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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141413
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ガス分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/16 20060101AFI20241003BHJP
   G01N 30/46 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N30/16 K
G01N30/46 A
G01N30/26 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053039
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芝本 繁明
(72)【発明者】
【氏名】盧 文剣
(57)【要約】
【課題】複数のカラムで分離されたガス成分を当該カラムの数よりも少ない検出装置で容易に検出できるようにする。
【解決手段】ガス分析システム(1)は、第1カラム(41)と、第2カラム(42)と、第1カラムの出口と第2カラムの出口とに接続される合流部(30)と、合流部から導入されるガス成分を検出する検出装置(50)と、第1カラムと合流部との間に配置された切替バルブ(V10)と、制御装置(100)とを備える。制御装置(100)は、切替バルブ(V10)の開閉状態を切り替えることによって、第2カラム(42)で分離されたガス成分の検出装置(50)への導入が完了するタイミングよりも、第1カラム(41)で分離されたガス成分の検出装置(50)への導入が開始されるタイミングを遅らせる遅延処理を実行する。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガスに含まれるガス成分を分離する第1カラムと、
試料ガスに含まれるガス成分を分離する第2カラムと、
前記第1カラムおよび前記第2カラムから導入されるガス成分を検出する検出装置と、
前記第1カラムから前記検出装置へのガス導入を切り替えるバルブと、
前記バルブの開閉状態を切り替えることによって、前記第2カラムで分離されたガス成分の前記検出装置への導入が完了するタイミングよりも、前記第1カラムで分離されたガス成分の前記検出装置への導入が開始されるタイミングを遅らせる遅延処理を実行する制御装置とを備える、ガス分析システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記遅延処理において、前記第2カラムで分離されたガス成分が前記検出装置に導入されている間、前記バルブを閉じて前記第1カラムで分離されるガス成分を前記第1カラム内に封じ込める、請求項1に記載のガス分析システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記遅延処理の実行後に、前記バルブを開いて前記第1カラムで分離されたガス成分を前記検出装置に導入させる、請求項2に記載のガス分析システム。
【請求項4】
前記バルブは、
内部へガスを導入するための流入口、および、前記流入口から導入されたガスを外部へ流出させるための流出口が形成された基台部と、
前記基台部に対向して配置され、弾性変形することによって前記流入口から前記流出口へのガスの流通と遮断とを切り替えるダイヤフラム部とを備える、請求項1~3のいずれかに記載のガス分析システム。
【請求項5】
前記第1カラムは、キャピラリカラムである、請求項4に記載のガス分析システム。
【請求項6】
前記第1カラムは、一次分離用のカラムであり、
前記第2カラムは、前記第1カラムで一次分離されたガス成分をさらに分離する二次分離用のカラムであり、
前記第1カラムおよび前記第2カラムの間に配置され、前記第1カラムおよび前記第2カラムを前記検出装置に対してこの順に直列に接続する直列状態と、前記第1カラムおよび前記第2カラムを前記検出装置に対して並列に接続する並列状態とに切替可能に構成された切替モジュールをさらに備え、
前記制御装置は、前記切替モジュールが並列状態である場合に前記遅延処理を実行する、請求項1~3のいずれかに記載のガス分析システム。
【請求項7】
前記第1カラムの出口と前記第2カラムの出口とに接続される合流部をさらに備え、
前記検出装置は、前記合流部から導入されるガス成分を検出する、請求項1に記載のガス分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスクロマトグラフィーを用いたガス分析システム(ガスクロマトグラフシステム)に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフィーは、分離カラムを用いてガス中の成分を分離することによってガス中の成分を検出する分析手法である。ガスクロマトグラフィーの分析対象となる成分は多岐にわたることから、従来、膨大な種類のカラムが開発されてきた。
【0003】
たとえば、従来のガス分析システムのなかには、ガス成分を検出する検出装置と複数の分離カラムとの接続パターンを、マルチポート切替バルブを用いて切り替えるように構成されたガス分析システムが存在する(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】アジレント・テクノロジー株式会社 アプリケーション「リファイナリガス(RGA)のGC分析」5989-7439JAJP
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガス分析システムでは、低コスト化、小型化および設計の自由度を考慮して、複数のカラムで分離されたガス成分を共通の検出装置で検出することが望ましい。複数のカラムで分離されたガス成分を共通の検出装置で検出するためには、複数のカラムで分離されたガス成分を互いに異なるタイミングで検出装置に導入させるための調整が必要である。この調整を容易に行うニーズがある。
【0006】
