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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141360
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B62D25/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052961
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】伏木田 潔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久泰
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一成
(72)【発明者】
【氏名】二戸 史
(72)【発明者】
【氏名】山下 英一
(72)【発明者】
【氏名】城 広成
(72)【発明者】
【氏名】松井 瑛
(72)【発明者】
【氏名】橋本 宏明
(72)【発明者】
【氏名】寺口 智文
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BB04
3D203BB35
3D203BB38
3D203BB54
3D203DA12
3D203DA13
3D203DA16
(57)【要約】
【課題】車両前突の際に、ステアリングがステアリングメンバ周りを上方に向けて回転することを抑制する。
【解決手段】車両前部構造は、ステアリングコラム20と、ステアリングメンバ10と、マスターバック30と、マスターバック30を支持する支持部材40と、ステアリングメンバ10と、支持部材40のうちステアリングメンバ10と車両前後方向に対向するように配置された対向壁部43と、の間に配置され、対向壁部43のステアリングメンバ10への接近移動を規制するスペーサ50と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングコラムと、
前記ステアリングコラムを支持するステアリングメンバと、
前記ステアリングコラムのうち前記ステアリングメンバより下方に位置する部分の車両前後方向前方に配設されたマスターバックと、
少なくとも一部が前記ステアリングメンバと車両前後方向に対向するように配置された、前記マスターバックを支持する支持部材と、
前記ステアリングメンバと、前記支持部材のうち前記ステアリングメンバと車両前後方向に対向するように配置された部分と、の間に配置され、当該部分の前記ステアリングメンバへの接近移動を規制するスペーサと、
を備えた車両前部構造。
【請求項2】
前記スペーサは前記支持部材に接続され、前記ステアリングメンバに向けて延出している、請求項1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記スペーサの前記ステアリングメンバ側の端部、及び前記ステアリングメンバのうち当該端部と車両前後方向に対向する領域のうち一方には、前記端部及び前記領域のうち他方に向けて突出する凸部が形成され、
前記端部及び前記領域のうち他方には、前記凸部を挿入可能な開口が形成され、
前記スペーサが、前記支持部材のうち前記部分の前記ステアリングメンバへの接近移動を規制している状態において前記凸部は前記開口に挿入され、前記端部の前記スペーサの延出方向に交差する方向への変位を規制する、請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記ステアリングメンバには、前記スペーサに向けて開口する凹部が形成され、
前記スペーサが、前記支持部材のうち前記部分の前記ステアリングメンバへの接近移動を規制している状態において、前記スペーサの前記ステアリングメンバ側の端部は前記凹部の内壁面に当接する、請求項2に記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記支持部材の車両前後方向前方に配設されたダッシュパネルを更に備え、
前記スペーサは、前記支持部材から前記ダッシュパネルに向けて延出している、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1が開示する自動車のペダル支持構造は、インパネメンバに車体後方へ向かうほど低くなるように傾斜したガイド面を有するガイド部材を固定する。ペダルブラケットに、当該ペダルブラケットの移動に伴って順次ガイド部材のガイド面に当接して当該ガイド面を摺動する、ペダル軸と当接ピンとを設ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-75273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両前突の際に車体に入力された荷重が例えば支持部材を介してマスターバックに伝達されると、当該マスターバックが車両後方に変位しステアリングコラムの下部に接触するおそれが有った。そのような接触が生じた場合には、ステアリングコラムが当該ステアリングコラムを支持するステアリングメンバ周りに回転するおそれが有った。即ち、車両前突の際に、ステアリングホイールがステアリングメンバ周りを上方に向けて回転するおそれが有った。
