(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141437
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電子写真機器用帯電ロール
(51)【国際特許分類】
G03G 15/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G03G15/02 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053091
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 仁宏
(72)【発明者】
【氏名】森田 晃年
(72)【発明者】
【氏名】堀内 健
【テーマコード(参考)】
2H200
【Fターム(参考)】
2H200FA07
2H200FA18
2H200HA02
2H200HB12
2H200HB22
2H200MA03
2H200MA14
2H200MA17
2H200MA20
2H200MB02
2H200MB04
2H200MB06
2H200MB07
2H200MC01
2H200MC03
2H200MC06
(57)【要約】
【課題】放電量を少なくしても帯電性に優れる電子写真機器用帯電ロールを提供する。
【解決手段】軸体12と、軸体12の外周面上に形成された弾性体層14と、弾性体層14の外周面上に形成された表層16と、を備え、弾性体層14は、非極性ゴム、極性ゴムおよびカーボンブラックを含有し、比誘電率が7以上29以下、抵抗値が6.0×10
4Ω以上5.0×10
6Ω以下であり、表層16は、フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂を含有し、比誘電率が10以上22以下、抵抗値が1.2×10
4Ω以上8.8×10
5Ω以下である、電子写真機器用帯電ロール10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、前記弾性体層の外周面上に形成された表層と、を備え、
前記弾性体層は、非極性ゴム、極性ゴムおよびカーボンブラックを含有し、比誘電率が7以上29以下、抵抗値が6.0×104Ω以上5.0×106Ω以下であり、
前記表層は、フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂を含有し、比誘電率が10以上22以下、抵抗値が1.2×104Ω以上8.8×105Ω以下である、電子写真機器用帯電ロール。
【請求項2】
前記弾性体層の表面における前記非極性ゴムと前記極性ゴムの面積比が、非極性ゴム:極性ゴム=9:1~7:3である、請求項1に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項3】
前記非極性ゴムは、イソプレンゴムまたは天然ゴムであり、前記極性ゴムが、ニトリルゴムまたはヒドリンゴムである、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項4】
前記カーボンブラックは、平均粒子径が36nm以上80nm以下であり、DBP吸収量と比表面積の積が1728以上5445以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項5】
前記カーボンブラックの含有量は、前記非極性ゴムと前記極性ゴムの合計100質量部に対し、15質量部以上50質量部以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項6】
前記弾性体層は、イオン導電剤を含まない組成物で構成されている、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項7】
前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の含有量比が、質量比で、フッ素樹脂:(メタ)アクリル樹脂=9.5:0.5~7:3である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項8】
前記フッ素樹脂は、比誘電率が8以上10以下、体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項9】
前記フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデンである、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項10】
前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の体積抵抗率の差が、0.2logΩ以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項11】
前記フッ素樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が40%以上50%以下であり、前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が45%以上50%以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項12】
前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率の差が0.1GPa以下であり、弾性回復率の差が5%以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項13】
前記フッ素樹脂の引張強度が、28MPa以上40MPa以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項14】
前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の比誘電率の差が、2以下である、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項15】
前記表層は、さらに、粗さ形成用粒子を含有する、請求項1または請求項2に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項16】
前記粗さ形成用粒子は、多孔質粒子である、請求項15に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【請求項17】
前記弾性体層の表面における前記非極性ゴムと前記極性ゴムの面積比が、非極性ゴム:極性ゴム=9:1~7:3であり、
前記非極性ゴムは、イソプレンゴムまたは天然ゴムであり、前記極性ゴムが、ニトリルゴムまたはヒドリンゴムであり、
