(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141335
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 69/00 20060101AFI20241003BHJP
C08L 51/06 20060101ALI20241003BHJP
C08L 25/12 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/101 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20241003BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L51/06
C08L25/12
C08K5/101
C08K5/103
C08L51/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052919
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】林 一陽
(72)【発明者】
【氏名】篠原 吉昭
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC063
4J002BN062
4J002BN144
4J002BN154
4J002CG011
4J002EH056
4J002FD176
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】ゴム強化ビニル系樹脂としてエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂を用いた場合でも、特定の飽和脂肪酸エステルを併用することで、機械特性と発色性と静音性に優れる樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)、非ゴム強化ビニル系樹脂(C)及び滑剤(D)を含む熱可塑性樹脂組成物であり、前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)は、少なくともエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)の存在下にビニル系単量体をグラフト重合して得られるエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)を含み、前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)は、少なくともアクリロニトリル単位とスチレン単位を含む共重合体であり、前記滑剤(D)は、炭素数12以上の飽和脂肪酸エステルを有する滑剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)、非ゴム強化ビニル系樹脂(C)及び滑剤(D)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)は、少なくともエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)の存在下にビニル系単量体をグラフト重合して得られるエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)を含み、
前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)は、少なくともアクリロニトリル単位とスチレン単位を含む共重合体であり、
前記滑剤(D)は、炭素数12以上の飽和脂肪酸エステルを有する滑剤であり、
前記ポリカーボネート樹脂(A)、前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計を100質量部としたときに、前記ポリカーボネート樹脂(A)を30~70質量部、前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)を3~16質量部、前記エチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)を3~16質量部 、及び前記滑剤(D)を1~8質量部で含む、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(A)、前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計を100質量部としたときに、前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)を20~60質量部で含む、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記滑材(D)が、水添グリセリン脂肪酸エステルの少なくとも1種である、請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)が、ジエン系ゴム質重合体(b2)の存在下にビニル系単量体をグラフト重合して得られたジエン系ゴム強化樹脂(B2)をさらに含む、請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂、AES樹脂等のゴム変性グラフト重合体は、機械的強度、成形性に優れた材料であるが、耐熱性や高度の耐衝撃性が要求される用途(自動車部品、OA部品等)に用いるには耐熱性や耐衝撃性が不十分な場合がある。一方、ポリカーボネート系樹脂は、耐熱性や耐衝撃性に優れた材料であるが、成形性が不十分な場合がある。これら互いの欠点を補う方法として、ポリカーボネート系樹脂とゴム変性グラフト重合体とをブレンドする方法が知られている。
【0003】
このような材料は自動車内装部品として、ポリカーボネートとABS樹脂をブレンドしたPC/ABSが多く用いられてきた。さらに近年ではHV車やEV車の普及に伴い、車内の静音性への要求が高くなっており、静音性に優れるAES樹脂がABS樹脂の代替材として用いられている。
【0004】
しかし、静音性を十分に担保するのに必要な量のAESを使用すると、発色性が劣るといった不具合が生じる。
【0005】
静音性と発色性の優れるAES樹脂の組成物として、AES樹脂とメタクリル酸エステル樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
また、異音防止性を付与する滑剤として脂肪酸エステルを含む熱可塑性樹脂組成物も提案されている(特許文献2)。
しかし、特許文献1では、非ゴム強化樹脂としてアクリロニトリルとスチレンの共重合体が検討されておらず、メタクリル酸エステル樹脂を用いていることから、流動性や機械強度については特性が劣る。また、特許文献2では、脂肪酸エステルが異音防止性に寄与することを開示しているが、ブリードアウト等による軋み音低減効果の長期的な安定性の観点について何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-95722号公報
