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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141366
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】エレベーター
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20241003BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20241003BHJP
   B66B 5/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B66B5/02 G
B66B5/00 A
B66B5/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052969
(22)【出願日】2023-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 知
(72)【発明者】
【氏名】金子 元樹
【テーマコード(参考)】
3F304
【Fターム(参考)】
3F304CA07
3F304CA12
3F304DA28
3F304EA11
3F304EA18
3F304EB13
3F304ED17
(57)【要約】
【課題】本発明は、ガバナースイッチが作動したときに、その原因が乗客の暴れ行動かどうかを判定することで、脱出、救出方法を選択できるエレベーターを提供する。
【解決手段】本発明のエレベーター10は、かご20が昇降中に巻上機14が緊急停止したときに、ガバナースイッチ55がオン作動しており、緊急停止前の所定時間内に、かごの振動を検出する検出器24のデータが所定の閾値を超えていないと判定し、かごが戸開ゾーンにあると判定すると、かごドア21の開閉装置22を作動させる。かごが戸開ゾーンにないと判定すると、巻上機を作動させて最寄階までかごを移動させた後、開閉装置を作動させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごドアを具えるかごと、
前記かごドアの開閉装置と、
前記かごを昇降させる巻上機と、
前記かごの速度が定格速度を所定以上超えたことを検出するガバナースイッチと、
前記かごの荷重又は振動を計測する検出器と、
前記検出器のデータを記録する記録部と、
前記記録部に記録された所定期間の前記検出器の前記データについて、所定の閾値を越えるデータの有無を判定する検出結果判定部と、
前記かごが戸開ゾーンにあるかどうかを判定する戸開ゾーン判定部と、
処理装置と、
を有し、
前記かごが昇降中に前記巻上機が緊急停止したときに、
前記ガバナースイッチがオン作動しており、
前記検出結果判定部が、緊急停止前の所定時間内に、前記検出器の前記データが前記所定の閾値を超えていると判定し、
前記戸開ゾーン判定部が、前記かごが前記戸開ゾーンにあると判定すると、
前記処理装置は、前記開閉装置を作動させる、
エレベーター。
【請求項2】
前記戸開ゾーン判定部が、前記かごが前記戸開ゾーンにないと判定すると、
前記処理装置は、前記巻上機を作動させて最寄階まで前記かごを移動させた後、前記開閉装置を作動させる、
請求項1に記載のエレベーター。
【請求項3】
前記かごの過速度を検出するガバナーエンコーダーを具え、
前記処理装置は、前記最寄階まで前記かごを移動させる際に、前記ガバナーエンコーダーから取得した速度情報に基づいて、前記巻上機を制御する、
請求項2に記載のエレベーター。
【請求項4】
前記処理装置は、前記ガバナースイッチがオン作動しており、前記検出結果判定部が、緊急停止前の所定時間内に、前記検出器の前記データが前記所定の閾値を超えていないと判定した場合には、遠隔監視センターの監視用端末に救出要請信号を発信する、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のエレベーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのかごに乗客が閉じ込められた際の救出運転に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーターには、かごの速度を検知するガバナー(調速機)が配置されている。ガバナーには、かごに接続されたガバナーロープがガバナープーリーに巻き掛けられており、ガバナープーリーの回転によりかごの速度を検知する。かご速度が定格速度を所定以上超えると、ガバナースイッチがオン作動して、かごを停止させる。
