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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141395
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】既設中空床版橋の改良方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 22/00 20060101AFI20241003BHJP
   E01D 19/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E01D22/00 B
E01D19/04 101
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053004
(22)【出願日】2023-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000112196
【氏名又は名称】ピーエス・コンストラクション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504241297
【氏名又は名称】住理工商事株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐川 潔
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 美子
(72)【発明者】
【氏名】森岡 毅
(72)【発明者】
【氏名】服部 誠
(72)【発明者】
【氏名】穴吹 亮太
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晃輔
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059BB39
2D059GG33
2D059GG40
2D059GG55
(57)【要約】      (修正有)
【課題】既設の中空床版のボイド管内に所望の隔壁を良好に形成することのできる工法及び中空部内にアンカーを期待通りの定着強度で定着固定することのできる工法を提供する。
【解決手段】中空床版の下面から該中空床版に埋め込まれたボイド管内の中空部に達する袋体挿入孔、アンカー挿入孔、定着材注入孔を設け、袋体挿入孔より中空部内に通気性及び液密性を有しかつ球状に拡張変形可能な袋体を挿入し、挿入された袋体内に時間経過に伴って膨張する流動状態の液剤を注入して袋体を拡張変形させて中空部に隔壁を形成する。さらに、アンカー挿入孔より先頭部が中空部内に達する位置までアンカーを挿入し、定着材注入孔を通じて中空部の隔壁と中空部の管軸方向端面との間の空間にアンカーを定着固定するための定着材を注入する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の中空床版橋の中空床版に隔壁を形成するにあたり、
前記中空床版の下面から該中空床版に埋め込まれたボイド管内の中空部に達する袋体挿入用孔を設けることと、
前記袋体挿入用孔より前記中空部内に、通気性及び液密性を有し、かつ前記ボイド管の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能な拡張部を有する袋体を挿入することと、
前記挿入された袋体内に時間経過に伴って膨張する液剤を注入し、前記袋体を拡張変形させて前記中空部に隔壁を形成することと
を含む既設中空床版橋の改良方法。
【請求項2】
請求項1に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記液剤が、ポリウレタンフォームの反応液剤である
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記袋体は、
前記拡張部の上部に設けられた複数の孔部と、
前記袋体の表面もしくは裏面に前記複数の孔部と重なるように貼り付けられたメッシュ体とを有し、
前記メッシュ体の目のサイズが前記孔部のサイズより小さい
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記袋体は、
前記拡張部の上部に設けられた複数の孔部と、
個々の孔部に対応して設けられたポケット部とを有し、
前記ポケット部は、対応する前記孔部を前記袋体の表側より隙間を開けて覆い、空気をその隙間を通って前記孔部から前記袋体の面内でずれた位置で流通させるように構成され、前記隙間のサイズが前記孔部のサイズより小さい
