(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141441
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】塗装検査システム、及び塗装検査支援システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20241003BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241003BHJP
G06V 10/145 20220101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
G06T7/00 350B
G06V10/145
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053099
(22)【出願日】2023-03-29
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 旭
(72)【発明者】
【氏名】松本 暢二
【テーマコード(参考)】
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AA07
2G051AB12
2G051AC21
2G051BB07
2G051CA04
2G051CB01
2G051EB05
5L096AA02
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA02
5L096DA02
5L096DA03
5L096FA32
5L096GA08
5L096HA11
5L096KA04
5L096KA15
(57)【要約】
【課題】塗装検査の精度を向上させる。
【解決手段】塗装検査システム(100)は、複数の部分工程からなる塗装工程により対象物(1)を塗装するために用いられる。塗装検査システム(100)は、検査部(20)と判定部(30)とを備える。検査部(20)は、塗装工程により対象物(1)を塗装した後の塗装状態の良/不良を判定する。判定部(30)は、「複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」と「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」とを予め関連付けたデータ(31)と、検査部(20)が不良と判定した塗装状態とに基づき、複数の部分工程のうち当該不良の原因となった不良工程を特定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部分工程からなる塗装工程により対象物(1)を塗装するために用いられる塗装検査システム(100)であって、
前記塗装工程により前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態の良/不良を判定する検査部(20)と、
前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータと前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態とを予め関連付けたデータ(31)と、前記検査部(20)が不良と判定した塗装状態とに基づき、前記複数の部分工程のうち当該不良の原因となった不良工程を特定する判定部(30)と
を備える、
塗装検査システム。
【請求項2】
請求項1の塗装検査システムにおいて、
前記対象物(1)を撮像する撮像部(10)を備え、
前記検査部(20)は、前記撮像部(10)が撮像した前記対象物(1)の画像データに基づき、前記対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する、
塗装検査システム。
【請求項3】
請求項2の塗装検査システムにおいて、
前記画像データは、少なくともノーマル画像及び形状画像を含む、
塗装検査システム。
【請求項4】
請求項3の塗装検査システムにおいて、
前記画像データは、縞パターン照明により得られる、
塗装検査システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項の塗装検査システムにおいて、
前記検査部(20)は、機械学習モデル(21,22)を用いて前記対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する、
塗装検査システム。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項の塗装検査システムにおいて、
前記判定部(30)による前記不良工程の特定に応じて、当該不良工程で不良が発生していること、又は当該不良工程に関連する異常情報を報知する報知部(40)を備える、
塗装検査システム。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項の塗装検査システムにおいて、
前記複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、
前記センシングデータは、前記脱脂工程の処理液の温度及び圧力、前記電着塗装工程の塗料温度、並びに前記複数の部分工程のそれぞれにおける前記対象物(1)の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含む、
塗装検査システム。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項の塗装検査システムにおいて、
前記塗装状態の良/不良の判定は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つを対象とする、
塗装検査システム。
【請求項9】
複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いる塗装検査支援システム(150)であって、
前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ、及び前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態を学習データとして、機械学習モデル(161)を生成する生成部(160)を備え、
前記機械学習モデル(161)は、前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、前記複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される、
塗装検査支援システム。
【請求項10】
複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いる塗装検査支援システム(150)であって、
前記複数の部分工程に用いられる塗装装置(2)の物理モデル(171)に基づく多変量解析によって、前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータと前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態との相関を示す前記物理モデル(171)のパラメータを取得する取得部(170)を備え、
前記物理モデル(171)は、前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、前記複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される、
塗装検査支援システム。
【請求項11】
請求項9又は10の塗装検査支援システムにおいて、
前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態をセンシングして前記センシングデータを取得するセンシング部(180)をさらに備える、