【0003】
かご内で乗客がジャンプするなどの暴れ行動を採った場合、瞬間的にかご速度が定格速度を所定以上上回って、ガバナースイッチが誤作動によりオン作動してしまうことがある。このような乗客の暴れ行動が原因であっても、ガバナースイッチが作動すればかごは停止するから、かごに乗客が閉じ込められてしまう。
【0004】
ガバナーの作動により、乗客の閉じ込めが発生すると、保守員が現場に急行し、乗客を救出していた。
【0005】
しかしながら、ガバナーのオン作動が乗客行動による誤作動であることを特定できる場合、遠隔でかごを救出運転させた方が、保守員の到着を待たずに済むため、救出時間を短縮できる。
【0006】
そこで、特許文献1では、ガバナースイッチ以外の安全スイッチが作動したのではないことを確認し、作動していない場合にはガバナースイッチを短絡して、遠隔操作で救出運転を行なえるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-335024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、閉じ込めに至るまでの過程で、かごがシャフト等と接触する等して損傷を受けていることがある。この場合、乗客が無理に戸開することで、ドアの損傷状態が悪化し、救出作業を長期化させてしまうことがある。また、遠隔救出運転を行なうことで、ドアの損傷部が乗場機器と接触し、損傷状態が悪化し、同じく救出作業を長期化させてしまうことがある。
【0009】
本発明は、ガバナースイッチが作動したときに、その原因が乗客の暴れ行動かどうかを判定することで、脱出、救出方法を選択できるエレベーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のエレベーターは、
かごドアを具えるかごと、
前記かごドアの開閉装置と、
前記かごを昇降させる巻上機と、
前記かごの速度が定格速度を所定以上超えたことを検出するガバナースイッチと、
前記かごの荷重又は振動を計測する検出器と、
前記検出器のデータを記録する記録部と、
前記記録部に記録された所定期間の前記検出器の前記データについて、所定の閾値を越えるデータの有無を判定する検出結果判定部と、
前記かごが戸開ゾーンにあるかどうかを判定する戸開ゾーン判定部と、
処理装置と、
を有し、
前記かごが昇降中に前記巻上機が緊急停止したときに、
前記ガバナースイッチがオン作動しており、
前記検出結果判定部が、緊急停止前の所定時間内に、前記検出器の前記データが前記所定の閾値を超えていると判定し、
前記戸開ゾーン判定部が、前記かごが前記戸開ゾーンにあると判定すると、
前記処理装置は、前記開閉装置を作動させる。
【0011】
前記戸開ゾーン判定部が、前記かごが前記戸開ゾーンにないと判定すると、
前記処理装置は、前記巻上機を作動させて最寄階まで前記かごを移動させた後、前記開閉装置を作動させることができる。
【0012】
前記かごの過速度を検出するガバナーエンコーダーを具え、
前記処理装置は、前記最寄階まで前記かごを移動させる際に、前記ガバナーエンコーダーから取得した速度情報に基づいて、前記巻上機を制御することができる。
【0013】
前記処理装置は、前記ガバナースイッチがオン作動しており、前記検出結果判定部が、緊急停止前の所定時間内に、前記検出器の前記データが前記所定の閾値を超えていないと判定した場合には、遠隔監視センターの監視用端末に救出要請信号を発信することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエレベーターによれば、ガバナースイッチが作動した場合に、緊急停止前のかごの荷重又は振動に基づいて、その原因が乗客の暴れ行動によるものであって、ガバナースイッチの作動が誤作動であると判定したときに、戸開ゾーンにある場合には開閉装置により戸開を行ない、また、戸開ゾーンにない場合には最寄階まで移動した後、開閉装置により戸開を行なうことができる。これにより、乗客の救出時間を大幅に短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るエレベーターの駆動系及びドア開閉系の概略構成図である。
図2図2は、エレベーターのガバナー系の概略構成図である。
