(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141393
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】モータ駆動装置、およびモータの制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/20 20160101AFI20241003BHJP
【FI】
H02P6/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053002
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津坂 昌功
【テーマコード(参考)】
5H560
【Fターム(参考)】
5H560BB04
5H560BB07
5H560BB12
5H560DA14
5H560DB14
5H560DC12
5H560EB01
5H560HA03
5H560HA09
5H560XA02
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を軽減する。
【解決手段】制御装置300は、N極またはS極の磁界を指定位置に発生させることにより、ロータ110Aの回転位置を該指定位置に引き寄せる。制御装置300は、指定位置に磁界を発生させてロータ110Aを引き寄せた後に指定位置を通過したロータ110Aの回転位置を推定位置として推定する。制御装置300は、推定位置に指定位置を近づける位置制御を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N極およびS極を有する回転子と、コイルが巻回された固定子とを有するモータと、
前記モータを駆動させるインバータと、
前記インバータを制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
N極またはS極の磁界を指定位置に発生させることにより、前記回転子の回転位置を該指定位置に引き寄せ、
前記指定位置に前記磁界を発生させて前記回転子を引き寄せた後に前記指定位置を通過した前記回転子の回転位置を推定位置として推定し、
前記推定位置に前記指定位置を近づける位置制御を実行する、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記推定位置に前記指定位置を近づけるように、該指定位置を第1角度ずつ変更する第1制御を前記位置制御として実行する、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記磁界を発生させた後に、前記推定位置と前記指定位置との角度差が90度であると推定した場合、前記推定位置と前記指定位置とが近づくように、該指定位置を前記第1角度よりも大きい第2角度変更する第2制御を前記位置制御として実行し、
前記第2制御の後に前記第1制御を実行する、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記指定位置は、
初期の前記指定位置の初期位置からプラス90度以上プラス180度以下離れた第1位置と、
前記初期位置である第2位置と、
前記初期位置からマイナス180度以上マイナス90度以下離れた第3位置と、を含み、
前記制御装置は、
前記推定位置が前記第1位置または第3位置である場合に前記第2制御の後に前記第1制御を実行し、
前記推定位置が前記第2位置である場合に前記第2制御を実行せずに前記第1制御を実行する、請求項3に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記第2角度は、30度より大きく90度以下の範囲の角度である、請求項3に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記第2角度は、90度である、請求項5に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記第1角度は、0度より大きく1度以下の範囲の角度である、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記モータに流れる電流をd軸電流およびq軸電流に座標変換し、
前記d軸電流の値および前記q軸電流の値に基づいて、前記第1制御を実行する、請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記d軸電流の値から所定値を差引いた値の符号、および前記q軸電流の値の符号に基づいて、前記第1制御を実行する、請求項8に記載のモータ駆動装置。
【請求項10】
前記制御装置は、前記モータのd軸電流値の変化量が第1閾値未満となり、かつ前記モータのq軸電流値の変化量が第2閾値未満となったときに、前記位置制御を終了させる、請求項8に記載のモータ駆動装置。
【請求項11】
前記制御装置は、前記位置制御を開始したときから所定期間が経過したときに、該位置制御を終了させる、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項12】
前記回転子は、2極磁石により構成される、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項13】
N極およびS極を有する回転子と、コイルが巻回された固定子とを有するモータの制御方法であって、
前記制御方法は、
N極またはS極の磁界を指定位置に発生させることにより、前記回転子の回転位置を該指定位置に引き寄せることと、
前記指定位置に前記磁界を発生させて前記回転子を引き寄せた後に前記指定位置を通過した前記回転子の回転位置を推定位置として推定することと、
前記推定位置に前記指定位置を近づける位置制御を実行することとを備える、モータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ駆動装置、およびモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転子を有するモータを制御するモータ駆動装置が知られている。たとえば、特開2002-369572号公報(特許文献1)に開示されているモータ駆動装置は、センサレスで回転子の回転位置を推定する。このモータ駆動装置は、モータの制御を開始する場合に、モータ駆動装置が指定する指定位置に回転子の回転位置を合わせる初期動作を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の初期動作が実行される場合において、回転子の回転位置と、指定位置との角度差が大きい場合がある。この場合には、回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間が多大になるという問題が生じ得る。
【0005】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 本開示のモータ駆動装置は、N極およびS極を有する回転子と、コイルが巻回された固定子とを有するモータと、モータを駆動させるインバータと、インバータを制御する制御装置とを備える。制御装置は、N極またはS極の磁界を指定位置に発生させることにより、回転子の回転位置を該指定位置に引き寄せる。制御装置は、指定位置に磁界を発生させて回転子を引き寄せた後に指定位置を通過した回転子の回転位置を推定位置として推定する。制御装置は、推定位置に指定位置を近づける位置制御を実行する。
【0007】
