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特開2024-141436液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141436
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20241003BHJP
   B41J 2/195 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41J2/01 107
B41J2/01 401
B41J2/195
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053090
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪田 真一
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA25
2C056EB08
2C056EB30
2C056EB31
2C056EB32
2C056EB38
2C056EC11
2C056EC37
2C056EC42
(57)【要約】
【課題】双方向印刷に対応した液体吐出装置において、画質の低下が目立つことを抑制しつつ、液体の浪費を抑制する。
【解決手段】液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構と、液体吐出ヘッド及び移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行する制御部と、を備え、制御部は、印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、印刷処理期間の開始からの第1期間 では、液体吐出ヘッドの第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、媒体上への画像の印刷を実行し、印刷処理期間のうち、第1期間よりも後の第2期間では、復路及び往路の両方で、媒体上への画像の印刷を実行する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構と、
前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、前記印刷処理期間の開始からの第1期間では、前記液体吐出ヘッドの前記第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、前記媒体上への前記画像の印刷を実行し、
前記印刷処理期間のうち、前記第1期間よりも後の第2期間では、前記復路及び前記往路の両方で、前記媒体上への前記画像の印刷を実行する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1期間の終了タイミングは、前記印刷処理期間の開始からの経過時間が所定時間に達するタイミングに基づいて定まる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記第1期間の終了タイミングは、前記往復移動の前記印刷処理期間の開始後の回数が所定回数に達するタイミングに基づいて定まる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記第1期間の終了タイミングは、前記印刷処理期間の開始後に印刷された前記媒体の量である印刷量が所定量に達するタイミングに基づいて定まる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
液体の粘度を検出する粘度検出部をさらに備え、
前記液体吐出ヘッドは、
少なくとも1つの検査対象吐出部を含み、液体を吐出する複数の吐出部を有し、
前記粘度検出部は、
前記印刷処理期間に、前記検査対象吐出部内の液体の粘度を繰り返し検出し、
前記第1期間の終了タイミングは、
前記粘度検出部により検出された粘度が所定粘度以下になるタイミングに基づいて定まる、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記複数の吐出部は、前記第1方向に交差する第2方向に列状に延在するように配置され、
前記検査対象吐出部は、前記複数の吐出部のうち、前記第2方向に延在する列の端部に配置された吐出部である、
ことを特徴とする請求項5に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記液体吐出ヘッドの温度、及び、前記液体吐出ヘッドの周囲の空間の湿度の少なくとも一方を含む動作環境を検出する動作環境検出部と、
前記動作環境検出部により検出された前記動作環境に基づいて、前記第1期間の長さを補正する補正部と、
をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
第1の印刷処理が前記印刷処理として実行され、前記第1の印刷処理の次に第2の印刷処理が前記印刷処理として実行される場合、前記第1の印刷処理に対応する前記印刷処理期間の終了からの経過時間を計測する時間計測部と、
前記第2の印刷処理に対応する前記印刷処理期間の前記第1期間の長さを、前記時間計測部により検出された前記経過時間に基づいて補正する補正部と、
をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構と、
前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行する制御部と、
を備え、
前記印刷処理が実行される場合の印刷モードは、
液体の浪費を抑制する節約モードを含む複数のモードから選択され、
前記制御部は、
前記印刷モードとして前記節約モードが選択された場合、
前記印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、前記印刷処理期間の開始からの第1期間では、前記液体吐出ヘッドの前記第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、前記媒体上への前記画像の印刷を実行し、
前記印刷処理期間のうち、前記第1期間よりも後の第2期間では、前記復路及び前記往路の両方で、前記媒体上への前記画像の印刷を実行する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構とを備える液体吐出装置の制御方法であって、
前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行し、
前記印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、前記印刷処理期間の開始からの第1期間では、前記液体吐出ヘッドの前記第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、前記媒体上への前記画像の印刷を実行し、
前記印刷処理期間のうち、前記第1期間よりも後の第2期間では、前記復路及び前記往路の両方で、前記媒体上への前記画像の印刷を実行する、
ことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。
【請求項11】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構とを備える液体吐出装置の制御方法であって、
前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行し、
前記印刷処理が実行される場合の印刷モードは、液体の浪費を抑制する節約モードを含む複数のモードから選択され、
前記印刷モードとして前記節約モードが選択された場合、
前記印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、前記印刷処理期間の開始からの第1期間では、前記液体吐出ヘッドの前記第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、前記媒体上への前記画像の印刷を実行し、
前記印刷処理期間のうち、前記第1期間よりも後の第2期間では、前記復路及び前記往路の両方で、前記媒体上への前記画像の印刷を実行する、
ことを特徴とする液体吐出装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、及び、液体吐出装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のノズルからインク等の液体を吐出して媒体に画像を形成するインクジェットプリンター等の液体吐出装置が知られている。この種の液体吐出装置の中には、液体吐出ヘッドを主走査方向における往路方向に走査する場合と復路方向に走査する場合との双方で印刷を行う双方向印刷に対応した液体吐出装置が存在する。特許文献1には、往路と復路におけるインク滴の主走査方向の記録位置のズレを補正することにより、画質を向上させるインクジェットプリンターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-296608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、液体吐出装置では、印刷動作を実行していない期間に、液体吐出ヘッドが有するノズル内のインクの粘度が増加する増粘が進行する。インクの粘度が変化した場合、ノズルから吐出されるインク滴の吐出速度が変化するため、液体吐出ヘッドを主走査方向における往路方向に走査する場合と復路方向に走査する場合とで、主走査方向の記録位置にずれが生じる。双方向印刷において、インクの増粘による主走査方向の記録位置のずれを低減するためには、例えば、印刷開始前に、ノズル内の増粘したインクを排出する必要がある。この場合、インクが浪費される。このため、双方向印刷に対応した液体吐出装置では、画質の低下が目立つことを抑制しつつ、液体の浪費を抑制することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構と、前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、前記印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、前記印刷処理期間の開始からの第1期間 では、前記液体吐出ヘッドの前記第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、前記媒体上への前記画像の印刷を実行し、前記印刷処理期間のうち、前記第1期間よりも後の第2期間では、前記復路及び前記往路の両方で、前記媒体上への前記画像の印刷を実行する。
【0006】
また、本発明に係る他の液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構と、前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行する制御部と、を備え、前記印刷処理が実行される場合の印刷モードは、液体の浪費を抑制する節約モードを含む複数のモードから選択され、前記制御部は、前記印刷モードとして前記節約モードが選択された場合、前記印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、前記印刷処理期間の開始からの第1期間では、前記液体吐出ヘッドの前記第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、前記媒体上への前記画像の印刷を実行し、前記印刷処理期間のうち、前記第1期間よりも後の第2期間では、前記復路及び前記往路の両方で、前記媒体上への前記画像の印刷を実行する。
【0007】
