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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141373
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】印刷装置、及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20241003BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052977
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰人
(72)【発明者】
【氏名】村田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一希
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA08
2C056EC03
2C056EC08
2C056EC77
2C056FA10
2C056FC02
(57)【要約】
【課題】バンディングの抑制と、粒状性の劣化の抑制とを両立させることが可能な印刷装置、及び印刷方法を提供する。
【解決手段】制御部は、無彩色であるブラックインクによる印刷を、第2態様のオーバーラップ印刷で行う。例えば、連続する5本のラスターラインを形成する場合に、5本すべてのラスターラインを、下流端側ノズル群に含まれるノズルと、上流端側ノズル群に含まれるノズルと、中間ノズル群に含まれるノズルとによって形成する。また、制御部は、有彩色である他のインクによる印刷を、第1態様のオーバーラップ印刷で行う。例えば、連続する5本のラスターラインを形成する場合に、1本のラスターラインについては、下流端側ノズル群に含まれるノズルと、上流端側ノズル群に含まれるノズルと、中間ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の4本のラスターラインについては、中間ノズル群に含まれる2つのノズルによって形成する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体に印刷を行う印刷装置であって、
前記媒体に対して第1液体を吐出する複数のノズルが第1方向に沿って配列された第1ノズル列と、前記媒体に対して前記第1液体とは色が異なる第2液体を吐出する複数のノズルが前記第1方向に沿って配列された第2ノズル列と、を有し、前記第1液体及び前記第2液体を吐出することによって前記媒体上に複数のドットを形成可能な印刷ヘッドと、
前記媒体に対する前記印刷ヘッドの相対位置を前記第1方向と交差する第2方向に沿って変化させつつ前記印刷ヘッドから前記第1液体及び前記第2液体を吐出させる主走査と、前記媒体に対する前記印刷ヘッドの相対位置を前記第1方向に沿ってfドット分(fは自然数)だけ変化させる副走査とを繰り返すことによって前記印刷を実行する制御部と、を備え、
前記第1ノズル列に含まれる前記複数のノズルは、前記第1方向の一方端側に位置するm個(mはf≧m>1を満たす自然数)のノズルを含む第1ノズル群と、前記第1方向の他方端側の前記m個のノズルを含む第2ノズル群と、前記第1ノズル群及び前記第2ノズル群の間に位置する複数のノズルを含む第3ノズル群とに区分可能であり、
前記第2ノズル列に含まれる前記複数のノズルは、前記第1方向の前記一方端側に位置するn個(nはm>n≧1を満たす自然数)のノズルを含む第4ノズル群と、前記第1方向の前記他方端側の前記n個のノズルを含む第5ノズル群と、前記第4ノズル群及び前記第5ノズル群の間に位置する複数のノズルを含む第6ノズル群とに区分可能であり、
前記制御部は、
前記第1液体により、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、m本のラスターラインについては、前記第1ノズル群に含まれるノズルと、前記第2ノズル群に含まれるノズルと、前記第3ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の(f-m)本のラスターラインについては、前記第3ノズル群に含まれる2個以上のノズルによって形成し、
前記第2液体により、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、n本のラスターラインについては、前記第4ノズル群に含まれるノズルと、前記第5ノズル群に含まれるノズルと、前記第6ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の(f-n)本のラスターラインについては、前記第6ノズル群に含まれる2個以上のノズルによって形成することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記第1液体は、有彩色の液体であり、前記第2液体は、無彩色の液体であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記第2液体は、前記第1液体と比較して、粘度が高いことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記第2液体は、前記第1液体と比較して、Lab色空間における明度が低い色であることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項5】
媒体に対して第1液体を吐出する複数のノズルが第1方向に沿って配列された第1ノズル列と、前記媒体に対して前記第1液体とは色が異なる第2液体を吐出する複数のノズルが前記第1方向に沿って配列された第2ノズル列と、を有し、前記第1液体及び前記第2液体を吐出することによって前記媒体上に複数のドットを形成可能な印刷ヘッドと、
前記媒体に対する前記印刷ヘッドの相対位置を前記第1方向と交差する第2方向に沿って変化させつつ前記印刷ヘッドから前記第1液体及び前記第2液体を吐出させる主走査と、前記媒体に対する前記印刷ヘッドの相対位置を前記第1方向に沿ってfドット分(fは自然数)だけ変化させる副走査とを繰り返すことによって前記媒体に対する印刷を実行する印刷方法であって、
前記第1ノズル列に含まれる前記複数のノズルは、前記第1方向の一方端側に位置するm個(mはf≧m>1を満たす自然数)のノズルを含む第1ノズル群と、前記第1方向の他方端側の前記m個のノズルを含む第2ノズル群と、前記第1ノズル群及び前記第2ノズル群の間に位置する複数のノズルを含む第3ノズル群とに区分可能であり、