前記カーボンブラックは、平均粒子径が36nm以上80nm以下であり、DBP吸収量と比表面積の積が1728以上5445以下であり、
前記カーボンブラックの含有量は、前記非極性ゴムと前記極性ゴムの合計100質量部に対し、15質量部以上50質量部以下であり、
前記弾性体層は、イオン導電剤を含まない組成物で構成されており、
前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の含有量比が、質量比で、フッ素樹脂:(メタ)アクリル樹脂=9.5:0.5~7:3であり、
前記フッ素樹脂は、比誘電率が8以上10以下、体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下であり、
前記フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデンであり、
前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の体積抵抗率の差が、0.2logΩ以下であり、
前記フッ素樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が40%以上50%以下であり、前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が45%以上50%以下であり、
前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率の差が0.1GPa以下であり、弾性回復率の差が5%以下であり、
前記フッ素樹脂の引張強度が、28MPa以上40MPa以下であり、
前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の比誘電率の差が、2以下であり、
前記表層は、さらに、粗さ形成用粒子を含有し、
前記粗さ形成用粒子は、多孔質粒子である、請求項1に記載の電子写真機器用帯電ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において好適に用いられる電子写真機器用帯電ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真機器の帯電ロールは、芯金などで構成される軸体と、軸体の外周面上に形成された弾性体層と、弾性体層の外周面上に形成された表層と、を有する構成が知られている。弾性体層は、イソプレンゴムなどのゴム材料で構成され、表層は、アクリル樹脂などの樹脂材料で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電子写真機器の帯電ロールは、帯電ロールから感光体への放電によって感光体を帯電させる帯電システムがよく採られているが、感光体を十分に帯電させるため、放電量を多くすると、オゾンやNOxなどの有害物質が多く発生し、環境悪化や画像悪化のおそれがある。一方、放電量が少ないと、帯電量が不十分となって画像悪化のおそれがある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、放電量を少なくしても帯電性に優れる電子写真機器用帯電ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電子写真機器用帯電ロールは、軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、前記弾性体層の外周面上に形成された表層と、を備え、前記弾性体層は、非極性ゴム、極性ゴムおよびカーボンブラックを含有し、比誘電率が7以上29以下、抵抗値が6.0×104Ω以上5.0×106Ω以下であり、前記表層は、フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂を含有し、比誘電率が10以上22以下、抵抗値が1.2×104Ω以上8.8×105Ω以下である。
【0007】
前記弾性体層の表面における前記非極性ゴムと前記極性ゴムの面積比は、非極性ゴム:極性ゴム=9:1~7:3であるとよい。前記非極性ゴムは、イソプレンゴムまたは天然ゴムであり、前記極性ゴムは、ニトリルゴムまたはヒドリンゴムであるとよい。前記カーボンブラックは、平均粒子径が36nm以上80nm以下であり、DBP吸収量と比表面積の積が1728以上5445以下であるとよい。前記カーボンブラックの含有量は、前記非極性ゴムと前記極性ゴムの合計100質量部に対し、15質量部以上50質量部以下であるとよい。前記弾性体層は、イオン導電剤を含まない組成物で構成されているとよい。前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の含有量比は、質量比で、フッ素樹脂:(メタ)アクリル樹脂=9.5:0.5~7:3であるとよい。前記フッ素樹脂は、比誘電率が8以上10以下、体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下であるとよい。前記フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデンであるとよい。前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の体積抵抗率の差は、0.2logΩ以下であるとよい。前記フッ素樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が40%以上50%以下であり、前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が45%以上50%以下であるとよい。前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率の差が0.1GPa以下であり、弾性回復率の差が5%以下であるとよい。前記フッ素樹脂の引張強度は、28MPa以上40MPa以下であるとよい。前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の比誘電率の差は、2以下であるとよい。前記表層は、さらに、粗さ形成用粒子を含有するとよい。前記粗さ形成用粒子は、多孔質粒子であるとよい。
【0008】
(1)本発明に係る電子写真機器用帯電ロールは、軸体と、前記軸体の外周面上に形成された弾性体層と、前記弾性体層の外周面上に形成された表層と、を備え、前記弾性体層は、非極性ゴム、極性ゴムおよびカーボンブラックを含有し、比誘電率が7以上29以下、抵抗値が6.0×104Ω以上5.0×106Ω以下であり、前記表層は、フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂を含有し、比誘電率が10以上22以下、抵抗値が1.2×104Ω以上8.8×105Ω以下である。