塗装検査支援システム。
【請求項12】
請求項9又は10の塗装検査支援システムにおいて、
前記複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、
前記センシングデータは、前記脱脂工程の処理液の温度及び圧力、前記電着塗装工程の塗料温度、並びに前記複数の部分工程のそれぞれにおける前記対象物の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含む、
塗装検査支援システム。
【請求項13】
請求項9又は10の塗装検査支援システムにおいて、
前記塗装状態の不良は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つである、
塗装検査支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗装検査システム、及び塗装検査支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物を塗装した後の塗装状態の外観検査では、作業者が全数目視検査を実施し、目視で検知できる塗装不良が発見されたら不良品と判定して当該不良品をラインアウトしたいた。
【0003】
しかし、作業者の目視検査により塗装不良の有無を確認すると、作業者により検査基準が異なる場合があり、対象物の品質が安定しない。
【0004】
特許文献1には、検査部位の画像を取得し、画像の特徴量をニューラルネットワークに入力し検査員の検査結果を教師データとして学習することにより検査対象の欠陥を自動的に判定する表面欠陥検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、対象物を塗装した後の塗装状態は多様であり、塗装状態の外観検査においては、塗装状態を撮影した画像に対して、機械学習を用いた画像処理を施して塗装不良の種類を自動で特定する技術は未だ確立されていない。
【0007】
また、不良が多数発生した場合、作業者が過去の経験に基づいて塗装工程のどこに原因があるか検討して塗装工程の修正を行っているため、作業者によるばらつきが大きく、不良原因の究明に時間がかかったり、正しい不良原因を特定できずに不良が再発するなどの問題が生じている。
【0008】
本開示の目的は、塗装検査の精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様は、複数の部分工程からなる塗装工程により対象物(1)を塗装するために用いられる塗装検査システム(100)を対象とし、塗装検査システム(100)は、検査部(20)と、判定部(30)とを備える。検査部(20)は、前記塗装工程により前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態の良/不良を判定する。判定部(30)は、「前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」と「前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態」とを予め関連付けたデータ(31)と、前記検査部(20)が不良と判定した塗装状態とに基づき、前記複数の部分工程のうち当該不良の原因となった不良工程を特定する。
【0010】
第1の態様では、「塗装工程の各部分工程の状態を取得したセンシングデータ」と「対象物(1)の塗装状態」とを関連付けたデータ(31)を予め準備し、不良と判定した塗装状態を当該データ(31)と照合することにより、不良工程を特定する。このため、作業者の経験に依存せずに塗装検査を行えるので、検査精度を向上させることができる。
【0011】
第2の態様は、第1の態様において、前記対象物(1)を撮像する撮像部(10)を備え、前記検査部(20)は、前記撮像部(10)が撮像した前記対象物(1)の画像データに基づき、前記対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する。
【0012】
第2の態様では、対象物(1)の画像データに基づき、対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定するため、不良判定を容易に行うことができる。
【0013】
第3の態様は、第2の態様において、前記画像データは、少なくともノーマル画像及び形状画像を含む。
【0014】
第3の態様では、ノーマル画像を用いて、画像の濃淡(彩度、輝度、RGB等)として、キズ、剥がれ、低光沢、凝集、薄い塗厚などの不良を検出できると共に、形状画像を用いて、微小な凹凸として、塗装ムラなどの不良を検出できる。
【0015】
第4の態様は、第3の態様において、前記画像データは、縞パターン照明により得られる。
【0016】
第4の態様では、縞パターン照明によりノーマル画像及び形状画像を同時に取得することができる。また、縞パターン照明により対象物(1)の塗装面に生じる縞のうねりパターンから、塗装面の凹凸を取得することができる。
【0017】
第5の態様は、第1~第4の態様のいずれか1つにおいて、前記検査部(20)は、機械学習モデル(21,22)を用いて前記対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する。
【0018】
第5の態様では、例えば、塗装不良の画像を教師データとして学習した機械学習モデル(21,22)を用いて、対象物(1)の塗装状態を撮像した画像データから、塗装状態の良/不良を高精度で判定することができる。
【0019】
第6の態様は、第1~第5のいずれか1つの態様において、前記判定部(30)による前記不良工程の特定に応じて、当該不良工程で不良が発生していること、又は当該不良工程に関連する異常情報を報知する報知部(40)をさらに備える。
【0020】
第6の態様では、作業者等が、塗装工程での不良の発生や、不良の詳しい情報(塗装装置(2)の設備やパラメータ等の異常)を報知部(40)によって知ることができる。
【0021】
第7の態様は、第1~第6のいずれか1つの態様において、前記複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、前記センシングデータは、前記脱脂工程の処理液の温度及び圧力、前記電着塗装工程の塗料温度、並びに前記複数の部分工程のそれぞれにおける前記対象物(1)の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含む。
【0022】
第7の態様では、脱脂工程、電着塗装工程等での不良の発生の有無を特定することができる。
【0023】
第8の態様は、第1~第7のいずれか1つの態様において、前記塗装状態の良/不良の判定は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つを対象とする。
【0024】
第8の態様では、個々の不良モードに応じて、不良工程を特定することができる。
【0025】
第9の態様は、複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いる塗装検査支援システム(150)を対象とし、塗装検査支援システム(150)は、前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ、及び前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態を学習データとして、機械学習モデル(161)を生成する生成部(160)を備える。前記機械学習モデル(161)は、前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、前記複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される。
【0026】
