(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141401
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラおよびそれを含む超音波探傷装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/28 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N29/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053011
(22)【出願日】2023-03-29
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】507066552
【氏名又は名称】八十島プロシード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】濱地 晃平
(72)【発明者】
【氏名】谷口 雅彦
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA07
2G047AA09
2G047AA10
2G047EA16
2G047GA01
2G047GE02
(57)【要約】
【課題】 膨潤することなく十分な柔軟性を持ち、超音波減衰が小さい超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラを提供する。
【解決手段】 対向し合う一対のリブ110と、リブ110の間に設けられたタイヤドラム120を備えた構成において、タイヤドラム120が疎水性のゲル状弾性体を素材とするものである。タイヤドラム120の配合成分としてポリウレタン用ポリオール成分とポリイソシアネート成分を有するポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーに対してゲル生成時に可塑剤を30~80wt%配合する。超音波探傷装置にこの疎水性ゲル状弾性体カプラ100を装着し、探触対象物に当接させながら超音波探触子で受発信した超音波により走査する。タイヤドラム120に超音波走査エリア125と超音波非走査エリア126を設けても良い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に音響カプラを回転可能に支持する支持部と、前記支持部に収納されている超音波探触子と、前記音響カプラ内に充填される超音波伝搬液を備え、前記音響カプラの探触面を探触対象物に当接させながら回転移動し、超音波探触子で受発信する超音波により前記探触対象物に対する超音波探傷を行うタイヤ式の超音波探傷装置に用いられる音響カプラであって、
前記音響カプラが、
対向し合う一対のリブと、
前記一対のリブの間に設けられた円筒形状または紡錘形状のタイヤドラムを備え、
前記タイヤドラムが疎水性のゲル状弾性体を素材とするものであることを特徴とするタイヤ式の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項2】
前記疎水性ゲル状弾性体カプラの前記タイヤドラムが、主剤のポリウレタン用ポリオール成分と硬化剤のポリイソシアネート成分により形成されたポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーに可塑剤を添加して生成した疎水性ゲル状弾性体であるポリウレタン樹脂用組成物により得られたものであり、
前記可塑剤の添加量が、30~80wt%であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項3】
前記タイヤドラムのゲル生成時に添加する可塑剤として、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート、またはグリコールエーテル類を添加したものとしたことを特徴とする請求項2に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項4】
前記タイヤドラム前記硬化剤のポリイソシアネート成分として、
ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、ナフタリン1,5-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートのいずれかまたはその誘導体のイソシアネート種か、または、イソホロンジイソシアネート、4,4-メチレンビス(シクロヘキサンイソシアネート)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサンのいずれかまたはその誘導体の脂環族イソシアネート種のいずれかを含むものである請求項2に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項5】
前記タイヤドラムの疎水性のゲル状弾性体の素材において、前記疎水性ポリウレタンポリオール成分に含まれるアルキレンオキシド鎖のうち疎水性アルキレンオキシド鎖と親水性アルキレンオキシド鎖の比である疎水性アルキレンオキシド鎖:親水性アルキレンオキシド鎖を100:0~70:30の間に調整し、
前記ポリイソシアネート成分に含まれるアルキレンオキシド鎖が疎水性アルキレンオキシド鎖を有効成分とし、
前記タイヤドラムの疎水性のゲル状弾性体が、非フォームの疎水性ポリウレタンゲル弾性体とした請求項2に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項6】
前記タイヤドラムの疎水性のゲル状弾性体の前記ポリウレタン用ポリオール成分が、官能基数2で数平均分子量1,000~6,000のポリオールまたは官能基数3で数平均分子量3,500~5,000のポリオールのいずれかまたは両方を包含する成分であり、
前記ポリウレタン用ポリオール成分の官能基数と前記ポリイソシアネートプレポリマーの官能基数の組み合わせが2と3、3と2、または、3と3であり、2同士とならない組み合わせとしたことを特徴とする請求項7に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項7】
前記ポリウレタン用ポリオール成分と前記ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーとの混合比が、末端のOH官能基とNCO官能基の比率(OH/NCO)において0.6から1.6の間となるよう調整されたことを特徴とする請求項8に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項8】
前記タイヤドラムにおいて、前記超音波探触子で発信する超音波が通過して前記探触対象物の探傷箇所に反射したものが通過する領域を包含する超音波走査エリアと、それ以外の超音波非走査エリアを設け、
前記超音波走査エリアの柔軟性が、前記超音波非走査エリアの柔軟性よりも大きく調整されていることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ式の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項9】
前記ポリウレタン用ポリオール成分と前記ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーとの混合の末端のOH官能基とNCO官能基の比率であるOH/NCOにおいて、前記タイヤドラムのうち前記非超音波走査エリアを形成する箇所の比率が、前記超音波走査エリアの比率より小さく調整されていることを特徴とする請求項7に記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラと、
前記疎水性ゲル状弾性体カプラを回転可能に支持する支持部と、
前記支持部に収納されている超音波探触子と、
前記疎水性ゲル状弾性体カプラ内に充填される超音波伝搬液を備え、
