(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141452
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】絶縁回路基板、半導体デバイス、および、絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/13 20060101AFI20241003BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053120
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】石川 史朗
(72)【発明者】
【氏名】大井 宗太郎
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(72)【発明者】
【氏名】福岡 航世
(57)【要約】
【課題】高温環境下で厳しい冷熱サイクルが負荷される用途でも使用可能な冷熱サイクル信頼性を有するとともに、放熱性に優れた絶縁回路基板、この絶縁回路基板を用いた半導体デバイス、および、絶縁回路基板の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス基板11と、セラミックス基板11の表面に形成された回路層20と、を備えた絶縁回路基板10であって、回路層20は、セラミックス基板11側に配設された第1銅層21と、第1銅層21に積層された第2銅層22と、を有しており、第1銅層21を構成する第1銅板の半軟化温度が200℃以下とされており、第2銅層22を構成する第2銅板の半軟化温度が、第1銅層21を構成する第1銅板の半軟化温度よりも高いことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、前記セラミックス基板の表面に形成された回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、
前記回路層は、前記セラミックス基板側に配設された第1銅層と、前記第1銅層に積層された第2銅層と、を有しており、
前記第1銅層を構成する第1銅板の半軟化温度が200℃以下とされており、
前記第2銅層を構成する第2銅板の半軟化温度が、前記第1銅層を構成する第1銅板の半軟化温度よりも高いことを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項2】
前記セラミックス基板の前記回路層とは反対側の面に金属層が形成されており、前記金属層が、前記セラミックス基板側に配設された第3銅層と、前記第3銅層に積層された第4銅層と、を有しており、
前記第3銅層を構成する第3銅板の半軟化温度が200℃以下とされており、
前記第4銅層を構成する第4銅板の半軟化温度が、前記第3銅層を構成する第3銅板の半軟化温度よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の絶縁回路基板。
【請求項3】
請求項1に記載の絶縁回路基板と、前記回路層上に搭載された半導体素子と、を備えていることを特徴とする半導体デバイス。
【請求項4】
前記絶縁回路基板および前記半導体素子が、絶縁樹脂によって樹脂封止されていることを特徴とする請求項3に記載の半導体デバイス。
【請求項5】
請求項1に記載の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板に前記第1銅板を接合して前記第1銅層を形成する第1銅層形成工程と、前記第1銅層に前記第2銅板を接合して前記第2銅層を形成する第2銅層形成工程と、を有しており、
前記第1銅層形成工程と前記第2銅層形成工程を同時に実施することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板に前記第3銅板を接合して前記第3銅層を形成する第3銅層形成工程と、前記第3銅層に前記第4銅板を接合して前記第4銅層を形成する第4銅層形成工程と、を有しており、
前記第3銅層形成工程と前記第4銅層形成工程を同時に実施することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板に前記第1銅板を接合して前記第1銅層を形成する第1銅層形成工程と、
前記第1銅層に回路パターンを形成する回路パターン形成工程と、
前記回路パターンを形成した前記第1銅層のうち、少なくとも半導体素子が搭載される素子搭載領域に前記第2銅板を接合して前記第2銅層を形成する第2銅層形成工程と、
を有することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の表面に形成された回路層と、を備えた絶縁回路基板、この絶縁回路基板を備えた半導体デバイス、および、絶縁回路基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して形成した放熱用の金属層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。
【0003】
近年のパワー半導体素子、LED素子及び熱電素子などの素子の高集積化や高出力化に伴って、絶縁回路基板においては、放熱特性の向上が望まれている。そこで、絶縁回路基板では、素子で発生した熱の放熱特性を向上させるために回路層の厚くすることが検討されている。