第9の態様では、様々な塗装不良に対応するセンシングデータを教師データとして学習した機械学習モデル(161)を用いて、対象物(1)を塗装した後の塗装状態から、不良工程を高精度で特定することができる。
【0027】
第10の態様は、複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いる塗装検査支援システム(150)を対象とし、塗装検査支援システム(150)は、前記複数の部分工程に用いられる塗装装置(2)の物理モデルに基づく多変量解析によって、前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータと前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態との相関を示す前記物理モデル(171)のパラメータを取得する取得部(170)を備える。前記物理モデル(171)は、前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、前記複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される。
【0028】
第10の態様では、各部分工程のセンシングデータと様々な塗装不良との相関を示す物理モデル(171)のパラメータを多変量解析によって取得し、当該パラメータを用いて、対象物(1)を塗装した後の塗装状態から、不良工程を高精度で特定することができる。
【0029】
第11の態様は、第9又は第10の態様において、前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態をセンシングして前記センシングデータを取得するセンシング部(180)をさらに備える。
【0030】
第11の態様では、取得したセンシングデータを用いて、対象物(1)の塗装状態から不良工程を特定可能に構成された機械学習モデル(161)又は物理モデル(171)を得ることができる。
【0031】
第12の態様は、第9~第11のいずれか1つの態様において、前記複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、前記センシングデータは、前記脱脂工程の処理液の温度及び圧力、前記電着塗装工程の塗料温度、並びに前記複数の部分工程のそれぞれにおける前記対象物(1)の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含む。
【0032】
第12の態様では、機械学習モデル(161)又は物理モデル(171)によって、脱脂工程、電着塗装工程等での不良の発生の有無を特定することができる。
【0033】
第13の態様は、第9~第12のいずれか1つの態様において、前記塗装状態の不良は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つである。
【0034】
第13の態様では、機械学習モデル(161)又は物理モデル(171)によって、個々の不良モードに応じて、不良工程を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、実施形態に係る塗装検査システム、及び塗装検査支援システムのそれぞれの概略構成の一例を示す。
【
図2】
図2は、実施形態に係る塗装検査システムによる塗装検査の処理フローの一例を示す。
【
図3】
図3は、縞パターン照明により得られた同一サンプルの複数の画像を示す。
【
図6】
図6は、圧縮機の塗装面に生じた様々な塗装不良の画像を示す。
【
図7】
図7は、塗装工程を構成する複数の部分工程の状態を取得したセンシングデータ、及び、対象物を塗装した後の塗装状態の検査結果のそれぞれの一例を示す。
【
図8】
図8は、
図7に示すデータを多変量解析して得られた物理モデルのパラメータの一例を示す。
【
図9】
図9は、
図8に示すパラメータから特定された不良工程の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(実施形態)
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。尚、本開示は、以下に示される実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内で各種の変更が可能である。各図面は、本開示を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために必要に応じて寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表す場合がある。以下の実施形態に記載の各種のパラメータの具体的な数値は単なる一例であり、それに限られるものではない。
【0037】
<塗装検査システムの構成>
実施形態に係る塗装検査システム(100)は、複数の部分工程からなる塗装工程により対象物(1)を塗装するために用いられる。対象物(1)は、例えば圧縮機である。複数の部分工程は、実施する順番に、例えば、脱脂、水洗、超音波水洗、表面調整、リン酸亜鉛化成被膜、水洗、電着塗装、水洗、焼付け乾燥である。
【0038】
図1に示すように、塗装検査システム(100)は、主として、検査部(20)と判定部(30)とを備える。塗装検査システム(100)は、撮像部(10)と報知部(40)とをさらに備えてもよい。
【0039】
検査部(20)は、塗装工程により対象物(1)を塗装した後の塗装状態の良/不良を判定する。検査部(20)は、対象物(1)の塗装面に、例えば、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つが検出された場合、不良と判定する。検査部(20)は、機械学習モデル(21,22)を用いて対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定してもよい。
【0040】
判定部(30)は、「複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」と「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」とを予め関連付けたデータ(31)(以下、関連データ(31)という)と、検査部(20)が不良と判定した塗装状態とに基づき、複数の部分工程のうち当該不良の原因となった不良工程を特定する。判定部(30)は、例えば、塗装不良の無い良品の対象物(1)における各部分工程のセンシングデータと、塗装不良と判定された対象物(1)における各部分工程のセンシングデータとを比較して、両データの相違箇所に該当する部分工程を不良工程として特定する。
【0041】
センシングデータは、複数の部分工程のそれぞれに用いられる設備である塗装装置(2)において、部分工程を実施する際の設備の状態をセンシングして取得される。センシング項目は、例えば、前処理工程である脱脂における脱脂処理液の濃度、温度及び圧力並びに脱脂ノズル流量、前処理工程である純水水洗における純水の圧力、流量及び電気伝導率、前処理工程であるエアブローの流量、電着塗装工程における塗料の温度及び電気伝導率並びに塗装電圧、後処理工程であるUF(限外ろ過)水洗におけるUF洗浄の圧力及び流量、後処理工程である純水水洗における純水の圧力及び電気伝導率、後処理工程である焼付け乾燥の温度などである。
【0042】
関連データ(31)については、後記の<塗装検査支援システム>で詳しく説明する。
【0043】
検査部(20)及び判定部(30)はそれぞれ、例えば、プロセッサと、プロセッサを動作させるためのプログラムや情報を記憶するメモリとから構成される。検査部(20)と判定部(30)とは、相互に画像等のデータの授受が可能に構成される。検査部(20)は、撮像した画像等のデータを記憶するために、例えばハードディスク等の記憶部を有していてもよい。判定部(30)は、検査部(20)から送信された画像等のデータを記憶するために、例えばハードディスク等の記憶部を有していてもよい。検査部(20)及び判定部(30)は共通化されていてもよい。
