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特開2024-141450プレス加工による筐体の製造方法、製造装置、及び、筐体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141450
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】プレス加工による筐体の製造方法、製造装置、及び、筐体
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/30 20060101AFI20241003BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20241003BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20241003BHJP
   B21D 19/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B21D22/30 B
H05K9/00 C
B21D22/26 C
B21D19/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053112
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】520457971
【氏名又は名称】株式会社デンソープレステック
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】秋本 廉太郎
(72)【発明者】
【氏名】川口 哲正
(72)【発明者】
【氏名】植松 伸悟
(72)【発明者】
【氏名】後藤 克弥
【テーマコード(参考)】
4E137
5E321
【Fターム(参考)】
4E137AA11
4E137AA23
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA25
4E137EA01
4E137GA02
4E137GA16
4E137GB09
4E137HA06
4E137HA08
5E321AA02
5E321AA05
5E321AA17
5E321CC22
5E321GG01
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】筐体の開口から外方向に屈曲されたフランジ部を据え込み加工することなく、フランジ部の根元の屈曲部を増肉できるようにする。
【解決手段】内部空間の周囲を囲む側壁部22と、側壁部の一方の開口を閉塞する底部24と、側壁部の他方の開口から外方向に屈曲されたフランジ部26と、を有する筐体のフランジ部を、パンチ32とダイ34とを用いたプレス加工により整形する。プレス加工では、パンチを筐体の内部空間側に配置すると共に、ダイを筐体の内部空間とは反対側に配置し、側壁部の外周面の少なくとも一部をダイにてフランジ部側へしごきつつ、側壁部からフランジ部への屈曲部をつぶす、潰し加工を行う。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間の周囲を囲む側壁部(22)と、前記側壁部の一方の開口を閉塞する底部(24)と、前記側壁部の他方の開口から外方向に屈曲されたフランジ部(26)と、を有する筐体(20)の前記フランジ部を、パンチ(32)とダイ(34)とを用いたプレス加工により整形する、筐体の製造方法であって、
前記パンチを前記筐体の前記内部空間側に配置すると共に、前記ダイを前記筐体の前記内部空間とは反対側に配置し、
前記プレス加工にて、前記側壁部の外周面の少なくとも一部を、前記ダイにて前記フランジ部側へしごきつつ、前記側壁部から前記フランジ部への屈曲部をつぶす、潰し加工を行うことで、
前記屈曲部において前記側壁部の内周面から前記フランジ部に至る曲率半径を小さくして、前記フランジ部の前記パンチ側平坦面を拡張する、プレス加工による筐体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス加工による筐体の製造方法であって、
前記潰し加工では、前記パンチの前記フランジ部との対向面に設けられた突起(32C)により、前記フランジ部の外周端部を半拘束する、プレス加工による筐体の製造方法。