【特許文献2】特開2021-31561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ゴム強化ビニル系樹脂としてエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂を用いた場合でも、特定の飽和脂肪酸エステルを併用することで、機械特性と発色性と静音性に優れる樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1] ポリカーボネート樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)、非ゴム強化ビニル系樹脂(C)及び滑剤(D)を含む熱可塑性樹脂組成物であって、前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)は、少なくともエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)の存在下にビニル系単量体をグラフト重合して得られるエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)を含み、前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)は、少なくともアクリロニトリル単位とスチレン単位を含む共重合体であり、前記滑剤(D)は、炭素数12以上の飽和脂肪酸エステルを有する滑剤であり、
前記ポリカーボネート樹脂(A)、前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計を100質量部としたときに、前記ポリカーボネート樹脂(A)を30~70質量部、前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)を3~16質量部、前記エチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)を3~16質量部 、及び、前記滑剤(D)を1~8質量部で含む、熱可塑性樹脂組成物。
[2] 前記ポリカーボネート樹脂(A)、前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計を100質量部としたときに、前記非ゴム強化ビニル系樹脂(C)を20~60質量部で含む、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3] 前記滑材(D)が、水添グリセリン脂肪酸エステルの少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4] 前記ゴム強化ビニル系樹脂(B)が、ジエン系ゴム質重合体(b2)の存在下にビニル系単量体をグラフト重合して得られたジエン系ゴム強化樹脂(B2)をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂にグリセリン脂肪酸エステルを併用した場合に、機械特性及び発色性が優れるとともに、長期的な軋み音低減性(静音性)にも優れる樹脂組成物及びその成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルを意味し、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
「単位」とは、重合体中に含まれる、重合前の化合物(単量体)に由来する構造部分を意味する。例えば「アクリロニトリル単位」とは「アクリロニトリルに由来する構造部分」、「スチレン単位」とは「スチレンに由来する構造部分」を意味する。
共重合体の各単量体単位の含有割合は、当該共重合体の製造に用いた各単量体の配合割合に相当する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
〔樹脂組成物〕
本発明の第一態様の樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)、非ゴム強化ビニル系樹脂(C)と、滑剤(D)とを含む。
本態様の樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0012】
<ポリカーボネート系樹脂(A)>
ポリカーボネート系樹脂(A)は、主鎖にカーボネート結合を有する樹脂である。
ポリカーボネート系樹脂(A)としては、特に限定されず、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族-芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステルカーボネート等が挙げられる。これらのポリカーボネート系樹脂は、末端がR-CO-基又はR’-O-CO-基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。これらのポリカーボネート系樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0013】
ポリカーボネート系樹脂(A)としては、耐衝撃性、耐熱性の観点から、芳香族ポリカーボネート及び芳香族ポリエステルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、特に耐衝撃の観点から、芳香族ポリカーボネートがより好ましい。
【0014】
芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応による反応生成物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重縮合法による重縮合物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとのピリジン法による重縮合物等が挙げられる。
【0015】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内に芳香環に結合したヒドロキシ基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’-ビフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、9,9-ビス(p-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。この化合物において、炭化水素基としては、例えばアルキレン基が挙げられる。炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。
2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物としては、ビスフェノールA、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3、5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0017】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
芳香族ポリエステルカーボネートは、主鎖にカーボネート結合及びエステル結合を有する樹脂である。
芳香族ポリエステルカーボネートとしては、ポリ-4,4’-イソプロピリデンジフェニルカーボネート(例えば後述の「ノバレックス」として市販されているもの。)等が挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート系樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)の下限値は、15,000以上が好ましく、17,000以上がより好ましく、18,000以上が特に好ましい。Mvが上記下限値以上であれば、耐衝撃性がより優れる。また、上限値は40,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、28,000以下が特に好ましい。Mvが上記上限値以下であれば、流動性、成形性がより優れる。