また、本発明に係る液体吐出装置の制御方法は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構とを備える液体吐出装置の制御方法であって、前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行し、前記印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、前記印刷処理期間の開始からの第1期間では、前記液体吐出ヘッドの前記第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、前記媒体上への前記画像の印刷を実行し、前記印刷処理期間のうち、前記第1期間よりも後の第2期間では、前記復路及び前記往路の両方で、前記媒体上への前記画像の印刷を実行する。
【0008】
また、本発明に係る他の液体吐出装置の制御方法は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを第1方向に沿って往復移動させる移動機構とを備える液体吐出装置の制御方法であって、前記液体吐出ヘッド及び前記移動機構を制御することにより、印刷データの示す画像を媒体に印刷する印刷処理を実行し、前記印刷処理が実行される場合の印刷モードは、液体の浪費を抑制する節約モードを含む複数のモードから選択され、前記印刷モードとして前記節約モードが選択された場合、前記印刷処理が実行される印刷処理期間のうち、前記印刷処理期間の開始からの第1期間では、前記液体吐出ヘッドの前記第1方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、前記媒体上への前記画像の印刷を実行し、前記印刷処理期間のうち、前記第1期間よりも後の第2期間では、前記復路及び前記往路の両方で、前記媒体上への前記画像の印刷を実行する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの構成の一例を示すブロック図である。
図2】インクジェットプリンターの概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
図3】吐出部の構造の一例を説明するための断面図である。
図4】ヘッドユニットにおけるノズルの配置の一例を示す平面図である。
図5】ヘッドユニットの構成の一例を示すブロック図である。
図6】ヘッドユニットに供給される信号の一例を説明するためのタイミングチャートである。
図7】第1期間の終了タイミングに関する所定の条件の一例を説明するための説明図である。
図8】インクジェットプリンターの動作の一例を示すフローチャートである。
図9】画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替えることにより得られる効果を説明するための説明図である。
図10】第1変形例に係るインクジェットプリンターの構成の一例を示すブロック図である。
図11】補正部による第1期間の長さの補正の一例を説明するための説明図である。
図12】第2変形例に係るインクジェットプリンターの構成の一例を示すブロック図である。
図13図12に示したヘッドユニットの構成の一例を示すブロック図である。
図14】第2変形例に係るインクジェットプリンター1の動作の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0011】
[1.実施形態]
本実施形態では、記録用紙にインクを吐出して画像を形成するインクジェットプリンターを例示して、液体吐出装置を説明する。なお、本実施形態において、インクとは「液体」の例である。先ず、図1を参照しつつ、実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示すブロック図である。
【0013】
インクジェットプリンター1には、例えば、パーソナルコンピューター又はデジタルカメラ等のホストコンピューターから、インクジェットプリンター1が形成すべき画像を示す印刷データIMGが供給される。インクジェットプリンター1は、ホストコンピューターから供給される印刷データIMGの示す画像を媒体に形成する印刷処理を実行する。本実施形態では、媒体として、後述する図2に示す記録用紙Pを想定する。
【0014】
インクジェットプリンター1は、インクジェットプリンター1の各部を制御する制御ユニット2と、インクを吐出する吐出部Dが設けられたヘッドユニット3と、吐出部Dを駆動するための駆動信号COMを生成する駆動信号生成ユニット4とを有する。また、インクジェットプリンター1は、印刷データIMG、及び、インクジェットプリンター1の制御プログラム等の各種情報を記憶する記憶ユニット5を有する。さらに、インクジェットプリンター1は、ヘッドユニット3に対する記録用紙Pの相対位置を変化させるための搬送ユニット7と、ヘッドユニット3に設けられた吐出部Dをメンテナンスするメンテナンス処理を実行するメンテナンスユニット8とを有する。なお、ヘッドユニット3は、「液体吐出ヘッド」の一例である。
【0015】
ここで、本実施形態では、後述する図2に示すように、インクジェットプリンター1がシリアルプリンターである場合を想定する。また、本実施形態では、インクジェットプリンター1が、単方向印刷及び双方向印刷を実行可能である場合を想定する。単方向印刷は、例えば、ヘッドユニット3を主走査方向における往路方向に走査する場合と復路方向に走査する場合との一方のみで印刷が行われることである。これに対し、双方向印刷は、例えば、ヘッドユニット3を主走査方向における往路方向に走査する場合と復路方向に走査する場合との双方で印刷が行われることである。双方向印刷では、単方向印刷に比べて、印刷処理にかかる時間を短くすることができる。
【0016】
また、本実施形態では、ヘッドユニット3と駆動信号生成ユニット4とが互いに対応する場合を想定する。例えば、インクジェットプリンター1は、複数のヘッドユニット3と、複数のヘッドユニット3と1対1に対応する複数の駆動信号生成ユニット4とを有してもよい。あるいは、インクジェットプリンター1は、1個のヘッドユニット3と、1個のヘッドユニット3に対応する1個の駆動信号生成ユニット4とを有してもよい。本実施形態では、インクジェットプリンター1が、4個のヘッドユニット3と、4個のヘッドユニット3と1対1に対応する4個の駆動信号生成ユニット4とを有する場合を想定する。但し、以下では、説明の便宜上、図1に例示するように、4個のヘッドユニット3のうち一のヘッドユニット3と、4個の駆動信号生成ユニット4のうち一のヘッドユニット3に対応して設けられた一の駆動信号生成ユニット4と、に着目して説明する場合がある。
【0017】
制御ユニット2は、1又は複数のCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。なお、制御ユニット2は、CPUの代わりに、又は、CPUに加えて、FPGA(field-programmable gate array)等のプログラマブルロジックデバイスを含んで構成されてもよい。また、制御ユニット2は、記憶ユニット5に記憶されている制御プログラムを実行することによって、駆動制御部22として機能する。駆動制御部22は、「制御部」の一例である。
【0018】
詳細は後述するが、駆動制御部22は、印刷信号SI、及び、波形指定信号dCOM等の、インクジェットプリンター1の各部の動作を制御するための信号を生成する。ここで、波形指定信号dCOMは、駆動信号COMの波形を規定するデジタルの信号である。また、駆動信号COMは、吐出部Dを駆動するためのアナログの信号である。また、印刷信号SIは、吐出部Dの動作の種類を指定するためのデジタルの信号である。具体的には、印刷信号SIは、吐出部Dに対して駆動信号COMを供給するか否かを指定することで、吐出部Dの動作の種類を指定する信号である。
【0019】
駆動信号生成ユニット4は、例えば、DAC(Digital Analog Converter)を含み、駆動制御部22から供給される波形指定信号dCOMに基づいて駆動信号COMを生成する。例えば、駆動信号生成ユニット4は、波形指定信号dCOMにより規定される波形を含む駆動信号COMを生成する。駆動信号生成ユニット4は、波形指定信号dCOMに基づいて生成した駆動信号COMを、ヘッドユニット3に含まれる切替回路31に出力する。
【0020】
記憶ユニット5は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性のメモリーと、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、又は、PROM(Programmable ROM)等の不揮発性メモリーと、の一方又は両方を含んで構成される。なお、記憶ユニット5は、制御ユニット2に含まれてもよい。
【0021】
ヘッドユニット3は、切替回路31及び記録ヘッド32を有する。
【0022】
記録ヘッド32は、M個の吐出部Dを有する。なお、値Mは、1以上の自然数である。以下では、記録ヘッド32に設けられたM個の吐出部Dのうち、m番目の吐出部Dを、吐出部D[m]と称する場合がある。ここで、変数mは、「1≦m≦M」を満たす自然数である。また、以下では、インクジェットプリンター1の構成要素又は信号等が、M個の吐出部Dのうち、吐出部D[m]に対応する場合は、当該構成要素又は信号等を表わすための符号に、添え字[m]を付すことがある。
【0023】
切替回路31は、印刷信号SIに基づいて、駆動信号COMを吐出部D[m]に供給するか否かを切り替える。なお、以下では、後述する図5等に示すように、吐出部D[m]に供給される駆動信号COMを、個別駆動信号Vin[m]と称する場合がある。駆動信号COM及び個別駆動信号Vinは、「駆動信号」の一例である。
【0024】
上述のとおり、本実施形態において、インクジェットプリンター1は、印刷処理を実行する。例えば、駆動制御部22は、ヘッドユニット3及び搬送ユニット7を制御することにより、印刷データIMGの示す画像を記録用紙Pに印刷する印刷処理を実行する。具体的には、駆動制御部22は、印刷処理が実行される場合、印刷データIMGに基づいて、印刷信号SI等のヘッドユニット3を制御するための信号を生成する。また、駆動制御部22は、印刷処理が実行される場合、波形指定信号dCOM等の駆動信号生成ユニット4を制御するための信号を生成する。また、駆動制御部22は、印刷処理が実行される場合、搬送ユニット7を制御するための信号を生成する。これにより、駆動制御部22は、印刷処理において、ヘッドユニット3に対する記録用紙Pの相対位置を変化させるように搬送ユニット7を制御しつつ、吐出部D[m]からのインクの吐出の有無、インクの吐出量、及び、インクの吐出タイミング等を調整する。このように、駆動制御部22は、印刷データIMGに対応する画像が記録用紙Pに形成されるように、インクジェットプリンター1の各部を制御する。
【0025】
また、上述のとおり、本実施形態において、インクジェットプリンター1は、メンテナンス処理を実行する。例えば、メンテナンス処理は、吐出部Dからインクを排出するフラッシング処理と、吐出部DのノズルN近傍に付着したインク等の異物をワイパーにより拭き取るワイピング処理と、吐出部D内のインクをチューブポンプ等により吸引するポンピング処理とを含む。ノズルNについては、図3において後述する。
【0026】
例えば、粘度が増加する増粘が進行したインクは、フラッシング処理により、吐出部Dから排出される。これにより、印刷処理の開始時におけるノズルN内のインクの粘度を所定粘度以下にすることができる。この場合、増粘したインクが吐出部Dから排出されるため、印刷処理により印刷される画像の品質が低下することを抑制することができる。但し、フラッシング処理では、インクが浪費される。
【0027】
このため、本実施形態では、印刷処理が実行される場合の印刷モードが、液体の浪費を抑制する節約モードを含む複数のモードから選択される場合を想定する。但し、印刷モードは、複数のモードから選択される態様に限定されない。例えば、印刷モードは、節約モードのみでもよい。節約モードでは、駆動制御部22は、印刷開始前にフラッシング処理を実行せずに、画像の印刷として単方向印刷を開始し、所定の条件が満たされたことを契機に、画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替える。これにより、インクが浪費されることを抑制することができる。なお、画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替える契機については、図7以降において後述する。