図3図3は、エレベーターの制御系のブロック図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る制御フローチャート図である。
図5図5は、閉じ込め原因と、救出方法、救出(脱出)時の乗客行動をまとめた表である。
図6図6は、エレベーターに閉じ込められた乗客と、遠隔監視センターの監視員の採るべき行動を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、エレベーター10のかご20内で乗客が閉じ込められた際に、かご20が戸開ゾーンにあり、又は、戸開ゾーンまで移動でき、且つ、かごドア21を開閉可能であれば「戸開動作」を実行し、乗客がかごドア21を通じて脱出できるようにするものである。
【0017】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係るエレベーター10の救出運転について説明を行なう。
【0018】
図1は、エレベーター10の駆動系及びドア開閉系の概略構成図、図2は、ガバナー(調速機)系の概略構成図、図3は、制御系の概略ブロック図である。
【0019】
図1に示すように、エレベーター10は、建物内を貫通するシャフト12内にかご20を昇降可能に配置して構成される。シャフト12には、建物の各階床40と通じる乗場ドア41が配置され、シャフト12内と各階床40を連通可能としている。
【0020】
シャフト12の最上部には、機械室13が設けられており、機械室13には、図1に示すように、巻上機14と、巻上機14により回転するシーブ15が設けられている。シーブ15には、並列してそらせ車16が配置され、シーブ15とそらせ車16には、メインロープ11が掛けられている。メインロープ11の一端には乗客が乗り込むかご20、他端にはカウンターウェイト17が吊下支持されている。
【0021】
巻上機14は、シーブ15を回転させて、かご20を昇降させる。巻上機14には、常時作動型ブレーキ18を並設している。ブレーキ18は、電気式と機械式の2系統であり、通常時、かご20を戸開ゾーンで停止させる。また、巻上機14には、かご20の速度を検知する巻上機エンコーダー19が配備される。
【0022】
かご20は、乗客が出入りするためのかごドア21を具え、開閉装置22により自動開閉可能となっている。かご20が、シャフト12に設けられたかご位置検出器61(図2図3参照)により戸開可能な戸開ゾーンで停止し、かごドア21と乗場ドア41が位置合わせされたことが検知されると、開閉装置22が作動可能となる。そして、開閉装置22の作動により、かごドア21を開放方向にスライドさせることで乗場ドア41が従動し、かご20内と乗場階床40が連通し、乗客の乗降が行なわれる。かごドア21の開閉状態は、戸開センサー26(図3参照)により検知される。
【0023】
かご20には、かご20内の乗客に救出運転時に乗客に救出動作を通知するインジケーターや、スピーカー、マイクロフォンなどの音声通話手段などからなる通知部23を具える。通知部23には、音声通話手段の作動の契機となる非常呼びボタンを含む。通知部23は、後述の処理装置70の通信部75を介して、遠隔監視センター80の監視用端末81と通信可能となっている。
【0024】
また、かご20には、かご20に作用する荷重又はかご20に発生する振動を測定するための検出器24を具える。たとえば、検出器24は、加速度センサー、歪センサー、振動センサーなどである。以下では、検出器として、荷重を検出する荷重検出器24を例に挙げて説明する。荷重検出器24は、かご20の床下に配置することができる。
【0025】
かご20には、救出運転時に、かごドア21を乗客が人力で開くことができるよう、かごドア21を僅かに開く強制戸開装置25が配置されている。なお、強制戸開装置25は、かごドア21間に乗客が指を差し込める隙間が生じる程度にかごドア21を強制的に開く構成とし、当該隙間から乗客が指を差し込んで自力で戸開できればよく、強制戸開装置25によって、かごドア21を乗客が降車できるほど大きく開ける必要はない。強制戸開装置25は、たとえば、後述する処理装置70や遠隔操作により操作されるリンクやバネ、ソレノイド、アクチュエーター等に構成することができる。
【0026】
図2は、ガバナー系の概略構成図である。図に示すように、かご20には、かご20の過速度を検出するガバナー50が配置される。ガバナー50は、機械室13内に設けられたガバナープーリー51と、シャフト12の下部に設けられたテンションプーリー52を具え、これらプーリー51,52間に懸架された無端状のガバナーロープ53をかご20に連結している。