ポリカーボネート系樹脂(A)のMvは、溶融粘度により求めた値である。
【0020】
<ゴム強化ビニル系樹脂(B)>
ゴム強化ビニル系樹脂(B)は、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を重合(グラフト重合)して得られたものであり、ゴム質重合体とビニル系重合体とを含む。
ビニル系単量体成分は、1種以上のビニル系単量体からなる。ビニル系重合体は、ビニル系単量体成分の重合体であり、ビニル系単量体に基づく構成単位を含む。
【0021】
ゴム質重合体としては、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体、ジエン系ゴム質重合体、アクリル系ゴム質重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム質重合体としては、耐衝撃性の観点から、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体及びジエン系ゴム質重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、成形品同士が互いに接触したときの軋み音を低減する観点から、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体がより好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体とジエン系ゴム質重合体とを併用してもよい。この場合、樹脂組成物の成形品が、例えば-30℃といった非常に低温の環境下においても、衝撃破壊時に延性破壊するようになるため、樹脂組成物が、安全性が要求される成形品(自動車用部品等)の成形品の成形材料として好適なものとなる。
【0022】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、エチレンに基づく構成単位と、炭素数3以上のα-オレフィンに基づく構成単位とを含む。
α-オレフィンとしては、例えば、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
α-オレフィンの炭素数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~8である。炭素数が20以下であれば、エチレンとの共重合性が良好で、樹脂組成物の成形品の表面外観がより優れる。
【0023】
エチレンに基づく構成単位と炭素数3以上のα-オレフィンに基づく構成単位との合計質量に対するエチレンに基づく構成単位の割合は、典型的には5~95質量%であり、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~95質量%、特に好ましくは70~90質量%である。また、前記合計質量に対する前記α-オレフィンに基づく構成単位の割合は、前記合計質量(100質量%)から前記エチレンに基づく構成単位の割合を差し引いた値である。
エチレンに基づく構成単位の割合が上記範囲内であれば、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体のゴム弾性が十分なものとなり、耐衝撃性がより優れる。
【0024】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、必要に応じて、非共役ジエンに基づく構成単位をさらに含んでいてもよい。
非共役ジエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0025】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体が非共役ジエンに基づく構成単位をさらに含む場合、軋み音低減の観点から、エチレンに基づく構成単位とα-オレフィンに基づく構成単位との合計質量(100質量%)に対する非共役ジエンに基づく構成単位の割合は、0~10質量%が好ましく、1~9質量%がより好ましく、2~8質量%以下がさらに好ましく、3~7質量%が特に好ましい。
【0026】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体が好ましく、エチレン・プロピレン共重合体がより好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(非共役ジエンに基づく構成単位を含んでもよい。)の100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)は、典型的には5~80、好ましくは10~65、より好ましくは10~45である。ムーニー粘度が上記範囲内であれば、ゴム変性グラフト重合体(B)の流動性がより良好となり、成形性がより優れる。
ムーニー粘度は、JIS K 6300に規定された方法に従って測定した値である。
【0028】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、軋み音を低減する観点から、融点(Tm)を持つことが好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体がTmを持つことは、該ゴム質重合体が結晶性部分を有することを意味している。ゴム質重合体中に結晶性部分が存在すると、スティックスリップ現象の発生が抑制される為、軋み音の発生が抑制されるものと考えられる。
【0029】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(非共役ジエンに基づく構成単位を含んでもよい。)のTmは、好ましくは0~120℃、より好ましくは10~100℃、特に好ましくは20~80℃である。Tmが0℃以上であれば、軋み音の低減効果がより優れる。
Tmは、示差走査熱量計(DSC)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値であり、詳細は、JIS K 7121:1987に規定されている。なお、DSCの測定において、吸熱変化のピークを明瞭に示さないものは、実質的に結晶性がないものであり、Tmを持たないものと判断する。
【0030】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(非共役ジエンに基づく構成単位を含んでもよい。)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-30℃以下、特に好ましくは-40℃以下である。Tgが-20℃以下であれば、樹脂組成物の成形品の耐衝撃性がより優れる。
Tgは、Tmの測定と同様に、DSCを用い、JIS K 7121:1987に規定された方法に従って測定することができる。
【0031】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の重量平均分子量は、典型的には50,000~1,000,000、好ましくは80,000~800,000、より好ましくは80,000~500,000である。重量平均分子量が上記範囲内であれば、樹脂組成物の流動性、成形性、樹脂組成物の成形品の耐衝撃性及び外観がより優れる。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0032】
ジエン系ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらはランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