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記袋体は、不織布からなる
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記袋体は、二重または多重の構造からなる、
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項7】
既設の中空床版橋の中空床版にアンカーを定着固定するにあたり、
前記中空床版の下面から該中空床版に埋め込まれたボイド管内の中空部に達するアンカー挿入孔、袋体挿入孔及び定着材注入孔を設けることと、
前記袋体挿入孔より前記中空部内に、通気性及び液密性を有し、かつ前記ボイド管の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能な袋体を挿入することと、
前記挿入された袋体内に時間経過に伴って膨張する液剤を注入して前記袋体を拡張変形させて前記中空部に隔壁を形成することと、
前記アンカー挿入孔より先頭部が前記中空部内に達する位置まで前記アンカーを挿入することと、
前記定着材注入孔を通じて前記中空部の前記隔壁と前記中空部の管軸方向端面との間の空間に前記アンカーを定着固定するための定着材を注入することとを含む
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項8】
請求項7に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記液剤が、ポリウレタンフォームの反応液剤である
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記袋体は、
前記袋体の上部に設けられた複数の孔部と、
前記袋体の表面もしくは裏面に前記複数の孔部と重なるように貼り付けられたメッシュ体とを有し、
前記メッシュ体の目のサイズが前記孔部のサイズより小さい
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記袋体は、
前記袋体の上部に設けられた複数の孔部と、
個々の孔部に対応して設けられたポケット部とを有し、
前記ポケット部は、対応する前記孔部を前記袋体の表側より隙間を開けて覆い、空気をその隙間を通って前記孔部から前記袋体の面内でずれた位置で流通させるように構成され、前記隙間のサイズが前記孔部のサイズより小さい
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項11】
請求項7または8に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記袋体は、不織布からなる
既設中空床版橋の改良方法。
【請求項12】
請求項7または8に記載の既設中空床版橋の改良方法であって、
前記袋体は、二重または多重の構造からなる、
既設中空床版橋の改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設中空床版橋の耐震性、強度の向上に寄与する改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋長の比較的短い橋として、桁重量軽減のために内部が中空のボイド管中空床版(以下単に中空床版とする)を用いた中空床版橋が広く採用されている。このような中空床版を採用した既設橋の建設当時の耐震基準が十分でない場合、耐震性を持たせるために補強が行われる。その補強方法として、橋台、橋脚等の下部構造体と中空床版とを水平力分担構造を介して固定する方法がある。水平力分担構造は、床版に対して働く水平方向荷重を受けて下部構造体に伝えることで、地震時の床版の移動量を制限して耐震性の向上を図らんとするものである。
【0003】