本開示は上記の問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、複数のカラムで分離されたガス成分を当該カラムの数よりも少ない検出装置で検出できるガス分析システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るガス分析システムは、試料ガスに含まれるガス成分を分離する第1カラムと、試料ガスに含まれるガス成分を分離する第2カラムと、第1カラムおよび第2カラムから導入されるガス成分を検出する検出装置と、第1カラムから検出装置へのガス導入を切り替えるバルブと、バルブの開閉状態を切り替えることによって、第2カラムで分離されたガス成分の検出装置への導入が完了するタイミングよりも、第1カラムで分離されたガス成分の検出装置への導入が開始されるタイミングを遅らせる遅延処理を実行する制御装置とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、複数のカラムで分離されたガス成分を当該カラムの数よりも少ない検出装置で容易に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ガス分析システムの全体構成の一例を模式的に示す図である。
図2】マイクロバルブが開状態であるときのマイクロバルブの断面図である。
図3】マイクロバルブが閉状態であるときのマイクロバルブの断面図である。
図4】第1動作パターン中の切替バルブの状態と各ガスの流れを示す図である。
図5】第2動作パターン中の切替バルブの状態と各ガスの流れを示す図である。
図6】第3動作パターン中の切替バルブの状態と各ガスの流れを示す図である。
図7】第4動作パターン中の切替バルブの状態と各ガスの流れを示す図である。
図8】第5動作パターン中の切替バルブの状態と各ガスの流れを示す図である。
図9】第6動作パターン中の切替バルブの状態と各ガスの流れを示す図である。
図10】第7動作パターン中の切替バルブの状態と各ガスの流れを示す図である。
図11】遅延処理中の成分S3の状態を模式的に示す図である。
図12】第8動作パターン中の切替バルブの状態と各ガスの流れを示す図である。
図13】遅延処理の解除後の成分S3の状態を模式的に示す図である。
図14】ガス分析システムによる分析結果の一例を示す図である。
図15】パックドカラム内にサンプル成分を封止した場合の拡散イメージの一例を示す図である。
図16】キャピラリカラム内にサンプル成分を封止した場合の拡散イメージの一例を示す図である。
図17】ガス分析システムの流路構成の第1変形例を模式的に示す図である。
図18】ガス分析システムの流路構成の第2変形例を模式的に示す図である。
図19】ガス分析システムの流路構成の第3変形例を模式的に示す図である。
図20】ガス分析システムの流路構成の第4変形例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さないものとする。
【0011】
[システムの全体構成]
図1は、本実施の形態によるガス分析システム1の全体構成の一例を模式的に示す図である。
【0012】
ガス分析システム1は、キャリアガス供給装置11~13と、サンプルタンク20と、ポンプ21と、ベント23と、サンプラモジュールM1と、切替モジュールM2と、カラム41~44と、検出装置50と、入力装置60と、表示装置70と、駆動装置80と、制御装置100とを備える。
【0013】
キャリアガス供給装置11~13の各々は、キャリアガスと呼ばれる移動相を予め定められた圧力に調整して出力する。キャリアガスとしては、たとえばヘリウムガスが用いられる。キャリアガスの圧力は、図示しない電子式の自動圧力コントローラ(APC:Automatic Pressure Controller)によって調整される。
【0014】
サンプルタンク20は、分析対象である試料ガスを貯留する装置である。サンプルタンク20は、サンプラモジュールM1のコネクタC1に接続される。ユーザは、サンプラモジュールM1のコネクタC1に接続されるサンプルタンク20を交換することによって、ガス分析システム1で分析される試料ガスを変更することができる。
【0015】
ポンプ21は、サンプラモジュールM1の流路のエアを吸引してサンプラモジュールM1の流路内を負圧にするための吸引ポンプである。なお、ここでいう負圧とは、大気圧を基準として、大気圧よりも低い圧力を意味する。
【0016】
ベント23は、サンプラモジュールM1の流路を外部に連通して、サンプラモジュールM1の流路内のガスを外部に排出する。
【0017】
サンプラモジュールM1および切替モジュールM2は、サンプルタンク20、カラム41~44および検出装置50に流体接続される流路上に設けられる。なお、ここでいう流体接続とは、流体によって、他の部品を介することなく直接的に、または、他の部品を介して間接的に、接続されることを意味する。
【0018】
サンプラモジュールM1および切替モジュールM2の各々は、流路パターンが形成された流路板(流路部材)に複数の切替バルブを実装することによって形成されている。
【0019】
各モジュールM1,M2には、外部機器を接続するための複数のコネクタ(インターフェース)が設けられる。各モジュールM1,M2に形成された流路は、これらのコネクタを介して外部機器に接続される。具体的には、サンプラモジュールM1には、コネクタC1~C6が設けられる。コネクタC1~C3には、サンプルタンク20、ポンプ21、ベント23がそれぞれ接続される。コネクタC4には、キャリアガス供給装置11およびカラム43が接続される。コネクタC5には、キャリアガス供給装置12が接続される。コネクタC6には、カラム41が接続される。切替モジュールM2には、コネクタC7~C10が設けられる。コネクタC7~C10には、それぞれカラム41~44が接続される。
【0020】
サンプラモジュールM1は、試料ガスを一定量ずつカラム41に供給するための装置である。サンプラモジュールM1は、コネクタC1~C6と、一定容積のサンプルループPLと、切替バルブV1~V6と、これらを接続する複数の流路とを備える。サンプラモジュールM1のコネクタC1~C6には、上述のように、それぞれ、サンプルタンク20、ポンプ21、ベント23、キャリアガス供給装置11、キャリアガス供給装置12、およびカラム41が接続される。
【0021】
切替バルブV1,V4は、コネクタC1からコネクタC4までの流路に、この順に配置される。切替バルブV3,V5,V6は、コネクタC2からコネクタC5までの流路に、この順に配置される。切替バルブV2は、切替バルブV5,V6間の流路とコネクタC3とを接続する流路に配置される。
