(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141336
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】散布装置
(51)【国際特許分類】
A01M 7/00 20060101AFI20241003BHJP
A01G 9/24 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A01M7/00 C
A01M7/00 J
A01G9/24 R
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052920
(22)【出願日】2023-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】596005964
【氏名又は名称】住化農業資材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】波多野 秀岳
(72)【発明者】
【氏名】山川 大貴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友隆
【テーマコード(参考)】
2B029
2B121
【Fターム(参考)】
2B029SE04
2B029XA03
2B121CB02
2B121CB23
2B121CB27
2B121CB35
2B121CB42
2B121CB51
2B121CB56
2B121CB66
2B121CB70
2B121EA12
(57)【要約】
【課題】本発明は、農地の広範囲にわたって効率的に農薬等の液体を散布することができ、且つ、葉の表面及び裏面を含む農作物の全体に液体を散布することに優れる散布装置を提供することを課題とする。
【解決手段】一方向に沿って列をなす農作物に液体を散布するために用いられ、前記一方向に延びる少なくとも1つの管状部材を備え、前記管状部材は、内部に流通させた前記液体を散布するための複数の貫通孔を有し、前記管状部材を上下方向に移動させる移動機構を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿って列をなす農作物に液体を散布するために用いられ、
前記一方向に延びる少なくとも1つの管状部材を備え、
前記管状部材は、内部に流通させた前記液体を散布するための複数の貫通孔を有し、
前記管状部材を上下方向に移動させる移動機構を備えている、散布装置。
【請求項2】
前記移動機構は、前記管状部材の上方に設置された支持部材と、前記管状部材を前記支持部材に吊り下げる紐部材とを備え、
前記支持部材は、前記紐部材が巻き付けられる周面を有する、請求項1に記載の散布装置。
【請求項3】
第1の管状部材と、第2の管状部材とを備え、
前記移動機構が、前記第1の管状部材及び前記第2の管状部材を同期して上下方向に移動させるように構成されている、請求項2に記載の散布装置。
【請求項4】
前記移動機構は、前記第1の管状部材を前記支持部材に吊り下げる第1の紐部材と、前記第2の管状部材を前記支持部材に吊り下げる第2の紐部材と、前記第1の管状部材から前記第2の管状部材を離間させるように前記第2の紐部材を案内する案内部材とを備え、
前記第1の紐部材及び前記第2の紐部材は、何れも前記支持部材の周面に固定されている、請求項3に記載の散布装置。
【請求項5】
前記管状部材は、前記液体を霧状に散布可能に構成されている、請求項1又は2に記載の散布装置。
【請求項6】
前記液体が、農薬である、請求項1又は2に記載の散布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散布装置に関し、具体的には、農作物に農薬等の液体を散布するための散布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農業における人的労力を削減する観点から、農薬等の液体の散布作業を効率化するための提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、潅水チューブを備える農業用ハウスが提案されている。通常、潅水チューブは、農作物のなす列と隣り合うように配置され、且つ、内部に流通させた水を散布するための貫通孔を有する。また、潅水チューブには、長さ方向に所定の間隔を空けて多数の貫通孔が形成されている。そして、特許文献1の農業用ハウスでは、かかる潅水チューブが天井付近(すなわち農作物の上方)に設置されている。これによって、農業用ハウスの広域にわたって効率的な散水が可能とされている。
【0004】