前記音響カプラの探触面を探触対象物に当接させながら回転移動し、超音波探触子で受発信する超音波により前記探触対象物に対する超音波探傷を行うタイヤ式の超音波探傷装置。
【請求項11】
前記探傷対象物が、鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物、半導体基板、人体のいずれかまたはそれらの組み合わせである請求項10に記載の超音波探傷装置用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷装置の探触子と探傷対象物の間に介在させる音響カプラに関する。特に探傷対象物に当接しながら回転して連続的に探傷検査できるタイヤ式の超音波探傷装置に用いられる音響カプラに関する。
探傷対象物としては、例えば、鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物などである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物などの探傷対象物の表面に傷があるか、内部にクラックがあるかなどの探傷検査方法として、超音波撮像手段を用いた超音波探傷装置が知られている。探傷対象物の内部に超音波を導入し、探傷対象物内で反射した超音波を受信して超音波波形を確認したり、探傷対象物内部の様子を画像として可視化したりして、探傷対象物内の傷やクラックの存在を検査する。このようにして、超音波撮像手段を用いた超音波探傷装置によれば探傷対象物の内部を可視化して検査することができる。
【0003】
このように、従来技術において探傷対象物の傷などを探査する超音波探傷装置は広く用いられてきたが、その探傷範囲が広く長い距離に及ぶ探傷対象物、例えば、金属製の薄板やレールの傷等を検出する装置としては、タイヤ式の超音波探傷装置が知られている。
図14は、従来技術におけるタイヤ式の超音波探傷装置の構成を示す図である。
図14に示すように、従来技術のタイヤ式の超音波探傷装置は、フレーム3に固定される固定中心軸5と、この固定中心軸5に装備される超音波送受波手段7と、固定中心軸5に対して回転すると共に超音波送受波手段7を収納するタイヤと、このタイヤ9内に充填される超音波伝搬液11とを備え、上記したタイヤ9は空気圧力を利用して回転駆動する仕組みとなっている。なお、固定中心軸5は、後述するようにタイヤ9が回転しても回転することはない構造となっている。
従来この種のタイヤ式の超音波探傷装置は、タイヤ9を探傷対象物である薄板等に接触させて、この薄板とタイヤとの摩擦によってタイヤ9を回転させながら探傷を行っていた。タイヤ9の中に収納されている超音波送受波装置7から送信された超音波は、超音波伝搬液11、タイヤ9を経て探傷対象物の内部に送られて反射した超音波を受信するが、その反射超音波の異常を検出して、欠陥等の有無の探傷を行う。
【0004】
ここで、超音波を発生する超音波探傷装置の探触子と探傷対象物との間に空気が介在すると空気面において超音波が反射してしまってノイズとして検出されてしまので、従来技術では、超音波探傷装置の探触子と探傷対象物との間に水分と音響カプラを介在させ、空気を除去する工夫がなされていた。
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術におけるタイヤ式の超音波探傷装置のタイヤ内部には水が充填され、タイヤと探傷対象物との間には積極的に水が介在するようにして測定している。
ここで、従来技術におけるタイヤ式の超音波探傷装置のタイヤ部分、つまり、音響カプラはシリコーン等のゴム素材のものがほとんどであった。シリコーン等のゴム素材は減衰が大きく水との音響結合性も悪いため、音響カプラの素材としてシリコーン等のゴム素材を採用する場合には、タイヤと探傷対象物の間に介在する水が大量に必要となっていた。
そこで、タイヤと探傷対象物の間に介在する水の使用量を低減するため、従来技術において少数ではあるが音響カプラの素材として親水性のウレタン素材などを採用する例がある。
しかしながら、この従来の親水性弾性カプラでは、以下の問題があった。
従来の親水性ゲル状音響カプラは、親水性であり超音波透過性は良く、また柔軟性があるので扱いやすいが、親水性ゲル状音響カプラと探傷対象物との間に水を介在させるため、長期間の使用によって親水性ゲル状音響カプラが膨潤してしまい、肝心の超音波特性が変化したり使用による裂けや磨耗などが生じてしまったりする不具合が発生していた。
【0007】
そこで、仮に音響カプラの素材として従来の疎水性の素材を採用することを想定すると、一般には疎水性のゲル状物質は超音波の減衰が大きいため、疎水性ゲル状の音響カプラを用いて探傷対象物の探傷の検出には不向きである。
そのため、従来技術では低減衰かつ高柔軟性の親水性素材を用いた音響カプラを採用した例もあった。しかし、上記したように、親水性素材を用いた音響カプラを使用し続けると膨潤してしまい、超音波特性が変化するとともに使用による裂けや磨耗などが生じる不具合が発生してしまう。
なお、シリコーン等のゴム素材をベースとし、そのタイヤの表面に親水性のウレタン素材などを貼り付けて製作したとしても、ベース部分での減衰が大きいためそのような構造は適切なものではない。
【0008】
そこで、本発明者は、タイヤ式の超音波探傷装置のタイヤ素材として、疎水性かつ低減衰のセグメント化ポリウレタンゲルを採用することにより水の使用量を抑えた探傷検査が可能になると考えた。さらに疎水性ゲル素材の組成の工夫を重ね、柔軟性を保持したまま高耐久化したタイヤ探触子に最適な新規セグメント化ポリウレタンゲルを開発に成功した。
本発明は、超音波探傷装置用のタイヤ探触子に最適な新規セグメント化ポリウレタンゲルを用いた疎水性のゲル状弾性体カプラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラは、下記のタイヤ式の超音波探傷装置に用いられる音響カプラであって、このタイヤ式の超音波探傷装置は、回転軸を中心に音響カプラを回転可能に支持する支持部と、前記支持部に収納されている超音波探触子と、前記音響カプラ内に充填される超音波伝搬液を備え、前記音響カプラの探触面を探触対象物に当接させながら回転移動し、超音波探触子で受発信する超音波により前記探触対象物に対する超音波探傷を行うタイヤ式の超音波探傷装置である。本発明の音響カプラの構造は、対向し合う一対のリブと、前記一対のリブの間に設けられた円筒形状または紡錘形状のタイヤドラムを備えた構造であるが、上記構成のうちタイヤドラムが疎水性のゲル状弾性体を素材とするものであることを特徴とする疎水性ゲル状弾性体カプラである。
上記構成により、タイヤドラムが疎水性のゲル状弾性体を素材とするものであり、ゲル状弾性体カプラと探傷対象物との間に水を介在させる状態が長期間であっても膨潤することなく、優れた超音波特性を安定した状態で維持できる。
【0010】
ここで、タイヤドラムが疎水性のゲル状弾性体を素材とするものであっても、超音波の減衰を抑えるため、また、凹凸のある探傷対象物の表面に沿って容易に追随変形することができるように、タイヤドラムの配合成分として可塑剤を添加する工夫がある。
例えば、可塑剤として、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート、またはグリコールエーテル類を用いることができる。
ここで、十分な柔軟性を得るために、可塑剤の配合量を30~80wt%とすることや、50~80wt%とすることが好ましい。
このように、タイヤドラム作成のゲル生成時において可塑剤を多く入れることによりタイヤドラム壁面が柔らかくなり、探傷対象物の表面に当接させると本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラが探傷対象物の表面の凹凸に性能良く追随できるものとなる。
【0011】
なお、可塑剤の配合量が多いほどタイヤドラム壁面の柔軟性が高くなり、探傷対象物の表面の微少な凹凸に対しても追随できるというメリットが得られるが、タイヤドラム全体にわたって一様に可塑剤を多い配合としてゲル生成を行ってしまうと、タイヤドラム全体の柔軟性が高くなってしまい、かえってデメリットも発生し得る。