【0022】
サンプルループPLは、切替バルブV1,V4間の流路と切替バルブV3,V5間の流路とを接続する流路に配置される。サンプルループPLは、サンプルタンク20から導入される試料ガスを、カラム41に供給するために一時的に保持する機能を有する。切替バルブV1~V6の制御によってサンプルループPLの接続先が適宜切り替えられることによって、サンプラモジュールM1は、サンプルタンク20から供給される試料ガスをサンプルループPLに一旦充填し、その後にサンプルループPL内に充填された試料ガスをカラム41に供給する。
【0023】
切替モジュールM2は、コネクタC7~C10と、切替バルブV7~V10と、これらを接続する複数の流路とを備える。切替モジュールM2のコネクタC7~C10には、上述のように、カラム41~44がそれぞれ接続される。
【0024】
切替バルブV9は、コネクタC7とコネクタC8との間の流路に配置される。切替バルブV8は、コネクタC9とコネクタC10との間の流路に配置される。
【0025】
切替バルブV7は、コネクタC9と切替バルブV8との間の流路とコネクタC8と切替バルブV9との間の流路とを接続する流路に配置される。切替バルブV10は、コネクタC7と切替バルブV9との間の流路とコネクタC10と切替バルブV8との間の流路とを接続する流路に配置される。
【0026】
切替バルブV1~V10は、駆動装置80によって開状態および閉状態のどちらかに切り替えられる。駆動装置80は、制御装置100からの指令に応じて、切替バルブV1~V10の状態を切り替える。言い換えれば、切替バルブV1~V10の状態は、制御装置100によって制御される。
【0027】
カラム43,44は、試料ガスの各種成分を分離する能力のない、圧力調整用の抵抗管である。
【0028】
カラム41,42は、供給された試料ガス中の各種成分を分離する。具体的には、カラム41,42は、供給された試料ガスがキャリアガスの流れに乗って各カラム中を通過する間に、当該試料ガス中に含まれる各種成分を時間方向に分離して出力する。本実施の形態においては、カラム41は、一次分離用のカラムである。カラム42は、カラム41によって一次分離された試料ガスの各種成分をさらに分離する二次分離用のカラムである。
【0029】
カラム42の出口は、合流部30に接続される。カラム41の出口は、切替モジュールM2および抵抗管(カラム44)を介して合流部30に接続される。切替モジュールM2は、切替バルブV8,V9が開状態とされ、切替バルブV7,V10が閉状態とされることで、カラム41,42を合流部30に対してこの順に直列に接続する「直列状態」となる(後述の図4ご参照)。一方、切替モジュールM2は、切替バルブV7,V10が開状態とされ、切替バルブV8,V9が閉状態とされることで、カラム41,42を合流部30に対して並列に接続する「並列状態」となる(後述の図9ご参照)。
【0030】
本実施の形態においては、カラム41,42として、パックドカラム(内部に吸収剤が充填されたカラム)ではなく、パックドカラムよりも内径の小さいキャピラリカラムが採用されている。
【0031】
検出装置50は、合流部30に接続され、合流部30から導入された各種のガス成分を検出する。検出装置50として、たとえば、吸光光度検出器(PDA(Photo Diode Array)検出器)、蛍光検出器、示差屈折率検出器、伝導度検出器、あるいは質量分析計などが用いられる。検出装置50による検出結果を示すデータは、制御装置100内の記憶部120に記憶され、ユーザからの要求により表示装置70に表示される。
【0032】
入力装置60は、たとえばキーボードあるいはマウスなどのポインティングデバイスであり、ユーザからの要求あるいは指令を受け付ける。入力装置60に入力されたユーザからの要求あるいは指令は、制御装置100に送られる。
【0033】
表示装置70は、たとえば液晶(LCD:Liquid Crystal Display)パネルで構成され、ユーザに情報を表示する。ユーザインターフェースとしてタッチパネルが用いられる場合には、入力装置60と表示装置70とが一体的に形成される。
【0034】
制御装置100は、演算部110、記憶部120、入出力インターフェースなどを含む。制御装置100は、キャリアガス供給装置11~13、ポンプ21、切替バルブV1~V10(駆動装置80)などを含めたガス分析システム1全体を統括的に制御する。制御装置100は、ユーザインターフェースである入力装置60および表示装置70と、有線あるいは無線で接続されている。
【0035】
演算部110は、演算装置(Central Processing Unit)を有し、記憶部120に記憶された情報を用いて切替バルブV1~V10をそれぞれ制御するための制御信号を生成し、生成した制御信号を出力インターフェースを介して切替バルブV1~V10(駆動装置80)に出力する。
【0036】
[切替バルブV1~V10の構成]
図2および図3を用いて、本実施の形態による切替バルブV1~V10の構成の一例について説明する。なお、切替バルブV1~V10の基本構成は同じであるため、図2および図3においては、切替バルブV1~V10を区別することなくマイクロバルブ200として説明する。
【0037】
図2は、マイクロバルブ200が開状態であるときのマイクロバルブ200の断面図である。図3は、マイクロバルブ200が閉状態であるときのマイクロバルブ200の断面図である。
【0038】
マイクロバルブ200は、基台層220と、ダイヤフラム層230と、カバー層240とを含み、これらがこの順で積層された積層構造を有している。基台層220、ダイヤフラム層230、およびカバー層240の各層は、所望の強度および柔軟性を実現するために、たとえばシリコンで形成されており、MEMS(Micro Electric Mechanical Systems)技術により微細加工が施されている。
【0039】
マイクロバルブ200の厚み(積層方向の寸法)は約1~2mmである。なお、以下では、便宜的に、基台層220からカバー層240に向かう方向を上方向、カバー層240から基台層220に向かう方向を下方向として説明する場合がある。
【0040】
