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  • 特開-キノコ栽培用培地 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141377
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】キノコ栽培用培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20241003BHJP
   A01G 18/20 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
C12N1/14 H
A01G18/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052981
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 佐登美
(72)【発明者】
【氏名】宮川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】小池 尚志
(72)【発明者】
【氏名】関 俊一
【テーマコード(参考)】
2B011
4B065
【Fターム(参考)】
2B011BA10
2B011BA13
4B065AA71X
4B065BB18
4B065BC31
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】菌糸を良好かつ迅速に培養することができるキノコ栽培用培地を提供すること。
【解決手段】キノコの菌糸を保持してキノコを栽培するキノコ用培地であって、セルロース繊維の解繊物が凝集した第1集合体が複数集合した第2集合体を有することを特徴とするキノコ栽培用培地。また、第1集合体におけるセルロース繊維のかさ密度をA1、第2集合体におけるセルロース繊維のかさ密度をA2としたとき、A1は、0.05g/cm以上0.8g/cm以下であり、A2は、0.01g/cm以上1.0g/cm以下であり、0.01≦A2/A1<1である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコの菌糸を保持して前記キノコを栽培するキノコ栽培用培地であって、
セルロース繊維の解繊物が凝集した第1集合体が複数集合した第2集合体を有することを特徴とするキノコ栽培用培地。
【請求項2】
前記第1集合体における前記セルロース繊維のかさ密度をA1、
前記第2集合体における前記セルロース繊維のかさ密度をA2としたとき、
A1は、0.05g/cm以上0.8g/cm以下であり、
A2は、0.01g/cm以上1.0g/cm以下であり、
0.01≦A2/A1<1である請求項1に記載のキノコ栽培用培地。
【請求項3】
前記第1集合体は、栄養剤を含む請求項1または2に記載のキノコ栽培用培地。
【請求項4】
キノコの菌糸を保持して前記キノコを栽培するキノコ栽培用培地であって、
セルロース繊維を含む紙を小片状に粗砕した粗砕片が複数集合した第3集合体を有することを特徴とするキノコ栽培用培地。
【請求項5】
前記粗砕片における前記セルロース繊維のかさ密度をB1、
前記第3集合体における前記セルロース繊維のかさ密度をB2としたとき、
B1は、0.1g/cm以上2.0g/cm以下であり、
B2は、0.01g/cm以上1.8g/cm以下であり、
0.01≦B2/B1≦0.95である請求項4に記載のキノコ栽培用培地。
【請求項6】
前記粗砕片は、栄養剤を含む請求項4または5に記載のキノコ栽培用培地。
【請求項7】
キノコの菌糸を保持して前記キノコを栽培するキノコ栽培用培地であって、
セルロース繊維の解繊物が凝集した第1集合体が複数集合した第2集合体と、
前記セルロース繊維を含む紙を小片状に粗砕した粗砕片が複数集合した第3集合体と、を有することを特徴とするキノコ栽培用培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノコ栽培用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、キノコの菌床栽培に用いる菌床培地が開示されている。特許文献1に記載の菌床培地は、おが粉が空隙を介して集合した集合体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-39245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている菌床培地では、おが粉自体の通気性が悪い。また、おが粉を用いた場合、おが粉同士の間の間隙距離にムラがあり、間隙が小さくなる部分が生じる。そのため、全体としても通気性が悪く、キノコの菌糸を良好かつ迅速に培養することができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のキノコ栽培用培地は、キノコの菌糸を保持して前記キノコを栽培するキノコ栽培用培地であって、
セルロース繊維の解繊物が凝集した第1集合体が複数集合した第2集合体を有することを特徴とする。
【0006】
本発明のキノコ栽培用培地は、キノコの菌糸を保持して前記キノコを栽培するキノコ栽培用培地であって、
セルロース繊維を含む紙を小片状に粗砕した粗砕片が複数集合した第3集合体を有することを特徴とする。
【0007】
本発明のキノコ栽培用培地は、キノコの菌糸を保持して前記キノコを栽培するキノコ栽培用培地であって、
セルロース繊維の解繊物が凝集した第1集合体が複数集合した第2集合体と、
前記セルロース繊維を含む紙を小片状に粗砕した粗砕片が複数集合した第3集合体と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明のキノコ栽培用培地の第1実施形態を模式的に示す拡大図である。
図2図2は、本発明のキノコ栽培用培地の第2実施形態を模式的に示す拡大図である。
図3図3は、本発明の実施例1~5および比較例の結果をまとめて示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のキノコ栽培用培地を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明のキノコ栽培用培地の第1実施形態を模式的に示す拡大図である。