そのデメリットとは、タイヤドラム全体が相当柔らかくなってしまうとタイヤ式の超音波探傷装置に適用しづらくなる点である。つまり、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラはタイヤ式の超音波探傷装置に用いられるためにある程度の機械的な構造強度や剛性も必要とされる。それは、タイヤドラムのリブへの取り付け強度が確保でき、タイヤとして探傷対象物に押し付けられても円筒形のタイヤドラム径の変動幅を抑制でき、タイヤドラム内に充填された水等の媒体の保水性・漏出防止性を維持するためには、タイヤドラム全体としての構造強度や剛性が必要となるからである。
【0012】
メリットの確保とデメリットの抑制を両立するため、本発明者らは、大きな柔軟性が必要とされる箇所に配合するOH/NCOと、それ以外の箇所に配合するOH/NCOを調整することにより、タイヤドラムの領域によって硬度が異なるいわゆる「ハイブリッド型」のタイヤドラムとすることを想起した。
本発明者らが想起した「ハイブリッド型」のタイヤドラムは、超音波探触子で発信する超音波が通過して探触対象物の探傷箇所に反射したものが通過する領域を包含する「超音波走査エリア」と、それ以外の「超音波非走査エリア」を設け、タイヤドラムのうち「超音波走査エリア」を形成する箇所にはOH/NCOを大きく調整し、「超音波非走査エリア」にはOH/NCOを小さく調整したものとし、「超音波走査エリア」の柔軟性が「超音波非走査エリア」の柔軟性よりも大きく調整されていることを特徴としたものである。
上記構成により、「超音波走査エリア」は十分に柔らかく探傷対象物の表面の微少な凹凸に対しても追随でき、「超音波非走査エリア」はある程度の機械的な構造強度や剛性が得られ、タイヤ式の超音波探傷装置に適した疎水性ゲル状弾性体カプラを得ることができる。
【0013】
次に、疎水性ゲル状弾性体カプラを得るための各々の成分について説明する。
疎水性のゲル状弾性体の素材としては、ポリウレタン用ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分を有するポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いたポリウレタン樹脂用組成物である。
まず、ポリウレタンポリオール成分に含まれるアルキレンオキシド鎖のうち疎水性アルキレンオキシド鎖と親水性アルキレンオキシド鎖の比である疎水性アルキレンオキシド鎖:親水性アルキレンオキシド鎖を100:0~70:30の間に調整したものとする。
ポリイソシアネート成分に含まれるアルキレンオキシド鎖が疎水性アルキレンオキシド鎖を有効成分とする。例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、ナフタリン1,5-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートのいずれかまたはその誘導体とすることが好ましい。
また、ポリイソシアネートとして脂環族イソシアネート種を用いることもできる。例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)(水素添加MDI:H12MDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(水素添加XDI:H6XDI)などの脂環族イソシアネート種を用いることができる。
上記成分であれば、ポリウレタン樹脂用組成物が、疎水性のポリウレタンポリオール成分と疎水性のポリイソシアネート成分により形成され、疎水性のゲル状弾性体カプラとすることができる。
【0014】
なお、上記成分において、ポリウレタン用ポリオール成分が、官能基数2で数平均分子量1,000~6,000のポリオールまたは官能基数3で数平均分子量3,500~5,000のポリオールのいずれかまたは両方を包含する成分であり、ポリウレタン用ポリオール成分の官能基数と前記ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの官能基数の組み合わせが2と3、3と2、または、3と3であり、2同士とならない組み合わせとしたものとする。
ポリオール成分とポリイソシアネート成分の官能基数はウレタン結合の立体的な網目構造として構成されるところ、2官能基数と3官能基数のバランスを調整することによりゲル状物質として形成されるウレタン樹脂の弾力性が得られる。
【0015】
ここで、前記ポリウレタン用ポリオール成分と前記ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーとの混合比が、末端のOH官能基とNCO官能基の比率(OH/NCO)において0.6から1.6の間となるよう調整することが好ましい。
上記調整により、生成される疎水性ゲル状弾性体カプラが立体的な網目構造としてバランスよく構成できる。
【0016】
本発明のタイヤ式の超音波探傷装置は、上記した本発明の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラと、前記疎水性ゲル状弾性体カプラを回転可能に支持する支持部と、前記支持部に収納されている超音波探触子と、前記疎水性ゲル状弾性体カプラ内に充填される超音波伝搬液を備えた構成であり、前記音響カプラの探触面を探触対象物に当接させながら回転移動し、超音波探触子で受発信する超音波により前記探触対象物に対する超音波探傷を行うタイヤ式の超音波探傷装置である。
なお、提供する本発明の疎水性ポリウレタンゲル弾性体の硬度であるが、アスカーゴム硬度計F型による硬度が、35~80の範囲になるように調整されたものが好ましい。
【0017】
本発明のタイヤ式の超音波探傷装置は、鉄鋼構造物、金属溶接個所、プラスチック構造物、コンクリート構造物、ガラス構造物、セラミックス構造物、半導体基板、人体のいずれかまたはそれらの組み合わせを対象として超音波探傷を行うことに適している。
【0018】
上記構成により、本発明の疎水性ゲル弾性体カプラは、疎水性であるため、探傷対象物の表面に水を介在させた状態での測定にも膨潤することなく使用することができ、超音波透過性も良好であり、かつ十分に柔軟性を持ち探傷対象物の表面の凹凸に追随して変形するので、タイヤ式の超音波探傷装置用のゲル状弾性体カプラとして優れたものとして提供できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明者の発明した新規セグメント化ポリウレタンゲルをタイヤ式の超音波探傷装置のタイヤ部分の疎水性のゲル状弾性体カプラに採用することにより、当該ゲル状弾性体カプラを長期間使用しても水で膨潤することなく、優れた超音波特性を安定した状態で維持でき、かつ、十分な柔軟性を持ち凹凸のある探傷対象物の表面に沿って当接しつつ連続回転しても容易に追随変形することができ、さらに高耐久性をもつ超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラを実現することができた。
つまり、本発明のタイヤ式の超音波探傷装置用のゲル状弾性体カプラの効果は、組成が疎水性であるため、探傷対象物の表面に水を介在させた状態での測定にも膨潤することなく使用することができる。ゲル状弾性体として超音波透過性も良好であり、かつ十分な柔軟性を持ち探傷対象物の表面の凹凸に追随して変形することができる。さらに高耐久性を持つため長期間の使用に耐えるものが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】疎水性ゲル状弾性体カプラ100の基本構造を示す図である。
【
図2】疎水性ゲル状弾性体カプラ100を装着したタイヤ式の超音波探傷装置200の構成例を示す図である。
【
図3】疎水性ゲル状弾性体カプラ100を装着したタイヤ式の超音波探傷装置200の超音波探傷の様子を簡単に示す図である。
【