【0028】
メンテナンスユニット8は、フラッシング処理において吐出部D内のインクが排出される場合に当該排出されたインクを受けるための排出インク受領部80と、吐出部DのノズルN近傍に付着したインク等の異物を拭き取るためのワイパーと、吐出部D内のインクや気泡等を吸引するためのチューブポンプとを有する。なお、排出インク受領部80については、図2において後述する。また、ワイパー及びチューブポンプについては、図示を省略する。次に、図2を参照しつつ、インクジェットプリンター1の概略的な内部構造について説明する。
【0029】
図2は、インクジェットプリンター1の概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
【0030】
上述したように、本実施形態では、インクジェットプリンター1がシリアルプリンターである場合を想定する。具体的には、インクジェットプリンター1は、印刷処理を実行する場合、副走査方向に記録用紙Pを搬送しつつ、副走査方向に交差する主走査方向にヘッドユニット3を往復移動させながら、吐出部D[m]からインクを吐出させることで、記録用紙P上に、印刷データIMGに応じたドットを形成する。
【0031】
以下では、説明の便宜上、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸を有する3軸の直交座標系を適宜導入する。例えば、本実施形態では、Y軸に沿ったY1方向を副走査方向とし、X軸に沿ったX1方向及びX2方向を主走査方向とする。なお、X2方向は、X1方向とは反対の方向である。また、本実施形態では、図2に例示するように、Z軸に沿ったZ1方向を、吐出部D[m]からのインクの吐出方向とする。また、以下では、X1方向及びX2方向をX軸方向と総称し、Y1方向、及び、Y1方向とは反対のY2方向をY軸方向と総称し、Z1方向、及び、Z1方向とは反対のZ2方向をZ軸方向と総称する。なお、本実施形態では、上述したように、X軸、Y軸及びZ軸が互いに直交する場合を想定しているが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、X軸、Y軸及びZ軸は、互いに交差していればよい。
【0032】
本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、筐体100と、筐体100内をX軸方向に往復移動可能であり、4個のヘッドユニット3を搭載するキャリッジ110とを有する。
【0033】
本実施形態では、キャリッジ110が、シアン、マゼンタ、イエロー、及び、ブラックの4色のインクと1対1に対応する4個のインクカートリッジ120を格納している場合を想定する。また、本実施形態では、上述のとおり、インクジェットプリンター1が、4個のインクカートリッジ120と1対1に対応する4個のヘッドユニット3を有する場合を想定する。各吐出部D[m]は、当該吐出部D[m]が設けられたヘッドユニット3に対応するインクカートリッジ120からインクの供給を受ける。これにより、各吐出部D[m]は、供給されたインクを内部に充填し、充填したインクをノズルNから吐出することができる。なお、インクカートリッジ120は、キャリッジ110の外部に設けられてもよい。
【0034】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、図1において説明したように、搬送ユニット7を有する。搬送ユニット7は、キャリッジ110をX軸方向に往復移動させるためのキャリッジ搬送機構71と、キャリッジ110をX軸方向に往復自在に支持するキャリッジガイド軸76とを有する。さらに、搬送ユニット7は、記録用紙Pを搬送するための媒体搬送機構73と、キャリッジ110に対してZ1方向に設けられたプラテン75とを有する。例えば、印刷処理において、キャリッジ搬送機構71は、ヘッドユニット3をキャリッジ110とともにキャリッジガイド軸76に沿ってX軸方向に往復移動させ、媒体搬送機構73は、プラテン75上の記録用紙PをY1方向に搬送する。従って、搬送ユニット7は、印刷処理において、キャリッジ搬送機構71及び媒体搬送機構73に上述の動作を実行させることにより、記録用紙Pのヘッドユニット3に対する相対位置を変化させ、記録用紙Pの全体に対するインクの着弾を可能とする。なお、キャリッジ搬送機構71は、「移動機構」の一例であり、X軸方向、すなわち、X1方向及びX2方向は、「第1方向」の一例であり、Y軸方向、すなわち、Y1方向及びY2方向は、「第2方向」の一例である。
【0035】
次に、図3を参照しつつ、記録ヘッド32の概略的な構造について説明する。
【0036】
図3は、吐出部Dの構造の一例を説明するための断面図である。なお、図3では、吐出部D[m]を含むように記録ヘッド32を切断した場合の記録ヘッド32の一部の断面が模式的に示されている。
【0037】
吐出部D[m]は、内部にインクが充填されたキャビティーCVと、キャビティーCVに連通するノズルNと、個別駆動信号Vin[m]が供給されることでキャビティーCV内のインクに圧力変動を生じさせる圧電素子PZ[m]と、振動板321とを有する。吐出部D[m]は、圧電素子PZ[m]が個別駆動信号Vin[m]により駆動されることにより、キャビティーCV内のインクをノズルNから吐出させる。
【0038】
キャビティーCVは、ノズルNに連通する圧力室に該当する。例えば、キャビティーCVは、キャビティープレート324と、ノズルNが形成されたノズルプレート323と、振動板321と、により区画される空間である。キャビティーCVは、インク供給口326を介してリザーバ325と連通している。リザーバ325は、インク取入口327を介して、吐出部D[m]に対応するインクカートリッジ120と連通している。圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]と、下部電極Zd[m]と、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に設けられた圧電体Zb[m]とを有する。圧電体Zb[m]は、例えば、強誘電性の圧電材料により形成される。
【0039】
上部電極Zu[m]は、個別駆動信号Vin[m]が供給される配線Liと電気的に接続される。下部電極Zd[m]は、ベース電位信号VBSが供給される配線Ldと電気的に接続される。そして、上部電極Zu[m]に個別駆動信号Vin[m]が供給されることにより、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に電圧が印加される。圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に印加された電圧に応じて、Z1方向又はZ2方向に変位する。
【0040】
このように、圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に印加された電圧に応じて振動する。振動板321には、下部電極Zd[m]が接合されている。このため、圧電素子PZ[m]が個別駆動信号Vin[m]により駆動されて振動することにより、振動板321も振動する。そして、振動板321の振動によりキャビティーCVの容積及びキャビティーCV内の圧力が変化し、キャビティーCV内に充填されたインクがノズルNより吐出される。
【0041】
本実施形態では、一例として、吐出部D[m]に供給される個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化することにより、圧電素子PZがZ1方向に変位する場合を想定する。すなわち、本実施形態では、吐出部D[m]に供給される個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位の場合に、低電位の場合と比較して、吐出部D[m]の備えるキャビティーCVの容積が小さくなる場合を想定する。
【0042】
次に、図4を参照しつつ、ノズルNの配置の一例について説明する。
【0043】
図4は、ヘッドユニット3におけるノズルNの配置の一例を示す平面図である。なお、図4では、Z1方向からインクジェットプリンター1を平面視した場合の、キャリッジ110に搭載された4個のヘッドユニット3と、当該4個のヘッドユニット3に設けられた合計4M個のノズルNの配置の一例が示されている。
【0044】
キャリッジ110に設けられた各ヘッドユニット3には、ノズル列NLが設けられる。ここで、ノズル列NLとは、所定方向に列状に延在するように設けられた複数のノズルNである。本実施形態では、各ノズル列NLが、Y軸方向に延在するように配置されたM個のノズルNから構成される場合を、一例として想定する。また、本実施形態では、各ノズル列NLにおいて、列のY1方向の端部に配置された吐出部Dが1番目の吐出部D[1]であり、列のY2方向の端部に配置された吐出部DがM番目の吐出部D[M]である場合を想定する。
【0045】
次に、図5及び図6を参照しつつ、ヘッドユニット3の概要について説明する。
【0046】
図5は、ヘッドユニット3の構成の一例を示すブロック図である。
【0047】
ヘッドユニット3は、図1において説明したように、切替回路31及び記録ヘッド32を有する。また、ヘッドユニット3は、駆動信号生成ユニット4から駆動信号COMが供給される配線Laと、個別駆動信号Vin[m]を吐出部D[m]に供給する配線Li[m]と、ベース電位信号VBSが供給される配線Ldとを有する。
【0048】
切替回路31は、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個のスイッチSWa[1]~SWa[M]と、接続状態指定回路310とを有する。接続状態指定回路310は、M個のスイッチSWaの各々の接続状態を指定する。例えば、接続状態指定回路310は、駆動制御部22から供給される印刷信号SI、及び、ラッチ信号LATの少なくとも一部の信号に基づいて、スイッチSWa[m]のオンオフを指定する接続状態指定信号Qa[m]を生成する。
【0049】
スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]に基づいて、配線Laと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。すなわち、スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]に基づいて、配線Laと、上部電極Zu[m]に接続された配線Li[m]との、導通及び非導通を切り替える。本実施形態において、スイッチSWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。スイッチSWa[m]がオンする場合、配線Laに供給される駆動信号COMが、個別駆動信号Vin[m]として、吐出部D[m]の上部電極Zu[m]に配線Li[m]を介して供給される。
【0050】
次に、図6を参照しつつ、ヘッドユニット3の動作について説明する。
【0051】
本実施形態において、インクジェットプリンター1が、印刷処理又はフラッシング処理を実行する場合、インクジェットプリンター1の動作期間として、1又は複数の単位期間TPが設定される。本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、各単位期間TPにおいて、印刷処理又はフラッシング処理のために各吐出部D[m]を駆動することができる。
【0052】
図6は、ヘッドユニット3に供給される信号の一例を説明するためのタイミングチャートである。
【0053】
