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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014143
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】光導電スイッチ
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/08 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
H01L31/08 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116759
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA17
5F149AB01
5F149AB16
5F149BA18
5F149BA30
5F149CB01
5F149DA16
5F149FA02
5F149FA04
5F149HA09
5F149LA01
5F149LA02
5F149LA03
5F149XB20
5F149XB32
5F849AA17
5F849AB01
5F849AB16
5F849BA18
5F849BA30
5F849CB01
5F849DA16
5F849FA02
5F849FA04
5F849HA09
5F849LA01
5F849LA02
5F849LA03
5F849XB20
5F849XB32
(57)【要約】
【課題】より効果的にコスト及び動作時の発熱を抑えることができる光導電スイッチを提供する。
【解決手段】一実施の形態として、酸化ガリウム系半導体からなり、Feを含むことにより高抵抗化された半導体層10と、半導体層10の上面に接続されたアノード電極12及びカソード電極13と、半導体層10の中のドナー不純物を含む領域であり、アノード電極12に接続された第1のn領域11aと、半導体層10の中のドナー不純物を含む領域であり、第1のn領域11aと離隔され、カソード電極13に接続された第2のn領域11bと、を備えた、光導電スイッチ1を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム系半導体からなり、Feを含むことにより高抵抗化された半導体層と、
前記半導体層の上面に接続されたアノード電極及びカソード電極と、
前記半導体層の中のドナー不純物を含む領域であり、前記アノード電極に接続された第1のn領域と、
前記半導体層の中のドナー不純物を含む領域であり、前記第1のn領域と離隔され、前記カソード電極に接続された第2のn領域と、
を備えた、光導電スイッチ。
【請求項2】
前記半導体層の下面に光反射膜が設けられた、
請求項1に記載の光導電スイッチ。
【請求項3】
前記第1のn領域と前記第2のn領域の間の距離が、2μm以上、100μm以下の範囲内、又は10μm以上、500μm以下の範囲内にある、
請求項1又は2に記載の光導電スイッチ。
【請求項4】
ドナー不純物を含む酸化ガリウム系半導体からなる第1のn層と、
前記第1のn層の上の、Feを含む酸化ガリウム系半導体からなる高抵抗層と、
前記高抵抗層の上の、ドナー不純物を含む酸化ガリウム系半導体からなる第2のn層と、
前記第2のn層の上の透明電極と、
前記第2のn層に前記透明電極を介して接続されたアノード電極と、
前記第1のn層の下面に形成された、光反射膜を兼ねるカソード電極と、
を備えた、光導電スイッチ。
【請求項5】
前記第1のn層が基板からなり、
前記高抵抗層及び前記第2のn層が、前記第1のn層を下地とするエピタキシャル膜からなる、
請求項4に記載の光導電スイッチ。
【請求項6】
前記第1のn層と前記第2のn層の間の距離が、2μm以上、100μm以下の範囲内、又は10μm以上、500μm以下の範囲内にある、
請求項4又は5に記載の光導電スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導電スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光の照射によりオフ状態をオン状態に切り換えることができる光導電スイッチが知られている(非特許文献1を参照)。光導電スイッチは応答速度に優れ、例えばMOSFETのスイッチと比較しても格段に速い。
【0003】