例えば、特許文献1には、回路層が金属材料からなり、厚みが0.05mm以上2.0mm以下の範囲内とされている絶縁回路基板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、放熱性を向上させるために、回路層の銅の厚さを厚くした場合には、高温環境下で使用した際に、冷熱サイクルによって回路層の加工硬化が起き、厳しい熱応力が負荷され、その熱応力によってセラミックス基板が割れてしまうおそれがあった。
一方、冷熱サイクル時にセラミックス基板に加わる熱応力を緩和してセラミックス基板の割れを抑制するために、回路層を変形し易い純アルミニウムで構成した場合には、冷熱サイクルの熱応力によって回路層の表面が波打つように変形してしまい、半導体素子との接合信頼性が低下してしまうおそれがあった。また、アルミニウムの熱伝導度は、銅の熱伝導度よりも低いため、放熱性に限界があった。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、高温環境下で厳しい冷熱サイクルが負荷される用途でも使用可能な冷熱サイクル信頼性を有するとともに、放熱性に優れた絶縁回路基板、この絶縁回路基板を用いた半導体デバイス、および、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明の態様1の絶縁回路基板は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の表面に形成された回路層と、を備えた絶縁回路基板であって、前記回路層は、前記セラミックス基板側に配設された第1銅層と、前記第1銅層に積層された第2銅層と、を有しており、前記第1銅層を構成する第1銅板の半軟化温度が200℃以下とされており、前記第2銅層を構成する第2銅板の半軟化温度が、前記第1銅層を構成する第1銅板の半軟化温度よりも高いことを特徴としている。
【0008】
本発明の態様1の絶縁回路基板においては、回路層が第1銅層と第2銅層とが積層された構造とされていることから、回路層全体の厚さを確保することができ、十分な放熱性を確保することが可能となる。
そして、セラミックス基板側に配設された第1銅層を構成する第1銅板の半軟化温度が200℃以下とされているので、冷熱サイクル時の再結晶化によって加工硬化を低減でき、冷熱サイクルが繰り返されても熱応力が大きくなり難く、セラミックス基板の割れを抑制することができる。
また、第2銅層を構成する第2銅板の半軟化温度が、第1銅層を構成する第1銅板の半軟化温度よりも高いことから、冷熱サイクルを負荷した際に回路層の表面が変形することを抑制できる。
【0009】
本発明の態様2の絶縁回路基板は、態様1の絶縁回路基板において、前記セラミックス基板の前記回路層とは反対側の面に金属層が形成されており、前記金属層が、前記セラミックス基板側に配設された第3銅層と、前記第3銅層に積層された第4銅層と、を有しており、前記第3銅層を構成する第3銅板の半軟化温度が200℃以下とされており、前記第4銅層を構成する第4銅板の半軟化温度が、前記第3銅層を構成する第3銅板の半軟化温度よりも高いことを特徴としている。
【0010】
本発明の態様2の絶縁回路基板によれば、前記セラミックス基板の前記回路層とは反対側の面に形成された金属層が、第3銅層と第4銅層とが積層された構造とされていることから、金属層全体の厚さを確保することができ、さらなる放熱性の向上を図ることが可能となる。また、前記金属層が第2接合層を介してヒートシンクと接合した場合、第2接合層への熱応力も低減することが可能となる。
また、セラミックス基板側に配設された第3銅層を構成する第3銅板の半軟化温度が200℃以下とされているので、冷熱サイクル負荷時にセラミックス基板に加わる熱応力を緩和することができ、セラミックス基板の割れを抑制することができる。
また、第4銅層を構成する第4銅板の半軟化温度が、第3銅層を構成する第3銅板の半軟化温度よりも高いことから、冷熱サイクルを負荷した際に金属層の表面が変形することを抑制できる。
【0011】
本発明の態様3の半導体デバイスは、態様1または態様2の絶縁回路基板と、前記回路層上に搭載された半導体素子と、を備えていることを特徴とする。
本発明の態様3の半導体デバイスによれば、態様1または態様2の絶縁回路基板を備えているので、半導体素子から生じる熱を効率的に放熱することができるとともに、冷熱サイクルによる回路層表面の変形やセラミックス基板の割れを抑制でき、高温環境下で使用される場合など厳しい冷熱サイクルが負荷される用途であっても、安定して使用することができる。
【0012】
本発明の態様4の半導体デバイスは、態様3の半導体デバイスにおいて、前記絶縁回路基板および前記半導体素子が、絶縁樹脂によって樹脂封止されていることを特徴としている。
本発明の態様4の半導体デバイスによれば、前記絶縁回路基板および前記半導体素子が、絶縁樹脂によって樹脂封止されていることから、冷熱サイクル負荷時おける熱応力をさらに抑制することができ、回路層表面の変形やセラミックス基板の割れをさらに抑制できる。また、半導体素子と他の部材との電気的な短絡を抑制でき、安定して使用することができる。さらには、半導体素子と絶縁回路基板との接合信頼性も高くすることができる。
【0013】
本発明の態様5の絶縁回路基板の製造方法は、態様1または態様2の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、前記セラミックス基板に前記第1銅板を接合して前記第1銅層を形成する第1銅層形成工程と、前記第1銅層に前記第2銅板を接合して前記第2銅層を形成する第2銅層形成工程と、を有しており、前記第1銅層形成工程と前記第2銅層形成工程を同時に実施することを特徴とする。
【0014】