【0044】
塗装検査システム(100)は、判定部(30)による不良工程の特定に応じて、当該不良工程で不良が発生していること、又は当該不良工程に関連する異常情報を報知する報知部(40)を備えてもよい。報知部(40)は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット、スマートフォンなどの作業者が使用する端末であってもよいし、検査用の専用端末であってもよい。判定部(30)と報知部(40)とは、判定部(30)から報知部(40)へ情報を送信できるように、有線又は無線を介して互いに接続される。検査部(20)と判定部(30)と報知部(40)とは、ネットワークを介して互いに接続されてもよいし、一体化されていてもよい。
【0045】
本例では、検査部(20)は、塗装工程により対象物(1)を塗装した後の塗装状態の良/不良を判定するために、対象物(1)の画像を用いる。そのため、塗装検査システム(100)は、対象物(1)を撮像する撮像部(10)を備えてもよい。撮像部(10)は、例えば、対象物(1)の静止画を撮影するカメラである。1台又は少数の撮像部(10)で対象物(1)を撮像するために、対象物(1)は、対象物(1)を回転させる回転装置に保持されてもよい。撮像部(10)と検査部(20)とは、撮像部(10)から検査部(20)へ画像データを送信できるように、有線又は無線を介して互いに接続される。撮像部(10)と検査部(20)と判定部(30)とは、ネットワークを介して互いに接続されてもよいし、一体化されていてもよい。撮像部(10)は、検査部(20)又は判定部(30)の指令に基づき、対象物(1)を塗装した後の塗装状態を撮像するように構成されてもよい。
【0046】
本例では、撮像部(10)は、少なくともノーマル画像及び形状画像を含む画像データを取得する。そのため、塗装検査システム(100)は、対象物(1)に対して縞パターン照明を行う照明装置(15)を備えてもよい。照明装置(15)は、縞パターン照明専用の単一装置であってもよいし、縞パターン照明が可能に構成配置された複数装置であってもよい。撮像部(10)は、照明装置(15)により縞パターン照明された対象物(1)の塗装面のノーマル画像及び形状画像を取得可能に構成された専用カメラであってもよい。ノーマル画像及び形状画像については、後記の<塗装検査の処理フロー>で詳しく説明する。
【0047】
検査部(20)は、撮像部(10)が撮像した対象物(1)の画像データに基づき、対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する。検査部(20)は、塗装後の対象物(1)の画像を教師データとして学習した機械学習モデル(21,22)を用いて、対象物(1)の塗装状態を撮像した画像データから、当該塗装状態の良/不良を判定してもよい。機械学習モデル(21,22)は、ノーマル画像に対応する第1モデル(21)と、形状画像に対応する第2モデル(22)とを含んでもよい。
【0048】
機械学習モデル(21,22)は、例えば、深層学習可能な多層パーセプトロン等のニューラルネットワーク、サポートベクトルマシン又は判別関数若しくはベイジアンネットワーク等であってもよいが、特に限定されるものではない。機械学習モデル(21,22)がニューラルネットワークとして構成される場合、機械学習モデル(21,22)は、例えば、入力層と中間層と出力層との3層を有する。各層には、それぞれ1個以上のニューロンが含まれ、入力層の各ニューロンは、中間層の各ニューロンとそれぞれ接続され、中間層の各ニューロンは、出力層のニューロンとそれぞれ接続される。入力層の各ニューロンには、撮像部(10)が撮像した対象物(1)の画像データが入力される。
【0049】
機械学習モデル(21,22)を用いて、対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する前に、検査部(20)又は別の情報処理装置は、機械学習モデル(21,22)の機械学習、つまり、モデルデータの算出、例えばニューラルネットワークの設定を示すモデルデータの算出を行う。モデルデータは、例えば、ニューラルネットワークにおける層の数、各層に含まれるニューロン(ノード)の数、及び、ニューロン間の結合係数(結合荷重)を含む。検査部(20)は、モデルデータを用いて機械学習モデル(21,22)を設定し、設定後の機械学習モデル(21,22)(つまり学習済みモデル)を用いて、対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する。
【0050】
機械学習モデル(21,22)がニューラルネットワークとして構成される場合、ニューラルネットワークの機械学習においては、まず、入力層に入力情報の教師データとして、塗装不良の生じた対象物(1)の画像データを入力し、入力層から出力層へデータを伝搬させ、出力層から出力情報を得る。次に、得られた出力情報と、出力情報の教師データとを用いて、入力層と出力層との間の結合係数、及び、中間層のニューロンに割り付けられるバイアスを算出する。例えば、出力情報と教師データとの差分が小さくなるように、結合係数及びバイアスを調整する。
【0051】
以上のような機械学習の結果として、調整後の結合係数及びバイアスを含むモデルデータが生成される。モデルデータは、例えば、ニューラルネットワークにおける層の数、各層に属するニューロンの数、結合係数及びバイアスを含む。生成されたモデルデータは、例えば、検査部(20)の記憶部に記憶される。検査部(20)は、対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する前に、記憶されたモデルデータに基づいて、ニューラルネットワークを設定する。すなわち、検査部(20)は、機械学習モデル(21,22)を構成するニューラルネットワークにおける層の数、ニューロンの数、結合係数及びバイアスを、モデルデータに指定された値に設定する。このようにして、検査部(20)は、モデルデータを用いた機械学習モデル(21,22)によって、対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する。
【0052】
<塗装検査支援システムの構成>
実施形態に係る塗装検査支援システム(150)は、複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いられる。塗装検査支援システム(150)は、前述の塗装検査システム(100)の判定部(30)で用いる関連データ(31)を作成する。
【0053】
図1に示すように、塗装検査支援システム(100)は、主として、生成部(160)を備える。塗装検査支援システム(100)は、センシング部(180)をさらに備えてもよい。尚、後記の<塗装検査支援システムの変形例>で詳しく説明するように、塗装検査支援システム(100)は、生成部(160)に代えて、取得部(170)を備えてもよい。
【0054】
生成部(160)は、「塗装工程を構成する複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」、及び、「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」を学習データとして、機械学習モデル(第3モデル)(161)を生成する。学習済みの機械学習モデル(161)は、対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される。言い換えると、様々な塗装不良に対応するセンシングデータを教師データとして学習した機械学習モデル(161)を用いて、塗装検査システム(100)の判定部(30)で不良と判定された対象物(1)の塗装状態から、不良工程を特定する。学習済みの機械学習モデル(161)は、例えば、塗装不良の無い良品の対象物(1)における各部分工程のセンシングデータと、塗装不良と判定された対象物(1)における各部分工程のセンシングデータとを比較して、両データの相違箇所に該当する部分工程を不良工程として特定してもよい。