ジエン系ゴム質重合体は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。
ジエン系ゴム質重合体は、共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる(共)重合体であってもよい。該ジエン系ゴム質重合体に対する水素添加率は、典型的には95%以上、好ましくは98%以上である。
ジエン系ゴム質重合体は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、ジエン系ゴム質重合体は、αオレフィンに基づく構成単位を含まない。
【0033】
ゴム質重合体とビニル系重合体との合計質量(ゴム質重合体とビニル系単量体成分との合計質量)に対するゴム質重合体の割合は、ゴム質重合体がエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体である場合、10~60質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。一方、ゴム質重合体がジエン系ゴム質重合体である場合、前記割合は、40~75質量%が好ましく、50~70質量%がより好ましく、55~65質量%がさらに好ましい。
【0034】
(ビニル系単量体成分)
ビニル系単量体成分を構成するビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体が挙げられる。他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシ基含有不飽和化合物、ヒドロキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0036】
シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0038】
マレイミド系化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
カルボキシ基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
ヒドロキシ基含有不飽和化合物の具体例としては、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
ビニル系単量体成分は、ゴム変性グラフト重合体(B)とその他の樹脂との相溶性の観点から、芳香族ビニル化合物を含むことが好ましい。
ビニル系単量体成分の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、上記相溶性の観点から、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。該割合は100質量%であってもよく、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0043】
ビニル系単量体成分は、ゴム変性グラフト重合体(B)とその他樹脂との相溶性の観点から、芳香族ビニル化合物に加えて、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、シアン化ビニル化合物を含むことがより好ましい。芳香族ビニル化合物と共にシアン化ビニル化合物を含むと、樹脂組成物の成形品の耐薬品性、靭性等がより優れる。
【0044】
ビニル系単量体成分が芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、上記相溶性の観点から、ビニル系単量体成分の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、40~90質量%が好ましく、55~85質量%がより好ましく、65~80がさらに好ましい。また、ビニル系単量体成分の総質量に対するシアン化ビニル化合物の割合は、10~60質量%が好ましく、15~45質量%がより好ましく、20~35質量がさらに好ましい。
なお、ビニル系単量体成分の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、ビニル系重合体を構成する全ての構成単位の合計質量に対する芳香族ビニル化合物に基づく構成単位の割合とみなすことができる。シアン化ビニル化合物の割合も同様である。
【0045】
(ゴム強化ビニル系樹脂(B)の製造方法)
ゴム強化ビニル系樹脂(B)は、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を重合することにより得られる。
重合方法としては、特に制限されず、例えば、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法等が挙げられる。
【0046】
乳化重合法によりゴム強化ビニル系樹脂(B)を得る方法としては、例えば、ゴム質重合体のラテックスの存在下にビニル系単量体成分を重合する方法が挙げられる。これにより、ゴム強化ビニル系樹脂(B)のラテックスが得られる。
ゴム質重合体のラテックスは、公知の方法により製造できる。ラテックスを製造する方法としては、溶融状態のゴム質重合体を水中で攪拌剪断力によって、均質化処理(ホモジナイズ)する方法や、乳化剤の存在下で、重合性モノマーを乳化重合する方法等が知られている(特公平4-30970号公報、特許第3403828号、特開平11-269206号公報等参照)。
【0047】
ビニル系単量体成分は、ゴム質重合体のラテックスに、全量を一括して添加して重合させてもよく、少量ずつ分割して又は連続的に添加して重合させてもよい。また、これらを組み合わせた方法で重合してもよい。さらにゴム質重合体のラテックスの全量又は一部を重合の途中で添加して重合してもよい。重合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を用いることができる。
【0048】
重合開始剤としては、例えばクメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸、スルホキシレート等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。重合開始剤は、油溶性でも水溶性でもよく、さらにはこれらを組み合わせて用いてもよい。重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続的に添加することができる。
重合開始剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは0.2~0.7質量部である。
【0049】
連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサメチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類;α-メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続して添加することができる。
連鎖移動剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部である。
【0050】
乳化剤としては、例えばアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;脂肪族リン酸塩等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル化合物等が挙げられる。乳化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、例えば0.3~5質量部である。