【0011】
図1に示すように、キノコ栽培用培地1は、キノコを栽培するための培地であり、セルロース繊維Fの解繊物が凝集した第1集合体10が複数集合した第2集合体20を有する。図1では、4つの第1集合体10が集合した状態が示されている。
【0012】
キノコを栽培するためには、キノコの菌糸Kをキノコ栽培用培地1全体に散布し、図示しない培養容器(以下単に「容器」と言う。)に入れて培養し、菌糸Kを成長させる培養工程と、菌糸Kが全体に培養されたキノコ栽培用培地1を容器から取り出して子実体を発生させる発生工程と、を経る。
【0013】
培養工程を行う際には、まず、キノコ栽培用培地1を容器に収容し、キノコ栽培用培地1に菌糸Kまたは胞子を散布する。散布方法としては、特に限定されないが、水に菌糸Kまたは胞子を分散させた分散液を霧吹き等で全体に散布する方法等が挙げられる。これにより、キノコ栽培用培地1に均一に、すなわち満遍なく菌糸Kが保持される。
【0014】
キノコ栽培用培地1の全体に万遍なく行きわたるように菌糸Kが保持され、この菌糸Kが成長すると、キノコ栽培用培地1が外気中のカビや細菌に侵されにくくなり、発生工程における子実体の育成を促進することができる。なお、培養工程完了時には、キノコ栽培用培地1の表面全面に菌糸Kの褐変が生じたり、白色化が生じる。この現象が培養工程完了の目安となる。なお、色は、キノコの種類に応じて異なる。
【0015】
キノコ栽培用培地1では、セルロース繊維F間に間隙Gを十分に有するため、菌糸Kの成長(生育)および褐変の促進を図ることができる。以下、菌糸Kの成長(生育)および褐変を促進することを、単に、「菌糸Kを良好かつ迅速に培養する」と言う。
【0016】
キノコ栽培用培地1の培養対象となるキノコとしては、特に限定されず、例えば、アイシメジ、アイタケ、アカヤマドリ、アケボノアワタケ、アケボノサクラシメジ、アミガサタケ、アミタケ、アミハナイグチ、イロガワリ、ウスタケ、ウスヒラタケ、ウラベニガサ、ウラベニホテイシメジ、エノキタケ、エリンギ、オウギタケ、オオイチョウタケ、オオゴムタケ、オオツガタケ、オトメノカサ、オニナラタケ、オニフスベ、カワリハツ、カンゾウタケ、キイロイグチ、キヌガサタケ、キヌメリガサ、クギタケ、クリタケ、クリフウセンタケ、クロカワ、クロラッパタケ、コウジタケ、コウタケ、コガネタケ、コザラミノシメジ、サクラシメジ、サケツバタケ、ササクレヒトヨタケ、シイタケ、シモフリシメジ、シャカシメジ、ショウゲンジ、シロキクラゲ、シロナメツムタケ、シロヌメリイグチ、スギエダタケ、ススケヤマドリタケ、タマウラベニタケ、タマゴタケ、タモギタケ、チチタケ、チャナメツムタケ、ツチグリ、ツバアブラシメジ、トガリアミガサタケ、トリュフ、ナガエノスギタケ、ナメコ、ナラタケ、ニオウシメジ、ニシキタケ、ニンギョウタケ、ヌメリイグチ、ヌメリササタケ、ヌメリスギタケ、ヌメリスギタケモドキ、ヌメリツバタケ、ノウタケ、ノボリリュウタケ、ハタケシメジ、ハツタケ、ハナイグチ、ハナビラタケ、ハナビラニカワタケ、ハルシメジ、ヒラタケ、ブナシメジ、ブナハリタケ、フユヤマタケ、ホウキタケ、ホテイシメジ、ホコリタケ、マイタケ、マツオウジ、マツタケ、ムキタケ、ムラサキシメジ、ムラサキヤマドリタケ、モリノフジイロタケ、ヤマイグチ、ヤマドリタケ、ヤマドリタケモドキ、ヤマブシタケ等が挙げられる。
【0017】
容器としては、例えば、バット、シャーレ、フラスコ、ウェルプレート等があげられる。容器の構成材料は、特に限定されないが、硬質な材料で構成されるのが好ましい。硬質な材料としては、例えば、硬質樹脂材料またはガラス材料が挙げられる。容器が硬質な材料で構成されていると、収納したキノコ栽培用培地1に空気を取り入れる部分を形成しやすい。例えば、容器の一部に孔を設け、該孔にHEPAフィルター等を設置することができる。これにより、キノコ栽培用培地1に含まれる各種菌やキノコの菌糸Kの呼吸を確保することができるとともに、容器中へのカビ菌の侵入を抑制することができる。また、キノコの菌糸Kを散布する前に、容器内部を高温高圧で殺菌するのが容易であるという利点もある。
【0018】
なお、容器としては、軟質のもの、可撓性を有するものであってもよく、例えば樹脂製の袋のようなものであってもよい。
【0019】
キノコ栽培用培地1を構成する第1集合体10は、セルロース繊維Fが解繊された解繊物が凝集したものであり、すなわち解繊されたセルロース繊維Fの凝集体とも言える。また、第1集合体10は、結合材Bと、栄養剤Cとを含む。なお、本実施形態では、結合材Bおよび栄養剤Cは、第1集合体10に含まれているが、これに限らず、結合材Bおよび栄養剤Cの少なくとも一方は、第2集合体20に含まれていてもよい。
【0020】
凝集とは、同種または異種の物体が、静電気力やファンデルワールス力によって物理的に接して存在する状態を指す。また、第1集合体10において、凝集している状態という場合には、必ずしも当該集合体を構成する物体のすべてが凝集して配置されることを指すものではない。すなわち、凝集している状態には、集合体を構成する物体の一部が凝集しない状態も含まれ、そのように凝集した物体の量が、集合体全体の10.0質量%以下、好ましくは5.0質量%以下程度となっていても、この状態を、複数の物体の集合体において「凝集している状態」に含めるものとする。
【0021】
解繊物とは、セルロース繊維Fが束になった線状または帯状ものや、セルロース繊維F同士が絡み合って塊状となった状態のもの、すなわち、いわゆる「ダマ」を形成している状態のもののことを言う。セルロース繊維Fの解繊物は、従来のおが粉に比べ、通気性に優れるとともに、菌糸Kを担持させた際および菌糸Kの生育過程において、菌糸Kを保持する保持性に優れる。
【0022】
このようなセルロース繊維Fの解繊物を用いることにより、セルロース繊維F同士の間に間隙Gが十分に形成される。これにより、通気性に優れかつ培養の過程で菌糸Kが全体に万遍なく入り込むように成長(生育)する。よって、各菌糸Kをムラなく均一に、良好に培養することができる。また、セルロース繊維Fは、入手が容易で、これを用いることにより、環境問題や天然資源の節約という観点からも好ましく、原材料の調達やコストの点でも優位である。また、セルロース繊維Fは、各種繊維の中でも、理論上の強度が高く、キノコ栽培用培地1の強度の向上、形状保持性の向上を図ることができる。
【0023】
