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特開2024-141388非水電解質二次電池用負極およびそれを用いた非水電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141388
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極およびそれを用いた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/36 B
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023052996
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】赤川 和廣
(72)【発明者】
【氏名】呂 佳穎
(72)【発明者】
【氏名】下地 梨沙
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リチウムイオン二次電池を含む非水電解質二次電池の充放電におけるSi系負極活物質層の膨張収縮を抑制し、寿命(サイクル特性)を向上させる。
【解決手段】SiOxを含むケイ素系活物質(A)と、一次粒子が凝集して形成した二次粒子からなる炭素系活物質(B)と、二次粒子を形成しない一次粒子からなる炭素系活物質(C)の、粒子の体積基準累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をDx[μm]と表した場合、AのD10が3μm以上であり、AのD10と、BのD10と、CのD10の値の、最大値をD10maxとし、最小値をD10minとしたとき、D10max/D10minの値が2.5以下であり、AのD90と、BのD90と、CのD90の値の、最大値をD90maxとし、最小値をD90minとしたとき、D90max/D90minの値が2.0以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池用の負極であって、
前記負極は負極活物質とバインダーと導電助剤とを含む、負極活物質層を備え、
前記負極活物質は、SiOx(式中、xは、0.5≦x≦1.6を満たす数である。)を含むケイ素系活物質(A)と、
一次粒子が凝集して形成した二次粒子からなる炭素系活物質(B)と、
二次粒子を形成しない一次粒子からなる炭素系活物質(C)と、
を含み、
前記負極活物質の粒子の体積基準累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をDx[μm]と表した場合、
前記ケイ素系活物質(A)のD10が3μm以上であり、
前記ケイ素系活物質(A)のD10と、前記炭素系活物質(B)のD10と、前記炭素系活物質(C)のD10の値のうち、最大のD10の値をD10maxとし、最小の値をD10minとしたとき、D10max/D10minの値が2.5以下であり、
前記ケイ素系活物質(A)のD90と、前記炭素系活物質(B)のD90と、前記炭素系活物質(C)のD90の値のうち、最大のD90の値をD90maxとし、最小の値をD90minとしたとき、D90max/D90minの値が2.0以下であることを特徴とする、非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記ケイ素系活物質(A)のD50が、7μm以上13μmである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
前記炭素系活物質(B)および前記炭素系活物質(C)が、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの任意の混合物を含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
前記炭素系活物質(B)が、表面が非晶質炭素で被覆された人造黒鉛であり、前記炭素系活物質(C)が、表面が被覆されていない人造黒鉛である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
前記負極における前記ケイ素系活物質(A)、前記炭素系活物質(B)および前記炭素系活物質(C)の総量に対して、前記ケイ素系活物質の含有量が10質量%以上20質量%以下である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
前記導電助剤が、カーボンナノチューブを含む請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項7】
前記導電助剤が、シングルウォールカーボンナノチューブが集合した集合状のシングルウォールカーボンナノチューブである、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項8】
前記導電助剤の一部が、前記ケイ素系活物質(A)、前記炭素系活物質(B)および前記炭素系活物質(C)の少なくとも1つの表面にあらかじめ付着した状態で存在する請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項9】
前記バインダーが、ポリアクリル酸を含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項10】
