(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141454
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】銅合金、および、電子・電気機器用部品
(51)【国際特許分類】
C22C 9/00 20060101AFI20241003BHJP
H01B 1/02 20060101ALI20241003BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241003BHJP
C22F 1/08 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
C22C9/00
H01B1/02 A
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053123
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】松野下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301AA08
5G301AA09
5G301AA20
5G301AA23
5G301AD03
5G301AD05
(57)【要約】
【課題】長手方向に直交する方向より長手方向に平行な方向の導電率に優れたCu-Fe-P系の銅合金を提供する。
【解決手段】Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.20質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避不純物とした組成とされており、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOが100.1%を超え、105.0%以下であり、長手方向を含む断面で観察された粒子径が150nm以上1000nm未満の析出物粒子を対象として、長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPとの比LO/LPの平均値が0.8以下とされている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.20質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避不純物とした組成とされており、
長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOが100.1%を超え、105.0%以下であり、
長手方向を含む断面で観察された粒子径が150nm以上1000nm未満の析出物粒子を対象として、長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPとの比LO/LPの平均値が0.8以下とされていることを特徴とする銅合金。
【請求項2】
長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROの比RP/ROが100.1%を超え、105.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
さらに、Mg;0.005質量%以上0.5質量%以下、Co;0.005質量%以上0.5質量%以下のいずれか一種又は二種を含有することを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項4】
さらに、Ni;0.005質量%以上0.5質量%以下、Al;0.005質量%以上0.5質量%以下、Si;0.005質量%以上0.5質量%以下、のいずれか一種又は二種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項5】
長手方向に平行な方向の導電率が55%IACS以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項6】
前記不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満とされていることを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載された銅合金からなることを特徴とする電子・電気機器用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、家電、リードフレーム等の半導体部品、プリント配線板、放熱板、開閉器部品、バスバー、コネクタ等の電気・電子機器用部品などに好適な銅合金、この銅合金からなる電気・電子機器用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、端子、バスバー、リードフレーム、放熱部材等の電子・電気機器用部品には、導電性に優れた銅又は銅合金が用いられている。
上述の各種用途の銅合金としては、従来、FeとPとを含有するCu-Fe-P系合金が汎用されている。Cu-Fe-P系合金は、銅母相中にFe又はFe-P等の金属間化合物を析出させた析出強化型合金であって、強度、導電性および熱伝導性に優れていることから、様々な用途で広く使用されている。近年、Cu-Fe-P系合金の用途拡大や、電気・電子機器の軽量化、薄肉化、小型化などに伴い、Cu-Fe-P系合金に対しても、より一層の高強度化、高導電率化、良好な熱伝導性が求められている。例えば、特許文献1においては機械的性質の異方性を低減させるため、Cu母相の結晶粒が等軸状であるとされるCu-Fe-P系合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、電気・電子機器用部品の中でバスバー等の特定方向に電流を流す用途においては特に長手方向への導電性が要求される。ところが、従来のCu-Fe-P系合金では導電性の異方性について十分に検討されたものは提案されていなかった。