セルロース繊維Fは、例えば、針葉樹、広葉樹を原料とした木材セルロース繊維、綿、リンター、カボック等の種子毛セルロース繊維、麻、ラミー、楮等の靭皮セルロール繊維、バナナ、マニラ麻等の葉茎セルロース繊維等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、このなかでも、木材セルロース繊維を主とするのが好ましい。木材セルロース繊維はパルプの形態で入手が容易である。パルプとしては、バージンパルプ、クラフトパルプ、ケミサーモメカニカルパルプ、合成パルプ、古紙または再生紙に由来するパルプ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。ここで、セルロース繊維とは、化合物としてのセルロース、すなわち狭義のセルロースを主成分とし繊維状をなすものであればよく、レーヨン、キュプラ等再生セルロースや、ヘミセルロース、リグニンを含むものが該当する。
【0024】
セルロース繊維Fは、古紙または再生紙を由来とするセルロース繊維であるのが好ましい。これにより、廃棄物の削減、資源の有効活用、山林保護、環境保護等の観点から有利である。古紙は、紙にインク等が付与された使用済みの紙である。再生紙は、古紙またはバージンペーパーが再生された紙である。この再生紙の製造は、例えば、特開2022-176652号公報に記載されているようなシート製造装置によって行うことができる。
【0025】
原料を解繊する方法としては、例えば、高速回転するローターと、ローターの外周に位置するライナーとを有するインペラーミルで構成された解繊装置を用いる方法が挙げられる。このような解繊は、例えば、特開2022-176652号公報に記載されているような解繊装置によって行うことができる。
【0026】
セルロース繊維Fの平均繊維長は、特に限定されないが、0.1mm以上5mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上3mm以下であるのがより好ましい。これにより、セルロース繊維F同士が適度に絡み合って、第1集合体10を形成しやすくなるとともに、キノコ栽培用培地1の形状を維持しやすくすることができる。また、菌糸Kの育成の促進にも寄与する。その結果、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。セルロース繊維Fの平均繊維長は、例えば、ステープルダイヤグラム法により測定することができる。
【0027】
同様の観点から、セルロース繊維Fの平均径(平均幅)は、特に限定されないが、0.5μm以上200μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上100μm以下であるのがより好ましい。これにより、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。
【0028】
同様の観点から、セルロース繊維Fの平均アスペクト比(平均幅に対する平均長さの比率)は、特に限定されないが、上記繊維長と同様の観点から、10以上1000以下であるのが好ましく、15以上500以下であるのがより好ましい。これにより、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。
【0029】
第1集合体10におけるセルロース繊維Fの含有率は、特に限定されないが、50重量%以上97重量%以下であるのが好ましく、60重量%以上85重量%以下であるのがより好ましい。これにより、セルロース繊維Fを含むことによる上記効果をより顕著に発揮することができる。
【0030】
次に、結合材Bについて説明する。
結合材Bは、解繊されたセルロース繊維F同士を部分的に結合するバインダーとしての機能を有する。このような結合材Bを有することにより、キノコ栽培用培地1の形状、特に第1集合体10の形状が安定し、間隙Gの大きさも均一で、安定的に保たれる。すなわち、キノコ栽培用培地1は、必要な通気性を確保しつつ十分な形状保持性を得ることがでる。その結果、菌糸Kを良好かつ迅速に培養することに寄与する。
【0031】
結合材Bとしては、上記機能を発揮するものであれば特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂等を用いることができるが、熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6-12、ナイロン6-66等のポリアミド(ナイロン:登録商標)、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリエーテル、ポリフェニレンオキシド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、PVAやPAP等の水溶性ポリマー、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、熱可塑性樹脂として、ポリエステルまたはこれを含むものを用いる。
【0032】
硬化性樹脂としては、例えば熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等が挙げられ、具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン等を用いることができる。
【0033】
結合材Bは、熱可塑性樹脂および硬化性樹脂以外の樹脂材料であってもよく、樹脂以外の材料、例えば、澱粉、たんぱく質系接着剤、木材成分系接着剤、PLA(ポリ乳酸)等の天然由来の材料であってもよい。また、熱可塑性樹脂と、それ以外の材料とを所定の比率で、例えば1:9~9:1の重量比で混合したものでもよい。
【0034】
結合材Bとしては、熱可塑性樹脂および硬化性樹脂以外の樹脂材料であってもよく、環境負荷低減の観点から天然物由来であることが好ましい。天然物由来の材料としては、例えば、澱粉、たんぱく質系接着剤、木材成分系接着剤、PLA(ポリ乳酸)などが挙げられる。たんぱく質系接着剤は、膠、カゼイングルー、および大豆グルーなどである。木材成分系接着剤は、漆、セルロース系接着剤、およびリグニン系接着剤などである。
【0035】
上述した化合物の中でも、澱粉が結合材Bに適している。澱粉は、水分および熱が付与されると糊化して結合力が発現する。澱粉は、天然物由来であるため環境負荷の低減に有利であることに加えて、キノコの栄養源や第1集合体10の保水剤としても機能する。