【請求項3】
内部空間の周囲を囲む側壁部と、前記側壁部の一方の開口を閉塞する底部と、前記側壁部の他方の開口から外方向に屈曲されたフランジ部と、を有する筐体の前記フランジ部を、プレス加工により整形する、製造装置であって、
前記筐体の前記内部空間側に配置され、前記底部から前記側壁部を経て前記フランジ部に至る、前記筐体の内側形状に対応して形成されたパンチと、
前記筐体の前記内部空間とは反対側に配置され、前記底部から前記側壁部を経て前記フランジ部に至る、前記筐体の外側形状に対応して形成されたダイと、
を備え、
前記パンチ及び前記ダイにおいて、前記プレス加工により前記筐体の前記側壁部を挟む側壁面は、それぞれ、前記内部空間が前記フランジ部側に向けて広がるテーパ形状になっており、しかも、前記ダイの前記側壁面の少なくとも一部は、前記フランジ部側先端から一定長さだけ、プレス方向に真っ直ぐ延びるストレート形状になっている、製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の製造装置であって、
前記パンチ及び前記ダイにおいて、前記プレス加工により前記筐体の前記フランジ部を挟む対向面は、前記筐体の開口面に平行な平面形状であり、
前記パンチの前記対向面には、前記フランジ部の板厚よりも低い突起が設けられ、前記プレス加工時に、前記突起により前記フランジ部の外周端部を半拘束するよう構成されている、製造装置。
【請求項5】
内部空間の周囲を囲む側壁部と、
前記側壁部の一方の開口を閉塞する底部と、
前記側壁部の他方の開口から外方向に屈曲されたフランジ部と、
を備え、
前記側壁部から前記フランジ部への屈曲部の少なくとも一部が、請求項1に記載のプレス加工による筐体の製造方法にて潰し加工されることにより、前記側壁部の外周面で前記フランジ部側の少なくとも一部に潰された跡が存在する、筐体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、筐体の開口から外方向に屈曲されたフランジ部をプレス加工により整形する筐体の製造方法、製造装置及び筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子機器には、ノイズ対策のためにケース内の回路基板を覆う金属製の筐体が設けられることがある。この筐体は、ダイカストや金属板などの導電性材料にて構成され、回路基板のグラウンドなどの配線パターンに接触することで、電子機器全体を基準電位に接地し、回路基板で発生したノイズが外部に放射されたり、外部ノイズが内部に侵入したりするのを抑制する。このため、この種の筐体においては、内部空間の周囲を囲む側壁部の回路基板側開口部を外方向に屈曲させて、フランジ部を形成することで、回路基板の配線パターンとの接触面積を広げ、ノイズ抑制効果を高めることが考えられている。
【0003】
一方、特許文献1には、板状ワークの端部に直立形成されるフランジ部の根元部となる屈曲部の肉厚を母材板厚よりも厚くする肉厚増加方法が提案されている。この提案の技術は、フランジ部を、ダイとパンチとを用いてフランジ高さを縮小化する方向に据え込み加工形成することで、屈曲部の肉厚を増大させる。従って、上記筐体を製造する際に、この肉厚増加方法を利用して、フランジ部の根元の屈曲部の肉厚を増大させるようにすれば、回路基板の配線パターンとの接触面積を広げて、ノイズ低減効果を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-314921
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に記載の肉厚増加方法においては、フランジ部を据え込み加工することで屈曲部に材料を集中させることから、据え込み加工による加工荷重の増加で金型部品の摩耗量が多くなり、場合によっては金型部品の破損に繋がることが考えられる。
【0006】
また、上記特許文献1には、ダイの板状ワークとの当接面に、据え込み加工時に屈曲部付近に食い込むように段差を設けることで、据え込み加工時に段差にて材料の動きを一部制限し、屈曲部の増肉効果を高めることが記載されている。しかし、このようにすると、段差によって、屈曲部に空間ができたり、座屈が発生したりすることが考えられる。また、この場合、据え込み加工後の製品に段差形状が残ることから、段差形状が平坦となるように屈曲部付近を潰す2次形成を行う必要があり、製造工程が増加してしまうという問題もある。