基台層220は、マイクロバルブ200の最下層に配置される。基台層220には、凹部221と、基台層220を貫通する開口部222~224が形成されている。凹部221は、基台層220を上方向から平面視した場合に略円形状を有しており、基台層220の略中心付近に形成されている。凹部221は、基台層220の上面側から下面側に向かって窪んでいる。基台層220の厚みは約150μmである。また、凹部221の深さは5~20μmであり、好ましくは約10μmである。
【0041】
開口部223,224は、凹部221の底部225に形成されている。後述するように、開口部223,224は、試料ガスの流入口および流出口をそれぞれ形成する。開口部222は、基台層220の凹部221の周辺の外縁部に、凹部221とは離隔して形成されている。開口部222は、マイクロバルブ200の制御用流体(ニューマチック流体)の供給口を形成する。
【0042】
ダイヤフラム層230は、基台層220の上面側に、基台層220に対向して配置される。ダイヤフラム層230は、ダイヤフラム層230を貫通する開口部232と、剛体部234と、剛体部234の周囲に設けられた可撓部233とを有する。可撓部233は、剛体部234の厚みよりも薄く、可撓性を有している。可撓部233が弾性変形することによって、剛体部234が上下方向に変位する。
【0043】
開口部232は、可撓部233および剛体部234から離隔して形成されている。開口部232は、上方向から平面視した場合に、基台層220の開口部222と重なる位置に形成されており、開口部222とともにニューマチック流体の供給口を形成する。
【0044】
マイクロバルブ200は、流路部材(流路板)250に接続されて使用される。流路部材250には、基台層220の開口部222~224にそれぞれ対応する位置に、開口部252~254が形成されている。流路部材250の開口部252、基台層220の開口部222、およびダイヤフラム層230の開口部232は連通しており、ニューマチック流体の供給口262を形成している。ニューマチック流体は、供給口262を通って、カバー層240の凹部241へと供給される。
【0045】
流路部材250の開口部253は、基台層220の開口部223と連通しており、試料ガスの流入口263を形成する。また、流路部材250の開口部254は、基台層220の開口部224と連通しており、試料ガスの流出口264を形成する。
【0046】
マイクロバルブ200は、流路部材250の供給口262にニューマチック流体が供給されていない初期状態(ノーマル状態)において開状態となり、流路部材250の供給口262にニューマチック流体が供給されることによって閉状態となる、いわゆるノーマルオープンタイプのバルブである。
【0047】
流路部材250の供給口262にニューマチック流体が供給されていない場合、図2に示すように、剛体部234が基台層220における凹部221の底部225から離れた状態で保持されるため、試料ガスの流入口263と流出口264とが連通される開状態(オープン状態)となる。
【0048】
流路部材250の供給口262にニューマチック流体が供給されると、ニューマチック流体に押されて剛体部234が下方向に変位することによって、剛体部234の下面が基台層220における凹部221の底部225と密着した状態となるため、試料ガスの流入口263と流出口264とが遮断される閉状態(クローズ状態)となる。なお、剛体部234をニューマチック流体で駆動(変位)させることに代えて、剛体部234をピエゾ素子などを用いて電気的に駆動(変位)させるようにしてもよい。
【0049】
[システムの動作パターン]
ガス分析システム1は、以下の第1~第8の動作パターンをこの順に切り替えることによって、カラム41,42で分離されたガス成分を1つの検出装置50で検出する。以下では、主に、ガス分析システム1の分析対象成分が、HおよびHe以外の無機ガス(N、O2、CO、CO等)、および一部の低級炭化水素(CH、C、C、C、C、C等)である例について説明する。
【0050】
(第1動作パターン) サンプル導入
サンプル導入は、一定量の試料ガスをサンプリングする動作パターンである。
【0051】
図4は、第1動作パターン(サンプル導入)中における切替バルブV1~V10の状態と各ガスの流れを示す図である。なお、図4において、×印が付された切替バルブが閉状態であり、×印が付されていない切替バルブが開状態である。また、図4において、黒塗り矢印がキャリアガスの流れを示し、斜線矢印が試料ガス(サンプル)の流れを示す。以降の図5~10,12においても同様である。
【0052】
図4に示すように、第1動作パターン(サンプル導入)では、制御装置100は、切替バルブV1,V3,V6,V8,V9を開き、その他の切替バルブV2,V4,V5,V7,V10を閉じる。また、制御装置100は、ポンプ21を作動する。これにより、斜線矢印に示すように、サンプルタンク20からサンプルループPL内に試料ガスが充填される。
【0053】
また、制御装置100は、キャリアガス供給装置11~13を作動する。これにより、黒塗り矢印に示すように、キャリアガス供給装置11からのキャリアガスがカラム43,44を経由して合流部30に供給され、キャリアガス供給装置13からのキャリアガスがカラム44を経由して合流部30に供給され、キャリアガス供給装置12からのキャリアガスがカラム41,42を経由して合流部30に供給される。
【0054】
その後、ガス分析システム1の動作パターンは、次の第2動作パターン(圧力平衡)に切り替えられる。
【0055】
(第2動作パターン) 圧力平衡
図5は、第2動作パターン(圧力平衡)における切替バルブV1~V10の状態と各ガスの流れを示す図である。図5に示すように、第2動作パターン(圧力平衡)では、制御装置100は、切替バルブV3,V6,V8,V9を開き、その他の切替バルブV1,V2,V4,V5,V7,V10を閉じる。また、制御装置100は、キャリアガス供給装置11~13を作動し、ポンプ21を停止する。
【0056】
これにより、サンプルループPL内の圧力がほぼ大気圧に安定する平衡状態となる。これにより、サンプルループPLに保持される試料ガス量を一定量に安定させることができる。
【0057】
その後、ガス分析システム1の動作パターンは、次の第3動作パターン(サンプルガス注入)に切り替えられる。
【0058】
(第3動作パターン) サンプルガス注入
