IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本塗料株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141337
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】導電性金属酸化物分散液
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241003BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20241003BHJP
   C09K 3/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
H01B1/20 A
C09K3/16 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052924
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】渡部 良
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雄太
【テーマコード(参考)】
4J002
5G301
【Fターム(参考)】
4J002BC05X
4J002CF22W
4J002CF27W
4J002CL06W
4J002CL08W
4J002DE096
4J002DE106
4J002DE126
4J002FD116
4J002FD20W
4J002FD20X
4J002GT00
4J002HA08
5G301DA23
5G301DA42
5G301DD02
5G301DE01
(57)【要約】
【課題】キャリアテープやカバーテープ等に用いられる特定の他の樹脂と混合させた場合においても沈降などが発生せず、分散安定性に優れ、しかも従来と同様に導電性(帯電防止性)と透明性も付与できるような、導電性の微粒子含有の分散液を提供する。
【解決手段】導電性金属酸化物粒子、分散剤及び有機溶剤を含み、前記分散剤は、酸価が40mgKOH/g以上である分散剤Aと、スチレン骨格を有する分散剤Bとを含有することを特徴とする導電性金属酸化物分散液である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属酸化物粒子、分散剤及び有機溶剤を含み、前記分散剤は、酸価が40mgKOH/g以上である分散剤Aと、スチレン骨格を有する分散剤Bとを含有することを特徴とする導電性金属酸化物分散液。
【請求項2】
前記分散剤Bは、スチレン骨格を有する成分を構造中に10質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の導電性金属酸化物分散液。
【請求項3】
導電性金属酸化物粒子が、酸化錫系、酸化亜鉛系、酸化アンチモン系及び酸化インジウム系からなる群から選択される1種以上の粒子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性金属酸化物分散液。
【請求項4】
分散剤Bが、酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性金属酸化物分散液。
【請求項5】
分散剤A及び分散剤Bの合計量が10質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性金属酸化物分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属酸化物粒子、分散剤及び有機溶剤を含む導電性金属酸化物分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップやコンデンサ等の電子部品は、製造後、実装工程に提供されるまでの間、汚染等を防止するために包装材にてパッキングされた状態で保管および輸送される。通常、テープ状の包装材が用いられており、このような包装材としては、例えば、エンボス成形によりポケット部が連続的に形成されて各ポケット部に電子部品が収納されるようなキャリアテープと、キャリアテープのポケットの開口部を覆うカバーテープとでヒートシールされることで密封する包装形態が好適に用いられている。
【0003】
このような電子部品の包装材においては、テープの剥離等の際に静電気が発生すると収納された電子部品に劣化や静電破壊が生じるため、高い帯電防止性が要求される。包装材に帯電防止性を付与するために、例えば、電子部品と接するか又は近接するシーラント層(ヒートシール層)において導電性の微粒子が含有された透明導電部材として用いることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、包装材を構成する樹脂としては、機械的強度や耐熱性に優れるものが用いられており、アクリル樹脂などが用いられてきた。近年では、機械的強度や耐熱性の更なる向上のために、スチレン由来の構造単位を有する樹脂や共重合体が用いられている(例えば、特許文献2を参照)。
【0004】
しかしながら、電子部品の包装体として要求される帯電防止性を得るために、多量の導電性粒子を使用することで、透明性が低下し、カメラ検査による内部確認が困難となる課題がある。
【0005】