図4】主剤となるポリウレタン用ポリオールの構造式を示した図である。
【
図5】硬化剤となるポリイソシアネートプレポリマーの構造式を示した図である。
【
図6】ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの構造式を示した図である。
【
図7】検証に用いたサンプルの組成を示した図である。
【
図8】各サンプルの24時間水浸漬実験の結果を示した図である。
【
図9】サンプル1の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。
【
図10】各サンプルの物理的性質の測定の結果を示す図である。
【
図11】疎水性ゲル状弾性体カプラにおける可塑剤含有量の違いによる超音波の減衰の変化を示す図である。
【
図12】実施例2にかかる疎水性ゲル状弾性体カプラ100aの基本構造を示す図である。
【
図13】疎水性ゲル状弾性体カプラ100aを装着したタイヤ式の超音波探傷装置200の超音波探傷時の発射受信の様子を簡単に示す図である。
【
図14】従来技術の特開平10-267905号に開示されたタイヤ式超音波探傷装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラの実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明のタイヤ式の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラについて例を挙げつつ以下説明する。
実施例1は、タイヤ式の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラの基本構造である。
実施例2は、タイヤ式の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラの応用形であり、タイヤドラムが「超音波走査エリア」とそれ以外の「超音波非走査エリア」を備えた構造のものである。
【実施例0022】
図1は、実施例1にかかる本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100の基本構造を示す図である。
図1(a)は疎水性ゲル状弾性体カプラ100の構成図、
図1(b)は
図1(a)の状態から両端のリブ110を取り外した分解構成図である。
図2は、
図1に示した疎水性ゲル状弾性体カプラ100をタイヤ式の超音波探傷装置200への装着した様子を示す図である。
図3は、疎水性ゲル状弾性体カプラ100を装着したタイヤ式の超音波探傷装置200において探傷対象物300に対する超音波探傷の様子を簡単に示す図である。
【0023】
図1に示すように、疎水性ゲル状弾性体カプラ100は、一対の対向し合うリブ110と、リブの間に形成された円筒形状または紡錘形状のタイヤドラム120を備えた構造となっている。
図1(a)は、疎水性ゲル状弾性体カプラ100の外観図であるが、内部の構造も分かるように内部の一部を点線で描いている。
図1(b)は、タイヤドラム120の両端のリブ110を取り外して描いた分解構成図である。なお、同様に、内部の構造も分かるように内部の一部を点線で描いている。
【0024】
リブ110は、疎水性ゲル状弾性体カプラ100の端部を形成する部材であり、素材は限定されないが、例えば、プラスチック樹脂製のものとする。
ある程度の剛性を有し、疎水性ゲル状弾性体カプラ100の機械構造的強度を与えるものとし、後述するように、疎水性ゲル状弾性体カプラ100をタイヤ式の超音波探傷装置200に回転可能に取り付けられる程度の剛性を持つものとする。
この構成例では、リブ110は、タイヤドラム120と連結するため縁部分に複数の螺子孔111が設けられ、その螺子孔111に対して螺子112を螺入するものとなっている。
【0025】
タイヤドラム120は、構造的には肉厚が円筒形状または紡錘形状の中央部分121を持ち、その両端部分にリブ110を取り付ける取り付けエッジ122を備えた構造となっている。取り付けエッジ122の縁部分には螺子112を取り付ける複数の螺子孔123が設けられている。
取り付けエッジ122の外側には、リブ110を取り付けた際にリブ110の内側に沿って端面を形成するフランジ124が設けられている。なお、フランジの中央には疎水性ゲル状弾性体カプラ100の内部に繋がる円筒状の空間125が開口している。
図1の例では中央部分121が緩やかに膨らんだ紡錘形となっている。なお、後述する
図2に示すように、疎水性ゲル状弾性体カプラ100をタイヤ式の超音波探傷装置200に回転可能に取り付け、探傷対象物300上に接触しつつ転がる状態では、中央部分121の探傷対象物300への接触面は探傷対象物300の表面に沿う形に変形する。
【0026】
タイヤドラム120は、疎水性ゲル状弾性体として一体に形成されている。この成分と生成反応については後述する。
タイヤドラム120は一体で一様の疎水性ゲル状弾性体で良い。なお、タイヤドラム120の形成時に投入する可塑剤の濃度をタイヤドラム120の超音波走査エリアと超音波非走査エリアとで異なるものとする工夫については実施例2で後述する。
【0027】
図2は、
図1に示した疎水性ゲル状弾性体カプラ100をタイヤ式の超音波探傷装置200への装着した様子を示す図である。
6面図で示しているが、正面図、背面図、平面図、底面図においては、内部に搭載されている部材についても点線にて簡単に示しており、また、タイヤドラム120の肉厚についても示している。つまりタイヤドラム120の内部構造は縦断面図のように示されている。
【0028】
図2に示すように、タイヤ式の超音波探傷装置200は、支持部210、超音波探触子220、前ガイドタイヤ230、後ガイドタイヤ240、超音波伝搬液250を備えた構造となっている。
図2に示すタイヤ式の超音波探傷装置200は、音響カプラ100の探触面を探触対象物300に密着当接させながら回転移動し、超音波探触子220で受発信する超音波により探触対象物300に対する超音波探傷を行うものである。疎水性ゲル状弾性体カプラ100は、このタイヤ式の超音波探傷装置200に装着されて使用される。
【0029】
支持部210は、フレーム211と、フレームに固定される固定中心軸212と、超音波探触子の支持部213を備えた構成であり、音響カプラ100のタイヤドラム120をフレーム211にて支持しつつ固定回転軸212を中心に回転可能に支持するものである。
このフレーム211に固定中心軸212が嵌合され固定されている。従って、この固定中心軸212は、後述するようにタイヤドラム120が回転しても、固定中心軸212自体は回転することはない構造となっている。
支持部210の素材は特に限定されず、樹脂製でも良く、金属製でも良い。
【0030】
超音波探触子220は、超音波探触用の超音波の発射と反射波の受信を行う超音波探触子を備え、超音波の反射信号を外部に対して出力する。なお、ごく簡単に矩形の点線で図示されているが、超音波を受発信できる機能を備えている。
この超音波探触子220(超音波トランスデューサ)は所定周波数の超音波を斜め下方に向けて送信されるよう配置されている。
タイヤ式の超音波探傷装置200は、探傷対象物300の表面上を密着して転がりながら走査して行くが、超音波探触子220自体は回転しないように支持することが必要である。そのため、超音波探触子210は音響カプラ100のタイヤドラム120内の空洞に支持されているが、支持部220により回転しないように支持されている。
【0031】
前ガイドタイヤ230は、その底面の高さが回転移動するタイヤドラム120の底面(探傷対象物300との密着面)と同じ高さとなっている。つまり、タイヤドラム120の走査時において、タイヤドラム120の前方をガイドするコマのような働きをするものである。
後ガイドタイヤ240も、その底面の高さが回転移動するタイヤドラム120の底面(探傷対象物300との密着面)および前ガイドタイヤ230の底面と同じ高さとなっている。タイヤドラム120の後方をガイドするコマのような働きをするものである。