【0009】
(2)上記(1)において、前記弾性体層の表面における前記非極性ゴムと前記極性ゴムの面積比は、非極性ゴム:極性ゴム=9:1~7:3であるとよい。
【0010】
(3)上記(1)または上記(2)において、前記非極性ゴムは、イソプレンゴムまたは天然ゴムであり、前記極性ゴムは、ニトリルゴムまたはヒドリンゴムであるとよい。
【0011】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれか1において、前記カーボンブラックは、平均粒子径が36nm以上80nm以下であり、DBP吸収量と比表面積の積が1728以上5445以下であるとよい。
【0012】
(5)上記(1)から上記(4)のいずれか1において、前記カーボンブラックの含有量は、前記非極性ゴムと前記極性ゴムの合計100質量部に対し、15質量部以上50質量部以下であるとよい。
【0013】
(6)上記(1)から上記(5)のいずれか1において、前記弾性体層は、イオン導電剤を含まない組成物で構成されているとよい。
【0014】
(7)上記(1)から上記(6)のいずれか1において、前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の含有量比は、質量比で、フッ素樹脂:(メタ)アクリル樹脂=9.5:0.5~7:3であるとよい。
【0015】
(8)上記(1)から上記(7)のいずれか1において、前記フッ素樹脂は、比誘電率が8以上10以下、体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下であるとよい。
【0016】
(9)上記(1)から上記(8)のいずれか1において、前記フッ素樹脂は、ポリフッ化ビニリデンであるとよい。
【0017】
(10)上記(1)から上記(9)のいずれか1において、前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の体積抵抗率の差は、0.2logΩ以下であるとよい。
【0018】
(11)上記(1)から上記(10)のいずれか1において、前記フッ素樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が40%以上50%以下であり、前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が45%以上50%以下であるとよい。
【0019】
(12)上記(1)から上記(11)のいずれか1において、前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率の差が0.1GPa以下であり、弾性回復率の差が5%以下であるとよい。
【0020】
(13)上記(1)から上記(12)のいずれか1において、前記フッ素樹脂の引張強度が、28MPa以上40MPa以下であるとよい。
【0021】
(14)上記(1)から上記(13)のいずれか1において、前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の比誘電率の差が、2以下であるとよい。
【0022】
(15)上記(1)から上記(14)のいずれか1において、前記表層は、さらに、粗さ形成用粒子を含有するとよい。
【0023】
(16)上記(15)において、前記粗さ形成用粒子は、多孔質粒子であるとよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る電子写真機器用帯電ロールによれば、弾性体層が、非極性ゴム、極性ゴムおよびカーボンブラックを含有し、比誘電率が7以上29以下、抵抗値が6.0×104Ω以上5.0×106Ω以下であり、表層が、フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂を含有し、比誘電率が10以上22以下、抵抗値が1.2×104Ω以上8.8×105Ω以下であることから、帯電ロールから感光体への放電量が少なくなり、オゾンやNOxなどの有害物質の発生が抑えられ、これによる環境悪化や画像悪化が抑えられる。また、上記構成により、帯電ロールと感光体の接地部分で電荷の移動が起きやすくなっており、帯電ロールから感光体に電荷が注入されることにより感光体を所望の帯電量に帯電させることができる。これにより、放電量を少なくしても帯電性に優れる。
【0025】
ここで、前記弾性体層の表面における前記非極性ゴムと前記極性ゴムの面積比が、非極性ゴム:極性ゴム=9:1~7:3であると、弾性体層の比誘電率を特定範囲内にしやすい。
【0026】
そして、前記非極性ゴムが、イソプレンゴムまたは天然ゴムであり、前記極性ゴムが、ニトリルゴムまたはヒドリンゴムであると、弾性体層の比誘電率を特定範囲内にしやすい。
【0027】
そして、前記カーボンブラックは、平均粒子径が36nm以上80nm以下であり、DBP吸収量と比表面積の積が1728以上5445以下であると、カーボンブラックを所望の誘電率にして弾性体層の比誘電率を特定範囲内にしやすい。
【0028】
そして、前記カーボンブラックの含有量が、前記非極性ゴムと前記極性ゴムの合計100質量部に対し、15質量部以上50質量部以下であると、弾性体層の抵抗値と比誘電率を特定範囲内にしやすい。
【0029】
そして、前記弾性体層がイオン導電剤を含まない組成物で構成されていると、弾性体層の比誘電率が上がりすぎず、弾性体層の比誘電率を特定範囲内にしやすい。
【0030】
そして、前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の含有量比が、質量比で、フッ素樹脂:(メタ)アクリル樹脂=9.5:0.5~7:3であると、表層の比誘電率を特定範囲内にしやすい。
【0031】
そして、前記フッ素樹脂は、比誘電率が8以上10以下、体積抵抗率が1.0×1013Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下であると、フッ素樹脂が比較的、高誘電率で低抵抗であるから、表層を高誘電率で低抵抗にしやすい。また、このとき、フッ素樹脂による帯電性の効果も維持しやすい。
【0032】
そして、前記フッ素樹脂がポリフッ化ビニリデンであると、比較的、高誘電率で低抵抗であるから、表層を高誘電率で低抵抗にしやすい。また、このとき、フッ素樹脂による帯電性の効果も維持しやすい。
【0033】
そして、前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の体積抵抗率の差が0.2logΩ以下であると、帯電ロールから感光体への電荷の注入ムラが小さくなる。
【0034】