請求項1~2のいずれかに記載の非水電解質二次電池用負極と、非水電解質二次電池用正極と、セパレータと、電解質と、を少なくとも含む、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用負極、ならびに非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されているほか、モバイル端末等を含む小型の電子機器用電池として利用されている。このような電池として、特にリチウムイオン二次電池は広く使用されている。リチウムイオン二次電池は、出力特性、エネルギー密度、容量、寿命、高温安定性等の種々の特性を併せ持つことが要求されている。特に電池を小型化するために、電池の体積エネルギー密度を向上させることおよび高容量化することは、喫緊の課題となっている。特に電気自動車用リチウムイオン二次電池は、航続距離をさらに延ばすためにエネルギー密度を向上させることが要求されている。このため、電極や電解液を含む電池構成に様々な改良が図られている。
【0003】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質材料として黒鉛を使用することが知られている。黒鉛は安価であり、電池の充放電サイクルによる劣化が少なく、安全性が高いため、広く普及している。しかしながら黒鉛材料を負極活物質として用いた従来のリチウムイオン二次電池では、これ以上のエネルギー密度の向上が見込み難いため、さらに高容量の負極活物質材料の探索が行われるようになっている。高容量負極活物質材料として、ケイ素やケイ素酸化物を含むケイ素系負極活物質材料(以下、「Si系負極活物質材料」「Si系負極活物質」等と記載することがある。)が注目されている。
【0004】
たとえば特許文献1には、充放電の効率に優れた非水系二次電池を提供するために、炭素質粒子と酸化珪素粒子全体の積算粒子径D90とD10の比を定める負極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/097212号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、平均粒子径(小粒子側から50%積算部の粒子径)(d50)が3μm以上30μm以下、小粒子側から10%積算部の粒子径(d10)が0.1μm以上10μm以下、小粒子側から90%積算部の粒子径(d90)とd10の比(R1=d90/d10)が3以上20以下、d50とd10の比(R2=d50/d10)が1.7以上5以下であることが開示されている。しかしながらこれらの条件ではリチウムイオン二次電池の充放電時において繰り返される負極の膨張収縮による活物質粒子間の接触の喪失を抑制することが十分ではなかった。
【0007】
本発明は、Si系負極活物質を用いたときの、リチウムイオン二次電池を含む非水電解質二次電池の充放電における負極活物質層の膨張収縮を抑制し、非水電解質二次電池の寿命(サイクル特性)を向上させ、ことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一の実施形態は、負極活物質と、バインダーと、導電助剤とを含む負極活物質層を備えた非水電解質二次電池用負極である。前記負極活物質は、SiO(式中、xは、0.5≦x≦1.6を満たす数である。)を含むケイ素系活物質(A)と、
一次粒子が凝集して形成した二次粒子からなる炭素系活物質(B)と、
二次粒子を形成しない一次粒子からなる炭素系活物質(C)と、
を含み、
前記負極活物質の粒子の体積基準累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をDx[μm]と表した場合、
前記ケイ素系活物質(A)のD10が3μm以上であり、
前記ケイ素系活物質(A)のD10と、前記炭素系活物質(B)のD10と、前記炭素系活物質(C)のD10の値のうち、最大のD10の値をD10maxとし、最小の値をD10minとしたとき、D10max/D10minの値が2.5以下であり、
前記ケイ素系活物質(A)のD90と、前記炭素系活物質(B)のD90と、前記炭素系活物質(C)のD90の値のうち、最大のD90の値をD90maxとし、最小の値をD90minとしたとき、D90max/D90minの値が2.0以下である、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の非水電解質二次電池用負極は、Si系負極活物質を用いても、膨張収縮を抑制し、急速充放電に優れた非水電解質二次電池用負極および当該負極を用いた非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を以下に説明する。一の実施形態は、負極活物質と、バインダーと、導電助剤とを含む負極活物質層を備えた非水電解質二次電池用負極である。前記負極活物質は、SiO(式中、xは、0.5≦x≦1.6を満たす数である。)を含むケイ素系活物質(A)と、
一次粒子が凝集して形成した二次粒子からなる炭素系活物質(B)と、
二次粒子を形成しない一次粒子からなる炭素系活物質(C)と、
を含み、
前記負極活物質の粒子の体積基準累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をDx[μm]と表した場合、
前記ケイ素系活物質(A)のD10が3μm以上であり、