【0036】
キノコ栽培用培地1において、上記のような結合材Bは、例えば、特開2022-176652号公報に記載されているシート製造装置における「添加物供給部52」から解繊物に供給することができる。また、結合材Bは、再生紙に含まれるもの、すなわち、再生紙由来であってもよく、「添加物供給部52」から解繊物に新たに供給されたものであってもよく、再生紙由来のものと「添加物供給部52」から解繊物に新たに供給されたものとを含んでいてもよい。
【0037】
第1集合体10における結合材Bの含有率は、特に限定されないが、0.3重量%以上50重量%以下であるのが好ましく、1.0重量%以上30重量%以下であるのがより好ましい。これにより、結合材Bを含むことによる上記効果を必要かつ十分に発揮することができる。
【0038】
なお、第1集合体10は、結合材Bを実質的に含んでいなくてもよい。
キノコ栽培用培地1の製造において、結合材Bを第1集合体10に添加、供給するタイミングとしては、特に限定されず、セルロース繊維Fの解繊前であってもよく、解繊中であってもよく、解繊後であってもよいが、解繊後であるのが好ましい。これにより、例えば、特開2022-176652号公報に記載されているシート製造装置における「添加物供給部52」から結合材Bを供給し、その後得られた解繊物を第1集合体10または第2集合体20とすることができる。また、当該シート製造装置において、粗砕前の原料シートに結合材Bを塗布等の方法で付与するか、あるいはその後に得られる粗砕片に結合材Bを分散し供給する方法が可能となる。この方法により得られた解繊物を、第1集合体10または第2集合体20として用いることができる。
【0039】
栄養剤Cは、菌糸Kに栄養を供給し、菌糸Kの生育を促進する機能を有する。
栄養剤Cとしては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの窒素肥料、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、熔成リン肥などのリン酸肥料、および塩化カリウム、硝酸カリウムなどのカリ肥料、大豆かす、米糠、フスマ、鶏糞、馬糞等が挙げられる。また、チキン質(エビ、カニなどの甲殻類の殻、昆虫等の節足動物の外骨格)、特定保健用食品に含まれる栄養分(例えば、DHA、EPA)などが挙げられる。
【0040】
このように、第1集合体10は、栄養剤Cを含む。これにより、キノコ栽培用培地1内で菌糸Kに栄養を供給することができ、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。特に、キノコ栽培用培地1に対し、別途栄養剤を散布する等の操作を行う手間も軽減される。
【0041】
キノコ栽培用培地1の製造において、栄養剤Cを第1集合体10に添加、供給するタイミングとしては、特に限定されず、セルロース繊維Fの解繊前であってもよく、解繊中であってもよく、解繊後であってもよいが、解繊後であるのが好ましい。これにより、例えば、特開2022-176652号公報に記載されているシート製造装置における「添加物供給部52」から栄養剤Cを例えば結合材Bとともに供給し、その後得られた解繊物を第1集合体10または第2集合体20とすることができる。また、当該シート製造装置において、粗砕前の原料シートに栄養剤Cを塗布等の方法で付与するか、あるいはその後に得られる粗砕片に栄養剤Cを分散し供給する方法が可能となる。この方法により得られた解繊物を、第1集合体10または第2集合体20として用いることができる。
【0042】
なお、キノコ栽培用培地1の製造において、栄養剤Cと結合材Bとは、同一タイミングで添加しても、異なるタイミングで添加してもよい。後者の場合、栄養剤Cと結合材Bとの添加タイミングの先後は、特に限定されないが、栄養剤Cを結合材Bよりも先に添加するのが好ましい。これにより、セルロース繊維Fを栄養剤Cとともに固定することができる。
【0043】
キノコ栽培用培地1、特に第1集合体10に対する栄養剤Cの含有率は、特に限定されないが、0.1重量%以上40重量%以下であるのが好ましく、1.0重量%以上20重量%以下であるのがより好ましい。これにより、栄養剤Cを含むことによる上記効果をより必要かつ十分に発揮することができる。
なお、第1集合体10は、栄養剤Cを実質的に含んでいなくてもよい。
【0044】
キノコ栽培用培地1は、セルロース繊維F、結合材B、および栄養剤Cの他に、各種添加剤を含んでもよい。各種添加剤としては、土質改良剤、害虫忌避剤や殺虫剤、保水剤、乳酸菌や発酵促進剤、灰などが挙げられる。
【0045】
土質改良剤としては、例えば、有機石灰、草木灰、生石灰、および消石灰などのpH調整剤が挙げられる。
【0046】
害虫忌避剤や殺虫剤としては、例えば、樟脳、ナフタレンなどの化学的に合成された公知の薬剤、およびクスノキの木粉やヒノキの木粉などの天然材料が挙げられる。これらの薬剤や天然材料は、単独または複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
保水剤としては、アクリル酸-ビニルアルコール共重合体、澱粉-アクリロニトリルグラフト共重合体のアルカリ加水分解物、アクリル酸ナトリウムの重合体、複数種類の吸水性ポリマーの混合物などが挙げられる。
【0048】
乳酸菌は、腐敗の原因となるカビや好気性菌類の活動を抑制する。発酵促進剤は、第1集合体10にて乳酸菌などの微生物の働きを促進させる。
【0049】
灰としては、例えば、木炭、竹炭、ヤジガラ炭などが挙げられる。灰は、第1集合体10にて雑菌や虫の発生を抑制することができる。
【0050】
第1集合体10におけるセルロース繊維Fのかさ密度をA1としたとき、A1は、特に限定されないが、例えば、0.05g/cm以上0.8g/cm以下であることが好ましく、0.1g/cm以上0.5g/cm以下であることがより好ましく、0.2g/cm以上0.4g/cm以下であることがさらに好ましい。
【0051】
これにより、セルロース繊維F間の間隙Gを適正に保持し、キノコ栽培用培地1の通気性を十分に確保するとともに、キノコ栽培用培地1が大型化してしまうのを防止しつつ、キノコ栽培用培地1の形状保持性の向上を図ることができる。
【0052】