また、潅水チューブを用いる別の方法として、農作物の上方に配置された潅水チューブを水平方向において移動させる移動機構を備えた散布装置が提案されている。
【0005】
さらに、最近では、潅水チューブを用いる方法以外にも、マルチコプター等の無人航空機を用いて農作物の上方から農薬を散布する方法が提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/136988号
【特許文献2】特開2020-199481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、農作物への液体の散布では、農作物の全体に万遍なく液体を散布することが必要となる場合がある。例えば、農薬の散布では、葉の表面だけでなく、裏面にも農薬を散布することが必要である。また、水の散布でも、気温の高い夏季に葉水と呼ばれる葉全体への水の散布が必要な場合がある。
【0008】
さらに、農業用ハウスでの水の散布は、農業用ハウス内を冷却する役割も求められる。そして、効率的な冷却のためには、農業用ハウスの広範囲にわたって水を散布することが好ましい。
【0009】
しかしながら、従来技術は上記した要望を十分に満足できるとは言い難い。例えば、特許文献1の設備のように、農作物の上方に配置された潅水チューブでは、葉の裏面への液体の供給が不十分になるおそれがある。また、特許文献2のマルチコプターを用いる方法は、農地の広範囲にわたる同時的な散布が困難であり効率的とは言い難い。
【0010】
上記問題点に鑑み、本発明は、農地の広範囲にわたって効率的に農薬等の液体を散布することができ、且つ、葉の表面及び裏面を含む農作物の全体に液体を散布することに優れる散布装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る散布装置の一態様は、
一方向に沿って列をなす農作物に液体を散布するために用いられ、
前記一方向に延びる少なくとも1つの管状部材を備え、
前記管状部材は、内部に流通させた前記液体を散布するための複数の貫通孔を有し、
前記管状部材を上下方向に移動させる移動機構を備えている。
【0012】
かかる構成によれば、管状部材が一方向に延びているため、農地の広範囲にわたって液体を効率的に散布することができる。また、移動機構によって管状部材が上下方向に移動しながら液体を散布するため、葉の表面や裏面を含む農作物の全体に液体を散布することに優れる。
【0013】
また、本発明に係る散布装置の一態様は、
前記移動機構は、前記管状部材の上方に設置された支持部材と、前記管状部材を前記支持部材に吊り下げる紐部材とを備え、
前記支持部材は、前記紐部材が巻き付けられる周面を有する。
【0014】
かかる構成によれば、支持部材の周面を回転させることによって紐部材を巻き付け又は送り出すことにより管状部材を上下方向に移動させることができるため、装置が比較的簡素化されたものとなり、特に、農業用ハウス内の設置に好適である。
【0015】
また、本発明に係る散布装置の一態様は、
第1の管状部材と、第2の管状部材とを備え、
前記移動機構が、前記第1の管状部材及び前記第2の管状部材を同期して上下方向に移動させるように構成されている。
【0016】
かかる構成によれば、各管状部材が同期して上下方向に移動可能であるため、農地の広範囲にわたってより効率的に液体を散布することができる。
【0017】
また、本発明に係る散布装置の一態様は、
前記移動機構は、前記第1の管状部材を前記支持部材に吊り下げる第1の紐部材と、前記第2の管状部材を前記支持部材に吊り下げる第2の紐部材と、前記第1の管状部材から前記第2の管状部材を離間させるように前記第2の紐部材を案内する案内部材とを備え、
前記第1の紐部材及び前記第2の紐部材は、何れも前記支持部材の周面に固定されている。
【0018】
かかる構成によれば、第1の紐部材及び第2の紐部材の両方が同じ支持部材に巻き取られ又は周面から送り出されるため、各紐部材に専用の支持部材を設ける場合と比較して、簡素化を図ることができる。
【0019】
また、本発明に係る散布装置の一態様は、
前記管状部材は、前記液体を霧状に散布可能に構成されている。
【0020】
かかる構成によれば、管状部材が液体を霧状に散布可能なため、農地の広範囲にわたって効率的に液体を散布することができ、且つ、農作物の全体に液体を散布することにさらに優れるものとなる。
【0021】
また、本発明に係る散布装置の一態様は、
前記液体が、農薬である。
【0022】