このような構成によれば、推定位置に指定位置を近づける位置制御を実行することから、回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を短くできる。
【0008】
(2) 制御装置は、推定位置に指定位置を近づけるように、該指定位置を第1角度ずつ変更する第1制御を位置制御として実行する。
【0009】
このような構成によれば、推定位置と指定位置とが近づくように、該指定位置を第1角度ずつ変更することから、回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を短くできる。
【0010】
(3) (2)に記載のモータ駆動装置であって、制御装置は、磁界を発生させた後に、推定位置と指定位置との角度差が90度であると推定した場合、推定位置と指定位置とが近づくように、該指定位置を第1角度よりも大きい第2角度変更する第2制御を実行する。また、制御装置は、第2制御の後に第1制御を実行する。
【0011】
このような構成によれば、推定位置と指定位置との角度差が90度であると推定したときに推定位置と指定位置とが近づくように、該指定位置を90度変更することから、推定位置と指定位置との角度差が90度離れていた場合であっても、回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を短くできる。
【0012】
(4) (3)のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、指定位置は、初期の指定位置の初期位置からプラス90度以上プラス180度以下離れた第1位置と、初期位置である第2位置と、初期位置からマイナス180度以上マイナス90度以下離れた第3位置と、を含む。制御装置は、推定位置が第1位置または第3位置である場合に第2制御の後に第1制御を実行する。制御装置は、推定位置が第2位置である場合に第2制御を実行せずに第1制御を実行する。
【0013】
このような構成によれば、推定位置が第1位置、第2位置、および第3位置のいずれであるかに応じて、第1制御および第2制御を実行することから、適切に回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を短くできる。
【0014】
(5) (3)または(4)に記載のモータ駆動装置であって、第2角度は、30度より大きく90度以下の範囲の角度である。
【0015】
このような構成によれば、推定位置と指定位置との角度差が90度離れていた場合であっても、回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を短くできる。
【0016】
(6) (5)に記載のモータ駆動装置であって、第2角度は、90度である。
【0017】
このような構成によれば、簡易な構成により、第2制御を実行できる。
【0018】
(7) (1)~(6)のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、第1角度は、0度より大きく1度以下の範囲の角度である。
【0019】
このような構成によれば、微小な角度で指定位置を変更できる。
【0020】
(8) (1)~(7)のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、制御装置は、モータに流れる電流をd軸電流およびq軸電流に座標変換し、モータのd軸電流値およびモータのq軸電流値に基づいて、第1制御を実行する。
【0021】
このような構成によれば、簡易な構成により、第1制御を実行できる。
【0022】
(9) (8) に記載のモータ駆動装置であって、制御装置は、d軸電流の値から所定値を差引いた値の符号、およびq軸電流値の符号に基づいて、第1制御を実行する。
【0023】
このような構成によれば、簡易な構成により、第1制御を実行できる。
【0024】
(10) (1)~(9)のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、制御装置は、モータのd軸電流値の変化量が第1閾値未満となり、かつモータのq軸電流値の変化量が第2閾値未満となったときに、位置制御を終了させる。
【0025】
このような構成によれば、簡易な構成により、位置制御の終了の有無を判断できる。
【0026】
(11) (1)~(9)のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、制御装置は、位置制御を開始したときから所定期間が経過したときに、該位置制御を終了させる。
【0027】
このような構成によれば、簡易な構成により、位置制御の終了の有無を判断できる。
【0028】
(12) (1)~(11)のいずれか1項に記載のモータ駆動装置であって、回転子は、2極磁石により構成される。
【0029】
このような構成によれば、回転子が2極磁石により構成されることにより回転子を簡易な構成にできるものの角度差が大きくなる傾向になる。しかしながら、本開示のモータ駆動装置により、角度差を抑制できる。
【0030】
(13) 本開示の制御方法は、N極およびS極を有する回転子と、コイルが巻回された固定子とを有するモータの制御方法である。制御方法は、N極またはS極の磁界を指定位置に発生させることにより、回転子の回転位置を該指定位置に引き寄せることを備える。制御方法は、指定位置に磁界を発生させて回転子を引き寄せた後に指定位置を通過した回転子の回転位置を推定位置として推定することを備える。制御方法は、推定位置に指定位置を近づける位置制御を実行することを備える。
【発明の効果】
【0031】
本開示においては、回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図6】第1制御および第2制御を説明するための図である。
【
図7】推定の手法の前提を説明するための図である。
【
図8】ロータの挙動の種別を説明するための図である。
【
図17】モータ駆動装置の処理を示すフローチャートの一例である。
【
図18】シミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図19】シミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図20】シミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図21】シミュレーション結果の一例を示す図である。
【
図22】変形例のモータ駆動装置の処理を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0034】
図1は、電気システム500のブロック図である。電気システム500は、たとえば、電動車両に搭載される。電気システム500は、バッテリ150と、SMR(System Main Relay)230と、インバータ210と、モータ110と、制御装置300とを備える。制御装置300は、演算回路とも称される。
【0035】
モータ110は、代表的には、永久磁石モータによって構成された三相交流回転電機である。モータ110は、星型結線されたU相コイル、V相コイルおよびW相コイルを固定子巻線として有する。各相コイルの一端は、中性点22で互いに接続される。各相コイルの他端は、インバータ210の各相アームのスイッチング素子の接続点(図示せず)とそれぞれ接続される。
【0036】
バッテリ150の正極および負極はSMR230に接続されている。また、バッテリ150からの電圧は、コンバータ(図示せず)を介して、インバータ210に供給される。
【0037】