【0051】
乳化重合は、ビニル系単量体、重合開始剤等の種類に応じ公知の条件で行うことができる。乳化重合により得られたラテックスからゴム強化ビニル系樹脂(B)を回収する方法としては、特に制限されるものではないが、前記ラテックスを凝固剤水溶液等に投入して凝固し、重合体を回収する方法、凝固剤水溶液を前記ラテックスに投入して凝固し、重合体を回収する方法、凝固工程を低温から高温に温度勾配をつけ二段階以上に分けて凝固し、重合体を回収する方法、凝固工程を弱酸性から強酸性に又は強酸性から弱酸性に酸性度勾配をつけて二段階以上に分けて凝固し、重合体を回収する方法、前記ラテックスに凝固剤水溶液を混合してペーストとした後、細孔から温水中へ押出して凝固し、重合体を回収する方法等が挙げられ、これらの方法から二種類以上を選択して組み合わせることにより、回収することもできる。凝固剤としては、例えば、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸、酢酸、乳酸等の有機酸、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩等から選ばれた1種以上を用いることができる。
この後、公知の方法、例えば遠心脱水機、流動乾燥機を使用して、脱水・乾燥して重合体を回収することができる。なお、この際、必要に応じて、ラテックスに予め各種酸化防止剤、各種安定剤を添加してもよく、さらにこれらを乳化して添加してもよい。
【0052】
ゴム強化ビニル系樹脂(B)のグラフト率は、典型的には10~50質量%、好ましくは15~120質量%、より好ましくは20~100質量%、特に好ましくは30~80質量%である。グラフト率が前記範囲内であれば、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより優れる。
【0053】
上記グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)={(S-T)/T}×100・・・(1)
上記式中、Sは、ゴム変性グラフト重合体(B)1gをアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000ppm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは、ゴム強化ビニル系樹脂(B)1gに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。このゴム質重合体の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等の方法により得ることができる。
【0054】
上記グラフト率は、例えば、単量体成分の重合時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加量、添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0055】
ゴム強化ビニル系樹脂(B)のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、典型的には0.1~1.5dL/g、好ましくは0.20~1.0dL/g、より好ましくは0.30~0.70dL/gである。
極限粘度[η]が前記範囲内であれば、耐衝撃性、成形性がより優れる。
【0056】
上記極限粘度[η]は、下記方法により測定できる。
まず、ゴム強化ビニル系樹脂(B)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なる測定用試料5点を作製する。次に、ウベローデ粘度管を用い、30℃における各濃度の測定用試料の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求める。単位は、dL/gである。アセトン可溶分は、ゴム変性グラフト重合体(B)の1gをアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000ppm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分(アセトン可溶分のアセトン溶液)とを分離し、可溶分を乾燥(アセトンを除去)して得られる。
【0057】
上記極限粘度[η]は、例えば、単量体成分の重合時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、極限粘度[η]が異なる2種以上のゴム強化ビニル系樹脂(B)を適宜選択して混合することにより調整することもできる。
【0058】
<非ゴム強化ビニル系樹脂(C)>
非ゴム強化ビニル系樹脂(C)は、少なくともアクリロニトリル単位とスチレン単位を含む共重合体であり、ゴム質重合体の非存在下、アクリロニトリルとスチレンを含む単量体混合物(c1)を共重合して得られた共重合体である。単量体混合物(c1)は、必要に応じてアクリロニトリル及びスチレン以外の単量体(以下、「他の単量体」ともいう。)を含んでいてもよい。すなわち、非ゴム強化ビニル系樹脂(C)は、アクリロニトリル単位と、スチレン単位と、必要に応じて他の単量体単位とを有する共重合体である。
【0059】
単量体混合物(c1)に含まれてもよい他の単量体としては、ゴム強化ビニル系樹脂(B)の説明において先に例示したビニル系単量体が挙げられる。
【0060】
単量体混合物(c1)中の各単量体の割合は、単量体混合物(c1)の総質量に対して、アクリロニトリル単位の含有量が好ましくは10~45質量%、より好ましくは15~40質量%、さらに好ましくは20~35質量%であり、スチレン単位の含有量が好ましくは55~90質量%、より好ましくは60~85質量%、さらに好ましくは65~80質量%である。
また、他の単量体の割合は、単量体混合物(c1)の総質量に対して、0~30質量%が好ましく、0~20質量%がより好ましく、0~10質量%がさらに好ましく、0質量%が最も好ましい。
【0061】
非ゴム強化ビニル系樹脂(C)のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、例えば0.10~1.2dL/gが好ましく、0.30~0.9dL/gがより好ましく、0.40~0.70dL/gである。極限粘度[η]が前記範囲内であれば、耐衝撃性、成形性がより優れる。
上記極限粘度[η]は、前述したゴム強化ビニル系樹脂(B)の極限粘度[η]と同様の方法により測定できる。
【0062】
非ゴム強化ビニル系樹脂(C)は、アセトニトリルと、スチレンと、必要に応じて他の単量体とを共重合することにより製造できる。
各単量体の重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合又はこれらを複合した方法等の公知の重合方法をいずれも適用できる。
非ゴム強化ビニル系樹脂(C)は1種のみを用いてもよく、単量体組成や分子量等の異なる非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の2種類以上を混合して用いてもよい。
【0063】
<滑剤(D)>
滑剤(D)は、炭素数12(C12)以上の飽和脂肪酸とアルコールがエステル結合した飽和脂肪酸エステルを有する滑剤である。飽和脂肪酸エステルは、不飽和脂肪酸エステルを水添処理して得られたものでもよい。
滑剤(D)は、飽和脂肪酸エステルを主成分(滑剤(D)の総質量に対して50質量%以上)として含み、他の成分を副成分としてさらに含み、ワックス状となった混合物でもよい。