かかる構成によれば、一方向に延びる管状部材が上下方向に移動しながら農薬を散布することによって、効果的に害虫を防除することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上の通り、本発明によれば、農地の広範囲にわたって効率的に農薬等の液体を散布することができ、且つ、葉の表面及び裏面を含む農作物の全体に液体を散布することに優れる散布装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態に係る散布装置を管状部材の一端側から見た図である。
【
図2】
図1の散布装置を管状部材の長さ方向に直交する方向から見た図である。
【
図3】
図2の散布装置における電動装置の拡大図である。
【
図4】
図1の散布装置が備える給排液機構を示す図である。
【
図5】管状部材たる潅水チューブの断面図であり、貫通孔の形状の一例を示す図である。
【
図6】潅水チューブの貫通孔の形状の変形例を示す図である。
【
図7】潅水チューブの貫通孔の形状の変形例を示す図である。
【
図8】潅水チューブの貫通孔の形状の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る散布装置について説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態の散布装置1は、農業用ハウスHに設置されている。農業用ハウスHには、一方向に延びる複数の畝Rが形成されている。各畝Rには、農作物が作付けされている。すなわち、農業用ハウスHには、一方向に延びる複数の列を形成するように農作物が作付けされている。また、畝Rと隣り合うように複数の通路Aが形成されている。なお、以下では、農業用ハウスHにおける各方向に関し、農作物が形成する列の延びる水平方向における第1方向を奥行方向D1、水平方向において奥行方向D1と直交する第2方向を幅方向D2、奥行方向D1及び幅方向D2に直交する方向を上下方向D3と称する。また、農業用ハウスHの幅方向D2の任意の位置に形成された通路Aを第1の通路A1、第1の通路A1と隣り合う通路を第2の通路A2と称する。
【0027】
本実施形態の散布装置1は、通路Aの上方において奥行方向D1に延びるように配置された管状部材としての潅水チューブ10と、潅水チューブ10を上下方向D3に移動させる移動機構20と、潅水チューブ10に農薬等の液体を供給し且つ散布後に潅水チューブ10から液体を排出させるための給排液機構30とを備えている。
【0028】
本実施形態の移動機構20は、潅水チューブ10に一端部が接続された紐部材21と、潅水チューブ10の上方に設置され且つ紐部材21の他端部が接続された棒状の支持部材22と、支持部材22をその軸周りに回転させる電動装置23とを備えている。本実施形態の移動機構20は、電動装置23で支持部材22を軸周りに回転させることによって、支持部材22に紐部材21を巻き付け又は支持部材22から紐部材21を送り出すように構成されている。これによって、潅水チューブ10が上下方向D3の両方に移動可能である。
【0029】
また、本実施形態の移動機構20は、潅水チューブ10を少なくとも農作物の下端部から農作物の高さ以上の位置まで移動させるように構成されている。より具体的には、本実施形態では、成長により変化する農作物の最大高さが考慮されており、移動機構20は、該最大高さ以上の位置まで潅水チューブ10を移動させるように構成されている。これによって、農作物の成長に合わせた支持部材22の高さ調整の手間を省くことができる。また、移動機構20は、少なくとも農作物の下端部の位置、さらには地面に接するまで、潅水チューブ10を移動させるように構成されてもよい。
【0030】
本実施形態の潅水チューブ10は、樹脂製である。樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらのなかでも、ポリエチレンが好ましく、低密度ポリエチレンがより好ましい。潅水チューブ10が樹脂製であることによって、比較的重い金属製のものと比較して、農業用ハウスHへの負荷を軽減することができる。
【0031】
本実施形態の潅水チューブ10は、可撓性を有する一対の長尺状の樹脂シートを備え、これらが重ね合わせられた状態で幅方向の端部が接着されることによって構成されている。これによって、本実施形態の潅水チューブ10は、可撓性を有する。また、本実施形態の潅水チューブ10は、水や農薬等の液体の流路をなす筒状の通水部11を有する。前記樹脂シートの可撓性によって、通水部11は、前記流路へ液体が供給されると平坦な状態から円筒状に膨らんだ状態(
図5の状態)に変化するように構成されている。また、通水部11は、前記流路への液体への供給が停止されると、膨らんだ状態から平坦な状態へ変化するように構成されている。