本発明の態様5の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記セラミックス基板に前記第1銅板を接合して前記第1銅層を形成する第1銅層形成工程と、前記第1銅層に前記第2銅板を接合して前記第2銅層を形成する第2銅層形成工程と、を同時に実施していることから、製造工程が少なく、回路層が2層構造とされた絶縁回路基板を効率的に製造することが可能となる。
【0015】
本発明の態様6の絶縁回路基板の製造方法は、態様2の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、前記セラミックス基板に前記第3銅板を接合して前記第3銅層を形成する第3銅層形成工程と、前記第3銅層に前記第4銅板を接合して前記第4銅層を形成する第4銅層形成工程と、を有しており、前記第3銅層形成工程と前記第4銅層形成工程を同時に実施することを特徴とする。
【0016】
本発明の態様6の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記セラミックス基板に前記第3銅板を接合して前記第3銅層を形成する第3銅層形成工程と、前記第3銅層に前記第4銅板を接合して前記第4銅層を形成する第4銅層形成工程と、を同時に実施していることから、製造工程が少なく、金属層が2層構造とされた絶縁回路基板を効率的に製造することが可能となる。
【0017】
本発明の態様7の絶縁回路基板の製造方法は、態様1または態様2の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、前記セラミックス基板に前記第1銅板を接合して前記第1銅層を形成する第1銅層形成工程と、前記第1銅層に回路パターンを形成する回路パターン形成工程と、前記回路パターンを形成した前記第1銅層のうち、少なくとも半導体素子が搭載される素子搭載領域に前記第2銅板を接合して前記第2銅層を形成する第2銅層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の態様7の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記セラミックス基板に前記第1銅板を接合して前記第1銅層を形成する第1銅層形成工程と、前記第1銅層に回路パターンを形成する回路パターン形成工程と、を備えているので、回路パターン形成工程において、第1銅層に対してのみ回路パターンを形成することから、第1銅層を薄くすることで回路パターンを精度良く、かつ、効率的に形成することが可能となる。
また、前記回路パターンを形成した前記第1銅層のうち、少なくとも半導体素子が搭載される素子搭載領域に前記第2銅板を接合して前記第2銅層を形成する第2銅層形成工程を有しているので、熱源となる半導体素子が搭載される素子搭載領域の厚さが確保され、放熱性に優れた絶縁回路基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高温環境下で厳しい冷熱サイクルが負荷される用途でも使用可能な冷熱サイクル信頼性を有するとともに、放熱性に優れた絶縁回路基板、この絶縁回路基板を用いた半導体デバイス、および、絶縁回路基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一の実施形態に係る絶縁回路基板を備えた半導体デバイスの概略説明図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
【
図3】本発明の第一の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の説明図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態に係る絶縁回路基板を備えた半導体デバイスの概略説明図である。
【
図5】本発明の第二の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
【
図6】本発明の第二の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第一実施形態>
以下に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第一実施形態である絶縁回路基板10、及び、この絶縁回路基板10を用いた半導体デバイス1を示す。
【0022】
図1に示す半導体デバイス1は、本実施形態である絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の一方の面(
図1において上面)に第1接合層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板10の一方の面(
図1において上面)に接合された端子材5と、絶縁回路基板10の下側に第2接合層7を介して接合されたヒートシンク6と、絶縁樹脂からなる封止樹脂8と、を備えている。
【0023】
半導体素子3は、Si、SiC等の半導体材料で構成されている。なお、本実施形態においては、半導体素子3がパワー半導体とされており、半導体デバイス1はパワーモジュールとされている。
絶縁回路基板10と半導体素子3との間に介在する第1接合層2は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)、または、銀焼結材、銅焼結材とされている。
【0024】
端子材5は、導電性に優れた金属で構成されており、本実施形態では、銅又は銅合金からなるリードフレーム材とされている。なお、アルミニウムワイヤ、銅ワイヤなども使用可能である。
【0025】