【0027】
ガバナープーリー51には、ガバナー振り子54を具え、かご20の速度が定格速度から所定以上を超えると、遠心力により径方向に広がって、ガバナー振り子54の移行路に配置されたガバナースイッチ55をオン作動させる。ガバナースイッチ55がオン作動すると、後述する処理装置70が、ブレーキ18を作動させて、かご20を停止させる。
【0028】
また、ガバナープーリー51又はテンションプーリー52には、ガバナー50の速度を測定するガバナーエンコーダー56を具える。図2では、テンションプーリー52にエンコーダー56(所謂テンションプーリーエンコーダー)を配置しているが、エンコーダーは、ガバナープーリー51に配置してもよい(所謂ガバナープーリーエンコーダー)。ガバナー50に設けられたエンコーダーを単にガバナーエンコーダー56と称する。ガバナーエンコーダー56は、本実施形態では、救出運転時の際にかご20の速度取得に用いることができる。
【0029】
その他、エレベーター10の各装置や部品、その他の安全性を判定する安全装置として、リミットスイッチ、ファイナルリミットスイッチなど各種機器が適所に配置される。これら機器をまとめて各機器監視器60と称する。
【0030】
上記構成のエレベーター10の制御系ブロック図を図3に示す。なお、図3は、本発明の説明に必要な要部のみを示している。制御系は、たとえば機械室13に設置された処理装置70を中心に構成される。
【0031】
処理装置70は、以下で説明する閉じ込め発生時の救出運転の制御の他、一般的なエレベーター10の制御を実行する。なお、一般的なエレベーター10の制御については説明を省略する。
【0032】
処理装置70は、CPU(Central Processing Unit)等のコンピューター、不揮発性メモリ、揮発性メモリ等の記憶装置等を含む。不揮発性メモリは例えばフラッシュROM(Read Only Memory)である。不揮発性メモリには、本発明の制御方法を処理装置70に実行させるプログラムが予め格納されている。また、揮発性メモリは例えばRAM(Random Access Memory)である。揮発性メモリは、たとえば上記プログラムを実行する際のワークエリアとしてCPUに利用される。
【0033】
処理装置70には、図3に示すように、上記した各種検出器やスイッチ、エンコーダーが接続されており、これらからの入力を受け、エレベーター10の各種機器を制御する。具体的には、処理装置70には、荷重検出器24、戸開センサー26、各機器監視器60、かご位置検出器61、ガバナースイッチ55、ガバナーエンコーダー56、巻上機エンコーダー19が接続されている。
【0034】
処理装置70は、本実施形態では、取得部71、記憶部72、演算部73、制御部74を含む構成である。
【0035】
取得部71は、荷重検出器24、戸開センサー26、各機器監視器60、ガバナースイッチ55、かご位置検出器61、ガバナーエンコーダー56、巻上機エンコーダー19の出力が入力される。入力された計測結果、データは、一部が記憶部72で記憶されると共に、演算部73に送信される。
【0036】
記憶部72は、エレベーター10の制御に必要な各種プログラム等を記憶している。本実施形態では、記憶部72は、取得部71に入力された計測結果、データのうち、荷重検出器24の荷重データ(加速度検出器の場合は加速度データ、振動検出器の場合は振動データ)、戸開センサー26及び各機器監視器60のエラーコード(後述する)、ガバナースイッチ55のオン、オフ状態を記憶する。また、演算部73のエラーコード判定部731が出力するエラーコードを記憶する。
【0037】
演算部73は、エラーコード判定部731、ガバナースイッチ正誤判定部733、戸開ゾーン判定部734、検出結果判定部732を具える。
【0038】
エラーコード判定部731は、取得部71から戸開センサー26、各機器監視器60の監視データが入力され、当該監視データをエラーと判定した場合、分類したエラーコードを記憶部72に送信する。具体的には、戸開センサー26では、開閉装置22が作動しているにも拘わらず、戸開センサー26が戸閉と判定した場合に「戸開失敗」のエラーコードを作出し、記憶部72に送信する。
【0039】
ガバナースイッチ正誤判定部733は、ガバナースイッチ55を監視する。具体的には、取得部71からガバナースイッチ55のオン、オフ状態を受信し、当該データを記憶部72に送信する。