そして、前記フッ素樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が40%以上50%以下であり、前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率が0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率が45%以上50%以下であると、回転時に感光体から受ける圧力に対する帯電ロールの変形が均一になり、局所的な応力集中が起こりにくい。
【0035】
そして、前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率の差が0.1GPa以下であり、弾性回復率の差が5%以下であると、感光体から受ける物理的応力による表層の割れが抑えられやすい。これにより、耐久性が向上する。
【0036】
そして、前記フッ素樹脂の引張強度が28MPa以上40MPa以下であると、表層の強度が向上し、耐久性が向上する。
【0037】
そして、前記フッ素樹脂と前記(メタ)アクリル樹脂の比誘電率の差が2以下であると、帯電ロールから感光体への放電ムラが小さくなる。
【0038】
そして、前記表層がさらに粗さ形成用粒子を含有すると、感光体と帯電ロールとの間に好適な放電空間を形成することができる。このとき、前記粗さ形成用粒子が多孔質粒子であると、表層のバインダー樹脂と粗さ形成用粒子がより一体化し、表層を割れにくくすることができる。また、抵抗を一体化し、注入電荷が一様になるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電子写真機器用帯電ロールの外観模式図(a)と、そのA-A線断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明に係る電子写真機器用帯電ロール(以下、単に帯電ロールということがある。)について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る電子写真機器用帯電ロールの外観模式図(a)と、そのA-A線断面図(b)である。
【0041】
帯電ロール10は、軸体12と、軸体12の外周面上に形成された弾性体層14と、弾性体層14の外周面上に形成された表層16と、を備える。弾性体層14は、帯電ロール10のベースとなる層(基層)である。表層16は帯電ロール10の表面に現れる層となっている。
【0042】
軸体12は、導電性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属製の中実体、中空体からなる芯金などを例示することができる。軸体12の表面には、必要に応じて、接着剤、プライマーなどを塗布しても良い。つまり、弾性体層14は、接着剤層(プライマー層)を介して軸体12に接着されていてもよい。接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行っても良い。
【0043】
弾性体層14は、非極性ゴム、極性ゴムおよびカーボンブラックを含有し、比誘電率が7以上29以下、抵抗値が6.0×104Ω以上5.0×106Ω以下である。
【0044】
弾性体層14の非極性ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、水添イソプレンゴム、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)、シリコーンゴム(Q)などが挙げられる。これらは、弾性体層14の非極性ゴムとして単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。これらのうちでは、高抵抗で誘電相としての効果に優れるなどの観点から、イソプレンゴム、天然ゴムが好ましい。
【0045】
弾性体層14の極性ゴムとしては、ニトリルゴム(NBR)、ヒドリンゴム、ウレタンゴム(U)、アクリルゴム(アクリル酸エステルと2-クロロエチルビニルエーテルとの共重合体、ACM)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。ヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリンの単独重合体(CO)、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)、エピクロルヒドリン-アリルグリシジルエーテル二元共重合体(GCO)、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)などが挙げられる。これらは、弾性体層14の極性ゴムとして単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。これらのうちでは、より低抵抗である、比誘電率が高いなどの観点から、ニトリルゴム(NBR)、ヒドリンゴムが好ましい。
【0046】
非極性ゴムと極性ゴムの組み合わせとしては、弾性体層14の比誘電率を特定範囲内にしやすいなどの観点から、非極性ゴムがイソプレンゴムまたは天然ゴムであり、極性ゴムがニトリルゴムまたはヒドリンゴムであることが好ましい。
【0047】
非極性ゴムと極性ゴムの含有量比としては、混ぜ方にもよるが、弾性体層14の表面において非極性ゴムと極性ゴムの面積比を特定範囲にしやすいなどの観点から、質量比で、非極性ゴム:極性ゴム=8:2~6:4であることが好ましい。より好ましくは非極性ゴム:極性ゴム=8:2~7:3である。
【0048】
非極性ゴムと極性ゴムは、弾性体層14の表面において、面積比が非極性ゴム:極性ゴム=9:1~7:3であることが好ましい。これにより、弾性体層14の比誘電率を特定範囲内にしやすくすることができる。また、この観点から、上記面積比は、より好ましくは非極性ゴム:極性ゴム=9:1~8:2である。
【0049】
弾性体層14のカーボンブラックは、弾性体層14の抵抗値と比誘電率の調整に貢献する。弾性体層14のカーボンブラックは、弾性体層14の抵抗値と比誘電率を特定範囲内にしやすいなどの観点から、平均粒子径が36nm以上80nm以下であり、DBP吸収量(吸油量)と比表面積の積が1728以上5445以下であることが好ましい。なお、DBP吸収量と比表面積の積は、カーボンブラックのカルボニル基や水酸基などの官能基の量に関係し、カーボンブラックの抵抗値および比誘電率に関係する。カーボンブラックの平均粒径は、カーボンブラックを電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径で表される。カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K6221に準拠してカーボンブラック100gが吸収するDBP(ジブチルフタレート)量から算出される。カーボンブラックの比表面積は、BET法にて測定される値である。
【0050】