非特許文献1に記載の光導電スイッチは、V(バナジウム)の添加により高抵抗化されたSiCが半導体層として用いられている。光導電スイッチにおいては、耐圧を確保するため、半導体層の抵抗率に応じて耐圧維持領域(アノード電極が接続されるn領域とカソード電極が接続されるn領域との間の領域)の長さや断面積が設定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Qilin Wu et al., “The Test of a High-Power, Semi-Insulating, Linear-Mode, Vertical 6H-SiC PCSS”, IEEE TRANSACTIONS ON ELECTRON DEVICES, APRIL 2019, VOL. 66, NO. 4, p.p. 1837-1842.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載のSiCを用いた光導電スイッチも含め、従来知られた光導電スイッチは、その耐圧維持領域の体積から、非常に強度の大きな高価なレーザーを用いなければ十分なキャリアを有するチャネルを発生させることができず、導通損失が大きくなって発熱が大きくなるという問題がある。すなわち、従来の光導電スイッチは、コスト又は発熱の観点から実用化が困難であった。
【0006】
本発明の目的は、より効果的にコスト及び動作時の発熱を抑えることができる光導電スイッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記の光導電スイッチを提供する。
【0008】
[1]酸化ガリウム系半導体からなり、Feを含むことにより高抵抗化された半導体層と、前記半導体層の上面に接続されたアノード電極及びカソード電極と、前記半導体層の中のドナー不純物を含む領域であり、前記アノード電極に接続された第1のn領域と、前記半導体層の中のドナー不純物を含む領域であり、前記第1のn領域と離隔され、前記カソード電極に接続された第2のn領域と、を備えた、光導電スイッチ。
[2]前記半導体層の下面に光反射膜が設けられた、上記[1]に記載の光導電スイッチ。
[3]前記第1のn領域と前記第2のn領域の間の距離が、2μm以上、100μm以下の範囲内、又は10μm以上、500μm以下の範囲内にある、上記[1]又は[2]に記載の光導電スイッチ。
[4]ドナー不純物を含む酸化ガリウム系半導体からなる第1のn層と、前記第1のn層の上の、Feを含む酸化ガリウム系半導体からなる高抵抗層と、前記高抵抗層の上の、ドナー不純物を含む酸化ガリウム系半導体からなる第2のn層と、前記第2のn層の上の透明電極と、前記第2のn層に前記透明電極を介して接続されたアノード電極と、前記第1のn層の下面に形成された、光反射膜を兼ねるカソード電極と、を備えた、光導電スイッチ。
[5]前記第1のn層が基板からなり、前記高抵抗層及び前記第2のn層が、前記第1のn層を下地とするエピタキシャル膜からなる、上記[4]に記載の光導電スイッチ。
[6]前記第1のn層と前記第2のn層の間の距離が、2μm以上、100μm以下の範囲内、又は10μm以上、500μm以下の範囲内にある、上記[4]又は[5]に記載の光導電スイッチ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より効果的にコスト及び動作時の発熱を抑えることができる光導電スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)、(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る光導電スイッチの垂直断面図である。
図2図2は、Ga、6H-SiC、GaAs、又はSiからなる半導体層を有する、耐圧維持領域の断面積が1cmであり、リーク電流が10μAに達したときの電圧を耐圧と定義した光導電スイッチにおける、耐圧維持領域長と耐圧値との関係を示すグラフである。
図3図3(a)、(b)は、本発明の第2の実施の形態に係る光導電スイッチの垂直断面図である。
図4図4(a)、(b)は、本発明の第3の実施の形態に係る光導電スイッチの垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔第1の実施の形態〕
(光導電スイッチの構成)
図1(a)、(b)は、本発明の第1の実施の形態に係る光導電スイッチ1の垂直断面図である。光導電スイッチ1は、酸化ガリウム系半導体からなる半導体層を備えた横型の光導電スイッチである。図1(a)は、光導電スイッチ1に光が照射されていないオフ状態を示しており、図1(b)は、光導電スイッチ1に光Lが照射されているオン状態を示している。