つまり、この前ガイドタイヤ230と後ガイドタイヤ240がタイヤドラム120の前後に配置され、かつ、前ガイドタイヤ230と後ガイドタイヤ240とタイヤドラム120の3者の底面の高さが同じであることにより、フレーム211の傾きが探傷対象物300の表面に対して平行となり、常にフレーム211が探傷対象物300の表面に平行な傾きに保たれる。探傷対象物300の表面は水平面であることを前提とすると、フレーム211が水平に保たれるという効果が得られる。
【0032】
超音波伝搬液250は、音響カプラ100内に充填される超音波伝達媒体であり、例えば、水、オイルなどがある。超音波探触子220(超音波トランスデューサ)から送信された超音波は、タイヤドラム120の内部に充填されている超音波伝搬液250を伝わり、更にタイヤドラム120の肉厚を経て探傷対象物300に伝達される。その際、超音波信号の減衰が小さいように調整される。
なお、タイヤドラム120とフレーム211の間にはシール部材などが装着され、超音波伝搬液250がタイヤドラム120外に漏洩しないようになっているものとする。
【0033】
タイヤ式の超音波探傷装置200の探傷操作について説明する。
図3は、疎水性ゲル状弾性体カプラ100を装着したタイヤ式の超音波探傷装置200の超音波探傷の様子を簡単に示す図である。
図3(a)は正面方向から超音波走査の様子を示した図、
図3(b)は平面からタイヤ式の超音波探傷装置200の進行の様子を示した図となっている。
図3に示すように、疎水性ゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120の内部に収納されている超音波探触子220(超音波トランスデューサ)から所定周波数の超音波が斜め下方に向けて送信される。超音波探触子220から送信された超音波は、タイヤドラム120の内部に充填されている超音波伝搬液250を伝わり、更にタイヤドラム120の肉厚部分を経て探傷対象物300に伝達される。なお、タイヤドラム120と探傷対象物300との間には、水分(図示せず)の媒体が介在する。もし、超音波探触子220と探傷対象物300との間に空気等が介在すると、超音波伝搬経路の音響インピーダンスに変化が生じ、このインピーダンス不整合に起因して、空気等の境界面で超音波の反射が起ってしまい、超音波探触子220から探傷対象物300へ超音波の伝搬が効率的にされず、探傷能力が低下する。そのため、インピーダンスが整合しやすい水分等の媒体を介在させる。
探傷対象物300に伝搬された超音波は、その表面で反射して再び超音波探触子220に戻り、その超音波反射信号が受信される。この超音波反射信号は電気信号に変換されて信号解析装置(図示せず)に送られ、信号の乱れや変化を検出することにより、探傷対象物300の表面の欠陥等の有無が検出される。
【0034】
次に、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100におけるタイヤドラム120の組成について詳しく説明する。この特性により、疎水性ゲル状弾性体カプラ100は疎水性であり、水分による膨潤がなく、白濁がない特徴が得られる。
【0035】
タイヤドラム120は、疎水性ゲル状弾性体で形成されている。
この例では、タイヤドラム120の素材は、ポリウレタン用ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを有するポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーを用いた疎水性ゲル状弾性体であるポリウレタン樹脂用組成物により得られるものとなっている。
ポリウレタン用ポリオールを主剤、ポリイソシアネートあるいはポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーを硬化剤として疎水性ゲル状弾性体が生成される。
なお、可塑剤はゲル弾性体の低減衰化と柔軟性の付与のため、触媒はウレタン反応の促進のため添加する。
【0036】
本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120を生成する際に用いるポリオール成分、ポリイソシアネート成分は以下の通りである。
まず、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120で用いるポリオール成分について説明する。
図4は、主剤となるポリウレタン用ポリオールの構造式である。
1官能基のポリオール、2官能基のポリオール、3官能基のポリオールなどがあり得る。
図4に示すように、ポリオール成分にはアルキレンオキシド(AO)鎖が含まれる。
ここで、本願発明に用いるポリオール成分の特徴として、アルキレンオキシド(AO)鎖が“疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)”を主とし、親水性アルキレンオキシド鎖であるエチレンアルキレンオキシド鎖(EO)がごく微量となるように抑えられている。
例えば、疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)と親水性アルキレンオキシド鎖であるエチレンアルキレンオキシド鎖(EO)との比率を以下の範囲とする。
疎水性アルキレンオキシド鎖AO:親水性アルキレンオキシド鎖EO
=100:0~70:30
【0037】
ここでは、“疎水性アルキレンオキシド鎖(AO)”と記載されているものは、プロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合が主であり、エチレンオキシド(EO)がごく微量に抑えられているアルキレンオキシド鎖と定義する。
つまり、本発明では“疎水性アルキレンオキシド鎖(AO)”の成分比は、
[プロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合]:[エチレンオキシドEO]=100:0~70:30
の範囲とする。
このように、タイヤドラム120を生成するポリオール成分にアルキレンオキシド鎖が含まれるが、アルキレンオキシド鎖の主成分が“疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)”であり、親水性アルキレンオキシド鎖は有しないか有しても微量なものとなっている。
【0038】
もし、ポリオール成分中に含まれるアルキレンオキシド鎖がエチレンオキシド(EO)であれば、生成されるウレタン樹脂が親水性となるが、本発明のゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120は疎水性であることを特徴とするので、ポリオール成分中のアルキレンオキシド鎖としてエチレンオキシド(EO)を含有しないか微量に抑えることにより、プロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合とすることで疎水性を持たせる。
ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールのいずれかなどで良い。それらは単独で使用することもできるし、反応や最終製品に支障のない限りその他の公知のポリオールを混合して使用しても良い。
【0039】
次に、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120で硬化剤として用いるポリイソシアネート成分について説明する。
図5は、硬化剤として使用するポリイソシアネートプレポリマーの構造式である。この実施例で用いるポリイソシアネートはプレポリマー化されているものを用いる。
この例ではポリイソシアネートとしてジイソシアネートを用いる。そのイソシアネート種としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やその誘導体、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-トルエンジイソシアネート(TDI)、ナフタリン1,5-ジイソシアネート(NDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)などを用いることができる。反応や最終製品に支障のない限りその他の公知のポリイソシアネートを混合して使用しても良い。