制御ユニット2は、パルスPLLを有するラッチ信号LATを出力する。これにより、制御ユニット2は、パルスPLLの立ち上がりから次のパルスPLLの立ち上がりまでの期間として、単位期間TPを規定する。単位期間TPは、例えば、M個の吐出部Dの駆動周期である。また、本実施形態では、駆動信号COMの一周期が単位期間TPである場合を想定する。また、本実施形態では、印刷処理が実行される印刷処理期間PTPの開始タイミングt10から終了タイミングt30までの間に複数の単位期間TPが含まれる場合を想定する。すなわち、印刷処理期間PTPは、複数の単位期間TPを含む。また、本実施形態では、印刷処理期間PTPは、開始タイミングt10からタイミングt20までの第1期間T1と、タイミングt20から終了タイミングt30までの第2期間T2とを含む。すなわち、第2期間T2は、第1期間T1よりも後の期間である。
【0054】
図6では、第1期間T1及び第2期間T2の各々が少なくとも1つの単位期間TPを含む場合を想定する。第1期間T1では、単方向印刷が行われ、第2期間T2では、双方向印刷が行われるが、単位期間TPにヘッドユニット3に供給される信号は、第1期間T1及び第2期間T2で同様である。このため、図6では、1つの単位期間TPに着目して、ヘッドユニット3に供給される信号の一例を説明する。
【0055】
本実施形態に係る印刷信号SIは、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個の個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む。個別指定信号Sd[m]は、インクジェットプリンター1が印刷処理又はフラッシング処理を実行する場合に、各単位期間TPにおける吐出部D[m]の駆動の態様を指定する。例えば、制御ユニット2は、各単位期間TPに先立って、M個の個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む印刷信号SIを、クロック信号CLに同期させて接続状態指定回路310に供給する。そして、接続状態指定回路310は、当該単位期間TPにおいて、個別指定信号Sd[m]に基づいて、接続状態指定信号Qa[m]を生成する。
【0056】
例えば、吐出部D[m]は、印刷処理が実行される単位期間TPにおいて、個別指定信号Sd[m]により、ドットを形成する吐出部D、及び、ドットを形成しない吐出部Dのいずれかに指定される。
【0057】
駆動信号COMは、例えば、単位期間TPに配線Laに供給されるパルスPWAを有する。パルスPWAは、例えば、ノズルNからインクを吐出させるパルスである。パルスPWAは、駆動信号COMの電位が、電位V0から、電位V0よりも低い電位VLAa、及び、電位V0よりも高い電位VHaを経て、電位V0に戻る波形である。電位V0は、パルスPWAの開始時及び終了時の電位であり、駆動信号COMの基準電位である。
【0058】
例えば、パルスPWAは、電位が電位V0から電位VLaに変化する波形要素EA1と、電位が波形要素EA1の終了時の電位VLaに維持される波形要素EA2と、電位が電位VLaから電位VHaに変化する波形要素EA3とを有する。さらに、パルスPWAは、電位が波形要素EA3の終了時の電位VHaに維持される波形要素EA4と、電位が電位VHaから電位V0に変化する波形要素EA5とを含む。以下では、波形要素EA1、EA2、EA3、EA4及びEA5を、波形要素EAと総称する場合がある。
【0059】
波形要素EA1及びEA5は、圧電体ZbをZ2方向に変位させるための膨張要素である。膨張要素では、キャビティーCVの容積を膨張させるように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が変化する。従って、波形要素EA1及びEA5では、駆動信号COMの電位は、キャビティーCVの容積を膨張させるように変化する。キャビティーCVの容積が膨張した場合、ノズルN内のインクの表面は、吐出方向の反対方向であるZ2方向に引き込まれる。以下では、ノズルN内のインクの表面を吐出方向の反対方向に引き込むことを、プルと称する場合がある。
【0060】
また、波形要素EA3は、圧電体ZbをZ1方向に変位させるための収縮要素である。収縮要素では、キャビティーCVの容積を収縮させるように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が変化する。従って、波形要素EA3では、駆動信号COMの電位は、キャビティーCVの容積を収縮させるように変化する。キャビティーCVの容積が収縮した場合、ノズルN内のインクの表面は、吐出方向であるZ1方向に押し出される。以下では、ノズルN内のインクの表面を吐出方向に押し出すことを、プッシュと称する場合がある。
【0061】
また、波形要素EA2及びEA4は、圧電体ZbのZ軸方向の位置を維持するための維持要素である。例えば、波形要素EA2では、波形要素EA1により膨張したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が維持される。また、例えば、波形要素EA4では、波形要素EA3により収縮したキャビティーCVの容積を維持するように圧電素子PZを駆動するために、駆動信号COMの電位が維持される。
【0062】
このように、パルスPWAは、所謂プル・プッシュ・プル波形である。
【0063】
パルスPWAは、パルスPWAを有する個別駆動信号Vin[m]が吐出部D[m]に供給される場合に、吐出部D[m]から、所定量のインクが吐出されるように定められる。なお、本実施形態では、図3において説明したように、個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位の場合に、低電位の場合と比較して、吐出部D[m]の備えるキャビティーCVの容積が小さくなる場合を想定している。このため、パルスPWAを有する個別駆動信号Vin[m]により吐出部D[m]が駆動される場合、個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化する波形要素EA3により、吐出部D[m]内のインクがノズルNから吐出される。
【0064】
例えば、パルスPWAに含まれる波形要素EA1、EA2、EA3、EA4及びEA5は、吐出部Dによるインクの吐出特性等に基づいて定められる。インクの吐出特性は、例えば、インク滴として吐出されるインクの量、及び、吐出されたインク滴の吐出速度等である。
【0065】
なお、インク滴の吐出速度は、例えば、インクの粘度によって変化する。例えば、所定粘度よりも増粘したインク滴の吐出速度は、所定粘度以下のインク滴の吐出速度に比べて低下する。このため、ノズルN内のインクが増粘した状態で、双方向印刷が実行された場合、ヘッドユニット3を主走査方向における往路方向に走査する場合と復路方向に走査する場合とで、主走査方向における記録位置にずれが生じる。記録位置は、例えば、インクの着弾位置である。本実施形態では、第1期間T1に単方向印刷を実行することにより、インクの増粘による主走査方向の記録位置のずれの視認性を低下させ、第2期間T2に双方向印刷を実行することにより、印刷処理期間PTPが長くなることを抑制している。
【0066】
ここで、例えば、第1期間T1の終了タイミング、すなわち、タイミングt20は、所定の条件が満たされるタイミングに基づいて定まる。第1期間T1の終了タイミングは、例えば、所定の動作単位の途中で第1期間T1が終了しないように定まる。例えば、所定の動作単位が、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動であり、i回目の往復移動の途中で所定の条件が満たされた場合、第1期間T1は、i回目の往復移動が終了するタイミングに終了する。あるいは、第1期間T1は、i回目の往復移動が終了してから、“i+1”回目の往復移動が開始するまでの間に終了してもよい。なお、値iは、自然数である。また、所定の動作単位は、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動に限定されない。例えば、複数枚の記録用紙Pに対して印刷が実行される場合、所定の動作単位は、1枚の記録用紙Pに対する印刷であってもよい。
【0067】
次に、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件の一例について、図7を参照しつつ、説明する。
【0068】
図7は、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件の一例を説明するための説明図である。
【0069】
図6において説明したように、所定の条件が満たされるタイミングに基づいて定められたタイミングで、第1期間T1が終了することにより、画像の印刷が単方向印刷から双方向印刷に切り替わる。従って、所定の条件としては、所定の条件が満たされるタイミング以降では、ノズルN内のインクの粘度が所定粘度以下になるような条件が好ましい。なお、図7には、所定の条件の一例として、第1条件、第2条件、第3条件及び第4条件の4つの条件が示されているが、所定の条件は、図7に示す4つの条件に限定されない。
【0070】
第1条件は、印刷処理期間PTPの開始からの経過時間が閾値としての所定時間に達することである。従って、所定の条件として第1条件が採用される場合、第1期間T1の終了タイミングは、印刷処理期間PTPの開始からの経過時間が所定時間に達するタイミングに基づいて定まる。なお、所定の条件として第1条件が採用される場合、例えば、駆動制御部22は、印刷処理期間PTPの開始からの経過時間を計測する。あるいは、制御ユニット2は、駆動制御部22とは別に、印刷処理期間PTPの開始からの経過時間を計測する計測部として機能してもよい。
【0071】
第2条件は、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の印刷処理期間PTPの開始後の回数が閾値としての所定回数に達することである。従って、所定の条件として第2条件が採用される場合、第1期間T1の終了タイミングは、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の印刷処理期間PTPの開始後の回数が所定回数に達するタイミングに基づいて定まる。なお、所定の条件として第2条件が採用される場合、例えば、駆動制御部22は、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の印刷処理期間PTPの開始後の回数をカウントする。あるいは、制御ユニット2は、駆動制御部22とは別に、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の印刷処理期間PTPの開始後の回数をカウントするカウント部として機能してもよい。
【0072】
第3条件は、印刷処理期間PTPの開始後に印刷された記録用紙Pの量である印刷量が閾値としての所定量に達することである。従って、所定の条件として第3条件が採用される場合、第1期間T1の終了タイミングは、印刷処理期間PTPの開始後に印刷された記録用紙Pの量である印刷量が所定量に達するタイミングに基づいて定まる。なお、印刷量は、例えば、複数枚の記録用紙Pに対して印刷が実行される場合、印刷された記録用紙Pの枚数である。また、ロール紙に対して印刷が実行される場合、印刷量は、記録用紙Pに印刷された行数であってもよい。行数は、例えば、X軸方向に沿って並ぶ複数の画素を含む行の数であってもよい。なお、所定の条件として第3条件が採用される場合、例えば、駆動制御部22は、印刷処理期間PTPの開始後の印刷量を検出する。あるいは、制御ユニット2は、駆動制御部22とは別に、印刷処理期間PTPの開始後の印刷量を検出する検出部として機能してもよい。
【0073】
第4条件は、吐出部D内のインクの粘度が所定粘度以下になることである。従って、所定の条件として第4条件が採用される場合、第1期間T1の終了タイミングは、吐出部D内のインクの粘度が閾値としての所定粘度以下になるタイミングに基づいて定まる。なお、吐出部D内のインクの粘度を検出する方法は、特に限定されない。例えば、吐出部D内のインクの粘度は、吐出部Dが駆動された後に当該吐出部D内のインクに残留する振動である残留振動を検出することにより、検出されてもよい。あるいは、吐出部D内のインクの粘度は、所定のテストデータにより示されるテストパターンを記録用紙Pに印刷することにより、検出されてもよい。具体的には、記録用紙Pに印刷されたテストパターンをスキャナー等により読み取り、記録用紙Pに印刷されたテストパターンと所定のテストデータにより示されるテストパターンとのずれ量に基づいて、吐出部D内のインクの粘度が検出されてもよい。なお、所定の条件として第4条件が採用される場合、例えば、駆動制御部22は、インクの粘度が所定粘度以下であるか否かを判定する。あるいは、制御ユニット2は、駆動制御部22とは別に、インクの粘度が所定粘度以下であるか否かを判定する判定部として機能してもよい。