ところで中空床版橋の橋桁を構成する中空床版が内部中空構造であるため、水平力分担構造と連結されるアンカーを中空床版に如何にして強固に設けるかが問題となる。その解決方法の一つとして、中空床版の下面側から中空部まで達するアンカー挿入用孔を設け、このアンカー挿入用孔を通してアンカーをその一部が中空部に位置するように挿入する一方、中空部の管軸方向端からアンカー挿入用孔よりも遠い位置で、アルミ風船などの袋体を中空部内に収縮状態で挿入し、袋体内にポリウレタンフォームの反応液を注入することによって袋体を膨張させて中空部に隔壁を形成し、ボイド管の中空部の管軸方向端と隔壁との間にモルタルなどの流動状態の定着材を中空部内のアンカー突出部をとりまくように注入し、硬化させることで、アンカーを中空床版に定着固定する方法が知られている。ここで、袋体には、可撓性を有し、最終膨張形状が扁平な円盤形状のアルミ風船が用いられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4519029号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで問題となるのは、中空部内に隔壁をどのように形成するかである。特許文献1で用いられるアルミ風船の最終膨張形状が扁平な円盤形状のものであることから、中空部内に挿入されたアルミ風船の、中空床版の厚さ方向を軸とする軸周り方向の向きによっては、中空部全体を塞ぐようにアルミ風船が適正に嵌らず、中空部内壁面とアルミ風船表面との間に隙間が出来てしまうなど、所望の隔壁を安定して形成できない可能性がある。例えば、特許文献1では、中空部内壁面とアルミ風船表面との間に隙間があると、その隙間から隔壁形成用の流動状態の定着材が漏れ出て定着材の充填不足が生じ、期待通りにアンカーを定着できないなどの問題をもたらす。
【0006】
また、アルミ風船は空気を通しにくいアルミ薄膜からなるため、空気が抜けず、発泡したポリウレタンフォームの膨張圧力でアルミ風船が破裂するおそれがある。
【0007】
さらにアルミ風船は、最終膨張形状が扁平な円盤形状のものであることから、中空部内に挿入されたアルミ風船の、中空床版の厚さ方向を軸とする軸周り方向の向きによっては、中空部内面とアルミ風船表面との間に隙間が生じ、その隙間から流動状態の定着材が漏れ出て定着材の充填不足が生じ、期待通りのアンカー定着強度が得られない、という問題があった。
【0008】
なお、中空床版橋の中空部全体に定着材を充填することによって期待通りのアンカーの定着強度を得ることは可能であるものの、中空床版橋はもともと床版全体の軽量化を目的としたものである。従って中空部全体に定着材を充填してしまうと、中空床版橋の重量が大幅に増加し、耐久性や耐震性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0009】
以上のような事情を鑑み、本発明は、アンカーをボイド管の中空部内の一部に埋め込むための定着材の充填空間を中空部内に良好に形成し、アンカーを定着固定することができる既設中空床版橋の改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明にかかる既設中空床版橋の改良方法は、既設の中空床版橋の中空床版内に隔壁を形成するにあたり、
前記中空床版の下面から該中空床版に埋め込まれたボイド管内の中空部に達する袋体挿入用孔を設けることと、
前記袋体挿入用孔より前記中空部内に、通気性及び液密性を有し、かつ前記ボイド管の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能な拡張部を有する袋体を挿入することと、
前記挿入された袋体内に時間経過に伴って膨張する液剤を注入し、膨張圧により前記袋体を拡張変形させて前記中空部に隔壁を形成することと、を含む。
【0011】
本発明によれば、中空床版の中空部に挿入される袋体として、ボイド管の軸方向に円筒状に拡張変形可能な袋体を用いたことによって、袋体を挿入する際の中空床版の厚み方向を軸とする軸周り方向の向きに影響されることなく、袋体の表面と中空部の内壁面とが密に接触することで止水性に優れた隔壁を形成することができる。
【0012】
また、袋体は、通気性を有するものからなるので、ポリウレタンフォームなどの時間経過に伴って膨張する液剤を注入して袋体を膨張圧で拡張変形させるとき、袋体内の空気が発泡したポリウレタンフォームとスムースに入れ替わって袋体内に空気が残留しにくい。このため残留気体に起因する袋体のいびつな拡張変形が防止され、止水性に優れた隔壁を得ることができる。中空部に止水性に優れた隔壁が得られるので、アンカーを定着固定したり、所望の充実部分を中空部内に良好に形成することができる。
【0013】
また、本発明に係る別の既設中空床版橋の改良方法は、既設の中空床版橋の中空床版にアンカーを定着固定するにあたり、
前記中空床版の下面から該中空床版に埋め込まれたボイド管内の中空部に達するアンカー挿入孔、袋体挿入孔及び定着材注入孔を設けることと、
前記袋体挿入孔より前記中空部内に、通気性及び液密性を有しかつ前記ボイド管の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能な袋体を挿入することと、