A1が小さすぎると、第1集合体10が大型化する傾向を示すとともに、培養期間等の諸条件にもよるが、キノコ栽培用培地1の形状保持性が低下することがある。一方、A1が大きすぎると、セルロース繊維F間の間隙Gの確保が不十分になり、キノコの種類や他の条件によっては、菌糸Kの成長が遅くなることがある。
【0053】
このような第1集合体10が複数(例えば、2個以上10000個以下程度)集合した集合体が第2集合体20である。第2集合体20では、隣り合う第1集合体10間でセルロース繊維Fが凝集していてもよく、凝集していなくてもよいが、凝集していることが好ましい。これにより、第2集合体20全体、すなわちキノコ栽培用培地1全体で見たとき、形状保持性を十分に高めることができるとともに、隣り合う第1集合体10同士で見たときに境界が曖昧になり、その結果、菌糸Kがキノコ栽培用培地1全体に万遍なく行きわたるようになり、菌糸Kをより成長しやすくすることができる。
【0054】
第2集合体20におけるセルロース繊維Fのかさ密度をA2としたとき、A2は、A1よりも小さく、特に、0.01≦A2/A1<1であるのが好ましく、0.04≦A2/A1≦0.9であるのがより好まく、0.1≦A2/A1≦0.8であるのがさらに好ましい。これにより、キノコ栽培用培地1の通気性と形状保持性のバランスがより良好となり、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。
【0055】
上記かさ密度A2は、特に限定されないが、0.01g/cm以上1.0g/cm以下であることが好ましく、0.03g/cm以上0.9 g/cm以下であることがより好ましく、0.05g/cm以上0.8 g/cm以下であることがさらに好ましい。これにより、セルロース繊維F間の間隙Gを適正に保持してキノコ栽培用培地1の通気性を十分に確保するとともに、キノコ栽培用培地1が大型化してしまうのを防止しつつ、キノコ栽培用培地1の形状保持性の向上を図ることができる。
【0056】
A2が小さすぎると、第2集合体20が大型化する傾向を示すとともに、培養期間等の諸条件にもよるが、キノコ栽培用培地1の形状保持性が低下することがある。一方、A2が大きすぎると、セルロース繊維F間の間隙Gの確保が不十分になることがあり、キノコの種類や他の条件によっては、菌糸Kの成長が遅くなる場合がある。
【0057】
このように、第1集合体10におけるセルロース繊維Fのかさ密度をA1、第2集合体20におけるセルロース繊維Fのかさ密度をA2としたとき、A1は、0.05g/cm以上0.8g/cm以下であり、A2は、0.01g/cm以上1.0g/cm以下である。また、0.01≦A2/A1<1である。これにより、セルロース繊維F間の間隙Gを適正に保持し、キノコ栽培用培地1の通気性を十分に確保するとともに、キノコ栽培用培地1が大型化してしまうのを防止しつつ、キノコ栽培用培地1の形状保持性の向上を図ることができる。
【0058】
以上説明したように、キノコ栽培用培地1は、キノコの菌糸Kを保持してキノコを栽培するものであって、セルロース繊維Fの解繊物が凝集した第1集合体10が複数集合した第2集合体20を有する。これにより、キノコ栽培用培地1は、隣接するセルロース繊維F間の間隙Gを十分に確保すること、すなわち十分な通気性を確保することができ、菌糸Kを良好かつ迅速に培養することができる。
【0059】
なお、キノコ栽培用培地1は、おが粉等のその他の培地を含んでいてもよい。すなわち、第2集合体20とおが粉との混合物で構成されていてもよい。この場合、第2集合体20の含有率は、キノコ栽培用培地1全体の重量に対し、50重量%以上であるのが好ましく、65重量%以上であるのがより好ましく、75重量%以上であるのがさらに好ましい。
【0060】
<第2実施形態>
図2は、本発明のキノコ栽培用培地の第2実施形態を模式的に示す拡大図である。
【0061】
以下、図2を参照しつつ本発明のキノコ栽培用培地の第2実施形態について説明するが、前述した第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0062】
本実施形態におけるキノコ栽培用培地2は、キノコの菌糸Kを保持してキノコを栽培するものであって、セルロース繊維Fを含む紙を小片状に粗砕した粗砕片30が複数集合した第3集合体40を有する。これにより、キノコ栽培用培地2は、隣接する粗砕片30間の間隙Gを十分に確保すること、すなわち十分な通気性を確保することができ、菌糸Kを良好かつ迅速に培養することができる。
【0063】
粗砕片30は、セルロース繊維Fを含む紙を小片状に粗砕したものである。具体的には、粗砕片30は、セルロース繊維Fを含む紙を、はさみ、カッター、ミル、シュレッダー等により、細かく裁断、粗砕または粉砕したり、手で細かく千切ったりして形成することができる。キノコ栽培用培地2の製造において、粗砕片30は、例えば、特開2022-176652号公報に記載されているような粗砕装置を用いて生成することができる。
【0064】
粗砕片30は、前記第1実施形態で述べたようなセルロース繊維Fを含み、さらに、前記第1実施形態と同様に、結合材Bおよび栄養剤Cを含む。
【0065】
粗砕片30が、例えば、コピー用紙、再生紙等の紙をシュレッダーにより粗砕した小片(シュレッダー片)である場合、粗砕片30の形状は、短冊状、すなわち長方形となる。このような粗砕片30は、平坦な形状でも、平坦な形状のものに例えば湾曲、折り曲げ、捩じり、切り込み等を施して変形させたものでもよい。
【0066】
粗砕片30の長辺方向の全長をL1[mm]、当該粗砕片30の長手方向の一端と他端とを結ぶ端点間距離をL2[mm]としたとき、L2/L1の平均値は、0.01以上0.90以下であるのが好ましく、0.05以上0.85以下であるのがより好ましい。これにより、粗砕片30の変形の程度によらず、キノコ栽培用培地2は、隣接する粗砕片30間に間隙Gを十分に確保すること、すなわち良好な通気性を確保することができ、菌糸Kを良好かつ迅速に培養することができる。
【0067】
同様の観点から、粗砕片30の全長、すなわち長辺方向の長さは、0.5mm以上200mm以下であるのが好ましく、1.5mm以上60mm以下であるのがより好ましく、2.0mm以上35mm以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
