(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141383
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】全脂組織状蛋白及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/16 20060101AFI20241003BHJP
A23J 3/26 20060101ALI20241003BHJP
A23L 11/00 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
A23J3/16
A23J3/26
A23L11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052987
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】390009874
【氏名又は名称】株式会社ペリカン
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】原田 洋志
【テーマコード(参考)】
4B020
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LC04
4B020LG01
4B020LP11
4B020LP16
4B020LP30
(57)【要約】
【課題】大豆子葉粉末に加えて、大豆皮粉末及び大豆胚芽粉末を主原料とし、それらを所定の粒度分布とすることで、組織化した際にざらつきの無い全脂組織状蛋白を安定して提供できるようにした、全脂組織状蛋白及びその製造方法を提供する。
【解決手段】油分が15~30質量%の大豆子葉粉末、大豆胚芽粉末及び大豆皮粉末からなる大豆粉末原料を主原料とし、組織状である全脂組織状蛋白であって、前記大豆粉末原料中の前記大豆皮粉末の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記大豆子葉粉末、前記大豆胚芽粉末及び前記大豆皮粉末は、それぞれ、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であるようにした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分が15~30質量%の大豆子葉粉末、大豆胚芽粉末及び大豆皮粉末からなる大豆粉末原料を主原料とし、組織状である全脂組織状蛋白であって、
前記大豆粉末原料中の前記大豆皮粉末の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、
前記大豆子葉粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であり、
前記大豆胚芽粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であり、
前記大豆皮粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であることを特徴とする全脂組織状蛋白。
【請求項2】
前記大豆粉末原料中の前記大豆胚芽粉末の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であることを特徴とする請求項1記載の全脂組織状蛋白。
【請求項3】
油分が15~30質量%の丸大豆を、大豆子葉と、大豆胚芽と、大豆皮と、に分離する分離工程と、
前記大豆子葉を所定の粒径になるように粉砕し、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上である大豆子葉粉末を得る工程と、
前記大豆胚芽を所定の粒径になるように粉砕し、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上である大豆胚芽粉末を得る工程と、
前記大豆皮を所定の粒径になるように粉砕し、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上である大豆皮粉末を得る工程と、
前記大豆子葉粉末、前記大豆胚芽粉末及び前記大豆皮粉末からなる大豆粉末原料を主原料として含み、前記大豆粉末原料中の前記大豆皮粉末の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である原料組成物を準備する工程と、
前記原料組成物を一軸または二軸のエクストルーダーを用いて加工処理を行うことにより、組織化された全脂組織状蛋白を得る、エクストルーダー処理工程と、
