並ぶ素子空間Pを素子連通孔35により連通させる構成としてもよく、さらには、X方向及びY方向に並ぶ素子空間Pを素子連通孔35で連通させてもよい。
【0040】
また、X方向とY方向とに並ぶ素子空間Pを素子連通孔35で連通させる場合では、素子空間Pと内部空間Qとを連通させる連通孔の数を減らすことができる。
【0041】
[変形例2]
上記実施形態では、接合部33に素子連通孔35を設ける構成であるが、これに限定されない。例えば、保護板32の各素子空間Pに対向するそれぞれの位置に、保護板32の厚み方向に貫通する素子連通孔を形成してもよい。この場合、接合部33に穴を形成しないため、接合強度の低下を抑制できる。
また、保護板32の内部に、各素子空間Pと内部空間Qとを連通させる管部材を埋設させてもよい。
【0042】
[変形例3]
上記実施形態では、超音波プローブ10に対して音響レンズ51を有するプローブシート50を貼着して生体に固定する。これに対して、音響レンズが超音波プローブに固定される構成としてもよい。
図7は、変形例3に係る超音波プローブ10Aの概略構成を示す断面図である。
図7に示す超音波プローブ10Aでは、ケース20の開口211に音響レンズ213が設けられ、音響レンズ213と開口211の縁とを埋めるようにシール材212を充填する。すなわち、シール材212と音響レンズ213によって開口211を閉塞するシール機構が構成される。
また、当該構成の場合、音響レンズ213と超音波デバイス30との間に空気層が介在しないように、例えば、音響レンズ213に近い音響インピーダンスを有する素材により超音波デバイス30と音響レンズ213との間を埋めることが好ましい。シール材212として生体との音響インピーダンスが近いシリコーン樹脂等を用いる場合、図7に示すように、シール材212により音響レンズ213と超音波デバイス30との間の隙間を埋めることもできる。
【0043】
[変形例4]
上記実施形態では、振動板31が、接合部33により複数の領域に区画されることで各振動部311が構成される例を示したが、これに限定されない。
図8は、変形例4に係る超音波デバイス30の概略構成を示す図である。
図8に示す超音波デバイス30は、振動板31の+Z側に素子基板37が設けられ、素子基板37には複数の貫通孔371がアレイ状に形成されている。振動板31は、素子基板37の-Z側に各貫通孔371を覆って配置されている。
このような構成では、振動板31の各貫通孔371と重なる部分が振動部311を構成する。当該構成では、接合部33により各振動部311を区画する必要がなく、振動部311が配置されるアレイ領域の外側のみ保護板32と振動板31とを接合する構成としてもよい。
或いは、貫通孔371が、X方向に長手に形成され、Y方向に沿って複数の貫通孔371が配置される構成としてもよい。この場合、Y方向に長手となる接合部33を、X方向に沿って複数形成する。これにより、貫通孔371の縁と、接合部33とにより各振動部311が構成することができる。
【0044】
[変形例5]
上記実施形態は、ケース20の側面部22に第一連通孔であるケース連通孔24を設けたが、これに限定されない。
例えば、ケース20の前面部21で、開口211とは異なる位置にケース連通孔24が設けられてもよい。或いは背面部23にケース連通孔24が設けられていてもよい。
また、図1では、1つのケース連通孔24を例示するが、複数のケース連通孔24が設けられていてもよい。
【0045】
[本開示のまとめ]
本開示の一態様の超音波プローブは、超音波の送信及び受信の少なくともいずれかを行う超音波デバイスと、前記超音波デバイスを収納するケースと、を備える超音波プローブであって、前記超音波デバイスは、振動板と、前記振動板に配置される圧電素子と、を備え、前記ケースには、前記振動板に対向する開口と、前記開口とは異なる位置に設けられて、前記ケースの内部空間と、前記ケースの外部とを連通させる第一連通孔と、が設けられ、前記ケースは、前記開口から前記内部空間への水滴の進入を抑止するシール機構を備える。