ヒートシンク6は、絶縁回路基板10側の熱を放散するためのものである。ヒートシンク6は、銅又は銅合金、もしくはアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されており、本実施形態では無酸素銅で構成された放熱板とされている。
絶縁回路基板10とヒートシンク6との間に介在する第2接合層7は、例えばSn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)、または、銀焼結材、銅焼結材とされている。
【0026】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層20と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層30と、を備えている。
【0027】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si3N4)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に放熱性の優れた窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0028】
回路層20は、
図1に示すように、セラミックス基板11の一方の面に配設された第1銅層21と、この第1銅層21の一方の面に積層された第2銅層22と、を有している。
なお、本実施形態においては、
図1に示すように、回路層20には、回路パターンが形成されており、半導体素子3が搭載される素子搭載領域と、端子材5が接合される端子接合領域とが形成されている。
そして、本実施形態においては、
図1に示すように、第2銅層22は、半導体素子3が搭載される素子搭載領域に形成されており、端子材5が接合される端子接合領域には形成されていない。
【0029】
回路層20を構成する第1銅層21は、
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、第1銅板41が接合されることにより形成されている。
また、第2銅層22は、第1銅層21に第2銅板42が接合されることによって形成されている。
そして、本実施形態においては、第1銅層21を構成する第1銅板41の半軟化温度が200℃以下とされている。また、第2銅層22を構成する第2銅板42の半軟化温度が、第1銅層21を構成する第1銅板41の半軟化温度よりも高くなるように構成されている。
なお、第1銅層21を構成する第1銅板41の半軟化温度は、180℃以下あることがより望ましい。また、第1銅層21を構成する第1銅板41の半軟化温度は、80℃以上であってもよい。また、基板に要求される冷熱サイクルの上限温度よりも低いことが好ましい。
また、第1銅層21を構成する第1銅板41の質別には特に指定はないが、加工硬化が少ない1/4H材、1/8H材、O材であることが好ましい。
【0030】
なお、銅板の半軟化温度は次のように測定できる。
他の部材と接合前の銅板であれば、銅板を焼鈍して、引張試験によって0.2%耐力を測定した際の焼鈍前の0.2%耐力と、完全に軟化したとき(30分焼鈍後にそれ以上焼鈍温度を上げても0.2%耐力が変化しない状態を、完全に軟化したとみなす)の0.2%耐力との間の、中間点の0.2%耐力に相当する焼鈍温度を半軟化温度とする。
また、銅とセラミックスとの接合後の材料(回路基板)であれば、回路基板サンプルを気相中で-40℃~150℃の冷熱サイクルを3000回負荷した後に、例えば、5℃間隔の各温度で熱処理(焼鈍)を行い、切断し断面を出した状態で、降伏応力又はナノインデンテーション硬さ(硬度)をナノインデンテーションにて測定する。なお、単に研磨した状態では、研磨面が加工の影響によりCuの研磨面表層が若干硬化している。ナノインデンテーションでは極表層の評価であることから、表層の硬化層を排除するため、更にCP(クロスセクションポリッシャー)加工した面を評価している。表層の硬化層を排除するためには、薬品による化学研磨でもよい。降伏応力又は硬度の測定は、活性金属層や、ろう材層がある場合はそれを銅層とし、活性金属の酸化物や窒化物がある場合はそれをセラミックス層として、銅層とセラミックス層の界面から銅層側に100μm離れた点(半軟化温度が低い銅に対応)における断面と、セラミックから最も離れた銅層(回路上)の場所からセラミックス側に100μm離れた点(半軟化温度が高い銅に対応)における断面とで測定を行う。このように測定し、冷熱サイクル試験後であって、焼鈍前の降伏応力又は硬度と、完全に軟化したときの降伏応力又は硬度との間の、中間点の降伏応力又は硬度に相当する焼鈍温度を半軟化温度とする。
【0031】
ここで、軟化温度が200℃以下とされた第1銅層21を構成する第1銅板41は、例えば、純度が99.9999mass%以上の6NCuや、純度が99.96mass%以上の無酸素銅にイットリウム、スカンジウム、サマリウム、ランタン、セリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ハフニウム、ネオジム、タンタル、カルシウム、マンガンといった元素を少なくとも1種または2種以上微量添加した銅材を用いることができる。
また、第2銅層22を構成する第2銅板42は、第1銅板41よりも半軟化温度が高い銅または銅合金で構成されたものとされている。
【0032】
第1銅層21(第1銅板41)と第2銅層22(第2銅板42)は、固相拡散接合によって直接接合されている。
また、回路層20における第1銅層21の厚さは、0.1mm以上1mm以下の範囲内に設定されている。
一方、回路層20における第2銅層22の厚さは、0.1mm以上1mm以下の範囲内に設定されている。