【0055】
機械学習モデル(161)は、入出力を除き、塗装検査システム(100)の検査部(20)で用いる機械学習モデル(21,22)と同様に構成されてもよい。学習済みの機械学習モデル(161)に関係するデータ(モデル本体及びモデルデータ等)は、塗装検査システム(100)の判定部(30)で用いる関連データ(31)の一例である。
【0056】
生成部(160)は、例えば、プロセッサと、プロセッサを動作させるためのプログラムや情報を記憶するメモリとから構成される。生成部(160)は、センシングデータ等のデータを記憶するために、例えばハードディスク等の記憶部を有していてもよい。生成部(160)と塗装検査システム(100)の判定部(30)とは、生成部(160)から判定部(30)へ機械学習モデル(161)に関係するデータを送信できるように、有線又は無線を介して互いに接続されてもよい。生成部(160)と判定部(30)とは、ネットワークを介して互いに接続されてもよいし、一体化されていてもよい。或いは、塗装検査システム(100)と塗装検査支援システム(150)とを非接続に構成し、生成部(160)で得られた機械学習モデル(161)に関係するデータを記憶媒体に保存し、当該記憶媒体から判定部(30)が機械学習モデル(161)に関係するデータを読み出してもよい。
【0057】
生成部(160)は、塗装検査システム(100)の検査部(20)から、「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」(例えば、塗装不良と判定された対象物(1)の画像データ)を学習データとして取得してもよい。生成部(160)と検査部(20)とは、検査部(20)から生成部(160)へ学習データを送信できるように、有線又は無線を介して互いに接続されてもよい。生成部(160)と検査部(20)とは、ネットワークを介して互いに接続されてもよいし、一体化されていてもよい。或いは、塗装検査システム(100)と塗装検査支援システム(150)とを非接続に構成し、検査部(20)で得られた学習データを記憶媒体に保存し、当該記憶媒体から生成部(160)が学習データを読み出してもよい。
【0058】
センシング部(180)は、対象となる部分工程の実施状態をリアルタイムでセンシングして、生成部(160)で用いるセンシングデータを取得する。センシング部(180)と生成部(160)とは、センシング部(180)から生成部(160)へセンシングデータを送信できるように、有線又は無線を介して互いに接続されてもよい。センシング部(180)と生成部(160)とは、ネットワークを介して互いに接続されてもよいし、一体化されていてもよい。或いは、センシング部(180)と生成部(160)とを非接続に構成し、センシング部(180)で取得したセンシングデータを記憶媒体に保存し、当該記憶媒体から生成部(160)がセンシングデータを読み出してもよい。センシング部(180)は、生成部(160)の指令に基づき、対象となる部分工程の実施状態をセンシングするように構成されてもよい。
【0059】
<塗装検査の処理フロー>
以下、塗装検査システム(100)による塗装検査の処理フローについて、ノーマル画像及び形状画像を用いて不良判定を行う場合を例として、
図2~
図6を参照しながら説明する。
【0060】
塗装工程により対象物(1)を塗装した後、ステップS1において、撮像部(10)により対象物(1)を撮像し、対象物(1)の塗装面の画像データを取得する。塗装工程は、例えば、少なくとも脱脂工程及び電着塗装工程を含む複数の部分工程からなる。
【0061】
本例では、少なくともノーマル画像及び形状画像を含む画像データを取得するために、撮像時に照明装置(15)を用いてにより対象物(1)の塗装面に対して縞パターン照明を行う。撮像部(10)は、縞パターン照明対応の専用カメラであり、1回の撮像で複数種類の異なる生画像を取得することができる。
図3は、縞パターン照明により得られた同一サンプルの8種類の生画像を例示する。
図3において、X1~X4画像は、照明の縞パターンの位相をX方向に変化させて撮像した画像であり、Y1~Y4画像は、照明の縞パターンの位相をY方向に変化させて撮像した画像である。撮像部(10)は、例えば
図3に示すような8種類の生画像を合成して、5種類の画像データ、具体的には、ノーマル画像、正反射画像、拡散反射画像、光沢比画像、形状画像を取得する。ノーマル画像は、撮像した全ての生画像を平均した画像であり、撮像対象の全体像の確認に用いられる。正反射画像は、縞パターンのうちの正反射成分のみを抽出した画像であり、光沢表面の線傷や擦れ傷などの検出に用いられる。拡散反射画像は、ノーマル画像と正反射画像との比較に基づき拡散反射成分を抽出した画像であり、異物や汚れなどの検出に用いられる。光沢比画像は、正反射画像と拡散反射画像との比較に基づき光沢に変化が有る部分を抽出した画像であり、表面のくすみなどの検出に用いられる。形状画像は、縞パターンのうねりから凹凸などの変化部を抽出した画像であり、打痕や浅い凹凸などの検出に用いられる。
図4、
図5に、ノーマル画像、形状画像のそれぞれの一例を示す。
【0062】
次に、ステップS2において、検査部(20)は、塗装不良のノーマル画像を教師データとして学習した機械学習モデル(第1モデル)(21)を用いて、対象物(1)の塗装状態を撮像したノーマル画像から、画像の濃淡(彩度、輝度、RGB等)として、凝集、傷、剥がれ、低光沢、薄い塗厚などの不良を検出する。第1モデル(21)は、例えば、判定対象のノーマル画像と、塗装不良の無い良品のノーマル画像とを比較し、両者の差異が大きい場合、不良であると判定してもよい。
【0063】
ステップS2で不良が検出されなかった場合、ステップS3において、検査部(20)は、塗装不良の形状画像を教師データとして学習した機械学習モデル(第2モデル)(22)を用いて、対象物(1)の塗装状態を撮像した形状画像から、微小な凹凸として、塗装ムラなどの不良を検出する。第2モデル(22)は、例えば、判定対象の形状画像と、塗装不良の無い良品の形状画像とを比較し、両者の差異が大きい場合、不良であると判定してもよい。
【0064】
ステップS3で不良が検出されなかった場合、ステップS4において、塗装検査システム(100)は、対象物(1)が良品であるという検査結果を作業者に報知する。検査結果は、報知部(40)に表示してもよい。その後、ステップS5において、塗装不良の無かった対象物(1)は次工程へ搬送される。
【0065】
ステップS2又はS3で不良が検出された場合、ステップS6において、塗装検査システム(100)は、対象物(1)に塗装不良が検出されたという検査結果を作業者に報知する。検査結果は、報知部(40)に表示してもよい。
図6は、対象物(1)である圧縮機の塗装面に生じた様々な塗装不良の画像を示す。
【0066】
ステップS6に続きステップS7において、判定部(30)は、関連データ(31)と、検査部(20)が不良と判定した塗装状態(本例では不良と判定されたノーマル画像又は形状画像)とに基づき、塗装工程を構成する複数の部分工程のうち当該不良の原因となった不良工程を特定する。関連データ(31)は、「複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」と「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」とを関連付けたデータである。センシングデータは、例えば、脱脂工程の処理液の温度及び圧力、電着塗装工程の塗料温度、並びに各部分工程における対象物(1)の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含む。
【0067】