【0046】
このような超音波プローブでは、滅菌処理のために超音波プローブをチャンバー内に投入し、チャンバーを減圧した場合でも、ケースの内外で圧力差が生じる不都合を抑制できる。このため、当該圧力差による超音波デバイスの破損を抑制できる。また、超音波デバイスに対向するケースの開口には、シール機構が設けられているため、超音波プローブの使用時に、開口からケース内部に水滴が侵入する不都合も抑制できる。
【0047】
本態様の超音波プローブにおいて、前記超音波デバイスは、前記振動板の前記圧電素子が配置される側に対向して配置される保護板と、前記保護板と前記振動板とを接合する接合部とをさらに備え、前記振動板、前記保護板、及び前記接合部に囲われる素子空間が構成され、前記保護板及び前記接合部の少なくともいずれかには、前記素子空間と、前記ケースの内部空間とを連通する第二連通孔が設けられることが好ましい。
超音波デバイスとして、振動板と保護板とを接合部により接合し、接合部により振動板において振動させる振動部を規定する構成とする場合がある。このような場合、振動板と保護板と接合部とにより囲われる素子空間が密閉空間となり、超音波プローブを減圧環境下に晒すと、素子空間とケースの外部の圧力の差により振動板が破損する恐れがある。これに対して、本態様では、素子空間と、ケースの内部空間とを連通する第二連通孔が設けられる。これにより、超音波プローブを減圧環境下に置いた場合でも、ケースの外側の圧力と、内部空間の圧力と、各素子空間の圧力とを同じ圧力にすることができ、振動板の破損を抑制できる。
【0048】
本態様の超音波プローブにおいて、前記ケースは、前記第一連通孔を閉塞する位置に配置された多孔質部材を備えることが好ましい。
ケースに第一連通孔を設けることで、超音波プローブを減圧環境下に置いた場合に、ケースの内部空間とケースの外側との圧力差をなくすことができ、上記のように超音波プローブの破損を抑制できる。一方、超音波プローブを使用して超音波診断を行う場合では、音響ジェルや生体液、洗浄液などの液体が第一連通孔からケース内部に侵入するおそれがあり、この場合、進入した水滴によって、超音波デバイスの圧電素子等が破損するおそれがある。
これに対し、本態様では、第一連通孔に多孔質部材が設けられる。このような多孔質部材は、気体を通過させつつ、液体や固体の進入を抑制することができるため、ケースの内部への水滴の進入を抑制することができる。
【0049】
本態様の超音波プローブにおいて、前記ケースは、前記第一連通孔を開放して、前記内部空間と前記ケースの外部とを連通させる開状態と、前記第一連通孔を閉塞する閉状態とに切り替え可能な蓋部材を備える構成としてもよい。
本態様では、蓋部材により、開閉状態を切り替えることができる。開状態では、ケース内外への気体の通過を許可してケースの内外の圧力差をなくすことができ、上記のように、超音波プローブを減圧下に置く場合に、圧力差による超音波デバイスの破損を抑制できる。一方、閉状態では、ケース内への水滴の進入を抑制でき、水滴による圧電素子等の破損を抑制できる。
【0050】
本態様の超音波プローブにおいて、前記ケースは、熱可塑性ポリマーにより形成されることが好ましい。
ケースが熱可塑性ポリマーで形成されることで、超音波プローブを過酸化水素等の滅菌ガスに晒した場合でも、滅菌ガスによりケースが侵食されることがなく、適切に超音波プローブを滅菌処理することができる。
【符号の説明】
【0051】
10,10A…超音波プローブ、20…ケース、21…前面部、21A…開口、22…側面部、23…背面部、24…ケース連通孔、25…多孔質部材、26…蓋部材、26A…粘着層、30…超音波デバイス、30A…送受信面、31…振動板、32…保護板、33…接合部、34…圧電素子、35…素子連通孔、36…保護膜、40…制御基板、50…プローブシート、51…音響レンズ、211…開口、212…シール材、P…素子空間、Q…内部空間。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8