【0012】
光導電スイッチ1は、酸化ガリウム系半導体からなり、不純物を含むことにより高抵抗化された半導体層10と、半導体層10の上面に接続されたアノード電極12及びカソード電極13と、半導体層10の中のドナー不純物を含む領域であり、アノード電極12に接続された第1のn領域11aと、半導体層10の中のドナー不純物を含む領域であり、第1のn領域11aと離隔され、カソード電極13に接続された第2のn領域11bと、を備える。
【0013】
酸化ガリウム系半導体とは、Ga、又は、Al、Inなどの元素が添加されたGaをいう。例えば、酸化ガリウム系半導体は、(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)で表される組成を有する。GaにAlを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0014】
酸化ガリウム系半導体からなる半導体層10を高抵抗化することのできる不純物として、Fe、Mg、Zn、H、Li、Be、Na、K、Ca、Rb、Sr、Ba、Cu、Ni、Mn、Cr、Vが挙げられる。中でも、高抵抗酸化ガリウムの製造に多くの実績がある不純物としてFe、Mg、Znがある。特に、Feは酸化ガリウム系半導体に高い抵抗率を付与することが実証されており、半導体層10がFeを含む場合、Feの濃度により半導体層10の抵抗率を1×1011~5×1012Ωcmの範囲内で制御することができる。
【0015】
酸化ガリウム系半導体に添加されたFeは、酸化ガリウム系半導体の伝導帯と価電子帯の間の伝導帯に近い位置に不純物準位を形成し、電子をトラップするため、酸化ガリウム系半導体を高抵抗化する。このため、半導体層10の第1のn領域11aと第2のn領域11bが設けられていない部分は高抵抗であり、光Lが照射されていない状態では、第1のn領域11aと第2のn領域11bの間に電流は流れない。
【0016】
ここで、光導電スイッチのオフ性能は、耐圧維持領域(アノード電極が接続されるn領域とカソード電極が接続されるn領域との間の領域)の長さと断面積、半導体層の抵抗率で決まる。光導電スイッチ1においては、半導体層10を構成する酸化ガリウム系半導体が高い抵抗率、例えばSiCよりも高い抵抗率を有するため、耐圧維持領域の長さ、すなわち第1のn領域11aと第2のn領域11bの間の距離d1を著しく短くすることができる。
【0017】
耐圧維持領域の長さを短くすることにより、光導電スイッチ1においては、光Lの光源として強度の大きな高価なレーザー発信器などを用いずとも、耐圧維持領域に十分なキャリアを発生させることができ、オン状態における導通損失、すなわちチャネル15を流れる電流の損失を大きく低減して、発熱を抑えることができる。また、耐圧維持領域の長さを短くすることにより、光導電スイッチ1の面積を小さくすることができる。
【0018】
以下に、光導電スイッチ1において所定の耐圧を得るための距離d1の設定方法を述べる。まず、オームの法則により次の式(1)が成り立つ。ここで、Vは第1のn領域11aと第2のn領域11bの間(アノード電極12とカソード電極13の間)に印加される電圧であり、Iは第1のn領域11aと第2のn領域11bの間に流れる電流であり、ρはチャネル15が形成される半導体層10の抵抗率であり、Lは耐圧維持領域の長さすなわち第1のn領域11aと第2のn領域11bの間の距離d1であり、Sは耐圧維持領域の電圧印加方向に垂直な断面積である。
【0019】
【数1】
【0020】
上述のように、半導体層10がFeを含む場合、Feの濃度により半導体層10の抵抗率ρを1×1011~5×1012Ωcmの範囲内で制御することができる。そのため、式(1)によれば、例えば、10μA/cmのリーク電流J(=I/S)が流れるときの印加電圧Vを耐圧と定義したときに、10kVの耐圧を得るための距離d1は、抵抗率ρが1×1011~5×1012Ωcmの範囲内であれば、2~100μmとなる。また、10μA/cmのリーク電流J(=I/S)が流れるときの印加電圧Vを耐圧と定義したときに、50kVの耐圧を得るための距離d1は、抵抗率ρが1×1011~5×1012Ωcmの範囲内であれば、10~500μmとなる。
【0021】
図2は、Ga、6H-SiC、GaAs、又はSiからなる半導体層を有する、耐圧維持領域の断面積が1cmであり、リーク電流が10μAに達したときの電圧を耐圧と定義した光導電スイッチにおける、耐圧維持領域長と耐圧値との関係を示すグラフである。Ga、6H-SiC、GaAs、Siはいずれも不純物の添加により高抵抗化されたものを想定しており、それぞれの抵抗率を3.0×1012Ωcm、1.0×1011Ωcm、1.0×10Ωcm、1.0×10Ωcmとしている。