特許文献1においては特性の異方性について検討しているものの、機械的性質の異方性を低減させることを目的としており、さらに導電率に関しては着目されていない。
【0005】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、長手方向に直交する方向より長手方向に平行な方向の導電率に優れ、たCu-Fe-P系の銅合金、および、この銅合金からなる電子・電気機器用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の態様1の銅合金は、Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.20質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避不純物とした組成とされており、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOが100.1%を超え、105.0%以下であり、長手方向を含む断面で観察された粒子径が150nm以上1000nm未満の析出物粒子を対象として、長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPとの比LO/LPの平均値が0.8以下とされていることを特徴とする。
【0007】
本発明の態様1の銅合金によれば、Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.20質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避不純物とした組成とされているので、強度、導電率に優れるとともに、良好な熱伝導性を有することができる。
【0008】
そして、本発明の態様1の銅合金においては、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOが100.1%を超え、105.0%以下とされているので、特に長手方向に電流を流す用途に関して良好な導電性を有している。
また、母相を流れる電子に対して析出物粒子は障害であって電気抵抗の要因となる。したがって、析出物粒子の長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPが異なる場合には、導電率に異方性が生じる。
よって、析出物の形態を制御することにより長手方向の導電率を向上させることができる。一方、長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPとの比LO/LPが小さい析出物を得るためには粗大な析出物が必要であり、そのような粗大な析出物は表面欠陥を生じるおそれがある。また、小さい析出物は球状をしていることが多く、異方性は小さい。
【0009】
そこで、本発明の態様1の銅合金においては、観察された粒子径が150nm以上1000nm未満の析出物粒子を対象として、長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPとの比LO/LPの平均値が0.8以下とされており、長手方向の導電率向上および表面欠陥の抑制が可能となる。
なお、本発明における析出物粒子の粒径は、組織観察において、析出物粒子の面積に等しい面積を持つ円の直径(円相当直径)であり、長手方向に平行な方向と長手方向に直交する方向の析出物粒子長さは、それらの方向に測定した析出物粒子の長さである。
【0010】
本発明の態様2の銅合金は、本発明の態様1の銅合金において、長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROの比RP/ROが100.1%を超え、105.0%以下であることを特徴としている。
【0011】
本発明の態様2の銅合金によれば、長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROのRP/ROが100.1%を超え、105.0%以下とされており、低温においても長手方向の導電性に優れる。
なお、電気抵抗比(R)は293Kでの電気比抵抗(ρ293K)および液体窒素温度(77K)での電気比抵抗(ρ77K)を測定し、R=ρ293K/ρ77Kで算出される。
【0012】
本発明の態様3の銅合金は、本発明の態様1または態様2の銅合金において、さらに、Mg;0.005質量%以上0.5質量%以下、Co;0.005質量%以上0.5質量%以下のいずれか一種又は二種を含有することを特徴としている。
【0013】
本発明の態様3の銅合金によれば、さらに、Mg;0.005質量%以上0.5質量%以下、Co;0.005質量%以上0.5質量%以下のいずれか一種又は二種を含有しているので、Mg,Coが母相中に固溶および一部がFe系およびFe-P系析出物に固溶することになり、固溶強化および一部は析出強化によって、耐熱性及び強度を向上させることが可能となる。
【0014】
本発明の態様4の銅合金は、本発明の態様1から態様3のいずれかひとつの銅合金において、さらに、Ni;0.005質量%以上0.5質量%以下、Al;0.005質量%以上0.5質量%以下、Si;0.005質量%以上0.5質量%以下、のいずれか一種又は二種以上を含有することを特徴としている。
【0015】
本発明の態様4の銅合金によれば、さらに、Ni;0.005質量%以上0.5質量%以下、Al;0.005質量%以上0.5質量%以下、Si;0.005質量%以上0.5質量%以下、のいずれか一種又は二種以上を含有しているので、耐熱性および強度をさらに向上させることが可能となる。
【0016】
本発明の態様5の銅合金は、本発明の態様1から態様4のいずれかひとつの銅合金において、長手方向に平行な方向の導電率が55%IACS以上であることを特徴としている。