図6は、第3動作パターン(サンプルガス注入)における切替バルブV1~V10の状態と各ガスの流れを示す図である。図6に示すように、第3動作パターン(サンプルガス注入)では、制御装置100は、切替バルブV4,V5,V8,V9を開き、その他の切替バルブV1~V3,V6,V7,V10を閉じる。また、制御装置100は、キャリアガス供給装置11,13を作動し、キャリアガス供給装置12およびポンプ21を停止する。
【0059】
これにより、キャリアガス供給装置11からのキャリアガスが切替バルブV4を通ってサンプルループPLに供給され、サンプルループPLに充填されていた試料ガスがキャリアガスによって押し出されて切替バルブV5を通ってカラム41に供給される。
【0060】
その後、ガス分析システム1の動作パターンは、次の第4動作パターン(一次分離)に切り替えられる。
【0061】
(第4動作パターン) 一次分離
図7は、第4動作パターン(一次分離)における切替バルブV1~V10の状態と各ガスの流れを示す図である。図7に示すように、第4動作パターン(一次分離)では、制御装置100は、切替バルブV6,V8,V9を開き、その他の切替バルブV1~V5,V7,V10を閉じる。また、制御装置100は、キャリアガス供給装置11~13を作動し、ポンプ21を停止する。
【0062】
これにより、カラム41において、試料ガスの一次分離が行なわれる。図7には、カラム41に供給された試料ガスが、カラム41による一次分離によって、早く溶出する成分(成分群)S1と、成分S1よりも溶出の遅れる成分(成分群)S2と、成分S2よりも溶出の遅れる成分(成分群)S3とに分離される例が示されている。なお、本実施の形態においては、試料ガス中に含まれる分析対象成分(N、O2、CO、CO、CH、C、C、C、C、C)のうち、N、O2、CO、CHが成分S1に含まれ、CO、C、Cが成分S2に含まれ、C、C、Cが成分S3に含まれるように構成されている。
【0063】
その後、ガス分析システム1の動作パターンは、次の第5動作パターン(二次分離)に切り替えられる。
【0064】
(第5動作パターン) 二次分離
図8は、第5動作パターン(二次分離)における切替バルブV1~V10の状態と各ガスの流れを示す図である。図8に示すように、第5動作パターン(二次分離)では、第4動作パターン(一次分離)の状態が継続される。すなわち、第5動作パターン(二次分離)では、制御装置100は、切替バルブV6,V8,V9を開き、その他の切替バルブV1~V5,V7,V10を閉じる。また、制御装置100は、キャリアガス供給装置11~13を作動し、ポンプ21を停止する。
【0065】
これにより、カラム41で一次分離された成分S1~S3のうちの早く溶出する成分S1がカラム42に供給され、カラム42において二次分離される。
【0066】
その後、ガス分析システム1の動作パターンは、次の第6動作パターン(S2検出)に切り替えられる。
【0067】
(第6動作パターン) S2検出
上述の第1~第5動作パターンにおいては、切替モジュールM2が上述の直列状態(カラム41,42を合流部30に対して直列に接続する状態)に制御される。
【0068】
これに対し、第6動作パターン(S2検出)においては、カラム42で二次分離された成分S1よりも先にカラム41で分離された成分S2を検出するために、切替モジュールM2が上述の並列状態(カラム41,42を合流部30に対して並列に接続する状態)に切り替えられる。
【0069】
図9は、第6動作パターン(S2検出)における切替バルブV1~V10の状態と各ガスの流れを示す図である。図9に示すように、第6動作パターン(S2検出)では、制御装置100は、切替バルブV6,V7,V10を開き、その他の切替バルブV1~V5,V8,V9を閉じる。また、制御装置100は、キャリアガス供給装置11~13を作動し、ポンプ21を停止する。
【0070】
これにより、切替モジュールM2が上述の並列状態となり、カラム42から成分S1が溶出する前に、カラム41から溶出した成分S2が合流部30を通って検出装置50に導入される。これにより、成分S1よりも先に成分S2が検出される。
【0071】
その後、ガス分析システム1の動作パターンは、次の第7動作パターン(S1検出)に切り替えられる。
【0072】
(第7動作パターン) S1検出
第7動作パターン(S1検出)では、成分S1を検出するために、カラム42から溶出する成分S1を検出装置50に導入する。
【0073】
この際、仮に切替モジュールM2を並列状態のまま維持すると、カラム42から検出装置50に成分S1が導入さるのと同時に、カラム41から検出装置50に成分S3も導入されてしまい、成分S1のピークと成分S3のピークとが重複する不具合が生じる可能性がある。
【0074】
このようなピーク重複を回避するために、第7動作パターン(S1検出)では、カラム42から検出装置50への成分S1の導入が完了するタイミングよりも、カラム41から検出装置50への成分S3の導入が開始されるタイミングを遅らせる「遅延処理」が実行される。遅延処理は、予め定められた遅延時間に基づいて実行してもよい。具体的には、制御装置100は、遅延処理において、カラム41の出口側の設けられる切替バルブV10を遅延時間だけ閉じることで、成分S3を一時的にカラム41内に封じ込める。本実施の形態において、カラム41は本開示の「第1カラム」の一例に相当し、カラム42は本開示の「第2カラム」の一例に相当する。
【0075】
なお、遅延処理は、カラム42から検出装置50への成分S1の導入が完了するタイミングを検出することにより実行してもよい。当該検出は、例えばクロマトグラムを解析することにより行ってもよい。
【0076】
図10は、第7動作パターン(S1検出)における切替バルブV1~V10の状態と各ガスの流れを示す図である。図10に示すように、第7動作パターン(S1検出)では、制御装置100は、切替バルブV7を開き、その他の切替バルブV1~V6,V8~V10を閉じる。また、制御装置100は、キャリアガス供給装置11,13を作動し、キャリアガス供給装置12およびポンプ21を停止する。
【0077】
これにより、カラム42から溶出した成分S1が合流部30を通って検出装置50に導入されて検出される。さらに、成分S1の検出装置50への導入が完了するまでは、成分S3がカラム41内に封じ込められる。
【0078】
図11は、遅延処理中の成分S3の状態を模式的に示す図である。図11に示すように、遅延処理中においては、カラム41の出口側に設けられる切替バルブV10が閉じられることによって、移動相(キャリアガス)および成分S3(C、C、C)が静止した状態でカラム41内に一時的に封じ込められる。これにより、カラム41から成分S3が溶出するタイミングを遅らせることができる。