【0040】
戸開ゾーン判定部734は、かご位置検出器61のデータによりかご20が戸開ゾーンに位置するかどうかを判定する。かご20が戸開可能な戸開ゾーンで停止している場合には、開閉装置22の作動を許容する。
【0041】
検出結果判定部732は、昇降中に巻上機14が緊急停止し、閉じ込めが発生したときに、救出動作を行なうかどうかを判定する。救出動作の詳細は後述する。
【0042】
また、制御部74は、駆動制御部742、開閉装置制御部741、出力制御部743を具える。
【0043】
駆動制御部742は、巻上機14、ブレーキ18の駆動を制御する。
【0044】
また、開閉装置制御部741は、かごドア21の開閉装置22及び強制戸開装置25を制御する。
【0045】
出力制御部743は、演算部73の検出結果判定部732の判定結果に基づいて、強制戸開信号や救出要請信号を出力する。
【0046】
通信部75は、建物の外部に設けられた遠隔監視センター80の監視用端末81と通信可能となっており、エレベーター10の状態、動作状況などを遠隔監視センター80に送信、報告する。また、出力制御部743からの救出要請信号を監視用端末81に発信する。通信部75は、さらに、かご20の通知部23と通信可能となっており、乗客に救出運転時には、たとえば通知部23を監視用端末81と音声通話可能に接続し、乗客の安全確認や救出動作の手順の説明等を行なう。
【0047】
遠隔監視センター80は、建物内の管理室、又は、建物外部に設置される。遠隔監視センター80は、監視用端末81を具える。監視用端末81は、監視員により監視され、処理装置70からのエラーコード(イベントコード)を受信すると、監視員に対してエレベーター10の動作状況を通知し、監視員が必要に応じた処置を行なう。たとえば、本発明では、監視員は、受信した救出要請信号に基づいて保守員を現場に急行させる要請の手配等を行なう。
【0048】
処理装置70には、図3に示すように、巻上機14とブレーキ18が接続されており、巻上機14とブレーキ18が制御される。
【0049】
また、処理装置70は、開閉装置制御部741を介して開閉装置22が接続されており、かごドア21の開閉が行なわれる。
【0050】
処理装置70には、開閉装置制御部741を介して強制戸開装置25に接続されており、救出動作の1つとして、強制戸開装置25を作動させる。
【0051】
さらに、かご20の通知部23は、処理装置70に接続され、通信部75を介して、救出運転時には遠隔監視センター80の監視用端末81と音声通話可能に接続されて、乗客の安全確認や救出動作の方法を通知する。
【0052】
上記構成のエレベーター10について、かご20が昇降中に緊急停止した場合の制御をフローチャート図4に沿って説明する。
【0053】
本発明では、かご20が何らかの理由により昇降中に緊急停止した場合、緊急停止の理由を特定することで、かごドア21の開閉を行なってよいかどうかの判定を行ない、乗客の救出方法を選択できるようにしている。
【0054】
通常運行時、巻上機エンコーダー19、ガバナーエンコーダー56の出力パルス、荷重検出器24の荷重データ、ガバナースイッチ55の状態(通常はオフ)、各機器監視器60からの監視データ、かご位置検出器61の判定結果(かご20が戸開ゾーンにあるかどうか)、戸開センサー26の監視データ(戸閉又は戸開の何れか)は、処理装置70の取得部71に取得され、記憶部72に記憶されと共に、演算部73で常時処理される。
【0055】
演算部73における処理として、具体的には、取得された荷重検出器24の荷重データは、検出結果判定部732で所定の閾値を超えたか否かを判定される。エラーコード判定部731は、各機器監視器60の監視データをエラーと判定した場合には、当該エラーに分類されたエラーコードを記憶部72に記憶させる。また、戸開ゾーン判定部734は、かご位置検出器61のデータを取得部71から得て、かご20が戸開ゾーンにあるか否かを判定する。
【0056】
そして、通常運行中に、図4のステップS1に示すように、かご20が昇降中に緊急停止して閉じ込めが発生すると、下記の制御を行なう。
【0057】
まず、閉じ込めが発生したときに、ガバナースイッチ55がオン作動したかどうかを判定する(ステップS2)。つまり、閉じ込めの原因が、ガバナー50の作動であるのか(ステップS2のYES)、或いは、それ以外の原因なのか(ステップS2のNO)を判定する。ガバナー50の作動が原因であるかどうかは、ガバナースイッチ正誤判定部733がガバナースイッチ55のオン状態を受信したかどうかで判定できる。