前記挿入された袋体内に時間経過に伴って膨張する液剤を注入して前記袋体を拡張変形させて前記中空部に隔壁を形成することと、
前記アンカー挿入孔より先頭部が前記中空部内に達する位置まで前記アンカーを挿入することと、
前記定着材注入孔を通じて前記中空部の前記隔壁と前記中空部の管軸方向端面との間の空間に前記アンカーを定着固定するための定着材を注入することとを含む。
【0014】
本発明によれば、袋体の表面と中空部の内壁面とが密に接触して止水性に優れた隔壁が形成されるので、アンカーを定着固定するための定着材の充実空間を中空部内に良好に形成することができ、中空部内の定着材の充填不足を防止して、期待通りにアンカーを定着することができる。
【0015】
前記液剤は、ポリウレタンフォームの反応液剤であってよい。
【0016】
定着材としては充填がしやすく定着強度の強いモルタルを用いることができるが、コンクリートや樹脂、その他の材質のものを定着材として用いることも可能である。いずれの場合も、アンカーを十分な強度で定着し固定するために必要な圧縮強度をもつものである必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る第1の実施形態の隔壁形成工法の施工対象である既設の中空床版を示す断面図である。
図2】第1の実施形態の隔壁形成工法において既設の中空床版に袋体挿入孔を設ける工程を示す断面図である。
図3】第1の実施形態の隔壁形成工法において中空床版の中空部に袋体を挿入する工程を示す断面図である。
図4】第1の実施形態の隔壁形成工法において袋体内にポリウレタンフォームの反応液剤を注入する工程を示す断面図である。
図5】第1の実施形態の隔壁形成工法において袋体内への液剤の注入による袋体の拡張変形を示す断面図である。
図6】第2の実施形態のアンカー定着固定工法において既設の中空床版に各種孔を設ける工程を示す断面図である。
図7】第2の実施形態のアンカー定着固定工法において中空床版の中空部に収縮状態の袋体を挿入する工程を示す断面図である。
図8】第2の実施形態のアンカー定着固定工法において袋体内に時間経過に伴って膨張する流動状態の液剤を注入する工程を示す断面図である。
図9】第2の実施形態のアンカー定着固定工法において袋体内への液剤の注入による袋体の拡張変形を示す断面図である。
図10】第2の実施形態のアンカー定着固定工法において中空床版の中空部にアンカーをセットする工程を示す断面図である。
図11】第2の実施形態のアンカー定着固定工法において中空床版の中空部に定着材を注入する工程を示す断面図である。
図12】第2の実施形態のアンカー定着固定工法において中空床版の中空部内の定着材によるアンカーの定着固定の状態を示す断面図である。
図13A】所要の通気性及び液密性を満足する袋体の拡張部の一部を拡大した平面図である。
図13B図13Aの断面図である。
図14A】所要の通気性及び液密性を満足する他の袋体の拡張部の一部を拡大した平面図である。
図14B図14Aの断面図である。
図15】既設中空床版に取り付けられたアンカーの適用例をボイド管の管軸方向において示した断面図である。
図16図15のアンカーの適用例を管軸方向の直交方向において示した断面図である。
図17】既設中空床版の幅員方向片側に現場打ちプレストレスコンクリートを追加する工法を示す縦断面図である。
図18図17の(D)の横断面図である。
図19】二重構造の袋体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
[第1の実施形態]
図1乃至図5は、本発明に係る第1の実施形態の既設中空床版橋の改良方法である隔壁形成工法を説明する図である。
これらの図において、10は既設の中空床版であり、この中空床版10には内部に中空部12を有するボイド管14が埋め込まれている。このボイド管14の埋め込みによって中空床版10は内部中空構造とされ、軽量化による耐久性や耐震性の向上が図れている。
なお、16は中空床版10の下面とボイド管14の下面との間の被りコンクリート部、18は中空床版10の上部のアスファルト舗装部分である。
【0019】
次に、当該既設中空床版10内のボイド管14の中空部12に隔壁30を形成する方法を説明する。
【0020】
図2に示すように、既設中空床版10の下面側より上向きに、被りコンクリート部16及びボイド管14の下部側壁を貫くようにして袋体挿入孔19が穿設される。
【0021】