を含む、全脂組織状蛋白の製造方法。
【請求項4】
前記大豆粉末原料中の前記大豆胚芽粉末の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であることを特徴とする請求項3記載の全脂組織状蛋白の製造方法。
【請求項5】
前記原料組成物中の前記大豆粉末原料の割合が50~100質量%であり、前記原料組成物中の水分が13質量%以下である、請求項3又は4記載の全脂組織状蛋白の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全脂組織状蛋白および全脂組織状蛋白を製造する方法に関し、より詳細には、大豆子葉粉末に加えて、大豆胚芽粉末及び大豆皮粉末を使用した全脂組織状蛋白及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大豆を原料とする組織状蛋白の製造方法において、脱脂大豆粉末を原料として押出成型機により製造する方法が示されている(特許文献1)。また丸大豆をそのまま用いたり、粉砕したりしてエクストルーダーにより組織化される技術も提案されている(特許文献2~5)。さらに大豆たんぱくに水系で加熱処理した大豆を加える方法も提案されている(特許文献6)。
【0003】
また、油糧種子蛋白に油を加え二軸スクリューを有する押出機(二軸エクストルーダー)で製造する方法も開示されている(特許文献7)。さらに、全粒の豆類を使用したスナック様菓子の製造方法も記載されている(特許文献8)。また、近年ベジミート(大豆等を主原料とする植物由来の肉様食品)の製造方法において、全粒大豆を使用し豆乳を成形し混合押出処理する方法も提案されている(特許文献9)。さらに脱脂大豆の胚芽由来の黒粒を目立たなくした粒状蛋白の製造方法において、粒子径が200μm以上の画分が15%以下でNSI(可用性窒素指数)が80%以上であることも述べられている(特許文献10)。
【0004】
また、大豆皮を使用した加工食品が提案されており、生大豆から除去した皮を最大粒径1mm以下の生大豆皮粗粉を用いた豆腐用食品の製造方法(特許文献11)、大豆皮を用いた水性ペースト状組成物(特許文献12)、フスマ加工品を主材とする食物繊維強化剤(特許文献13)、大豆皮などを用いた食物繊維含有素材(特許文献14)等の提案がなされている。
また、乾燥おから粉末を二軸エクストルーダーで組織化する例が示されている(特許文献15)が、乾燥おから中にも蛋白が含有されていることが示唆されている。
【0005】
しかし、いずれの場合も大豆胚芽と大豆皮を加え組織化するという記載はない。このような組織化に関しては通常蛋白質がその主要因であり、大豆皮や大豆胚芽などは組織化に影響を与えにくいため、あらかじめ脱皮工程により除去されるのが通常である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭54-37845
【特許文献2】特許第4928688号
【特許文献3】特開昭60-199350
【特許文献4】特開昭61-25457
【特許文献5】特開昭64-67160
【特許文献6】特開平4-84862
【特許文献7】特開平4-30756
【特許文献8】特開昭61-58539
【特許文献9】特開2008-17831
【特許文献10】特開2016-182107
【特許文献11】特許第4389113号
【特許文献12】特開平3-58770
【特許文献13】特開昭61-37059
【特許文献14】特開2018-201380
【特許文献15】特許第7171958号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】2013一般財団法人日本植物蛋白協会ホームページ
【非特許文献2】長野県工技センター研報 No.4,p.F23-F26 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は組織状大豆蛋白を調製する際に、大豆子葉粉末に加えて、大豆皮粉末及び大豆胚芽粉末を含有しながら組織化する手段を提供することを一つの目標としている。