【0007】
本開示の1つの局面は、筐体の開口から外方向に屈曲されたフランジ部を据え込み加工することなく、フランジ部の根元の屈曲部を増肉できるようにすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの態様は、内部空間の周囲を囲む側壁部(22)と、側壁部の一方の開口を閉塞する底部(24)と、側壁部の他方の開口から外方向に屈曲されたフランジ部(26)と、を有する筐体(20)のフランジ部を、パンチ(32)とダイ(34)とを用いたプレス加工により整形する製造方法である。
【0009】
本開示の製造方法においては、パンチを筐体の内部空間側に配置すると共に、ダイを筐体の内部空間とは反対側に配置する。そして、プレス加工にて、側壁部の外周面の少なくとも一部を、ダイにてフランジ部側へしごきつつ、側壁部からフランジ部への屈曲部をつぶす、潰し加工を行う。
【0010】
この結果、フランジ部の材料の一部が、フランジ部の根元の屈曲部に移動し、屈曲部が増肉されて、屈曲部において側壁部の内周面からフランジ部に至る曲率半径が小さくなり、フランジ部のパンチ側平坦面が拡張される。
【0011】
よって、本開示の筐体の製造方法によれば、特許文献1に記載の据え込み加工ではなく、潰し加工を行うことで、筐体のフランジ部の根元の屈曲部を増肉して、フランジ部のパンチ側平坦面を広げることができる。
【0012】
また、潰し加工は、据え込み加工のようにフランジ部全体を長手方向に圧縮する必要がなく、フランジ部の屈曲部とは反対側の先端部分を開放させた状態で実施できる。このため、本開示の筐体の製造方法によれば、据え込み加工を行う場合に比べてフランジ部に加わる加工荷重を低減することができ、加工荷重によって、金型部品の摩耗量が多くなるのを抑制できる。
【0013】
本開示の1つの態様は、上記製造方法にて、上記筐体のフランジ部を成型する製造装置である。この製造装置は、上述したプレス加工のためのパンチとダイとを備える。
パンチは、筐体の内部空間側に配置され、底部から側壁部を経てフランジ部に至る、筐体の内側形状に対応して形成されている。また、ダイは、筐体の内部空間とは反対側に配置され、底部から側壁部を経てフランジ部に至る、筐体の外側形状に対応して形成されている。
【0014】
そして、パンチ及びダイにおいて、プレス加工により筐体の側壁部を挟む側壁面は、それぞれ、内部空間がフランジ部側に向けて広がるテーパ形状になっている。また、ダイの側壁面の少なくとも一部は、フランジ部側先端から一定長さだけ、プレス方向に真っ直ぐ延びるストレート形状になっている。
【0015】
本開示の製造装置によれば、側壁部同士が重なるようにパンチを筐体の内部空間内に配置し、ダイを筐体の底部側からパンチに向けて移動させることで、筐体のフランジ部をプレス加工することができる。
【0016】
そして、このプレス加工によるダイの移動時には、ダイのストレート部分で筐体の側壁部の外側壁面がしごかれることから、筐体の側壁部の一部がフランジ部の根元の屈曲部側に移動し、屈曲部が増肉されて、フランジ部のパンチ側平坦面が拡張される。
【0017】
よって、本開示の製造装置によれば、上述した製造方法で筐体のフランジ部を整形することができ、上記製造方法と同様の効果を発揮することができる。
本開示の1つの態様は、上記製造方法にてフランジ部がプレス加工により整形された筐体である。この筐体は、内部空間の周囲を囲む側壁部と、側壁部の一方の開口を閉塞する底部と、側壁部の他方の開口から外方向に屈曲されたフランジ部と、を備える。
【0018】
そして、筐体の側壁部からフランジ部への屈曲部の少なくとも一部が、上記製造方法にて潰し加工されることにより、側壁部の外周面でフランジ部側の少なくとも一部に潰された跡が存在する。
【0019】
本開示の筐体によれば、フランジ部の屈曲部の内部空間側の曲率半径が小さくなり、フランジ部の底部とは反対側の平坦面が広くなる。このため、本開示の筐体は、上述したノイズ対策のために、電子機器の回路基板に設けるようにすれば、回路基板の配線パターンとの接触面積を広げて、ノイズ抑制効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施形態の電子機器の内部構成を表す断面図である。
図2】電子機器のケース内の筐体を内部空間側から見た状態を表す斜視図である。