本発明の態様5の銅合金によれば、長手方向に平行な方向の導電率が55%IACS以上とされているので、高い導電性が要求される用途にも適用することができる。
【0017】
本発明の態様6の銅合金は、本発明の態様1から態様5のいずれかひとつの銅合金において、前記不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満とされていることを特徴としている。
【0018】
本発明の態様6の銅合金によれば、溶解・鋳造時において液相分離を促進する作用を有する元素が低減されているので、鋳塊内に粗大なFe系晶出物が生成することを抑制でき、発生する表面欠陥の個数を低減することができる。
【0019】
本発明の態様7の電子・電気機器用部品は、本発明の態様1から態様6のいずれかひとつの銅合金からなることを特徴とする。
本発明の態様7の電子・電気機器用部品によれば、本発明の態様1から態様6のいずれかひとつの銅合金で構成されているので、高温環境下においても、優れた特性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0020】
長手方向に直交する方向より長手方向に平行な方向の導電率に優れたCu-Fe-P系の銅合金、および、この銅合金からなる電子・電気機器用部品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態である銅合金の析出物粒子の一例を示す観察写真である。
【
図2】本実施形態である銅合金の製造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態である銅合金について説明する。
本実施形態である銅合金は、Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.20質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避不純物とした組成とされている。
【0023】
なお、本実施形態である銅合金においては、さらに、Mg;0.005質量%以上0.5質量%以下、Co;0.005質量%以上0.5質量%以下のいずれか一種又は二種を含有していてもよい。
また、本実施形態である銅合金においては、さらに、Ni;0.005質量%以上0.5質量%以下、Al;0.005質量%以上0.5質量%以下、Si;0.005質量%以上0.5質量%以下、のいずれか一種又は二種以上を含有していてもよい。
【0024】
さらに、本実施形態である銅合金においては、前記不可避不純物として含まれるCの含有量が5質量ppm未満、Crの含有量が7質量ppm未満、Moの含有量が5質量ppm未満、Wの含有量が1質量ppm未満、Vの含有量が1質量ppm未満、Nbの含有量が1質量ppm未満とされていることが好ましい。
【0025】
そして、本実施形態である銅合金においては、長手方向に平行な方向で測定した導電率σ
Pと長手方向に直交する方向で測定した導電率σ
Oとの比σ
P/σ
Oが100.1%を超え、105.0%以下とされている。
また、本実施形態である銅合金においては、
図1に示すように、長手方向を含む断面で観察された粒子径が150nm以上1000nm未満の析出物粒子12を対象として、長手方向に直交する方向の粒子長さ(長手直交方向粒子径)L
Oと長手方向に平行な方向の粒子長さ(長手平行方向粒子径)L
Pとの比L
O/L
Pの平均値が0.8以下とされている。
【0026】
すなわち、本実施形態である銅合金においては、
図1に示すように、母相11中に、FeおよびFe-P等の析出物粒子12が分散したものとされており、この析出物粒子12の粒子径が上述のように規定されている。なお、母相11とは、FeおよびFe-P等の析出物粒子12以外の相のことであり、Cuを主成分(Cu含有量は97質量%を超え)としており、一部のFe,Zn,P、Sn等が固溶している相のことである。
ここで、粒子径150nm未満の小さい析出物は球状をしていることが多く、異方性への影響が小さいことから対象外した。また、粒子径1000nm以上の析出物粒子12は表面欠陥の原因となり得ることから対象外とした。なお、本実施形態における析出物粒子12の粒径は、組織観察において、析出物粒子12の面積に等しい面積を持つ円の直径(円相当直径)であり、長手方向に直交する方向に粒子長さL
O、および、長手方向に平行な方向の粒子長さL
Pは、それらの方向に測定した析出物粒子12の長さである。
【0027】
ここで、本実施形態である銅合金においては、導電率が55%IACS以上であることが好ましい。
また、本実施形態である銅合金においては、強度が480MPa以上であることが好ましい。
さらに、本実施形態である銅合金においては、ビッカース硬度が100HV以上であることが好ましい。
【0028】
本実施形態の銅合金において、上述のように成分組成、各種特性、結晶組織を規定した理由について以下に説明する。
【0029】
(Fe)
Feは、母相11中に固溶するとともに、FeまたはFe―Pの析出物粒子12を生成する。このFeまたはFe―Pの析出物粒子12が母相11中に分散されることにより、導電率を低下させることなく、強度、硬さ、耐熱性を向上させる。ここで、Feの含有量が1.5質量%未満では、強度向上の効果等が十分でない。一方、Feの含有量が2.7質量%を超えると、大きな晶出物が生成して表面の清浄性を損なうおそれがある。さらに導電率および加工性の低下をもたらすおそれがある。
したがって、本実施形態においては、Feの含有量を1.5質量%以上2.7質量%以下に設定している。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Feの含有量の下限を1.8質量%以上とすることが好ましく、2.1質量%以上とすることがさらに好ましい。また、大きな晶出物の生成を確実に抑制するためには、Feの含有量の上限を2.6質量%以下とすることが好ましく、2.4質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