同様の観点から、粗砕片30の幅、すなわち短辺方向の長さは、0.1mm以上100mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上25mm以下であるのがより好ましく、0.3mm以上10mm以下であるのがさらに好ましい。
【0069】
同様の観点から、粗砕片30の全長と幅とのアスペクト比は、1.0以上200以下であるのが好ましく、1.0以上30以下であるのがより好ましく、1.1以上15以下であるのがさらに好ましい。
【0070】
また、1つの粗砕片30において、セルロース繊維Fのかさ密度をB1としたとき、B1は、特に限定されないが、0.1g/cm以上2.0g/cm以下であることが好ましく、0.2g/cm以上1.8g/cm以下であることがより好ましく、0.3g/cm以上1.5g/cm以下であることがさらに好ましい。
【0071】
これにより、粗砕片30において、セルロース繊維F間に十分に菌糸Kが入り込むように培養することができる。よって、菌糸Kを良好かつ迅速に培養することができる。
【0072】
粗砕片30において、セルロース繊維Fの平均繊維長は、特に限定されないが、0.1mm以上5mm以下であるのが好ましく、0.2mm以上3mm以下であるのがより好ましい。これにより、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。
【0073】
同様の観点から、セルロース繊維Fの平均径(平均幅)は、特に限定されないが、0.5μm以上200μm以下であるのが好ましく、1.0μm以上100μm以下であるのがより好ましい。これにより、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。
【0074】
同様の観点から、セルロース繊維Fの平均アスペクト比(平均幅に対する平均長さの比率)は、特に限定されないが、上記繊維長と同様の観点から、10以上1000以下であるのが好ましく、15以上500以下であるのがより好ましい。これにより、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。
【0075】
粗砕片30におけるセルロース繊維Fの含有率は、特に限定されないが、0.5重量%以上80重量%以下であるのが好ましく、1.0重量%以上70重量%以下であるのがより好ましく、3.0重量%以上67重量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、セルロース繊維Fを含むことによる上記効果をより顕著に発揮することができる。
【0076】
粗砕片30における結合材Bの含有率は、特に限定されないが、0.5重量%以上80重量%以下であるのが好ましく、1.0重量%以上70重量%以下であるのがより好ましく、3.0重量%以上67重量%以下であるのがさらに好ましい。これにより、結合材Bを含むことによる上記効果を必要かつ十分に発揮することができる。
なお、粗砕片30は、結合材Bを実質的に含んでいなくてもよい。
【0077】
キノコ栽培用培地2の製造において、結合材Bを粗砕片30に添加、供給するタイミングとしては、特に限定されず、粗砕片30を生成する前または生成する過程であってもよく、粗砕片30を生成した後であってもよいが、粗砕片30を生成する前または生成する過程であるのが好ましい。これにより、例えば、特開2022-176652号公報に記載されているシート製造装置において、粗砕前の原料シートに結合材Bを塗布等の方法で付与するか、あるいは粗砕片に結合材Bを分散し供給する方法が可能となる。また、粗砕前の原料シートに含まれる結合材Bが、そのまま粗砕片30に含まれる結合材Bとして用いられてもよい。また、当該シート製造装置における「添加物供給部52」から結合材Bを供給して得られた「シートS」を粗砕して、粗砕片30とすることもできる。
【0078】
キノコ栽培用培地1、特に粗砕片30に対する栄養剤Cの含有率は、特に限定されないが、0.1重量%以上40重量%以下であるのが好ましく、1.0重量%以上20重量%以下であるのがより好ましい。これにより、栄養剤Cを含むことによる上記効果をより必要かつ十分に発揮することができる。
【0079】
キノコ栽培用培地2の製造において、栄養剤Cを粗砕片30に添加、供給するタイミングとしては、特に限定されず、粗砕片30を生成する前または生成する過程であってもよく、粗砕片30を生成した後であってもよいが、粗砕片30を生成する前または生成する過程であるのが好ましい。これにより、例えば、特開2022-176652号公報に記載されているシート製造装置において、粗砕前の原料シートに栄養剤Cを塗布等の方法で付与するか、あるいは粗砕片に栄養剤Cを分散し供給する方法が可能となる。また、当該シート製造装置における「添加物供給部52」から栄養剤Cを供給して得られた「シートS」を粗砕して、粗砕片30とすることもできる。
【0080】
なお、キノコ栽培用培地2の製造において、栄養剤Cと結合材Bとは、同一タイミングで添加しても、異なるタイミングで添加してもよい。後者の場合、栄養剤Cと結合材Bとの添加タイミングの先後は、特に限定されないが、栄養剤Cを結合材Bよりも先に添加するのが好ましい。これにより、セルロース繊維Fを栄養剤Cとともに固定することができる。
【0081】
このように、粗砕片30は、栄養剤Cを含む。これにより、キノコ栽培用培地2内で菌糸Kに栄養を供給することができ、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。特に、キノコ栽培用培地2に対し、別途栄養剤を散布する等の操作を行う手間も軽減される。
なお、粗砕片30は、栄養剤Cを実質的に含んでいなくてもよい。
【0082】
第3集合体40は、複数の粗砕片30が集合したものである。第3集合体40では、粗砕片30がランダムで配置されたものである。第3集合体40では、隣り合う粗砕片30間でセルロース繊維Fが凝集していてもよく、物理的に絡み合った状態であってもよく、凝集していなくてもよい。これにより、第3集合体40全体、すなわちキノコ栽培用培地2全体で見たとき、形状保持性を十分に高めることができるとともに、隣り合う粗砕片30間に間隙Gが十分に形成され、十分な通気性が確保され、その結果、菌糸Kがキノコ栽培用培地2全体に万遍なく行きわたるようになり、菌糸Kをより成長しやすくすることができる。
【0083】