次に、図3に示すように、袋体挿入孔19の下側の開口より、通気性及び液密性を有し、かつボイド管14の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能な拡張部30aを有する袋体30を収縮状態にして、拡張部30aがボイド管14の中空部12内の略中間の高さに位置するような深さまで挿入する。ここで、袋体30は、袋体は、空気を通過させる程度の通気性と液剤を通過させない程度の液密性を有するものからなり、かつ図4に示すように、袋体30内で液剤31が膨張した際の内圧により、ボイド管14の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能なものが採用される。
【0022】
次に、図4に示すように、袋体挿入孔19の下側の開口より袋体30内に、例えば、ポリウレタンフォームの反応液剤などの時間経過に伴って膨張する液剤31を液剤注入管31aを使って注入し、袋体30内で膨張させる。これにより、図5に示すように、袋体30が膨張圧を受けて拡張変形する。ここで、袋体30には、ボイド管14の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能なものを用いたことによって、袋体30内に必要十分な量の液剤31が注入されれば、袋体30の拡張部30aはボイド管14の内部形状に倣って拡張変形する。この結果、袋体30の表面と中空部12の内壁面とが、ボイド管14のある程度の長さLの範囲にわたって密に当接し合い、止水性に優れた隔壁を形成することができる。
【0023】
このようにして袋体30を拡張変形させた後、液剤注入管31aを抜き取る。あるいは、液剤注入管31aを抜き取らずに、既設中空床版10の下面から突き出た部分を切除してもよい。
【0024】
以上のように本実施形態では、ボイド管14の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能な拡張部30aを有する袋体30を中空部12内に挿入し、袋体30の中に時間経過に伴って膨張する液剤31を注入することによって袋体30を膨張圧によって円筒状に拡張変形させる。この際、もし袋体30がボイド管14の軸方向に対して角度をもった向きでセットされても、ボイド管14の内部形状と袋体30が膨張圧を受けた際に自ら円筒状に拡張変形しようとする力とによって、袋体30はボイド管14の長さ方向に軸を合わすように向きが自動修正される。これにより、袋体30の拡張部30aの表面と中空部12の内壁面とが、ボイド管14のある程度の長さLにわたって密に当接しあった止水性に優れた隔壁をより確実に形成することができる。
【0025】
また、袋体30は空気が出入り可能な程度の通気性を満足するものからなるので、液剤31の膨張に伴って袋体30内から空気が押し出される。このため袋体30内の残留空気による袋体30のいびつな拡張変形が抑止されることからも、止水性に優れた隔壁をより確実に得ることができる。
【0026】
なお、既設中空床版10に形成された隔壁は、例えば、下記の第2の実施形態で説明するように、ボイド管14の中空部12の一部にアンカーなどの鋼材を定着固定するモルタルなどの定着材を埋め込むための空間の一部を形成する隔壁として用いることができる。
【0027】
[第2の実施形態]
次に、本発明に係る第2の実施形態の既設中空床版橋の改良方法であるアンカー定着固定工法を説明する。
本実施形態のアンカー定着固定工法は、図1乃至図5に示した第1の実施形態の隔壁形成工法により形成された隔壁とボイド管14の中空部12の管軸方向末端33との間の空間(定着材充填空間34)に充填された定着材38にアンカー32を定着させることによって、期待通りのアンカー定着強度を得ることを可能にする方法である。
【0028】
図6乃至図12は、第2の実施形態のアンカー定着固定工法の詳細を説明する図である。なお、これらの図において、第1の実施形態の隔壁形成工法の説明で用いた図1乃至図5と同じ部分には同一の符号を付してある。
【0029】
図6に示すように、既設中空床版10の下面側より上向きに、被りコンクリート部16及びボイド管14の下部側壁を貫くようにして袋体挿入孔19、アンカー挿入孔20、定着材注入孔22、充填確認孔24が穿設される。ここで、アンカー挿入孔20の直径は75mm程度であり、また他の各孔、即ち定着材注入孔22、袋体挿入孔19及び充填確認孔24の直径はそれぞ 30bれ50mm程度でよい。
【0030】