前記ケイ素系活物質(A)のD10と、前記炭素系活物質(B)のD10と、前記炭素系活物質(C)のD10の値のうち、最大のD10の値をD10maxとし、最小の値をD10minとしたとき、D10max/D10minの値が2.5以下であり、
前記ケイ素系活物質(A)のD90と、前記炭素系活物質(B)のD90と、前記炭素系活物質(C)のD90の値のうち、最大のD90の値をD90maxとし、最小の値をD90minとしたとき、D90max/D90minの値が2.0以下である、
ことを特徴とする。
【0011】
実施形態において、非水電解質二次電池とは、主に有機溶媒系の電解質を用いた、充電と放電を繰り返し行うことが可能な電池である。非水電解質二次電池としてリチウムイオン二次電池が挙げられる。非水電解質二次電池は、その構成部材として非水電解質二次電池用負極を含む。実施形態において負極とは、銅箔等の金属箔である負極集電体に、負極活物質を含む混合物を塗布または圧延および乾燥して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。すなわち負極は、負極集電体と、その両面に塗布された負極活物質を含む負極活物質層とから構成される。実施形態において、負極活物質層は、負極活物質と、バインダーと、導電助剤とを含むことが好ましい。負極活物質とは、電気エネルギーを発生させる反応に関与する物質のうち負極に用いられるものである。またバインダーとは、一般には粒子形状の負極活物質同士を電気的に接触させるために、負極活物質粒子を結着させるための物質である。導電助剤とは、電極の抵抗を低減するための材料である。
【0012】
実施形態において、負極活物質は、SiO(式中、xは、0.5≦x≦1.6を満たす数である。)を含むケイ素系活物質(A)と、炭素系活物質とを含む。ここでケイ素系活物質(A)は、化学式SiOのケイ素酸化物であり、式中のxは、0.5≦x≦1.6を満たす数である。ケイ素系活物質(A)は、単独化合物または複数の化合物の混合物であって良い。ケイ素系活物質は、概ね均一のまたは不揃いの大きさを有する粒子の形態であることが好ましい。負極活物質は、さらにリチウムケイ素化合物を含んでもよい。リチウムケイ素化合物は、化学式Li4.4Si、Li3.75Siや、LiSiO(リチウムシリケート)等のリチウム元素とケイ素元素とを含む化合物である。リチウムケイ素化合物は安定な化合物であり、非水電解質二次電池の充放電時にリチウムを放出しない。したがって、非水電解質二次電池の充放電時に体積変化を起こしやすいケイ素系活物質と併用することにより、負極活物質層の体積変化を抑制することができる。さらにケイ素系活物質(A)にはあらかじめリチウムをドープしておいても良い。リチウムケイ素化合物やリチウムをドープしたケイ素がある場合、ケイ素系活物質(A)の粒子径は、特にことわりのない限り、これらケイ素を含む化合物等の全体の粒子径をいうものとする。
【0013】
本明細書では、負極活物質の粒子の体積基準累積粒度分布において、小粒径側からの累積粒子体積が全粒子体積のx[%]に達するときの粒子径をDx[μm]と表すものとする。ケイ素系活物質(A)のD10が3μm以上であることが好ましい。また、ケイ素系活物質(A)のD50が、7μm以上13μmであることが好ましい。さらにケイ素系活物質にはあらかじめリチウムをドープしておいて良い。ここでD50とは、ケイ素系活物質(A)の平均粒子径のことである。
【0014】
負極活物質はさらに、炭素系活物質を含む。炭素系活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、またはこれらの任意の混合物であることが好ましい。ここで黒鉛とは、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。天然黒鉛および人造黒鉛は、非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、および非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を含む。ここで、非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。人造黒鉛を用いる場合、層間距離d値(d002)が0.33nm以上のものであることが好ましい。人造黒鉛の結晶の構造は、一般的に天然黒鉛よりも薄い。人造黒鉛を非水電解質二次電池、特にリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いる場合は、リチウムイオンが挿入可能な層間距離を有している必要がある。リチウムイオンの挿脱が可能な層間距離はd値(d002)で見積もることができ、d値が0.33nm以上であれば問題なくリチウムイオンの挿脱が行われる。実施形態において、炭素系活物質は、少なくとも2種類含むことが好ましい。2種類の炭素系活物質を、それぞれ炭素系活物質(B)と炭素系活物質(C)と呼ぶものとする。炭素系活物質(B)は、一次粒子が凝集して形成した二次粒子からなる炭素系活物質であることが好ましい。炭素系活物質(B)は、好ましくは表面が非晶質炭素で被覆された人造黒鉛である。また、炭素系活物質(C)は、前記の炭素系活物質(B)の一次粒子とは異なる一次粒子であって、一次粒子が凝集せず二次粒子を形成しない炭素系活物質である。炭素系活物質(C)は、好ましくは表面が被覆されていない人造黒鉛である。
【0015】