【0005】
本発明の目的は、車両前突の際に、ステアリングホイールがステアリングメンバ周りを上方に向けて回転することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車両前部構造は、ステアリングコラムと、ステアリングメンバと、マスターバックと、前記マスターバックを支持する支持部材と、前記ステアリングメンバと、前記支持部材のうち前記ステアリングメンバと車両前後方向に対向するように配置された部分と、の間に配置され、当該部分の前記ステアリングメンバへの接近移動を規制するスペーサと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両前突の際に、ステアリングホイールがステアリングメンバ周りを上方に向けて回転することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る車両前部構造の全体的構成の一例であって、車体と、ステアリングコラムと、ステアリングメンバと、マスターバックと、支持部材と、スペーサと、の位置関係を示す斜視図である。
図2】実施形態に係る車両前部構造の全体的構成の一例であって、車体と、ステアリングコラムと、ステアリングメンバと、マスターバックと、支持部材と、スペーサと、の位置関係を示す、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3】実施形態に係る車両前部構造の支持部材の構成について説明するための図であって、マスターバックと支持部材との位置関係を示す斜視図である。
図4】実施形態に係る車両前部構造の要部を示す図であって、車体と、ステアリングメンバと、支持部材と、スペーサと、の位置関係を示す斜視図である。
図5】実施形態の変形例に係る車両前部構造のステアリングメンバの構成について説明するための図であって、ステアリングメンバとスペーサとの位置関係を示す、図4のV-V線に沿った断面図に相当する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、実施形態に係る車両前部構造について説明する。なお、各図中のFR,RRは、車両前後方向前方、後方の各々を示す。LH,RHは、車幅方向左方、右方の各々を示す。UP,DNは、車両上下方向上方、下方の各々を示す。以下の説明では、車両前後方向前方、後方、車幅方向左方、右方、車両上下方向上方、下方を、それぞれ単に「車両前方」「車両後方」「車両左方」「車両右方」「上方」「下方」と称する。また、同一の機能を有する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
本実施形態に係る車両前部構造は、車体1の車両前方側の構造に適用することができる。車両前部構造は、ステアリングメンバ10と、ステアリングコラム20と、マスターバック30と、支持部材40と、スペーサ50と、を備える。図1に例示される車両前部構造は車体1のうち、運転席(不図示)の車両前方の領域を形成している。なお、図示された例では、車体1はキャブオーバー型の車両の車体を構成するが、これに限定されない。
【0011】
車体1の車両前方側には、ステアリングメンバ10が配設されている。ステアリングメンバ10は、車体1の車両前方側において車幅方向に延在する長尺部材であり、車体1の骨格の一部を形成する。ステアリングメンバ10は例えば金属から構成されてもよい。図1に例示されたステアリングメンバ10は、車幅方向に垂直な断面において略円形の形状を有する、円筒状の部材である。また、ステアリングメンバ10は、インストルメントパネル(不図示)の内部において延在してもよい。
【0012】
ステアリングメンバ10の車両右方側の端部は直接的に、又は間接的にフロントピラー2に取り付けられている。フロントピラー2は車体1の車両前右方側の側部において上下方向に延在し、車体1の骨格の一部を形成する部材である。ステアリングメンバ10の車両右方側の端部と、フロントピラー2とは、例えば溶接等の接合手段を用いることにより接合固定されてもよい。ステアリングメンバ10の車両左方側の端部は直接的に、又は間接的にフロントピラー2相当するフロントピラー(不図示)に取り付けられている。