即ち、本発明は、大豆子葉粉末に加えて、大豆皮粉末及び大豆胚芽粉末を主原料とし、それらを所定の粒度分布とすることで、組織化した際にざらつきの無い全脂組織状蛋白を安定して提供できるようにした、全脂組織状蛋白及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、粒子径60~80μm(200メッシュ)の部分の大豆粉末がざらつきの原因となっており、粒度分布が特定の条件を満たした大豆子葉粉末、大豆皮粉末及び大豆胚芽粉末を用いてエクストルーダーにより成型することにより、大豆を丸ごと含む、良好な組織状蛋白が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の全脂組織状蛋白は、油分が15~30質量%の大豆子葉粉末、大豆胚芽粉末及び大豆皮粉末からなる大豆粉末原料を主原料とし、組織状である全脂組織状蛋白であって、前記大豆粉末原料中の前記大豆皮粉末の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記大豆子葉粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であり、前記大豆胚芽粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であり、前記大豆皮粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であることを特徴とする。
【0011】
前記大豆粉末原料中の前記大豆胚芽粉末の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であることが好適である。
【0012】
本発明の全脂組織状蛋白の製造方法は、油分が15~30質量%の丸大豆を、大豆子葉と、大豆胚芽と、大豆皮と、に分離する分離工程と、前記大豆子葉を所定の粒径になるように粉砕し、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上である大豆子葉粉末を得る工程と、前記大豆胚芽を所定の粒径になるように粉砕し、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上である大豆胚芽粉末を得る工程と、前記大豆皮を所定の粒径になるように粉砕し、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上である大豆皮粉末を得る工程と、前記大豆子葉粉末、前記大豆胚芽粉末及び前記大豆皮粉末からなる大豆粉末原料を主原料として含み、前記大豆粉末原料中の前記大豆皮粉末の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である原料組成物を準備する工程と、前記原料組成物を一軸または二軸のエクストルーダーを用いて加工処理を行うことにより、組織化された全脂組織状蛋白を得る、エクストルーダー処理工程と、を含む、全脂組織状蛋白の製造方法である。
【0013】
前記大豆粉末原料中の前記大豆胚芽粉末の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であることが好適である。
【0014】
前記原料組成物中の前記大豆粉末原料の割合が50~100質量%であり、前記原料組成物中の水分が13質量%以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、本発明は、大豆子葉粉末に加えて、大豆皮粉末及び大豆胚芽粉末を主原料とする全脂組織状蛋白、及びその製造方法を提供することができる。本発明によれば、大豆子葉に加えて、大豆胚芽及び大豆皮を含有し、大豆を丸ごと含むと共に、油の滲みだしが発生せず、安定性が良い、組織状の丸ごと全脂組織状蛋白を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明の全脂組織状蛋白は、肉様食品の原料として好適であり、食感、味、風味、健康機能性に優れたに肉様食品を提供することができるという効果も達成することができる。
さらに、大豆皮粉末を含有することにより繊維質が多くなるという特徴を有している。また、大豆胚芽粉末を含有することによりイソフラボンやサポニンといった健康機能訴求素材の含有量が増大する。これにより健康機能性を持たせることができる組織状蛋白である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これらは例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0018】
