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  • 特開-液晶ポリエステル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141355
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/60 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20241003BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08G63/60
C08L67/00
B32B15/08 J
B32B27/36
H05K1/03 610M
H05K1/03 630H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052952
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】津田 康介
(72)【発明者】
【氏名】酒井 優希
(72)【発明者】
【氏名】菊澤 明
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4F100AB01
4F100AB01B
4F100AB33
4F100AB33B
4F100AK41
4F100AK41A
4F100AS00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA23
4F100CA23A
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100EJ86A
4F100GB43
4F100JA02
4F100JA02A
4F100JG05
4J002CF181
4J002DA016
4J002DE136
4J002DE146
4J002DE186
4J002DE236
4J002DG046
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002DK006
4J002DL006
4J002FA016
4J002FA046
4J002FD016
4J002GF00
4J002GQ00
4J002GQ01
4J029AA05
4J029AB00
4J029AC02
4J029AD09
4J029AD10
4J029AE03
4J029BB04A
4J029BB05A
4J029BB08A
4J029BB09A
4J029BB10A
4J029BC05A
4J029BC06A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029EB04A
4J029EB05A
4J029EB08
4J029EC05A
4J029EC06A
4J029FC02
4J029FC03
4J029FC08
4J029HA01
4J029HA02
4J029HB01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】誘電特性、線膨張係数、熱膨張係数差に優れた液晶ポリエステルを提供する。
【解決手段】芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボキシ単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位(A)と、特定量の3官能以上の有機残基(B)とを含む分岐型液晶ポリエステル。(W~Zはエステル基、a~dは1~10の整数)

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、および、芳香族ジカルボキシ単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位(A)と、芳香環を含まない3官能以上の有機残基(B)とを含み、有機残基(B)の含有量が液晶ポリエステルを構成する全単量体に対して7.0モル%以下の範囲にある分岐型液晶ポリエステル。(Rは芳香族ユニット、W、X、Y、Zは、エステル基、a、b、c、dは1~10の整数である。)

【化1】
【化2】
【請求項2】
誘電正接の値が28GHzで0.00300以下である請求項1に記載の液晶ポリエステル。
【請求項3】
構造単位(A)のRとしては、ベンゼン骨格を20~80モル%、ナフタレン骨格を20~80モル%の範囲で含むものである、請求項1に記載の液晶ポリエステル。
【請求項4】
構造単位(A)の芳香族オキシカルボニル単位を構成するモノマーとしては、4-ヒドロキシ安息香酸および/または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸である、請求項1に記載の液晶ポリエステル。
【請求項5】
構造単位(A)の芳香族ジカルボキシ単位を構成するモノマーとしては、テレフタル酸および/または2,6―ナフタレンジカルボン酸である、請求項1に記載の液晶ポリエステル。
【請求項6】
構造単位(A)の芳香族ジオキシ単位を構成するモノマーとしては、ヒドロキノンおよび/または2,6-ジヒドロキシナフタレンである、請求項1に記載の液晶ポリエステル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の液晶ポリエステルと無機または有機充填剤とを含む液晶ポリエステル組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の液晶ポリエステルを溶融成形して得られるフィルム。
【請求項9】
請求項7に記載の液晶ポリエステル組成物を溶融成形して得られるフィルム。
【請求項10】
金属箔と、金属箔上に積層された請求項8に記載の液晶ポリエステルフィルム層により構成される、金属張積層板。
【請求項11】