当該フロントピラーは車体1の車両前左方側の側部において上下方向に延在し、車体1の骨格の一部を形成する部材である。ステアリングメンバ10の車両左方側の端部と、当該フロントピラーとは、例えば溶接等の接合手段を用いることにより接合固定されてもよい。即ち、ステアリングメンバ10は、車体1の車両右前方側を形成するフロントピラー2と、車体1の車両左前方側を形成する当該フロントピラーと、によって支持されると共に、両者の間に延在している。なお、ステアリングメンバ10の形状、位置等は図示された例に限定されない。例えば、車体1の形状に応じて、ステアリングメンバ10の形状、車体1における位置等を適宜設定してもよい。
【0013】
ステアリングメンバ10はステアリングコラム20を支持している。ステアリングコラム20は車両のステアリングホイール8を支持する部材であり、例えば金属から構成される。図2に例示されるように、ステアリングコラム20はステアリングメンバ10の車両後方側の領域において、車両前下方から車両後上方に向けて延在している。ステアリングメンバ10は、その延在方向に垂直な面において略円形の形状を有する円筒状の部材である。
【0014】
図1に例示されたステアリングコラム20の内部にはシャフト22が挿入されている。シャフト22はステアリングホイール8の回転中心軸を構成する。即ち、ステアリングコラム20はステアリングホイール8を回転可能に支持する。なお、インストルメントパネルはステアリングコラム20の外周の少なくとも一部を覆うコラムカバー(不図示)を有してもよい。
【0015】
図1及び図2に示された例では、ステアリングコラム20は固定具11を介してステアリングメンバ10に固定され、支持されている。図に例示された固定具11はステアリングメンバ10とステアリングコラム20との間に延在している。固定具11のステアリングメンバ10側の端部11aは、ステアリングメンバ10の外周部に直接的に又は間接的に固定されている。固定具11とステアリングメンバ10とを固定する方法は特に限定されず、例えば、ボルト等の締結具を用いて締結固定してもよく、溶接等の接合手段を用いて接合固定してもよい。
【0016】
固定具11のステアリングコラム20側の端部11bは、ステアリングコラム20に直接的に又は間接的に固定されている。図示された例では、ステアリングコラム20の外周面に形成されたフランジが端部11bに固定されている。当該フランジと端部11bとを固定する方法は特に限定されず、例えば、ボルト等の締結具を用いて締結固定してもよく、溶接等の接合手段を用いて接合固定してもよい。
【0017】
なお、ステアリングメンバ10でステアリングコラム20を支持する構造は図示された例に限定されない。例えば、ステアリングメンバ10又はステアリングコラム20の形状に応じて、固定具11の形状を適宜設定してもよい。
【0018】
ステアリングコラム20に回転可能に支持されたシャフト22の下部は、ジョイントを介して中間シャフト23に連結されている。また、中間シャフト23の下部は、ジョイントを介して中間シャフト24に連結されている。中間シャフト24の下方側は車体1の床面を構成するフロアパネル3に形成された開口4を介して、フロアパネル3の下方の領域に向けて延出している。開口4はフロアパネル3の所定位置を上下方向に貫通させることにより形成されており、開口4を介して、フロアパネル3の上方の領域と、下方の領域とが連通する。
【0019】
図1及び図2に例示されるように、ステアリングコラム20の下部21の車両前方にはマスターバック30が配設されている。下部21は、ステアリングコラム20のうちステアリングメンバ10より下方に位置する部分である。マスターバック30は、ブレーキペダル5を操作する際に要する踏力を低減するための部材であり、倍力装置、ブレーキブースター、バキュームサーボ等とも称される。
【0020】
図に例示されたマスターバック30は車両前後方向視で略円形の形状を有する中空部材であって、全体として、車両前後方向に所定の厚みを有する円板形状を形成する。マスターバック30は、車両前後方向視においてステアリングコラム20の下部21とラップするように配設される。また、マスターバック30は下部21から車両前後方向に所定の距離を隔てて配設される。
【0021】
マスターバック30はステアリングメンバ10よりも車両前方に配設されてもよい。また、図2に示された例では、車両前後方向視においてマスターバック30の上部とステアリングメンバ10の下部の一部とがラップするが、これに限定されない。例えば、マスターバック30は、車両前後方向視でステアリングメンバ10とラップしないように、ステアリングメンバ10よりも下方に配設されてもよい。
【0022】
マスターバック30は支持部材40によって支持されている。また、支持部材40はステアリングメンバ10よりも車両前方に配設されている。図2及び図3に示された例では、支持部材40は上支持部40aと、下支持部40bと、中間部40cと、を含む。上支持部40aは支持部材40の上方側の部分を構成する。下支持部40bは支持部材40の下方側の部分を構成する。中間部40cは、支持部材40のうち上支持部40aと下支持部40bとの間の部分を形成する。