本例では、関連データ(31)として、塗装検査支援システム(150)の生成部(160)で得られた機械学習モデル(第3モデル)(161)に関係するデータ(モデル本体及びモデルデータ等)を用いる。様々な塗装不良に対応するセンシングデータを教師データとして学習した第3モデル(161)を用いて、判定部(30)で不良と判定された対象物(1)の塗装状態(ノーマル画像又は形状画像)から、不良工程を特定することができる。尚、後記の<塗装検査支援システムの変形例>で説明するように、関連データ(31)として、塗装検査支援システム(150)の取得部(170)で得られた物理モデル(171)に関係するデータ(モデル式及びモデルパラメータ等)を用いることもできる。
【0068】
次に、ステップS8において、報知部(40)は、ステップS7での判定部(30)による不良工程の特定に応じて、当該不良工程で不良が発生していること、又は当該不良工程に関連する異常情報(例えば塗装装置(2)の設備やパラメータ等の異常)を報知する。
【0069】
<実施形態の特徴>
実施形態の塗装検査システム(100)は、複数の部分工程からなる塗装工程により対象物(1)を塗装するために用いられる。塗装検査システム(100)は、検査部(20)と判定部(30)とを備える。検査部(20)は、塗装工程により対象物(1)を塗装した後の塗装状態の良/不良を判定する。判定部(30)は、「複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」と「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」とを予め関連付けた関連データ(31)と、検査部(20)が不良と判定した塗装状態とに基づき、複数の部分工程のうち当該不良の原因となった不良工程を特定する。
【0070】
実施形態の塗装検査システム(100)では、塗装検査の結果(薄い塗厚、傷、塗装剥がれ等)と塗装工程のセンシングデータとの相関を予め分析して関連データ(31)として準備しておき、不良と判定された塗装状態を関連データ(31)と照合することにより、塗装工程又は塗装装置(2)の設備のどこに問題が生じているのかを特定することができる。このため、作業者の経験に依存せずに塗装検査を行えるので、検査精度を向上させることができる。また、塗装外観検査を自動化することにより、省人化して検査コストを削減できると共に、検査場所に依存せずグローバルに検査コストを平準化することができる。また、塗装外観検査を自動化することにより、作業者に依存する検査基準のばらつきを低減して品質を安定させることができると共に、検査場所に依存せずグローバルに品質を安定させることができる。また、塗装外観の目視検査を無くすことができるため、単純作業を無くして作業者への負担を軽減できる。また、塗装不良発生時の原因究明に要する時間を低減できると共に、作業者の経験に依存せずに原因究明が可能となるため、原因究明に要する時間も一定にすることができる。さらに、塗装不良発生の原因を究明することにより、適切な塗装条件を提示することができ、将来的に不良率を低減できると共に、不良率を限りなくゼロに近づけることで塗装検査自体の省略を可能とし、それにより大きなコスト削減効果が期待される。
【0071】
実施形態の検査システム(100)において、対象物(1)を撮像する撮像部(10)を備え、検査部(20)は、撮像部(10)が撮像した対象物(1)の画像データに基づき、対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定してもよい。これにより、検査部(20)での画像処理によって、不良判定を容易に行うことができる。
【0072】
実施形態の検査システム(100)において、画像データは、少なくともノーマル画像及び形状画像を含んでもよい。これにより、ノーマル画像を用いて、画像の濃淡(彩度、輝度、RGB等)として、キズ、剥がれ、低光沢、凝集、薄い塗厚などの不良を検出できると共に、形状画像を用いて、微小な凹凸として、塗装ムラなどの不良を検出できる。
【0073】
実施形態の検査システム(100)において、画像データは、縞パターン照明を用いて取得してもよい。これにより、複数の照明装置を用いることなく、ノーマル画像及び形状画像を同時に取得することができる。また、縞パターン照明により対象物(1)の塗装面に生じる縞のうねりパターンから、塗装面の凹凸を取得することができる。
【0074】
実施形態の検査システム(100)において、検査部(20)は、機械学習モデル(21,22)を用いて前記対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定してもよい。例えば、塗装不良の画像を教師データとして学習した機械学習モデル(21,22)を用いて、対象物(1)の塗装状態を撮像した画像データから、塗装状態の良/不良を高精度で判定することができる。特に、ノーマル画像及び形状画像のそれぞれに対応させて第1モデル(21)及び第2モデル(22)を構築することによって、画像処理を用いた塗装検査の精度を大きく向上させることができる。
【0075】
実施形態の検査システム(100)において、判定部(30)による不良工程の特定に応じて、当該不良工程で不良が発生していること、又は当該不良工程に関連する異常情報を報知する報知部(40)をさらに備えてもよい。これにより、作業者等が、塗装工程での不良の発生や、不良の詳しい情報(塗装装置(2)の設備やパラメータ等の異常)を報知部(40)によって知ることができる。
【0076】
実施形態の検査システム(100)において、塗装工程を構成する複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、センシングデータは、脱脂工程の処理液の温度及び圧力、電着塗装工程の塗料温度、並びに各部分工程における対象物(1)の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含んでもよい。これにより、脱脂工程、電着塗装工程等での不良の発生の有無を特定することができる。
【0077】
実施形態の検査システム(100)において、塗装状態の良/不良の判定は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つを対象としてもよい。これにより、個々の不良モードに応じて、不良工程を特定することができる。
【0078】
実施形態の塗装検査支援システム(150)は、複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いられる。塗装検査支援システム(150)は、「複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」、及び「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」を学習データとして、機械学習モデル(第3モデル)(161)を生成する生成部(160)を備える。機械学習モデル(161)は、対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される。これにより、様々な塗装不良に対応するセンシングデータを教師データとして学習した機械学習モデル(161)を用いて、対象物(1)を塗装した後の塗装状態から、不良工程を高精度で特定することができる。
【0079】
実施形態の塗装検査支援システム(150)において、複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態をセンシングしてセンシングデータを取得するセンシング部(180)をさらに備えてもよい。これにより、取得したセンシングデータを用いて、対象物(1)の塗装状態から不良工程を特定可能に構成された機械学習モデル(161)を得ることができる。
【0080】