【0079】
なお、本実施の形態においては遅延処理中にカラム41の出口側の切替バルブV10だけでなく入口側の切替バルブV6も閉じられるが、遅延処理中に入口側の切替バルブV6は開かれていてもよい。また、本実施の形態においては遅延処理中にキャリアガス供給装置12が停止されるが、遅延処理中にキャリアガス供給装置12は作動されていてもよい。遅延処理中において、キャリアガス供給装置12が作動され、かつ入口側の切替バルブV6が開かれていても、出口側の切替バルブV10が閉じられているため、移動相および成分S3をカラム41内に一時的に封じ込めておくことができる。
【0080】
その後、ガス分析システム1の動作パターンは、次の第8動作パターン(S3検出)に切り替えられる。
【0081】
(第8動作パターン) S3検出
第8動作パターン(S3検出)では、成分S3を検出するために、上述の遅延処理を解除して成分S3を検出装置50に導入する。
【0082】
図12は、第8動作パターン(S3検出)における切替バルブV1~V10の状態と各ガスの流れを示す図である。図12に示すように、第8動作パターン(S3検出)では、制御装置100は、切替バルブV6,V7,V10を開き、その他の切替バルブV1~V5,V8,V9を閉じる。また、制御装置100は、キャリアガス供給装置11~13を作動し、ポンプ21を停止する。
【0083】
これにより、上述の遅延処理が解除され、カラム41で分離された成分S3が合流部30を通って検出装置50に導入されて検出される。
【0084】
図13は、遅延処理の解除後の成分S3の状態を模式的に示す図である。図13に示すように、遅延処理の解除後においては、カラム41の入口側の切替バルブV6および出口側の切替バルブV10が開かれ、キャリアガス供給装置12からのキャリアガスがカラム41に供給される。これにより、カラム41で分離された成分S3(C、C、C)がキャリアガスによって押し出されて検出装置50に導入される。
【0085】
図14は、本実施の形態によるガス分析システム1による分析結果の一例を示す図である。図14には、試料ガス中に、N、CO、CO、CH、C、C、C、C、Cが含まれる場合の分析結果が示されている。
【0086】
図14の上段には、本開示に対する比較例の分析結果として、上述の遅延処理(成分S3を一時的にカラム41内に封じ込めておく処理)を行なわなかった場合の分析結果が示される。図14の下段には、本開示による分析結果として、上述の遅延処理を行なった場合の分析結果が示される。
【0087】
本実施の形態によるガス分析システム1においては、上述のように、カラム41から溶出した成分S2,S3と、カラム42から溶出した成分S1とが、成分S2,S1,S3の順に検出装置50に導入される。なお、成分S1にはN、CH、COが含まれ、成分S2にはCO、C、Cが含まれ、成分S3にはC、C、Cが含まれる。
【0088】
この際、上述の遅延処理を行なわない比較例においては、図14の上段に示すように、カラム42で分離された成分S1(N、CH、CO)のうちの最後に溶出するCOのピークと、カラム41で分離された成分S3(C、C、C)のうちの最初に溶出するCのピークとが重複してしまっている。
【0089】
これに対し、本開示においては、上述の遅延処理によって成分S3の溶出タイミングを遅らせることで、図14の下段に示すように、上述のピーク重複が回避されている。
【0090】
遅延処理を行なわない比較例(従来相当)の場合、上述のようなピーク重複を回避するためには、熟練した作業者による長時間の煩雑な調整作業を要していた。たとえば、パックドカラムの場合は内部の充填材の量を微調整することで、キャピラリカラムの場合はカットあるいは交換によってカラムの長さを微調整することで、それぞれ溶出時間を所望の時間に調整することができる。しかしながら、どちらのタイプのカラムにおいても、温度および圧力の調整を要し、さらに溶出時間をその都度確認しながら調整作業を繰り返す必要があるため、非常に煩雑である。特に、パックドカラムの場合には、配管構造は非常に複雑であり、熟練した作業者であっても、配管の分解・組立に非常に長い時間を要する。そのため、調整作業に多大な時間とコストが必要であった。
【0091】
これに対し、本開示においては、ハードウェアの変更を必要とせず、カラム41と合流部30との間の切替バルブV10を閉じるという簡易な処理によって、成分S3の溶出タイミングを遅らせることができる。これにより、熟練作業者が煩雑な調整作業を行なわなくても、上述のピーク重複を容易に回避することができる。
【0092】
さらに、本実施の形態においては、切替バルブV10が、上述の図2図3に示したような構造を有するマイクロバルブ200によって構成される。これにより、切替バルブV10内部のデッドボリュームを非常に小さくすることができる。そのため、切替バルブV10を閉じた際に、カラム41内の成分S3がカラム長さ方向に拡散する幅を小さくすることができる。
【0093】
具体的には、仮に、切替バルブV10をデッドボリュームが大きいマルチポート切替バルブで構成したとすると、切替バルブV10内のデッドボリュームが大きいために、切替バルブV10を閉じてカラム41内のキャリアガスを静止させたとしても、カラム41内の成分S3がカラム41内でカラム長さ方向へ拡散し易くなり、その結果、拡散によるピークバンド幅の増大を招くことが懸念される。しかしながら、本実施の形態においては、切替バルブV10をデッドボリュームの非常に小さいマイクロバルブとすることで、切替バルブV10を閉じた際にカラム41内の成分S3がカラム長さ方向に拡散する幅を小さくすることができる。これにより、拡散によるピークバンド幅の増大を抑制することができる。
【0094】
さらに、本実施の形態においては、カラム41が、パックドカラムよりも内径の小さいキャピラリカラムによって構成される。そのため、カラム41をパックドカラムとする場合に比べて、拡散によるピークバンド幅の増大をより適切に抑制することができる。
【0095】
具体的には、パックドカラムは、内径が比較的太く、カラム内のガス成分が占めるバンド幅に対してカラム内径が大きくなるため、拡散がピークバンド幅の増大に与える影響が大きくなってしまう。
【0096】