インバータ210は、三相インバータで構成される。インバータ210は、電動車両の走行時には、該走行で要求される駆動力(車両駆動トルク、発電トルク等)を発生するために設定される動作指令値(代表的には、後述のトルク値Tr)に従ってモータ110が動作するように、モータ110の各相コイルの電流または電圧を制御する。
【0038】
電流センサ24Vは、モータ110に流れるV相電流Ivを検出する。電流センサ24Wは、モータ110に流れるW相電流Iwを検出する。V相電流Iv、およびW相電流Iwは、制御装置300の座標変換部320(
図2参照)に入力される。なお、三相電流Iu,Iv,Iwの瞬時値の和はゼロであるので、
図1に示すように、2相分のモータ電流(たとえば、V相電流IvおよびW相電流Iw)を検出するように配置すれば足りる。したがって、後述の
図2では、U相電流Iuは記載されていない。
【0039】
制御装置300は、SMR230およびインバータ210などを制御する。また、制御装置300は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)302と、メモリ304とを有する。メモリ304は、たとえば、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを有する。ROMには、CPU302が実行するプログラムを格納する。RAMは、CPU302におけるプログラムの実行により生成されるデータ(たとえば、後述の電圧特徴量)などを一時的に格納する。また、モータ駆動装置400は、モータ110と、制御装置300とを備える。本実施形態のモータ駆動装置400においては、モータ110の回転位置を検出するセンサ(レゾルバ)を有さないセンサレス構成が採用される。
【0040】
[制御装置の機能ブロック図]
図2は、制御装置300などの機能ブロック図である。
図2の例では、制御装置300は、PI演算部240と、座標変換部250と、PWM(Pulse Width Modulation)部260と、制御部310と、座標変換部320と、推定部330と、角度演算部340と、スイッチ部350と、補正演算部360とを有する。モータ110は、ロータ110Aおよび固定子110Bを有する。ロータ110Aは、N極およびS極を有する。ロータ110Aは、本開示の「回転子」に対応する。固定子110Bは、巻回された3相のコイル(
図1のU相コイル、V相コイル、およびW相コイル)により構成される。
【0041】
制御装置300は、上位コントローラ(図示せず)と通信可能である。上位コントローラは、電気システム500を始動するときに制御装置300に対して開始信号Cを送信する。また、上位コントローラは、初期制御が終了したときに制御信号Dを送信する。なお、上位コントローラは、制御装置300とは別の装置としてもよく、制御装置300と一体化されていてもよい。開始信号Cは、制御装置300に対して初期制御を実行させるための信号である。制御信号Dは、制御装置300に対して通常制御を実行させるための信号である。
【0042】
制御装置300は、開始信号Cを受信すると、初期制御を実行する。初期制御は、モータ110(ロータ110A)の回転位置を指定位置に一致させるための制御である(後述の
図3など参照)。初期制御は、本開示の「位置制御」に対応する。「位置制御」は、後述の推定位置に指定位置40を近づける制御と表現してもよい。
【0043】
制御装置300は、制御信号Dを受信すると、通常制御を実行する。通常制御は、たとえば、電気システム500が搭載されている電動車両の駆動中の制御である。また、本実施形態の制御装置300は、所定周期(後述のサンプリング周期)毎に初期制御を実行する。また、制御装置300は、該所定周期毎に通常制御を実行する。
【0044】
スイッチ部350は、制御部310の制御により、第1状態または第2状態に切替可能となっている。第1状態は、加算部370から出力された角度θ1が角度θ5として、座標変換部250および座標変換部320に出力される状態である。第2状態は、推定部330から出力された角度θ4が角度θ5として座標変換部250および座標変換部320に出力される状態である。
図2の例では、第1状態が示されている。
【0045】
制御部310は、スイッチ部350の状態を第1状態にした状態で初期制御を実行する。また、制御部310は、スイッチ部350の状態を第2状態にした状態で通常制御を実行する。
【0046】
[通常制御]
次に、通常制御を説明する。制御信号Dには、たとえば、トルク値Trが含まれており、制御装置300は、該トルク値Trのトルクをモータ110に発生させる制御を通常制御を実行する。制御部310は、予め作成されたテーブル等に従って、該トルク値Trに応じたトルクをモータ110に発生させるために必要なd軸電流指令値Idcおよびq軸電流指令値Iqcを生成する。なお、d軸電流は、ロータ110Aによって生じる磁界の方向と平行な方向に磁界が生じる電流である。また、q軸電流は、d軸電流と直交する電流である。
【0047】
座標変換部320は、スイッチ部350から出力された角度θ5を用いた座標変換式(3相→2相)によって、V相電流IvおよびW相電流Iwを指令軸座標dc-qcでのd軸電流Idおよびq軸電流Iqに変換する。座標変換部320の座標変換式は、たとえば、式(1)である。なお、式(1)および、後述の式(2)において、電流Iuの“u”、電流Iwの“w”、およびθ5の“5”が添え字で示されている。
【0048】
【0049】
V相電流Ivは、電流センサ24Vにより検出される。また、W相電流Iwは、電流センサ24Wにより検出される。V相電流IvおよびW相電流Iwは、静止座標である3相交流座標上での電流値である。d軸電流Id、およびq軸電流Iqは、それぞれ、減算部311、および減算部312に出力される。また、d軸電流Id、およびq軸電流Iqは、推定部330に出力される。
【0050】
推定部330は、d軸電流Idおよびq軸電流Iqに基づいて、所定の演算によりモータの回転角度θ4を推定する。推定された角度θ4は、スイッチ部350に出力される。
【0051】
減算部311は、d軸電流値とd軸電流の指令値との偏差ΔId(ΔId=Id-Idc)を算出し、該ΔIdをPI演算部240および補正演算部360に出力する。減算部312は、q軸電流値とq軸電流の指令値との偏差ΔIq(ΔIq=Iq-Iqc)を算出し、該ΔIqをPI演算部240および補正演算部360に出力する。
【0052】
PI演算部240は、d軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqについて所定ゲインによるPI(比例積分)演算を行なって制御偏差を求める。PI演算部240は、この制御偏差に応じて、指令軸座標dc-qcでの各軸方向の印加電圧の指令値であるd軸電圧指令値Vdc及びq軸電圧指令値Vqcを算出する。d軸電圧指令値Vdcは、d軸の指令値である。q軸電圧指令値Vqcは、q軸の指令値である。このように、PI演算部240はフィードバック制御を実行する。
【0053】
座標変換部250は、後述のスイッチ部350から出力された角度θ5を用いた座標変換式(2相→3相)によって、d軸電圧指令値Vdcおよびq軸電圧指令値Vqcを、静止座標である3相交流座標上でのU相、V相、W相の各相電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcに変換する。座標変換部250の座標変換式は、たとえば、式(2)である。
【0054】
【0055】