負極活物質層の負極活物質の総量に対して、ケイ素系活物質の含有量は、5質量%より大きく50質量%未満であることが特に好ましい。より好ましくはケイ素系活物質の含有量は、10質量%より大きく20質量%未満である。ケイ素系活物質の含有量が多すぎると、非水電解質二次電池の充放電時の負極活物質の体積変化が大きくなり好ましくない。また、ケイ素系活物質の含有量が少なすぎると、高エネルギー密度化の効果が得にくい。
【0016】
本実施形態において、ケイ素系活物質(A)のD10と、炭素系活物質(B)のD10と、炭素系活物質(C)のD10の値のうち、最大のD10の値をD10maxとし、最小の値をD10minとしたとき、D10max/D10minの値が2.5以下であることが好ましい。
さらにケイ素系活物質(A)のD90と、炭素系活物質(B)のD90と、炭素系活物質(C)のD90の値のうち、最大のD90の値をD90maxとし、最小の値をD90minとしたとき、D90max/D90minの値が2.0以下であることが好ましい。このような粒径分布を有する負極活物質を組み合わせて用いることにより、負極活物質粒子の充填密度が最適化され、充放電に伴う負極活物質層の膨張収縮を抑制することが可能になる。
【0017】
また、負極活物質の配合については、負極活物質層の負極活物質の総量に対して、ケイ素系活物質(A)の含有量は、5質量%より大きく50質量%未満であることが特に好ましい。より好ましくはケイ素系活物質(A)の含有量は、10質量%より大きく20質量%未満である。ケイ素系活物質(A)の含有量が多すぎると、非水電解質二次電池の充放電時の負極活物質の体積変化が大きくなり好ましくない。また、ケイ素系活物質(A)の含有量が少なすぎると、高エネルギー密度化の効果が得にくい。
【0018】
上記の負極活物質は、バインダーにより粒子同士を結着させることで電気的な接触を良好にすることができる。バインダーは、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸の金属塩、ポリ(メタ)アクリル酸のアルキルエステルまたはそれらの任意の混合物を含むことが好ましい。バインダーとして好適な化合物は、たとえば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリメタクリル酸カリウム;ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチルであり、これらの任意の混合物であっても良い。バインダーの含有量は、負極活物質層の固形分総量に対して、2質量%以上10質量%未満であることが好ましい。バインダーの含有量が多すぎると、活物質表面がバインダーに覆われる部分が多くなるため、イオン伝導性や電子伝導性が低下するおそれがある。また、バインダーの含有量が少なすぎると、負極活物質粒子同士の電気的接触が適切に行われないおそれがある。
【0019】
バインダーの成分として、上記の化合物のほか、さらにセルロースの誘導体であるカルボキシメチルセルロース(「CMC」と称する。)、またはカルボキシメチルセルロースの金属塩(たとえば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム)を含むことが特に好ましい。カルボキシメチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースの金属塩は、上記のバインダー化合物を安定化させる役割を果たし、負極活物質の電気的接触をも安定化させる。バインダーの成分としてCMCまたはCMCの金属塩をさらに添加する場合、CMCまたはCMC金属塩の含有量は、負極活物質層の固形分総量に対して0.05質量%以上1.5質量%以下、特に0.08質量%以上0.8質量%以下、さらに0.15質量%以上0.30質量%以下であることが好ましい。
【0020】
実施形態において、負極活物質層の固形分総量に対して、ケイ素系活物質(A)の含有量が5質量%以上50質量%以下であり、負極活物質層の固形分総量に対して、バインダーの含有量が2質量%以上8質量%以下であることが好ましい。
負極活物質層の固形分総量に対して、ケイ素系活物質(A)の含有量が10質量%以上20質量%以下であり、負極活物質層の固形分総量に対して、バインダーの含有量が2質量%以上6質量%以下であることがさらに好ましい。
また、負極活物質層の固形分総量に対して、ケイ素系活物質(A)の含有量が15質量%以上20質量%以下であり、負極活物質層の固形分総量に対して、バインダーの含有量が2.5質量%以上3.8質量%以下であることが、より一層好ましい。
ケイ素系活物質(A)およびバインダーの含有量を適切に調整することにより、非水電解質二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0021】