前記第2ノズル列に含まれる前記複数のノズルは、前記第1方向の前記一方端側に位置するn個(nはm>n≧1を満たす自然数)のノズルを含む第4ノズル群と、前記第1方向の前記他方端側の前記n個のノズルを含む第5ノズル群と、前記第4ノズル群及び前記第5ノズル群の間に位置する複数のノズルを含む第6ノズル群とに区分可能であり、
前記第1液体により、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、m本のラスターラインについては、前記第1ノズル群に含まれるノズルと、前記第2ノズル群に含まれるノズルと、前記第3ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の(f-m)本のラスターラインについては、前記第3ノズル群に含まれる2個以上のノズルによって形成し、
前記第2液体により、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、n本のラスターラインについては、前記第4ノズル群に含まれるノズルと、前記第5ノズル群に含まれるノズルと、前記第6ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の(f-n)本のラスターラインについては、前記第6ノズル群に含まれる2個以上のノズルによって形成することを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルが形成された印刷ヘッドを主走査方向に走査しつつノズルからインクを吐出する主走査と、主走査方向と直交する方向に媒体を搬送する副走査とを交互に繰り返すことにより、媒体上に画像を印刷する印刷装置が知られている。印刷ヘッドにおいて、主走査方向に交差する方向に沿って複数のノズルが形成されている場合には、一度の主走査で、主走査方向に沿うラスターラインを複数形成することができる。このような印刷装置において、ノズルの製造誤差等に起因して、一部のラスターライン間に、バンディングと呼ばれる筋状の隙間が生じる場合がある。このため、バンディングを目立たなくするために、1本のラスターラインを複数のノズルで分担して形成するオーバーラップ印刷を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。通常、1本のラスターラインを形成するために用いられるノズルの数が多いほど、バンディングは目立たなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-11859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、1本のラスターラインを形成するためのノズルの数を増やすと、インクの吐出位置がわずかにずれた場合に、吐出されたインクによって媒体上に形成されるドットの粗密差が大きくなってしまうことがある。この結果、画像の粒状性が劣化し、画像がざらついて見える場合があった。そして、インクの色によっては粒状性の劣化が顕著になったり、目立ったりする場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
印刷装置は、媒体に印刷を行う印刷装置であって、前記媒体に対して第1液体を吐出する複数のノズルが第1方向に沿って配列された第1ノズル列と、前記媒体に対して前記第1液体とは色が異なる第2液体を吐出する複数のノズルが前記第1方向に沿って配列された第2ノズル列と、を有し、前記第1液体及び前記第2液体を吐出することによって前記媒体上に複数のドットを形成可能な印刷ヘッドと、前記媒体に対する前記印刷ヘッドの相対位置を前記第1方向と交差する第2方向に沿って変化させつつ前記印刷ヘッドから前記第1液体及び前記第2液体を吐出させる主走査と、前記媒体に対する前記印刷ヘッドの相対位置を前記第1方向に沿ってfドット分(fは自然数)だけ変化させる副走査とを繰り返すことによって前記印刷を実行する制御部と、を備え、前記第1ノズル列に含まれる前記複数のノズルは、前記第1方向の一方端側に位置するm個(mはf≧m>1を満たす自然数)のノズルを含む第1ノズル群と、前記第1方向の他方端側の前記m個のノズルを含む第2ノズル群と、前記第1ノズル群及び前記第2ノズル群の間に位置する複数のノズルを含む第3ノズル群とに区分可能であり、前記第2ノズル列に含まれる前記複数のノズルは、前記第1方向の前記一方端側に位置するn個(nはm>n≧1を満たす自然数)のノズルを含む第4ノズル群と、前記第1方向の前記他方端側の前記n個のノズルを含む第5ノズル群と、前記第4ノズル群及び前記第5ノズル群の間に位置する複数のノズルを含む第6ノズル群とに区分可能であり、前記制御部は、前記第1液体により、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、m本のラスターラインについては、前記第1ノズル群に含まれるノズルと、前記第2ノズル群に含まれるノズルと、前記第3ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の(f-m)本のラスターラインについては、前記第3ノズル群に含まれる2個以上のノズルによって形成し、前記第2液体により、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、n本のラスターラインについては、前記第4ノズル群に含まれるノズルと、前記第5ノズル群に含まれるノズルと、前記第6ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の(f-n)本のラスターラインについては、前記第6ノズル群に含まれる2個以上のノズルによって形成することを特徴とする。
【0006】
印刷方法は、媒体に対して第1液体を吐出する複数のノズルが第1方向に沿って配列された第1ノズル列と、前記媒体に対して前記第1液体とは色が異なる第2液体を吐出する複数のノズルが前記第1方向に沿って配列された第2ノズル列と、を有し、前記第1液体及び前記第2液体を吐出することによって前記媒体上に複数のドットを形成可能な印刷ヘッドと、前記媒体に対する前記印刷ヘッドの相対位置を前記第1方向と交差する第2方向に沿って変化させつつ前記印刷ヘッドから前記第1液体及び前記第2液体を吐出させる主走査と、前記媒体に対する前記印刷ヘッドの相対位置を前記第1方向に沿ってfドット分(fは自然数)だけ変化させる副走査とを繰り返すことによって前記媒体に対する印刷を実行する印刷方法であって、前記第1ノズル列に含まれる前記複数のノズルは、前記第1方向の一方端側に位置するm個(mはf≧m>1を満たす自然数)のノズルを含む第1ノズル群と、前記第1方向の他方端側の前記m個のノズルを含む第2ノズル群と、前記第1ノズル群及び前記第2ノズル群の間に位置する複数のノズルを含む第3ノズル群とに区分可能であり、前記第2ノズル列に含まれる前記複数のノズルは、前記第1方向の前記一方端側に位置するn個(nはm>n≧1を満たす