PWM部260は、各相における電圧指令値Vuc,Vvc,Vwcと所定の搬送波との比較に基づいて、スイッチング制御信号を生成し、インバータ210に出力する。インバータ210は、該スイッチング制御信号に従ってスイッチング制御を実行する。モータ110には、該スイッチング制御により、制御部310に入力されたトルク値Trに従ったトルクを出力するための交流電圧が印加される。
【0056】
このように、通常制御においては、トルク値Trに応じた電流指令値(Idc,Iqc)へモータ電流を制御する閉ループが構成される。この閉ループにより、モータ110の出力トルクはトルク値Trに従って制御される。つまり、制御部310は、制御信号(本実施の形態では、電流指令値(Idc,Iqc))に基づいて、モータ110を駆動する(ロータ110Aを回転させる)。
【0057】
[初期制御について]
次に、初期制御を説明する。初期制御は上述のように、モータ110の回転位置を指定位置に一致させるための制御である。
図3は、初期制御を説明するための図である。
図3(A)の例においては、平面座標として、d軸およびq軸が示されている。この平面座標にロータ110Aが記載されている。ロータ110Aは、2極の永久磁石で構成されていることから、本実施形態のモータ110は、いわゆる2極モータである。
図3などに示されているd軸は、モータ駆動装置400が認識(推定)している、ロータ110Aの回転位置の関する軸である。また、
図3などに示されているq軸は、d軸に直交する軸である。
【0058】
q軸電流は、モータ110のトルクに対応する電流である。したがって、制御部310は、Iqcをゼロとし、Idcを所定値とする。これにより、モータ110にトルクを発生させないようにし、かつ指定位置40に磁界(
図3の例ではS極の磁界)を発生させることができる。このような磁界を発生させることにより、制御部310は、該制御部310が指定した指定位置40(指令角度)に、ロータ110Aの基準点Cが位置するように該ロータ110Aを回転させる。基準点Cは、ロータ110Aの所定の位置である。基準点Cは、たとえば、ロータ110Aのd軸に対応した位置とされる。
【0059】
指定位置40は、角度θ1(角度θ5)に対応した位置となる。角度θ1は、指令角度とも称される。つまり、制御部310は、q軸電流をゼロとしかつd軸電流を所定値とした状態で、角度θ1を変更することにより、該指定位置40も変更できる。なお、変形例として、指定位置40に発生させる磁界はN極としてもよい。
【0060】
図3(A)では、初期の指定位置40がd軸上の0度である(つまり、角度θ1=0度)例が示されている。また、
図3(A)では、角度差Δθが示されている。角度差Δθは、指定位置40と、モータ110の実際の回転位置とのズレ量である。ロータ110AのN極は、指定位置40のS極に引き寄せられるため、Δθは徐々に小さくなる。
【0061】
図3(B)は、初期制御が行われたときから経過した時間tと角度差Δθとの関係を示す図である。
図3(B)に示すように、時間tの経過に応じて、角度差Δθは振動しながら小さくなる。そして、角度差Δθが、予め定められた基準範囲に属した場合に、初期制御が終了することが好ましい。基準範囲は、0±Mにより示される範囲である。Mは、予め定められたマージン値である。制御部310は、角度差Δθが基準範囲に属した後に、通常制御を実行する。したがって、モータ駆動装置400は、該モータ駆動装置400が認識しているモータ110の回転角度と、モータ110の実際の回転角度との角度差を抑制した状態で、通常制御を実行することができる。
【0062】
図4は、初期制御を実行する場合において、角度差Δθが大きい場合が示されている。
図4に示すように、角度差Δθが大きい場合には、初期制御が実行されたときから、角度差Δθが基準範囲に属するときまでの必要時間が多大になってしまう。また、角度差Δθが基準範囲に属する前に、初期制御から通常制御に切換わると、モータ110の脱調などが生じてしまう。
【0063】
そこで、本実施形態のモータ駆動装置400は、角度差Δθが大きい場合であってもモータ110の回転位置が指定位置となるまでの時間を軽減することが可能な初期制御を実行する。以下に、本実施形態の初期制御の詳細を説明する。
【0064】
説明を
図2に戻す。上述のように、初期制御においては、スイッチ部350の状態が、加算部370からの角度θ1が座標変換部320に出力される第1状態となる。初期制御においては、制御部310は、角度演算部340のロータ110Aの角速度の指令値として、角速度ωcを角度演算部340に出力する。後述するように、制御部310は、角速度ωcを時間経過とともに大きくする。
【0065】
角度演算部340は、所定の演算を実行することにより角度θ3を出力する。該所定の演算は、たとえば、角速度ωcを積分する演算を含む。角度θ3は、加算部370に出力される。
【0066】
補正演算部360は、角度差Δθに応じた補正値(角度θ2)を算出する。上述のように、角度差Δθは、予め定められた指定位置と、モータ110の実際の回転位置とのズレ量である。
【0067】
次に、補正演算部360の制御の詳細を説明する。補正演算部360の制御は、以下の第1制御および第2制御を含む。
図5は、第1制御を説明するための図である。
図5および
図6の例では、d軸およびq軸の平面を4分割する平面として、第1象限、第2象限、第3象限、および第4象限が示されている。
図5および
図6の例では、時計の針の回転方向と反対方向の順序で、第1象限、第2象限、第3象限、および第4象限が規定されている。以下では、時計の針の回転方向は、「順方向」とも称され、順方向と反対方向は、「逆方向」とも称される。
【0068】
上述のように、モータ駆動装置400は、レゾルバを有さない。したがって、ロータ110Aの回転位置を直接的に検出しない。その代わりに、補正演算部360は、ロータ110Aの回転位置の象限の切替わりを検知する。象限の切替わりの検知の手法については後述する。
【0069】
図5(A)は、初期状態の一例を示す図である。
図5(A)の状態においては、指定位置に磁界は発生されていない。次に、
図5(B)に示すように、制御装置300は、開始信号Cを受信し、初期の指定位置40にS極の磁界を発生させる。以下では、指定位置40に発生される磁界は、「発生磁界」とも称される。
【0070】
図5(C)に示すように、指定位置40の発生磁界により、ロータ110AのN極が、該発生磁界に引き寄せられ、ロータ110Aが回転する。その後、ロータ110Aに対する発生磁界による引力によりロータ110Aの回転位置は、発生磁界(初期の指定位置40)を通過する。補正演算部360は、該通過したロータ110Aの回転位置を推定位置として推定する。推定位置は、補正演算部360により推定されるロータ110Aの回転位置である。この推定として、具体的には、補正演算部360は、ロータ110Aの回転位置の象限の切替わりを検知する。
図5(C)の例では、補正演算部360は、ロータ110Aの回転位置が、第1象限から第4象限に切替わったことを検知する。
【0071】
次に、補正演算部360は、推定位置に指定位置40を近づける位置制御を実行する。具体的には、
図5(D)に示すように、補正演算部360は、指定位置40を予め定められた第1角度θAだけ、順方向(ロータ110Aが回転した方向)に変更する。この変更は、推定位置に指定位置40を近づける処理である。
【0072】
ここで、第1角度θAは、微小な角度であり、たとえば、第1角度θAは、0度より大きく1度以下である予め定められた角度である。本実施形態の第1角度θAは、1度であるとする。また、
図5および