また、弾性体層14のカーボンブラックは、抵抗値と比誘電率のバランスが良いなどの観点から、DBP吸収量は、69cm3/100g以上121cm3/100g以下が好ましい。また、弾性体層14のカーボンブラックは、ゴムとの接地面積がちょうど良いことから、添加量のばらつき許容度が高く、狙いの抵抗値と誘電率を制御しやすいなどの観点から、45m2/g以上58m2/g以下が好ましい。
【0051】
弾性体層14において、カーボンブラックの含有量は、弾性体層14の抵抗値と比誘電率を特定範囲内にしやすいなどの観点から、非極性ゴムと極性ゴムの合計100質量部に対し、15質量部以上50質量部以下であることが好ましい。より好ましくは20質量部以上45質量部以下、さらに好ましくは25質量部以上40質量部以下である。
【0052】
弾性体層14は、イオン導電剤を含まない組成物で構成されているとよい。弾性体層14がイオン導電剤を含まない組成物で構成されていると、弾性体層14の比誘電率が上がりすぎず、弾性体層14の比誘電率を特定範囲内にしやすい。
【0053】
弾性体層14には、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。添加剤としては、滑剤、加硫促進剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、発泡剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などを挙げることができる。
【0054】
弾性体層14の厚みは、特に限定されるものではなく、用途などに応じて0.1~10mmの範囲内などで適宜設定すればよい。
【0055】
表層16は、フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂を含有し、比誘電率が10以上22以下、抵抗値が1.2×104Ω以上8.8×105Ω以下である。
【0056】
フッ素樹脂は、比較的高誘電率で低抵抗のものが好ましい。フッ素樹脂の比誘電率は、8以上10以下が好ましい。また、フッ素樹脂の体積抵抗率は、1.0×1013Ω・cm以上1.0×1014Ω・cm以下であることが好ましい。フッ素樹脂の比誘電率および体積抵抗率が上記範囲内であると、フッ素樹脂が比較的、高誘電率で低抵抗であるから、表層16を高誘電率で低抵抗にしやすい。また、このとき、フッ素樹脂による帯電性の効果も維持しやすい。
【0057】
フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。フッ素樹脂がポリフッ化ビニリデンであると、比較的、高誘電率で低抵抗であるから、表層を高誘電率で低抵抗にしやすい。また、このとき、フッ素樹脂による帯電性の効果も維持しやすい。
【0058】
ここで、フッ素樹脂の比誘電率を上記範囲よりも大きいものとすると、フッ素樹脂単体で用いても表層16の比誘電率を所望の値にすることができる。しかし、フッ素樹脂の比誘電率を上記範囲よりも大きいものとするためには、フッ素樹脂を変性する必要がある。変性によりフッ素樹脂を用いることの効果が低下するため、フッ素樹脂単体では表層16の比誘電率を所望の値にすることが難しい。そこで、表層16では、表層16の比誘電率を所望の値にするため、フッ素樹脂とともに(メタ)アクリル樹脂を用いることとしている。なお、表層16の樹脂成分を(メタ)アクリル樹脂単独とすると、比誘電率が高すぎるため、表層16の比誘電率を所望の値にすることが難しい。
【0059】
(メタ)アクリル樹脂は、アクリル樹脂およびメタクリル樹脂から選択される樹脂である。(メタ)アクリル樹脂としては、(メタ)アクリレートの重合体(単独重合体または共重合体)が挙げられる。(メタ)アクリレートは、単官能、多官能のいずれであってもよい。
【0060】
単官能の(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート,エチル(メタ)アクリレート,プロピル(メタ)アクリレート,ブチル(メタ)アクリレート,イソアミル(メタ)アクリレート,2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート,ラウリル(メタ)アクリレート,ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート,エトキシエチル(メタ)アクリレート,ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート,ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート等のフェノキシアルキル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート,メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート,メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0061】
多官能の(メタ)アクリレートとしては、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルキルジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルに不飽和カルボン酸や不飽和アルコール等のエチレン性不飽和結合と活性水素を持つ化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の不飽和エポキシ化合物とカルボン酸やアミンのような活性水素を有する化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド等の多価(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼン等の多価ビニル化合物等が挙げられる。
【0062】
(メタ)アクリル樹脂は、比誘電率、体積抵抗率、押込ヤング率、弾性回復率などの観点から、メタクリル樹脂がより好ましい。また、(メタ)アクリル樹脂は、比誘電率、体積抵抗率、押込ヤング率、弾性回復率などの観点から、アルキル(メタ)アクリレート、シクロアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0063】
フッ素樹脂と(メタ)アクリル樹脂は、含有量比が、質量比で、フッ素樹脂:(メタ)アクリル樹脂=9.5:0.5~7:3であるとよい。これにより、表層16の比誘電率を特定範囲内にしやすい。上記含有量比は、より好ましくはフッ素樹脂:(メタ)アクリル樹脂=9:1~7:3、さらに好ましくはフッ素樹脂:(メタ)アクリル樹脂=8:2~7:3である。
【0064】