図5に示すように、本実施形態の潅水チューブ10は、通水部11から径方向外方に延びる一対の接着部12を有する。なお、前記潅水チューブは、一枚の樹脂シートの幅方向の端部どうしが接着されることによって構成されてもよい。この場合、該潅水チューブは、1つの接着部を有するものとなる。
【0032】
潅水チューブ10は、通水部11に供給された液体を外部に散布するための複数の貫通孔13を有する。複数の貫通孔13は、潅水チューブ10の長さ方向における所定の位置に形成されている。なお、接着部12の形成位置を基準に、貫通孔13の形成位置を把握することができる。本実施形態の散布装置1では、潅水チューブ10は、接着部12の延びる方向が上下方向D3に沿うように紐部材21及び支持部材22に支持されている。
【0033】
図4に示すように、潅水チューブ10の一端部は、給液配管40を介して給排液機構30に接続されている。一方、潅水チューブ10の他端部は、閉塞されている。本実施形態の給液配管40は、潅水チューブ10の下方から上方への移動にしたがって、渦巻状から螺旋状又は直線状へと変化し得る可撓性を有する。
【0034】
本実施形態の潅水チューブ10は、液体を霧状に散布可能に構成されている。
図5及び
図6に示すように、潅水チューブ10を長さ方向と直交する方向に切断したときの断面において、複数の貫通孔13の少なくとも一部は、中心線CLが通水部11の厚み方向(すなわち、円筒状に膨らんだときの径方向)と交差するように形成された傾斜貫通孔13aである。なお、複数の貫通孔13は、中心線CLが通水部11の厚み方向と平行するように形成された非傾斜貫通孔を含んでいてもよい。さらに、本実施形態の複数の貫通孔13は、散布した液体を潅水チューブ10の外部で衝突させるように構成された第1貫通孔131と第2貫通孔132とを含む。かかる第1貫通孔131と第2貫通孔132との組み合わせは、X孔と称される場合がある。前記X孔は、第1貫通孔131及び第2貫通孔132のそれぞれの中心線CLが通水部11の厚み方向の外方で交差するように構成されている。より具体的には、
図5~7に示すように、通水部11が平坦な状態において、通水部11の厚みをJ(mm)、通水部11の内面から各中心線CLの交点Pまでの距離をh(最短距離)としたときに、0.5×J(mm)<h(mm)<J+50(mm)の関係を満たす。これによって、霧状の液体を散布することができる。なお、前記複数の貫通孔は、前記傾斜貫通孔のみで構成されてもよく、前記非傾斜貫通孔のみで構成されてもよく、前記傾斜貫通孔及び前記非傾斜貫通孔の両方で構成されてもよい。また、前記複数の貫通孔は、前記X孔のみで構成されてもよく、前記断面において何れの貫通孔の中心線とも前記通水部の厚み方向の外方で交差しない中心線を有する非衝突貫通孔のみで構成されてもよい。さらに、前記複数の貫通孔は、前記X孔及び前記非衝突貫通孔の両方で構成されてもよい。
【0035】
貫通孔13の孔径は、
図6のように通水部11の厚み方向の内方から外方に向かって拡径していてもよく、
図7のように縮径していてもよく、
図8のように厚み方向にわたって一定であってもよい。貫通孔13の孔径は、0.01~3mmであることが好ましい。なお、貫通孔13が拡径又は縮径している場合の孔径は、最小径と最大径との平均値を意味するものとする。
【0036】
本実施形態の散布装置1は、複数の潅水チューブ10を備えている。より具体的には、本実施形態の散布装置1は、第1の通路A1の上方において上下移動する第1の潅水チューブ10aと、第2の通路A2の上方において上下移動する第2の潅水チューブ10bとを含む複数の潅水チューブ10を備えている。すなわち、第1の潅水チューブ10a及び第2の潅水チューブ10bは、農作物の列を介して互いに平行するように配置されている。本実施形態では、農作物の各列の間に潅水チューブ10が配置されるとともに、農業用ハウスHの幅方向D2において最も外側に位置する農作物の列の外側にも潅水チューブ10が配置されている。
【0037】
本実施形態では、複数の潅水チューブ10のうち幅方向D2の両方で畝R(すなわち農作物)と隣り合う潅水チューブ10(例えば
図1における第1の潅水チューブ10a)は、前記両方に液体を散布可能に構成されている。すなわち、該潅水チューブ10(第1の潅水チューブ10a)は、通水部11が前記両側に液体を散布可能となるように貫通孔13が形成されている。一方、複数の潅水チューブ10のうち幅方向D2の一方のみで畝R(すなわち農作物)と隣り合う潅水チューブ10(例えば