【0064】
C12以上の飽和脂肪酸の具体例としては、飽和脂肪酸のラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸、牛脂硬化油、パーム油が挙げられる。
【0065】
脂肪酸エステルとしては、グリセリンの有する3つのヒドロキシ基のうち1つ以上に脂肪酸がエステル結合したグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。グリセリン脂肪酸エステルには、脂肪酸を1つ有するモノアシルグリセロール、脂肪酸を2つ以上有するジアシルグリセロール、脂肪酸を3つ以上有するトリアシルグリセロールが挙げられる。
【0066】
C12以上の飽和脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、モノアシルグリセロールであるモノステアリン酸グリセロール、トリアシルグリセロールであるヒマシ油の水添物が挙げられる。
【0067】
滑剤(D)の融点は、成形品からのブリードアウトまたは長期的な物性の安定性の観点から、室温以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、80℃以上さらに好ましい。
【0068】
滑剤(D)としては、発色性の観点から、飽和脂肪酸または飽和脂肪酸エステルが好ましい。
【0069】
滑剤(D)としては、軋み音低減の観点から、飽和脂肪酸よりも飽和脂肪酸エステルの方が好ましい。飽和脂肪酸エステルのなかでは、モノアシルグリセロールやジアシルグリセロールよりも、乳化作用の低いトリアシルグリセロールの方が好ましい。
【0070】
滑剤(D)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。滑剤(D)は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば水添ヒマシ油が挙げられる。
【0071】
<他の熱可塑性樹脂>
前述した成分(A)~(D)以外の、他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
<他の添加剤>
本態様の樹脂組成物は他の添加剤を含んでもよい。他の添加剤としては、紫外線吸収剤、耐候剤、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
<含有割合>
本態様の樹脂組成物における、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)、非ゴム強化ビニル系樹脂(C)及び滑剤(D)の合計の含有量は、例えば、樹脂組成物の総質量に対して、50~100質量が好ましく、60~99質量がより好ましく、70~98質量%がさらに好ましく、80~98質量%が特に好ましく、90~98質量%が最も好ましい。
上記範囲の下限値以上であると本発明の効果が充分に奏される。上記範囲の上限値以下であると、成分(A)~(D)以外の他の成分(例えば顔料等)を含有させることができる。
【0074】
本態様の樹脂組成物における、上記成分(A)~(D)の配合割合は、必要とする耐衝撃性、耐熱性、機械的強度、成形性等に応じて適宜選定できる。
【0075】
ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計質量に対するポリカーボネート系樹脂(A)の割合は、下限値は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、上限値は70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。ポリカーボネート系樹脂(A)の割合が上記下限値以上であれば、耐衝撃性、耐熱性がより優れる。ポリカーボネート系樹脂(A)の割合が上記上限値以下であれば、機械的強度、成形性がより優れる。
【0076】
ゴム強化ビニル系樹脂(B)の合計の含有量は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計質量に対し、下限値は3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、上限値は16質量%以下が好ましく、14質量%以下がより好ましく、9質量%以下がさらに好ましい。ゴム強化ビニル系樹脂(B)の合計の含有量が上記下限値以上であれば、耐衝撃性、軋み音低減性がより優れる。ゴム強化ビニル系樹脂(B)の含有量が上記下限値以下であれば、発色性がより優れる。
【0077】
エチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)の含有量は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計質量に対し、下限値3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、上限値は16質量%以下が好ましく、14質量%以下がより好ましく、9質量%以下がさらに好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)の含有量が上記下限値以上であれば、耐衝撃性、軋み音低減性がより優れる。ゴム強化ビニル系樹脂(B)の含有量が上記下限値以下であれば、発色性がより優れる。
【0078】
ジエン系ゴム強化樹脂(B2)の含有量は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計質量に対し、下限値は1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましい。また、下限値は10質量%以下が好ましく、7質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。ジエン系ゴム強化樹脂(B2)の含有量が上記下限値以上であれば、耐衝撃性がより優れる。ジエン系ゴム強化樹脂(B2)の含有量が上記下限値以下であれば、軋み音低減性及び発色性がより優れる。
【0079】
非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の含有量は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計質量に対し、下限値は20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、41質量%以上がさらに好ましい。また、上限値は60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の含有量が上記下限値以上であれば、耐衝撃性、軋み音低減性がより優れる。非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の含有量が上記下限値以下であれば、発色性と光沢性がより優れる。
【0080】
滑剤(D)の含有量は、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計質量(100質量%)に対し、下限値は1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。また、上限値は8質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましく、4質量%以下がさらに好ましい。滑剤(D)の含有量が上記下限値以上であれば、発色性、軋み音低減性がより優れる。滑剤(D)の含有量が上記下限値以下であれば、耐衝撃性、耐熱性等がより優れる。