第3集合体40におけるセルロース繊維Fのかさ密度をB2としたとき、B2は、B1よりも小さく、特に、0.01≦B2/B1≦0.95であるのが好ましく、0.04≦B2/B1≦0.9であるのがより好ましく、0.1≦B2/B1≦0.8であるのがさらに好ましい。これにより、菌糸Kをより良好かつ迅速に培養することができる。
【0084】
かさ密度B2は、特に限定されないが、0.01g/cm以上1.8g/cm以下であることが好ましく、0.05g/cm以上1.2 g/cm以下であることがより好ましく、0.08g/cm以上0.8g/cm以下であることがさらに好ましい。これにより、隣接する粗砕片30間の間隙Gを適正に保持してキノコ栽培用培地2の通気性を十分に確保するとともに、キノコ栽培用培地2が大型化してしまうのを防止しつつ、キノコ栽培用培地2の形状保持性の向上を図ることができる。
【0085】
B2が小さすぎると、第3集合体40が大型化する傾向を示すとともに、培養期間等の諸条件にもよるが、キノコ栽培用培地2の形状保持が難しくなる傾向を示す。一方、B2が大きすぎると、粗砕片30間の間隙Gの確保が不十分になることがあり、キノコの種類によっては、菌糸Kの成長が遅くなる場合がある。
【0086】
このように、粗砕片30におけるセルロース繊維Fのかさ密度をB1、第3集合体40におけるセルロース繊維Fのかさ密度をB2としたとき、B1は、0.1g/cm以上2.0g/cm以下であり、B2は、0.01g/cm以上1.8g/cm以下である。また、0.01≦B2/B1≦0.95である。これにより、粗砕片30間の間隙Gを適正に保持し、キノコ栽培用培地2の通気性を十分に確保するとともに、キノコ栽培用培地2が大型化してしまうのを防止しつつ、キノコ栽培用培地2の形状保持性の向上を図ることができる。
【0087】
なお、キノコ栽培用培地2は、おが粉を含んでいてもよい。すなわち、第3集合体40とおが粉との混合物で構成されていてもよい。この場合、第3集合体40の含有率は、キノコ栽培用培地2全体の重量に対し、50重量%以上であるのが好ましく、65重量%以上であるのがより好ましく、75重量%以上であるのがさらに好ましい。
【0088】
<第3実施形態>
以下、本発明のキノコ栽培用培地の第3実施形態について説明するが、前述した第1実施形態および第2実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0089】
本実施形態におけるキノコ栽培用培地は、キノコの菌糸Kを保持してキノコを栽培するものであって、セルロース繊維Fの解繊物が凝集した第1集合体10が複数集合した第2集合体20と、セルロース繊維Fを含む紙を小片状に粗砕した粗砕片30が複数集合した第3集合体40と、を有する。これにより、キノコ栽培用培地は、隣接するセルロース繊維F間の間隙Gや粗砕片30間の間隙Gを十分に確保すること、すなわち十分な通気性を確保することができ、菌糸Kを良好かつ迅速に培養することができる。
【0090】
特に、第2集合体20と、第3集合体40とを組みあせたことによる相乗効果により、キノコ栽培用培地全体の均一性が向上し、通気性と形状保持性のバランスも良好となり、菌糸Kをさらに良好かつ迅速に培養することができる。
【0091】
本実施形態において、セルロース繊維F、第1集合体10、第2集合体20、粗砕片30、第3集合体40、かさ密度、かさ密度の比率、結合材Bの添加、栄養剤Cの添加等については、前記第1実施形態および第2実施形態で述べたのと同様である。
【0092】
本実施形態のキノコ栽培用培地は、第2集合体20を構成する第1集合体10と、第3集合体40を構成する粗砕片30とは、均一に分散されているのが好ましい。
【0093】
また、本実施形態のキノコ栽培用培地は、第2集合体20を層状に配置した単一または複数の第1の層と、第3集合体40を層状に配置した単一または複数の第2の層とを有する構成とすることもできる。この場合、キノコ栽培用培地は、第1の層と第2の層とが例えば層の厚さ方向に沿って交互に積層された積層体とすることができる。
【0094】
また、本実施形態のキノコ栽培用培地は、第2集合体20と第3集合体40とが、一方が他方を包含しているような構成であってもよい。
【0095】
以上のようなキノコ栽培用培地における、第2集合体20と、第3集合体40との存在比率は、特に限定されないが、キノコ栽培用培地全体に対する第2集合体20の重量比で、3重量%以上97重量%以下であるのが好ましく、10重量%以上90重量%以下であるのがより好ましく、25重量%以上75重量%以下であるのがさらに好ましい。
【0096】
以上、本発明のキノコ栽培用培地を各実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態のものに限定されない。
【実施例0097】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[1]キノコ栽培用培地の製造および菌糸の培養
<実施例1>
広葉樹パルプのベースシートを粗砕ユニット(槇野産業製、商品名:カッターミル)で粗砕し、得られた粗砕片を定量供給機で解繊機へ投入し解繊機で解繊を行った。さらに別の定量供給機で結合材(樹脂組成;でんぷん)と栄養剤(米糠、フスマ等)とをそれぞれ一定量解繊物に添加した後、フォーマーユニットで解繊物によるウェブシートを作製した。ウェブシートを加圧ローラーで圧縮成形し高密度化した後、大型シュレッダー(ナカバヤシ製)で小片化して粗砕片Yを生成した。生成した粗砕片Yを所望に変形させ、乾燥時のかさ密度B2が0.24g/cmになるよう培養袋(容器)に入れた。培養袋の内容物が、第3集合体によるキノコ栽培用培地である。培養袋の内容物に対し、適量の水を添加し、121℃、2気圧で滅菌処理を行った。滅菌後室温に冷却した後、クリーンエリアで菌糸K(キノコ種;シイタケ)の接種を行った。20~22℃、60%RHで暗黒下にて培養を行い、菌糸Kの成長度合いを観察した。培地全面を菌糸が覆いつくした時点を菌糸蔓延状態とし、接種からの日数と培地高さを記録した。
【0098】
なお、粗砕片Yにおけるセルロース繊維Fのかさ密度B1は、0.4g/cmであった。
【0099】
培養袋に入れた粗砕片Yの重量は、800gであった。
結合材の含有率は、培地全体(培養袋に入れた全粗砕片)に対し、5重量%であった。
【0100】
栄養剤の含有率は、培地全体(培養袋に入れた全粗砕片)に対し、30重量%であった。
【0101】
<実施例2>