負極活物質層は、さらに導電助剤を含むのが好ましい。導電助剤は、電極の抵抗を低減するための材料である。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。実施形態において、導電助剤としてカーボンナノチューブ(「CNT」と称する。)を用いることが特に好ましい。CNTは、炭素原子の六員環ネットワーク(グラフェン)が単層または多層の同軸管構造を有する物質のことであり、シングルウォールカーボンナノチューブ(単層、「SWCNT」と称する。)とマルチウォールカーボンナノチューブ(多層、「MWCNT」と称する。)がある。いずれのCNTを用いてもよいが、負極活物質層に膨張収縮が生じたときに、負極における導電ネットワークが破断しないように、SWCNTが集まり、1本のSWCNTよりも長径化、長尺化した形状をした、集合状のSWCNTを用いることが好ましい。SWCNTは、あらかじめ溶媒に分散した状態でケイ素系活物質(A)、炭素系活物質(B)および炭素系活物質(C)のうちの少なくとも1種と混合し、当該少なくとも1種の活物質表面にSWCNTを付着させ、ケイ素系活物質(A)、炭素系活物質(B)および炭素系活物質(C)のうちの少なくとも2種のあいだに長径化、長尺化されたSWCNTを配置させることが好ましい。さらに、負極活物質層における導電性をサポートするために、SWCNTとは別に、カーボンブラックを併用してもよい。
【0022】
導電助剤としてCNTを用いる場合、CNTの含有量は、負極活物質層の固形分総量に対して、0.01質量%以上1質量%以下、特に0.03質量%以上0.8質量%以下、さらに0.1質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。
【0023】
その他、負極活物質層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
実施形態の負極活物質は、微粉の分布に偏りがないことで、高密度な負極活物質層を形成することができるとともに、負極活物質層の膨張収縮の局所的な偏りが生じない。このため、非水電解質二次電池のサイクル特性を向上することができる。
【0024】
本発明の他の実施形態は、一の実施形態の非水電解質二次電池用負極と、非水電解質二次電池用正極と、セパレータと、非水電解質と、を少なくとも含む、非水電解質二次電池である。
実施形態の非水電解質二次電池は、その構成部材として、非水電解質二次電池用負極、非水電解質二次電池用正極、セパレータ、および非水電解質を少なくとも含む。
実施形態において正極とは、アルミニウム箔等の金属箔である正極集電体に、正極活物質を含む混合物を塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。すなわち正極は、正極集電体と、その両面または片面に塗布された正極活物質を含む正極活物質層とから構成される。実施形態において、正極活物質層は、正極活物質と、バインダーとを含むことが好ましい。正極活物質とは、電気エネルギーを発生させる反応に関与する物質のうち正極に用いられるものである。またバインダーとは、一般には粒子形状の正極活物質同士を電気的に接触させるために、正極活物質粒子を結着させるための物質である。
【0025】
実施形態に用いる正極活物質は、好ましくはリチウム・ニッケル系複合酸化物を正極活物質として含む。リチウム・ニッケル系複合酸化物とは、一般式LiNiMe(1-y)(ここでMeは、Al、Mn、Na、Fe、Co、Cr、Cu、Zn、Ca、K、Mg、およびPbからなる群より選択される、少なくとも1種以上の金属である。)で表される、リチウムとニッケルとを含有する遷移金属複合酸化物である。特にリチウム・マンガン系複合酸化物を含むことが好ましい。リチウム・マンガン系複合酸化物は、たとえばジグザグ層状構造のマンガン酸リチウム(LiMnO)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)等を挙げることができる。また正極活物質は、特に、一般式LiNiCoMn(1-y-z)で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含む。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以上である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1-y-z≦0.4とすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1-y-z、y>zとすることが特に好ましい。この一般式を有するリチウム・ニッケル系複合酸化物は、すなわちリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(以下、「NCM」と称することがある。)である。NCMは、電池の高容量化を図るために好適に用いられるリチウム・ニッケル系複合酸化物である。
【0026】
正極活物質とともに正極活物質層を形成するバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を挙げることができる。
【0027】
また正極活物質層には、場合により導電助剤を含んでいても良い。場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メソポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。実施形態において、導電助剤としてカーボンナノチューブ(CNT)を用いることが特に好ましい。CNTは、炭素原子の六員環ネットワーク(グラフェン)が単層または多層の同軸管構造を有する物質のことであり、シングルウォールカーボンナノチューブ(単層、SWCNT)とマルチウォールカーボンナノチューブ(多層、MWCNT)がある。いずれのCNTを用いてもよいが、正極活物質層に膨張収縮が生じたときに、正極における導電ネットワークが破断しないように、SWCNTが集まり、1本のSWCNTよりも長径化、長尺化された形状をした、集合状のSWCNTを用いることが好ましい。さらに、正極活物質層における導電性をサポートするために、SWCNTとは別に、カーボンブラックを併用してもよい。その他、正極活物質層には、増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0028】