【0022】
ここで、10μAのリーク電流が流れるときの印加電圧を「耐圧」とし、その耐圧を維持するために必要な耐圧維持領域の長さ(光導電スイッチ1における第1のn領域11aと第2のn領域11bの間の距離d1に相当)を「耐圧維持領域長」としている。
【0023】
図2は、Gaからなる半導体層を有する光導電スイッチにおける所定の耐圧を得るための耐圧維持領域の長さが、6H-SiC、GaAs、又はSiからなる半導体層を有する光導電スイッチにおけるそれと比較して、格段に小さいことを示している。
【0024】
半導体層10は、典型的には、酸化ガリウム系半導体からなる基板である。半導体層10に含まれるFeなどの不純物は、半導体層10の全体に分布している。半導体層10中のFeの濃度は、例えば、1×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下である。
【0025】
また、光導電スイッチ1においては、図1(b)に示されるように、半導体層10の第1のn領域11aと第2のn領域11bとの間の領域にレーザー光などの光Lを上方から照射することにより、半導体層10の表面の第1のn領域11aと第2のn領域11bとの間の領域の電子が励起されてチャネル15が形成される。これによって、チャネル15を介して第1のn領域11aと第2のn領域11bとの間に電流が流れるようになる。
【0026】
ここで、光導電スイッチ1に照射される光Lは、半導体層10を構成する酸化ガリウム系半導体のバンドギャップよりもエネルギーの大きい光、例えば、半導体層10がGaからなる場合は波長が250nm以下の光である。この場合、照射された光Lは半導体層10に吸収されるため、その表面近傍にのみチャネル15が形成される。
【0027】
上述のように、光導電スイッチ1においては、耐圧維持領域の長さを著しく短くすることができる。耐圧維持領域の長さが短くなるとチャネル15の形成のために光Lを照射すべき領域の体積が小さくなるため、照射する光Lのエネルギーを桁違いに低減することができる。
【0028】
第1のn領域11a及び第2のn領域11bは、例えば、Si、Snなどのドナー不純物を半導体層10に注入することにより形成される。第1のn領域11a及び第2のn領域11bのドナー濃度は、例えば、5×1018cm-3以上である。
【0029】
アノード電極12及びカソード電極13は、例えば、Ti、Al、Ti/Al、Ti/Auからなる。また、アノード電極12とカソード電極13の間に高電圧をかけることによる界面リーク電流の発生や半導体層10の損傷を防ぐため、半導体層10の表面を覆うパッシベーション膜14を設けることが好ましい。パッシベーション膜14は、SiOなどの絶縁体からなる。
【0030】
〔第2の実施の形態〕
本発明の第2の実施の形態に係る光導電スイッチ2は、主に、半導体層10の下面に光反射膜20が設けられている点において、第1の実施の形態に係る光導電スイッチ1と異なる。第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0031】
(光導電スイッチの構成)
図3(a)、(b)は、本発明の第2の実施の形態に係る光導電スイッチ2の垂直断面図である。光導電スイッチ2は、酸化ガリウム系半導体からなる半導体層を備えた横型の光導電スイッチである。図3(a)は、光導電スイッチ2に光が照射されていないオフ状態を示しており、図3(b)は、光導電スイッチ2に光Lが照射されているオン状態を示している。
【0032】
光導電スイッチ2においては、半導体層の下面に光反射膜20が設けられている。光反射膜20は、半導体層10中を下面に向かって進む光Lを反射するための膜である。光反射膜20は、例えば、Ag、Pd、Cu、Auなどの金属からなる。
【0033】
光導電スイッチ2に照射される光Lは、半導体層10を構成する酸化ガリウム系半導体のバンドギャップよりもエネルギーが小さく、かつ酸化ガリウム系半導体の伝導帯の下端と半導体層10に含まれる不純物の不純物準位(トラップ準位)とのエネルギー差よりもエネルギーが大きい光である。例えば、半導体層10がGaからなり、Feを含む場合の光Lは、波長が300nm以上、1550nm以下の光である。
【0034】