【0033】
金属層30は、
図3に示すように、セラミックス基板11の他方の面に、銅板50が接合されることにより形成されている。
ここで、金属層30の厚さは、0.1mm以上2mm以下の範囲内に設定されている。
【0034】
次に、本実施形態である絶縁回路基板10の製造方法について、
図2及び
図3を参照して説明する。
【0035】
(第1銅層および金属層形成工程S01)
図3に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、第1銅層21となる第1銅板41を、接合材46を介して積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面に、金属層30となる銅板50を、接合材56を介して積層する。
なお、本実施形態では、接合材46、56として、CuとTiを含むAg合金からなるろう材(例えば、Ag-27.4質量%Cu-2.0質量%Tiろう材)を用いている。
【0036】
そして、積層方向に加圧(圧力0.1~100kgf/cm2(0.01~9.8MPa))した状態で真空加熱炉内に配置し、積層方向に加圧して加熱することにより、第1銅板41とセラミックス基板11を接合して第1銅層21を形成するとともに、銅板50とセラミックス基板11を接合して金属層30を形成する。本実施形態においては、第1銅層形成工程S11、金属層形成工程S12を同時に実施している。
ここで、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内、加熱温度は800℃以上930℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間は5分以上120分以下の範囲内に設定されることが好ましい。
【0037】
(回路パターン形成工程S02)
次に、第1銅層21に回路パターンを形成する。本実施形態では、エッチング法によって第1銅層21に回路パターンを形成している。なお、本実施形態においては、第1銅層21の厚さを0.1mm以上0.5mm以下の範囲内と比較的薄く形成していることから、エッチングによって微細パターンを形成することができる。また、回路パターンの形成を効率良く、かつ、精度良く実施することが可能となる。
【0038】
(第2銅層形成工程S03)
次に、第1銅層21の一方の面側(
図3において上側)に、第2銅層22となる第2銅板42を積層する。なお、本実施形態においては、半導体素子3が搭載される領域に第2銅板42を積層する。
なお、第1銅層21、第2銅板42のそれぞれの接合面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされている。
【0039】
そして、上述の積層体を、積層方向に加圧(圧力1~100kgf/cm2(0.1~9.8MPa))するとともに加熱することにより、第1銅層21と第2銅板42を固相拡散接合する。
ここで、加熱温度は、800℃以上930℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間は5分以上120分以下の範囲内に設定されることが好ましい。
【0040】
以上のようにして、本実施形態である絶縁回路基板10が製造される。
【0041】
(半導体素子接合工程S04)
次いで、回路層20の素子搭載領域(第2銅層22)に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、還元炉内においてはんだ接合する。
【0042】
(ヒートシンク接合工程S05)
次に、金属層30とヒートシンク6とをはんだ材を介して積層し、還元炉内においてはんだ接合する。
【0043】
(端子材接合工程S06)
次に、回路層20の端子接合領域に、端子材5を超音波接合する。
【0044】
(樹脂封止工程S07)
次いで、半導体素子3、絶縁回路基板10、ヒートシンク6を樹脂封止する。このとき、端子材5の一端は、封止樹脂8の外側に配置される。
【0045】
上記のようにして、本実施形態である半導体デバイス1が製造される。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態に係る絶縁回路基板10によれば、回路層20が第1銅層21と第2銅層22とが積層された構造とされていることから、回路層20全体の厚さを確保することができ、十分な放熱性を確保することが可能となる。
セラミックス基板11側に配設された第1銅層21を構成する第1銅板41の半軟化温度が200℃以下とされているので、第1銅層21が変形し易く、冷熱サイクル時に再結晶化が起こり、加工硬化し難い。そのため、冷熱サイクル負荷時にセラミックス基板11に加わる熱応力を緩和することができ、セラミックス基板11の割れを抑制することができる。
【0047】
また、第2銅層22を構成する第2銅板42の半軟化温度が、第1銅層21を構成する第1銅板41の半軟化温度よりも高いことから、冷熱サイクルを負荷した際に回路層20の表面が変形することを抑制でき、半導体素子3との接合性の低下を抑制することができる。
よって、高温環境下で厳しい冷熱サイクルが負荷される用途であっても、安定して使用することが可能となる。
【0048】
本実施形態の半導体デバイス1は、本実施形態である絶縁回路基板10と、回路層20上に搭載された半導体素子3と、を備えた構造とされているので、半導体素子3から生じる熱を効率的に放熱することができるとともに、冷熱サイクルによる回路層20表面の変形やセラミックス基板11の割れを抑制でき、高温環境下で厳しい冷熱サイクルが負荷される用途であっても、安定して使用することができる。
【0049】