【0058】
閉じ込めの発生が、ガバナー50の作動によるものである場合(ステップS2のYES)、すなわち、ガバナースイッチ正誤判定部733がガバナースイッチ55のオン信号を受信した場合には、当該オン信号の受信を記憶部72に記憶する。なお、ガバナー50が作動すると、エレベーター10の安全装置が作動し、かご20が緊急停止する。ガバナースイッチ55が一旦オン作動すると、遠隔での復帰はできず、保守員による手動復帰のみでしかオフ切替えができない。
【0059】
ガバナー50が作動した場合、当該作動が、誤作動によるものであるか、或いは、正常な作動によるものであるかを判定する(ステップS3)。誤作動とは、具体的には、かご20内で乗客がジャンプするなど暴れ行動を採ったケースが考えられる。この場合、瞬間的にかご速度が定格速度を所定以上上回って、ガバナースイッチ55がオン作動してしまうことがある。
【0060】
そこで、検出結果判定部732は、記憶部72に記憶されている閉じ込め発生前(緊急停止前)の所定時間内の荷重検出器24の荷重データを参照し、当該荷重データが所定の閾値を超えたか否かを判定する(ステップS3)。
【0061】
その結果、荷重データが閾値を超えている場合には(ステップS3のYES)、ガバナースイッチ正誤判定部733は、ガバナー50の作動は、乗客の暴れ行動によるものであり、誤作動であると判定する(以下「閉じ込め原因(1)」:ステップS4、図5)。この場合、かごドア21や開閉装置22、かご20の駆動系を作動させても問題はないと考えられる。従って、かご20が戸開ゾーンにある場合は開閉装置22により自動戸開を行なう救出運転を実施する。戸開後、乗客は到着階に脱出すればよい。これにより、乗客の救出時間を大幅に短縮できる。
【0062】
一方、かご20が戸開ゾーンにない場合には、駆動制御部742は、ガバナーエンコーダー56から取得した速度情報を元に巻上機14を駆動して、最寄階までかご20を移動させる。このとき、巻上機14は、定格速度よりもスロー速度で運転することが望ましい。巻上機14やロープ系などへの負荷を小さくするため、また、これらに異常があった場合でも影響を小さく抑えるためである。
【0063】
最寄階に到着後は、開閉装置22により自動戸開を行なう救出運転を実施する。戸開後、乗客は到着階に脱出すればよい。なお、駆動制御部742がガバナーエンコーダー56から取得した速度情報を参照して巻上機14の制御を行なうのは、ガバナースイッチ55がオン作動してしまっているためである。
【0064】
上記のように、閉じ込め原因(1)では、ガバナー50が作動しても、その原因が乗客の暴れ行動と判定された場合に、保守員の到着を待つことなく、かご20を最寄階まで移動させて乗客を脱出させることができるので、救出時間を大幅に短縮できる。乗客脱出後は、エレベーター10の運行を休止し、保守員が点検後、ガバナースイッチ55をオフ切替えさせるのを待てばよい。
【0065】
なお、閉じ込め原因について、上記した(1)と、下記の(2)~(5)の発生原因と救出方法、救出(脱出)時の乗客行動を図5にまとめて示している。
【0066】
一方、ステップS3において、荷重データが閾値以下の場合には(ステップS3のNO)、ガバナースイッチ正誤判定部733は、閉じ込めの原因が乗客の暴れ行動以外を原因とするものであり、ガバナー50の作動は正常であると判定する(以下「閉じ込め原因(2)」:ステップS5、図5)。この場合、緊急停止の原因により、かごドア21や開閉装置22、かご20の駆動系に損傷がある可能性がある。このため、出力制御部743は、通信部75を介して、遠隔監視センター80の監視用端末81に救出要請信号を発信する。遠隔監視センター80の監視員は、監視用端末81を介してエレベーター10の状況を監視すると共に、乗客に状況を説明し、保守員をエレベーター10に向かわせ、救出作業を行なえばよい。これにより、かご20の昇降やかごドア21の開閉による損傷の拡大を抑え、エレベーター10復旧の長期化を未然に防ぐことができる。
【0067】
一方、上記ステップS2において、ガバナー50が作動してないにも拘わらず、エレベーター10が緊急停止して閉じ込め発生した場合には(ステップS2のNO)は、ステップS6に移行する。
【0068】
ステップS6では、ステップS3と同様に、かご20の異常振動の有無を確認するが、ガバナー50が作動していないことから、ステップS3とは判定が異なる。
【0069】