図3】電子機器のケース内の筐体を底部側から見た状態を表す斜視図である。
図4】筐体をプレス加工にて1次形成する金型を表す断面図である。
図5】筐体のフランジ部を整形するのに用いられる金型の構成を表す断面図である。
図6図5に示した金型を用いた潰し加工に伴うフランジ部の形状変化を表す説明図である。
図7】変形例の筐体を内部空間側から見た状態を表す斜視図である。
図8】変形例の筐体を底部側から見た状態を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
図1に示すように、本実施形態の電子機器1は、例えば、車両に搭載されて電波を送受信するのに用いられるものであり、送受信用の回路を構成する各種電子部品が実装された回路基板10を備える。
【0022】
回路基板10は、例えば、矩形のプリント配線基板であり、ケース3内に収納されている。ケース3は、ロアケース5とアッパーケース7とを備える。ロアケース5は、回路基板10において各種電子部品が実装された基板面10Aを覆い、各種電子部品を保護できるように、回路基板10と同じ矩形の容器形状になっている。そして、回路基板10は、ロアケース5の開口を塞ぐように配置されて、ロアケース5の開口部5Aにねじ9で固定されている。
【0023】
アッパーケース7は、回路基板10の基板面10Aとは反対側から回路基板10を覆った状態で、ロアケース5の開口を塞ぐことができるように、回路基板10よりも大きい矩形の蓋形状になっている。そして、アッパーケース7は、回路基板10の外周の外側で、ロアケース5の開口部5Aに固定されている。
【0024】
ロアケース5と回路基板10との間には、インナーケース20が設けられている。インナーケース20は、回路基板10の基板面10Aを覆い、回路基板10で発生したノイズが外部に放射されたり、外部ノイズが回路基板10に侵入するのを抑制するためのものである。つまり、インナーケース20は、ノイズ対策のために、ロアケース5の内部空間12に収納されている。なお、インナーケース20は、本開示の筐体に相当する。
【0025】
インナーケース20は、例えばアルミニウムなどの導電性金属を含む金属材料にて構成されており、ロアケース5内で内部空間12の周囲を囲む環状の側壁部22と、側壁部22の一方の開口を閉塞する底部24とを備える。そして、側壁部22の底部24との反対側は開口されている。このため、インナーケース20は、図2図3に示すように、ロアケース5と同様の容器形状となっている。
【0026】
また、インナーケース20の側壁部22の開口は、全周に渡って外方向に屈曲されることにより、フランジ部26が形成されている。このフランジ部26は、ロアケース5の開口部5Aに回路基板10が載置された際に、インナーケース20を、回路基板10の基板面10Aに設けられたグラウンドパターンと電気的に接続させるのに用いられる。
【0027】
つまり、フランジ部26は、回路基板10の基準電位となるグラウンドパターンと電気的に接続されることにより、インナーケース20全体の電位を基準電位に保持する。この結果、回路基板10の電子部品や配線パターンから放射された高周波ノイズは、インナーケース20にて吸収され、電子機器1周囲で発生した外部ノイズは、インナーケース20で反射されて、回路基板10側に入射するのを抑制される。
【0028】
なお、回路基板10の基板面10Aと反対側には、例えば、基準電位となる導電層が、いわゆるベタアースとして設けられており、この導電層にて、回路基板10へのノイズの入射或いは回路基板10からのノイズの放射が抑制される。
【0029】
ところで、インナーケース20は、側壁部22からフランジ部26に至る屈曲部28が回路基板10に当接されることで、回路基板10のグラウンドパターンと接続される。このため、ノイズ対策のためには、屈曲部28と回路基板10との間で高周波ノイズが漏れることのないよう、屈曲部28の回路基板10との接触面積を広くする必要がある。
【0030】
そこで、本実施形態のインナーケース20は、図4に例示する上型30Aと下型30Bを使って、金属板をプレス加工による絞り加工を行うことで、上述した容器形状のインナーケース20を1次成形する。そして、その1次成形されたインナーケース20の側壁部22からフランジ部26に至る屈曲部28を、図5に例示するパンチ32とダイ34を用いたプレス加工により、潰し加工する。
【0031】