図6に示すように、本実施形態においては、指定位置40の変更に伴って、d軸、q軸、および第1~第4象限、および後述の第1~第8挙動も変更される。なお、
図5(D)などにおいては、第1制御が実行される前の指定位置40(d軸)の軸がd1軸として示されている。
【0073】
次に、
図5(E)に示すように、補正演算部360は、さらに、指定位置40を第1角度θAだけ、順方向(ロータ110Aの回転方向に近づく方向)に変更する。そして、補正演算部360は、さらに、指定位置40を第1角度θAだけ変更する制御を繰返す。このように、指定位置40を第1角度θAずつ変更する制御が「第1制御」である。
【0074】
次に、
図5(F)に示すように、補正演算部360は、所定の終了条件(たとえば、後述の
図17のステップS12参照)が成立したときに、第1制御を終了する。
図5(F)においては、ロータ110Aの回転位置と、指定位置40とが一致している状態が示されているが、完全に一致していない状態で第1制御が終了されてもよい。
【0075】
このように補正演算部360は、ロータ110Aの回転位置(ロータ110Aの基準点C)に、指定位置40を近づけるように、該指定位置40を変更する。したがって、制御装置300は、初期制御を開始したときから、ロータ110Aの回転位置が指定位置40(または指定位置40の近傍位置)となるまでの時間を軽減できる。
【0076】
図6は、第1制御および第2制御が実行される場合を説明するための図である。
図6(A)は、初期状態の一例を示す図である。
図6(A)の状態においては、指定位置に磁界は発生されていない。次に、
図6(B)に示すように、制御装置300は、開始信号Cを受信し、初期の指定位置40にS極の発生磁界を発生させる。
【0077】
図6(C)に示すように、指定位置40の発生磁界により、ロータ110AのN極が、該発生磁界に引き寄せられ、ロータ110Aが回転する。そして、補正演算部360は、ロータ110Aの回転位置の象限の切替わりを検知する。
図6(C)の例では、補正演算部360は、ロータ110Aの回転位置が、q軸を通過したこと(第2象限から第1象限に切替わったこと)を検知する。
【0078】
ここで、q軸は、初期の指定位置40から90度も離れている。したがって、
図5のような第1制御のみでは、ロータ110Aの回転位置が指定位置40となるまでの時間が長くなってしまう可能性がある。そこで、
図6(D)に示すように、補正演算部360は、指定位置40を第2角度θBだけ、逆方向(ロータ110Aの回転位置に近づく方向)に変更する。第2角度θBは、第1角度θAよりも大きい角度である。第2角度θBは、30度よりも大きく90度以下である予め定められた角度である。本実施形態では、第2角度θBは、90度である。指定位置40を第2角度θBだけ変更する制御が「第2制御」である。このように、補正演算部360は、第2角度θBだけ指定位置40を変更することにより、ロータ110Aの回転位置を指定位置40に一気に近づけることができる。
【0079】
その後、ロータ110Aに対する発生磁界による引力によりロータ110Aの回転位置は、発生磁界(90度変更後の指定位置)を通過する。補正演算部360は、該通過したロータ110Aの回転位置を推定位置として推定する。この推定として、具体的には、補正演算部360は、ロータ110Aの回転位置の象限の切替わりを検知する。
図6(D)の例では、補正演算部360は、ロータ110Aの回転位置が、第1象限から第4象限に切替わったことを検知する。
【0080】
そして、
図6(E)および
図6(F)に示すように、補正演算部360は、終了条件が成立するまで第1制御を実行する。また、第2制御を実行せずに第1制御を実行する場合(
図5参照)、および第2制御および第1制御を実行する場合のいずれにおいても、該第1制御においては、プラス方向およびマイナス方向のいずれにも指定位置40を変更され得る。
【0081】
[象限の切替わりの推定]
次に、ロータ110Aの回転位置の象限の切替わりの推定の手法を説明する。
図7は、該推定の手法の説明の前提を説明するための図である。
図7に示すように、ロータ110Aの回転位置の回転挙動として、第1~第8挙動が示されている。たとえば、第1挙動は、第2象限において、ロータ110Aの回転位置から順方向に回転する挙動である。また、
図7に示すように、逆方向は、角度のプラス方向であり、順方向は、角度のマイナス方向である。なお、初期の指定位置40は、「初期位置」とも称される。また、
図7に示すように、初期の指定位置(初期位置)からプラス90度離れた位置は、「第1位置P1」とも称される。初期位置は、「第2位置P2」とも称される。初期位置からマイナス90度離れた位置は、「第3位置P3」とも称される。
【0082】
なお、第1位置P1は、初期位置からプラス90度以上、プラス180度以下離れた位置のいずれかの位置としてもよい。また、第3位置P3は、マイナス180度以上マイナス90度以下離れた位置のいずれかの位置としてもよい。変更前および変更後の指定位置は、第1位置P1と、第2位置P2と、第3位置P3とを含み得る。
【0083】
発明者は、実験により、ロータ110Aの挙動(第1挙動~第8挙動)と、ΔIdの符号およびΔIqの符号との間に相関があることを発見した。上述のように、初期制御においては、q軸電流指令値Iqcはゼロであり、d軸電流指令値Idcは所定値である。したがって、ΔIqは、Iqの値そのものであり、ΔIdは、Idから当該所定値が差引かれた値である。
【0084】
図8は、この相関に基づいたロータ110Aの挙動の種別を示す図である。
図8の例では、たとえば、ΔIdが正でありΔIqが正である場合には、ロータ110Aの挙動は第1挙動または第2挙動であることが示されている。このように、
図8に示すように、ΔIdおよびΔIqの符号では、ロータ110Aの挙動は一意に特定されない。
【0085】
なお、初期の指定位置40(角度θ2=0度)に発生磁界が発生した場合には、ロータ110Aは、発生磁界に引き寄せられる。したがって、ロータ110Aの挙動は、第3挙動および第8挙動とはならない、つまり、ロータ110Aの挙動は、第1~第8挙動のうち第3挙動および第8挙動以外の挙動となる。
【0086】
以下では、ΔIdの符号およびΔIqの符号の組合せの状態は、「符号組合せ状態」とも称される。
図9は、符号組合せ状態と、制御パターンと、推定位置と、該制御パターンの制御内容とを示す図である。たとえば、符号組合せ状態の(正、負)は、ΔIdの符号が正であり、ΔIqの符号が負であることを示す。推定位置は、
図7の第1位置P1、第2位置P2、および第3位置P3のいずれかで示される。補正演算部360は、
図9の制御テーブルを有する。
【0087】
補正演算部360は、符号組合せの状態が第1状態、第1の状態の後の第2状態、および第2状態の後の第3状態とに分けられる。
図8においては、第1状態、および第2状態が示されており、第3状態は示されていない。補正演算部360が、(正、正)(第1状態)を検出している状態において、(正、負)(第2状態)を検出した場合には、
図8の記載から第1挙動から第5挙動に切替わったことが推定される。また、この場合には、理論的には、第1挙動から第6挙動に切替わる状況、第2挙動から第5挙動に切替わる状況、および第2挙動から第6挙動に切替わる状況も考えられる。しかしながら、現実的にロータ110Aの挙動としてはこのような状況にはならない。以下の説明は、現実的にロータ110Aの挙動としてはなり得ない状況は除外されて説明される。
【0088】
また、(正、正)(第1状態)を検出している状態において、(正、負)(第2状態)を検出した場合には、推定位置は、第1位置P1となり、象限の切替わりは第2象限から第1象限の切替わりとなる。また、この場合には、補正演算部360は、制御パターンAを実行する。制御パターンAは、プラス方向(