本発明の全脂組織状蛋白は、油分が15~30質量%の大豆子葉粉末、大豆胚芽粉末及び大豆皮粉末からなる大豆粉末原料を主原料とし、組織状である全脂組織状蛋白であって、前記大豆粉末原料中の前記大豆皮粉末の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記大豆子葉粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であり、前記大豆胚芽粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であり、前記大豆皮粉末は、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上であることを特徴とする。なお、本願明細書において、質量%を単に%と称することもある。
【0019】
前記全脂組織状蛋白は、大豆子葉粉末、大豆胚芽粉末及び大豆皮粉末を主原料として含む原料組成物を、エクストルーダー(押出機)を用いた組織化の加工処理を行う方法により、好適に製造することができるが、油分が15~30質量%の大豆子葉粉末を用いることにより、油の滲みだしが発生せず、安定性が良く、大豆を丸ごと含む、組織状の丸ごと全脂組織状蛋白を得ることができる。大豆子葉粉末の油分の範囲が15重量%未満であるとエクストルーダー処理において油脂の滲みだしが見られないため、もともと製品劣化に影響がなく、30質量%を超えるとエクストルーダー処理において油の滲みだしが起こり安定性を悪くするからである。
【0020】
本発明において、組織状とは、繊維状に成形したものであって、かつ、肉様の組織を有することを意味する。
【0021】
原料の大豆は食用大豆(IPハンドリングを含む)であればいずれもよく、国産品・海外品の種類を問わない。
【0022】
前記大豆子葉粉末の原料となる脱皮大豆としては、全脂脱皮大豆が好適である。
本発明の全脂組織状蛋白は、脱脂大豆を用い、油分を別途添加することにより得られる組織状蛋白に比べて、保存安定性に優れるという利点がある。
【0023】
本発明において、油分とは試料からジエチルエーテルを用い抽出される物質の試料に対する百分率を意味し、基準油脂分析試験法(日本油化学会測定)1.5-2013油分に基づいて測定することができる。
原料とされる脱皮大豆の油分は15質量%以上30質量%以下であり、18質量%以上28質量%以下がより好ましい。
【0024】
前記大豆粉末原料中の前記大豆子葉粉末の含有量は、85質量%以上99.8質量%以下が好適であり、90質量%以上99質量%以下がより好適である。
前記大豆子葉粉末としては、大豆子葉を所定の粒径及び粒度分布になるように粉砕した大豆子葉粉を用いることが好ましく、特に、前記大豆子葉粉末の粒子径(粒度)が、2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、望ましくは粒子径60~80μmの割合が9%以下、さらに望ましくは粒子径70~80μmの割合が3%以下であり、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上、望ましくは粒子径10~20μmの割合が20%以上であるものが好適である。粒子径が150μmを超えるものが多く混入するとエクストルーダー処理時に組織化に影響が出る可能性があり、また、2μm未満の大豆粉を得ようとすると調製時にオイルボディが破壊され原料大豆粉の段階で油の滲みだしが起こってしまうからである。また、粒子径60~80μm(200メッシュ)の部分の大豆粉末がざらつきの原因となる為、粒子径50μm~80μmの割合を18%以下とし、粒子径10μm~30μmの割合を40%以上とすることにより、組織化が良好で且つ風味やざらつき等の官能評価も優れた全脂組織状蛋白を得ることができる。
本発明において、大豆を原料とする各粉末の粒子径(粒度)は、粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。
【0025】
前記大豆粉末原料中の前記大豆皮粉末の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下であり、0.1質量%以上8質量%以下が好適である。前記大豆皮粉末の含有量を0.1質量%以上10質量%未満とすることにより、繊維質強化を達成しながら、良好な組織化を生じさせることができる。0.1質量%以下では丸大豆を原料とした場合(非特許文献2)、繊維質強化という観点から問題があり、10質量%を超える場合は組織化が起こりにくくなるからである。
【0026】