ここで、本願の出願人によれば、従来から、リン酸エステル系分散剤と金属錯体やキレート剤を組合せた溶剤系分散液、それに樹脂を添加したコーティング材を帯電防止や反射防止用途に展開している。金属錯体やキレート剤を配合することで、分散剤と無機酸化物粒子(導電性微粒子)の濡れ性が改善し、高い分散安定性が発現される(例えば、特許文献3、4を参照)。
【0006】
しかしながら、本願の出願人が検証するところ、近年キャリアテープやカバーテープに採用されている特定の樹脂等(例えば、スチレン系の構造単位を有する樹脂や共重合体)に対して、従来のリン酸エステル系分散剤を用いた溶剤系分散液を混合すると、沈降等が発生して分散安定性が損なわれるおそれがあることが知見された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-090326号公報
【特許文献2】特開2023-027234号公報
【特許文献3】特許第4995878号公報
【特許文献4】特許第5837292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本願の発明者らは、スチレン由来の構造単位を有する樹脂や共重合体と混合させた場合においても沈降などが発生せず、分散安定性に優れた導電性の微粒子含有の分散液について鋭意検討した。その結果、意外なことには、特定の分散剤A及び分散剤Bを用いることで解決できることを見出して、本発明を完成させた。
【0009】
したがって、本発明の目的は、キャリアテープやカバーテープ等に用いられる特定の他の樹脂と混合させた場合においても沈降などが発生せず、分散安定性に優れ、しかも従来と同様に導電性(帯電防止性)と透明性も付与できるような、導電性の微粒子含有の分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)導電性金属酸化物粒子、分散剤及び有機溶剤を含み、前記分散剤は、酸価が40mgKOH/g以上である分散剤Aと、スチレン骨格を有する分散剤Bとを含有することを特徴とする導電性金属酸化物分散液。
(2)前記分散剤Bは、スチレン骨格を有する成分を構造中に10質量%以上含有することを特徴とする(1)に記載の導電性金属酸化物分散液。
(3)導電性金属酸化物粒子が、酸化錫系、酸化亜鉛系、酸化アンチモン系及び酸化インジウム系からなる群から選択される1種以上の粒子であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の導電性金属酸化物分散液。
(4)分散剤Bが、酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする(1)又は(2)に記載の導電性金属酸化物分散液。
(5)分散剤A及び分散剤Bの合計量が10質量%以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の導電性金属酸化物分散液。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る導電性金属酸化物分散液(以下、単に「本発明の分散液」と称する場合がある。)は、キャリアテープやカバーテープ等に用いられる特定の他の樹脂と混合させた場合においても沈降などが発生せず、分散安定性に優れる。また、本発明に係る分散液は、前記の用途などにおいて、導電性(帯電防止性)と透明性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの記載に限定されるものではなく、以下の例示以外についても、本発明の主旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0013】
[導電性金属酸化物粒子]
本発明で用いる導電性金属酸化物粒子は、制限されず、とくに透明導電膜に適用することができる公知の導電性金属酸化物の粒子から選択して用いることができる。その中でも、透明性の理由から、酸化錫系、酸化インジウム系、酸化アンチモン系、酸化亜鉛系が挙げられる。導電性金属酸化物粒子は1種だけの使用でもよく、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0014】
酸化錫としては、酸化錫(SnO)、ATO(アンチモンドープ酸化錫)、PTO(リンドープ酸化スズ)、フッ素ドープ酸化錫等が挙げられる。酸化インジウム系としては、酸化インジウム、ITO(インジウム錫酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)等が挙げられる。酸化亜鉛としては、酸化亜鉛、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、ガリウムドープ酸化亜鉛等が挙げられる。酸化アンチモン系としては、五酸化アンチモン等が挙げられる。
【0015】
本発明の分散液において、導電性金属酸化物粒子は10~50質量%で用いることが好ましい。より好ましくは15~35質量%であり、さらに好ましくは21~26質量%である。用途にもよるが、この範囲であれば、導電性(帯電防止性)を十分に発揮することができるとともに、分散安定性がよく、また、樹脂などと混合した際に透明性を損なうことが少ない。
【0016】
本発明で用いる導電性金属酸化物粒子の形状については特に限定されない。球状に限らず、楕円状、鱗片状、多角形状、破砕状など様々な形状であってもよい。
【0017】
また、導電性金属酸化物粒子の導電性としては、制限されないが、導電性(帯電防止性)の付与の観点から、体積抵抗率の上限として10Ω・cm以下であることが好ましい。
【0018】