金属箔と、金属箔上に積層された請求項9に記載の液晶ポリエステルフィルム層により構成される、プリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル、液晶ポリエステル組成物と前述の液晶ポリエステルからなる成形品およびフィルムと、当該フィルムを備える金属張積層板、及びプリント基板とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子機器は、大容量のデータを高速に送受信することが要求されている。これに伴い、電気信号の高周波化が進んでいる。しかしながら、使用される電気信号の高周波化に伴い、情報の誤認識を招く出力信号の低下、すなわち伝送損失が大きくなる。各種電子機器のおいて用いられる配線板の基材を構成する基板材料には、この伝送損失を低減させるために、誘電率および誘電正接が低いことが求められている。
液晶ポリエステルは、高耐熱性や高絶縁、低吸水率等の優れた性質を有しているため、電子部品用の材料として急速にその実用化が進められている。液晶ポリエステルは、他の熱可塑性樹脂と比較して分子構造が剛直で、電場を加えても運動しにくいことから、高周波での誘電正接に優れている。また、液晶ポリエステルは低吸水性であるため、誘電率および誘電正接の吸水による変化が低い。
液晶ポリエステルを用いた回路基板材料は、高周波特性や低誘電性、低吸水性に優れることから、第5世代移動通信システム(5G)用のスマートフォンのアンテナモジュールや無線通信基地局、車載ミリ波レーダーなど、高周波数帯を利用する電子機器に備えられるフレキシブルプリント配線板(FPC)やリジッド配線板向けの材料として、近年脚光を浴びている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の芳香族液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルと熱可塑性樹脂のブレンド体を2軸延伸処理することで、フィルムの面内方向の線膨張係数を5~25ppm/Kに抑えることに成功しているものの、厚み方向の線膨張係数は270ppm/K以下となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-175995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、多層積層が要求されるリジッド基板用途においては、材料の厚み方向の線膨張係数の低減が強く要求される。特許文献1の技術では、面内方向と厚み方向の熱膨張係数の差が大きい、すなわち材料の異方性が大きいために、例えば、回路基板の加工時に寸法精度が著しく低下することが懸念される。また、ポリアリレート等の熱可塑性樹脂を多量に配合しているために、耐熱性や誘電特性の悪化が懸念される。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものである。本発明の目的は、高周波域での優れた低誘電特性を損なうことなく、厚み方向の線膨張係数が小さく、かつ、面内方向と厚み方向の熱膨張係数差の小さいような液晶ポリエステルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の(1)~(11)を提供する。
【0008】
(1).芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、および、芳香族ジカルボキシ単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位(A)と、芳香環を含まない3官能以上の有機残基(B)とを含み、有機残基(B)の含有量が液晶ポリエステルを構成する全単量体に対して7.0モル%以下の範囲にある分岐型液晶ポリエステル。(Rは芳香族ユニット、W、X、Y、Zは、エステル基、a、b、c、dは1~10の整数である。)
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】

(2).誘電正接の値が28GHzで0.0030以下である(1)に記載の液晶ポリエステル。
【0011】
(3).構造単位(A)のRとしては、ベンゼン骨格を20~80モル%、ナフタレン骨格を20~80モル%の範囲で含むものである、(1)または(2)に記載の液晶ポリエステル。
【0012】
(4).構造単位(A)の芳香族オキシカルボニル単位を構成するモノマーとしては、4-ヒドロキシ安息香酸および/または6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸である、(1)~(3)のいずれかに記載の液晶ポリエステル。
【0013】
(5).構造単位(A)の芳香族ジカルボキシ単位を構成するモノマーとしては、テレフタル酸および/または2,6―ナフタレンジカルボン酸である、(1)~(4)のいずれかに記載の液晶ポリエステル。
【0014】
(6).構造単位(A)の芳香族ジオキシ単位を構成するモノマーとしては、ヒドロキノンおよび/または2,6-ジヒドロキシナフタレンである、(1)~(5)のいずれかに記載の液晶ポリエステル。
【0015】
(7).(1)~(6)のいずれかに記載の液晶ポリエステルと無機または有機充填剤とを含む液晶ポリエステル組成物。
【0016】
(8).(1)~(6)のいずれかに記載の液晶ポリエステルを溶融成形して得られるフィルム。
【0017】
(9).(7)に記載の液晶ポリエステル組成物を溶融成形して得られるフィルム。
【0018】
(10).金属箔と、金属箔上に積層された(8)に記載のフィルムにより構成される、金属張積層板。
【0019】
(11).金属箔と、金属箔上に積層された(9)に記載のフィルムにより構成される、プリント配線板。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高周波域での誘電特性に優れ、厚み方向の熱膨張係数が小さく、面内方向と厚み方向の線膨張係数差が小さく制御された液晶ポリエステルを提供することができる。また、本発明によれば、前記液晶ポリエステルを含有する液晶ポリエステル樹脂組成物、前記液晶ポリエステルを含むフィルム、および前記フィルムを含む金属張積層板、及びプリント配線板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る流出開始温度の算出に用いられるフローカーブの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[液晶ポリエステル]