実施形態の塗装検査支援システム(150)において、複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、センシングデータは、脱脂工程の処理液の温度及び圧力、電着塗装工程の塗料温度、並びに各部分工程における対象物(1)の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含んでもよい。これにより、機械学習モデル(161)によって、脱脂工程、電着塗装工程等での不良の発生の有無を特定することができる。
【0081】
実施形態の塗装検査支援システム(150)において、塗装状態の不良は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つであってもよい。これにより、機械学習モデル(161)によって、個々の不良モードに応じて、不良工程を特定することができる。
【0082】
<塗装検査支援システムの変形例>
変形例の塗装検査支援システム(150)は、複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いられる。塗装検査支援システム(150)は、実施形態の塗装検査システム(100)の判定部(30)で用いる関連データ(31)を作成する。
【0083】
変形例の塗装検査支援システム(150)が、実施形態の塗装検査支援システム(150)と異なる点は、生成部(160)に代えて、取得部(170)を備えることである(
図1参照)。変形例の塗装検査支援システム(100)は、実施形態の塗装検査支援システム(150)と同様に、センシング部(180)をさらに備えてもよい。
【0084】
取得部(170)は、塗装工程を構成する複数の部分工程に用いられる塗装装置(2)の物理モデル(171)に基づく多変量解析によって、「複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」と「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」との相関を示す物理モデル(171)のパラメータを取得する。パラメータが決定された物理モデル(171)は、対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される。
【0085】
物理モデル(171)は、例えば、下記のような回帰式(モデル式)で表される。モデル式は、不良モード(凝集、傷、剥がれ、低光沢、薄い塗厚、ムラ等)毎に作成される。
【0086】
Ym=a1・X1+a2・X2+a3・X3+a4・X4+・・・+aN・XN+b
Ymは各不良モードに対応する目的変数、X1~XNは各センシング項目(脱脂温度、脱脂圧力、塗装(塗料)温度、塗装電圧、乾燥温度等)に対応する説明変数、a1~aNは回帰係数(相関係数)を示す。
【0087】
取得部(170)は、例えば
図7に示すような、「塗装工程を構成する複数の部分工程の状態を取得したセンシングデータ」及び「対象物(1)を塗装した後の塗装状態の検査結果(外観検査結果)」、つまり、センシング部(180)や塗装検査システム(100)の検査部(20)で収集したデータを用いて、物理モデル(171)に基づく多変量解析を行うことによって、不良モード毎に標準回帰係数(モデルパラメータ)を算出する。
図8は、取得部(170)により算出されたモデルパラメータの一例を示す。尚、
図7において、温度の単位は℃であり、圧力の単位はMPaであり、流量の単位はL/minであり、電圧の単位はVである。
【0088】
モデルパラメータは、各センシング項目の各不良モードに対する寄与度を示す。これにより、例えば
図9に示すように、不良発生時に優先的に監視すべきセンシング項目が分かるので、不良工程の特定が可能となる。
図9は、
図8に例示するモデルパラメータに基づき決定された、塗装ムラが発生した場合におけるセンシング項目の監視優先順位(標準回帰係数の高い順)を示す。
【0089】
以上のように取得部(170)で得られた物理モデル(171)に関係するデータ(モデル式及びモデルパラメータ等)は、塗装検査システム(100)の判定部(30)で用いる関連データ(31)の他例となる。
【0090】
取得部(170)は、例えば、プロセッサと、プロセッサを動作させるためのプログラムや情報を記憶するメモリとから構成される。取得部(170)は、センシングデータ等のデータを記憶するために、例えばハードディスク等の記憶部を有していてもよい。取得部(170)と塗装検査システム(100)の判定部(30)とは、取得部(170)から判定部(30)物理モデル(171)に関係するデータを送信できるように、有線又は無線を介して互いに接続されてもよい。取得部(170)と判定部(30)とは、ネットワークを介して互いに接続されてもよいし、一体化されていてもよい。或いは、塗装検査システム(100)と塗装検査支援システム(150)とを非接続に構成し、取得部(170)で得られた物理モデル(171)に関係するデータを記憶媒体に保存し、当該記憶媒体から判定部(30)が物理モデル(171)に関係するデータを読み出してもよい。
【0091】
取得部(170)は、塗装検査システム(100)の検査部(20)から、「対象物(1)を塗装した後の塗装状態」に関する検査データ(外観検査結果)を取得してもよい。取得部(170)と検査部(20)とは、検査部(20)から取得部(170)へ検査データを送信できるように、有線又は無線を介して互いに接続されてもよい。取得部(170)と検査部(20)とは、ネットワークを介して互いに接続されてもよいし、一体化されていてもよい。或いは、塗装検査システム(100)と塗装検査支援システム(150)とを非接続に構成し、検査部(20)で得られた検査データを記憶媒体に保存し、当該記憶媒体から取得部(170)が検査データを読み出してもよい。
【0092】
センシング部(180)は、対象となる部分工程の実施状態をリアルタイムでセンシングして、取得部(170)で用いるセンシングデータを取得する。センシング部(180)と取得部(170)とは、センシング部(180)から取得部(170)へセンシングデータを送信できるように、有線又は無線を介して互いに接続されてもよい。センシング部(180)と取得部(170)とは、ネットワークを介して互いに接続されてもよいし、一体化されていてもよい。或いは、センシング部(180)と取得部(170)とを非接続に構成し、センシング部(180)で取得したセンシングデータを記憶媒体に保存し、当該記憶媒体から取得部(170)がセンシングデータを読み出してもよい。センシング部(180)は、取得部(170)の指令に基づき、対象となる部分工程の実施状態をセンシングするように構成されてもよい。
【0093】
以上に説明した変形例の塗装検査支援システム(150)では、各部分工程のセンシングデータと様々な塗装不良との相関を示す物理モデル(171)のパラメータを多変量解析によって取得し、当該パラメータを用いて、対象物(1)を塗装した後の塗装状態から、不良工程を高精度で特定することができる。
【0094】
変形例の塗装検査支援システム(150)において、複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態をセンシングしてセンシングデータを取得するセンシング部(180)をさらに備えてもよい。これにより、取得したセンシングデータを用いて、対象物(1)の塗装状態から不良工程を特定可能に構成された物理モデル(171)を得ることができる。
【0095】
変形例の塗装検査支援システム(150)において、複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、センシングデータは、脱脂工程の処理液の温度及び圧力、電着塗装工程の塗料温度、並びに各部分工程における対象物(1)の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含んでもよい。これにより、物理モデル(171)によって、脱脂工程、電着塗装工程等での不良の発生の有無を特定することができる。