【0023】
図3に例示された上支持部40aは車幅方向に所定の範囲で延在するパネル状の部分であり、車幅方向に垂直な断面において車両後方に向けて凸となる略ハット型の形状を有する。上支持部40aの車両後方側の部分は縦壁部41aにより形成され、上方側は上壁部41bにより形成され、下方側は下壁部41cにより形成されている。
【0024】
図2及び図3に示された例のように、縦壁部41aは略上下方向に延在すると共に、車幅方向に延在している。縦壁部41aは、その上部よりも下部が車両後方に位置するように、上下方向に対して傾くように形成されてもよい。上壁部41bは縦壁部41aの上縁部から車両前方に向けて延出するように形成されている。上壁部41bは、その車両前方側の部分が車両後方側の部分よりも上方に位置するように、車両前後方向に対して傾くように形成されてもよい。下壁部41cは縦壁部41aの下縁部から車両前方に向けて延出するように形成されている。下壁部41cは、その車両前方側の部分が車両後方側の部分よりも下方に位置するように、車両前後方向に対して傾くように形成されてもよい。
【0025】
上壁部41bの車両前方側の端部は略上方に向けて屈曲されフランジ42aを形成している。フランジ42aは車体1の所定位置に、締結、接合等の手段を用いて固定される。図2に示された例では、フランジ42aはパネル6aに固定されている。パネル6aは車両のエアボックス6の底部を構成する、車幅方向に延在するパネル材である。また、下壁部41cの車両前方側の端部は略下方に向けて屈曲されフランジ42bを形成している。フランジ42bは車体1の所定位置に、締結、接合等の手段を用いて固定される。図2に示された例では、フランジ42bは後述するアッパーダッシュパネル60aの下部に形成されたフランジ62aに固定されている。これにより、図示された断面において、上支持部40aとアッパーダッシュパネル60aとの間には閉断面が形成される。また、上支持部40aとアッパーダッシュパネル60aとの間には車幅方向に延在する空間S1が形成される。なお、車体1におけるフランジ42a,42bが固定される部分は特に限定されず、例えば車体1の形状に応じて、当該部分を適宜設定してもよい。
【0026】
また、図2に示された例では上支持部40aの少なくとも一部と、ステアリングメンバ10とは、車両前後方向に対向する。即ち、支持部材40は、少なくとも一部がステアリングメンバ10と車両前後方向に対向するように配置されている。
【0027】
図3に例示された下支持部40bは支持部材40の下部において上下方向に延在し、また、延在方向に垂直な断面において略C字型の形状を有する。下支持部40bの車両右方側の壁部と、車両左方側の壁部との間には、車両前上方から車両後下方に向けて延在するようにブレーキペダル5が配設されている。ブレーキペダル5の車両上方側の端部はマスターバック30の車両前方の領域に配設されており、ヒンジを介してマスターバック30の車両前方側の部分に接続されている。ブレーキペダル5の車両下方側の端部には、ブレーキ操作の際に乗員が踏み込むペダル部5aが形成されている。
【0028】
上支持部40aと下支持部40bとの間には中間部40cが延在している。図3に示される例では、中間部40cは上支持部40aの車両右方側から、下支持部40bの上部にかけて延在している。また、中間部40cは、その延在方向に垂直な断面において略ハット型の形状を有する。なお、図示された例では少なくとも中間部40cと上支持部40aとは別部材として形成され、ボルト等の締結具を用いて固定されているが、これに限定されない。例えば、上支持部40aと、下支持部40bと、中間部40cと、は一体的に形成されてもよい。また、支持部材40の形状は図示された例に限定されず、例えば車体1の形状に応じて適宜設定されてもよい。
【0029】
図3に例示されるように、マスターバック30は下支持部40bの上端部に取り付けられている。もっとも、支持部材40がマスターバック30を支持する態様はこれに限定されない。支持部材40におけるマスターバック30が取り付けられる位置は、例えば車体1の形状に応じて適宜設定されてもよい。
【0030】
また、図2に例示されるように、支持部材40の車両前方にはダッシュパネル60が配設されている。ダッシュパネル60は、車体1の車両前方側に配設された、車室内と車室外とを仕切る隔壁である。図に例示されたダッシュパネル60は、アッパーダッシュパネル60aと、ロアーダッシュパネル60bと、を有する。
【0031】
アッパーダッシュパネル60aはダッシュパネル60の上方側の部分を構成するパネル材である。図に例示されたアッパーダッシュパネル60aは縦壁部61aを備える。縦壁部61aは、車体1の車両前方側の外装面を構成するフロントパネル7と、上支持部40aとの間において、上下方向及び車幅方向に延在している(図1参照)。即ち、縦壁部61aは上支持部40aの車両前方の領域に配設されており、車両前後方向視において、上支持部40aの少なくとも一部とラップする。アッパーダッシュパネル60aの下部には下壁部61bが形成されている。下壁部61bは縦壁部61aの下方側端部から車両後下方に向けて延出する。また、下壁部61bの車両後方側の端部には下方に向けて延出するフランジ62aが形成されている。