【0074】
次に、図8を参照しつつ、インクジェットプリンター1の動作について説明する。
【0075】
図8は、インクジェットプリンター1の動作の一例を示すフローチャートである。なお、図8に示す動作は、印刷データIMGの示す画像を記録用紙Pに印刷する印刷処理をインクジェットプリンター1が実行する場合の動作の一例である。また、図8に示す動作では、制御ユニット2は、駆動制御部22として機能する。
【0076】
先ず、ステップS100において、駆動制御部22は、印刷処理期間PTPを開始する。例えば、駆動制御部22は、印刷データIMGに基づいて、ラッチ信号LAT等を生成することにより、印刷処理期間PTPを開始する。印刷処理期間PTPの開始に伴い、第1期間T1が開始する。
【0077】
そして、ステップS120において、駆動制御部22は、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件が満たされたか否かを判定する。
【0078】
ステップS120における判定の結果が否定の場合、駆動制御部22は、ステップS140において、所定の動作単位で単方向印刷を実行し、処理をステップS120に戻す。このように、ステップS120における判定の結果が否定の場合、第1期間T1が継続され、画像の印刷として単方向印刷が実行される。
【0079】
一方、ステップS120における判定の結果が肯定の場合、駆動制御部22は、ステップS220において、所定の動作単位で双方向印刷を実行し、処理をステップS240に進める。このように、ステップS120における判定の結果が肯定の場合、第1期間T1が終了し、第2期間T2が開始し、画像の印刷として単方向印刷が実行される。これにより、例えば、画像の印刷として単方向印刷が実行されていた場合、画像の印刷が単方向印刷から双方向印刷に切り替わる。
【0080】
ステップS240において、駆動制御部22は、印刷データIMGの示す画像の印刷が終了したか否かを判定する。
【0081】
ステップS240における判定の結果が否定の場合、駆動制御部22は、処理をステップS220に戻す。すなわち、ステップS240における判定の結果が否定の場合、第2期間T2が継続され、所定の動作単位で双方向印刷が実行される。
【0082】
一方、ステップS240における判定の結果が肯定の場合、駆動制御部22は、図8に示す動作を終了する。
【0083】
このように、駆動制御部22は、印刷処理が実行される印刷処理期間PTPのうち、印刷処理期間PTPの開始からの第1期間T1では、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、記録用紙P上への画像の印刷を実行する。そして、駆動制御部22は、印刷処理期間PTPのうち、第1期間T1よりも後の第2期間T2では、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の復路及び往路の両方で、記録用紙P上への画像の印刷を実行する。
【0084】
また、図8に示す動作から理解されるように、単方向印刷が実行される第1期間T1及び双方向印刷が実行される第2期間T2を規定する処理は特に実行されず、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件が満たされたか否かが判定される。例えば、所定の動作単位に対応する所定動作期間に着目した場合、所定の条件が満たされない期間を含む所定動作期間は、第1期間T1に該当し、所定の条件が満たされた所定動作期間は、第2期間T2に該当する。
【0085】
なお、インクジェットプリンター1の動作は、図8に示す動作に限定されない。例えば、ステップS140の処理は、ステップS120の処理の前に実行されてもよい。また、駆動制御部22は、第1期間T1及び第2期間T2を規定する処理を、所定の条件が満たされたか否かの判定結果に基づいて実行してもよい。
【0086】
次に、図9を参照しつつ、画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替えることにより得られる効果について説明する。
【0087】
図9は、画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替えることにより得られる効果を説明するための説明図である。図9の“切替印刷”及び“対比例”は、フラッシング処理が印刷処理の開始前に実行されない場合のインクの着弾位置を模式的に示している。なお、図9に示す“切替印刷”は、図1から図8において説明した本実施形態による印刷であり、図9に示す“対比例”は、印刷処理期間PTPの最初から双方向印刷が実行される印刷であり、本実施形態と対比される対比例の印刷である。
【0088】
また、図9では、所定の動作単位が1枚の記録用紙Pに対する印刷である場合を想定する。さらに、図9では、“N-1”枚目の記録用紙Pに対する印刷中、又は、“N-1”枚目の記録用紙Pに対する印刷の終了後でN枚目の記録用紙Pに対する印刷が開始される前に、所定の条件が満たされた場合を想定する。なお、値Nは、2以上の自然数である。
【0089】
従って、図9に示す“切替印刷”では、1枚目から“N-1”枚目の記録用紙Pに対する印刷として単方向印刷が実行され、N枚目以降の記録用紙Pに対する印刷として双方向印刷が実行される。但し、図9に示す“対比例”では、上述したように、1枚目の記録用紙Pに対する印刷から、双方向印刷が実行される。
【0090】
図9の白丸は、奇数パス目の印刷によるインクの着弾位置を模式的に示し、図の黒丸は、偶数パス目の印刷によるインクの着弾位置を模式的に示している。
【0091】
なお、図9では、単方向印刷として、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの往路のみで記録用紙P上への画像の印刷が実行される場合を想定する。従って、単方向印刷では、1パス目等の奇数パス目の印刷は、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う奇数回目の往復移動の往路で実行され、2パス目等の偶数パス目の印刷は、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う偶数回目の往復移動の往路で実行される。なお、双方向印刷では、1パス目等の奇数パス目の印刷は、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路で実行され、2パス目等の偶数パス目の印刷は、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の復路で実行される。
【0092】
図9に示すように、1枚目の記録用紙Pに対する印刷は、増粘したインクが吐出される印刷である。増粘したインクによる印刷が実行された場合、増粘したインクの吐出速度が所定粘度以下のインクの吐出速度に比べて低いため、インクの着弾位置が、所定粘度以下のインクによる印刷が実行された場合のインクの着弾位置からずれる。なお、図9では、説明を分かり易くするために、所定粘度以下のインクによる印刷では、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路及び復路のそれぞれ実行される印刷で、インクの着弾位置が一致する場合を想定する。以下では、所定粘度以下のインクによる印刷が実行された場合のインクの着弾位置を、所望の着弾位置と称する場合がある。また、以下では、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路及び復路におけるそれぞれの印刷を、復路印刷及び往路印刷とそれぞれ称する場合がある。
【0093】
例えば、図9の“対比例”に示すように、ノズルN内のインクが増粘している場合、往路印刷では、インクの着弾位置が所望の着弾位置に対してX1方向にずれ、復路印刷では、インクの着弾位置が所望の着弾位置に対してX2方向にずれる。図9の距離Dx1aは、往路印刷によるインクの着弾位置と所望の着弾位置との差を示し、図9の距離Dx1bは、復路印刷によるインクの着弾位置と所望の着弾位置との差を示している。
【0094】
なお、図9では、説明を分かり易くするために、ノズルN内のインクが増粘している場合の距離DX1a及びDX1bが互いに一致している場合を想定する。従って、以下では、距離DX1a及びDX1bを、距離DX1と総称する場合がある。
【0095】
例えば、対比例では、ノズルN内のインクが増粘している場合、1パス目等の奇数パス目の往路印刷と2パス目等の偶数パス目の復路印刷とで、インクの着弾位置が所望の着弾位置に対して互いに反対方向にずれる。このため、例えば、1枚目の記録用紙Pにおいて、奇数パス目の往路印刷によるインクの着弾位置と偶数パス目の復路印刷によるインクの着弾位置との差である距離DX2は、距離DX1の2倍になる。従って、対比例では、例えば、印刷された記録用紙Pをユーザーが見た場合、奇数パス目のインクの着弾位置と偶数パス目のインクの着弾位置とのずれが目立ち、画質が悪いとユーザーに認識される。
【0096】
これに対し、本実施形態では、図9の“切替印刷”に示すように、ノズルN内のインクが増粘している場合、記録用紙Pに対する印刷として、往路印刷のみの単方向印刷が実行される。この場合、インクの着弾位置は、奇数パス目も偶数パス目も、所望の着弾位置に対してX1方向に距離DX1aだけずれる。また、吐出部Dからインクが吐出されることにより吐出部D内のインクの粘度が徐々に低下するため、往路印刷を繰り替えすうちに、インクの着弾位置は、徐々に所望の着弾位置に近づいていく。このため、本実施形態では、例えば、印刷された記録用紙Pをユーザーが見た場合、連続するパスにおいて奇数パス目のインクの着弾位置と偶数パス目のインクの着弾位置とのずれが目立たない。この場合、ユーザーは、画質が低下していないと認識する。このように、本実施形態では、フラッシング処理を印刷処理の開始前に実行せずに、画質の低下が目立つことを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、画質の低下が目立つことを抑制しつつ、インクの浪費を抑制することができる。
【0097】
なお、単方向印刷では、2パスの印刷にかかる時間は、双方向印刷の2倍程度になる。このため、1枚目から最後の記録用紙Pに対する印刷まで、全て、単方向印刷が実行された場合、N枚目から最後の記録用紙Pに対する印刷まで双方向印刷が実行される場合に比べて、印刷処理にかかる全体の時間、すなわち、印刷処理期間PTPが長くなる。すなわち、本実施形態では、1枚目から最後の記録用紙Pに対する印刷まで、全て、単方向印刷が実行された場合に比べて、印刷処理期間PTPを短くすることができる。
【0098】
また、フラッシング処理が印刷処理の開始前に必ず実行される場合、インクの浪費の他に、印刷処理期間PTPが開始されるタイミングが、フラッシング処理が実行されない場合に比べて遅れる問題がある。本実施形態では、印刷処理の開始前のフラッシング処理を省くことができるため、印刷処理期間PTPが開始されるタイミングが遅れることを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、画質の低下が目立つことを抑制しつつ、記録用紙Pに対する印刷の開始が遅れることを抑制することができる。
【0099】