この潰し加工により、屈曲部28において側壁部22の内周面からフランジ部26に至る角部の曲率半径が小さくなり、回路基板10に当接されるフランジ部26の平坦面の面積が拡張される。従って、フランジ部26の根元の屈曲部28からフランジ部26に至る領域は、潰し加工により整形されることになる。
【0032】
次に、この潰し加工に用いられるパンチ32及びダイ34について説明する。
図5に示すように、パンチ32は、インナーケース20の内部空間12側(以下、内側)で、インナーケース20の底部24から側壁部22を経てフランジ部26に至る、インナーケース20の製品形状に対応して形成されている。そして、潰し加工時には、インナーケース20の内側に、インナーケース20の側壁部22に沿って配置される。
【0033】
ダイ34は、インナーケース20の内部空間12とは反対の外側で、インナーケース20の底部24から側壁部22を経てフランジ部26に至る、インナーケース20の製品形状に対応して形成されている。そして、潰し加工時には、インナーケース20の外側に、パンチ32との間でインナーケース20の側壁部22を挟むように配置される。
【0034】
パンチ32及びダイ34において、潰し加工時にインナーケース20の側壁部22を挟む側壁面32A、34Aは、インナーケース20の内部空間12がフランジ部26側に向けて広がるように、プレス方向に対し所定角度「θ」傾斜したテーパ形状になっている。
【0035】
また、ダイ34の側壁面34Aは、フランジ部26側先端から一定長さ「H」だけ、プレス方向に真っ直ぐ延びるストレート形状になっている。そして、潰し加工時、パンチ32とダイ34は、側壁面32A、34Aの間隔「T」が、潰し加工前のインナーケース20の側壁部22の板厚と同じになるように配置される。
【0036】
また、パンチ32において、インナーケース20のフランジ部26が当接されて、フランジ部26をダイ34との間で挟む底面32Bには、高さが、フランジ部26の板厚よりも低い突起32Cが設けられている。なお、この突起32Cは、潰し加工時にフランジ部26の外周端部を位置決めして、半拘束するためのものである。
【0037】
次に、このように構成されたパンチ32及びダイ34を備えた製造装置を用いて、インナーケース20のフランジ部26を整形する際の、インナーケース20の形状変化について、図6を用いて説明する。なお、図6において、最も左側の図が加工開始前の状態を表し、最も右側の図が加工終了時の状態を表し、中央の2つの図がパンチ32に対するダイ34の移動に伴うインナーケース20の形状変化を表す。
【0038】
図6に示すように、加工開始前には、インナーケース20の内部空間12にパンチ32が挿入されるように、インナーケース20がパンチ32の上に載置される。そして、インナーケース20の底部24の上に、図6に点線で示す材料押さえ36が載置されて、インナーケース20の底部24が、材料押さえ36とパンチ32との間に位置決めされる。この結果、加工時に底部24が変形するのを抑制できる。
【0039】
次に、この状態でプレス加工を開始すると、パンチ32に対しダイ34がプレス方向に移動し、ダイ34のパンチ32側の角部34Bが、インナーケース20の側壁部22に当接される。そして、ダイ34の移動に伴い、側壁部22がダイ34の角部34Bによってしごかれる。この結果、インナーケース20の金属材料の一部が、図6に黒色の矢印で示すように、屈曲部28側に流動する。
【0040】
この金属材料の流動は、屈曲部28からフランジ部26の先端方向に向けても発生するが、フランジ部26の外周端部は、パンチ32に設けられた突起32Cにて半拘束される。このため、金属材料は、パンチ32の側壁面32Aと底面32Bとが交わる角部に、より確実に充填される。そして、その角部に充填されず、余った金属材料は、パンチ32の突起32Cとダイ34との間の隙間から外側に流れる。
【0041】
このように、パンチ32とダイ34を用いてプレス加工を行うことで、インナーケース20の側壁部22において、図2図3に示す底部24側の領域22Aは、パンチ32及びダイ34の側壁面32A、34Aと同じ傾斜角度θのテーパ形状に整形される。
【0042】