広葉樹パルプのベールシートを大型シュレッダー(ナカバヤシ製)で粗砕し、解繊機(セイコーエプソン製)で解繊して繊維化した後、ヘンシェルミキサー内に解繊物(セルロース繊維F)、おが粉および栄養剤(米糠、フスマ等)を投入し、適宜水を加えながら低速(500rpm)で10分攪拌し、造粒して凝集体である第1集合体を得た。第1集合体の水分測定を行い、適宜水分量を調節した後に乾燥時のかさ密度A2が0.13g/cmになるよう培養袋(容器)に入れた。培養袋の内容物が、第2集合体によるキノコ栽培用培地である。培養袋の内容物に対し、適量の水を添加し、121℃、2気圧で滅菌処理を行い、室温に冷却した後、クリーンエリアで菌糸K(実施例1と同種)の接種を行った。20~22℃、60%RHで暗黒下にて培養を行い、菌糸Kの成長度合いを観察した。培地全面を菌糸が覆いつくした時点を菌糸蔓延状態とし、接種からの日数と培地高さを記録した。
【0102】
なお、第1集合体におけるセルロース繊維Fのかさ密度A1は、0.2g/cmであった。
【0103】
培養袋に入れた第2集合体(セルロース繊維F)の重量は、160gであった。
おが粉の含有率は、培地全体(培養袋内容物)に対し、37重量%であった。
栄養剤の含有率は、培地全体(培養袋内容物)に対し、26重量%であった。
【0104】
<実施例3>
広葉樹パルプのベールシートを実施例2と同様のシュレッダーで粗砕し、得られた粗砕片を実施例2と同様の解繊機で解繊して繊維化した後、ヘンシェルミキサー内に解繊物(セルロース繊維F)および栄養剤(米糠、フスマ等)を投入し、適宜水を加えながら低速(500rpm)で10分攪拌し、造粒して凝集体である第1集合体を得た。第1集合体の水分測定を行い、適宜水分量を調節した後に乾燥時のかさ密度A2が0.23g/cmになるよう培養袋(容器)に入れた。培養袋の内容物が、第2集合体によるキノコ栽培用培地である。培養袋の内容物に対し、適量の水を添加し、121℃、2気圧で滅菌処理を行い、室温に冷却した後、クリーンエリアで菌糸K(実施例1と同種)の接種を行った。20~22℃、60%RHで暗黒下にて培養を行い、菌糸Kの成長度合いを観察した。培地全面を菌糸が覆いつくした時点を菌糸蔓延状態とし、接種からの日数と培地高さを記録した。
【0105】
なお、第1集合体におけるセルロース繊維Fのかさ密度A1は、0.3g/cmであった。
【0106】
培養袋に入れた第2集合体(セルロース繊維F)の重量は、570gであった。
栄養剤の含有率は、培地全体(培養袋内容物)に対し、26重量%であった。
【0107】
<実施例4>
広葉樹パルプのベールシートを実施例2と同様のシュレッダーで粗砕し、得られた粗砕片を実施例2と同様の解繊機で解繊して繊維化した後、ヘンシェルミキサー内に解繊物(セルロース繊維F)および栄養剤(米糠、フスマ等)を投入し、適宜水を加えながら低速(500rpm)で10分攪拌し、造粒して凝集体である第1集合体を得た。第1集合体の水分測定を行い、適宜水分量を調節した後に乾燥時のかさ密度A2が0.06g/cmになるよう培養袋(容器)に入れた。培養袋の内容物が、第2集合体によるキノコ栽培用培地である。培養袋の内容物に対し、適量の水を添加し、121℃、2気圧で滅菌処理を行い、室温に冷却した後、クリーンエリアで菌糸K(実施例1と同種)の接種を行った。20~22℃、60%RHで暗黒下にて培養を行い、菌糸Kの成長度合いを観察した。培地全面を菌糸が覆いつくした時点を菌糸蔓延状態とし、接種からの日数と培地高さを記録した。
【0108】
なお、第1集合体におけるセルロース繊維Fのかさ密度A1は、0.1g/cmであった。
【0109】
培養袋に入れた第2集合体(セルロース繊維F)の重量は、150gであった。
栄養剤の含有率は、培地全体(培養袋内容物)に対し、26重量%であった。
【0110】
<実施例5>
実施例1で得られた第3集合体50重量%と実施例3で得られた第2集合体50重量%とを均一に混合し、この混合物を培養袋(容器)に入れた。培養袋の内容物が、第2集合体と第3集合体とを有するキノコ栽培用培地である。培養袋の内容物に対し、適量の水を添加し、121℃、2気圧で滅菌処理を行い、室温に冷却した後、クリーンエリアで菌糸K(実施例1と同種)の接種を行った。20~22℃、60%RHで暗黒下にて培養を行い、菌糸Kの成長度合いを観察した。培地全面を菌糸が覆いつくした時点を菌糸蔓延状態とし、接種からの日数と培地高さを記録した。
【0111】
<比較例>
広葉樹のおが粉(平均粒径1.2mm)と栄養剤(米糠、フスマ等)とをヘンシェルミキサー内に投入し、適宜水を加えながら低速(500rpm)で10分攪拌し、造粒した。この造粒物の水分測定を行い、適宜水分量を調節した後に乾燥時のかさ密度が0.2g/cmになるよう培養袋(容器)に入れた。培養袋の内容物に対し、適量の水を添加し、121℃、2気圧で滅菌処理を行い、室温に冷却した後、クリーンエリアで菌糸K(実施例1と同種)の接種を行った。20~22℃、60%RHで暗黒下にて培養を行い、菌糸Kの成長度合いを観察した。培地全面を菌糸が覆いつくした時点を菌糸蔓延状態とし、接種からの日数と培地高さを記録した。
【0112】
培養袋に入れたおが粉による培地の重量は、668gであった。
栄養剤の含有率は、培地全体(培養袋内容物)に対し、26重量%であった。
【0113】
[2]評価
実施例1~5および比較例の各培地について、菌糸Kの培養速度(菌糸の生育性)および培地の形状保持性の評価を行った。
【0114】
[2-1]培養速度評価
◎:菌糸蔓延日数が28日以内
〇:菌糸蔓延日数が28日超30日以内
△:菌糸蔓延日数が30日超33日以内
×:菌糸蔓延日数が33日超
【0115】
[2-2]形状保持性評価
◎:菌糸蔓延状態となったときの培地収縮率が8%以下
〇:菌糸蔓延状態となったときの培地収縮率が8%超10%以下
△:菌糸蔓延状態となったときの培地収縮率が10%超12%以下
×:菌糸蔓延状態となったときの培地収縮率が12%超
【0116】
これらの結果を図3に記載の表1にまとめて示す。
表1から明らかなように、本発明の各実施例では優れた菌糸育成効果が得られた。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0117】
1…キノコ栽培用培地、2…キノコ栽培用培地、10…第1集合体、20…第2集合体、30…粗砕片、40…第3集合体、B…結合材、C…栄養剤、F…セルロース繊維、G…間隙、K…菌糸
図1
図2
図3