(P)
Pは、脱酸作用を有する元素である。また、上述のように、FeとともにFe―Pの析出物粒子12を生成し、導電率を低下させることなく、強度、硬さ、耐熱性を向上させる。ここで、Pの含有量が0.008質量%未満では、強度向上の効果等が十分でない。一方、Pの含有量が0.20質量%を超えると、導電率および加工性の低下をもたらすことになる。
したがって、本実施形態においては、Pの含有量を0.008質量%以上0.20質量%以下に設定している。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Pの含有量の下限を0.01質量%以上とすることが好ましく、0.02質量%以上とすることがさらに好ましい。また、導電率および加工性の低下を確実に抑制するためには、Pの含有量の上限を0.15質量%以下とすることが好ましく、0.12質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0031】
(Zn)
Znは、はんだ濡れ性及びはんだ耐候性を向上させる作用を有する元素である。ここで、Znの含有量が0.01質量%未満では、はんだ濡れ性及びはんだ耐候性を向上させる作用効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Znの含有量が0.5質量%を超えてもその効果が飽和することになる。
したがって、本実施形態においては、Znの含有量を0.01質量%以上0.5質量%以下に設定している。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Znの含有量の下限を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.05質量%以上とすることがさらに好ましい。また、Znの含有量の上限を0.35質量%以下とすることが好ましく、0.20質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0032】
(Sn)
Snは、母相11中に固溶することにより、耐熱性および強度を向上させる作用を有する元素である。ここで、Snの含有量が0.01質量%未満では、上述の効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Snの含有量が0.5質量%を超えると、導電率が著しく低下することになる。
したがって、本実施形態においては、Snの含有量を0.01質量%以上0.5質量%以下に設定している。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Snの含有量の下限を0.02質量%以上とすることが好ましく、0.03質量%以上とすることがさらに好ましい。また、導電率の低下をさらに抑制するためには、Snの含有量の上限を0.3質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0033】
(Mg,Co)
Mg,Coは、母相11中に固溶して固溶強化によって、耐熱性および強度を向上させる作用を有している。このため、要求特性に応じて、適宜添加してもよい。ここで、Mgの含有量が0.005質量%未満、あるいは、Coの含有量が0.005質量%未満の場合には、上述の効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Mgの含有量が0.5質量%を超える、あるいは、Coの含有量が0.5質量%を超える場合には、導電率が著しく低下することになる。
したがって、本実施形態において、Mg、Coを添加する場合には、Mgの含有量を0.005質量%以上0.5質量%以下、Coの含有量を0.005質量%以上0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0034】
ここで、Mg,Coを添加する場合には、Mgの含有量の下限を0.01質量%以上とすることが好ましく、Coの含有量の下限を0.01質量%以上とすることが好ましい。さらにはMgの含有量の下限を0.02質量%以上とすることが好ましく、Coの含有量の下限を0.02質量%以上とすることが好ましい。さらに、Mgの含有量の上限を0.2質量%以下とすることが好ましく、Coの含有量の上限を0.2質量%以下とすることが好ましい。
なお、Mg,Coを不純物として含有する場合には、上述の下限値未満で含有していてもよい。
【0035】
(Ni,Al,Si)
Ni,Al,Siは、耐熱性および強度をさらに向上させる作用を有している。このため、要求特性に応じて、適宜添加してもよい。ここで、Niの含有量が0.005質量%未満、Alの含有量が0.005質量%未満、あるいは、Siの含有量が0.005質量%未満の場合には、上述の効果を十分に奏功せしめることができない。一方、Niの含有量が0.5質量%を超える、Alの含有量が0.5質量%を超える、あるいは、Siの含有量が0.5質量%を超える場合には、導電率が著しく低下することになる。
したがって、本実施形態においてNi,Al,Siを添加する場合には、Niの含有量を0.005質量%以上0.5質量%以下、Alの含有量を0.005質量%以上0.5質量%以下、Siの含有量を0.005質量%以上0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0036】
ここで、Ni,Al,Siを添加する場合には、Niの含有量の下限を0.01質量%以上とすることが好ましく、Alの含有量の下限を0.01質量%以上とすることが好ましく、Siの含有量の下限を0.01質量%以上とすることが好ましい。さらに、Niの含有量の上限を0.1質量%以下とすることが好ましく、Alの含有量の上限を0.1質量%以下とすることが好ましく、Siの含有量の上限を0.1質量%以下とすることが好ましい。