前記大豆皮粉末としては、大豆皮を所定の粒径及び粒度分布になるように粉砕した大豆皮粉を用いることが好ましく、特に、前記大豆皮粉末の粒子径が、2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、望ましくは粒子径60~80μmの割合が9%以下、さらに望ましくは粒子径70~80μmの割合が3%以下であり、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上、望ましくは粒子径10~20μmの割合が20%以上であるものが好適である。2μm~150μmの範囲が95%未満の場合は、ざらつきなど風味上の違和感を感じやすくなり、組織化も起こりにくくなるからである。前記所定の粒径及び粒度分布を有する大豆皮粉末を用いることにより、組織化が良好で且つ風味やざらつき等の官能評価も良好な全脂組織状蛋白を得ることができる。
【0027】
前記大豆粉末原料中の前記大豆胚芽粉末の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましい。前記大豆胚芽粉末の含有量を0.1質量%以上5質量%以下とすることにより、風味に悪影響を出すことなく、原料に丸大豆を用いた場合と比較してイソフラボン量を増大させることができ、より栄養価を高めることができ、栄養価が高く風味が良好な丸ごと全脂組織状蛋白を得ることができる。
【0028】
前記大豆胚芽粉末としては、大豆胚芽を所定の粒径及び粒度分布になるように粉砕した大豆胚芽粉を用いることが好ましく、特に、前記大豆胚芽粉末の粒子径が、2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、望ましくは粒子径60~80μmの割合が9%以下、さらに望ましくは粒子径70~80μmの割合が3%以下であり、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上、望ましくは粒子径10~20μmの割合が20%以上であるものが好適である。前記所定の粒径及び粒度分布を有する大豆胚芽粉末を用いることにより、より風味が良好な丸ごと全脂組織状蛋白を得ることができる。2μm~150μmの範囲が95%未満の場合は、風味上の違和感を感じやすくなる。
【0029】
前記大豆子葉粉末・大豆胚芽粉末・大豆皮粉末の製造においては、下記工程(A)~(E)を経ることが望ましい。
(A)大豆の選別工程→(B)脱皮工程→(C)加熱失活工程→(D)乾燥工程→(E)粉砕工程。
このうち(B)脱皮工程により、大豆子葉と大豆胚芽と大豆皮に選別される。
【0030】
前記(A)選別工程は、大豆とそれ以外の夾雑物を分けることを目的としており、篩・色選などの工程を経ることが好適である。
前記(B)脱皮工程は大豆子葉と大豆胚芽と大豆皮に分ける工程で、加熱・剥皮・色選・風選などの工程を経ることが好適である。
前記(C)加熱失活工程は、公知の脱臭機を利用することができ、蒸煮に関しては節水または水蒸気により処理が行われ、70~125℃の温度範囲(望ましくは86~105℃の温度範囲)で60~300秒処理を行うことが好適である。この処理の最中に温度を均一化するために蒸煮缶内に撹拌機のようなものを取り付けることもできる。特に、得られる大豆粉のNSI(可用性窒素指数)が30~80の範囲となるように加熱処理を行うことが好ましい。
前記(D)乾燥工程は、公知の乾燥機を利用でき、水分量7質量%以下(好ましくは6~7質量%)程度まで乾燥する工程を経ることが好適である。
【0031】
前記(E)粉砕工程は、公知の粉砕機を用い、粗粉砕と微粉砕の2段階で行うことが望ましい。粗粉砕は20~40メッシュ(380~860μm)パスに粉砕する。この後、微粉砕により100~800メッシュ(18~140μm)パス程度に粉砕する工程を経ることが好適である。
前記(E)粉砕工程により、大豆子葉、大豆胚芽及び大豆皮を、それぞれ、その粒子径が2μm~150μmの範囲に95%以上であり、且つ粒子径50μm~80μmの割合が18%以下、粒子径10μm~30μmの割合が40%以上である、粒径及び粒度分布を有する粉末に粉砕し、上記所定の粒径及び粒度分布を有する大豆子葉粉末、大豆胚芽粉末、及び大豆皮粉末を得る。
【0032】
全脂組織状蛋白の原料組成物として、前記大豆子葉粉末、前記大豆胚芽粉末及び前記大豆皮粉末からなる大豆粉末原料を主原料として含み、前記大豆粉末原料中の前記大豆皮粉末の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である原料組成物を準備する。
【0033】
前記全脂組織状蛋白の原料組成物は、大豆を主な原材料として含むものであり、原材料組成物中の大豆の割合が50~100質量%であることが好ましく、75~100質量%であることがより好ましい。
前記全脂組織状蛋白の原料組成物は、前記大豆以外の成分を含んでいてもよい。大豆以外の成分としては、例えば、米・オカラ・ふすま・澱粉・他の添加物(例えば化工澱粉、食品用乳化剤等)・食物繊維等があげられる。