以上、本実施形態では、インクジェットプリンター1は、インクを吐出するヘッドユニット3と、ヘッドユニット3をX軸方向に沿って往復移動させるキャリッジ搬送機構71と、ヘッドユニット3及びキャリッジ搬送機構71を制御することにより、印刷データIMGの示す画像を記録用紙Pに印刷する印刷処理を実行する駆動制御部22と、を備えている。駆動制御部22は、印刷処理が実行される印刷処理期間PTPのうち、印刷処理期間PTPの開始からの第1期間T1では、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、記録用紙P上への画像の印刷を実行し、印刷処理期間PTPのうち、第1期間T1よりも後の第2期間T2では、復路及び往路の両方で、記録用紙P上への画像の印刷を実行する。
【0100】
このように、本実施形態では、印刷処理期間PTPの最初の第1期間T1では、単方向印刷として、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで印刷が実行される。そして、印刷処理期間PTPのうち、第1期間T1よりも後の第2期間T2では、双方向印刷として、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路及び復路の両方で印刷が実行される。すなわち、本実施形態では、画像の印刷が単方向印刷で開始され、途中から双方向印刷に切り替わる。
【0101】
例えば、本実施形態では、増粘したインクを排出するフラッシング処理を印刷処理の開始前に実行しない場合でも、第1期間T1に単方向印刷を実行することにより、インクの増粘によるX軸方向の記録位置のずれが目立つことを抑制することができる。すなわち、本実施形態では、画質の低下が目立つことを抑制しつつ、インクが浪費されることを抑制することができる。また、本実施形態では、印刷処理の開始前のフラッシング処理を省くことができるため、記録用紙P上への画像の印刷の開始が遅れることを抑制することができる。また、本実施形態では、第2期間T2に双方向印刷を実行することにより、印刷処理期間PTPが長くなることを抑制することができる。
【0102】
なお、本実施形態では、印刷処理が実行される場合の印刷モードが、インクの浪費を抑制する節約モードを含む複数のモードから選択されてもよい。駆動制御部22は、印刷モードとして節約モードが選択された場合、印刷処理期間PTPのうち、印刷処理期間PTPの開始からの第1期間T1では、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の往路及び復路のうちの一方のみで、記録用紙P上への画像の印刷を実行し、印刷処理期間PTPのうち、第1期間T1よりも後の第2期間T2では、復路及び往路の両方で、記録用紙P上への画像の印刷を実行する。この場合においても、上述した効果と同様の効果を得ることができる。さらに、印刷モードが複数のモードから選択可能である場合、印刷処理の開始前にフラッシング処理を実行し、印刷処理期間PTPの最初から双方向印刷を実行する高品質モード等の節約モードとは別のモードを使用状況に応じてユーザーが選択することができる。従って、印刷モードが複数のモードから選択可能である場合、ユーザーの使い勝手を向上させることができる。
【0103】
また、本実施形態では、第1期間T1の終了タイミングが、印刷処理期間PTPの開始からの経過時間が所定時間に達するタイミングに基づいて定まる態様が採用されてもよい。本態様では、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されたと推定されるタイミングで、画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替えることができる。この場合、単方向印刷が必要以上に実行されることが抑制されるため、印刷処理期間PTPが長くなることを抑制することができる。また、本態様では、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されたと推定されるタイミングで、画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替えることができるため、増粘したインクで双方向印刷が実行されることを抑制することができる。すなわち、第1期間T1の終了タイミングが、印刷処理期間PTPの開始からの経過時間が所定時間に達するタイミングに基づいて定まる態様では、印刷処理期間PTPが長くなることを抑制しつつ、画質の低下を抑制することができる。
【0104】
また、本実施形態では、第1期間T1の終了タイミングが、ヘッドユニット3のX軸方向に沿う往復移動の印刷処理期間PTPの開始後の回数が所定回数に達するタイミングに基づいて定まる態様が採用されてもよい。本態様においても、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されたと推定されるタイミングで、画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替えることができる。
【0105】
また、本実施形態では、第1期間T1の終了タイミングが、印刷処理期間PTPの開始後に印刷された記録用紙Pの量である印刷量が所定量に達するタイミングに基づいて定まる態様が採用されてもよい。本態様においても、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されたと推定されるタイミングで、画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替えることができる。
【0106】
[2.変形例]
以上の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲内で適宜に併合され得る。なお、以下に例示する変形例において作用や機能が実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0107】
[第1変形例]
上述した実施形態において、第1期間T1の長さが補正されてもよい。
【0108】
図10は、第1変形例に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示すブロック図である。図1から図9において説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0109】
図10に示すインクジェットプリンター1の構成は、図1に示したインクジェットプリンター1の構成と同様である。但し、図10に示すインクジェットプリンター1は、制御ユニット2が補正情報検出部24及び補正部26としても機能する点が、図1に示したインクジェットプリンター1と相違する。例えば、制御ユニット2は、記憶ユニット5に記憶されている制御プログラムを実行することによって、駆動制御部22、補正情報検出部24及び補正部26として機能する。補正情報検出部24は、「動作環境検出部」の一例である。
【0110】
補正情報検出部24は、例えば、ヘッドユニット3の温度、及び、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度の少なくとも一方を含む動作環境を補正情報として検出する。ヘッドユニット3の温度は、例えば、図3に示したノズルプレート323近傍の温度である。ヘッドユニット3の温度の検出方法、及び、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度の検出方法は、既知の方法を採用することができる。
【0111】
補正部26は、補正情報検出部24により検出された動作環境に基づいて、第1期間T1の長さを補正する。補正部26による第1期間T1の長さの補正の一例については、図11を参照しつつ、説明する。
【0112】
図11は、補正部26による第1期間T1の長さの補正の一例を説明するための説明図である。
【0113】
例えば、補正部26は、温度と湿度との組み合わせに対応する補正係数が記憶された補正係数テーブルTBLと、補正情報検出部24により検出された温度及び湿度とに基づいて、第1期間T1の長さを補正する。補正係数テーブルTBLは、例えば、記憶ユニット5に予め記憶されている。
【0114】
図11では、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件が図7に示した第3条件である場合を想定する。より具体的には、図11では、第1期間T1の終了タイミングが、印刷処理期間PTPの開始後に印刷された記録用紙Pの枚数である印刷枚数が閾値枚数に達するタイミングに基づいて定まる場合を想定する。また、図11では、補正前の閾値枚数が1枚である場合を想定する。補正後の閾値枚数は、例えば、補正情報検出部24により検出された温度及び湿度と補正係数テーブルTBLとから特定される補正係数に、補正前の閾値枚数を乗算することにより算出される。
【0115】
図11に示す補正係数テーブルTBLでは、ヘッドユニット3の温度が15℃以下の場合、補正係数は、“2”又は“1”である。具体的には、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が20%以下の場合、補正係数は、“2”であり、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が20%よりも大きい場合、補正係数は、“1”である。
【0116】
また、ヘッドユニット3の温度が15℃よりも大きく、25℃以下の場合、補正係数は、“3”、“2”又は“1”である。具体的には、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が20%以下の場合、補正係数は、“3”であり、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が20%よりも大きく、40%以下の場合、補正係数は、“2”である。そして、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が40%よりも大きい場合、補正係数は、“1”である。
【0117】
また、ヘッドユニット3の温度が25℃よりも大きく、35℃以下の場合、補正係数は、“4”、“3”又は“2”である。具体的には、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が20%以下の場合、補正係数は、“4”であり、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が20%よりも大きく、40%以下の場合、補正係数は、“3”である。そして、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が40%よりも大きい場合、補正係数は、“2”である。
【0118】
また、ヘッドユニット3の温度が35℃よりも大きい場合、補正係数は、“8”、“6”、“4”又は“2”である。具体的には、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が20%以下の場合、補正係数は、“8”であり、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が20%よりも大きく、40%以下の場合、補正係数は、“6”である。そして、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が40%よりも大きく、60%以下の場合、補正係数は、“4”であり、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度が60%よりも大きい場合、補正係数は、“2”である。
【0119】
例えば、補正情報検出部24により検出された温度及び湿度がそれぞれ15℃及び20%である場合、補正部26は、補正係数“2”と補正前の閾値枚数“1”との乗算結果である枚数“2”を、補正後の閾値枚数に設定する。この場合、2枚目の印刷が終了したときに第1期間T1が終了する。
【0120】
また、例えば、補正情報検出部24により検出された温度及び湿度がそれぞれ35℃及び40%である場合、補正部26は、補正係数“3”と補正前の閾値枚数“1”との乗算結果である枚数“3”を、補正後の閾値枚数に設定する。この場合、3枚目の印刷が終了したときに第1期間T1が終了する。