次に、図7に示すように、袋体挿入孔19の下側の開口より、通気性及び液密性を有しかつボイド管14の 長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能な拡張部30aと、口部30bとを有する袋体30を収縮状態にして、拡張部30aがボイド管14の中空部12内の略中間の高さに位置するような深さまで挿入する。ここで、袋体30は、第1の実施形態において説明したように、例えば空気が出入り可能な程度の通気性を満足し、時間経過に伴って膨張する液剤31を通過させない程度の液密性を満足するものからなり、図8に示すように、袋体30内で液剤31が膨張した際の内圧により、ボイド管14の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張部30aが拡張変形可能なものが採用される。
【0031】
次に、図8に示すように、袋体挿入孔19の下側の開口より口部30bを通じて袋体30内に、例えば、ポリウレタンフォームの反応液剤など、時間経過に伴って膨張する液剤31を、液剤注入管31aを使って注入し、袋体30内で膨張させる。これにより、図9に示すように、袋体30の拡張部30aが膨張圧を受けて拡張変形する。ここで、袋体30には、ボイド管14の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能なものを用いたことによって、袋体30内に必要十分な量の液剤31が注入されれば、袋体30はボイド管14の内部形状に倣って拡張変形する。この結果、袋体30の表面と中空部12の内壁面とが、ボイド管14のある程度の長さLの範囲にわたって密に当接し合い、止水性に優れた隔壁を形成することができる。
【0032】
このようにして袋体30を拡張変形させた後、液剤注入管31aを抜き取る。あるいは、液剤注入管31aを抜き取らずに、既設中空床版10の下面から突き出た部分を切除してもよい。
【0033】
次に、図10に示すように、アンカー挿入孔20の下側の開口より異形棒鋼などからなるアンカー32を、その上端が中空部12の内部に垂直姿勢で突出した状態になるように挿入する。このときアンカー32は、中空部12内で拡張変形して隔壁となった袋体30とボイド管14の中空部12の管軸方向末端33との間の定着材充填空間34に位置する。
【0034】
次に、図11に示すように、定着材注入孔22の下側の開口より定着材注入管36を挿入し、定着材充填空間34に流動状態のモルタルなどの定着材38を定着材充填空間34が略埋まるまで注入する。定着材充填空間34内の定着材38の充填状態を確認するために、定着材38の注入前に充填確認孔24に下から両端が開口した確認用パイプ40が挿入される。このとき確認用パイプ40の上端開口が中空部12の最上面42に近接する位置に来るように調整される。定着材充填空間34に定着材38が充填し終わる直前になると、確認用パイプ40の上端開口に流動状態の定着材38が流れ込むので、確認用パイプ40の下端開口より流動状態の定着材38が漏れ出すことを確認して、定着材38の充填状況を確認することができる。定着材充填空間34内の定着材38の充填(略充填)が完了した後、図12に示すように、定着材注入管36及び確認用パイプ40の、既設中空床版10の下面から突き出た部分が切除される。
【0035】
定着材38が硬化したところで、アンカー32が硬化した定着材38に定着固定された状態が完成する。
【0036】
以上のように本実施形態では、ボイド管14の長さ方向に軸をもつ円筒状に拡張変形可能な拡張部30aを有する袋体30を中空部12内に挿入し、袋体30の中に時間経過に伴って膨張する液剤31を注入することによって袋体30を膨張圧によって円筒状に拡張変形させる。この際、もし袋体30がボイド管14の軸方向に対して角度をもった向きでセットされても、ボイド管14の内部形状と袋体30が膨張圧を受けた際に自ら円筒状に拡張変形しようとする力とによって、袋体30はボイド管14の長さ方向に軸を合わすように向きが自動修正される。これにより、袋体30の拡張部30aの表面と中空部12の内壁面とが、ボイド管14のある程度の長さLにわたって密に当接しあった止水性に優れた隔壁をより確実に形成することができるので、定着材38をアンカー32の周囲の定着材充填空間34に閉じ込めることができ、期待通りにアンカーを定着することができる。
【0037】