【0032】
ロアーダッシュパネル60bはダッシュパネル60の下方側の部分を構成するパネル材である。図2に例示された断面では、ロアーダッシュパネル60bは車両後方に向けて凸となる略ハット型の形状を有する。ロアーダッシュパネル60bの車両後方側の部分には縦壁部61cが形成されている。縦壁部61cは略車両上下方向に延在すると共に、車幅方向に所定の範囲で延在している(図1参照)。縦壁部61cの上端部には、車両前方に向けて延出する上壁部61dが形成されている。上壁部61dの車両前方側の端部にはフランジが形成され、フロントパネル7の下方側の端部に接続されている。
【0033】
次に、図1図4を参照しながらスペーサ50について説明する。
【0034】
ステアリングメンバ10と支持部材40の対向壁部43との間にはスペーサ50が配置されている。対向壁部43は、支持部材40のうちステアリングメンバ10と車両前後方向に対向するように配置された部分である。各図に示された例では、縦壁部41aの少なくとも一部が対向壁部43を構成する。そのため、対向壁部43は車両前後方向視においてステアリングメンバ10とラップする。
【0035】
図1及び図2に例示されるように、スペーサ50は、車両前後方向に延在するパイプ状の部材であり、延在方向に垂直な断面において略円形の形状を有する。スペーサ50の内部には車両前後方向に延在する空間S2が形成されている。スペーサ50はダッシュパネル60とステアリングメンバ10との間に延在し、金属から構成されてもよい。また、スペーサ50は端部51a及び端部51bを有する。端部51aは、スペーサ50のステアリングメンバ10側の部分であり、スペーサ50の車両後方側の端部を構成する。端部51bは、スペーサ50のダッシュパネル60側の部分であり、スペーサ50の車両前方側の端部を構成する。また、端部51aはステアリングメンバ10の車両前方の領域に位置し、端部51bはアッパーダッシュパネル60aの車両後方の領域に位置している。
【0036】
スペーサ50は縦壁部41aの開口44(図3参照)に挿入されている。開口44は対向壁部43の所定領域を車両前後方向に貫通させることにより形成され、車両前後方向視で略円形の形状を有する。図1に例示されるように、スペーサ50の車両前後方向における略中央部には、スペーサ50の外周面から車幅方向に延出するフランジ52が形成され、フランジ52は対向壁部43のうち開口44を画成する外周縁部に固定されている。即ち、スペーサ50は支持部材40に接続され、ステアリングメンバ10に向けて延出してもよい。なお、フランジ52と対向壁部43とを固定する方法は特に限定されない。例えばボルト等の締結具を用いて締結することにより、フランジ52と対向壁部43とを締結固定してもよい。また、スペーサ50は支持部材40からダッシュパネル60に向けて延出してもよい。図2に示される例では、スペーサ50の開口44の開口面よりも車両前方側の部分は、アッパーダッシュパネル60aの縦壁部61aに向けて延出している。
【0037】
端部51aとステアリングメンバ10とは車両前後方向に対向し、両者の間には隙間が形成されている。端部51aはステアリングメンバ10の後述する領域12と車両前後方向に対向している(図4参照)。また、端部51bと縦壁部61aとは車両前後方向に対向し、両者の間には隙間が形成されている(図2参照)。なお、車両前後方向における、端部51aと領域12との間の最小距離は、マスターバック30と下部21との間の最小距離より短くてもよい。また、スペーサ50の端部51a及び端部51bの位置は図示された例に限定されない。例えば、端部51aとステアリングメンバ10とは当接してもよい。また、端部51bと縦壁部61aとは当接してもよい。
【0038】
スペーサ50は、対向壁部43のステアリングメンバ10への接近移動を規制する。例えば車両前突の際、車体1に車両前方からの荷重が入力されると、当該荷重はダッシュパネル60を介して支持部材40に伝達される。これにより、図4の矢印Aに示すように、支持部材40が車両後方に向けて変位する。ここで、対向壁部43にはスペーサ50が接続されており、ステアリングメンバ10に向けて延出している。そのため、スペーサ50は上支持部40aと共に矢印A方向に変位し、ステアリングメンバ10と当接する。これにより、上支持部40aとステアリングメンバ10との間の距離は所定距離に維持される。
【0039】