また、導電性金属酸化物粒子の大きさについては、制限されないが、分散安定性や透明性等の観点から、一次粒子径で、通常1~500nmであるものを用いることが好ましく、より好ましくは1~100nmのものを使用することがよい。当該粒子径については、一般的にレーザー回折散乱法及び電子走査顕微鏡により測定することができる。
【0019】
[分散剤]
本発明の分散液は、酸価を有する分散剤Aと、スチレン骨格を有する分散剤Bとを含有する。
【0020】
(分散剤A)
本発明で使用される分散剤Aは、酸価が40mgKOH/g以上である。ここで、酸価は、遊離脂肪酸、脂肪酸の総量を示すものであり、JIS K 0070に規定の中和滴定法に準拠して測定される。また、当該酸価の値を有することについては、組成又は構造中に少なくとも酸性官能基を有することに由来するものと考えられる。
【0021】
詳細な機序は定かではないが、当該酸価の値を有する分散剤Aを用いることにより、酸性官能基が導電性金属酸化物粒子表面に吸着することで分散安定化するためであると推察される。好ましい酸価は80mgKOH/g以上である。酸価の上限値は制限されないが、200mgKOH/g以下であることが好ましい。
【0022】
本発明における分散剤Aは、前記酸価とともにアミン価を有するものであってもよい。
【0023】
本発明における分散剤Aは、当該酸価の値を有するものであれば、制限されない。公知のものを用いることができ、例えば、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、不飽和ポリカルボン酸ポリアミノアマイド、ポリアミノアマイドのポリカルボン酸塩、長鎖ポリアミノアマイドと酸ポリマーの塩などの塩基性基を有する高分子が挙げられる。また、アクリル系ポリマー、アクリル系共重合物、変性ポリエステル酸、ポリエーテルエステル酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸などの高分子酸や、それらのアルキルアンモニウム塩、アミン塩、アミドアミン塩のいずれか又は前記の高分子酸とアミンの混合物などが挙げられる。また、従来から使用されるリン酸エステル系分散剤を用いてもよい。
【0024】
酸価が40mgKOH/g以上である分散剤Aの市販品としては、特に限定されないが、例えば、DISPERBYK(登録商標)-102(酸価101)、同-106(酸価132)、同-110(酸価53)、同-111(酸価129)、同-118(酸価36)、同-140(酸価73)、同-142(酸価46)、同-145(酸価76)、同-180(酸価94)、同-2096(酸価40)、同-P104(酸価180)、同-P104S(酸価150)、同-P105(酸価365)、同-220S(酸価100)や、ANTI-TERRA(登録商標)-204(酸価41)、ANTI-TERRA-250(酸価46)(以上、ビックケミー・ジャパン社製)などを挙げることができる。酸価の単位はmgKOH/gである(以下においても同様)。
【0025】
また、分散剤Aの市販品として、Solsperse(登録商標)21000(酸価73)、同26000(酸価50)、同36000(酸価45)、同41000(酸価50)、同41090(酸価45)(以上、ルーブリゾール社製)などを挙げることができる。
【0026】
また、分散剤Aの市販品として、フローレンAF-1000(酸価130)、同AF-1005(酸価110)、同G-700(酸価60)、同GW-1500(酸価55)、(以上、共栄社化学社製)などを挙げることができる。
【0027】
さらに、分散剤Aの市販品として、HIPLAAD(登録商標)ED116(酸価53)、同ED120(酸価60)、同ED153(酸価55)、同ED350(酸価125)、同ED360(酸価53)、同ED400(酸価86)、同ED403(酸価58)、同ED420(酸価98)(以上、楠本化成社製)などを挙げることができる。
【0028】
分散剤Aの含有量については、制限されないが、導電性金属酸化物粒子100質量部に対して1~20質量部であることが好ましい。より好ましくは、5~15質量部である。また、分散剤Aは、本発明の分散液中に0.5~9.5質量%で含有されることが好ましく、より好ましくは1.5~8.5質量%、より好ましくは2.0~6.0質量%であることがよい。この含有量の範囲であれば、本発明の分散液における分散安定性を保持することができる。また、後述の分散剤Bとの調整も行いやすい。
【0029】
(分散剤B)
本発明で使用される分散剤Bは、構造中にスチレン骨格を有するものである。ここで、スチレン骨格を有することについては、制限されるものでは無いが、分散剤Bそのものがスチレンを主骨格としたスチレン誘導体であってもよいが、本発明における好ましい使用態様としては、スチレンを他の共重合成分とともに重合させて得られるブロック共重合体として使用されることが好ましい。すなわち、分散剤Bは、共重合成分として用いた共重合体として、前記スチレン骨格を有するものであることがより好ましい。以下、これらの点を包含して、単に「スチレン骨格を有する」と称する。
【0030】
また、スチレン骨格を有することについては、スチレンそのものとして又は共重合成分として用いてもよいが、スチレン系であればよい。例えば、置換基を有したスチレンを用いてもよく、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジメチルスチレン、t-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなども使用することができる。