図1における第2の潅水チューブ10b)は、前記一方にのみ液体を散布可能に構成されている。すなわち、該潅水チューブ10(第2の潅水チューブ10b)は、通水部11が前記一方側にのみ液体を散布可能となるように貫通孔13が形成されている。
【0038】
各潅水チューブ10は、紐部材21を介して支持部材22に吊り下げられている。より具体的には、
図2に示すように、本実施形態の移動機構20は、潅水チューブ10と紐部材21とを接続する第1接続部材24を備えている。第1接続部材24は、潅水チューブ10を下方から支持する環状又は割れ環状の支持部241と、支持部241から上方に延びる鉤状又は環状であり紐部材21の一端部(下端部)を締結するための締結部242とを有する。第1接続部材24の数は、紐部材21の数に対応している。
【0039】
また、第1接続部材24は、潅水チューブ10の姿勢を安定させるためのテンション材25であって潅水チューブ10に沿って延びるテンション材25を固定する固定部243を有する。本実施形態の固定部243は、支持部241から下方に(締結部242とは反対側に)延びる鉤状又は環状に形成されている。
【0040】
本実施形態のテンション材25は、奥行方向D1において隣り合う第1接続部材24のそれぞれの固定部243に固定されている。本実施形態のテンション材25は、隣り合う第1接続部材24のそれぞれの支持部241が幅方向D2において位置ずれすることを抑制するように機能するものである。また、本実施形態のテンション材25は、隣り合う第1接続部材24の平行状態を保持するように機能するものである。ここで、前記潅水チューブは、液体の供給源たる給排液機構30に近い側と遠い側との間の水圧差、長さ方向に並ぶ貫通孔間の径方向の形成位置の違い等によって、液体供給時に捻れが生じるおそれがある。これに対して、本実施形態の散布装置1は、テンション材25を備えていることによって、潅水チューブ10の捻れの発生を抑えることができる。すなわち、潅水チューブ10の姿勢を安定させることができる。そして、このことによって、各貫通孔13からの液体の排出方向を所定の方向に維持させやすくなる。
【0041】
本実施形態のテンション材25は、繊維強化プラスチック(FRP)等の繊維強化材料で構成されている。本実施形態のテンション材25の外径は、潅水チューブ10の外径よりも小さく、例えば5~10mmである。なお、前記テンション材として紐状のものでも所望の効果が得られると考えられる。
【0042】
本実施形態の紐部材21は、金属製のワイヤである。
図2に示すように、紐部材21の一端部たる上端部は、かしめ金具やクリップ等の固定部材26によって支持部材22に固定されている。紐部材21の線径は、0.5mm以上5mm以下である。紐部材21が細いことによって、紐部材21の支持部材22への巻き付け又は支持部材22からの送り出しの際の振動を抑制して農業用ハウスHの負荷を軽減することができる。なお、前記紐部材は、繊維製のワイヤであってもよい。
【0043】
本実施形態の移動機構20は、第1の潅水チューブ10aを支持部材22に吊り下げる複数の第1の紐部材21aと、第2の潅水チューブ10bを支持部材22に吊り下げる複数の第2の紐部材21bとを備えている。本実施形態の散布装置1では、第1の潅水チューブ10aは、第1の紐部材21a及び支持部材22と第1の通路A1上で一直線上に並ぶように配置されている。また、
図1に示すように、本実施形態の移動機構20は、支持部材22に接続された第2の紐部材21bを第2の通路A2上に案内する案内部材27を備えている。本実施形態の案内部材27は、円筒状の側面271を有する棒材であり、第2の通路A2上において奥行方向D1に延びるように配置されている。また、案内部材27は、農作物の高さ(具体的には、前記最大高さ)以上の高さに配置されている。案内部材27による第2の紐部材21bの案内によって、第2の潅水チューブ10bは、第2の通路A2上に配置されることとなる。このように、本実施形態の移動機構20は、1つの棒状の支持部材22に各紐部材21を接続しているため、各紐部材21の巻き付け及び送り出しを連動させやすく、延いては、各潅水チューブ10の上下方向D3の移動を同期させやすい。また、各紐部材に個別に支持部材及び案内部材を設ける場合と比較して、部品点数を少なくすることができ、延いては、農業用ハウスHへの負荷を軽減することができる。
【0044】
本実施形態の支持部材22は、軸周りの回転によって紐部材21を巻き付ける周面221を有する。本実施形態の周面221は、円筒状に形成されており、支持部材22の長さ方向にわたって略一定の周長を有する。これによって、支持部材22の一回転によって、周面221に各紐部材が略同じ長さ分巻き付けられ、又は、周面221から略同じ長さ分送り出される。支持部材22は、少なくとも潅水チューブ10に対応する長さを有する。なお、前記支持部材は、各紐部材を個別に支持するものであってもよい。