図15は、パックドカラム内にサンプル成分を封止した場合の拡散イメージの一例を示す図である。図15に示す例では、カラム内でサンプル成分が占めるバンド幅である約1mに対して、カラム内径が3mmと大きい。さらに、パックドカラムでは、サンプル成分が内部の充填材の隙間で形成される多数の経路を通って分散する。そのため、サンプル成分の拡散幅が大きくなる傾向にある。
【0097】
これに対し、キャピラリカラムは、内径が比較的細く、カラム内のサンプル成分が占めるバンド幅に対してカラム内径が非常に小さいため、拡散がピークバンド幅の増大に与える影響が非常に小さい。
【0098】
図16は、キャピラリカラム内にサンプル成分を封止した場合の拡散イメージの一例を示す図である。図16に示す例では、カラム内でサンプル成分が占めるバンド幅である約1.5mに対して、カラム内径が0.53mmと非常に小さい。そのため、拡散によるピーク幅増大量がサンプル成分が占めるバンド幅全体に比べて非常に小さく無視できるレベルとなるため、拡散によってピーク形状を悪化させることなく分離性能を維持できる。
【0099】
したがって、カラム41をパックドカラムではなくキャピラリカラムとすることで、拡散によるピークバンド幅の増大をより適切に抑制することができる。この点は図14に示す波形にも示されている。具体的には、図14に示される、遅延処理を行なわない比較例のC、Cの波形と、遅延処理を行なう本開示のC、Cの波形とを比較すると、両者のピーク面積および形状は変化しておらず、ほぼ同じである。これは、遅延処理でカラム41内に成分S3を封じ込めた際にカラム41内で成分S3拡散することによるピーク幅の増大、あるいは流路の切り換えによるサンプルロスが生じていないことを示すものである。
【0100】
以上のように、本実施の形態によるガス分析システム1によれば、カラム41で分離されたガス成分とカラム42で分離されたガス成分とが、合流部30を通って共通の検出装置50に導入される。そのため、カラム41で分離されたガス成分とカラム42で分離されたガス成分とがそれぞれ別々の検出装置に導入される場合に比べて、検出装置の数を少なくすることができる。
【0101】
さらに、本実施の形態によるガス分析システム1においては、カラム41と合流部30との間に切替バルブV10が配置され、この切替バルブV10の開閉状態を切り替えるという簡易な処理である上述の「遅延処理」を制御装置100が行なうことによって、カラム42で分離されたガス成分の検出装置50への導入が完了するタイミングよりも、カラム41で分離されたガス成分の検出装置50への導入が開始されるタイミングを遅らせることができる。これにより、熟練作業者が煩雑な調整作業を行なわなくても、カラム42で分離されたガス成分の検出タイミングと、カラム41で分離されたガス成分の検出タイミングとの重複を容易に回避することができる。
【0102】
<システム構成の変形例>
上述の実施の形態によるガス分析システム1は、試料ガスを一定量ずつカラム41に供給するためのサンプラモジュールM1、および、カラム41,42と合流部30との接続状態を切り替える切替モジュールM2などの複雑な流路構成を備える。
【0103】
しかしながら、本開示のガス分析システムの流路構成は、少なくとも、各々がガス成分を分離する第1カラムおよび第2カラムと、第1カラムの出口と第2カラムの出口とに接続される合流部と、第1カラムと合流部との間に配置された切替バルブとを備えていればよく、必ずしも上述のサンプラモジュールM1あるいは切替モジュールM2のような複雑な機構を備えていなくてもよい。
【0104】
図17は、ガス分析システムの流路構成の第1の変形例を模式的に示す図である。図17に示す流路構成においては、カラム41,42の入口が分流部35を介して1つの試料注入口IPに接続され、カラム41,42の出口が合流部30を介して検出装置50に接続される。さらに、カラム41の入口側および出口側にそれぞれ切替バルブV21,V23が配置され、カラム42の入口側および出口側にそれぞれ切替バルブV22,V24が配置されている。
【0105】
図18は、ガス分析システムの流路構成の第2の変形例を模式的に示す図である。図18に示す流路構成は、図17に示す流路構成から、カラム41,42の入口側の切替バルブV21,V22を取り除いたものである。
【0106】
図19は、ガス分析システムの流路構成の第3の変形例を模式的に示す図である。図19に示す流路構成においては、カラム41,42の入口が2つの試料注入口IP1,IP2にそれぞれ別々に接続され、カラム41,42の出口が合流部30を介して検出装置50に接続される。さらに、カラム41の入口側および出口側にそれぞれ切替バルブV21,V23が配置され、カラム42の入口側および出口側にそれぞれ切替バルブV22,V24が配置されている。なお、2つの試料注入口IP1,IP2には、同じ試料ガスが注入されていもよいし、全く異なる試料ガスが注入されてもよい。言い換えれば、カラム42によって分離される試料ガスは、カラム41によって分離される試料ガスと同じ試料ガスであってもよいし、カラム41によって分離される試料ガスとは全く異なる試料ガスであってもよい。
【0107】
図20は、ガス分析システムの流路構成の第4の変形例を模式的に示す図である。図20に示す流路構成は、図19に示す流路構成から、カラム41,42の入口側の切替バルブV21,V22を取り除いたものである。
【0108】
本開示のガス分析システムの流路構成は、図17図20のいずれかに示す流路構成であってもよい。すなわち、図17図20のいずれかに示す流路構成において、カラム41の出口側に配置された切替バルブV23に対して上述の遅延処理を行なうことで、熟練作業者が煩雑な調整作業を行なわなくても、カラム42で分離されたガス成分の検出タイミングと、カラム41で分離されたガス成分の検出タイミングとの重複を容易に回避することができる。
【0109】
[態様]
上述した実施の形態およびその変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0110】
(第1項) 一態様に係るガス分析システムは、試料ガスに含まれるガス成分を分離する第1カラムと、試料ガスに含まれるガス成分を分離する第2カラムと、第1カラムおよび第2カラムから導入されるガス成分を検出する検出装置と、第1カラムから検出装置へのガス導入を切り替えるバルブと、バルブの開閉状態を切り替えることによって、第2カラムで分離されたガス成分の検出装置への導入が完了するタイミングよりも、第1カラムで分離されたガス成分の検出装置への導入が開始されるタイミングを遅らせる遅延処理を実行する制御装置とを備える。