【0040】
また、ポリイソシアネートとして脂環族イソシアネート種を用いることもできる。例えば、トランス1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,4- H6 XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)(水素添加MDI:H12MDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(水素添加XDI:H6XDI)などの脂環族イソシアネート種を用いることができる。
【0041】
上記のポリイソシアネート成分中にもアルキレンオキシド鎖が含まれるが、本実施例1にかかるポリイソシアネート成分中のアルキレンオキシド鎖としてはプロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合を主成分とし、エチレンオキシド(EO)をごく微量に抑えることで疎水性を持たせる。
もし、ポリイソシアネート成分中に含まれるアルキレンオキシド鎖としてエチレンオキシド(EO)が主であれば、生成されるウレタン樹脂が親水性となるが、本発明のゲル状弾性体カプラのタイヤドラム120は疎水性であることを特徴とするので、ポリイソシアネート成分中のアルキレンオキシド鎖をプロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合を主成分とし、エチレンオキシド(EO)を微量に抑えることが好ましい。
なお、その中に含まれるアルキレンオキシド鎖(AO)としては、プロピレンオキシド(PO)やブチレンオキシド(BO)やそれらの混合である疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)を主とし、エチレンオキシド(EO)をごく微量に抑えることで疎水性を持たせる。
【0042】
ポリイソシアネートの官能基数も2官能、3官能のものが主となるが、ポリイソシアネートの官能基数は100%揃ったものでなくとも、2官能、3官能のものが混在していても良い。なお、ゲル状弾性体の網目構造の形成に用いる際にはポリイソシアネートの官能基数も2官能、3官能のものが主となるが、後述するように、可塑剤として用いる際にはポリイソシアネートの官能基数は1官能であっても良い。
【0043】
次に、この条件下で生成されるポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーについて説明する。
図6(a)は、2官能のポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの構造式である。
図6(b)は、3官能のポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの構造式である。
上記した条件のように、上記構造式に含まれている(AO)鎖は疎水性アルキレンオキシド鎖を指すものとする。プロピレンオキシド(PO)またはブチレンオキシド(BO)のいずれかまたはそれらの混合が主となっており、エチレンオキシド鎖(EO)はごく微量に抑えられている。このように本発明ではアルキレンオキシド鎖を“疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)”として定義する。
一般には、アルキレンオキシド鎖にはエチレンオキシド鎖(EO)も含まれるが、エチレンオキシド鎖(EO)を多く含有するものは親水性の性質を帯びるため、疎水性である本発明のゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120ではごく微量に抑えられている。
【0044】
このように、ポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーのアルキレンオキシド鎖を“疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)”とすることにより硬化剤で硬化後に疎水性のゲル弾性体が得られるようになる。後述するように実際に製作したゲル弾性体カプラ100のタイヤドラム120は、疎水性を示すものが製作される。
【0045】
次に、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120の主剤となるポリオール成分の官能基数と平均分子量について述べる。
ポリオール成分としては、官能基数2で数平均分子量1,000~6,000のポリオールと、官能基数3で数平均分子量3,500~5,000のポリオールが用いられる。さらに、好ましくは、官能基数2のポリオールの数平均分子量は3,000~3,500の範囲であり、官能基数3のポリオールの数平均分子量は4,000~4,500の範囲が好ましい。
【0046】
このように、ポリウレタン用ポリオールの官能基数はウレタン結合の立体的な網目構造として構成され、ゲル状物質として形成されるウレタン樹脂の弾力性が得られる。
一方、本願発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120において、大きな柔軟性を持つように生成するためには、分子量やOH/NCOを大きくしたり、可塑剤含有量を大きくしたりすれば良い。
【0047】
以下、ポリエーテルポリオールは2官能、3官能のものを例として説明するがポリウレタン用ポリオールの官能基数は100%揃ったものでなくとも、一部に2官能、3官能のものが混在していても良く、ごく一部に1官能のものが混在していても良い。
【0048】
官能基数2であって数平均分子量1,000~6,000のポリオールに関して説明すると、数平均分子量低い程、得られるポリウレタン樹脂の硬度は高くなるため、数平均分子量が2,500未満の場合は、得られるポリウレタン樹脂の硬度がアスカーゴム硬度計F型の硬度で80より大きくなってしまい、本願発明の疎水性ゲル状弾性体カプラとしては好ましくない。一方で数平均分子量が4,000を超える場合は、化学反応が十分に進まないためと推測されるが、得られるポリウレタン樹脂の形状安定性に欠けるため好ましくない。
【0049】
次に、官能基数3であって数平均分子量1,000~6,000のポリオールに関して説明すると、数平均分子量が2,000未満の場合は、得られるポリウレタン樹脂の硬度がアスカーゴム硬度計F型の硬度で80より大きくなり、本願発明の疎水性ゲル状弾性体カプラとしては好ましくない。一方で数平均分子量が6,000を超える場合は、十分な架橋密度が得られないためと推測されるが、得られるポリウレタン樹脂の表面のタック感(粘着性)が強くなったり硬化不良になったりするため好ましくない。
ポリウレタン用ポリオールの官能基数は、2官能、3官能のものが主となるが、ポリウレタン用ポリオールの官能基数は100%揃ったものでなくとも、一部に2官能、3官能のものが混在していても良く、ごく一部に1官能のものが混在していても良い。
ポリイソシアネートの官能基数も2官能、3官能のものが主となるが、ポリイソシアネートの官能基数は100%揃ったものでなくとも、2官能、3官能のものが混在していても良い。なお、ゲル状弾性体の網目構造の形成に用いる際にはポリイソシアネートの官能基数も2官能、3官能のものが主となるが、後述するように、可塑剤として用いる際にはポリイソシアネートの官能基数は1官能であっても良い。
【0050】
ここで、ポリイソシアネートの官能基数は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分同士が2官能基数同士とならない組み合わせとなるよう調整する。つまり、ポリオールとポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーの官能基数の組み合わせとしては2と3、3と2、または、3と3であり、2同士とならない組み合わせとなるよう調整する。