図7参照)の第2制御を含むパターンである。プラス方向の第2制御は、プラス方向に指定位置40を90度(第2角度θB)だけ変化させる制御である。
【0089】
さらに第2状態の後の第3状態が(負、負)の場合には、ロータ110Aの回転位置は第4挙動となるから、補正演算部360は、マイナス方向の第1制御を実行する。マイナス方向の第1制御は、指定位置40を、マイナス方向(
図7参照)に第1角度θAずつ変化させる制御である。また、第2状態の後の第3状態が(負、正)の場合には、ロータ110Aの回転位置は第7挙動となるから、補正演算部360は、プラス方向の第1制御を実行する。プラス方向の第1制御は、指定位置40をプラス方向(
図7参照)に第1角度θAずつ変化させる制御である。
【0090】
その後、補正演算部360は、第3状態の後の第N状態の符号組合せ状態に応じて、プラス方向の第1制御またはマイナス方向の第1制御を実行する。「N」とは、3以上の整数である。
【0091】
具体的には、第N状態において、補正演算部360は、第5挙動または第7挙動を検出したときには、プラス方向の第1制御を実行する。また、第N状態において、補正演算部360は、第2挙動または第4挙動を検出したときには、マイナス方向の第1制御を実行する。このように、補正演算部360は、第2制御を実行するか否かに関わらず、第5挙動または第7挙動を検出したときには、プラス方向の第1制御を実行し、第2挙動または第4挙動を検出したときには、マイナス方向の第1制御を実行する。
【0092】
補正演算部360は、(正、正)から(正、負)に切替わったタイミングで、プラス方向の第2制御を開始し、その後、第1制御を実行する。補正演算部360は、このような制御パターンAを実行することにより、指定位置40をロータ110Aの回転位置に追従させることができる。
【0093】
補正演算部360が、(正、正)を検出している状態において、(負、正)を検出した場合には、挙動の切替わりは第2挙動から第7挙動の切替わりとなり、推定位置は第2位置P2となり、象限の切替わりは第4象限から第1象限の切替わりとなる。また、この場合には、補正演算部360は、制御パターンBを実行する。制御パターンBは、第2制御を実行せずに第1制御を実行するパターンである。
【0094】
補正演算部360は、(正、正)から(負、正)に切替わったタイミングで、プラス方向の第1制御を開始する。その後、補正演算部360は、符号組合せ状態に応じて、プラス方向の第1制御またはマイナス方向の第1制御を実行する。補正演算部360は、このような制御パターンBを実行することにより、指定位置40をロータ110Aの回転位置に追従させることができる。
【0095】
補正演算部360が、(正、負)を検出している状態において、(負、負)を検出した場合には、挙動の切替わりは第5挙動から第4挙動の切替わりとなり、推定位置は第2位置P2となり、象限の切替わりは第1象限から第4象限の切替わりとなる。また、この場合には、補正演算部360は、制御パターンCを実行する。制御パターンCは、第2制御を実行せずに第1制御を実行するパターンである。
【0096】
補正演算部360は、(正、負)から(負、負)に切替わったタイミングで、マイナス方向の第1制御を開始する。その後、補正演算部360は、符号組合せ状態に応じて、プラス方向の第1制御またはマイナス方向の第1制御を実行する。補正演算部360は、このような制御パターンCを実行することにより、指定位置40をロータ110Aの回転位置に追従させることができる。
【0097】
補正演算部360が、(正、負)を検出している状態において、(正、正)を検出した場合には、挙動の切替わりは第6挙動から第2挙動の切替わりとなり、推定位置は第3位置P3となり、象限の切替わりは第3象限から第4象限の切替わりとなる。また、この場合には、補正演算部360は、制御パターンDを実行する。制御パターンDは、マイナス方向(
図7参照)の第2制御を含むパターンである。
【0098】
補正演算部360は、(正、負)から(正、正)に切替わったタイミングで、マイナス方向の第2制御を開始し、その後、第1制御を実行する。補正演算部360は、このような制御パターンDを実行することにより、指定位置40をロータ110Aの回転位置に追従させることができる。
【0099】
なお、初期の指定位置40に発生磁界が発生された場合には、ロータ110Aの原点は、発生磁界に引き寄せられる。したがって、
図9に示すように、(ΔId、ΔIq)の符号組合せの第1状態では、(負、負)および(負、正)とはならない。
【0100】
補正演算部360は、変更した第1角度θAおよび第2角度θBを角度θ2として出力する。
【0101】
図10は、
図3および
図4とは異なる状況での初期制御を説明するための図である。
図10(A)では、ロータ110Aの原点と、初期の指定位置40とが180度離れている場合(つまり、Δθが180度である場合)が示されている。この場合には、初期の指定位置40に磁界が発生されたとしても、ロータ110Aは回転しない。したがって、角度差Δθは、変化しない(
図10(B)参照)。
【0102】
そこで、本実施形態においては、制御部310は、
図2の角速度ωc(つまり、角度θ3)を時間経過とともに徐々に大きくする変化制御を実行する。この変化制御により、指定位置40を変化させることができ、角度差Δθを180度とは異なる角度とすることができる。その結果、ロータ110AのN極を、変化された指定位置40(S極)に引き寄せることができる。したがって、角度差Δθが180度であっても、制御部310がこの変化制御を実行することにより、ロータ110Aを回転させることができる。よって、モータ駆動装置400は、ロータ110Aの原点を指定位置40に位置させることができる。
【0103】
[実験結果]
次に、発明者により行われた実験結果を説明する。この実験は、レゾルバを用いて行われた。この実験は、主に、ロータ110Aの回転位置の象限と、ロータ110Aの挙動、ΔIdの符号およびΔIqの符号との関係が示される。
【0104】
図11~
図16は、この実験結果を示す図である。なお、
図11~
図16の実験は、補正演算部360、角度演算部340を有さないモータ駆動装置で行われた。また、
図11~
図16においては、それぞれ、ロータ110Aの回転位置が異なる。
【0105】
図11~
図16の(A)、(B)の横軸は、時間tを示す。
図11~
図16の(A)は、角度差Δθを示し、
図11~
図16の(B)は、ΔIdの値、およびΔIqの値を示す。
図11~
図16の(B)において、ΔIdの値が実線で示され、ΔIqの値が破線で示される。
図11~
図16の(C)は、ロータ110Aの回転位置の象限およびロータ110Aの挙動を示す。
図11~
図16の(D)は、ΔIdの符号、およびΔIqの符号を示す。
図11~
図16の(C)および(D)の実験結果は、
図8と一致する。
【0106】
ここで、
図11(C)、(D)の枠内、
図13(C)、(D)の枠内および
図15(C)、(D)の枠内に示すように、上述の第1状態において(正、正)である場合には、ロータ110Aの挙動が第1挙動である場合と、ロータ110Aの挙動が第2挙動である場合とがある。なお、
図16は、上述の第1状態において(正、正)である例が示されている。
【0107】
また、
図12(C)、(D)および
図14(C)、(D)の枠内に示すように、上述の第1状態において(正、負)である場合には、ロータ110Aの挙動が第5挙動である場合と、ロータ110Aの挙動が第6挙動である場合とがある。