本実施形態の半導体デバイス1において、絶縁回路基板10および半導体素子3が絶縁樹脂によって樹脂封止されている場合には、冷熱サイクル負荷時おける熱応力をさらに抑制することができ、回路層20の表面の変形やセラミックス基板11の割れをさらに抑制できる。また、半導体素子3や端子材5が他の部材と短絡することを抑制できる。
【0050】
本実施形態の絶縁回路基板10の製造方法は、セラミックス基板11に第1銅板41を接合して第1銅層21を形成するとともに、セラミックス基板11に第3銅板51を接合して第3銅層31を形成する第1銅層および金属層形成工程S01と、第1銅層21に回路パターンを形成する回路パターン形成工程S02と、を備えているので、回路パターン形成工程S02において、第1銅層21に対してのみ回路パターンを形成することから、回路パターンを精度良く、かつ、効率的に形成することが可能となる。
また、第2銅層形成工程S03において、回路パターンを形成した第1銅層21のうち半導体素子3が搭載される素子搭載領域に第2銅板52を接合して第2銅層22を形成しているので、熱源となる半導体素子3が搭載される素子搭載領域の厚さが確保され、放熱性に優れた絶縁回路基板10を製造することができる。
【0051】
(第二の実施形態)
次に、本発明の実施形態について、添付した図面を参照して説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
図4に、本発明の第二実施形態である絶縁回路基板110、及び、この絶縁回路基板110を用いた半導体デバイス101を示す。
【0052】
図4に示す半導体デバイス101は、本実施形態である絶縁回路基板110と、この絶縁回路基板110の一方の面(
図4において上面)に第1接合層2を介して接合された半導体素子3と、絶縁回路基板110の下側に第2接合層7を介して接合されたヒートシンク6と、を備えている。
【0053】
そして、本実施形態である絶縁回路基板110は、
図4に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に配設された回路層120と、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に配設された金属層130と、を備えている。
【0054】
回路層120は、
図1に示すように、セラミックス基板11の一方の面に配設された第1銅層121と、この第1銅層121の一方の面に積層された第2銅層122と、を有している。
なお、本実施形態においては、
図1に示すように、回路層120には、回路パターンが形成されている。
【0055】
回路層120を構成する第1銅層121は、
図6に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、第1銅板141が接合されることにより形成されている。
また、第2銅層122は、第1銅層121に第2銅板142が接合されることによって形成されている。
そして、本実施形態においては、第1銅層121を構成する第1銅板141の半軟化温度が200℃以下とされている。また、第2銅層122を構成する第2銅板142の半軟化温度が、第1銅層121を構成する第1銅板141の半軟化温度よりも高くなるように構成されている。
なお、第1銅層121を構成する第1銅板141の半軟化温度は、180℃以下あることがより望ましい。また、第1銅層121を構成する第1銅板141の半軟化温度は、80℃以上であってもよい。
また、第1銅層121を構成する第1銅板141の質別には特に指定はないが、加工硬化が少ない1/4H材、1/8H材、O材であることが好ましい。
【0056】
ここで、軟化温度が200℃以下とされた第1銅層121を構成する第1銅板141は、例えば、純度が99.9999mass%以上の6NCuや、純度が99.96mass%以上の無酸素銅にイットリウム、スカンジウム、サマリウム、ランタン、セリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ハフニウム、ネオジム、タンタル、カルシウム、マンガンといった元素を少なくとも1種または2種以上微量添加した銅材を用いることができる。
また、第2銅層122を構成する第2銅板142は、第1銅板141よりも半軟化温度が高い銅または銅合金で構成されたものとされている。
【0057】
第1銅層121(第1銅板141)と第2銅層122(第2銅板142)は、固相拡散接合によって直接接合されている。
また、回路層120における第1銅層121の厚さは、0.1mm以上1mm以下の範囲内に設定されている。
一方、回路層120における第2銅層122の厚さは、0.1mm以上1mm以下の範囲内に設定されている。
【0058】
金属層130は、
図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面に配設された第3銅層131と、この第3銅層131の他方の面に積層された第4銅層132と、を有している。
金属層130を構成する第3銅層131は、
図6に示すように、セラミックス基板11の他方の面に、第3銅板151が接合されることにより形成されている。
また、第4銅層132は、第3銅層131に第4銅板152が接合されることによって形成されている。
そして、本実施形態においては、第3銅層131を構成する第3銅板151の半軟化温度が200℃以下とされている。また、第4銅層132を構成する第4銅板152の半軟化温度が、第3銅層131を構成する第3銅板151の半軟化温度よりも高くなるように構成されている。