実施形態の非水電解質二次電池は、セパレータを構成部材として含む。セパレータは、たとえばポリオレフィンフィルムを用いることができる。ポリオレフィンとは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα-オレフィンを重合または共重合させて得られる化合物のことであり、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセンのほか、これらの共重合体を挙げることができる。セパレータとしてポリオレフィンフィルムを用いる場合、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンフィルムであると好都合である。ポリオレフィンフィルムがこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。すなわち一軸延伸ポリオレフィンフィルムは、電池の加熱時に収縮して孔が塞がるため、正負極間の短絡を防ぐことが可能となる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。
【0029】
また、架橋されたフィルムをセパレータとして用いることができる。多孔質または微孔質ポリオレフィンフィルムは加熱時に収縮する性質を有するため、電池の過熱時にはフィルムが収縮してシャットダウンする。しかしながらフィルムの熱収縮率が大きすぎると、フィルムの面積が大きく変化してしまい、かえって大電流の流れを生じることにもなりかねない。架橋されているポリオレフィンフィルムは、熱収縮率が適切であるため、過熱時にも、大きく面積を変化させることなく孔を塞ぐ分だけ収縮することができる。
【0030】
実施形態において用いられるセパレータは、該セパレータの片面または両面に耐熱性微粒子層を有していてもよい。この際、電池の過熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。
【0031】
実施形態の非水電解質二次電池は、非水電解質を含む。非水電解質は、イオン性物質を有機溶媒に溶解させた電気伝導性のある物質のことである。上記の非水電解質二次電池用負極と非水電解質二次電池用正極とが重ね合わせられ、それらの間にセパレータが配置され、これと非水電解質を含む非水電解質二次電池素子が、非水電解質二次電池の主構成部材の一単位である。通常は、複数の非水電解質二次電池用負極と複数の非水電解質二次電池用正極とが複数のセパレータを介して重ね合わされてできた積層物が非水電解質に浸漬されている。実施形態において用いることができる非水電解質は、主に非水電解液であって、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジ-n-プロピルカーボネート、ジ-t-プロピルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジ-イソブチルカーボネート、またはジ-t-ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。非水電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、LiFSI、過塩素酸リチウム(LiClO)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0032】
非水電解液は、このほか、添加剤として上記の環状カーボネートとは異なる環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、添加剤としてハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いてもよい。これらの環状カーボネートも、非水電解質二次電池の充放電過程において非水電解質二次電池用負極ならびに非水電解質二次電池用正極の保護被膜を形成する化合物である。特に、上記のジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有し不飽和結合を有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
【0033】
また、非水電解液は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,2-エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,2-エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが用いられる。
【0034】