【0045】
支持部材22は、金属製の周面221を有する。また、案内部材27は、金属製の側面271を有する。
【0046】
本実施形態の移動機構20は、農業用ハウスHに支持されている。具体的には、本実施形態の移動機構20は、農業用ハウスHを構成する支柱であって奥行方向D1に延び且つ支持部材22よりも上方に配置された支柱と支持部材22とを接続する第2接続部材(図示せず)を備えている。本実施形態の移動機構20は、長さ方向の複数の位置で支持部材22を支持するように、複数の前記第2接続部材を備えている。本実施形態の第2接続部材は、支持部材22を下方から支持する鉤状又は環状の支持部を有する引っ掛け部材である。該支持部における支持部材22の周面221と接する部分は、周面221に沿う曲線状であることが好ましい。これによって、支持部材22が該支持部内を滑らかに回転できるため、上下方向D3に移動する潅水チューブ10の振動を抑制することができる。
【0047】
本実施形態の電動装置23は、支持部材22の一端部が接続された軸部231を有する。電動装置23は、軸部231と支持部材22とが同軸となるように農業用ハウスHに固定されている。本実施形態の電動装置23は、軸部231の軸方向と減速機の出力軸が平行する平行軸タイプである。
【0048】
図4に示すように、本実施形態の給排液機構30は、水又は農薬の供給源に直接に接続された第1配管31を備えている。第1配管31は、その開状態及び閉状態を切り替えるための大元の第1バルブ311を有する。また、本実施形態の給排液機構30は、第1バルブ311よりも下流において第1配管31から分岐した複数の分岐配管32を備えている。複数の分岐配管32は、給液配管40を介して潅水チューブ10に接続された第1分岐配管321と、排液配管50に接続された第2分岐配管322とで構成されている。第1分岐配管321の数は、潅水チューブ10の数に対応している。本実施形態の給排液機構30は、第1分岐配管321及び潅水チューブ10の間の流体的な接続状態を切り替える給液バルブ33と、第2分岐配管322及び排液配管50の間の流体的な接続状態を切り替える排液バルブ34とを備えている。散布開始時には、第1バルブ311及び給液バルブ33が開状態とされ、且つ、排液バルブ34が閉状態とされることによって、潅水チューブ10に給液され、各貫通孔13から液体が排出される。散布完了後には、第1バルブ311が閉状態とされ、且つ、給液バルブ33及び排液バルブ34が開状態とされることによって、潅水チューブ10内の液体が給液配管40及び排液配管50を介して散布装置1の外部へ排出される。かかる排出を促進するために、第2分岐配管322は、潅水チューブ10よりも下方に位置し得るように構成されることが好ましい。
【0049】
潅水チューブ10が散布する液体としては、例えば、水、農薬、肥料、バイオスティミュラント、微生物資材等が挙げられる。
【0050】
本実施形態の散布装置1によれば、移動機構20によって複数の潅水チューブ10が上下方向D3に移動しながら液体を散布するため、農業用ハウスH内の農地の広範囲にわたって効率的に液体を散布することができ、且つ、葉の表面及び裏面を含む農作物の全体に液体を散布することができる。より具体的には、本実施形態では、複数の潅水チューブ10が奥行方向D1及び幅方向D2に沿って広面積の散布領域を形成している。そして、移動機構20が散布状態の複数の潅水チューブ10を上下方向D3に移動させることによって、広面積の前記散布領域が上下方向D3に移動することとなる。従って、農作物の全体に液体を効率的に散布することができる。
【0051】
特に液体が農薬である場合に、広面積の前記散布領域が上下方向D3に移動することによって、害虫が効果的に防除される。より具体的には、広面積の前記散布領域が上方から下方又は下方から上方に移動することによって、害虫が農作物よりも下方又は農作物よりも上方に追いやられるようにして効果的に防除される。
【0052】
また、液体が水である場合、複数の潅水チューブ10を上下方向D3に移動させながら水を散布することができ、すなわち、広面積の前記散布領域が上下方向D3に移動するため、農業用ハウスH内の空間の広範囲にわたって霧状の水が行きわたり易くなり、農業用ハウスH内を効率的に冷却することができる。
【0053】
また、液体が肥料、バイオスティミュラント、微生物資材である場合、複数の潅水チューブ10を上下方向D3に移動させながら肥料、バイオスティミュラント、微生物資材を散布することができ、これによって、農作物の全体に肥料、バイオスティミュラント、微生物資材が散布でき、効果的かつ効率的に葉面散布ができる。