なお、Ni,Al,Siを不純物として含有する場合には、上述の下限値未満で含有していてもよい。
【0037】
(不可避不純物であるC、Cr、Mo、W、V、Nb)
C、Cr、Mo、W、V、Nbは、不可避不純物として上述の銅合金中に含有されるものである。ここで、C、Cr、Mo、W、V、Nbの含有量が多い場合、銅合金薄板の表面欠陥が大幅に増加することになる。この表面欠陥は、Cr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する鉄合金粒子が起因となる。
【0038】
通常、上述の銅合金を溶解鋳造する際に、Fe元素はCuを主成分とする液相中に溶解した状態で存在する。しかし、C、Cr、Mo、W、V、Nbが一定量以上存在する場合、銅合金溶湯は、Cuを主成分とする液相と、Feを主成分としCとCr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上を含有する液相とに分離され、結果としてCr、Mo、W、V、Nbのうちの少なくとも1種以上とFeとCとを含有する粗大な晶出物が鋳塊内に存在することになる。その後、鋳塊を圧延することにより、鉄合金粒子が銅合金薄板の表面に露出し、上述の表面欠陥が発生すると考えられる。また、この鉄合金粒子に起因してプレス加工、エッチング加工又は銀めっきを行った際に、形状不良が発生することになる。
【0039】
以上のことから、C、Cr、Mo、W、V、Nbを低減することにより、鉄合金粒子に起因する表面欠陥及び製品の形状不良を抑制することが可能となる。
そこで、本実施形態においては、粗大な晶出物の発生を抑制するために、不可避不純物であるCの含有量を5質量ppm未満、Crの含有量を7質量ppm未満、Moの含有量を5質量ppm未満、Wの含有量を1質量ppm未満、Vの含有量を1質量ppm、Nbの含有量を1質量ppm未満に制限することが好ましい。
【0040】
なお、さらに粗大な晶出物の発生を抑制するためには、不可避不純物であるCの含有量を4質量ppm未満とすることがさらに好ましく、3質量ppm以下とすることがより好ましく、2質量ppm以下であることがより一層好ましい。
また、不可避不純物であるMoの含有量を1質量ppm未満とすることがさらに好ましく、0.6質量ppm未満とすることがより好ましい。
また、不可避不純物であるCrの含有量を5質量ppm未満、Wの含有量を0.6質量ppm未満、Vの含有量を0.6質量ppm未満、Nbの含有量を0.6質量ppm未満とすることが好ましい。
【0041】
なお、上述した元素およびC、Cr、Mo、W、V、Nb以外の不可避不純物としては、Ca、Sr、Ba、希土類元素、Zr、Be、Ti、H、Li、B、N、O、F、Na、S、Cl、K、Mn、Ga、Ge、As、Se、Br、Rb、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sb、Te、I、Cs、Hf、Ta、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi等が挙げられる。これらの不可避不純物は、特性に影響を与えない範囲で含有されていてもよい。
これらの不可避不純物は、導電率を低下させるおそれがあることから、総量で0.1質量%以下とすることが好ましく、0.05質量%以下とすることがさらに好ましく、0.03質量%以下とすることがより好ましく、さらには0.01質量%以下とすることが好ましい。
【0042】
(析出物粒子の粒子長さの比)
母相11を流れる電子に対して析出物粒子12は障害となる。従って、長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPとが異なることにより、導電率に異方性が生じる。一方、長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPの比LO/LPが小さい析出物を得るためには粗大な析出物が必要であり、そのような粗大な析出物は表面欠陥を生じるおそれがある。また、小さい析出物は球状をしていることが多く、異方性は小さい。
そのため、本実施形態においては、長手方向を含む断面で観察された粒子径が150nm以上1000nm未満の析出物粒子12を対象として、析出物粒子12の長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPの比LO/LPの平均値を0.8以下としている。
なお、上述の作用効果を奏功せしめるためには、析出物粒子12の粒子長さの比LO/LPの平均値を0.75以下とすることが好ましく、0.7以下とすることがさらに好ましい。
【0043】
(導電率)
本実施形態である銅合金において、導電率が55%IACS以上である場合には、バスバー等の電気・電子機器用部品の素材として特に適している。なお、本実施形態である銅合金の導電率は、57%IACS以上であることが好ましく、60%IACS以上であることがさらに好ましい。
そして、本実施形態である銅合金においては、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPが長手方向に直交する方向で測定した導電率σOより高い場合には、バスバー等の特定方向に電流を流す電気・電子機器用部品の素材として特に適している。すなわち、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOを100.1%超えとすることが好ましい。一方、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOを大きくするためにはアスペクト比の高い析出物が必要であるが、そのような析出物は粗大であり、表面欠陥を生じるおそれがある。
【0044】