実施形態の非水電解質二次電池は、通常外装体で封止される。封止とは、非水電解質二次電池素子の少なくとも一部が外気に触れないように、外装体材料により包まれていることを意味する。非水電解質二次電池の外装体は、ガスバリア性を有し、非水電解質二次電池素子を封止することが可能な筐体か、あるいは柔軟な材料から構成される袋形状のものである。外装体は、アルミニウム缶や、アルミニウム箔とポリプロピレン等を積層したアルミニウムラミネートシートなどを好適に使用することができる。すなわち外装体は、非水電解質を外部に浸出させない材料であればいかなるものを使用してもよい。外装体の最外層にポリエステル、ポリアミド、液晶性ポリマーなどの耐熱性の保護層を有し、最内層にポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、マレイン酸変性ポリエチレンなどの酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレンなどの酸変性ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PETとPENのブレンド、PETとPEIのブレンド、ポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂とPETのブレンド、キシリレン基含有ポリアミドとPETのブレンドなどからなる熱可塑性樹脂から構成されたシーラント層を有するラミネートフィルムを用いることができる。外装体は、これらのラミネートフィルムを1枚または複数枚組み合わせて接着または溶着し、さらに多層化したものを用いて形成してもよい。ガスバリア性金属層としてアルミニウム、スズ、銅、ニッケル、ステンレス鋼を用いることができる。金属層の厚みは30~50μmであることが好ましい。特に好適には、アルミニウム箔と、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリマーとの積層体であるアルミニウムラミネートを使用することができる。
実施形態の非水電解質二次電池は、コイン型電池、ラミネート型電池、巻回型電池など、種々の形態であってよい。
【実施例0035】
以上、本発明の実施形態について説明した。以下には本発明の実施例を説明する。上記実施形態ならびに以下に記載する実施例は、いずれも本発明を例示的説明したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的実施例の構成に限定する趣旨ではない。
【0036】
(正極の作製、すべての実施例および比較例)
正極活物質としてのLi(Ni0.9Co0.05Mn0.05)O(97.5質量%)と、正極結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF、1.5質量%)と、導電助剤としてカーボンナノチューブ(マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT1質量%)とを混合して正極活物質混合物とした。該正極活物質混合物をN-メチル-2-ピロリドンに分散させることにより、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを厚さ12μmのアルミニウム製集電体の片面に、均一に塗布した。単位面積当たりの初回充電容量が4.0mAh/cmとなるように塗布膜の厚さを調整した。乾燥させた後、ロールプレスで圧縮成形し、正極活物質層の密度が3.5g/cmとなるように調整することにより正極を作製した。
【0037】
(負極の作製、実施例1)
負極活物質としてケイ素系活物質(A)であるSiO(x=1.0、D10=11.0μm、D90=19.2μm)と、一次粒子が凝集して形成した二次粒子からなる炭素系活物質(B)である人造黒鉛(D10=7.9μm、D90=21.4μm)と、粒子同士が凝集せずに二次粒子を形成しない一次粒子からなる炭素系活物質(C)である人造黒鉛(D10=4.8μm、D90=17.5μm)と、を用いた。負極活物質質量比(ケイ素系活物質(A)のSiOxと、負極の炭素系活物質(B)および(C)の人造黒鉛との質量比、(表中は(A)/(B)+(C)]と表記)を85/15とし、炭素系活物質(B)と炭素系活物質(C)との質量比を1/1とした負極活物質混合物を得た。この活物質混合物(96.6質量%)と、負極バインダーとしてのポリアクリル酸系バインダー(商品名:10CLPAH、富士フィルム和光純薬株式会社、3.0質量%)と、導電助剤としてのシングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT0.3質量%)と、カルボキシメチルセルロース(CMC0.1質量%)を水溶媒に溶かして分散させ、負極スラリーを作製した。この負極スラリーを厚さ8μmのCu集電体上に均一に塗布した。単位面積当たりの初回充電容量が4.3mAh/cmとなるように塗布膜の厚さを調整した。その後、ロールプレスで圧縮成形し、負極活物質層の密度が1.65g/cmとなるように調整することにより負極を作製した。
なお、実施例で使用したSiOは、たとえば、シグマアルドリッチ社、株式会社高純度化学研究所、関東化学株式会社、富士フィルム和光純薬株式会社等から適切なものを入手することが可能であり、表面被覆成分や粗さなどの表面状態および粒子径等は、これらを単独または混合で用い、焼成等の熱処理、CVD法等による化学的処理、解砕、分級等の機械的処理およびスパッタリング等の既知の方法を用いることで調整することができる。また黒鉛は、日本黒鉛工業株式会社、レゾナック株式会社等から適切なものを入手することが可能であり、表面被覆成分や粗さなどの表面状態や粒子径等は、これらを単独または混合で用い、焼成等の熱処理、CVD法等による化学的処理、解砕、分級等の機械的処理およびスパッタリング等の既知の方法を用いることで調整することができる。