図4に例示されるように、スペーサ50は上支持部40aとアッパーダッシュパネル60aとの間に形成された壁部70に支持されてもよい。壁部70は空間S1の所定位置に固定された壁部である。壁部70の上方側の端部はパネル6aの下面に接合されてもよく、下方側の端部は下壁部41cに接合されてもよい。スペーサ50は空間S1において、壁部70の上下方向略中央部に形成された開口を貫通するように配設されている。また、図示された例では、当該開口を画成する外周縁部には、スペーサ50を支持する支持部71が形成されている。支持部71は当該外周縁部から車両前方に向けて延出している。空間S1においてスペーサ50は支持部71に支持される。これにより、例えば車両前突に起因してスペーサ50が車両後方に向けて変位した際、スペーサ50の姿勢をより確実に維持することができる。
【0040】
なお、スペーサ50の形状及び取付方法は図示された例に限定されない。例えば、スペーサはその延在方向における断面において、楕円形、矩形、多角形等の形状を有してもよい。また、スペーサ50の端部51aをステアリングメンバ10に当接させ固定してもよい。また、フランジ52は対向壁部43に固定されていなくてもよい。
【0041】
また、マスターバック30とスペーサ50との位置関係は図示された例に限定されない。例えば、マスターバック30は、側面視においてスペーサ50と少なくとも一部がラップするように配設されてもよく、スペーサ50とラップしないようにスペーサ50よりも下方に配設されてもよい。また、マスターバック30は、平面視においてスペーサ50と少なくとも一部がラップするように配設されてもよく、スペーサ50とラップしないように配設されてもよい。
【0042】
次に、図4を参照しながらステアリングメンバ10及びスペーサ50の構成について更に説明する。
【0043】
図4に例示されるように、ステアリングメンバ10は、その車両前方側の所定の部分に当接部13を有する。当接部13は、ステアリングメンバ10のうち、例えば車両前突に起因してスペーサ50が車両後方に変位した際に、端部51aが直接当たり接触する部分である。当接部13はステアリングメンバ10の外周面において、スペーサ50の端部51aに向けて凸となるように形成されている。当接部13は車両前後方向視において略矩形の形状を有してもよい。図に例示された当接部13は、例えば金属板を屈折させて形成した有底箱形の部材の縁部を、ステアリングメンバ10の外周面に接合することにより形成されているが、これに限定されない。当接部13の形状は例えばステアリングメンバ10又はスペーサ50の形状に応じて適宜設定されてもよい。
【0044】
当接部13には領域12が形成されている。図示された例では、領域12は当接部13の車両前方側を構成する壁部により形成されている。領域12は、ステアリングメンバ10のうち、端部51aと車両前後方向に対向する部分である。当該壁部は車両前後方向視で略矩形の形状を備えてもよい。また、領域12には端部51aに向けて突出する凸部14が形成されている。図4に例示された凸部14は車両前後方向視で略円形の形状を有し、金属から構成されてもよい。
【0045】
スペーサ50の内部には空間S2が形成されているため、端部51aには開口53が形成されている。開口53はステアリングメンバ10に向けて開放されており、車両前後方向に垂直な断面において略円形の形状を有してもよい。開口53の当該断面における外周部はスペーサ50の内周面によって画成される。即ち、スペーサ50の内周面は開口53を画成する面を構成する。
【0046】
例えば車両の前突に起因してスペーサ50が車両後方に向けて変位した際に、開口53には凸部14が挿入されることとなる。また、開口53に凸部14が挿入された状態では、端部51aの上下方向又は車幅方向への変位は、開口53を画成する面に凸部14が当接することにより規制される。即ち、スペーサ50が対向壁部43のステアリングメンバ10への接近移動を規制している状態において凸部14は開口53に挿入され、スペーサ50の延出方向に交差する方向への端部51aの変位を規制する。
【0047】
なお、凸部14及び開口53を形成する態様は図4に示された例に限定されない。例えば、スペーサ50を中実の円柱材により構成し、領域12に向けて突出する凸部を端部51aに形成してもよい。その場合には、領域12に、当該凸部を挿入可能な開口が形成されることとなる。そして、スペーサ50が対向壁部43のステアリングメンバ10への接近移動を規制している状態において、当該開口の外周部を画成する縁部と、当該凸部とが当接することにより、スペーサ50の延出方向に交差する方向への端部51aの変位が規制される。即ち、凸部14は、端部51a及び領域12のうち一方において、端部51a及び領域12のうち他方に向けて突出するように形成されればよい。また、開口53は、端部51a及び領域12のうち他方に形成されればよい。
【0048】
[変形例]