【0081】
他の熱可塑性樹脂の含有量は、耐衝撃性の観点では、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計質量に対し、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が最も好ましい。他の熱可塑性樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0082】
他の添加剤の含有量は、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)及び非ゴム強化ビニル系樹脂(C)の合計質量(100質量%)に対し、0~5質量%が好ましく、0~2質量%がより好ましい。
【0083】
樹脂組成物の温度240℃、荷重98Nにおけるメルトマスフローレート(MFR)は、20~80g/10分が好ましく、35~65g/10分がより好ましく、40~55g/10分がさらに好ましい。MFRが上記下限値以上であれば、流動性、成形性がより優れる。MFRが上記上限値以下であれば、耐衝撃性がより優れる。
MFRは、ISO 1133に規定された方法に従って測定した値である。
【0084】
本態様の樹脂組成物は、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)、非ゴム強化ビニル系樹脂(C)及び滑剤(D)、必要に応じて他の熱可塑性樹脂及び他の添加剤を、タンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。
【0085】
各成分の混合順序は特に制限されず、一部の成分を混合した後、残部を混合してもよく、全成分を一括に混合してもよい。各成分を混練するに際して、各成分を一括して混練してもよく、多段、分割配合して混練してもよい。充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200~300℃、好ましくは220~280℃である。
【0086】
以上説明した本発明の樹脂組成物にあっては、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム強化ビニル系樹脂(B)、非ゴム強化ビニル系樹脂(C)、及び滑剤(D)を含むので、発色性と軋み音低減性に優れる。また、ゴム強化ビニル系樹脂(B)としてエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂を用いているので、長期的な軋み音低減性と機械特性に優れる。
【0087】
〔成形品〕
本発明の第二態様の成形品は、第一態様の樹脂組成物を含む。
本態様の成形品は、例えば、第一態様の樹脂組成物を成形することにより製造できる。
成形方法としては、特に制限はなく、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト成形法、プレス成形法、ブロー成形法、異形押出成形法、カレンダー成形法、Tダイ押出成形法等の公知の方法が挙げられる。
【0088】
本発明の成形品は、例えば、電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器、事務用機器、自動車用部品、事務用機器部品、住宅用部品、家電用部品等として好適である。
【実施例0089】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例にだけに限定されるものではない。
なお、以下の例中の「%」及び「部」は、明記しない限りは質量基準である。
【0090】
〔測定方法〕
<MFR>
樹脂組成物のペレットについて、ISO 1133に規定された方法に従って、温度240℃及び荷重98Nの条件でMFRを測定した。
【0091】
<シャルピー衝撃強さ(IMP)>
樹脂組成物のペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所社製「J110AD-180H」)を用い、シリンダー温度240℃の条件で射出成形して試験片を得た。
得られた試験片について、ISO 179-1に規定された方法に従って、23℃におけるIMPを測定した。IMPが大きいほど耐衝撃性に優れ、IMP≧15kJ/m2で耐衝撃性が良好と判断した。
【0092】
<耐熱性(HDT)>
射出成形機(東芝機械株式会社製、「IS55FP-1.5A」)を用い、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物から、シリンダー設定温度260℃、金型温度30℃の条件で、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片を作製した。
得られた試験片について、ISO 75に準拠し、HDT試験機(株式会社東洋精機製作所製、「6A-2」)を用い、荷重1.83MPa、フラットワイズ(4mm厚み)の条件で試験片の荷重たわみ温度(HDT)を測定した。HDTの値が高いほど、耐熱性に優れ、HDT≧90℃で耐熱性が良好と判断した。
【0093】
<発色性>
各熱可塑性樹脂組成物のペレットをシリンダー温度240℃、金型温度60℃、射出率20g/秒の条件で射出成形して、長さ100mm、幅100mm、厚み3mmの板状の成形体を得た。
(明度L*)
この成形体について、分光測色計(コニカミノルタオプティプス社製「CM-3500d」)を用いて、SCE方式にて明度L*を測定した。測定されたL*を「L*(ma)」とする。L*が低いほど黒色となり、L*≦9.0で発色性が良好と判定した。
「明度L*」とは、JIS Z 8729において採用されているL*a*b*表色系における色彩値のうちの明度の値(L*)を意味する。
「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
(表面光沢)
スガ試験機株式会社製の「デジタル変角光沢計UGV-5D」を用い、JIS K 7105に準拠して、入射角60°、反射角60°における成形体の表面の反射率(%)を測定した。反射率が高いほど表面外観に優れることを意味し、光沢≧100%で発色性が良好であると判断した。
【0094】
<耐軋み音性>
各熱可塑性樹脂組成物を東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダー温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形し、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの射出成形プレートを得た。このプレートから、縦60mm、横100mm、厚さ4mmの試験片と、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片をディスクソーで切り出した。これら大小2枚のプレートの端部を番手#100のサンドペーパーで面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、試験片として用いた。
2枚の試験片を80℃±5℃に調整したオーブンで300時間エージングし、25℃で24時間冷却後、大きな試験片と小さな試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP-02に固定し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下で、荷重5N又は40Nと、速度1mm/秒又は10mm/秒を組み合わせた4条件にて、振幅20mmで3回擦り合わせたときの異音リスク値を測定した。そして、最も大きい異音リスク値を測定値として採用した。異音リスク値が大きいほど軋み音の発生リスクは高くなり、異音リスク値が3以下であれば良好である。