したがって、本実施形態である銅合金においては、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOが100.1%を超え、105.0%以下とされている。
なお、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOの下限は100.2%以上であることが好ましく、100.3%以上であることがより好ましい。長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOの上限は103.0%以下であることが好ましく、102.0%以下であることがより好ましい。
【0045】
(電気抵抗比(R))
本実施形態である銅合金において、低温での導電性の指標とする電気抵抗比(R)が長手方向に平行な方向で測定した値が長手方向に直交する方向で測定した値より高い場合には、低温においてもバスバー等の特定方向に電流を流す電気・電子機器用部品の素材として特に適している。すなわち、長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROの比RP/ROを100.1%超えとすることが好ましい。一方、長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROの比RP/ROを大きくするためにはアスペクト比の高い析出物が必要であるが、そのような析出物は粗大であり、表面欠陥を生じるおそれがある。
【0046】
したがって、長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROの比RP/ROが100.1%を超え、105.0%以下とされていることが好ましい。
なお、長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROの比RP/ROの下限は100.2%以上であることが好ましく、100.3%以上であることがより好ましい。長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROの比RP/ROの上限は103.0%以下であることが好ましく、102.0%以下であることがより好ましい。
【0047】
(引張強度)
本実施形態である銅合金において、引張強度が400MPa以上である場合には、強度に優れており、バスバー等の電気・電子機器用部品の素材として特に適している。本実施形態では、圧延方向に対して平行方向に引張試験を行った際の引張強度が400MPa以上とされている。
なお、本実施形態である銅合金の引張強度は415MPa以上であることがさらに好ましく、430MPa以上であることがより好ましい。
【0048】
(ビッカース硬度)
本実施形態である銅合金において、ビッカース硬度が100HV以上である場合には、容易に変形することがなく、バスバー等の電気・電子機器用部品の素材として特に適している。
なお、本実施形態である銅合金のビッカース硬度は110HV以上であることが好ましく、120HV以上であることがさらに好ましい。
【0049】
次に、本実施形態である銅合金を製造する方法の一例について、
図1に示すフロー図を参照して説明する。
【0050】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。ここで、銅溶湯は、純度が99.99質量%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999質量%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0051】
(均質化工程S02)
次に、得られた鋳塊の均質化のために熱処理を行う。鋳塊を850℃以上1050℃以下で1時間以上保持することが好ましい。ここで、均質化工程S02における保持時間の上限に制限はないが、コストや製造効率を考慮すると24時間以下とすることが好ましい。また、均質化工程S02における冷却速度に特に制限はなく、空冷や水冷を実施すればよい。
【0052】
(熱間加工工程S03)
次に、熱間加工を実施する。また、この熱間加工工程において均質化工程S02を兼ねてもよい。850℃以上1050℃以下で1時間以上保持した後、850℃以上1050℃以下で熱間加工を行い、その後水冷を実施する。
また、この熱間加工工程S03においては、加工方法について特に限定はなく、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。なお、本実施形態では、圧延加工を行うものとしている。
【0053】
(粗加工工程S04)
熱間加工工程S03の後に、冷間で粗加工を実施する。このときの加工においては、熱間加工材を液体窒素に1分以上浸漬し、加工工具を液体窒素で冷却しながら加工を行う。加工率は10%以上95%以下の範囲内とすることが好ましい。これにより、加工による発熱を除去し、極低温で加工することにより、加工発熱による回復や再結晶が抑制されるため、析出物を低温で加工できることから、析出物粒子12の粒子長さの比を小さくできる。
なお、この粗加工工程S04においては、加工方法について特に限定はなく、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。なお、本実施形態では、圧延加工を行うものとしている。
【0054】
(第1析出熱処理工程S05)
次に、450℃以上600℃以下で1時間を超えて24時間以下保持する熱処理を実施する。高温で熱処理する場合には保持時間を短く、低温で熱処理する場合には保持時間を長くすることが好ましい。この第1析出熱処理工程S05により、導電率を向上させる。
第1析出熱処理工程S05における昇温速度や降温速度は適宜設定すればよいが、昇温速度は1℃/分以上、降温速度は300℃まで0.1℃/分以上とすることが好ましい。
【0055】
(第1冷間加工工程S06)