【0108】
補正演算部360は、ΔIdおよびΔIqに基づいて処理を行うことから簡易な構成とできる。その反面、補正演算部360は、符号組合せ状態の第1状態のみでは、ロータ110Aの回転位置を推定できない。そこで、上述したように、本実施形態の補正演算部360は、符号組合せ状態の第1状態のみならず符号組合せの第2状態を用いてロータ110Aの回転位置を推定する。
【0109】
[フローチャート]
図17は、モータ駆動装置400の処理を示すフローチャートの一例である。
図17の処理は、モータ駆動装置400が開始信号Cを受信したときに開始する。また、後述のステップS4およびステップS12では、モータ駆動装置400は判断処理を実行するが、この判断処理は、モータ駆動装置400の制御周期毎に実行される。制御周期は、たとえば、CPU302の制御周期である。該制御周期は、たとえば、電流センサ24Vからの出力値および電流センサ24Wからの出力値のサンプリング周期である。また、
図17の処理においては、上記の変化制御については記載されていないが、モータ駆動装置400は、該変化制御を制御周期毎に実行する。
【0110】
まず、ステップS2において、モータ駆動装置400は、初期の指定位置40に磁界(発生磁界)を発生させる。ロータ110AのN極は、発生磁界(S極)に引寄せられることから、ロータ110Aの回転位置は変化する。
【0111】
そして、ステップS4において、モータ駆動装置400は、符号組合せ状態が切替わったか否かを判断する(
図9参照)。モータ駆動装置400は、符号組合せ状態が切替わるまで待機する(ステップS4でNO)。そして、モータ駆動装置400は、符号組合せ状態が切替わった場合には(ステップS4でYES)、ステップS6において、モータ駆動装置400は、符号組合せ状態の切替わりを用いて
図9の制御テーブルを参照して制御パターンを判別する。制御パターンAまたは制御パターンDである場合には、処理は、ステップS8に進み、制御パターンBまたは制御パターンCである場合には、処理は、ステップS10に進む。
【0112】
ステップS8において、モータ駆動装置400は、指定位置40を90度だけ変更する。たとえば、ステップS6で判別された制御パターンが、制御パターンAである場合には、ステップS8において指定位置40はプラス方向に90度変更される(
図9参照)。また、ステップS6で判別された制御パターンが、制御パターンDである場合には、ステップS8において指定位置40はマイナス方向に90度変更される(
図9参照)。ステップS8の処理が終了すると、処理は、ステップS10に進む。
【0113】
ステップS10において、モータ駆動装置400は、ロータ110Aの回転位置に近づく方向に、指定位置40を第1角度θAだけ変更する。そして、ステップS12において、ΔIdの変化量が第1閾値未満であり、かつΔIqの変化量が第2閾値未満であるか否かを判断する。
【0114】
ここで、ΔIdの変化量およびΔIqの変化量を説明する。ステップS12においては、モータ駆動装置400の補正演算部360は、減算部311,312からΔIdおよびΔIqを取得する毎に該取得したΔIdおよびΔIqを所定の記憶領域(たとえば、上述のRAM)に記憶する。ステップS12において、モータ駆動装置400は、今回取得したΔIdと、前回取得したΔId(直近の制御周期で記憶されたΔId)との差分値を、ΔIdの変化量として算出する。同様に、ステップS12において、モータ駆動装置400は、今回取得したΔIqと、前回取得したΔIq(直近の制御周期で記憶されたΔIq)との差分値を、ΔIqの変化量として算出する。また、第1閾値および第2閾値は、予め定められた値である。
【0115】
つまり、ステップS12の処理は、ΔIdおよびΔIqがゼロに収束したか否かを判断する処理である。ステップS12でNOの場合(ΔIdおよびΔIqの双方がゼロに収束していない場合)には、処理は、ステップS10に戻る。ステップS10およびステップS12での繰返し処理が、第1制御に対応する。
【0116】
ステップS12でYESの場合(ΔIdおよびΔIqの双方がゼロに収束した場合)には、指定位置40とロータ110Aの回転位置とは、一致(または略一致)したとして、
図17の初期制御は終了する。
【0117】
なお、ステップS2の処理は、「N極またはS極の磁界を指定位置に発生させることにより、ロータ110Aの回転位置を該指定位置に引き寄せる処理」に対応する。ステップS4の処理は、「指定位置に磁界を発生させてロータ110Aを引き寄せた後に指定位置を通過したロータ110Aの回転位置を推定位置として推定する」に対応する。ステップS8およびステップS10の処理は、位置制御に対応する。
【0118】
[シミュレーション結果]
次に、本実施形態のモータ駆動装置400のシミュレーション結果を説明する。本実施形態のモータ駆動装置400は、比較例のモータ駆動装置と比較される。比較例のモータ駆動装置は、上述の変化制御を実行するものの、補正演算部360を有さない装置である。このシミュレーションにおいては、ロータ110Aの実際の角度を検出するために、本実施形態のモータ駆動装置400および比較例のモータ駆動装置にレゾルバが具備された。
【0119】
図18~
図21は、当該シミュレーション結果の一例を示す図である。
図18~
図21の横軸は時間tを示す。
図18~
図21の(A)の縦軸は、角度θ1を示す電気角であり、
図18~
図21の(B)の縦軸は、Δθを示す図である。
図18~
図21の(A)および(B)において、実線は本実施形態のモータ駆動装置400を示し、破線は比較例のモータ駆動装置を示す。
図18~
図21において、タイミングt1からタイミングt2までの期間Tにおいて、第1制御または第2制御が実行された。
【0120】
図18は、初期のロータ110Aの回転位置が第4象限に存在する場合である。
図18の例は、時刻t1において、第1制御が開始された。この第1制御においては、指定位置40は、プラス方向に第1角度θAずつ変更されている。
【0121】
図19、
図20は、初期のロータ110Aの回転位置が第2象限に存在する場合である。
図19および
図20の例では、タイミングt1において、第2制御が開始され、その後、第1制御が実行された。
図19および
図20の例では、第1制御において指定位置40がマイナス方向に第1角度θAずつ変更されている。なお、
図20の例では、ロータ110Aの回転位置が、初期の指定位置40よりも約180度離れている例が示されている。したがって、
図20の第2制御の開始タイミングt2は、
図19の第2制御の開始タイミングt2よりも遅いことが示されている。
【0122】
図21は、初期のロータ110Aの回転位置が第1象限に存在する場合である。
図21においては、第1制御が開始された。この第1制御においては、指定位置40は、マイナス方向に第1角度ずつ変更されている。
【0123】
以上、
図18(B)~
図21(B)に示すように、
図18~
図21のどのような状況においても、本実施形態のモータ駆動装置400は、比較例のモータ駆動装置よりもΔθの収束時間を短くできる。Δθの収束時間は、初期制御が開始されたときから、Δθがゼロに近づくまでの時間である。
【0124】
[本実施形態のモータ駆動装置の作用・効果]
以上、
図5で説明したように、本実施形態のモータ駆動装置400は、まず、初期の指定位置40に発生磁界を発生させる(
図5(B))。該発生磁界により、ロータ110Aの回転が自発的に開始して、ロータ110Aの回転位置を指定位置40に引き寄せられる(
図5(B)、