なお、第3銅層131を構成する第3銅板151の半軟化温度は、180℃以下あることがより望ましい。また、第3銅層131を構成する第3銅板151の半軟化温度は、80℃以上であってもよい。
また、第3銅層131を構成する第3銅板151の質別には特に指定はないが、加工硬化が少ない1/4H材、1/8H材、O材であることが好ましい。
【0059】
ここで、軟化温度が200℃以下とされた第3銅層131を構成する第3銅板151は、例えば、純度が99.9999mass%以上の6NCuや、純度が99.96mass%以上の無酸素銅にイットリウム、スカンジウム、サマリウム、ランタン、セリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、ハフニウム、ネオジム、タンタル、カルシウム、マンガンといった元素を少なくとも1種または2種以上微量添加した銅材を用いることができる。
また、第4銅層132を構成する第4銅板152は、第3銅板151よりも半軟化温度が高い銅または銅合金で構成されている。
【0060】
第3銅層131(第3銅板151)と第4銅層132(第4銅板152)は、固相拡散接合によって直接接合されている。
また、金属層130における第3銅層131の厚さは、0.1mm以上1mm以下の範囲内に設定されている。
一方、金属層130における第4銅層132の厚さは、0.1mm以上1mm以下の範囲内に設定されている。
【0061】
次に、本実施形態である絶縁回路基板110の製造方法について、
図5及び
図6を参照して説明する。
【0062】
(第1銅板および第2銅板準備工程S101)
まず、第1銅板141および第2銅板142として、回路層120の回路パターンを構成する形状に加工したものを準備する。本実施形態では、銅板に対して打ち抜き加工することにより、回路パターンを構成する第1銅板141および第2銅板142を準備する。
【0063】
(回路層および金属層形成工程S102)
図6に示すように、セラミックス基板11の一方の面に、第1銅層121となる第1銅板141を、接合材46を介して積層するとともに、セラミックス基板11の他方の面に、第3銅層131となる第3銅板151を、接合材56を介して積層する。なお、第1銅板141は、回路パターンを形成するように配置する。
なお、本実施形態では、接合材46、56として、CuとTiを含むAg合金からなるろう材(例えば、Ag-27.4質量%Cu-2.0質量%Tiろう材)を用いている。
【0064】
さらに、回路パターンを形成するように配置された第1銅板141の一方の面側(
図6において上側)に、第2銅層122となる第2銅板142を積層する。
また、第3銅板151の他方の面側(
図6において下側)に、第4銅層132となる第4銅板152を積層する。
なお、第1銅板141,第2銅板142、第3銅板151、第4銅板152の、それぞれの接合面は、予め当該面の傷が除去されて平滑にされている。
【0065】
そして、積層方向に加圧(圧力1~100kgf/cm2(0.1~9.8MPa))した状態で真空加熱炉内に配置し、積層方向に加圧して加熱することにより、第1銅板141とセラミックス基板11を接合して第1銅層121を形成するとともに、第3銅板151とセラミックス基板11を接合して第3銅層131を形成する。
さらに、第1銅層121(第1銅板141)と第2銅板142を固相拡散接合して第2銅層122を形成するとともに、第3銅層131(第3銅板151)と第4銅板152を固相拡散接合して第4銅層132を形成する。
すなわち、本実施形態においては、第1銅層形成工程S121、第2銅層形成工程S122、第3銅層形成工程S123、第4銅層形成工程S124を同時に実施しているのである。
ここで、真空加熱炉内の圧力は10-6Pa以上10-3Pa以下の範囲内、加熱温度は800℃以上930℃以下の範囲内、加熱温度での保持時間は5分以上120分以下の範囲内に設定されることが好ましい。
【0066】
以上のようにして、本実施形態である絶縁回路基板110が製造される。
【0067】
(ヒートシンク接合工程S104)
次に、金属層130の第4銅層132とヒートシンク6とをはんだ材を介して積層し、還元炉内においてはんだ接合する。
【0068】
(半導体素子接合工程S106)
次いで、回路層120に、はんだ材を介して半導体素子3を積層し、還元炉内においてはんだ接合する。
【0069】
上記のようにして、本実施形態である半導体デバイス101が製造される。
【0070】
以上のような構成とされた本実施形態に係る絶縁回路基板110によれば、第一実施形態と同様の作用効果を奏することが可能となる。
また、本実施形態の絶縁回路基板110において、セラミックス基板11の回路層120とは反対側の面に金属層130が形成されており、金属層130がセラミックス基板11側に配設された第3銅層131と、第3銅層131に積層された第4銅層132と、を有している場合には、金属層130全体の厚さを確保することが可能となり、さらなる放熱性の向上を図ることができる。
【0071】
また、セラミックス基板11側に配設された第3銅層131を構成する第3銅板151の半軟化温度が200℃以下とされているので、冷熱サイクル負荷時にセラミックス基板11に加わる熱応力を緩和することができ、セラミックス基板11の割れを抑制することができる。
さらに、第4銅層132を構成する第4銅板152の半軟化温度が、第3銅層131を構成する第3銅板151の半軟化温度よりも高いことから、冷熱サイクルを負荷した際に金属層30の表面が変形することを抑制でき、ヒートシンク6との接合性の低下を抑制することができる。
よって、高温環境下で厳しい冷熱サイクルが負荷される用途であっても、安定して使用することが可能となる。
【0072】