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、構造単位(A)、有機残基(B)から構成され、液晶性、すなわち加熱時に異方性溶融相を示すポリエステルである。通常、当該技術分野においてサーモトロピック液晶ポリエステルと呼ばれるものであるが、特に限定されない。(Rは芳香族ユニット、W、X、Y、Zは、エステル基、a、b、c、dは1~10の整数である。)
【0023】
【化3】
【0024】
【化4】

構造単位(A)中のRは芳香族ユニットであるのが望ましく、ベンゼン、ナフタレンであるのがより好ましい。
【0025】
構造単位(A)を構成する芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、および、芳香族ジカルボキシ単位は複数の種類を併用しても問題ないが、少なくとも芳香族オキシカルボニル単位が含まれている組成が好ましい。
【0026】
構造単位(A)の芳香族オキシカルボニル単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から構成される。芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、6-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、7-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、7-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、4'-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3'-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4'-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体が挙げられる。これらの中でも、4-ヒドロキシ安息香酸もしくは6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸またはその組み合わせが、得られる液晶ポリエステルの耐熱性および誘電特性ならびに融点を調節し易いという点でより好ましく用い得る。芳香族ヒドロキシカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ヒドロキシカルボン酸と同様に好適に使用できる。
【0027】
構造単位(A)の芳香族ジカルボキシ単位は、芳香族ジカルボン酸から構成される。芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4'-ジカルボキシビフェニル、3,4'-ジカルボキシビフェニル、4,4'-ジカルボキシジフェニルエーテルおよび4,4'-ジカルボキシターフェニル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体が挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸もしくは2,6-ナフタレンジカルボン酸またはその組み合わせが好ましく用い得る。
【0028】
芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ジカルボン酸と同様に好適に使用できる。
【0029】
構造単位(A)の芳香族ジオキシ単位は、芳香族ジオールから構成される。芳香族ジオールの具体例としては、ヒドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,6 -ジヒドロキシナフタレン、3,3'-ジヒドロキシビフェニル、3,4'-ジヒドロキシビフェニル、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、4,4'-ジヒドロキシジフェニルエーテル、および2,2'-ジヒドロキシビナフチル、これらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体ならびにそれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキノンもしくは2,6-ジヒドロキシナフタレンまたはその組み合わせが好ましく用い得る。
【0030】
前記構造単位(A)中の芳香族ユニット(骨格)であるRが、ベンゼン骨格を20~80モル%、ナフタレン骨格を20~80モル%の範囲で含むものであることが、溶融加工性の点において好ましく、ベンゼン骨格を25~50モル%、ナフタレン骨格を50~75モル%の範囲で含むものであることがより好ましい。
【0031】
また、有機残基(B)のW、X、Y、Zは、エステル基であり、a、b、c、dは1~10の整数であり、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~2である。
【0032】
【化5】

有機残基(B)の含有量は液晶ポリエステルを構成する全構造単位に対して7モル%の範囲が好ましい。7モル%より過剰に添加すると誘電正接が悪化する傾向にあり好ましくない。有機残基(B)の含有量の下限は、特に限定されないが、2モル%以上であることが好ましく、4モル%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