本試験において、上記条件にて300時間のエージングを行っていることから、異音リスク値が低いことは、軋み音低減効果が長期的に安定して発揮されることを示している。
【0095】
〔使用材料〕
<ポリカーボネート樹脂(A)>
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバレックス7022PJ-LH1」(Mv18,700(カタログ値)の芳香族ポリカーボネート)を使用した。
【0096】
<エチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)>
リボン型撹拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20Lのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体として、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合体(エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン=75/20/5(%)、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は-50℃)22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間撹拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温をさらに昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、撹拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながらさらに2時間反応を行って重合反応を終了した。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF-96-100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット状のAES樹脂(B1)を得た。得られたAES樹脂(B1)のグラフト率は70%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。
【0097】
<ジエン系ゴム強化樹脂(B2)>
撹拌機付き重合容器に、水280部及びジエン系ゴム質重合体として、重量平均粒子径0.26μm、ゲル分率90%のポリブタジエンラテックス60部(固形分換算)、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.01部を仕込み、脱酸素後、窒素気流中で撹拌しながら60℃に加熱した後、アクリロニトリル10部、スチレン30部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、クメンハイドロパーオキサイド0.3部からなる単量体混合物を60℃で5時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合温度を65℃にし、1時間撹拌を続けた後、重合を終了させ、グラフト共重合体のラテックスを得た。重合転化率は98%であった。その後、得られたラテックスに、2,2’-メチレン-ビス(4-エチレン-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し、塩化カルシウムを添加して凝固し、洗浄、濾過及び乾燥工程を経てパウダー状のABS樹脂(B2)を得た。得られたABS樹脂(B2)のグラフト率は40%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.38dl/gであった。
【0098】
<非ゴム強化ビニル系樹脂(C)>
AS樹脂(C)として、アクリロニトリル単位及びスチレン単位の割合が、それぞれ、27%及び73%であり、アセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)が0.47dl/g、ガラス転移温度(Tg)が103℃であるアクリロニトリル・スチレン共重合体を用いた。
【0099】
<滑剤(D)>
滑剤は下記のものを使用した。
D1:花王製「カオーワックス 85P」(融点85~87℃、硬化ヒマシ油、トリグリセリド飽和脂肪酸エステル)を使用した。
D2:花王製「レオドール MS-60」(融点59~62℃、モノステアリン酸グリセリド、モノグリセリド飽和脂肪酸エステル)
D3:三井・ダウ ポリケミカル製「エルバロイ HP661」(融点62℃、エチレン・アクリル酸エステル系三元共重合体)
D4:EVONIK製「TEGOMER H-Si6441P」(融点53℃、ポリエステル変性ポリシロキサン)
【0100】
<顔料>
越谷化成工業社製「ROYAL BLACK 971G」(商品名)を用いた。これは、アクリロニトリル・スチレン共重合体をベース樹脂として、カーボンブラックを40%含むマスターバッチである。
【0101】
〔実施例1~6、比較例1~12〕
表1記載の成分を表1に記載の配合割合(部)でヘンシェルミキサーにより混合した後、ベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX44、バレル設定温度260℃)を用いて溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットについて、前記した方法によりMFRを測定した。また、前記した方法により試験片を成形してIMP、HDT及び発色性を測定し、耐軋み音性を評価した。
【0102】
【0103】
本発明に係る実施例1~6の樹脂組成物及び成形品にあっては、各成分(A)~(D)の含有量が適切であるので、流動性、機械特性(IMP、HDT)、発色性(L*、光沢)、及び軋み音(異音リスク値;静音性)の評価の全てのバランスがよく、優れている。
比較例1~2は滑剤(D)を含まないので、軋み音が劣る。比較例1はエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)の含有量が過少なので、機械特性も劣る。
比較例3は滑剤(D)を含まず、エチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)の含有量が過多なので、発色性が劣る。
比較例4はエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)の含有量が過少なので、機械特性及び軋み音が劣る。
比較例5は滑剤(D)の含有量が過多なので、機械特性が劣る。
比較例6はエチレン・α-オレフィン系ゴム強化樹脂(B1)を含まず、その代わりにジエン系ゴム強化樹脂(B2)を含有しているので、軋み音が劣る。
比較例7はゴム強化ビニル系樹脂(B)の合計の含有量が過多であるので、発色性が劣る。
比較例8はポリカーボネート樹脂(A)の含有量が過少であるので、機械特性及び発色性が劣る。
比較例9はポリカーボネート樹脂(A)の含有量が過多であるので、流動性及び軋み音が劣る。
比較例11は滑剤(D)として炭素数12以上の飽和脂肪酸エステルを含まず、代わりに別の滑剤を含むので、発色性及び軋み音が劣る。
比較例12は滑剤(D)として炭素数12以上の飽和脂肪酸エステルを含まず、代わりに別の滑剤を含むので、機械特性、発色性及び軋み音が劣る。