第1析出熱処理工程S05の後に、第1冷間加工を実施する。このときの加工においては、第1析出熱処理材を液体窒素に1分以上浸漬し、加工工具を液体窒素で冷却しながら加工を行う。加工率は10%以上95%以下の範囲内とすることが好ましい。さらに加工率を20%以上95%以下の範囲内とすることが好ましく、さらに好ましくは30%以上95%以下の範囲内、より好ましくは40%以上95%以下の範囲内である。加工による発熱を除去し、極低温で加工することにより、加工発熱による回復や再結晶が抑制されるため、析出物を低温で加工できることから、析出物粒子12の粒子長さの比の平均値を0.8以下にできる。
なお、この第1冷間加工工程S06においては、加工方法について特に限定はなく、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。なお、本実施形態では、圧延加工を行うものとしている。
【0056】
(第2析出熱処理工程S07)
次に、450℃以上600℃以下で1時間を超えて24時間以下保持する熱処理を実施する。高温で熱処理する場合には保持時間を短く、低温で熱処理する場合には保持時間を長くすることが好ましい。この第2析出熱処理工程S07により、さらに導電率を向上させる。その後の工程の条件を考慮して、最終製品における導電率が55%IACS以上となるように設定することが好ましい。
第2析出熱処理工程S07における昇温速度や降温速度は適宜設定すればよいが、昇温速度は1℃/分以上、降温速度は300℃まで0.1℃/分以上とすることが好ましい。
【0057】
(仕上げ加工工程S08)
第2析出熱処理工程S07の後に、仕上げ加工を実施する。このときの加工率を10%以上95%以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、この仕上げ加工工程S08においては、加工方法について特に限定はなく、例えば圧延、線引き、押出、溝圧延、鍛造、プレス等を採用することができる。なお、本実施形態では、圧延加工を行うものとしている。
【0058】
(歪除去熱処理工程S09)
次に、必要に応じて、仕上げ加工工程S08で生じた残留歪みを除去することを目的として200℃以上700℃未満で1秒以上24時間未満保持する歪除去熱処理を実施する。高温で熱処理する場合には保持時間を短く、低温で熱処理する場合には保持時間を長くすることが好ましい。
【0059】
以上のような工程により、本実施形態である銅合金が製造されることになる。本実施形態では、仕上げ加工工程S08における加工方法として圧延を行っているので、所定の板厚の銅合金板条材が製造されることになる。
【0060】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金によれば、Fe;1.5質量%以上2.7質量%以下、P;0.008質量%以上0.20質量%以下、Zn;0.01質量%以上0.5質量%以下、Sn;0.01質量%以上0.5質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避不純物とした組成とされているので、強度、導電率に優れるとともに、良好な熱伝導性を有することができる。
【0061】
そして、長手方向に平行な方向で測定した導電率σPと長手方向に直交する方向で測定した導電率σOとの比σP/σOが100.1%を超え、105.0%以下とされているので、特に長手方向に電流を流す用途に関して良好な導電性を有している。
また、観察された粒子径が150nm以上1000nm未満の析出物粒子を対象として、長手方向に直交する方向の粒子長さLOと長手方向に平行な方向の粒子長さLPとの比LO/LPの平均値が0.8以下とされているので、長手方向の導電率向上が可能となる。
【0062】
さらに、本実施形態である銅合金において、長手方向に平行な方向で測定した電気抵抗比RPと長手方向に直交する方向で測定した電気抵抗比ROのRP/ROが100.1%を超え、105.0%以下とされている場合には、低温においても長手方向の導電性に優れることになる。よって、低温環境で使用される電子・電気機器用部品の素材として特に適している。
【0063】
また、本実施形態である銅合金において、さらに、Mg;0.005質量%以上0.5質量%以下、Co;0.005質量%以上0.5質量%以下のいずれか一種又は二種を含有した場合には、固溶強化によって、耐熱性及び強度を向上させることが可能となる。
【0064】
また、本実施形態である銅合金において、さらに、Ni;0.005質量%以上0.5質量%以下、Al;0.005質量%以上0.5質量%以下、Si;0.005質量%以上0.5質量%以下、のいずれか一種又は二種以上を含有した場合には、耐熱性及び強度をさらに向上させることが可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態である銅合金において、不可避不純物として含まれるCの含有量を5質量ppm未満、Crの含有量を7質量ppm未満、Moの含有量を5質量ppm未満、Wの含有量を1質量ppm未満、Vの含有量を1質量ppm未満、Nbの含有量を1質量ppm未満とした場合には、溶解・鋳造工程S01において液相分離を促進する作用を有する元素が低減されており、鋳塊内に粗大なFe系晶出物が生成することを抑制でき、発生する表面欠陥の個数を低減することができる。
【0066】
また、本実施形態である銅合金において、導電率が55%IACS以上とされている場合には、高い導電性が要求される用途にも適用することができる。
さらに、本実施形態である銅合金において、引張強度が400MPa以上である場合には、高い強度が要求される用途にも適用することができる。
また、本実施形態である銅合金において、ビッカース硬度が100HV以上とされている場合には、容易に変形することがなく、電気・電子機器用部品として特に適している。
【0067】