自然数)のノズルを含む第4ノズル群と、前記第1方向の前記他方端側の前記n個のノズルを含む第5ノズル群と、前記第4ノズル群及び前記第5ノズル群の間に位置する複数のノズルを含む第6ノズル群とに区分可能であり、前記第1液体により、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、m本のラスターラインについては、前記第1ノズル群に含まれるノズルと、前記第2ノズル群に含まれるノズルと、前記第3ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の(f-m)本のラスターラインについては、前記第3ノズル群に含まれる2個以上のノズルによって形成し、前記第2液体により、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、n本のラスターラインについては、前記第4ノズル群に含まれるノズルと、前記第5ノズル群に含まれるノズルと、前記第6ノズル群に含まれるノズルとによって形成し、他の(f-n)本のラスターラインについては、前記第6ノズル群に含まれる2個以上のノズルによって形成することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】印刷装置の構成を簡易的に示す図。
図2】媒体と印刷ヘッドとを上方からの視点により簡易的に示す図。
図3A】第1態様のオーバーラップ印刷におけるノズル列を示す図。
図3B】第1態様のオーバーラップ印刷のパス1~14におけるノズルの位置と形成されるドットとを示す図。
図4A】第2態様のオーバーラップ印刷におけるノズル列を示す図。
図4B】第2態様のオーバーラップ印刷のパス1~14におけるノズルの位置と形成されるドットとを示す図。
図5A】媒体が搬送される過程でインクの吐出位置が徐々に主走査方向にずれていく場合のドットの位置を示す図。
図5B】媒体が搬送される過程でインクの吐出位置が徐々に主走査方向にずれていく場合のドットの位置を示す図。
図6A】インクの吐出位置が主走査方向及び副走査方向の両方向にずれる場合のドットの位置を示す図。
図6B】インクの吐出位置が主走査方向及び副走査方向の両方向にずれる場合のドットの位置を示す図。
図7】制御部がプログラムに従って実行する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。各図は、例示であるため、比率や形状が正確でなかったり、互いに整合していなかったり、一部が省略されていたりする場合がある。
【0009】
図1は、本実施形態にかかる印刷装置10の構成を簡易的に示す図である。印刷装置10は、用紙等の媒体30(図2参照)に、インク等の液体を吐出することにより、画像の印刷を行う。
印刷装置10は、制御部11、表示部13、操作受付部14、記憶部15、通信IF16、搬送部17、キャリッジ18、印刷ヘッド19等を備える。IFは、インターフェイスの略である。制御部11は、プロセッサーとしてのCPU11a、ROM11b、及びRAM11c等を有する1つ又は複数のICや、その他のメモリー等を含んで構成される。
【0010】
制御部11は、プロセッサー、つまりCPU11aが、ROM11bや、その他のメモリー等に保存されたプログラム12に従った演算処理を、RAM11c等をワークエリアとして用いて実行することにより、印刷装置10の動作を制御する。プロセッサーは、1つのCPUに限られることなく、複数のCPUであってもよいし、ASIC等のハードウェア回路により処理を行う構成であってもよい。また、CPUとハードウェア回路とが協働して処理を行う構成であってもよい。
【0011】
表示部13は、視覚情報を表示するための手段であり、例えば、液晶ディスプレイや、有機ELディスプレイ等により構成される。表示部13は、ディスプレイと、ディスプレイを駆動するための駆動回路と、を含む構成であってもよい。
【0012】
操作受付部14は、ユーザーによる入力を受け付けるための手段であり、例えば、物理的なボタンや、タッチパネルや、マウスや、キーボード等によって実現される。むろん、タッチパネルは、表示部13の一機能として実現されてもよい。表示部13及び操作受付部14を含めて、印刷装置10の操作パネルと呼んでもよい。
【0013】
記憶部15は、例えば、ハードディスクドライブや、ソリッドステートドライブや、その他のメモリーによる記憶手段である。制御部11が有するメモリーの一部を記憶部15と捉えてもよい。記憶部15を、制御部11の一部と捉えてもよい。表示部13、操作受付部14、及び記憶部15は、印刷装置10に外付けされる周辺機器であってもよい。
【0014】
通信IF16は、印刷装置10が所定の通信プロトコルに準拠して有線又は無線で外部装置と通信を実行するための1つ又は複数のIFの総称である。外部装置とは、例えば、パーソナルコンピューター、サーバー、スマートフォン、タブレット型端末等の通信装置である。
【0015】
搬送部17は、制御部11による制御下で、媒体30(図2参照)を所定の副走査方向D2(図2参照)に沿って搬送するための手段である。搬送部17は、例えば、回転して媒体30を搬送するローラーや、回転の動力源としてのモーター等を備える。搬送部17は、パレットやベルト、ドラム等に媒体30を搭載して媒体30を搬送する機構であってもよい。媒体30は、例えば用紙であるが、液体による印刷の対象となり得る媒体であればよく、生地やフィルム等、紙以外の素材であってもよい。
【0016】
キャリッジ18は、制御部11による制御下で、図示しないキャリッジモーターの動力により、副走査方向D2に交差する主走査方向D1(図2参照)に沿って往復移動を行う移動手段である。主走査方向D1は、典型的には副走査方向D2に直交する。キャリッジ18は、印刷ヘッド19を搭載している。キャリッジ18の移動により、媒体30に対する印刷ヘッド19の相対位置を主走査方向D1に沿って変化させつつ、印刷データに基づいて印刷ヘッド19からインクを吐出させる動作を「主走査」或いは「パス」と呼ぶ。また、n回目のパスのことを「パスn」とも呼ぶ。主走査方向D1は、第2方向に相当し、副走査方向D2は、第1方向に相当する。
【0017】
パスとパスとの間に、搬送部17が媒体30を、副走査方向D2(図2参照)に決められた距離だけ搬送する動作を「副走査」或いは「紙送り」と呼ぶ。つまり、搬送部17は、1パスごとに、媒体30に対する印刷ヘッド19の相対位置を副走査方向D2に沿って所定の移動量だけ変化させる。制御部11は、このように印刷ヘッド19、キャリッジ18、及び搬送部17を制御して、主走査と副走査とを交互に繰り返すことにより、媒体30に対して2次元の画像の印刷を実行する。
【0018】