具体的には、ステップS6において、検出結果判定部732が記憶部72に記憶されている閉じ込め発生前(緊急停止前)の所定時間内の荷重検出器24の荷重データを参照し、当該荷重データが所定の閾値を超えたか否かを判定する。そして、当該荷重データが所定の閾値を越えている場合には(ステップS6のYES)、緊急停止の原因は、かごドア21や開閉装置22、かご20の駆動系、ガバナー系など多岐に渡る可能性がある(以下「閉じ込め原因(3)」:ステップS7、図5)。このため、出力制御部743は、通信部75を介して、遠隔監視センター80の監視用端末81に救出要請信号を発信する。遠隔監視センター80の監視員は、監視用端末81を介してエレベーター10の状況を監視すると共に、乗客に状況を説明し、保守員をエレベーター10に向かわせ、救出作業を行なう。これにより、かご20の昇降やかごドア21の開閉による損傷の拡大を抑え、エレベーター10復旧の長期化を未然に防ぐことができる。
【0070】
一方、検出結果判定部732が参照した荷重データが、所定の閾値以下の場合には(ステップS6のNO)、ステップS8に移行する。
【0071】
ステップS8では、戸開ゾーン判定部734により、かご20が戸開ゾーンにあるかどうかを判定する。
【0072】
かご20が戸開ゾーンにあると判定された場合には(ステップS8のYES)、まず、エラーコード判定部731は記憶部72を参照する(ステップS9)。そして、戸開失敗のエラーコードが記憶されているときには(ステップS9のYES)、開閉装置22の「軽微」な不具合であると判定し(以下「閉じ込め原因(4)」:ステップS10、図5)、出力制御部743は、強制戸開装置25を作動させて、かごドア21間に強制的に隙間を生じさせる。乗客は、生じたかごドア21間に生じた僅かな隙間に指を差し込んで自力で戸開を行ない、脱出すればよい。これにより、乗客の救出時間を大幅に短縮できる。乗客脱出後は、エレベーター10の運行を休止し、保守員が点検の上、復旧作業を行なってから通常運行に移行する。
【0073】
なお、上記において、開閉装置22の「軽微」な不具合としたのは、閉じ込め発生前のかご20の振動が閾値を超えていないためである。かご20の振動が閾値を超えている場合には、後で説明するステップS12の閉じ込め原因(3)の不具合(開閉装置22については重度な不具合)に該当する。
【0074】
ステップS9において、エラーコード判定部731に戸開失敗のエラーコードが記憶されていない場合には(ステップS9のNO)、エラーコード判定部731により記憶部72に記憶された各機器監視器60の監視データのエラーコードの有無を参照する(ステップS11)。そして、記憶されているエラーコードが、駆動系の不具合(たとえば巻上機14の暴走)や、ロープ系の異常スリップなど、エレベーター10を安全に復旧できないような異常によるエラーコード(以下「危険エラーコード」)である場合には(ステップS11のYES)、緊急停止の原因が特定できず多岐に渡り、また、開閉装置22や強制戸開装置25を作動させることも、これらやかごドア21などの損傷を招く重度な不具合の可能性がある(「閉じ込め原因(3)」:ステップS12、図5)。このため、出力制御部743は、通信部75を介して、遠隔監視センター80の監視用端末81に救出要請信号を発信する。遠隔監視センター80の監視員は、監視用端末81を介してエレベーター10の状況を監視すると共に、乗客に状況を説明し、保守員をエレベーター10に向かわせ、救出作業を行なう。乗客脱出後は、保守員が点検の上、復旧作業を行なってから通常運行に移行する。これにより、かご20の昇降やかごドア21の開閉による損傷の拡大を抑え、エレベーター10復旧の長期化を未然に防ぐことができる。
【0075】
一方、ステップS11にて、エラーコード判定部731が、エラーコードなし或いは、エラーコードはあっても危険エラーコードの記憶がないと判定した場合には(ステップS11のNO)、原因は多岐に渡るものの、緊急停止の原因が、走行中にかごドア21が僅かに戸開し、一瞬安全回路が遮断されたものであるなど、軽微な原因を理由とするものと判定し(以下「閉じ込め原因(5)」:ステップS13及び図5参照)、出力制御部743は、開閉装置22により自動戸開を行なう救出運転を実施する。戸開後、乗客は到着階に脱出すればよい。これにより、乗客の救出時間を大幅に短縮できる。なお、開閉装置22に代えて、強制戸開装置25を作動させてもよい。乗客脱出後は、エレベーター10の運行を休止し、保守員が点検の上、復旧作業を行なってから通常運行に移行する。