以上、本発明の実施形態である銅合金について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。上述の実施形態では、銅合金の製造方法の一例について説明したが、銅合金の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
【0068】
例えば、本実施形態では、加工方法として圧延を実施しており、本発明の銅合金からなる銅合金板条材を得ているが、加工方法として線引き、押出、溝圧延等を実施した場合には、本発明の銅合金からなる銅合金線棒材を得ることができ、加工方法として鍛造やプレス等を実施した場合には、本発明の銅合金からなる様々な形状の銅合金部材を得ることができる。
【実施例0069】
まず、溶解・鋳造工程として、純度99.99質量%以上の無酸素銅(ASTM B152 C10100)からなる銅原料を準備し、これをアルミナ坩堝内に装入して、Arガス雰囲気とされた高周波溶解炉にて、溶解した。得られた銅溶湯内にFe、P、Zn、Sn、Mg、Al、Si、Co、Niを添加した。なお、これらの元素はCuの母合金を用いて添加した。これにより、表1に示す成分組成の銅合金溶湯を溶製し、カーボン鋳型に注湯して鋳塊を製出した。また、鋳塊の大きさは、厚さ約25mm×幅約70mm×長さ約100mmとした。
【0070】
次に、熱間圧延工程として、得られた鋳塊に対して、表2に記載の熱延温度で4時間の熱処理をした後、厚さ12mmとなるまで900℃で熱間加工を実施した。なお、必要に応じて適宜再加熱を行った。熱間圧延終了後は水冷を行った。熱間圧延後に形成された表面の酸化膜を除去するために面削を行った。
次に、粗圧延工程として、液体窒素に10分以上浸漬した後、液体窒素で圧延ロール表面を冷却しながら、得られた熱間圧延材に対して厚さが2mmになるまで冷間圧延を実施した。
【0071】
次に、第1析出熱処理工程として、電気炉を用いて表2に記載の熱処理温度で1時間から24時間の間で所定時間保持した後、空冷、炉冷もしくは水冷した。その後、熱処理後に形成された表面の酸化膜を除去するために研磨を行った。
次に、第1冷間圧延工程として、試料を液体窒素に10分以上浸漬した後、液体窒素で圧延ロール表面を冷却しながら、厚さが0.7mmとなるまで冷間圧延を実施した。
次に、第2析出熱処理工程として、電気炉を用いて表2に記載の熱処理温度で1時間から24時間の間で所定時間保持した。熱処理後には300℃まで炉冷した後、空冷もしくは水冷した。
【0072】
そして、仕上げ圧延工程として、本発明例1~11および比較例1,2では厚さが0.5mm、本発明例12~22では厚さが0.2mmとなるまで冷間圧延を実施し、評価測定用のサンプルとした。
その後、表2に示すように、一部の試料については、ソルトバス炉を用いて記載温度で1分間の歪除去熱処理を実施し、評価測定用のサンプルとした。
【0073】
上述のようにして得られた本発明例1~22および比較例1,2の銅合金について、以下のように評価した。
【0074】
(析出物粒子の観察)
析出物粒子の観察は以下の方法で実施した。評価測定用のサンプルの圧延面、すなわちND面を機械研磨し、鏡面状に仕上げたのち、日立ハイテクノロジーズ製のIM-5000を用いて、表面を、Arイオンを用いて4.0kVの加速電圧でイオンミリング加工したのち、電界放出型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、SU7000)を用いて行った。観察倍率を5000倍の視野(約450μm2)で観察したSEM写真より、画像処理し析出物のみにコントラストをつけた。コントラストをつけた画像から、画像解析ソフト「Win ROOF」を用いて、円相当径を析出物の面積から算出し、粒子径が150nm以上1000nm未満の析出物粒子を対象に、長手方向に直交する方向および長手方向に平行な方向の析出物粒子径の長さから析出物粒子長さの比を算出した。観察は3視野以上で行った。
【0075】
(導電率)
評価測定用のサンプルから幅10mm×長さ350mmの試験片を採取し、4端子法によって電気抵抗を求めた。またマイクロメータを用いて試験片の寸法測定を行い、試験片の体積を算出した。そして測定した電気抵抗率、算出した体積から、導電率を測定した。なお、試験片は、その長手方向が圧延方向と平行および直交するように採取した。測定結果を表3に示す。
【0076】
(電気抵抗比(R))
評価測定用のサンプルから幅5mm×長さ200mmの試験片を採取し、四端子法にて、293Kでの電気比抵抗(ρ293K)および液体窒素温度(77K)での電気比抵抗(ρ77K)を測定し、R=ρ293K/ρ77Kを算出した。なお、試験片は、その長手方向が圧延方向と平行および直交するように採取した。評価結果を表3に示す。
【0077】
(引張強度)
JIS Z 2241に準じ、試料から13号B試験片を採取し、引張強度を測定した。なお、試験片は、引張方向が圧延方向と平行となるように採取した。評価結果を表3に示す。
【0078】
(ビッカース硬度)
JIS Z 2244に規定されているマイクロビッカース硬さ試験方法に準拠し、試験荷重0.98Nでビッカース硬さを測定した。評価結果を表3に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
比較例1は、第1冷間圧延工程を室温で実施したため、粒子長さの比の平均値が0.86と大きく、異方性も小さかった。
比較例2は、粗圧延工程を室温で実施したため、粒子長さの比の平均値が0.88と大きく、異方性も小さかった。
【0083】
これに対して、本発明例においては、長手方向に平行な方向での導電率が長手方向に直交する方向より優れていることが確認された。また、引張強度、導電率、ビッカース硬さにも優れていた。以上のことから、本発明例によれば、長手方向に直交する方向より長手方向に平行な方向の導電率に優れたCu-Fe-P系の銅合金を提供できることが確認された。