印刷ヘッド19は、液体を吐出するための複数のノズル20を有する。印刷ヘッド19がノズル20から媒体30に液体を吐出することにより、媒体30上に複数のドットが形成される。以下では、液体はインクであるとして説明を続けるが、印刷ヘッド19が吐出する液体は、インク以外の液体であってもよい。
【0019】
印刷ヘッド19は、制御部11によって生成された、画像を印刷するための印刷データに基づいてインクの吐出を行う。知られているように、制御部11は、ノズル20ごとに備わる不図示の駆動素子への駆動信号の印加を、印刷データに従って制御して、各ノズル20からインクを吐出させたり吐出させなかったりすることで、媒体30に画像を印刷する。印刷ヘッド19は、インクカートリッジやインクタンク等と呼ばれる不図示の液体保持手段から各色のインクの供給を受けて、ノズル20からインクを吐出する。印刷ヘッド19は、インク色別に、複数のノズル20が配列されたノズル列26を備える。本実施形態では、印刷ヘッド19は、4つのノズル列26を備えており、それぞれのノズル列26から異なる色のインクを吐出する。具体的には、印刷ヘッド19は、シアンインク(C)、マゼンタインク(M)、イエローインク(Y)、ブラックインク(K)の各色のインクを吐出可能である。むろん、印刷ヘッド19が吐出するインクは、CMYKに限定されない。
【0020】
図2は、媒体30と印刷ヘッド19とを上方からの視点により簡易的に示す図であり、印刷ヘッド19の下面であるノズル面23を透過して示している。4つのノズル列26のうち、ノズル列26Cに含まれるノズル20は、シアンインクを吐出する。また、ノズル列26Mに含まれるノズル20は、マゼンタインクを吐出し、ノズル列26Yに含まれるノズル20は、イエローインクを吐出し、ノズル列26Kに含まれるノズル20は、ブラックインクを吐出する。印刷ヘッド19は、媒体30に各色のインクを吐出することにより、媒体30上に各色のドットを複数形成することができる。
【0021】
ノズル列26を構成する複数のノズル20が並ぶ方向を「ノズル配列方向D3」とも呼ぶ。図2の例では、ノズル配列方向D3は、副走査方向D2と平行である。従って、ノズル列26を構成する複数のノズル20は、副走査方向D2に沿って配列されていると言える。このような構成では、ノズル配列方向D3は、主走査方向D1と直交する。ただし、ノズル配列方向D3は、副走査方向D2に対して平行でなく斜めであってもよい。ノズル配列方向D3が副走査方向D2と平行であってもなくても、ノズル配列方向D3は、主走査方向D1と交差していると言えるし、ノズル列26を構成する複数のノズル20は、副走査方向D2において所定のノズルピッチで並んでいると言える。従って、本実施形態では、ノズル配列方向D3が副走査方向D2に対して斜めであっても、ノズル列26を構成する複数のノズル20は、副走査方向D2に沿って配列されていると解釈される。
【0022】
キャリッジ18に搭載された印刷ヘッド19は、キャリッジ18とともに主走査方向D1の一端から他端への移動である往路移動や、他端から一端への移動である復路移動を行う。図2では、ノズル面23におけるノズル20の配列の一例を示している。ノズル面23は、印刷ヘッド19の下面であり、媒体30と対向する面である。ノズル面23内の個々の小さな丸が個々のノズル20を表している。
【0023】
図2の例では、ノズル列26C,26M,26Y,26Kは、主走査方向D1に沿って並んでいる。また、これら色別の複数のノズル列26は、副走査方向D2において同じ位置に配設されている。ノズル列26C,26M,26Y,26Kのそれぞれにおいて、複数のノズル20は、一定、或いはほぼ一定のノズルピッチで副走査方向D2に配列されている。ノズルピッチとは、副走査方向D2におけるノズル20同士の間隔である。
【0024】
ノズルピッチは、k・dで表される。ここで、dは、副走査方向D2における最小のドットピッチである。言い換えれば、dは、媒体30に形成されるドットの最高解像度でのドット間の間隔である。また、kは、1以上の自然数である。例えば、ノズルピッチが180dpi(1/180インチ)であって、副走査方向D2のドットピッチが360dpi(1/360インチ)である場合、k=2である。
【0025】
図2において、各ノズル列26には、180個のノズル20が含まれている。各ノズル20には、媒体30の搬送方向である副走査方向D2の下流側ほど若い番号となるように、#1~#180の番号が付されている。つまり、#1のノズル20は、♯180のノズル20よりも副走査方向D2の下流側に位置している。
【0026】
なお、図1に示す印刷装置10の構成は、一台のプリンターによって実現されてもよいし、互いに通信可能に接続した複数の装置により実現されてもよい。つまり、印刷装置10は、実態として印刷システムであってもよい。印刷システムは、例えば、制御部11や記憶部15として機能する印刷制御装置と、搬送部17、キャリッジ18、印刷ヘッド19等を有するプリンターと、を含む。このような印刷装置10又は印刷システムにより、本実施形態の印刷方法が実現される。
【0027】
次に、印刷装置10による印刷方法について説明する。
媒体30上に、1色のインクによって主走査方向D1に延びる1本のラスターラインを形成する場合、本実施形態では、1つのノズル20のみから繰り返しインクを吐出して、1回のパスでラスターラインを形成することはせずに、複数回のパスでラスターラインを形成する。具体的には、1回目のパスでは、1つのノズル20から間欠的にインクを吐出し、2回目のパスでは、1回目でインクが吐出されていない位置に、1回目とは異なるノズル20からインクを吐出する。このように、複数の異なるノズル20を用いて、複数回のパスを経てラスターラインを形成する印刷方法を、オーバーラップ印刷と呼ぶ。オーバーラップ印刷を行うことで、ノズル20の製造誤差等に起因して生じるバンディングを目立たなくすることができる。通常、1本のラスターラインを形成するために用いられるノズル20の数が多いほど、バンディングは目立たなくなる。また、オーバーラップ印刷には、すべてのラスターラインを同数のノズル20で形成する態様や、一部のラスターラインを形成するために用いられるノズル20の数と、他のラスターラインを形成するために用いられるノズル20の数とを異ならせる態様等、様々な態様が含まれる。
【0028】
図3A及び図3Bは、第1態様のオーバーラップ印刷を説明するための説明図であり、図3Aは、ノズル列26を示す図、図3Bは、パス1~14におけるノズル20の位置と形成されるドットとを示す図である。
【0029】