【0031】
詳細な機序は定かではないが、スチレン骨格を有することにより、前記分散剤Aの効果とも相まって、とくに、本発明の分散液が使用される用途(例えば、キャリアテープやカバーテープなど)において、他のスチレン由来の構造単位を有する樹脂や共重合体とともに使用された際に、相溶性が良く凝集が抑制されることで分散安定性を保持できると推察される。
【0032】
本発明の分散液を前記用途(例えば、キャリアテープやカバーテープなど)においてスチレン由来の構造単位を有する樹脂や共重合体とともに使用された際においては、後述の実施例でも確認されているが、前記した分散剤Aだけの使用では分散安定性が十分でなく、また、分散剤Bだけの使用でも分散安定性が十分ではない。本発明においては、これらの分散剤A及び分散剤Bを併用した場合に、とくに前記のような用途で使用される際においても分散安定性を発揮する点は、本発明の着目されるべきところである。つまり、当該用途において使用された場合であっても、分散安定性が損なわれることがないため、導電性金属酸化物粒子に由来する導電性(帯電防止性)や透明性も十分に発揮される点についても、本発明の着目されるべきところである。
【0033】
ここで、分散剤Bの前記スチレン骨格については、いずれの態様であっても、分散剤Bの構造中に10質量%以上で含有されることが好ましい。より好ましくは20質量%以上である。この範囲でスチレンに由来する骨格を含有することにより、前記の作用効果を十分に発揮することができる。スチレン骨格の含有量の上限は制限されない。分散安定性と透明性のために、好ましくは50質量%以下であることが好ましい。
【0034】
分散剤Bのより具体的な構成としては、前記スチレン骨格を含有するスチレン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン又はその誘導体と共役ジエン化合物との共重合体である。さらには、当該共重合体に水素添加された水添スチレン系熱可塑性エラストマーであってもよい。ここで、スチレンの誘導体としては前記のとおり置換基を有したスチレンであってよい。また、共役ジエン化合物としては、限定されないが、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0035】
スチレン系熱可塑性エラストマーの共重合構造は、ブロック構造でもランダム構造でもよい。好ましい具体例として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0036】
この中でも、水添スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。水素添加されていることによって、熱安定性がより向上し、分解や重合などの変質が起こり難くなるとともに、脂肪族的な性質が高くなり、他の成分などとの相溶性が高まると推察される。
【0037】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、市販品から適宜選定して用いることができる。例えば、KRATON社製の「KRATON(登録商標)-G」、クラレ社製の「セプトン(登録商標)」、旭化成社製の「タフテック(登録商標)」などを好ましく挙げることができる。
【0038】
これらの水添スチレン系熱可塑性エラストマーの中でも、とくに、不飽和カルボン酸又はその誘導体により変性された酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。酸変性されることにより、未変性であるか又は他の変性剤で変性された水添スチレン系熱可塑性エラストマーと比べて、分散剤Aが酸価を有する為、相溶性が良く凝集が抑制されると考えられるため、好ましい。
【0039】
このような変性剤としての不飽和カルボン酸又はその誘導体は、限定されない。例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸エステル、マレイン酸アミド、マレイン酸イミド、フマル酸、フマル酸エステル、フマル酸アミド、フマル酸イミド、イタコン酸、無水イタコン酸、イタコン酸エステル、イタコン酸アミド、イタコン酸イミド、ハロゲン化マレイン酸、無水ハロゲン化マレイン酸、ハロゲン化マレイン酸エステル、ハロゲン化マレイン酸アミド、ハロゲン化マレイン酸イミド、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸エステル、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸アミド、シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸イミド、エンド-シス-ビシクロ(2,2,1)-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸、無水エンド-シス-ビシクロ(2,2,1)-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸、エンド-シス-ビシクロ(2,2,1)-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸エステル、エンド-シス-ビシクロ(2,2,1)-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸アミド、エンド-シス-ビシクロ(2,2,1)-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸イミド、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル及びメタクリル酸アミド等が挙げられる。これらは1種のみならず2種以上混合しても使用できる。