前記原料組成物中の油分は15~30質量%であることが好適である。
【0034】
前記原料組成物中の蛋白質含有量は、25~50%であることが好適である。
前記大豆及び全脂組織状蛋白中の蛋白質含有量は、基準油脂分析試験法(日本油化学会制定)1.7-2013 全窒素及び粗タンパク質に準じて、ケルダール法により試料の全窒素量を測定し、大豆の窒素・たんぱく質換算係数5.71を用いて蛋白質の含有量を算出することができる。
【0035】
前記原料組成物中の水分は、1~15%であることが好ましく、3~13%であることがより好ましい。
【0036】
前記全脂組織状蛋白の原料組成物を、エクストルーダー(押出機)を用いて加工処理を行うことにより、組織化された丸ごと全脂組織状蛋白を得ることができる。組織化に関しては、公知のエクストルーダーを用いることができ、一軸または二軸スクリューを有するエクストルーダーが好適に用いられるが、製造安定性の観点から二軸エクストルーダーを用いるのが好適である。
【0037】
本発明の全脂組織状蛋白の製造方法は、前記全脂組織状蛋白の製造方法であり、一軸または二軸のエクストルーダーを用いるエクストルーダー処理工程を含んでなる全脂組織状蛋白の製造方法である。前記エクストルーダーを用いることにより、原料組成物と同じ成分組成であり、組織化が良好である丸ごと全脂組織状蛋白を容易に製造することができる。
【0038】
本発明の全脂組織状蛋白は、大豆子葉粉末、大豆胚芽粉末及び大豆皮粉末を任意の割合でブレンドすることができる。例えば、丸大豆をそのまま粉砕して用いた場合は、大豆原料中の大豆皮の割合は7質量%程度、大豆胚芽の割合は2質量%程度であるが、本発明の全脂組織状蛋白によれば、自由なブレンドが可能であり、大豆皮粉末、大豆胚芽粉末を多く含有せしめることにより、繊維質の増強やイソフラボンの量増大などの機能を持たせることができ、繊維強化及び健康強化素材として有効な組織状蛋白を容易に得ることができる。
【実施例0039】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0040】
(実施例1)
米国産IPハンドリング大豆(丸大豆、油分22%、蛋白質3%)を原料として用いた。実施例において大豆中の油分の測定は、前述のごとく、基準油脂分析試験法に従い行った。大豆中の蛋白質含有量の測定は、前述のごとく、基準油脂分析試験法に準じて行った。
【0041】
まず、選別工程を以下のように実施し、原料大豆から選別大豆を得た。
原料大豆を100kg用意し、市販の粗選別機にかけて大豆より大きい異物(泥塊、枝葉など)、または大豆より小さい異物(草の実、朝顔の種など)を除き、市販のグラビティ・セパレーターにより、軽量異物(埃、皮、小ごみなど)を除去し、市販の石抜機によって混入している大豆よりも重い石などの夾雑物を除き、市販のロール選別機に通して異形物を除去し、市販の粒径選別機により大豆を粒径別に選別した。
【0042】
次に、脱皮工程を以下のように実施し、脱皮大豆を得た。
市販の加熱機で、熱風空気温度約100℃、品温約60℃で5分程度加熱し、この加熱した大豆を、市販の補助脱皮機(二本のゴムローラーの隙間は、1~5mm、二本のゴムローラーの回転は、1本が809回転/分、他の1本が1050回転/分で、両社の回転数の差は約20%の条件で使用した。)にかけ大豆に亀裂をおこさせた。
この亀裂のおきた大豆を、市販の剥皮機(複数の羽の回転数は、300回転/分とした。)で剥皮し、集塵装置によって剥皮された皮の半分程度を除去した。市販の風選機によって剥離された皮のうち上記集塵装置によって除去されなかったものを除去した。
皮を除去した残りの大豆混合物を市販の多段式篩装置にかけ、大豆子葉と胚芽とに分離した。すなわち、風選処理された大豆混合物を第一の篩にかけて未だ脱皮されていない丸大豆(未脱皮丸大豆)と、二つの子葉に分かれた子葉(半割れ子葉)と胚芽との混合物とに分け、次いで、子葉と胚芽との混合物を、第二の篩にかけ半割れ子葉と胚芽に分離した。
この分離された子葉には多少の皮が存在しているが、この分離された子葉を市販の冷却タンク(冷却ファン付、容量約8m3)によって、常温風冷で冷却し、この冷却した子葉を市販の剥皮機で再度剥皮処理して子葉に残った皮を分離した。
得られた子葉について、「食品衛生検査指針」(厚生労働省生活衛生局監修)に準じて、細菌数の測定を行い、細菌数が300個/g以下であることを検査して確認した。
【0043】