説明の都合上、4つあるノズル列26のうちの1つのノズル列26のみを示し、1つのノズル列26に含まれるノズル20の数も、実際よりも少ない15個としている。この例において、ノズルピッチは、4dである。また、図3Bにおいて、ノズル列26が媒体30に対して移動しているように描かれているが、同図はノズル列26と媒体30との相対的な位置を示すものであって、実際には媒体30が副走査方向D2に移動している。この例において、1パスごとの副走査における媒体30の移動量は、5dである。また、各ノズル20が主走査方向D1に数ドットずつしか形成していないように示されているが、実際には、主走査方向D1に移動するノズル20から間欠的にインク滴が吐出されるので、主走査方向D1に多数のドットが並ぶことになる。このドットの列が上述したラスターラインである。
【0030】
図3Aにおいて、15個のノズル20のうち、副走査方向D2の一方端側である下流端側に位置する5個のノズル20は、二重丸のマークで示されている。これらのノズル20は、下流端側ノズル群N11を構成する。つまり、第1態様における下流端側ノズル群N11には、#1~#5の5個のノズル20が含まれる。また、副走査方向D2の他方端側である上流端側に位置する5個のノズル20は、丸の中に×印が付されたマークで示されている。これらのノズル20は、上流端側ノズル群N12を構成する。つまり、第1態様における上流端側ノズル群N12には、#11~#15の5個のノズル20が含まれる。また、下流端側ノズル群N11と上流端側ノズル群N12との間に位置する5個のノズル20は、黒丸のマークで示されている。これらのノズル20は、中間ノズル群N13を構成する。つまり、第1態様における中間ノズル群N13には、#6~#10の5個のノズル20が含まれる。
【0031】
このように、第1態様において、ノズル列26に含まれるノズル20は、下流端側ノズル群N11、上流端側ノズル群N12、及び中間ノズル群N13の3つのノズル群に区分可能である。第1態様における下流端側ノズル群N11は、第1ノズル群に相当し、第1態様における上流端側ノズル群N12は、第2ノズル群に相当し、第1態様における中間ノズル群N13は、第3ノズル群に相当する。
【0032】
図3Bにおいて、媒体30に形成されたドットは、どのノズル群に含まれるノズル20によって形成されたドットであるのかが分かるように、ノズル20のマークと同じマークで示されている。つまり、図3Bにおいて、最上位に位置しているラスターラインは、下流端側ノズル群N11に含まれる#4のノズル20と、上流端側ノズル群N12に含まれる#14のノズル20と、中間ノズル群N13に含まれる#9のノズル20の、3個のノズル20で形成される。ここで、中間ノズル群N13に含まれる#9のノズル20は、2回に1回の割合で間欠的にドットを形成し、下流端側ノズル群N11に含まれる#4のノズル20、及び上流端側ノズル群N12に含まれる#14のノズル20は、それぞれ4回に1回の割合で間欠的にドットを形成する。
【0033】
また、上から2番目のラスターラインは、下流端側ノズル群N11に含まれる#3のノズル20と、上流端側ノズル群N12に含まれる#13のノズル20と、中間ノズル群N13に含まれる#8のノズル20の、3個のノズル20で形成される。また、上から3番目のラスターラインは、下流端側ノズル群N11に含まれる#2のノズル20と、上流端側ノズル群N12に含まれる#12のノズル20と、中間ノズル群N13に含まれる#7のノズル20の、3個のノズル20で形成される。また、上から4番目のラスターラインは、下流端側ノズル群N11に含まれる#1のノズル20と、上流端側ノズル群N12に含まれる#11のノズル20と、中間ノズル群N13に含まれる#6のノズル20の、3個のノズル20で形成される。また、上から5番目のラスターラインは、下流端側ノズル群N11に含まれる#5のノズル20と、上流端側ノズル群N12に含まれる#15のノズルと、中間ノズル群N13に含まれる#10のノズル20の、3個のノズル20で形成される。
【0034】
上から6番目のラスターラインは、最上位のラスターラインと同じノズル20で形成される。つまり、1パスごとの副走査における媒体30の移動量が5dであることに起因して、これ以降のラスターラインも、5つ上のラスターラインと同じノズル20によって形成される。言い換えれば、1パスごとの副走査における媒体30の移動量がf・d、即ちfドット分(fは自然数)である場合には、ラスターラインを形成するノズル20の構成は、f本のラスターラインごとに繰り返される。また、最上位のラスターラインと同様、他のラスターラインについても、中間ノズル群N13に含まれるノズル20は、2回に1回の割合で間欠的にドットを形成し、下流端側ノズル群N11及び上流端側ノズル群N12に含まれるノズル20は、それぞれ4回に1回の割合で間欠的にドットを形成する。
【0035】
このように、第1態様のオーバーラップ印刷では、連続する5本のラスターラインのうち5本のラスターライン、即ちすべてのラスターラインは、それぞれが異なるノズル群に属する3個のノズルによって形成される。
【0036】
図4A及び図4Bは、第2態様のオーバーラップ印刷を説明するための説明図であり、図4Aは、ノズル列26を示す図、図4Bは、パス1~14におけるノズル20の位置と形成されるドットとを示す図である。第1態様と同様、1つのノズル列26に含まれるノズル20の数を15個としている。また、第1態様と同様、ノズルピッチは、4dであり、1パスごとの副走査における媒体30の移動量は、5dである。
【0037】
図4Aにおいて、15個のノズル20のうち、副走査方向D2の上流側に位置する4つのノズル20は、白丸のマークで示されている。これらのノズル20は、インクを吐出しない不使用ノズルである。このため、第2態様において、ノズル列26には、実質的に11個のノズル20が含まれる。インクを吐出する11個のノズル20のうち、副走査方向D2の一方端側である下流端側に位置する1個のノズル20は、二重丸のマークで示されている。このノズル20は、下流端側ノズル群N21を構成する。つまり、第2態様における下流端側ノズル群N21には、#1の1個のノズル20が含まれる。また、11個のノズル20のうち、副走査方向D2の他方端側である上流端側に位置する1個のノズル20は、丸の中に×印が付されたマークで示されている。このノズル20は、上流端側ノズル群N22を構成する。つまり、第2態様における上流端側ノズル群N22には、#11の1個のノズル20が含まれる。また、下流端側ノズル群N21と上流端側ノズル群N22との間に位置する9個のノズル20は、黒丸のマークで示されている。これらのノズル20は、中間ノズル群N23を構成する。つまり、第2態様における中間ノズル群N23には、#2~#10の9個のノズル20が含まれる。
【0038】
このように、第2態様において、ノズル列26に含まれるノズル20は、下流端側ノズル群N21、上流端側ノズル群N22、及び中間ノズル群N23の3つのノズル群に区分可能である。第2態様における下流端側ノズル群N21は、第4ノズル群に相当し、第2態様における上流端側ノズル群N22は、第5ノズル群に相当し、第2態様における中間ノズル群N23は、第6ノズル群に相当する。