このため、光Lは、酸化ガリウム系半導体の価電子帯から伝導帯へ電子を励起させることはないが、酸化ガリウム系半導体のバンドギャップ中の不純物準位から酸化ガリウム系半導体の伝導帯に電子を励起させてチャネル15を形成する。この場合、照射された光Lは半導体層10中を徐々に吸収されながら進む。そして、半導体層10の下面で光反射膜20に反射されることにより、光Lは半導体層10の広範囲に広がり、半導体層10の広範囲にチャネル15を形成する。
【0035】
光Lの波長が長いほど、光Lを発するレーザー発振器の製造コストをさげることができる。特に、0.85~1.55μm(0.8~1.46eV)程度の波長が光通信等に広く使われており、この波長域の高強度のレーザー発振器の入手が容易である。このため、酸化ガリウム系半導体の伝導体の下端からの不純物準位の深さは1.46eVより浅い方が好ましい。上述のように、酸化ガリウム系半導体に添加されたFeは、酸化ガリウム系半導体の伝導帯と価電子帯の間の伝導帯に近い位置に不純物準位を形成する。例えば、Gaに含まれるFeは、Gaの伝導帯の下端から0.7~0.9eV程度の位置に不純物準位を形成する。このため、半導体層10がFeを含むことが好ましい。
【0036】
光導電スイッチ2においては、半導体層10の広範囲、例えば全体にチャネル15が形成されるため、オン状態における導通抵抗をより効果的に低減することができる。
【0037】
〔第3の実施の形態〕
本発明の第3の実施の形態に係る光導電スイッチ3は、主に、縦型の光導電スイッチである点において、第1の実施の形態に係る光導電スイッチ1と異なる。第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0038】
(光導電スイッチの構成)
図4(a)、(b)は、本発明の第3の実施の形態に係る光導電スイッチ3の垂直断面図である。光導電スイッチ3は、酸化ガリウム系半導体からなる半導体層を備えた縦型の光導電スイッチである。図4(a)は、光導電スイッチ3に光が照射されていないオフ状態を示しており、図4(b)は、光導電スイッチ3に光Lが照射されているオン状態を示している。
【0039】
光導電スイッチ3は、ドナー不純物を含む酸化ガリウム系半導体からなる第1のn層31aと、第1のn層31aの上の、不純物を含む酸化ガリウム系半導体からなる高抵抗層30と、高抵抗層30の上の、ドナー不純物を含む酸化ガリウム系半導体からなる第2のn層31bと、第2のn層31bの上の透明電極34と、第2のn層31bに透明電極34を介して接続されたアノード電極32と、第1のn層31aの下面に形成された、光反射膜を兼ねるカソード電極33と、を備える。
【0040】
第1の実施の形態に係る光導電スイッチ1の半導体層10と同様に、高抵抗化のための不純物を含む酸化ガリウム系半導体からなる高抵抗層30は高抵抗であり、光Lが照射されていない状態では、第1のn層31aと第2のn層31bの間に電流は流れない。高抵抗層30の抵抗率は、例えば、高抵抗層30がFeを含む場合、1×1011~5×1012Ωcmである。
【0041】
光導電スイッチ3においては、光導電スイッチ1と同様に、高抵抗層30を構成する酸化ガリウム系半導体が高い電気抵抗を有するため、耐圧維持領域の長さ、すなわち第1のn層31aと第2のn層31bの間の距離d2を著しく短くすることができる。
【0042】
耐圧維持領域の長さを短くすることにより、光導電スイッチ3においては、光Lの光源として強度の大きな高価なレーザー発信器などを用いずとも、十分なキャリアを有するチャネル35を発生させることができ、オン状態における導通損失、すなわちチャネル35を流れる電流の損失を大きく低減して、発熱を抑えることができる。また、耐圧維持領域の長さを短くすることにより、光導電スイッチ3の厚さを小さくすることができる。
【0043】
光導電スイッチ3において所定の耐圧を得るための距離d2は、第1の実施の形態に係る光導電スイッチ1の距離d1と同様に設定することができる。すなわち、耐圧維持領域の長さLを距離d2として、式(1)から算出することができる。
【0044】
高抵抗層30がFeを含む場合、Feの濃度により高抵抗層30の抵抗率ρを1×1011~5×1012Ωcmの範囲内で制御することができる。そのため、式(1)によれば、例えば、10μA/cmのリーク電流J(=I/S)が流れるときの印加電圧Vを耐圧と定義したときに、10kVの耐圧を得るための距離d2は、抵抗率ρが1×1011~5×1012Ωcmの範囲内であれば、2~100μmとなる。また、10μA/cmのリーク電流J(=I/S)が流れるときの印加電圧Vを耐圧と定義したときに、50kVの耐圧を得るための距離d2は、抵抗率ρが1×1011~5×1012Ωcmの範囲内であれば、10~500μmとなる。