有機残基(B)を形成するモノマーの具体例としては、3酢酸グリセロール、4酢酸ペンタエリトリトール、または、1,2,4-ブタントリオール、1,3,5-ペンタントリオール、1、3、6-ヘキサントリオール、1、4、7-ヘプタントリオールのアシル化物が挙げられる。これらの中でも、3酢酸グリセロールもしくは4酢酸ペンタエリトリトールまたはその組み合わせが好ましく用い得る。
【0034】
[液晶ポリエステルの製造方法]
本発明の液晶ポリエステル樹脂は、典型的にはフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を重縮合することにより製造される。重縮合の方法に特に制限はなく、たとえば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などにより、本発明の液晶ポリエステルを得ることができる。
【0035】
フェノール性水酸基のアシル化したアシル基とカルボキシル基の縮合反応により、エステル基を生成することにより、液晶ポリエステルとすることが好ましい。この際のアシル基/カルボキシル基のモル比率は、1.08~1.28であることが好ましく、1.16~1.28であるこことがより好ましい。
【0036】
溶融アシドリシス法は、コストや製造時間の点から、本発明の液晶ポリマーを製造するのに好ましい方法である。この方法は、最初にモノマーを加熱して溶融させ、次いで重縮合反応を続けて溶融ポリマーを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0037】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下でモノマーを反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0038】
フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物は、液晶ポリエステルの合成時に無水酢酸や酢酸といったアシル化剤を加えて反応系内で合成して使用してもよいし、別途アシル化して合成したものを用いてもよい。
【0039】
反応系内でフェノール性水酸基を有するモノマーをアシル化する場合、アシル化剤はモノマーの全フェノール性水酸基量に対して1.1倍以上使用されるのが好ましい。
【0040】
重合反応の温度は200~400℃で、好ましくは250~320℃であり、常圧および/または減圧下で行うのがよい。
【0041】
重縮合は、触媒の存在下に行われるのが好ましい。触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。
【0042】
触媒の使用量は、例えば、モノマー混合物の量100質量部に対し、0.1質量部以下が好ましい。
【0043】
[その他添加材]
液晶ポリエステル組成物には、必要に応じて、無機充填剤を配合できる。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、及びチタン酸カリウム繊維等が挙げられる。無機充填剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0044】
これらの無機充填剤の使用量は、液晶ポリエステル組成物の低誘電特性を損なわない範囲で、液晶ポリエステル組成物の用途に応じて適宜決定される。例えば、液晶ポリエステル組成物を用いてフィルムを形成する場合には、フィルムの機械強度を著しく損なわない範囲で、無機充填剤の使用量の上限が定められる。
【0045】
液晶ポリエステル組成物には、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、及び離型改良剤等の各種の添加剤を配合できる。
これらの添加剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0046】
液晶ポリエステル組成物は、無機または有機充填材、他の添加剤および他の樹脂成分等を液晶ポリエステル中に添加し、これをバンバリーミキサー、ニーダー、一軸または二軸押出機などを用いて溶融混錬して得ることができる。
【0047】
[フィルムの製造方法]
本発明の液晶ポリエステル樹脂または液晶ポリエステル組成物は、射出成形、圧縮成形、押出成形、ブロー成形など公知の加工方法によって成形品、フィルムまたは繊維などの物品に加工される。
【0048】
本発明の液晶ポリエステル樹脂を成形して得られたフィルムの周波数28GHzにおける誘電正接は、0.00300以下が好ましい。樹脂フィルムの誘電正接は実施例において後述する方法により測定できる。
【0049】
本発明の液晶ポリエステル樹脂を成形して得られたフィルムの熱膨張係数の異方性の指標は、3.0以下が好ましく、1に近いほどより好ましい。熱膨張係数の異方性の指標は、厚み方向の熱膨張係数(以下、Z-CTEともいう)の値を平面方向の熱膨張係数(以下、XY-CTEともいう)の値で割った値である。XY-CTE、Z-CTE、ならびに熱膨張の異方性は、実施例において後述する方法により評価できる。
以上より、本発明の液晶ポリエステル樹脂フィルムは、低い誘電正接と熱膨張の異方性が小さいため、FPC基板加工時に寸法精度が大きく向上する。このため、かかるフィルムは、金属張積層板やプリント基板を構成するフィルムとして好適に使用される。
【実施例0050】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[液晶ポリエステルの合成]
実施例において、下記の略号は以下の化合物を表す。
PHB:4-ヒドロキシー安息香酸
HNA:6-ヒドロキシー2-ナフトエ酸
TPA:テレフタル酸
HQ:ヒドロキノン
【0052】
[実施例1]
トルクメーター付き撹拌装置、留出管および還流冷却器を備えた反応容器に、下記に記載の化合物を仕込み、さらに仕込んだ全化合物のヒドロキシ基量(モル)に対して1.1倍モルの無水酢酸と、触媒量の1-メチルイミダゾールを加え、次の条件で脱酢酸重合を行った。
POB:20.6g(46.9モル%)