【0039】
図4Bにおいても、媒体30に形成されたドットは、どのノズル群に含まれるノズル20によって形成されたドットであるのかが分かるように、ノズル20のマークと同じマークで示されている。つまり、図4Bにおいて、最上位に位置しているラスターラインは、中間ノズル群N23に含まれる#4のノズル20と、同じく中間ノズル群N23に含まれる#9のノズル20の、2個のノズル20で形成される。ここで、#4のノズル20と、#9のノズル20は、ともに2回に1回の割合で間欠的にドットを形成する。
【0040】
また、上から2番目、3番目、及び5番目のラスターラインも、中間ノズル群N23に含まれる2つのノズル20で形成される。具体的には、上から2番目のラスターラインは、#3のノズル20と#8のノズル20で形成され、上から3番目のラスターラインは、#2のノズル20と、#7のノズル20で形成され、上から5番目のラスターラインは、#5のノズル20と、#10のノズル20で形成される。1番目のラスターラインと同様、2番目、3番目、及び5番目のラスターラインについても、2つのノズル20のそれぞれは、2回に1回の割合で間欠的にドットを形成する。
【0041】
これに対して、上から4番目のラスターラインは、下流端側ノズル群N21に含まれる#1のノズル20と、上流端側ノズル群N22に含まれる#11のノズル20と、中間ノズル群N23に含まれる#6のノズル20の、3個のノズル20で形成される。そして、中間ノズル群N23に含まれる#6のノズル20は、2回に1回の割合で間欠的にドットを形成し、下流端側ノズル群N21に含まれる#1のノズル20、及び上流端側ノズル群N22に含まれる#11のノズル20は、それぞれ4回に1回の割合で間欠的にドットを形成する。
【0042】
また、上から6番目のラスターラインは、最上位のラスターラインと同じノズル20で形成される。つまり、ラスターラインを形成するノズル20の構成は、1パスごとの副走査における媒体30の移動量が5dであることに起因して、5本のラスターラインごとに繰り返される。
【0043】
このように、第2態様のオーバーラップ印刷では、連続する5本のラスターラインのうち、4本のラスターラインは、中間ノズル群N23に含まれる2つのノズル20で形成される。そして、他の1本のラスターラインは、それぞれが異なるノズル群に属する3個のノズルによって形成される。
【0044】
第1態様におけるすべてのラスターラインと、第2態様における上から4番目のラスターラインのように、異なる3つのノズル群のノズル20によって形成されるラスターラインのことを「補完ラスターライン」と定義する。つまり、第1態様では、連続する5本のラスターラインのうち5本すべてのラスターラインが補完ラスターラインであり、第2態様では、連続する5本のラスターラインのうち1本のラスターラインが補完ラスターラインである。補完ラスターラインは、1つのノズル群に含まれる2つのノズル20によって形成される他のラスターラインよりも、多くのノズル20を用いて形成される。
【0045】
第1態様において、下流端側ノズル群N11に含まれるノズル20の数をm個(mは自然数)とすると、上流端側ノズル群N12に含まれるノズル20の数もm個であり、本実施形態では、m=5である。そして、第1態様において、連続する5本のラスターラインに含まれる補完ラスターラインの数は、5であり、mと等しい。一方、連続する5本のラスターラインのうち、補完ラスターライン以外のラスターラインの数は、0である。つまり、1パスごとの副走査における媒体30の移動量をf・dとすると、連続するf本のラスターラインに含まれる補完ラスターラインの数は、下流端側ノズル群N11又は上流端側ノズル群N12に含まれるノズル20の数であるmと一致する。そして、連続するf本のラスターラインのうち、補完ラスターライン以外のラスターラインの数は、f-mである。
【0046】
同様に、第2態様において、下流端側ノズル群N21に含まれるノズル20の数をn個(nは自然数)とすると、上流端側ノズル群N22に含まれるノズル20の数もn個であり、本実施形態では、n=1である。そして、第2態様において、連続する5本のラスターラインに含まれる補完ラスターラインの数は、1であり、nと等しい。一方、連続する5本のラスターラインのうち、補完ラスターライン以外のラスターラインの数は、4である。つまり、1パスごとの副走査における媒体30の移動量をf・dとすると、連続するf本のラスターラインに含まれる補完ラスターラインの数は、下流端側ノズル群N21又は上流端側ノズル群N22に含まれるノズル20の数であるnと一致する。そして、連続するf本のラスターラインのうち、補完ラスターライン以外のラスターラインの数は、f-nである。
【0047】
また、1つのラスターラインの形成に要するパスの数、即ち1つのラスターラインの形成に使用されるノズル20の数を、オーバーラップ数と定義すると、第1態様では、すべてのラスターラインにおいて、オーバーラップ数は3である。一方、第2態様では、連続する5本のラスターラインのうち、補完ラスターラインである1本のラスターラインのオーバーラップ数は3であり、他の4本のラスターラインのオーバーラップ数は2である。
【0048】
上述したように、ラスターラインを形成するノズル20の数が多いほど、即ち多くのノズル20を使用して形成されたラスターラインが多いほど、バンディングは目立たなくなる。このため、すべてのラスターラインを補完ラスターラインとする第1態様のオーバーラップ印刷は、5本中1本のラスターラインを補完ラスターラインとする第2態様のオーバーラップ印刷に比べて、バンディングを目立たなくすることができる。
【0049】
しかしながら、印刷装置10の動作状態や、各種部品の誤差等に起因して、インクが吐出される位置が本来の位置からずれた場合には、ノズル20の数が多いほど、ドットの粒状性が劣化する場合がある。ここで、粒状性が劣化した状態とは、ドットの粗密差が大きくなって、画像がざらついて見える状態である。
【0050】
図5A及び図5Bは、媒体30が搬送される過程でインクの吐出位置が徐々に主走査方向D1にずれていく場合のドットの位置を示す図であり、各ドットの位置は、シミュレーションによって求められている。ここで、図5Aは、図3B及び図4Bと同じマークで各ドットを表した図であり、図5Bは、粒状性の相違が分かりやすいように、すべてのドットを黒丸のマークで表した図である。両図において、A1に示すドット群は、第1態様のオーバーラップ印刷を実行した場合に形成されるドット群であり、A2に示すドット群は、第2態様のオーバーラップ印刷を実行した場合に形成されるドット群である。このような吐出位置の主走査方向D1のずれは、例えば、主走査方向D1に並んで配置される複数の搬送ローラーのうち、主走査方向D1の一方側の搬送ローラーの直径が他方側の搬送ローラーの直径と異なっている場合等に発生し得る。