次に、図5を参照しながら実施形態の変形例に係る車両前部構造について説明する。本変形例に係る車両前部構造では、ステアリングメンバ10は車両前方側の所定の部分に当接部13Aを有する。当接部13Aは実施形態に係る車両前部構造の当接部13に相当する部分だが、当接部13とは形状が異なる。本変形例に係る車両前部構造の当接部13A以外の構成は、実施形態に係る車両前部構造と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
図5に例示されるように、ステアリングメンバ10は、その車両前方側の所定の部分に当接部13Aを有する。当接部13Aは、ステアリングメンバ10のうち、例えば車両前突に起因してスペーサ50が車両後方に変位した際に、端部51aが直接当たり接触する部分である。当接部13Aは車両前後方向視において略矩形の形状を有してもよい。
【0050】
図に例示された当接部13Aの車両前方側を構成する壁部15は、上下方向及び車幅方向における略中央部が車両後方に向けて凹むように形成されている。そのため、当接部13Aには凹部16が形成されている。凹部16はスペーサ50の延出方向である車両前後方向において、スペーサ50に向けて開口している。即ち、ステアリングメンバ10には、スペーサ50に向けて開口する凹部16が形成されてもよい。また、壁部15には、開口面16aを画成する外周縁部15aが形成されている。開口面16aは凹部16の内部に形成された凹空間S3の車両前方側を構成する。開口面16aは、スペーサ50の延出方向に平行な軸方向視において端部51aよりも大きく形成されてもよい。なお、外周縁部15aの車両前後方向視における形状は特に限定されず、例えば略円形の形状を有してもよい。
【0051】
図5に示される例では、凹部16は、底部17と傾斜部18とを備える。底部17は凹部16の車両後方側を形成する。底部17の少なくとも一部は領域12を構成する。底部17の車両前後方向視における形状は特に限定されず、例えば略円形の形状を有してもよい。傾斜部18は外周縁部15aから底部17の外周部にかけて延在している。底部17及び傾斜部18によって凹部16内に凹空間S3が画成される。また、図に例示された凹部16では、車両前後方向視において外周縁部15aの内側に底部17の外周部が位置する。そのため、凹空間S3は、その車両前後方向に垂直な断面が開口面16aから車両後方に向かうに従い小さくなるように形成されている。
【0052】
スペーサ50が対向壁部43のステアリングメンバ10への接近移動を規制している状態において、端部51aは当該凹部の内壁面に当接する。図5に示された例では、当該内壁面は、底部17及び傾斜部18の凹空間S3の一部を画成する面により構成される。例えば、車両前突に起因してスペーサ50が車両後方に向けて変位した際、端部51aは凹部16の内部において底部17の車両前方側の面と当接する。また、凹部16は傾斜部18を有するため、スペーサ50が車両後方に向けて変位する際、車両前後方向に対して傾いた姿勢で変位した場合であっても、端部51aを傾斜部18に当接させながら底部17に案内することができる。即ち、傾斜部18は端部51aに当接してスペーサ50を凹部16の内部に案内可能である。
【0053】
以下、実施形態に係る車両前部構造の作用効果について説明する。
【0054】
(1)実施形態に係る車両前部構造は、ステアリングコラム20と、ステアリングコラム20を支持するステアリングメンバ10と、を備える。また、当該構造は、ステアリングコラム20のうちステアリングメンバ10より下方に位置する下部21の車両前後方向前方に配設されたマスターバック30を備える。また、当該構造は、少なくとも一部がステアリングメンバ10と車両前後方向に対向するように配置された、マスターバック30を支持する支持部材40を備える。また、当該構造は、ステアリングメンバ10と、支持部材40のうちステアリングメンバ10と車両前後方向に対向するように配置された対向壁部43と、の間に配置され、対向壁部43のステアリングメンバ10への接近移動を規制するスペーサ50を備える。
【0055】
例えば車両前突の際に車体に入力された荷重が支持部材40に伝達されたことに起因して、図2及び図4に示す矢印Aのように、車両後方に向けて支持部材40が変位する場合が有る。そのような場合であっても、実施形態に係る車両前部構造によれば、対向壁部43の車両後方へ向けた移動がスペーサ50によって規制される。その際、スペーサ50を介してステアリングメンバ10に当該荷重を入力することができる。これにより、ステアリングメンバ10のうちスペーサ50から当該荷重を入力された部分を、図2及び図4の矢印Bに示すように、車両後方に向けて変位させることができる。また、ステアリングメンバ10の車両後方への変位に伴い、ステアリングメンバ10に固定されたステアリングコラム20は車両後方に変位することとなる。そのため、支持部材40の変位に伴い、マスターバック30が図2の矢印Cに示すように車両後方に変位した場合であっても、ステアリングメンバ10に対するマスターバック30の相対移動量を低減することができる。即ち、スペーサ50を車両前部構造に設けない場合に比べ、ステアリングメンバ10を略車両後方に向けて強制的に変位させることにより、マスターバック30のステアリングメンバ10に対する相対移動量を低減することができる。これにより、車両後方に変位したマスターバック30が下部21を押圧した際の、下部21のステアリングメンバ10に対する車両後方に向けた変位を抑制することができる。その結果、ステアリングコラム20がステアリングメンバ10周りを上方に向けて回転することを抑制することができる。即ち、車両前突の際に、ステアリングホイール8がステアリングメンバ10周りを上方に向けて回転することを抑制することができる。