また、袋体30は空気が出入り可能な程度の通気性を満足し、ポリウレタンフォームの反応液剤などの時間経過に伴って膨張する液剤31を通過させない程度の液密性を満足する材料からなるので、液剤31の膨張に伴って袋体30内から空気が押し出される。このため袋体30内の残留空気による袋体30のいびつな拡張変形が抑止されることからも、止水性に優れた隔壁を得ることができ、定着材38をアンカー32の周囲の定着材充填空間34に閉じ込めることができ、期待通りにアンカーを定着することができる。
【0038】
次に、所要の通気性及び液密性を満足する袋体30の例を説明する。
図13Aは所要の通気性及び液密性を満足する袋体30の拡張部30aの一部を拡大した平面図、図13Bはその断面図である。これらの図に示すように、袋体30の拡張部30aの上部には複数の孔部41が設けられている。これらの孔部41は袋体30の拡張部30aに略均等な間隔で設けられてよい。袋体30の拡張部30aの表側もしくは裏側にはメッシュ体42が貼り付けられ、袋体30の拡張部30aの所要の通気性及び液密性、つまり空気を通過させるが、ポリウレタンフォームの反応液剤のような流動状態の液剤31を通過させない特性が確保されるようにしている。なお、メッシュ体42は袋体30の拡張部30aに例えば縫合などによって貼り付けられてよい。メッシュ体42の網目サイズは孔部41のサイズよりも小さいことは言うまでもない。
【0039】
図14Aは所要の通気性及び液密性を満足する他の袋体50の拡張部50aの一部を拡大した平面図、図14Bはその断面図である。これらの図に示すように、この袋体50の拡張部50aの表側には、拡張部50aの上部に設けられた複数の孔部61の一つ一つに対してポケット部62が縫合などによって貼り付けられている。ポケット部62は、孔部61を表側より隙間Gを開けて覆い、空気をその隙間Gを通って孔部61から拡張部50aの面内でずれた位置で流通させるように構成されている。その隙間Gのサイズを、空気を通過させるがポリウレタンフォームを通過させないサイズにすることによって、袋体60の拡張部60aの所要の通気性及び液密性、つまり空気を通過させるが、ポリウレタンフォームの反応液剤のような流動状態の液剤31を通過させない特性を確保するようにしている。
【0040】
以上、2種類のタイプの袋体30、50の構成について説明したが、本発明はこれらの袋体を用いることに限定されず、所要の通気性及び液密性を満足するものであればよく、袋体の材質そのものの選定により所要の通気性及び液密性を満足するようなものであってよい。例えば、所要の通気性及び液密性を満足する不織布が挙げられる。
【0041】
この既設中空床版10に定着保持されたアンカー32は、既設中空床版10を用いた橋の補強、床版の落下防止、その他、様々な目的用途に利用することができる。
【0042】
図15及び図16は既設中空床版10に取り付けられたアンカー32の適用例の一例として、アンカー32を水平力分担構造との連結に用いた図であり、図15は本適用例をボイド管14の管軸方向において示した断面図、図16は管軸方向の直交方向において示した断面図である。水平力分担構造50は、橋台、橋脚などの下部構造体51のボイド管14の管軸方向の両側面に取り付けられる鋼板製ブラケット52と、既設中空床版10に取り付けられたアンカー32と鋼板製ブラケット52との連結部53などで構成され、既設中空床版10に対して働く水平方向荷重を受けて下部構造体50に伝えることで、既設中空床版10の移動量を制限して耐震性の向上を図るものである。
【0043】
また、アンカー32のその他の適用例として、アンカー32の下部に取付部を固定し、この取付部と下部構造体に固定された取付具とをチェーンやケーブルなどで連結することによって、中空床版の落下を防止する構造にアンカー32を適用することもできる。
さらに、アンカー32は、水平方向荷重を受け、自身の水平方向の剪断弾性変形に基づいて震動エネルギーを吸収し、減衰を行う弾性支承構造との連結に用いることができる。
【0044】
既設中空床版10に定着固定されたアンカー32は、以上の用途に限られず、その他、様々な目的用途に利用することが可能である。
【0045】
上記の第2の実施形態は、上記第1の実施形態の隔壁形成工法により既設中空床版10内に形成された隔壁と、ボイド管14の中空部12の管軸方向末端33との間の空間(定着材充填空間34)に充填された定着材38にアンカー32を定着させる工法であるが、既設中空床版10に拡幅用の現場打ちプレストレスコンクリートを追加することを可能にするために、ボイド管14の中空部12の菅軸方向の一部範囲に定着材38を埋め込み硬化させることで、既設中空床版10の幅員方向の圧縮強度をプレストレスに耐え得るように増強する用途にも利用することができる。
【0046】