また、フッ素樹脂と(メタ)アクリル樹脂は、比誘電率の差が2以下であるとよい。これにより、帯電ロール10から感光体への放電ムラが小さくなる。また、フッ素樹脂と(メタ)アクリル樹脂は、体積抵抗率の差が0.2logΩ以下であるとよい。これにより、帯電ロール10から感光体への電荷の注入ムラが小さくなる。
【0065】
ここで、フッ素樹脂の押込ヤング率は、0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率は、40%以上50%以下、(メタ)アクリル樹脂の押込ヤング率は、0.65GPa以上0.75GPa以下、弾性回復率は、45%以上50%以下であることが好ましい。これにより、回転時に感光体から受ける圧力に対する帯電ロール10の変形が均一になり、局所的な応力集中が起こりにくい。また、フッ素樹脂と(メタ)アクリル樹脂は、押込ヤング率の差が0.1GPa以下であり、弾性回復率の差が5%以下であるとよい。これにより、感光体から受ける物理的応力による表層16の割れが抑えられやすく、耐久性が向上する。押込ヤング率は、シート状サンプルから微小押し込み硬さ試験機を用いて測定することができる。弾性回復率は、シート状サンプルから引張試験機を用いて測定することができる。
【0066】
そして、フッ素樹脂は、引張強度が28MPa以上40MPa以下であるとよい。これにより、表層16の強度が向上し、耐久性が向上する。フッ素樹脂の引張強度は、破断時伸びシート状サンプルから引張試験機を用いて破断時伸びにて測定することができる。
【0067】
表層16は、粗さ形成用粒子を含んでいてもよい。粗さ形成用粒子は、表層16の表面に粗さを付与するための粒子である。つまり、表層16の表面に凹凸を付与するための粒子である。表層16の表面凹凸は、感光体と帯電ロール10との間における放電空間を形成する。
【0068】
粗さ形成用粒子は、樹脂製粒子、無機粒子などが用いられる。粗さ形成用粒子は、ソリッド粒子であってもよいし、多孔質粒子であってもよい。粗さ形成用粒子が多孔質粒子であると、表層16のバインダー樹脂であるフッ素樹脂や(メタ)アクリル樹脂と粗さ形成用粒子がより一体化し、表層16を割れにくくすることができる。また、抵抗を一体化し、注入電荷が一様になるようにすることができる。
【0069】
粗さ形成用粒子の材質としては、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルシリコーン樹脂、シリコーングラフト(メタ)アクリルポリマー、(メタ)アクリルグラフトシリコーンポリマー、ウレタンゴム、シリカなどを挙げることができる。これらのうちでは、表層16のバインダー樹脂との親和性、一体化などの観点から、(メタ)アクリル樹脂がより好ましい。
【0070】
粗さ形成用粒子の大きさは、特に限定されるものではないが、均一な帯電性を確保しやすいなどの観点から、平均粒子径3.0μm以上50μm以下のものが好ましい。より好ましくは、平均粒子径5.0μm以上30μm以下のものが好ましい。粗さ形成用粒子の平均粒子径は、表層16の表面をレーザー顕微鏡にて観察し、表面観察時に見える粗さ形成用粒子の直径を粒径とし、任意の20点の平均で表す。
【0071】
粗さ形成用粒子の表層16における含有量は、特に限定されるものではないが、均一な帯電性を確保しやすいなどの観点から、表層16のバインダー樹脂100質量部に対し、3質量部以上50質量部以下であることが好ましい。より好ましくは5質量部以上30質量部以下である。
【0072】
表層16には、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。
【0073】
表層16の厚さは、特に限定されるものではなく、0.1~3.0μmの範囲などに設定するとよい。表層16の厚さは、レーザー顕微鏡(例えばキーエンス製「VK-9510」など)を用いて断面を観察することにより測定することができる。例えば任意の位置の5か所について、弾性体層14の表面から表層16の表面までの距離をそれぞれ測定し、その平均によって表すことができる。
【0074】
帯電ロール10は、軸体の外周面上に弾性体層14を形成し、弾性体層14の外周面上に表層16を形成することにより、作製することができる。
【0075】
弾性体層14は、例えば、次のようにして形成することができる。まず、軸体12をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、未架橋の弾性体層形成用組成物を注入して、加熱・硬化(架橋)させた後、脱型するか、あるいは、軸体12の表面に未架橋の弾性体層形成用組成物を押出成形するなどにより、軸体の外周に弾性体層14を形成する。
【0076】
表層16を形成するには、表層形成用組成物を用いる。表層形成用組成物は、上記主材料、必要に応じて含有されるその他の添加剤を含有するものからなる。
【0077】
表層形成用組成物は、粘度を調整するなどの観点から、メチルエチルケトン、トルエン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、THF、DMFなどの有機溶剤や、メタノール、エタノールなどの水溶性溶剤などの溶剤を適宜含んでいても良い。
【0078】
表層16は、弾性体層14の外周面上に表層形成用組成物を塗工するなどの方法により、形成できる。塗工方法としては、ロールコーティング法や、ディッピング法、スプレーコート法などの各種コーティング法を適用することができる。塗工された表層16には、必要に応じて、紫外線照射や熱処理を行なっても良い。
【0079】
以上の構成の帯電ロール10は、弾性体層14が、非極性ゴム、極性ゴムおよびカーボンブラックを含有し、比誘電率が7以上29以下、抵抗値が6.0×104Ω以上5.0×106Ω以下であり、表層16が、フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂を含有し、比誘電率が10以上22以下、抵抗値が1.2×104Ω以上8.8×105Ω以下である。このため、帯電ロール10から感光体への放電量が少なくなり、オゾンやNOxなどの有害物質の発生が抑えられ、これによる環境悪化や画像悪化が抑えられる。また、上記構成により、帯電ロール10と感光体の接地部分で電荷の移動が起きやすくなっており、帯電ロール10から感光体に電荷が注入されることにより、感光体を所望の帯電量に帯電させることができる。これにより、放電量を少なくしても帯電性に優れる。
【0080】
表層16あるいは弾性体層14の比誘電率が特定範囲より高すぎると、電荷をためすぎて帯電ロール10から感光体への接触部における電荷の移動が起きにくくなる。一方、この比誘電率が特定範囲より低すぎると、帯電ロール10から感光体への放電が多くなり、オゾンやNOxなどの有害物質の発生が多くなる。また、表層16あるいは弾性体層14の抵抗値が特定範囲より高すぎると、帯電ロール10から感光体への接触部における電荷の移動が起きにくくなる。一方、この抵抗値が特定範囲より低すぎると、帯電ロール10から感光体への放電が多くなり、オゾンやNOxなどの有害物質の発生が多くなる。