【0096】
変形例の塗装検査支援システム(150)において、塗装状態の不良は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つであってもよい。これにより、物理モデル(171)によって、個々の不良モードに応じて、不良工程を特定することができる。
【0097】
(その他の実施形態)
以上に説明した実施形態(変形例を含む。以下、同じ)において、対象物(1)は、圧縮機に限られず、塗装可能な様々な物体であってもよい。また、塗装検査システム(100)の検査部(20)では、画像を用いて対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定した。しかし、検査部(20)は、画像に限られず、塗厚を測定する膜厚計等の測定機器による塗装状態の測定値等を用いて対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定してもよい。また、検査部(20)は、塗装不良の画像を教師データとして学習した機械学習モデル(21,22)を用いて、対象物(1)の塗装状態を撮像した画像データから、当該塗装状態の良/不良を判定した。しかし、検査部(20)は、機械学習モデルを用いることなく、対象物(1)の塗装状態を撮像した画像の輝度値や当該画像における異物の面積等から、予め設定した閾値に基づいて(ルールベースで)当該塗装状態の良/不良を判定してもよい。
【0098】
以上、実施形態及び変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態、変形例、その他の実施形態は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。また、以上に述べた「第1」、「第2」、「第3」…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上に説明したように、本開示は、塗装検査システム、及び塗装検査支援システムについて有用である。
【符号の説明】
【0100】
1 対象物
2 塗装装置
10 撮像部
15 照明装置
20 検査部
21 第1モデル(機械学習モデル)
22 第2モデル(機械学習モデル)
30 判定部
31 関連データ(データ)
40 報知部
100 塗装検査システム
150 塗装検査支援システム
160 生成部
161 第3モデル(機械学習モデル)
170 取得部
171 物理モデル
180 センシング部
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いる塗装検査支援システム(150)であって、
前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータ、及び前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態を学習データとして、機械学習モデル(161)を生成する生成部(160)を備え、
前記機械学習モデル(161)は、前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、前記複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される、
塗装検査支援システム。
【請求項2】
複数の部分工程からなる塗装工程により塗装した対象物(1)の塗装状態に不良が発生した際に用いる塗装検査支援システム(150)であって、
前記複数の部分工程に用いられる塗装装置(2)の物理モデル(171)に基づく多変量解析によって、前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータと前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態との相関を示す前記物理モデル(171)のパラメータを取得する取得部(170)を備え、
前記物理モデル(171)は、前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態に基づき、前記複数の部分工程のうち不良の原因となった不良工程を特定可能に構成される、
塗装検査支援システム。
【請求項3】
請求項1又は2の塗装検査支援システムにおいて、
前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態をセンシングして前記センシングデータを取得するセンシング部(180)をさらに備える、
塗装検査支援システム。
【請求項4】
請求項1又は2の塗装検査支援システムにおいて、
前記複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、
前記センシングデータは、前記脱脂工程の処理液の温度及び圧力、前記電着塗装工程の塗料温度、並びに前記複数の部分工程のそれぞれにおける前記対象物の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含む、
塗装検査支援システム。
【請求項5】
請求項1又は2の塗装検査支援システムにおいて、
前記塗装状態の不良は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つである、
塗装検査支援システム。
【請求項6】
複数の部分工程からなる塗装工程により対象物(1)を塗装するために用いられる塗装検査システム(100)であって、
前記塗装工程により前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態の良/不良を判定する検査部(20)と、
前記複数の部分工程のうち少なくとも2つ以上の部分工程の状態を取得したセンシングデータと前記対象物(1)を塗装した後の塗装状態とを予め関連付けたデータ(31)と、前記検査部(20)が不良と判定した塗装状態とに基づき、前記複数の部分工程のうち当該不良の原因となった不良工程を特定する判定部(30)と
を備え、
前記データ(31)は、請求項1に記載の機械学習モデル(161)又は請求項2に記載の物理モデル(171)に関係するデータである、
塗装検査システム。
【請求項7】
請求項6の塗装検査システムにおいて、
前記対象物(1)を撮像する撮像部(10)を備え、
前記検査部(20)は、前記撮像部(10)が撮像した前記対象物(1)の画像データに基づき、前記対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する、
塗装検査システム。
【請求項8】
請求項7の塗装検査システムにおいて、
前記画像データは、少なくともノーマル画像及び形状画像を含む、
塗装検査システム。
【請求項9】
請求項8の塗装検査システムにおいて、
前記画像データは、縞パターン照明により得られる、
塗装検査システム。
【請求項10】
請求項6の塗装検査システムにおいて、
前記検査部(20)は、機械学習モデル(21,22)を用いて前記対象物(1)の塗装状態の良/不良を判定する、
塗装検査システム。
【請求項11】
請求項6の塗装検査システムにおいて、
前記判定部(30)による前記不良工程の特定に応じて、当該不良工程で不良が発生していること、又は当該不良工程に関連する異常情報を報知する報知部(40)を備える、
塗装検査システム。
【請求項12】
請求項6の塗装検査システムにおいて、
前記複数の部分工程は、脱脂工程及び電着塗装工程を含み、
前記センシングデータは、前記脱脂工程の処理液の温度及び圧力、前記電着塗装工程の塗料温度、並びに前記複数の部分工程のそれぞれにおける前記対象物(1)の処理時間のうちの少なくとも2つのデータを含む、
塗装検査システム。
【請求項13】
請求項6の塗装検査システムにおいて、
前記塗装状態の良/不良の判定は、凝集、キズ、薄い塗厚、剥がれ、低光沢、ムラのうちの少なくとも1つを対象とする、
塗装検査システム。