【0111】
第1項に記載のガス分析システムによれば、第1カラムで分離されたガス成分と第2カラムで分離されたガス成分とが、共通の検出装置に導入される。そのため、第1カラムで分離されたガス成分と第2カラムで分離されたガス成分とがそれぞれ別々の検出装置に導入される場合に比べて、検出装置の数を少なくすることができる。
【0112】
このような構成において、第1カラムから検出装置へのガス導入を切り替えるバルブが配置され、このバルブの開閉状態を切り替えるという簡易な処理によって、第2カラムで分離されたガス成分の検出装置への導入が完了するタイミングよりも、第1カラムで分離されたガス成分の検出装置への導入が開始されるタイミングを遅らせることができる。これにより、熟練作業者が煩雑な調整作業を行なわなくても、第2カラムで分離されたガス成分の検出タイミングと、第1カラムで分離されたガス成分の検出タイミングとの重複を容易に回避することができる。
【0113】
その結果、複数のカラムで分離されたガス成分を当該カラムの数よりも少ない検出装置で容易に検出できるガス分析システムを提供することができる。
【0114】
(第2項) 第1項に記載のガス分析システムにおいて、制御装置は、遅延処理において、第2カラムで分離されたガス成分が検出装置に導入されている間、バルブを閉じて第1カラムで分離されるガス成分を第1カラム内に封じ込めるようにしてもよい。
【0115】
第2項に記載のガス分析システムによれば、第1カラムから検出装置へのガス導入を切り替えるバルブを閉じて第1カラム内のガス成分を第1カラム内に一時的に封じ込めておくという簡易な処理によって、第1カラム内のガス成分が第1カラムから溶出するタイミングを遅らせることができる。
【0116】
(第3項) 第2項に記載のガス分析システムにおいて、制御装置は、遅延処理の実行後に、バルブを開いて第1カラムで分離されたガス成分を検出装置に導入させる。
【0117】
第3項に記載のガス分析システムによれば、遅延処理の実行後にバルブを開くという簡易な処理で、第1カラム内に一時的に封じ込められていたガス成分を検出装置に導入して検出することができる。
【0118】
(第4項) 第1~3項のいずれかに記載のガス分析システムにおいて、バルブは、内部へガスを導入するための流入口、および、流入口から導入されたガスを外部へ流出させるための流出口が形成された基台部と、基台部に対向して配置され、弾性変形することによって流入口から流出口へのガスの流通と遮断とを切り替えるダイヤフラム部とを備える。
【0119】
第4項に記載のガス分析システムによれば、バルブ内部のデッドボリュームを非常に小さくすることができる。そのため、バルブを閉じた際に、第1カラム内のガス成分がカラム長さ方向に拡散する幅を極力小さくすることができる。これにより、拡散によるピークバンド幅の増大を抑制することができる。
【0120】
(第5項) 第4項に記載のガス分析システムにおいて、第1カラムは、キャピラリカラムであってもよい。
【0121】
第5項に記載のガス分析システムによれば、第1カラムをキャピラリカラムとすることで、第1カラムをパックドカラムとする場合に比べて、拡散によるピークバンド幅の増大をより適切に抑制することができる。
【0122】
具体的には、パックドカラムは、内径が比較的太く、カラム内のガス成分が占めるバンド幅に対してカラム内径が大きいため、拡散がピークバンド幅の増大に与える影響が大きい。これに対し、キャピラリカラムは、内径が比較的細く、カラム内のガス成分が占めるバンド幅に対してカラム内径が非常に小さいため、拡散がピークバンド幅の増大に与える影響が非常に小さい。したがって、第1カラムをパックドカラムではなくキャピラリカラムとすることで、拡散によるピークバンド幅の増大をより適切に抑制することができる。
【0123】
(第6項) 第1~3項のいずれかに記載のガス分析システムにおいて、第1カラムは、一次分離用のカラムであり、第2カラムは、第1カラムで一次分離されたガス成分をさらに分離する二次分離用のカラムであってもよい。第1カラムおよび第2カラムの間に配置され、第1カラムおよび第2カラムを検出装置に対してこの順に直列に接続する直列状態と、第1カラムおよび第2カラムを検出装置に対して並列に接続する並列状態とに切替可能に構成された切替モジュールをさらに備えてもよい。制御装置は、切替モジュールが並列状態である場合に遅延処理を実行してもよい。
【0124】
第6項に記載のガス分析システムによれば、第1カラムで一次分離されたガス成分と第2カラムで二次分離されたガス成分とが共通の検出装置に導入される構成において、第1カラムから検出装置へのガス導入を切り替えるバルブの開閉状態を切り替えるという簡易な処理によって、第2カラムで二次分離されたガス成分の検出タイミングと、第1カラムで一次分離されたガス成分の検出タイミングとの重複を容易に回避することができる。
【0125】
(第7項) 第1に記載のガス分析システムにおいて、第1カラムの出口と第2カラムの出口とに接続される合流部をさらに備えるようにし、検出装置は、合流部から導入されるガス成分を検出するようにしてもよい。
【0126】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0127】
1 ガス分析システム、11~13 キャリアガス供給装置、20 サンプルタンク、21 ポンプ、23 ベント、30 合流部、35 分流部、41~44 カラム、50 検出装置、60 入力装置、70 表示装置、80 駆動装置、100 制御装置、110 演算部、120 記憶部、200 マイクロバルブ、220 基台層、221,241 凹部、222,223,224,232,252,253,254 開口部、225 底部、230 ダイヤフラム層、233 可撓部、234 剛体部、240 カバー層、250 路部材、262 供給口、263 流入口、264 流出口、C1~C10 コネクタ、IP,IP1,IP2 試料注入口、M1 サンプラモジュール、PL サンプルループ、V1~V10,V21~V24 切替バルブ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図19
図20