【0038】
なお、ここで用いた導電助剤は、SWCNTが集まり、1本のSWCNTよりも長径化、長尺化された形状をした、集合状のSWCNTである。ケイ素系活物質(A)、炭素系活物質(B)および炭素系活物質(C)のうちのいずれか2種以上の負極活物質と接触するように、負極活物質の表面に複数配置されている。このようなSWCNTは、たとえば株式会社名城ナノカーボン、本荘ケミカル株式会社、楠本化成株式会社から入手することができる。
【0039】
その他の実施例および比較例では、使用する負極活物質の種類および負極活物質の配合量を表1のように変更した。ケイ素系活物質(A)SiOxおよび炭素系活物質(B)および(C)、導電助剤のそれぞれの入手先は、実施例1のものと同じであった。また炭素系活物質(B)と炭素系活物質(C)との質量比は、実施例6については7:3とし、その他の実施例および比較例において実施例1と同様1:1とした。負極活物質層の作製方法は、すべての実施例および比較例において実施例1と同様とした。表中、%の表示は、負極活物質の固形分総質量に対する割合である。
【0040】
(リチウムイオン二次電池の作製、すべての実施例および比較例)
3cm×3cmに切り出した正極と負極とをセパレータを介して対向するように配置させた。セパレータには、微多孔性ポリエチレンレンフィルムの両面にセラミックコートした厚さ10μmのものを用いた。
【0041】
非水電解液は、有機溶媒と支持塩を混合することによって作製した。環状カーボネート(EC)と鎖状カーボネート(DEC、EMC)とが体積比で1/6となるように調整し、さらに、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)とを添加したものを使用した。
【0042】
上記の正極、負極、セパレータ、および非水電解液を、ラミネート外装体の中に配置し、ラミネートを封止し、非水電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池を作製した。正極と負極は、タブが接続され、ラミネートの外部から電気的に接続された状態とした。
【0043】
(リチウムイオン二次電池の評価)
各実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池について、下記の方法により容量維持率と1C放電時の平均電圧の低下とを測定し、評価した。
【0044】
(エネルギー密度)
作製した電池を、7.2mAで充電し、上限電圧が4.2Vに達した後は、全充電時間が12時間になるまで定電圧で充電した。その後、7.2mAで下限電圧2.5Vになるまで定電流で放電した。再度同じ条件で充電した後、45℃の恒温槽内に3日間放置し、再度、同じ条件で放電し、さらにもう一度充放電を行った。最後の放電時の容量と平均電圧を評価した。また、この評価の終了後にラミネート型電池(以下、単に「セル」と称する場合がある。)の厚さを評価した。
【0045】
セルの厚さから、ラミネート型電池の単位ユニット成分である、正極活物質層の厚さと、正極集電体の半分の厚さと、セパレータの厚さと、負極活物質層の厚さと、負極集電体の半分との厚さの和を求めた。具体的には、セルの厚さから、ラミネートの厚さと、正極集電体の厚さの半分と、負極の集電体の厚さの半分とを、減算した。
【0046】
以下の計算式:
[数1]

(セル放電時の容量)×(セルの放電時の平均電圧)/(電極の面積)/正極活物質層の厚さ+正極集電体の半分の厚さ+セパレータの厚さ+負極活物質層の厚さ+負極集電体の半分の厚さ)

から、ラミネート型電池の単位ユニット成分の部分のエネルギー密度を求めた。
【0047】
(容量維持率)
作製した電池を、45℃の恒温槽内に配置し、30mAで充電し、上限電圧が4.2Vに達した後は、全充電時間が2.5時間になるまで定電圧で充電した。その後、30mAで下限電圧2.5Vになるまで定電流で放電した。この充放電を100回繰り返し、100回目の放電容量と、1回目の放電容量の比率を300サイクル後の容量維持率とした。
【0048】
以下の表に、比較例、実施例の結果を示す。
【表1】
【表2】
【0049】
本発明の実施例の非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池は、エネルギー密度が高く、充放電後の容量維持率も高い。一方、比較例の非水電解質二次電池用負極を用いた非水電解質二次電池は、エネルギー密度か容量維持率のいずれかの低下が見られ、エネルギー密度と寿命とを共に向上させることができなかった。ケイ素系活物質と黒鉛系活物質の配合比と、SiOと2種の黒鉛の微粒子を除去し、累積粒度分布D10を最適化することにより、負極活物質層の適切な粒子充填密度が得られ、電極の膨張を抑制することで非水電解質二次電池のエネルギー密度やサイクル容量維持率を向上させることができる。さらに、D90のDmaxとD90minの比であるD90のDmax/D90minを2以下とするのがより効果的である。
【0050】
以上、本発明の非水電解質二次電池用の負極について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態および上記実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。