前記原料大豆の選別工程及び脱皮工程にて得られた子葉に対し、蒸煮機(株式会社エイユー工業製)を用い、105℃の温風の加熱水蒸気で120秒間蒸煮した。この蒸煮において大豆に対する加熱によるダメージを軽減する目的で蒸煮機の中に撹拌機を設置し、対流させることはより好ましい。
蒸煮後に乾燥機を用いた乾燥工程を経て、水分量6%の大豆中間品を得た。
【0044】
この大豆中間品にたいして衝撃型分級機内蔵微粉砕機(ACMパルペライザ)を用いて所定の粒径になるように粉砕し、大豆子葉粉末(油分22質量%、蛋白質33質量%、水分6質量%)を得た。
【0045】
同様に、大豆胚芽及び大豆皮に対しても蒸煮・乾燥・粉砕処理を行い所定の粒径になるように粉砕を行った。
【0046】
前記で得られた大豆子葉粉末・大豆胚芽粉砕物(大豆胚芽粉末)・大豆皮粉砕物(大豆皮粉末)の粒子径(粒度)を粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製 MT-3000 II)を用いて、粒子径分布を測定した。結果を表1に示す。表中、粒度測定の数値の単位はμmである。
【0047】
(エクストルーダー処理)
前記得られた大豆子葉粉末・大豆胚芽粉末・大豆皮粉末を原料として表1に示された含有量にて混合調製し、二軸エクストルーダー(株式会社スエヒロEPM社製 EA-100)を用い、フィードバレルより供給し、中間バレル先端バレルにニーディング・スクリューを組み合わせ、出口温度220℃にて丸ごと全脂組織状蛋白を得た。
【0048】
(組織化の評価)
前記丸ごと全脂組織状蛋白の組織化の評価は、植物たん白の日本農林規格のかみごたえの測定方法で行った。結果を表1に示す。
【0049】
(保存安定性試験)
前記で得られた丸ごと全脂組織状蛋白を50℃恒温槽にて7日間保管した後、官能試験にて劣化臭の測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(イソフラボン含有量の測定方法)
厚生労働省医薬食品局食品安全部長発 食安発第0823001号「大豆イソフラボンを含む特定保健用食品等の取扱いに関する指針について」に従い、全脂組織状蛋白のイソフラボン含有量を測定した。
【0051】
(繊維質含有量の測定方法)
日本食品分析センター「食物繊維 試験方法について」に従い、全脂組織状蛋白の繊維質含有量を測定した。
【0052】
(味・食感・風味等の官能試験)
パネラー5人による風味評価法により、全脂組織状蛋白の味・食感・風味等の官能試験を行った。
【0053】
【表1】
<評価基準>
組織化*1 〇:組織化良好、△:組織化不十分、×:組織化不良。
劣化臭 官能試験*2 〇:異臭なし、△:異臭を感じる、×:激しい異臭を感じる。
味・食感・風味等 官能試験*3 〇:味・食感・風味が全て合格であり、美味しいと感じる、×:味・食感・風味の少なくともいずれかが不合格。
【0054】
(実施例2)
米国産IPハンドリング大豆(丸大豆、油分25質量%、蛋白質30質量%)を原料として用いた。前記原料大豆を用いて実施例1と同様の方法により水分量6%の大豆中間品を得たのち、該大豆中間品を粉砕し、大豆子葉粉末(油分25質量%、蛋白質30質量%、水分6質量%)・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を得た。
【0055】
前記得られた大豆粉・大豆皮粉砕物・大豆皮粉砕物に対して、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
前記得られた大豆子葉粉末・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を原料として用いて、実施例1と同様のエクストルーダー処理を行い、丸ごと全脂組織状蛋白を得た。前記得られた丸ごと全脂組織状蛋白に対し、実施例1と同様の方法により各種試験を行った。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例3)
加工用国産大豆(丸大豆、油分20質量%、蛋白質38質量%)を原料として用いた。前記原料大豆を用いて実施例1と同様の方法により水分量6%の大豆中間品を得たのち、該大豆中間品を粉砕し、大豆子葉粉末(油分20質量%、蛋白質38質量%、水分6質量%)・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を得た。
前記得られた大豆子葉粉末・大豆皮粉砕物・大豆皮粉砕物に対して、実施例1と同様の測定を行った。結果を表1に示す。