このように、ポリオール成分とポリイソシアネート成分の官能基数はウレタン結合の立体的な網目構造として構成され、ゲル状物質として形成されるウレタン樹脂の弾力性が得られるので、2官能基数と3官能基数のバランスを調整すれば良い。
【0051】
次に、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラにおいて、大きな柔軟性を持つように生成する工夫について述べる。
その工夫としては、分子量やOH/NCOを大きくしたり、可塑剤含有量を大きくしたりするものがある。
例えば、ポリオール成分とポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーとの混合比率であるが、末端のOH官能基とNCO官能基の比率(OH/NCO)において0.6から1.6の間となるよう調整すれば、生成される疎水性ゲル状弾性体カプラは立体的な網目構造としてバランスよく構成される。
【0052】
次に、可塑剤含有量を大きくし、柔軟性を向上する工夫について説明する。
本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100のタイヤドラム120では、十分な柔軟性を持ち凹凸のある探傷対象物の表面に沿って当接しつつ連続回転しても容易に追随変形することができる特性を備えるものとするため、可塑剤を多く配合して柔軟性を確保する。
可塑剤の例であるが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート、またはグリコールエーテル類がある。グリコールエーテル類としては、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、テトラプロピレングリコールジメチルエーテルなどがあり得る。
【0053】
疎水性ポリウレタンゲル弾性体の柔軟性を示す硬度としては、アスカーゴム硬度計F型による硬度が35~80の範囲に調整することが好ましい。この程度の柔軟性があれば、探傷対象物の表面の凹凸に追従して変形し、超音波測定時の弾性体カプラとして優れた物性を提供できる。
【0054】
以下、本発明に係る超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラの試作例を説明する。実際に生成したサンプルを用いて、疎水性ゲル状弾性体カプラの物性を調べた結果を示す。
図7は、検証に用いたサンプルの組成を示す図である。
図7に示すように、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラに属するサンプル1、サンプル2を生成し、コントロールとして親水性弾性カプラである従来品のサンプル3を用意した。
主剤であるポリウレタン用ポリオール、硬化剤であるポリイソシアネート、可塑剤は、それぞれ
図7のリストに示すものであるが、サンプル1およびサンプル2と、サンプル3のものはアルキレンオキシド鎖(AO)の有無が異なっている。
【0055】
サンプル1の組成は以下のものとした。
サンプル1の主剤であるポリウレタン用ポリオールとして、3官能のPPGポリエーテルポリオールとした。つまり、アルキレンオキシド鎖(AO)が疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)であるポリプロピレングリコール(PPG)鎖となっているものである。一例として、プライムポールFF-3320(三洋化成工業株式会社製)を用いた。
サンプル1の硬化剤であるポリイソシアネートとして、HDIポリイソシアネートプレポリマーを用いた。つまり、アルキレンオキシド鎖(AO)が疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)であるプロピレンオキシド(PO)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の反応によって得られたプレポリマーを用いたものである。一例として、デュラネートAE700-100 (旭化成株式会社製)を用いた。
サンプル1の可塑剤として、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート(DINCH)を用いた。一例としてHexamol DINCH (BASF製)を用いた。可塑剤の含有量は50wt%とした。
このサンプル1は、疎水性ゲル状弾性体カプラの試作物となる。
【0056】
サンプル2の組成は以下のものとした。
サンプル2の主剤であるポリウレタン用ポリオールも、3官能のPPGポリエーテルポリオールとした。つまり、アルキレンオキシド鎖(AO)が疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)であるプロピレンオキシド(PO)が重合してポリプロピレングリコール(PPG)鎖となっているものである。一例として、プライムポールFF-3320(三洋化成工業株式会社製)を用いた。
サンプル2の硬化剤であるポリイソシアネートは、イソシアネート種にビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)を有するポリイソシアネートプレポリマーを用いた。一例として、フォルティモXHL-8120A(三井化学株式会社製)を用いた。 このフォルティモXHL-8120Aはエーテル系のポリオールとビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)を反応させて得られるポリイソシアネートプレポリマーであり、アルキレンオキシド鎖(AO)がプロピレンオキシド(PO)、つまり疎水性アルキレンオキシド鎖(Hydrophobic AO)である。
サンプル2の可塑剤として、ジイソノニルシクロヘキサン1,2-ジカルボキシレート(DINCH)を用いた。一例としてHexamol DINCH (BASF製)を用いた。可塑剤の含有量は50wt%とした。
このサンプル2も、疎水性ゲル状弾性体カプラの試作物となる。
【0057】
比較対象のコントロールであるサンプル3の組成は以下のものとした。
サンプル3の主剤であるポリウレタン用ポリオールは、2官能のポリエーテルポリオールで、アルキレンオキシド鎖(AO)が親水性アルキレンオキシド鎖(AO)であるエチレンオキシド(EO)と疎水性アルキレンオキシド鎖(AO)であるプロピレンオキシドが重合したポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールである。一例として、トーホーポリオールPB-3050(東邦化学工業株式会社製)を用いたものである。このトーホーポリオールPB-3050はEOとPOの比率が50:50のポリエーテルポリオールで両親媒性であり親水性のウレタンゲルである。
サンプル3の硬化剤であるポリイソシアネートは、HDIポリイソシアネートプレポリマーを用いた。アルキレンオキシド鎖(AO)が親水性アルキレンオキシドであるエチレンオキシド(EO)と疎水性アルキレンオキシド鎖(AO)であるプロピレンオキシドが重合したポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールとヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の反応によって得られたプレポリマーを用いたものである。一例として、H-6X35-2(第一工業製薬株式会社製)を用いたものである。このH-6X35-2はEOとPOの比率が50:50のポリエーテルポリオールとHDIを反応させて得られるプレポリマーで両親媒性であり親水性である。
サンプル3の可塑剤として、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TG)となっているものである。一例としてテトラグライム(丸善油化商事株式会社製)を用いたものである。可塑剤の含有量は55wt%とした。