【0081】
また、上記観点から、弾性体層14の比誘電率は、より好ましくは10以上、15以上である。また、25以下、20以下である。そして、弾性体層14の抵抗値は、より好ましくは8.0×104Ω以上、1.0×105Ω以上である。また、1.0×106Ω以下、5.0×105Ω以下である。同様に、表層16の比誘電率は、より好ましくは12以上、14以上である。また、20以下、18以下である。そして、表層16の抵抗値は、より好ましくは2.0×104Ω以上、5.0×104Ω以上である。また、8.0×105Ω以下、5.0×105Ω以下である。
【0082】
弾性体層14の比誘電率および抵抗値を上記範囲にするには、非極性ゴムをベースにして極性ゴムを少量使用するとともにカーボンブラックの選定を行うとよい。非極性ゴムと極性ゴムの組み合わせは、上記で挙げたものから好適な組み合わせを選択することができる。非極性ゴムと極性ゴムは、相溶性が低いため、含有比としては表面における面積比が重要となる。面積比を上記特定範囲とすることで、弾性体層14の比誘電率を特定範囲内にしやすい。カーボンブラックは、平均粒子径およびDBP吸収量と比表面積の積が重要な因子であり、特にカーボンブラックの比誘電率の指標となるDBP吸収量と比表面積の積を好適なものに選定するとよい。
【0083】
表層16の比誘電率および抵抗値を上記範囲にするには、フッ素樹脂でも比較的誘電率が高めでより低抵抗なものをベースに選択しつつ、フッ素樹脂より誘電率の高い(メタ)アクリル樹脂を少量使用するとよい。フッ素樹脂としては、上記特定の比誘電率および体積抵抗率を有するものが好ましい。フッ素樹脂と(メタ)アクリル樹脂は、含有量比を上記特定範囲とすることで、表層16の比誘電率を特定範囲内にしやすい。フッ素樹脂と(メタ)アクリル樹脂は、押込ヤング率および弾性回復率の近いものを選択することで、感光体から受ける物理的応力による表層16の割れが抑えられ、耐久性が向上する。
【実施例0084】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0085】
(実施例1-7、比較例1-10)
<弾性体層形成用組成物の調製>
表に示す配合割合(質量部)にて、極性ゴム、非極性ゴム、カーボンブラックを配合し、過酸化物架橋剤、加硫助剤、触媒を配合し、これらを攪拌機により撹拌、混合して、弾性体層形成用組成物を調製した。
【0086】
<弾性体層の作製>
成形金型(パイプ状)に芯金(直径8mm)をセットし、弾性体層形成用組成物を注入し、180℃で30分加熱した後、冷却、脱型して、芯金の外周に、厚さ1.9mmの弾性体層を成形した。
【0087】
<表層形成用組成物の調製>
表に示す配合割合(質量部)にて、フッ素樹脂、(メタ)アクリル樹脂、カーボンブラック、粗さ形成用粒子を配合し、メチルエチルケトン(MEK)で希釈し、所定の攪拌速度で混合攪拌することにより、表層形成用組成物を調製した。
【0088】
<表層の作製>
表層形成用組成物の攪拌を続けながら、弾性体層の外周面にロールコートし、熱処理を施すことにより、弾性体層の外周に厚さ1.0μmの表層を形成した。これにより、帯電ロールを作製した。
【0089】
弾性体層形成用組成物の材料として、以下の材料を準備した。
(極性ゴム)
・極性ゴム<1>(NBR):日本ゼオン製「Nipol 1041」
・極性ゴム<2>(ECO):日本ゼオン製「Hydrin H1100」
・極性ゴム<3>(CR):デンカ製「デンカクロロプレンDCR-107」
(非極性ゴム)
・非極性ゴム<1>(IR):日本ゼオン製「Nipol IR2200」
・非極性ゴム<2>(NR):マクセルクレハ製「GW540N」
・非極性ゴム<3>(BR):UBEエラストマー製「UBEPOL BR130B」
(カーボンブラック)
・カーボンブラック<1>:三菱化学製「三菱カーボンブラック♯25」、平均粒径47nm、吸油量(DBP吸収量)69cm3/100g、比表面積55m2/g
・カーボンブラック<2>:三菱化学製「三菱カーボンブラック♯20」、平均粒径50nm、吸油量(DBP吸収量)121cm3/100g、比表面積45m2/g
・カーボンブラック<3>:東海カーボン製「TOKABLACK♯7270SB」、平均粒径36nm、吸油量(DBP吸収量)62cm3/100g、比表面積58m2/g
・カーボンブラック<4>:三菱化学製「ダイアブラックG」、平均粒径80nm、吸油量(DBP吸収量)84cm3/100g、比表面積28m2/g
・カーボンブラック<5>:日鉄カーボン製「HTC♯SSRF」、平均粒径68nm、吸油量(DBP吸収量)72cm3/100g、比表面積24m2/g
・カーボンブラック<6>:旭カーボン製「旭#70L」、平均粒径25nm、吸油量(DBP吸収量)85cm3/100g、比表面積75m2/g
【0090】
表層形成用組成物の材料として、以下の材料を準備した。
(フッ素樹脂)
・フッ素樹脂<1>(PVDF):アルケマ製「カイナー711」、体積抵抗率1.0×1014Ω・cm、比誘電率8、押し込みヤング率0.65GPa、弾性回復率40%
・フッ素樹脂<2>(PVDF):アルケマ製「カイナーHSV900」、体積抵抗率1.0×1013Ω・cm、比誘電率10、押し込みヤング率0.75GPa、弾性回復率50%
・フッ素樹脂<3>(PTFE+PFA):ダイキン工業製「ネオフロンPFA AP-230AS」、体積抵抗率1.4×1013Ω・cm、比誘電率8.2、押し込みヤング率0.71GPa、弾性回復率48%
・フッ素樹脂<4>(PVDF):クレハ製「KFポリマー#1000」、体積抵抗率2.1×1014Ω・cm、比誘電率7.6、押し込みヤング率0.72GPa、弾性回復率40%
((メタ)アクリル樹脂)
・(メタ)アクリル樹脂<1>(PMMA):三菱ケミカル製「ダイヤナールBR107」、比誘電率10、押し込みヤング率0.65GPa、弾性回復率50%
・(メタ)アクリル樹脂<2>(PMMA):三菱ケミカル製「アクリペットIRH50001」、比誘電率11、押し込みヤング率0.75GPa、弾性回復率40%
(カーボンブラック)
・カーボンブラック:トクシキ製「9027BLACK」
(粗さ形成用粒子)
・粗さ形成用粒子<1>(PMMA):積水化成製「テクポリマーMBP-8」、平均粒径8μm、多孔質粒子
・粗さ形成用粒子<2>(PMMA):綜研化学製「ケミスノーMZ-8HN」、平均粒径8μm、ソリッド粒子
【0091】
(試料の作製方法)
アセトンと水(9:1)の混合溶媒に5wt%となるよう樹脂(フッ素樹脂またはアクリル樹脂)を添加し、24hr羽根攪拌にて溶解し、それを28℃×60%RH環境下にてキャストし、その後100℃で30minの焼成を経て、各樹脂で構成された測定サンプル(シート状)を作製した。