【0051】
図5Bに示すように、補完ラスターラインが多い第1態様のオーバーラップ印刷のほうが、第2態様のオーバーラップ印刷と比べて、粒状性が劣化している。
【0052】
図6A及び図6Bは、インクの吐出位置が主走査方向D1及び副走査方向D2の両方向にずれる場合のドットの位置を示す図であり、各ドットの位置は、シミュレーションによって求められている。ここで、図6Aは、図3B及び図4Bと同じマークで各ドットを表した図であり、図6Bは、粒状性の相違が分かりやすいように、すべてのドットを黒丸のマークで表した図である。両図において、B1に示すドット群は、第1態様のオーバーラップ印刷を実行した場合に形成されるドット群であり、B2に示すドット群は、第2態様のオーバーラップ印刷を実行した場合に形成されるドット群である。このような吐出位置のずれは、例えば、媒体30として単票紙を搬送する際に、媒体30を上下方向に押圧して搬送するニップローラーから媒体30が外れる際に、媒体30が跳ね上がって、媒体30と印刷ヘッド19との距離が変動することで発生し得る。
【0053】
このような吐出位置のずれは、媒体30がニップローラーから外れたタイミングのみで生じるため、影響を受けるのは1パス程度である。但し、多くのパスでラスターラインを形成する印刷方法、即ち多くのノズル20を用いてラスターラインを形成する印刷方法では、大きな影響を受ける。言い換えれば、オーバーラップ数の多い印刷方法、或いは、補完ラスターラインが多い印刷方法では、影響が大きくなる。
【0054】
図6Bに示すように、この例でも、補完ラスターラインが多い第1態様のオーバーラップ印刷のほうが、第2態様のオーバーラップ印刷と比べて、粒状性が劣化している。
【0055】
本実施形態では、吐出位置のずれに伴う粒状性が劣化の抑制を図りつつ、オーバーラップ印刷によるバンディングの抑制を維持するため、インクの色によってオーバーラップ印刷の態様を第1態様又は第2態様に切り替える。具体的には、吐出位置のずれに伴う粒状性の劣化は、視認性の高い色で特に目立ってしまうため、視認性が相対的に高い色のインクによる印刷は、第2態様のオーバーラップ印刷で行われ、視認性が相対的に低い色のインクによる印刷は、第1態様のオーバーラップ印刷で行われる。具体的には、無彩色のインクの視認性が相対的に高いことから、無彩色であるインク、即ちノズル列26Kから吐出されるブラックインクによる印刷は、第2態様のオーバーラップ印刷で行われる。一方、有彩色である他のインク、即ち、ノズル列26Cから吐出されるシアンインク、ノズル列26Mから吐出されるマゼンタインク、及びノズル列26Yから吐出されるイエローインクによる印刷は、第1態様のオーバーラップ印刷で行われる。
【0056】
つまり、本実施形態では、制御部11は、ブラックインクにより5本のラスターラインを形成する場合に、5本すべてのラスターラインを、下流端側ノズル群N11に含まれるノズル20と、上流端側ノズル群N12に含まれるノズル20と、中間ノズル群N13に含まれるノズル20とによって形成する。また、制御部11は、ブラックインク以外のインクにより5本のラスターラインを形成する場合に、1本のラスターラインについては、下流端側ノズル群N21に含まれるノズル20と、上流端側ノズル群N22に含まれるノズル20と、中間ノズル群N23に含まれるノズル20とによって形成し、他の4本のラスターラインについては、中間ノズル群N23に含まれる2つのノズル20によって形成する。
【0057】
図7は、本実施形態において制御部11がプログラム12に従って実行する処理を示すフローチャートである。
なお、図7に示すフローに先立って、制御部11は、ユーザーによって指定された画像データを印刷装置10によって印刷可能な印刷データに変換する。
【0058】
具体的には、制御部11は、まず、印刷対象の画像を表す画像データを取得する。例えば、制御部11は、ユーザーによる操作受付部14の操作を通じて指定された画像データを、記憶部15や、印刷装置10内の他のメモリー等から取得する。或いは、制御部11は、通信IF16を介して画像データを受信してもよい。
【0059】
制御部11は、取得した画像データが画素ごとに、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の階調値を有するRGBデータであれば、インクにて表現可能なCMYKデータに変換する。例えば、制御部11は、RGBとCMYKとの対応関係を規定した色変換テーブル等を参照してRGBの各階調値を、CMYKの各階調値に変換する。
【0060】
制御部11は、変換により得られたCMYKの各階調値を、ディザ法や誤差拡散法等を用いたハーフトーン処理により、CMYKそれぞれのドットオン又はドットオフを表す値へ変換する。ドットオンは、ドットの吐出を意味し、ドットオフはドットの非吐出を意味する。この結果、各画素についてCMYKインクそれぞれのドットオン又はドットオフを規定した印刷データが生成される。
【0061】
ハーフトーン処理により印刷データが生成されると、制御部11は、ステップS110~S160の動作を実行することで、オーバーラップ印刷の印刷態様を決定するとともに、決定した印刷態様に基づいて、印刷データにラスタライズ処理を施す。ラスタライズ処理とは、各パスにおいてどのノズル20からどういう順番でインクを吐出するのかを規定するラスターデータを、インク色ごとに生成する処理である。印刷データが同一であっても、オーバーラップ印刷の印刷態様が異なれば、生成されるラスターデータは異なる。
【0062】
まず、制御部11は、CMYKの4つのインク色のうち、1つを選択し(ステップS110)、選択したインク色が無彩色、即ちブラックであるか否かを判断する(ステップS120)。そして、選択したインク色が無彩色でない場合、即ち、シアン、マゼンタ、或いはイエローである場合(ステップS120:NO)には、制御部11は、オーバーラップ印刷の印刷態様を第1態様に決定する(ステップS130)。一方、選択したインク色が無彩色、即ち、ブラックである場合(ステップS120:YES)には、制御部11は、オーバーラップ印刷の印刷態様を第2態様に決定する(ステップS140)。その後、制御部11は、すべてのインク色について印刷態様が決定したか否かを判断し(ステップS150)、まだ決定していないインク色がある場合(ステップS150:NO)には、次のインク色を選択し(ステップS110)、上記の動作を繰り返す。
【0063】
すべてのインク色について、印刷態様が決定すると(ステップS150:YES)、制御部11は、上述したラスタライズ処理を実行する。具体的には、制御部11は、印刷データと、決定した印刷態様とに基づいて、ラスターデータを生成し(ステップS160)、フローを終了する。