【0121】
このように、本変形例では、第1期間T1の長さがヘッドユニット3の温度、及び、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度に基づいて補正される。このため、本変形例では、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されるタイミングと第1期間T1の終了タイミングとを精度よく合わせることができる。なお、第1期間T1の長さの補正は、ヘッドユニット3の温度、及び、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度の一方に基づいて、実行されてもよい。この場合においても、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されるタイミングと第1期間T1の終了タイミングとを、補正が実行されない態様に比べて、精度よく合わせることができる。
【0122】
なお、図11では、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件が図7に示した第3条件である場合を想定したが、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件が第3条件以外の条件である場合でも、第1期間T1の長さの補正が適用されてもよい。例えば、補正部26は、補正情報検出部24により検出された動作環境に基づいて、所定の条件で使用される閾値を補正することにより、第1期間T1の長さを補正してもよい。
【0123】
また、補正情報は、ヘッドユニット3の温度、及び、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度の少なくとも一方を含む動作環境に限定されない。例えば、補正情報検出部24は、第1の印刷処理が印刷処理として実行され、第1の印刷処理の次に第2の印刷処理が印刷処理として実行される場合、第1の印刷処理に対応する印刷処理期間PTPの終了からの経過時間を補正情報として検出してもよい。すなわち、補正情報検出部24は、印刷処理期間PTPが終了する度に、印刷処理期間PTPの終了からの経過時間を計測してもよい。この場合、印刷処理期間PTPの終了からの経過時間には、インクジェットプリンター1の電源がオフされることによる待機時間が含まれてもよい。
【0124】
印刷処理期間PTPの終了からの経過時間を補正情報検出部24が計測する場合、補正情報検出部24は、「時間計測部」の一例である。印刷処理期間PTPの終了からの経過時間を補正情報検出部24が計測する場合、補正部26は、第2の印刷処理に対応する印刷処理期間PTPの第1期間T1の長さを、補正情報検出部24により検出された経過時間に基づいて補正する。例えば、第1の印刷処理に対応する印刷処理期間PTPから第2の印刷処理に対応する印刷処理期間PTPまでの間隔、すなわち、印刷処理期間PTPの終了からの経過時間が大きい場合、経過時間が小さい場合に比べて、ノズル内のインクの粘度は増加する。従って、補正部26は、例えば、補正情報検出部24により検出された経過時間が大きい場合、経過時間が小さい場合に比べて、第1期間T1が長くなるように、第1期間T1の長さを補正する。この場合においても、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されるタイミングと第1期間T1の終了タイミングとを精度よく合わせることができる。
【0125】
以上、本変形例においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本変形例では、インクジェットプリンター1は、ヘッドユニット3の温度、及び、ヘッドユニット3の周囲の空間の湿度の少なくとも一方を含む動作環境を検出する補正情報検出部24と、補正情報検出部24により検出された動作環境に基づいて、第1期間T1の長さを補正する補正部26と有する。これにより、本変形例では、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されるタイミングと第1期間T1の終了タイミングとを精度よく合わせることができる。
【0126】
また、本変形例では、インクジェットプリンター1は、第1の印刷処理が印刷処理として実行され、第1の印刷処理の次に第2の印刷処理が印刷処理として実行される場合、第1の印刷処理に対応する印刷処理期間PTPの終了からの経過時間を計測する補正情報検出部24と、第2の印刷処理に対応する印刷処理期間PTPの第1期間T1の長さを、補正情報検出部24により検出された経過時間に基づいて補正する補正部26と有してもよい。この場合においても、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されるタイミングと第1期間T1の終了タイミングとを精度よく合わせることができる。
【0127】
[第2変形例]
上述した実施形態及び変形例において、インクジェットプリンター1は、図12に示す粘度検出ユニット6を有してもよい。
【0128】
図12は、第2変形例に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示すブロック図である。図1から図11において説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。本変形例では、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件が図7に示した第4条件である場合を想定する。すなわち、本変形例では、第1期間T1の終了タイミングが、吐出部D内のインクの粘度が所定粘度以下になるタイミングに基づいて定まる場合を想定する。
【0129】
図12に示すインクジェットプリンター1は、駆動信号生成ユニット4及びヘッドユニット3の代わりに駆動信号生成ユニット4A及びヘッドユニット3Aを有すること、及び、粘度検出ユニット6を有することを除いて、図1に示したインクジェットプリンター1と同様である。なお、駆動制御部22により生成される波形指定信号dCOM等の信号も、図1に示したインクジェットプリンター1と相違する。
【0130】
駆動信号生成ユニット4Aは、インクをノズルN内のインクを吐出させないようにノズルN内のインクを振動させる駆動信号COMを生成することを除いて、図1に示した駆動信号生成ユニット4と同様である。すなわち、駆動信号生成ユニット4Aは、駆動制御部22から供給される波形指定信号dCOMに基づいて、複数の駆動信号COMを生成する。複数の駆動信号COMは、例えば、図13及び図14において後述される駆動信号COMa及びCOMbを含む。
【0131】
ヘッドユニット3Aは、切替回路31の代わりに切替回路31Aを有すること、及び、検出回路33を有することを除いて、図1に示したヘッドユニット3と同様である。
【0132】
切替回路31Aは、印刷信号SIに基づいて、吐出部D[m]が有する圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]の電位を示す検出信号Vout[m]を、検出回路33に供給するか否かを切り替えることを除いて、図1に示した切替回路31と同様である。なお、検出信号Vout[m]は、印刷処理期間PTPに検出回路33に繰り返し供給されることが好ましい。さらに、検出信号Vout[m]は、印刷処理期間PTPの開始から定期的に、検出回路33に供給されることがより好ましい。
【0133】
検出回路33は、例えば、検出信号Vout[m]が供給される度に、残留振動信号Vd[m]を検出信号Vout[m]に基づいて生成する。そして、検出回路33は、検出信号Vout[m]に基づいて生成した残留振動信号Vd[m]を粘度検出ユニット6に出力する。残留振動信号Vd[m]は、吐出部D[m]内のインクの粘度の検出に用いられる。例えば、残留振動信号Vd[m]は、吐出部D[m]が個別駆動信号Vin[m]により駆動された後に、吐出部D[m]に残留している振動である残留振動の波形を示す。
【0134】
粘度検出ユニット6は、例えば、残留振動信号Vd[m]が供給される度に、吐出部D[m]内のインクの粘度を残留振動信号Vd[m]に基づいて検出する。例えば、粘度検出ユニット6は、印刷処理期間PTPにおいて、残留振動信号Vd[m]の振幅及び周期等の検出値を、インクの粘度が所定の粘度である場合の基準値と比較することにより、吐出部D[m]内のインクの粘度を検出する。そして、粘度検出ユニット6は、例えば、吐出部D[m]内のインクの粘度を示す粘度情報Rinfを生成し、生成した粘度情報Rinfを制御ユニット2に出力する。以下では、検出回路33による検出信号Vout[m]の検出対象となる吐出部D[m]を、検出対象の吐出部Dと称する場合がある。
【0135】
検出対象の吐出部Dは、例えば、図4に示した各ノズル列NLに含まれるM個の吐出部Dのうち、列の端部付近に配置された吐出部Dである。好ましくは、検出対象の吐出部Dは、例えば、図4に示した各ノズル列NLに含まれるM個の吐出部Dのうち、列の端部に配置された吐出部D[1]及びD[M]の一方又は両方である。なお、検出対象の吐出部Dは、「検査対象吐出部」の一例であり、粘度検出ユニット6は、「粘度検出部」の一例である。
【0136】
ここで、例えば、画像を印刷する際のノズルNの使用率は、ノズルNが配置された位置によって異なる。一般的に、ノズル列NLに含まれるM個の吐出部Dのうち、列の端部に配置された吐出部D[1]及びD[M]が有するノズルNの使用率は、他の吐出部Dが有するノズルNの使用率よりも低くなる傾向にある。このため、列の端部に配置された吐出部D[1]及びD[M]が有するノズルN内のインクは、他の吐出部Dが有するノズルN内のインクに比べて、増粘が進行する傾向にある。また、列の端部に配置された吐出部D[1]及びD[M]では、リザーバ325の側壁にインクが触れること、及び、インク取入口327からの距離が列の中付近に配置された吐出部Dに比べて長いこと等により、インクの粘度が列の中付近に配置された吐出部Dに比べて増加する傾向にある。
【0137】
このため、ノズル列NLに含まれるM個の吐出部Dのうち、列の端部に配置された吐出部D[1]及びD[M]の一方又は両方を検出対象の吐出部Dに設定することにより、粘度が増加する傾向にあるインクの粘度を検出することができる。例えば、列の中央付近に配置された吐出部Dを検出対象の吐出部Dに設定した態様では、検出対象の吐出部D内のインクの粘度が所定粘度以下であっても、他の吐出部D、例えば、列の端部に配置された吐出部D内のインクの粘度が所定粘度以上である場合がある。これに対し、列の端部に配置された吐出部Dを検出対象の吐出部Dに設定した態様では、上述したように、粘度が増加する傾向にあるインクの粘度が検出される。このため、列の端部に配置された吐出部Dを検出対象の吐出部Dに設定した態様では、検出対象の吐出部D内のインクの粘度が所定粘度以下の場合に、他の吐出部D内のインクの粘度が所定粘度以上である頻度を低くすることができる。従って、列の端部に配置された吐出部Dを検出対象の吐出部Dに設定した態様では、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出される前に画像の印刷が双方向印刷に切り替わることを抑制することができる。
【0138】
駆動制御部22は、例えば、粘度検出ユニット6から受ける粘度情報Rinfに基づいて、吐出部D[m]内のインクの粘度が所定粘度以下であるか否かを判定する。すなわち、駆動制御部22は、第1期間T1の終了タイミングに関する所定の条件が満たされたか否かを粘度情報Rinfに基づいて判定する。例えば、駆動制御部22は、所定の条件、すなわち、図7に示した第4条件が満たされた場合、印刷データIMGの示す画像の印刷を単方向印刷から双方向印刷に切り替える。
【0139】
次に、図13を参照しつつ、ヘッドユニット3Aの概要について説明する。
【0140】
図13は、図12に示したヘッドユニット3Aの構成の一例を示すブロック図である。図5において説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0141】