【0056】
(2)スペーサ50は支持部材40に接続され、ステアリングメンバ10に向けて延出してもよい。
【0057】
これにより、車両前突に起因する荷重をより確実に支持部材40を介してスペーサ50に伝達することができる。また、スペーサ50が車両後方に変位した際に、端部51aをステアリングメンバ10に当接させ、当該荷重をステアリングメンバ10に入力することができる。そのため、車両前突の際に、ステアリングメンバ10に車両後方に向けた荷重をより確実に入力し、ステアリングコラム20をより確実に車両後方に変位させることができる。よって、車両前突の際の、ステアリングホイール8のステアリングメンバ10周りの上方に向けた回転をより確実に抑制することができる。
【0058】
(3)スペーサ50のステアリングメンバ10側の端部51a、及びステアリングメンバ10のうち当該端部51aと車両前後方向に対向する領域12のうち一方には、端部51a及び領域12のうち他方に向けて突出する凸部14が形成されてもよい。端部51a及び領域12のうち他方には、凸部14を挿入可能な開口53が形成されてもよい。スペーサ50が、支持部材40のうち対向壁部43のステアリングメンバ10への接近移動を規制している状態において凸部14は開口53に挿入され、端部51aのスペーサ50の延出方向に交差する方向への変位を規制してもよい。
【0059】
これにより、スペーサ50の端部51aと、ステアリングメンバ10との間に隙間が形成されている場合であっても、スペーサ50が車両後方に変位した際に、開口53に凸部14が挿入される。そのため、ステアリングメンバ10に当接した状態における、端部51aの上下方向又は車幅方向への変位を抑制することができる。即ち、車両後方に変位したスペーサ50をより確実にステアリングメンバ10に当接させることができる。そのため、車両前突の際に入力される荷重をより確実にステアリングメンバ10に伝達することができる。
【0060】
(4)ステアリングメンバ10には、スペーサ50に向けて開口する凹部16が形成されてもよい。スペーサ50が、支持部材40のうち対向壁部43のステアリングメンバ10への接近移動を規制している状態において、スペーサ50のステアリングメンバ10側の端部51aは凹部16の内壁面に当接してもよい。
【0061】
これにより、スペーサ50の端部51aと、ステアリングメンバ10との間に隙間が形成されている場合であっても、スペーサ50が車両後方に変位する際の端部51aの上下方向又は車幅方向への変位を規制することができる。即ち、車両後方に変位したスペーサ50をより確実にステアリングメンバ10に当接させることができる。そのため、車両前突の際に入力される荷重をより確実にステアリングメンバ10に伝達することができる。
【0062】
なお、凹部16は、ステアリングメンバ10に向けて接近移動するスペーサ50の端部51aに当接して、端部51aを凹部16の内部に案内する傾斜部18を備えてもよい。これにより、車両後方に向けて変位するスペーサ50の端部51aをより確実に凹空間S3に案内することができる。即ち、車両後方に変位したスペーサ50をより確実にステアリングメンバ10に当接させることができる。
【0063】
(5)車両前部構造は、支持部材40の車両前後方向前方に配設されたダッシュパネル60を更に備えてもよい。スペーサ50は、支持部材40からダッシュパネル60に向けて延出してもよい。
【0064】
これにより、車両前突の際に入力された荷重をダッシュパネル60からスペーサ50を介してステアリングメンバ10に入力することができる。そのため、例えば支持部材40を介したスペーサ50への当該荷重の伝達が、支持部材40を介したマスターバック30への当該荷重の伝達よりも遅れた場合であっても、より確実にスペーサ50を車両後方に変位させることができる。即ち、車両前突時にマスターバック30から下部21に入力される荷重をより確実に低減することができる。
【符号の説明】
【0065】
ステアリングメンバ10
領域12
凸部14
凹部16
ステアリングコラム20
下部21
マスターバック30
支持部材40
対向壁部43
スペーサ50
端部51a
開口53
ダッシュパネル60
図1
図2
図3
図4
図5