このサンプル3は、親水性の大きなゲル状弾性体カプラの試作物となる。
【0058】
上記のように取り揃えたサンプル1、サンプル2、サンプル3を用いて物性比較検査を行った。
まず、疎水性-親水性の物性試験の結果を示す。
図8は、サンプル1、サンプル2、サンプル3における30日間の水浸漬実験の結果である。
図8に、水浸漬前質量(g)、24時間水浸漬後質量(g)、質量変化率(%)をまとめて示している。
【0059】
サンプル1の本発明の疎水性ゲル状弾性体では、24時間水浸漬の結果、
図8に示すように質量の変化はあまりなかった。水の吸水はなく疎水性を持つことが確認できた。
図9(a)は、サンプル1の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。膨潤、収縮などはなく、見た目もほとんど変化がなかった。優れた疎水性を持つことが確認できた。
【0060】
サンプル2の本発明の疎水性ゲル状弾性体では、24時間水浸漬の結果、
図8のリストに示すように質量の変化があまりなかった。この結果から水の吸水はなく疎水性を持つことが確認できた。
図9(b)は、サンプル2の24時間水浸漬前後の変化を示す写真図である。膨潤、収縮などはなく、見た目もほとんど変化がなかった。優れた疎水性を持つことが確認できた。
【0061】
サンプル3の従来技術における親水性ゲル状弾性体では、24時間水浸漬の結果、
図4のリストに示すように質量が大きく増加していた。水の吸水が大きく親水性を持つことが確認できた。
図9(c)は、サンプル3の24時間水浸漬後の状態を示す写真図である。全体が大きく膨潤しており、また、組成の劣化も大きく、24時間ですでに亀裂が入って脆くなっていることが確認できた。これは、従来技術の親水性素材が水を頻繁に用いる工業用途の弾性体カプラとして不適切である要因を如実に物語っている結果と言える。
【0062】
以上より、本発明の疎水性ゲル状弾性体では、疎水性の物性を持ち、水を吸収せずに膨潤などすることがないことが分かった。
この疎水性という物性によって、従来技術の親水性のゲル状弾性体カプラでは問題となっていた膨潤の問題が発生せず、超音波特性が変化したり使用による裂けや磨耗などの劣化が生じたりする点を防止できることが確認できた。
【0063】
本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラ100では、柔軟性、可撓性ある物性を持ち、一般の疎水性ゲル状弾性体に言われるような硬い物性ではないため、凹凸のある探傷対象物の探傷の検出にも適したものであることが確認できた。
【0064】
次に、本発明の疎水性ゲル弾性体カプラ100の超音波特性について検証してみた。
疎水性ポリウレタンゲル弾性体カプラの超音波特性である超音波の透過性は超音波の減衰係数の値で検証できる。
超音波の減衰測定において、超音波探傷器として、Smartor (Shantou Institute of Ultrasonic Instruments Co., Ltd製)を使用した。また、探触子はTGM5-10 (Shantou Institute of Ultrasonic Instruments Co., Ltd製)を使用した。使用した周波数は5MHzとした。測定時の室温は空調20℃に設定した室内で測定した。
【0065】
図10に示すように、本発明のサンプル1の超音波減衰は4.32dB/cm、本発明のサンプル2が4.79dB/cm、従来技術の親水性のサンプル3が3.43dB/cmであった。
測定の結果、従来技術における親水性ゲル状弾性体カプラであるサンプル3がもっとも超音波減衰が小さいが、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラであるサンプル1、サンプル2も同程度に超音波減衰が小さく優れているものであることが分かった。
以上より、本発明の疎水性ゲル弾性体カプラ100の超音波特性が優れたものであることが検証できた。
【0066】
以上のように、従来技術における親水性の弾性体カプラに比べて、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラの超音波特性の優位点が検証できたが、さらに引き続き、疎水性ゲル状弾性体カプラにおける可塑剤含有量の違いによる超音波特性としての音響インピーダンスと減衰係数の変化を調べた。
【0067】
図11は、疎水性ゲル状弾性体カプラにおける可塑剤含有量の違いによる超音波の音響インピーダンスと減衰係数の変化を示す図である。
図11に示すように、超音波の減衰は、可塑剤の含有量にも影響を受けることが分かった。
【0068】
まず、可塑剤の含有量については、可塑剤が0から80wt%の範囲では、可塑剤の含有量が多くなるほど超音波の減衰が小さくなることが分かった。サンプル1、2とも、可塑剤含有量が30wt%あれば超音波減衰特性が得られている。
サンプル1、2では可塑剤が50wt%で超音波減衰が十分に小さくなった。
【0069】
なお、上限については80wt%を超えるとウレタン樹脂の形状が安定しづらくなる可能性があるので80wt%程度までが適当であると考えられる。
以上まとめると、本発明の疎水性ゲル状弾性体カプラにおける可塑剤の含有量は0wt%から80wt%、好ましくは30wt%から80wt%、さらに好ましくは50wt%から80wt%の範囲が良い。
超音波走査エリア125は、この構成例では中央付近の超音波探触子220の直下付近を含む周回エリアである。つまり、タイヤドラム120aの回転により超音波探触子220の直下付近を通過する領域を含むエリアである。タイヤドラム120aにおける超音波走査エリア125の範囲は、超音波探触子220で発信する超音波が通過して探触対象物300の探傷箇所に反射したものが通過する領域を包含するエリアである。
超音波走査エリア125を形成する箇所はОH/NCOが大きくなっている。一方、超音波非走査エリア126を形成する箇所はОH/NCOが小さくなっている。このように、超音波走査エリア125の柔軟性が超音波非走査エリア126の柔軟性よりも大きく調整されている。
例えば、超音波走査エリア125における可塑剤の添加量は50~80wt%とし、超音波非走査エリア126における可塑剤の添加量は30wt%以上~50wt%未満とする。
この実施例2に示した疎水性ゲル状弾性体カプラ100aにおいて、超音波走査エリア125は十分に柔らかく探傷対象物300の表面の微少な凹凸に対しても追随できる。一方、超音波非走査エリア126はある程度の機械的な構造強度や剛性が得られ、タイヤ式の超音波探傷装置200に適した疎水性ゲル状弾性体カプラ100aとなる。
なお、超音波走査エリア125と超音波非走査エリア126との境界であるが、明瞭な境界があっても良いが、明確な境界ではなくグラデーションとなっていても良い。ポリウレタン用ポリオール成分とポリイソシアネート成分を有するポリウレタンポリイソシアネートプレポリマーよりゲル生成する際のOH/NCOをエリアごとに明瞭に調整するか、超音波走査エリア125を形成するエリアの中央付近にOH/NCOを大きく、超音波非走査エリア126を形成するエリア付近のOH/NCOを小さくすればグラデーションとなる。
このように、超音波探傷時の超音波の発射受信は実施例1と同様に実行され、超音波走査エリア125の物性は、探傷対象物300の探傷の実行に適した超音波減衰係数、音響インピーダンスを備えた物性であり、柔軟性に富んで探傷対象物300の表面の凹凸にも十分追随でき、水分への長期間の露出があっても膨潤も白濁もなく、本実施例2の疎水性ゲル状弾性体カプラ100aは音響カプラとして優秀である。さらに、超音波非走査エリア126を設けて剛性を持たせているので、超音波走査エリア125だけでは剛性が大きくは確保されていないというデメリットを補うことができる。
以上、本発明の超音波探傷装置用の疎水性ゲル状弾性体カプラの構成例における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。