これらの中では不飽和ジカルボン酸またはその誘導体が好ましく、とりわけ無水マレイン酸が好ましい。
【0040】
酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマーに含まれるカルボン酸基またはその誘導体基を含有する分子単位の量、即ち変性剤の付加量は、基体となる水添スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部あたり、0.05~10質量部であることが好ましい。酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマー中の変性剤に由来する成分の存在やその含有量については、赤外分光光度計や滴定等による方法により容易に把握することができる。
【0041】
酸変性水添スチレン系熱可塑性エラストマーについても市販品から適宜選定して用いることができる。例えば、旭化成社製のタフテック(登録商標)M1943、同1913、同1911などを好ましく挙げることができる。
【0042】
水添スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、例えば、50,000~300,000の範囲内であることが好ましく、80,000~270,000の範囲内がより好ましい。
【0043】
分散剤Bの含有量については、制限されないが、導電性金属酸化物粒子100質量部に対して1~20質量部であることが好ましい。より好ましくは、5~15質量部である。また、分散剤Bは、本発明の分散液中に0.5~9.5質量%で含有されることが好ましく、より好ましくは1.5~8.5質量%、より好ましくは2.0~6.0質量%であることがよい。この含有量の範囲であれば、本発明の分散液を使用した際において、とくに前記用途(例えば、キャリアテープやカバーテープなど)においてスチレン由来の構造単位を有する樹脂や共重合体とともに使用された際において、十分な分散安定性を発現することができる。また、前述の分散剤Aとの調整も行いやすい。
【0044】
[有機溶剤]
本発明の分散液は、有機溶剤を含有する。
有機溶剤としては、制限されず、公知の有機溶剤を使用することができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、2-ブタノール、オクタノール等のアルコール類; アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類; 酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ -ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類; ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類; ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類等を挙げることができる。それらの中でも、エタノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、2-ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが好ましく、メチルエチルケトン、ブタノール、キシレン、エチルベンゼン、トルエンがより好ましい。本発明においては、分散媒として1種単独で用いることも2種以上を併用することもできる。
【0045】
有機溶剤の含有量は、制限されないが、導電性金属酸化物粒子100質量部に対して100~2000質量部であることが好ましい。より好ましくは、100~600質量部である。
【0046】
[導電性金属酸化物分散液]
本発明の分散液は、前記した導電性金属酸化物粒子、分散剤(分散剤A、分散剤B)及び有機溶剤以外の他の成分を含んでもよい。他の成分は、例えば透明導電膜を形成するための導電性金属酸化物の粒子を含む分散液に通常用いられる公知の成分を制限なく用いることができる。例えば、分散液の保存安定性をより向上させる目的で、前記分散剤A及び分散剤B以外の他の公知の分散剤を用いることができる。このような他の分散剤としては、ポリオキシエチレンアルキル構造を有する分散剤などを挙げることができる。また、それ以外の他の成分としても、本発明の目的を害しない範囲で含有することができ、例えば、導電性金属酸化物粒子以外の粒子(公知の非導電性の粒子、無機物粒子、有機物粒子など)や、酸化防止剤、レベリング剤、カップリング剤等を挙げることができる。
【0047】
本発明の分散液は、前記した導電性金属酸化物粒子、分散剤(分散剤A、分散剤B)及び有機溶剤を含む成分を、分散操作により分散させることで得ることができる。分散操作において、各成分を任意の順序で添加し、充分に混合する。通常、分散剤と有機溶剤とを予め混合した分散媒中に、導電性金属酸化物粒子を分散させて分散液とする。分散操作を行う前にはプレ分散操作を行ってもよい。プレ分散操作は、前記分散媒中に、ディスパー等で撹拌しながら、導電性金属酸化物粒子を徐々に加えていき、これら粒子の塊が目視で確認されなくなるまでよく撹拌すればよい。
【0048】