【0092】
(試料の物性測定方法)
(体積抵抗率)
得られたシート状サンプルについて、JIS K7194に準拠して、HIOKI製抵抗計RM3545、HIOKI製4探針プローブRM9010-01を用い、体積抵抗率を測定した。
【0093】
(誘電率)
得られたシート状サンプルについて、JIS C2138に準拠して、プレシジョンLCRメータ E4980A(アジレント・テクノロジー製)にて10kHzを印加して測定した。
【0094】
(押込ヤング率)
得られたシート状サンプルについて、ナノインデンテーション法に基づき、超微小押し込み硬さ試験機(ナノインデンテーション・テスター:エリオニク社製ENT-1100a)を用い、押し込みヤング率を測定した。
【0095】
(弾性回復率)
得られたシート状サンプルについて、JIS K6251に準拠して、引張試験機(東洋精機製作所製「AE-Fストログラフ」)を用い、弾性回復率を測定した。
【0096】
(引張強度)
得られたシート状サンプルについて、JIS K6251に準拠して、引張試験機(東洋精機製作所製「AE-Fストログラフ」)を用い、破断時伸びを測定した。
【0097】
(弾性体層の比誘電率)
表層を形成する前の弾性体層を1cm×1cm×0.3cmのサンプル片として切り出し、得られたシート状サンプルについて、JIS C2138に準拠して、プレシジョンLCRメータ E4980A(アジレント・テクノロジー製)にて10kHzを印加して測定した。
【0098】
(表層の比誘電率)
表層形成用組成物を28℃×60%RH環境下にてキャストし、その後100℃で30minの焼成を経て、表層形成用組成物で構成された測定サンプル(シート状)を作製した。得られたシート状サンプルについて、JIS C2138に準拠して、プレシジョンLCRメータ E4980A(アジレント・テクノロジー製)にて10kHzを印加して測定した。
【0099】
(弾性体層の抵抗値)
表層を形成する前の弾性体層を1cm×1cm×0.3cmのサンプル片として切り出し、得られたシート状サンプルについて、JIS K7194に準拠して、HIOKI製抵抗計RM3545、HIOKI製4探針プローブRM9010-01を用い、抵抗値を測定した。
【0100】
(表層の抵抗値)
表層形成用組成物を28℃×60%RH環境下にてキャストし、その後100℃で30minの焼成を経て、表層形成用組成物で構成された測定サンプル(シート状)を作製した。得られたシート状サンプルについて、JIS K7194に準拠して、HIOKI製抵抗計RM3545、HIOKI製4探針プローブRM9010-01を用い、抵抗値を測定した。
【0101】
(ゴムの表面存在面積比)
表層を形成する前の弾性体層を11cm×1cm×0.3cmのサンプル片として切り出し、それをOs染色法にて染色した後、走査電子顕微鏡にて2000倍率で観察した。Os染色により色の濃い部分と薄い部分とがそれぞれゴムの存在を表すので占有面積を測定した。
【0102】
(評価/判定方法)
作製した帯電ロールを実機(RICOH製「IM C8000」)のユニット(ブラック)に取り付け、10℃×10%RH環境下にて25%濃度ハーフトーンにて画出しを行い、100万枚耐久後の評価を行った。
【0103】
(白黒点):帯電性(放電量)
画像に白点や黒点がなかったものを非常に良好「◎」、数点あるが濃度が薄く許容範囲のものを良好「○」、多数発見され濃度が濃い場合を許容外「×」とした。
【0104】
(カブリ):帯電性(帯電量)
画像にカブリがなかったものを非常に良好「◎」、数点あるが濃度が薄く許容範囲のものを良好「○」、多数発見され濃度が濃い場合を許容外「×」とした。
【0105】
(ムラ):防汚性
画像にムラがなかったものを非常に良好「◎」、ムラが生じたが薄く許容範囲のものを良好「○」、画像に濃いムラが生じたものを許容外「×」とした。
【0106】
(クラック):耐久性
ロール表面にクラックがなかったものを非常に良好「◎」、クラックが数点あるが画像に影響ないものを良好「○」とした。
【0107】
【0108】
【0109】
比較例1は、弾性体層の表面における極性ゴムの面積比が小さすぎて、弾性体層の比誘電率が小さすぎる。このため、放電量が多くなりすぎて、白黒点の画像悪化が生じている。比較例3は、弾性体層の表面における極性ゴムの面積比が大きすぎて、弾性体層の比誘電率が大きすぎる。このため、帯電不足でカブリの画像悪化が生じている。比較例2は、弾性体層のカーボンブラックの含有量が少なく、弾性体層の抵抗値が大きすぎる。このため、帯電不足でカブリの画像悪化が生じている。比較例4は、弾性体層のカーボンブラックの含有量が多く、弾性体層の抵抗値が小さすぎる。このため、放電量が多くなりすぎて、白黒点の画像悪化が生じている。
【0110】
比較例5は、表層におけるフッ素樹脂の含有量が多すぎて、表層の比誘電率が小さすぎる。このため、放電量が多くなりすぎて、白黒点の画像悪化が生じている。比較例7は、表層におけるフッ素樹脂の含有量が少なすぎて、表層の比誘電率が大きすぎる。このため、帯電不足でカブリの画像悪化が生じている。比較例6は、表層のカーボンブラックの含有量が少なく、表層の抵抗値が大きすぎる。このため、帯電不足でカブリの画像悪化が生じている。比較例8は、表層のカーボンブラックの含有量が多く、表層の抵抗値が小さすぎる。このため、放電量が多くなりすぎて、白黒点の画像悪化が生じている。
【0111】
比較例9は、弾性体層のカーボンブラックの吸油量と比表面積の積が大きく、弾性体層の比誘電率が大きすぎる。このため、帯電不足でカブリの画像悪化が生じている。また、弾性体層の抵抗値も小さすぎる。このため、放電量が多くなりすぎて、白黒点の画像悪化が生じている。比較例10は、表層のフッ素樹脂の比誘電率が7.6と小さく、表層の比誘電率が小さすぎる。このため、放電量が多くなりすぎて、白黒点の画像悪化が生じている。また、体積抵抗率が2.1×1014Ω・cmと大きく、表層の抵抗値が大きい。このため、帯電不足でカブリの画像悪化が生じている。
【0112】
これに対し、実施例は、弾性体層が、非極性ゴム、極性ゴムおよびカーボンブラックを含有し、比誘電率が7以上29以下、抵抗値が6.0×104Ω以上5.0×106Ω以下であり、表層が、フッ素樹脂および(メタ)アクリル樹脂を含有し、比誘電率が10以上22以下、抵抗値が1.2×104Ω以上8.8×105Ω以下である。このため、放電量が少なくなり、白黒点の画像悪化が抑えられる。また、上記構成により、電荷の移動が起きやすくなっており、放電量を少なくしても帯電性に優れる。このため、帯電不足によるカブリの画像悪化も抑えられる。
【0113】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。