ヘッドユニット3Aは、図12において説明したように、切替回路31A、記録ヘッド32、及び検出回路33を有する。また、ヘッドユニット3は、配線La、配線Li[m]、配線Ld、配線Lb及び配線Lsを有する。配線La、配線Li[m]及び配線Ldは、図5において説明した配線La、配線Li[m]及び配線Ldと同様である。但し、配線Laには、駆動信号COMとして駆動信号COMaが駆動信号生成ユニット4Aから供給される。配線Lbには、駆動信号COMとして駆動信号COMbが駆動信号生成ユニット4Aから供給される。配線Lsは、検出信号Voutを検出回路33に供給するための配線である。
【0142】
切替回路31Aは、接続状態指定回路310の代わりに接続状態指定回路310Aを有すること、及び、M個のスイッチSWb[1]~SWb[M]とM個のスイッチSWs[1]~SWs[M]とを有することを除いて、図5に示した切替回路31と同様である。M個のスイッチSWb[1]~SWb[M]は、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応して設けられる。同様に、M個のスイッチSWs[1]~SWs[M]は、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応して設けられる。
【0143】
接続状態指定回路310Aは、M個のスイッチSWa、M個のスイッチSWb及びM個のスイッチSWsの各々の接続状態を指定する。例えば、接続状態指定回路310は、駆動制御部22から供給される印刷信号SI、ラッチ信号LAT、及び、期間規定信号Tsigの少なくとも一部の信号に基づいて、接続状態指定信号Qa[m]、Qb[m]及びQs[m]を生成する。接続状態指定信号Qb[m]は、スイッチSWb[m]のオンオフを指定する信号であり、接続状態指定信号Qs[m]は、スイッチSWs[m]のオンオフを指定する信号である。
【0144】
スイッチSWb[m]は、接続状態指定信号Qb[m]に基づいて、配線Lbと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。すなわち、スイッチSWb[m]は、接続状態指定信号Qb[m]に基づいて、配線Lbと、上部電極Zu[m]に接続された配線Li[m]との、導通及び非導通を切り替える。本変形例において、スイッチSWb[m]は、接続状態指定信号Qb[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。スイッチSWb[m]がオンする場合、配線Lbに供給される駆動信号COMbが、個別駆動信号Vin[m]として、吐出部D[m]の上部電極Zu[m]に配線Li[m]を介して供給される。
【0145】
スイッチSWs[m]は、接続状態指定信号Qs[m]に基づいて、配線Lsと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。すなわち、スイッチSWs[m]は、接続状態指定信号Qs[m]に基づいて、配線Lsと、上部電極Zu[m]に接続された配線Li[m]との、導通及び非導通を切り替える。本変形例において、スイッチSWs[m]は、接続状態指定信号Qs[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。
【0146】
例えば、接続状態指定信号Qs[m]は、吐出部D[m]が検出対象の吐出部Dである場合に、ハイレベルになる。これにより、スイッチSWs[m]がオンし、検出対象の吐出部Dである吐出部D[m]の上部電極Zu[m]の電位を示す検出信号Vout[m]が、配線Li[m]及び配線Lsを介して検出回路33に供給される。検出回路33は、検出信号Vout[m]に基づいて残留振動信号Vd[m]を生成する。
【0147】
次に、図14を参照しつつ、単位期間Tuにおけるインクジェットプリンター1の動作について説明する。
【0148】
図14は、第2変形例に係るインクジェットプリンター1の動作の一例を示すタイミングチャートである。なお、図14では、単位期間Tuにおけるインクジェットプリンター1の動作の一例を示すタイミングチャートが示されている。図6において説明した要素と同様の要素については、同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。例えば、駆動信号COMaは、ノズルNからインクを吐出させる駆動信号COMであり、図6に示した駆動信号COMと同様である。
【0149】
本変形例に係るインクジェットプリンター1は、各単位期間Tuにおいて、検出対象の吐出部Dを駆動すること、及び、当該検出対象の吐出部Dからの検出信号Vout[m]を検出することができる。図14では、検出対象の吐出部Dに供給される駆動信号COMbを中心に説明する。
【0150】
例えば、駆動信号生成ユニット4Aは、パルスPWSを有する駆動信号COMbを出力する。なお、単位期間Tuにおける駆動信号COMbの波形がパルスPWSに該当する。本変形例では、パルスPWSの最高電位である電位VHsと最低電位である電位VLsとの電位差が、パルスPWAの最高電位である電位VHaと最低電位である電位VLaとの電位差よりも小さくなるように、パルスPWSを定める。具体的には、パルスPWSを有する駆動信号COMbを吐出部D[m]に供給する場合、吐出部D[m]からインクが吐出されない程度に吐出部D[m]が駆動されるように、パルスPWSの波形を定める。なお、パルスPWSは、開始時及び終了時の電位が電位V0に設定されている。
【0151】
また、例えば、駆動制御部22は、パルスPLSt1及びパルスPLSt2を有する期間規定信号Tsigを出力する。これにより、駆動制御部22は、単位期間Tuを、パルスPLLの開始からパルスPLSt1の開始までの制御期間TSS1と、パルスPLSt1の開始からパルスPLSt2の開始までの制御期間TSS2と、パルスPLSt2の開始から次のパルスPLLの開始までの制御期間TSS3と、に区分する。
【0152】
そして、個別指定信号Sd[m]が吐出部D[m]を、検出対象の吐出部Dとして指定する場合、接続状態指定回路310Aは、接続状態指定信号Qa[m]を、単位期間Tuにおいてローレベルに設定し、接続状態指定信号Qb[m]を、制御期間TSS1及びTSS3においてハイレベルに、制御期間TSS2においてローレベルに、それぞれ設定し、接続状態指定信号Qs[m]を、制御期間TSS1及びTSS3においてローレベルに、制御期間TSS2においてハイレベルに、それぞれ設定する。
【0153】
この場合、検出対象の吐出部Dは、制御期間TSS1において駆動信号COMbのパルスPWSにより駆動される。具体的には、検出対象の吐出部Dが有する圧電素子PZは、制御期間TSS1において駆動信号COMbのパルスPWSにより変位させられる。その結果、検出対象の吐出部Dにおいて振動が生じる。制御期間TSS1において生じた振動は、制御期間TSS2においても残留する。そして、制御期間TSS2において、検出対象の吐出部Dが有する圧電素子PZの上部電極Zuの電位は、検出対象の吐出部Dにおいて生じている残留振動に応じて変化する。すなわち、制御期間TSS2において、検出対象の吐出部Dが有する圧電素子PZの上部電極Zuの電位は、検出対象の吐出部Dにおいて生じている残留振動に起因する圧電素子PZの起電力に応じた電位になる。そして、当該上部電極Zuの電位は、制御期間TSS2において、検出信号Voutとして検出される。
【0154】
なお、本変形例においても、第1変形例と同様に、制御ユニット2は、補正情報検出部24及び補正部26として機能してもよい。
【0155】
以上、本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。また、本変形例では、インクジェットプリンター1は、インクの粘度を検出する粘度検出ユニット6をさらに有する。ヘッドユニット3は、インクを吐出する複数の吐出部Dを有する。複数の吐出部Dは、少なくとも1つの検査対象の吐出部Dを含む。粘度検出ユニット6は、印刷処理期間PTPに、検査対象の吐出部D内のインクの粘度を繰り返し検出する。そして、第1期間T1の終了タイミングは、粘度検出ユニット6により検出された粘度が所定粘度以下になるタイミングに基づいて定まる。このように、本変形例では、第1期間T1の終了タイミングは、検査対象の吐出部D内のインクの粘度が所定粘度以下になるタイミングに基づいて定まる。このため、本変形例では、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出されるタイミングと第1期間T1の終了タイミングとを精度よく合わせることができる。
【0156】
また、本変形例では、複数の吐出部Dは、X軸方向に交差するY軸方向に列状に延在するように配置される。検査対象の吐出部Dは、複数の吐出部Dのうち、Y軸方向に延在する列の端部に配置された吐出部Dである。このように、本変形例では、列の端部に配置された吐出部Dを検出対象の吐出部Dに設定することにより、粘度が増加する傾向にあるインクの粘度を検出することができる。この結果、本変形例では、増粘したインクが単方向印刷による吐出で排出される前に画像の印刷が双方向印刷に切り替わることを抑制することができる。
【0157】
[第3変形例]
上述した実施形態及び変形例では、ノズルNからインクを吐出させる駆動信号COMが1つの場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、ノズルNからインクを吐出させる駆動信号COMとして、ドットの大きさに応じた複数の駆動信号COMが用いられてもよい。
【0158】
以上、本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0159】
[第4変形例]
上述した実施形態及び変形例では、個別駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化することにより、圧電素子PZがZ1方向に変位する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、個別駆動信号Vin[m]の電位が高電位から低電位に変化することにより、Z1方向に変位する圧電素子PZが用いられてもよい。この場合、例えば、駆動信号COMの電位は、膨張要素に該当する部分において低電位から高電位に変化し、収縮要素に該当する部分において高電位から低電位に変化する。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0160】
[第5変形例]
上述した実施形態及び変形例では、各ヘッドユニット3が1本のノズル列NLを有する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、各ヘッドユニット3は、複数のノズル列NLを有してもよい。同様に、各ヘッドユニット3Aは、複数のノズル列NLを有してもよい。本変形例においても、上述した実施形態及び変形例と同様の効果を得ることができる。
【0161】
[第6変形例]
上述した実施形態及び変形例では、インクジェットプリンター1が4個のヘッドユニット3を有する場合を例示したが、本発明はこのような態様に限定されるものではない。例えば、インクジェットプリンター1は、1個以上3個以下のヘッドユニット3を有してもよいし、5個以上のヘッドユニット3を有してもよい。あるいは、インクジェットプリンター1は、1個以上3個以下のヘッドユニット3Aを有してもよいし、5個以上のヘッドユニット3Aを有してもよい。
【符号の説明】
【0162】
1…インクジェットプリンター、2…制御ユニット、3、3A…ヘッドユニット、4、4A…駆動信号生成ユニット、6…粘度検出ユニット、7…搬送ユニット、8…メンテナンスユニット、22…駆動制御部、24…補正情報検出部、26…補正部、31、31A…切替回路、32…記録ヘッド、33…検出回路、D…吐出部、N…ノズル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14