【0054】
また、散布が不要な場合には、潅水チューブ10が通路Aの障害物とならないように(収穫等の他の作業の邪魔にならないように)、支持部材22に紐部材21を巻き取って潅水チューブ10を農作物の高さ以上に退避させることができる。
【0055】
また、液体が農薬の場合の散布完了時には、移動機構20によって潅水チューブ10をできるだけ地面に近付くよう下方に移動させた状態で、低圧で水を供給することによって、通水部11に残存した農薬を貫通孔13を介して洗い流すことができる。そして、この操作によって、必要量以上の農薬が農作物に散布されないようにすることができる。
【0056】
また、特に液体が水の場合の散布完了後には、移動機構20によって潅水チューブ10を最も上方(少なくとも第2分岐配管322よりも上方)に位置させた状態で、排液バルブ34を開状態とすることによって、排液配管50を介して比較的容易に潅水チューブ10に残存した液体を排出することができる。
【0057】
なお、本発明に係る散布装置は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る散布装置は、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る散布装置は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では樹脂製の潅水チューブ10を例示したが、本発明の管状部材はこれに限定されず金属製のパイプであってもよい。この場合、前記貫通孔には霧状の液体を散布可能なノズルが取り付けられることが好ましい。
【0059】
この他、本発明の散布装置は、野外に設置されてもよい。また、複数の畝は、互いに交差するように形成するものを含んでいてもよい。そして、かかる複数の畝に対応するように、複数の管状部材が互いに交差するように配置されたものを含んでいてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:散布装置、10:管状部材(潅水チューブ)、10a:第1の潅水チューブ、10b:第2の潅水チューブ、11:通水部、12:接着部、13:貫通孔、13a:傾斜貫通孔、131:第1貫通孔、132:第2貫通孔、20:移動機構、21:紐部材、21a:第1の紐部材、21b:第2の紐部材、22:支持部材、221:周面、23:電動装置、231:軸部、24:第1接続部材、241:支持部、242:締結部、243:固定部、25:テンション材、26:固定部材、27:案内部材、271:側面、30:給排液機構、31:第1配管、311:第1バルブ、32:分岐配管、321:第1分岐配管、322:第2分岐配管、33:給液バルブ、34:排液バルブ、40:給液配管、50:排液配管、H:農業用ハウス、D1:奥行方向、D2:幅方向、D3:上下方向、A1:第1の通路、A2:第2の通路、CL:中心線、P:交点
【手続補正書】
【提出日】2023-09-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に沿って列をなす農作物に液体を散布するために用いられ、
前記一方向に延びる第1の管状部材及び第2の管状部材と、各管状部材を上下方向に移動させる移動機構とを備え、
前記第1の管状部材及び前記第2の管状部材は、内部に流通させた前記液体を散布するための複数の貫通孔を有し、
前記移動機構は、前記第1の管状部材及び前記第2の管状部材の上方に前記第1の管状部材及び前記第2の管状部材と並行するように設置された棒状の支持部材と、前記第1の管状部材を前記支持部材に吊り下げる複数の第1の紐部材と、前記第2の管状部材を前記支持部材に吊り下げる複数の第2の紐部材と、前記第1の管状部材から前記第2の管状部材を水平方向において離間させるように前記第2の紐部材を案内する案内部材とを備え、
前記複数の第1の紐部材は、長さ方向に間隔を空けて前記第1の管状部材に固定され、
前記複数の第2の紐部材は、長さ方向に間隔を空けて前記第2の管状部材に固定され、
前記複数の第1の紐部材及び前記複数の第2の紐部材は、何れも前記支持部材の周面に固定されており、
前記移動機構は、前記支持部材を軸回りに回転させることによって、前記第1の紐部材及び前記第2の紐部材を同時に前記支持部材の周面に巻き付けるように構成されている、散布装置。
【請求項2】
前記管状部材は、前記液体を霧状に散布可能に構成されている、請求項1に記載の散布装置。
【請求項3】
前記液体が、農薬である、請求項1又は2に記載の散布装置。