本実施形態の絶縁回路基板110の製造方法においては、セラミックス基板11に第1銅板141を接合して第1銅層121を形成する第1銅層形成工程S111と、第1銅層121に第2銅板142を接合して第2銅層122を形成する第2銅層形成工程112と、セラミックス基板11に第3銅板151を接合して第3銅層131を形成する第3銅層形成工程S113と、第3銅層131に第4銅板152を接合して第4銅層132を形成する第4銅層形成工程S114と、を同時に実施していることから、製造工程が少なく、回路層120および金属層130がそれぞれ2層構造とされた絶縁回路基板110を効率的に製造することが可能となる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、半導体デバイスを、パワー半導体を搭載したパワーモジュールとして説明したが、これに限定されることはなく、本実施形態である絶縁回路基板を有していれば、他の半導体デバイスであってもよい。
【実施例0074】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0075】
まず、窒化珪素からなるセラミックス基板(40mm×40mm×厚さ0.32mm)を準備した。
回路層(第1銅層および第2銅層)および金属層(第3銅層および第4銅層)を構成する銅板として、表1に示す銅板(37mm×37mm×厚さは表1に記載)を準備した。
ここで、表1において、「6NCu」は純度99.9999mass%以上の純銅、「TPC」はタフピッチ銅、「OFC」は無酸素銅、「Cu1」は純度99.96mass%以上の無酸素銅にイットリウム(Y)を9molppm添加したものである。
【0076】
そして、表1に示すように、セラミックス基板に銅板を接合するとともに、銅板同士を接合することにより、本発明例1~8、比較例1~3の絶縁回路基板を作製した。
セラミックス基板と銅板との接合は、Ag-27.4mass%Cu-2.0質量%Tiからなるろう材を用いて接合した。また、銅板同士の接合は、固相拡散接合とした。
【0077】
ここで、表1の接合方法の欄の「1」は、セラミックス基板と銅板との接合、銅板同士の接合を同時に実施した。接合条件は、真空雰囲気10-5Pa、加圧荷重1MPa、加熱温度950℃、加熱時間での保持時間を1時間とした。
表1の接合方法の欄の「2」は、セラミックス基板と銅板とを接合し、その後、銅板と銅板を固相拡散接合した。セラミックス基板と銅板とを接合条件は、真空雰囲気10-5Pa、加圧荷重1MPa、加熱温度800℃、加熱時間での保持時間を1時間とした。銅板と銅板を固相拡散接合の接合条件は、真空雰囲気10-5Pa、加圧荷重1MPa、加熱温度950℃、加熱時間での保持時間を1時間とした。
【0078】
作製した本発明例1~8、比較例1~3の絶縁回路基板を以下のように評価した。評価結果を表1に示す。
【0079】
(冷熱サイクル信頼性)
上述の絶縁回路基板に対して、液槽(フロリナート:スリーエムジャパン社製)で、-45℃×5分←→175℃×5分の冷熱サイクルを実施した。そして、冷熱サイクル500回毎にセラミックス基板の割れの有無を確認し、割れ発生時点の冷熱サイクル数(表1においては、「セラミックス基板の割れ発生回数」と記載)を確認した。
【0080】
【0081】
比較例1においては、回路層および金属層が半軟化温度290℃である無酸素銅の1層構造とされており、冷熱サイクル500~1000回でセラミックス基板に割れが発生したが、軽微であり1000回近傍で発生したものと推測される。
比較例2においては、回路層および金属層が半軟化温度230℃であるタフピッチ銅の1層構造とされており、冷熱サイクル500~1000回でセラミックス基板に割れが発生した。比較例1と比べて割れが大きく、500回近傍で発生したものと推測される。
【0082】
比較例3においては、セラミックス基板側の第1銅層および第3銅層が半軟化温度290℃である無酸素銅とされ、第1銅層に積層される第2銅層および第3銅層に積層される第4銅層が半軟化温度175℃であるCu1とされており、冷熱サイクル500~1000回でセラミックス基板に割れが発生した。比較例1と同様に、割れが軽微であることから1000回近傍で発生したものと推測される。
【0083】
これに対して、本発明例1~7においては、セラミックス基板側の第1銅層および第3銅層が半軟化温度200℃以下である銅板で構成され、第1銅層に積層される第2銅層および第3銅層に積層される第4銅層の半軟化温度が、第1銅層および第3銅層を構成する銅板の半軟化温度よりも高くされており、冷熱サイクル2000回の時点でセラミックス基板に割れが生じておらず、冷熱サイクル信頼性に優れていた。
【0084】
また、本発明例8においては、セラミックス基板側の第1銅層が半軟化温度200℃以下である銅板で構成され、第1銅層に積層される第2銅層の半軟化温度が、第1銅層を構成する銅板の半軟化温度よりも高くされており、冷熱サイクル2000回の時点でセラミックス基板に割れが生じておらず、冷熱サイクル信頼性に優れていた。
なお、本発明例1~7では、第1銅層の厚みは、0.1mm以上0.3mm以下で、第2銅層の厚みは0.5mm以上0.9mm以下で第2銅層の方が第1銅層よりも厚く構成されていた。
【0085】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、高温環境下で厳しい冷熱サイクルが負荷される用途でも使用可能な冷熱サイクル信頼性を有するとともに、放熱性に優れた絶縁回路基板、この絶縁回路基板を用いた半導体デバイス、および、絶縁回路基板の製造方法を提供可能であることが確認された。