上記のフローによってラスターデータが生成されると、制御部11は、生成したラスターデータに基づいて、媒体30へのインクの吐出、即ち画像の印刷を実行する。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の印刷装置10によれば、以下の効果を得ることができる。
【0065】
本実施形態によれば、インクの色に応じて印刷態様を変化させている。言い換えれば、インクの色に応じて、所定数のラスターラインに含まれる補完ラスターラインの数、或いは、ラスターラインを形成するノズル20の数を変化させている。このため、粒状性の劣化が目立ちやすい色のインクについては、他の色のインクに比べてラスターラインを構成するノズル20の数を少なくすることで、バンディングの抑制と、粒状性の劣化の抑制とを両立させることが可能となる。
【0066】
また、本実施形態によれば、無彩色のインクであるブラックインクによる印刷は、相対的に少ないノズル20を使用する第2態様で実行し、有彩色のインクである他の色のインクによる印刷は、相対的に多くのノズル20を使用する第1態様で実行している。一般的に、無彩色のインクは、有彩色のインクに比べて粒状性の劣化が目立ちやすい。このため、無彩色のインクによる印刷で使用されるノズル20の数を、有彩色のインクによる印刷に比べて少なくすることにより、粒状性の劣化を目立たなくすることが可能となる。
【0067】
なお、上記実施形態では、第1態様のオーバーラップ印刷によって吐出されるシアンインク、マゼンタインク、及びイエローインクが第1液体に相当し、第2態様のオーバーラップ印刷によって吐出されるブラックインクは、第2液体に相当する。また、ノズル列26C,26M,26Yは、第1ノズル列に相当し、ノズル列26Kは、第2ノズル列に相当する。
【0068】
上記の実施形態は、以下のように変更してもよい。
【0069】
上記実施形態では、インクが無彩色であるか否かに基づいて、オーバーラップ印刷の印刷態様、すなわちラスターラインを形成するノズル20の数を変化させているが、この構成に限定されない。例えば、インクの粘度に基づいて、オーバーラップ印刷の印刷態様を変化させてもよい。一般的に、粘度が高いインクは、媒体30上に吐出された後に広がりにくいため、粒状性の劣化が目立ちやすい。このため、相対的に粘度が低いインクによる印刷は、第1態様で実行し、相対的に粘度が高いインクによる印刷は、第2態様で実行することが望ましい。言い換えれば、第2態様のオーバーラップ印刷が実行されるインクは、第1態様のオーバーラップ印刷が実行されるインクと比較して、粘度が高いことが望ましい。
【0070】
また、Lab色空間におけるインクの明度に基づいて、オーバーラップ印刷の印刷態様を変化させてもよい。一般的に、媒体30の色が白色等、明度が高い色の場合には、明度が低いインクのほうが粒状性の劣化が目立ちやすい。このため、相対的に明度が高いインクによる印刷は、第1態様で実行し、相対的に明度が低いインクによる印刷は、第2態様で実行することが望ましい。つまり、媒体30の色の明度が高い場合には、第2態様のオーバーラップ印刷が実行されるインクは、第1態様のオーバーラップ印刷が実行されるインクと比較して、明度が低いことが望ましい。
【0071】
一方、媒体30の色が黒色等、明度が低い色の場合には、明度が高いインクのほうが粒状性の劣化が目立ちやすい。このため、相対的に明度が低いインクによる印刷は、第1態様で実行し、相対的に明度が高いインクによる印刷は、第2態様で実行することが望ましい。つまり、媒体30の色の明度が低い場合には、第2態様のオーバーラップ印刷が実行されるインクは、第1態様のオーバーラップ印刷が実行されるインクと比較して、明度が高いことが望ましい。
【0072】
上記実施形態において、ノズル列26に含まれるノズル20の数、ノズルピッチ、及び1パスごとの副走査における媒体30の移動量は、上記に限定されない。また、1パスごとの副走査における媒体30の移動量は、媒体30の全域で一定でなくてもよく、例えば、媒体30の上流端側、及び下流端側では、中間の領域に比べて移動量が小さくてもよい。
【0073】
上記実施形態において、第1態様における下流端側ノズル群N11又は上流端側ノズル群N12に含まれるノズル20の数をm個とし、第2態様における下流端側ノズル群N21又は上流端側ノズル群N22に含まれるノズル20の数をn個とすると、mは5であり、nは1である。つまり、1パスごとの副走査における媒体30の移動量が5dである場合に、第1態様では、連続する5本のラスターラインのうち5本すべてが補完ラスターラインであり、第2態様では、連続する5本のラスターラインのうち1本のラスターラインが補完ラスターラインである。ただし、m及びnの値は、上記に限定されない。1パスごとの副走査における媒体30の移動量がf・dである場合に、f≧m>n≧1の関係を満たせばよい。言い換えれば、f本のラスターラインに含まれる補完ラスターラインの数が、第2態様に比べて第1態様のほうが多ければよい。さらに言い換えれば、f本のラスターラインを形成するノズル20の総数、或いはf本のラスターラインにおけるオーバーラップ数の和が、第2態様に比べて第1態様のほうが多ければよい。
【0074】
上記実施形態では、第1態様における下流端側ノズル群N11又は上流端側ノズル群N12に含まれるノズル20の数をm個とし、1パスごとの副走査における媒体30の移動量をf・dとするとき、f=m(=5)である例を示したが、f>mであってもよい。この場合、制御部11は、連続するf本のラスターラインを形成する場合に、m本のラスターラインを補完ラスターラインとし、(f-m)本のラスターラインについては、中間ノズル群N13に含まれる複数のノズル20で形成すればよい。
【0075】
上記実施形態では、補完ラスターラインは、3個のノズル20によって形成されているが、補完ラスターラインを形成するノズル20の数は、3個に限定されず、3個以上であればよい。また、上記実施形態では、補完ラスターライン以外のラスターラインは、2個のノズル20で形成されているが、補完ラスターライン以外のラスターラインを形成するノズル20の数は、2個に限定されず、2個以上であればよい。
【符号の説明】
【0076】
10…印刷装置、11…制御部、11a…CPU、11b…ROM、11c…RAM、12…プログラム、13…表示部、14…操作受付部、15…記憶部、16…通信IF、17…搬送部、18…キャリッジ、19…印刷ヘッド、20…ノズル、23…ノズル面、26,26C,26M,26Y,26K…ノズル列、30…媒体、D1…主走査方向、D2…副走査方向、D3…ノズル配列方向、N11,N21…下流端側ノズル群、N12,N22…上流端側ノズル群、N13,N23…中間ノズル群。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7