【0045】
また、図2に示される耐圧維持領域長と耐圧値との関係は、光導電スイッチ3のような縦型の光導電スイッチにおいても成り立つ。すなわち、Gaからなる半導体層を有する光導電スイッチにおける所定の耐圧を得るための耐圧維持領域の長さが、6H-SiC、GaAs、又はSiからなる半導体層を有する光導電スイッチにおけるそれと比較して、格段に小さい。なお、この場合の耐圧維持領域の長さは、光導電スイッチ3における第1のn層31aと第2のn層31bの間の距離d2に相当する。
【0046】
高抵抗層30に含まれるFeなどの不純物は、高抵抗層30の全体に分布している。高抵抗層30中のFeの濃度は、例えば、1×1018cm-3以上、1×1020cm-3以下である。
【0047】
また、光導電スイッチ3においては、図4(b)に示されるように、レーザー光などの光Lを上方から透明電極34、第2のn層31bを通して高抵抗層30に照射することにより、高抵抗層30中の電子が励起されてチャネル35が形成される。これによって、チャネル35を介して第2のn層31bと第1のn層31aとの間に電流が流れるようになる。このとき、アノード電極32から流れ出る電流は、透明電極34を介して平面方向に広がり、第1のn層31aの全面に流れ込む。透明電極34は、ITO(Indium Tin Oxide)膜、IZO(Indium Zinc Oxide)膜、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)膜などの透明導電膜からなる。
【0048】
ここで、光導電スイッチ3に照射される光Lは、高抵抗層30を構成する酸化ガリウム系半導体のバンドギャップよりもエネルギーが小さく、かつ酸化ガリウム系半導体の伝導帯の下端と高抵抗層30に含まれる不純物の不純物準位とのエネルギー差よりもエネルギーが大きい光である。例えば、高抵抗層30がGaからなり、Feを含む場合の光Lは、波長が300nm以上、1550nm以下の光である。
【0049】
このため、光Lは、酸化ガリウム系半導体の価電子帯から伝導帯へ電子を励起させることはないが、酸化ガリウム系半導体のバンドギャップ中のFeの不純物準位から酸化ガリウム系半導体の伝導帯に電子を励起させてチャネル35を形成する。この場合、照射された光Lは高抵抗層30中を徐々に吸収されながら進む。そして、第1のn層31aの下面で光反射膜を兼ねるカソード電極33に反射されることにより、光Lは高抵抗層30の広範囲に広がり、高抵抗層30の広範囲、例えば全体にチャネル35を形成する。
【0050】
上述のように、光導電スイッチ3においては、耐圧維持領域の長さを著しく短くすることができる。耐圧維持領域の長さが短くなるとチャネル35の形成のために光Lを照射すべき領域の体積が小さくなるため、照射する光Lのエネルギーを桁違いに低減することができる。
【0051】
第1のn層31a及び第2のn層31bは、例えば、Si、Snなどのドナー不純物を含む。第1のn層31a及び第2のn層31bのドナー濃度は、例えば、5×1018cm-3以上である。アノード電極32及びカソード電極33は、例えば、Ti、Al、Ti/Al、Ti/Auからなる。また、カソード電極33は、光Lの反射効率を高めるために、上記の材料にAgやPd、Cuを組み合わせて形成されることが好ましい。
【0052】
第1のn層31aと第2のn層31bの間の距離d2を小さくするためには、高抵抗層30を薄くする必要がある。この場合、高抵抗層30をエピタキシャル成長により形成することにより、容易に薄い高抵抗層30を得ることができる。このため、第1のn層31aが基板からなり、高抵抗層30及び第2のn層31bが、第1のn層31aを下地とするエピタキシャル膜からなることが好ましい。
【0053】
(実施の形態の効果)
上記第1~3の実施の形態に係る光導電スイッチ1~3によれば、耐圧維持領域の長さを短くして、効果的にコスト及び動作時の発熱を抑えることができる。また、耐圧維持領域の長さを短くすることにより、素子のサイズを小さくすることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0055】
1~3…光導電スイッチ、 10…半導体層、 11a…第1のn領域、 11b…第2のn領域、 12、32…アノード電極、 13、33…カソード電極、 14…パッシベーション膜、 15…チャネル、 20…光反射膜、 30…高抵抗層、 31a…第1のn層、 31b…第2のn層、 34…透明電極
図1
図2
図3
図4