図5(C)など参照)。モータ駆動装置400は、指定位置に磁界を発生させてロータ110Aを引き寄せた後に指定位置40を通過したロータ110Aの回転位置を推定位置として推定する(
図7~
図9参照)。そして、モータ駆動装置400は、推定位置に指定位置を近づける位置制御を実行する(
図5(D)、
図5(E)など参照)。
【0125】
したがって、モータ駆動装置400は、たとえば上記の比較例のモータ駆動装置と比較して、モータ駆動装置400は、ロータ110Aの回転位置が指定位置40となるまでの時間(上記の収束時間)を軽減することができる(
図18~
図21など参照)。
【0126】
また、センサレス構成において、ロータの回転位置の推定精度を向上させる手法として、高調波信号重畳を使用する手法がある。しかしながら、SPM(surface permanent magnetic)が採用されているモータでは高調波信号重畳が使用できない。本実施形態のモータ駆動装置400であれば、高調波信号重畳を使用しなくても、初期制御を実行できる。
【0127】
また、モータ駆動装置400は、推定位置(ロータ110Aの原点)と指定位置40とが近づくように、該指定位置40を第1角度θAずつ変更する第1制御を実行する(
図5参照)。
【0128】
したがって、モータ駆動装置400は、第1角度ずつ変更することから、回転子の回転位置が指定位置となるまでの時間を短くできる。
【0129】
また、本実施形態のモータ駆動装置400は、角度差Δθが90度であると推定した場合、推定位置と指定位置とが近づくように、第2角度θBだけ変更する第2制御を実行する。そして、モータ駆動装置400は、第2制御の後に第1制御を実行する(
図6参照)。したがって、モータ駆動装置400は、角度差Δθが90度である場合であっても、ロータ110Aの回転位置が指定位置40となるまでの時間を短くできる。
【0130】
また、モータ駆動装置400は、推定位置が
図9の第1位置または第3位置である場合に、ロータ110Aの回転位置に指定位置40が近づくように第2制御の後に第1制御を実行する(
図6参照)。モータ駆動装置400は、推定位置が
図9の第2位置である場合に、ロータ110Aの回転位置に指定位置40が近づくように第2制御を実行せずに第1制御を実行する(
図5参照)。したがって、モータ駆動装置400は、推定位置が第1位置、第2位置、および第3位置のいずれであるかに応じて、第1制御および第2制御を実行することから、適切にロータ110Aの回転位置が指定位置となるまでの時間を短くできる。
【0131】
また、第2角度θBは、90度である。したがって、モータ駆動装置400は、簡易な構成により、第2制御を実行できる。
【0132】
また、第1角度θAは、0度より大きく1度以下の範囲の角度である。したがって、モータ駆動装置400は、微小な角度で指定位置40をロータ110Aの回転位置に追従できる。
【0133】
また、モータ駆動装置400は、d軸電流値Idおよびq軸電流値Iqに基づいて、ロータ110Aの第1制御(または推定位置の特定)を実行する。したがって、モータ駆動装置400は、簡易な構成により、ロータ110Aの第1制御(または推定位置の特定)を特定できる(
図9など参照)。
【0134】
より具体的には、モータ駆動装置400は、d軸電流値Idから所定値(Idc)を差引いた値(ΔId)の符号、およびq軸電流値Iq(ΔIq)の符号に基づいて、第1制御(または推定位置の特定)を実行する。したがって、モータ駆動装置400は、簡易な構成により、ロータ110Aの第1制御(または推定位置の特定)を特定できる(
図9など参照)。なお、該符号については、符号組合せ状態で説明された通りである。
【0135】
また、モータ駆動装置400は、モータ110のd軸電流値の変化量が第1閾値未満となり、かつモータ110のq軸電流値の変化量が第2閾値未満となったときに、初期制御を終了させる(
図17のステップS12)。したがって、モータ駆動装置400は、簡易な構成により、初期制御の終了の有無を判断できる。
【0136】
また、
図3に示すように、ロータ110Aは、2極磁石により構成される。したがって、ロータ110Aの構成を簡易にできる一方、角度差Δθが生じやすくなる傾向がある。しかしながら、本実施形態のモータ駆動装置400によれば、角度差Δθが大きくなる2極磁石であるロータ110Aが採用されていたとしても、適切に初期制御を実行できる。
【0137】
[その他の実施形態]
(1) 上述の実施形態の初期制御の終了条件は、
図17のステップS12で説明した条件である。しかしながら、終了条件は、他の条件としてもよい。
図22は、終了条件としての他の条件が採用されたモータ駆動装置400の制御を示すフローチャートである。
【0138】
図22のフローチャートは、
図17のステップS12がステップS12Aに代替されたフローチャートである。ステップS12Aの終了条件は、初期制御が開始されたときから、所定期間が経過したという条件である。ここで、所定期間は、たとえば、100msであるとする。
【0139】
本変形例のモータ駆動装置400は、ステップS10の処理の終了後、ステップS12Aにおいて、初期制御の開始から所定期間が経過したか否かを判断する。モータ駆動装置400は、所定期間が経過するまで(ステップS12AでNO)、指定位置40を第1角度だけ変更する処理を繰返す。モータ駆動装置400は、所定期間が経過した場合には(ステップS12AでYES)、
図22の初期制御を終了する。
【0140】
このような構成であれば、モータ駆動装置400は、簡易な構成により、位置制御の終了の有無を判断できる。
【0141】
(2) 上述の実施形態においては、補正演算部360が、偏差ΔIdおよび偏差ΔIqに基づいて、ロータ110Aの推定位置を特定する構成が説明された。しかしながら、補正演算部360は、他のパラメータを用いて、ロータ110Aの推定位置を特定してもよい。他のパラメータは、PI演算部240から出力される電圧指令値Vdcおよび電圧指令値Vqcである。このような構成であっても、補正演算部360は、ロータ110Aの推定位置を特定してもよい。
【0142】
(3) 上述の実施形態の第2角度θBは、90度である構成が説明された。しかしながら、第2角度θBは、他の角度としても良い。たとえば、
図6(D)に示すように、第2角度θBが90度である場合には、指定位置40を90度変更した時点で、ロータ110Aの回転位置は、指定位置40の方に引き寄せられている。この点を鑑みて、第2角度θBは、90度未満の角度(たとえば、80度)としてもよい。このような構成であれば、第1制御を実行する期間を短縮できる。
【0143】
(4) 上述のモータ駆動装置400は、レゾルバを備えない構成が説明された。しかしながら、モータ駆動装置400は、レゾルバを備えていてもよい。たとえば、モータ駆動装置400の出荷前において、モータ駆動装置400がレゾルバを備えていたとしても、角度差Δθが生じている場合がある。このような場合であっても、モータ駆動装置400の上記の位置制御により、角度差Δθをゼロにすることができる。
【0144】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0145】
22 中性点、24V,24W 電流センサ、40 指定位置、110 モータ、110A ロータ、150 バッテリ、210 インバータ、240 PI演算部、300 制御装置、304 メモリ、310 制御部、311,312 減算部、330 推定部、340 角度演算部、350 スイッチ部、360 補正演算部、370 加算部、400 モータ駆動装置、500 電気システム。