【0076】
ステップS8において、かご20が戸開ゾーンにないと判定された場合には(ステップS8のNO)、ステップS11と同様、エラーコード判定部731により記憶部72に記憶された各機器監視器60の監視データのエラーコードの有無を参照する(ステップS14)。そして、記憶されているエラーコードが、危険エラーコードである場合には(ステップS14のYES)、緊急停止の原因が特定できず多岐に渡り、また、開閉装置22や強制戸開装置25だけでなく、巻上機14等を作動させることも、これらやかごドア21などの損傷を招く可能性がある(「閉じ込め原因(3)」:ステップS15及び図5参照)。このため、出力制御部743は、通信部75を介して、遠隔監視センター80の監視用端末81に救出要請信号を発信する。遠隔監視センター80の監視員は、監視用端末81を介してエレベーター10の状況を監視すると共に、乗客に状況を説明し、保守員をエレベーター10に向かわせ、救出作業を行なう。乗客脱出後は、保守員が点検の上、復旧作業を行なってから通常運行に移行する。これにより、かご20の昇降やかごドア21の開閉による損傷の拡大を抑え、エレベーター10復旧の長期化を未然に防ぐことができる。
【0077】
一方、ステップS14にて、エラーコード判定部731が、エラーコードなし或いは、エラーコードはあっても危険エラーコードの記憶がないと判定した場合には(ステップS14のNO)、原因は多岐に渡るものの、緊急停止の原因が、走行中にかごドア21が僅かに戸開し、一瞬安全回路が遮断されたものであるなど、軽微な原因を理由とするものと判定し(以下「閉じ込め原因(5)」:ステップS16及び図5参照)、駆動制御部742は、巻上機14を作動させて、かご20を最寄階まで移動させる。このとき、巻上機14は、定格速度よりもスロー速度で運転することが望ましい。巻上機14やロープ系などへの負荷を小さくするため、また、これらに異常があった場合でも影響を小さく抑えるためである。
【0078】
そして、最寄階へ到着後、出力制御部743は、開閉装置22を作動させて自動戸開を行なう救出運転を実施する。戸開後、乗客は到着階に脱出すればよい。これにより、乗客の救出時間を大幅に短縮できる。なお、開閉装置22に代えて、強制戸開装置25を作動させてもよい。乗客脱出後は、エレベーター10の運行を休止し、保守員が点検の上、復旧作業を行なってから通常運行に移行する。
【0079】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0080】
たとえば、上記実施形態では、エレベーター10の処理装置70が、閉じ込め原因を特定し、これに対応する救出方法(フローチャート図4図5の表参照)を選択し、実行している。しかしながら、この処理を遠隔監視センター80の監視用端末81又は監視員により行なうようにしてもよい。すなわち、監視員が監視用端末81を用いて、閉じ込め原因を特定し、これに対応する救出手段(たとえば開閉装置22の作動、強制戸開装置25の作動、巻上機14の作動、保守員の手配など)を遠隔で行なうようにしてもよい。
【0081】
この場合、ブロック図6に示すように、閉じ込めが発生すると(ステップS21)、乗客は、通知部23の非常呼びボタンを操作して、閉じ込め発生が通信部75を通じて監視用端末81に発信される(ステップS22)。
【0082】
遠隔監視センター80では、監視員が、監視用端末81に受信された閉じ込めの通報を確認し(ステップS23)、フローチャート図3のフローに沿って閉じ込めの原因(本実施形態では閉じ込め原因(1)~(5))を特定する(ステップS24)。なお、閉じ込め原因を特定するために、乗客がかご20内で暴れ行動をしていないかどうかなど、心当たりのある行動の有無を音声通話等で確認することが望ましい。
【0083】
そして、図4の表に基づいて妥当な救出方法を選択し(ステップS25)、遠隔で開閉装置22、強制戸開装置25、巻上機14を作動して遠隔救出、或いは、保守員の手配を行なえばよい(ステップS26)。閉じ込め発生後は、監視員は、乗客と密に連絡を取ることが望ましく、救出方法が決定した場合にはその旨を通知し、乗客に、指示された救出方法(或いは待機指示)に従って行動してもらえばよい(ステップS27)。
【符号の説明】
【0084】
10 エレベーター
20 かご
22 開閉装置
25 強制戸開装置
50 ガバナー
70 処理装置
80 遠隔監視センター
図1
図2
図3
図4
図5
図6