また、インナーケース20の側壁部22において、図2図3に示すフランジ部26側の領域22Bは、ダイ34のしごきにより潰し加工される。この結果、この領域22Bの外周面に、潰された跡が残るものの、インナーケース20の屈曲部28が増肉されることになる。そして、屈曲部28が増肉されることにより、屈曲部28の内部空間12側の角部の曲率半径が小さくなり、インナーケース20のフランジ部26において、回路基板10との対向面が拡張される。
【0043】
よって、本実施形態のインナーケース20は、図1に例示した回路基板10のノイズ対策用の筐体として利用することで、回路基板10の基準電位の配線パターンとの接触面積を広くして、ノイズ抑制効果を高めることができる。
【0044】
また、図6に示したプレス加工(つまり、潰し加工)は、据え込み加工のようにフランジ部26を長手方向に圧縮する必要がなく、フランジ部26の屈曲部28とは反対側の先端部分を開放させた状態で実施できる。
【0045】
このため、本実施形態のインナーケース20の製造方法或いは装置によれば、据え込み加工を行う場合に比べてフランジ部26に加わる加工荷重を低減することができ、加工荷重によって、金型部品の摩耗量が多くなるのを抑制できる。
【0046】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
例えば、上記実施形態では、本開示の筐体の一例であるインナーケース20は、図2図3に示すように、内部空間12の周囲を囲む側壁部22が環状で、底部24が平坦な板状であるものとして説明した。しかし、図7図8に例示するように、インナーケース20の側壁部22や底部24は、回路基板10に実装される電子部品の配置或いは形状に合わせて窪みや凹凸が設けられていてもよい。
【0047】
この場合、図5に示したパンチ32とダイ34を用いて、インナーケース20のフランジ部26の全域を潰し加工することができないことがある。従って、このような場合は、例えば、図7図8にハッチングで示すように、側壁部22が直線形状となっていて、図5に示したパンチ32とダイ34を用いたプレス加工が可能な領域を、加工領域として、潰し加工するようにしてもよい。このようにしても、その加工領域に対応するフランジ部26の回路基板10との接触面積を広くして、ノイズ抑制効果を高めることができる。
【0048】
なお、上記実施形態において、潰し加工を行う前の筐体、つまり、インナーケース20は、図4に例示した上型30Aと下型30Bを使ってプレス成形されるものとして説明した。しかし、図7図8に示すように、インナーケース20の形状が複雑である場合、潰し加工前の金属板の1次形成には、その形状に合わせて、複数の金型を用いるようにしてもよく、或いは、複数の金型を用いて、絞り加工などのプレス整形を複数回行うようにしてもよい。
【0049】
次に、上記実施形態では、図5において、パンチ32及びダイ34の側壁面32A、34Aのテーパ形状が判りやすくなるように、傾斜角度θが比較的大きくなるように記載しているが、この傾斜角度θは、例えば、0.1度程度であってもよい。つまり、傾斜角度θを、0.1度程度にしても、インナーケース20のフランジ部26の根元の屈曲部28を増肉して、フランジ部26の回路基板10との接触面積を拡張することができる。
【0050】
また、上記実施形態では、潰し加工によってパンチ32の側壁面32Aと底面32Bとが交わる角部に金属材料を充填させるために、パンチ32の底面32Bに、フランジ部26の外周端部を半拘束するための突起32Cを設けるものとして説明した。
【0051】
しかし、パンチ32及びダイ34の形状、或いは、インナーケース20を構成する金属材料の種類によっては、突起32Cがなくても、潰し加工によって、パンチ32の側壁面32Aと底面32Bとが交わる角部に金属材料を充填させることができることもある。従って、このような場合は、突起32Cは、必ずしも設ける必要はない。
【0052】
また、上記実施形態では、本開示の筐体の一例として、合成樹脂製のロアケース5内に回路基板10と共に収納されて、ノイズ対策を行うインナーケース20について説明した。しかし、本開示の筐体は、電子機器1の外側に配置されて、電子機器1を保護するケースとして利用されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
20…インナーケース、22…側壁部、24…底部、26…フランジ部、28…屈曲部、32…パンチ、32C…突起、34…ダイ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8