前記得られた大豆子葉粉末・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を原料として用いて、実施例1と同様のエクストルーダー処理を行い、丸ごと全脂組織状蛋白を得た。前記得られた丸ごと全脂組織状蛋白に対し、実施例1と同様の方法により各種試験を行った。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例1)
米国産IPハンドリング大豆(丸大豆、油分25質量%、蛋白質30質量%)を原料として用いた。前記原料大豆を用いて実施例1と同様の方法により水分量6%の大豆中間品を得たのち、該大豆中間品を粉砕し、大豆子葉粉末(油分25質量%、蛋白質30質量%、水分6質量%)・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を得た。
前記得られた大豆子葉粉末・大豆皮粉砕物・大豆皮粉砕物に対して、実施例1と同様の測定を行った。結果を表2に示す。
前記得られた大豆子葉粉末・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を原料として用いて、実施例1と同様のエクストルーダー処理を行い、丸ごと全脂組織状蛋白を得た。前記得られた丸ごと全脂組織状蛋白に対し、実施例1と同様の方法により各種試験を行った。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
<評価基準>
組織化*1 〇:組織化良好、△:組織化不十分、×:組織化不良。
劣化臭 官能試験*2 〇:異臭なし、△:異臭を感じる、×:激しい異臭を感じる。
味・食感・風味等 官能試験*3 〇:味・食感・風味が全て合格であり、美味しいと感じる、×:味・食感・風味の少なくともいずれかが不合格。
【0059】
(比較例2)
米国産IPハンドリング大豆(丸大豆、油分25質量%、蛋白質30質量%)を原料として用いた。前記原料大豆を用いて実施例1と同様の方法により水分量6%の大豆中間品を得たのち、該大豆中間品を粉砕し、大豆子葉粉末(油分25質量%、蛋白質30質量%、水分6質量%)を得た。
前記得られた大豆子葉粉末に対して、表2に示す粒度の大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を加え、実施例1と同様の測定を行った。結果を表2に示す。
前記得られた大豆子葉粉末・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を原料として用いて、実施例1と同様のエクストルーダー処理を行い、丸ごと全脂組織状蛋白を得た。前記得られた丸ごと全脂組織状蛋白に対し、実施例1と同様の方法により各種試験を行った。結果を表2に示す。
【0060】
(比較例3)
米国産IPハンドリング大豆(丸大豆、油分25質量%、蛋白質30質量%)を原料として用いた。前記原料大豆を用いて実施例1と同様の方法により水分量6%の大豆中間品を得たのち、該大豆中間品を粉砕し、大豆子葉粉末(油分25質量%、蛋白質30質量%、水分6質量%)・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を得た。
前記得られた大豆子葉粉末・大豆皮粉砕物・大豆皮粉砕物に対して、実施例1と同様の測定を行った。結果を表2に示す。
前記得られた大豆子葉粉末・大豆胚芽粉砕物・大豆皮粉砕物を原料として用いて、実施例1と同様のエクストルーダー処理を行い、丸ごと全脂組織状蛋白を得た。前記得られた丸ごと全脂組織状蛋白に対し、実施例1と同様の方法により各種試験を行った。結果を表2に示す。
【0061】
表1に示したごとく、実施例1~実施例3の丸ごと全脂組織状蛋白は、組織化が良好であり、官能試験も良好な結果を示し、且つ繊維質及びイソフラボン量も増大していた。
一方、大豆皮粉末の粒度分布が所定の範囲にない原料組成物を用いた比較例1では、組織化が不十分であり、ザラツキも感じられた。大豆子葉粉末及び大豆皮粉末の粒度分布が所定の範囲にない原料組成物を用いた比較例2では、組織化が不十分であり且つ官能試験の結果も悪かった。大豆皮粉末の含有量が40質量%と多く、大豆子葉粉末、大豆胚芽粉末及び大豆皮粉末の粒度分布が所定の範囲にない原料組成物を用いた比較例3では、組織化と官能評価が悪かった。
【0062】
丸大豆をそのまま粉砕したとしても、大豆子葉粉末、大豆皮粉末及び大豆胚芽粉末は、本発明の粒度分布にはならない。本発明では、大豆子葉粉末に加えて、大豆皮粉末及び大豆胚芽粉末を主原料とし、それらを所定の粒度分布とすることで、組織化した際にざらつきの無い全脂組織状蛋白を安定して提供できるのである。