分散操作は、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル等を用いて行うことができる。分散操作の際に、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ等の分散ビーズを用いることが好ましい。ビーズ径は、特に限定されないが、通常0.05~1mm程度であることが好ましい。
【0049】
本発明の分散液において、導電性金属酸化物粒子の粒子径は、メジアン径(D50)で好ましくは100~350nm、より好ましくは150~300nmであることがよい。100nm以下では導電性が発現しにくい一方で、350nm超過では透明性が低くなりやすい。
【0050】
本発明の分散液は、従来からの用途である保護膜形成用組成物や、反射防止膜形成用組成物、接着剤、シーリング材、バインダー材等に含ませて用いることができ、帯電防止用途や反射防止用途の透明導電膜を形成する組成物に好適に用いることができるが、これらに制限されない。前述のとおり、とくに分散剤として前記特定の分散剤A及び分散剤Bを含有することにより、キャリアテープやカバーテープなどに用いられる特定の他の樹脂(例えば、スチレン系の構造単位を有する樹脂や共重合体)と混合させた場合においても沈降などが発生せず、分散安定性に優れる。また、本発明に係る分散液は、これらの用途などにおいても、導電性(帯電防止性)と透明性を付与することができるため好ましい。
【実施例0051】
以下に、本発明について、実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例における「部」、「%」はとくに断らない限り質量を基準とする。
【0052】
使用した導電性金属酸化物粒子、分散剤、有機溶剤については以下のとおりである。
【0053】
[導電性金属酸化物粒子]
・ATO SN―100P 石原産業(株)製(体積抵抗率1~5Ω・cm、一次粒子径0.01~0.03μm)
・酸化亜鉛 6010 三井金属鉱業(株)製(体積抵抗率10Ω・cm、一次粒子径0.01~0.02μm)
・ITO E-ITO 三菱マテリアル電子化成(株)製(体積抵抗率0.06Ω・cm、一次粒子径0.02μm)
・PTO 三井金属鉱業(株)製(体積抵抗率5Ω・cm、一次粒子径0.01~0.02μm)
【0054】
[分散剤A]
・楠本化成社製、HIPLAAD(登録商標)ED350、酸価:125mgKOH/g、アミン価:0mgKOH/g
・共栄社化学社製、フローレンAF-1000、酸価:130mgKOH/g、アミン価:0mgKOH/g
・ビックケミージャパン社製、DISPERBYK(登録商標)-106、酸価:132mgKOH/g、アミン価:74mgKOH/g
[分散剤A以外の分散剤]
・ルーブリゾール社製、Solsperse(登録商標)9000、酸価:20.3mgKOH/g、アミン価:17mgKOH/g
・ビックケミージャパン社製、DISPERBYK(登録商標)-2013、酸価:8mgKOH/g、アミン価:18mgKOH/g
・ビックケミージャパン社製、DISPERBYK(登録商標)-2055、酸価:0mgKOH/g、アミン価:40mgKOH/g
【0055】
[分散剤B]
・旭化成社製、タフテック(登録商標)M1911、スチレン骨格:31質量%、無水マレイン酸変性
・旭化成社製、タフテック(登録商標)M1913、スチレン骨格:29質量%、無水マレイン酸変性
・旭化成社製、タフテック(登録商標)M1943、スチレン骨格:20質量%、無水マレイン酸変性
・旭化成社製、タフテック(登録商標)MP10、スチレン骨格:32質量%、アミン変性
[分散剤B以外の分散剤]
・ビックケミージャパン社製、DISPERBYK(登録商標)-111、スチレン骨格:0質量%
【0056】
[有機溶剤]
・トルエン
・ヘキサン
・シクロヘキサン
・石油エーテル
【0057】
[実施例1]
ATO25.00質量部、分散剤AとしてのED350を3.00質量部、分散剤BとしてのM1911を3.00質量部、69.00質量部のトルエンを容器に入れて混合した後に、これにφ0.65mmのジルコニアビーズを投入し、ペイントシェーカーで4時間分散させた。分散後、ジルコニアビーズを取り除いて分散液1を得た。組成と評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例2~15、比較例1~6]
表1~3に記載の組成に変更した以外は、実施例1と同様に各分散液を調製した。同様の評価を行っている。組成と評価結果を表1~3のそれぞれに示す。
【0059】
<評価方法>
(1)分散状態
調製後の各分散液へトルエン中にSEBS(前記M1943)を30質量部溶解した溶解液を混合し、24時間後の分散状態を、以下の基準で判定した。
〇:目視にて分離や沈降なし。
×:目視にて分離や沈降が発生して、分散不可。
【0060】
(2)粒子径
調製した各分散液を、使用した有機溶剤で固形分が2質量%になるように希釈し、マイクロトラック・ベル社製粒度分布測定装置ナノトラックWave-EX150にて、平均粒子径(D50)を測定した。平均粒子径によって、凝集の度合いを判定した。判定が○及び△について、平均粒子径の数値を示した。
〇:平均粒子径が100~350nm。
△:平均粒子径が60nm以上100nm未満であるか、350nmより大きく450nm以下。
×:平均粒子径が60nm未満であるか、または450nmより大きいため、測定不可。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】