次に、隔壁を上記用途で利用する例を説明する。
図17の(A)から(D)は既設中空床版10の幅員方向片側に現場打ちプレストレスコンクリート10´を追加する工法を示す縦断面図、図18図17の(D)の横断面図である。
【0047】
このような既設中空床版10の改良にあたって、まず図18に示すように、各ボイド管14の管軸方向においてPC鋼材を配置する部位に、ボイド管14の管軸方向の端面との間に定着材充填空間(図10の符号34)を形成するための隔壁50(図18参照)を前記第1の実施形態の隔壁形成工法により形成する。本例では、一つの定着材充填空間内に例えば2本のPC鋼材が配置されるように個々の隔壁50の形成位置が選定されている。続いて、図17の(B)および図18に示すように、定着材充填空間にモルタルなどの定着材38を充填し、硬化させる。その後、PC鋼材を配置する位置に水平コアボーリング等で貫通孔44を形成する。
【0048】
次に、図17の(C)、(D)および図18に示すように、既設中空床版10の幅員方向の片側に現場打ちプレストレスコンクリート10´を追加する。現場打ちプレストレスコンクリート10´の追加にあたっては、まず、現場打ちプレストレスコンクリート10´の形成のための型枠および鉄筋を配置し、その型枠内に既設中空床版10に削孔された位置に対応するように追加のシース44´を配置する。この後、型枠内にコンクリートを打設する。コンクリート強度発現後、既設中空床版10に削孔された貫通孔44と追加のシース44´にPC鋼材46を挿入し、PC鋼材46を緊張してプレストレスを導入する。そして、貫通孔44内、シース44´とPC鋼材46との隙間にグラウト(図示せず)を注入する。以上により、既設中空床版10への現場打ちプレストレスコンクリート10´の追加が完了する。ここで、ボイド管14内の定着材充填空間には定着材38が埋め込まれていることで、プレストレスに対する既設中空床版10の幅員方向の十分な圧縮強度が確保され、十分な耐久性を得ることができる。
【0049】
隔壁50を形成する前にPC鋼材配置位置に水平コアボーリング等で貫通孔44を形成すると削孔量が少なく済むが、この場合には隔壁50の形成時に貫通孔が閉塞しないようにあらかじめ貫通孔44にシースを挿入しておく必要がある。
【0050】
本技術の隔壁形成工法は、このように既設中空床版10に現場打ちプレストレスコンクリート10´を追加するために必要な隔壁50を良好に形成することができる。
【0051】
既設中空床版10に定着固定されたアンカー32は、以上の用途に限られず、その他、様々な目的用途に利用することが可能である。
【0052】
(二重・多重化された袋体について)
隔壁形成の際、ポリウレタンフォームが発泡することによる膨張圧力により、袋体が縫い目から破裂する可能性は否定し得ない。ポリウレタンフォームの膨張率は、充填時の外気の温度、その他の条件によっても大きく変化するからである。ポリウレタンフォームは発泡前は液状であるため、どのくらい膨張するかは充填してみないと分からないので、多めに充填してしまいがちである。もしも袋体が縫い目から破裂しても、隔壁の形成が担保されるように対策をとることが望ましい。そこで、袋体を二重・多重構造にするという対策が考えられる。図19は二重構造の袋体30´を示す図である。内側の袋体301には、ポリウレタンフォームの液剤31が注入される。外側の袋体302は内側の袋体301を全体的に収容するものであり、その中にはポリウレタンフォームの液剤31は注入されることない。ポリウレタンフォームの発泡により外側の袋体302の内面とは内側の袋体301の外面との間には僅かな隙間が出来るように、外側の袋体302内には空気などの気体が予め適量閉じ込められている。これにより、ポリウレタンフォームが発泡することによる膨張圧力によって、内側の袋体301が破裂しても、外側の袋体302によってポリウレタンフォームがボイド管内に漏れ出ることが防止され、隔壁形成が担保される。
【0053】
以上、本発明に係る既設中空床版橋の改良方法の実施形態を説明してきたが、対象となる既設中空床版は中空部を有する床版であればよく、例えば、PC構造の中空床版、RC構造の中空床版、箱形の中空床版などであってよい。
【符号の説明】
【0054】
10 既設の中空床版
12 中空部
14 ボイド管
18 袋体挿入孔
20 アンカー挿入孔
22 定着材注入孔
30 袋体
31 液剤
32 アンカー
34 定着材充填空間
38 定着材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18
図19