HNA:28.1g(46.9モル%)
3酢酸グリセロール:4.4g(6.2モル%)
反応容器内を窒素ガスで十分に置換し、撹拌しながら145℃に加熱し、同温度にて30分間保持した。その後、速やかに185℃まで昇温し、同温度にて30分間保持した。その後、副生する酢酸を留去しながら260℃まで20分かけて昇温し、2時間30分間保持した。その後10分かけて反応容器内を7.5tоrrまで減圧した後1時間保持した。その後真空度を保った状態で速やかに265℃まで昇温し、30分間保持した。その後、真空度を保った状態で速やかに270℃まで昇温し、トルクが所定の値を示した時点で反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形物は室温まで放冷させた後、粉砕機で粉砕後、メタノールで洗浄し乾燥させた。その後、窒素ガス雰囲気下300℃で2時間保持し、固相で重合反応を進めた後、得られた固体を粉砕機で再度粉砕することで液晶ポリエステルの粉末を得た。
【0053】
[実施例2~5、比較例1~6]
重合性単量体を表1に示す割合(モル%)となるように用いたこと以外は、実施例1と同様にして、液晶ポリエステル粉末を得た。
【0054】
[流出開始温度の測定]
各実施例、および比較例で得られた液晶ポリエステル粉末について、以下の方法に従って流出開始温度を測定した。測定した流出開始温度を表2、表3に示す。流出開始温度は、島津製作所製の高化式フローテスターCFT500Dを用いて測定した。液晶ポリエステル粉末2gを充填し、5.0℃/minの昇温速度で加熱された樹脂を、荷重10MPaのもと、ダイ口径1.0mm、ダイ長さ10mmから樹脂を押出した。フローカーブは図1に示されるデータになり、樹脂押出ピストンが降下し始める温度を流出開始温度(Tfb)として算出した。
【0055】
[樹脂フィルムの作製]
液晶ポリエステル樹脂フィルムは卓上ミニプレス機(東洋精機製作所製MP-2F)を用いて作成した。厚さ0.31mmの真鍮製スペーサーに樹脂粉末を入れ、2枚のステンレスプレートに挟み、圧力3MPaで3分間加熱プレスすることでフィルム成形を行った。作製したフィルムの厚みをマイクロメーターで測定した。作製したフィルムの外観について、気泡の有無を目視で確認した。
各実施例、および比較例で得たフィルムの誘電正接は以下に記載の方法で測定した。測定値を表2、表3に示す。
【0056】
<誘電正接測定方法>
誘電正接は、ネットワークアナライザー(KEYSIGHT社製N5222B)とスプリットシリンダー共振器(EM labs社製CR-728)とを用いて測定した。フィルムから、3.5cm×5.0cmのサイズの試料を切り出し、23℃/50%R.H.環境下で24時間調湿後に誘電正接の測定を行った。測定は28GHzで行った。
各実施例、および比較例で得たフィルムの平面方向の線膨張係数は以下に記載の方法で測定した。測定値を表2、表3に示す。
【0057】
<平面方向の線膨張係数>
平面方向の熱膨張係数は熱機械分析装置(NESZSCH社製TMA4000SA)を用いて引張荷重法にて測定した。フィルムから5mm×10mmのサイズの試料を切り出し、窒素ガス気流下、昇温速度10℃/分で150℃まで昇温した後、降温速度20℃/分で30℃まで降温し、さらに10℃/分で昇温する際に得られるチャートのうち、50℃(T)におけるサンプル長をL、150℃(T)におけるサンプル長をL、基準長さをLとしたときに、式(1)で表される値αを平面方向の線膨張係数とする。
【数1】
【0058】

各実施例、および比較例で得たフィルムの平面方向の線膨張係数は以下に記載の方法で測定した。測定値を表2、表3に示す。
【0059】
<厚み方向の線膨張係数>
厚み方向の熱膨張係数は熱機械分析装置(株式会社リガク製TMA8310)を用いて圧縮荷重法にて測定した。5mm×5mmで厚さ1mmの試料を切り出し、窒素ガス気流下、昇温速度10℃/分で150℃まで昇温した後、降温速度8℃/分で25℃まで降温し、さらに10℃/分で昇温する際に得られるチャートのうち、50℃(T)におけるサンプル長をL、150℃(T)におけるサンプル長をL、基準長さをLとしたときに、式(2)で表される値αを厚み方向の線膨張係数とする。
【数2】
【0060】

[熱膨張の異方性]
熱膨張の異方性は、各サンプルの平面方向、厚み方向の熱膨張係数の値(αXY、α)を使用し、αをαXYで割った値で表した。この値が1に近いほど熱膨張の異方性が小さいと言える。
【0061】
[液晶性の確認方法]
偏光顕微鏡(オリンパス社製BX-51-33P-OC)を用いて、液晶性の確認を行った。得られた液晶性オリゴマーのサンプルを2枚のスライドガラスで挟み、顕微鏡の加熱ステージ上にてサンプルを溶融させて、溶融時における光学異方性の有無を確認した。対物レンズを10倍、又は50倍に設定して観察を行った。溶融時に光学異方性を示すサンプルについて、液晶性を示すと判断した。
【0062】
実施例1~5より、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、および、芳香族ジカルボキシ単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位(A)と、芳香環を含まない3官能以上の有機残基(B)とを含み、有機残基(B)の含有量が液晶ポリエステルを構成する全単量体に対して7.0モル%以下の範囲にある分岐型液晶ポリエステルは、高周波帯域において低誘電性に優れ、面内方向と厚み方向の熱膨張係数差の小さいことが分かる。
【0063】
他方、比較例1~3および比較例5の液晶ポリエステルは、面内方向と厚み方向の熱膨張係数差を小さく制御することができなかった。比較例4の液晶ポリエステルは成型後の厚みが厚く、フィルムに気泡が多数見られ、誘電正接を測定することができなかった。比較例5より、有機残基(B)の割合が大きくなると、誘電正接が著しく悪化した。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
図1